[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第22話 『モノホン王子の誕生 ・・・・・・王子って言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』



・・・・・・こどもはみんな、こころのなかにたまごをもっている。





たまごたちの中には、たまにまいごになってしまう子もいるんです。










『ぼくはだれのたまご? どこからきたの? どこへいけばいいの?』










まいごのたまごは旅にでました。










『ぼくのもちぬしはどこにいるの? さみしいよう、かえりたいよう』

『わんわん、しらないよ。ぼくのたまごはちゃんとあるわん』

『にゃあにゃあ、しらない。わたしじゃないわ』










もちぬしの子どもであうために・・・。










『どんな子なんだろう、はやくあいたいな・・・』










そして、次のページを捲る。そこは・・・破られていて、続きが無い。










「・・・その本の作者、アンタなんだろ?」




やれやれ・・・。今日は千客万来だね。またお客様だよ。珍しい日もあるものだ。



僕は振り返り、後ろを見る。・・・黒ずくめの服を着て、背中にバイオリンケースを背負った子が、そこに居た。これまた珍しい、滅多に来たりしないのに。





「なんでページが破られたまんまなんだよ」

「気になる? この物語の続き、教えてあげようか」

「いや、いらーねよ。てーか、どうせ適当に嘘つくつもりだろ」



嘘・・・僕が? それは心外だなぁ。僕はそんなことをするつもりもしたこともないのに。



「それこそ嘘じゃねぇか。あと、その唯世ぶりっ子はやめろ。ムカつくんだよ」

「まぁ、そこはともかく」

「ともかくじゃねぇよ」



僕は懐からあるものを取り出す。それは・・・にぼし。

はい、ヨル君。



「にゃー! にぼしにゃー!!」

「ヨルっ!! ・・・ったく、アンタいつでもそんなもん持ち歩いてんのかよ」



当然。だって、僕は無類のネコ好きだし。あ、ネコじゃらしも常備してるよ?

ほらほらー。



「にゃー! にゃー!!」

「・・・君こそ、それをいつも持ち歩いているの?」



僅かに・・・本当にだけど、僕のその言葉にその子の表情が曇った。



「バイオリン」



この子は父親の影響からか、バイオリンを弾くのが好きらしい。

よく、近くの公園で一人、何かから隠れるようにして弾くとか。



「今夜どこかでコンサートを開くつもりかな」

「・・・・・・関係ねぇだろ」



うぅ、寂しいなぁ。異国の空の下、二人で旅をした仲だと言うのに。



「あぁ、そうだな。お前が財布すられたりするから無茶苦茶大変だったな」

「・・・そうだっけ?」

「だから、その唯世ぶりっ子はやめろ。引っかくぞ」

「あはは、ごめんごめん。お願いだから爪を出すのはやめてほしいなぁ。・・・なら、ここからは真面目な話だ。またイースターの言いなりになって、なにかをするつもりだね?」



僕の言葉に、彼の表情が更に曇る。だけど、僕はそれに構わずに言葉を続ける。



「君は、それでいいのかな。星の示す君の居場所は、本当にそっち側だったのかな?」

「・・・ふん、こんなスモッグだらけの町の空で、星なんて見えるはずがない」

「そうかな?」



席を立って、彼に近づく。・・・あぁ、片手のネコじゃらしでヨル君と遊びつつね。



「厚い雲に覆われていても、星は必ずそこにある。でも君は、それが分かっているのに空を見上げようとしない。
いつか星を見失ったら、心が迷子になってしまうよ? ・・・で、そう言う時は蒼凪君や日奈森あむちゃんを見るといい」

「あのチビやあむを?」

「うん。僕のお勧めは特に彼だね。彼の心の中には、星の光がある。その光は彼やその周囲を照らしている。
でも、それだけじゃない。今を守り、覆すための希望にもなる」



ただ、彼自身はそれに気づいていないようだけど。・・・いや、一応は気づいているのか。

ただし、その本当の意味を半分も理解していないのかも知れない。見ていてそう感じたよ。



「まぁ、異国の地を旅した同胞としての言い分を聞いてくれるとありがたいかな。ね、イクト君」



僕がネコじゃらしを目の前に差し出すと、頭にネコ耳が生える。・・・あぁ、これが見たかったんだよ。というわけで、早速撫でる。

こんな立派な猫耳は中々お目にかかれないし触れないからね。いつもこれが楽しみなんだ。



「・・・全く、無類のネコ好きもここまでくると迷惑だぜ」



なんだか怒っているような表情だけど、それに構わずネコじゃらしで・・・ほれほれ〜。



「・・・・・・にゃっ!!」

「おっとっ!! ・・・あはは、やっぱりにゃんこだねー」

「遊ぶなっ!!」

「あぁ、イクトだけなんてずるいにゃー! オレもまぜろにゃー!!」










・・・さて、次の星回りは・・・そうとう過酷と出ていたけど、どうなるんだろうね。





蒼凪君、それにガーディアン、君達の強さで、想いで、それを覆せるかどうか・・・ここからが正念場だよ?




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第22話 『モノホン王子の誕生 ・・・・・・王子って言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・で、エルはそのまま本局と」

「うん・・・」

「また暴走しまくりです。あの子凄すぎですよ」

「すみません。私達には止める間がありませんでした」

≪ディードさん、気にする必要はありませんよ。あれのフリーダムさは誰であろうと止められません≫



リインとティアナと一緒に家に帰ってきたら、フェイトとディードが頭を抱えていたので、聞いてみた。

すると、非常に聞きたくない答えが返ってきた。・・・やっぱ、説明とかしないとだめだよね。今まではなんとか誤魔化してたってのに。



「それでヤスフミ、リイン。海里君は・・・どう?」

「普段通り・・・だね」

「リインから見ても、特に変なところはありませんでした」

「スパイだとすると、かなり大胆で優秀よね。普通はボロとか出しそうなのにさ」



だねぇ。・・・とりあえず、味噌汁をすすって飲む。というか、またいいお味だなぁ。



「あぁ、それと今日二階堂に話を聞いたのよ」

「二階堂先生に? ・・・あ、もしかして」



フェイトは気づいたらしいので、頷きで返した。

前回の回想でやった通り、海里の事を二階堂に聞いたのだ。元イースターの社員ということで、何か知ってたのではないかと。



「うん。海里のお姉さんの事とか話したら、吐いてくれたよ。海里がお姉さんから頼まれて、イースターのスパイやってたこと、知ってた・・・というより、薄々勘付いてたみたい」

「・・・ねぇ、アイツやっぱりまだイースターと繋がりあるんじゃないの? それはおかしいわよ」



ティアナが言うことも一応道理としては分かる。普通ならそう考えるだろう。

僕も、実は少し考えていた。でも、ちょっと違っていた。



「そういうわけじゃないらしいよ? なんて言うか・・・ね」

「何かあったの?」

「うん」



そうして、話した。二階堂との話の中で分かったあれこれとか。

みんなそれを聞いて、表情を重くしている。



「・・・私は、その海里という少年を知らないのですが、恭文さんはそれで・・・いいのですか?」

「そうだよ。あのね、説得するなら、私達も手伝うし」

「いいの。もう、決めたから。それに、僕も剣を持つだから分かる。海里と剣を合わせた事があるから分かる。海里は・・・やると覚悟を決めたのに、それで揺らぐような奴じゃない」



戦う人間ってのは、100の言葉より、1回攻撃を交えただけで相手のことが分かる。僕も何度かそういうのは経験がある。

だから、確信を持って言える。海里が本気なら、説得は通用しない。



「アンタがそれだけ言うって・・・三条海里、そこまでなわけか」

≪そこまでですね。本気だとしたら、あむさんだろうがガーディアンの面々だろうが、止められるはずがありません。やるしか、ないでしょう≫

「戦ってる時に迷うのも躊躇うのも嫌いだもの。そうして守りたいものが守れないのは、絶対に嫌だ。もうそれでいく。・・・ただし」

「ただし?」



ただし、それは後悔も痛みも全部背負う覚悟が出来た上での選択なら・・・だ。



「もしも・・・もしも、何かの事情で強制的にこんなことをやらされているなら。覚悟を決めきれずに、心の奥で嫌だって悲鳴を上げながら姉の指示に従おうって言うなら」



右手を上げて、手の平を見る。そして、強く握り締める。



「絶対に、助け出す。海里をそんな柵が縛っているって言うなら、その柵をぶった斬って壊す」



斬ろうと思って斬れないものなんて、この世界のどこにもない。それなら、目に見えない概念的なものだって、きっと・・・斬れるはずだ。

最近、少しずつだけどそう思うようになってきた。そして今日、覚悟を決めた。もう考えるのがめんどいから、これでいくことにする。



「そう・・・ですか。安心しました」

「へ?」

「恭文さんは、やっぱり恭文さんのままでしたから」



そう言って微笑むディードの表情を見ているのがなんだか気恥ずかしくて・・・ちょっとだけ、視線を逸らす。

顔が熱いのは、気のせいじゃない。いや、だってフェイトも同じ顔してるから。



「あ、そ・・・そうだ。恭太郎から例のCDの外観とかを聞いて、生徒にちょっと聞き込みしてみたのよ」



それを隠したくて、話を逸らした。・・・そう、問題はまだあるんだから、海里の事だけ考えているわけにはいかない。。

差し当たっては、件のCDだ。まぁ、帰り道に制服着てる生徒にちょこちょこっと聞いてみる感じだけど。あと、リインも同じクラスの子に電話で聞いてくれた。



「あぁ、例のおねだりCDと同じかどうか確かめようってわけね。で、どうだった?」

「えっと、ビンゴでした。恭太郎がもらったプロモ用の無料配布CDと、今学校でおねだりCDとして生徒達の間で広まっているものの外観はほぼ同じようです。ただ、疑問があるのです」

「その都市伝説めいたCDの正体が、どうして大量配布されていると思われるプロモ用CDになるのかが分からない・・・でしょうか」





ディードが考えながらそう言うと、リインが頷いた。・・・うん、まずはそこなんだよね。

ゲリラ的に恭太郎とディードが見たような感じで宣伝してるなら、普通に正体がプロモ用CDだって気づきそうなもんなのに。

なんで学校内でこんな話になっているのかがわかんない。



いや、逆に学校という一種の閉鎖コミュニティの中だからこそ、こんな話になっているとも考えられる。





「そのおねだりCD、中等部の方まで話が入り込んでるみたいなのよ。私も何回か聞いたから。
まぁ・・・都市伝説や噂なんて、案外元ネタは大した事がなかったりするのが通説だけどさ。ただ、それでも考えなきゃいけないことがあるわよ?」

「なにがきっかけでこんな話になったか・・・だよね」

「正解」





というか、そもそも誰が最初にこれを学校に持ち込んだの? 生徒の間で自然と噂が生まれたにしても、ティアナの言うようにきっかけはあったはずだ。

・・・噂の発生源・・・いや、もしもこれが意図的に広められた物だとしたら? そうなると、色々話が変わってくる。

ここでチェス版を引っくり返そう。・・・いや、うみなりやり出したからついハマっちゃって。



とにかく、引っくり返す。これが意図的に広められたものだとしたら・・・広めた人間は何を狙っている? 簡単だ。CDを聴いて欲しいから。それも、例の七日間のルールを考えるに、短いスパンで大量に・・・だ。

つまり、あのCDは聴けばこれを広めようとした連中の思惑に乗っかることになる。なら、どうして学校内で?

学校内・・・ある種閉鎖されたコミュニティ。そして、大人はともかく子どもはこの手の話に興味を抱かないはずがない。だから、学校に狙いを定めた。



いや、もしかしたら・・・。





「・・・フェイトさん」





どうやら、ティアナも結論に達したらしい。多分、僕と同じだ。





「うん、私もティアと同じこと考えたよ。もしそうなら、このおねだりCDの一件、やっぱりイースターが絡んでるんだよ」

「でもでも、それだけじゃないです。歌・・・ゲリラライブ・・・それを聴いて自己の意思を無くしかける・・・。恭文さん、これってやっぱり」





リインの言葉に頷きで返す。多分、それで合ってるはず。・・・歌声を調べるまでもなかった。





「ヤスフミ、こうなった以上もう様子を見るなんてことは出来ないよ? この様子だと、CDは相当数の人の手に渡っているだろうし、事態は一刻を争う」

「・・・そうだね。てか、早速直接対決ですか」

≪ここは仕方ないでしょう。いずれはやらなければならなかったことが、今来ただけの話ですよ≫





それもそうだね。・・・まだ確証は無いけど、このCDを広めたのは、多分海里だ。



そして、恭太郎とディードが遭遇したライブで歌っていたのは・・・。そう考えると、全ての辻褄が合う。





「・・・・・・あれ、通信? 恭太郎からだ」





フェイトの横に空間モニターが展開する。そして、それを繋ぐボタンを押すと・・・。





『フェイトさんっ! 大変なんだっ!! あのCDとんでもな・・・あ、じいちゃん達も帰ってたんだっ!!』

「恭太郎、どうしたの? というか、声大きいよ」



フェイトが両耳を押さえつつ、目に涙を浮かべつつ言う。・・・うん、確かに大きい。耳にキーんと来たんだから。



『あぁ、悪い。あのCDの解析が終わった』

「ほんとに? それで、どうだったのかな」

『それがよ、とんでもないんだよっ! このCD作った奴ら、バカじゃねぇのかっ!? どっかの悪の組織みたいな真似してんじゃねぇよっ!!』



明らかに怒りを込めた声を出し、表情にもその色を浮かべる恭太郎。その理由が今ひとつわからなくて、僕達は顔を見合わせて戸惑う。

だけど、変化はまだ起きる。それは・・・僕の携帯。それを開くと、あむからの電話がかかっていた。僕は通話ボタンを押して、繋ぐ。



「もしもし、あむ?」

『あ、恭文っ!? お願い、今すぐ外に出てきてっ!』



・・・待て待て、こっちもかい。てゆうか、何があったの。



『唯世くんが・・・例のおねだりCDを聞いて、行方不明になったらしいのっ!!』

「・・・・・・はぁっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・計画は今のところ順調。ガーディアンの連中にも気づかれている気配はない。





海里も相当上手くやってくれてるしね。ふふふ・・・もう予定通り過ぎて笑うしかないくらい。










「・・・今日の実験が成功なら、そのまま最後まで・・・だったわよね」

「えぇ。まぁ、上手く行くと思うけど」



謎のインディーズバンド、その名は『ブラックダイヤモンズ』。突如現れ、歌声を送り、CDまで無料配布しちゃう。

噂が噂を呼び、それが最高に高まった時・・・その正体を公表する。それだけではなく、デビュー曲を世界中に配信する。



「でも、正体が分からないという要因だけで、ここまで注目されるなんて・・・」

「何言ってるの。人間ってのはね、人の秘密や隠し事を知りたいって思う本能があるのよ。正体不明なら、当然知りたいという感情が生まれるわ。三度の飯より隣人の秘密に興味をそそられるのが、人間よ」

「三条さんも?」

「まぁね」



だからこそ、驚く。それを知った人間は、確実に驚愕するだろう。



「そのバンドのボーカルが・・・歌唄、アンタだってことにね。その時、アンタへの注目度は過去最高の物になるわ。
もちろん、それだけじゃない。さっき言ったように、その状態で世界中に一斉配信・・・ワクワクしてくるわね」

「・・・そうね」










・・・・・・まぁ、歌唄のテンションが若干低いのが気になるけど、ここはいい。下手に浮かれてミスされるよりはずっといいという事にしておこう。





だけど、気になるわね。歌唄が日を増す毎に無口になっていくような・・・まぁ、いいか。





あれよあれ、歌唄なりにキャラ作ってるのよ。正体不明のバンドだから、ミステリアスな感じにしようか・・・とかさ。うん、いい事だわ。仕事熱心な女は素敵なものだし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・とにかく、うちの王様がCDを聴いて行方不明・・・でオーケー?』

「うん、オーケーだよ。それで大体合ってる。それと・・・」



そう、それとまだある。・・・キセキのこと。



「キセキ、しゅごたまに包まれて外に出られなくなってるの」



その状態で、あたしの家まで飛んできた。・・・うぅ、でもベランダに突撃はやめて欲しかった。丁度あたしも外に出てたから、顔にコツンって直撃したし。



「それだけじゃなくて・・・」



あたしはもう一度、キセキのしゅごたまを見る。

表面にうっすらと、王冠の柄の上から被るように違う色・・・ううん、違う絵柄がその存在を表し始めている。



「キセキのしゅごたまに、うっすらと×が付き始めてるの」

『マジかい。でも、×が付いてるってことは・・・』

「うん。もしかしたらあのCD、イースター絡みなのかも」



でも、どうして? 例えば歌唄の歌は直接聴かないと効果がないのに、CDを聞いただけの唯世くんがなんでこんな・・・。



『・・・・・・あむ、『かも』じゃない』

「え?」

『まぁ、その辺りは後で話すよ。で・・・キセキでも唯世の居場所、分からないんだね?』

「うん」

『なら、僕もすぐに外に出る。それで落ち合おう? 唯世の現在の居場所は、こっちのサーチャーフル回転で調べてもらうから』



うん、そうしてくれると助かる。・・・唯世くん、待ってて。すぐに助けるから。



「それじゃあ、場所は・・・」

『近くの公園で』

「分かった」





とにかく、そこで電話を終えて、あたしはパンツのポケットに携帯を押し込む。



・・・ラン、行くよ。





「うんっ!!」

「あたしのこころ・・・!」





両手を胸の前に構える。



そして、あたしはそのまま、鍵を開けた。





「アンロックっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・というわけでフェイト、ディード、ティアナもサポートお願い。僕とリインはすぐに出る」

「わかった。こっちは任せて。・・・それで恭太郎、あのCD一体なんなのかな。その口ぶりだと、正体が完全に分かったんだよね」



そうだ、そこは聞いておかないと。唯世があのCDのおかげでとんでもないことになりかけてるんだ。情報は欲しい。



『・・・あぁ。いいか、みんな落ち着いて聞いてくれ。こっちに来る直前、エルの様子おかしかったよな。それ、このCDのせいなんだよ』

「どういうことよ、それ?」

『エル、このCDの中にある×たまの気配を感じ取ってたんだよ』



・・・・・・最初、恭太郎の言っている意味が分からなかった。僕とリインもそうだし、フェイトもディードもティアナも。

だけど、それでも言葉はそのまま続く。



『フェイトさん、横から失礼します。シャーリーです。・・・簡潔に言います。このCDは、恐らく製造過程のどこかで、どうやったかまでは分かりませんけど、×たまをCDにプレスしたようなんです』

「×たま・・・こころのたまごをっ! シャーリー、それ本当なのっ!?」

『はい、間違いありません。エルがかすかにだけど、CDの中からたまごの気配を感じ取っています。私達でも調べましたけど、微量に正体不明のエネルギーを感知しました。
そしてそれは、×たまが出現した時に、アルトアイゼンが感じる『妙な反応』のデータと完全に一致しました。あと、歌声の方なんですけど・・・』



・・・シャーリー、続けて。なんか僕の方を見ながら表情を重くするのはやめて。



『ビルトビルガーの音声データの方を解析しました。さすがにCDの方は危険ですから』

「うん、それで正解だよ。そのCDが力を発揮するのは、再生される事が条件だから」

『え? あの、どうしてそこまで』

「まず、そのCDは今聖夜小で噂になってるおねだりCDで間違いなかった。そして、唯世君がそのCDを聴いて、今行方不明になってる」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



画面の中の恭太郎が僕を見る。・・・頷きで答えた。



「こっちの方はヤスフミとリインと私達で対処するから、大丈夫だよ。・・・それで、歌声の方はどうだったの?」

『はい。音声加工は念入りではありましたけど、特殊なものではなかったので、こちらの設備で解除はすぐに出来ました。そしてその歌声は・・・』





歌声・・・は? 誰なの。





『ほしな歌唄でした。こちらの方も間違いありません』

「・・・そう。ヤスフミ」





右拳を強く、強く握る。これで間違いない。この一件、イースター絡みだ。もう否定しようもない。



連中・・・とんでもないことやらかしてくれやがった。





「フェイト、なんで×たまをCDにしちゃったんだと思う?」

「さっきのあむからの電話の話と、今のシャーリーと恭太郎の報告から察するに・・・直接ではなく、CD音源の歌からでもたまごを抜き出せるようにするためだと思う。
やっぱり、直接だとライブという場に限定されるよね。でも、それだとほしな歌唄のスケジューリングの都合とか、場所取りとか、そういうので出来る回数が限られる」



だからこそ、ゲリラライブの方式をまず最初に取った。これなら、まず場所取りの問題がなくなるから。

でも、それだとまだ売れっ子歌手である歌唄のスケジューリングの問題が解決出来ていない。歌唄の歌でたまごを抜き出してエンブリオを見つけるという方針に支障が出る。



「そのために、イースターの連中は×たまのエネルギーを利用して、フェイトさんの言ったような方法を考えた。だから、たまごをCDにプレスした。そして・・・」

≪そのCDを作るために、今の今までゲリラライブやなんやで×たまを集めまくっていた。CDとして配布するのであれば、相当数が必要ですから≫

「でもでも、そうなると現時点でも、それだけの数のたまごがCDにされちゃってることになるですよ。あと、学校の中だけじゃなくて、外で普通に貰った人も居るって考えると・・・恭文さん」

「これはもしかしなくても、かなりまずい状況なのではないでしょうか」





・・・ざけんな。





「ふざけんな、アイツら・・・ただじゃ済まさない。リイン、行くよ」

「・・・はいです」










そのまま、僕はリインを連れて外に飛び出した。この状況を何とかするために。





・・・歌唄、なんのためのこんなことを? こんなことのために、歌ってるわけじゃないでしょうが。





自分のファンの子からたまごを抜き出して、自分の一部を否定して、その上こんなことまで・・・!!





お前、何やってんだっ!? 一体何がしたいのか、どこに行きたいのか、端から見てるとイミフもいいところじゃないかよっ! 勝ちたい勝たなきゃいけないなんて理屈をどうこう抜かす前に・・・自分の行き先くらい、自分で決めやがれっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、アミュレットハート姿なあむと合流。三人でビルや家屋の天井を飛びながら、まずは実際に自分の目で捜索。





とりあえず、夜景が綺麗ということはわかった。





わかったから・・・唯世を出せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!










「・・・唯世くん」

「あぁもう、我ながら空気読んでなかったっ! こんなタイミングであんなこと言うんじゃなかったっ!! これは豆芝レベルじゃないのさっ!!」

【今更だよっ! でも、本当にどこに・・・!!】



なお、フェイト達はまだ見つけられていないようだった。見つけたら連絡が来るはずだから。



「でも恭文、さっきの話本当なの? おねだりCDを作るのに×たまが使われているって言うの」

【しかも、それに歌唄ちゃんが絡んでるって・・・】



夜空を飛びながら、あむが聞いてきた。僕とリインは・・・頷いた。



「間違いないです。うちに居るエルがCDの中からたまごの気配を僅かにですけど感じたそうですから」

「・・・許せない。だって、CDになっちゃったらそのたまご達はどうなるの? もう浄化とか無理なんじゃ」

「とりあえず、そこは後で試すよ」

「そうだね。もしかしたらオーケーかも知れないし」



ダメな可能性は、今は考えないようにしよう。それに、そこより前にまずは唯世だ。

・・・冷静になれ。唯世はどこに居ると思う? CDを聴いて居なくなったのはどうして? 普通に抜き出すなら、もうキセキはとっくに×が付いているはずだ。



「もしかしたら、×たまを集めるためにCDを聴いた人達は催眠状態に置かれているのかも知れません」

「リインちゃん、それどういうこと?」

「ようするに、そのまま自宅でたまごに×が付く・・・違いますね。エンブリオが出てきても、イースターが回収できない可能性があるということです」



・・・なるほど、そのまま例えば自宅とかでエンブリオが出てきても、イースターの連中の所に来る保障なんてどこにもない。

いや、どっか知らないところに飛んでいく可能性の方が大きい。現にあむのダイヤのしゅごたまがそれだった。歌唄のバカが出てくるまで、行方がさっぱりわからなかったんだから。だから、聴いた人間をどこかに集めて、そこでたまごを抜き出す・・・と。



「でも、それだけじゃ無いと思います。イースターの人間は、×たまを回収してCDにプレスしました。目的はエンブリオを見つけ出すためだと言うのは簡単に想像出来ます。
だけど、もしそれでエンブリオが見つからなければ、この計画をそのままエンブリオが見つかるまで続けるつもりなら、当然のようにCDは新しいものを造る必要があります。CDは無限にあるわけではありませんから」

≪そのためには、当然のようにそれを作る分の×たま・・・こころのたまごも必要。例えエンブリオではなかったとしても、×たまは出来る限り回収しておきたい。恐らくそういう意味合いも存在しているんでしょう。いわゆる悪魔の観点から考えたリサイクル方法ですよ≫

「だと思います」



だから、一時的に催眠状態に置いて、聴いた人間を一箇所に集めて・・・そこで一気にたまごを回収・・・ということだね。

確かに効率はいいわ。そして、手段が普通の人間に思いつくレベルじゃない。マジでどっかの悪の組織の行動だ。



「でも、こんなのひどいよっ! イースターの連中、みんなのこころのたまごを・・・なりたい自分の可能性を、なんだと思ってるのっ!?」

「自分の目的を達成するための道具にしか思ってないんでしょ。・・・でも、よかったよ」

「恭文っ! アンタなにがよ・・・か・・・」



うん、よかった。すっごくよかったよ。

イースターの連中がどこぞの三流犯罪者レベルでさ。こういうのの相手は僕達の領域だ。



「おかげで、何の躊躇いも無く連中をぶち壊せる」

≪・・・そうですね。そこだけは幸運でしょう≫

「リイン達の目の前でこんなことをした事・・・後悔させてやるです」



でも、ここはいいか。怒りは直にぶつければいい。なにより、ただ斬るだけじゃダメなんだから。

あぁ、まだよかった事がある。これで手がかりが一つ見つかった。



「え?」

『そうだよ。・・・ヤスフミ、あむもお待たせ。唯世君の居場所、分かったよ』



僕の左隣に通信画面が開いた。それは・・・フェイト。

こうやって通信が来たということは、考えるまでも無い。唯世の居場所が見つかったんだ。僕達は、近くの民家の屋根に着地。足を止めて通信画面を見る。



「フェイトさん、本当ですかっ!?」

『うん。まぁ、唯世君というより、リインの言うようにCDを聴いたと思われる人達が集まっている場所だけど』

「え? でもそれだと・・・あ、そっか」



あむはどうやら分かったらしい。・・・リインの推測が当たっているなら、連中はCDを聞いた人間を一つ所に集めようとしている。そうしないと、回収に手間取るから。

つまり、今現在どこかにその人達が集合・・・大量に人が集まっている場所があるはずなのだ。



『きっとそこに唯世くんが居る。そして、現在それと思われる場所は・・・一箇所だけだよ。これで決定だと思う』

「フェイト、それでその場所は?」

『今アルトアイゼンにデータで送った。あとヤスフミ、私もそっちに行くから』



・・・いや、フェイトが来ても・・・まさかたまごを壊すわけにもいかないし。



『大丈夫だよ。たまごはともかく、フォローは出来る。・・・場合によっては使うつもりなんだよね?』



なぜ見抜かれているんだろう。フェイトが当然という顔してるし。



「・・・つまりそういうことですか?」

『そういうことだよ。とにかく、そういうわけだから。多分10分くらいで追いつけると思う』

「了解。・・・フェイト、ありがと」

『ううん』



そのまま通信は終わった。とにかく、フェイトが来てくれるなら、僕が足手まといになる事は避けられる。

ううん、回復するまでの時間をフェイトに稼いでもらうことだって可能だ。・・・アルト。



≪データは既に届いています。問題ありません≫

「うし、それじゃあ・・・あむ」

「うんっ! 行こうっ!!」










そのまま、大きく跳ぶ。・・・夜景の綺麗さに見とれる余裕が欲しいなとか、ちょっと思いながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、到着したのは広場。スピーカーの黒いバンが止まっている。





そして、その周りに沢山の子ども。










『全てすくい取る・・・。歪んだ夜空に』










スピーカーから流れる歌声によってその大半が倒れて、その胸元や背中から黒いたまごが表れる。





でも、それだけじゃない。倒れていない人間の中に、見知った影を見つけた。










「・・・唯世くんっ!!」

「あむ、唯世をお願い。キセキ・・・そろそろやばいかも」

「え? ・・・キセキっ!!」



後ろを見ると、キセキのたまごがうっすらと黒ずんでいた。



「く・・・苦しい。唯世・・・」

「王様、もうちょっと踏ん張っててよ。さすがに秒殺は無理だから」

「あの、咲耶という娘は・・・どうした? あれならば10秒で・・・」



まぁ、そう考えるよね。だけど、それは無理だ。



「現在調べ物で居ない。だから、アクセルフォームは使えない。てゆうか、今キセキがその状態なのは多分CDだけのせいじゃないでしょ」

「そうか・・・。確かに、そうだな。ならば、王たる者の底力、見せねば・・・なるまい」

「そうしてくれると助かる」



そして、中央にバッテンのマーク。やばい、歌の影響もあるだろうけど、なにより唯世がなりたい自分を見失いかけているのが大きいんだ。

あぁもう、まじで今日の僕はKYだった。



「それとあむ、ミキを借りるよ。リインはあむのフォロー。邪魔するのが居たら、ぶっ飛ばしていいから」

「分かったです」

「まさか・・・キャラなりして、あの数を一人で浄化するつもりっ!? そんなのだめだよっ! もしフェイトさんが来る前にキャラなりが解けたら・・・!!」

「・・・自分が守りたいもの守れないのはね、負けになるんだよ」



あむが僕が何を言っているのか分からないと言うように僕を見る。



「僕は、あの状況を絶対に見過ごせない。あのたまご・・・全部助けたいの。で、唯世も同じ。唯世も絶対に助けたい。だから・・・唯世はあむに任せる」

「あたしに?」

「だって、僕の右手はアルト握ってて、伸ばせるのは左手だけ。あれ両方は無理だもの。・・・あの時と同じだよ。あむのこと、信じるから」





もちろん、理由はそれだけじゃない。普通にたまごを浄化してから唯世・・・なんてやってたら、間違いなく時間がなくなる。

だから二手に分かれる。唯世はあむが助けて、僕がその間にたまごをなんとかするのだ。もっと言うと足止め。唯世に対する処置を邪魔しないように、僕が×たま達を引き付ける。たまごは30とかゆうに超えているけど、やるしかない。

これで助けられなくてCDにされるのはごめんだ。それに、最悪僕とミキのキャラなりが解けても、唯世が復活してあむが動けるようになれば、充分に事態の解決は見込める。それに、フェイトももうすぐ来る。



僕がここで最低限やるべきことは、あむ一人だけでもなんとかなるように極力数を減らすこと。・・・基本方針はこんなところかな?





「つーかさ、魔法少女で主人公キャラなんだから、彼氏候補くらいちゃちゃっと助けなよ」

「わかった・・・って、魔法少女って言うなー! 久々だからつい聞き逃しちゃったじゃないのよっ!! ・・・ただ、あの」

「なに?」

「怪我とか、絶対だめだからね? ミキもそうだけど、フェイトさんだって心配するんだから」

「わかってる。痛いのは嫌いだから、気を付けるよ」



まぁ、そういうわけだから・・・ぶっとばしていきますかっ!!



「ミキ、お願い」

「うん。・・・恭文のこころ」



ミキが僕の隣に来て、そのまま両手を胸の前に持っていく。

そして、鍵を開けてくれた。



「アンロックっ!!」










ミキの両手が例のモーションで動くと、僕の身体が青い光に包まれる。そして、スペードのたまごに包まれたミキが、胸元に吸い込まれた。

両手には流線型のガントレット。両足には同じ型の具足を装着。白のインナーの上から羽織る明るめの蒼のジャケットの両肩と両手の甲の部分にスペードを模したと思われる装飾。





下には藍色のロングパンツも黒というよりは藍色に近い色合い。

腰にはスペードのマークが付いたバックル。右側にはカードホルダー付き

そして首元に巻かれたのは白色で長めのマフラーみたいになっている。その裾は、右と左と両側に分かれている。





ちょっと久々な感じだけど・・・これで完成っ!!










【「キャラなりっ! アンティークブレードっ!!」】





・・・うーん、なんか段々とハイセンスブレードで良いような気がしてきたんだよね。



ほら、センスはともかく言葉の語呂と纏まりはいいし、なにより名称がしゅごキャラっぽいしさ。





【あぁ、それは言えてる。でも、これも悪くないんだよね。そうするとこれとハイセンスブレードの2択か・・・】

≪しかし、普通自分達で変身形態の名前をノーヒントで考えるってありえないと思うんですよ。全く、お告げが来てればこんなことには≫

「アンタ達なに呑気に会話してんのっ!? てゆうか、まだ名前決まってなかったんかいっ!!」

≪【「もちろんっ!!」】≫

「普通に断言するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





まぁ、そこはともかく・・・行くよミキ、アルトっ!!





【うんっ!!】

≪時間がありませんから、ちゃちゃっと片付けていきましょう≫

「了解っ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・恭文、それに・・・あむ。来たんだ。





そうよね、当然よね。来ないはずが無いと思ってた。










「・・・車、すぐに出してちょうだい」

「三条さん、戦わないの?」



一応例の人形・・・あ、名前決まったんだっけ。



「えぇ、一応×ロットって名前に・・・ほら、早く出しなさいよっ!!」

「わ、分かりましたっ!!」



そのまま、バンの運転手は三条さんに急かされるままにアクセルを踏み、ここから離脱した。

でも、戦わないのはどうして? 私、まだ質問に答えてもらってない。



「歌唄、完全犯罪の条件って知ってる?」

「バレないこと・・・よね。というかそれ、前に三条さんが友達から教えてもらってすごく感心したって話してたじゃない」

「あー、そうだったわね。・・・とにかくよ、ここで×ロットを使うのは簡単。アンタを出すのももっと簡単。でも、そうしたらこれが私達イースターの仕業だと自分からバラすことになる。それはね、避けたいのよ。なにより」



なにより?



「これは実験よ? 実験で大怪我するなんてバカげてるわ。くくく・・・見てらっしゃい、ガーディアン。ここからが本番ってやつよ」





三条さんは楽しそうだけど・・・私は、少しつまらなかった。窓の外の流れる夜の景色を見ながら、少し思い出していた。それは、さっき・・・本当に少しだけ見えた光景。

特に技を使わなくても×たまを浄化する虹色の刃、青いジャケット、白いマフラー。あれが、アイツのなりたい自分。

なによアレ、まるでどっかのヒーローみたいだし。いくらなんでもセンスなさ過ぎ。



・・・でもちょっと、かっこいいかな。なんて言うかアイツらしいや。





「歌唄・・・」

「ダイヤ?」

「大丈夫、あなたは強い。彼よりも心の輝きがある。彼の心は錆びた屑鉄。だけど、あなたは宝石。だから・・・負けるわけがない」

「そうね、負けるわけが・・・ないわよね」










恭文、知ってる? 鉄はね・・・宝石には勝てないのよ。鉄は、宝石と違って輝かないから。でも、それでもアンタは来るわよね。





だったら・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



【恭文っ! バン逃げちゃったよっ!!】

「分かってるっ!!」





一気に踏み込む。だけど、その目標は僕達がここに飛び込んだのを見たのか、すぐに逃げたバンじゃない。宙に5メートルほど浮かんだたまご達の方だ。

バンを追っかけて止めてる間に、キセキが×キャラ化するに決まってる。そうなったら、またあむのたまごみたいに・・・。

なにより、キングを取られたら将棋でもチェスでもそこでゲーム終了だ。僕達はチェックメイトをかけられたも同然。まず、ここを覆すことからしないとまずい。



そう思いながら速度を上げる。×たまがこちらに気づいて、段々お馴染みになってきた黒い衝撃波を撃つ。それは壁のようにも、波のようにも見え、そのまま僕を飲み込もうとした。



だけど、甘い。





「邪魔っ!!」





虹色の刃となったアルトを左から横薙ぎに打ち込んで一閃。黒い衝撃波の壁をぶった斬り、それを霧散させた。



でも、それだけじゃない。僕達はもう次のアクションを起こしている。





『ムリっ!?』

「・・・驚いてる場合?」

【そんな余裕、ないよ】





×たまが驚くように震え、こちらを見る。・・・自分達の後ろに居た僕達を。



だけど、ちょっと遅い。





≪Icicle≫




移動しながらホルダーから抜き出したのは、スペードの6のカード。それを右のガントレットのリーダーにスラッシュ。それだけじゃなくて、鞘にアルトを一度収めている。



虹色の刃に宿るのは、氷結の力。・・・モノホンだと、ここは雷なのに。





【「氷花・・・!!」】





そのまま、アルトの刃を抜き放った。





【「一閃っ!!」】





左から横薙ぎに一閃。すぐに刃を返して右から袈裟に一閃。虹色の、氷結の息吹を含めた刃を振るいながらも、×たま達の中を斬り抜けた。



それにより・・・数個が氷に包まれ、そのままはじけた。だけど、すぐにそこから白いたまごが表れる。





「・・・瞬・二連(またたき・にれん)」

【極じゃないの?】

「じゃないの」



だけど、まだ安心は出来ない。後ろから残りのたまごが編隊を組んで僕をぐるりと囲み、衝撃波を撃ってきたから。数・・・やっと30の大台?

僕は上に思いっきり飛んだ。飛んで・・・うし、ここはマジにクリアだった。なんか来るかなとか思ってたんだけど。



「ミキ、コントロール任せた」

【わかった】



空を10メートルほどの高さまで飛びながら、僕の左手の人差し指の先には虹色の光。

それを×たま達に向けて撃った。



【カラフル・スティンガーッ!】



急降下とも言うべき速度で放たれたそれは、迎撃しようとして放たれたた×キャラ達の衝撃波をも突き破り、そのまま上から3体を貫いた。

でも、その弾丸は地面の寸前でストップした。



【スナイプっ!!】



そのまま今度は斜めに急上昇。その射角線上に居た二体を貫く。・・・うーん、初めてとは思えないコントロールだ。僕、ここまで上手く出来なかったよ?



【コマンド表はあるもの。・・・そう言えば、カードはコマンド表に載ってないね】

「ないね。全く、中途半端に不親切だよ」



なんて言いながら、僕達はもう地面に着地してる。そこからスティンガーから逃げ回る×たまの各個撃破のために、また踏み込んだ。



【とにかく、あむちゃんとリインも頑張ってるんだ。僕達も】

「まだまだやるよ」

≪もちろん、答えは聞いていません≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・唯世くんっ!!」





恭文がミキとキャラなりしてたまごを引きつけてくれている間に、あたしはリインちゃんと一緒に唯世くんのところへ着いた。



だけど、妨害とかそういうのなかったね。あのスピーカー付きのバンもとっとと逃げちゃったもの。あたし、もしかしたら例の×キャラ強化ボディとか出てくるんじゃないかと思ってたのに。





「多分、自分達の仕業だとバレる危険性を考えたですよ。ここまでほしな歌唄やイースターの行動だというのを隠してますから。・・・唯世さん、リインのことわかりますか?」

「ただ・・・せ・・・。僕・・・だ、キセキ・・・だ。僕の声が・・・きこ、える・・・か?」

「うぅ・・・」



だけど、唯世くんは両手で頭を抱えて、あたし達の方を見ようともしない。苦しそうに唸っているだけ。



「唯世くん、しっかりしてっ! あたし達のこと、わかるよねっ!?」

「た・・・だ・・・」





あぁ、まずい。キセキのたまごの×がさっきよりも濃くなってるし。と、とにかく・・・声をかけ続けよう。それしか、きっと出来ない。





「ぼくは・・・弱・・・い」

「唯世くんっ!!」

「弱い、偽者の・・・」





・・・・・・ううん、それだけじゃ足りない。



あたしはそのまま両手を伸ばして。唯世くんを抱きしめた。力を込めて、安心させるように、優しさも込めて。





「・・・唯世くん、お願い。ちゃんとあたし達の声を聞いて」





唯世くんは今、迷子なんだ。自分の行き先が、居場所がどこか分からなくて、すごく不安なんだ。



あの時のあたしと、同じなんだ。だから、教える。





「思い出して。キセキが・・・なりたい自分が生まれた時の事を」





後ろで恭文が戦ってる音が聞こえる。だけど、それには構わずに言葉を続ける。



迷子かも知れない。だけど、絶対に一人じゃないと、それでも忘れたらいけないことがあると、言葉を続ける。





「それで、信じて。その時の自分の気持ちを。誰でもない、唯世くんが信じなかったら、唯世くんの大事なもの、消えちゃうんだよ? 唯世くんは・・・それでいいのかな」

「・・・・・・アミュレット、ハ・・・ト?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・花を踏んでしまった。関係の無いものを壊してしまった。





それが悔しくて、情けなくて、僕は泣いていた。ひたすらに・・・泣いていた。





そんな時だった、目の前に王冠のマークをつけたたまごが現れたのは。そしてそれからすぐ、そのたまごはパカリと割れた。










「・・・泣くなっ!!」

「うわっ!!」





目の前に出てきたのは、小さな子。金色の王冠を頭に乗せて、赤い分厚いマントを羽織った子。



その子は怒っている様子だった。怒った目で、僕を見ていた。





「泣くな唯世っ!!」

「え? 君・・・どうして僕の名前を」

「僕の名はキセキ、お前のしゅごキャラだ」





その時は首を捻るだけだった。だって、しゅごキャラなんて聞いた事がなかったから。





「それに関してはあとで説明する。とにかく、王は泣かないものだ。王が進むべき道に涙は不要」

「だけど・・・」





花を、潰した。壊した。僕は、優しくも無ければ立派な人でもなかった。



だけど、目の前の子はそれでも言葉を続けた。





「ならば、助ければいい」

「え?」

「その花は、まだ生きている。弱く、今にも命は消えそうだが、まだ生きている。お前が傷つけたと思うなら、それを悔やむのなら、泣く前にやることがあるだろう。王とは、そういうものだ」





・・・・・・それから僕は、その花の世話をした。と言っても、水を上げたり、様子を見に行ったり・・・という具合に、子どもで出来る範囲なんだけど。



そうしたら、みんなもそれを手伝ってくれるようになった。花は、少しずつだけど元気を取り戻していった。それが嬉しくて、幸せで・・・。





「・・・キセキ」

「なんだ」

「僕、決めた。王様になるよ」










僕は、弱くて、全然だめで・・・出来ることなんてほんのすこし。僕の世界は、とても小さく、弱い世界だ。

だけど、それでも、ほんの小さな形でも、『奇跡』を起こしたい。

そうだ、やっと見えた。・・・ううん、思い出した。





僕のなりたい王様の形。そして、そうなってやりたいことが。





キセキ、聞こえる?










”ただ・・・せ・・・”










ごめん、苦しい思いさせちゃって。でも、もう大丈夫。・・・いくよ。










”・・・ふん、遅過ぎだ。まぁいい、いくぞ”

”うん”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・×たま達を斬っていると、光が弾けた。それは僕じゃない。方向は僕の右側。何事かと思いそっちを見ると、唯世が金色の光に包まれていた。





さっきまでなんかハグしてたあむが離れて、それを見る。隣のリインも同じく。てゆうか、あれはなに?










【あれ・・・もしかしてっ!!】





そのまま、唯世の両手が動き、両手の親指と人差し指で四角を作る。





「僕のこころ・・・」





唯世の隣にはキセキのしゅごたま。・・・いや、キセキが、閉じられていたしゅごたまから解放されて出てきた。



そのまま、唯世は鍵を開けた。





「アンロックっ!!」










胸元に再びしゅごたまに包まれたキセキが吸い込まれる。その身を包むのは、割り合い白に近い黄色の服。フリフリな部分が多いまさしく王様・・・というか、王子様な格好。

頭の王冠はキャラチェンジ時よりも装飾が本格化し、それはもう高そうな感じ。

その右手には、王冠付きのロッド。というか・・・やっと復活かい。遅いんだよ。



僕は、キャラなりを解除した。というか、もう・・・限界だったみたい。勝手に解けた。










「ヤスフミっ!!」




仰向けに倒れそうな僕を受け止めてくれたのは、フェイトだった。ちゃっかり右手にミキまで受け止めてる。

バリアジャケット姿で、髪型も変えたから一つ結び。・・・あぁ、ギリギリ間に合ったんだ。



そして、唯世の方を見る。唯世は強い瞳で、こちらを・・・×たま達を見る。





【「キャラなりっ! プラチナロワイヤルっ!!」】





唯世・・・キャラなり、出来るように・・・なったんだ。





「・・・日奈森さん、蒼凪君にリインさん。ごめん、心配かけて。でも、もう大丈夫。フェイトさん、蒼凪君は」

「うん、大丈夫。でも、ヤスフミとミキちゃんはもう限界だから」

「はい、あとは僕と日奈森さんに任せてください。・・・日奈森さん、いくよ」

「うんっ!!」





そのまま、あむは人差し指を×たまに向ける。唯世も王冠ロッドの先を向ける。





「「ネガティブハートに、ロックオンっ!!」」





そのまま、あむは両手でハートのマークを作る。唯世は、王冠ロッドの先を向けたまま。



キーにピンク色のエネルギーが溜まり、王冠ロッドの先に白い光が集まっていく。





「オープンっ!!」

「ホワイト・・・!!」





そして、次の瞬間、ハート型のエネルギーと、白い光の奔流が×たま達に向かって放たれた。





「ハートッ!!」

「デコレーションっ!!」





×たま達がなんか右往左往してるけど、遅い。その二つの技の直撃を食らって・・・黒い絶望を含んだたまごは、元の白いたまごへと戻った。



しかし、まだ結構数があったのに・・・よくやるわ。





「多分、二人分のパワーだからだね。だけど・・・すごいや」

「だねぇ・・・。でもミキ、大丈夫?」

「あはは、かなりきついけど、なんとか。でも、恭文はなんか幸せそうだね」



なに言ってるの。僕だってもう息ぜーぜー切れてるんだから。



「だって、フェイトさんの腕の中で・・・。しかも、胸を枕みたいにしてるし」



言われて気づいた。そう言えば・・・なんか頭の方がぽよぽよしてるなぁと思ったら、そういうわけ・・・だったのね。

あ、あははは・・・。なんかすっごい恥ずかしいんですけど。やばい、体勢変えた方がいいかな。



「あ、私は大丈夫だよ? それに、ヤスフミは今動くの辛いだろうし」

≪そういう問題ではありませんよ≫

「そうだよね。ボクもそこは思うよ」










なお、このあとあむと唯世に色々言われるんだけど、気にしてはいけない。





だって、フェイトの腕の中に居るのが気持ちいいってのは別にしても、もう・・・疲れたから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・出来た。ついに出来た。





ふふふふ、我ながら自分の才能が恐ろしい。こんなすぐに出来上がるんだからな。










「・・・仕事を私以上にサボりまくってたくせに、なに言ってんだよ。てかさ、本当にこれで大丈夫なの?」

「大丈夫だ、これはあくまでも手段の一つに過ぎない。二重三重に策は用意してある」

「ならいいんだけど・・・。で、明日早速これを持って行くと」

「あぁ」










やばい、俺は天才なのかも知れない。これでやっさんとミキちゃんのキャラなりでの異常な体力の消耗問題が解決したら、俺はスカリエッティなんてメじゃない天才になれるかも知れない。そして印税生活だ。拍手だけじゃなくて本編でも印税生活だ。





よし、やっさん待ってろよっ! 主に俺の輝かしい未来のために待ってろよー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なんだろ、今の変な会話は」

「さ、さぁ・・・」

「でも蒼凪君、フェイトさん、それに日奈森さん・・・すみませんでした」



いや、別に謝る必要ないし。・・・てゆうか、あれだよね。僕が必要あるんだよ。



「唯世、このままの体勢で悪いんだけど」

「あ、うん」

「ごめん」



本当に一言だけそう言った。唯世がキョトンとした表情になる。



「どうして、蒼凪君が謝るの?」

「いや、唯世のこと思いつめさせたかなぁ・・・と、ちょっと反省を」

「あ・・・と、僕は大丈夫だよ? おかげでね、少しだけかも知れないけど見えたんだ。僕のなりたい王様の形。そして、王様になってやりたいこと」

「そっか。・・・それとさ、唯世。自分は弱いって言ってたよね」

「うん」



まぁ、なんというか・・・アレだよアレ。うん、アレなのよ。



「それでいいじゃん。それが唯世の強さだよ」

「え?」

「自分の弱さを、ダメなところを知っている人は、人のそれが分かる。それが分かる人は、自分の弱さやダメなところに押しつぶされそうな誰かの心を、優しく包んで守れる力を持っているんだよ」



これは、ある作家さん・・・まぁ、アンパンマンとか描いてる人なんだけど、その人が言っていた事。弱い部分を抱えた人こそ、人よりだめなところがある人こそ、本当に誰かの心を守り、助けることの出来るヒーローになれると。

誰かの痛みや苦しみを心の底から理解し、助けるために必要なのは、力や正しさではない。ましてや勝つ事でもない。そういう弱さこそが必要なのだと、そう言っていた。これを聞いた時、すごく感銘を受けたのを覚えている。



「・・・強さってのは、勝つってのは、何かを先に繋げる結果を呼び起こせるから価値があるんだ。だから勝つ事に、強さに意味を見出せるんだ。
ただ何かを踏みつけて、その先を潰すだけの強さは、きっと間違ってる。そんな強さを振りかざしても、待っているのは・・・きっと、破滅」



うん、間違ってる。そんな強さは絶対に、間違ってる。例えば、命を奪う・・・とかかな。



「だから、唯世は強いよ。・・・・・・もうちょっと、自分に自信持ちなよ。少なくともここに一人・・・ううん、七人は、唯世の強さを知って、認めている人間が居るから」

「そうだよ、唯世君。私もそうだし、バルディッシュとヤスフミにアルトアイゼンにリインも、あむも認めてる。それと・・・」



フェイトが視線を向ける。そこには、キャラなりを解除したキセキが居た。



「全く、これだから庶民は。王の言いたい事を先取りするとは何事だ。よいか唯世、恭文とフェイトさんの言う通りだ」



キセキは、そっぽを向いて、唯世と目を合わせようとしない。そのまま言葉を続ける。

だけど、決してそれは唯世を嫌っているからじゃない。なんというか・・・照れくさいんだと思う。



「王たるものには、確かに強さが必要。だが、その強さは自らの国の民の今と未来を守る力でなければならん。例え目の前の戦いに勝利しても、それを守れなければ意味が無い。
お前の弱さ・・・優しさは、その力を手にするために、もっとも大切なものだ。というより、優しくなければ王は決して務まらん。・・・よーく覚えておけ」

「・・・うん。キセキ、ありがと」

「ふん」










そっぽを向いたままなのは変わらず。だけど、顔は照れているのか真っ赤。それを見て、僕もフェイトもリインもあむも、表情が崩れる。





・・・一応、キングは死守出来たね。でも、まだだ。この一手を避けただけじゃ、目指すべき勝利には繋がらない。





『魔法』を使える魔法使いを目指す身としては、ここからが正念場・・・かな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、マジックカードで体力回復して立ち上がれるようになってから、あむと唯世は家に帰した。さすがに時間が時間だったもの。





で、僕はフェイトに肩を貸してもらって空を飛びつつ家に戻った。





で・・・どうしていきなり添い寝な空気になるの?










「・・・元気注入だよ。わ、私も疲れていても、こうしてると元気出てくるし」

「そうだね、僕も同じだ。というかフェイト・・・あのさ」

「なに?」

「ギュって、甘えていいかな」



僕がそう言うと、白の生地に黄色の水玉模様のパジャマを着たフェイトが、両手を伸ばして僕を抱きしめてくれた。そして、頭を撫でてくれる。

あー、だめだ。こうしてると元気が出てくる。というか、幸せ・・・。



「・・・ありがと。というか、こんな甘えんぼで大丈夫?」

「大丈夫だよ。次添い寝する時は、私が甘えるし」

「うん・・・」










で、当然のようにそのまま眠った。なお、体力関係に関しては、フェイトの腕の中が心地よかったおかげなのか、翌朝起きたら元に戻ってた。

・・・うーん、回復が早いから翌日に響かないのは嬉しいな。ディードが心配そうな顔だったので、フォローが大変だったけど。

でも、嬉しくない事がまだある。授業をサボタージュさせてもらった上で早朝から行ったロイヤルガーデンでの会議だ。





この会議の議題は当然、アレ。昨日の件について話すことにある。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文、もう一度聞くわよ。それ、本当?」

「本当だよ。エル、もう一度みんなに話してあげて」

「はいです。あのCD・・・×たまを使って造られてるです。エル、勘違いじゃないかと思って何回も確かめましたから、間違いありません」

「・・・・・・確かにこの者の言う通りだ。このCDから、本当に微弱で僕達しゅごキャラでも触れなければちゃんと分からないレベルではあるが、×たま・・・たまごの気配がする」



そう、おねだりCDに関して話をした。みんなの表情が重い。というか、一部顔が青い。1番顔が青いのは、海里だ。

それがなぜかは、今のところ分からないけど。



「でもひどいよ。たまごをこんなことに使うなんて・・・。やや、絶対許せない」

「イースターのやつら、見境無しでちね。しかも、それをやってるのがほしな歌唄とその関係者でちか。恭文、アルトアイゼンも・・・そこは間違いないでちよね?」

≪間違いありません。先ほどみなさんにお話した通り、このCDに入っている『ブラックダイヤモンズ』というインディーズバンドのボーカルは、間違いなくほしな歌唄です≫

「でも、こう言ったらアレだけど恭文の親戚の恭太郎・・・だっけ? その子がゲリラライブに遭遇してよかったのかも。そうじゃなかったら、このまま気づかないことだって・・・」



まぁ、りまの言うような可能性があったのは事実。でも、関係者としてはあんまりそれは言えない。だって・・・いくらなんでも怖すぎだもの。



「歌唄・・・どうして、こんな」

「日奈森さん、今はそこを言っても仕方ないよ。・・・とにかく、今までほしな歌唄がゲリラライブを行ったり、急に影を潜めていたのはこのせいだったんだよ」

「ゲリラライブはCDの元になるたまごの確保。影を潜めていた・・・いいえ、インディーズバンドを隠れ蓑にライブをするようになったのは、私達の邪魔が入るのを嫌ったから」

「でも、それだけじゃないです。昨日も恭文さんやリインにフェイトさん達で話したですけど、学校内にCDを広めた人間が居るです」



出された紅茶を飲みながら、海里を見る。青ざめた表情はそのままだった。



「リインちゃん、それどういうこと?」

「まず、このCDは普通にバンドのプロモ用として無料配布されているものです。普通に考えて、それがこの短期間に学校内で都市伝説めいた形で広まるとは思えないんです。尾ひれが付いてこうなったと考えるにしても、そのスパンがあまりに短過ぎます。
リインがクラスでおねだりCDの話を聞くようになったのも、ここ1週間前後の間ですし・・・やっぱり短期間でこんな噂が広まるきっかけがあったはずです。もっと言うと、それを造った人間が居ます。そうでなければ納得が出来ません」

「あ、それはややも同感。もしそのゲリラライブでCDを貰って学校で広まるなら、普通にそのバンドの布教用というかそういう感じになるはずだもんね。・・・そう言えば」



ややが少し考え込むような顔になった。・・・どったの?



「ややね、恭文に注意するようにって言われてから、友達に電話かけて聞いてみたんだ。CD聞くのやめた方がいいって言うついでだったんだけど、あのCDをどこで手に入れたのかって。そうしたら・・・」

「そうしたら?」

「その友達は普通に例の七日間のルールに乗っ取って、別の友達から渡されたらしいの。
だけど、人によってはいつの間にかカバンの中に入ってたってこともあるとかって言ってた」

「結木さん、それは間違いないの?」



ややが唯世の言葉に頷く。

というか、ちょっと待て待て。いつの間にかカバンの中に入ってた? それって・・・。



「唯世の時と全く同じではないかっ!!」

「そうだね。そうするとやっぱり・・・」

「いるわね、学校の中にCDを噂と一緒に広めた犯人が。もっと言えば・・・イースターの手先が」



・・・海里の顔の青さが更にひどくなる。

その様子を見て思った。もしかして・・・このCDの内容を知らなかったとか? いや、そんなわけが・・・ありえるかも。



「・・・唯世くん、どうしよう」

「とにかく、このCDを急いで回収しよう」

≪問題は、素直に出してくれるかどうか・・・ですよね≫



あー、そうだよね。それがあった。回収されるというのは、七日間のルールを破るのと同じだもの。

つまり・・・回収される→CDを他の人に聴かせられない→身も毛もよだつ恐怖に襲われる→だから渡さない・・・となるわけである。CDに関する噂を信じている人間からすると、この状況だけは避けたいはず。



「その辺りの事も考えてこのルールも一緒に広めたんだろうね。・・・こうなってくると確かに、アルトアイゼンの言うように防護策にもならないかも知れないけど、やらないよりはマシだよ」

「唯世、だがそれだけでは足りぬ。あとは、根本的な解決策の構築が絶対に必要だ。それが出来なければ、こちらが圧し負けるのは時間の問題だろう。
恭文、アルトアイゼン、リイン。僕が思うにこの状況はお前達の本来の仕事に割り合い近いと思うのだが・・・どうだ?」

「そうだね、近い方だと思う」

「ならば聞く。こういう時、お前達やフェイトさん達なら、どう対処する」



そんなの決まってる。枝葉・・・CD一枚一枚に対処してどうにもならないなら、根っこを叩けばいい。



「ほしな歌唄と、その関係者を止める。CDを広めた奴も含めてだ」

「ここで取れる方法は、相手が行動を起こした時・・・もっと言うと、CDを聴いた人間を集めてたまごを回収する時に、とっ捕まえるです」

≪イースター本社に乗り込む・・・などと言う派手な手が使えない以上、これが確実だと思われます。一応、その腹積もりでフェイトさん達が探りを入れていますから、私達はいつでも動けます≫

「そうか、ならばそのままそれは継続だな。すまぬがフェイトさん達にもよろしく頼むと伝えておいてくれ。・・・唯世」

「うん、それでいこう。とにかく、まずはCDの回収だ。ガーディアンである僕達が積極的に動けば、学校中にCDが危険なものだって言う印象を生徒のみんなに与えることも出来るだろうし、絶対に無駄にはならない。みんなも、それでいい?」










・・・唯世の言葉に、全員が頷いた。





そう、海里も表情はさっきとあんまり変わってないけど、それでも頷いた。





そして、僕達がCD回収のために動き出したほんのちょっとの隙を突いて・・・海里は、姿を消した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どういうことだ?





聞いてない。





あのCDが×たまから造られてるなんて・・・聞いてないぞっ!!










「ムサシ、お前まさか・・・」

「拙者も知らなかった。・・・蒼凪殿達の話を聞いてから改めてCDの気配を探って、やっと気づいたくらいだ。すまん海里、このムサシ・・・一生の不覚だ」

「いや、いい。悪かった、ちょっと強く言いすぎた」

「構わん。それで海里・・・と、聞くまでもないな」





とにかく、隙を見つけて俺はみんなの輪から外れて、学校の外に出た。



そのまま電話をかける。相手は・・・あの人。





『・・・もしもり、海里? アンタどうしたのよ。今授業中でしょ?』

「すみません、ゆかり姉さん。急ぎ聞きたい事がありまして。・・・例のCDなのですが、どうやって作ったんですか? というより、どういうものなのでしょうか」

『例のCDって・・・おねだりCD? またどうしたのよ急に』

「いえ、よく考えたら詳細を全く聞いてなかったと思いまして。あと・・・俺が聴いても大丈夫なものなのかと」



とりあえず、適当なことを言っておく。・・・頼む、否定してくれ。あれは俺の動揺を引き出すためのものだと証明してくれ。



『あー、そう言えば話してなかったわね。とりあえず海里、アンタは聴いちゃだめよ? アンタのしゅごキャラに×が付いちゃうから。さすがにそれリサイクルはね〜』

「・・・どういうことでしょうか」

『あのCD、×たまをプレスして造ってるのよ。その効力で、中に入れた歌唄の歌を聴いた子達を好き勝手に出来るってわけ』



・・・無駄な願いだった。俺の願いは、簡単に否定された。

つまり、俺が広めたCDを聴いた子達はたまごを抜き出され、そのままそのたまごはエンブリオでなかった場合、またCDに・・・蒼凪さん達の話通りじゃないか。



「なぜ・・・こんな恐ろしいことを」

『なぜ? ・・・海里、アンタなに言ってるのよ。アンタの好きな合理的な方法ってやつでしょうが。使えるものは×たまだろうがCDだろうがなんでも使って勝つ。そうして私は勝ち組になるのよ。
てゆうかアンタ、まさかとは思うけどガーディアンの連中に影響されて、仲良しこよしが好きにでもなったの? 全く・・・そんなことでどうすんのよ。大体、こんなことしてる時点で、アンタはもうガーディアンの仲間でもなんでもないでしょ?』



その言葉が俺の胸を貫いた。そして、鋭い針・・・いや、言葉の杭は、俺の心に確かに穴を開けた。



『いい、海里。私達の目的は』



俺は電話を切った。もう聞きたくなかった。何も聞きたくなかったから。・・・俺は、なんてことを。なんてことをしてしまったんだ。



「海里・・・大丈夫か? お主、顔色が悪いぞ」

「いや、大丈夫だ。・・・とにかく、もう戻ろう。みんなに怪しまれて」

「悪いけど、もう怪しんでるよ」





後ろから声。その声に俺の身体がこわばる。そして、ゆっくりと振り返る。

すると、そこに居たのは・・・あぁ、もうだめか。

俺は、もう仲間では、なくなったんだ。いや、多分仲間ですらなかったんだ。



だって、俺はこの人を・・・この人達を裏切っていたんだから。





「・・・いつから、気づいてたんですか?」

「この間、あむと唯世とフェイトと一緒にガーディアンの買出しをした時から。海里、僕達のこと尾行してたよね。
・・・もうちょっと気配の消し方は上手くしておくもんだよ。あんな衣装だけじゃバレバレだって」





そこに居たのは、蒼凪さん。いや・・・俺の、敵だ。





「海里、とりあえず・・・僕とリインには全部バレてる。中々上手くやったようだけど、ちょっと僕達のことを甘く見すぎたね。
あむ達はともかく、僕もフェイトもリインもアルトも、基本的に人様を疑うのが仕事だ。二階堂の事があったにも関わらず、周囲のことを気にしないわけがないでしょうが」



えぇ、そのようですね。やはり、この手は危険札だったようです。



「・・・海里」

「えぇ、言いたい事は分かっています。だから、答えましょう」



俺は蒼凪さんの目を見据える。そして・・・全てをぶちまけた。



「おねだりCDを学校内に広めたのは俺です。そして、俺は・・・イースターのスパイですよ」










そのまま俺は走り去った。全速力で車道を突っ切り、車のクラクションや迫ってくる気配や急停止のブレーキの音など気にせずに、そのまま向こう側の歩道まで渡り切った。

・・・蒼凪さんが追いかけてくるかと思ったが、さすがに車道を突っ切ることは出来なかったらしい。なんとか撒く事が出来た。

そしてこの瞬間、俺の中で何かが砕けた。俺はもうきっと、真の侍になどなれない。そうだ、なれるはずがない。





だって、真の侍は、こんなことをするはずがないのだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・バカ野郎。話は最後まで聞けよ」





なんか事情があるなら力になるってのに、とっとと逃げやがって・・・。

つーか、普通に今のは危ないでしょうが。なんか車道が混乱状態だしさ。



・・・くそ、完全に見失ったし。でも、これで覚悟は決まった。





”そうですね。あの電話での会話の様子だと、海里さんはおねだりCDの正体を知らなかったと思われます”

”じゃないと、あの青い顔とかが繋がらないしね”

”そして、それをひどく後悔している様子も見受けられる。・・・どうします?”

”どうするもこうするも、決まってるでしょ”





あのまま放っておけない。こういう時はやっぱりアレだ。



いわゆる一つのリリカル式っ!!





”アルト、次に海里が出てきたら僕達で戦うよ。そして、魔王仕込みの『お話』だ”

”了解しました。さて、差し当たっては・・・”





とりあえず、聖夜小の中へと戻る。戻りながら頭を抱える。



そう、差し当たっては問題がまだあるから。





”差し当たっては、みんなへの説明・・・だよなぁ。うぅ、気が重い”

”まぁ、がんばりましょうか”

”そうだね”




















(第23話へ続く)






[*前へ][次へ#]

40/51ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!