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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのさん 『熱き流星 始まりの鼓動へ』:その1



≪さて、久々の外伝です。皆さん、いつもお世話になっております。私、古き鉄・アルトアイゼンです≫

「どうも。いつもバカ弟子があれこれアバレてすみません。機動六課スターズ分隊・副隊長のヴィータです」

≪師匠、いきなりですね≫

「いや、仕方ねぇだろ。それ以上に不幸だけどよ。・・・で、今回は何の話だ?」

≪はい。今回は4年前に話を遡りまして、新暦71年の4月頃の話になります≫

「・・・じゃあ、あの話か」

≪その話ですね。なお、今回もいつものノリです。そして、マスターは不幸です。
本編では、いい感じでありますが、こちらではそんなことはありません≫(断言)

「んなことを断言するなよっ!!
・・・まーいいや。そうと決まったら、ぶっ飛ばしていくぞっ!!」

≪了解しました。師匠≫




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのさん 『熱き流星 始まりの鼓動へ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・全てのことには、始まりがある。





僕とアルト、リインもそうだし・・・フェイトやなのは、はやてにも。





そして、全ての事象にもだ。例えば・・・JS事件。





そう、新暦75年のミッド、及び次元世界を震撼させた大規模テロ事件。これにも、当然始まりの瞬間がある。





まぁ、これに関しては、人によってタイミング差があると思う。





だから、今回語るのは、僕とアルトにとっての始まり。





僕達二人・・・古き鉄が、無限の欲望と対峙することが決定した一幕である。




















≪Axel Fin≫





ジガンスクードから、カートリッジを1発消費。両足に生まれるのは、空を駆けるための青い翼。



なぜ、これを使ったか? 簡単だ。踏み込まなきゃいけないから。風よりも速くだ。





「なのはっ!!」

「うんっ!!」



隣で飛んでいた友達と一緒に、速度を上げる。向かうは奇妙な黒煙。

・・・発掘現場からのロストロギア回収ってのは、またスリリングなんだね。



≪そうですね。まぁ・・・≫

「暴れられて、助かるけどっ!!」





速度を上げて、黒煙の発生源へと近づく。そこに見えたのは、逃げ惑う二人の人。

そして、それを追いかける・・・機械兵器。



俵型のおにぎりを縦にしたような形。中心部分には、瞳を思わせるレンズ。

ただし、色は美味しそうじゃない。グレーだし。カビでも生えてるのか。あれは。



ま、とにかくだ・・・。行きますかっ!!





「・・・チェストっ!!」





作業着を来た二人を追いかけながら、熱光線を吐き出すおにぎり。その先頭に居た奴に、アルトを打ち込む。



上空からブーストをかけた急降下。その勢いを生かした一閃。

それは、魔力など使わなくても的確におにぎりの身体を捉え、真っ二つにする。



そのまま、すぐに先頭集団の左側面に回る。

僕が斬ったおにぎりは、移動を開始した直後に爆発。その爆煙を青い光の線が突き抜けてきた。

その線の向かう先は、僕の居た場所である。



中々に優秀だ。一拍おいて、すぐに僕に攻撃を仕掛けてきた。

でもあれは、ビーム・・・光学兵器の類? ま、いいや。



だって、こっちの詠唱はとっくに終了。左手に生まれた魔力スフィアを、おにぎり集団に向ける。





「クレイモアっ!!」





青い魔力の散弾によって貫かれ、4体が爆発した。



で、残りの奴は、当然僕に追撃をかけようとする。おにぎり達のレンズが、僕の方へと向く。



でも遅い。僕はもうアクセル・フィンを羽ばたかせて、相手の射程圏外。追撃など無意味だ。だって・・・。





「プラズマランサー・・・!」





その声は上から。

黒い制服っぽいインナーに白いマントを纏った閃光の女神の周りに、雷撃の槍がいくつも生まれている。



そしてそれは・・・。





「ファイアっ!!」





女神・・・フェイトの声によって、全てがおにぎり集団に放たれた。



まるでなにかのアニメのような着弾音のSEが辺りに響く。

そのすぐ後に、おにぎり達は爆発した。・・・全体の3分の1くらいだけど。





「・・・リイン」

【広域スキャンは済んでます。人間は、あの二名だけです】

"なら、一応は安心やな"





聞こえたのは、大事な友達二人の声。今は、ユニゾン中です。

うん、安心だ。さっきまで追いかけられていた二名も、なのはが盾になってくれている。

バカでかいミサイルでもこない限りは、やっぱり安心だ。



さて、なーんであんな不味そうなおにぎりが、派手にパーティー開いてくれてるんだろうね。

招待状も届いてないし、魔法使いのお婆さんも、カボチャの馬車も来て無いんだけど。





"とりあえず、そこは後かな。・・・ヤスフミ"

"分かってる。さぁ、ぶっ飛ばして行くよっ!!"




















・・・きっかけはクロノさんからの依頼。





ここ、第162観測指定世界で発掘されたロストロギアを回収するというもの。

それを、普段は別々な仕事をする事が多い僕達が、同窓会的なノリで引き受けたのだ。





いや、仕事以外では、顔合わせてるけどさ。家はご近所だし、フェイトとなのは達は学校同じだし。





とにかく、戦闘の匂いがしないものだと思ってたら・・・。




















"これやからなぁ。・・・頼むから、オーバーSとか、エース級とか、引かんでな?"



僕に言うなっ!!



"大丈夫だよはやて。今回は私達もいるんだし。・・・ヤスフミ、絶対に私達から離れちゃダメだよ?"



なんでフェイトまで同意見っ!?



"当然だよ。・・・恭文君、嘱託になってから、何回AAA以上の魔導師と、現場で、単独でやりあった?"



・・・ほんの・・・20回? いや、全部ギリで勝ってるけど。

でも、現場に出る度、毎回ってわけじゃないし、それくらい普通・・・。



"じゃないよっ! 明らかに多いしっ!! それも、全部『運悪く』って状況でしょ!?
絶対おかしいっ! どんなに気を付けてもそうなるって、どれだけ運がないのっ!"

"うっさいバカっ! そんなの僕が聞きたいよっ!!
なんで5%以下があんなにゴロゴロしてるのっ!? おかしすぎるわ次元世界っ!!"





いや、結構本気で聞きたい。おかげでスレイヤー○ばりに格上相手との戦闘が上手くなるし・・・。

まぁそこはいいや。とにかく・・・え?



おにぎりから、なんかグワァってエフェクトが・・・。





「・・・まずはワンショット。いくよ、レイジングハートっ!」



なのはが、レイジングハートを、おにぎり集団に向かって、相棒の先を向ける。

そして、カートリッジを1発消費。



「シュゥゥゥゥゥトっ!!」



杖の先から生まれたのは、4つの桜色の魔力の弾丸。

それが、おにぎりの一つにむかって行って・・・消えました。というか、打ち消されました。



「・・・アルト」

≪AMFですか。しかし・・・≫



そう、僕は知っている。前にマジックカード作成の時に、リーゼさん達から聞いてるから。



「AAA級のフィールド魔法。魔力結合そのものを壊す魔導師殺し。つか、それを機械兵器が使うって・・・」





かなりすごい事だったりする。ミッド・・・次元世界の技術力はたしかに高いけど、そこから考えてもすごいのだ。



1メートル前後のボディにそれだけの物が詰め込める。少なくとも、僕の知り合いにそんなことが出来るやつは居ない。





≪作った人間は、相当に優秀ですね。ですが・・・≫





そう、だけど大丈夫。カードへ入力する魔法は、絶対にその辺りも鑑みて入れろって言われたし。

理由? 僕の運のなさを話したら、必死に説得されたよ。AMFに閉じ込められる可能性もあるってさ。



いける。その関係で、AMFの特性も学習済み。うし、このまま・・・!!





「サンダァァァァァっ!」



聞こえたのはフェイトの声。・・・え?



「スタァァァダストっ!」



続いて横馬。・・・えぇ?



「「フォォォォォォォォォルっ!!」」










そして、二人の声が重なったと思ったら・・・雷と岩が、おにぎりに降り注いだ。





・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?




















こうして、やつらは見事に全滅した。魔王とフェイトの攻撃によって。・・・まる。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・出番、取られた」

「・・・ご機嫌斜めやな」

「恭文さん、広域魔法のカードも作ってましたから」



氷結属性のカード・・・。試したかったのになぁ。もち、AMF対策済み。

・・・よし。



「なのは、フェイト。ちょっと実験台になって。大丈夫、ちょっと冷たくなるだけだから」

「そ、それは・・・」

「やめてほしいかな・・・」

「じゃあ、僕の憂さはどうやって晴らせとっ!?」

≪実戦で使いたくてうずうずしてましたしね≫










・・・なお、この時対峙したおにぎり・・・局で『ガジェット』と呼ばれるしろものになるということ。





そして、その製作者とその取り巻き連中と、ガチにやりあうことになるとは・・・この時、僕達は、知るよしもなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・まったくアイツは。緊張感がカケラもないのはどういうわけだ。





「ま、そこが恭文君らしいよ。さすがは二代目アースラの切り札って感じかな。随分強くなったしね〜」

「僕はあんなことはしていない」





・・・強くなったとは思うがな。仕事もそうだが、高町家の面々との稽古も、効果は絶大らしい。



トウゴウ先生。小さき古き鉄は、少しずつではありますが、自分の道を歩んでいますよ。

今度こちらへ来る時は、その成果を是非見てやってください。



しかし・・・。





「クロノ君、どうした?」



アースラのモニターに映るあの機械兵器を見ていると、エイミィから声がかかった。

・・・苦い顔を、していたな。



「・・・今後のことを考えていた」

「今後?」





今後、この兵器関連で捜査が行われるとしてだ。・・・面倒なことになるかも知れない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・はやて、フェイト。





「なに?」

「今回のこと、どう思う?」

「なんや、気になるんか」





僕達は、ロストロギア・・・レリックを回収したあと、再び空を飛んでいた。



僕達はこのまま、アースラへの転送ポイントに向かうだけ・・・なんだけど、ちょこっとお話することにした。

だって、色々気になるし。





「まーね。あのおにぎり作ったのとは、仲良くしたいなと思って」





・・・あのAMFは、魔導師が使うフィールド魔法とは違う。そういう状態を、機械的な技術で再現している。



一台欲しいね。ダウンサイズしてジガンスクードに搭載したりしてさ。

あれを大量に作れるんだから、それくらいは・・・。





「・・・ヤスフミ?」

「フェイト、人の軽口にその怖い瞳で返すのはやめて。
・・・ま、実際問題、あれは危険だよね。ガンダ○じゃなくて、ザ○の扱いみたいだし」

「・・・せやな、ワンオフ言う感じやなかった。恐らく、量産は可能・・・やろな」





そうすると・・・大規模な事件ですか? 嫌だ嫌だ。どうして平和に過ごせないのか。





≪高町教導官としては、どうですか?≫

「私は、あのおに・・・アンノウンがロストロギアを狙うように設定されていたのが気になるよ」



おにぎりでいいじゃん。



「いや、いいわけあらへんから」

「とにかく、そのおにぎり・・・じゃなかった」



いや、おにぎりでいいじゃないのさ。なんでフェイトも言い直す。



「だって・・・美味しそうじゃないよ? おにぎりに失礼だよ」

「フェイトちゃんそんな理由かっ!? もっと他に職務的な理由あるやろっ!!」

「あ、なら納得だ」

≪確かにおにぎりに失礼ですね≫

「恭文君もアルトアイゼンも、それで納得しちゃうのっ!?」





とにかく、あの機械はご主人様の欲しいものを取ってくる忠犬ってわけだ。

だからこそ、ロストロギアを狙って出現した。



で、ご主人様はこの場合悪いやつ・・・だよね。善人の所業には見えないや。





「そうだね。多分、高い技術力を持った犯罪者。そういう類で、広域犯罪者の場合・・・危険だから」

「そういうんは対応がめんどいしなぁ」

≪そうですね。その場合、局でも対応出来る部隊がどれほどあるか。
無い場合、人や機材を揃えて動き出せるまで、どれくらいかかるか。そういった問題があります≫



あー、管理局って、縄張り関連がゴタゴタしてるもんね。馬鹿馬鹿しいことに。



「そやなぁ。そうするにしても、事件として成立せぇへんと勝手な捜査や出動も出来へんしなぁ。ま、今回は大丈夫やけど」

「・・・めんどくさ」

「まぁ、そういうものですから・・・。恭文さんには納得できないですよね」

≪あなた、グランド・マスターと同類ですしね≫










命令や状況が許さないと、目の前の悪党一人潰せないってどういうことですか。つか、管理局はどんだけ腰が重いのさ。





ま、いいか。局のことなんてどーでもいーや。僕が守りたいものは・・・一つだしね。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ヤスフミ」

「うん?」





任務を終えて、無事に帰ってきた後。うちで呑気にミッド製のネトゲをやりつつ、魔法教本なんて読んでいた。(放置バザーです)



すると、フェイトが入ってきた。・・・ノックも無しって、どうなんだろ。





「・・・あのね」

「うん?」

「明日、エリオに会いに行くんだ」





・・・ここ1、2年の間に、フェイトが執務官の仕事の中で、保護した男の子がいる。



名は、エリオ・モンディアル。現在6歳。フェイトの保護児童。・・・色々おかしいけどね。





「もしよかったら、一緒に・・・」

「ごめん。明日は、恭也さんと美由希さんに稽古つけてもらう約束してるから・・・」



本当よ? えぇ、今回は。



「・・・そっか」

「ごめん」

「ううん。あ、でもね。エリオも会ってみたいって言ってるから・・・」

「うん、機会があればね」





来ないと思うけど。





「うん、それじゃあ・・・おやすみ」

「うん、おやすみ」





そう言って、フェイトは部屋をでた。表情が少し寂しそうだったのは、気のせいじゃない。



ため息、出る。気が、重くて。会う気・・・しないんだけど。





≪・・・ヤキモチは見苦しいですよ?≫

「うん、僕もそう思う」










・・・そう、僕はヤキモチを妬いている。6歳の子にだ。





あの子がフェイトの会話に出てくるようになってから、フェイトとの時間、取れない。

仕方ないとは分かってる。フェイトが一生懸命だから、応援したいとも思う。だけど・・・辛い。





見苦しいのは分かっていても、イライラする。なんか、ダメだね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・なるほど。





「見苦しいな」

「恭ちゃんっ!?」

「・・・そうですよね」

≪自覚はしていますので、優しさをお願いしたいですね≫





あははは・・・。アルトアイゼンがここまで言うってことは、そうとうか。

でもまぁ・・・12歳だしね。うん、仕方ないか。



朝稽古が終わってから、私の部屋で恭ちゃんと恭文の相談に乗っていた。議題は、ヤキモチ。

確かに、フェイトちゃん休みの日は大抵その子の所に行ってるみたいだしね。そりゃあ恭文としては、面白くないか。





「互いに信頼関係があれば・・・大丈夫なんだが、お前とフェイトちゃんの場合は、違うしな」

「・・・婚約するべきでした」



いや恭文、それはアウトだから。やっていても、現状は変わらないだろうし。



「まぁ・・・なんだ。あまり焦るな」



お、さすが恭ちゃん。既婚者は言うことが違うね。重みが違う。恭文も、顔をあげたし。



「お前もフェイトちゃんもまだまだ子どもだ。結果は、後でいくらでも出てくる」

「・・・そうですか?」



いつもとは違う少し弱気な瞳。・・・なんて言うかさ、フェイトちゃんが羨ましいよ。

こんな一途で真っ直ぐな子に、想われてるんだから。代われるなら、代わりたいよ。



「そうだ。・・・フェイトちゃんが、今やるべきことをやっているなら、お前もそうしてみろ。
そして強くなれ。彼女に何かあった時に、必ず守れるようにな」

「・・・はい」



・・・うん、いつもの恭文に戻った。やっぱり、こうじゃなくちゃね。



「恭也さん、美由希さん、ありがとうございました」

≪お手数おかけしました≫

「いいさ。お前には、忍の一件で面倒をかけているしな」

「そうだよ。硬いこといいっこなし。・・・というか、私はなんにもしてないけどね」



・・・なら、いいかな?



「あ、その代わり、フェイトちゃんがだめなら、私が付き合うよ」



その瞬間、場が固まった。・・・あれ、恭ちゃんは何で頭抱えるの?



「美由希。お前はまた・・・」

「あの、美由希さん。僕はそのつもりはなくてですね・・・」

「私じゃ、だめ?」



顔を近づける。吐息がかかるくらいの距離まで。・・・やっぱ、可愛いな。

私、ショタってわけじゃないんだけど・・・いじめたくなる。



「いや、ダメとかではなくてですね・・・」

「じゃあ、好き?」

「いや、そういう話じゃ・・・恭也さん」

「すまん、俺には無理だ」

≪また、本命以外でフラグを・・・≫











・・・うん、立てられた。だから、これくらいはしたいな。










フェイトちゃんだけが女の子じゃ無いんだって、私が教えてあげるね♪




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・この後のことは、思い出したくありません。





デートに駆り出されたとだけ、言っておく。そして、恭也さんは泣いてました。つい謝ってしまいました。





おかしいなぁ。フェイト本命なのに、なんで現地妻とか名乗り出してるのがいるんだろう。

・・・それも三人も。いや、ちゃんと断っているのに。




















「恭文君、どうしたの?」

「・・・お宅のお姉さんについて、色々ね。なのは、何とかならない?」

「・・・ごめん、私にもどうしようもないの。お母さんは応援してるし、お父さんとお兄ちゃんもダメだし」

「・・・うん、分かってた」





なーんでホテルのロビーのど真ん中で、二人揃って、こんな落ち込みオーラなんだろうね。

いや、原因わかるけど。



さっきも言ってるけど、ハッキリ、フェイトが好きだからと言ってますよ? えぇそれはもうハッキリと。

・・・それなのになんでだろ、わからない。





「ヤスフミ、美由希さんと仲良しだよね」

≪仲良しというか、現地妻3号ですよね≫

「違うわボケっ!!」



だぁぁぁぁぁっ! 思い出したく無かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

なんだよあの三人はっ! つーか何した僕はっ!?



「・・・がんばってね。あの、現地妻とかはどうかと思うんだけど、ヤスフミと美由希さんが本気なら、大丈夫だと思うんだ。
そういうのに年齢は関係無いって言うから」





グサっ!!





「ヤスフミっ!? あの、どうしたのっ!!」

「お願いだからうずくまって泣かないでー!!」



ねぇ、幸せってくるのかな? 今一つ信じられないんだけど。



「・・・なんや、楽しそうやね」

「恭文さん、どうしたですか?」

「いやリイン、聞かんでもわかるやろ」

「そうですね・・・」





聞こえてきたのは、二つの声。涙を拭きながら、そちらを見ると・・・リインとはやてが居た。



二人とも、局の制服姿だったりする。はやては茶色の地上部隊用制服。リインは、青い本局用の制服である。





≪お二人とも、仕事は終わったんですか?≫

「ハイです。・・・恭文さん、泣いちゃだめですよ。せっかくの旅行なのに。」



リインが、僕の方まで来て、頭を撫でてくる。小さい手の感触が、心地いい。



「・・・そうだね。リイン、ありがと」

「はいです♪」





・・・あのおにぎり軍団とのエンゲージから丁度二週間。ミッドの暦だと、今日は新暦71年の4月29日。



僕とフェイトとおまけのなのはは、ゴールデンウィークを利用して、ミッドの北部に遊びに来ている。

温泉の源泉が近いこともあって、観光地になっているのだ。



で、先ほどまでお仕事だったリインとはやてと、宿泊予定のホテルのロビーで待ち合わせしていたのだ。

なお、旅行先がここになったのは、丁度、はやてがここの管轄の部隊で仕事をしているので、それなら・・・というのもある。





「さぁ、楽しい旅行にするですよー!!」

『おー!!』










・・・なぜリインが号令をかけたのかとか、周りの視線を集めているかとかは、気にしないで欲しい。




















・・・と、ここまでのノリで進めばよかった。だけど、そうならなかった。




















「・・・緊急通信?」

『八神一尉、失礼しますっ!!』





画面に現れたのは、単発の陸士部隊の制服を着た男性。



なんか慌ててるね。どったんだろ。





『休暇中すみません。出動をお願いします』

「事件ですか?」

『臨海第8空港で、大規模な火災が発生しました』





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・臨海第8空港。この近くにある空港。

僕とフェイトとなのはが、はやてと合流するまでに、利用した空港である。





その空港で、つい先ほど火災が起こった。それはもう派手に。





だから・・・。




















「・・・ひどい」



空中で、なのはが呟く。うん、ひどいね。

完全に火の海だ。僕達が来たときの面影はない。



「なにか・・・ロストロギアが原因なのかな。魔力反応も出ているそうだし」

「せやな。この広がり方はおかしいで」



同じくバリアジャケット姿のフェイトとはやては、小難しく考えていらっしゃる。さすがは執務官と特別捜査官である。ただ・・・。



「でも、僕には関係ないかな」

「ヤスフミっ!?」

「関係ないもん」





そう、関係ない。僕はただ、理不尽で受け入れられない今ってやつがあるなら、覆すだけだ。細かいとこは知らない。

そしてこれは、その理不尽だ。他人事で済ませるには、ちと距離が近すぎた。

はぁ、友達でも何でもない他人の生き死にってやつに、あれこれ干渉するの、嫌いなんだけどなぁ。



・・・僕には、そんな資格ないし。



ま、そこはいいか。とにかくだ・・・。





「アルト、リイン、いくよっ!!」

≪了解です。覆しましょう、今を≫

「問題ありませんっ! 私達は、それを可能にする古き鉄ですからっ!!」





そうだ。今回はリインも一緒。なら、これくらいは・・・。





「あー、盛り上がってるとこ悪いんやけど、リインはうちと来てな」

≪「「え?」」≫

「うちだけやと、手が足りないんよ。手伝ってもらわんと困るよ」

≪「「えぇっ!?」」≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・アイツと別行動で寂しそうなんは、うちの末っ子、リインフォースU(ツヴァイ)。現在・・・3歳。今年で、4歳。





にも関わらず、男にべったり。いや、そんなやましい関係ちゃうけどな。





そりゃあ・・・分かるよ?

前に言われたみたいに、うちは固定砲台で、マップ兵器専門で、リインが居ても命中補正の強化パーツ扱い。必中持ちちゃうしな。

信頼補正は家族扱いで、隣接すると、命中・回避に+10%や。





せやけど、アイツは違う。

突撃型の前衛に、援護型の中衛。信頼補正は友情やのうて愛情。しかも、相思相愛。命中・回避補正は+15%。

その上、コンビネーションによる合体攻撃(ラブラブ天○拳やのうて、ランページゴース○な?)まである。

それにそれに、切り札はうちやシグナムやヴィータより相性えぇし能力高いしうちらと違うて強化パーツ扱いちゃうし・・・。





・・・なぁ、なんでや?





なんでアイツの方がリインのロードに見えるんやっ!? 全てにおいて負けてるでうちっ! つか、絶望しかないでっ!!





しかも、リインはそれでOKみたいに思うてるし・・・。





絶望したっ! 改善しようのない現状に絶望したっ!!





・・・前衛スキル、鍛えた方がえぇかな?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あのさ、はやては何とかならないの? なんか電波が来たんだけど電波」

「にゃはは・・・。無理だと思う」

「はやて、ヤスフミにヤキモチ妬いてるから・・・」

≪本当に強化パーツ扱いなのが問題ですしね≫





・・・はやてとリインと別れて、三人で現場に向かう。なんだろうね。どーにも辛い。



ま、しゃあないか。分かりにくいしね。





「ヤスフミ、一人で大丈夫?」

「問題ない。アルトも居るし。それに・・・」



そう、僕はリインと同じく、なのは達のグループでは少ない氷結魔法の使い手。(あとはクロノさん)

こういうのには、相性がいいのだ。リインと一緒に、勉強もしてるしね。それに・・・。



「マジックカードに、氷結魔法を大量に仕込んでるしね。結構効果高いのを」

「また、準備がいいというか、なんというか・・・」



魔力の節約も兼ねてるし。これくらいしないと、格上相手はキツいのだ。

一瞬、人生の歩み方を間違えているのではと思うけど、気にしないことにする。



「・・・分かった。でも、無茶したらだめだよ?」

「りょーかい。フェイトも同じくだよ? 新しい水着、まだ見せてもらってないし」

「うん、そうだね。帰って、ちゃんと見せるから」





そこまで言ってフェイトとなのはは、速度を上げて飛んでいった。

二人は内部に突入して、要救助者の救出だ。で、僕は・・・。



救助隊の、突入口の確保と、障害物の破砕。うん、分かりやすくて好きだね。





「アルト」

≪もうすぐです≫










・・・さて、気合い入れますかっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・空港内部はまさに火の海だった。





私達が降り立った時の面影はどこにもない。炎の赤が、全てを染め上げている。

怖い。ジャケットやフィールドの性能を考えれば大丈夫だと、頭では分かっている。だけど、炎の赤が怖い。





・・・この状況に装備も無しで放り出されている人達がいる。助けよう。絶対に。










「レイジングハート」

≪もうすぐです≫










・・・目指すのは、空港の奥、エントランスホール。





サーチの結果、そこに取り残されている人が居る。・・・本当に奥だね。うん、急がないと。





自然と飛行魔法の速度が上がる。そして、通路を抜けてホールに出た。

その瞬間、目に飛び込んできたのは、倒れる女神の像。恐らく、ホールのオブェクト。

そこはいい。問題は、その倒れる方向に・・・人っ!?





私は考えるよりも速く、右手を像へと向けた。同時に、術式を詠唱。そして発動。

発動させたのは、バインド。いくつもの桜色の魔力のリングが、像を縛る。

縛った対象をその空間に固定するタイプのもの。だから、像は倒れながらも、その動きを止めた。





ギリギリだった。つい息が荒くなってしまう。・・・あ、なんだかこっちみて・・・女の子?

青髪のショートカットの子だ。なんだか、元気な印象を受ける。










「間に合った・・・。大丈夫?」





返事はない。・・・仕方ないか。とにかく、ここからだよね。



私はしゃがみながら、女の子に微笑む。安心させるように。





「よく頑張ったね。偉いよ」



私達は、そこから立ち上がる。



「もう大丈夫。ここからは安全なところまで・・・」



女の子に背を向ける。そして、レイジングハートを振るう。

大事なパートナーは、その姿を変えた。金色の音叉のような姿に。

そこから桜色の魔力の翼が生まれる。



「一直線だからっ!!」











レイジングハートを構える。その先が向かうのは天井。





ファイアリングロック・・・物理干渉のロックを解除。

相棒の先に、桜色の環状魔法陣。それに囲まれるように、同じ色の魔力スフィア。





足元には、円形のミッド式魔方陣。カートリッジが2発消費される。

・・・自分が砲撃魔導師でよかった。心から思う。





だって・・・これ以上この子に、怖い思いをさせないで済むからっ!!










「ディバイン・・・!」





さぁやろう。恭文君じゃないけど、私とレイジングハートの力で、今を・・・。





「バスタァァァァァァァッ!!」





覆すっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



もう・・・死んじゃうと思った。だけど、助けられた。





あの人・・・凄かった。





強くて、優しくて、かっこよくて・・・。





だけど、私は・・・。





・・・りたいよ。





強く・・・なりたいよ・・・!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・あの魔王はまた無茶苦茶なことを。なんだよあの光。一瞬バス○ーライフルかと思ったし。





ま、いいか。こっちはこっちで・・・。










≪Icicle Cannon≫

「やってくだけだしねっ!!」





立ちふさがる炎と瓦礫の山目掛けて、左手を向ける。ジガンスクードから、カートリッジを3発消費。

その魔力も加えた上で、手のひらに冷気を内包した青い砲弾が生まれる。だから、こう叫ぶ。





「ファイアっ!!」





その声に応えるように、砲弾は、冷気を秘めた魔力の奔流として放たれた。



それは、間をおかずに瓦礫の山に着弾。

この場に不釣り合いな冷気を撒き散らしながら、瓦礫と炎を吹き飛ばしす。。



そうして出てきたのは、非常口だったもの。そう、瓦礫によって塞がれていたのだ。

とりあえず、今のでカートリッジは終了っと。リロードリロード・・・。



ジガンの真ん中の装甲・・・シャッターが開く。そこから出てきたのは、8発装填可能なリボルバー。

使用したカートリッジは回収。右手の中に落としていく。エコは大事なのだ。

そして、使用済みカートリッジを仕舞ってから、懐から取り出したスピードローダーで素早く再装填。



そんな僕の横を、救助隊の人達がどんどん通りすぎていく。これで、ここは大丈夫・・・かな。



カートリッジのリロードも大丈夫だしね。装填したリボルバーは、そのままジガンの中に収納された。





「しかしさ、アルト」

≪はい?≫

「大変だよね。これ」

≪今頃気付きました?≫

「うん、今頃ね」





ま、たまにはこういうのもいいけどさ。ただ・・・。



てんやわんや過ぎない?





≪そういうものですよ。とにかく、次へ急ぎましょう≫

「うん」










そして、僕は空を舞う。・・・先ほどからこんな感じだ。





突入隊が足止めを食らっていたら、僕が魔法なりマジックカードなりをつかって、迅速に道を作るのだ。

なお、今回は緊急事態。戒めは当然解除である。

まぁ、僕は氷結変換技能持ちだしね。相性は・・・いい。だけど、このペースは不味いかも。





カートリッジは問題無いけど、氷結魔法を入れているカードの枚数が、あとすこしで半分を切る。

魔法だってそうだ。バカスカ使ってたら、僕の魔力だとあっという間にエンプティだ。





ま、のらりくらりといきますか。土壇場で弾切れになったら、目も当てられない。





そんなことを考えながら飛んでいると、次の現場に早々に到着。、

なので、懐からカードを取り出す。・・・お願い。





瞬間、僕の身体を緑色の光が包む。それと同時に、消費していた魔力が復活する。

取り出したのは、マジックカード。その中に入っていたのは・・・回復魔法。それも、シャマルさんのだ。

エンプティから完全回復ってレベルのを仕込むのは、ちょい無理だけど、普通レベルなら問題無くカードに仕込める。





そう、魔法の札は攻撃だけじゃない。これだって、マジックカードの使い道の一つなのだ。

消費した魔力や体力、場合によっては傷を負った場合に備えて、回復魔法のカードも作っていた。

・・・単独戦闘、多いしね。





一人でも、挌上が相手だろうと、ケンカ出来る戦い方ってのが、僕の戦闘理念。

回復・補助の問題は、絶対に外せない。





・・・なんかこれ、MA○でギン○が同じことやってたね。










≪ガーゴイ○でも召喚したいんですか?≫

「そこまで魔力ないよ」










あーでも、もうそろそろ自分でこれくらいの回復魔法は使えるようにならないとなぁ。

来年にはシャマルさん・・・というか、八神家一同引っ越しちゃうしね。

まさかカード無くなる度にシャマルさん頼るわけにはいかないし。





・・・今、それでもいいと言わんばかりのシャマルさんの笑顔が見えたのは気にしないことにする。





とにかく、僕は歩き出した。

とは言え、お願いだから早く増援が来て欲しい。この調子で行って、後2時間もつかどうか・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なのはちゃんとフェイトちゃんは救助活動。恭文は救助隊の突入の手助け。

三人とも、自分の持っているスキルを存分に生かして、頑張ってくれとる。・・・なのはちゃんのバ○ターライフルには驚いたけどな。





そしてうちは・・・イライラしとる。




















「防護隊っ! 燃料タンクに防御シールド張って、絶対引火させないようにっ!!
東側の消火隊は、陣形立て直してっ!!」





うちは指揮官資格持ち。せやから、リインにサポートしてもろうて全体の管制と指示をしとる。



そやけど、なんやこの状況はっ! なんでこないにいっぱいいっぱいなんやっ!?





「はやてちゃん、ダメですっ! 人手が・・・」





そう、人手が足りない。救助する人間も、消火する人間も、指揮を取る人間も、全てや。



現地の部隊だけやと限界はある。せやから、中央本部や近隣の部隊にも応援は頼んだ。せやけど・・・。



うちらが現場に到着してかれこれ1時間経つ。なんでそのどれも来ないんやっ!?





『はやて、聞こえる』

「恭文、どないした?」



若干語気が強うなったんは、気のせいやない。・・・だめやな。冷静にならんと。



『今、指示されたポイントに着いたんだけど、救助隊の分隊長さんが、数人連れだって奥に入ったらしいんだよ』





はぁっ!? うち、そないなこと指示してへんのにっ!!




『要救助者の反応掴んで、飛び出したんだって。援軍待っている余裕、なさそうだったとか』





あぁもうっ! どうしてこうも次から次にっ!!

そこの分隊の編成を空間モニターに出して、確認。



隊長がヴォルツ・スターン・・・。また根っからのレスキュー命のメンバーかい。これ、止めても無駄やな。





「・・・分かった。アンタは追っかけて、その隊長さん手伝ってや」

『いいの?』

「そのつもりやったんやろ?」

『まーね。それじゃあ・・・進展したらまた連絡する』





・・・通信はそこで終わった。つか、マジでひどいでこれ。

事件や事故への対応が遅いとは思うてた。特に地上は、縄張り意識が強いせいか、後手に回りやすいとも思うとった。

いや、本局も50歩100歩やけど。人のことは言えんと思う。



せやけど、これはありえへんやろっ! 恭文やのうてもめんどくさい言うでっ!!





「・・・はやてちゃんっ!!」

「なんや?」

「近隣の部隊の司令官の方が来てくれました」





ようやくか・・・。でも、助かる。後を任せてまえば、うちもリインも動けるしな。



うちは、それまで立っていた装甲車の天井から、地面に飛び降りる。すると・・・その人はやってきた。



佐官用の陸の制服に、鍛えたガタイのいい身体。白神の短髪。まさに経験豊富な局員言う印象を受けた。





「遅くなってすまない。陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ三佐だ」



108・・・。確か、ミッドの西部にある部隊やったな。密輸捜査が中心で、かなり優秀な部隊とか。



「本局特別捜査官の、八神はやて一尉です」



敬礼しつつも挨拶や。こういうんは、大事やしな。・・・状況読んでへんとは言わんで欲しい。



「ナカジマ三佐、早速ですみませんが、あとの指揮をお任せして、よろしいでしょうか」

「あぁ・・・そりゃ構わないが。なんだ、お前さん魔導師か」



頷きつつ、懐から出すのは、十字のペンダント。うちの相棒達や。



「広域型なんです。空から消火の手伝いを・・・」



うちの持っている手札にも、氷結魔法がある。それも広域型。それで一気に氷漬けやっ!!

その時や、通信モニターが開いた。そこに移ってたんは、なのはちゃんやった。



『はやてちゃん、エントランスホールから要救助者一名救出。
名前はスバル・ナカジマ。11歳の女の子。今、西側の救護隊に引き渡した』

「そっか、ありがとな」



・・・ん?



『引き続き、救助活動に入るね』



通信は終わったけど、うちはなんか引っ掛かっていた。・・・ナカジマ?



「ナカジマ・・・」



リインも同じくやな。



「・・・うちの娘だ」

『えぇっ!?』



あ、名字が同じやないかっ! なんでそんなことにっ!?



「休日を利用して、こっちに遊びにくる予定だったんだよ」

「そうでしたか・・・」



ほな・・・ぐずぐずしてる暇はないな。他にも、あそこにはそんな人が沢山取り残されているんやから。



「では、ナカジマ三佐。後の事はお願いします。リイン」

「はいです」

「三佐に状況説明。それが終わったら・・・」





うち・・・は、えぇな。そこまで細かいターゲッティングが必要な状況ちゃうし。ここは・・・。





「それが終わったら、アンタは恭文の手伝いや。二人の切り札で、この状況を覆すんやっ!!」

「・・・はいですっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・それは、本当に一瞬だった。





妹を・・・スバルを探しに、空港内の探索を開始した。





だってあの子、私と違って、魔導師でもなんでもないし・・・。





だけど、それが間違いだった。・・・移動のために使っていた螺旋階段が、崩れ落ちたから。





だけど・・・助けてくれた人が居た。






金色の髪にルビーの瞳。白いマントに黒い杖を持った魔導師の女性。





今、私はその人に抱き抱えられて・・・空港を脱出しようとしている。でもこの人・・・すごく、速い。




















「・・・妹さん、名前は?」

「あ、はい。スバル・ナカジマ、11歳の女の子です。
途中ではぐれてしまって。多分、エントランスホールの方だと思うんですけど・・・」





私がそう言うと、この人あてに通信がかかってきた。・・いや、繋げたままだったんだよね。





『11歳の女の子・・・スバル・ナカジマ。先ほど本局01・高町なのは二等空尉が保護。現在は救護隊が身柄を預かっています』





えっと、つまり・・・。





「無事ってことだね」

「スバル・・・よかった」





身体の力が抜けていくのが分かる。うん、本当によかった。



・・・そして、落ち込む。私、無謀なことしてた。うぅ、だめだな。





「よかったね」



そんな思考を遮ったのは、とても優しい声。そちらを見ると・・・優しく、微笑んでいた。



「あ、はい。ありがとうございます・・・」

「そう言えば、あなた・・・お名前は?」

「・・・陸士訓練生の、ギンガ・ナカジマ。13歳です」





まだまだ未熟です。うぅ、やっぱり反省だよ。『生兵法はケガの元』って、本当だね。



父さん、うちのご先祖様は偉大だよ。今、私は心から思った。





「そっか、未来の同僚だ」

「きょ、恐縮です・・・」

「・・・い・・・んだ」





え?



今、何かを呟いた。なんだろう。



そんな私の気持ちが表情に出ていたのか、女性はまた笑いかけてくれた。





「ごめんね。・・・実は、私の弟と同い年だったから」

「弟さんがいらっしゃるんですか」

「そうだね。弟で、家族で、大事な友達で、仲間」



・・・色々混ざってるんですね。私、少しビックリしました。あ、ということは。



「・・・あの、もしかしてその子も、魔導師なんですか?」

「そうだよ。でも、どうしてそう思ったの?」

「先ほど『仲間』と言っていたので・・・。あ、すみません。立ち入ったことを聞いてしまって」

「ううん、大丈夫だよ」



そう言って、その人はまた微笑む。そして思う。この人は、とても優しい人なんだと。

そして、強い人。こうやって話しながらも、確実に外へと向かって行く。速度は、変わらない。



「・・・じゃあ私達、お姉さん同士なんだね」

「そうなりますね。あの、弟さんって、どんな子なんですか?」

「すごく強い子・・・かな。力じゃなくて心が。それだけじゃなくて、優しくて、思いやりもあって・・・」



・・・本当に弟さんが好きなんだと思った。だって、どこか嬉しそうに話しているから。



「・・・でも」

「でも?」

「いつも無茶ばかりして、見ていてハラハラするんだ。
その上、運が無いのか、偶発的に危険な状況に巻き込まれることも多いし」

「た、大変なんですね・・・」










・・・救助隊の下に送ってもらうまで、弟や妹話で盛り上がった。





結局名前は聞きそびれたんだけど・・・私と同い年の子。どんな感じなんだろう。





話を聞いていると、本当に運の無い子に聞こえたけど・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「余計な・・・」



左手にはカードが三枚。それを眼前へと・・・。



「お世話だよっ!!」





投げ放つっ!! 



そして、そのカードが10数メートルほど飛ぶと、凍れる嵐がカードを中心に生まれた。僕は当然射程外に下がっている。



その嵐が納まると、僕が居る通路の炎は、あっという間に鎮火した。





≪いきなりどうしたんですか≫

「いや、妙な電波を拾った」





なんて言いながらも前に進む。僕は現在先行させてもらっている。突撃と突破は、僕の専門だしね。

そしてそれだけじゃない。後からくる救助隊の進路確保のために、この行動である。



なんて言ってると、また瓦礫の壁である。つか、ホントに隊長さんとやらはどうやって進んだ? 真面目に壁だらけだし。



とにかく僕は・・・アルト。





≪問題ありません≫

「なら、ぶっとばしていくよっ!!」





というわけで・・・僕は、左手を瓦礫にかざす。というか、手を当てる。





≪Break Impulse≫





威力は押さえ目。それでも、破壊には充分。



当てられた手から、瓦礫の壁全体に固有振動が流され・・・吹き飛んだ。



これは、クロノさんから教わった接触型破砕魔法。

対象物にデバイスを当て、それに衝撃を加える破砕振動を割り出し、その振動を送り込む攻撃。

普通なら振動数を割り出すのに少し時間がかかるんだけど、僕の術式瞬間詠唱・処理能力があれば、それを含めて発動まで一瞬である。



で、それはともかくですよ・・・。





「・・・で、またですか」



眼前・・・というか、遠目に見えるのは赤。なにが原因かなんて、考えるまでもない。



≪ですが、あと少しです。ここが踏ん張りどころですよ≫

「うぃさっ!!」




















・・・そうして再び炎と瓦礫に包まれた道を走る。カードで適度に鎮火活動をしながら。

くそ、フィールドの上からでも熱いって、どういうことだよ。





先行した隊長さん達、相当ハイスピードで進んでいるな。本当に最低限な破砕活動で道を確保してる。

おかげで、こっちは苦労してるよ。爆発の振動やらなんやらで、道が見事に塞がっているし。





・・・あれ?





声が聞こえる。人の声だ。数人の男の声。だけど・・・見えないや。





だって、道が瓦礫と炎で塞がっている。声って言っても、本当に微か。これは・・・!!




















「アルト」

≪この奥ですね≫



やっとか・・・。



「通信は?」

≪やっています。・・・通信、繋がりました≫



アルト、ナイスっ!!



「もしもし、聞こえますかっ!?」

『・・・あぁ、聞こえる。頼む、助けてくれっ! 隊長が・・・要救助者をかばって・・・!!』



やっぱりかっ! つか、ミイラ取りがミイラになってどうするのさっ!? あぁもうっ!!



「この障害物の向こう・・・ですよね」

『そうだ。ただ、こちらのツールではこれの除去が出来ない。完全に閉じ込められた・・・』



・・・救助隊のツールやスキルでもだめかい。この壁、相当分厚いってことか。



≪サーチしましたが、残念ながら、現状の私達では無理です≫

「そこまで?」

≪そこまで・・・ですね。いえ、一つだけありますか。ただし、三つほど条件付きです≫





・・・確かに『アレ』ならいける。条件も、二つは満たせる。だけど後一つが・・・。



そんな時、声が聞こえた。





「恭文さんっ!!」



振り替えると、そこに居た。この状況を覆すジョーカーが。



「リインっ!!」





後ろを見ると・・・あ、救助隊の人達だ。追っかけてきたのか。



ご都合主義ではあるけど、いいタイミングだよ。これなら・・・行けるっ!!





≪リインさん、早速ですが≫

「分かってますっ! リインは、どうすればいいですかっ!?」



阿吽で通じるって素晴らしいよね。分かりやすくて助かる。

だから、僕は目の前の瓦礫と炎で構成された壁を、左の人差し指で指す。



「あれを壊すのを手伝ってっ!!」

「了解です。・・・ユニゾン・インっ!!」











・・・その瞬間、僕とリインを青い光が包んだ。





その光の中で、僕とリインは一つになる。そして、古き鉄は本当の姿を表す。





バリアジャケットの上着部分が消えて、黒のインナーのみになる。

そのインナーが、リインの甲冑の上半身部分と同デザインに変化する。





腰にも、リインが身につけていたフードが装着される。ただし、両方とも、白だった部分は青へと変わっている。

僕のブーツも、リインと同じものになる。こっちの色は黒だ。





ジーンズ生地風味のロングパンツもが、その色合いを少しだけ明るい色に変える。

左手のジガンスクードも同じ。鈍い銀色から、明るい白銀色へと、姿を変えた。





そして最後に、僕の髪と瞳がそれぞれ色調を変えた空色になる。





全ての変化を終えて、僕達を包んでいた青い光が弾ける。散った光は雪となり、僕達の周りを舞う。





僕達の周りの荒れ狂う炎も、その少しの変化で全てが消え去った。





・・・これが、本当の古き鉄の姿。僕とリインのユニゾン形態っ!!










「・・・今すぐ障害物から思いっきり離れて、防御魔法を張って下さい。全力で、思いっきり硬いのを」

『え?』

「この障害物を、破壊します」

『・・・わかったっ! 頼むっ!!』





・・・リイン。





【・・・大丈夫です。いけますっ!!】

「そっか、なら安心だ」



腰の鞘に収めていたアルトを抜く。



「アルトっ!!」



その声に、アルトは応えてくれた。



≪High Blade Mode≫










アルトは青い光に包まれ、姿を変える。

刀身と柄は、通常時の倍の長さ。そして、刀身はその厚みと幅を増やしている。

重さも同じく。見合う形で・・・そこそこ重くなった。言うなれば大太刀だ。





これが、アルトの形状変換。ハイブレードモード。





通常時より高い出力と質量で、敵を一刀両断にする形態。





まず、一つめの条件、この形態での攻撃力アップはクリア。





続けて、ジガンスクードから音がする。カートリッジのロード音だ。

使用する数は、8発。つまり、全弾。





これが第2の条件。8発ものカートリッジの連続使用は結構くるけど、大丈夫。だって・・・。










【恭文さん、アルトアイゼン、行くですよっ!!】

≪さぁ、今を覆しますよっ!!≫

「人のセリフは取らないで欲しいんだけどねっ!!」





最後の条件・・・。リインも含めた三人で戦うというのは、もう満たされているから。



・・・大丈夫、怖くなんてない。身体の奥から、力が溢れてくる。



だから、僕も遠慮なく切り札を切れるっ!!





≪Starlight Blade≫





周囲の魔力が、アルトの刀身に降り注ぐ。そう、降り注ぐのだ。その姿を、青い流星に変えて。



そうして生まれる。辺りの魔力だけじゃ足りないから、僕の魔力、リインの魔力、カートリッジ8発分の魔力を加えて。



古き鉄をその軸として、総てを斬り裂く星の光の刃が。



あの時、リインとのユニゾン能力と同じく、あの人からもらった力。



不可能を超え、今を覆す、僕達の最高の切り札。ここで使わなくて・・・どうするっ!!





「いくよっ! リイン、アルトっ!!」

≪【はいっ!!】≫










刀身を青く染めた大太刀アルトを両手でしっかりと持って・・・飛び出すっ!!





狙うただ一つ。あとは、斬るだけ、だからっ!!










【「スタァァァライトッ!」】










アルトを上段から、真一文字に、立ちはだかる壁に向かって・・・打ち込むっ!!










【「ブレェェェドォォォォォォッ!!」】










星の光の刃は、まるでバターでも斬っているかのように、手応えなく壁を斬った。そして・・・。





斬撃から生まれた青い魔力の本流が、立ちはだかる壁を吹き飛ばした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・もしもし、はやて?」

『はいな。どうやった?』

「要救助者『二名』救出完了。今、救護隊に引き渡した。二名とも、命の危険は避けられそうだって」





いや、ひどい状態だったけどね。腕やら足がひん曲がってたし。



なんで元の救助者より、ミイラになった人の方が大怪我してるのか・・・。





『そっか、ならよかった。で、自分は大丈夫か? スターライト使ったやろ』

「よく分かったね」

『デカイ魔力反応捕まえたからな。またシャマルが心配するで? つか、フェイトちゃんが心配しとった』

「大丈夫。さっき連絡しといたから」





・・・実を言うと、僕のスターライトはシャマルさんやフェイト達によって、禁術にされてるのだ。



集束系の大出力攻撃は、身体への負担が大きい。特に、僕は体格が小さいしね。



あの横馬みたいにしっかりと成長していないうちは、安易に使うなと言われているのだ。

というか、単独で使うと、検査入院させられそうになる。



ただ・・・。





【リインがサポートしましたから、そこは大丈夫です】





リインがいる場合は、遠慮なく使ってよしと言われているのだ。

ユニゾンして、サポートしてくれれば、かなり負担も減るしね。



あぁ、早く身長・・・というか、体格大きくならないかな?

単独で使うと、体力的にエンプティになるのは、キツいってこれ。





『そっか。なら安心やな。ほな、悪いんやけど、もうひとがんばりしてくれるか?
増援も続々到着しとるから、もう少しだけ』



お、僕達が悪戦苦闘している間にそんなことに。全く、今頃来ても遅いってーの。

ま、いいや。そういうことなら・・・。



≪マスター、リインさん、どうします?≫

「当然、頑張るに決まってるでしょ」

【やるですよっ!!】





(その2に続く)


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