小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第19話 『絶望を斬り裂くは、超光速の雷鳴』:1 それは、下校途中の出来事。ある男の子と・・・ぶつかった。まぁ、ママの迎えがもう来てたから、急いでいたんだけど。 その子の荷物がバラけた。なので、私は当然それを拾おうとする。 「触るなっ!!」 その声に、身体の動きが止まる。そこには、私に明らかにそれらを・・・バラけた絵の具や筆、そう言った絵の道具を触って欲しくないという拒絶の感情が見えた。 その子は、慌てたようにそれらを拾い集め、道具入れに納めると、そのまま何も言わずに去っていった。・・・なんなのよ、あれ。 あぁ、でも私も最近まであんな感じだったから、人の事言えないのかな。 「りまー」 クスクスがそう言って、あるものを指差す。そこには、写真が落ちていた。 そのまま手に取る。だけど、写真じゃなかった。それは・・・どうやらあの子の家族の絵だった。あの子の両親に、多分・・・おじいちゃん。そして、1番前にあの子。みんな、笑顔。 だけど、それを見て心が少し痛む。羨ましいとも思う。私が欲しくて、だけど手に入らないものが、そこにはあったから。 「あの子が落としたのかな」 「・・・多分ね。でも、どうしよう」 あの子、もう目の前から消えてる。姿が見えないし、学年も分からない。 ・・・預かっておくしか、ないわよね。同じ学校ではあるんだし、きっと会える。最悪先生に頼んで探してもらうことも出来るし。 それまでは、これは私が預かっておこう。きっと、大切なものだから。うん、間違いなく大切なものよね。 だってこの中には・・・人だけじゃない。その時存在していた幸せも描かれているんだから。 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご 第19話 『絶望を斬り裂くは、超光速の雷鳴』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・まさか、前回のラストのような出会いが会った事など、僕は全く知らないのだけれど、それでも話は進む。 あの『バラバラーンス事件』から数日後、りまのクラスでの立ち位置は大分穏やかになった。クラスの中にも、徐々にだけどりまの事を認める女子が出てきたのだ。 どうやら、あれでりまの今後が『バラバラーンス』になるのではと思った僕だけど、その危惧は無駄なものに終わりそうだ。 あぁ、それと召使いズだけど、やっぱりあれがショックだったらしく、すっかりナリを潜めている。相変わらず僕とは距離感遠いけど、特に気にしていない。 いや、なぜか女子の味方が増えているのだけど、どうしてだろう。特にフラグどうこうはしてないのに。 ・・・あぁ、それとアレがあった。アレが。 前回をお読みになった方々は覚えているだろうか? この話が途中からの原作介入型であるために、原作を知らない方々からは知られていない話があったことを。 そう、あむと唯世の関係だ。それに関して、色々と相談を受けている。・・・フェイトと一緒に。 うん、ここは大事よ? フェイトと一緒なら、フラグどうこうって話にならないから。 「・・・唯世君、そんなに天然なんだ」 「はい。もうすごいというかなんというか。普段の王子キャラとは全然違うんです」 こんな風に、休日に喫茶店で話を聞いたりするわけですよ。なお、僕のおごり。あむは紅茶。フェイトはコーヒー。僕はミルクティーというフェイトだけ空気を読めていないような構成でいただいている。 ・・・あれ、なんかここおかしいな。いや、あむは子どもだし、フェイトは彼女だし・・・おかしくないや。 「でも、いいことなんじゃないかな? だって、ガーディアンに入ったおかげで、ただ憧れるだけじゃなくて、友達になれたんだから」 「いやいやフェイト、それはそうだけど、この現状はまずいって。だって、どこでどう道を間違えたのか、あむの一部分だけ好きになってるんだよ? これはまずいでしょ」 「そ・・・そうだね」 その上、本人に『アミュレットハートになって欲しい』とお願いだよ? あれだよ? 彼女になにかコスプレして欲しいって言ってるのと同じだよ? それじゃないと興奮しないとか言ってるのと・・・まぁ、大体同じだよ? ありえないでしょ? 「恭文、そのハテナマークばっか付くのうざい」 「地の分にツッコまないで♪ でも、言ってることは間違いじゃないでしょ♪」 「音符マークもうざいからっ! てゆうか、ムカつくっ!! ・・・いや、確かにその通りなんだけどさ。あぁ、やっぱりじっくり行くしかないのかなぁ」 紅茶を飲みながら、あむが少々疲れたようにそう言う。確かに、それしかないような気がする。 ここで僕やフェイトがこちらから『あむを好きになれ』と言うのは間違っていると思うし。結局、恋愛なんて当人同士の問題だもの。 「でもヤスフミ、唯世君の行動があむちゃんを傷つけている・・・というのは、伝えた方がいいんじゃないかな。まぁ、あむちゃんと言うよりは、女の子に対して失礼な事だよって」 「あー、それがあるか。確かに・・・なぁ」 もし・・・もしもである。『唯世×あむ』が成立しなくても、今みたいな恋愛の仕方をしていくのではとちょっと危惧する。なお、想像してみた。・・・やっぱり若干アレだと思う。 とりあえず、ミルクティーを一口飲んで、その嫌な想像を吹き飛ばす。王子様キャラで想像したのがやっぱりまずかったとか思いながら。 「私だって、もしも・・・もしもだよ? ヤスフミが私じゃなくて、私のバリアジャケット姿が好きとか、そういう一部分だけにしか興味を持ってくれなかったら、やっぱり嫌だよ」 「・・・僕も。ほら、ミキとキャラなり出来るようになったじゃない? あの状態の僕が好きとかって言われたら、ちょっとムカってくるもの」 「というより・・・唯世君、もしかして恋愛したことがないのかな?」 ・・・・・・あ、そう言われると納得。もしかしたらフェイトの言う通りかも。だから、こんな悪手打ちをするとか。 「そう言えば・・・唯世くん、告白されるのが苦手で、そういう時はキセキにキャラチェンジしてもらって断ってるって言ってた」 「・・・唯世、さすがにそれはどうなの? 相手は必死で言ってきてるわけだしさ」 「ある意味スルーしてるよね。というよりひどいよね。・・・あぁ、なんでだろ。私、なんだか唯世君を見てると昔の自分を思い出しちゃうよ」 「そう言えば、フェイトさんも・・・」 そう、フェイトもスルーし続けた。というより、ここは仕方なかった。 「・・・僕が心配かけまくってたしね。それが原因だよ」 「そうなの?」 「うん。ルール無視で暴れたりとか、犯罪者相手に過剰攻撃したりとか・・・まぁ、今もそこは変わらないんだけど。ただね、ちょっと思ってたんだ。人が痛いのは、正直・・・嫌だって。 別に世界中の人間を守りたいなんて思ってはないけど。だけど、自分が痛いのは、めんどくさくなるのは、まだ我慢できるって、そう思ってた。だから、フェイトに無駄に心配かけててさ」 「うん・・・心配だった。ヤスフミ、目を離したら居なくなっちゃいそうだったから」 多分、本当の意味で分かってなかった。自分が傷つくと心を痛める人が居るって。でも、それでも・・・何も出来ないのも、何も守れないのも、壊せないのも嫌で、止まれなくて。 きっと、それは今も抱えてる矛盾。ルールや常識に従えない、古ぼけた鉄であり続ける限り持っていなきゃ・・・ううん。有り続けたいと思う限り、持っていたいもの。 「・・・あ、そっか。今までは唯世君の話ばかりしてたけど、あむにもなにかそういう原因があるのかも」 「・・・・・・やっぱり、そうなんでしょうか」 「あぁ、落ち込まなくていいから。別にあむが悪いって現時点で決まったわけじゃないでしょ?」 うーん、そうだなぁ・・・。とりあえず、さっきより温めになったミルクティーをもう一口。飲みながら、現状について考える。 あ、そう言えば、普段の唯世とのコミュニケーションがどうとかって聞いてないな。そういうのって普段のコミュニケーションからだろうし、ここは確認しておかないと。 「よし、少し話を変えよう。あむ・・・例えば、唯世にメールとか電話ってする?」 「うーん、ガーディアンの仕事絡みがほとんどだね。連絡事項とかそういうの」 「唯世君、真面目だからね。それなら、デートとかは」 「な、ない・・・です」 なるほど、唯世があむをガーディアンの仲間で友達だと思っているせいか、唯世の方からはそこまでツッコんだアプローチをしないんだ。で、あむも話を聞く限り距離感をそれに合わせてるから、これと。 てゆうか唯世、やっぱりひどいって。告白してきた女の子にこれだよ? ある意味フェイトの天然スルーよりヘコむって。 「なら、やっぱりその距離感を縮めて行くところからだよ。それで、アミュレットハートがあむの一部分なんだよって知ってもらうべきだと思うな」 「そうだね。僕とフェイトも、デートして、そうやって日常から離れていろいろ話して、距離が縮まったから」 「なるほど。でも、デートかぁ・・・うーん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・まぁ、こんな感じで作戦会議は定期的に行っていたりする。しかし・・・唯世とデート、難しそうだなぁ。 告白の断りをキセキに任せるような子だよ? あむが意識してるって感じた途端に、心のホーリークラウンでシールド張りそうだしさ。 ただ、やっぱりフェイトとの共通見解として『アミュレットハートだけを好き』という現在の認識は早急に直すべきだという話にはなった。あむどうこうじゃなくて、相手の子が可哀想だもの。 そして、うちのキングの今後の恋愛観が非常にコアな方向に進むのではないかと危惧しつつも平和な時間が進む中・・・ガーディアン会議で、ある議題が出た。 「・・・幽霊?」 「うん。町外れにある空き家にね、そういう噂が立っているんだ。誰も居ないはずなのに声がしたり、物が勝手に動いたり・・・とか」 「よくありがちな噂ですねぇ〜 でもでも、それがリイン達とどう結びつくのですか?」 「簡単だよ。その噂を聞いてその中に入った子が、怪我をしたんだ。ほら、僕達と同じクラスの山吹さん」 ・・・あぁ、あのお嬢様オーラを出しまくってるアレね。取り巻き四人くらいいつも連れてるアレね。うん、納得。 「なんでも、中に居る幽霊を退治しようとしたんだって。そうしたら、本当に怪奇現象が起きて・・・」 ≪・・・バカですか? 普通の人間にその手のものが相手出来るわけがないのに≫ 「こてつちゃん、やけに確信を持っていうね」 ≪何回かその手のとはやりあったことがありますから。私もそうですし、マスターも≫ 霊障絡みだね。あれもなぁ・・・死ぬかと思ったもん。いや、比喩なしでよ。 「・・・何を言っているんですか? 霊などありえません。全ての現象には、しっかりとした科学的根拠が」 「ならいんんちょ、ややが思うにしゅごキャラはどうなるの?」 「エース、それは言わないでやってくれ。そこは海里が日々苦悩しているところだ」 ムサシの言うように、どうやらその通りらしい。明らかに悩みの色が顔からうかがえる。 なら、言わないであげよう。きっと理論派な海里は相当苦悩していると見ていい。 「とにかく、実際に被害が出た以上」 「唯世、それは自業自得じゃないかな」 「・・・そこは言わないで? それでも、生徒の平穏な学園生活を守るのがお仕事のガーディアンとしては、見過ごせない。今日の放課後にでもその屋敷に行って、現状を調査したいんだ」 「なるほど・・・。却下」 僕がそう言って、唯世が淹れてくれた日本茶を飲む。・・・あぁ、美味しい。僕もこれは自信あるけど、唯世も相当だよね。 だけど、どうやらみなさんは僕の意見がご不満らしい。お茶を飲んで表情を緩くしている僕とは対照的に、みんななんか不満そう。 『どうしてっ!?』 声を揃えて、僕とその他一名を除いてそう言ってきた。なので、答えることにしよう。・・・結構マジ話を。 「まず、海里は納得出来ないだろうけど、霊現象・・・専門家は霊障って呼んでるんだけど、そういうのは実在してるの。 そして、そういうのは一種の霊能力を持った人間でもないと、対処できない。つまり・・・」 「もし本当にその霊障って言うのが原因でこんな話になっていた場合・・・やや達じゃどうにも出来ないってこと?」 「正解。もしそうなら、専門家を呼ぶ必要がある。なお、その場合は知り合いに居るから連絡は取れる」 那美さんとか久遠とか神咲の家の人達だね。ツテもあるし、僕の知ってる人の中では1番信頼出来るから。 というより、これしか知らないという話もある。 「ちなみに、蒼凪君の能力での対処は? 僕は最悪の場合、そっちを期待してたんだけど」 「一応通じるよ? ただ・・・あくまでも霊障となる原因の霊を斬る・・・ようするに、殺すことだけなんだ」 僕が言った『殺す』という単語に、全員が表情を重くする。まぁ、ここはしかたない。普段なら聞かない単語だから。 「殺すって・・・霊は言わば、もう死んでる人達だよね。なら、その表現には」 「言うよ。現に専門家の人達はそう言ってる。霊を斬るのは、死んだ存在をもう一度死なせることだって。つまり、それを斬ることは、殺しだと」 ≪例え死んでいたとしても、普通の人間には見えないとしても、霊はそこに存在し、我々とは違う軸かも知れませんが、時間を刻んでいます。それを奪う事は、紛れも無い殺しでしょう≫ ・・・重い、けどさ。持っていたい荷物の一つ。それに、これがある。死んでいるからとか、人間じゃないからとか、そういうのはやっぱり、言い訳らしい。心が、納得してくれないから。 「・・・とにかく、リイン達の能力はその霊能力というわけではないのですが、同じ能力を持った人達が過去に幽霊の類とやりあったことがあるそうなんです。そのために、そういうのにも通用するように能力を構築してるですよ」 ただ・・・なぁ。そんな思いっきり暴れて、人を襲ってるとかならともかく、そうじゃなくて・・・未練とかそういうのが残ってそこに居るだけなら、斬ったりはしたくない。 そういうのは、霊と直接交渉して成仏へ導く・・・鎮魂術というものが使える人を呼んだ方が、よっぽど平和で安全だよ。 「なるほど・・・。三条君、どうしようか。僕には蒼凪君とリインさんの言っている事が嘘の類とは思えないんだけど」 「実は、俺もです。いや、本能がありえないと言いまくってはいるんですが」 海里、そこまで? いや、確かに普通に考えたらこの話はありえないけどさ。 「では、こうしてはどうでしょう。ガーディアンとして、やはりキングの言うように現状を見過ごすことは出来ません。なので、予定通り調査は決行。ただし、少々変化球を使います」 変化球? 「蒼凪さんは、その霊障・・・霊に関して、あくまでも攻撃のみではあるけど、対処は可能なんですよね? そして、存在を察知したり、実際に肉眼で見ることも出来る」 「うん」 「その蒼凪さんと一緒に調査して、もし本当に退魔師の方を呼ぶ必要があるなら・・・先ほど言われた霊との交渉などですね。その必要があるなら、蒼凪さんを通じて連絡を取るというのはどうでしょうか」 「なるほど。僕達がやるのは、あくまでも現状調査のみということだね。そういう霊障が起きて無くて、他のことが原因で幽霊騒ぎになっているのなら、それはそのまま僕達で解決してしまえばいいと」 いや、それだと結局みんなは付いていくことに・・・。あぁ、もういいや。これで僕とリインだけで行くとか行ってもついてくるんだ。もうわかってきた。 「ただ、しゅごキャラはともかく、俺達では霊が見えるかどうかが分かりません。中で何か起きて、霊障と気づかずにそれに近づいて巻き込まれる恐れもある。 中の調査は、実際に霊障の現場に立ち会ったこともあり、霊の存在の察知と視認が出来る蒼凪さんに任せて、俺達は外からサポートに回りましょう」 「その結果、問題が無いようであれば、僕達も中へ・・・だね。いや、蒼凪君一人で何とかできるようであれば、僕達が入る必要もない」 「はい。蒼凪さんに負担が大きくなってしまいますが、恐らくこれが1番ベストではないかと思われます。ただし蒼凪さん、決して無理はしないでください。あと、何かあった時には必ず連絡を」 「わかった」 そう言いつつ、海里が僕の方に視線を送る。そして、言って来る。『これならば、不慣れな俺達のフォローに回る必要はいらないでしょう?』・・・と。 配慮上手なうちの参謀に、少し感謝である。 「えー! それだとやや達は幽霊さん見れないじゃんー!!」 うちのエースはご不満だけど。てゆうか、そんな物見遊山のつもりだったんかい。 「結木さん、ここは仕方ないよ。キャラなりやキャラチェンジしても、僕達には対処できるかどうかが分からないんだから。 とにかく、なら、みんなそういうことで・・・あれ、そう言えば日奈森さんは?」 「あむさんなら・・・あそこです」 ・・・あ、さっきからなんか発言しないと思ったら、なんか震えてる。すっごい震えて隅で蹲ってる。 そしてつぶやいている。幽霊なんているわけないと。霊障なんてあるわけないと。全てはトリックでマジックでサスペンスなのだと。・・・相当怖いんだね、あれ。 「そう言えば、あむちーって怖がりだったよね。特に幽霊とかダメなの」 「・・・あむを連れて行くのはやめない? てゆうか、なんかすっごい悪いことしてる気がしてきた」 「大丈夫よ。基本的には外なんだから」 いや、それでも・・・さぁ。さすがにこれは。 あぁ、なんか震えてる。すっごい震えてる。マッサージ機かって言うくらいに小刻みに震えてるよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・とにかく、僕達は学校が終わった後、その家へ向かった。 さて、そうしながら装備を確認・・・と。飛針が2ダース。アルトに収納している分を入れると多数。鋼糸も0番から3番まではある。あと、小刀も8本・・・と。 うし、これだけあればなんとかなるかな。 「・・・蒼凪君。幽霊相手にそれを使うの?」 「そもそも、霊体に物理攻撃が通用するとは・・・」 歩きながら、唯世と海里が疑問顔で言って来る。なので、答える事にする。 いや、多分そうとう心配してくれてるだろうしね。今回は久々にワンマンアーミーだし。 「普通なら無理。だから、能力を付与した上で使う。そうすれば・・・なんとか」 「なるほど・・・。ですが、出来ればそれを使わずに済ませたいものです」 「そうだね。蒼凪君・・・調査だけでいいから。もし本当にそれ絡みなら、退魔師の方を呼ぼう?」 「・・・うん、そうする」 ただ、そうなった時に外に戻れるかが問題なんだよね。やっぱり・・・覚悟は必要か。 とにかく、そうしている間に問題の家に到着した。目の前には、二階建ての青い屋根の家。 門構えもしっかりしていて、中々に立派な作り。というか、手入れさえしておけば、綺麗なのではないかと思う。 で、門を見て・・・気づいた。 ”・・・誰かが出入りした痕があるですね。それも、結構頻繁に” ”だね” 門の下・・・その地面を見ると、門が開いた形跡が僅かにある。まぁ、売りに出されているってことだから、管理のために管理会社が出入りしているのかも知れない。 「それじゃあ・・・突撃ー!!」 「バカ」 コツン。 「いたーいっ! 恭文がぶったー!!」 「女に暴力を振るうなんて・・・最低デチ」 「うん、最低なのは学習能力のない二人だからね? ・・・僕だけが中に入るって言ってるのに、なんで入ろうとしている」 「だって・・・ややだって幽霊見たいもん」 そう拗ねながら言ってきたややを見て、ため息を吐く。だめだ、言っても聞きやしない。 「・・・仕方ないなぁ」 「え、じゃあややも行っていいのっ!? やったー!!」 「海里」 右の指を上げて、パチンと鳴らす。 「心得ました。エース、失礼します」 「え? ・・・あの、なんで羽交い絞めっ!? いいんちょ離せー! セクハラするなー!!」 「暴れないでください。ここで勝手な行動をされては、蒼凪さん・・・ひいてはガーディアン全体に迷惑がかかります」 とりあえず、ややは楽しそうに海里と遊び出したので、僕は門に手をかけ・・・られなかった。 というか、かける必要が無かった。だって、門が開いたから。押したわけでもないのに、僕の体重より重いと思われる金属製のおしゃれな門が、簡単に開いた。 「ひ・・・ひぇぇぇぇぇぇぇぇっ! お化け嫌だお化け嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「日奈森さん落ち着いてっ!? 大丈夫、これは普通だからっ!! きっとオートで開く仕掛けなんだよっ!!」 いや、さすがにこれは・・・。少々覚悟しておいた方がいいかも知れない。てゆうか、今から神咲家に電話しようかなぁ。 「今更ですよ。それに、そうするとガーディアンの面目が潰れます」 「面目のために命は賭けたくないなぁ。フェイトを守るためならともかく」 いや、当然勝つけど。死んで悲しませるのなんて嫌だ。 「とにかく・・・リイン、りま。ややとあむのこと、お願い。15分おきに連絡するから、ダメな場合は・・・」 「はい。扉を壊してでも突入するです。というより、サーチで中の状態は見ておきますね」 そう、リインが連絡係。さすがに念話やら通信やらが切れるとは思わない・・・いや、思いたい。 「でもでも、気をつけてくださいね。ややちゃんとあむさんはリインとりまさんでなんとかしておくですから」 「そうね。あむには、耳にそっと息を吹きかけるなりして適度に脅かしておく」 「・・・うん、それでいいよ。適度に脅かして、今度はあむが中に入れるようにしようか」 とにかく・・・そんなドSな子は置いておいて、僕は中へと一歩踏み出した。 少々気合いを入れた上でだ。久々に『戦士』としての気持ちを高めながら。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ でさ・・・早速入ったわけですよ。入ったのよ。ドアを開けて、薄暗い家の中に入ったのよ。なお、どういうわけか鍵はかかってなかった。 その途端に、ドアが勝手に閉まるってありえないでしょ。 あー、なんかうめき声みたいなのが・・・。思いっきりそれらしいのじゃないのさ、これ。 「・・・・・・本当ですねぇ。うぅ、怖いですぅ」 そうだね。怖いよ・・・ねぇ。 その声は僕の右の方から。入ったのは僕だけのはずなのに、なぜか声がしたから。すると・・・居た。クローバーのアクセサリーをつけた小さな女の子が。 ≪・・・なにしてるんですか、あなた≫ そう、その子はスゥ。てゆうか、なぜここに居るのかを詳しく聞きたい。 「・・・スゥ、参考までに聞くけど、なんで居る?」 「恭文さんのことが心配だったからですぅっ!!」 なんかすっごいガッツポーズと共に全力全開で言い切ったっ!? ・・・あー、なんか頭痛がしてきた。おかしい、さっきまで入れていた気合いが薄れていく。すっごい薄れていく。 「だってだって、恭文さんだけはやっぱり心配ですぅ。というより、スゥだけじゃないですよ?」 「へ?」 「あはは・・・ごめん。ボクも来ちゃった」 「あと、僕もだな」 ・・・ミキ、キセキ・・・どうして居るのさ。 そしてキセキ、なんかすっごい足が震えてるのは気のせい? というか、鳥肌立ってない鳥肌。 「仕方なかろう。家臣がついて行くと言った以上、主足るこの僕が行かないわけには・・・というわけで、もう出ないか?」 「んなわけにはいかないよ。とりあえず、中を一通り調べてから」 その瞬間、音がした。何かが落ちて割れるような音。そちらを見ると、ほこりを被った花瓶が割れていた。 「・・・よし、他に誰か入って来てるの? ほら、怒らないから正直に言って」 「い、いや・・・この三人だけだ」 「他のみんなはあむちゃん達と一緒だよ」 ほう、それはそれは・・・知りたくなかったなぁ。 なら、なんで僕達から10メートル近く離れている小物置の棚から花瓶が落ちたんだろうね。触れてもないのに。なお、少なくとも僕はなにもしていない。 だけど、その答えは出ぬまま次の変化が起きた。そこに置いてあったぬいぐるみが落ちた。その隣のが・・・なんか宙に浮いた。 「ひ、ひやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 悪霊退散っ!! 悪霊退散っ!!」 「怪奇現象・・・怪奇現象だよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 なお、キセキ、ミキの順である。 しかし・・・これは、いわゆるポルターガイストっ!? おいおい、マジだったんかい幽霊が居るってのはっ!! だけど・・・だめだ、見えない。 これだけのことが出来るなら、姿とか出てもいいと思うのに。 うぅ、やっぱり那美さんに相談かな。うし、一旦外に出て 「だめですぅっ! 鍵が閉まって開きませんっ!!」 「うん、分かってたっ! すっごく分かってたよっ!!」 ≪・・・お約束ですよね。どうします?≫ 「どうするもなにも・・・」 玄関など、僕ならやろうと思えば開けられる。 だけど、正体を見極められずに・・・いやいや、そもそも僕が見極められないレベルのものだったら? うし、脱出しよう。というか、我ながら無謀だった。自分の運の悪さを思考に入れるべきだった。これは僕にはどうしようもない。 というわけで、僕はここから早速退散を決意。とりあえずドアに向かって手を向けて・・・。 「・・・・・・恭文、ちょっと待てっ!!」 「待てるかボケっ! 呪い殺される前に脱出するよっ!!」 「いいから待てっ! あそこをよく見ろっ!!」 キセキがあんまり強く言うので、その指差す方向を見る。・・・小物置きにおいてある写真立ての陰に隠れるように、白い・・・あれ? 「見えますかぁ?」 「うん、見えた」 なんか小さい緑のベレー帽をかぶって、白いフリフリの服を着た男の子が居る。 てゆうか、あれ・・・しゅごキャラっ!? 「ねぇ・・・君っ!! ミキが声をかけると、その子は飛び立って・・・階段の方を上がって行く。僕達はそれを追いかける。 ・・・でも、おかしい。なんというかおかしい。 「ねぇ、スゥ。あの子・・・半透明じゃなかった?」 「はい。半透明でしたぁ」 そう、あの子の身体は半透明だった。二階に上がり、そこから辺りを見ると・・・居た。あの子が二階の部屋の一つに入っていく。 それをまた追いかけてながら思い出す。・・・身体が半透明だったのと、証明とかもなくて、カーテンで窓が塞がれてて薄暗かったおかげで、あの子に気づけなかった。てゆうか、なんで半透明? ≪影が薄いとかじゃないですか?≫ 「さすがにそれはないよ。そんなタヌキじゃあるまいし」 「・・・いや、あながちそうとも言えんぞ」 え? 「まぁ、それはあの者に聞けばいいだろう」 そうして、その部屋の中に突入する。そこだけは窓にカーテンがかかってなくて・・・あれ、なんか人の出入りした形跡がここだけ無茶苦茶多い。 とにかく、その日の射した窓辺に、その子はヘタリ込んでいた。息を荒くして、辛そうに蹲りながら、こちらを不安げな瞳で見る。 「・・・あのぉ、あなたは誰・・・ですかぁ?」 「僕達はお前と同じしゅごキャラ。この者も僕達の宿主の友人・・・関係者だ。困っているようなら、力になるぞ?」 スゥとキセキが優しく、落ち着かせるような声で聞く。 その返事は・・・数秒の沈黙を間に置いて、返って来た。 「僕は・・・ココ。よかった、やっと気づいてくれた。お願い、助けて」 ・・・・・・どういうことですか、これ? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・あら、みなさんどうされたのですか?」 屋敷の前で中の様子に不安になりつつ待っていると、声がかかった。それは・・・ポニーテールにした金色の髪に、白いワイシャツと紺のスカート。 というか、咲耶さん? 「あー、咲耶さんー! お久しぶりですー!!」 「はい、ややさま。お久しぶりです。まぁ、2週間とかそれくらいですけど」 「あはは・・・そうですね。えっと、咲耶さんは、買い物ですか?」 「えぇ、今日の夕飯の当番は私なんです」 そう言って、両手に持ったスーパーの買い物袋を上げて見せてくれる。・・・結構沢山。 あぁ、そう言えば蒼凪君にリインさんにフェイトさん、シャーリーさんにランスターさんに咲耶さんで六人だから、これは当然なのかも。その上、咲耶さんはそうとう食べるそうだから。 「・・・この人、誰?」 「ハラオウンさんのご親戚か何かでしょうか」 三条君が言うのも無理はない。だって、二人とも姉妹じゃないかって言うくらいに似てるから。僕も最初はそう思ってた。 「あ、りまたんといいんちょは初めてだったよね。えっとね、恭文の協力者・・・というか、遠縁の親戚の人の許婚で、咲耶さん。今はお仕事の都合で、恭文やフェイトさんと一緒に暮らしてるんだ」 「初めまして、蒼凪咲耶と言います。いつもおじいさまやリインさまがお世話になっております」 「いえ、こちらこそ・・・」 なんて挨拶を二人は咲耶さんと交わす。・・・そう言えば、魔法の事どうしようか。ほしな歌唄のこととかで相当ゴタゴタしてたから、あんまり考えてなかったんだけど。 最近は真城さんも大分柔らかくなってきたし、もう話してもいいと思うんだけどな。きっと、二人なら年齢の事とかも受け入れてくれると思うから。 「ところで、私一つ気になっているんですが」 「なんですか?」 「あの子も、ガーディアンの関係者でしょうか」 そう言って、咲耶さんがあるものを指差す。それに僕達は全員固まる。 それに最初に声をかけたのは、なんとか復活した日奈森さんのフォローに勤しむ・・・というより、耳にそっと息を吹きかけたりして、からかっていた真城さん。 「・・・あの、君?」 真城さんが声をかけたのは、僕達と同じ制服を着た一人の男の子。年は僕や日奈森さんより下かな。少し長めの栗色の髪に、線が細い印象。 手には木で出来た古ぼけた四角いバック。その子は、門の中へとこっそり入ろうとしていた。 もちろん、僕達に気づかれないように、そっと・・・だね。足音とかもなかったから。 その子は僕達を見ると・・・即座に突入した。僕達は当然それを追いかける。 「ねぇ、君・・・ちょっとまってっ!!」 僕達は声を上げるけど、その子は止まらずに玄関のドアを開けて、突入。たまたまあの子と距離が近かった真城さんが、それに続くように入る。僕達も後を追おうとしたとき・・・ドアが一人手に閉まった。 三条君がL字型の金属製のドアノブに手をかけて開けようとするけど・・・全く開かない。僕も一緒にやってみるけど、同じく。これ、鍵がかかってる。 「・・・キング、開きません」 「・・・・・・うん、そうだね」 「開かないってことは・・・りまたんや恭文にあの子、この中に閉じ込められちゃったのっ!?」 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 幽霊・・・幽霊嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ・・・日奈森さん、本当にダメなんだね。というか、前よりずっとひどくなってない? とにかく、どうしよう。・・・ううん、方法は一つしかない。蒼凪君にすぐに連絡を取って、真城さんとあの子と合流してもらおう。とりあえずそれで中の安全は確保。扉は・・・壊すしかないよね。あとで日奈森さんとスゥに頼んで直してもらわないと。 「リインさん」 「もうやってるです」 さすがリインさん。こういう時頼りになるよ。 ・・・あはは、なんだかんだで僕負けてるよね。経験や知識では二人には勝てないし。 「というか・・・」 「どうしたの?」 「幽霊騒ぎの原因が分かったって、たった今恭文さんから連絡が・・・」 『・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 屋敷の中に突入。原因は、あの子。 後ろのドアが勝手に閉まったのとか、珍しく全力で追いかけちゃったから、切れそうな息を整えるのとかは後にして、走り去ろうとするあの子に声をかける。ううん、大きな声を上げて呼ぶ。 「ねぇ・・・ちょっと待ってっ!!」 その声に、あの子は私の方を向く。 向くけど・・・出てきた言葉は辛らつなものだった。 「なんだよお前っ! ガーディアンがなんでここに居るんだよっ!!」 「幽霊騒ぎの話、知ってるでしょ? それの調査よ。てゆうか、あなたはどうしてここに?」 「ここは元々俺の家だ」 ・・・なるほど、それなら納得・・・待って。確かこの家、売りに出されてるとかって言ってなかった? 「とにかく帰れ。ここには幽霊なんて」 「そういうわけにはいかないわ。というか・・・丁度よかった」 私は、懐からあるものをあの子へ近づきながら取り出す。 あの子は、足を止めて・・・そのまま、私の取り出したものを受け取ってくれた。 「これ・・・。なくしたと思ってたのに」 「あの時、拾ったの。届けたかったんだけど、あなたがどこのクラスの子かも分からなかったから。・・・大事なものでしょ?」 「・・・別に、大事なものじゃないよ」 嘘だと思った。だって、そう言った時の表情がどこか寂しそうだったから。 「私は・・・って、ガーディアンの事を知ってるなら、大丈夫よね。ねぇ、あなたの名前は?」 「・・・武(たける)」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ”・・・恭文さん、じゃあ、話を整理するですよ?” とにかく、ココというしゅごキャラから聞いた話をリインに報告中。僕は、そのリインとの念話にうなづく。 なお、電話は通じなかった。うん、全く通じなかった。 ”幽霊騒ぎは、そのココというしゅごキャラが原因なんですね” ”うん。それで、この子はここに元々住んでいた家族の一人息子の武って子のしゅごキャラなんだって” ”その子の外見に関しては、さっき聞いたとおりで大丈夫ですよね?” ”うん” スゥとキセキにミキが聞き出してくれて、ようやく事情が飲み込めた。・・・なんでも、この子のおじいさんは絵描きで、そのおじいさんのような絵描きになりたいと言う思いから、この子は生まれたとか。 ただ・・・問題が一つ。元々はおじいさんと両親と四人で暮らしてたんだけど、おじいさんが半年前に亡くなったとか。 それから、少しずつ生活がおかしくなったらしい。母親は絵描きになどならずに勉強しろといい、父親は放任主義。これでは折り合うわけがない。その結果、不仲になって両親は別居。この家も売りに出されることになったとか。 そうして、この子もここに置き去りにされた。 ”でもでも、どうしてその子はその武君についていかなかったですか? というより、武君は置いていくような子なんでしょうか” ”いや、違う。その子、どうも自分にしゅごキャラが生まれているって気づいてなかったらしいのよ” ”だから、その子はここに取り残されたですか・・・” ”そうみたい。その上・・・今、消えかけてるんだって” 半透明な理由はここだ。ココは存在が宿主である子に認識されていない上に、両親の不仲によって絵描きになりたいと言う夢を・・・なりたい自分を、諦めかけている。 確かにしゅごキャラは宿主が信じてくれなかったら、簡単に消えちゃうって言うけど、まさかマジで消えそうなのと遭遇するとは思わなかった。 ”それで、誰かに気づいて欲しくて、ポルターガイスト現象起こしてたですね” ”うん。小さなものしか動かせなかったし、日に日に力がなくなっていくから大変だったんだって” ・・・あれ? なんかおかしいな。 ”・・・そうですよね、おかしいですよね。だったら門が自然と開いたのとか、中にリイン達が入れないのとかは、どうなってるですか? あと、電話とかが繋がらないのも” そうだよね、おかしいよね。ちなみに、中のサーチはどう? ”なんとか出来てはいるですけど、こう・・・妙なノイズが時々入るです” その言葉に寒気がした。ココは物を動かす程度のことしかしていないと言っていた。 つまり、それ以外の現象は? もう、考えるまでもないと思う。居るのだ。ココ以外の何かがこの家の中に。 ”え、えっと・・・リイン、この話はとりあえずあむには知らせない方向で。あと、唯世にやっぱり退魔師呼ぶ必要あるって言っておいて” ”そうですね、そうしましょうか。それと、恭文さん。今度はこっちの番です。多分・・・その武君と思われる子が、中に入ってるです” はいっ!? いやいや、みんなはどうしてたのよっ! 外に居たのにっ!! ”すみません、こっちの隙を突かれました・・・。あと、りまさんも中に居るですけど、さっき言ったようにリイン達は中に入れないです” ”転送魔法は?” ”ダメです。うぅ、やっぱりここおかしいですよ。絶対何か居るです” ”・・・おじいさま、横から失礼します” 突然聞こえてきた声は・・・え、咲耶っ!? どうしたってのさっ!! ”買い物中に、たまたま通りがかったんです。・・・ドアを破壊すれば、なんとかなるかと思いますが” ”壊したドアはどうするのさ” ”当然、おじいさまの修復魔法か、スゥさまのリメイクハニーでお直しです。私はその手の魔法が使えませんから” ”却下。つーわけで、すぐにりまとその子に合流する” この女は・・・相変わらず自由発言だし。とにかく、それは真面目に最後の手段だ。 ミキも居るからキャラなりも可能だし、魔法戦闘もオーケー。念話もなんとか通じるから、今ここでそんな破壊活動に出る意味はない。 というわけで、階下に向かって移動する事にした。 「キセキ、スゥ、その子の側に居てあげてくれないかな。僕とミキは一旦下に下りるから」 「それはかまわないが・・・どうしたのだ? 何か慌ててるようだが」 「今、リインから連絡が来て、どうもその武って子が、ちょうどここに居るらしいの」 「なんだってっ!?」 とにかく、いいタイミングだ。これで一気に解決が狙えるから、素晴らしいことこの上ない。 ”とにかく咲耶、ドア壊すのは最後の手段だよ? 今のところは大丈夫だから” ”・・・おじいさま、いつからそんなつまらない大人になったのですか? あの畑でスイカを泥棒した時のハングリーな気持ちをどこへやってしまったのですか。死んでいます。きっとあなたの今の目は死んでいますわ” ”多分おのれがそんな破壊魔になる前からだよっ! そして、そんなことをした覚えはないわボケっ!!” それだけ言って、念話を叩き切った。・・・まったく、この女は。恭太郎、頑張ってね。 僕は応援することしか出来ない。というか、人はきっと恋が成就すると変わると思うんだよ。 だから、咲耶と付き合え。そうしてこのフリーダムな思考を改善していこうよ。 とにかく話はこうしてまとまった。・・・まとまったって言ったら、まとまったの。 僕は後をスゥとキセキに任せて、とにかく一旦階下へと移動しようとすると・・・どうやらそれは悪手だったらしい。異変が起きた。 「うぅ・・・うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「ココさんっ!? はわわ・・・いったいどうしたんですかぁっ!!」 「スゥ、キセキ、どうしたのっ!!」 「僕にもわからんっ! 急にこの者が苦しみ出したのだっ!!」 だけど、僕達の疑問に答えはすぐに出てきた。なぜなら・・・その子はたまごに包まれたから。 その白かったたまごは一瞬で黒くなり、赤い×が付く。 そう、×たまへと変化した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ちょっと埃っぽいけど、階段に座って、武という子の話を聞いた。 家庭環境のこととか、おじいちゃんが大好きだったこととか、絵描きになりたかったこととか。 少しだけ、自分と重なる何かを感じたのは、気のせいじゃない。そして、思った。大人は・・・勝手だと。 私達子どもの笑顔なんて、きっと気にもしていない。自分達の都合で振り回すことしか、考えてないんだ。 「アンタが拾ってくれたその絵、俺が描いたんだ」 思い出すのは、あの子が今右手で持っている絵の中に込められているのを感じた『幸せ』。 今はもうなくなってしまったけど、確かに存在していた時間。 「それが嬉しくてさ、じいちゃんみたいな絵描きになりたいと思ったんだ。あと・・・ほら、この家にかざられてる絵」 その言葉に、私はもう一度周りを見渡す。 「ほとんどがじいちゃんの描いたものなんだよ。今よりももっと子どものころからそういうの見てたのもあるかな」 確かに、絵が多い。一階の玄関部分だけでも、相当な数。 「・・・俺さ、今日は・・・これを置きに来たんだ」 そう言って、あの子が古ぼけた木の絵の道具入れを、左手で撫でる。愛しそうに。だけど、どこかいらだちを込めながら。 「それは?」 「じいちゃんから貰った道具でさ、形見だから大事にしてたんだけど、もう・・・いいんだ」 そのまま、あの子は立ち上がる。絵の道具入れが、地面に落ちて・・・絵の具や筆をばら撒く。だけど、あの子はそれを気にも止めない。 「だって、バカみたいだから。絵描きになんてなれるわけないのに。誰もそんなこと、俺に望んじゃいないのに」 なんだろう、この感じ。嫌だ。凄く、嫌な感じがする。 そして、あの子の目からハイライトが消えた。 「そうだ。もう、いらないんだ。夢なんていらないんだ」 そのまま、右手に持った絵を自分の目の前にあげて・・・その絵を両手で掴む。 「夢なんて持っていたって、あの頃の幸せは、みんなで笑ってた時間は」 そのまま、絵をビリビリに引き裂いて、天井に向かって放り投げた。 絵が・・・引き裂かれた幸せが、薄暗い空間を舞う。それを、あの子は涙を流しながら、うつろな目で笑いながら見ていた。 「もう、二度と返ってこないんだから」 そして、あの子の頭上に現れたのは・・・×たま。それが割れて、中から×キャラが出てきた。 ・・・バカ。自分で自分に×、つけてるんじゃないわよ。 『ムリィィィィィィィッ!!』 私はすぐに立ち上がり、両手を目の前で構える。そう、いつものあのポーズ。 「りまー」 「いくわよ。私のこころ・・・アンロックっ!!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |