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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第21話 『闇に閉ざされた願いとキセキ』



おばあ様に言われた事がある。強い人になりなさいと。





強く、優しく、立派な人になりなさいと。





小さい頃の僕は、それがどれだけ大変な事かも分からずに、頷いた。そんな直後だった。通っていた幼稚園で、同級生が喧嘩を始めた。

僕は・・・止めた。それが強く、優しく、立派な人のやるべきことだと思ったから。

でも、止められなかった。僕は弱くて、全然立派でもなかったから。





そのうちの一人に突き飛ばされて、転んだ。転んで、あるものをお尻で踏みつけてしまった。それは・・・花。

小さく、白い一輪の花。なんの関係も無かったのに、踏みつけて、壊した。それが・・・たまらなくショックだった。

最近、あの時の事をよく思い出す。





原因なら分かっている。エンブリオが中々見つからない事だ。

イースターの計画が進行していると思われるのに、それに対して全く対処が出来ないこと。

そして、僕よりも強くて優しい人達を見て、感じている。自分の力不足を。





僕は、思う。もしかしたら僕の願いは・・・エンブリオを手にしたいと思う願いは・・・叶えられないのではないかと。

そんなことない。そんなわけないと思う。いや、言い聞かせる。自分の心に、何度も言い聞かせる。

でも、耳をふさいでも、無理だと言う声がどこからか聞こえる。それが、とても怖い。





それがとても怖くて、仕方ない。僕は、王様になんてなれないと、自分で自分を否定しそうになる。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第21話 『闇に閉ざされた願いとキセキ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・クロノ、今いい?』





クラウディアの艦長室で、頭頂部の今後について頭を悩ませていると、通信が来た。それは、無限書庫のユーノ。



僕は通信を繋ぐ。そうして出てきたのは、そんな唐突な言葉だった。





「あぁ、大丈夫だ。それで・・・」

『うん。君から内緒で調べて欲しいと頼まれてた・・・しゅごキャラだっけ?
実際に見たって言うヴィヴィオにも手伝ってもらって、エンブリオもキーワードの一つとしてあれこれ文献を漁ってみたんだけど』

「どうだった」

『ごめん、具体的なものはなにも』





・・・やはりそうか。まぁ、ここは予想していた。やはり今回の一件、かなり特異性が高い上に、大事になる確証がない。

正直、優秀な執務官とそれが率いるチームを一つ、長期間本局の方から離れさせるだけの事なのかどうか、今でも判断に迷っている。

もう全員引き上げさせていいのではないかとさえ思っている。本局は平和でこそあるが、事件自体が0になったわけでもなんでもない。フェイトや恭文達の力を必要としている状況は、いくらでもある。



しかし、もしエンブリオが実在するなら、それが悪意ある人間の手に渡ればどうなるかは分からない。下手をすれば事は地球のみならず、次元世界にも及ぶ。

あと、未来から来た咲耶と恭太郎・・・恭文の孫だな。フェイトの話では、時の列車・デンライナーのオーナーは、よほどのことが無い限りはこんな形での時間移動は許さない人物と言う。

もしかしたら、僕の想像以上に事態は深刻かも知れないと、その判断を下すのにストップをかけている。



それになにより、エンブリオを狙っているイースター社の連中は勝手な理由で、子ども達の夢を、なりたい自分の姿を何度も奪い、壊している。

何があろうと、彼らにだけは渡すわけにはいかないだろう。もちろん、そう思うのには理由がある。・・・僕も子どもを持つ親の身だと言うのが、その理由だ。

その立場としては、今回の事はどうしても他人事のように思えない。もしも自分の子ども・・・カレルとリエラのたまごが奪われ、壊されたならと考えると、強い憤りさえ感じる。





『ただね、それらしい情報はいくつか出てきたよ』

「ほんとか?」

『うん。・・・守護霊とか精霊とか、言い方は様々だけどね。ただ、一貫しているのは、それが見えるのは、自らもその守護霊を持っている子ども達だけ。
もしくは、それに近い心を持った人や霊的なものを察知する能力に長けた人、本当に小さくて、まだ心のたまごが生まれていない子どもぐらい・・・という記述かな』



考えてみれば当然かも知れない。そのしゅごキャラというのは、さっきも言ったがなりたい自分だ。

それに世界どうこうなど、きっと関係ないのだろう。心に夢を描く者が居るところには、きっと必ずたまごが・・・しゅごキャラが居る。



「では、それを・・・しゅごキャラを我々の技術で視認する方法や、×たまの浄化が出来る魔法などは」





ユーノには、その辺りも調べて欲しいと頼んでいた。それが出来れば、一気に戦力が増える。

現状、×たま狩りに参加しているのは、魔導師組ではたまごを浄化出来る恭文と、恭文とユニゾン出来るリインだけだ。フェイトやランスター補佐官は動けない。



・・・場合によっては、覚悟も決めなければならないだろうが、ガーディアンの面々の中にたまごの浄化能力を持った人間が居ることを考えると、その覚悟は必須というわけではないだろう。





『全くない。クロノやヴィヴィオの話を聞く限り、たまごに対処できるのはやっぱりキャラもちの子だけだと思うな。浄化に関しても、みんながみんな出来るわけじゃないんだよね?』



僕はユーノの言葉に頷きで答えた。フェイト達からの報告ではそうなる。しゅごキャラの力を120%引き出せるというキャラなりも、全員出来るわけではない。

現状で出来るのは、ジョーカー・・・日奈森あむと新Qの真城りま。旧Jの相馬空海の三人だけだ。そして、そのうち浄化能力を有しているのは日奈森あむだけ。



『やっぱりさ、現状でキャラ持ちでもなんでもないのに対処出来ている恭文君がおかしいんだよ。それにその原因に関しては、まだわかってないんだよね』

「あぁ。サリエルさんとヒロリスさんにも協力してもらって色々調べてはみたが、さっぱりだ。こうなってくると、やはりサリエルさんが言った話だろうか」

『恭文君のしゅごキャラが、なんらかの方法で力を貸してくれているから・・・だね』

「そうだ」



・・・出来れば、フェイトやランスター補佐官にも力を貸してくれるとありがたいが。



『難しいでしょ、それはさ。仮に居たとして、宿主である恭文君にも間接的にしか干渉していないんだから』










・・・・・・事件が不透明な状況は未だ変わらず。まるで宝探しでもしている気分だ。





子どもも大人も、あるかどうかも分からないエンブリオに振り回されまくっている。





なかなかに、笑えないジョークだ。










『・・・ね、そう言えばそろそろじゃなかった?』

「何がだ?」

『ほら、あの子が海上隔離施設から、恭文君の所に行くの』

「あぁ・・・それなら今日だ。・・・僕はアイツが保護責任者が務まるかどうか、今さらながら不安で仕方ない」

『あ、それはヒドいなぁ』





だが、心からの感想だ。まぁ、同時に大きくなったとも思うが。そして、変わっていっている。

前のアイツだったら・・・『自分の世話だけで精一杯』などと言って、あの子の願いを断っていただろう。

本当に少しずつかも知れないが、変わらず、変わり続ける道を歩んでいる証拠なのかと、少し嬉しくなる。



・・・母さん、不安はあるかも知れません。ですが、信じてみましょう。我が家の末っ子は、僕達と同じではないでしょうが、それでも自分の道を進んでいますから。





『でも、楽しみだね』

「・・・そうだな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・僕とフェイトは、久々にミッドの方に戻って来ていた。ただ、残念ながら今回は寄り道無しだったりする。





状況が状況だけに、ここは仕方ないのだ。なので、目的を果たしてパパっと戻ることにしよう。









『・・・なぎ君、仕事はどう?』

「うーん、苦戦しまくってるね。これが中々大変でさ」

『そっか。私も・・・結構大変。というか、ごめんね。そっちに行けなくて。うぅ、緊急で事件が無ければ』

「仕事だもの、仕方ないでしょ」





なんて会話をギンガさんとしてたりもする。でも、なんだか嬉しいな。



まぁ、色々ありましたので。





『あの、フェイトさん』

「・・・うん」

『なぎ君のこと、お願いします。・・・まだ、ちょっとだけ恋しているので、やっぱり心配は心配なんです』



・・・・・・はいっ!? なんでそうなるっ!!



『なぎ君分かってないなぁ。新しい恋愛に向かうまでは、それまでの人の事は好きなままなんだから。なぎ君は失恋した事ないからわからないのは無理ないけど』

「うぅ・・・」

『・・・ごめん、いじめすぎちゃったね。とにかく、フェイトさん。なぎ君もそうですけど、ディードのこともお願いします』

「うん。私の四人目の補佐官になるし、そこは任せて欲しいな。あ、ギンガも事件捜査頑張ってね」

『はい。それじゃあなぎ君、またね』





なんて言って、通信を終える。



なんだろう、心にグサっと来た。それはもうグサっと。





「大丈夫だよ。ギンガ、気にしてないんだから」

「そう・・・なのかなぁ」

「スバルやナカジマ三佐の話だとそうだよ? ・・・でも」



・・・でも?



「ギンガと付き合っても、ヤスフミはきっと幸せになれるとは思うんだ。・・・ほら、去年に」





うん、会ったね。向こうは凄まじく頭抱えてたけど。考えてみれば当然だよね。

だって、向こうからしたら僕は悲願を達成したルートなわけだし。

・・・・・・あぁ、そう言えば向こうのギンガさんの視線が異常に怖かったのと、それをとても気にしていたのをよく覚えているよ。



向こうの僕、生きてるかな? あれは明らかに死亡フラグだと思うんだけど。





≪話を聞く限り、一応付き合ってはいたようですが、それだって向こうのフェイトさんにちゃんとノーと答えをもらってからではありませんし・・・。
告白が結局通じなかった事で残っていると思われるフェイトさんへの未練を吹っ切れなければ、ドボンですね≫

「・・・やっぱり?」

≪はい。別世界にしろ、ギンガさんがそのままの状態に耐えられるとは思えません。意外と独占欲が強い方ですし≫

「そうだよね、間違いなくそうだよね。『悲しみの向こうへ』が流れちゃうよね」

≪流れますね。どう考えても、その可能性は非常に高いです。あなた、無駄に一途ですし≫





そうだよねぇ。吹っ切れる自信、ゼロなんだよね。まぁ、結局いつも通りに全部抱えて突っ走るしかないんだろうけどさ。





「・・・そうなの? 私は見ていて幸せそうだなって思ったんだけど」

「フェイト、それは一度眼科に行った方がいいよ。あのギリギリなバランスを見てそう思うのは絶対何かの病気だって」

「そこまでなのっ!?」

≪そこまででしたよ。私はあの後どうなったか非常に気になるところなんですから≫





まぁ、そこはともかく・・・うん、ともかくなんだよ。



向こうの僕がつや消し瞳のギンガさんに泣かれていないことを祈るしか出来ないんだし、そこはもういい。大事な事は、もっと別にある。





「僕は・・・ほら、ここではフェイトを選んでるから。ギンガさんとの可能性はいいよ。というより、可能性があった方がフェイトはいいの?」

「お姉さんだったら、いいと思ってた。でも・・・今は恋人だから、無い方がありがたいかな」

「なら、よろしい」










現在居るのは、皆様お馴染み海上隔離施設。そして、そこで僕とフェイトが会うのは・・・一人の女の子。





関係者用の出入り口でしばらく待つと、その子は・・・出てきた。ジーンズ生地のジャケットとスカート。黒のインナーを着て、頭に白いヘッドバンドをつけている女の子が。










「・・・恭文さん、フェイトお嬢様。お待たせしました」

「ううん。・・・ディード、おめでと」

「ありがとう・・・ございます」





その子は、嬉しさと恥ずかしさが混じった微笑む。・・・そう、ディードだ。

ナンバーズの一人としてJS事件で大暴れしたディードは、本日晴れて更正プログラムを終了。

外の世界で生きることになったんだけど、誰が身元引受人になるかで色々揉めて・・・ディードは、僕が保護責任者として預かることに・・・やばい、なんかすっごい不安になってきた。



てゆうか、本当に僕でいいのかな。その、あの・・・いいの?





「以前お話した通りですよ。私は、恭文さんの元で色々なことを学んでみたいです。
チンク姉様達やオットーにも納得してもらいました。あと・・・保護責任者や、親とか、そういうのであまり気構え無いで欲しいです」



微笑が深くなる。ちょっとだけドキっとするのは、こう・・・どこか通じ合うものがあったせいだと思う。



「私は、現地妻5号として、恭文さんのお世話を出来ればいいと思っていますから。朝から晩まで、ご奉仕させていただきます」

「ディード・・・」



・・・とりあえず、ディードのホッペに両手を伸ばし・・・むにーと引っ張った。



「だから・・・その現地妻ってのはやめろって言ってるでしょっ!? お願いだからシャマルさんの影響を受けないでっ!!」

「ひゃ・・・ひゃひほふうんへふ。ひょうはんへふ、ひょうはんへふはは」

「全然冗談に聞こえなかったよっ! てゆうか、すっごく怖かったしっ!! いや、怖いっ! フェイトの目が現在進行形で怖いっ!!」

≪よく言っている事がわかりますね・・・≫



お願いだからそのつや消しの目で僕達を見るのはやめてー! 何も無いからっ!! 全然何も無いからねっ!?



「フェイトお嬢様、安心してください。あくまでも、私が恭文さんをお慕いしているのは兄としてですから」

「ごめん、全然安心できないよ」

「なぜですかっ!?」



こう言えばきっと納得してくれると思っていたのか、ディードが驚きの声を上げる。というより、きっと本心からの声だったので、それが否定されるとは思っていなかったらしい。

ちなみに、ディードは僕に対して兄として好きというのは結構よく言っている。それはもう盛大に。



「だって・・・実の妹でも、お兄ちゃんを好きになるんだよ? 押し倒して、みんなの前でディープキスしたりするんだよ?」

「・・・・・・それはご自身の経験でしょうか。もっと言うとクロノ提督と」

「違うよっ! 実際にそういうの見たのっ!! それもつい最近っ!!」



あぁ、ほしな歌唄と月詠幾斗か。そうだね、あれも衝撃的・・・。しかし、気になるな。

歌唄がおかしいって、どういう意味なんだろ。あのディープキスな奇行の事ではないらしいし。



「とにかく・・・フェイトお嬢様という恋人が居る以上、私はそれを邪魔するつもりはありません。恭文さんが幸せであってくれることが私の願いですから」

「それだけ、好き・・・なんだよね」

「はい」



や、やばい。満面の笑みで言い切ったディードを見ていると、なんかここから逃げろと危険信号が・・・。

でもでも、逃げたらさらにやばいという声もする。これ、どうすればいいの?



「・・・ヤスフミ」

「な、なんでしょうか」

「もしも『ヤスフミ×私+リイン+ディード』になっても、ヤスフミが本気だったら私は大丈夫だよ。私はヤスフミが好き。その気持ち、変わらないから。
でも、その場合は覚悟が必要だよ? 三人の女の子を幸せにするって、本当に大変で」

「なんの勘違いしてるっ!? そんなことしないからっ! 絶対しないからー!!」










・・・とにかく、色々先行き不安になりつつも、ディードを引き取って・・・僕達は地球に戻ることになった。





どうしよう。真面目に四人体制になったら・・・いやいや、意思を持て。意思を強く持て。

そんなことにはならない。なるはずないから。僕はフェイト一筋・・・なのかなぁ。

よく考えたらリインがプラスされる時点で一筋じゃないのかも。なんか三人体制に慣れてきてるし。





・・・あぁ、ダメだダメだ。それはそれ、コレはコレなんだから。

なによりそんなことのためにディードを引き取るって決めたわけじゃないし。

うん、絶対違う。僕は・・・手伝いをしたいんだ。





あの時ディードに言った言葉を、ディードは信じて、通そうとしてくれている。だから、約束した。

僕もその言葉を投げかけた人間としての責任を通す。

一緒に自分なりの幸せの形を探して・・・過去を理由に、何も諦めたりしないで、手を伸ばしてそれを掴んでいこうねって、そう約束したんだから。





・・・・・・あぁ、でもどうしよー! やっぱり先行き不安なんですけどー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・どうしよ、ディード。ヤスフミがすごく考え出しちゃったんだけど」

「恭文さんをからかうのは楽しいですが、ついついやり過ぎてしまいそうになるのが難点ですね」

「うん、そうだね」



・・・当然、さっきのやりとりはフェイトお嬢様と一緒に恭文さんをからかったもの。互いに本気ではない。

そうでなければ、フェイトお嬢様の前であんなことを言ったりはしない。いや、前でなくても言わないけど。



「・・・でもディード、もし本気なら」



冗談が通用しないのは、どうやらフェイトお嬢様も同じらしい。目が真剣だもの。

とりあえず、私もそれに対して同じように答えていくことにする。きっと、必要だから。



「フェイトお嬢様、私・・・正直に言えば、恭文さんが好きです」

「うん・・・」

「ただ、そこには条件が付きます」



フェイトお嬢様の顔に疑問が浮かぶ。私はそのまま、言葉を続ける。



「恭文さんの笑顔が、幸せそうな顔が・・・。あなたの側に居て、あなたの騎士として居る時の恭文さんが、好きなんです。ですから、それを私の手で壊すようなことは、出来ません」

「ディード・・・」

「それになにより」

「なにより・・・?」





そう、なにより・・・。



私は、笑顔とともにその言葉を目の前の人に届ける。





「私は、フェイトお嬢様が恭文さんと一緒に居る時の笑顔と、幸せそうな顔も好きですから。これも同じように、私の手で壊したくはありません」





たまにメールで写真付きで送ってもらう。どこへ行ったとか、何を見てきたとか。

その時に映っているフェイトお嬢様の表情が、私達に面会に来た時とはまた違う表情だった。

そして、それがとても素敵だと思った。いつか私も、こんな風に笑えたらとそう思った。



だから、なのかも知れない。恭文さんの・・・私の兄と、その大事な人の笑顔と幸せを守れたらと、思ったのは。

そのために、この私より小さくて、細くて、だけどとても強い人の所に行きたいと思った。・・・恭文さんは、私にとって変わるきっかけを与えてくれた人。

奇麗事かも知れない。だけど、過去を理由に諦めなくてもいいんだと、思えるようになったのは、恭文さんのおかげだから。



それがきっと、私の見つけた幸せの一つ。絶対に諦めたくなんて無い願いの一つ。





「・・・そっか。ディード、あの・・・ありがと」

「いいえ。フェイトお嬢様、これからよろしくお願いします」

「うん、よろしく。さて、話はまとまったけど、とりあえず・・・」



そうですね、とりあえず・・・。



「やっぱりディードとちゃんと話す必要あるのかな。でも、報告は・・・いやいや、そういうの関係ないって、フェイトと付き合ってからいやになるくらいに分かったし」

≪あなた、心の声が出ていますよ? 声になっていますよ? みんなに聞かれていますよ?≫

「恭文さんの勘違いを戻す事からでしょうか」

「そうだね。まずそこからだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、その後は・・・もうすごかった。全員で宴会だもの。それもオール。





まぁ、ディードが恭太郎や咲耶の存在を受け入れてくれたのは嬉しかった。未来の事とかも話したんだけどねぇ。





あぁ、それと・・・もう一つ問題があった。










「・・・ディード、もう一度確認するよ。本当にエルが見えるの?」

「はい」

「えっと・・・恭文さん、このナイスバディなお姉さんはどちらさまですか?」

「えっと、ディードって言って僕の友達・・・というより、今日から晴れて妹になった」

「どういう不思議事態をクリアしたらそうなるのですか・・・」





そう、エルの事が普通に見えていた。今興味深くエルの事を見ているのだ。それも凝視。



とにかく・・・事情を説明する。あと、僕やフェイトが置かれている現状も。





「・・・恭文さん、小学生・・・スバルの言っていた事は本当だったのですね」



あのKY豆芝・・・やっぱりバラしてやがった。いや、予想してたけど。

ディードを引き取る時のチンクさんにディエチにウェンディにノーヴェの、優しい慰めるような視線が全てを物語ってたけど。



「でも、どうしてディードさんがしゅごキャラ見えるんだよ。キャラもちってわけでも無いしよ」

「・・・あー、恭太郎。ディードだけじゃないよ」

「シャーリーさん?」

「いや、今日からなんだけど・・・なんか、私も見えてる」



そう苦笑いしながら言ったのは・・・シャーリーだった。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「シャーリー、それ本当?」

「はい、フェイトさん。いやぁ、なんかこう・・・毎日暮らしているうちにあそこに居るあそこに居るって思ってたら、なんか見えるように・・・」



そ、そんなんで見えるんかい。まぁ、シャーリー以外の人間が色々話しかけてたりしたから、ここは当然・・・なのかな。

でも、それならディードはなんで? 恭太郎の言うように、キャラ持ちってわけでもないだろうし。



「もしかしたら、ディードは生まれてからそれほど経ってないせいかも知れないよ? つまり・・・」

「心のたまごが生まれていない子どもの状態と同じって事?」





シャーリーが僕の言葉に頷いた。・・・以前、あむ達と会ったばかりの頃、こういう説明を受けていた。

キャラ持ち以外でしゅごキャラが見える場合があるという話の中で、その話が出た。

まだ本当に生まれてから5年とか6年とか経っていない、自分のこころの中にたまごが生まれていない子どもも、しゅごキャラが見えると。



なんでも、あむの妹が丁度そんな状態らしい。





「・・・やはり、恭文さんの所に来て正解でした」

「そう?」

「はい。このような不思議な存在を見る事が出来たのですから」










ディードが嬉しそうに言ってくれたので、ちょっと気が楽になった。しかし・・・過剰戦力だよなぁ。たまご壊すのが基本NGって話が無かったら、過剰戦力もいいとこだって。





ただ、そう思ったのはこの時だけだった。





後々、この過剰戦力状態に助けられていくのは・・・お約束?










「・・・おじいさま、そのナレーションはイミフです」

「そうだね、おのれが凄まじい勢いでご飯を食べているのと同じくらいにイミフだね」

「あら、食は全ての基本ですわ。恭さまも、こんな私が素敵だと」

「言ってねぇよ。つーか、お前は食い過ぎだから自重しろ。俺はじいちゃんとフェイトさん達に申し訳なくて申し訳なくて仕方ないんだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにもかくにも、翌日の放課後。ガーディアン会議の最中、ある物の話が出た。





それが、停滞していた事態を一気に動かすカードになった。










「・・・眠いです」

「リインちゃん、授業中もうとうとしてたもんねー。大丈夫?」

「はい、なんとか。徹夜で現場に出向くことも多かったですから、まだ大丈夫です」



あぁ、あるねぇ。犯罪ってこっちの空気を全く読まないから、普通に深夜に出動とかかかる時もあるし。



「でもでも、動いているとまだ大丈夫なんですけど、授業中は危ないです。もうお日様のぽかぽかが優しくて、暖かくて、だけど辛くて・・・」

「おーい、寝るなー! 瞼を閉じるなー! 起きろー!!」

「いやいや、それは恭文が言えた義理じゃないじゃん。寝てて二階堂先生に起こされたし」

「・・・言うな。りまが盾にならなかったのがいけないんだ」

「恭文、喧嘩売ってるなら買うわよ? それは私が小さくて自分が寝ているのが丸見えだったと言いたいのかしら」





気にしないで。さすがに本気で言ってないから。



しかし、あんなハイテンションで騒いだの久々だったなぁ。おかげで色々な心配事を一時的にでも頭から追い出せたよ。





「そう言えば恭文、二階堂先生とお昼休みに話してたみたいだけど、どうしたの?」



あむが紅茶を飲みながら聞いてきた。てゆうか、見られてたんかい。

そして、海里の表情を見る。僅かだけど、眉が動いた。



「てゆうか、普通に仲良しだよねー。やや達が見てると、結構話してる事多いみたいだし」

「どうやら恭文さんと二階堂先生は、気が合うらしいのです」

≪性悪同士、引き合うものがあるんですよ≫



失礼な。僕はアレほど性格悪くない。



「向こうもそう思ってるよ? 間違いなくね」

≪こういうところからも似てるんですよ。・・・まぁ、うちのマスターと二階堂の友情に関してはいいとして≫



何を言うか。僕はアレと友達になった覚えは無い。



≪向こうも同じ事を思っていますよ、多分。それでややさん、何の話でしたっけ?≫

「あ、そうだそうだ。えっとね・・・おねだりCDって聞いた事無い?」



・・・おねだりCD? なんですか、その怪しいネーミングのものは。



「リイン、覚えあるです」



だけど、リインには覚えがあったようだ。目が少し見開いたもの。



「学校中で噂になってきてるアレですよね」

「そそ」

「リイン、それどんなのなの?」

「えっと、そのCDを聞くと、欲しいものがなんでも手に入るというものです」



なんですか、それは。ネーミングだけじゃなくて、内容も怪しいし。



「それっていわゆる都市伝説ってやつ? なんかおもしろそー」

「ちょっと聞いてみたいかも・・・」



まぁ、あむとりまは食いついたけど。ただ、甘い。二人とも甘い。

こういうのは落とし穴が付いてるのよ。



「た〜だ〜し〜〜〜〜〜!!」

「わぁっ!!」



ややがお化けのポーズを取って、『うらめしやー』と言いたげな顔であむに近づく。

あぁ、やっぱりかぁ。やっぱりなんだ。



「七日以内に他の人にも聞かせないと〜いけないの〜。さもないと〜〜〜」

「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ! なにっ!? その怖い話的な前フリはっ!!」

「身の毛もよだつ不幸が〜〜〜」

「だからやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



・・・あむ、本当に怖いのダメなんだ。この間の幽霊屋敷の時も全然ダメだったし。

うーん、からかい甲斐があるなぁ(鬼)。



「でも、気になるなぁ」

「あ、恭文もこういう話好きなの?」

「好きというか・・・こういうのが事件の前兆だったりするのよ」



フェイトと執務官の仕事で捜査する時、こういう話がきっかけで真相が分かったりするのよ。

というか、巻き込まれて一気に事件解決して、みんなから報告書を書くのが楽とかそういう感謝をされたり・・・。



「巻き込まれて・・・」

≪どうしました?≫





やばい、なんかすっごく嫌な予感がする。こういう話をしている時、たいていソレに巻き込まれるのは、いつもなら僕。

だけど、今回はそうはいかない。だって、僕以外で、そういう風な展開に慣れてそうなのが一名居るから。

まずい、どんどん不安が強くなってる。『さすがにそれは・・・』と頭の中で否定しても、無意味。



だって、どんどんそれが不安の色で上書きされていくから。





「ごめん、ちょっと電話してくる」

「え、恭文っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、俺に電話をかけてきたと』

「まぁね。で、どうよ」

『いや、どうよって・・・あのさ、じいちゃん。その前にこうなんかおかしいとか思わないか?』

「あはははははは、嫌だなぁ恭太郎。僕の運の悪さは良太郎さん超えてるって言われたくらいなのよ? 恭太郎も同じレベルなら、問題無いでしょうが」

『ま、まぁ・・・なぁ。じいちゃん、お願いだから泣くのやめてくれよ。いや、俺も泣きたいんだよ。マジそこは泣いてしまいたいんだよ』





僕が電話をしたのは、恭太郎。・・・我が孫であり、僕の負の遺産を思いっきり受け継いでいるという子。



正直、ここは何も引いて欲しくない。何にも無かったという返事が欲しかった。だけど、世の中と言うのはやっぱり無情なものらしい。





『なんつうか、グッドタイミングだったな。おねだりCDかどうかは知らないが、丁度CDをもらったところだ』





・・・マジかい。





『マジだ』





会議を一旦抜けさせてもらって、校舎の裏手・・・人気のないところで、頭を抱えた。さすがは僕の孫。色々とおかしい。



やっぱり、運の悪さも受け継がれてるんだ。うぅ、ごめんよ恭太郎。身長とそこだけは似なくてよかったのにさ。





『ただよ、なんかおかしいんだ』

「どういうこと?」

『いや、俺とディードさんで食料品の買出ししてた時にそのCDもらったんだけどさ・・・』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・何が欲しいの? 何を求めるの』





声が聞こえた。その声は機械を通して加工されているようだったけど、歌声が綺麗だというのが1番の印象だった。





「綺麗な・・・歌声」




ディードさんがつぶやきながら、フラフラをその歌声をスピーカーで流している黒いバンへと近づく。



いや、俺もだ。思考が・・・上手く働かない。





『集めた輝き その手の平に・・・』





黒ずくめでサングラスをかけたギター持ちが二人。その二人に挟まれるように、同じような格好をした歌ってるのが一人。





『全てすくい取る・・・』





なんだろう、これ・・・この声に、惹かれる。もっとこの曲を聴きたいと思ってしまう。





「はーい、現在プロモーション中でーすっ! 無料でCDを配布していまーすっ!!」





だから、俺とディードさんはそちらへ行く。だって、この歌を聴きたいから。聴かなきゃいけないから。





”・・・恭太郎、ディードさん”





だから、手を伸ばす。伸ばして・・・





”恭太郎っ! ディードさんっ!! しっかりしてくださいっ!!”





耳を劈くような大きな声に、俺達は二人揃って空いた手で頭を押さえる。



な、なんだ・・・つーか、ビルトっ! うるさいよっ!!





”うるさくしなければ、このままだったじゃないですか。あなた達、どうしたんですか?”





どうしたって・・・あれ、なんだろう。気分が軽い。さっきまで感じてたもやみたいなのが・・・あ、また来た。





”・・・ディードさん、大丈夫っすか?”

”あまり・・・よくはありません。頭の中がもやもやして、ボーっとしてきます。すぐにこの場から離れたいです”





戦闘機人で俺より身体強いはずのディードさんでもこれかよ。・・・こりゃ、ディードさんの言うように離れた方がよさそうだな。

つーか、あの大声のおかげで動き出した思考が、ここから離れろって危険信号出しまくってる。俺一人ならともかく、ディードさんも居る以上、無茶は出来ねぇ。

うし、今すぐに離れよう。またビルトに怒鳴られる前にだ。てか、なんかまた頭がボーっと・・・。



でも、その前に・・・。





「あー、すいません。俺にもCDください」

「あと、私にもお願いします」

「あ、はいっ! どうぞー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・で、それからすぐにその場から離れたんだけどよ。やっぱ改めて二人で考えるとおかしいんだよ。
俺達二人とも、まるで精神操作されたみたいにあの歌をもっと聴きたいって考えちゃってさ。いや、俺達だけじゃないな。多分あの歌を聴いた人達全員だ』



まさかディードまで巻き込まれそうになったとは・・・。ちなみに、そう思う根拠は?



『そこから急いで離れながら、集まっていた連中の表情を見たんだよ。なんかこう・・・どいつもこいつも心ここにあらずって状態でよ。
そのスタッフの人間がCDを無料で配るっつたら、まるで砂糖に群がるアリの如く集っていたんだよ。端から見ると、俺とディードさんも同じ状態だったろうな』

「・・・・・・そう。それで、今はもう大丈夫なの? 蟻さんな心境は抜け出せた?」

『あぁ、ビルトが喝入れてくれたおかげでな。ディードさんも同じくだ』



・・・よかった。来て早々何かあったらどうしようかと思ってたもの。



『悪い、じいちゃん。俺が居ながら、ディードさんを危険に晒すとこだった』

「ううん、むしろ助かったくらいだよ。恭太郎にビルトビルガーが居なかったら、ディードはどうなってたかわかんなかったし」

『・・・ありがと。そう言ってもらえると気が楽になるよ』



でも、歌を聴いていて、それで精神操作・・・。

なんだろ、これ。どうして歌唄の事思い出すんだろ。



≪何か引っかかりますね。恭太郎、ちなみにその歌手が誰かとかは≫

『悪い、分からねぇ。顔もサングラスかけた上に帽子を目深にかぶって隠してたから、女ってことくらいしか分からなかった。なにより声が加工してあったから』

『おじい様、古鉄師匠、失礼します』



その声は・・・ビルトビルガー。またいきなりどうしたの?



『いえ、一応その加工をキャンセル出来ないかと思ってあれこれしてみたんですけど、無理なようなんです。どこかちゃんとした設備があれば・・・』

「・・・そっか。でも、CD本体はあるんだよね。あと、それならその時の歌の音源も」

『それは大丈夫です。CDの方も、恭太郎とディードさんで二枚ありますから』



なら、やることは決まってくるかな。



「恭太郎、ビルトビルガー」

『あぁ、俺も同じ事考えてた。このCDと音源の解析。で、あの歌手が誰かを調べる・・・だよな』

「そうだよ。家でお菓子食べてるであろうシャーリーなり使っていいから、早急にそれの正体を調べて」



CDを調べれば、恭太郎とディードが精神操作されかけた理由も分かるかも知れない。音源の加工をキャンセル化出来れば、歌っている人間もきっと特定できる。

ただし・・・。



『大丈夫、聴いてどうなるか分からないから、そこは気をつけろ・・・でしょ? 特にCDの方だ』

「分かってるならよろしい。いや、出来る孫を持っておじいちゃんは幸せだよ〜」

『そうだろそうだろ。じいちゃんは家族関係に恵まれてるって〜』










なんて冗談を言い合った後、とにかく恭太郎とシャーリーに咲耶は本局の設備でこのCDを解析することになった。あ、フェイトとディードは家でお留守番だね。





でも、おねだりCDか。歌・・・CD・・・プロモーションのためのゲリラライブ・・・。





もしかして、当たり引いた?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それじゃあフェイトさん。行って来ます」

「うん。設備の方は大丈夫なんだよね?」

「はい。マリーさんに空いているラボを貸してもらえるようにお願いしてますから」



そうして、私は見る。恭太郎が手に持ったCDを。黒の下地に白で×が大きく書かれている。その表面には英語表記で『BLACK DIAMOND』の文字。

ふと、こっちに落ちたかも知れないというロストロギアの事を思い出す。そう言えば、同じ名前だった。



「フェイトさま、ディードさま、夕飯の下ごしらえは済んでおりますので」

「はい。あとは任せてください。・・・咲耶も、気をつけて」

「ありがとうございます」



もしかしたら、このCDが何かの突破口になるのではないかと、そう思っている。・・・出来れば、これが別の事件の始まりとかじゃないと嬉しいかな。

だめだ、この考えはだめだ。どう考えても事件フラグだもの。ヤスフミに教えてもらったトラブルが起きる要因だもの。自重しなきゃ。



「うーん・・・」

「・・・エル、どうしたんだ?」

「いえ、こう・・・妙な気配がするのです」



妙な気配? えっと、それって家の中でってことかな。



「はいです。この中に妙な気配が・・・」



そう言いながら、部屋の中をバサバサと羽を羽ばたかせながら飛び回る。

・・・あぁ、あんまりスピード出すと、また壁にぶつかっちゃうよ?



「てーかさ、バサバサって絶対天使キャラの翼を羽ばたかせる音じゃないよな。ちょっとリアル過ぎだって」

「恭さま、今更ですわ。とにかくフェイトさま、行って来ます」

「うん、気をつけてね」



そのまま、恭太郎達はうちのリビングの隅に備え付けている簡易型の転送ポートに乗った。

そこに魔法陣が浮かび、その光が強くなり・・・。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



エルちゃんが、大声を上げて・・・そのまま恭太郎達へと突進した。

そして、そのまま飛ばされた。



「・・・フェイトさん。あの、エルが」

「う、うん」

「「本局に飛ばされたっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はわわ・・・。ここはどこですか? この近未来的な建物はなんですか?
・・・きゃー、空が幾何学模様ですっ! エルはどうしてこんなところにー!!」

「バカっ! お前が転送中にここに飛び込むからだろうがっ!!」

≪なんというか、凄まじくKYですね≫



今更だ。てか、これを生んだほしな歌唄ってどんだけだよ。これにどうやってなるつもりなんだ?

あぁ・・・でも失敗した。魔法の事とか管理局の事とか、それとなく隠しておいてたってのに。



「でもどうしよう。うちに帰すにしても、転送ポートの順番もあるし、すぐには無理だよ」

「こうなったら、説明するしかないのでは? これで騒がれて、万が一局員の中にこの子を見る事が出来る人間が居ては、面倒ですわ」

「それしかない・・・よなぁ。つーかエル、お前なんでいきなり飛び込んできたんだよ」

「・・・はっ! そうですっ!! こんなことをしている場合じゃなかったですっ!!」



そう言って、またバサバサと翼を羽ばたかせて、俺が持ったCDにくっついた。



「恭太郎っ! このケースを開けるですっ!!」

「はぁ?」

「いいから早くするですっ!!」



・・・俺はわけがわからないが、言われた通りにCDを入れてあった透明なケース・・・ほら、百円ショップとかに売ってるやつだよ。

とにかく、それを開けるとエルがそれに手を当てて、目を閉じ・・・てるのかどうかわかんねぇしっ! あぁそうさっ!! こう・・・感じる雰囲気だけで言ってるけど何かっ!?



「・・・嘘です」

「エルさま?」

「こんなの・・・嘘です」



エルの顔が俺達が見た事のないほどに青くなる。

・・・まぁ、その影で視線を集めまくってるんだけどな。いや、真面目にエルが見えてないから変な連中に見えるんだろ。



「エル、落ち着いて? 何が変なのかな」

「ほ、本当に少しだけなんです。でもでも、エルは確かに感じるんです。このCDの中に・・・」










CDの・・・中に?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・それから僕はすぐに戻って、会議は終わった。あと、例のCDに関しての報告をして・・・海里の反応は、普通だったけど。

まさか、あれがおねだりCD・・・とか? いやいや、さすがにそれは・・・ありえるかも知れないと思ったので、一応そういう形で話はした。

理由? これまでの日常からの学習ですが何か問題でも?





とにかく、なんか妙なところがあるから、もし手に入れても絶対に聴かないようにと念を押した。

ややが友達経由で貸してもらう予定だったというのを聞いて、かなりビビったけど。

いやぁ、そこはいいとして、途中退席して・・・ごめんなさい。





右隣を歩くソウルパートナー(リイン)はともかく、左隣を歩く7歳近く年下の女の子(あむ)に頭が上がらない感じを覚えるのは、なぜだろう。というか、キャロの姿が見える。










「別にいいよ。特に問題も無い感じだしね。・・・でも、家族増えたんだ」

「うん。こう・・・こそばいいというか、背中がいい感じに重いというか」

「重いの?」

「重いねぇ。保護責任者としての責任とか、先の事も引き受けたのとか、これからはもう他人事では済ませられないなぁとか、色々」

「まぁ、簡単ではないですよね。こういうのは、やっぱり色々大変です」



ただ・・・なんだよね。

それだけじゃない。僕が背中に背負っているのは、そういう責任の重さだけじゃない。



「むちゃくちゃ大事なものは、それと同じくらいにむちゃくちゃ重いものだって、相場が決まってるしね。まぁ、なんとかやってく」

「そっか・・・。ね、その人ディードさん・・・だっけ?」



一応、唯世やあむには話してある。いや、引き取りに行くのに学校とガーディアンの活動を休まないといけなかったからさ。



「この間話してくれたアンタの親戚と一緒に、ちゃんと紹介してよ? 今は色々ゴタゴタしてるみたいだから、遠慮しておくけど」

「もちろん。ディードも話を聞いて、みんなに会いたがってるからさ。・・・色々事情のある子なんだけど、仲良くしてくれると非常に助かる」

「わかった、その時は任せといて。ガーディアンメンバー総出で歓迎するからさ」

「あむさん、ありがとうですー♪」





胸を張ってそう言い切ったあむに、言いようのない感謝の気持ちを覚える。

・・・いや、真面目に感謝だよ。僕のこととか魔法のこととか、そういうのも含めて友達やってくれてるんだからさ。

だけど、フラグは立ててない。ここは断固として否定する。僕はあむのフラグなんて絶対に立ててないから。



とにかく、下校時間なので三人で校門目指して歩いていると・・・一つの影を見つけた。



ボーっと考え事をしながら歩いているその影に、僕とあむにリインは声をかける。





「唯世」

「・・・あ、みんな。どうしたの・・・って、聞くまでもないよね」

「確かに。・・・唯世くんも帰り?」

「うん」



そのまま、四人で歩き出す。だけど・・・ちょっと気になってた。

多分、リインも同じ。



「・・・唯世さん、何かあったですか?」

「え?」

「なんだか、落ち込んでるように見えます」



そう、唯世の様子がおかしいように見える。だから、こんな事を聞く。



「いや、そんなことはないよ?」

「でもでも、校門はこっちじゃないです。歩いている時も俯いて、心ここにあらずな感じでしたし・・・」

「う・・・」



そう、校門は少なくとも唯世が目指していた方角にはない。なお、それだけではない。

会議中も全く発言しないでボーっとしてたしね。なんか、あったのかな。・・・まさか、この間のアレを相当気にしてるとか。



「ね、唯世くん。リインちゃんの言うように何かあるなら・・・聞くよ?」

「というかというか、スゥ達から見てもまるで・・・迷子みたいな表情をしてるですぅ」





迷子・・・か。うん、スゥの言うような感じかも。



どこへ行ったらいいか、どうすればいいのか、わかんないって顔してる。





「あの、大丈夫だよ? それは本当。ただ・・・ね」

「ただ?」



そんな事を話しながら歩いていると・・・ある場所に出た。

そこはドーム状の天井を持ち、レンガの塀には蔦が這うようにくっついていて、とても古ぼけた印象がある。



「・・・なんですか、ここ」

「さぁ?」

「ここ・・・プラネタリウムだっ!!」



あむが目を見開いて声を上げる。それに僕とリインは・・・首をかしげる。

待て待て。プラネタリウムってなんぞや? てゆうか、学校にそんなもんがあるんかい。



「うん、そうらしいの。でもすごい・・・管理人さんの言うこと、本当だったんだ」

「管理人?」

「うん。このプラネタリウムの管理人さんで、優しそうな男の人。それでね、何かに迷った迷子だけが、ここにたどり着ける・・・って」





・・・唯世がそんな感じだからたどり着いたと? それはまたファンシーな理論なことで。

いや、しゅごキャラなんて居る時点で、問題ないのか。



僕がそんな風に納得していると、唯世がいきなり噴き出した。まるであむの言う事がおかしいとでも言うように。





「えっと・・・あの、唯世くんっ!? なんで笑うのかなっ!!」

「あぁ・・・ご、ごめん。実はね・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、唯世を先頭にしてプラネタリウムに入った。





中は外観からは想像出来ない位にしっかりと管理されていて、プラネタリウム自体も唯世が少々装置を弄ると、すぐに動き出した。





で、それを四人で並んでガラガラな席に座って見ながら、話は始まった。










「・・・初代キングっ! え、あの人がそうなのっ!?」

「うん。・・・あ、蒼凪君とリインさんは何のことだかさっぱりだよね。ここの管理をしている人が、ガーディアンの創設者なんだ。それで・・・前に日奈森さんが偶然ここに来た時に、バッタリ会ってたみたいなんだ」

「なるほど・・・。なら、あむの言ってた迷子だけがたどり着くとか何とかってのは?」

「冗談だね。あの人、悪い人ではないんだけど、ちょっとだけいたずら好きなところがあって・・・。ここ、少し分かりにくい所にあるから、そういう風に迷子になりかけた人しか来ないんだよ。だからそう言う事を言ったんだと思う」



それで、あむにそんなことを言ってからかったと。

で、あむはそれを今の今まで真に受けていたと。



「・・・なら、あの小説家の『たまご』ってのも嘘なのかな」

「あ、それは本当だよ。実際にそのために勉強もしている」

「そうなんだ。なら、本当にちょっとしたからかいというか、いたずらが好きな人なんだね」

「そうだね。大人なんだけど、世間一般的な大人とはまた違う。どちらかというと・・・方向性は違うけど、蒼凪君と一緒かも知れない」



僕と・・・ねぇ。まぁ、僕もそういうことはやるかな。リインがなんか納得した顔になってるのがなによりの証拠だよ。

でも・・・。



「でも、迷子だけがたどり着く・・・か。あながち間違ってもないかな」

「え?」



唯世が小さくつぶやいた。つぶやいて・・・多分、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

ゆっくりと、僕達に話し始めた。今の今まで、自分の心の中に抱えていたものを。



「今日、おねだりCDの話を聞いてね、僕も聴いてみたいと思ったんだ」



それはまた・・・どうして?



「エンブリオが、まだ見つからないから・・・ですか?」

「・・・そうだね。僕や日奈森さん達だけじゃなくて、本来なら色んな世界の人達を助けて行く事が仕事の蒼凪君にフェイトさん達まで巻き込んでる。なのに、見つからないのが、結構来てる」



唯世が見上げるのは、偽の星空。だけど、その中に何かを見出すように、遠いものを見ている目をする。



「エンブリオを見つけたら何を願うかって話・・・そう言えば、蒼凪君とリインさんにはしてなかったよね」

「・・・あれ、世界征服じゃなかったっけ?」



そうそう、世界征服・・・世界征服っ!? 待て待て、そんなこと考えてたんかいっ!!



「ち、違うよっ! 日奈森さんも変な事言わないでー!!」

「あはは・・・。ごめんごめん。いやぁ、あのキャラチェンジの印象がすっごい強くてさぁ」

「うぅ、それは言わないでよ。・・・僕ね、強くなりたい。強い自分になりたいって、お願いするつもりだったんだ。僕は、弱いから」



弱い・・・だから強くなりたい。なりたい自分に近づきたい・・・ってところなのかな。

まぁ、色々ツッコみたいけど、ここはいい。だって、マジで世界征服って言うよりはずっと健全だから。



「僕の前にいつまでも現れてくれないのは、僕が本当によくて、頼りない偽者の王様で、キセキが僕のしゅごキャラなんてつりあわないから・・・なのかなって、思ったんだ」



つりあわないしゅごキャラ・・・ねぇ。なんだろ、今歌唄の方に行ったダイヤの事、思い出した。



「・・・ふん、おねだりCDなんかに頼ろうとするな。唯世の弱虫が」

「ちょ、キセキっ! そんな言い方ってないよっ!!」

「いいや、僕もそう思うよ」

「恭文っ!!」



いや、だって・・・ねぇ。



「僕は唯世が偽者の王様かどうかなんて、正直わかんない。・・・でもさ、それでも唯世は王様だよ。だから、僕は唯世に剣を預けてる。
ガーディアンの一員として・・・なんて、ガラじゃないけどさ。それなのにおねだりCDに頼る必要、ないでしょ」

「それは・・・どうして? どうして、そう思うのかな。僕は、弱いよ。蒼凪君やリインさん、フェイトさん達になんて、勝てない」

「勝つ必要なんてない。・・・うーん、唯世はどうも勘違いしてるなぁ」

「勘違い?」



・・・まぁ、いいか。たまにはしっかり言うことも必要だ。



「唯世は、どんな王様になりたいわけ?」

「・・・どんな王様って、それは、強くて頼られる王様に」

「うーん、そういうのじゃないよ。・・・例えば、人類の歴史だけで言っても沢山の方向性の王様が居るよね。そして、その結果も様々。領民に慕われていたり、逆に嫌われていたり。はたまた怠け過ぎて見捨てられたり。バカやり過ぎて国そのものが潰れたり。
ちょっと過激な所で言うと、自分の国を守るために、他の国の人間をいつでも潰せるように軍隊化したり、治安を維持するために、ちょっとした軽犯罪でも死刑にするというお触れを出して、恐怖政治で領民を支配したり・・・」



そう言った瞬間、唯世の目が少し見開いた。



「どんな自分になりたくて、そのためにはどうすればいいか、そしてそうなった時どうしたいのか・・・。そこが唯世はもしかしたら分かってないのかも」

「強い王様・・・だけじゃ、だめなのかな」

「ダメだね。強さにだって色々あるじゃん。単純に力って言うのが一つの方向性。だけど、それだけじゃない。唯世は、強くなってどうしたいのかな。王様になった。強くなった。でも、その後は? その強さで、唯世は何をやりたいの?」




強さは、剣だ。そして、剣は凶器。概念的なものでも、強さや力は誰かを傷つけることもある。

・・・強くなるってことは、そういう事を自分の手でやる可能性とも付き合うこと。

先生と師匠に教わったことの一つ。そして、僕自身が最初の段階で嫌になるくらい痛感した事。



だから、しっかり考えた上でないとダメだと思う。唯世が今迷っているのは、そういうのが見えていないからではないかと思う。





「それ・・・は」










・・・唯世は、そこから黙った。というより、考え込んだ。





あむが少し睨み気味だったけど、気にしない。視線で『そこまで言う必要ない』とか言ってたけど、気にしない。





だって、これは・・・僕だって今も考えることだから。なりたい自分があるなら、通るべき道ですよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・恭文さん」

「なに?」

「唯世さん、大丈夫ですかね」

「・・・どうだろうね。なんか重症っぽいし」





それから、数十分後。唯世とあむは帰ったけど、僕は・・・なんかこう、リインとデートも兼ねてまだプラネタリウムを見ていた。





「でも、恭文の言った事は正解だと思うな。結局、唯世がどうなっていきたいかで、偽者か本物かの境界線も変わっていくわけだし」

「そう言ってくれるとたすか・・・って、ミキ。あむ達が帰ったのになんで居るの?」

「星空を見たら、キャラなりの名前でいいアイディアが出てくるかなーと思って」

「・・・左様で」





あー、でも癒される。ここ最近のゴタゴタした気持ちがリフレッシュされそうだよ。





「ところで恭文さん」

「なに?」

「迷子は、唯世さんだけじゃないですよね」



・・・そうだね、僕も迷子だ。リインとは、心と心が繋がってる。だから、見抜かれるのも当然だと思う。僕は・・・そのまま頷いた。

理由は、海里。どうしたもんかと、少し頭を抱えている。あと、歌唄のこともだね。




「・・・昼間さ、二階堂と話したって言ったじゃない?」

「はい」

「その時に、ちょっと色々あってさ」










こんな風に軽く言いながら思い出す。あのお昼休みのお話を。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・三条君が転校してきたのは、お察しの通り姉である三条ゆかりに呼ばれたからだよ。そこは間違いないと思うな。てゆうか、転校の形がおかしいでしょ」

「確かにね。普通なら親も来るだろうし。だけど、例えば進学や勉強のため・・・って言うには、少し時期がおかしい感じもするし。海里はまだ小4だもの」

「うん、僕もそこは考えた。聖夜小は確かにエスカレーター式で名門校だとは思うけど、偏差値はそんな日本で指折りトップクラスに入るってわけでもない。
なにより、三条ゆかりはそんな教育ママ的な行動を取る女じゃない。今興味があるのは、エンブリオを見つけて自分が勝ち組になることだけだから」



なら・・・とりあえず、この事はあむ達には黙っておこう。話したら絶対面倒な事になる。



「いやぁ、そうしてくれると助かるよ。でも、よく気づいたよねぇ」

「優秀な仲間が居るおかげでね」





お昼休み、二階堂に弁当片手にまた屋上に会いに行った。で、二階堂はそれを食べながら話してくれた。



まぁ、ここはいいさ。先生であって、ガーディアンの完全な味方ってわけじゃないんだし。





「で、ちなみに黙ってた理由とかはある?」

「うーん、まずひとつ。黙ってたというよりは、真実がどうかは分からなかった。だって、僕もう真面目にイースターとは関係ないしさ。
今君に話したことだって、正直に言えば全部推測だよ。で、次に・・・黙っておくと、なんだか面白そうだからだね」



この男は・・・。こういう所は変わらずかい。

だけど、僕はその次の瞬間、その認識を変えることになった。それは、二階堂がから揚げを一口食べて、言った一言が原因だった。



「だって、面白いでしょ? あの冷めたクールぶってる子が変わる様はさ」

「・・・海里が?」

「そうだよ。あの子の姉・・・あぁ、三条ゆかりね。実は僕とゆかりって元々付き合ってたんだよ」



・・・二階堂、恋愛経験あるのっ!? すっごい驚きなんですけどっ!!



「君、それはちょっとひどくないっ!?」

「いやいや、あの性格のゆがみ具合を考えると信じられないのよ。読者に聞いてみな? 普通に恋愛している様が想像出来ないって言うから」

「・・・まぁ、そこを言われると確かに弱い。僕達が付き合うようになったのって、互いの向上心が作用しあった結果だしね。でも、喧嘩ばっかりでラブラブとかそういうのはなかったよ」



あ、あの・・・ごめん。とりあえず僕が悪かったから、その落ち込んだ表情はやめない? なんか傷口に触れた感じがして嫌なのよ。

とにかく、理解出来た。その関係で、イースターどうこうは関係なく海里とは昔から知り合いだと。だからこそ、海里が来た時にもしやと思ったと。



「そうだよ。と言っても、あの子は田舎の両親のところで暮らしていたし、それほど接触回数は多くないけど。ただね、昔からさっき言ったような感じなんだよ。
冷静沈着で、年頃の子どもっぽい表情を見せた事なんてそんなにない。悪い言い方をすれば・・・実に可愛げがない子どもだったよ」

「そうかなぁ、海里は普通に笑うし驚くし楽しそうにもするし嬉しそうにもしてるけど」

「そっか。でもそれ、多分君やヒマ森さん達の影響だよ」



・・・僕達の? どういうことよ、それ。



「いやね、例えばヒマ森さんだよ。あの子、周りを巻き込んでグイグイ引っ張ってくパワーがあるじゃない? 君も経験あるでしょ」

「・・・確かに、あるね」



旧社員寮での戦闘なんてそうだ。思いっきり引っ張って、あむの首根っこをふん捕まえて、窓から投げ飛ばす・・・とかはしなかったし。



「そういうのに触れて、『可愛げのない子ども』だったあの子に変化が起きるか、そして、それが起きた時にどんな形で変わっていくかなって興味があったんだよ。だから、黙ってた。
・・・まぁ、そこに僕が完全に君達の味方をやるつもりが今のところ無いというのとか、元カノの弟の世話を焼く義理立てなんて0だって言うのもあったりしたけど」

「なるほどね・・・。で、二階堂から見てどう? 海里は、変わってきてる?」

「きてるね。それも予想以上だ。で、君はどうするつもり? これであの子がスパイだと言う疑いは更に濃厚になったも同然だ。てゆうか、普通に確定じゃないかな?」



そうだね、二階堂から話を聞いて、そういう状況になった。

うーん、困ったねぇ。どうしたもんか。



「とりあえず、こちらの手札をさらすような真似はしばらくダメかな。下手に報告されても困る」

「・・・つまり、現状維持? また君らしくもない。骨でもへし折るって言い出すと思ってたのに」



なんだろう、この男の僕に対しての認識をどうにかして直したい。何かが色々間違っているから。



「それ、僕に対して蹴撃乱舞で半殺しの刑を下した君に言われたくないよ。で・・・真面目な話、どうしてかな」

「・・・海里があむ・・・というより、ガーディアンの中で変わってきてるって言うならさ、僕もそれをもうちょっと見てたいと思って」

「裏切られるかも知れないのに?」



そうだね、結局はイースター側に付いて、敵になるかも知れない。でも、それでいいや。



「またひどいねぇ。仲間じゃないの?」

「まぁ、形式上はね。でも、それが海里の選んだ道なら、いい。
・・・男が自分で考えて決めた道だったら、いい。僕はどうこう言わない。ただし」



青い空を見る。白い雲がゆっくりと流れ、その瞬間心地のいい風が吹き抜けてた。

その風に髪を任せながら、小さく、つぶやく。



「僕にも、決めた道がある。途中にあるもの、全部荷物として持っていく覚悟を決めて、全力全開で突き進むと決めた道が。
それを進む邪魔をどうしてもすることになるって言うなら・・・叩き斬るだけだ」



海里は、強いと思う。親元から離れて、一人でスパイなんて言う責務を背負って・・・ここまでやった。

その海里が自分で道を決めてそうするって言うなら、それに伴う後悔や痛みを背負う覚悟がちゃんとあるって言うなら、僕は止めない。そんな権利、僕には無い。なにより、止められるわけがない。



「でも、ヒマ森さん達は、納得しないだろうね。あのお人よしのみんなのことだ。絶対にあの子がそうなったら、説得しようとするよ?」

「いいさ、別に。・・・それでも、変わらないから。というより、お人よしばかりだから、こういう覚悟は僕の仕事だよ」

「なるほど、状況によってはみんなの代わりにあの子の相手をしようって言う腹積もりと。
いやはや、君ってなんというか・・・いつも損な役どころが多いね」

「いつもの事だよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そうですか。でも、やっぱり二階堂先生と仲良しさんですね」

「やめて、ゾッとしないからやめて。僕はアレと馴れ合うつもりは無い」

「きっと向こうもそう思ってるよ。ね、リイン」

「はいです」



・・・・・・でも、僕も唯世のことをどうこうは言えないね。

二階堂にもそうだし、唯世にもはあぁ言ったけど、どうするべきか、どうしたいのか、本当にそれでいいのかと、ちょっと迷ってる。



「・・・・・・今日は賑やかだね。迷い子が四人も来ている」



声は後ろから。僕が首だけ振り返り、リインは少し体勢を変えて後ろを見ると、そこには・・・唯世の大人バージョンとも言うべき顔立ちと髪形をしていて、白い服を着ている人が居た。



「もしかして・・・管理人兼初代キングさんですか?」

「そうだよ。初めまして、蒼凪恭文くんに・・・妹のリインちゃんでよかったよね。あと、その胸元に居る子がアルトアイゼン」

「・・・初めまして」

≪私の事も知ってたんですか≫

「うん、一応ね」



そのまま、その人は僕の隣に座る。てゆうか・・・また中性的というか女性的というか。唯世が大人になったらこれなのかね。

・・・よし、自分の事は棚に上げよう。うん、棚に上げるんだ。



「すみません、勝手に使わせてもらってます」

「構わないよ。・・・それで、悩み事はなにかな」

「いきなりそこ行きますか」

「当然さ。ここは迷い子が来る場所。ここに君達がたどり着いたと言う事は、それなりの何かを抱えていると見ていい」



全部知ってそうなのに・・・。まぁ、いいか。

少しだけ、吐き出させてもらおう。今日の僕は、迷い子なんだから。



「・・・何を斬るべきか、迷っています」

「切るではなく・・・斬る?」

「はい。斬ろうと思って斬れないものなんて、この世の中にはない。・・・剣の先生から、僕はそう教わりました」





だけど、逆を言えば、何でも斬れる。斬りたくないものでも、斬れる。実際、リインと会った時にそれをやった事がある。

だから、考える。海里や歌唄、決して嫌いではない人間が敵に回っている今の状況で、僕はどう自分の力と強さを振るっていくべきなのかと。

・・・そこそこ親しいか、何か通じ合う人間が敵に回るって状況、よく考えたら今までそんなになかったかも。



だから、考えるのかも知れない。そんな状況で、僕は何をするべき・・・ううん、したいのかと。





「なるほど、それは確かに難問だ。簡単に答えが出そうに無い」

「ですね、現に出ていません。ただ斬るだけで・・・相手を否定するだけでいいのかと、心がストップをかけています」

「君にとって、斬る・・・戦うということは、何かを否定することなのかい?」

「はい。・・・この手で、否定してきましたから」



相手の思想、意思、大事なもの、場合によっては命・・・そういうのを否定したから。

さて、どうしたもんかなぁ・・・。



「なら、その逆を考えればいい」

「え?」

「君は、そうまでして・・・何を守りたいんだい? 否定すると・・・言い訳も、自分にとって都合のいい装飾もすることなく、ただそこにある事実を背負おうとする。
そこまでして、君は何が守りたいのかな。一体、何を変えていきたいのかな」



・・・そっか。そう、だよね。僕の答えの出し方も、結局唯世と同じだったんだ。

そこをちょっと忘れてたのかも。僕が守りたいもの・・・なんとかしたいもの・・・。



「ね、恭文」



ミキが僕の前に来て、こちらを見る。真っ直ぐに・・・瞳に優しい色を宿しながら。



「ボクは、恭文が何を悩んでいるのか、分からない。でも、忘れないで? ただ何かを斬るだけじゃダメだってこと。
恭文のなりたい自分は、そんなつまらない形じゃない。そんな覚悟をしても、斬って変えたいものが、あるんだよね。欲しい未来が、あるんだよね。だったら・・・」

「うん、そうだね」



そのまま、立ち上がる。



「ミキ、今は詳しく話せないけど、どうしても覆したいことがあるんだ。だから、お願い。力を・・・貸して」

「・・・うん、いいよ。でも、それはボクだけじゃない。アルトアイゼンも、リインも手伝うから」

「・・・・・・ありがと」



リインもアルトも、それでいい? 問題、ないかな。



≪当然でしょう。全く、グダグダと迷い過ぎです。あなたは頑ななくらいで丁度いいと言うのに≫

「にゃはは・・・。ごめん」



そして、隣に居るリインは何も言わずに僕と同じようにそのまま立ち上がり、僕の方を見て微笑んでくれる。

繋いだ手は、そのままに。・・・いや、その力を強める。『大丈夫、側に居るから』というリインの気持ちが、伝わる。



「・・・迷いは、消えたかい?」





その初代キングの言葉に、首を横に振る。やっぱり、消えない。僕は弱いから。

迷って、悩んで、立ち止まりそうになる。

・・・唯世、僕も唯世と同じで弱いよ。僕は強くなんてない。



だけど、それでもやらなきゃいけないことがある。誰でもない、自分がやらなきゃいけないことだって思うことがある。だから、この足を踏み出し、手を伸ばすんだ。





「なら、なぜ君は立ち上がるんだい? ここで立ち止まっても、きっと誰も君を責めないというのに」

「覚悟は、決まりました。それに、何を斬りたいのか、どうしたいのかも見えました。それだけで充分です。それに・・・」

「それに?」

「・・・弱かったり、運が悪かったり、何も知らないとしても、それは何もやらないことの言い訳にはならない。僕の知っている凄く強くて優しい人達が、そう言っていました。
迷いも、躊躇いも、どうやらここで止まる言い訳にはなりそうにないんです。誰でもない、僕の心が『止まるな。立って戦え』って声を上げるんです。だから・・・全部抱えて、その上で迷わずに、躊躇わずに、突き進みます」



やっぱり、ここなんだよね。僕はさ。

でも、これでいいや。だって、1番しっくりくるし。



「・・・君は、いや・・・君達は、やっぱり面白いね。見ていて非常に興味深いよ。そして、不思議なこともある」

「不思議・・・ですか?」

「そう。君の心は、まるで鉄のようなのに、不思議な輝きがある。まるで・・・星のような瞬きを感じる」

「あぁ、そりゃ当然ですよ。僕の中に星の光はありますから。ていうか、この隠し切れぬスター性が怖くて怖くて」



少しおどけて言うと、初代キングはおかしそうに笑った。なんか、心地いい。

会ってからそれほど時間が立ってないのに、気持ちがほどけてるのは、この人の人徳なのだろう。



「あぁ、そうそう。言い忘れるところだった」

「はい?」

「もしよければ、またヒマな時にでもここにおいで? 今度は美味しい紅茶をご馳走してあげるよ」

「はい、必ず。あ、それならケーキ焼いて来ますよ。・・・甘いものは好きですか?」

「うん、大好物だ。期待しているね」










そのまま・・・僕達は外に出た。出ると、世界は日が沈む直前。





僕はともかく・・・ミキはいいのかね。色々問題があるような気が。










「あむちゃんには言ってるから、大丈夫だよ。・・・というか、恭文は?」

「へ?」

「いや、大丈夫かなぁ・・・と」





どうやら、ここに残ったのは名前を考えるだけじゃなかったらしい。



僕は、右手でぷかぷかと浮かぶミキの頭を撫でる。




「さっき言った通りだよ。問題はない」

「・・・なら、よかった。てゆうか、子ども扱いしないでー。ボク、これでもレディなんだよ?」

「にゃはは・・・。ごめん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



プラネタリウムに蒼凪君にリインさんにミキを残して、僕と日奈森さんは外に出た。それから途中で日奈森さんと別れて、僕はようやく自宅に、帰ってきた。だけど・・・憂鬱だ。





蒼凪君に言われた『どんな王様になって、どうしたいのか』という問いかけに対しての答えが出てこないから。





日奈森さんはちょっと怒ってたけど・・・違う。だって、その通りだから。





僕、確かに考えてなかった。もっと強く・・・もっと強くなりたいというだけで、その強さで何をしたいのかとか、考えてなかったから。










「唯世、さっきはその」

「あ、僕宿題しなきゃ」



そう言って、キセキから視線を逸らす。



「・・・フンっ! 勝手にするがいいっ!!」





ごめん、キセキ。でも・・・今はあんまり、誰かと話したくない。



とにかく、机の上に教科書を出していく。あと、宿題もだね。すると・・・あれ?





「これ・・・」










透明なケースに入ったCD。黒の下地に白のバッテン。そして、プリントされているのは『BLACK DIAMOND』の文字。

これ、蒼凪君が注意するようにって言っていたCDじゃ。でも、どうしてカバンの中に? 僕は貰った覚えないのに。

・・・キセキの方を見る。部屋の中に置かれている自分専用の赤い玉座に座って、頭の王冠を布で磨いている。いつも帰ってきた時にやる恒例行事。





だから僕は・・・CDケースを開けた。





願いを、叶えて。僕は・・・どうすればいいのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ベランダで、夕飯を食べた後考え事。夜空を見ながら・・・あたしは思い出す。そして、願う。





唯世くん、元気になるといいなぁ。てゆうか、恭文言い過ぎ。あんなこと言ったら、唯世くん落ち込むに決まってるのに。










「でもあむちゃん、恭文も・・・ちょっと様子が変じゃなかった? 結局あの後ミキが残ったくらいだし」

「それはまぁ・・・ねぇ」



いつものノリが無いと言うかなんと言うか。てゆうか、アイツ絶対あたし達になんか隠し事してる。

そう思う理由? ・・・女の勘よ。



「そう言うとなんでも納得出来る感じがするですぅ・・・」

「あむちゃん、それは私が思うにチートカードだって」

「大丈夫、あたし女だから」



なんて話していると・・・下から声がした。



「・・・・・・ただいまー!!」



そっちを見ると・・・ミキがふわふわと飛んできた。てゆうか、遅かったね。



「ごめんごめん。プラネタリウムがよくってさ。・・・あぁ、それとあむちゃん」

「なに?」

「恭文、ちょっと悩んでたみたい」



・・・そっか。で、今度は何で悩んでたの?



「うーん、結構重い感じだったけど、話してくれなかった。ただ、今は話せないけど、話せる時が来たら力を貸して欲しいって頼まれたよ」

「そっか。で、大丈夫なの?」

「うん。・・・全部抱えて、その上で迷わずに、躊躇わずに突き進む・・・だって」





なんていうか、恭文らしいや。こう、結局そういう単純な答えになっちゃうところとかさ。

いや、しかし・・・なんてゆうか、だんだんアイツとラン達を共有している感じになっているのはどうして?



例えばスゥは・・・。





「はわわ・・・恭文さんに悩み事ですかぁ? 大変ですぅ」

「いや、大丈夫だから。なんとかなったみたいだから」

「あぁ、ならよかったですぅ」



こんな感じだし、ミキはキャラなり出来るし、なんか心配してくっついてっちゃうし。



「ラン・・・アンタだけはキャラなりとか現地妻とかそういうのやめてよねっ!? いや、マジでお願いー!!」

「と、とりあえず後者だけは全力で否定するから、離してー! 苦しいからー!!」



出来れば前者も否定してー!!



「あむちゃん、そこまでですかぁ?」

「そこまでなんだろうね。・・・あ、ほらあむちゃん。アレ見て」



アレ? ・・・ミキの言葉で夜空を見上げる。すると・・・あ、流れ星だ。

よし、ここで一気にお願いだっ!!



「・・・・・・恭文にもしゅごキャラが生まれて、もうランとかミキとかスゥとかのフラグを立てたりキャラなりしたりしませんようにっ!!」

『いったいどんなお願いっ!?(ですかぁっ!?)』



だ、だって・・・こうでもしないとやっぱり不安じゃん。

あ、こんなこと言ってる場合じゃない。あと二回、消えるまでに言い終わらないと。



「恭文にもしゅごキャラが生まれて、もうランとかミキとかスゥとかのフラグを立てたりキャラなりしたりしませんようにっ! 恭文にもしゅごキャラが生まれて、もうランとかミキとかスゥとかのフラグを立てたりキャラなりしたりしませんよ」

「しょみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!!」

「ぶフォっ!!」



言い終わる直前、あたしの顔面に何かが直撃した。そのまま、あたしは後ろに倒れる。

な、何が・・・。



『流れ星墜落っ!?』

「バカ者っ! 誰が流れ星だっ!? 僕だ僕っ!!」





えっと・・・・この声、キセキっ!? そうだ、キセキだっ! しゅごたまのまんま飛んできてるけど、この王冠マークが付いたしゅごたまと、この声はキセキじゃんっ!!



・・・でも、なんでそれで飛んで来たの? なんかの新しい遊びかな。





「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 出られないのだっ!!」

「出られないって・・・どうして?」

「それが・・・唯世が例のCDを聴いたらしく」



例のCDっ!? でも、アレって恭文が注意した方がいいってみんなに言ってたのに・・・どうしてっ!!



「僕にもわからんっ! 普通に帰ってきたらかばんから取り出して聴いていたんだっ!! そうしたら、唯世もおかしくなってどこかへ消えてしまったっ!!」

「唯世くんがっ!?」

「どうやら僕だけではなんともなりそうもないっ! スマンが・・・唯世を助けてくれ、庶民っ!!」

「・・・分かった」



どうなっているのかはよく分からないけど・・・唯世くんのピンチなら、なんとかしなきゃ。

でも、どうしてそんなCDを・・・。やっぱり、昼間言ってたように色々悩んでたのかな。



「あむちゃん、その前に恭文に連絡を」

「恭文?」

「あむちゃんだけは危険だよ。恭文が居ればボクとのキャラなりも出来る。
それに、恭文達がこっちに来る時に設置したサーチャーって言うのなら、街中の状態がわかるって言ってたじゃない?」



そっか、それで唯世くんを見つけてもらえば・・・。

あたしは、携帯を取り出して、その・・・少し躊躇ったけど、そのまま電話をかけた。



『もしもし、あむ?』



よかった、繋がったっ!!



「あ、恭文っ!? お願い、今すぐ外に出てきてっ! 唯世くんが・・・例のCDを聞いて、行方不明になったらしいのっ!!」

『・・・・・・はぁっ!?』










・・・・・・唯世くん、待ってて。





絶対にすぐに見つけて、助け出すから。キセキも元の状態に戻すから。だから・・・無事で居て。




















(第22話へ続く)





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