小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第20話 『好きにならずにはいられないっ!!』 『・・・こちらエース。どうぞー』 「エース、どうでしょうか」 『追跡上手く行ったよー。×たま二個、予定通りに西側の階段を上がって行きました。どうぞー』 よし、これでいい。その先は・・・キング、任せましたよ。 『ホーリー・・・クラウンっ!!』 耳につけたイヤホンマイク越しから、キングの声。どうやら、技を×キャラに向かって撃ったらしい。 ・・・・・・キング、どうでしょうか。 『こちらキング。大丈夫、二個とも屋上へ向かった。真城さん、リインさん、任せたよ』 『了解』 『任せるですよー!!』 エースが追いかけて、×たまを階段を上へと昇らせる。そこは三階。廊下に出ようとするところを、キングの攻撃でその道筋を塞ぐ。 すると、当然×たまは逃げる。どこへ? ・・・階段を上がって、屋上へだ。 『ジャグリング・・・』 『フリジット・・・』 だけど、そこにはクイーンとリインさん。確認したところ、リインさんは形は違うがクイーンのジャグリングパーティーと同じタイプの攻撃・・・多弾型の空間制圧攻撃が出来る。 それにより、前方と横の逃げ道を塞ぐ。そして、その後ろには・・・×たまを追ってきた俺とキング。そうするとどうなるか。 「パーティーッ!!」 「ダガーッ!!」 青い氷の短剣と、ジャグリング用のピンが×たま二つに向かって飛ぶ。それを・・・×たま達は避けた。それらは屋上の路面に着弾する。 前方も、横も、後ろもだめ。普通ならそこで摘み。だけど、まだ逃げ道がある。それは上。 そう、×たまは飛べる。だから空いている穴・・・上へと逃げた。 ・・・訂正だな。上へと、逃げてもらった。 「ネガティブハートに・・・ロックオンっ!!」 「鉄輝・・・!!」 アミュレットスペードになったジョーカーと、白いマントを纏った蒼凪さんが、屋上より上、校舎の屋根で待機。 ×たま達は慌てるけど、もう遅い。蒼凪さんもジョーカーも、ここで逃がすほど甘くはないから。 「オープン・・・ハートッ!!」 ジョーカーが身体の前で両手を使って組んだハートのマークから、青いハートのエネルギーが飛び出し、×たまの一個を直撃。 「一閃っ!」 それに当たらなかった一個は、蒼凪さんが飛び出し、アルトアイゼンを鞘から抜き放ち・・・居合いで横一文字に斬る。刃を包むのは、青い光。 『『ム・・・ムリィィィィィィィィィィッ!?』』 青いハートのエネルギーに包まれたたまごと、同じ色の閃光で斬られたたまごは、同じ声を響かせながら・・・消えた。 「・・・瞬(またたき)」 蒼凪さん、後から言うんですね。そして、技名があるんですね。びっくりしました。よし、あとでメモしておかなければ。 とにかく、それと入れ替わるように、白いたまごが姿を現した。そのたまごも、どこかへと戻っていく。青い空へと高く飛び上がりながら。 「・・・うまくいったね」 屋上に出てその様子を見る俺の隣に、キングが来て、そう言った。声の中には安心の色。壊さずに済んだことを、心からよかったと思っていると感じた。 「当然です」 「やけに自信あるね・・・」 キングが苦笑いを浮かべている。まぁ、俺のこの後の言葉を聞いてくれれば、納得してくれるものと思う。 「みなさんが協力してくださったのですから」 「・・・そうだね、それなら当然だよ」 「はい。とりあえず、×たまもこれだけだったみたいですし・・・ロイヤルガーデンに戻りましょう」 『りょうかーいっ!!』 ・・・・・・これは、先日の幽霊騒ぎが終息してすぐのこと。いつものように×たまを狩り、いつものように・・・そう、いつものように浄化をする。 壊す事前提の方が効率はいいかも知れない。だけど、俺の中の何かがそれはやめろと言う。 ダメだな、俺は。蒼凪さんとの話に影響されすぎている感じがする。ただ・・・あの腕の中の小さくて、柔らかくて、壊れてしまいそうな温もりを知ってしまうと、それも悪くないと思うから不思議だ。 とにかく、それが終わってからすぐに始めたガーディアン会議の中での一幕。俺にとっては、きっと・・・これがターニングポイントだった。 「・・・えー、先月の×たま狩りの成果ですが」 キングが真剣な顔で切り出したのは、先月のガーディアンの活動報告の内の一つ。 俺とクイーンがガーディアンに入ってから強化された、×たま狩りの成果報告。 「なんと、先月の三倍でしたっ!!」 『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』 みんなの歓喜の声が上がる。確かに、これは・・・すごい。 蒼凪さんとリインさん、ジョーカーの活動もそうだが、キングやエース、かなり協力的になってきたクイーンのおかげで、この成果は出せたと思う。 「やっぱり、これは海里さんの功績が大きいですよ」 ・・・え、俺っ!? いや、待ってください。俺は特に・・・。 ≪そんなことはありません。あなたの参謀としての作戦立案能力はかなりのものです。そのおかげで、この成果は出せたと言ってもいいでしょう≫ 「海里、自信持っていいよ? アルトがここまで言うのは相当誉めてるから」 「そう・・・なのですか?」 蒼凪さんが、どこか嬉しそうに頷く。 それを見て・・・こう、気恥ずかしくなる。身体が熱くなるのを感じた。 「僕もそう思うよ。三条君のおかげで、×たま狩りが大分効率よく出来ているのは間違いないもの」 「そうだよねー。あとあと、りまたんも協力してくれるようになってるしー」 「・・・別に」 皆が笑顔になる。この成果が嬉しいと、表情で言っている。 「あ、そうだ。いいんちょ・・・はい」 ジョーカーが、自分のショートケーキのイチゴを俺に差し出す。満面の笑みを、俺に・・・俺だけに向けてくる。 あの、これは? 「うん、頑張ったから、ご褒美。イチゴあげるね」 「あ・・・ありがとうございます」 「あー、それならややもややもー!!」 「なら、僕は自慢の日本茶を入れるよ」 そんなジョーカーにエースとキングが乗ってくる。それに、感じていた気恥ずかしさと身体の熱が更に高まる。 俺は、なにも言えなくなって、だけど・・・言わなくてはいけないと思ったから、今の気持ちを表す言葉を、みんなに送った。 「あ、あの・・・ありがとう、ございます」 その俺の言葉は、みんなに届いたのかどうか・・・いや、届いたらしい。笑顔で頷いてくれたから。それを見て気恥ずかしくなる。 これは・・・違うか。俺は、嬉しいんだ。 「・・・・・・恭文、リインもどうしたの?」 クイーンが聞いたが、その疑問は全員が持っているものだと言うのは、言うまでもないだろう。 蒼凪さんとリインさんが、報告書に目を通しながら表情を苦くしている。 「あー、そうだよ。表情くらいよー?」 「えっと・・・リインも恭文さんも、少し思ったです」 「何をでしょうか」 「結果は三倍。だけど、肝心要の×たまの出現数にコレ・・・追いついてるのかな?」 その言葉に、俺達はさっきまでのお気楽ムードを吹き飛ばした。いや、俺だけはその言葉に寒気がした。 やはり、これで油断をするような方々ではないかと、内心肝を冷やしている。 「確かに、そうだね。×たまの出現数は現状維持・・・ううん、むしろ増えている感じがする」 「でもでも、歌唄ちゃんのゲリラライブはもう止まっているのに、なんでだろ。やや達の見る限り、他に怪しい動きがあるわけでもなんでもないし」 「やっぱり、フェイトさんの言うように力を貯めている最中なのかも知れない。ただ、僕達がそれに気づいていないだけで」 ・・・・・・そう、あなた方は気づいていないだけです。 気づいていないから、俺を、俺達を止められないんです。出来れば、このまま・・・気づかないで欲しい。 そうすれば、きっと俺はあなた達の仲間で居られるから。 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご 第20話 『好きにならずにはいられないっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・ついにこの日が来た。 時刻はお昼頃。待ち合わせ場所の駅前で、あたしは一人ドキドキしていた。 だ、だって・・・初デートだし。 初デートだし。 初デートだし。 ・・・あ、大事なことだから三回言ってみた。 唯世くんと・・・まぁ、恭文やフェイトも居るんだけど、気遣ってくれるから問題なし。というか、きっと固有結界で二人だけの世界を作るに決まっている。 「恭文さんとフェイトさん、プライベートだとラブラブですしねぇ〜」 「なんて言うか、甘ったるいよね。ものすごく甘ったるいよね。なんだろ、恭文もフェイトさんには激甘だし」 「あぁ、それはボクも思った。まぁ、恭文は基本的に女の子・・・というか、身内には甘いんだけど」 ・・・なんかうちの三人が来ちゃったのは想定外だったけど、邪魔さえしなければ問題は無い。 なお、本日はおめかししました。黒のセーラーっぽい服に、チェックのリボン。 スカートは、短めでリボンと同じガラ。若干フリフリ。だけど、可愛らしいというよりは、かっこいい感じ。 ファッションリーダーなミキにも相談の上での服装。唯世くん、どう思うかな。 「てゆうか、スゥ的にはいいの?」 「・・・はい?」 「ほら、スゥって恭文LOVEだし」 「フェイトさんにヤキモチ焼いたりしてるんじゃないの?」 なんだろう、スゥと恭文のつながり方がおかしい。その内、スゥともキャラなりできそうな感じがする。 てゆうか、実はあたしが知らないだけでもう出来てる感じがする。ただ単に設定が出来上がっていないから出ていないだけで、もう出来る下地は充分だと思う。 「はわわ・・・違いますよぉ」 「ホントに? 怪しいなぁ〜」 「ホントですよぉ。スゥは、現地妻ズに入って、恭文さんの現地妻7号になろうかなと思ってるだけですぅ」 そうそう、そのおかげで現地妻になれる下地も・・・。 『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 現地妻っ!? え、なんでよっ! てゆうかどうしてそうなるのっ!! 「・・・スゥ、それは何故に? いや、あたしは激しく疑問なんだけど」 「ボクも・・・」 「私もだよ」 「なんでですかぁ?」 あたし達の言うことに当然のように疑問を持って、当然のように聞き返したっ!? 「リインさんが教えてくれました。恭文さんを大好きな人達が、恭文さんもそうですし、フェイトさんとの仲も応援するファンクラブがあるそうです。それが現地妻ズで、リインさんが名誉会長をしてるそうです〜」 あぁ、以前言ってたのか。なんかそういう紛らわしい名称のファンクラブがあって、会員番号が現地妻○号って言うアレ。 ただ、マジにいかがわしいことがあるとか、本当に恭文が現地妻を作ったわけじゃなくて、からかいも込めてこの名称になってる・・・らしい。 なんだけど・・・本人である恭文としては、フェイトさんに誤解されるのは必至だから、どうにかして解散させようとしてるんだけど、全然ダメってやつだね。 なでしこが留学する前、なのはさんとスバルさんから聞いて衝撃的だったから、よく覚えてる。 てゆうか恭文・・・不憫な。それ以前に、リインちゃんが名誉会長って・・・。 二人が一緒に居る経緯とか聞いてなかったら、あたしは混乱したよ。 「それで、リインさんがスゥなら充分入る資格があるそうなので、今度現地妻1号や2号な方々に、入ってもいいか相談してもらえることに」 「・・・お願い、スゥ。それはやめて。真面目にやめて。てゆうか、アンタ現地妻って言葉の意味知ってる?」 「えっとぉ、大好きな男の人を応援している女の子の呼称だって、リインさんが言ってましたぁ」 リインちゃん、お願い。そこはちゃんとした意味を教えて欲しかったよ。いや、間違ってはない。間違ってはないけど、正しい意味でもないから。 スゥ、真面目に信じてるし。そういう応援をする人の事を現地妻って言うんだと信じてるから。真面目にだったら自分も入って問題無いって顔してるから。すっごい笑顔だから。真実を教えることに対して罪悪感を感じるくらいに笑顔だから。 「・・・あ、ランも入りませんか? 応援が得意なんですし、一緒に恭文さんを応援しましょ〜」 「嫌だっ! 私は入りたくないよっ!!」 「どうしてですかぁ? ランは恭文さんのこと・・・嫌いなんですか?」 「そういうことじゃないよっ! スゥ、現地妻の意味知ってるのっ!?」 「ですから、大好きな男の人を」 違うからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、ランが知ってるのもいろいろ驚きだけど、とりあえず落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!! 「・・・・・・・・・・・・・・・スゥ、お願い。お願いだから・・・そんな組織には入らないで」 「本当にお願い。私もヤスフミもあむにどう謝ったらいいのかわからないから」 後ろから、涙声でそう言ってきたのが居る。振り返ると・・・居た。 甘ったるい固有結界を発動できる二人が。 「あー、恭文さん〜」 「・・・恭文、あのさ」 「大丈夫、あとでリインはシバいておくから。なんか恭太郎と出かけたみたいだけど、帰ってきたらしっかりシバいておく」 「いや、シバくまでしなくていいけど、ちょっとお小言を言ってもらえると非常に助かる。・・・えっと、フェイトさん。頑張ってください」 とりあえず、ガッツポーズと共に苦笑いを浮かべていたフェイトさんにエールを送る。 フェイトさんは、さっきとあまり変わらない疲れた顔で笑う。・・・ごめん、フェイトさん。あたしはこれしか出来ません。いや、スゥの認識はなんとか修正しておきますから、それで勘弁していただけると非常にありがたいです。 「というか、ヤスフミが無自覚にフラグを立てまくるからこういうことになってるんだよっ!? おかしいよねっ! それも現地妻の大半は10歳以上の年上ばかりだしっ!!」 そうなのっ!? ええと、10歳ということは・・・最低でも来年30とかじゃんっ! アンタ、どんだけフラグメイカーなのよっ!! 「・・・・・・ごめんなさい」 「まぁ、今は本当にファンクラブ的なものになっているみたいだからいいんだけど。でも、余所見は・・・禁止だよ? それは、絶対だめ。ヤスフミは、私の彼氏なんだから」 「うん、余所見しない。だって・・・あの・・・この続きは帰ってから」 フェイトさんが『どうしてっ!?』と言う顔をしているのを見て、私は思った。この人、絶対今あたしのことを忘れていたなと。 なんか慌てた表情で私に『違う・・・違うからっ!!』とか言ってるけど、絶対忘れていたなと思う。・・・無自覚バカップルめ。 あ、これは違うか。だって、恭文は気づいたんだから。いや、今乗っかりそうだったけど。 「まぁ、今日は基本的にこの方針でいくけど」 恭文がアタシの顔を見てそう言ってきた。まぁ、笑顔で安心させるようにだね。 なので、私はそれに頷いて・・・頷けるわけあるかぁぁぁぁぁぁぁっ!! 「はぁっ!? なんでよっ! アンタとフェイトさんが隣でイチャイチャしてたら、あたしと唯世くんおいてけぼりじゃんっ!!」 「その通りなのですっ! こんな真昼間から二人がイチャついたら、不健全ですっ!! 不純異性交遊反対っ!!」 その声は、恭文の隣から。見ると・・・・・・あ、エル。アンタ居たんだ。 「ひぃぃぃぃっ! 日奈森あむがひどいですー!!」 「いや、だってさっきから喋ってなかったし」 「存在感が希薄だったよね」 「恭文さんもヒドイですー!!」 「・・・・・・てゆうかさ、エルの言う通りだって。そりゃあ二人は大人で」 言いかけて、止まる。恭文とフェイトさんは大人で・・・今は仕事の関係もあるけど、それでも一緒に暮らしていて・・・。 ということは、あの・・・おしべとめしべが・・・こう、くっつく感じのことがあって。 あ、一応あたしは四年の保健体育の時間で教わった。まぁ・・・どうやって赤ちゃんが出来るのか・・・とかさ。 ・・・・・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁっ! そ、想像できないっ!! 自分のクラスメートがそういうことをしている図が想像できないよっ!! 「・・・なんか誤解があるみたいだけど、これは作戦だよ」 「「え?」」 「いい? 僕とフェイトがまぁ・・・イチャイチャって言うまでじゃなくても、仲のいい感じを出す。そうして、あむと唯世が若干置いてけぼり・・・というか、引く。そうするとどうなる?」 どうなるって・・・どうなるの? 「だから、あむは唯世と向き合って話が出来るじゃないのさ。僕やフェイトに唯世の視線が向かずにさ。 あれだよ・・・『フェイトさんと恭文すごいねー』みたいな切り出しをすれば、どんな形であれ食いつくって。そこから恋話とか持っていってもいいんだし」 「・・・あ」 「いい? こういう時、疎外感を感じる二人には奇妙な連帯感ってやつが生まれるのよ。それを生かして、一気に唯世に接近だよ」 ・・・今、頭の中で想像してみた。やばい、なんかすっごい唯世くんと距離が近い自分がいた。 恥ずかしさで顔が赤くなる。というか、ドキドキしてきた。 「でもヤスフミ、よく思いついたね。私、そういうの考えてなかったのに」 「実はシャーリーの受け売り。・・・あ、もちろんあむのことは話してないよ? あむより会う前に・・・あと、フェイトと付き合い出す前にだね。 二人でご飯食べてたらそんな話になったのよ。シャーリーの友達がそういうので意気投合して、付き合うようになったって」 「あぁ、なるほど・・・」 まぁ、実際に上手くいくかどうかは別として、なんかありがたいな。こういう風に応援してくれるの。 いや、なでしこにやや達も応援してくれてたから、それが嬉しくないとかじゃないよ? うん、そこは絶対。 ・・・そう言えば、なでしこ・・・元気にしてるかなぁ。メールでやり取りはしてるけど、やっぱり心配。踊りの稽古って、大変だろうし。 なんて青く晴れた空を見ながら考える。考えていると・・・声がかかった。 「ごめん、遅くなって」 あたし達三人は、その声の方を見る。・・・唯世くんだった。 走ってきたのか、ちょっとだけ息を切らせてる。待ち合わせの時間から、まだ10分も前なのに。 「大丈夫、間に合ってるよ」 「あはは・・・それは分かってるんだけど、キングが1番遅いのはダメかなぁと」 「なるほど、ちょっと納得。唯世、どこかで休憩してから買い物する? 息切れてるし」 「ううん、大丈夫。とりあえずは、予定通りで。それじゃあ・・・蒼凪君もフェイトさんも、よろしくお願いします」 唯世くんがそう言うと、二人が頷いた。なお、一応二人はお買い物の手伝いという感じ。 でもでも・・・ダブルデート。あぁ、唯世くんに気取られるとまずいって分かっていても、うきうきするよ。 「それじゃあ、行こう。日奈森さん」 「うん」 そう言って頷いた次の瞬間、唯世くんが私の手を取って、そのまま走った。 というか、あの・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 「・・・キセキ」 「なんだ」 「もしかしなくても、唯世って・・・天然プレイボーイ?」 「よく分かったな」 「ヤスフミと同じだったんだね・・・」 「いや、僕はあそこまでヒドくない」 あの、会話してないで・・・このドキドキを止め・・・ないでっ! てゆうか、幸せすぎー!! よーしっ! 写メ沢山隠し撮りして、思い出にするぞー!! 「あむちゃん、隠し撮りはどうなのかな・・・」 「人としてダメだよね」 「ですぅ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・なんて、楽しそうに買い物が始まった頃、私達は本局の食堂で今後の話をしていた。 まぁ、あのロストロギアのことも含めて・・・よね。で、そこに参加している人達が居る。 「・・・で、これがこの間やったやっさんの精密検査のデータだ」 その人達のうちの一人・・・サリエルさんが、私達の前にモニターを立ち上げて、見せてくれる。 隣には、サリエルさんと同じく仕事の合間を縫って来てくれたヒロリスさん。 そう、二人は約束どおりアイツの魔法が何故浄化を可能にするのか、調べてくれていた。 だけど、私達がデータを見る限り、特に変わったところはない。どこの数値が変とか、妙な記述があるとか。 「サリ、結局医療検査でもやっさんが×たまを浄化出来る理由は分からずじまい?」 「あぁ。・・・悪い、やっぱこっちの理解力を超えてるわ」 「いえ、調べてくれただけでも助かります。ありがとうございました。そうすると・・・前にサリエルさんが言ったなぎ君の不安要素は変わらず、ですか」 「そうだな。何時やっさんの魔法が浄化能力を無くしてもいい状況なのには変わらない。別にやっさんの中からたまごが出てきたわけでもなんでもないんだろ?」 私達はその言葉に頷く。・・・まぁ、変化はあったけど。 「ただ、ミキさま・・・あぁ、あむさまのしゅごキャラなんですが、その子とキャラなり出来るようになりました」 「キャラなり? えっと、なんだっけ」 「お前、説明されてただろうが。しゅごキャラとその宿主が一つになることだよ。ほら、ユニゾンと同じだ」 「あぁ、なるほ・・・えっ! やっさん、あむちゃんのしゅごキャラとそんなこと出来るようになったのっ!?」 出来るように・・・なったのよねぇ。いや、ビックリだったけど。 ≪てゆうか姉御、俺達映像見せてもらったよな。あのブレイドの意匠がちりばめられたアレを≫ 「・・・あぁ、そう言えばそんなことがあったような気も。だめだねぇ、昨日レベル上げで徹夜したから、ついつい寝ぼけてて」 ≪なぁ、姉御。社会人としてどうなんだ、それ≫ 「アメイジア、今更だから何も言うな。俺は何も言わない。なぜなら、無駄だからだ。 こいつのコレは絶対なおら・・・睨むのやめろよっ! ホントのことだろうがっ!!」 まぁ、楽しそうなお二人は放置しておこう。ただ、あれは使用条件がそこそこ厳しい。 だって、アイツとミキの体力の消耗具合が激し過ぎるもの。直後だと、自力では立てなくなるってドンダケよ。 「やっさん、俺達も訓練を見たりしてるから、そこそこタフになってるはずなのに・・・それか」 「今うちにエルって言うしゅごキャラが居候してるんですけど、そいつの話だと宿主以外の人間とのキャラなりは、相当体力を消耗するようなんです。もちろん、キャラなりした人間の方も」 「ただ、なぎくんはその状態でなら×たまや×キャラを普通の攻撃でも浄化出来るんです。ですから・・・」 「切り札にはなりえる・・・と。うーん・・・」 サリエルさんが腕を組んで考え込む。そして数秒後、何かひらめいたかのように・・・ううん、ひらめいたんだと思う。 目を見開き、ポンと拍手を撃ったから。 「よし、その問題俺とヒロが解決しよう」 『・・・はいっ!?』 あ、あの・・・なんていうか、解決出来るものなんですかっ!? だって、こっちの理解力を超えてるって言うのにっ!! 「・・・悪い、今結構適当に物を言った。いや、こう・・・なんとかなるかなーって」 「・・・サリエルさん」 「いや、その冷たい目はやめろよっ! 大丈夫、ちゃんと当てはあるからっ!!」 当てと言っても・・・大丈夫かなぁ。 まぁ、いいか。だめで元々って考えれば。問題が解決するようであれば、御の字よ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・というわけで、僕達四人はデパートでお買い物。 なお、本日の買い物内容は、ガーディアンの活動で使う備品関係。まぁ、筆記用具とかコピー用紙とかそういうのだね。 で、唯世が色々下調べしていたおかげで、効率よくお買い物は済んだ。いや、済んだんだけど・・・また量が多いなぁ。 デパートの4階部分を歩きながら思う。・・・手提げで大きめな紙袋で四つ分か。こりゃ、車持ってくればよかったね。 「そうだね、そうすれば楽だった」 「いえ、さすがにそこまでお世話になるわけには・・・というか、車あるんですか?」 「うん。一応支給と言うか、局からのリースだね。現地での活動に支障が出ないようにって」 「管理局ってすごいんですね・・・」 規模だけは無駄にデカイからねぇ。・・・あ、シャーリーが帰ってるようだったら、迎えに来てもらうのも手だね。 「あれ? でも免許は」 「当然取ってる。こっちの世界でも使えるようにしたのをね。あ、運転に関してはミッドの方で習ってたんだ。 シャーリーもそうだし、ティアナやフェイトも。あと・・・僕も」 「恭文もっ!? いや、それはまた・・・あ、そっか」 あむも唯世も納得してくれたようだ。・・・小学生やると決まってなかったら、普通に運転してたさ。バイクにも乗れたさ。 なのに、なのに・・・あぁ、もういい。学校楽しいもん。うん、いいんだ。 「あー、でもバイク乗りたいー! 車も運転したいー!!」 「ダメだよ。ヤスフミはここでは小学生なんだから。運転なんてしてたら怪しまれるよ」 「そうだね、それは我慢しておかないと。でも、恭文がバイクかぁ。車を運転かぁ。・・・想像できない」 あむ、そこはいいよ。分かってたから。すっごい分かってたから。 「ちなみに、何乗ってるの? ・・・って、あたしの分かる車種ってあるのかな」 「あー、大丈夫。外見だけなら地球のものだから。えっとね・・・トゥデイとデンバード」 「・・・・・・・・・え?」 「蒼凪君、トゥデイってホンダの軽自動車だよね。あの・・・漫画で主人公の乗るミニパトとかにもなってた」 「てゆうか、デンバードって・・・電王っ!?」 ・・・なんだろう、二人がすごく不満そうだ。 まぁ、驚きはわかる。だって、僕だってあれは驚いたから。 そう言えば・・・うちに置いたまんまだけど、なのは壊したりしてないだろうね? 一応あれは大事なプレゼントなんだから、大切にしてもらわないと困る。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・なのはママ」 「なにかな?」 「まぁ、もうヴィヴィオも慣れたけど・・・」 そっか、慣れたんだ。うん、私は・・・まだだね。 「やっぱり、視線を集めるね。この車」 「そうだね」 ミニパト・・・だもんね。さすがに集めるよね。管理局の車両とはまた違うし。 恭文君とフェイトちゃん、すごいよ。だって、これを普通にプライベートで乗れるようになったんだもん。・・・というより、乗らないとヒロリスさんにツッコまれるから。 「そう言えばなのはママ、あの話って引き受けるの?」 「あの話? ・・・あぁ、今度の戦技披露会」 「うん」 ヴィヴィオと休日のドライブ中。助手席のヴィヴィオにそう言われて、思い出す。夏頃に、またまた戦技披露会をやることが決まった。そして、私もそれに出て欲しいと要請されている。 去年の戦技披露会は、怪我の事があったから出れなかったんだよね。でも・・・2年近く経ったし、大丈夫かな。 いや、大丈夫じゃないかもしれない。理由は簡単。今、頭の中に浮かんだ人のことだ。 とりあえず、話をして、オーケーが出たら・・・だよね。 「まぁ、シャマル先生のお許しが出るかどうか・・・かな」 「だよね〜。あ、そう言えば、ユーノ君から聞いたんだけど、恭文にもまた出て欲しいって話があるんだって」 「ほんとに?」 「うん。なんかね、去年のアレが好評だったんだって」 あぁ、去年のアレかぁ。あれもなぁ・・・。 でも、そうすると一旦三人とも(当然フェイトちゃんとリインを含む)ミッドに帰ってくるのかな。 ・・・よし、帰ってきたら、思いっきり歓迎してあげようっと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・クロスフォードさんとエグザさんのプレゼントだったんだ」 「うん。まぁ、プレゼントというより試作品のテスターなんだけどね。・・・名目だけど」 「あははは・・・。でも、二人ともいい人達だよね。恭文のこと、なんだかんだで相当可愛がってるみたいだし」 うん、それはありがたい。色々助けてもらって・・・同じくらいにぶっ飛ばされて・・・。 「ね、これからイースター叩き潰しに行かない? 専務とか御前とかもう斬ろうよ。頭冷やそうよ。そうすれば僕はヒロさん達に修正を食らわずに」 「ヤスフミ、ダメだからー! お願いだから落ち着いてっ!!」 「と、とにかく・・・買い物も済んだし、ちょっと寄り道しようよっ! ほら、ここっ!!」 フェイトが後ろから押し、唯世とあむが僕の手を引っ張って入ったのは・・・雑貨店。 あ、可愛い小物やぬいぐるみが沢山。なんか、それを見てると落ち込んでいた気持ちが一気に回復した。 「・・・フェイト、これなんてどう? ほら、髪をアップにするときとかに」 そう言って、黒と赤のラインのバレッタを手に取る。・・・あぁ、いいなぁ。アップにして、うなじが見えて。それでいたずら(首筋を指でつつく)するの。 いやぁ・・・いいなぁ。 「す、すごい速度で復活したし」 「・・・えっと、似合うかな。というより、髪をアップってお風呂くらいしかやったことなくて」 「似合う似合う。ね、あむ」 「あー、そうだね。恭文にしてはいいチョイスだよ。きっとフェイトさんに似合・・・って、なんでフェイトさんも普通に乗ってるんですか。まずこの立ち直りの早さにツッコみましょうよ」 とにかく、僕達はこのまま唯世の粋な計らいで、買い物する事になった。 とりあえず・・・ヴィヴィオの進級祝いまだ贈ってなかったし、見繕うかな。あと、エリオとキャロへの仕送りとか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・蒼凪さんがバイクか。あと、車? どういうことだろう。未成年のはずなのに。 うーん・・・あ、分かった。 「おぉ、海里。分かったのか。して、答えはなんだ?」 「恐らく、モトクロスやポケバイ、それとカートだ。ほら、それならジュニアクラスもあるから」 「なるほど、納得だ。さすがにあの身長で公道を運転するとは思えんしな」 ・・・ムサシ、さすがにそれは失礼だ。普通に身長があれくらいの女性も居るんだから。 でも待てよ。8年前の映像にそのままの姿で移っていたんだから、もしかして大人・・・なわけないか。 言っては悪いが、蒼凪さんは大人に見えない。ただ、悪い意味ではなくいい意味で。 俺の知っている大人とはまた違うフレンドリーさがある。だから、どうしても大人に見えない。 「そのせいでお主の心も掴んでいるようだしな。だが、分かっているとは思うが」 「大丈夫だ。深入りするな・・・だろ?」 「その通りだ」 現在、俺は蒼凪さんにハラオウンさん、ジョーカーにキングの跡を尾行中。 理由は・・・姉さんに『休日こそ弱みを掴むチャンス。ガーディアンから目を離すな』と言われて、家から叩き出されたから。 「しかし、俺は丁度宿題に取り掛かっていた最中だったんだが」 「それにも関わらず、姉上殿は海里に尾行を命じたからなぁ。理不尽なことこの上ない」 まぁ、姉さんはあの強いところがまたいい所でもあるから、あまり言えなかったりする。人を引っ張っていくパワーがあるということは、やはりすごいと思う。 なお、現在の俺の格好はそれっぽい感じ。 「・・・だからその黒ずくめなのか」 「そうだ。ほら、そのためにここに忍の文字もある」 俺の着ているシャツの左腰の部分に、白い文字で『忍』とプリントがある。だから、これは隠密行動用・・・尾行用だ。 ・・・ムサシ、頼むからため息を吐かないでくれ。どうしてそうなるんだ。 「しかし、よく見えないな。一体なにをしているんだ?」 「海里、とりあえずメガネをつけろ。だからよく見えんのだ」 「いや、それだと俺とすぐにバレるじゃないか」 「それ以前に姿が見えなければ尾行の目的を果たせないだろうが」 ・・・大丈夫だ。大丈夫、俺は出来る子なんだ。よく姉さんにそう言われて、買い物を頼まれていた。大丈夫、俺は出来る子なんだ。 「それは恐らく使いパシリにされていただけだぞっ!? そしてお主はまた偉く単純な奴だなっ!!」 とにかく、俺は凝視する。凝視して・・・見る。ジョーカーを。理由? 目を離すなと言われているからだ。 「いや、それは意味を思いっきり取り違えているぞ」 ジョーカーが笑っている。ジョーカーがキングと話して楽しそうにしている。ジョーカーが憧れの目でハラオウンさんを見ている。 ジョーカーが自分の胸に手を当てて落ち込んでいる。ジョーカーがその様子に気づいたハラオウンさんに慰められている。ジョーカーが・・・。 「・・・海里、お主はなぜ顔を赤くする」 そんな中、ジョーカーがゴスロリチックな赤と黒のラインのリストバンドを手にとって巻く。どうやら買うべきかどうか悩んでいるようだ。大丈夫、ジョーカー・・・買ってください。似合います。きっと似合いますから。 俺には見えます。右の目であなたの今の姿を見て、左の目であなたがそれをつけている姿を見ました。だから確信を持って言えます。あなたにそれは似合います。 「いや、だから・・・なぜそうなる。海里、落ち着け。若干キャラが崩れているぞ」 あ、キングが・・・ジョーカーの髪に手を当てた。手には、ハート型の白と黒の髪留め。 それによりジョーカーが顔を赤らめる。・・・なんだろう、モヤモヤする。似合うと誉められて嬉しそうなジョーカーを見ているとなぜかモヤモヤする。 「海里、お主・・・拙者の話を聞いていないだろう」 む、ジョーカーが驚いた。そして、嬉しそう。どうやら、あの髪留めをキングがプレゼントするらしい。 ・・・・・・なぜだ。なぜ俺は今拳を握り締めているのだろう。なぜ俺は、今すぐあそこに駆け込みたくなるのだろう。 「さぁ、どうしてなのだろうな。拙者にもわからん」 そして、四人は買い物を済ませたのか、店の外に出た。 俺の脚は動く。四人を追うためじゃない。俺の脚の向く先は・・・雑貨店だ。 キングに負けるわけには行かない。 俺も、俺も・・・!! 「いや、だから深入りは・・・あぁ、もういい。これでは後々苦労するというのに」 「・・・よし、お金は足りている。問題は無い」 「スパイとしては問題が大有りだがな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・日奈森さん、お待たせ」 「フェイトもお待たせー! ソフトクリーム買ってきたよー!!」 買い物を終えて、近くの噴水がある広場に来た。目的は一つ。ここのソフトクリームが美味しいと唯世が言ってたので、休憩がてら頂くことにしたのだ。いやぁ、でもわかるよ。見た目からこのソフトクリームは素敵だもの。 ・・・だめだ。僕は、人としてダメだ。なんかどっかの豆芝みたいなこと言い出したし。 「あ、ありがとー」 「バニラとチョコ、両方あるけど・・・どっちにする?」 「えっと・・・チョコ」 「うん、ならこっちね」 うーん、なんか唯世が凄まじく嬉しそうだ。なんでかって言うくらいに嬉しそうだ。 「僕、実はバニラが昔から大好きでね。いやぁ、嬉しいなぁ」 ・・・納得したよ。もういい笑顔だもの。花丸上げたいくらいにいい笑顔だもの。 あ、フェイト。僕も一応両方買ってきたけど、どっちにする? 「なら・・・バニラかな。ヤスフミ、チョコ好きだよね」 「別にフェイトの好きな方でいいよ?」 「だいじょうぶだよ。私もバニラが好きだから。美味しいよね」 フェイトが唯世の方を見て微笑みながら言う。唯世がベンチに座りながら、力いっぱい頷いた。 ・・・まぁ、二人が通じ合っているのを微笑ましく思いながら、僕もベンチ・・・フェイトの横に座る。そして、チョコを一口。 「あ、美味しい」 「でしょ? この近くに来た時は、僕は必ず食べるんだ」 「うん、分かる分かる」 程よい甘みと疲れが吹き飛ぶ冷たさと柔らかさがいい感じだよ。うーん、やっぱり見た目から素敵だったからなぁ。 「でも、蒼凪君もフェイトさんもありがとうございました。これ、さすがに僕と日奈森さんだけだとちょっと多いですし」 「ううん、大丈夫だよ。でも、もしかしていつもこの量を買ってたの?」 フェイトが聞くのは無理がない。この量はちょっと多いもの。一人だと大変だって。 「いえ、普段は学校の帰りとかに調達することが多いんです。ただ、今日はバーゲンだったのと、ここしばらく×たま狩りに集中してて資材調達を怠ってたんで・・・」 「「なるほど・・・」」 うーん、唯世すごいなぁ。なにげにこういうのちゃんとしてたんだね。 「キングだもの。当然だよ」 「何がどう当然なのかは今ひとつあれだけど・・・うん、すごいよ。あむ、僕達も頑張らないとダメだね、これは」 「そうだね。ちょっと反省した・・・。あ、それと唯世くん。あの・・・これ、ありがと」 あむが少し頬を染めながら、右手で髪留めを触る。・・・唯世がプレゼントしてくれたハートマークの髪留めを。 うーん、おしゃれだしあむに似合ってるんだよね。ただ、なんだろう。何かが引っかかってる。こう、なんか見ていて引っかかっている。まぁ、そこはともかく・・・ちょっと報告だ。 ”フェイト、ちょっといい?” ”あ、うん。どうしたのかな” 少し驚いた声。思念通話でもこういうのが分かるのは、フェイトのいいところだと僕は思う。 ”・・・なんか僕達、尾行されてたみたい” ”また気配、感じたの?” ”うん。でも、おかしいんだよねぇ” 感じた視線がこう・・・熱っぽいというか、なんと言うか。 うーん、なんだろう。二階堂とか普通に尾行された時みたいな敵意じゃないんだよね。 ”熱っぽいかぁ。あ、もしかして悪意を持った尾行じゃなくて・・・憧れじゃないかな” ”憧れ?” ”うん。ほら、ガーディアンは有名だから。唯世君なりあむなりヤスフミなりに憧れてる子が、ついつい・・・って” なるほど。僕はともかく、唯世とあむのファンは多いらしいからなぁ。それが原因と言うのは充分に考えられる。 確かに、今のあむの唯世を見る視線がそれに似てるから・・・そっか、そう考えれば納得かも。 ”ちなみに、今は?” ”感じない” ”なら、大丈夫だよ。まぁ、今後も続くようなら対策はその時でいいんじゃないかな” ”・・・そうも行かないかも知れませんよ” この声・・・アルト? またいきなりどうしたのよ。 ”いえ、あなたから話を聞いて、サーチで少し調べたんですが・・・私達を尾行していたの、海里さんのようなんです” ”海里君がっ!? ・・・アルトアイゼン、それ・・・間違いないのかな” ”間違いありません。つまり・・・” そうか、つまり・・・。 ”海里君、あむのことを・・・” ”まぁ、間違ってもフェイトさんは無いでしょうね。あのラブラブっぷりを見せ付けられて手を出す人間など、居るとは思えません。というより、フェイトさんもそのつもりないでしょ?” ”当然だよ。・・・例え迫られても、私はヤスフミのことが好きだもの。なにをされようと、絶対に変わらない。全力全開で断るよ。力ずくでこようとするなら、こっちも力ずくで断る” ”今までのアレからは想像出来ない惚れっぷりですね。私はビックリですよ” ・・・なんだろう、すごくうれし・・・って、そうじゃないわボケっ! お前ら揃いも揃ってなに言ってるっ!? もうちょっと他の可能性を考えなよっ!! 例えば海里が・・・海里が・・・。 ”まぁ、何か相談されたら話は聞こうか” ”そうだね” なんてフェイトの言葉に返して、話は終える。・・・海里が、二階堂と同じ目的で尾行していた・・・とか、そういう話は考えないようにする。 いや、まさか・・・でも、ありえないことじゃない。ありえないことじゃないけど、そうは思いたくない。 だって、海里は普通にいい奴で、面白い奴で、僕にとっては剣術仲間で・・・。 だけど、だけど・・・。 「・・・ね、唯世くん。本当に似合ってる?」 「うん、似合ってる・・・というより、ステキだよ。ドキっとするくらい」 ・・・とりあえず、この話は後でいいか。なんかすごい照れているあむと、天然っぷりを発揮している唯世を見ていると癒される。 「・・・辺里唯世、蒼凪恭文より重度の天然タラシ男・・・と」 エル、とりあえずそのメモはやめて。てゆうか、僕タラシじゃないから。本命居るから。 でも、唯世が天然タラシなのは同意。 「そ、そんなことないよ」 「いや、僕も常々そう思っていた。唯世、お前はあまりに無自覚過ぎる。だから無駄に告白されるんだ」 「キセキまで・・・。あの、そうじゃないよ。僕はただ・・・」 なんだか、唯世がもじもじし出した。・・・どったの? 「ただ、アミュレットハートみたいでステキだなって、そう思って」 その言葉に、あむがすっごいヘコんだ。もう泣き出しそうになってる。 僕とフェイトは顔を見合わせて、ちょいとお小言をくれてやることにした。さすがにこれは 『始まりはーいつもとーつぜんー♪ 運命は君の物ー♪』 ・・・言おうとして、着信が入った。僕の携帯端末に。 「ヤスフミ、着メロ変えたの? というか、それは・・・」 「ナイスでしょ?」 「そうだね」 「フェイトさんがなんか嬉しそうに同意したっ!?」 とにかく、折りたたみ式の端末を開いて、誰からかかってきたのかと画面を見ると・・・恭太郎だった。 とりあえず、一旦出る。 「もしもし、恭太郎?」 『あー、じいちゃん。いきなりで悪いけど、今いいか? ちょっと話があってよ。あと、フェイトさんもそっち居るよな。悪いけど一緒に聞いてくれ』 「それは大丈夫だけど・・・なんで?」 『いいから、頼むわ』 なにやら真剣な声。まぁ、そういう話なら・・・聞こうじゃないのさ。 「わかった。ちょっと待って」 僕は、端末を一旦耳から話して、フェイトとあむ、唯世を見る。 「あむ、唯世。ごめん、ちょっと電話。フェイトと一緒に少し離れるけど」 「・・・私も?」 僕はフェイトの言葉に頷く。 「というわけで、悪いんだけど」 「うん、こっちの方は大丈夫だから、行ってきていいよ」 「ごめんね」 とにかく、そこから二人一緒に一旦離れて・・・まぁ、恭太郎の声の様子から何かあるんだろうと察したの。 少し距離を取って、恭太郎にもう大丈夫だと伝える。すると、話が始まった。 『ほら、じいちゃんの頼まれ事だよ。ちょっとリインさんに手伝ってもらってさ』 「・・・あぁ、それでか」 「ヤスフミ、頼み事って?」 「恭太郎、みんなとまだ接触してないでしょ? だから、学校に二階堂みたいな形でスパイが入り込んでないか調べてもらってたんだよ」 僕の説明に、フェイトが納得した。・・・いや、ちょっと不満気だけど。 「とゆうかヤスフミ、私に説明なかったよね」 「あんまり気持ちのいい話じゃないからさ。無いなら無いで、済ませたかったの」 「そっか。でもね、ちゃんと話して欲しいな。そうすれば、辛いの・・・一緒に背負える」 「・・・うん、ありがと」 『・・・・・・なぁ、二人とも俺の話を聞いてくれよ。こっちにまで甘ったるいのが伝わってきてもうすごいんだから』 あぁ、ごめんごめん。フェイトへの愛で一杯だったんだ。 それで、こうして電話がかかってきたってことは・・・なにか成果が? 『あぁ。・・・実はさ、この間偶然なんだけど、ガーディアンの三条海里ってと接触したんだよ』 その言葉に、胸が貫かれる。だって、さっき・・・ちょうどその名前が出たところだったから。 そして、僕とフェイトは・・・覚悟を、決めることになった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・恭文とフェイトさんが電話のために出た後、唯世くんも席を離れた。というより・・・離れさせちゃった。 原因は、あたしがスカートにソフトクリームを落としたから。唯世くんは、近くの水道でハンカチを濡らしてくると行って、そのまま。 なお、唯世くんのバニラは私が預かっている。あ、フェイトさんと恭文は自分達で持ってった。 というわけで、日奈森あむ。現在右手にチョコ、左手にバニラという、両手に花ならぬ両手にソフトクリーム状態です。 「でも・・・あぁ、王子の食べかけアイス・・・」 「あむちゃん、食べるのとか無しだよ? いや、人としてさ」 「完全にアウトですぅ・・・」 でもでも、バレなきゃいいとも言うし・・・いや、さすがにそれはないか。唯世くんがオーケーとか言うならともかく。 あぁ、でもこんなチャンスはもう二度とこないかも知れないし・・・。 「日奈森あむは変態・・・と」 「エル、お願いだからそんなことをメモ・・・されてもしかたないか」 「ミキもお願いだからフォローしてよっ! てゆうか、あたしそんなことしないしっ!!」 あ、こんなことをしている場合じゃない。ソフトクリームが溶けて落ちそうだし。 なので、私はペロリと舐めてそれを止めようとする。言っておくけど・・・チョコ味だからね? 「ん・・・」 ・・・そんな時だった。普通にそれを舐めて止めた奴が出てきた。 てゆうか、イクトだった。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「・・・よ」 全速力で後ずさりして、距離を取る。 てゆうか・・・ふ、普通に挨拶してきたっ!? てゆうか気配無さ過ぎっ! アンタ、なんでそんな近づけるのよっ!! 「ネコだからだろうな」 「納得出来るかー!!」 「てゆうかお前、アイスを両手食いってどんだけ食いしん坊なんだよ。・・・太るぞ?」 「ち、違うっ! こっちのバニラは唯世くんの」 あたしの言葉に、イクトは口元に右手を当てて少し考える。 「唯世の?」 「そうだよ」 「ふーん」 ・・・なんだよ、なんでそんなジッと見るのさ。 「俺も好きだぜ」 イクトが、流し目・・・って言うのかな、そういう視線を向けて言ってきた。 というか、あの・・・・・・え? 「チョコ味」 なんだろう、すっごいムカついた。これ、罪じゃないよね? 絶対罪じゃないよね? 「期待した?」 「するかバカっ! てゆうか、アッチ行けっ!! シッシっ!!」 あたしは右手で・・・あ、動かせない。動かしたらあたしのチョコアイスがとんでもないことになる。 「てゆうか、そうやっていつもからかってばっかりで・・・わけわかんないしっ! いい加減ほっといてよねっ!!」 「ほっとけねーよ。・・・気になるし」 イクトが、左の膝を抱えながらそう言ってきた。その言葉に、ドキっとしてしまう。不覚にもドキっとしてしまう。 だ、だって・・・あの、歌唄が『イクトがこんなに気にする女の子、今まで居なかった』・・・と言ってた事を思い出したから。 「・・・ぷっ」 そして、そんなあたしを見て、イクトは笑い出した。クスクスと、おかしそうに。 ・・・そっか、またか。またからかわれたのか。あたしはさ。あははははははははは。 「こんにゃろーーーー!!」 立ち上がって、イクトに迫る。蹴りの1発でも叩き込んでやろうと思ったから。 でも・・・躓いた。それはもう見事に躓いた。 そのまま、あたしはこけた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ とりあえず、電話は終わった。まぁ・・・現状維持という感じで話をまとめた。 とにもかくにも、本人に話を聞かなければどうにもならないというのがその理由だ。 「・・・でも、海里のお姉さんがイースター社で働いていて、あのほしな歌唄のマネージャーだったなんて」 「恭太郎だけじゃなくてリインと、今日は居ないけど咲耶も調査に協力した上での結果だもの。信じないとどうにもならないよ」 ”それで、どうするんですか? 今日の事と言い、恭太郎の話と言い、現状で三条海里という人間が怪しいのは間違いありませんけど” ”Sir、私もアルトアイゼンと同意見です。絶対ではないにしろ、限りなく黒に近い位置に彼は居る” 問題はそこだ。まず、海里が自分の姉の仕事を知っているかどうかという問題がある。知っていなければ、ここは問題なし。 次にもし知っていた場合、どの辺りまで知っているかという話になってくる。仮にイースター社の事まで知っていた場合、海里の性格ならどうするだろうか。 僕が思うに、みんなに何かしらの相談をしてくるのではないかと思う。でも、それもなかった。 とにかく、姉の仕事の全てを知っていたとして、なぜ話さなかったのかという話をする。考えられるのは二つ。話すことで僕達にスパイと疑われる事が怖かったのか。もしくは・・・本当にスパイだから、話す必要が無いと判断したのか。 「正直ね、海里君がスパイじゃないという可能性はかなり低いと思うんだ。ほしな歌唄が動き出した時期と、海里君が学校に来た時期が見事に一致しているもの。なにより、海里君はお姉さん・・・三条ゆかりという人のところに住んでるんだよね」 「うん」 「親御さんからも離れてるって言ってたし・・・もしかしたら」 なるほど、フェイトの言いたい事は分かった。だって、僕も考えていたから。 「自分の弟がキャラ持ちなのを利用するために、田舎から引っ張ってきたと」 「多分、そうじゃないかなと」 海里が言っていた。家事が一切出来ない姉なので、そのフォローが大変だと、どこか楽しそうに話していた。 それを見て、僕は・・・こう、姉の事が本当に好きなんだなと言う印象を受けた。だって、もし嫌いとかフォローが嫌とかなら、あんな自分が必要とされていることが嬉しいと言うような顔はしなかったと思うから。 「フェイト、海里・・・言ってたよね。つばさと太郎を子守した時にさ・・・」 『・・・存在して、生きている事、それ自体が奇跡。ならば、きっとたまごも同じだと、俺は今・・・思いました。その奇跡を俺のちっぽけな力で守れるならば、守りたいとも思いました』・・・そう、海里は言っていた。 なのに、イースターの悪事に加担しているかも知れない。・・・なんでなのさ。なんで、そうなるのさ。 「・・・ヤスフミ、海里君を、信じたいの?」 「かも・・・知れない」 ダメだね、甘いよ僕。やっぱり、腑抜けてきてる。こういう可能性も、考えなかったわけじゃない。承知の上で恭太郎と咲耶に調査を頼んだってのに。 右の拳を握り締める。どうにもやりきれなくて、少し苦しい。 「いいんじゃ、ないかな」 フェイトの左手が、僕の頭に乗る。そのまま優しく・・・撫でてくれる。優しく、安心させるように、微笑みながら。 「だって、海里君はヤスフミやみんなの仲間なんだもの。信じたいに決まっている。 それに私も、あの時の海里君がみんなを騙すためにそんなことを言ったなんて、どうしても思えないんだ。だから、それでいいよ」 「・・・そう、かな」 「そうだよ。それに、まだ海里君が本当に加担しているかどうかはわからない。折を見て話して、それからだよ」 「だね。フェイト、あの・・・ありがと」 「ううん」 とにかく、海里の様子には気をつけておこう。これからのキーポイントになるのは間違いないんだから。 僕がそんな方針を決めて、あむのところに戻ると・・・固まった。 唯世もどこかへ出かけていたのか、ハンカチを持って固まっている。いや、今ぽとりと落としたけど。 理由? 簡単だよ。・・・猫男が、右手にチョコ、左手にバニラのアイスを持ったあむをお姫様抱っこしているから。 「「・・・なにしてるのっ!?」」 てゆうか月詠幾斗っ! なんでお前ここに居るっ!? おいおい、僕とフェイトが居ない間になにがあったんだよっ!! 「そ・・・そうだっ! 月詠幾斗、早く日奈森さんを話せっ!!」 「いや、こいつから抱っこされてきたんだぜ?」 え、マジっ!? あむ・・・おのれは一体何をしているっ! 協力どうこうの前におのれがそうやってフラフラしてたら意味ないでしょうがっ!! 「ち、違うっ! あたしは転んだだけだってっ!! 転んで・・・こうなったんだよっ!?」 「どう転んだらそうなるのか、僕は是非とも聞かせて欲しいんですけどっ!?」 「つーかお前・・・」 猫男が唯世を見る。見て・・・ニヤリと笑う。 「今でもバニラが好きだったんだな」 「な・・・!!」 「相変わらず、お子様味覚」 そう言いながら、唯世がさっきまで食べていたと思われるバニラソフトを舐める。というか、舐め方がいやらしい。 あ、猫男の舐めているのと逆の部分がトロリと・・・。 「あむ、そっち側」 「え? あ、うん・・・」 とか言いながらおのれはそっちを舐めるなぁぁぁぁぁぁっ! なんで二人で一つのソフトを舐めあってるんだよっ!! どんだけ濃厚プレイっ!? 「あ、あんなの・・・だめだよっ! あむ・・・その、そういうのはもっと大人になって、大事な人に対して」 「フェイトもいきなりなんの話してるっ!? 顔を赤くしながら凝視するのはやめてー!!」 「・・・くくく、いいのか唯世? ボヤボヤしてると、だーい好きなバニラソフトもあむも、おにーたんが食べちゃうぞ」 ・・・・・・とりあえず、どうしようか。 ”殴ればいいと思いますよ” うん、そうだね。それでいくよ。 というわけで、僕はスタスタと歩いて行って・・・バニラソフトをふんだくった。なお、僕とフェイトはとっくにソフトを食べ終わっている。 「あ」 「何邪魔してんだよ。ここからがいいとこ」 「・・・・・・やかましいわボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 パシィィィィィィィィィィィンッ!! 『いきなりハリセンで攻撃っ!?』 そう、どこからか持ってきたハリセンで、猫男の頭を全力で殴ってやった。 「痛ぇ・・・。だからお前、なにす」 「あ?」 若干柄の悪い目で見てしまうのは、きっとあんまりな状況に対しての怒りのせいだと思うことにする。 「・・・なんでもない」 そうか、ならよかった。つーわけで帰れ。色々とこっちは忙しいんだよ。真面目に忙しいんだよ。 「あぁ、そのつもりだ。もう充分からかったしな。・・・それと、お前」 「なに?」 「歌唄のやつと、もしよければ仲良くしてやってくれ」 ・・・はぁっ!? いきなりなに言い出してんのさっ!! 「アイツはお前の事、随分気にしててな。まぁ、本命が居るらしいから、付き合うとかそういう高度な事は求めてないが」 「そのニヤニヤした視線をフェイトに向けるな。目潰しするぞ。つーか、なんで僕が歌唄と」 「そうすると俺が非常に楽になる」 そっか、そうなんだ。うん、分かってたよ。妹はともかく兄は乗り気じゃないみたいだしね。 ようするに、僕が歌唄の気を引くと自分へのマークが楽に・・・アホかぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ただでさえフラグどうこうって言われてるのに、なんでそんな地雷原へ突入しないといけないんだよっ!! 嫌だっ! 絶対嫌だっ!! 「いいじゃないか。アイツは美人だし、スタイルだってこれからどんどんよくなるから、きっといいぞ」 「そう言う問題じゃないんだよっ! 本命放っておいて他の女の子になんていけるわけがないってーのっ!! ついでに妹を売るかっ!? 普通兄として止めるだろっ! どう考えたって止めるでしょうがっ!!」 「普通、兄として妹と恋愛はしないと思うからこそ、頼んでるんじゃねぇか」 ・・・なるほど、ここは納得せざる終えない。言ってる事に間違いはないんだから。 「あと、アイツが普通なら、別にお前なんかに頼む必要はないんだけどな。・・・最近、おかしいんだよ。アイツ」 少しだけ、真剣な表情に戻って、小声で猫男が言った。それに、熱くなっていた頭が冷めていく。 おかしいって・・・どういうこと? いや、アレは元々おかしいと思うけど。実の兄にディープキスだし。 「バカ、そういうんじゃねぇよ。・・・っと」 猫男が後ろに飛ぶ。僕も、同じく。理由は簡単だ。僕達・・・いや、猫男を狙って、金色の光の奔流が放たれたから。 「とにかく、頼んだぞ。俺は・・・コイツの遊び相手にならなきゃいけないからな」 そう言って、猫男がある一点を見る。で、僕も見ている。 てゆうか・・・これ、唯世のホーリークラウンっ!? あ、頭に王冠・・・なんかキセキとキャラチェンジしてるっ!! 「許さない・・・許さないぞぉぉぉぉぉぉぉっ! 月詠幾斗ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 唯世の背中から、赤いオーラがほとばしる。そしてそのまま、ホーリークラウンを飛びのいた猫男に向かって乱射。 猫男は、当然のように逃げて・・・逃げて・・・それを唯世が追いかける。 「そう言えば、ガキの頃もよくバニラ食ってたよな。おにーたんの膝の上で」 「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 そのまま、どこか遠いところへ二人とも去って行った。去って行って・・・帰ってこない。 あ、あのバカ・・・僕とフェイトはともかく、あむを置いてけぼりにしやがった。なんだよ、これ。なんなんだよ、これ。 「ヤスフミ、今のってなんだったの?」 「知らない」 「日奈森あむは、振られて置いてけぼり・・・と。あぁ、あれはエルの経験上から言わせてもらうと、帰ってきませんねぇ」 「えぇっ!?」 とりあえず、エルにそんな経験があるかどうかはともかく・・・このままはまずいよね。荷物多いし、あむがヘコむし。 「フェイト、とりあえずソフトパス」 「あ、うん。・・・えっと、どうしようかこれ」 「どうするもこうするも無いでしょ。・・・あむ、僕は唯世連れ戻してくる。まだそんな遠くに行ってないと思うから、フェイトと待っててくれるかな」 「・・・わかった」 僕はフェイトの方を見る。視線の中に『それでいいかな』という気持ちを込める。 それだけで、フェイトには伝わったようで、頷いてくれた。 「でも、もし唯世君を連れ戻すのが無理なようでも、戻ってきて欲しいな。さすがにこの量を私とあむだけでは・・・」 「分かってる。それじゃあ、行ってくるね」 「うん。気をつけてね」 ・・・ねぇ、神様。一体何考えてるの? 確かに何か起きたけどさ、これはないでしょこれは。お泊りデートの方がまだマシだって。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・そして、数分が経った。アルトアイゼンも居るから大丈夫だろうとは思っていても、ちょっと心配。 でも、月詠幾斗・・・普通に出てくるよね。私、ビックリしたよ。 「うぅ・・・どうしてこんなことに? あたし、普通にこけただけなのに」 「そう考えると、月詠幾斗はあむを助けてくれただけなんだよね。うーん、ちょっと可哀想だったかな。完全に悪者扱いだったわけだから」 「そう言われると・・・そうかも。あたし、悪い事しちゃったかも」 なんだろう、この子と月詠幾斗の関係が今ひとつわからない。 普通に敵・・・というのも違うし、かと言って昔の私となのはとも違うし。うーん、なんでなんだろう。 「ねぇ、あむ。一ついいかな」 「はい?」 「月詠幾斗とはどういう関係なの?」 「・・・うーん、よくわからないんです。イースターの関係者だから敵ではあるけど、でも助けてもらうこともあったりするし。 この間歌唄と会った時みたいにズレた謝り方されたりもするし・・・なんだろう。やっぱり、よくわからないです。あぁ、それと」 ・・・・・・それと? 「話が少し変わっちゃいますけど、唯世くんとイクトもよく分からないんです。唯世くん、イクトのことになるといつもあぁなりますし。こう、普段と違って感情的になるというか、押さえが利かなくなるというか」 それは私も感じた。唯世君は普段は温厚だけど、月詠幾斗のことが絡むと妙に感情的に・・・あれ、なんで私自分の事と重ね合わせてるんだろ。 あぁ、理由なら分かる。私もスカリエッティと対峙してた時はあんな感じだったからだ。うぅ、あれを見て、ヤスフミが言っていたことがまた身に染みてきたよ。私、やっぱりまだまだ弱い剣だ。 「・・・・・・ハラオウンさん、ジョーカー」 声がかかった。その声に、少し胸が苦しくなる。・・・だめ、警戒しているところを出しちゃだめ。まだわからないんだから。 とにかく、そちらを見ると、海里君が居た。というか、なんで黒ずくめ? なんで『忍』の文字のプリント? 「あれ、いいんちょ。どうしたの?」 「たまたま通りがかりまして・・・」 嘘・・・だよね。あなたは私達を尾行していた。 だから、ここに居る。もう知っているよ? 「お困りのようでしたら、お手伝いしますが」 「え、いいのっ!? ・・・あー、でも恭文と唯世くん待ってるところだから。それに、いいんちょは用事とかない?」 「それは大丈夫です。なら・・・ジョーカー、これを」 海里君が、そう言ってあむに紙袋を渡した。あれ、これって確か私達が寄った雑貨屋の袋じゃ。 あむが袋を開けて、その中を見ると、そこには・・・あ、これはあむが見てたアクセサリー。 「あぁっ! これほしかったんだー!! ・・・でもいいんちょ、どうしたの?」 「・・・この間、い・・・いちごを頂きましたので、そのお礼です。あなたに・・・あの、に、似合う・・・かと思いまして」 「それで買ってくれたのっ!? ・・・いいんちょ、ありがとー!!」 「い、いえ・・・」 少し緊張気味に、顔を赤くして話す海里君と、早速アクセサリーを腕に巻いて、嬉しそうにしているあむの二人を見て・・・少し、考えた。 私も、ヤスフミと同じで信じたくないかなと。この子がスパイだなんて、信じたくない。 だって、今あの子が浮かべている戸惑いと、あむが喜んでくれたことへの嬉しさが混じった笑顔には、嘘を感じないから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・ジョーカーが嬉しそうにしてくれている。 よかった。思いつきだけで送った品だったから、不安ではあった。 その・・・ハートの髪飾りもよろしいと思います。素敵だと思います。 ですが、俺は・・・俺は、いつものありのままのあなたの方が・・・!! 「・・・日奈森あむは意外に天然プレイガール・・・と」 「海里・・・どんどん深みにはまっていくな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・降りてこーいっ! 月詠幾斗ー!!」 「・・・・・・木登りが苦手なのも変わらずなんだな」 「く、こうなったら・・・ホーリーっ!!」 「いい加減にせんかいっ! このバカキングがっ!!」 パシィィィィィィィィィィィィンッ!! 「痛ぁ・・・。あれ? あ・・・蒼凪君。どうしてそんなに睨むのかな。というか、あの・・・怖いんだけど」 「やかましいっ! あむほったらかしてネコ追っかけるってどういうことっ!? ありえないっ! めっちゃありえないからっ!!」 「で、でも・・・月詠幾斗が」 「でもじゃないっ! ほら・・・戻るよっ!!」 とりあえず、首根っこを掴んで引っ張る。 「あ、蒼凪君っ! 痛いっ!! 痛いからやめてっ!!」 「僕は何も聞こえない。・・・とりあえず、うちのキングからかうのはやめてくれると助かるな。やってもらわないといけない仕事が結構あってね、そこから離れられると僕達が困る」 「なら、その仕事が無い時にからかう事にするさ」 「うん、それでいいや」 ・・・そんなことを言って、王様を引っ張る。全く、なんですかこれは。何度か言ってるような気がするけど、ありえないでしょ。 猫男は・・・もう飽きたのか、どこかへと跳んで行った。 「唯世、真面目な話。いい?」 「あ、うん」 「僕はいい。フェイトもいい。でも・・・あむにこんな真似するのは、絶対ダメだから」 首から手を離し、そのまま歩きながら言う。唯世は、追っかけてくる。 「女の子と一緒に出かけたのに、その女の子放り出すなんて、男として最低だよ? 最低限のマナー以前の問題だって」 「・・・ごめん」 「僕に謝る前に、あむに謝る。いい?」 「うん」 まぁ、あむが多分に悪い部分があるような気がしないでもないけど、ここはいい。 それに・・・ねぇ。あの様子だと、あながちアミュレットハートだけに興味を持っているわけじゃなさそうだから。 それだけであんな我を忘れたような怒り方をするとは思えないもの。 ・・・いや、それだけじゃないのかも知れない。 うし、いい機会だし、気にはなっていたから一つ聞いておこうか。 「唯世、一つ質問。歩きながらでいいから答えて」 「なに、かな」 「月詠幾斗、昔からの知り合いなの? というか、なんか昔何かあった?」 唯世が俯いた。表情が少しこわばったように感じたのは、気のせいじゃないと思う。 「どうして、そう思うの?」 「逆に聞きたいね。さっきのアレを見て、どうしてそう思わないのかをさ。思う理由なら最低でも二つはあるじゃないのさ」 一つ。唯世は月詠幾斗の事になると、感情的になる傾向が強い。僕とアレが初めて接触した時にも、感情任せで飛び出そうとした。・・・見ていて、いつぞやのフェイトを思い出してしまった。 二つ。唯世はともかく、月詠幾斗は昔から唯世を知っている様子だった。例えば・・・唯世がバニラを好きだった事を知っている事とかもそうだし、おにーたんとかなんとかもそうだ。多分だけど、そうとう子どもの頃からの知り合いじゃないかと思った。 待てよ。ということは、もしかして月詠幾斗の妹であるほしな歌唄とも・・・。 「恭文、すまん。今は聞かないでもらえるか?」 静かに言ってきたのは、キセキだった。いつもとは違う、低姿勢な感じに、少しびっくりする。 「・・・理由は?」 「唯世の傷にも触れる部分なんだ。お前やリインにフェイトさんもそうだが、ガーディアンの人間・・・卒業した空海や留学したなでしこも知らない」 なるほど、他はともかく、唯世にとってはそれくらい重いことと。・・・全く、だったら無理に聞くわけにはいかないじゃないのさ。 仲間だからって、なんでも知らなきゃいけないルールなんてないもの。・・・そう考えると、海里のことを勝手に調べる形になったのは、アウトだよなぁ。 「分かった。ならこの話はここまでにしておく」 「すまないな」 「いいよ、別に。・・・でも唯世、キセキ。これだけは覚えておいて」 でも、それだけで終わらせるわけにはいかない。 唯世とキセキはガーディアンのキング・・・王様だ。ちょっと頑張ってもらわないと困ることがある。 「今の調子を他のメンバーにも見せ続けてたら、絶対にみんなが僕と同じ疑問を抱く。現に、僕もそうだし、フェイトも同じ事を思っているはず。あむだって・・・きっと同じだ。月詠幾斗とは繋がり深い感じだしね。 そして、それは月詠幾斗とほしな歌唄が敵である現状だと、あんまりいただけない。・・・・・・もっと率直に言うと、二人がどれだけ月詠兄妹の事を知っている人間かというのが、遅かれ早かれ問題になるよ?」 僕は、二人に暗に言っている。そうなった場合、イースターと繋がりがあるのではないかと疑われることになると。だから話せないのではないかと邪推をされる事になると。 だから、キセキも唯世も、表情が重い。それを見て、少し心が痛んだ。 「・・・そうなる前に、僕達から話した方がいいということだな?」 「だね」 まぁ、みんないい子達だから、そんなことにはならないとは思うけどさ。それでもこうすれば、面倒は少ないと思う。 ただ・・・なんだよね。 「・・・悪い、これは明らかに余計なおせっかいだね」 僕は中途参加もいいところだもの。それに、そんなことはきっと唯世やキセキなら、もう分かっているはずだから。 「いや、そんなことはない。確かにお前の言う通りだと僕も思う。・・・唯世」 「うん。・・・蒼凪君、ごめん。でも、いつか・・・いつか話すから、それまで待っててくれないかな」 「いいよ。あと、どうしても話せないことなら、話さなくていいから。その時は、僕もフォローするよ」 「・・・・・・ありがとう。うれしいよ」 平和な日常。だけど、その中で確かに進行していく非日常。 それと僕達が接触する時は、もうすぐそこにまで迫っていた。だけど、僕達はそれをまだ知らなかった。 (第21話へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |