小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第19話 『絶望を斬り裂くは、超光速の雷鳴』:2
たまごはそのまま消えた。そして、一階からあの不愉快な叫び声。そのまま勢い良く部屋を飛び出し、玄関部分へと戻ると・・・居た。
×キャラと、キャラなりしたりまが。
「・・・変身っ!!」
≪Riese Form≫
纏うのは、白と蒼で構成された騎士甲冑。両手を包むは堅き盾、腰に下げるのは古き鉄。
僕は、そのままリーゼフォームにセットアップ。そこから跳んで・・・アルトを抜いて、上段から×キャラに向かって打ち込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
それを、×キャラは避けない。避けずに・・・手に持った筆を振るってきた。
「あぁぁぁぁぁっ! それ、ボクの技っ!!」
そう、ミキのカラフル・キャンバスに似た技だった。ただし、色は黒。
それをアルトの刃で構わず両断しながら、床に着地。衝撃で埃が辺りに舞うけど、気にしてる場合じゃない。
×キャラはその間に後ろに飛び去って、距離を取ってる。
「りま、大丈夫?」
「遅いわよ。今まで一体なにしてたのよ」
「あの子のしゅごキャラから事情を聞いてた。で・・・あれが武って子?」
「・・・しゅごキャラ、居たの?」
×キャラから目を逸らさずに、コクンと頷いた。
「てゆうか、存在をあの子に気づいてもらってなくてさ。この家に置き去りにされてて、消えかけてた」
「・・・・・・マジで、バカじゃない。救いようがないわよ」
りまが何に対してどう言っているのか、今ひとつわからなかった。
そして、その間に変化が起きる。×キャラが両手に持った筆を振るって・・・薄暗い空に、黒い絵の具で絵を描いた。それは、自分。
その自分の絵は、約10前後。それが・・・実体を持った。
『ムリィィィィィッ!!』
『ムリィィィィィィィィィィッ!!』
『ムリィィィィィィィィィィィィィィッ!!』
そのまま、筆を振るい、絵の具を弾丸にして僕達に打ち込んでくる。僕は、りまをかばうようにして、魔法を発動。
≪Round Shield≫
青いベルカ式魔法陣の形をした盾が、黒い弾丸の雨を防ぐ。
その間に、うしろのりまがピンを複数出現させて、両手に持つ。
「とりあえず動きを止める。・・・浄化、任せたわよ」
「了解」
それだけ、本当にそれだけ言葉を交わせば、僕達には十分だった。
りまはそのまま両腕を振るう。
「ジャグリング」
ピンは、その勢いのまま、光の軌跡を描きながら、×キャラへと飛び出した。
「パーティー」
飛び出したピンは、降りしきる弾丸の雨を縫うようにして直進し、×キャラへと命中・・・しない。×キャラ達はそれをひらりと避けて、ピンはその脇をすり抜けた。
軌道を変えて、再び迫って来たピン達を、×キャラは筆を振るって黒い絵の具の盾のように展開して、それを防ぐ。
『もう・・・嫌だ。もう放っておいてくれ』
聞こえてきたのは、多分あの子の声。頭を抱え、全てを拒絶するような暗い声が、かなり広めに作られている玄関部分に響き渡る。
『お願いだから、放っておいてくれ。もう夢なんてみないから。見ても無意味だから。お願いだから、俺を放っておいてくれ』
・・・くそ、つーかうざいしうるさい。どんだけネガティブハートに心囚われてるのさ。
「てゆうか、そんな場合じゃない」
「え?」
「ここにある絵、あの子のおじいちゃんがほとんど描いてるんだって」
そう言えば・・・絵があっちこっちあったな。ココとあった部屋にも、何枚かかざってあったし。というか、あの倒れている子の絵だった。
そして、りまは今、その絵が・・・弾丸によって穴が開いていく所を見ている。どこか、悲痛な表情で。
「なら、速攻で勝負つけないとね」
「え?」
「壊されるの、嫌・・・なんでしょ?」
りまは、振り返った僕の眼を見て・・・コクンと、頷いた。
なら、やりますか。騎士としては、クイーン・・・女王の要望には応えないとね。・・・咲耶、聞こえる?
”はい”
”最後の手段、許可する。今すぐにやっちゃって。で、入れたらすぐにやるよ”
”了解しましたわ”
なんて方針を決めていると、再び変化が起きた。
『ムリィィィィィィィィィィィィッ!!』
弾丸を撃っていない×キャラ二人が絵を描く。
それにより、数が30に・・・ってなんつうズルをするのっ!?
『もういいんだ。幸せだったあの頃は・・・もう返ってこないんだ。
どうだっていいっ! もうなにもかもどうだっていいんだっ!!』
てゆうか・・・全員揃って撃ってきたぁぁぁぁぁぁぁっ! 弾丸の雨って言うか壁だよこれっ!!
「・・・バカ、みたい」
再び、りまの周りにピンが生まれる。そのピンは僕の前まで来ると、それがそれぞれに回転して、僕達を守る盾となる。襲ってきた弾丸を、全て弾いた。
×キャラ達・・・いや、元は一体だろうけど。とにかく、それらが驚く。そんな驚いた×キャラを、りまが・・・するどく見据える。
「バカみたい。あなた、本当にバカみたい」
そのまま、僕の後ろから一歩ずつ出てくる。出てきて、声を上げる。
そこに込められていたのは、怒りと、悲しみと、やるせなさ。
「何も変わらないわよ。あなたが夢を捨てたって何も変わらない。あなたの目の前の現実は、なにも変わらない」
それを見て、思った。りまは多分、怒っている。
「変わるわけが・・・ないじゃないのよっ!!」
叫びが響く。初めて聞いた、本気の怒りを込めた声。少し・・・驚いた。
『・・・うるさいっ! 黙れ・・・黙れ黙れ黙れ黙れっ!! お前になにがわかるっ!? 分かるわけないのに、偉そうなこと言うなっ!!』
「黙らねぇよっ! てゆうか、黙るのはそっちだっ!!」
その怒号は僕。てゆうか、頭来た。ネガティブにも程がある。程がありすぎる。
「りまの言う通り、過去なんて、幸せだろうが不幸せだろうが、どんなやつだろうが、絶対に帰って来ない。帰ってくるわけがない。捨てたってなにも変わらないんだ。
だけど、その代わりに今は・・・この瞬間は、変えられるんだ。今を変えて、自分の望んだ未来を進む事が出来るんだ。そうやって、進めばいいんだよ。何も捨てずに、下ろさずに、諦めずに進める道を」
『そんなこと・・・出来ない。出来るわけが』
「出来るよ。てゆうか、捨てたって何も変わらないなら、全部持っていくしかないでしょ。あとは、そんな自分の選択と死ぬまで付き合う覚悟を決めるだけだ」
≪あなたが今を嘆いて、そこで諦めるのは勝手です。本来であれば干渉する義理立てなど0です。どうなろうが私達の知ったことではありません≫
僕達、正義の味方ってわけでもなんでもないし。僕の両手は、手の届く範囲の物を守るので精一杯なのよ。
≪ですが、そのために消える存在があると知った以上、私達はそんな泣き言を認めるわけにはいきません。・・・関わって、しまいましたから≫
そう、関わった。これは、手が届く。だったら・・・壊すだけでしょ。こんなくだらない諦めを。そして、絶望を。
今は変えられると、未来は望んだ形に出来ると、その可能性への道を・・・斬り拓く。
「まぁ、だからって言うだけってのもダメだよね。だから、僕達がお手本を見せてあげるよ。今の変え方ってやつのさ」
その瞬間、轟音が響く。そこから光が差し込む。だから・・・僕はそれに目を向けることなくアルトを鞘に収めてから、右手からパスを取り出す。
≪特別に料金はタダにしてあげます≫
パスを開いて、左手で金色の雷光・・・咲耶のカードを含めた三枚のカードをパスのスロットに挿入。
≪Sound Ride&Attack Ride&Fusion Ride Sakuya Set up≫
「・・・恭文、りまたんっ! 大丈夫っ!?」
「問題無い。・・・咲耶、いいタイミングだよ」
「当然です。空気を読みましたから」
ベルトを腰に巻き、金色のボタンを押す。そして流れるのは、ヒップホップな待機音。
「というわけで、今からスタートだ。ただし、10秒間だけね」
≪目を離せば、すぐに終わりますから・・・しっかり、見ていてくださいよ?≫
そのまま、僕はパスをベルトにセタッチ。
「変身」
≪Axel Form≫
その瞬間、ベルトから金色の光が放たれる。それが僕を包み込み、隣にまで来ていた咲耶が僕の中に入り込む。
その光の中で、僕は姿を変える。マントとジャケットが一瞬で消えて、インナーが金色に赤のラインが入ったチャイナの装飾が入ったものに変わる。
ジガンと具足もそれとはまた色調を少し変えた金色に染まる。
そして最後に、髪は金色。瞳は翠に色を変えた。
次の瞬間、金色の光がはじけた。その光は雷となり、一つの形を取る。それは羽。
雷撃を纏う金色の羽が、部屋の中に舞う。
≪The song today is ”Double-Action Axel Form”≫
鳴り響くのは、音楽。なお、歌っているのは僕と咲耶とアルトの三人。
でもおかしい。やっぱり歌っている覚えないんだけど。うーん・・・。
【・・・あなた、倒してもいいですわよね?】
身体をくるりと反時計回りに回転させ、×キャラ達を右手で指差す。
「答えは聞いてないっ!!」
これは、咲耶とのユニゾン・・・アクセルフォームっ! なお、当然ながら本邦初登場っ!!
「・・・全身ほぼ金色って、ダサっ!!」
「やかましいっ! 外野は黙ってろっ!! つーか、気にしてるんだから言うなー!!」
「あ、これは気にしてるんだ」
・・・さすがにね。僕、ここまで成金趣味じゃないし。
「・・・って、そうじゃないっ! 唯世、あむちー、いいんちょ、やや達も」
【必要ありません。というより・・・邪魔なのでそこで見ていてください】
右手でアルトを抜く。そして、見据える。10秒で潰すべき目標を。
「いえ、そういうわけにはいきません。この数を真城さんやあなた達だけに任せるわけには」
【私とおじいさまだけで充分と言っているんです。あなた方では私達の速さにはついていけません。というわけで、おじいさま。ここは意外と広いようですし・・・暴れますよ】
うん・・・行くよ、咲耶。
≪Axel Move≫
【Start up】
そのまま、僕は踏み込んだ。
【・・・10】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文の姿が消えた。そして、その次の瞬間、×キャラの集団の一角に青色の閃光が打ち込まれて、3体がそのまま爆発した。
そして、その前に、恭文が、空中を踏みしめながらそこに居た。アルトアイゼンの刃が青く染まり、刀身の周りにバチバチと雷撃がまとわり付いている。
【9】
それを見て×キャラ達が散開して、恭文に向かって黒い絵の具を弾丸に変えて撃ってくる。
そうすると、また恭文の姿が消えた。あたしの目には・・・全く見えない。だけど、咲耶さんの声でカウントする声だけは聞こえる。
【8・・・7・・・6・・・】
一つカウントされる度に、同じように青い閃光が生まれ、×キャラが最初とほぼ同じ数だけ斬られていく。
対処しようとして、散開する・・・いや、しようとした途端に、恭文の姿が消えて、その次の瞬間に斬撃が生まれる。
横薙ぎに、袈裟に、上段から一閃・・・という具合に。
というか、あの・・・これなにっ!?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【5】
また踏み込むと、普段のそれとは全く違う速さで僕の身体は動き出した。視界に移る全てのものがスローリーに動き、僕達だけがその中で絶対の速さを得ている。
そんな速さに身を任せながら、右からアルトの刃を振るう。
刀身には全てを斬り裂く青き雷撃の刃。・・・雷への魔力変換、一応勉強していたので。
まぁ、チートって言われるのが怖いから、出来れば使いたくないんだけど。
「雷花・・・!」
そのまま、刃は黒い絶望を斬り裂いた。
「一閃っ!!」
空間と共に×キャラは斬られて、また4体ほど爆発する。
【・・・少し面倒ですわ】
だね。今はまだ大丈夫だけど、きっとさっきみたいに数を増やそうとするに決まっている。なにより、絵にこれ以上被害を出したくない。
だったら・・・ここで一気に決めよう。これは、そのための姿なんだから。
「咲耶、必殺技いくよ」
【了解しました】
アルトを鞘に収めて、右手でパスを取り出し、開く。左手でカードをセット。
≪Final Attack Ride Set up≫
「ただし」
そのままパスを閉じ、ベルトにセタッチ。
≪Full Charge≫
パスはそのまま、軽く前の方へ放り投げる。ベルトから電気にも似た金色の光が出る。それが僕の両手両足を包む。
【分かっています。おじいさまの魔力、少し使わせていただきますわ。コントロールは私に任せてください】
「お願い」
かなり広めに作ってある玄関部分の空間を踏みしめつつ、残り14体となった×キャラを見る。見ながら、早速行動を開始。
≪Smash Lancer≫
僕は左手で×キャラを指差し、それに向かって金色のスティンガーに似た光を撃ち込む。
もちろん、数は×キャラのそれと同じだけ。速度も同じくらいなので、×キャラは避けられなかった。というより、避けるのなんてムリ。
だって、こっちの動きの方が、あっちの動きよりずっと速いから。立ち止まってなければ見えてすらいないと思う。
そして、それは×キャラの目前で金色の円錐型のものに変わり、×キャラの全てにセットされた。
≪Axel Smash≫
そのまま踏み込み・・・いや、飛び出し、その円錐の一つに向かって飛び込み、右足で蹴りを放つ。
【「はぁぁぁぁぁぁっ!!」】
円錐型のスフィアは、中央部分を境に後ろは時計回り、前の部分はその逆に高速回転する。まるで、ドリルとなり、×キャラを貫こうとしているように。
そのまま、僕の身体は一瞬消えて、×キャラの後ろに回る。スフィアも消えた。だけど、これでいい。
×キャラの身体に雷のマークが浮かんで、そのまま雷撃を撒き散らしながら爆発したから。
というわけで・・・次っ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【4・・・3・・・2・・・】
変化は、起きた。恭文の姿がまた消えて、今度は残り14体ほどになった×キャラ全てに、金色の円錐が突き刺さった。
そして、それはまるでドリルのように勢い良く回転し出した。それを受けて・・・×キャラが声を上げる。
『ム・・・ムリィィィィィィィィィィッ!!』
そして、円錐が全て消えると同時に、多分・・・すっごく分かりやすい雷のマークだね。それが×キャラの身体に刻まれた。
【1】
そのまま、×キャラは雷撃を撒き散らしながら爆発した。そして、その内の中ひとつから、白いたまごが出てきた。
・・・あ、そっか。恭文の魔法なら浄化出来るもんね。てゆうか・・・あの、マジで10秒? あたし達、なんにも手出しできなかったし。
【0・・・Complete】
そのまま、恭文が姿を現して地面に降り立つ。降り立った瞬間に、咲耶さんとのユニゾンを解除。元のリーゼフォームに戻った。咲耶さんも、私服姿で姿を現す。
というか、あの・・・なんでそんなちょっとお疲れ顔? なんだか二人揃って汗かいてるし。
「あの形態・・・アクセルフォームは、使ったら相当体力を消耗するんです。まぁ、立てないって程じゃないですけど。
あと、連続使用もダメなんですよね。2時間しないと、咲耶とはユニゾンできないです」
「な・・・なるほど」
なんて話している間に、たまごが割れた。その中から、しゅごキャラが出てくる。
多分、恭文と勝手に中に入ったミキとスゥにキセキが接触したって言うココ。・・・あの倒れている子のしゅごキャラ。
「・・・もう、大丈夫?」
「うん、ありがと。とりあえず、僕は・・・しばらく武君の中に居るよ。
・・・武君。大丈夫、きっとおじいさんみたいな絵描きさんになれるよ」
あの子が、また白いたまごに包まれる。包まれて、ゆっくりと仰向けに倒れているあの子の胸元に吸い込まれる。
「だから、自分の未来を・・・なりたい自分を、信じて、欲しいな」
それだけ・・・本当にそれだけを言って、あの子はあの男の子の中に入っていった。
・・・えっと、これで解決? 結局、幽霊とかじゃなくて、しゅごキャラが原因だったから、オーケーなんだよね。
「あー、悪いけどまだなんだ」
「へ?」
「あむ、出番だよ。スゥとキャラなりして」
いや、それは構わないけど・・・なんで?
「さすがにこれをこのままには出来ないでしょ。お直ししてもらわないと、ガーディアンの評判に関わるよ?」
そうして、辺りを見る。・・・×キャラの攻撃によって砕けたり、穴が開いたりした床や家具に絵。それだけじゃなくて、玄関も咲耶さんのえっと・・・フェイトさんも使うプラズマランサーって魔法で吹き飛ばされてるし。
あははは・・・確かにそうだね。これをこのまま放置はダメだよね。
「スゥ、居るよね」
あたしがそう言うと、上からスゥがゆっくりと降りてきた。少し申し訳なさそうな顔をしているけど、今回は許さない。あとでしっかりお説教しないと。
「勝手に恭文と行った事とかは後にして・・・行くよ。アミュレットクローバーでお直し」
「はい、わかりましたぁ。・・・あ、でもでも」
「なに?」
「せっかくですし、家以外のものもお直ししておきましょうね〜」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして、そんなお直しが終わってから数分後。あの子が目を覚ました。
とりあえず、二階のココと会った部屋に連れてってあげていたんだけど・・・目を覚まして、僕達が居る事にまず驚く。
まぁ、ここはいいだろう。問題はない。
てゆうか、相手はりまに任せてるし。・・・りまには色々話していたようだから。
「・・・大丈夫?」
「俺、どうして・・・」
「疲れてたのかな。寝ちゃったから、みんなに頼んでここまで運んだんだ。ここなら、埃っぽくもないし、明るいから」
「そっか、悪かったな。なんか世話かけたみたいで。・・・あれ?」
あの子が気づく。自分の近くに置いてあった絵の道具入れが変わっていることに。
いや、物自体は変わってないんだけど、外観が別物になっている。
「なんか・・・ピカピカになってる。あ、中もだ」
・・・そりゃそうだ。スゥが家や家具、あと飾ってあった絵と一緒にお直ししたんだから。てゆうか、僕は別のものをお直ししただけかと思ってたのに。
これ、絶対怪しまれるでしょうが。もう新品みたいになってるんだからさ。
「・・・それは?」
りまが気になったのか聞いてきた。あの子がその中から取り出した一枚の紙を。こっちからは何が描いてあるのか見えない。
「あぁ、じいちゃんが描いてくれた家族の絵みたいだ。でも、これも煤けて全然見えなかったのに・・・てゆうか、なんだ? この小さいのは」
小さいの? ・・・僕達が少し近づいて絵を見ると・・・あ、居た。この子の隣に小さいのが。てゆうか、ココが。
おじいさんとご両親と思われる人達とこの子。四人が笑っている家族の肖像。その中・・・この子の隣に、確かにココが居る。
「どうやら、この子どもの祖父には、ココが見えていたようだな」
キセキがそっと、小声で納得したように言ってきた。
「だから、この絵に描かれている?」
「そういうことだ」
なんだろうと疑問を顔に浮かべながら、絵とにらめっこしているその子に、りまはもう一歩近づいて、あるものを差し出した。
それは、絵。あの子が破り捨てたという、自分で書いた家族の絵。これも当然お直しした。それをあの子は、少し戸惑いつつも、受け取った。
「その小さな子・・・」
りまの言葉に、あの子はりまを真っ直ぐに見ている。りまはそれに対して、微笑みを優しく浮かべて、こう続けた。
「見えるようになると、いいよね」
・・・こうして、幽霊騒ぎは一応の決着を見た。原因はしゅごキャラということで、計らずもガーディアンの仕事は成せたことになる。
あの子がその後どうなったかというのは、まぁ・・・ご想像にお任せすることにする。というか、アニメでもそこまでやってないので、書けない。
ただ・・・まぁ、なんとかなるかなとは思っている。だって、自分が描いた家族の絵と、おじいさんが描いた家族の絵。それらを見ているときのあの子は、とても幸せそうに笑っていたから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・やっぱり、居た。目の前にはやさしげなおじいさん。だけど・・・あれ? もう成仏寸前?
中の気もよどんでいるとかじゃなくて、澄んでいる。これは予想外。いや、いい事ではあるんだけど。
でも、家主さんの話だと、そうとう頻繁に霊現象と思われるものが起きているらしいのに。
「・・・私の声、聞こえますか?」
そのおじいさんは、優しく、安心しきった顔で頷いてくれた。
「なにか、心残りが・・・あったんですよね」
『・・・まぁね。ただ、もう大丈夫だ。やっと笑ってくれたしな。アンタの世話になることもないさ。これで・・・安心して行ける』
「そうですか。なら、よかった。・・・それでは」
『あぁ』
そのまま、おじいさんの身体は消えていく。光の粒子になって、ゆっくりと、空へと昇っていく。
ここは室内だけど、それでも、昇って行く。本来行くべきだった世界へと、旅立っていった。
「・・・久遠、そっちはどう?」
後ろを見る。入り口には、尻尾と耳を生やした小さな女の子。子狐モードから、子どもモードになっている。
「那美、だいじょうぶ。ここ・・・ほかにはなにもいない」
「そうだよね。私もそれらしい気配を感じないもの」
もしかして、私がここに来るまでの間に何か起こって、それで解決したから・・・とかかな。まぁ、そうすると誰かが勝手に入った可能性を考えないといけないんだけど。
まぁ、そこはいいか。とりあえず、もう特に変な気配もないし、最後に場を清めてから、外に出る事にしようっと。
「それじゃあ久遠、もう子狐モードに戻って大丈夫だよ。あ、でも」
「うん。久遠、けいかいしておく」
「お願いね。・・・でも、よかった。平和に終わって」
「そうだね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『・・・じゃあ、もうお祓いというか、退魔師の人達が調査したってこと?』
「そうなの。それも知り合い」
あれから数日後。唯世と所用のために電話で話していた。なお、場所は自宅。
で、用件の一つは、先日の家のこと。ココの力では出来ない事が起きていたために、唯世と海里に相談の上で神咲の家に連絡を取っていたのだ。
まぁ、ようするにそれに対しての返事がどうだったのかってことだね。
すると、ビックリだった。僕達があの家に侵入したり破壊活動を行ったりとしたその翌日、那美さんと久遠が調査したそうなのだ。
いや、ここは知らなかった。うぅ、会いたかったなぁ。那美さんと久遠はここに僕が居るって知らないから、結局そのままだったし。
とにかく、プロの退魔師である那美さんと、その助手みたいになっている久遠の調査の結果、特に怪しいところはなかったとか。・・・いや、あったか。
那美さんが『例え恭文君でも、依頼主との契約とかプライバシーの問題もあるから、これ以上は話せないんだ。・・・ごめん』と言ってくれたから。
逆を言えば、僕でも話せないような事態があったということ。そして、それは解決された。プロの退魔師である那美さんが、しっかりあとのフォローもしている。
なんだかんだで情報を提供してくれた那美さんには、心から感謝する事にする。
『確かに、アレ以来幽霊騒ぎがどうとかって話は聞かないよね。でも、解決しているならよかったよ』
「まぁね。僕もホッとしてる。・・・それで唯世、明日なんだけど、僕とフェイトも同行していいの? ガーディアンの買い物なのに」
『うん、日奈森さんにも頼んでるしね。あと、リインさんから聞いたんだけど、その・・・中々デートとか出来ないんだよね』
なんだろう、すっごく気を使われてるように感じたのは。いや、確かにその通りなんだけど。僕小学生だからさ。フェイトと外でイチャイチャとか出来ないわけよ。
・・・あぁ、もしかしたら、そのせいかも。最近偶数日じゃなくて、ついつい毎日緩めになんだけどコミュニケーションしちゃうようになったのは。なんか、互いに止まらなくなっちゃって。
『まぁ、買い物をしっかりと手伝ってもらうのが条件ではあるけど、僕と日奈森さんは大丈夫だから、楽しんで欲しいな』
「・・・唯世、ありがとう。なんか涙出てきたよ。いろんな意味で。そしてその天然っぷりが大好きだよ」
まさか、フェイト以上にアレな子が居るとは思わなかったけど。てゆうか、ひどい。いや、100%の気遣いで何も言えないんだけど・・・あれ、まてよ。
僕とフェイト、あむに唯世。・・・あ、ダブルアクション・・・じゃなかった。ダブルデートじゃないのさ。
「とにかく、明日だね。んじゃ、待ち合わせの時間と場所はそのままで大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ。何かあって遅れる時とかには連絡してね。僕もそうするから。それじゃあ、また明日』
「うん、明日ね」
・・・そうして、電話を終えた。
そっか、ダブルデートか。いや、そういう空気を出して唯世に気取られるのはNGだけどさ。
そうすると・・・時間はまだ夜の8時とかか。あむまだ起きてるよね。
早速作戦会議だ。というわけで・・・まずは声をかけよう。
「フェイト、もう入って来ていいよ」
僕が声をかけると、ドアを遠慮がちに開けて入ってきたのは・・・フェイト。なお、黒のパジャマ姿だったりします。
お風呂上りなのか、頬が赤く染まっている。
「えっと・・・いつから気づいてた?」
「多分、フェイトがそこに立った時から」
「うぅ、ごめん。今日もその・・・一緒に寝たくて」
「いいよ、別に。僕も同じだから。でも、その前にやる事があるの」
右拳を力強く握る。・・・来た。チャンスが来た。ついにあむにもチャンスが来た。計らずとも、本編ファーストシーズンと同じ話数でデート話が来た。
いや、あむと唯世は小学生だし、用件はガーディアンの活動で必要な備品の買出しだから、お泊りなんて絶対ならないけど。てゆうか、なったらおかしい。買い物行くところもラトゥーアみたいに人工島とかじゃないし。
「やること?」
「うん。・・・ほら、明日の買出しの件だよ」
フェイトに簡単に事情を話す。すると・・・嬉しそうな顔をして、納得してくれた。
「というわけで、早速あむに電話して、明日の作戦を立てないと」
「そうだね。いい機会だから、アミュレットハート大好きな認識を変えないとね」
「そうだよね、そこはかなり重要だよね。てゆうか・・・唯世、マジでアレだって」
とにかく、その後あむに連絡を取り、僕達も雰囲気がよくなるように協力するからと伝え・・・泣かれた。
そこまでだとは思ってなかったので、少しビックリはしたけど、それでも作戦会議・・・というか、行動する上での基本方針は決定。
まぁ、買出しであって、デートではないから。僕やフェイトはともかく、唯世とあむはそこの前提を忘れないようにしないといけないよねと言う話をした。
とにかくとにかく・・・明日だ。明日はきっと、なにかが起こるだろう。だって、本編ファーストシーズン20話でも、何かが起こったし。
「・・・それで、あのね」
「うん?」
「ごめん、ダメな日来たから・・・しばらくは、ムリなの」
「・・・いいよ、気にしなくて」
申し訳なさそうにうつむくフェイトの頭を、右手で優しく撫でる。安心させるように、優しく。微笑みながらも、手を動かす。
てゆうか、僕は別にフェイトとエッチしたいから付き合っているわけじゃないし。好きで、一緒に居たいから付き合ってるだけだもの。
「あ、でもね。添い寝は・・・したいな。手をつなぎながら、いっぱいお話。それだって、立派なコミュニケーションだよ?」
「うん、そうだね。私も、そうしたいな。・・・あ、でももし我慢出来なくなったら、いつでも言ってね。こう・・・最近はアレもだいぶ慣れてきたから、が・・・頑張るよ」
「・・・ありがと。でもフェイト、顔を赤くするのはやめて。僕がいじめてるみたいだから」
「だって、恥ずかしいから」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・というわけで、本日フェイトさんはなぎ君とあむちゃんと唯世君とダブルデートです」
「・・・・・・そうか、それでまた君達だけというわけか」
「すみません。普段のアイツの生活のせいで、デートする機会とかがほとんど無いので、今日はそっとしてあげたいんです」
そして、そんな日・・・日曜日なのに、私とシャーリーさんに咲耶は再びクロノ提督のオフィスに来ていた。
なお、恭太郎はアイツから頼まれた仕事をやりに行くと行って、外出している。てゆうか、自由気ままな奴よねぇ。普段から外に出てることも多いし。
あ、そうだ。帰ったら宿題終わらせておかないと。でも、国語系はやっぱり苦手・・・。
こっちの言語、使い方が難解なんだもの。ミッドが日本文化をかなり取り入れているおかげで私も慣れているとは言え、やっぱりキツイものがある。特に漢文とか。
「それでクロノ提督、本日はどのようなご用件でしょうか」
「だから君はまたそうやって僕の頭頂部を・・・あぁ、もういい。実は、君達に一つ指令がある」
指令? ・・・でも、エンブリオのことがあるのに。
「まぁ、指令と言っても、心に留めておいてくれと言うようなものでな。君達の仕事がエンブリオ捜索なのは変わらないんだ」
「なるほど・・・。ちなみに、その指令とは?」
「あるロストロギアが、地球に落ちたかも知れない」
クロノ提督の話を簡単にまとめるとこうなる。先日、ある盗掘屋を追いかけていた時に、その盗掘屋が間抜けにも運んでいたロストロギアを時空空間に落としてしまった。
まぁ、盗掘屋はその後すぐに捕まって、現在は牢屋の中だそうなんだけど・・・そのロストロギアが、まだ見つかっていないらしい。そして、その後の調査でもしかしたら地球に落ちた可能性があるとわかったそうだ。
「まぁ、捜索自体は機動課が請け負うから、さっきも言った通り君達は今まで通りで構わない。ただ、留意だけはしておいてくれると助かる。場合によっては捜査担当と協力することにもなるだろうしな」
「了解しました。それで、そのロストロギアはどういうものなんですか?」
「簡単に言えば、増幅器・・・ブースターだ。使用者の意思の元、その力を増幅させる。ただ、魔法以外の力も増幅させることの出来る代物とか。
・・・すまない、こちらも急ぎ調査中で、容疑者からの情報しか今は手元にないんだ。ただ、名前と外見は分かっている」
つまり、他に何かしらの能力があるかも知れないということか。確かに、これは注意しておかないと。
でも、名前と外見が分かっているのは助かるな。エンブリオは名前だけで、どういうものかもさっぱりだし。まるで宝探ししてる気分よ。
「外見は黒いひし形の宝石・・・ちょうど片手ですっぽり収まるサイズだな。名前は・・・ブラックダイヤモンド」
「クロノ提督、そのままですね」
「・・・言うな。僕もそう思ったんだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・そう言えば歌唄」
「なに?」
「アンタ、その石どうしたの? 最近よく手に持ってるけど」
・・・あぁ、これ? 確かにそうね。なんだかついつい手放せなくて、気が付いたら手に持って遊んでる。
なんだか、これを持っているとキャラチェンジした時も、前よりずっと力が沸いて来るような感じがするのよね。
というより、どんどん強くなってる感じ。今、こうしている瞬間も。
この黒くて妖しい輝きが手放せなくなりそうで、少し怖い。あの子・・・ダイヤと同じかな。
「拾ったの」
ダイヤが孵化した直後かな。家の前に落ちてた。そして、そのまま私のもの。
「・・・いや、落し物は警察に届けなさいよ」
「嫌よ。てゆうか、落とす方が悪い」
「アンタ、ロクな大人にならないわよ?」
「×たま集めたり、弟にスパイやらせてる三条さんに言われたくない」
「それは言わないでよっ! 自分でも極々たまに『そうかなー』とか思っちゃったりするんだからー!!」
あ、自覚はあるんだ。てゆうか、私はちょっとビックリなんだけど。
「一応、私も大人ですから、色々考えるのよ」
「なるほどね。それで三条さん、あのCD絡みのキャンペーンって、もうすぐだったわよね?」
「えぇ、5日後よ。これでブラックダイヤモンド計画も本格的に動き出す。・・・もうすぐよ、もうすぐエンブリオは私達の手の中に」
そうね、私の手の中にエンブリオが納まるわ。
イクト・・・待っててね。イクトのこと、絶対に助けるから。もう、イースターやあの男の好きにはさせない。
(第20話へ続く)
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