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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第18話 『彼女の誰かを笑顔にしたい理由』



・・・いやぁ、終わった終わった。明日のみんなの反応が楽しみだねぇ。





僕達、結構頑張ったと思うのよ。いや、真面目によ?










「てゆうかさ、あたしはあんな整理された学級文庫を初めて見たよ。一体どこの図書館かと思ったもの」

「何言ってんの。あむとりまが手伝ってくれたからアレなのよ?」

「まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。・・・あのさ、恭文」



放課後、人気が無くなった学校の中。外はもう夕暮れ。カラスもかーかー泣いて・・・もとい、鳴いている。夏が近いせいか、最近、少しずつだけど日の出ている時間が長くなっているように感じる。

そんな夕暮れの景色を見ながら僕達は校舎を出て、校門を目指して歩く。すると、あむが話しかけてきた。・・・どったの?



「まぁ、色々難しいとは思うんだけどさ。出来れば・・・卒業まで居て欲しいな。
ほら、せっかくクラスメイトになれたわけだしさ・・・って、あの、もしもし? あたし結構マジに話してるのに、なんで笑うのよ」



そう、僕は笑っていた。ついつい思い出したから。



「・・・それ、空海にも言われた。全く同じ事をさ」

「そうなのっ!?」

「うん」

「そっか。・・・で、どう返事したのかな」



・・・思い出す。あの卒業式の日の事を。なので、そのまま答えることにした。



「エンブリオとイースターの都合次第かな。卒業まで見つからないでくれると非常にありがたい・・・なんて、話した」

「そっか・・・。まぁ、仕方ないよね。恭文のお仕事は、事件捜査を頑張るフェイトさんを手伝うことだもん。解決しちゃったのに、恭文だけこっちに残るってのは、難しいか」

「まぁ、そうなるね。でも・・・さ」



夕焼けの空を見ながら、思ってた事を話すことにした。ちょっとだけ、隠してた事を。

最初にここに来た時はもう憂鬱で憂鬱で、どうしたもんかとずっと考えてた。



「学校って、色々あるけど楽しいなぁと思うようになってさ。せっかくだから、卒業・・・したいなと。まぁ、さすがに色々アウトだとは思うけどさ」

「そんなことないよ。・・・いいんじゃないかな、実際に出来るかどうかは別として、そう考えるのくらいは、きっといいよ。てゆうか・・・あの、あたしは嬉しい。恭文もそう思っててくれてて」

「・・・そっか」

「うん。だって、あたし達はもう、友達で仲間じゃん?」



なんだかあむが嬉しそうなので、僕もちと嬉しい。・・・やばい、こういうことするからフラグメイカーとかなんとか言われるのかな。

よし、気をつけよう。すっごい気をつけよう。なんだか、今どこからか今更遅いという声が聞こえたけど、気のせいだ。



「・・・そう言えば」

「なに?」

「あむって、ファッションとかそういうの詳しいよね」

「まぁ、恭文よりはね」



どういう意味ですか。



「あ、もしかしてソレ絡みで悩み? いやぁ、恭文も成長したみたいで、あたしはうれしいよ〜」

「・・・どういう意味よ、それは。言っておくけど、僕じゃなくてフェイトだよ?」

「フェイトさん?」

「うん・・・」



校門を出ながら、話をしていく。昨日の夜、コミュニケーションしてる時に相談されたんだけど。



「ほら、フェイトってジャケット装着するとツインテールになるじゃない?」

「・・・あぁ、なるね。髪型変わるのもそういう仕様なのかな」

「一応はね。ただ、本人的にはもう20歳だし、ツインテールが恥ずかしくなってきたらしくて、別の髪型にしたいと言っているのよ。でも、いいのが浮かばなくてさ」

「普通に髪を下ろすのは? ほら、ティアナさんがそれだよね」



僕は首を横に振って、その言葉に答えた。もちろん、ちゃんと理由がある。

試しにそれで僕が相手で全力全開で動いた。動いたら・・・髪がひどい事になった。なお、本人すっごい涙目になった。毛先があっちもこっちもダメになったと泣いていた。



「フェイトって、機動性重視のスピードファイターだからさ。髪をまとめてないのがダメということになって・・・それで、サイドポニーとかポニーテールとか、巻き上げてアップにするとか色々試したんだけど全然ダメで・・・」

「そっか・・・。うーん、そういうのは専門外だけど、やぱりまとめる方向がいいんだよね。でも・・・そうだなぁ。
ポニーテールは咲耶さんがいるし、サイドポニーはなんか似合わないし、巻き上げてアップだとなんか違うし・・・あ、それなら普通に後ろで一つにまとめたら? リンディさんがしてるみたいに」



あむがひらめいたように言ったので、想像してみる。というか、あむも想像しているらしい。

・・・・・・あ、いいかも。なんか大人っぽくて素敵。



「うん、いい感じだね。マントとも合っていると思うし、これならいけるかも。てゆうか・・・思いつかなかったの?」

「あんまりにシンプル過ぎて選択肢から除外してた。というより、シャーリーと咲耶がそれでフェイトの髪をいじくってが遊んでたから・・・」

「そっか。・・・なら、早めに伝えた方がいいって。フェイトさん、もしかしたらどこかの芸能人みたいにすっごい頭になってるかも知れないからさ」

「そうする。あむ、ありがと。おかげでフェイトの髪が救われたわ」

「いやいや、そんな大げさな・・・」










なお、その後家に帰りついたら・・・シャーリーと咲耶がはさみを持ってフェイトに迫っていたので、ハリセンでぶん殴った。





そして、僕は思った。あむに感謝だと。おかげでフェイトの綺麗な髪が本当に救われたのだから。










「あ、そうだ」

「なに?」

「あのね、内緒にしてたこと話してくれたし・・・まぁ、そのお返しというかなんというか。少しだけ、相談・・・乗ってくれないかな?」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第18話 『彼女の誰かを笑顔にしたい理由』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、さっそくしてみたんだけど・・・どうかな」

「うん、いいよこれ。今までの中で1番だって。ツインテールより好きかも」

「あの、ありがと」



現在、深夜。あむを家まで送った後で自宅に戻り、今は布団の中で、手を繋いでコミュニケーション。なお、偶数日かどうかは、想像にお任せします。

フェイトが、せっかくだから僕だけに見せたいと言って、この状況です。後ろにまとめた金色の髪。黒のリボン・・・うん、大人っぽいや。リンディさんの髪型に似てるけど、違う印象がある。



「・・・でもヤスフミ、あむと本当に仲がいいよね。私、ちょっとヤキモチ焼いてる」



頬を膨らませながら、フェイトがそう言ってきた。・・・やっぱり危ないかも。フラグ立てたどうこうって話に発展しかねない。



「その、現地妻は・・・まぁ、ファンクラブ的な要素らしいから一応認めてるよ?
でも、そんなぽんぽん他の子にフラグ立てて欲しくないよ。あむだけじゃなくて、ミキちゃんとかスゥちゃんとか」

「立ててないからっ! 声高らかに本命居るって言いまくってるよっ!? 学校でも好きな子居るからよそ見する気ないって言ってるしっ! みんなだって分かってくれてるからっ!!」

「・・・本当に?」

「本当本当っ!!」



うぅ、自業自得なだけに心が痛い。フェイトにごめんなさいって一杯謝りたくなるし。



「あ、そう言えばそれで思い出した。今日さ、髪型の事を相談した後で、あむに自分からも一つ相談していいかって言われたんだよ」

「・・・やっぱりフラグ」

「違うから。・・・あむだって、僕と同じで本命居るんだからね?」

「あぁ、そうだったよね。それも・・・唯世君」



なんですか。その安心しきった顔は。・・・でも、その・・・ヤキモチ焼いてくれるのは、ちょっと嬉しいかも。スルーされるより嬉しい。



「そうなの。でさ、まぁ・・・相談された事が少々大きくてですよ、僕だけじゃどうしようもない感じなの。
だから、フェイトにも話して大丈夫かって聞いて、それでオーケーって言われたから話すけど、相談された事がその唯世絡みだったの」

「・・・なにかな」















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それでね、ガーディアンに入る前に、一度唯世くんに告白したんだ。というより、させられた」



帰り道、あむを家まで送りながらそんな話を聞く。そして何故だろう。ランが苦笑いを浮かべているのは。

なにより、言い方がおかしい。普通告白はするものであって、させられるものではないと思うから。



「なんでも、ランがキャラチェンジして、ガーディアン総会の途中で大声で、大勢の前で告白したんだって。『あなたが好きです、王子様』・・・って」



えっと、つまり・・・全校生徒の前で? それはまた・・・。



「ちなみに、結果はお断りだったそうですぅ」

「あはは・・・。かなりきっぱりとね」

「・・・ラン、僕は知らなかったよ。まさかそんな空気の読めない子だったとは」

「恭文ひどいよー! 私が何したって言うのっ!?」





そんなの、本人の意思とは関係なくそのシチュで告白させたことに決まってるじゃないのさ。

つーか、ひどい。僕ならきっと胃に穴が急速スピードで空く。

・・・・・・でも、もし・・・もしもフェイトに振られてたら、僕・・・誰かに恋とか出来てたのかな。



なんか、ダメっぽい感じがするのはどうしてだろう。やっぱ、フェイトの隣が居場所だって覚悟決めてるからかな。





「でさ、その時の事はまぁ・・・いいのよ。それのおかげで少しだけだけどあたしの外キャラ、取れたしね。ただ、問題はその後でさ・・・」

「今度はどこで告白したの?」

「違う。されたの」



その言葉がどうしても理解できなくて、思考が一瞬止まった。えっと、つまり・・・唯世にっ!?



「うん」

「・・・・・・あれ? でもそれならどうして付き合ってるとかそういう風になってないの? というか、距離感普通だよね?」

「唯世君が好きだって言ったのね」



うん?



「あたしであってあたしじゃないの」



・・・どんな問答ですか、それは? こう、今ひとつ理解出来ない。

なので、当然こう聞く。



「・・・どういうこと?」

「あのね、唯世君、あむちゃんがキャラなりしたアミュレットハートが好き・・・なんだって」



・・・・・・・はぁっ!?



「元気で、明るくて、前向きで、あんな女の子見たことないんだって。それで、好きになっちゃったとか」

「それでそれで、もう一度キャラなりして会わせて欲しいってお願いしてたです」



唯世がアミュレットハートが好き。でも、あむのことは普通。だけど、アミュレットハートは好き・・・。

よし、言うべき事は決まった。



「あむ、他にもいい男は居るって。ほら、空海とか海里とか二階堂とか」

≪そうですよ。そんなわけのわからないこと言う奴なんて放り出せばいいじゃないですか≫

「・・・うん、とりあえずアンタ達の言いたいことは分かった。でもさ、お願いだから二階堂先生の名前を出すのだけはやめて。普通に無理だから。年齢的に無理だから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ヒドイね。というより、ごめん。私・・・なんだか涙出てきた」



うん、そうだよね。なお、僕はこの話を聞いた時、マジで泣いた。真面目に泣いた。

そして思った。唯世もげろと。もしくは氏ねと。普通にヒドイだろこれはと。僕の中で伊藤さん越えたよ。なんでそれから半年以上もあれが刺されないのかが疑問だ。



「つまり・・・あむのキャラなりした姿が好きであって、あむには興味がないということだよね」

「僕も全く同じ事をあむに聞いた。そうしたら・・・疲れ果てた顔で頷かれたよ。そして、現在のお友達な関係ですよ」



で、僕にこんなことを相談してきたのには理由がある。・・・あの模擬戦の見学ツアーの時に、はやてがペラペラと喋ったらしい。

僕が8年間フェイトに片思いをしている間、フェイトの天然と100%の気遣いによって相当スルーされていたとことを。



「・・・うん、模擬戦の時に喋ってたよ。私は止めたのに、全然聞いてくれなかった。あ、もしかしてそれで?」

「うん。正直どうすればいいのかわかんないって半泣きになってたよ。同じクラスになったのに、今ひとつ親しくなれないし・・・と」

「な、なんというか・・・そこを言われると私は唯世君のことを責め切れないよ。ヤスフミに辛い思いを沢山させていたわけだし。・・・ごめん」

「謝らなくていいよ。その、僕も悪いところが沢山あったから」



フラグ立てたり、心配かけまくったり・・・とかだね。そういうのがあったから、フェイトのお姉さんな認識をどうしても外せなかった。

まぁ、今は違うけど。フェイト・・・いっぱい好きだって言ってくれるから。今まで我慢させていた分、気づかなかった分、沢山言いたいからと、笑顔で想いを届けてくれる。



「それだけじゃないよ? その・・・コミュニケーションも我慢させていただろうから、いっぱい受け止めてあげたいの。というか・・・あの、いっぱい、したい。うぅ、ヤスフミせいだからね?」

「なにがっ!?」

「私、ヤスフミとその・・・こう、結ばれるまで、あんまりそういう欲求ってなかったんだから。でも、そうなってからどんどん強くなってきて・・・」



お、お願いだから顔を真っ赤にしてそういうことを言わないで。恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしいから。



「・・・まぁ、性欲とか、こう・・・気持ちいいのを感じたい・・・とかじゃないんだ。もっと単純なの。
こういう風にヤスフミのすぐ近くに居られるから好きだから。ほら、コミュニケーションしてる時は身体、繋がってるでしょ? だから、凄く安心出来て、幸せなの」

「そう・・・だね。それは僕も」



隣にフェイトが居て、少し手を伸ばせば届く距離。なんというか、この温もりと感覚が手放せないと1年前に危惧してたんだけど・・・マジでそうなりつつあるのが怖い。

やっぱり、フェイト以外の誰かとそうなるのなんて、考えられないや。だって、僕が居たいのは・・・フェイトの隣なんだから。



「あのね、フェイト」

「うん?」

「ずっと、こうしてたいな。僕、フェイトの隣に居たい。それが僕の幸せだから。それで、フェイトにも・・・僕の隣に居て欲しい。それが幸せになるように、僕・・・頑張るから」

「・・・うん、居るよ。だって、私だってヤスフミの隣に居たいし、それが幸せになったから。あ、それだけじゃなくて、ヤスフミにも幸せを・・・感じて欲しいな」

「うん・・・」










・・・イチャイチャするの、楽しいなぁ。糖分過多とかなんとか言われるけど、これは普通だと思う。





だって、あの・・・恋人同士なんだから。










「・・・って、ちがーうっ! 唯世とあむのことっ!! あぁ、どうすりゃいいのこれっ!?」

「確かに難題だよね。うーん、でもヤスフミ。当の唯世君が現状をどう思っているのかが分からないよ?」



・・・あ、なるほど。確かにそうだ。今もアミュレットハートが好きかも知れないし、そうじゃないかも知れない。



「とにかく、そこを確かめてから・・・じゃないかな。それで、焦らずにじっくりと・・・だよ」

「そうだね。あむにはそう話してみるよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、おじいさま達を見習って私達も夜伽を」

「誰が見習うかっ! つーか、普通にパジャマを脱ごうとするなぁぁぁぁぁぁっ!!」



夜、普通に寝てたら咲耶が寝室にやってきた。そして、なんか色っぽい目でそんなことを言ってきたので、当然叫ぶ。

あ、しまった。今は夜だから声は落とさないと。



「ですが、あれから添い寝だけは許してくれるようになりましたよね」



それを言われて、俺は固まる。そう、あれから・・・



「許してねぇよ」

「恭さま、ノリが悪いですわ」

≪そうですね、ノリが悪いです。いいじゃないですか『咲耶×恭太郎』で。咲耶の一体何が不満なんですか?≫



いや、だから・・・俺は今のところ誰かと付き合うとかそういうことに手を染める気は無くてだな・・・あぁもう、何度この話したんだ?



「まぁ、そこはともかく・・・恭さま、少し失礼しますね」



咲耶がそう言って、ベッドにポスンと腰掛ける。つーか、俺の話を・・・。



「実は、恭さまに密命があります。まぁ、私もそこに参加ですが」

「密命? なんだよ、そりゃ」

「聖夜小にイースターのスパイが入り込んでいないかどうか、調べて欲しいそうなんです」



どうやら、ガチな仕事らしい。俺は背筋を伸ばしてしっかり聞く事にした。



「どういうことだ?」

「おじいさまからの指令です。そして、内容は言葉通りですわ。ちなみに、理由もあります」



なんでも、以前聖夜小にイースターの社員が教師としてもぐりこんで、ガーディアンのみんなを見張っていたらしい。それだけじゃなくて、抜き出せそうなたまごがあったらそれを抜いて・・・もやってたとか。

確かに、たまごを持っている人間の大半は子どもだ。学校ならやりやすいのは間違いない。・・・でもよ、それってバレたんだろ? また同じことしてくるかねぇ。



「一度バレてそう思っているから・・・かも知れません。おじいさまはそう言っていました」

≪そういう油断につけ込んで・・・ですね。確かに、ありえない話ではありません≫

「あー、そういう手もあるか。で、俺にそれを調べろと」



またじいちゃんもどうしてみんなと一緒に居る時にこういうことを言わないのかねぇ。普通にビックリしたし。



「その時は恭さまが楽しそうに買出しに行かれて、居なかったからです」

「・・・納得した。確かにそりゃあ聞けないわ」

「あと、私をメッセンジャーにするから、夜にでも行って押し倒して来いと言われました」



それは何一つ納得出来ねぇぇぇぇぇぇっ! じいちゃん何やってんのっ!? 頼むからその応援モードはやめてくれっ!!



「はい。ただ、それはまぁ・・・出来ればなんですよね。私の方でも調査はしますから。恭さまに最優先でやっていただきたいのは、フェイトさま達の身辺警護です」

「あー、また襲われる可能性があるからと」

「はい。そして・・・またそれが来た場合、容赦をする必要は無いとも仰せつかっております」





つまり、この間みたいな我慢大会ごっこをまたやってもいいと。なお、やり過ぎとは言わないで欲しいねぇ。

フェイトさん達にガチで泣かれたりしないよう、こっちは必死で考慮してアレなんだから。

俺達がやり過ぎだって怒られる分はいいのよ。もう慣れっこだし。



ただ、俺もじいちゃんも喧嘩吹っかけてくる奴に対して容赦するほど、優しくない。使える手は、出来るならなんでも使いたいのが本当のところだ。

フェイトさん達はマジな局員だし、こういうのやると問題だしね。俺とじいちゃんなら、その辺りはギリギリクリアってわけだ。





「この間のはまだご飯のネタになるレベルでしたけどね。拷問というなら、もうちょっとえぐい方が」

「お前の趣味は聞いてねぇよ。つーか、基本的に俺もじいちゃんも無抵抗の人間痛めつけるのは好きじゃないんだ」

「奇遇ですわね。私も同じです」



ただ、話は分かった。じいちゃんは学校に居るから、ガーディアンの方は基本的には問題は無い。その代わり、俺がフェイトさんやシャーリーさんを・・・と。



「こりゃ、責任重大だな」

「ですが、全うしなければなりません。おじいさまが私達ならばと頼んだことですから」



そう考えると嬉しいよな。孫ではあるかも知れないけど、それでもこっちのじいちゃんからしたら、他人も同然なのに、こうやって頼んでくれてる。



≪恭太郎、せっかく来たのですから、頑張らなければいけませんね≫

「だな」

≪そうでなければ、未来に追い返されるかも知れませんし。そうして、またあれとかこれに悩まされて≫

「・・・そ、それは嫌だ。大丈夫、あれは一種のはやり病みたいなもんだ。期間をしっかりと置けば、問題はない・・・はず」



とにかく、問題は無いということにしておくとして・・・フェイトさん達は連中の動きを追うので急がしそうだし、ここは俺と咲耶の仕事だな。

まぁ、さっき言った通り普通に居候ってのも退屈だと思ったとこだ。少し頑張りますか。



「でよ、咲耶。お前・・・なんでちょっとずつ俺との距離を縮めようとしてんだ?」

「いえ、不意打ち気味に唇を狙ってみようかと」

「狙うなよバカっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、翌日。当然僕は学校へ登校。・・・真面目に慣れてきてるなぁ。





そして、当然のように教室のドアを開ける。そして、僕をやけに驚いた目で見る三人の影。・・・りまの解散した親衛隊のメンバーだった。





なぜだろう。なぜそんなに僕をびっくりした目で見るのだろう。まぁ、よくは分からないけど・・・そのまま自分の机へと行く。










「ず、随分早いな。またどうしたんだ?」



一人がそう声をかけて来たので、笑顔で答えた。

なお、こういう言葉も当然だ。校門が開いてからまだ数分も経っていない。普通にこの状況で来るのは、部活の朝練がある組だけだろう。



「いやぁ、昨日頑張って整理したんだけど、不備がないかどうか気になってさぁ。例えば・・・整理したつもりなのに、思いっきり崩れてたり・・・とか」



僕がそう言うと、三人が固まった。・・・どうやら、僕への『粛清』とやらのためになにやらやらかそうとしていたらしい。手に数冊、授業が始まる前に読み切れるとは思えない量の本を持っているのが何よりの証拠だ。

全く、こういうことがあるんじゃないかと思って、来てみて正解だったよ。なお、早起きはしていない。だって、普通は朝に少し身体を動かしてから来るから。



「でも、見た感じ大丈夫そうなんだよね。まぁ、当然か。昨日はあむも手伝ってくれたし。あと・・・りまも」

『り、りま様がっ!?』

「そうだよ。一生懸命手伝ってくれてさぁ。だいぶ助かったんだよ。・・・あ、本読むのはいいけど、ちゃんと元のところに戻しておいてね。
ジャンル分けのポップも作ってあるから、場所は分かるでしょ? これでいきなり散らかったら・・・りま、悲しむだろうなぁ。昨日一生懸命手伝ってくれたのに」










なお、この後三人が必死になって本棚を元の状態に戻したのは言うまでもないだろう。心の中で思いっきり笑ってやった。





・・・こんな感じで、いいよね。特に言う事気にする必要も無いしさ。





そして、少し経って・・・ようやく授業が始まった。










「はーい。それでは出席を取る・・・その前に、みんな、後ろに注目ー!!」



二階堂がそう言うと、クラスの子達が後ろ・・・本棚を見る。そして、歓声をあげる。



「すげー! なんか無茶苦茶整理されてるー!!」

「てゆうか・・・ジャンル毎に分けてるの? あ、これ分かりやすい。戻す時も楽だろうし」

「いやぁ、アレ蒼凪君がやったんだよね? 先生驚きだなぁ。君が整理係になったのは正解だったよ」

「・・・あぁ、違いますよ?」



僕がそう言うと、全員が固まった。・・・あ、言葉が足りなかったね。



「僕だけじゃなくて、りまとあむが手伝ってくれたんです。特にりまが一生懸命手伝ってくれて」

「・・・ヒマ森さん、真城さん、そうなの?」

「あ、はい。まぁ・・・一応」

「私、そこまでしてない」

「そんなことないよ。普通に僕は助かったし。りま、ありがと」



そう言うと・・・あ、そっぽ向いた。でも、悪い雰囲気はないからいいのかな。



「なるほどねぇ〜。はい、それじゃあ頑張ってくれた三人に拍手ー」



二階堂が音頭を取ると、みんなが拍手・・・あれ、なんか雰囲気いい? 女の子達のりまを見る目が意外そうというか・・・だけど、なんか優しそうだし。



”・・・ちらほらとですが、りまさんを見直したというような声も出ていますね。センサーで拾いました”

”そっか。なら・・・よかったのかな。でも、そこまでなの?”

”多分、今までの女王様キャラとのギャップでそうなったんでしょ。ほら、今までなら絶対にそんなことをやりそうもなかったですから。それに昨日の一件で召使いズを解散したりもしましたし”



あぁ、そういうので一気に・・・と。なるほど、それなら納得かも。



”しかし・・・”



どった?



”りまさん、こう考えると謎が多いんですよね。例えば家の事とかもあまり聞きませんし”



・・・確かに。りまの口から家族の話なんて聞いたことが無い。あ、普通にパパとかママとかそういう単語じゃなくて・・・例えば、どこかに行って楽しかったとか、喧嘩したとか、そういうの。

ただ、今まではなんだか距離があったからそうじゃないのかな?



”それだけではありませんよ。送り迎えに関してもそうです。いくらなんでも、ちょっと厳しすぎませんか? 私から見ると、帰る時間に遅れたら相当怒られるようにも見えます”

”・・・そこまで?”

”そこまでですね。特に気になるのが、帰る時のりまさんの様子ですよ。普通に親が迎えに来たら、仲が険悪でも無い限りは、楽しそうにするものじゃないでしょうか。というより、もっと表情が明るいですよ。
なのに、りまさんはこう・・・何か『早く帰らないといけない』という、強迫観念のようなものに囚われているように感じるというか、なんと言うか”



・・・よく、分からない。僕は実の親には放置されていたし、送り迎えも・・・あ、たまにあったな。ただし、ハラオウン家で。

確かに、アルトの言うようなことはなかったかも。普通に来てくれたことへの感謝とか、嬉しさとか、そういうのがあったから。



”なにか、事情があるのかも知れませんね。・・・どうします?”

”いや、どうすると言っても・・・。まさかいきなり踏み込むわけにもいかないでしょ。普通に関係が改善されてってるんだからさ。まぁ、様子を見つつ・・・だね”

”それもそうですね。ただ、送り迎えは私達としては安心できますよね。イースターの襲撃という可能性も大分低くなりますから”

”そうだね”





なんてところで話を終える。だって、もう授業が始まるから。





「はい、それじゃあ授業を」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「サクっと飛んで、今は放課後っ!!」

「いやぁ、今日もみんな頑張ったよねぇ。ボク、ちょっと疲れちゃったよ」

「今日は、無秩序なことは一切起きなかった・・・と。むむ、これはメモというより、やっぱりエルの日記みたいになってるです」

「え? あの・・・ちょっとっ!? 僕の授業を飛ばすってどういうことかなっ! というか、どうしてこうなるのー!!」

「せんせぇ、テレビアニメのこの話でも、こういう演出なので、仕方ないのですぅ」

「そうなのっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうなのよ。まぁ・・・アレだよ。ヤムチャ的な位置なんだろうから、納得しようか。





とにかく、もう放課後。そろそろ帰って・・・あぁ、今日の夕飯の買出し・・・って、恭太郎がやってくれてるんだっけ。










「恭文、恭太郎って誰?」





少しずつ茜色になっていく空の色が教室に差し込み、それを浴びつつあむが聞いてきた。



なので、まぁ・・・簡単に答える。





「あぁ、恭太郎さんは、恭文さんの遠縁の親戚の子なんだそうです」



エルが勝手に答えたけど。つーか、またそうやって許可無くベラベラと・・・はぁ、まぁいいや。

いずれ話さなきゃいけないとは思ってたんだからさ。



「親戚って・・・アンタ、天涯孤独なんじゃ」

「だから遠縁なんだよ。あれだよ? はと子のいと子の嫁の次女の娘の兄・・・とか、それくらい遠い親戚。もう血が繋がってるかどうかも怪しいくらいに」

「そ、それはまた・・・すごいね」



実際にはつながってるけどね。だって、孫なんだから。



「その子も恭文の家に来てるの?」

「うん。・・・ほら、咲耶の関係者なんだよ。それで、咲耶追っかけて来たんだ」

「あぁ、なるほど。あ、もしかして咲耶さんのこと好きとか」



あむがなんか表情を明るくしてそう言ってきた。そして、僕はそれを見つつ荷物の整理をしながら思う。なぜそういう風になるのかと。



「だってさ、追いかけるのはやっぱりそうなのかなーと。遠縁でも、恭文の親戚ではあるし」

「どういう意味だよ、それ。・・・まぁ、多分好きだと思うかな。本人は顔を赤くして否定してるけど、あれは違うよ。アレはデレてるよ」

「エルも同感なのです。アレはツンデレです。ティアナさんに負けないくらいのツンデレです」



今、どこからか『んなわけないからっ! 俺と咲耶は普通にパートナーってだけだよっ!! あと、俺はツインテールじゃないからねっ!?』・・・というような声が聞こえたけど、気のせいだ。



「そっかそっか。その子って、いくつ?」

「僕の実年齢より二つ下」



・・・で、いいはず。未来の世界でも、あれから1年経ってるらしいし。



「なら、今度みんなに紹介しないとね」

「やっぱり? 本人は過剰戦力になるから、影から見守る役がいいって言ってるんだけど」



そっちの方がかっこいいからとかって言ってたけど。こう・・・風車のあの人とか、そういう感じで動きたいんだって。



「だめだよ、そんなの。エルはもう会ってるんでしょ?」

「はい。なんというか、苦労性っぽい人です」

「なんですか、その説明は・・・。とにかく、近日中にガーディアンのみんなにちゃんと紹介すること。いい?」

「・・・はい」



なんだろう、最近どんどんあむに頭が上がらなくなってきているのは。僕、何かしたかな?



「・・・夫婦漫才」

「なっ!? りまっ! それは違うからねっ!! 恭文はちゃんと本命居るんだからっ!!」

「あら、いいじゃないの。愛って奪うものだそうだから」

「よくないからー! てゆうか、あたしにも別に本命が居るのー!!」



ある意味、僕以上に報われないけどね。つーか唯世・・・は塾があるからもう教室出ちゃったけどさ。ひどいって。普通にひどいって。なんであむじゃなくてアミュレットハートに恋しちゃうのさ。それは・・・あれだよ? アレだよアレ。

フェイトが僕じゃなくて、僕とミキがキャラなりしたハイセンスブレード(仮決定)に恋しちゃうのと同じ理屈だから。



「・・・あぁ、それなら分かります・・・って、まだ名前決定してなかったんですかぁ?」

「うん。あのね、こう・・・もっといい名前があるんじゃないかと思って、そうとう模索してる最中なの。ただ、スペードフォームは恭文と相談の上で却下した」

「どうしてですかぁ?」

「「決まらないから」」



だって・・・アレだよ? 『キャラなりっ! スペードフォームっ!!』・・・だよ? それもちょっとなぁ。



「ならなら、ブルースペードは? それならかっこいいじゃん」



ランがスゥと同じくこっちに近づいてきてそう言ってきた。まぁ、言う事は分かる。ただ、ちょっと考えたのだ。



「それは恭文に却下された。・・・あのね、それと似たような名前のバイクがあるんだって。まぁ、仮面ライダーのなんだけど。で、ボクはそれを聞いて納得した。だって、二番手は行きたくないから」

「なるほど・・・。ならやっぱり、ハイセンスブレードだって。1番それっぽいしさ」

「確かにねぇ。僕もなんだかんだでそれの方がいい気がしてきたんだよ。語呂もいいさ。・・・つーか、おかしくない? なんで名前を自分で決めるの? 普通はお告げがあるでしょうが、お告げ」

「あははは・・・確かに。現にあむちゃんがそれだったし」



やっぱり年齢なんだ。そうとしか考えられない。

くそー! これはこれで大変だけどどうすればいいのー!?



「とにかく、アレだよ。一緒に考えようか。今のところイースターの動きもないし、時間はあるもの」

「だねぇ・・・」



なんて話したところで結論をつけて帰ろうとすると・・・声がした。



「バラーンスっ!!」



それは後ろから。見ると・・・あぁ、ギャグマンガ大王か。ほんとにはやってるよなぁ。

クラスの男子二人が例のギャグの真似をしている。しているんだけど・・・。



「だねぇ。・・・てゆうかさ、アレ違わない?」

「思いっきり違う。全然違う。もう見ててイライラするくらいに違う」

「・・・そっか、恭文もそういうの厳しかったよね。じゃあ、りまも同じなのかな」



そう言って、ミキが視線を向ける。すると、そこに居たのは・・・目が据わってるクイーンだった。



「ま、真城さんっ!?」

「りま」



目がギロっと、まるでそんな擬音が聞こえそうな勢いで、りまの様子の変化に慌てるあむの方へ向く。

そして、あむがハッとした顔になる。そういや・・・苗字呼びに戻ってるし。



「あ、ごめん・・・そうじゃなくてっ! りま、どうしちゃったのっ!!」

「私、あぁいうのいい加減にやってる人、許せないの」



そう言いながら、りまは未だに間違えた体勢の方々を見る。それはもう怒った目で。

というか、アレですよアレ。背中に炎が見える。ごうごうと赤く燃えている。



「お、落ち着いてっ!? あれはあくまでも遊びなんだから」

「お笑いは遊びじゃないわっ! そうでしょっ!?」



そう言って、なぜか僕を見る。なので・・・頷いた。いや、それしか出来なかった。

だって、今目の前に出た選択が四つだったんだけど、全て『りまの言葉に僕は頷いた』しかなかったんだもの。



”そうですね、お笑いは遊びではありません。あなただって命がけで皆さんに笑いを提供しているわけですから”

”してないよっ! アホな事言うなっ!!”

”そうですね、言っている場合じゃなかったです。りまさん、キャラチェンジしましたから”



へ? ・・・あ、ほんとだ。両頬に星と涙型のマークが出てる。



「いきなりキャラチェンっ!?」

「りまー! いつものー!!」



近くに居たクスクスがそんな事を言う。そして、それにりまが頷いた。

いつもの・・・いつもの・・・あ、まさか。



「「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」










あむと声がハモったのは、もしかしたら本当に息が合い始めたせいかも知れない。だけど、止められなかった。





りまは、まるでどこかの高速魔法・・・いや、神速を三乗がけでもしたんじゃないのかと言うような速度で教壇の上に立ち、普通の人には見えていないだろうけど、クスクスと一緒にアレをやった。





そう、身体を曲げ、隣の人と両手の人差し指を伸ばしてくっつける・・・あのポーズだ。なお、外側の足の先は内側に向け、一本足で立っている。




まるで、二人で一つの輪・・・図形を描いているようなシンクロさえ感じさせるそのポーズの名は・・・。










「「バラバラーンスっ!!」」










・・・やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!










「・・・え?」

「・・・・・・はい?」

「・・・・・・・・・どういうこと?」










クラスの人間が、思い思いにつぶやく。だけど、全員真っ白になってそれ以上何もコメントできない。当然だ。





あのりまが・・・。





あの転校初日で喧嘩を売ってきたりまが・・・。





クラスの女子から今日の朝から『・・・真城さんって、もしかして素直になれなかっただけなのかな』・・・なんて評価をもらったあのりまが。





お笑いなんて興味ないのが聞くまでも無く予想されたあのりまが・・・バラバラーンスをやっているからだ。あ、見えないだろうけどクスクスも一緒にだね。










「バラバラーンスっ! バラバラーンスっ!! バラバラァァァァァァァンスっ!!」










以下、エンドレス。それはもう・・・非常に満ち足りた表情でりまは何度もその単語を口にする。どうやら、完璧に出来た事、それ自体が幸せらしい。





僕とあむはまぁ・・・二度目だから、なんとか衝撃に打ち勝っている。打ち勝っているけど・・・ど、どうしようか、これ。あの表情を見てるとやっぱり止めること自体が悪に思えてしまう。










「り・・・りま様?」





だけど、その悪をやってのけた奴が居た。他ならぬ召使いズだった。



つぶやくような、搾り出すような声によって、りまの満ち足りた表情が崩れた。というか、また『しまった』と言うような顔になっている。





「え、えっと・・・」

「あむちゃん、フォローだよフォロー!!」

「いや、無理だってこれっ! ・・・よし、恭文っ!!」

「全員殴って記憶をなくすとか」

「全力で却下っ! だから、アンタはどうしてそうなんでもかんでも実力行使でやろうとするのっ!?」





やかましいっ! 僕だってさすがにこれは手出し出来ないんだよっ!! アレだよっ! 僕の目の前には未来じゃなくて、踏み入れたが最後生きては戻れない底なし沼が待っているようなもんだよっ!? どうしろって言うのさこれっ!!

つーか、僕に相談すればなんでも何とかなるとか思ってないっ!? 僕だって困る時はあるし泣きたいときだってあるんだよっ! そんなみんなのお望み通りの主人公キャラなんて出来るかっ!!



・・・僕達が小声でそんな話を必死にしていると・・・クラスの女子の一人が吹き出した。





「・・・ぷっ!!」

「なにそれっ!? アクション完璧だしー!!」

「あははー! おかしいー!!」

「真城さんって、もしかしてお笑い好きだったのっ!? だったらそれすごいってー! もうマジ面白かったしー!!」



そうして、クラスが大爆笑。どうやら・・・ウケたらしい。りま本人は未だに『しまった』という顔だけど。



「う・・・う・・・嘘だぁぁぁぁぁっ! りま様が・・・りま様がこんなことをするわけがぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・う」



召使いズのそんな頭を抱えながらの絶叫がグサっと来たのか、りまが走り去っていった。というか、ちょっと・・・泣いてた?

僕とあむは顔を見合わせて、頷く。そのまま、教室を出ようとした。



「違うっ! 今のはりま様じゃないんだっ!!」

「そうだっ! りま様があんな事をするわけが」

「りまだよっ!!」



その鋭い、少しばかりの怒気を含んだ言葉で、混乱していた召使いズが止まった。というより、教室全体がシーン・・・となった。

そして、その言葉はあむのものだった。あむは、顔と視線だけ教室の中に向けて、静かに言葉を続ける。



「・・・あれも、りまだよ。嘘なんかじゃない、本当の自分だよ」










それだけ言うと、あむは走っていった。視線に映るのは・・・なんかシュンとなっている召使いズ。

まぁ、いいか。言いたいことはあむが言ってくれたし。

僕は、そのままあむを追いかけ・・・って、居ないし。つーか、廊下は走るなって言われなかった?





・・・仕方が無いので、あむは放っておいてりまを探すことにした。大丈夫、きっと見つかる。





美術室・・・音楽室・・・体育館・・・屋上・・・階段の裏のところ・・・。





とにかく、僕は今は誰かに会いたくないのではないかと思い、隠れられるところを探した・・・んだけど、さっぱり。

あむの方はどうかと思い、携帯で連絡を取ろうとしたとき・・・泣き声が聞こえた。それは、外。

僕は、ゆっくりと、足音を消してそちらへ行く。すると・・・居た。校舎の壁に背中を預けて・・・いや、違った。





再びボールになって泣いているりまを。そのまま、りまの近くへ行き、少しだけ距離を取って・・・座る。










「・・・いい気味だって、思ってるわよね」





気配で僕が来た事が分かったのか、涙声でそう言う。



声が少しだけ枯れているように感じたのは、きっと気のせいじゃない。





「いやいや、そんなことないよ? むしろ僕は面白かったし。クラスのみんなだって、そうとうウケてたじゃないのさ」

「嘘」

「嘘じゃないって」

「だって私、あなたに嫌われてる」



・・・そう思わせちゃってたのかな。うぅ、失敗だなぁ。



≪この人は、別にあなたを嫌ってなどいませんよ≫

「アルトアイゼン、ほんと?」



クスクスが、地面に座りながら僕の胸元のアルトを見つつ、そう聞いてきた。



≪はい。・・・好きの反対は嫌いではありません。無関心です。だけど、この人・・・まぁ、私もですけど、あなたに関心を持っていましたから。
というより、私達めんどくさがり屋ですから、本当にそうだったら、あなたと関わろうとしてませんよ≫

「・・・そう、なの?」

≪そうですよ≫

「なら、りまのパパとママも、そう・・・なのかな」



りまの、ご両親も?



「うん。りまの両親、いつもりまの事で喧嘩ばかりしてるの」

「クスクス」



りまがクスクスの言葉を止める。枯れた声で、少しだけ語気が鋭かった。



「あぅぅ・・・ごめん、りま」

「いいわよ、別に。・・・それでね」



止めて・・・話し出した。



「話したくないことなら、無理には聞かないけど?」

「大丈夫、その話じゃないから。私・・・昨日も言ったと思うけど、お笑いは好きなの。すごく、好き。だけど・・・誰かを上手く笑わせられない自分は、大嫌い」



そのまま、言葉は続く。どこか、自分を責めているような色を含んだまま、静かに続く。



「昔はね、本当に小さい頃は、いつもふざけて誰かを笑わせてた。パパとママも同じ。笑ってくれると、とても嬉しかった。沢山笑って欲しいって、思ってた」



独白は続く。だけど、今ひとつ分からなかった。そんな子が、なぜこうなるのかが、どうしても。

まぁ、事情があるのだろうと思うことにした。そして、場合によってはソレスタルなんちゃら張りに介入なのかなと、覚悟も決めた。



「だけど・・・ある時、気づいたの。笑うことは、バカみたいで・・・くだらないこと」



・・・その言葉を聞いた時、少し思った。もしかしてこの子は・・・そう思ってたから、今まで笑ったりしなかったのかと。

召使いズにニコリ・・・というのとは違う。心から笑ったところ、見た事ないのかも。



「笑いに逃げるのは、幼稚で弱い人のすることなの。・・・笑えないギャグなんて、寒いだけでしょ? そんなの、誰も・・・いらないの」





少し、考える。考えて、考えて・・・気づいた。りまの足元に座っているクスクスが、なんだか落ち込んだ顔をしていることに。

それはいつもの明るい笑顔のキャラとは違う、しょんぼりとした顔。それを見て、このままはダメだと思った。でも、思ったことはそれだけじゃない。

もしかして、あのキャラチェンジ・・・そしてクスクスが生まれたのは、りまの『誰かを笑顔にしたい』という気持ちからなのではないかと、そこで気づいた。



なので、ちょっとエンジンかけることにする。





「あのね、りま。いらないものなんてないよ。そんなの、何も無い」

「嘘よ」

「嘘じゃない。それに、りまはさっき、みんなのこと笑わせてたじゃないのさ。僕とあむも見てたよ?」



そう、確かに・・・りまは誰かを笑顔に出来てた。ご両親はともかく、少なくともそこは間違いない。



「なにより、僕は笑うことがバカでくだらなくて、それをするのが逃げだなんて絶対に思わない。だって・・・大好きな人には、いつだって笑顔で居て欲しいもの。
そう思う気持ちが、そうあって欲しいと願う気持ちが・・・パパやママが笑ってくれると嬉しいと思った時のりまの気持ちが、くだらない? それこそ嘘だよ。絶対にくだらなくなんてない」

「どうして、そう思うの? 私の事、なにも知らないくせに」

「そうだね、何も知らない。そして、無理に知りたいとも思わない。だけど・・・僕もそうだったから分かるの。・・・フェイトやリインと会う前ね、僕もそう思ってた」



誰かがヘラヘラと楽しそうなのがシャクに触って、ムスーっと外キャラ作ってたから。

笑顔なんて、いらないと思ってた。自分ひとりの時ならともかく、誰かと笑いあうのなんて気持ちの悪いだけだと思ってた。



「・・・あぁ、ごめん。なんか説教臭くなっちゃったね」

「そうね」



ま、またハッキリ言うなぁ。何気にグサっと来たよ。



「でも・・・ありがと」

「・・・うん。それじゃあ、カバン取りに行こうよ。お父さん、待ってるんでしょ?」

「うん」





とりあえず、りまと一緒に教室に戻る。そして、携帯であむにりまが見つかったと連絡して、途中で合流。そのまま教室を目指す。



だけど・・・りま。お願いだから制服の裾を掴むのはやめようよ。あむの制服、伸びるでしょ?





「だって・・・」

「てゆうかさ、見つけたの恭文なんだから、恭文にしなよ」

「嫌。私、男にすがるような生き方はしたくないの」

「・・・なんか納得」



というか、なんかすっかり懐いた感じがするのはなぜだろう。上手くやっていけるのだろうかと頭を抱えたあの日が、とても遠く感じる。

そして、教室についた。・・・中から数人の男子の声が聞こえる。



「でも・・・りま様がギャグキャラだったのには驚いたよなー」

「がっかりだよなー」

「こりゃ、順位に響くぞー」



僕が先頭になって、こっそりと教室の扉を少しだけ開ける。そして、覗き見ると・・・あぁ、これがあむがヘコんだっていうクラスの女子ランキングですか。なんか第二回目やってるし。



「恭文、なにやってるの?」

「中でクラスの可愛い女子ランキングをやってる。それで、りまの今日の行動で順位が響くとかなんとか言ってるね」



つーか、なんつうか・・・男ってバカだよなぁ。女性は全て等しく美しき花よ? それに個人的思い入れは別として、ランキングつけてどうするのよ。



「はぁ? アイツらまた・・・あぁもう、仕方ないなぁ。恭文、どいて」

「何か策でも?」

「当然。まぁ、アンタを少し見習ってみようかなーと思ってね。というわけでりま、いくよ」

「え?」




あむは、そのままりまの手を取って扉を開く。




「えっ!? ひ・・・日奈森あむっ!!」

「おい、隠せ隠せっ!!」





なんか男どもが慌てて黒板に書かれている『6年星組 可愛い女子ランキング』という文字を隠そうとしているけど、全然隠しきれてない。その間に、僕もりまもあむも、自分のカバンを回収。

そして、そのままあむは教室を出ようとする。だけど、立ち止まり・・・振り返って男どもを一瞥。



そして、そこから爆弾が投下された。





「・・・フッ」





呆れたような、まるで子ども扱いするような視線と笑いをぶつけて・・・そのまま教室を出た。りまもそれに続く。



ま、また・・・キツイ爆弾を。あ、なんか男どもが僕を見ている。視線に『お前は違うよな。俺達の味方だよな』と言っている。



なので、それを跳ね除けて、地獄に叩き落してやることにした。





「・・・・・・フッ」










なんか言ってやろうとか考えたけど、やめにした。なので、あむと同じ笑いを浮かべて、そのまま教室を出てやった。





いやぁ・・・楽しいねぇ。あの男どもの表情・・・さいこー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、あむと恭文は大笑いしながら、私を連れて外に出た。スッキリしたーと言いながら、楽しげに。





それを見ながら・・・思った。笑うって、なんなんだろうなと。





とにかく、私は迎えの車に乗り込む。その運転席には、パパ。なお、車は比較的一般的な五人乗りの乗用車。バンとかワゴンとかじゃない。










「パパ・・・お待たせ」

「・・・あぁ」





ため息交じりで、どこかめんどくさそうな返事。それを聞いて・・・私は、さっきまで感じていた楽しい気分が消えていくのが分かった。

車はゆっくりと走り出す。そして、窓から夕暮れに染まった街の景色が見える。



笑って、くれない。クラスのみんなはともかく、パパやママは・・・笑ってくれない。



笑って欲しいのに、笑ってくれない。やっぱり、バカみたい・・・だからなのかな。





「・・・りま、りま」



クスクスの声が聞こえる。私の膝の上で・・・右手でほっぺたをむにーっとひっぱり、舌を出して・・・あ、変な顔だ。



「正解っ! ね、りま・・・笑って? 笑おうよ」



・・・でも。



「恭文、言ってたよ? くだらなくなんてないって。笑う事は・・・ううん、りまがパパやママに考えてることは、絶対にくだらなくなんてないって。だから、まず・・・りまが笑おう?」





その言葉に・・・私は、ほんの少しだけ心の中の勇気をつかって、笑った。笑顔というより、微笑み。・・・なんだろう、なんで私・・・恭文の言葉、素直に聞いてるんだろ。クスクスも懐いてる感じだし。





「りまの周りには、今まで居なかったタイプだよね〜。だからじゃないの?」

「・・・かもね」










男の子は、召使いになる。・・・こういうと色々と語弊があるけど、ちょっといい顔をするとあんな感じになる。

だけど、恭文は違う。結構ビシっと言ってくる事も多いし、泣きまねも無視する。・・・一応言っておくと、見抜いてるわけじゃなくて、無視するらしい。アルトアイゼンやリインは見抜いてくるけど。

こう、思い通りにならないというか、私の意のままに動かないというか。そういうちょっとムカってくる奴というのが最初の印象。





だけど・・・あぁ、そうだ。縛られたり大きな手でつかまれたりもしたんだ。あれも悔しい。

それにそれに・・・あれ? なんで私、こんな恭文の事ばっか考えてるんだろ。おかしいなぁ・・・。

とにかく・・・アレよアレ。なんていうか・・・そういうのはあんまり変わってないんだけど、今日言ってくれた事は、嬉しかった。





でも・・・恭文、そうかも知れないけど、パパとママ、笑ってくれないの。私のために喧嘩ばかりして、全然・・・笑ってくれないの。





こういうのは、どうすればいいのかな。どうすればパパとママ、昔みたいに笑って、くれるのかな。





私に、いったい何が、出来るのかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・しかし海里、まったく情報がつかめんな」

「まぁ、仕方ないさ。逆にここで簡単につかめたら、俺達の出番が来るわけがないんだから。まぁ・・・収穫が無かったわけじゃないけど」



ただ・・・これは利用出来ないな。というより、どうやって利用すべきかがわからない。

いや、もしかしたらこのまま放置してるだけで、クイーンはガーディアンから脱落する可能性もある。



「しかし、驚いたな。まさかあの娘・・・かどわかされたことがあるとは」

「・・・そうだな」





クイーン・・・真城りまは、前に居た学校で不埒な連中に誘拐された事がある。・・・いや、訂正だ。されかけたことがある。ただ、事件自体は未遂に終わり、金銭だったりクイーン自体に重大な被害は無かったのが不幸中の幸いだった。

が・・・問題はその後。なんでも、学校と親、どちらの責任かという話にもつれ込んだらしく、相当にやりあったらしい。親は学校の責任。そして、学校は親の責任と押し付けあっていたとか。

結局は、和解できずに転校と言う形で処理をして・・・現状に至る。ただ、ここで更に問題が一つ。



クイーンのご両親は共働きで相当忙しく、その迎えにも仕事の合間を縫って行っている。その負担は相当。その上、誘拐未遂事件の余波は両親の不仲という形にも及んでいる。

そして、俺の調査では両親はクイーンがガーディアンに在籍していることに相当不満があるらしい。もっと言えば、やめて欲しいとも思っている。

理由は簡単。ガーディアンの活動により、迎えの時間が遅くなったり早くなったり・・・これが先ほど言った負担に拍車をかけている。そのせいで、クイーンの家の中での立ち位置も少々微妙だそうだ。





「確かに弱みと言えば弱みだが・・・どうする? 姉上殿に報告するか?」

「・・・いや、やめておこう。人の古傷に触れるなど、武士のすることではない」

「それを言えば、スパイも武士のすることではないがな」

「言うな・・・」





・・・バレたら怒られるだろうな。こんないい材料をどうして言わなかったのかーと。よし、バレないようにしておこう。





「ところで海里、話は変わるが」

「なんだ?」

「蒼凪殿に古鉄殿・・・どうするつもりだ? 万が一敵対した場合、1番の強敵となるのは明白だ。なにより、まだ手札を完全には晒していないと思われる」

「そうだな・・・。その辺りも、姉さんに相談してみるか」



・・・あ、この大根はいいな。よし、今日の煮物の具財によしと。



「海里、こちらの人参も中々だぞ」

「でかしたムサシ。よし、これで姉さんは喜んでくれるはず」

「姉上殿は和食が好きだからなぁ」










とりあえず、煮物に・・・メインはどうしようかな。





あ、現在俺・・・三条海里、近くのスーパーで夕飯の買出し中です。タイムセールのおかげで、食材が安いのが助かっている。










「むむ、そこにあそこのアジの開きなどいいのではないか?」

「そうだな・・・いや、あれは明日の朝食にでもするか。メインはしっかりいきたい」





そうして、ムサシの案内で魚のコーナーへと行き・・・手を伸ばす。



すると、手がぶつかった。どうやら、ほぼ同じタイミングで互いに手を出したらしい。





「あの、すみません」

「いや、こっちこそ悪い」





そうしてこちらを見るのは・・・栗色の髪を腰まで伸ばし、金色のリボンでちょうちょ結びにして一まとめにしている・・・女性?



いや、それにしては喋り方が違うな。もしや、男性なのか? ・・・いや、男性だ。考えてみれば、キングや蒼凪さんも見ようによっては女子に見える。問題はないか。





「とりあえず、これ・・・残り一つだけみたいだし、どうぞ」



俺より身長が低いその人は、それを手にとってそのまま勧める。



「いえ、さすがにそれは・・・俺は別のものを探しますので」

「いいっていいって。そっちの方がちょっとだけ早かったみたいだからさ」










結局、譲っていただいた。俺は何度もその方にお礼を言って、その場を出た。





そう言えば、名前を聞いていなかったな。むむ・・・これは不覚。今度会えた時には、是非ともお礼をしなければ。




















(第19話へ続く)






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