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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第16話 『覚醒する切り札 つながり始めた切り札達 そして・・・』:1



「それでバルディッシュ、どうかな」

≪・・・ダメですね。仮に賊が居たとしても、そうとう手早く逃げたようです。それらしい反応は全くつかめません。Sir、申し訳ありません≫

「ううん、大丈夫だよ」










・・・ほしな、歌唄なのかな。可能性としてはかなり高いとは思うけど。





青く晴れている空を見上げる。見上げて思い出す。あの子が言っていた事を。





勝たなきゃいけない、負け組、だから優しさは、弱さはいらない・・・か。確かにその通りではある。

私だって一応大人だもの。そういう道理は分かってる・・・つもり。人に言われるまでもない。

でも、違う。だからってそのために何かを切り捨てるのは、絶対に・・・絶対に違う。





私は、それだけは否定しなきゃいけない。それだけが正しい答えで、それだけが正解だなんて考え方は、否定しなきゃいけない。ううん、否定したい。・・・ヤスフミも、同じだって言ってたっけ。





私は、拳を握り締めながら思い出す。うちで咲耶と楽しそうに話しているであろう、あの白くて小さな子のことを。





・・・あなたは、何がしたいのかな。弱いけど優しい自分を否定して、そこまでして・・・なにが、したいのかな。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第16話 『覚醒する切り札 つながり始めた切り札達 そして・・・』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



対峙している黒き悪意は、そのまま僕に向かって踏み込む。

そして、数十メートル開いていた距離を一瞬で詰め、ぶつかり合う。

襲い来る右拳を左の掌底で打ち落としそれから胸元に右拳を一発叩き込む。





そうしてひるんだところに左拳をわき腹に向かって一発。これもまた入る。

そのままゆっくりと歩み寄り・・・また左右でワンツーと打ち込まれた拳を少し下がって回避。

その直後に懐に踏み込んで・・・足を止める。





理由は簡単。×キャラが右足を使って、蹴りを僕の顎に向かって叩き込んできたから。

それを止まる事で避けると、今度はそこから踵落とし。僕の頭上から襲い来るそれを、右に身を翻して避ける。

そして、今度こそ懐に入り込んで、×キャラの胴体に右、左と拳を叩き込む。










「はぁっ!!」










そこから、右足で中段のミドルキック。×キャラはそれをマトモに食らい、後ろへと転げるように下がる。





起き上がり、僕へと迫ろうとした所に・・・回転するロッドが迫る。










「スパイラル・・・ハートっ!!」





それを右に転がり回避。続けて来たものを、右手で払う。



当然、これはあむの援護。だから、僕はもう前へと一歩踏み出している。



踏み出しながら、アルトを抜き放つ。下から上へと鋭く上がるような剣閃。開放された虹色の刃が×キャラへと迫る。

×キャラは両腕を交差させ、それでガード。だけど、その腕に確かに虹色の斬撃は刻まれた。

その腕を広げながら、胸元から例の音符型の弾丸を放つ。散弾のように至近距離で放たれたそれを、僕は避けた。



もう、背後は取っている。そして、左手にはスペードの2のカード。絵柄は尻尾が刃になっている緑のトカゲ。・・・よかった、これはそのままっぽい。

僕はそれをスラッシュ。カードの効果を発動させる。





≪Slash≫





また、一瞬だけジャケットが白く輝く。アルトの虹色の刃の輝きが更に強くなる。そのまま、刃を打ち込んだ。





「はぁっ!!」





袈裟に一閃。すると、いわゆるエネルギー波が刃の形を取り、放出された。それが×キャラの背中を斬る。

それによろめきながらも、振り向くところに胴に左から一閃。また同じように虹色の刃が飛ぶ。

そして、一歩だけ踏み込んで胴に一閃。その×キャラは後ろへとまた吹き飛ぶ。



・・・鉄輝一閃ほどの威力は無し。だけど、体力の消費なしで遠距離攻撃可能ですか。やっぱりカードの内容が違ってる。でも、これはありかも。



そこに、まとわり付くように再び回転する二つのロッドが襲う。×キャラの周囲をぐるぐると回り、その動きを封じ、かく乱してる。





「恭文、今のうちにっ!!」

「あむ、ありがとっ!!」





僕は右のカードホルダーからカードを取り出す。それは二枚のカード。



もちろん、僕はカードを一枚ずつリーダーに通す。まずは、これ。





≪Kick≫





通したのはバッタ・・・いや、イナゴだっけ。とにかく、かっこいい感じのイナゴの絵が描かれているスペードの5のカード。つまり、キック強化。



次は、これ。





≪Icicle≫





描かれているのは、口から白い吐息を吐き出しているヘラシカのカード。カテゴリーはスペードの6。

もちろん、特殊効果は見ての通り攻撃への氷結属性付与。

・・・これも内容が違う。待て待て、これでコンボ繋がるの?



でも、それとはまた別問題で僕、自分のセンスに疑いが出てきたんだけど。ここまで来るとちょっとおかしいって。





≪Beat Slap≫





そして、これでコンボは成立した。



・・・え?





「成立したっ!? というか、名称が違うっ!!」

【すると思ってなかったのっ!? そしてどこがどう違うのっ!!】

「全部がまるまる間違ってるのっ!!」





右のガントレットの中ほどにある、ひし形の青いクリスタルから、二つの青いエネルギー状の球体が飛び出す。それは1メートル前後の絵柄付きのカードへと変化して、僕の前に展開される。

数は当然のように二枚。5と6のカードでのコンボ。それがこの攻撃の正体。二枚のエネルギー状のカードは、僕の両手と両肩に付いているスペードの装飾に粒子となって吸い込まれる。

それから、僕は全速力で走り、跳んだ。





【「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」】





そのまま、僕は右足を突き出し、凍りついた×キャラの胸元へと蹴りを叩き込む。

手ごたえ・・・足応えあり。確かに、僕の蹴りは×キャラの胸元に叩き込まれた。

×キャラは吹き飛ばされる。僕の蹴りが命中したところに氷が発生し、それが全身へと広がっていく。



そのまま凍れる人形は地面を転がる。ようやくそれが止まってから解放されて出した声は、断末魔。





『ム・・・ムリィィィィィィィィィィィィッ!!』





×キャラはそのまま氷ごと、砕け散り、はじけた。その氷が宙を舞うと、その光景の中に白く輝くたまご達。・・・本当に、壊さずに助けられるらしい。



そのたまご達は、無事に倒れていた人達の中へと吸い込まれていく。それに、密かに安堵する。





「・・・やったな」





後ろから聞こえてきたのは、空海の声。それに右手でサムズアップ。空海も、笑顔で返してくれた。

あむも、なんだか笑ってる。・・・一応ね、頑張ったのですよ。



そして、キャラなりを解除。その瞬間、崩れ落ちた。僕もミキも、汗だらけで息を荒くしてて、つまるところ、体力の限界。



やっぱり、体力の消耗の激しさは変わらないらしい。これ、相当だし。うぅ、一度精密検査とか必要かなぁ。





「ミキ・・・大丈夫?」

「な、なんとかね。でも・・・」

「でも?」

「魔法を『魔法』にするんだもの。これくらいは、頑張るよ」



・・・ありがと。そう言ってくれると、嬉しいわ。



「・・・恭文、疲れてるとこ悪いんだけど、真城さんを」



あむにそう言われて、りまの方を見る。・・・そう言えば、ずっとあのままだっけ。



「うん、分かってる。・・・ほい」



左手はもう地面についていたので、そのまま魔法を発動・・・いや、発動して変形したままだった地面にかかっていた術式を、解除する。それにより、鉛色の手は元のコンクリな路面へと変わる。周囲に出ていた杭も同じく。

りまはそのまま崩れ落ちる。・・・あとは知らない。



「ありがと」

「いいよ、別に」

「あのね、真城さん」



あむはそのまま言葉を続ける。それは、りまに向かって。りまは顔を上げて、それを聞く姿勢を示す。



「確かに、壊そうが浄化しようが変わりないかも知れない。ジョーカーの仕事は×たま狩りであって、浄化は必須じゃないって言われたら、その通りだよ。
でもね、それでも・・・浄化出来るたまごは、浄化して助けたいんだ。誰かのたまごが壊れるのなんて、出来れば見たくない。」

「・・・随分と偉そうね。まるで、壊す私が間違っていて、自分が正しい事をしてると言いたいみたい」

「違うよ」



あむは首を横に振る。そして、少しだけ悲しそうな顔で話を続ける。



「あたしね、悪い奴にラン達を・・・自分のたまごを、さらわれた事があるんだ」



その言葉にりまの表情が驚きに染まる。そして、なぜだろう。必要以上に瞳が揺れているように思うのは。



「まぁ、あと・・・ガーディアンに入ってから色々あってさ。だから、分かるの。自覚しているしてないは抜きに、たまごがなくなるのは、壊れちゃうのは、本人にとっては悲しい事なんだって。
だから、助けたいの。誰でもない、あたしがそうしたいって決めたから。正しいとか、正しくないとか、間違ってるとか、そんなのはあたしにとってはどうでもいいんだ。だって、誰でもない、あたしがやるって決めた事だから。・・・だから真城さん、これだけは言っておく」



あむの表情が険しくなる。そしてそのまま、りまを見る。



「ガーディアンの仕事どうこうじゃなくて、あたしはあたしの勝手で、あたしの意思で、たまごを浄化する。
真城さんがどう思おうが、どれだけバカにしようが、絶対やめない。・・・あたしが自分で決めたこと貫けなきゃ、キャラがすたるしね」










・・・・・・その言葉に、りまは何も返さなかった。





伝わったか伝わってないかどうかの判断は、僕には・・・つかないや。





とにかく、その後・・・僕は戻ってきたフェイトに背負われて(歩けるって言ったけど、疲弊がひどすぎて強制的に背負われた)自宅に戻った。あむも同じく。





・・・空海? もちろん、詩音さんが目を覚ますまで付き添ったさ。うん、当然だね。










「・・・フェイト、結構恥ずかしいんですけど」

「問題無いよ。私の方が身長高いんだもの」

「いや、そういう問題じゃなくてですね・・・」





まぁ、恋人・・・なので、女の子に背負われている今の状況と言うのは、あんまり芳しくないわけですよ。



男ですから、意地はあるのよ。





「いいの。・・・恋人だから、背負わせて欲しいの。私、ヤスフミやあむと一緒に戦うことが出来ないもの。だから、これくらいはさせて欲しい」



いつもの優しい口調。だけど、どこか懇願するものがあった。だから、言葉と一緒に、フェイトをギュッと抱きしめる事で、返事を返した。



「分かった。フェイト、ありがと」

「・・・うん」










空は既に夕暮れ。よくよく考えたら・・・デート、途中でダメになったなと思い出す。





まぁ、いいや。フェイトの背中の感触・・・暖かいし。










「・・・あのー、あたし達のことを忘れないでもらえると助かるんですけど」

「私もあむちゃんに同意・・・」

「はわわ、フェイトさんも恭文さんも、ラブラブですぅ」

「というか、よくそんな元気あるよね。ボクはもうすでにグロッキーだって言うのに」

「「ご、ごめんなさい」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、それから数日後の日曜日。僕とあむ、それにフェイトは、この街から旅立つ詩音さん・・・よし、大分慣れた。あれとは別人だし、慣れないのはおかしいしね。





とにかく、近くの駅に詩音さんを見送りに来た。時刻は朝の10時。詩音さんが乗る特急電車は出発間近。なのに・・・空海が来ない。





僕もあむも、時計を気にする。出発まで五分を切ったから。フェイトに至ってはオロオロしている。










「・・・だめだ、電話通じない」

「ヤスフミ、私空海君探してくるよ。もしかしたら、ホーム分からなくなってるかも知れないし」

「あぁ、大丈夫ですよ。別にこれで永遠にさよならってわけでもないですし」



詩音さんが・・・いいんだ、さん付けは仕方ないんだ。

とにかく、詩音さんが寂しそうに笑う。・・・それを見て、また空気が重くなる。



「でも、空海君もしかしてこう・・・告白とか頑張るかも知れないですし。もうちょっとだけ待っててもらえませんか?」

「はぁっ!?」

「ちょっと恭文っ! フェイトさんの勘違いまだ直してなかったのっ!?」

「直せるんならとっくに直してるわっ! フェイトは勘違いするとあんまりに」



言いかけて、気づいた。こっちへ必死に来る足音が一つあると。この足音は・・・間違いない。

僕は階段の方へとかけより、そちらを見る。・・・居た。あのバカ、遅いっつーの。



「空海っ! 何やってんのさっ!!」

「悪いっ! ちょっと手間取ったっ!!」



そのまま空海は走りこみ・・・詩音さんの前へ来た。息を相当荒くして、顔からは汗。こりゃ、かなり急いで来たらしい。



「・・・遅いよ。私、もう乗り込むところだった」

「悪い・・・。さっきも言ったけどちょっと手間取ってさ。詩音、これ」



そう言って、空海が右手を上げる。そこに持っていたのは、四葉のクローバー。

それを見て、詩音さんが表情を驚きに染める。というか、なんだか嬉しそう。



「アンタ、これ・・・」

「欲しがってただろ。『夢を追いかけるのは、不安や焦りが付きまとう』・・・だっけか? それに負けないようにお守り代わりにしたいって言ってよな。だから、やる。餞別がわりだ」

「まさか、そのために今まで?」

「・・・まぁ、大事なダチから色々アドバイスもらってな」



空海が言いながらも僕を見る。まぁ、笑顔で返した。



「そっか。いい友達もったわね」

「あぁ。俺の自慢だ。でよ、その時にこうも言ってたよな。どこまでいけるか分からないって」



詩音さんが頷いた。だから、空海は顔を上げて、満面の笑みで、力強く言い切った。



「どこまでいけるか分からないってことは・・・どこまでだって、いけるってことじゃねぇのかな」



その言葉に、詩音さんの表情が崩れる。空海に優しく・・・暖かく、微笑みかける。



「空海、ありがと。・・・またね」

「あぁ、またな。詩音」





本当に、本当にそれだけ言葉を交わして、詩音さんは手を振りながら電車に乗り込んで・・・旅立っていった。



僕達は、笑顔でそれを見送った。電車がもう見えないところまで行った時・・・ふと思ったので、聞いてみた。





「空海、また時間かかるもの探したね」

「あぁ。ここ数日・・・今日に至っては、明け方から必死にやってやっと見つかったんだよ。いや、苦労したぜー」

「一応、僕やフェイトの手札の中にサーチって言うものがあるんだけど、それは考えなかった?」



僕の言葉に、空海は・・・『何言ってんだ』と言わんばかりの顔をする。



「俺の時間も一緒に渡すんだからな。そんなズルしちゃ、意味ないだろ」

「・・・正解。いや、空海はいい男だねー。見習いたいよ」

「いやいや、お前だって中々だろ。フェイトさん捕まえてるのが何よりの証拠だ。・・・でもよ、恭文」

「なに?」

「どこまでも、いけるよな。分からないってことは、そういうことなんだよな」



僕は・・・頷きでその言葉に返した。その通りだと。間違ってないと。

不安な事の方が多いかも知れないけど、それでも、未知への期待の方が多い。僕は、そう思う。



「いけるよ。きっと、どこまでだっていける。それにさ、全部が自分の分かっているものばかりで固まっている世界なんて、つまらないじゃない?」

「・・・そうだな。あぁ、そうだ。分からないから、ワクワクすることが沢山あるんだよな」

「そうだよ。分からないから・・・知っていくことが、理解し合っていくことが、楽しいんだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うーん、男同士で語っちゃってるなぁ。色々思うところがあるのかな?





というより・・・空海、やっぱり詩音さんの事、好きだったんじゃ。










「もしかしたら、そうかも知れないね。・・・自分の時間を使うって、本当に大切な人が相手じゃないと、出来ないから」

「フェイトさんもそうだから、分かるんですね」

「うん、そうだね。私ね、ヤスフミと恋愛するようになって、そういうのよく分かるようになったから。
それで・・・話は変わるけど、あむ。今日はこの後、ややの家で、ガーディアン会議だったよね」



フェイトさんの言葉に頷く。そう、今日はこれからややの家。なお、ややの提案。

というか・・・フェイトさんも来るらしい。一度、海里や真城さんとちゃんと挨拶しておきたいとか。



「まぁ、それだけじゃないけど。・・・あなたのたまごのこと、そろそろ話さなきゃいけないでしょ?」

「そ、そうでした・・・。あ、もしかしてそれで?」

「うん。一人だと話しづらいかなと思って」

「・・・フェイトさん、本当にすみません。あむちゃんがしっかりしてないせいで」










ミキがお母さんみたいにフェイトさんに謝り出した。というか、ヒドイ。居心地がヒドイ。





いや、全部あたしが悪いんだ。ちゃんと話さなかったあたしが悪いんだ。





ごめんなさい、フェイトさん。ごめんなさい、ミキ。うぅ、本当に反省しよう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、ややの家に到着した。先に来ていたリインやエル。他のメンバーとなんとか無事に合流。なお、空海はそのまま家に帰って休むそうなので、駅で別れた。





・・・うーん、普通の一軒家だ。しかし、ガーディアンメンバーの家・・・実際に中に上がるのは初めてだね。





で、当然のように・・・こういうシーンがあったりするわけですよ。










「・・・で、このお姉さんが以前話したフェイト」

「は、初めまして。俺は三条海里と言いまして」

「ジャック、テンパり過ぎ。・・・真城、りま。あなたがガーディアンの協力者?」



そう、初対面組との交流です。海里が若干顔を赤くしているのは気のせいだ。・・・仕方ない、あれは仕方ないんだ。



「一応・・・そうなるかな。初めまして、フェイト・T・ハラオウンです。よろしくね」

「よろしく、お願いします」

「・・・よろしく」



一応、上手くは行ってる様子なので、少し安心してる。りまも近頃なんか大人しいし。



「むむむ・・・今日はラブラブじゃないのですね。至って普通なのです」



とりあえず、唸ってなんか言い出したエルをハリセンで叩き落す。その上で右手で掴み、ちょっとみんなの輪から離れる。もちろん早足で。



「あなたっ! いきなりなにを・・・す、するのですかぁ?」

「それはこっちのセリフだ。お前・・・ラブラブってなんだ」

「だって、恭文さんはフェイトさんとラブラブですよね? ラブリー天使エル様にはお見通しなのです。具体的には、奇数日の朝の空気が甘いのです。そこから推測するに、二人のラブラブタイムは偶数びぎゅ」



左手の親指と人差し指で顔をしっかりと掴んで、入らない事をぺらぺらと喋り出したラブリー天使を黙らせる。そして、顔を近づけ、にっこりと笑う。なお、思いっきり殺気をぶつける。すると、エルの顔色が悪くなる。



「エル、突然だけど・・・僕はいらないことをペラペラ喋る奴って、嫌いなんだ。もう文字通り握りつぶしたくなるの」



で、そのまま言葉を続ける。あ、左手は離して、エルの口を解放。



「そこを踏まえた上で一つ質問ね。ここでペラペラと僕とフェイトの奇数日の朝が甘いとかそういう話をする奴と、プライベートなことだから心の中に締まっておこうとする奴。どっちが長生き出来ると思う?」

「そ、そんな脅しに屈して、真実から目をそむけるエルではありませんよ? いいではありませんか。年の差カップルでもショタでも問題は」

「・・・あぁ、前提が足りなかったね。そう言えばエルはこう言ってたっけ。ほしな歌唄と日奈森あむは宿敵同士。なので、あむと関連の深い僕と歌唄のしゅごキャラであるエルも敵同士って。
僕・・・フェイトやガーディアンの皆と違って、本当なら敵に優しくするほど、甘くないんだ」



それは色んな含みを持たせた言葉。それに、エルの身体が固まる。



「もうめんどいし、率直に言おうか。僕やフェイトに何の許可もなく余計な事を人にベラベラ喋ったら、家から叩き出すよ? もちろん、宿泊料はしっかりと支払ってもらった上で」

「しゅ、出世払いは・・・」

「なしに決まってるじゃん。うちはいつでもニコニコ現金払いだよ? もちろん、歌唄に肩代わりしてもらうとかそういうのもなし。エルが、自分で、しっかりと馬車馬のように働いてもらった上で、払ってもらう」



ある意味とどめ。最恐の切り札を僕は切った。そして、それによりこのラブリー天使はどうやら分かっていただけたようだ。



「了解しましたっ! エルは大人なので、心の中に締まっておこうと思うのですっ!!」

「うん、よろしい。いやぁ、エルは物分りがよくて助かるよ」



僕はエルを完全に解放してから、笑顔でみんなの輪の中に戻る。みんなが口々に『どうしたの?』なんて聞いてくるけど、なんでもないと笑顔で返す。



「・・・脅しておいて何を言うですか。この人」

「エル、なにか言った?」

「な、なんでもありませんですっ! というか、首を180度近く回すのは怖いのでやめてくださいっ!!」



まぁ、そこはともかく、インターホンを押す。そして数秒後・・・私服姿のややが出てきた。可愛いプリントされたシャツに、縞模様のミニスカート。うん、こう・・・ややの元気一杯で活発な印象に合ってる。なかなかいいのぅ。



「あ、みんな待ってたよー! フェイトさんもようこそー!!」

「うん。やや、今日はお邪魔するね。これ、ヤスフミとリインと一緒にタルト焼いて来たから、お土産」

「ブルーベリータルトです。とってもとっても美味しいですよー♪」

「あ、僕もあるんだ。おばあさまが美味しいびわを持たせてくれたから」

「うぅ、恭文もフェイトさんもリインちゃんも唯世もありがとー! ささ、とにかく上がって上がってー!!」





中に案内されて、見ると・・・わぁ、綺麗にしてるなぁ。隅々までぴかぴかだよ。





「ホントだね・・・。余所の家の匂い、新鮮だぁ」

「ミキ、僕とフェイトの家は違うの? そんな反応なかったような気がするんだけど」

「うーん、恭文とフェイトさんの家は・・・甘い空気がする。こう、居るだけで糖分過剰摂取な感じ」



・・・なんですか、それは。



≪すみません、ミキさん。当人達は全く自覚が無いんですよ≫

「うん、知ってる。見ててそう思うもの」

「いや、だから何の話を・・・」



とにかく、靴を脱いで、家に上がって・・・ややが一つ気になる事を言った。



「あと、みんなごめん。ちょっと静かにしてもらえるかな? さっきようやく寝たばかりだから」

「・・・寝た? いやいや、他人様の家だから静かにするのはいいけど、寝たってなにがさ」

「えっとね・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



リビングに入る。そして、そこに寝ていた存在に僕達は固まった。だって、予想の斜め上を行ってたんだから。





それは、ベビーベッドの中ですやすやと寝息を立てながら夢の世界に居た。小さくて、可愛くて、壊れそうなくらい柔らかそうで・・・。










「わわ、可愛いですー♪」

「むむ、リインちゃん余所見だめー! ややの方が可愛いよー!?」

「それは一体どんな対抗意識ですかっ!?」





僕やフェイトが慣れ親しんだ、あの存在だった。





「・・・もしもし、ややさんや」

「うん、なにかな」

「あれはもしかしなくても・・・赤ちゃん?」

≪それも、双子ですよね≫

「正解。恭文もアルトアイゼンも、よくわかったね〜」





・・・あれで分からない奴が居たら、それは色々問題だと思う。そして、これで外れだったら、僕は世の中の常識ってやつを疑っていただろう。

そう、僕達の目の前に、赤ん坊が居た。髪の色・・・ややと似ているから、多分ややの兄弟か何かだね。

でも、可愛いなぁ。赤ん坊を間近で見るのは結構久しぶりだけど、やっぱり可愛いって。天使に例えられるのがよく分かる。・・・たまに悪魔になるけど。



でさ・・・どういうことっ!? なんで赤ちゃんが居るのっ! というより、ややの親御さんはっ!!





「あ、うちの両親、親戚の法事で居なくてさ。いや、やや一人で二人の面倒は大変なんだよ。というより、ムリ?」

「ねぇ、やや。あたしが思うに、まさかアンタが今日自分の家でガーディアン会議しようって言い出したのって・・・この子達の世話させるためっ!?」

「結木さんっ! 僕もみんなもそんなこと聞いてなかったんだけど、どういうことかなっ!!」

「だってー! やや一人でこれはムリだもんー!!」



なんか平然とダダこね始めたしっ! や、やられたっ!! なんかやたらと『ややの家で会議やろうよー!!』・・・なんて言ってプッシュしてくるから、変な感じはしてたけどっ!!



「・・・ねぇ、これオス? メス?」

「両方ともオスだよ」

「こらこらっ! 人間の赤ちゃんをそんな風に言わないっ!!」

「ですです」



なんてあむとリインが言ってると、双子が泣き出した。それはもう盛大に。



「あぁもうっ! あむちーや唯世が大きな声出すからー!!」

「え、僕達のせいっ!? あぁ、どうしようっ! 赤ちゃんの世話なんてしたことが・・・三条君っ!!」

「お、俺もダメですっ! クイーンはどうでしょうっ!!」

「・・・出来るように見える?」



うん、見えない。まったく見えない。なので・・・僕とフェイトは顔を見合わせて、ベビーベッドへと近づく。

で、二人して股間に手を当てると・・・あぁ、やっぱりか。



「これ、声のせいじゃないよ」

『え?』



フェイトが静かにそう言うと、パニくってた全員の動きが止まる。



「やっぱりオムツだね。泣き声でそうじゃないかって思ってた」

「そうだね。やや、消毒ペーパーと代わりのおむつ、すぐに持ってきて」

「へ?」

≪いいから、早くしてください。マスターとフェイトさんでおむつを変えますから≫





僕がそう言い、フェイトがややに頷くと、ややは驚きつつもすぐに消毒ペーパーと代わりのオムツを持ってきた。なので、早速行動開始。



まず、今のオムツを外して・・・また頑張ったなぁ。こう、かぐわしい匂いがするよ。





「まぁ、元気でいいことだよね」



フェイトはそう言いながら、今までつけていた紙おむつを包んで、ややに一緒に持ってきてもらったポリ袋にそれを投入。

で、消毒ペーパーを数枚取って、双子その1の両足を取り、お尻を拭く。



「ふぇ・・・」

「ちょっとだけ我慢してね。すぐに気持ち悪いの無くなるから」



安心させるように、フェイトは双子その1に笑いかけながら手を動かす。で、綺麗になったのを確認してから、新しいおむつを履かせる。

なお、僕も同じく。1年間ほぼ毎日やっていたことなので、もう身体が覚えている。スムーズに動く。



「わわ、フェイトさんも恭文もすごーい。やや、全然おむつ交換とか出来ないのに」

「慣れればややでも出来るよ。・・・私もヤスフミも、最初は全然だったから」

≪マスターとフェイトさんの兄夫婦に、双子の子どもが居るんです。それで、それの世話とかを手伝っていたので、これくらいは楽勝というわけです≫

『なるほどー』



そんなことを言っている間に、もうおむつ交換は終了。僕とフェイトはそのまま優しく抱いていると、双子は安心したのか、そのまますぐに眠りについた。

それから双子を揃ってベビーベッドに戻してからみんなを見ると・・・やたらと感心している目で僕達を見ていた。・・・ねぇ、そこまで? いや、僕もそうだったからわかるけど。



「ね、やや。この子達の名前ってどんなのかな」

「あ、はい。えっと、フェイトさんが抱いてたのがつばさで、恭文が抱いてたのが太郎です」

「そっか、いい名前だね。でも・・・なんで太郎なの?」

「それが分からないんです。パパとママは、つばさならもう一人は太郎だって譲らなくて」





あぁ、僕は分かるわ。みんなは疑問顔だけど分かったわ。



多分ご両親はキャプテン翼が好きだったんだよ。間違いない。





「でもでも、ありがとうございますっ! うぅ、フェイトさんと恭文が居てくれてよかったー!!」

「・・・やや、それは姉としてはどうなのかな。いや、真面目な話だよ」

「ジョーカーの言う通りです。実の姉だと言うのに・・・」

「いいのー。ややはそういうの専門外だしー」





その言葉に、全員がため息を吐く。とりあえず・・・これはどうしようもないと思った。





「ね、ガーディアン会議、始めようか。それやりに来たんだし」

「そうだね」





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