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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース07 『ティアナ・ランスターとの場合 その1』



・・・出会ったのは、きっと本当に偶然。





うん、本当に偶然だった。だって、もし私が六課を辞めていたり、アイツが何が何でも仕事を断っていたら、出会わなかった。私達はきっと他人のまま。





でも、それでも出会った。そして・・・惹かれた。





私より身長が小さくて、細くて、柔らかくて、だけど・・・無茶苦茶強い男の子に。多分、生まれて初めての本気の恋。





・・・その気持ちに気づいた時、夢がひとつ増えた。





夢の一つは、今までと変わらない。執務官になること。兄さんの夢・・・ううん、私達の夢を叶えること。





そして、もう一つは・・・完全に私自身の夢。というより、欲望?





それは、勝つこと。私より強くて、凄くて優しくて綺麗な・・・金色の髪と朱色の瞳をしたあの人に。





そうして、奪うこと。家族という一つの答えが出てなお、あの人を守りたいと想い続けているアイツの心を。・・・最低だね、私。こんなの、夢じゃない。きっと沢山傷つける。現に今だって傷つけてる。





でも、ごめん。止まらないの。止められないの。私、アイツにそれでも振り向いて欲しい。私だけのものになって欲しい。それだけじゃなくて、私もアイツのものに・・・なりたい。










「・・・ティア、あの・・・えっと」

「今日、私・・・そういう事があっていいつもりで来た。だから、好きにしていいから」





男の子を押し倒すなんて、思わなかった。私、こんなこと出来る女だったんだと、ちょっとビックリしてる。





「ティア、どいて。僕怒るよ? そんなこと出来るわけ」

「じゃあどうすりゃいいのよっ!!」





部屋の中に叫びが響く。アイツ・・・びっくりした顔してた。





「私じゃ、こうでもしないとアンタの中のフェイトさんに勝てないっ! 私・・・普通にやったら絶対にアンタとの時間、掴めないっ!! でもそんなの嫌だっ! 絶対嫌なのっ!!
・・・好き、なの。最悪、ずっと2番目でもいいと思ってた。私じゃフェイトさんに勝てないのは仕方ないって、分かってたから。でも・・・それじゃあ納得できなかった」





零れるのは涙。私の目から・・・ボロボロと涙が零れ落ちる。



だめ、全然・・・止まらない。





「・・・お願い、結果なんて約束しなくていい。そういう・・・身体だけの遊びな関係でもいい」





アイツの右手を取る。そしてそのまま・・・胸に当てる。



アンタの手、暖かいね。ううん、熱いくらい。だから、触ってて・・・なんだか、安心する。





「ただ、それでもいいから・・・私を、ティアナ・ランスターを女の子として見て欲しいの。アンタに私の事、女の子として・・・扱って欲しいの。アンタの側に居させて・・・欲しいの」

「ティア・・・」





だから、こう口にする。



私はこの瞬間、私の人生の中で・・・最大の勝負を、吹っかけた。





「もう一度・・・言うわよ? 私、アンタが好き。だから、奪う。私だけのアンタになって、もらうから」




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと


ケース07 『ティアナ・ランスターとの場合 その1』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・先日のフェイトとエリオとキャロとの家族旅行から帰ってきてから・・・いや、ギンガさんからの依頼を引き受けてからだろうね。





なんと言うか、ある女の子と色々話す時間が増えてる。どうやらこう・・・気が合うらしい。模擬戦直後は軽くやりあったのに。










「それはアンタがふざけまくるからでしょ? まったく、どんだけよアレ。てゆうか、どこで覚えたのよあんな戦い方」

「あ、先生がやってた。あと、テレビでヒーローが」

「バカじゃないのっ!? どこのヒーロー物にあんなの出てくるって言うのよっ! 出てくるわけないでしょうがっ!!」



休憩所のテーブルをドンと叩いてそう言い切ったのは・・・ティアナ。そう、最近仲良くなってきている女の子。逆にスバルとは若干微妙なのに。



「・・・まぁ、スバルの事は納得しなさい。あの子から見たら、やっぱりアンタはおかしいところ多いと思うから。知ってるんでしょ? あの子の身体のこと」

「・・・まぁ・・・ね」



そう、スバルの身体のこと・・・戦闘機人の身体のこと。僕が知っていると言うのをティアナは既にご存知。というより、吐かされた。

先日、スバルの話になった時、僕の様子がおかしいと感じたらしく、かなり問い詰められて・・・これだ。まぁビックリされたよ。色々と。



「ね、一つ聞いていい?」

「なに?」

「アンタさ・・・怖いとかって感じなかったの?」



結構真剣に聞いてきたのは、意外な事柄。だって、ティアナだってスバルの身体の事は知ってるはずなのに。それで・・・この質問が出る事にちょっと驚いていた。



「うーん、感じなかった。少なくともギンガさんとスバルはね」

「またどうしてよ」

「力なんて、使う奴次第だよ? 例えばギンガさんやスバルが、この間のカップル強盗みたいなことばかりやる・・・とかなら怖いけど、そうじゃないでしょ。
あ、それはチンクさん達もそうかな。昔はともかく・・・今は普通に姉妹なんだし」

「・・・なるほどね、納得だわ」





そんな答えになってないような言葉だけ言うと、本当にティアナは納得した顔になった。・・・うん、いつもこんな感じ。

なんだか、ティアナとは本当に波長が合うみたい。傍から見ると、ティアナも同じ感じらしい。

例えば・・・フェイトやなのはと話してる時にたまに感じるズレとかそういうのが、ティアナ相手だと全く感じない。



なんか、全部ペラペラと話しちゃいそうになるのが少し怖い。実際、昔の事・・・結構話してるから。





「私・・・はさ」

「うん?」

「ま、アンタだけに話させるってのもズルイしね。お返し」



そう言ってちょっと笑う。・・・やっぱり、可愛い。ツインテールに纏められたオレンジ色の髪が、その仕草で揺れる。



「アンタみたいにすんなり受け入れられなかった。正直言って、ちょっと戸惑った。まぁ、この話スバルにもしてるんだけど・・・いきなりだったから」

「理由はやっぱり・・・」



自分と違うから。・・・戦闘機人は特殊な身体をしている。人のそれより強い筋肉に骨格に臓器。身体の内を走るケーブルと言う名の神経。それがもたらすのは、魔法とかそういう枠に縛られない力。ナンバーズのみんなみたいな先天性のスキル。

それを抜きにしても、スバルもギンガさんも魔力はあるし体力あるし・・・。そりゃいきなりそんな話を聞かされれば戸惑う。だって、今まで普通の人間だと思ってたのが実は違いますって話されるんだよ? そりゃびっくりさ。



「そうね、そこ。・・・情けないでしょ? パートナーなのに、私、話を聞いた本当に最初の時は、ちょっと戸惑って・・・怯えてた」

「大丈夫だよ。僕だって、戸惑ったよ? ビックリもしたし、衝撃だって受けた。もしかしたら、怯えてたのかもしれない」



今更だけど、二週間の謹慎期間があったのは逆に良かったのかも。おかげで考える時間沢山出来たし。だから・・・ね、自分の事とかと照らし合わせて、ギンガさんのことちゃんと見れた。

まぁ、僕はその他に色々見てるからなのかも知れないけど。



「アンタも?」

「うん、僕それほど器量も大きくないし」

「そっか、そうよね。アンタヘタレだし」



そうそう、ヘタレだし・・・って、おーいっ!?



「いいよ、そういう事言うならお茶とお菓子は僕一人で頂くから」



せっかくなので作ってきたわらび餅。ティアナと一緒に食べようかと思ったけど、やめておこう。うん、これは一人で・・・。



「ちょっとっ!? あぁもうっ! アンタそういう事するからヘタレって言われるにょっよ!!」

「あ、噛んだ。今噛んだっ!!」

「・・・噛んでないっ!!」

「ティアが噛んだー! NG出したー!!」

「噛んでないって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





なんて言いながら、顔を真っ赤にしたティアナをからかう。いや、楽しいね〜♪



・・・あ、今ティアって言っちゃった。まぁ、いいか。ティアナは気づいてないみたいだし。だって・・・ねぇ。





「ティアナ・・・首・・・首はずして・・・! ギブギブ・・・!!」





チョークスリーパー、決められてるから。なんか、角生えてるし。





「嫌よ。まぁ、私も鬼じゃないし、ティアナさんからかってごめんなさいって謝れば許してやらないことも」

「嫌だ。あと、ティアナは鬼だ」

「・・・アンタ、一回川見てきなさい。大丈夫、私が連れて行ってあげるから」

「ぎ、ギブ・・・!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・なぎさんとティアさん、またやってるね」

「もうなんだか名物になってきてますね。二人のやり取り」

「うん、そうだね」



アレ以来、ティアとヤスフミはすっごく仲良し。その様子を、私もそうだし、隣で書類を持って歩くエリオとキャロ、みんなも暖かく見ている。

だって、ほほえましいし本人達は楽しそうだから。・・・なんか、いいなぁ。



「・・・フェイトさん、どうしたんですか?」

「え?」

「なんだか、凄く嬉しそうな顔してました」

「うん、そうだね。嬉しいよ」










・・・少しだけ、寂しいけど。でも、いいことだよね。ヤスフミが今までのコミュの中では居なかった子と仲良くなるって。

その・・・やっぱり家族としては心配になる。ヤスフミはいつも無茶ばかりして、なのはやみんなみたいにやりたい仕事や居場所を持とうとしないから。あと・・・恋愛。

聞いた事が無い。ヤスフミが誰を好きとか、そういう話は。・・・その逆なら沢山あるけど。シャマルさんとか美由希さんとかすずかとか。あと、年が離れてるけどフィアッセさんとか。





というか、あの・・・告白されたけど、私が断ったりしたから・・・。あの、でもちゃんと『これからは家族として仲良くしていこうね』ってお互いに納得して、それで・・・今の関係。友達で、家族で、仲間。それが、今の私とヤスフミ。

ヤスフミ、あの時言ってた。私が・・・その、告白を断ったのを後悔するくらいに素敵になるからーって。それで・・・あの調子なら大丈夫かなと思ってて、実際それからもヤスフミはいつも通りで・・・。でも、あれから5年。変化は全く無い。さっき言った通り、特定の相手を作ろうとしない。

別にモテないとかそういうことじゃない。好きだと言ってくれてる人達も居る。シャマルさんとか美由希さんとかすずかさんとか、年が離れてるけどフィアッセさんとか。





だから、正直気になってる。私だけじゃなくて母さんやクロノ、アルフにエイミィ達も。でも、私からはどうしてもそういう話題を振ったりとか出来なくて・・・。

やっぱり、考えるのかな。昔の事。・・・人を殺したから、家族が崩壊状態でずっと一人だったから、誰かを好きになったり、恋をしてその人と一緒に居たり・・・そういうのから目を背けてるんじゃないかと思う時が、結構ある。

私は・・・その、最初の段階から知ってた。だから大丈夫だったのかも。でも、例えばティアみたいなそういうのを知らない子には、一線引いちゃうみたい。





・・・違うな。過去の事を知られると、向こうから一線・・・引かれるらしい。ヤスフミ、本当になんにも言わないし平気な顔してるけど、現在の局の魔導師から見ると、ヤスフミの行動はそうとう異常に見えるみたいで、過激な行動が多いのもそれに拍車をかけてる。

そういうの、耳に入る時がある。現にそれでスバルとも微妙な感じだし、もしかしたらすごく気にしてるのかも。JS事件中も・・・また重い物を背負っているから。

でも、いい機会だから、本当にそういう部分が少しでも改善されればいい。ヤスフミ、いい子だもの。過去の事を理由にこのまま一人なんて・・・。





・・・はい、すみません。私もそうです。私も言えた義理じゃありません。うぅ、ヤスフミに告白されたときに約束したのに。私も・・・その、過去とか生まれが特殊だけど、それを理由に恋愛とかを避けるようなことはしないって。

私にとっては、大事な約束。ヤスフミは、私が過去を理由に断ったのかって聞いてきた。でも、私はそれに首を横に振った。だから、絶対にこの約束は破れない。破ったら・・・私は嘘をついて、ヤスフミのことを無駄に傷つけたことになるから。

よし、頑張ろう。その・・・仕事とか忙しいのもあるけど、そういうのに興味が無いわけじゃないから。





じゃないと・・・怖いもの。たまにヤスフミ、真剣な顔で『約束守れてないみたいだから、押し倒す』とか言い出すの。もうすごい勢いで・・・。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・というわけで、押し倒して」

「ダメだからぁぁぁぁぁぁぁっ! お願いだからその真剣な目はやめてっ!?」

「だったら、早く恋人作りなよっ! あれから5年だよ5年っ!! 来年にはその年に生まれた子は小学校入るわっ! ヴィヴィオが入学した次の年の入学式で、親がビデオ撮りながら号泣するわっ!!」



・・・なんて話を、談話室でフェイトと二人していた。ま、仕事が終わったところを狙って、ちょっと呼び出した。



「う、うぅ・・・なんというかごめん。あの、でも・・・仕事が」

「仕事を言い訳にするな。フェイト、知ってる? 本当にいい女はね、恋も仕事も見事に両立するもんなのよ?」



まぁ、ヒロさんの受け売りだけど。



「・・・というかさ、僕はエリオとキャロにこの間相談されたの」

「なんて?」

「『フェイトさんがこのまま行き遅れになったらどうすればいいの』・・・って」



その瞬間、フェイトは談話室の机に思いっきり突っ伏した。・・・まぁ、そりゃそうだろ。自分の保護児童にまでそんな心配をされるとは予想出来るわけがない。



「安心して? その場合は僕がお嫁にもらうからと言っておいたから」

「言わないでよっ! というか、あの・・・ヤスフミっ!? 私は前にもちゃんと返事したけど、あくまでヤスフミとは家族として」

「安心して? キャロに0コンマ何秒というスピードで『却下します』って言われたから。
・・・ね、あの腹黒召還師シメていいかなっ! 真面目にアレは泣いたんだけどっ!? フェイト本人ならいざ知らず、なんでアレに却下されなきゃいけないんだよっ!!」

「あ、あの・・・それはごめん。私の方からキャロに言っておくから、シメるとかはやめて?」



まぁ、フェイトがそう言うなら・・・納得しましょ。で、こんな話をしてる場合じゃなかった。ちょい真剣なお話だ。



「でさ・・・フェイト」

「なに?」

「単刀直入に言うね。六課解散したら、フェイトの補佐官やらせて欲しいの」



僕がそう言うと、フェイトが固まった。そして、まじまじと僕を見た後・・・。



「えぇぇぇぇぇぇっ!?」



驚きの声を上げた。まぁ、当然でしょ。いきなりと言えばいきなりなんだから。



「あの、でも・・・ヤスフミ。どうして? だって、今まで嘱託で」

「まぁ・・・嘱託のまんま・・・でお願いしていいかな? 最悪それでフェイト達への被害は減らせるだろうから」



僕がそう言うと、フェイトが表情を険しくした。・・・まぁ、当然でしょ。入る前からルール違反かまします宣言してるのと同じだし。



「・・・ヤスフミ」

「あー、そんな怖い顔しないで。・・・そうしてでもフェイトにくっついて行きたい理由はあるから」

「うん、なら説明して」

「わかった。・・・まぁ、2ヶ月ほど前のお話ですよ」



フェイトが頷く。



「とある執務官が、僕の前で大バカをかましたのよ」



そして、表情を引きつらせた。



「えっと、まず敵の挑発に乗って、危うく至近距離で砲撃を食らいそうになった・・・とかかな。で、次が酷い。そういうことがあったにも関わらず、またまた挑発に乗って、R15な緊縛プレイを経験なさったとか。
まぁ、純潔はなんとか守れたものの、下手をすればそのまま・・・身どころか心まで壊された可能性がある」



で、なんというか申し訳なさそうな顔を僕に向けてくる。



「いや、それを聞いて僕は思ったのよ。距離どうこうは関係ないとか言うけど、これに関しては離れてるのはダメだなと。そのとある執務官の弟である僕と致しましては、非常に肝を冷やしたわけですよ。
お姉さんの将来の伴侶には、傷一つない玉のような状態でお姉さんを渡したいのに、この調子じゃ渡す頃には傷どころか砕けてるのは決定だと思ったの。そして、こうも思った。・・・いくらなんでもこのバカは精神関係弱すぎと」



表情がどんどん重くなる。



「戦いは奇麗事じゃない。こういう手で来る奴はきっとこれからも出てくる。しかも、先生とかから精神攻撃には気をつけろとかそういうことを言われまくっていたのに、一向に改善出来てないと来てる。能力どうこうじゃないのよ。心が弱いから、うちのバカ姉貴は潰されかけたのよ」



というか、オーラが沈んでいく。



「で、その精神関係弱すぎな執務官は、あろうことか今度執務官志望のツンデレセンターガードを補佐官として招き入れると。いやいや、これはありえないでしょ。
だって、自分がダメダメなのに、人に教えるんだよ? もうちょっと自身を鍛えてからやろうねと言ってあげたいね」



そして、瞳が言っている。『もうやめて、言いたい事は分かったから』・・・と。

でも、やめなーい♪



「つーわけで、同じく精神攻撃が弱い執務官を量産するわけにもいかないから・・・補佐官になって僕がその辺りサポートしようかなと。
あれ、フェイト、どうしたの? どうしてそんな黒いオーラ出して机に突っ伏すのさ」



・・・いや、顔上げて見るのはいいけど、その半泣き状態な瞳で僕を見ないで? いやだなぁ、僕が悪い事言ったみたいじゃないのさ。お願いだからそのマイナスオーラはやめてよ。



「と、とにかく・・・わかった。うん、すっごくわかった」

「なら、よかった」

「あの、でもね。他にヤスフミのやりたいこととか無いのかな。例えば、108とかにも誘ってもらってるわけだし」

「関係ない。・・・僕の道だもの、僕が決める」



・・・まぁ、アレだよアレ。



「さっきも言ったけど、僕としてはフェイトを傷一つ無い玉のような状態で、まだ見ぬお兄様に・・・相手は男でいいよね?」

「どうしてそこを確認するのっ!?」

「だって、百合疑惑が立ってるし」

「・・・あの、本当に私そういうのじゃないから。普通に男の人と恋愛したいの」



・・・そっか。なんか、ちょっと腹立つけど・・・いいや。



「とにかく、フェイトをきれいな状態でお兄様に渡したいのよ。言っとくけど、恋愛感情とかそういうのじゃない。フェイトは・・・大事な、家族だもの。その家族がこの間みたいなことで潰される? 壊される? 納得出来るわけがない。
だから・・・フェイトの事、ちゃんと守ってくれる相手が出来るまでは、僕が側に居て守る。そう決めた。僕のやりたいことが何かって言われたら・・・それだよ」



大事な家族で・・・初恋の人の幸せを守る。それを僕よりもずっと強く、守ってくれる人が・・・託せる人が出てくるまでは・・・。



「お願いだから、僕の炊いたお赤飯食べて、笑顔で嫁入りしてよ。僕、どっかの映画みたいにさらったりしないで、笑顔で見送るからさ。それまでは・・・壊れたりなんて、しないでよ」



あれ、なんか・・・涙が。



「そうじゃなかったら・・・僕、フェイトのこと・・・諦めきれないじゃないのさ。なんだよ、5年も経って彼氏どころか浮いた話の一つもないし。ホント・・・なんなのさ」

「ヤスフミ・・・」



だめ・・・なんか、涙・・・止まらない。



「あの・・・ごめん。・・・あ、ちがうのっ! 補佐官になるのがダメとかじゃないからっ!! そんなに泣かないでっ!?」



じゃあ・・・なに?



「・・・あの、その・・・本当に補佐官になる道でいいの? 嘱託扱いではあるかも知れないけど、きっと今より自由が少なくなる。まぁ・・・それでもヤスフミは飛び出しちゃうんだろうけど」



まぁ、そういう生き方ですので。・・・フェイトの事守れないなら、やらないけど。



「なら、二つだけ約束して。・・・あの、将来的には局員になって欲しいとか、規律を守ってとかそういうことじゃないよ?
というか、その前に一つ確認。ヤスフミは、局の正義に背中を預けたり、局員としては戦えないんだよね」

「うん」

「局は悪い人達ばかりじゃない。例えば・・・身内贔屓な感じになっちゃうけど、はやてやナカジマ三佐にクロノにリンディ母さん・・・。そういう人を上司に置いて、その人達を信頼して、背中を預けることだって選択だよ。
確かに、管理局と言う組織は問題も多い。でも、それが全部じゃない。だから今だって、JS事件で浮き彫りになった課題をみんなでクリアして、組織をより良い形に変えていこうとしている。それでも・・・なんだね」

「それでも・・・なの」



右手を見る。何度も壊して、間違えて、それでも・・・振るう事をやめなかった手を。



「なんかね、ズレを感じてるの」

「ズレ?」

「うーん、上手く言えないんだけど・・・局の正義・・・例えば最高評議会やら本局のお偉方が言うようなのと、自分の道理ってやつに、結構前からね、ズレを感じてたの。
JS事件超えてからは特にそうかな。ルール守ってなんにも護れないのは絶対嫌だーって、更に思うようになった」



フェイトの表情が、わずかに曇る。でも、かまわずに言葉を続ける。



「・・・そうだね、ルールを守って、私達・・・負けた。正直、さっきはあぁ言ったけど、局の正義や理念を信じてなんて、今は言えないかな」

「さっき言ったのは、ようするに・・・人を信じろってことでしょ?」

「そうだよ。少なくとも、見てきた人は・・・だね」



同じようで、これは全然違う。うん、違うのよ。色々とね。



「でも、正直それも言い辛い。だって、今日のトップに立つ人間からアウトだったんだもの。ね、それなら、ヤスフミの道理はどういう形なの?」

「ほら、僕定期的に香港行ってたじゃない? 警防でお世話になって、訓練して・・・」

「うん、そうだった。それでその度に傷を作ってきて・・・」



シャマルさんにたんまり泣かれたねぇ。あはは・・・。今思い出しても頭痛いよ。



「警防の人達と話したり、仕事の話とか、そういうの沢山聞かせてもらって・・・。ずっと前から局の理念と自分との間で感じてたズレは、そこでは感じないの。
法律違反上等で、最強で最悪とかって恐れられてるのに、すごく居心地がいいの。それでさ、改めてこの間、香港に居る美沙斗さんとお話したのよ」



美沙斗さんというのは、警防・・・香港国際警防隊という警備組織に居る女性で、僕の友達でなのはのお姉さんである高町美由希さんのお母さん。

いや、美由希さんにはちゃんと桃子さんと言う母親がもう一人居るんだけど。まぁ、この辺り色々事情込みらしい。詳しい事は知らない。



「それで、改めて警防の任務内容とか、理念とか、そういうの聞かせてもらってさ。改めて感じたの。僕の目指す方向はこういうのなのかなぁと。目指すはきっと、最強で最悪かなと」

「・・・やっぱり、その道を行くんだね。それはきっと・・・正しくないよ? 今までだって、それで色々言われてきてたよね」

「それでも行くと思う。ついでに、正しくて誰かに認められて万歳される道なんて興味ないし。
・・・認められなくていい。間違っててもいい。僕は、ぶち壊したい理不尽に手を伸ばせないのも、覆せないのも、躊躇うのも迷うのも嫌だから」



フェイトの目を真っ直ぐに見る。きっと、しっかりと伝えなくちゃいけないことだから。



「僕の道理は、そうやって自分の守りたいものをこの手で守るための道理だから。悪いけど、世界のためとか、そこに住んでる人のためとか、組織の理念や都合のためになんて、絶対に戦えない。
それに自分を預けたりなんて、出来ない。だって、僕は、正義でありたいんじゃないから。ただ・・・今を、覆したいの」

「・・・そっか、分かった」



・・・ごめん、僕は今、相当わがまま言ってる。

JS事件中も相当心配かけて、きっと傷つけたりもしてるのに。



「いいよ。なんとなくだけどね、そんな気がしてたんだ。それでも、もし来れるようなら来て欲しいと思って誘ってたけど・・・これはダメなのかなとも思ってた。結構前から・・・かなり」

「フェイト・・・」

「それで・・・アレ、でしょ? 正直ね、局員になるのも悪い道じゃないからなんて、言えなくなっちゃったよ。さすがに私も今回は振り回されて、ちょっとカチンときちゃったし」



そう言って、フェイトが笑う。僕だけじゃないからと、優しく、安心させるような笑みを僕に向けてくる。それがなんだか申し訳なくて、その笑顔になにも返せなかった。



「・・・なら」

「うん?」

「どうしてフェイトは・・・それでも執務官やろうとしてるの?」



僕がそう言うと、フェイトが少しだけ考えた後・・・話し始めた。



「・・・局とは関係なく、これが私の通したい道理・・・だからかな。あの、ヤスフミも知っての通り、私・・・色々あったから。同じような思いをしている人を、一人でも減らしたくて・・・それで執務官という仕事を選んだの。
この仕事なら、戦うだけじゃなくて、事件が終わったその後・・・法律的な事にまで手を伸ばせるから。かっこいい言い方をすると、この仕事を通して、そういう人達の今を未来に繋げるお手伝いをするのが私の・・・夢かな」



・・・・・・なんか、納得だ。アフターケアまで万全って、一体どこの通販ですか。



「そういう言い方禁止。その、ちょっと嫌だ」

「思考を読まないでもらえますっ!? いや、色々びっくりするからっ!!」

「とにかく、それなら、約束して欲しい事は変わらないね。たった二つだけ、ちゃんと約束して欲しいの」



なに?



「一つは・・・本当に自分がやりたいと思う事が他に出来たら、我慢しないで向かって欲しい。悪いけど、私はそれを我慢されてまで・・・ヤスフミに守られたくない。そんなの、私はいやだ」



いいよ。それで・・・もう一つは?



「これも、同じと言えば同じかな。もし・・・もしも、恋をして、好きな人が出来て、私よりもその人の側に居たいと思ったら、それも我慢しないで欲しい。私は・・・大丈夫だから」





・・・なんというか、実際に二度も潰されかけた人間の言う事とは思えない。アレを見てその言葉を信用できる要素がどこにあるのだろうか。

全く無いから、僕は補佐官やろうって話をしているというのを、このお姉さんは分かっていただけていないようだ。



多分それを見つけるのは、クラナガンの人ごみの中からウォーリーを探すよりもずっと難しいと思う。





「そ、そこを言われると、その・・・反論出来ない」

「・・・でも、約束する」



右手で涙を拭う。そして・・・無理はあるかもしれないけど、笑う。そうすると、フェイトも笑顔で返してくれた。



「なら、春からはティアナと一緒に補佐官だね。・・・あ、そうだ」

「なに?」

「・・・私、ヤスフミとの約束・・・忘れたことは一度もないよ? それは本当。むしろ、その・・・5年もの間そんな想いさせて申し訳なくなるくらいで。あの、本当に・・・ごめん」



だったら、今からでもオーケーしてくれてもいいんだけど。もう僕は来るもの拒まずだし。



「それは・・・あの・・・」

「・・・ごめん、ちょっと意地悪し過ぎた。あのね、フェイト」

「うん」



・・・少しだけ勇気を出して、口にする。ふと思いついて、聞きたくなったことを。



「・・・僕、フェイトのこと・・・大好きなんだ。恋愛感情とかそういうの抜きにしても、フェイトと同じように、友達で、仲間で、家族だから。
それでも・・・いい? そういう感情だけでもいいから、フェイトの事・・・これからもずっと、好きでいていいかな」

「どうして、そんなこと聞くの?」



わかんない。でも、急に聞きたくなって。



「・・・いいに決まってるよ。だって、私も同じように好きなんだから。恋人にはなれないけど、それでも・・・大好きだよ」

「・・・ありがと」










迷わずに、躊躇いなく言ってくれたことが嬉しかった。そして、思った。





この人を・・・守ろうと。お赤飯を炊いて見送るその日まで。










「・・・・・・・・・・・・・・・・ヤスフミ、その言い方はやめない? なんだか色々台無しだよ」

「気にしないで。つーか、やめて欲しかったらとっとといい男見つけてよ。この調子だと小学1年生が中学生になって今度は高校生に・・・。ね、やっぱり押し倒していい? いいじゃん、肉体から始まる恋だってきっとあるよ」

「それはお願いだからやめてっ! あの、絶対絶対素敵な人を見つけるからっ!! 仕事だけじゃなくてそっちも頑張るからっ!!」

「嘘だッ!!」

「嘘じゃないよっ! どうしてそうなるのっ!?」





そうなるの。・・・あ、それとさ。





「側に居る間は、手伝うから」

「え?」

「フェイトの道理、夢、通すの・・・手伝うから。僕、きっと迷惑沢山かけるしね。だから、せめてものお返しに、僕のありったけで、フェイトの道理を通せるように、力を貸すから」

「・・・あの、その・・・ありがと」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、春から嘱託扱いですけどフェイトの補佐官になることが決定しました」

『・・・まぁ、このバカ姉弟のコミュニケーションは置いておこう。ツッコむと私が疲れる』





ちょっとっ!?





『でも、ティアナちゃんとはまた随分仲良くなってるじゃないのさ』

「なんでいきなりそっち行くんですかっ!? ・・・まぁ、波長が合うだけです。互いに色んな意味で」





夜、自宅に帰ってから姉弟子と通信中。というより、かかってきた。





『なになに、やっぱりフォーリンラブ?』

「その予定はありません。・・・僕、フェイトの一番の味方になるって決めてますし。そういうのは、お赤飯炊いてハネムーンへの旅路を見送ってからです」

『でもさ、それ何十年後?』

「・・・大丈夫ですよ、そのためにプレッシャーかけにかけまくってますし。いや、多分・・・大丈夫なはず」





大事な・・・家族ですから。まぁ、フェイトにも言ったけど、事件を超えて色々思ったのよ。やっぱり、心配だなって。せめて、フェイトが僕との約束、ちゃんと守るまでは、僕が守りたいなと。

もうお赤飯炊く準備と覚悟なら出来てるよ。フェイトの笑顔と今とこれからをちゃーんと守ってくれる相手にだったら、僕は・・・フェイトをお願い出来るし、見送れるよ。振られてから、ずっと前から決めてたこと。

それまでは、その時が来るまでは、絶対・・・フェイトを守る。僕は、振られても、恋人になれなくても、フェイトのこと好きなのは変わらないから。



べ、別に今でも恋愛感情丸出しとかそういうのじゃないからっ! いや、そこはマジでだよっ!? あくまでも、友達として、家族としての好きだからっ!!



ただ・・・家族としては、やっぱり心配なの。フェイト、生まれが特殊だから。





『あぁ、そうだったね。でもね、やっさん』



なんか真剣な顔してきたので、僕もそれまでのちょっとだらけ気味な猫背の姿勢を伸ばす。

細かい事かもしれないけど、こういうの、意外と大事なの。



『それでも・・・そう思っていても、気持ちって向くことあるんだよ? 実際、アンタがフェイトちゃんに恋した時もそうだったって言ってたじゃないのさ』

「そう・・・ですね」





僕、両親がアレだったから、正直結婚とか恋愛とか興味なかった。ううん、嫌だった。ある意味最悪例だもの。だから、このまま一人がいいなって思い続けてて・・・。

学校に行った時、同年代の子がまだ幼い感じの恋の話をしているのをバカにしながら聞いていたっけ。現実を知らない愚か者ども・・・ってさ。

でも、フェイトに会って、好きになって・・・一緒に居る時間が大切になって・・・。驚いたっけ。自分の中にそういう感情があることに。



だから、振られた時はちょっと辛かった。フェイトの前では平気な顔・・・したけどさ。





『アンタにとってフェイトちゃんは大事な家族でもあるし、やっぱ心配にはなると思う。実際、ゴタゴタだし』

「ゴタゴタしたらしいですね」

『うん、ゴタゴタしたよ。おかげで禁じ手使ったし』



・・・ヒロさんがパニッシャー使わなかったら、アウトだったかも知れないもの。



「なんというか、すみません。うちのバカ姉のために・・・」

『あー、いいっていいって。この間の旅行、お土産はたんまりもらったしね。帳消しどころかお釣りがきちまったよ』



そう言って笑うヒロさんの言葉に、僕は苦笑いしか返せなかった。なんというか、本当に・・・心臓に悪いよ。



『で、話を戻すけど、アンタがフェイトちゃんの事ちゃんと任せられる相手が出来るまでは、自分が一番の味方でいると更に思うようになったのも、あの事件の影響が強い』

「・・・そうですね、強いです。やっぱり・・・重かったですから」





フェイトはJS事件の時、スカリエッティの精神攻撃を食らって戦えなくなりそうになった。僕、助けに行けなかった。自分の事で精一杯だから。

あの事件を超えて背負った、後悔の一つ。そして、変えられない現実。大事な・・・大好きな人を守れなかったという事実。

そういうの抜いても、何度も言うようだけどフェイトは大事な友達で、仲間で、家族・・・姉さんだもの。



大事な家族があんなバカな事のために居なくなるなんて、僕は嫌だ。そんなの絶対嫌。



みんなに教えてもらったから。家族って、とっても大事で、素敵な関係だって。お別れするなら、互いに天寿をまっとうしてからだよ。今は、死なせないし死ねない。





『でもね、それで可能性を縛るような真似はしちゃだめだよ? 正直さ、私は心配なのよ。アンタ、無駄に一途で一直線だし』

「・・・はい」

『まったく、男ってのはどうしてこうバカな生き物なのかね。・・・サリなんて良い例だもの』



サリさん? ・・・あぁ、あの今同棲中の彼女とラブラブしているあのサリさん。



『そうそう。私さ、事件の最初の時、一人で飛び出そうとしたのよ。そうしたらアイツ・・・『お前は前に出て戦ってろ。後ろのことは全部俺がやる。それが俺の戦いだ。今までだってそうだし、これからもそうだ』・・・って言ったんだよ』

「・・・苦労性なんですね。もうすっかり後衛位置が染み付いて」

『そうだよね。アイツ男なのアグレッシブさが足りないよね。ある意味最高の草食系・・・っておいっ!!』

「冗談ですよ」





家族・・・か。ま、しゃあないか。ある意味恋人より近い位置だもの。納得・・・しなきゃね。ううん、もうしてる。僕、割り切りはいい方なのよ?





『まぁ、そういうわけだからさ、他の女の子とそうなることは罪じゃないと思うのよ。だってさ、もう5年でしょ? そろそろアンタ自身のために時間使ったって、いい頃でしょ。新しい恋愛ってのも、考えてみな?』



胸が、チクンと痛む。僕のために時間を使う。新しい恋愛・・・無理、だよ。だって、僕は・・・。

あぁ、ここはいいや。とにかく、ぱぱっと相槌打とう。



「・・・そういうもんですか」

『そうだよ。で、早速頼みがあるんだけどさ・・・』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・早朝訓練の時間が来た。アイツも隊舎に朝早くからやってきた。だけど・・・おかしい。





妙にうーうーうなっている。頭抱えている。それを皆気にしている。










「・・・おい、バカ弟子。どうしたんだよ」

「・・・・・・・・・・・・嫌いだ」

『はぁっ!?』

「こんな体型・・・嫌いだ。どうして身長が無いんだよ。どうして大きく・・・あぁ、分かってる。僕が昔散々無茶やらかしたからですよ、分かってますよ。
でも・・・でも・・・どうしてこれっ!? どう考えたっておかしいでしょうがっ!!」



あ、なんか頭かきむしってる。というか怒りのオーラが散布されて・・・。



「あ、あの・・・ヤスフミっ!? 一体どうしたのかなっ!!」

≪あぁ、すみませんフェイトさん。あなたは触れないであげてください。もっとひどくなりますから≫

「えぇっ!?」

≪マスターがこの調子なんで、私から話しますね。・・・ティアナさん、ちょっと失礼します≫



そう言いながら、アイツの首元を離れて私のほうへと飛んでくる。そして、私が両の手のひらを差し出すと、その上に着地。



≪ティアナさん、早速なんですけど・・・≫

「なによ」

≪マスターと結婚してくれませんか?≫




















え?




















『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とにかく、なんかダメダメになってるアイツは医務室へ強制送還。





そして、しっかり訓練をした後、なのはさんとシグナムさんを除いた隊長陣と私は隊長室に集まり、アルトアイゼンから話を詳しく聞くことになった。










「・・・で、どういうことなんや。アルトアイゼン。なんでいきなりティアと恭文が結婚なんよ」

≪原因はヒロさんです≫



アルトアイゼンがそう言うと、八神部隊長が一瞬固まった。・・・あれ、なんであんなに汗がだらだらと出てるの?

まぁ、そこはいいか。えっと、それって確か・・・アイツの友達で、デンバードとかトゥデイとか作ってる人よね。



「ティア、知ってたの?」

「はい、アイツから少しだけ聞いた事が」

「・・・そっか、ティア、ヤスフミと仲良しだものね」



なんか嬉しそうなフェイトさんに・・・少しムカついた。なんか、イラってした。まぁ、そこはいいから話を続けよう。



≪まず、ヒロさんと言うのはフルネームはヒロリス・クロスフォード。・・・ここまで言えば分かると思いますが≫

「おいおい、クロスフォードって・・・クロスフォード財団の血縁者ってことか? バカ弟子はまたなんでそんな人と付き合いあんだよ」

≪色々偶然があったので。・・・それで、私がスクリーンショットなんかを撮影して、六課の様子を定期的に報告していたんですよ。あの人がいきなり出向になって思いっきり心配していましたから。それが間違いでした≫



クロスフォード財団って、局のスポンサーも勤めているデカイ財団よね。・・・いや、アイツの交友関係おかしいでしょ。どんだけハイスペックなのよ。

なんか、ちょっと距離感じちゃったな。なんというか、凡人仲間な感じしてたんだけど。



≪ヒロさん自体は分家の出なんですが、そこの分家が結婚式場を経営しているんです。それで今度新しいパンフレットを刷り下ろすことになりました≫

「・・・あ、なんか分かってきたわ。もしかして」

≪そうです。・・・ティアナさんを新婦役、マスターを新郎役にして、そのパンフレットの写真のモデルになって欲しいと頼まれたんです≫



あぁ、なるほど。それで結婚しろと。結婚式場のパンフレットなら、当然ウェディングドレスとかも着る必要あるしね。

・・・・・・え?



「えぇぇぇぇぇぇぇっ! ちょ、私と・・・アイツがっ!? なんでそうなるのよっ!!」

「そうだよ、まずなんでバカ弟子が新郎役なんだよ。アイツここだけの話・・・どっちかって言えば女装して新婦役だろ」

「・・・ヴィータ、それは本当にここだけの話にしてね? ヤスフミ、すっごく気にしてるから」



そうよね、アイツは気にしてるわよね。さっきも身長がどうとか体型がどうとか言ってたし。



≪なんでも、今回のイメージは『年若い、背伸びをしている感じのカップル』・・・らしいんですよ。マスターの写真を見せた所、どんぴしゃだったそうです≫

「いや、背伸びどころの騒ぎちゃうやろアレ。・・・なら、ティアは?」



そうよそうよ、なんでそこで私が出てくるのかを聞きたいわよ。



≪多少気の強いお姉さん的な感じが欲しいとのことでした。ただ、お姉さんでもフェイトさんや高町教導官にシグナムさんやシャマルさんにはやてさんはアウトなんです≫

「え、私だめなの? ヤスフミのお姉さんなのに」

≪みんな身長差が有りすぎるんですよ。シグナムさんもそうですけど、フェイトさんもマスターと10センチ近く差があるじゃないですか。多少どころか思いっきりですよ。それに気が強い感じでも無いですし。それで、はやてさんだと今度は低いんですよ≫

「まぁ、写真やからなぁ。身長・・・ぱっと身の印象で言うたら、うちは確かにそれから外れるな」

≪・・・で、多少マスターより身長の高くて、気の強い印象のティアナさんがどんぴしゃだったそうです≫



・・・まぁ、確かにそういう感じだと、今名前があがった人達はダメよね。なのはさん・・・あぁ、なんでだろう。今行けるって考えちゃった。

そして思い出した。あの私を撃墜した時の言い様の無い表情を。もっと言うと、TV8話を。



「・・・で、恭文はアレか」

「そりゃあぁなるよな、納得したよ。今回のは結婚って極めつけだしよ」

≪断ろうともしたんですけど、もう撮影まで日が無い上に関係各所を当たってもティアナさんとマスター以上の逸材が出てこないそうなんです。なので、どうしても引き受けて欲しいと頭まで下げられて・・・≫

「ヤスフミ、嫌なんだ。・・・どうしてだろ。普通に素敵な話なのに」










なんだろう、私今すっごいイライラしてる。具体的に言うとフェイトさん見てイライラしてる。

更に言うと、それで頭抱えてあんな状態にまでなってるアイツにもイライラしてる。

振られてそれ以来家族としての付き合いって聞いてる。なのに、なんであれ?





なんだろう、すごい腹立つ。すっごく・・・ムカつく。仕方ないって分かってるけど、凄くムカつく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まぁ、部隊長的にはオーケーよ? 今回は業務とは全く関係無しやけど、それでも荒事ちゃうし遠慮なく見送れるわ」

「定期的な休暇やる必要もあるしよ、休みは調整するから行って来ていいぞ? ・・・ま、あとは」

≪本人達次第・・・ですよね≫



そうやなぁ、今・・・ティア相当やもん。苦い顔でフェイトちゃん若干にらみ気味やし。それで、チビスケがあの状態やろ?

あぁ、なんか荒れそうやなぁ。これでアイツの悪運のせいで戦闘突入とかなったら、うち・・・胃に穴が開くかも知れんわ。



「・・・ね、はやて。私、ヤスフミを説得してみるよ。素敵なお話ではあるんだし、断るなんてもったいないよ」

「フェイトちゃん、それはマジでやめてくれると助かるわ。つーか、アンタは今回絶対に恭文にもティアにも口出ししたらあかん。余計ゴタゴタするよ?」

「どうしてっ!?」

「どうしてもだよ。いいか、ぜってぇするなよ?」

≪それだけは私からもお願いします。アレ以上壊れたら対処できませんって≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・な、なるほど。それはまた・・・大変な話になったね」

「ね、今から設定変えない? ちょっと管理画面に突入して僕の身長に関しての記述を40センチほど上に扱うだけでいいからさ」

「ダメだよっ! というより、管理画面ってなにっ!? 話がおかしいからっ!!」



あぁ、だめだよこれっ! 恭文君相当だよっ!? なんかいつにも増して壊れてるもんっ!!



「だが蒼凪、もうやるしかないのだろう? 断ることも出来なければ、お前とティアナ以外に勤められる人間も居ない」

「そう・・・ですね」

「ならば、腹を決めろ。お前がそれだと、ティアナが傷つく」



そう言われて、恭文君が苦い顔で固まった。・・・そうだ、いい機会だから聞いてみよう。



「ね、恭文君。少しだけ真剣な質問。正直に・・・答えて?」

「なに?」

「恋愛するの、嫌なのかな。例えば・・・他の子とそう言う風に見られるのも」



頷いて欲しくなかった。でも・・・恭文君は頷いた。



「理由は、フェイトちゃんのこと?」

「・・・そうかも」



・・・・・・男の子の失恋って、すっごく尾を引くって言うけど、本当なんだね。あぁ、フェイトちゃんとの場合は家族という形で近くて、大切な気持ちが形を変えて存在しているのも原因なんだ。

だって・・・恭文君にとって、フェイトちゃんもそうだし、ハラオウン家の皆は大切な人達で、絶対守りたい場所のひとつで・・・。



「恋愛とかね、興味出ないの。戦ったり、暴れたりしてる方が楽しいし」

「・・・すずかちゃんやシャマルさんに、お姉ちゃんは? 三人とも、好きだって言ってくれてるよね。すずかちゃんなんて特に。あと、フィアッセさんも」

「好きだって言ってくれるのは嬉しいけど、なんか・・・ね。だって僕、フェイトが好きだからーって言って、断ってるんだよ?」



あぁ、もう分かった。そうやって断ったのに、フェイトちゃんがダメだったからそっちに行くなんてこと、出来ないんだ。



「その、言ってくれるよ? そんなこと自分は気にしないから、まず考える所から始めて欲しいって。どんなに時間がかかってもいいから、側に居るところから始めさせてって。
でも・・・ね、なんかダメ。今は誰かとそうなるのとか、考えられない。全然、ダメなんだ。誰かに好きって言われる度に、苦しいの。嬉しさやドキドキとかじゃなくて、ただ・・・苦しい」



恭文君が少しだけ、俯きながらそう口にした。私もシグナムさんも、その表情を見て何も言えなかった。

だって、こんな・・・やるせない、苦しいのか、自分をあざ笑っているのか分からないような表情をした恭文君、今まで一度も見た事が無かったから。



「とにかく、僕は恋愛は無理っぽいの。それに、やることあるし」

「やること?」

「大事なお姉さんにお赤飯炊かなきゃいけなくなるまで、ちゃーんと僕が守るの。うん、そっちの方が・・・大事」



それ・・・どうなのかな。なんにしても、フェイトちゃんのために動くのは変わらないよね。そんなの・・・きっとダメだよ。



「・・・気持ちは分かるが、ここは全部心のうちに押し込めて、いつも通りにしていろ」

「そうだよ。フェイトちゃんとの事は、もう昔の事だよ? お願いだから、今目の前に居るティアの気持ちを考えて」

「そうすると僕の気持ちはどなたが考えてくれるんでしょうかねっ!? もうこの間の自宅襲来やらデートだけでもおなか一杯なのに、今度は結婚式って・・・一体なんの因果律が働いたらこうなんのよっ! お願いだから僕に静かに過ごさせてくれっつーのっ!!」





あぁ、なんか殺気っ! 殺気が出てるよっ!! やっぱりいつもより壊れてるっ!? いつもだったら、こんな事は絶対言わないのにー!!





「・・・まぁ、言ってることは分かるから・・・頑張る。別にティアナと喧嘩したいわけじゃないし」

「そうか・・・。ならばよかった。まぁ、事が終わった暁には飲みに行くとするか。ザフィーラと一緒に、例のおでん屋へな」

「はい、よろしくお願いします。なんか・・・頑張れそうです。あぁもう、誰が相手だろうとこんなのはこれっきりだ。
絶対これっきりだ。今度こんなフラグ話っぽいのが来たら絶対へし折ってやる」










・・・そんな不安になるようなことを口走っていたけど、一応納得してくれたので私もシグナムさんも安心はしていた。多分、みんなも。





ティアもなんかムスっとはしていたけど、やると頷いてくれた。でも・・・この時、私達は誰も気づいていなかった。





既にティアの中に燻るものがあったこと。そして今回のことでそれが発火すること。それが原因で・・・二人に嵐がやってくることを。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いや、二人とも悪いねー。急な上に面倒な頼みを引き受けてくれてさ。あ、ティアナちゃん初めまして。私がヒロリス・クロスフォードだよ」

「・・・ティアナ・ランスターです。初めまして」










そして、本当にすぐ撮影の時は来た。私とアイツは休みを丸一日取って、ミッド郊外にある件の結婚式場に朝一番でやってきた。










「・・・あれ、なんでそんな雰囲気悪いの? あれかな、二人揃って低血圧とか」

≪残念ながら違います。少々トラブルがありまして≫

「トラブル?」










でも、なんか雰囲気がぎすぎすしてる。アイツもなんか囮捜査の最初の時みたいに不機嫌だし、私もそれがイラついてつっけんどうになる。





というか、ちょっと来る前に・・・やりあった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ここに来るまで、アイツはまったくの無言。





その上、黙りっぱなしで、空気重くて、到着して会場に入るまでには私は限界だったから、つい・・・。










「シスコン」

「・・・はい?」

「つーか、未練たらしい。振られたの何年前よ。いちいち気にしてんじゃないわよ。別にマジで結婚するわけじゃないってのに、なにこんな撮影くらいで」



そう、フェイトさんの事を持ち出した。そして、シスコン呼ばわりした。そうすれば、いつもの調子でケンカして、こんな嫌な空気、吹き飛ぶと思ったから。

次の瞬間、後頭部に平手が飛んできた。思いっきり力入ってたから、前のめりになり倒れかける。というか、頭が・・・痛い。



「い、いたぁ・・・なにす」



言葉が止まった。だって、アイツ・・・今まで見た事のないくらいに、冷たい、怒った瞳で・・・私を見てた。

その視線で、痛みが消えた。そして、心の中に後悔と申し訳なさが襲ってきた。だから、反射的に謝ろうとした。でも・・・。



「・・・そうだね、撮影だもんね。マジで結婚するわけじゃないもんね。つーか、僕はこんな無神経なダメ女となんて結婚したくないけど」



そんな、普段は絶対に出ないような辛辣な言葉で、それが止められた。完全に、私はアイツに拒絶された

・・・なによ、それ



「まぁ、もうこれを逃したらティアナは二度とウェディングドレスは着れないだろうし、仕方ないから協力しますか」



だからなによ、それ。



「アレだよアレ、一生に一度の晴れ姿、今のうちにしっかり堪能した方がいいんじゃないの?」



だから・・・。



「つーか、その前に着れるドレスがないか。あんまりにぺチャパイだし」










確かに、私が悪かったわよ。アンタの・・・きっと、傷にもなってるとこに無神経に触れたわよ。





でも、なんで・・・アンタにそんなこと言われなくちゃいけないのよ。





なんで、私・・・こんなに泣きたくなってるんだろ。なんで私・・・こんなに、悲しいんだろ。



























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あらま、もしかして実際にマリッジブルー入ってリアル感高めようとしたの?」



すみません、多分違います。てか、そんなことしたくありません。



「ダメダメ。これから二人で結婚しようってのがそんな顔してちゃ。ほらほら、笑って笑って」

「「・・・すみません」」



ついそんな答えが出てしまう。・・・あぁもう、私マジでなにやってるんだろ。

とにかく、笑う。あいつも同じ。でも、二人ともどこか無理がある。・・・私達、無理してる。



「ふむ・・・。こりゃまずいな。うし、ティアナちゃん、ちょっと来て」

「え?」

「あ、やっさんは先に衣装合わせしてな。アンタはそれすれば勝手にエンジンかかるだろうから。んじゃ、いくよー!!」

「え、あの・・・ヒロさんっ!? 衣装合わせってどこでするんですかー! 僕を置いていかないでー!!」










アイツのそんな叫びに『あっち行けば分かるっ!!』・・・なんて適当に右を指で指して、目の前の女性は私を引っ張ってすたすたと歩いていく。というか・・・力強いっ! なんなのこの人っ!?





・・・あれ? なんだろう、この人・・・ちょっとおかしい。歩くときに重心ブレてないし、すごい真っ直ぐだし、こう・・・雰囲気が違う。いや、似てる。もっと言うと、シグナム副隊長やヴィータ副隊長みたいな感じ。










「・・・さて、ティアナちゃん。アレ・・・見てみて?」

「あの、アレって」



連れてこられたのは、展示場。そこにあるのは・・・色とりどりのウェディングドレス。



「まぁ、アンタが着るのは別のだけどね。とにかく、それ見ながら聞いて。・・・ティアナちゃんは今日、これから好きな人と結婚する」



え?



「沢山笑って、沢山喧嘩して・・・それでも相手が好きで、大事と言うのは変わらなかった。だから、ここに来た。式なんて形式って言えば形式だけど、それでもケジメであることに変わりはない」



優しく、心にゆっくり染み渡るような声。それを聞いているだけで・・・心の中を占めていたモヤモヤが消えていく。

そして、胸に浮かぶ。・・・クロスフォードさんの言うような情景が。



「今心を占めている感情は、少しの不安と・・・大きな幸せ。恋人から、夫婦という形に変化し、そこから始まっていく時間への期待。絶対に、イライラや憤りじゃない。そんな感情で一杯の女の子の表情は、きっと・・・笑顔だよ?」

「クロスフォードさん・・・」

「まぁ、撮影って言ってもそれが出せなきゃ意味ないからさ。ね、ティアナちゃん。やっさんのこと・・・嫌い?」



唐突と言えば唐突な質問。でも、私はそれに即答していた。



「好き・・・です。嫌いなんかじゃ、ありません」



少し驚いた。・・・そして気づいた。あぁ、そうか。今まで口にしてなかったし、思ってなかったけど・・・私、アイツが好きなんだ。だから、アイツに『ダメ女』とか散々言われて・・・悲しかったんだ。

べ、別に恋愛感情とかじゃないわよっ!? ただ仲間として・・・友達として・・・好きって話っ! つーか、嫌いだったら何度も二人で話したりしないわよっ!!



「なら、演技でいいから今日はその気持ちを発展させて・・・やっさんのこと、世界で一番大事な恋人として見て欲しいな」



世界で一番大事な・・・恋人。



「写真って不思議なもんでね。色んな形で真実を映しちゃうのよ。どっかでイライラした感情を持ってたりすると、簡単に出ちゃう。
だから、そういうのはここに全部置いていって欲しいんだ。・・・って、勝手に頼んだ私が言えたギリじゃないね」

「いえ、その・・・すみませんでした」

「もう、大丈夫?」

「・・・はい」



もう一度・・・笑う。きっと、今度は自然に笑えた。だって、クロスフォードさんも笑顔で返してくれたから。



「うん、いい笑顔だ。これなら大丈夫だね」

「大丈夫・・・ならいいんですけど。あ、でもアイツは?」

「あぁ、やっさんは根っからの役者だもん。大丈夫だよ」



クロスフォードさんがニヤリと笑う。・・・でも、言ってる意味が分からない。



「いや、実はアイツって女装経験があるのよ」

「はぁっ!?」

「私が頼んだからなんだけどね。でも、アイツの演技力、凄いのよ。最初は嫌がってても、基本徹底的にやるタイプなの。だから、仕草や言葉遣いに歩き方、雰囲気に至るまで完全に女性を演じられるの。
やっさんの隠れた特技ってやつ? 多分、付き合いの長い六課の隊長陣でも事前情報無しでそれとエンゲージしたら、やっさんって気づかないと思うな」



そ、そうなんだ。それは・・・普通にすごいかも。むしろ自慢していいでしょそれ。



「だから、やっさんに関してはあんま心配してなかったんだ。どんだけ不機嫌だろうと、一度引き受けた事をそんな感情で放り出す奴でもないから。
多分衣装合わせして、打ち合わせして、いざ撮影スタートしたら、ティアナちゃんのこと、世界で一番大事な恋人として接するよ。格好だけじゃなくて、雰囲気そのものから変えてね」



身体の熱がその一言で急上昇する。だって、想像したから。アイツが、私を友達としてじゃなくて・・・恋人として、好きな相手として見てくれる様子を。

本当に、大丈夫なのかな。だって、アイツ・・・。



「・・・やっさんね、フェイトちゃんのこと、本当に大好きなんだよ」



出てきたのは、そんな・・・少しだけ真剣な言葉。



「だからさ、アイツ・・・フェイトちゃんの事世界中の誰よりも大切に想ってくれて、自分が大好きな姉さんの笑顔と今とこれからをちゃーんと守ってくれる・・・そんな相手がフェイトちゃんに出来るまでは、自分が守るって、決めてるんだって。
アイツ、今からお赤飯炊く覚悟は満々よ? ・・・自分は、フェイトちゃん一番にはなれないから、なれなかったから、なれる人にちゃんと傷一つ無い状態で受け取ってもらうんだって」

「・・・あの、それって」

「まぁ、家族として・・・という意味合いが多分だと思うよ? あと、本当に少しだけ・・・吹っ切れない数%の恋心。
やっぱりさ、惚れた女には結果はどうあれ幸せになって欲しいってのが、男の共通心理みたいだね」



やっぱり・・・なんだ。まったく、なによその未練たらしい思考は。つーか、マジでシスコンよ。シスコン。



「まぁ、そう言わないであげてよ。フェイトちゃん、実際JS事件の時危なかったんでしょ? それ見て心配するなって言う方が無理だって」





そう言われて、ハっとする。・・・そうだ、報告書読んだじゃない。フェイトさん、スカリエッティにエリオとかキャロの事とか言われて・・・精神的に潰されかけたんだ。



あぁもう、私のバカっ! 家族で友達なアイツがそれをどう思うかなんて・・・分かりきってるじゃないのっ!!





「アイツね、その時の事すごく後悔してる。だから、今すごく思ってるよ。先はともかく、今は側に居たいって。まだ見ぬお兄さんが現れるまでは、絶対に守り通したいって。・・・バカでしょ? 自分の事さておき、自分を振った女の事守ろうとすんだもん。
でもね、私はそこら辺の利口で切り替えの早い奴より、そんなバカの方が好きなの。だから、年こそ離れてるけどダチやらせてもらってる」

「クロスフォードさん・・・」

「ティアナちゃんだって、そうでしょ」



どうなんだろ、よく・・・わからない。なんというか、見ててイライラする時があるし。

・・・あれ、なんだろこれ。こう・・・アレ?



「ま、そこはともかく・・・お願いね」

「はい。もう・・・大丈夫です」










そうして、私はまた笑顔で返した。そして・・・衣装合わせに突入。





その後にアイツと合流することになった。合流場所は、建物の3階にあるスタジオ。そして、その前のイスにちょこんと座っていた。黒のタキシード姿で、普段とは違う感じで。





・・・マジで雰囲気が変わっていたのには驚いた。もうさっきまでの不機嫌な感じが0だったし。










”・・・ティアナ”





突然、念話が届いた。タキシード姿で近づきながら、私に・・・私だけに、声をかける。





”さっきは・・・ごめん”

”え?”

”酷い事、沢山言った。それに・・・殴ったりして”





・・・・・・あれ、だから、どうして私、こんな・・・嬉しくなってるのよ。





”あの・・・ね”





でも、いい。私は・・・本当に少しだけ、素直になることにした。今なら、色々言えそうだから。





”私、アンタの事・・・好きみたいなの。友達として、仲間として。アンタのこと、好きみたいなんだ”





アイツに私も近づきながら、言葉をかける。





”だから・・・お願い。あんなこと、言わないで欲しい。殴られたことより、私はそっちの方がずっと痛かった。私・・・そっちの方が、ずっと悲しかった”

”・・・ごめん”

”そんな言葉要らない。お願い、約束して。あんなこと、言わないって。私も・・・約束する。もう、私もあんなこと言わない。
アンタのフェイトさんを・・・家族を守りたいと思う気持ち、馬鹿にするようなこと、絶対に言わない”





分かってたはずなのに。大好きで、大切な家族が居なくなるって、悲しくて・・・辛いって、分かってたはずなのに。



家族のこと、守りたいと思うのは当然だって、分かってたはずなのに。なのに、私バカだ。マジでバカだ。





”うん、言わないよ。約束する。あの・・・ティアナ、ありがと”

”ううん。あ、そう言えばまだ私からは言ってなかったわよね。・・・ごめん。本当に・・・ごめん”





きっと、私は弱気になってる。怖いから。これで、アイツと友達で居られなくなるのかとか考えて、怖がってる。

だから、こんな弱気な言葉が出てくる。





”許して、くれるかな? 私、本当に無神経な嫌な奴かも知れないけど、アンタと友達じゃいられなくなるなんて、絶対嫌なの。これからも・・・友達で居たい”

”僕でいいの? 僕だって、きっと嫌な奴なのに”

”アンタがいい。アンタじゃなきゃ、ダメなの”






返事が返ってくるまでには、数秒。時間にしたら、本当にたいした事の無い時間。でも・・・心臓が壊れるんじゃないかと思うくらいに胸の鼓動が跳ね上がる。





”・・・うん、いいよ。僕も、ティアナがいい”





そして私は、その帰ってきた返事が嬉しくて・・・笑う。きっと、何年ぶりかの素直な笑顔。





”ありがと”










こうして、撮影は始まった。私も、アイツも・・・素直に笑えるようになった。なので、撮影は順調・・・訂正。快調。もう素晴らしい勢いで進行していく。





・・・なんだろう、これ。どうして私・・・こんなにアイツと仲直り出来た事が嬉しいんだろ。どうして、私は、こんなに泣きたいくらいに幸せ感じてるんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、いいねいいね。よし、ティアナちゃん。もうちょっとくっついてみて? ・・・そうそう、そのまま笑顔で見つめあって」





カメラマンのおっちゃんも思わず熱が入るくらいに、撮影はもう快調快調。色々ぶっとばしてる。

黒のタキシード姿のやっさん。そして白のウェディングドレスを纏い、ツインテールの髪を下ろしてそれより少しだけお姉さんな感じのティアナちゃんのなんちゃって若夫婦は、見ているだけでため息が出るほどにお似合いな空気を出しまくっている。

いや、あの険悪ムードがここまでになるとは・・・。お姉さん、ビックリだわ。



やっさんもエンジンかかって仮面つけてる状態だし、ティアナちゃんもそれに乗っかる感じで幸せそうだよ。いやぁ、いいねいいね。





≪だな、これだけ見てるとマジで結婚しそうな感じじゃねぇか?≫

「だねぇ・・・って、アンタは喋っちゃだめだからっ! デバイス持ってる事バレたら、後に差し支えるでしょうがっ!!」



二人に背を向けて、このバカパートナーに小声で注意。・・・ティアナちゃんはなんか勘が良さそうだし、気をつけないとマジでやばい。まだまだ私が魔導師だってバレるわけにはいかないのよ。



”・・・悪ぃ、失敗した”



今度は思念通話で言ってきたので、胸を撫で下ろす。あー、やばかった。マジでやばかった。

まぁ、ここはもう大丈夫だね。とにかく二人だよ。



「あー、オーナー代理。とりあえず撮った写真のチェックお願いします」

「あいよ。・・・わぁ、これはまた」

「いいでしょ?」



カメラマンのおっちゃんがにやりと笑う。それは当然だ。



「もうね、長い事この仕事やってるけど今回はバツグンの出来。いやいや、いい被写体を連れてきてくれてありがとう」

「いえいえ、こっちこそこんないい写真を撮ってくれてありがと。こりゃあ来期の収益アップは間違い無しだよ」



だって・・・どれもこれも本当に素晴らしい出来なんだから。

普通の宣伝写真とは全く違う、リアルな感じが出てる。本当にこれから結婚式を挙げるカップルのようにも見えてしまう。いや、見える。だって、実際に式を挙げた二人の写真のそれと同じだから。



「・・・で、これで大方の撮影は終了です」

「あ、そうなの?」



私は右腕の時計を見る。・・・予定時間よりだいぶ早いのに。



「いやぁ、あの二人見てたら私も熱が入っちゃって。つい勢い良くパシャパシャ・・・と」

「なるほど・・・。あ、それじゃあもう終了?」

「いえ、ひとつ残ってます。えっとですね・・・」





うん?





「これから教会に移動して、誓いのキスのシーンを撮りますんで」





・・・・・・え?





「・・・あれ、ヒロさん。打ち合わせで話聞いてなかったんですか? そういうシーンも撮るって言ってたでしょ」

「あの、それで・・・最後ですか?」

「うん、最後だよ。・・・あ、ティアナちゃんそんなに緊張しなくていいから。いつも通りにやっていいからね」

「は・・・って、いつも通りってなんですかっ!?」





そ、そう言えば・・・そんな話を・・・してた?





”姉御、うつらうつらしてたしな。つーか、昨日ゲームやり過ぎだ”





うっさいね、ビシー○が三連で来るから起きてるしかなかったんだよっ! 経験値のためなら私はいくらでも完徹するよっ!?





”自慢できることじゃねぇだろ”





うっさい、気にする・・・・・・あ、そ、そう言えば・・・キスシーンって、あの二人はそれでいいのっ!?



なんて言ってると、機材を持ってカメラマンのおっちゃんはうんしょと移動開始。当然やっさんとティアナちゃんもなので・・・私は慌ててそれを追いかける。





”ちょっとやっさんっ!!”

”ほい?”

”アンタ、マジでキスシーンなんてやるのっ!?”

”やりますけど”



ま、真面目に即答しやがったっ!!



”つーか、アンタは仮面被れるからいいけど、ティアナちゃんは違うでしょうがっ! ちょっとは考えてあげなよっ!!”

”・・・あの、なにか勘違いしてません? 本当にするわけがないじゃないですか”



・・・は?



”ぎりぎりまで顔近づけますけど、それだけです。後は撮影する時のアングルを調整して・・・してるように見せるんです”

”してるように・・・見せる?”

”はい、よく使う撮影手法の一つですね。・・・てか、マジで話聞いてました? これもさっき説明されてたのに”





そ、そう言えば・・・なんかティアナちゃんがいきなり真っ赤になったような・・・。



あ、もしかしてあの時?





”・・・姉御、マジでビシー○してる場合じゃなかっただろ。つーか、頼んだ身でどんだけ傍観者なんだよ”





う、うるさいよっ! 経験値とスキル上げのためなんだから仕方ないでしょうがっ!!





”いや、仕方なくねぇから”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・マジな神父さんの目の前に二人で立つ。そして・・・例のアレが進行中。





シーンがシーンなので、前段階からやって空気を作ろうというカメラマンさんの配慮。でも、その・・・恥ずかしい。





なんで私、こんなにドキドキしてるんだろ。これ、撮影で・・・マジな結婚式じゃないのに。










「・・・新婦、ティアナ・ランスター」

「はい」



次は、私の番か。



「汝、健やかなる時も病める時も・・・」



言葉が続く。その度に・・・気持ちが昂ぶっていく。心臓の鼓動が早くなる。体温が高まり・・・甘い感情で胸が締め付けられる。



「新郎、蒼凪恭文を伴侶とし、生涯愛し抜く事を誓いますか?」

「・・・誓い・・・ます」



高鳴る鼓動と甘い疼きに、胸の中が支配される。



「では、両者誓いのキスを」



神父の言葉に私達は向き合う。アイツが私のヴェールを外す。

私の方が少しだけ身長が高いから・・・あの、アイツが本当に少しだけ見上げる感じになってる。



”・・・大丈夫、ホントにしたりしないから。緊張・・・しないで?”

”分かってるわよ。その、早くして”

”分かった”





ゆっくりとアイツが目を瞑り、私へと近づく。

・・・だから、私も目を瞑った。それだけで・・・よかった。

後はアイツがいい感じで調整してくれる。カメラからはキスしてる感じで映るように、リードしてくれる。



それで・・・その、ちょこっとだけ調子に乗って、私は両手をアイツの頬に添えて、唇を・・・重ねた。

・・・なお、本当に重ねてるわけじゃない。そういう風に見えるように・・・してるだけ。




”・・・ティアナっ!!”

”いいから・・・このまま。今、撮影してるんだから、逃げたりしないで”





カメラの音が聞こえる。撮られてる。でも、そんなのいい。



私、コイツのこと離したくない。

・・・どうして? だって、私・・・あの・・・。





”・・・というか、あの・・・かなりギリギリ”

”いいわよ、別に。・・・知らない仲じゃ、ないんだし”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あ、ちょいちょいおっちゃん」

「ん、なんですか?」



いや、なんですか・・・じゃなくてさ。あの二人・・・マジでキスしてないっ!?



「・・・あぁ、ギリギリオーケーですよ。仮にしていたとしても、雰囲気で盛り上がっちゃったからついやっちゃったんですよ。よくありますから」

「よくあるの、あれがっ!?」

「大丈夫大丈夫、いい絵は撮れてるからっ!!」



一体何がどういう具合で大丈夫なんだよっ! ・・・あぁもう、確かにいい絵だから止めるのは無理だしー!!

というか、あの様子だとティアナちゃんから積極的・・・って感じだよね。あぁ、どうなんだよこれ。



”姉御・・・なんつうか、ボーイの後が怖い気がすんだけど”

”正解だよアメイジア。・・・ね、私逃げていいかな?”

”逃げられると思うか?”

”無理・・・だろうねぇ”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・こうして、撮影は無事に終わった。いい写真も取れた。なお・・・やっさんはちょこっと用事があるとかで、ティアナちゃん置いて一人でとっとと帰っちゃった。なお、マジでしてなかったらしい。かなりギリギリだったらしいけど。





と、とにかく私は・・・ティアナちゃんにお話だ。このままはまずい。だって、これ私がきっかけよ? これで部隊内で不協和音なんて起こされたら、絶対に私の責任問題に・・・そんなの嫌だよ。










「・・・で、なんでまたぶちゅーってしちゃったの」



元の私服に着替えたティアナちゃんをロビーに連れてきて、そこの椅子に座らせてお話。

いや、雰囲気どうこうでなっちゃったのは分かるんだけど・・・この子からというのが意外。もしかして私、ちょっと煽り過ぎた?



「・・・いや、してませんからっ! 普通に寸止めですよ寸止めっ!!」

「でも、結婚式でキスされる側でアレはないって。・・・どうしたの?」

「分からないんです。私・・・あの、結婚の誓いをしているうちにそうしたいなって思って、それで・・・」



・・・どうしよう、これ。色恋沙汰は経験が無いわけじゃないけど、ここまでぶっ飛んでるのは無いって。私、手順踏まない奴は嫌いだし。

男がしちゃうのは分かるんだけど、女がそうする場合って・・・どうなんだろ。あぁ、私の許容量をオーバーしてるよこれ。



「それで、もっとワケわかんないのは・・・」

「・・・ワケ、わかんないのは?」

「黙ってて・・・もらえますか?」



恐らくだけど、やっさんや部隊の人間に・・・ということだろう。なので、私は力強くうなづいた。

それを確かめたティアナちゃんは、ゆっくりと・・・何故か顔を真っ赤にした状態で話し出した。



「い、一応・・・私はその・・・経験がないんです」

「うん」

「だけど、あの・・・したいなって思ったりもしちゃって・・・」



・・・はいっ!?



「ぎりぎりで抑えたんです。抑えたんですけど・・・あぁ、私、どうなってんだろ。わかんない、マジでわかんない・・・」





・・・頭を抱えないで欲しい。むしろ抱えたいのは私なんだよ。

これから六課に出向になるかも知れないって状況で、これだよ? 不安要素に気づいちゃったんだよ?

下手すればここから加速度的にゴタゴタして、出向になった途端に私ははりつけ獄門だよ。なお、執行者は言うまでもなくやっさんだよ。



ど、どうすりゃいいのこれー! 誰か助けてー!! カリム、メガーヌっ! ついでにサリについでのついでにロッサーーーーーー!!





「・・・ヒロちゃん、呼んだ?」

「あぁ、呼んだよ。是非助けて欲しいって・・・え?」



後ろを見ると・・・居た。車椅子に乗った紫色の長い髪をした女が。もっと言うと、私の友達が。



「メガーヌっ! アンタなんでこんなとこにっ!?」

「なに言ってるの。この後久々に一緒にご飯食べ行こうって誘ってきたの、ヒロちゃんでしょ?」



・・・・・・・・・・・・・・・あ、そう言えば。この近くに美味しいピザ屋があるから、景気付けにおごってやるって言ったんだ。

で、メガーヌにはここの人間に迎えに行ってもらって・・・今到着したと。



「そうだよ。道が結構空いてたおかげで、予定より早く着いちゃった。・・・で、どうしたの?」

「・・・メガァァァァァァァヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「ちょ、ヒロちゃんっ!? あの、私さすがに女同士でそういうことする趣味は無いから・・・あぁ、どうしたのっ! なんで私に抱きつくのかなっ!!」










あぁ、神は居たっ! 神は居たんだっ!! 困った時のメガーヌ頼みだよっ! メガーヌ様万歳だよっ!!





さぁ、これで一気に解決だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





















(その2へ続く)





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