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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第23話 『あなた達に送る笑顔のススメ』



・・・やばい、空気が凄まじく重い。





いや、分かってた。すごい分かってたけど。まぁ、僕が原因なのであんまり言えないんですけど。





ただ・・・あの、みなさん? そろそろ何か発言していただけると嬉しいかなと思うのですけど。










「・・・恭文」



そんな事を思うと、あむが睨み気味に僕を見る。というか、語気が厳しい。

ロイヤルガーデンに一旦CDの回収作業を終えて戻ってから、早速話した。そう、海里のことだ。



「あたし、そういう冗談嫌いなんだけど。ありえないよね、いいんちょがイースターのスパイだったなんて」

「・・・奇遇だね。僕も嫌いだよ。でも、残念ながら事実だ。海里は・・・認めたよ」



出来れば認めて欲しくなかったんだけど、そうはいかなかった。

いやはや、世の中ってのは思い通りに行かないね。クロノさんじゃないけど、こんなはずじゃなかった事ばっかりだよ。



「そっか。てゆうかさ、仲間のこと勝手にあれこれ調べてたわけ? マジ、信じらんない。最低」

「そうだね、最低だよ。んなことはとうに分かってる」

「・・・・・・なにそれっ! もしかしなくても開き直ってるわけっ!?」



テーブルがバンと叩かれる。・・・そうとう僕の行動とこのお話が気に食わないらしい。もう見ればわかる。

なので、こう返す。



「じゃあ、どう返せばいいの? どう返せばあむは満足なわけ?」

「はぁっ!?」

「二階堂の件もあったから念のために調べてもらった。で、それで海里のことが出てきた。計らずとも仲間のことを勝手に調べる形になった。これはどう考えても最低な行為。
・・・全部あむの言う通りだ。そんなの、言われるまでもなく分かってる。仲間だからって、相手のこと全部知らなきゃいけないってルールはないもの」



つーか、今更言われるまでもないね。恭太郎と咲耶に頼むと決めた時から、これくらいのことは覚悟してたから。



「アンタ、分かってないでしょっ! あたしが言いたいのはそう言うことじゃ・・・!!」

「日奈森さん落ち着いて」

「でもっ!!」

「いいからっ!!」



唯世のそんな・・・普段は出さないような強めの言葉に、あむの身体が震える。



「・・・もう、いいから。今ここでそれを言っても、なんにもならない。現実に三条君の姉である三条ゆかりがほしな歌唄のマネージャーであることも、ちゃんと証拠が挙がっている。
なにより、彼自身スパイであることと、おねだりCDを広めた事を認めた上で、僕達の前から姿を消した。ここは事実なんだ。だったら、認めなくちゃいけない」

「・・・・・・分かった」



そのまま、あむは座る。やばい、真面目に空気が悪い。いや、僕が原因なんだけど。



「でも、蒼凪君」



唯世の視線が僕に向く。どうやら、ちょっと怒ってるらしい。視線で分かった。



「学校内にスパイがいるかどうか調べた事、どうして黙ってたのかな」

「なら逆に聞く。唯世は話したら、どうしてた?」

「止めてたよ。同じ学校の仲間を疑うなんて、僕はしたくない」

「それが理由だよ」



ここで止められてゴタゴタ・・・なんてごめんだったし。



「・・・あと、もう一つ」



紅茶のカップを取り、一口。・・・ちょっと冷めてるけど、美味さは変わらない。だけど、感覚的にそれが半減しているように感じるのは、なんでなんだろう。



「何にもなければ、そのまま胸に仕舞っておきたかった。僕だって、身内を疑うのはやっぱり気分がよくない」

「なら、そのまま何もしないと言う選択肢はなかったのかな」

「なかったね。また二階堂みたいに入り込まれてる可能性、0じゃなかったんだもん。なにより、そういうシチュはやんなるくらいに見てる」

「でもだからって」

「それで実際に僕は殺されかけたことがある」



あむがまたなんか言って来たので、少し強めにそう言った。

それにより、あむの言葉が止まった。だけど、僕は止まらない。



「まぁ、返り討ちにしてやったけどね。あと、それだけじゃない。大事な・・・本当に大事な友達がそのせいで身も心も壊されかけたことがある。それだって一度や二度じゃない」



ギンガさんやイギリスでの一件、あとはJS事件・・・だね。あれもなんだかんだで、今回とシチュは似てるから。



「僕はみんなとは違う。そういう状況も、そういうことをやる人間も、やんなるくらいに知ってる。
・・・そんな状況で戦う事も多い人間として、ここはちゃんとしておきたかったんだよ」



つーか、僕がやんなかったら誰がこの中でそれをやれるって言うのか聞きたい。だって、僕は大人だよ?

信じて味方を作っていくのが子どもの仕事の一つなら、疑って外敵を見つけていくのは大人の仕事の一つだ。さすがにここは能天気にやってるわけにはいかなかった。



「・・・わかった」

「唯世くん・・・」

「日奈森さん、あと・・・みんなも納得して。三条君はさっき言った通りの状態だし、なにより・・・日奈森さん、僕は以前言ったよね?
蒼凪君やフェイトさんはこういう状況に立った数が僕達よりもずっと多いから、こういう時は指示に従おうって」



そう唯世に言われて、あむが渋々頷いた。ややとりまも・・・同じくかな。



「ただ蒼凪君、もし今度こういうことをやるときは、必ず僕にだけは話を通して。お願いだから、全部自分だけで背負おうとしないで」

「それは王様としての命令?」

「そうだよ。でも、それだけじゃない。仲間としてもお願いしている。・・・どうかな」

「・・・わかった。つーか、黙ってて悪かった」



唯世は首を横に振って、大丈夫だからと言ってくれた。とりあえず、少しだけ気分が軽くなった。

・・・とにもかくにも、あとは当面の問題かな。



「とは言え、リイン達のやることは変わりはありません」

「さっき話した通り、ほしな歌唄が行動を起こした所を押さえる・・・というわけね。
でも、ジャック・・・三条海里が敵のスパイとなると、少々厄介だと思うんだけど。計画の邪魔を私達がしようとするのをそのまま見ているとは思えないわ」

「あ、そうだよね。りまたんの言うように、もしかしたらそこでいいんちょと戦うことになるかも知れないよ。やや、そんなの・・・嫌だよ」



あー、それなら問題無い。ややにみんなはやる必要ないから。



「え?」

「海里の相手は僕がする。皆はほしな歌唄に集中して」

「・・・蒼凪君、どういうことかな」

「そうだよ。てゆうか、アンタまたそうやって勝手なことする気? 一体何考えてんのよ」

「海里を連れ戻す」



僕がそう言うと、全員が目を見開く。そして、当然のように疑問の視線を僕にぶつける。



「蒼凪君、僕達にも分かるように説明して。三条君はスパイなんだよね? それをどうして連れ戻すのかな」

≪海里さんは、おねだりCDの製造方法までは知らなかったようです。そして、それをひどく後悔している様子でした。本当にイースターの仲間と言うなら、アレはありえません≫

「つまり、三条君は・・・本当の意味でイースターの仲間になっているわけじゃない?」



そう、唯世の言う通りだ。いったい何の皮肉か、こうなってきて初めて・・・出てくる可能性があるのだ。



「海里、あれで結構お人よしなところがあるでしょ? もしかしたらスパイの件はともかく、おねだりCDに関しては単純に姉に利用されていただけなのかも。
アルトや唯世の言うように、完全にイースター側に居るわけじゃないんだよ」

「・・・あ、そうだよね。もし本当に手先になってこんなことしたらなら、いいんちょが後悔した様子なんて見せるはずないし」



・・・まぁ、そんなのは二の次だけどね。ただ、海里とちょっと話をしたいだけだし。



「話?」

「ただし、肉体言語でお話。・・・唯世、みんな、わがまま続きで悪いけど、海里が出てきても絶対に手出ししないで」

「だめだよ。いくらなんでもこれ以上君の勝手を認めるわけには」

「海里とどうしてもサシでやりあって、伝えなきゃいけないことがあるんだ。邪魔をされても困る」



今、海里が後悔しているとしたら、それは間違いなくおねだりCDの事だ。間接的にでも、×たま・・・こころのたまごをあんな状態にした原因を作った。きっと、そこに苛まれている。

あれも僕の知り合い連中と同じで、また言い訳したりは出来ないタイプらしい。ようするに、ただのバカ。今まで見ててそう感じたよ。



「それは、なにかな。三条君に話す前に僕達に」

「それは無理。言ったでしょ? 肉体言語だって。それが無理だって言うなら・・・ガーディアンをやめる。やめて勝手をやらせてもらう」



僕の言葉に、全員の目が見開き、表情が驚きに染まる。・・・まぁ、そうだよね。いきなりだもの



「蒼凪君っ!? ねぇ、ちょっと待ってよっ! どうしてそんな話になるのかなっ!!」

「これに王様としてとか仲間としてとか、そういうので手出しされても困るんだ。・・・海里のこと、僕が追い詰めたも同然だからさ。そのケジメはキチンとつけたいの」

「お願いだから落ち着いてっ!? なにより、三条君が本当にイースターの手先になっていないのなら・・・こう、なにか従わざるを得なかった理由があるとしたら、僕達もそこは手伝うよっ! また一人で何とかしようとしないでっ!!」

≪私達だから出来ることなんです。・・・納得していただけませんか?≫



アルトをセットアップさせ、鞘口の部分を右手で持つ。伝わるのは、相棒の重み。



≪言葉は想いに変えて、刃に・・・自らの斬撃に乗せて伝えます。誰でもない、今迷いに迷いまくっているあの人に対してです。
きっと、それは剣を持つ者同士にしかそれは伝わりません。ですが、それは言葉にすれば陳腐なものです。今のあの人・・・いいえ、あなた方にすらに伝わることはまずないでしょう≫

「言葉ってめんどくさくてさ、場合によっては上手く伝わらないのよ。あのL5間近な感じの海里相手に普通の言葉は無理っぽいんだ。だから、これで伝える。コレなら、きっと海里にも伝わるはずだから」

≪いいえ、伝えます。・・・そうですよね?≫

「もちろん」










斬ろうと思って斬れないものなんて、どこにもない。だから、斬る。今海里が抱えている後悔と迷いを。





・・・責任はしっかり取らなきゃ、ダメっしょ。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第23話 『あなた達に送る笑顔のススメ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・納得出来ない。てゆうか、わけわかんないし。なんでアレで唯世くんもオーケーしちゃうのかな。





あー、イライラするっ! 普通に仲間内疑うなんてありえないしっ!! マジでアイツ、おかしいんじゃないのっ!?










「あむちゃん、それを言っても仕方ないって。というより、こうなるって分かってたから皆に言わなかったんだよ。現に唯世くんも理由を聞くまでは相当お冠な感じだったし。・・・それに」



それに?



「恭文もさすがに、イースターのスパイがガーディアンの中に居るとは思ってなかったんだよ。普通に二階堂先生みたいに職員として入り込んでいるんじゃないかーって考えたんじゃないかな」



ランの言葉で、少し頭が冷える。確かに、その通りだと思ったから。だって、二階堂は普通に大人で、イースターの社員だった。だから、スパイとして入り込んでもそこは問題ない。

だけど、いいんちょは違う。単純にキャラもちで、歌唄のマネージャーの弟だったってだけなんだから。というより、誰も小学四年生の子どもがスパイなんて、予想出来るはずがない。



「ですです。というか、そんなに恭文さんばかり責めたら可哀想ですよ。恭文さん、海里さんと仲良かったんですから、辛くないはずがないですぅ」

「それは、そうだけど・・・」





もしかしたらちょっと言い過ぎたかな。でも、カチンと来たし・・・。

だけど、そこであたしは思い出した。ガーディアンの中で1番いいんちょと仲良かったの、恭文だったということに。

なんだか弟が出来たみたいに楽しそうでさ。もう見てて微笑ましくて・・・。



そう、だよね。そんないいんちょがスパイで、自分だけじゃなくてあたし達を裏切ってて・・・。辛くないはずない、よね。





「言い過ぎた・・・よね」

「うん、言い過ぎだよ。恭文の気持ち、全然考えてなかったよね?」



ミキの言葉がグサリと刺さる。

うん、考えてなかった。ただ仲間であるはずのあたし達に黙って、勝手にこんなことしたのが腹立たしくて、許せなくて・・・。



「ボクね、この話を聞いて納得したんだ。恭文が悩んでたのって、きっと海里の事だったんだよ。それで、考えて考えて・・・自分で海里のことは決着をつけることにした」



だから、さっきのあれ・・・だったんだ。あたし達にも手出しするなって言ったり、それが無理ならガーディアンやめるって言ったり。



「あー、そう言えば唯世くんとの買出しの時に気づいたって言ってたもんね。それより後だから・・・うん、ミキの言う通りだよ」

「・・・あたし、恭文に謝る。疑ったのはムカつくけど、その・・・言い過ぎな部分があったのは事実だし」

「うん、そうした方がいいよ」





そして、そんな反省モードを出しつつも現在放課後。とにもかくにも、一日かけておねだりCDを集めたんだけど・・・ひどい。



もうひどすぎる。ダンボール何箱って言うくらいに集まってるし。





「というか、やや疲れた・・・」

「なによ、この量。おかしいわよ」

「・・・だけど、これだけの量のたまごがCDにされてたわけですね」



リインちゃんの言葉で、ロイヤルガーデンに再集合していたみんなの表情が重くなる。

あぁ・・・そうだ。それがあったんだ。このCDの数だけ、たまごを取られた人が居るんだ。



「でも、きっとこれは一部だ。学校の中だけってのもあるし、出していない人間も相当数居ると見ていい」



恭文が言っている意味が分かった。例の七日間のルールの事を言ってる。

・・・許せないよ。こんなことしてまでエンブリオを見つけようとするなんて。



「そうだね。とにかく、CDの回収はしばらく集中して継続していこう。イースターの動きに関しては、フェイトさん達が探ってくれているわけだし。・・・それと、日奈森さん」



あ、うん。・・・アレ、だよね。CDの状態で浄化が出来るかどうかの実験。



≪出来れば、これで浄化可能だと嬉しいんですけど≫

「そうだな。そうだと本当にありがたい。唯世、僕達も行くぞ。・・・恭文は、参加しなくてもいいな」



え? でも、恭文だって×たま浄化出来るのに。



「だめだよ。・・・僕の攻撃だと、CD壊れちゃうかも知れない」

「そういうことだ」



少し辛そうな色が恭文の表情から見えたのは、気のせいじゃない。

・・・胸がチクンと痛む。これも、気のせいじゃない。確かな痛みだ。



「それじゃあ日奈森さん、行こう」

「うん。・・・あたしのこころ」

「僕のこころ」

「「アンロックっ!!」」









そうして、あたしと唯世くんは鍵を開けた。





大丈夫だという感情と、それから生まれる希望は、現実の物だと信じて。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・サリ、次はこっちのチェックお願いねー。放水車の水周り」

「いや、あの・・・ヒロ? 俺はやっさん達のとこ行く必要が」

「何言ってんのっ! 休み取るなら仕事してからにしなっ!!」





いやいやっ! ちゃんと休み取ってただろうがっ!! なのに、なんで俺はお前とメンテ用の整備服を着込んで、特別救助隊の隊舎に居るわけっ!?





「そんなの、緊急で車両チェックを頼まれたからに決まってるじゃないのさ。で、地上部隊の方もそうだけど、開発部の方も人が他に出払ってたから、当然私達でやるしかなくなった。アンタ、そんなことも分かんないの?」

「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



何当然のことのように言い切ったっ!? 俺は自宅から出る直前だったろうがっ! それで来る俺も俺だが、とりあえずふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!

なにこれっ!? なんだよこれっ!! なんでこんなやっさんみたいな不運が襲ってるんだよっ! おかしいだろうがっ!!



≪主、落ち着いてください。いえ、分かります。分かりますが≫

「・・・いやぁ、悪いな。クロスフォードにエグザ、急に来てもらっちゃってよ」





後ろから声がする。そちらを見ると・・・あぁ、居た。赤みがかった栗色の髪に無精ひげ、緑色のロングコートを着た男が。

この人はヴォルツ・スターレン。ここで防災司令という役職についている人・・・てゆうか、年齢的には俺とヒロの先輩に当たる人だな。

なお、俺らがこの人と顔見知りなのには理由がある。それは、ここ・・・特別救助隊が、俺らが所属する特殊車両開発部のお得意さんみたいな感じだからだ。



例えば俺が今弄っている放水車・・・とかだな。レスキューってのは、どうしてもそういう特化というか、特殊な道具を使う場合が多い。車両もその一つ。

その関係でこうなってるってわけだ。実際、俺らが今メンテしている車両も、俺らの部署で作ったものだし。





「で、うちの車両の方はどうだ?」

「・・・出来ればもうちょい優しく扱って欲しいとは思うかな。つーか、使ってる奴は絶対女にもてないね。こんな荒いエスコートをしてたら、絶対に女の子に引かれるって」

≪優しくない男は持てねぇって、ちゃんと言っておいてくれよ? 女をエスコートするのに焦りは禁物だぜ≫

「ははは、違いねぇや。ま、そこはうちの若い連中にしっかり言っておくさ。ただよ、俺らの仕事は優しさばっかりじゃどうしようもないもんだって言うのも、理解してもらえると助かるな」

「まぁ、そうだよね。レスキューって相当大変だし」



・・・なぁ、ヒロ。確かにこの人はそうとう砕けた人だけどよ、さすがにタメ口はどうなんだ? 一応年上なんだからさ。

いや、言っても無駄だって知ってるから言わないけど。



「そういえばスターレン防災司令、スバルちゃん・・・ナカジマ防災士長って、しっかりやってます?」



ちょっと気になったので、整備の手を休めず・・・む、このボルト硬いな。ちょい力入れないと。

とにかく、手を休めずに聞いてみる。・・・なお、スバルちゃんは現在ここの救助隊でお世話になっている。今日は非番で休みらしいけどな。



「おう、無駄に元気でやってるぞ。それはもう呆れるくらいによ。・・・そういや、お前らの弟弟子はどうだ」

「あー、アレも無駄に元気でやってますよ。で、無駄にハラオウン執務官と糖分を排出しています」

「あははは、まぁ若いうちはそれくらい元気があった方がいいな」

≪・・・そうですね、若いうちだけならばそれでいいんでしょうが≫



そうだな・・・金剛の言うように、若いうちだけならいいんですけどね。俺は今から天寿を全うする直前でもあの調子なんじゃないかってビビってますよ。

なお、スターレン防災司令がやっさんの事を聞くのにも理由がある。



「そういや、ヴォルツはやっさんに会った事ってないんだよね」

「あぁ。俺がドジ踏んだ時も、向こうはともかく俺の意識が飛んでたからな。そういう認識がないんだよ」



もう6年も前になるが、ミッドで起きた一つの空港火災がある。なんでも、その時にスバルちゃんはたまたま旅行のために近くに来ていた高町教導官に助けられ、ギンガちゃんは同じくなフェイトちゃんに助けられ・・・ということがあったらしい。

そしてその場で救助活動中だったスターレン防災司令は、その時に怪我をした。それが原因で自身は前線を引き、後方支援に回るようになった。



「なんつうか、事後にお礼を言おうとしたんだが、リハビリもあったし、俺を助けたのが誰かってのもあの混乱の中でしばらく分からなかったりで、そのままになっててな」

「あー、そういや本局の人間が関わったってのは隠されましたしね。やっさんも高町教導官達と同類と見られたと」



あれがハラオウン家の関係者ってのは知られてる話だしな。多分その辺りが原因だろ。



「それすっごい間違った認識だよね。やっさんは真逆の位置だろうにさ」



ヒロがもう一台の放水車の車体下に潜り込みながらそう言ってきた。・・・でも、やっさんが真逆だってのは正解だ。だからこそ、六課の時も色々揉めたわけだし。



「なるほど、そこまでか。・・・やっぱ、直接会って礼が言いたいな。うし、今度紹介してくれよ」

「分かった。ならスケジューリングは考えとく」





あぁ、話が逸れたが・・・その怪我をした時、現場で部下共々障害物に閉じ込められたスターレン司令を助けたのが、どうやらやっさんらしかったのだ。

・・・普通に驚いたし。どんだけ俺らはニアミスしまくってたんだ?

その頃だとウィハンでやっさんともうPT組んでバリバリやってたしよ。



なんて言うか、時の流れと人の出会いって、不思議だなぁ。





「・・・あー、そう言えばよ。お前らあの話知ってるか?」

「あの話?」

「ほら、フォルスであった連続殺人事件だよ」



・・・あぁ、あの6件連続で起きたって言う物騒な事件。



「へ、なによそれ」

≪最近本局で騒がれ始めてるあれだよ。遺跡研究者や古代歴史学者狙いでやられてるってやつ≫

「そう言えば・・・マリーちゃんがそんなこと言ってたような。でも、それがどったの?」

「それがよ、今度はヴァイゼンで同じように、遺跡研究者がやられたんだとよ」



なお、ヴァイゼンとはフォルスとは割り合い近いところにある世界で、管理局の存在が知られている管理世界の一つ。

だが・・・別世界で事件? それ、もう広域次元犯罪の部類に入るんじゃ。つーか、なんでそれをスターレン司令が知ってるんですか。防災司令でミッド地上常勤なあなたには、今のところ関係ないですよね。



「さっき、お前みたいにそう言う話に詳しい知り合いから連絡が来たんだよ。
こうなってくるとミッドで起こる可能性もあるから、一応注意しとけーって、余計なアドバイスまでしてくれやがった」

「・・・また物騒ですね。そしてそのアドバイスはマジで余計ですって。どう考えてもフラグじゃないですか。ちなみにやり口は?」

「これまでと同じだ」



咽頭部への刃物による刺突。もしくは爆死・・・か? で、検死の結果・・・どうも犯人に相当威圧されている様子が見られるとか。



「本局の方も同一犯の仕業だと見ている」

「犯人の手がかりとか掴んでないの?」

「今のところは全くだ。名前も何も分かってねぇ。ただ、タッパの高い女だってことくらいだな」





しかし、別世界にまで足を伸ばして、手段も同じで、狙われた人間もこれまでと同じ・・・か。

ま、いいか。俺はロートルだし、関わる義理立てはないさ。今起きている事には、今の舞台の主役が対処するべきだ。



本局の優秀な人間(地球で現・魔法少女とクロスしているやっさんとフェイトちゃん達以外)が解決するだろ。





「なるほど。でも、早く解決して欲しいもんですよ。そんなに物騒だと、ヒロはともかく俺やスターレン司令は怖くて夜道も歩けやしない」

「そうだな。クロスフォードは大丈夫だろうが、俺達は怖いしな」

「アンタ達っ! それは一体どういう意味っ!?」










やっさんもやっさんで、シャーリーちゃんの話を聞くになんか大変そうだしな。世の中平和が一番だって。





具体的には・・・俺が休めるくらいに平和だと嬉しいな。『私よりあのおチビちゃんが大事なのね・・・』なんて、冗談9割でドゥーエにお小言を言われるのも辛いんだぞ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・というわけなんだよ」





寝室で、フェイトとベッドに腰掛けて・・・今日の事を話した。まぁ、色々進展しましたので。



そして、また表情が重くなる。あぁもう、今日はこんなことばっかりだ。・・・ヘラヘラ笑って生きられる日常って、やっぱ大事だよね。





「ダメ、だったんだ」

「うん。エルやしゅごキャラのみんなが言うには、CDにプレスされたことでもうたまごとは別のものになっているせいじゃないか・・・だって」





もうみんなの落ち込み具合がひどかった。解散した時なんてもうすっごい静かだったし。



ただ、無理もないか。さすがに・・・今日は色々あり過ぎたから。





「ヤスフミ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。・・・予想はしてたから」

「たまごのことだけじゃないよ。さっきエルちゃんから少し聞いた。ガーディアン会議、そうとう荒れたって。特にあむからかなり言われたんだよね」



・・・うん、そっちも大丈夫。同じく予想はしてたから。



「フェイト、あの」

「一つだけ約束。・・・自分の今を使い潰すような真似だけはしないで。未来に繋いでいくのは、海里君やみんなの時間だけじゃ足りないんだよ?
ヤスフミの時間だって、先に繋いでいかなきゃダメなんだから。それが約束できないなら、絶対に許さない」



言いたい事は、伝わっているらしい。・・・海里や歌唄とか、そういうのを何とかするために無茶をする事、見抜かれてる。

そして、言ってくれた。条件付きだけど・・・いいよと。それが、嬉しかった。だけど、ちょっと申し訳なかったり。



「・・・うん、必ず守る。フェイトとやりたいこと、沢山あるしさ」

「そ、その・・・あの」

「なんでいきなり顔が赤くなるっ!? なんかまた変なこと考えたでしょっ!!」

「またって言わないでよっ! それじゃあ・・・あの、やりたいことってなにかなっ!?」



だから・・・その、お墓作りとか、結婚の相談とか、あと・・・子作りとか。



「・・・ごめん、変なこと考えてた。あの・・・えっちなことかなとかちょっと思った」

「・・・・・・そっか。うん、ごめん。分かってたよ。それに今日は偶数日だしね」



そう、今日は偶数日。なのに・・・なーんでこんな気が重い事ばかり起こってるんだろ。ま、いいか。



「でも、約束したからね? 破ったら、お仕置きするから。もういっぱいいっぱいいじめる。ヤスフミが嫌だって言っても、許さないから」

「お、お手柔らかに・・・」

「あ、それと話がまだあるの。今日昼間にクロノから連絡が来たんだ。・・・ブラックダイヤモンドの事について」



・・・あぁ、何の因果かあのCDやバンドと同じ名前のロストロギアの事か。あ、もしかしてもう見つかったとか。



「ううん、それはまだ。ただ、地球に落ちたのは確定・・・だって。機動課も本格的に地球で調査するそうなんだ」

「・・・あははは、なんかこう、凄まじく嫌な予感がしてきたんだけど」



まさか関わらないよね? 普通に関わったりしないよね?



「さすがにそれは無い・・・はず」



フェイトさん、お願いですからそこは断言していただけると嬉しいです。いや、分かるけど。今までの事を考えたらすっごい分かるけど。



「でも、一応機動課の人も連絡をよこしてくれてね。何かあった時にはよろしくお願いします・・・って挨拶されたよ。
とりあえず、頭の片隅にだけは入れておいてね。もしかしたら私達も動く可能性があるから」

「向こうからの要請・・・ってこと?」

「うん」



まぁ、そうはならないで欲しいなぁ。というより、そのブラックダイヤモンドって、要するに増幅器なんだよね?

そこまで・・・いや、可能性はあるか。なにせロストロギアだもの。なにが来るかなんて分かったもんじゃない。



「・・・封印魔法の練習、一応しておこうかな」

「なんでだろ、私もそうした方がいいんじゃないかと思ってきたよ。・・・今日はコミュニケーションやめて、二人で練習する?」

「そうだね、そうしようか」










というわけで、二人で封印魔法の練習をした。まるで何かに急かされるように、必死に。





いや、それでも関わるわけが・・・ねぇ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いやいや、じいちゃんもフェイトさんも、そこまで? なんかすっげー真剣な顔で練習してるしよ。





でも待てよ。特異点レベルで運の悪い俺とじいちゃんが一緒なんだから・・・ありえるかも。俺も昼間のうちに練習、しておこうかな。










「でもでも、エルはびっくりです。まさか魔法とかじげんせかいーって言うのがあるとは・・・。よし、歌唄ちゃんに」

「やめてください。こちらの世界の人には魔法の事などは内緒なんですから」

「ディードさんの言う通りだっ! 普通に教えようとするんじゃねぇよっ!!」

「・・・やっぱりエルさまに教えたのは失敗だったのではないでしょうか」



・・・咲耶頼む、そこは言うな。あの状況じゃあそうするしかなかったんだしよ。



「でもリインさん、なぎ君・・・大丈夫なんですか?」

「そうですよ。アイツ、三条海里を一人でどうにかするつもりらしいし・・・」

「・・・恭文さん、きっと海里さんのことが好きなんですよ。剣を合わせて、話をして、仲良くなって・・・弟みたいに思ってたのかも知れません」



なるほど、それは少し分かる。俺も幸ちゃんとはそんな感じだから。



「だから、唯世さん達にあんなことを言ったんだと思います。きっとあむさんや唯世さん達は海里さんを前にすると戦えなくなるから、自分がやろう・・・とか、考えてるです」

「確かに、ガーディアンのみんなにこの状況はきついですよね。間違いなく説得で何とかしようとするに決まってる。でも・・・それだけじゃないですよね?」

「です。恭文さんは信じています、自分やリイン達と一緒に居た時の海里さんのことを。それが本当の海里さんだって、信じてるです。だから・・・取り戻すんです」










・・・でもじいちゃん、ダメな場合だって・・・あぁ、そっか。じいちゃんはそういうのも含めて自分が相手するって言ってるんだった。





これはその場合、三条海里の説得が無理なら、ぶっ飛ばすのは自分がやるって言ってるのと同じなんだ。





つーか、ガチで全部背負うつもりかよ。なんつうか・・・じいちゃん、頑張り過ぎだって。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・なんだか、今日は密度が濃かった。ジャックのこととかあれこれとか。





でも・・・恭文、大丈夫かしら。ジャックのこと、必要以上に責任感じてるように見えた。










「りま・・・恭文、心配?」

「・・・少しだけね。あむからも相当言われてたし」





自宅のリビング、そこで膝を抱えながらテレビに目を向ける。



まぁ、目を向けながら色々心配したりする。一応、仲間だから。





「ま、そこは明日でいいでしょ。・・・クスクス、今私達はやるべきことがあるわ」

「うんっ!!」



もうすぐ午後の9時。そう、もうすぐ始まる。

・・・爆笑レッドカーペットのスペシャルがっ!!



「タイマー録画の準備よし。お菓子よし。飲み物よし。腹筋・・・よし」



いつでも来なさいっ! まぁ、学校があるから途中で寝るけど・・・それでも、1時間は頑張るわっ!!

さぁ、ニュースが終わった。ガムのCMとかやってるのを見ながらドキドキがどんどん高まって・・・。



「ふぅ・・・疲れたわ」



そんな声と共に、チャンネルが変わった。もっと言うと、日本放送協会に。

もっともっと言うと、ニュース番組に。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



クスクスが叫ぶけど、それが遠く聞こえた。レ、レッドカーペットが・・・。ナイツとか楽しみにしてたのに。ヤホーの話好きなのに。

私は後ろを見る。・・・ママが居た。疲れた表情で、テレビに目をやる。うん、疲れてるんだ。だって、今の今までお仕事だったから。



『・・・近頃夜に家を抜け出して、町を徘徊する子ども達が増えており』

「はぁ、嫌だ嫌だ。というより、呆れたわ。きっと育て方が悪いのね。・・・あ、りま。少し来て」



ママが私を呼ぶ。疲れた顔で、笑いなんて全くない疲れ切った表情で。

だから、私はソファーから立ち上がって、ママの所へ行く。ママは椅子に座っていても、私よりも高いところに目がある。だから、それを見上げる。・・・なに?



「明日コレを持っていって」



・・・そうして渡されたのは封筒。そこには『退部届』と書いてあった。

え・・・これ、なに。あの、どういうこと?



「サインと印はしてあるわ。あのガーディアンという部活は、明日限りでやめてきなさい」

「あの・・・でも、ママ」



ママは、私の方を見ずにため息を吐く。



「迎えに行く時間もマチマチでホントに困るのよね。ママもお仕事が忙しいの。分かるわよね?」










・・・・・・私の方、また見てくれない。笑ってくれない。





全然、笑ってくれない。私が笑っても、ママもそうだしパパも笑ってくれない。





私・・・どうすれば、いいのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・とりあえず、例のCDは職員も総がかりで集めることになったよ。まぁ、この辺りはガーディアンのみんなの影響だね」

「そっか、ありがと」

「いいよ別に。またお弁当もいただいちゃってるしね」



またまた翌日のこと、屋上で二階堂とお話。議題は・・・CDに関して。

一応、先生方はどんな具合か、僕個人で聞いておきたかったのだ。



「でもさ、辺里君から聞いたけど・・・君、ガーディアンとしての立場を賭けてまで三条君・・・いや、君の事だからほしな歌唄の事も止めるつもりらしいね」

「・・・いつものことだよ」

「君にとってはそうかも知れないけど、ヒマ森さん達にとっては違う。あんまり振り回しちゃだめだよ? 三条君の事が心配なのはわかるけどさ。
ただ、その三条君の事でガーディアンの中、ガタガタになりかけているわけだし、ここで君が暴走しちゃったら、ガーディアンが完全に分裂しちゃうよ?」

「それもそうだね。というか、昨日フェイトにちょこっと怒られた」



今を使い潰す・・・か。ちょっとやりかけてたかも。うん、反省だ。



「そっか。あのフェイトさんがちゃんと叱ってくれたなら、僕が何か言う必要はないね。・・・でもさ、なんであの子にそこまで肩入れするわけ?」

「多分、海里はCDを広めた事を・・・たまごをCDに変える手伝いをしてしまったことを後悔してる。世界の終わりかって言うくらいに、凄まじくだ」

「だろうね。あの子の性格ならありえる」



僕も、覚えがあるから・・・だね。

右手を見る。剣を握り、守り、そして・・・壊してきた手を。



「僕も、後悔がある。守りたかった約束を守れないで、大事な子を傷つけたことがある。悔しくて、情けなくて、自分が自分でなくなりそうなくらいに腹が立ってさ。
なんかね、あの時の海里見てたら、その時の自分を思い出しちゃって・・・放っておけ無くなったんだ。だから、伝えたいのかも。今海里が居る場所から、立ち上がることも出来る・・・って」

「そっか。・・・うーん、君も結局お人よしだったってわけか」

「そうだよ。ただ、僕はあむ達よりは優しくない。疑う事も必要な時もあるし、言葉だけでどうにかならない時もあるって知ってるの」

「うん、それは知ってる。僕、その優しさのないところによって半殺しにされたわけだしさ」










・・・まぁ、否定は出来ない。事実だもの。





空を見る。見て・・・思う。僕が今守りたいものは、今、何とかしたいものは・・・。





そこだけ、見失わないようにしよう。そうすれば、なんとかなるでしょ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・結局、1日が終わった。





だけど・・・退部届、渡せなかった。





だって、私・・・私・・・。










「・・・いい加減にしてくれっ! 疲れてるんだっ!!」

「・・・・・私は疲れてないとでも言うのっ!?」





もう、嫌だ。なんで・・・こんなにうるさいの。ここは私の住む家。私の安らげる場所のはずなのに、ここにはそれがない。



顔を合わせる度に喧嘩ばっかりして、怒鳴ってばっかりで・・・うるさい。



私の足が動く。その方向は・・・外。嫌だ、ここに居たくない。





「・・・りま、りまっ!? どこに行くんだっ!!」





玄関から出る直前、声がかかった。それはパパ。



気づかなければよかったのに。





「出かけるの」

「何を言ってるの、こんな時間にっ! また誘拐されたらどうするつもりっ!?」

「そうだぞっ! いい加減にしないかっ!!」



そう言って、強い力で私の手を引く。

私は、力一杯にそれを振り払った。



「りま・・・!!」



パパとママが信じられないと言うような顔で私を見る。そうだよね、今までこんなことしたことなかったから。

だけど、それで終わらなかった。私の懐から、あるものが落ちたから。それは・・・退部届。



「りま・・・これ、退部届を出してないじゃないっ!!」

「見ろっ! お前の育て方が悪いからこんな」

「なに言ってるのっ!? 仕事ばかりで家庭を顧みないくせにっ!!」



・・・か・・・たい。



「え?」

「ばか・・・みたい」



そうだ、この人達はバカなんだ。なんで今まで気づかなかったんだろう。



「いっつも同じ事でケンカして・・・バカみたいっ! 私、お迎えがなくたって一人で帰れるっ!! お願いだから家の中に閉じ込めようとしないでよっ! この家の外にだって・・・私の・・・!!」



もう、嫌。

こんなの・・・嫌っ!!



「私の世界があるのっ!!」










そのまま、私は外に飛び出した。パパとママに追いつかれないように、必死に・・・全力で走った。行き先なんて気にせずに、ただ走る。息が切れても、胸が苦しくても、走る。まるで、自分の家から逃げるように。





ううん、逃げてる。私・・・逃げてるんだ。もう嫌だ。あそこに居たくない。私があそこに居る意味がない。





だって、パパとママは私が居ても居なくても同じじゃないっ! 本当に・・・本当にバカみたいっ!!










「・・・きゃっ!!」





私はなにかにぶつかった。そのままこけて、尻持ちを付く。



痛むお尻を気にしながら前を見ると・・・両手に買い物袋を持った、とても背の高い男の人がいた。黒色の髪をざんばらにしていて、瞳が青。





「あ、悪いな。・・・って、そのケープ・・・もしかしてガーディアンの子か?」





その人がしゃがんで・・・私の視線に合わせてくる。見下ろすんじゃなくて、こけている私の視線にあわせようとした。その動きが少し新鮮だった。



そして、そんな時に足音がした。そっちを見ると・・・。





「サリさん、お待た・・・って、りま。どうしたのさ」

「りま? ・・・あ、ほんとだ。どうしたのよ」

「やす・・・ふみ・・・! あむ・・・!!」

「え・・・あの、りまっ!? どうして泣くのさっ! ちょ・・・お願いだから落ち着いてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・学校から帰ってきたらサリさんが来ていた。なんでも、僕とミキのキャラなり問題をなんとかするために来たとか。





で、せっかくだから俺が夕飯を作ってやると言っていただいたので、そのまま僕はサリさんと買い物に出た。





なお、あむも同行した。え、あむが居る理由? いや、ミキだけ来てもらえればいいって言ったんだけど、自分もついてくると聞かなかったからだけど、なにか?





それで、外に出たら・・・りまに遭遇ですよ。なんとか家に連れて帰ってきたけど、どういうこと?










「あー、やっさんにあむちゃん、あとフェイトちゃんも。この子は俺に任せろ。やっさん、悪いがお前の部屋借りるぞ」

「でも」

「いいから。これでもカウンセラーの資格持ちだぞ? なんとかなるって」

「・・・分かりました。なら、お願いします」










そうして、サリさんに任せている間に、僕はりまと一緒に居たクスクスから話を聞いた。





りま・・・キレちゃったらしい。両親があんまりにケンカするもんだから。










「りまの両親がガーディアンに退部届っ!? で、でも・・・りま、そんなこと全く言ってなかったのにっ!!」

「出してなかったからここは当然でしょ。・・・で、また両親がケンカをりまの前で始めて」

「それにりまさんが怒って、啖呵を切ってそのまま飛び出した・・・ということでいいかな?」

「うん・・・。そうしたら、あの・・・サリエルさん、だったよね。その人とぶつかって、そこに恭文とあむが来たんだ」





またぶっちぎりで重い話になってきたなぁ。いや、おかしすぎるってこれ。

海里のことや歌唄のことがあるのに、なんでまたりまのこと? どんだけ運悪いんですか、僕は。

とは言え、こんなことを言ってもしかたない。関わった以上は解決しないとどうしようもないし。



普通ならここはまずりまの家に連絡して、りまの安全を知らせるのが手なんだけど・・・。





「まぁ、そうだよね。絶対にりまの両親、心配してるに決まってるし」

「でもあむ、りまさんの様子を考えると、家に帰すのは得策じゃないと思う。・・・子どもが家を飛び出すなんて、よっぽどだよ?」

「・・・確かにそうですよね」

「そうだよね、りまの目の前でまた両親がケンカしたら、とんでもないことになるし」



かと言って、ここで知らせないで警察沙汰になったらそれこそ取り返しが付かない。やっぱり、りまの両親への連絡は必要だって。

でもでも、その環境だとやっぱり返すのもまずいし・・・。



”・・・あー、やっさんにフェイトちゃん、聞こえるか?”

”サリさん? ・・・あ、もしかしてもう終わったんですか”

”あぁ、大体の事情は聞いた。でもよ、この子そうとう追い詰められてるぞ?
多分今、この子の家に連絡するかしないかって話をしていたと思うが”



・・・見抜かれてる。いや、サリさんならありえるけど。



”俺としては、するしないは別として、関係がすぐに改善出来ない様子なら、しばらく親と離れさせた方がいいな。
これはまずい。この子、よっぽど両親がケンカしているのが辛かったんだろ”

”・・・サリさん、りまの両親のケンカの原因って、ようするにりまの迎えの事とか教育方針のことなんですよね”

”あぁ、正確じゃないが、ざっくばらんに言うとそうなる。・・・なんだ、知ってたのか?”

”今知ったんですよ。りまのしゅごキャラからちょっと聞いたんです”



確かにりまに対する迎えとかは、アルトが前に言ったように少々過保護というか、過剰なところがあった。なら、そうなる原因があったはずだ。

それがわかんないと、僕達には判断出来ないって。だって、結局僕達は他人なんだから。下手に介入しても『家族の問題だから口出ししないで』・・・とか言われても、アウトだって。



”なら、やっさん。お前が話してみるか?”

”・・・そう、ですね。その方がいい気がしてきました。サリさん、今りまは”

”あぁ、なんとか落ち着いている。まぁ、アレだ。俺はその間にフェイトちゃん達と一緒に、それが無理な場合の対策を考えておくから、お前はこの子を頼む”

”はい”










そして、サリさんと入れ替わるように部屋の中に入る。中には、りま。





で、僕の右手には・・・おにぎり三個が乗っかったお皿。










「・・・りま、早速だけどおかかとしゃけとこんぶ、どれがいい?」

「・・・・・・おかか」

「なら・・・ほい、この真ん中のを取って」





そのまま、僕が差し出したお皿に向かってりまが手を伸ばす。そして、真ん中のおにぎりを取って、一口パクリ。



・・・あ、表情が明るくなった。





「美味しい。これ、恭文が作ったの?」

「うん。サリさん・・・あ、さっきの人がりまと話している間に、ご飯を炊いてちょちょい・・・とね。お腹、空いてたよね」

「・・・うん」



そのまま、りまはおかかのおにぎりにかぶりつく。それを見てほっと胸をなでおろしながら・・・僕はりまの左隣に座る。お皿は、近くの机の上にコトンと置く。



「あの人、カウンセラーなのよね」

「うん。僕の兄弟子にあたる人でさ」

「そこは聞いた。あなたの剣の先生から、ずっと前に色んな事を教わってたって。・・・あの、ごめん」



・・・どうして謝るの? りま、なんにも悪い事してないでしょうが。



「だって、迷惑・・・かけてる」

「問題無いよ。仲間ってのは、迷惑かけたりかけられたりする存在だもの。お互い様だよ。ただ、やっぱり・・・親御さんへの連絡はしないといけないんだ」



りまの表情が一気に重くなる。・・・そうとう嫌らしい。表情だけで読み取れるくらいにその色が濃いもの。



「帰りたく、ない?」

「・・・うん」

「そういうのは出来ることならもう4年くらい後で、好きな相手に対して考えて欲しいんだけどねぇ」

「私も、そう思う。だって、あなた・・・私のタイプじゃないもの」



あ、少しだけ笑った。つーか、普通に毒も吐いたし。



「でも、帰りたくない。あそこに・・・居たくない」

「そっか」



やっぱりですか。・・・少しだけ、聞いてみよう。

僕は、ちょっとだけりまに踏み込むことにした。



「りま、もし話したくなかったら話さなくていいから、質問だけさせて欲しいんだ」

「ん・・・」

「親御さんの喧嘩の原因は、なに?」



・・・ダメっぽいらしい。表情の重さが濃くなった。なんだか目に涙溜まって来てるし。



「・・・私が誘拐されかけたから」



だけど、話してくれた。本当にかすれるような声で、話してくれた。そして、おにぎりをまた一口。

・・・また、重い話だよ。つーか誘拐ってどういうことですか。



「前の学校に居た時、誘拐されかけたの。未遂・・・っていうの? それでなんとか収まったんだけど、学校とパパとママが誰の責任でこうなったかで喧嘩し出したの。
そうしたら、今度はパパとママも互いに責任押し付けあうようになって・・・」

「そっか・・・。だから、親御さんはすごくりまのことを心配してる。心配してるから、送り迎えもちゃんとしてる」



だから、ガーディアンもやめさせようとした・・・ってとこかな。帰りとかもマチマチになるから。

クスクスの話を聞くと、りまの両親は共働きらしいし、そういうのがあるんでしょ。



「でも、パパとママ・・・笑ってくれないの。あれからずっと、学校と喧嘩して、二人も喧嘩して、全然・・・笑ってくれない」



声が涙声に変わってきた。俯いて・・・泣いてるらしい。



「私が笑わせようとしても、前みたいに笑ってくれない。『いい加減にバカみたいにヘラヘラするのはやめなさい』って、怒るの」



いや、泣いてる。零れ落ちた雫が、膝の上で握り締めた手の上にぽとりと落ちた。



「もう、嫌だ。私・・・嫌なの」



・・・通す責任、増えちゃったな。全く、りまにあの時余計なこと言うんじゃなかったよ。

ま、いいか。全部抱えて進むって決めてるんだし。だったらこれも持ってくだけだ。



「なら、しばらくここに居る?」

「え?」

「家に居たくない。帰りたくない。だったら・・・家出しちゃおうよ」



僕は、りまに笑いかけながらそう話す。りまは、顔を上げた。



「いや、クスクスからも少し話を聞いたんだけどさ。どうも今のりまの状態を考えると、親御さんと居るのはまずいって結論に達したんだよね。
つーか、多分今は互いにヒートアップしてるし、冷却期間は必要だよ。冷静じゃなかったら、ちゃんと互いの行動を振り返らなかったら、また同じ事の繰り返しだよ」

「いい・・・の?」



僕はりまの言葉に頷く。りまは、涙を瞳からこぼしながら、驚いたように僕を見上げる。まぁ、僕の方が背が高いしね。



「ただね、それでも親御さんに連絡をちゃんと入れるのだけはしないとダメなんだ。じゃないと、僕達誘拐犯にされちゃうもん。さすがにそれは困っちゃうよ」

「・・・そうよね、それは私も困る。でも、私」

「分かってる。今は話したくないんでしょ? ・・・僕とフェイトから連絡するよ」



冷静に話そう。そうすればきっと・・・分かってもらえないだろうなぁ。りまの話っぷりから察するに、絶対に『りまを返せ』の一点張りになるだろうし。

あはは・・・。こりゃ修羅場かなぁ。



「でも・・・」

「どうしたの?」

「私・・・結構食べるわよ?」

「大丈夫、人並み超えて食べる奴がもう存在してるから、多少じゃ驚かない」



咲耶やスバルにギンガさんにエリオとかに比べたら、りまのお菓子の食べっぷりなど気にする必要はない。



「それに、お笑い番組は譲らないわよ」

「大丈夫、みんなそこは大好きだ。そこに関してだけはチャンネル争いは起きない」



みんなレッドカーペットは好きなのだ。問題はない。



「それにそれに・・・」

「なに?」

「あり・・・がと・・・」

「ん・・・」










・・・さて、気合い入れないと。





いつもの戦いとは違うけど、これだって戦いは戦いだ。うちの女王様の今と笑顔を守るために、頑張るとしますか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで・・・僕はりまから教えてもらった番号の方に電話をかけた。こういう場合大人がかけるより、対外的に子どもである僕の方がまだ冷静になってくれると踏んだ上での判断。





自宅・・・居ない。なら、携帯だね。





そして、僕はりまの父親の方に電話をかけて・・・繋がった。










『・・・もしもし』



明らかにこちらを警戒した声。まぁ、仕方ない。突然知らない番号から電話がかかってくれば、誰だってこうなる。

なので、警戒心を解くように、まず名乗ることにする。



「もしもし、夜分恐れ入ります。僕、蒼凪恭文と言います。あ、えっと・・・真城りまさんの同級生の者です」

『それが何の用だね。悪いが今私は忙しい』



やばい、切られる。つーか、頭の血の巡り悪いな。なんでこれでりまのことに結びつかないわけ?



「電話を切られる前に単刀直入に言いますね。りま、今僕の家に来てるんです」

『・・・なにっ!? あ、もしかして私の電話にかけてきたのは』

「はい、りまさんの方から番号を聞いてそれで。・・・すみません、ご自宅の方に一度おかけしたんですけど、留守電に繋がってしまったので、それで失礼かと思いましたが携帯に直接」

『いや、そこはいい。それでりまは・・・私達の娘は、無事なのかっ!?』

「お願いですから落ち着いてください。てゆうか、その言い方はやめてください。まるで僕がりまを誘拐したみたいじゃないですか」



僕がそう言うと、受話器から息を飲む音が聞こえた。・・・つーか、慌てっぷりがすごい。やっぱり誘拐されかけたことで、子どもが自分の視界内に居ない事に対して過敏になってるんだ。



『そうだな、すまない。・・・それで』

「今おにぎりを食べて落ち着いています。ただ・・・」

『ただ?』



さて、ファーストミッションはクリア。続きだ続き。



「少し問題があって、りま・・・家に帰りたくないって言ってるんです」

『どういうことだっ! なぜそんなことになっているっ!!』

「だから・・・落ち着いてください。その辺りも全部お話しますから。えっと、りまから聞いたんですけど・・・」



で、簡潔に話した。親が喧嘩ばかりしてりまが辛い思いをしていたこと・・・などなど。



「りま、家に帰るとまた親御さん・・・つまり、あなた達が自分の事で喧嘩するのを見るのが辛いって言ってるんです」

『だから、帰りたくない・・・と』

「はい。それだけじゃなくて、どうせ家に帰っても帰らなくても両親は喧嘩をする。どうせ同じ事・・・つまり、自分がそこに居なくてもいいとも思っているようなんです」



この場合、僕の意見を言ってはだめだ。その場合、確実に逆上される。

ここで重要なのは、第三者を通してりまの気持ちを伝える事だ。これは予想外にダメージがいく。



『しかし、それは・・・りまのためを思えばこそで』

「でも、それでりまが辛い思いをしているのは事実です。・・・りまに、言われたんですよね?
『同じことで何度も喧嘩してバカみたい、家の中に縛り付けないで、この家の外にだって私の世界がある』・・・って。多分、りまの言いたい事の大半はそこに集約されてます」



つまり、ガーディアンをやめたくない・・・ということだね。そりゃそうだ。りま、ようやくクラスの女の子とも馴染めてきてるし、ガーディアンでもなんだかんだで楽しそうにしてるし。



『・・・君はどこでそれを』

「りまが話してくれたんです」



やっぱり、直接会うのはダメだね。多分二人揃って連れ戻して・・・最悪、また転校させようとするかも知れない。娘の変化を、ガーディアン・・・学校のせいにしてさ。

でも、それじゃあ何の解決にもならない。だって、大本であるりまの家族が何も変わってないんだから。ここは、距離を置いて冷静になるべきだ。そうじゃないと、わかんないことがある。



「それで、僕から提案なんですけど・・・多分りまも今は冷静じゃないですし、ここでそちらにお返ししても、また同じ事になると思うんです。
なので、しばらくりまをこちらで預からせてもらえませんか? 冷静になれば、ちゃんと話し合おうと言う気持ちにもなるでしょうし」

『ダメだっ! りまは私達の娘だぞっ!? 私達がちゃんと』

「そうやって、りまから笑顔を奪うんですか?」



・・・落ち着け。ここは冷静に・・・冷静にだ。



「・・・さっき、お話しましたよね。りまは親御さんであるあなた達が喧嘩ばかりしているのが辛い。笑ってくれないのが辛いって。それになにより、りまが笑った顔、ここ最近見た事ありますか?」

『そんなこと些細な問題だ。笑わないから辛いなど・・・馬鹿馬鹿しい。私達は忙しいんだ。いちいち子どものわがままに付き合ってなどいられるか』

「馬鹿馬鹿しいのはそっちでしょうが」



ごめん、キレた。いい具合にプチンとキレた。



「楽しいから、幸せだから笑うんだ。りまはただ、自分の両親に・・・ううん、家族みんなで幸せになりたいって思ってるだけ。それを・・・馬鹿馬鹿しい? 子どものわがまま?
自分の娘が、自分を含めたみんなの幸せを願う気持ちに対して、どの口開けてそんなこと言ってんですか。世間様はどうであれ、親が子どもの敵に回ってどうするんです」

『私がりまの敵だと言うのかっ!? バカなことを言うなっ!!』

「現実問題そうなってるでしょ。今、自分で言った事・・・もう忘れたんですか?」



僕がそう言うと、受話器の向こうの人の言葉が止まった。



「馬鹿馬鹿しい、子どものわがまま。敵だってのは言い過ぎとしても、僕には味方である人間の行動とは思えないです。
お願いです、りまの顔、りまのこころ、もっとちゃんと見てください。実の親にそんな風に言われて、傷つかないわけがないじゃないです」



・・・・・・返事、なし。なんだよコレ、マジでイライラするし。



「そんなの・・・絶対に違います。りまは何時だって、家族みんなで笑いたかっただけです。というより、どうして親であるあなたが娘のそんな気持ちを否定するんですか」



とにかく、ここでキレてもなにもならない。冷静に、冷静に・・・僕までヒートアップしたって警察沙汰になるだけだもの。



「りまが誘拐されかけたことで、心配するのは分かります。でも、そのためにりまが笑えなくなったら、意味がない」

『・・・りまは君にそこまで話しているのか』



話さなくてもいいって言ったんだけどね。

・・・一応、信用はしてくれてる・・・のかな。



『しかし、君に何が分かる? 私達親の気持ちなど』

「そこは確かにわかりません。ただ、僕も・・・子どもじゃないし、シチュも違いますけど、大事な人がりまと同じ目に遭ったことがあって、相当肝を冷やしたことがあります。それで、後悔しました」

『なんだと?』

「性質の悪い奴に、さらわれかけたんです」



思い出すのはJS事件の時。・・・フェイトを、守れなかった時の事。

だからかな、りまの気持ちも分かるけど、りまのご両親の気持ちも分かる。多分、本当にりまの事が好きで、大切だからこうなるんだ。後悔したから、同じ事になって欲しくないから、なんとかしようと足掻いて・・・少し、間違えた。



「その時に助けになれなかった事、守れなかった事、沢山・・・後悔しました。それで、その人と色々話し合ったりしたりもしました。
だから、分かります。大事なものが自分のあずかり知らぬところで消えちゃう恐怖を・・・少しだけは」



僕の場合は、これで覚悟を決めた。フェイトの側に居て、フェイトの今と笑顔を守るって。・・・信じているから離れられるって言う考え方もあるから、僕のやることはフェイトを信じていないんじゃないかって、そう思って結構考えたりもしたけど。

でも、やっぱり・・・ねぇ? 側に居た方がフラグは立つもの。そっちの方が嬉しいのよ。



『・・・そうか』

「はい」



そこから、少し沈黙が訪れる。この感覚が・・・どうにも、辛い。

我ながら、奇麗事だよね。でも・・・その奇麗事が、りまの欲しいものなんだ。ちっぽけで、小さいものかも知れないけど、りまが望んでいるものだから。



「・・・まぁ、僕の話はいいです。とにかく、りまの事はずっと・・・ではなくて、落ち着くまでの処置と考えてもらえませんか?
また同じことになって、それがきっかけでもし犯罪にでも巻き込まれたりしたら、目も当てられない」



今回は偶然にも僕と遭遇したからいいけど、それがダメな場合もあった。そこを考えると・・・やっぱりね。



「なにより、最初にも言いましたけど、りま本人が今家に帰る事を、親御さんであるあなた達の所に戻るのを、本当に嫌がってるんです。実際、僕が連絡することにも強めに拒否反応を示しました」

『そこまで・・・か』

「そこまでです。りまは今、追い詰められてます。この状況をなんとも出来ない自分を責めてもいます。
どっちにしても、時間が必要だと思います。・・・りまの送り迎えは、こちらでしっかりとやりますので、どうでしょうか」

『・・・辛い、ものだな』



へ?



『いや、りまが出て行く直前、手を振り払われたんだよ。その時、私も家内も、言いようのない寂しさを感じてね。
それなのに、またあの子の目の前で喧嘩をしてしまった。あの子の私達に笑顔で居て欲しいという願いを、また踏みにじった。どうやら馬鹿馬鹿しいのは、私達の方らしい』

「・・・すみません、出すぎた事を言いました。それも一つじゃなくて沢山」

『いや、いい。確かに私も・・・そして家内も、あの子の笑顔をここ最近見ていなかった。そして、私達も笑ってはいなかった。
君の言うように笑顔が幸せで、楽しいことの証であるなら・・・私達家族は、幸せでもなければ楽しくもないのだろう。あの子が帰りたくないと思うのも無理はない』



・・・間違っては、ないはずなんだけどね。やっぱり、あれなのかね。どんな感情でも、想いが強すぎるとこじれちゃうんだよ。

難しいなぁ。今を未来に繋ぐ・・・ってさ。ついついディードとの事に照らし合わせて考えるのは、きっと気のせいじゃない。



『・・・蒼凪君、と言ったな』

「はい」

『君は先ほど、私達の気持ちが分かると言った。そして、自身の大事な人が同じ目に遭ったとも言った。・・・君は、それに対して今どうしている?』

「一言で言うと・・・信じることにしています」

『信じる?』



まぁ、本当に簡単に言うとこれかな。



「その人、それがあってからもっと強くなるって言ってるんです。もうこんな事が起きないように、周りの人達に僕と同じ後悔をさせないように、強くなる・・・って。それを、信じることにしました。
確かに、心配ではあるけど・・・だからって、それでその人の事を縛りたくないんです。縛ることで、笑顔を奪いたくないんです。だって、やっぱり・・・笑ってて欲しいですから。大好きな人が笑ってないのは、苦しそうなのは、嫌なんです」



また、沈黙が訪れる。多分、本当に数秒。

だけど、とても長い沈黙。そしてそれは、りまのお父さんの方から破ってきた。



『・・・わかった。すまないが、りまをしばらく頼めるか? 家内の方には私からきちんと話す。いや、二人で話すことにする。
あの時、なぜりまに手を振り払われたか。そして、どうすれば私達はりまの望むように家族みんなで笑顔で居られるのかについて、真剣にだ』

「はい。責任を持って、お預かりします。僕一人だけじゃなくて、みんなも歓迎してくれていますし」

『ならよかった。しかし・・・君は不思議な子だな』



はい? なんですか、いきなり。



『どうも電話で話しているせいか、君がりまと同い年の子どもだとは思えん。口調もしっかりしているし、言葉に妙な説得力もあるし・・・』

「ゆとり世代の中で少々特殊な部類なんです。お気になさらずに」










とにかく、しばらくの間うちに居候が増えることになった。この後、りまのお父さんによろしく頼むと改めて言われたり、うちの住所や連絡先なども伝えて、電話を終えた。





というか・・・あれ、これはなんてさざなみ寮? 普通に寮なんですけど、これ。





ま、いいか。とりあえずりまもおにぎりだけじゃ足りないだろうし・・・もうちょっと、なんか作りますか。




















(第24話へ続く)





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