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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第5話 『思い立ったが吉日と言うけれど、それでも手順を踏むことは必要』



「それでね、ヤスフミ。教えて欲しい事があるの。今・・・・二人っきりだし」





夜、あの衝撃のおかげでどうにもそういう気が起きずにフェイトと右手を伸ばしあって、それを繋ぎながら布団の中で寝ていと、ふとフェイトが聞いてきた。



ただし、凄まじく気になる事がある。それもかなり重要。





「うん? というか、フェイト。なんでそんな顔赤いのよ。なんでそんなまた真っ赤になるのよ」

「しゅ、週に何回くらい・・・自慰ってするの?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?



「いきなり何聞いてるのっ!?」

「・・・だ、だって・・・今までは恥ずかしくて。でも、私達・・・キスまでだけど、そうなったよね」



なり・・・ましたね。



「あと、胸も・・・触ってくれたし」

「さ、触った・・・ね」



思い出すのはあの柔らかくて大きくて暖かい感触。触れるだけで、揉むという感じではなかったけど、それでも大きな一歩。

・・・だめだ、あの時の事を思い出しても反応が無い。これは完全に機能停止してる。溜まってはいるはずなのに。



「それで、これからきっともっとステップアップしていくだろうし、そういうことはちゃんと考えていかないといけないかなと」

「そういう・・・ことって?」

「しゅ、週に何回エッチするか・・・とか。避妊はどうするのか・・・とか。忍さんも、恭也さんとそういう話をちゃんとした上で関係を進展させたらしいから」



あの人の入れ知恵っ!? つーか、どうしていきなりそんな話になるのさっ! 訳わかんないしっ!!



「・・・いいの。ちゃんと話さないといけないことなんだから」



それはまぁ、確かに。今は二人っきりだし、ちょっとだけ、頑張ろうかな。



「なら、答える。まぁ・・・よく考えたら、そういう話はあんまりしてなかったよね」

「うん。だって、するとヤスフミがなんだか嫌がるから」



・・・フェイト、嫌がってるんじゃないの。理性が飛びそうになるの。身体くっつけた状態でそんなこと聞いたら、理性が飛ぶの。バチンって飛んじゃうの。

フェイトが体調ダメだから、思考から外していた。でも、今は大丈夫。だって、完全に機能停止してるから。ウェイクアップしないのですよ。



「えっと・・・偶数日にはしてる」



フェイトが真っ赤に・・・あぁ、なんかスチームが出てるー! 落ち着けー!! 落ち着けー!!



「・・・毎日じゃないの?」

「奇数日は装備の点検とかしたりするから。でも、毎日・・・する時もある。ね、フェイトはどう?」



僕がそう聞くと、またスチームが・・・。でも、答えてもらう。

・・・僕だって、凄まじく恥ずかしかったのだ。だから、ちゃんと答えてもらう。



「どうしても恥ずかしいなら、耳元にささやいてくれればいいから」

「絶対、秘密だよ? なのはや皆には、内緒だから」

「もちろん」



フェイトは、僕がそう言って頷いたのを見てから、ゆっくりと、僕の右の耳に口を近づけ、話した。

・・・女性のサイクルって分からないから、判断が難しい。



「・・・恥ずかしい」

「僕だって恥ずかしかったよ? フェイトに嫌われるんじゃないかって、ちょっと怖かったし」

「嫌ったりなんてしないよ。私も、同じなんだから」

「そうだね」



しかし、週に何回か・・・。考えたことなかったな。これはこれで結構重要な問題かも。

フェイトの手を握りながら、僕は思う。こういうのはやっぱり大事なんだと。



「やっぱり、毎日・・・したいよね」



それを言われると・・・やばい、頷きそうな自分が居る。それがたまらなく嫌だったりする。



「するかどうかは別として、添い寝は・・・毎日したいかも。この温もりは手放せなくなりそうで、ちょっと怖いけど」

「あ、それは私も。・・・幸せ、だから」

「なりかけでも?」

「うん、なりかけでも」



フェイトも僕と気持ちが同じで、ちょっと嬉しい。やっぱり・・・あれはいいなぁ。大好きな人のぬくもりがすぐ近くにあるって、幸せなんだよね。



「でも、それだけだと、足りないよね。あの、色々と」

「そう・・・なのかな」



実際したことないから、その辺りがよく・・・。



「もう、全然だめなんだよね」

「うん・・・。こう、奮起しようとするとさっきの衝撃が頭に浮かんで」

「た、確かにあれは衝撃だったよね。・・・うん、気をつけよう」



しかし、自宅すら安全じゃないって・・・どこでエッチ・・・だめだ、ストレートすぎる。コミュニケーションって言い方変えよう。なお、インスピレーションで決めた。

とにかく、どこでコミュニケーションしろと? もうあと結界張るしかないじゃないのさ。



「そうすると、今度は結界破壊が」

「いやいや、さすがにそれは・・・あるかも」



だぁぁぁぁぁぁっ! マジで僕達どこでコミュニケーションすればいいのっ!? 誰か教えてよっ!!



「と、とにかく話を戻すけど」

「うん」

「確かに、定期的にはしたいなとは、思うかも。もちろん、フェイトが無理しない程度に。僕は我慢するのは大丈夫だけど、頻繁にはやっぱりフェイトに負担かかるだろうし」



こういうので負担かかるのは女の人。気遣っていかないと、ダメだと思う。・・・男は、好きな女の子のためなら頑張らないとだめなのである。



「うん、いいよ。なら、一応偶数日ということに・・・しておこうか」

「うん・・・」










手探りな感じがいっぱいな交際。互いに今ひとつペースが分からなかったりするし、リードとかも全然ダメだけど・・・。





でも、これはこれで楽しいかも。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常 Second Season


第5話 『思い立ったが吉日と言うけれど、それでも手順を踏むことは必要』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・チェーン、ぶった斬ったのね。しかも斬り口鋭いし」

「ホントだね。・・・あ、くっついた」

「うそぉっ!?」



朝、フェイトと一緒に起きて、朝ごはんを食べて、お風呂に入って(これだけ別々)・・・さぁ仕事に行こうとした時、僕達は気づいた。チェーンかけてたはずなのに、二人はどうやって入れたのかと。

で、フェイトと一緒に改めて玄関に行くと、見つけた。恐らくヒロさんがアメイジアでぶった斬られたと思われるチェーンを。フェイトはその斬り口を合わせて遊んでいる。



「これ、今度からチェーンは特殊合金製にしようかな。じゃないと、危なくて寝てられないし」

「でも、そうすると今度は中でなにかあった時に危ないよ? それに、ヒロさんやサリさんならそれでも斬れそうだし」

「あ、そっか。うーん・・・」



今は二人とも陸士用の制服。まぁ、お仕事ですので。

でも、この服も久々だなぁ。幕間とかミッション話とかは大体私服だし、ここに至るまでもずっと私服だったし。



「そうだね、私も少し新鮮。たった二週間程度のことなのにね。・・・リアル話は抜きでだよ?」

「まぁね。でも、相変わらず色合いがダサい。組織改革はやっぱりここからだって」

「・・・ヤスフミのセンスでもこれはダサいんだ」



フェイト、それどういう意味? 僕のセンスはかなりいいと思うんだけど。

というか・・・うーん、どうしようかな。ちょっとだけ、頑張ろうかな。



「あのさ、フェイト」

「うん?」

「今日はまだ、あの・・・おはようのキス、してないよね」



僕がそう言うと、フェイトの顔が真っ赤になる。そして、頬を染めながら、恥ずかしげにゆっくりと、目を閉じた。僕の言いたい事、伝わったらしい。



「唇に、してもいい?」

「・・・・・・うん、いいよ」


そのまま、僕は背伸びして、フェイトの唇に自分の唇を重ねた。本当に少しだけのキス。だけど、それだけで・・・ごめん、なんか泣きそうになるくらいに嬉しい。

唇を離す。瞼を開けて上を見ると、フェイトも同じように僕を見ていた。顔、凄く近い。それにいい匂いがする。



「だ、だめ・・・。どきどきするよ」

「同じく・・・。なんか、慣れないね」

「そうだね。でもあの・・・頑張るよ」



そう言いながら、フェイトは少しだけかがんで、今度は自分から僕にキスをしてくれる。・・・フェイトの唇、すごく柔らかくて、甘い味がする。というか、あの・・・よし、今日は帰ったら頑張ろう。さすがに溜まっているし。

とにかく、唇を離す。また、見つめあう。そうして、笑いかける。



「フェイト、あの・・・ありがと」

「ううん。それじゃあ、気持ちを切り替えてお仕事頑張ろうか。恋愛だけじゃなくて、こっちもちゃんとしないと」

「そうだね。んじゃ、いきますか」










そのまま、玄関を出た。二人で隊舎を目指して・・・トゥデイに乗り込む。まぁ、フェイトの荷物もあるしね。こっちの方がいい。





僕が運転して、フェイトは助手席。ゆっくり確実安全運転で久々な六課隊舎へと僕達は向かった。





みんな、元気してるかな? まぁ、二週間やそこらで何か変わるとは思えないけどさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



久々の隊舎。久々の仕事場。そうして感じるのは、帰ってきたという感覚。





僕もそうだし、隣を歩くフェイトも同じく。なんだか表情が晴れ晴れしてる。










「みんな、元気かな。お土産、喜んでくれてるといいんだけど」





なお、みんなへのお土産は昨日のうちに僕がフィアッセさんと出かけるついでに送っていた。問題はない。



というわけで、二人で隊舎のメインオフィスの正面玄関へと入るわけですよ。いやぁ、久しぶりだなぁ。





『おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』





足を一歩踏み入れた瞬間、鳴り響くのはクラッカー(Not炸裂兵器)の音。それも複数。

というか、職場なはずなのに、正面玄関・・・ロビーがパーティー会場みたいに晴れやかだ。

なんかすっごい飾りつけされてる。すっごい煌びやかに飾りつけされている。それに僕もフェイトも呆気に取られている。



あと、横断幕も張られている。そこにはすごくいい文字でこう書かれていた。





『恭文×フェイト 成立記念パーティー』





・・・なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





「いやぁ、恭文もフェイトちゃんも・・・ついに大人になったんやなぁ。うぅ、うちなんかマジで泣きそうや」

「あの、フェイトさんおかえりなさいっ! さっそくで悪いんですけど・・・あの時ってやっぱり痛いんですかっ!?」

「あぁ、あかんよスバル。そういうんは直球で聞いたらフェイトちゃん困ってまうよ。
・・・最初はな、痛いんよ。でもな、それがそのうち段々とつぼみが花開くように、幸せと快感が入り混じって身体を支配していくんや」

「そうなんですかっ!? ・・・あぁ、いいなぁ」





僕はフェイトと顔を見合わせる。そして、うなづく。





「プラズマ・ランサー、セット」

「アイシクルキャノン」

「「ファイ」」

「あぁぁぁぁぁっ! 恭文君もフェイトちゃんもだめぇぇぇぇぇぇっ!! お願いだから落ちついてっ!? 悪気はないっ! 悪気は本当にないからっ!!」

「そうよっ! お願いだからこんなとこで魔法ぶっ放すのはやめてっ!! 料理がダメになるでしょっ!?」



なんかティアナが僕を、フェイトをなのはが羽交い絞めにしてるけど、気のせいだ。

つーか・・・ありえないでしょ、これっ! なんでいきなりこれっ!? どうして初っ端からまたいきなりこれなのさっ!! お前らっ! 何度状況証拠だけで動くなと言ったら分かるのっ!!



「まぁ、そう言うなよ。お前らが帰ってきたのをお祝いするためでもあるんだしよ」

「ヴィータ・・・それはそうだけど、これは」

「つーわけで、二人ともお帰り。で、リインからも聞いてるけど一応確認だ。修行の方は上手くいったのか?」



少しだけ真剣な目をしていた師匠に僕はうなづいた。



「コントロールは何とか。ただ、持続時間と使用回数が今のところ凄まじく少ないので、訓練は要継続です」

「そっか。フェイト、その辺りの事は」

「うん。頼まれていた通り、恭也さんから教えてもらってるよ。レポートにしてまとめてるの、後で渡すね」

「おう、サンキューな」



そう言って、師匠が満足そうに笑う。・・・そして、ニヤニヤし出した。



「でよ、バカ弟子。・・・どれくらい頑張ったんだ? 聞くところによると、男ってのはついつい頑張るって」



ゴスっ!!



「てめぇっ! 師匠に対していきなり拳骨ってありえねぇだろっ!! なにすんだっ!?」

「何すんだじゃないですからっ! 師匠の発言の方が何言ってんだですからねっ!?」

「まぁ、そうだな。当人同士のプライベートにまで口出しする必要はねぇか。・・・でよ、早速なんだけどあれを何とかして欲しいんだよ」



・・・あれ? あのなんか泣いてるたぬき豆芝とかじゃなくて?



「あぁ、あれはもう放置しといていいから」

「師匠、何気にヒドイですね」

「気にするな。・・・ほら、あれだよあれ」



そう言って師匠が指差すのは、シャマルさんとザフィーラさんとシグナムさん。

なんか、すっごい涙目で僕を見ている。主にシャマルさんが。



「・・・シャマル、もう泣くな。蒼凪とは姉弟として付き合っていくと決めていたのだろう?」

「違うの。悲しいとかじゃないの。なんだか・・・う、う、嬉しくて・・・」

「なんというか、複雑な奴だ」



そして、泣き出した。それを烈火の将と盾の守護獣が必死で慰めてる。あれ・・・どうしろと?



「なぎさん、フェイトさん・・・おめでとう」

「恭文・・・本当によかったね。フェイトさんも、おめでとうございます」



そう言って、なんかタキシードとドレス姿で出てきたのは・・・って、お前らもかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「なぎさん、頑張るのはいいけど、避妊はちゃんとしないとダメだよ? 男の人は吐き出すだけだけど、女の子はそれを受け止めて、子どもを宿すんだから」

「そうだね。まぁ、僕も男だから少しはわかるよ? でも、そういうのでフェイトさんに負担をかけるようなら」

「キャロにエリオっ! いきなり何の話してるのっ!? というか、あの・・・私達はまだそんなことしてないからっ!!」



きゃー! フェイトがまたぶっちゃけたー!! なんだかみんなの視線がすっごい強いしー!!

や、やばいっ! なんか僕への攻撃が強まりそうな予感が・・・!!



「・・・・・・なぁ、アンタ。一回マジでNice boatせぇへん? いや、真面目によ。
そんな・・・二週間もコブ付きとは言え旅行して、その上昨日一昨日と二人で一夜を過ごして、それで何もせぇへんっておかしいやろ」

「バカ弟子、知ってるか? EDって治るんだぞ」

「その慰めモードはやめてー! つーか、色々とあったのっ!!」



フェイトにあの日が来たりとか、フィアッセさんの来訪とか、ヒロさんサリさん乱入とか、本当に色々とあったからここはもうどうにもならなかったのっ!!



「それ以前に、僕修行メインでドイツに行ったんだからねっ!? フェイトとの旅行オンリーじゃないからっ!!」



必死にそう叫ぶけど、全員まるでどうしようもない物を見るような目で僕を見出した。何人かはため息交じりに帰っていきやがった。

マジで失礼な連中だ。アイシクルキャノン、撃っておけばよかったとちょっと後悔した。



「じゃあ、アンタとフェイトさん・・・相変わらず審査中?」

「いや、それは・・・その・・・あれ、リインから聞いてないの?」

「アンタ、この状況で改めて誰かが聞くと思う? そんな頭があるなら、最初からこんなパーティーの準備はしないわよ」



ティアナは、僕の羽交い絞めを解除しつつ、そう言ってきた。何気に全員に対してケンカを売ってるような発言に、僕は納得した。

・・・つーか、真面目にこの状況証拠だけで動く悪癖はやめて欲しい。こいつら、マジで世界救ったスーパー部隊の構成員なの? 僕は正直疑問なんですけど。



「いや、その・・・フェイト、言っちゃっていい?」

「・・・うん、いいよ」



一応、僕だけの話じゃないのでフェイトにも確認。フェイトは、少し照れながらも・・・頷いてくれた。

なので、僕は一回深呼吸。それから、話した。



「・・・紆余曲折ありまして、二人で沢山話して・・・付き合うことに、なりました」

「その、私達・・・恋人同士ということに、なりました」



訪れるのは静寂。僕の言葉にみんなが固まる。

・・・え、なんで? なんで固まるのさ。



『それで手を出してないっておかしくないっ!?』










・・・やっぱりそう来たかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、パーティーは始まった。既成事実どうこうは抜きにしても、成立したのは間違いないということで、お祝いとなったのだ。





なお、絶対に『・・・仕事しろよ』なんて口に出してはいけない。僕だって思うけど、お祝いされる立場だから何も言えないのだ。もちろん、フェイトも。





僕とフェイトを主賓として、みんなに修行中の事や成立までの苦労話などを話したり・・・あれ、やっぱりおかしいな。仕事しようって気合入れたのに、まだ休みが続いてるよ? 言うなれば、今は8月32日だよ? 一体どこでバグったんだろ。










「あー、それでな皆。実はうちも報告が一つあるんよ」





そんな事を言い出したのは、はやて。僕は師匠とザフィーラさんにローストビーフを取り分けながら、それを聞く。

なお、フェイトはエリオとキャロと話している。キャロの僕を見る視線が非常に冷たいのは、気のせいじゃない。

さっきまでうるさかったし。『ヘタレ』とか『万年ED』とか。



・・・しゃないでしょうがっ! さっきも言ったけど、ダメな日来ちゃったし、フィアッセさん来ちゃったし、ヒロさんとサリさん突撃して来ちゃったんだからっ!!





「あれ? そういやヒロさん達はどこに」

「・・・あぁ、なんか急に本局のマリーさんのとこに行くって言って、慌てて出てった。つーか、なんか歓喜の声を上げながら逃げるように走り去ってた」

「それまでは、普段のお二人と違って、少々怯えている様子が見受けられたのだが・・・」



ち、逃げやがったか。せっかく昨日の報復をしようと思ったのに。こう、ギャグ的に笑える感じで。



「しかし・・・ヴィータ」

「言うな。もう決まっちまったことなんだしよ」



師匠達にローストビーフを渡しつつ、考える。その反応を考えるに・・・相当気にしてる? よし、帰ってきたらフェイトと二人、気持ち悪いくらいに優しくしてあげよう。そうしたら、もっと気にして怯えるはずだ(鬼)。

しかし、僕も気になる。もっと言うと、師匠達の会話だ。どこか諦めが入っているような言葉だったし。



”はやてさん、なに言い出すつもりなんでしょうね”

”そうだね・・・って、初会話だね”

”空気を読んだんですよ。人のラブシーンを覗き見るのは、もうごめんですし”

”・・・いや、まず見ようとするのやめようよ。懲りる時点でおかしいでしょうが”





とにかく、アルトとそんな話をしつつも、僕ははやての言葉に耳を傾ける。



いや、僕は間違っていた。それは言葉じゃなかった。



それは・・・爆弾だった。





「えー、うち、八神はやては・・・3月にヴェロッサ・アコースと結婚しますっ!!」










そっかそっか、ヴェロッサさんとけっこ・・・?





けっこん・・・・血痕・・・血こん・・・血婚・・・けっ婚・・・結婚・・・。





結婚っ!?










『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・本局のマリーちゃんに呼び出されて、私とサリは足取りも軽く歩く。もう歩く。





だって、やっさんとフェイトちゃんに殺される心配はなくなったから。とりあえず、今日だけはなんだけど。





で、サリから聞いた。今日はやてちゃんが話すつもりらしいと。










「・・・あぁ、やっと話すんだ。まぁ、デンライナーの事とかやっさんの事とかでちょっとゴタゴタしてたしね」

「だな。あと、今日までの間に式の日取りまで決めたりしてたしな。でよ・・・ヒロ、頼むからこれ以上暴れるのはやめてくれよ?」

「分かってるよ。ただし、ロッサが不埒なことしなければだけど。さすがに姉代わりとしては、そうなったら放置出来ない。あと、カリムやシャッハもね」

「あぁ、それでいい。そうなったらさすがにもう俺はフォロー出来ないし」





・・・ロッサは、文字通りはやてちゃんに責任を取ることになった。それが、結婚。なお、はやてちゃんのアイディア。

ロッサには、自分を一生かけてでも世界一の幸せ者にしてもらう。それで責任を取ってもらう。・・・まぁ、無茶苦茶な理屈だよね。でも、フルボッコ以外だとそれくらいしか手がなかったとも言える。

で、ロッサはあの時、はやてちゃんと念話で事前に話していたらしく、それに対して覚悟を決めた目でやると頷いた。一生かかってでも、はやてを世界一幸せな女の子にすると。



そのあと色々協議して・・・私もそうだし、聖王教会のカリムやシャッハ。あとヴィータちゃん達守護騎士メンバーも結婚を認めた。





「でも、式が3月の頭って・・・もう一ヶ月切ってるじゃないのさ」

「仕方ないだろうが。本当に親しい身内だけしか呼ばない上に、地球の八神部隊長やフェイトちゃんの幼馴染二人が協力するから、それくらいで準備できちゃうって言ってるんだし」

「身内・・・あぁ、六課の関係者でほとんど固まってるね。なんとでもなりそうだよ。なにより、本人乗り気だしね。
私らも『早く結婚して、逃げ場を無くせば安心』とか言われて納得しちゃって・・・あれ、なんで納得したんだろ? かなり無茶苦茶なのに」

「三日三晩の協議で疲れ果ててたんだよ。俺もお前もな」





しかし、結婚かぁ。・・・やばいな。私、はやてちゃんに抜かれた。その上、きっとやっさんとフェイトちゃんにも抜かれる。



いやぁぁぁぁぁぁぁっ! フェイトちゃんやはやてちゃんはともかく、やっさんに抜かれるのは屈辱だっ!! アイツは絶対魔法使い候補だと思ってたのにー!!





「安心しろ、俺にも抜かれる。ドゥーエと籍入れようかどうか、ちょっと考えてるしな」

「ごめん、私死ぬわ。もう生きる意味を見失った」



だめだ、私はもうだめだ。色んなものがだめだ。うぅ、やっぱりあれとかこれの時とかにオーケーしとけばよかったのかな。でも、なんかムカってきたし・・・。



「そう言ってアメイジアセットアップはやめろっ! つーか、ここ本局の通路の中っ!! みんなが何事かと見てるだろっ!?
そしてアメイジアもセットアップするなっ! パートナーとして全力全開で拒否れよっ!!」

≪いや、ちょっと面白いかと思って≫

≪・・・アメイジア、お前の神経は一体どうなっている≫

≪身体も心も剣で出来ているけど、何か問題あるか?≫










だって・・・サリにまで抜かれるなんて、屈辱だもの。すっげー屈辱だもの。





とにかく、私らは懐かしきテリトリーである技術開発局に到着。まぁ、部署違うけどさ。私とサリは、そのまま中に入ることにした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・はやてが、結婚かぁ」

「なんというか、先・・・越されちゃったな」





フェイトが使っているオフィスの整理を手伝いつつ・・・まぁ、仕事しに来たからね?



僕は、先ほどの爆弾話を思い出す。なお、パーティーはひとしきり騒いだら解散になりました。

時刻は午後の2時。なんというか、ちょっとずつ身体がここでの時間を思い出してくれているので、随分馴染んできた。

やっぱり、しばらく離れているとこうなるらしい。フェイトも同じくらしくて、最初はちょっとだけぎこちなかった。



・・・・・・本当に、帰ってきたんだね。





「部隊に入るのも、悪くないでしょ?」



フェイトが、微笑みながら、そう言ってきた。



「帰れる場所、居られる場所が家とかじゃなくて、こう・・・仕事する場にもあるって、きっと素敵な事なんだよ。
私もね、普段は執務官としてあっちこっちに行ったりするから、六課に来てそう再認識したんだ」



どうやら、考えていることを見抜かれたらしい。見ていると、嬉しそうな表情をしている。

ちょっとだけ思った。もしかしたら、シャマルさんにザフィーラさん。シャーリーやグリフィスさん達がJS事件の時、六課隊舎から逃げようとせずに防衛戦を挑んだのは、こういう理由があったのかと。・・・めんどくさ。



「まぁね。悪くは、ないかな」



ただ、それでも悪いものではないと思う。僕は、今ひとつこそばいくて、そのために戦うのは、ちょっと嫌だけど。



「・・・でも、結構仕事溜まってるね」

「シャーリーやなのは、あとティアが頑張って処理はしてくれてたみたいだけど、それでも私じゃないと・・・って言うのもあるから」



近くの警備部との打ち合わせや情報交換。六課の捜査活動の一手を引き受けるフェイトは、結構重要なポジションなのだ。

うぅ、それを二週間近く連れまわしてたのか。僕、よくみんなにたこ殴りにされなかったなぁ。



「とにかく、まずはこれと格闘かな。・・・あの、ごめんね。もしかしたら、しばらくお泊りとかは無理かも」

「いいよ。というか、補佐官資格取っててよかった」

「え?」

「だって・・・やっと、フェイトの力になれる。この書類だって、僕も手伝うし、きっとすぐに終わるよ。大丈夫大丈夫」



僕が笑顔でそう言うと、フェイトもさっきとは違う色の嬉しさを浮かべながら、笑顔で返してくれた。



「・・・ありがと。それじゃあ、当てにさせてもらっていいかな?」

「もちろん。もうドンと大船に乗った気で居てよ」

「うん、そうさせてもらう」





というか、あの・・・か、可愛い。やばい、凶器だ。あの笑顔は凶器だ。

とにかく、甘い空気を出しつつも、手は休めず、僕はフェイトに整理した資料を渡していく。

フェイトはそれに目を通して、処理の優先順位を決めていく。・・・まぁ、お仕事ですので、きっちりやりましょ。つーか、さっきまでのがおかしいのよ。



そんな時、コールがかかった。





『嘱託魔導師の蒼凪恭文さん、ロビーにお客様が来ておりますので、そちらの方へお願いします。繰り返します・・・』



僕だった。というか、お客? 誰だろ。



「フェイト、悪いんだけど」

「うん。こっちは大丈夫だから、行ってきていいよ」





そのまま、僕はフェイトに見送られながら、個室なオフィスを出て、ロビーへと急ぐ。

そして、見つけた。そこのソファーに座っている影を。それは・・・男。

身長は170前後。赤みがかかった茶髪を短髪に・・・って、またぼさぼさだし。



瞳の色は青。服装は黒の皮のジャケットにジーパン。



そして、印象的なのはその影の薄さ。もうエリオとタメが張れるくらいに薄い。きっと、将来は半透明だろう。





「お前、いきなり失礼だなっ!!」

「なにを言うかっ! これからもてなすんだよっ!!
具体的には、ぶぶ漬けを出して」

「帰れってことかっ! 今すぐ帰れってことか、お前って奴はっ!!」





なんて言いながら、近づく。自然と表情がほころんでいるのは、気のせいじゃない。だって、僕の知り合いだから。



で、右手を上げる。すると、そいつは立ち上がって、自分の右手をそこにパシンと叩きつける。





「ヤスフミ、久しぶりっ!!」

「久しぶり、ジン」





このお兄さんの名前は、ジン・フレイホーク。年は僕と同い年。現在の職業・嘱託魔導師。ようするに、僕の同業者。魔導師ランクは陸戦魔導師のA−。

僕と知り合ったのは・・・あぁ、結構前だ。まだミッドへの引っ越し前の時の話だから。

一応、それから付き合いのある友達。まぁ、色々と縁があったようでして。



・・・最初の頃は殺しあったりしたのにねぇ。





「なに適当な事言ってんだよっ! んな覚えないぞっ!?」

≪・・・ヤスフミ、相変わらずだな。そして古鉄殿、ご無沙汰している≫

≪あぁ、我が下僕。久しいな≫

≪私がいつから古鉄殿の下僕になったっ!!≫



本当だ。覚えが無いし。というか、お願いだからそういうことは言わないで欲しい。僕の品性が疑われる。



≪なに言ってるんですか。疑われるほどの品性も無いくせに≫

「おのれに言われたくないわボケっ!!」

≪そうだな、反省した方がいいぞ。マスター≫

「あぁ、そうだ・・・って、なんでそこで俺っ!? おかしいだろうがっ!!」





・・・で、このよく喋るジンが持っている十字型のデバイスはバルゴラ。アルトと同じくAI搭載式のアームドデバイス。なお、武器形状はファイズブラスター。





≪ヤスフミ、その説明はやめていただけないか? いや、分かるのだ。そうだと説明するのが分かりやすいのは理解出来るのだが、もうちょっと・・・≫

「気にしちゃいけないよ。・・・で、ジン。またどうしてここに?」

「なんだ、友達に会いに来ちゃいけないってか?」

「いけないね」



僕がそう言うと、ジンがずっこけた。・・・足腰弱い? ダメだねぇ。陸戦魔導師がそんなことでどうするのさ。



「お前なぁ・・・!!」

「そんな睨まないでよ。普通に会いに来る分は別にいいんだから。・・・トラブルの火種さえ持ち込まなければ」

≪・・・あぁ、そうか。お前はそういうパターンもあるんだったな≫

「お前、マジで苦労してるんだな。全然変わってなくて、俺は安心を通り越して悲しみの海におぼれそうだよ」



そう言いながら懐からハンカチを取り出し、涙を拭う。まぁ、でも六課に来てからはそんなパターン・・・あれ、結構あるな。

ギンガさんのアレもそうだし、ヒロさんサリさんが来たのもそうだし、良太郎さん達が六課に来たのも、考えようによってはそうだし・・・あはは、もしかして不幸体質、悪化してる?



「まぁ、安心してくれ。そういう火種は一切無い」

≪・・・と思っていたのは、マスターだけだった≫



そう、思っていたのはジンだけだった。運命の波は刻々と押し寄せ



「勝手なナレーション入れるなよっ! お前もその清めの塩は懐にしまえっ!! 一体どこから持ってきたんだっ!?」

「いや、霊体対策用に普通は持ってるでしょ?」

「そんなのお前だけだよっ! どんだけ用意周到重装備っ!?
・・・とにかく、後の事は知らないが」



うわ、言い切りやがった。これで何かあっても自分のせいじゃないって言い切りやがった。



≪恥知らずだな、マスター≫

「バルゴラ、悪いが少し黙っててくれないかっ!? 全然話が進まないんだよっ!!
・・・今回は普通に友達に会いに来ただけだ。仕事がようやく片がついたんでな」

「仕事? ・・・あぁ、巡礼に付き合ってたんだっけ」

「そうなんだよ。それも複数の世界を又にかけての数ヶ月間の巡礼。・・・あれ、仕事っつーか、単なる旅行だったな。普通に戦闘に発展するようなトラブルもなかったし」





なお、これは管理局の仕事ではなく、ジンがある団体から受けた仕事の一つ。巡礼の団体に付き合って、その護衛をしていたのだ。まぁ、結果的には旅行みたいな感じになったそうだけど。

一応、嘱託魔導師には犯罪行為に自ら組するような事にならない限りは、管理局以外・・・民間や企業からの依頼も受けていいことになっている。

僕が聖王教会の仕事を引き受けるのも、一応それになる。いくら協力体制って言っても、教会と局は違う組織だしね。



でも、うらやましいなぁ。僕もそれを嘱託のネットワークで知って、JS事件でのゴタゴタによるストレスを癒す意味も含めて行きたかったんだけど、こっちの仕事が入ったから、泣く泣く諦めることに・・・。





「・・・あぁ、そういや相当ゴタゴタしたんだってな。お前の名前、アングラでも相当広まってるらしいぞ?
イカれた上に局員が何人も返り討ちにあった重犯罪者を徹底的に潰した・・・てな」

「らしいね」










六課に出向になった直後かな。サリさんから教えられた。僕がフォン・レイメイを殺したことにより、表の世界・・・いわゆる管理局サイドもそうだし、裏の世界でも相当僕の名前が売れているとか。

ただ、それによって僕が狙われるどうこうという話じゃないらしい。まぁ、一応覚えておいて、気をつけるだけ気をつけておけという話ではあったんだけど。・・・サリさんの話で知ったんだけど、あの男は相当の嫌われ者だった。

自分の欲望のままに圧倒的な力を振りかざし、殺戮と蹂躙を繰り返し、表の世界の人間はもちろん、同じ闇という名の世界で生きる人間にすら、相当迷惑をかけていた。





裏の世界にだって、裏の世界のルールがある。そのルールは、ある意味では表の世界より厳しい。それを守れない奴が人に好かれるわけがない。いや、殺してやりたいと憎んでる人間がほとんどだったとか。

でも、あまりに高い能力とそのイカれた思考ゆえに、誰も中々手出しが出来なかった。まともにやりあえば無傷とはいかないのは目に見えていたから。膨大な魔力資質と瞬間・詠唱処理。これだけでも脅威だ。その上、再生能力付与なんて言う肉体改造までしていたわけだし。

なので、僕が奴を始末してくれて、感謝している人間は多数存在しているけど、恨みを持つ人間は居ない。・・・そう、どこか苦い顔で教えてくれた。僕も、多分聞いていた時、同じ表情だった。





人は、死んだ時に悲しむ人間が何人居るかで、それまでの生き方の価値が決まるって言う。だけど、あの男が死んでも、誰も悲しむものが居ない。『お父様』と呼んでいたあの子も同じだ。





もしかしたら、本当の孤独というのは、そういうやるせない結果を呼び起こすものなのかなと、ちょっと思った。










「お前、大丈夫か?」

≪一応、我らも色々と話は聞いている。・・・大変だったそうだな≫





ジンが、そう言いながら相当心配そうな顔で僕を見る。バルゴラもそれに続ける。

多分、さっきは多少濁した感じで言いはしたけど、知っているはず。僕があれに対してどういう手を使ったかを。

もしかしたら、来てくれたのはその辺りの事があったからじゃないかと、思った。



それに僕は・・・不敵に笑いつつ、うなづきで返す。





「まぁ、周りは結構ゴタゴタしたけどね」

「やっぱりか?」

「やっぱりだった」

≪温室育ちな方々には、この人みたいな自然栽培の事が理解出来ないようなんですよね。事件中より事後の方がかなり大変でしたよ≫





光の中に居る人間は、僕の行動を、認めるわけがない・・・か。確かに、そうだね。現にあの時のアルフさんやリンディさんには認められなかった。

なぜ自分達と同じになれないのかと、なぜ自分達を信じ、歯車の一つになれないのかと、なぜ必要もないのに殺したのかと、僕を悲しげに・・・いや、責める目で見てた。・・・わかっちゃうんだもの、そういうの。

だから、フェイトやなのは、はやてが変わらない目で僕を見てくれた時、変わらない声で『大丈夫だから』と言ってくれた時、本当に変わらずにいてくれた時、すごくうれしかった。



あの男の言う事は、間違いじゃなかった。でも、それが全部じゃなかったんだって、分かったから。





「でも、覚悟なら、とうの昔に決めてるもの。大丈夫、持っていきたい荷物の一つとして、しっかりとしょってくよ。で、ヘラヘラしながら生きてく。というか・・・生きてる」

「・・・そっか」










まぁ、暗い話はここまでにしておこうか。せっかく久々に会ったのだから、僕としては別の話を聞きたい。





・・・で、僕が行きそこなった極楽ツアーはどうだった?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、お仕事は一段落ついたので、ヤスフミの様子を見に行く。





すると・・・影に隠れてその様子を伺っている四人と一匹を見つけた。










「・・・みんな、何してるの?」

「あ、フェイトさん。・・・いや、恭文の友達って言うから、どんな感じかなぁ〜っと」

「もう、だめだよ? プライベートなお話中なんだから」

「でも、それを言うならフェイトさんはどうなんですか?」





物陰から様子を伺いつつ、私にそう言ってきたスバルの言葉に、ちょっとだけドキっとする。

ま、まぁ・・・気にはなる。うん、恋人ではあるけど、家族でもあるから。

とりあえず、何も言えなくなったので、私はちょこっと様子を見る。



・・・あ、男の子なんだね。ちょっと安心。





「ジン・フレイホークさん・・・かぁ。なぎさんと違って身長もあるし、かっこいいね」

「キャロ、ヤスフミだってかっこいいよっ!? その、普段はちょっとダメなところもあるけどっ!!」

「フェイトさん、落ち着いてくださいっ! そういう話じゃないですからっ!!」





エリオに制されて、とりあえず落ち着く。そして、頭が回転する。

ジン・フレイホーク。その名前に聞き覚えがあるから。でも、どこで・・・。



あぁ、思い出した。確かあの子、フィーネ・スノウレイドさんの教え子だ。





「フェイトさん、アイツの事知ってるんですか?」

「うん。と言っても、名前だけなんだけど。局では『栄光の流星』という二つ名で呼ばれていた有名な魔導師が居てね。ジン・フレイホークは、その人の教え子なんだ」

「栄光の流星・・・。また大層な名前・・・あ、ということはアイツも魔導師なんですか?」

「うん、間違いないと思う」



確か、恭文がヘイハチさんからアルトアイゼンを受け継いだのと同じように、栄光の流星からそのデバイスを受け継いで、色んな戦場を渡り歩いているとは聞いていたけど、それがヤスフミと友達だったなんて・・・。



「話通りなら、相棒と組んだ経緯も似ているし、そのせいじゃないですか?」

「あ、なるほど。そういうので意気投合して・・・と。うん、分かる分かる」

「そうだね。でも、ヤスフミ・・・楽しそう」

「そう言えばなぎさんが同年代の男友達と話すところって、初めて見たような・・・」

「あ、そうだね。というより、交友関係の大半が女性だから、そこは仕方ないんじゃ? ほら、六課だって女性比率高いから、男も僕やグリフィスさん、ヴァイス陸曹にサリエルさんくらいだし」










確かにエリオの言う通りだ。交友関係の大半が女性・・・まずい、気をつけないとだめかも。





そ、その・・・私はやっぱりヤキモチ焼きで、独占欲が強いみたいだから、余所見とか・・・嫌だし。





やっぱり頑張ろう。ヤスフミが余所見出来ないように、もっともっと素敵な女の子にならなくちゃ。うん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・へぇ。巡礼の仕事、そんなによかったんだ」

「よかったぞ〜? 衣食住はしっかり面倒見てくれるし、それで各世界の民族料理とか食べられるんだよ。
色んな場所の綺麗な景色とか、世界遺産の建造物とか、素敵な町並みとかも沢山見れたしよ。いや、あれに行けなかった奴は絶対損してるな」

「・・・そこまでですか」

「そこまでだな。・・・でも」

「でも?」

「お前も、なんだかんだで楽しそうだな。今、いい顔してるしよ」



ジンに真顔でそう言われて、ちょっと照れくさくて・・・ぽりぽりと右のこめかみをかく。そう言う顔、してますかねぇ。自分ではよく分からないんだけど。



「あ、それでメールでも言ったけど、AAA+の試験合格、おめでとう。また随分派手に暴れたなー。リアルタイム映像回してもらって、しっかり見させてもらったけど、あれは中々」

「面白かったでしょ?」

「最高だな。きっと伝説に残るぞ。いや、もう既に残ってるな」



腕を組み、うんうんとジンが頷く。・・・何故だろう、どうもこう・・・引っかかるものを感じるのは。



≪きっと、伝説のバカとして語り継がれるだろうな。魔導師ランク試験であんな事をかまして、プロの戦技教導官・・・しかもあのエース・オブ・エースを叩き伏せた魔導師など、今後出てくるわけがない≫

「やっぱりそういう意味っ!?」

「いやいや、他にないだろ。俺は見ててずっこけたんだからよ」





・・・ずっこける要素ないんだけどな。かっこいいじゃん。





「いや、確かに電王はかっこいいんだけど・・・あぁ、そうだったな。お前はセンスが致命的だったよな。運の悪さと同じく、そこも野上良太郎譲りだったよな」

≪本当ですよ。センスの悪さは何とかして欲しいですね≫

≪古鉄殿、それはあなたも同じと思う私は、もしかして間違っているのか?≫

≪いますね≫

≪「はっきりと断言したっ!?」≫










なんて楽しく話して・・・久々の男友達との楽しい時間は過ぎていく。





戻ってきて早々これかぁ。なんだか、解散まであと2ヶ月切ったけど、今まで以上に楽しくなりそう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、蒼凪・・・あと、フレイホークと言ったな。私とは初対面ではあるが、遠慮なくかかってくるといい。私も、全力で相手をしよう」





なんか平然ととんでもない事を言い出したのは、皆様お馴染み烈火の将。なお、絶対にニート侍とか空気とか言ってはいけない。本人、かなり気にしているのだ。





「・・・なぁ、ヤスフミ。これはどういうことだ?」

「僕に聞かないで。・・・フェイト、これはどういうこと? さっきの締めからこれへは絶対に繋がらないと思うんだけど。行間の間を読むのも小説の楽しみって言っても、これは読み切れないでしょ」

「わ、私もそう思う・・・」





戻ってきて早々・・・これかぁっ!!



時刻は、夕方より少し前。現在、廃ビルが乱立している演習場に、ジンと二人で立っています。なお、訓練着です。ジンもどっからか調達して着ております。



そして、目の前にはジャケット装備のシグナムさん・・・と、傍らには訓練着姿のフェイト。や、やばい。なんかすっごくヤバイ感じがする。





「あの、ちょっと待ってくださいよっ! なんですかこれっ!? なんで俺いきなりこんなとこに居るんですかっ!!」

「簡単な話だ。先日まで、蒼凪はとある場所で修行をしていてな。その成果を見せてもらうということだ」

「なんかすっごい簡単に俺とは関係のない事実を言い切ったっ!? てゆうか、最後の質問答えてませんよねっ!!」



ジンが抗議するのは当然だ。いきなりこれはない。だって、この人お客さんよ? しかも僕の客。

さすがにこれは見過ごせない。なので、今まで何故か嬉しそうにしていたシグナムさんに圧されていたけど、発言する事にした。



「・・・シグナムさん、成果を見せるのはいいでしょ。フェイトとシグナムさん二人がかりも・・・まぁ、いいでしょ」

「あ、私は参加しないよ?」

「そうなの?」

「うん。・・・ヴィータとなのはと一緒に、結界スタッフなの」



フェイトが疲れたような顔でそう言ってきた。そして、視線で僕に言う。『・・・演習場、壊さないでね』と。

だから、僕も視線で返す。『・・・シグナムさんに言って。絶対壊すのはあの人の攻撃だから』・・・と、答えた。そうすると、フェイトが泣き出した。すっごい勢いで泣き出した。



「でも、真面目にジンが参加する意味合いが分かりません。どういうことですか?」



とりあえず、そこは無視で話を進める。・・・人の客人巻き込まれてるんだ。これはありえないもの。



「単純に私の興味だ」

「「「なんかすっごいアホな事をはっきり言い切ったっ!?」」」

「アホとはなんだ、アホとはっ! 強者を見たら戦いたいと思うのが騎士としての常だろうっ!! 蒼凪、お前ならわかるはずだっ!!」



・・・まぁ、分かる。僕も同じだから。でも、僕は時と状況は考える。しっかり考える。いきなりこんなアホはかまさない。

どこからか『嘘だっ!!』って声と視線が聞こえるけど、スルーだ。



「シグナム、正直なんの説得力もありません。というより、それはただの危ない人ですよね」

「・・・私も、局に長い事勤めている」



あ、なんか急に語り出した。フェイト完全無視だし。



「だから、聞いた事はある。『栄光の流星』と呼ばれた魔導師・・・フィーネ・スノウレインのデバイスを受け継ぎ、色々な戦場を渡り歩く嘱託が居るとな。それがまさか、蒼凪と友人だったとは思わなかったが」

「・・・あぁ、そういうことですか」



つまり、ジンの能力に興味を持ってと・・・。てゆうか、ジンの先生の事知ってたんかい。



「当然だ。健在であれば『局の関係者で是非とも刃を交えてみたい魔導師リスト』に入れたいと思っているからな。もちろん、ベスト5入りは確定だ」

「そんなアホなリストは今すぐ捨ててー! 一体なに考えてるのっ!?」

「だが、お前とて作ってるだろう」

「はぁ? なに言ってるんですか。僕はそんなアホなリストは作ってませんよ」



胸を張って、シグナムさんの言葉に答える。・・・うん、僕はそんなリスト作ってない。



「僕のは『ガチにやりあって楽しい人ランキング』ですよ」

「ヤスフミっ! それは名称が違うだけでまったく同じように感じるのは私の気のせいかなっ!?」

「そうだぞっ!? いくらなんでもありえないだろっ! お前、そのバトルマニアな所まだ直ってなかったのかっ!!」



・・・うーん、なぜだろう。みんながとっても不満そうだ。僕の方がまともなのに。



「まぁ、そういうことなら分かりました。・・・ジン」



僕は、ジンの両肩に手を置く。そして、一言だけ言う。



「本気でやらないと、死ぬから」

「はぁっ!? おいおい、なんだよそれっ! なんでいきなり死亡宣言なんだよっ!!」

「というわけで、始めるぞ。二人ともジャケットを装着しろ」

「お願いだから、俺になんの断りもなく話を進めるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「あぁ、フレイホーク君ごめんねっ! 大丈夫、あくまでもヤスフミの具合を見るだけだからっ!! そんなにひどいことにはならないと思うからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、ジャケットを装着。僕達は空に浮かぶ理不尽なお姉さんと対峙することになった。





僕は当然リーゼフォーム。そして、ジンは・・・紺色に銀のラインが入ったジャケットに、同じ色合いのロングパンツ。両手にはデザインを合わせたグローブ。全体的に無地だけど、左肩に流星をイメージしたエンブレム。

武装は両足にひざ下まで装甲で覆われた青銅色のブーツ。そして、その横にアンカージャッキ。これはジンの移動の要。非人格型アームドデバイスのレオー。

両手に持つのは、一つのライフル。形状は、先ほど言ったようにファイズブラスター。分厚いストックの部分に突起の付いたカバー。銃身の下部にはいかにも何かが入ってそうな作り。持ち手はライフルの中央に埋め込まれており、その周囲は円状で、回転する事も可能。





これがバルゴラの武器形態。・・・やっぱりファイズブラスターだった。










≪・・・なぁ、ヤスフミ。なぜこうなるんだ? 私もマスターもこちらにお邪魔してまだ2時間も経っていないのだが≫

「バルゴラ、恨むならシグナムさんを恨んで? 僕には止められないから」

≪そうか、そうなるのか。しかし・・・その新ジャケット、また大胆なデザインだな。ハラオウン執務官のそれとほぼ同じではないか。というより、ペアルックか≫





・・・あぁ、そうだよね。そうくるよね。僕はよく知ってるよ。でも、言わないで。最近ようやくマントに慣れてきたんだから。





「でも、別にペアルックでも問題無いんだよな。もう恋人同士なわけだし。しかし、お前・・・マジでハラオウン執務官と付き合うようになってるとは」

≪苔の一念、岩をも通すどころの騒ぎではないぞ。奇跡だな、奇跡。きっと明日はその帳尻あわせに世界が破滅するぞ≫

≪JACKPOT!!≫

「あぁもう、うるさいっ! マジで緊張感無いねお前らっ!! ほら、いいから集中してっ! ・・・来るよっ!!」





僕の言葉に、ジンがファイズブラスター・・・あ、間違えた。バルゴラの銃口を向ける。狙うは烈火の将。または、はた迷惑なバトルマニア。





「それでヤスフミ、作戦は?」

「なんとか地上に引き摺り下ろす。・・・大丈夫、僕に策がある」

「うし、任せた」





そして、数秒にらみ合い、シグナムさんが口を開いた。





「どうしたお前たち、来ないのか?」

「来るわけないじゃないですか」

「・・・なんだと?」



あざ笑う。その対象は当然シグナムさん。



「だって、僕達完全にやる気ないですし」

「なんだとっ!?」



なんか互いにすごいやる気満々なのが当たり前みたいに思ってたのっ!? 待て待てっ! どう考えたらそうなるのさっ!!



「・・・なぁ、ヤスフミ。あの人はいつもあぁなのか?」

「・・・・・・たまにあぁなる。そして、何がスイッチかよくわからない。全部の戦闘絡みであぁなるってわけじゃないし」

「そうか、それは余計に性質が悪いな」



まぁ、そこはいい。とにかくシグナムさんに言葉を続ける。



「というわけで、帰りますんで」



そのまま、すたすたと踵を返し、歩き出す。ジンも呆気に取られるけど、視線でサインを送ってジンも踵を返す。

それから・・・全力疾走っ! 一気に跳んでそのままシグナムさんとの距離を取るっ!!



「待て、お前らっ! 逃げるなっ!! それでは私が楽しくないだろうがっ!!」



アンタ、やっぱりそういう道理かいっ! んなのにイチイチ付き合っていられるほど、僕達は暇じゃないのよっ!!



”ジン、シグナムさんのデータ、バルゴラに送った。確認して”

”・・・今確認した。でもよ、これだと隠れても意味ないんじゃないのか? このシュランゲってのでビル一掃されたら終わりだぞ”

”はぁ? 誰が隠れるなんて言ったの”



僕はニヤリと笑う。その時、隣のジンが若干表情を引きつらせた。



”少しだけ『嫌がらせ』、するのよ”

”・・・なるほど、そういうことか。で、通用する見込みは?”

”しないだろうね”



腐っても烈火の将。そんなのが通用するわけがない。今でこそあの口調だけど、冷静に戦局を見ているといい。

戦闘経験はなのはやフェイトより上。そして、どちらかと管理局側と言うより、僕や恭也さん、美由希さん側の人間だ。下手な奇策が通用しないのは、もうやんなるくらい知ってる。



”それでも、少しだけでも近づいてもらえれば御の字だ。・・・その足のレオーは、飾りじゃないでしょ?”

”なるほど、つまり・・・まずは俺に囮になれと”





多分、シグナムさんはまずジンを狙ってくる。理由は三つ。一つ目、ジンに興味を持っていることがこの事態を引き起こす大きな要因になっていること。

そして二つ目。陸戦魔導師であるジンは、空戦魔導師である僕よりも機動力に劣ると思っているはず。最後に三つ目。基本的に銃器というのは近距離戦闘を思考には入れていない。つまり、近い距離で剣とやりあったら剣が勝つのだ。

対複数戦闘の基本は、倒せる奴から確実かつ迅速に倒すこと。そしてそれは、相手より有利な部分があることが絶対条件。実力が未知数なのが怖い部分ではあるけど、それはシグナムさんからすれば慣れっこな事態。



陸戦魔導師という点で僕より機動力に劣っていて、銃器使い・・・つまり、近接戦闘が領域ではないと思われるジンを狙うのは必然かと。





”納得した。ほんじゃま・・・”

”とりあえず、散開だね”

”おう”





そのまま、僕は右。ジンは左へと全力疾走。疾走しながら、僕は魔法を一つ発動。





≪Stinger Snipe≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ビルの谷間をヤスフミは飛びつつ振り返り、それを上に向かって発射。狙いは・・・ヤスフミ達を上から追いかけて来ているシグナム。シグナムは高速で飛びつつそれをレヴァンティンで打ち払う。

そこを狙って、複数の弾丸がスティンガーと同じような機動を描き、シグナムに襲い掛かる。

シグナムは、それを前面にシールドを発生させて、また防ぐ。そこを狙ってスティンガー。それを払うとまた複数の弾丸。





そんな波状攻撃に、シグナムは対処しつつ二人を追う。あの程度なら、シグナムの足は止められない。そして、どうやら・・・その狙いをフレイホーク君に決めたらしい。

シグナムは左に飛んで、フレイホーク君を追い、見つけた。当然、後ろからの攻撃にも気を配りつつ。

シグナムはレヴァンティンを蛇腹剣へと変化させる。そのまま、それを打ち下ろす。その切っ先は正確にフレイホーク君へと迫り・・・地面を穿つ。




だけど、フレイホーク君はそれを避けた。それを見て、私達は驚いている。だって、今の攻撃、タイミングはピッタリだったのに。










「・・・フェイトちゃん、アレ」





なのはが指し示すのは、フレイホーク君の両足。あのアンカージャッキが動き、射出され、地面を叩く。その衝撃と反動よりフレイホーク君が加速する。シグナムからの蛇腹剣の連撃を、両足のジャッキを使って、まるで路面をジグザグに縫うように走り、逃げる。

右足のジャッキを使って跳んで、振り返る。フレイホーク君の回りに数個の魔力弾。それが一気に発射される。シグナムはそれを蛇腹剣で打ち払い、そのまま反撃を試みる。

だけど、今度は両足のジャッキを同時に動かして、大きくまた後ろに跳んで避ける。跳びつつ、バルゴラを構え、その銃口をシグナムさんに向ける。



そこから放たれたのは、鋭い射撃。紺色の魔力の弾丸を、シグナムは避ける。

そのまま、その弾丸の射線に沿うようにフレイホーク君へと突っ込む。

どうやら、このまま空中から蛇腹剣で攻撃してもラチがあかないと思ったらしい。確かに、あのジグザグで不規則な機動は・・・読み辛い。追いつけない事は無いけど、クロスレンジだと一気に仕留めないとやり辛そうだよ。





「つーか、また無茶苦茶なことするな。アレで身体持つのかよ」

「さ、さすがは恭文君の友達だよね。思考が一つ飛びぬけてるよ」

「いや、お前もだからな? それだとお前もそれなんだからな?」

「・・・そうでした」





蛇腹剣を片刃の剣に戻しつつ、シグナムは上段から打ち込む。それをフレイホーク君は、左足のジャッキを射出。その勢いで後方斜め上に飛ぶ。・・・速い。航続距離はともかく、瞬間的な移動速度はかなりある。

レヴァンティンの刃が地面を穿つ。そして、そのままシグナムは突進。フレイホーク君は銃口を向けて、弾丸を撃ち込む。だけど、シグナムは再びレヴァンティンのカートリッジをロード。蛇腹剣へと形状を変えて、それらをうねらせる。

そうして、全ての弾丸を斬り裂き、そのままその切っ先を空中に居るフレイホーク君に叩き込む。・・・フレイホーク君はあくまでも陸戦魔導師。空中機動は出来ない。なら、これで決まる。



そう思っていたのに、フレイホーク君は真横に移動した。移動しながら、再びシグナムへ射撃。防がれこそするけど、その機動に驚いている。表情からそれが読み取れる。



び、ビルの壁に右足のアンカージャッキを打ち込んで、それで避けたっ!? なんて無茶苦茶なっ!!



だけど、それで終わらない。そのまま向かい側のビルの壁を、左足のジャッキで蹴り、シグナムに突撃する。そうして、弾丸を乱射。

シグナムは距離を詰められ、蛇腹剣では不利と判断したのか、片刃の剣に戻し、それらを斬り払う。そして、突撃した。

アレでは、近づかれたら終わり。だって、銃で近接戦闘は・・・。





「・・・ジャック」





その予想は、覆された。銃身の下から展開されたのは、銀色の片刃の刃。それにより、あの子のデバイスは銃剣のようになった。

それを、身体を回転させるかのようにして、左から叩き込む。刃を包むのは紺色の魔力。



というか、あれって・・・斬撃魔法っ!?





「カーパーッ!!」





シグナムの突撃のタイミングをしっかりと見極めた上での攻撃。だけど、それは・・・当たらなかった。

シグナムは寸前で止まり、その攻撃を回避。シグナムの目の前で紺色の斬撃が空間を斬る。

そして、シグナムはカートリッジをロード。レヴァンティンの刀身に炎が宿り・・・。



攻撃せずに鞘を取り出し、防御した。原因は、振り抜かれた刀身から飛び出してきた紺色の刃。ま、魔力の刃を飛ばす・・・私の魔法の中にもある。ロジックは違うけど、それと同じだ。

それにより、爆煙が上がる。・・・シグナムはその中に飲み込まれつつも、炎は、まだ消えていない。

フレイホーク君は空中のまま。そして、ジャッキを使えるような位置には居ない。つまり、無防備。





「紫電」





そのまま、振り下ろされようとする刃。だけど、あの子はそれに驚きもしない。



理由はすぐに分かった。今、シグナムが戦っているのは、一人じゃないから。





「鉄輝・・・!」





シグナムの背後へと青い閃光が迫る。シグナムはそれを見てとったのか、目標を変更。襲撃者へと、その刃を向ける。身体を先ほどのフレイホーク君と同じように回転させながら、青い閃光に・・・ソニックムーブを使ったヤスフミに打ち込む。



ヤスフミも、抜き打ちでアルトアイゼンに刃を叩き込む。





「「一閃っ!!」」





炎と青の刃が、ぶつかり合い・・・空間を震わせ、空気を焦がす。二人がそうして居る間に、フレイホーク君は着地。



バルゴラの銃口を向け、そのまま乱射・・・え、ヤスフミが居るのにっ!?



だけど、ヤスフミはまたソニックムーブを発動。その場から消えた。シグナムは上に移動して、弾丸を避ける。だけど、そこにまた数発の弾丸。それはシグナムを囲むように、突然出現した。そして、一気に放たれる。

シグナムは身体を回転させながらレヴァンティンを振るい、それら全てを斬る。そこを狙って、ヤスフミが上から突撃。上段からアルトアイゼンを打ち下ろした。

それを鞘で受け止め、右に流す。流しながら、甘くなっていた背後に向かって左足で回し蹴りを叩き込む。



ヤスフミはそれを食らって、ビルの屋上に飛ばされる。だけど、飛ばされながら魔法を発動。





≪Icicle Cannon≫





即時発動された青い凍れる魔力砲撃。その砲弾はシグナムを狙って一直線に飛ぶ。シグナムは・・・左手をかざして、シールドを展開。それによって砲撃をなんとか防ぐ。着弾した砲撃により、冷たい爆煙と爆風がシグナムの周囲を支配するように発生する。

その中を突っ切るように、シグナムが飛び出す。飛び出した方向は上。そして狙いは・・・フレイホーク君。レヴァンティンのカートリッジをリロードしたのか、再びカートリッジを使用する。

連続使用した上で発動するのは、炎を点した蛇腹剣。




「飛竜っ!」



そしてそのまま、その切っ先を・・・フレイホーク君へと突き立てる。



「一閃っ!!」




炎を点し、うねりながらも真っ直ぐにフレイホーク君へと向かう。だけど、逃げない。・・・あぁ、分かった。来ると思っているんだ。



そして、来た。刃には先ほどとは違う冷たい息吹きを秘めた魔力。それを構築しながらあの子は、フレイホーク君とシグナムの間に立ちはだかった。





「氷花」





そのまま、その切っ先に向かって、刃を袈裟から打ち込む。





「一閃っ!!」





氷と炎、相反する力がぶつかり合い、爆発する。その衝撃で、辺り一体の建造物が震える。・・・結界、大丈夫。まだ持つ。でも、余波がすごい。



ヤスフミは・・・あ、大丈夫だ。





「砲撃クラスの攻撃を斬るなんて、また無茶苦茶な」

「いや、砲撃自体も斬れるから問題ないって言えば問題ないけどよ」

「でもヴィータちゃん、普通は斬れないよね。普通は斬ろうとは思わないよね。私、試験の時にカートリッジ付きのエクセリオン斬られて、本当にびっくりしたんだけど」

「・・・言うな」





ジャケットがちょこっとすすけているけど、それでも無事。ダメージも・・・多分、ほとんどない。変わりない姿で、ヤスフミはそこに立っていた。

それに安堵して・・・うぅ、こういう肩入れはだめ。その、お仕事場なんだからきちんとしないと、エコヒイキと同じだよ。



その様子に私とは違う感想を持っている人が居る。それは・・・シグナムさんだ。





「・・・ふ、楽しい・・・楽しいな。蒼凪、フレイホーク」

「あぁ、そうですね。楽しいですね」



そう言って、二人が笑う。同じようなテンションで同じような声で笑う。それがとても、怖い。



「いや、俺はかなり必死なんでそうでも」

「楽しいよね?」

「楽しかろう?」

「は、はいっ! すっごい楽しいですっ!! もうめっちゃ楽しいですっ!!」





あ、あれ? なんかヤスフミ・・・雰囲気が変わったような。フレイホーク君が、それに威圧されてるし。





「フレイホーク、中々やるな。蒼凪とはまた趣が違うが、お前との戦い、心が躍るぞ」

「あ、ありがとうございます。つーわけで、俺はそろそろ退場とか」

「だめだ。・・・ここからが楽しくなるというのに、そんな無粋な真似をするのか、お前は?」



そう言って、シグナムがフレイホーク君を睨む。それはもう殺し屋の目と言わんばかりに。というか・・・あの、シグナム?



「そうだよ、ジン。いくらなんでもKY過ぎ。せっかく楽しくなって来たんだからさ、もっと派手に行こうよ」

≪・・・ヤスフミ、そう言いながらなぜ我らをその殺し屋の目で見る。それも満面の笑みを浮かべながら。頼む、やめてくれ。凄まじく怖いのだが≫

「お、おいっ! お前もそうだしシグナムさんも目的忘れてませんかっ!? これは別にそういう戦いじゃ」

「知らないねっ!!」

「知らんっ!!」



なんだかすごい勢いで言い切ってるっ!? あぁ、ヤスフミがまたエンジンかかってるー!!



「そう言えば、まだ神速は使っていないな」

「あんま連発出来ないんですよ。あと、発動時間も短いんで、使いどころが難しいんです」



なんて言いながら、二人は刃を正眼に構える。なお、レヴァンティンは片刃の剣に戻っています。



「そうか。ならば・・・ここからは斬り合いだな。その中でぜひとも使ってもらおう」

「さぁ、そう上手く行きますかね。きっと使わないうちに倒しちゃうと思いますけど」

「ふ、言うようになったな。・・・行くぞっ!!」

「はいっ!!」




そうして、二人は突撃して、空中で斬り合う。そのまま、数度打ち込みながら地面へと落下する。そのまま、廃ビルと廃ビルとの間で斬り合いが・・・あぁ、結局こうなった。結局こうなっちゃったよ。



「というか、フレイホーク君・・・あぁ、なんだか攻撃の余波に巻き込まれて右往左往してるし」

「・・・ヒロリスさんとサリエルさん帰ってきたら、演習場見てもらわないとな」

「そうだね。さて、とりあえず・・・フェイトちゃん、どうする?」

「止める」

「「だよねー(だよなー)」」










とりあえず、私は魔法を発動。それは・・・サンダーフォール。





全力全開で暴れている二人に対して、文字通り雷を打ち込んだ。ただし、お説教的な意味合いで。





・・・いいの。恋人だけど、厳しくもするんだから。甘いばかりじゃだめなの。うんうん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



模擬戦はまぁ・・・終わった。いや、趣旨を完全に忘れてバトルマニアっぷりを二人が発揮したからなんだけど。





そして、演習場の真ん中でフェイトちゃんとヴィータちゃんにお説教をされている。恭文君がちょっと涙目なのは、気のせいじゃない。





・・・うん、安心した。フェイトちゃん、あんまりに糖分を排出し過ぎるから、公私混同しないかってちょっと心配だったんだけど、あれなら大丈夫だよね。










「・・・ね、なのはちゃん。あれなに?」





そして、その様子をいつもの集合場所から見ていると、後ろから声がかかった。





≪姉御、聞く必要あるか?≫

「無いねぇ・・・」

「なんつうか、二人揃って学習能力ないなぁ」

≪主、今更かと≫





それは・・・ヒロリスさん達だった。





「ヒロリスさん、サリエルさん、おかえりなさい」

「うん。ただいま。で、今度はなにが原因で大暴れしたのよ?」

「・・・俺ですよ」



そう声を出したのは、私の横で疲れ果てた様子のフレイホーク君。座り込みながら、ヒロリスさん達に手を上げて挨拶する。

それを見て、ヒロリスさん達が表情を驚きに染める。



「ジン坊っ!? うわ、久しぶりー! え、アンタなんでこんなとこ居るのよっ!!」



そうして、二人はフレイホーク君の方へと近づく。なんだか嬉しそうな顔で。



「ヤスフミの奴に会いに来たんですよ。抱えてた仕事が終わったんで。で、そうしたらあそこのポニーテールの副隊長に捕まって、模擬戦をやる羽目に・・・」

「あぁ、そっか。・・・ジン坊、大変だったな。あの人は悪い人じゃないんだが、やっさんやヒロと同じバトルマニアという危険因子を内包していてな」

「えぇ、やんなるくらいわかりました。つーか、いくらなんでも危なすぎですってあの二人。互いに化学反応起こしてましたし」

「そうか。でも、それはまだいい方だ。三人揃うと更にヒドイ」

「でしょうね、予想はしてました」



なんだか、三人が自然に会話している。それはもう昔からの知り合いみたい・・・。

いやいやっ! えっと、もしかして三人は昔からの知り合いっ!?



「あぁ。・・・コイツの師匠であるフィーネは、俺とヒロと同期なんだよ。その関係でな」

「昔から色々世話になってます」

「あぁ、なるほど・・・。ところでお二人とも、その子は?」





ヒロリスさん達にくっつくように、女の子が居る。見たところエリオやヴィータとさほど年が変わらない子。水色の髪に赤い瞳。興味津々な顔で周りを見る。



なお、私は見た事が無い。うーん、マリーさんから呼ばれたって言うの、もしかして・・・この子が原因かな?





「あー、それなんだけどね。なのはちゃん・・・」

「はい?」



二人には珍しく歯切れの悪い感じ。それに首を傾げていると、その子がトタトタと走って・・・抱きついた。



「おにいちゃんー!!」

「・・・はぁっ!? いや、待て待てっ! なんで俺がいきなりお兄ちゃんっ!? 俺は君と会ったのコレが初めてだよなっ! おかしいだろこれはっ!!」

「おかしくないよっ! お兄ちゃんはお兄ちゃんなのっ!!」



え、えっと・・・フレイホーク君の妹さんか何か? でも、本人は否定してるし・・・。



「あー、なのはちゃん。実は・・・しばらく、この子をうちらで預かる事になったから」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



時刻は夜の6時。お説教が終わった後、再びオフィスに戻ってフェイトの仕事を手伝っていると、先ほどから少し席を外していたフェイトが戻ってきた。





そして、すぐにちょっと真剣な顔で話しかけてきた。










「・・・ヤスフミ、一ついい?」



・・・どったの?



「フレイホーク君の師匠の事って、どれくらい知ってる?」

「うーん、あんまり知らないよ? 僕とジンが知り合った時にはもう亡くなっていたから、直接話した事もないもの。多分、フェイトが知ってるのとそれほど情報量は変わらないと思う」



ヒロさんサリさんに引けを取らないくらいに凄く強い魔導師で、二つ名は『栄光の流星』。

バルゴラはその師匠の形見とも言えるデバイスで・・・。あぁ、それともう一つあったか。



「バルゴラ、フィーネさんの手で機能に制限が付けられてるんだって」

「制限?」

「うん。・・・ほら、スバル達が最初にマッハキャリバーやクロスミラージュを支給された時にかかってたって言うあれだよ」

「あぁ、能力リミッターだね」



なんでも、ジンがちゃんと今の機能を扱えるようになったら、バルゴラの判断で解除していく仕様になっているとか。つまり、師匠が居なくなった後でも大丈夫という仕様なのだ。

・・・念入りにも程があるよね、本当にさ。



「じゃあ、あの子のこととかは・・・何も知らないんだよね」



フェイトが誰の事を言っているのかすぐに分かった。ヒロさん達が連れてきたあの水色の髪の子だ。人懐っこい感じで、ヴィヴィオとすぐに意気投合してた。そして、ジンに無駄に懐いていた。

現在、ジンはあの子の相手で必死になっている頃だろう。というより・・・帰れるのかなぁ? まぁ、次の仕事とかも無いって言ってたし、大丈夫か。



「フェイト、あの子の事で何かあった?」

「うん、少しね。もしかしたら、ヤスフミの力も借りるかも知れないの」

「分かった。まぁ、その時はまた大船に乗ったつもりで居てよ。・・・でさ、仕事、今日の分はもう終わってるわけですよ」



フェイトがその言葉に、顔を赤くした。そして、なぜかもじもじと・・・。



「だ、だめだよ。ここは仕事場だし。・・・あ、もしかして、その、えっと、お・・・お持ち帰りとか、されるのかな」



とりあえず、近づいてチョップをかます。勘違いがひどいから、しっかりとかます。恋人だからって、甘いばかりじゃダメなのだ。

・・・涙目で頭を抑えているけど、気のせいだ。



「そうしようかと思ってたけど、お仕置きも含めてここでフェイトを食べることにしよう。というわけで、押し倒すね」

「そ、それはだめっ! ちゃんとプライベートで二人っきりになれるところじゃないと、私は嫌だよっ!!」

「冗談だよ。さすがに僕もここでは嫌だ。・・・あのね、実はさっきシグナムさんが来て、これをもらったのよ」



そうして、僕は取り出す。一升瓶・・・日本酒を。フェイトは、それを興味深そうに見る。



「シグナムが?」

「うん、フェイトが呼び出された直後にね。それで伝言。仕事が終わったら、これを一緒に飲まないかって。今日は色々迷惑かけたから、そのお詫びだって」

「・・・そっか。あの、ヤスフミ」

「一応、僕もお呼ばれしてるから大丈夫だよ。三人で、明日の仕事に差し支えない程度に、月でも見ながらのんびり飲もうってさ」





その言葉に、フェイトは嬉しそうにうなづいた。



そして、僕達は後片付けをしてから、オフィスの電源を落として、一升瓶を大事に持って・・・シグナムさんの所へ向かう。





「でもシグナム、直接言ってくれればいいのに。さっきまで一緒に居たんだから」

「なんか照れくさいとかそういうのじゃないの? あと・・・」



うん、あと・・・一言だけ言われた。本当に一言だけ。



「なに?」

「テスタロッサは堅物だから、酒を没収するという空気の読めない行動に出そうだって」

「そんなことないよっ! 私、結構頭は柔らかいほうだよっ!?」

「嘘だっ!!」

「嘘じゃないからっ!!」










本当に一言だけ、シグナムさんに言われた。





『テスタロッサのこと、頼むぞ』・・・と。それだけ言って、オフィスを出て行った。





付き合うようになって、まだ1ヶ月も経ってない。だけど、楽しくて、幸せで・・・そんな時間を感じる度に思う。





側に居る温もりを、大切な人の今と笑顔を、絶対に守りたいと、そう思う。










「・・・ね、フェイト」

「うん?」

「好き・・・だよ」

「うん・・・私も、好きだよ」




















(第6話へ続く)






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