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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのじゅうさん 『ありえないことなんて、ありえない 見えてきた真実の片鱗・・・編』



古鉄≪さて・・・ラッキースケベから始まったさざなみ寮編、次は何が起こるのか楽しみですね。みなさんおはこんばんちわちわ。古き鉄・アルトアイゼンです≫

ゆうひ「ども。椎名ゆうひです。なお、アクセントは『夕日』のあれやのうて、『裕子』とかそんな感じです。ひがちょお上がるんですよ」

古鉄≪・・・いきなりですね≫

ゆうひ「いや、こういうの大事やろ? ・・・さて、うちと恭文君がいかにひと夏のアバンチュールを過ごしたかっちゅう話やけど」

古鉄≪全然違います。というより、あなたは普通にセクハラしてきただけじゃないですか≫

ゆうひ「いやいや、それは真雪さんやからな? まぁ、とにかく・・・幕間そのじゅうさん、どうぞー」

古鉄≪最初からクライマックスでいきましょう。えぇ、きっとそのはずです≫




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのじゅうさん 『ありえないことなんて、ありえない 見えてきた真実の片鱗・・・編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ゆうひさん」

「なんや?」

「なぜ、僕達は手を繋いでいるのでしょうか。それも・・・恋人繋ぎ」





片手に買い物袋を持って、商店街を歩きながら・・・そんな疑問をぶつけてみる。時刻は夕方になろうとしているくらい。もうちょっとで綺麗な夕日が見られるだろう。



いや、別の『ゆうひ』なら隣に居るけど。





「ノンノン。うちの『ゆうひ』のアクセントは『夕日』ちゃうよ? 『優子』とかと同じや」

「いや、それは分かってますから。ちゃんと分かってますから」

「あ、つーことはあれやな。うちの美しさは夕日の輝きに負けんくらい綺麗と言いたいんか。またロマンチックな口説き方をするなぁ〜」



からかうように言って来たので・・・目を逸らして、ため息を吐いてやった。

ゆうひさん、自意識過剰って知ってます?



「自分失礼な子やなっ! そんなんやと女の子にモテへんよっ!?」

「自分でもそう思いますよっ! つーか、なんでこの繋ぎ方なのかを聞きたいんですけどっ!!」

「そんなん、男と女が二人で歩くときはこれが基本やからに決まってるやろ」










そんな基本は存在しない。間違いなく僕はそう思った。というより、男がそれを基本にしたらきっと色々問題だろう。





後日、ものは試しと・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトにこれをしてみた。二人で久々のデートというか、ウィンドウショッピングをしている時に・・・そっと。




すると、当然びっくりされた。










「あの・・・ヤスフミ?」

「・・・だめ?」

「だめじゃ、ないよ。でも、どうしたのかな」

「ほら、この間まで僕、バイトしてたじゃない?」



フェイトが頷く。旅行中の話だから、直接は知らないけど一応知ってる。

で、簡単に説明した。その時知り合った人に、これは男の子と女の子が二人っきりで歩く時の基本だと。



「あ、そういうことなんだね」

「うん、そういうこと」



どうやら納得してくれたらしい。・・・うし、なんだか今日はいけそうな気がする。



「私で予行練習・・・ってことかな。確かに、いきなりこれは緊張しちゃうしね」



へ?



「ね、誰とこんな風に手を繋ぎたいの? やっぱりすずかかな。あ、もしかしてフィアッセさんとか」










全然いけそうじゃなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、凄まじくヒドイ勘違いだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・という感じで、優しく微笑まれながらまたまた応援されて、号泣した。うん、思いっきり泣いた。





でも、手は離さなかった。うん、離さなかったよ? だって・・・ねぇ、あの柔らかさと温もりは手放せませんさ。










「・・・まぁ、そんな未来予想図は置いとくとしてや」

「だからどうして考えてる事が分かるっ!?」

「そないなこと気にしたらあかんよ。というか、フィアッセとこれ何回かやったって聞いとるけど?」



そう言われて、固まった。た、確かに・・・事件が解決してから1ヶ月間ツアーに付き合って、その時にあの・・・何回かこういう繋ぎ方をした。

皆から『恋人に見える』とかって冷やかされまくったけど。うぅ、だめって言うとフィアッセさんが悲しそうな顔するから、何にも言えなくなるんだよ。



「まぁ、あの子はちょお子どもな所があるからなぁ。特にスキンシップがちょお大胆なんよ。いや、イギリスやと普通なんやけどな。
とにかく、うちが練習相手になってあげるから、ここで慣れといたた方がえぇって」

「なんでフィアッセさんと将来的にくっつく事が決定っ!? 僕本命居るんですけどっ!!」

「あぁ、フェイトちゃんやっけ?」



・・・なんで知ってるっ!?



「フィアッセからちょお聞いてたし、自分も昨日名前出してたやろ?」



そ、そういえば・・・って、ちがーうっ! 知ってるならそんなこと言うなー!!

だけど、僕の疑問はゆうひさんにとっては些細なものだったらしい。本当にあっけらかんとにこにこしながら言葉が続いたから。



「うちとしては、やっぱり友達であるフィアッセの応援するんが普通やろ。言うなれば、フェイトちゃんはフィアッセの恋敵なんやから」

「そ、そう言われると・・・納得するしかないですけど」

「というわけで、うちとひと夏のアバンチュールや。大丈夫、フィアッセには内緒に」

「それは何一つ納得出来んわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










こんなことがありつつも、少しずつ・・・本当に少しずつ、日は落ちていく。





もう、街は夕暮れの風景になっていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二日目・・・ゆうひさんと別な意味でどきどきな買出しとお散歩を終えてから、夕飯の支度を終えてみんなでご飯を食べていると、ふと声をかけられた。





僕はその人の方を向く。そしてその人は、話し出した。










「・・・そういやさ、恭文はこの中で誰が好みなわけ?」





真雪さんからそんなことを言われた。・・・うん、分かった。



なので、僕は当然のようにメインディッシュのゴーヤチャンプルーに手をつけるわけですよ。・・・うん、美味しく出来た。この味、ちゃんと覚えてフェイトに食べさせてあげようっと。





「おーいっ! さっそく無視するなー!!」

「なぁ、真雪。食事中にそんな話する方が悪いだろ。というか、それとこれと何の関係が」

「いや、あるだろ。昨日あれだけイベント起こしたんだからよ、きっとお目当ての子の一人くらい」



頭を抱えた。そして、謝る。とにかく謝る。湧き上がるように記憶の奥底から修復されていく映像を必死で押し込める。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。



「・・・いや、なんつうか悪かったわ。なぁ、頼むから頭抱えるのやめてくれよ。
つーかさ、別にいいじゃん。あんたはまだ子どもで、ゆうひやあたしらは大人。それなら、見れるうちに見ておけば」

「見たらフラグ立つじゃないですかっ! そして本命居るって言ってるのに『愛さえあれば年齢も本命が居るのも関係ない』とか言われるんですよっ!?」

「一体なんの話っ!? つーか、小学生に裸見られてフラグ立つ成人女性は居ないからなっ!!」



そっか、普通は居ないんだよね。なら、あの人はなんなんだろう。世界の七不思議のひとつに入れてもいいんじゃないかと思う。



「・・・・・・まさか、恭文」

「あぁ、やっぱりそうだったんだ。いや、エイミィさんはなんかあったんじゃないかってずっと思ってたんだけど」



・・・あ、しまった。なんか美由希さんとエイミィさんが食いついてきた。や・・・やばい、話を逸らそう。うん、逸らそう逸らそう。



「と、とにかく・・・僕はあの・・・本命がいますので」

「なるほど、本命が居るのにゆうひ達に手を出そうとしたんだね。真雪、美緒、どう思う?」

「さいてーなのだ」

「あれか? 現地妻とか作りたいって願望持ってるのか?」





また頭を抱える。・・・落ち着け。今はシャマルさんは仕事で、すずかさんはアリサさんと一緒に海外でバカンスだ。問題はない。全く無い。



そ、そうだ。現地妻だなんて・・・そんなの幻覚だよ。最近なんかフィアッセさんが『婚約者と真・現地妻・・・どっちがいい? 私は、やっぱり婚約者がいいんだよね〜』とかってメール送ってきたけど、あれだって気のせいなんだ。





「恭文・・・どーしたの? ねね、みゆきち。恭文がなんだか過去のトラウマに苛まれてる感じで落ち込んでるんだけど、どうして?」

「・・・恭文、現地妻居るの。1号と2号が」

『はぁっ!?』

「まぁ、一種のファンクラブ的な感じで、その人達が悪乗りして現地妻ーって名乗ってるだけなんだ。
恭文は本命一筋だから、実際はいかがわしい事は0なんだけど・・・本人、相当気にしちゃってて」



うぅ・・・フェイトになんか応援されるし、どうすりゃいいの、あの人達。いや、嬉しくないわけじゃないんだけど、本命居るって何回か言ってるのにー。



「まぁ・・・アレだ。うん、あたしらが悪かったよ。ほら、飯食え。もうじゃんじゃん食っていいんだぞ? 洗い物は全部お前がやるんだからな」

「いや、真雪。それは意味がないだろ」










とりあえず・・・ゴーヤチャンプルーをまた一口。・・・あぁ、程よいさっぱりとした苦味と、たまごのふわふわと甘みがまた・・・いいなぁ。





よし、頑張ろう。とりあえず・・・フラグを一個も立てずにフェイトに会えるように頑張ろう。あと、あの5歳児は将来頭と影が薄くなってしまえ(八つ当たりと言う意見はスルーします)。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、食事が終わって洗い物。あ、那美さんも手伝ってくれてるので、美由希さんも入れて四人だと早い早い。





エイミィさんは知佳さんと耕介さんと一緒に、隣で明日の朝食の下ごしらえ中である。・・・うむぅ、ああしてると花嫁修業に見えるよね。エイミィさんにとっては、いい機会なのか。





なんて考えながらも・・・皿を水で濯いで、綺麗に拭いて・・・よし。これで終わりっと。さすがに10人分の食事やら調理器具やらの洗浄となると結構大変だけど、人出があるというのと、翠屋のかき入れ時に比べればまだまだである。










「・・・久遠〜」





洗い物が終わって、リビングの隅に居る久遠に呼びかける。でも・・・とことこと走り去って行った。うぅ、やっぱり嫌われてる・・・。



まぁ、ご主人様の裸を見た身だしなぁ。仕方ないと言えば仕方ないのか。





「・・・あ、あのね。恭文君」

「はい?」

「昨日のことは、本当に気にしなくて大丈夫だからね? 薫ちゃんもキツイ事言ってはいたけど、そこまで怒ったりはしてないから。ゆうひさんもそう言ってたでしょ?」



那美さんが申し訳なさそうな顔でそんな事を言ってくる。・・・ど、どう答えようかこれは。普通に『気にしてません』は男としてだめな感じがするし。



「ありがとうございます。でも、気には・・・しますよ、やっぱり。だって、恋人でもなんでもない人の裸、見ちゃったわけですし」

「恭文君・・・」



・・・シャマルさんの一件で無茶苦茶反省したから、ここは本当にそう思う。リインは・・・まぁ、友達とかとはまた違う感じだからいいんだけど。



「・・・なるほど、つまり責任取って三人と付き合おうと言うわけか。聞いたかリスティ? アイツ、やっぱりプレイボーイだよ。しかも、神咲姉と那美も居るから姉妹丼だぞ姉妹丼」

「それだけじゃなくて、ゆうひもだよ? 真雪、これはなかなかすごいことに」



瞬間的にリビングのソファーのクッションを二つ掴んで、いつの間にか入り口でにやにやしてたリスティさんと真雪さんに向かって全力で投擲したのはきっと罪じゃない。

なお、ドアが閉められて投擲は失敗に終わった。・・・くそ、運のいい奴らめ。



「まぁ、アレだ。君もあんまり連中に対して遠慮とかしなくていいからな? そんなことしてると、取って食われちまうから。・・・ようするに、からかわれまくるってことだな」



耕介さんが、下ごしらえの監督をしながらそう言ってきた。それも、結構真剣な顔で。



「分かりました。・・・遠慮なく弄り倒します。とりあえず、二人の部屋にバルサンを投げ込んで」

「いや、そんな全力で抗戦姿勢を示さなくても・・・というより、それはマジに戦争になるからやめてくれないかっ!?」

「すみません、耕介さん。恭文くんは結構好戦的なところがありまして・・・」





とりあえず、閉められたドアの前まで行き、投擲したクッションを回収する。で、一応破れとかが無いかチェック。・・・よし、オーケー。

それから、ソファーにそれを戻そうとした時、電話が鳴った。それは、リビングの入り口横の備え付けの電話。

僕はソファーを左手で担いで・・・じゃなかった、クッションでした。



とにかく、右手で受話器を取る。だって、1番近かったから。





『もしもし。そちらに滞在中の神咲薫さんと那美さんに電話を繋いでいただきたいのですが』

「・・・失礼ですが、どちら様でしょうか」

『とにかく、早く電話を繋いでいただけませんか? 急ぎの用事ですので』



・・・どうやら、急いでいるのは本当らしい。ただ、これで繋げと言うのはいささか無理な相談だ。



「それ、本気で言ってます? ・・・あなた、今の今まで自分が何者かすら名乗ってないじゃないですか。そんな人間に電話を繋げるわけがないでしょ」

『・・・確かにそうですね、これは失礼しました。私、海鳴警察署勤務の田崎と言います。
神咲薫さんと神咲那美さんに少しお話したいことがありまして、お電話させていただきました』



声のトーンが落ち着いた物に戻った。・・・怪しい感じは今のところ感じない。どうやら、最初のは本当に慌ててたかららしい。

とりあえず、これ以上この電話を僕だけで処理する理由は0と判断して、近くに居る那美さんに電話を渡す事にした。



「分かりました。少しお待ちください」

『助かります』



僕は受話器を耳から外す。そして、右手で通話口を塞ぐ。



「那美さん、ちょっと」

「あ、うん」



僕に呼ばれて、那美さんがこっちに来る。そして、小声で話を始めた。



「・・・海鳴警察署の田崎さんって、分かります?」

「・・・・・・うん、分かるよ。その人から電話?」

「はい。那美さんと薫さんに話したい事があるって」

「分かった。まだ電話繋がってるよね? 変わってくれるかな」



僕はうなづいて、那美さんに受話器を渡す。・・・那美さんはそのまま話し始めた。ただ、ちょっと気になったのが・・・さっきまでの温和な表情じゃなくて、どこか真剣な顔で。

警察・・・うーん、あの二人がそんなところにご厄介になるような人物とは思えないし・・・あぁ、やめやめ。妙なかんぐり禁止。なにか事情があるからかも知れないしさ。



「恭文くん」

「ほい?」

「本当に、気にしなくていいからね? お姉ちゃんもリスティも、恭文くんのこと気に入ってるみたいだから、ついからかいたくなるんだよ」



知佳さんが、優しくそう言ってきた。なんというか・・・微笑みながら。



「・・・はい、ありがとうございます」

「うん」










まぁ・・・あの素敵な笑みの前では、こうとしか返せないのですよ。それに、敵意とかそういうのは感じないから、まぁ、いいかなと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そして、夜の11時になろうかという時間。僕はこっそりとさざなみ寮を出て、外に居た。理由は、夜の鍛錬。





美由希さんは美緒さんに抱き枕にされて動けなくなっていたので、一人で鍛錬する。メニューは、鋼糸は飛針の扱い。

現在、恭也さんから教えられて半年以上が経過。とりあえず、命中率云々はともかく、自分を縛ったりすることはなくなった。

それがとても大きな進歩だと、恭也さんや士郎さん、美由希さんに泣かれたのは、なんかムカついたけど。





・・・まぁ、手伝いの間はお休みの予定ではあったんだけど、なんか落ち着かなくて。日々の週間と言うのはちょっと恐ろしいなと、思う今日この頃である。











「・・・アルト」

≪はい≫





胸の中にこみ上げるのは、感動の嵐。そう、僕は夜中に林の中で一人感動していた。



眼前には十個の的代わりの缶。それら全てに穴が開いていた。





「飛針、全部当たった・・・」

≪おめでとうございます、大きな一歩ですよ。これは≫

「うん・・・!!」










とにかく、いつもの裏手の練習場で鍛錬を終えると、既に時間は午前0時近く。ぶっちゃけ、僕みたいな年齢の子が居ていい時間じゃない。






時間こそ短めだけど、結構熱を入れてしまった。もっと言うと、すっごい動いてしまった。うぅ、明日も早いのにこれは反省だよ。

でも、最近ようやく投擲が当たるようになってきたから、楽しくて仕方ない。

やり過ぎはいけないと分かりつつ、ついつい・・・という感じである。










”・・・こんな時間にうろついているのを見つかったら、マズイですよね”

”僕、子どもだしね”





なんて話しながらさざなみ寮を目指す。深夜の静かで、涼しい空気を感じながら、夜空を見る。



・・・あ、星・・・綺麗だなぁ。





”そう言えばさ、フェイトからメール来たのよ”

”あぁ、旅行先からですよね。なんて書いてたんですか?”

”すっごく楽しい・・・だってさ。で、星空のスクリーンショットが入っててさ、一緒に見れたらいいのにーって”





旅行、誘われてたんだけど、断ったからなぁ。・・・多分、居てもあんまり楽しい顔、出来なかっただろうし。





”でも、いずれは関わらないとダメですよ?”

”分かってますよ。・・・でも、今は嫌だ。今は無理”

”全く・・・あなたという人は。そう言えば、リンディさんからもメール来てましたよね”



僕はアルトの言葉に頷く。リンディさんからもメールが来ていた。なお、ミッドの方で会議続きで、家を二週間ほど留守にしております。フェイトや旅行にくっついていったアルフさんと同じくだね。

なお、メールの内容は・・・アルバイトを頑張ってというのがひとつ。あと、それが終わったら、本格的に局入りを考えてみないかというものだった。



”まぁ、こっちは即返事送ったけどね。局入りは無理だって”

”やっぱり、引っかかってます?”

”うん。僕さ、やっぱり歯車にはなれないみたい”



あれから数ヶ月。クロノさんやヴェロッサさんが縁で、色んな仕事場に行くようになった。まぁ、鉄火場の手伝いって感じ? 地上部隊だったり、本局の航行艦だったり。

でも、そうして見て思う。局員は、いいかなと。管轄争いや縄張り意識なんてもののために取りこぼすこともあって、それでもそんな意地を張って・・・どうにも、あの中に入りたいとは思えない。



”でね、これまた即で返事が返ってきたのよ。・・・気持ちは分かるけど、そのやるせなさは必ず変えていける。
だから、そのためにも信頼出来る上司や仲間を見つけて、その人達に自分を預けてみないかって”



今、組織は僕のような人材を本当に必要としている。管理局という次元世界を預かる組織をより良くしていく事は、世界を良くしていく事にも少しだけかも知れないけど、繋がる。

きっとそれは、僕の守りたいものを守ることにも繋がっていくはずだから、自分やクロノさん、フェイト達と同じ道を行き、力を貸してくれないかと、そう続けられていた。



”・・・まぁ、正論ですよね。組織の中で生きる・・・いや、社会で生きるのであれば、それはある意味前提です。
あなただけの話ではなく、きっとみんなそうなんですよ。あなたが最近居心地がいいと言いまくってる警防だって、同じことです”

”そういうもんですか”

”そういうものです”



なら、預けられるかどうか・・・が、前提なんだよね。そう考えると、答えはノーかな。

僕はやっぱり、あの組織には自分は預けられない。



”最強で、最悪・・・か”



香港国際警防隊は、そう呼ばれている。法を守るために法を破り、悪を砕くために誰よりも悪になる。それが、最強で最悪の意味。非合法もいいところの武闘派集団。

ここ1年の間・・・月に1回くらいのペースで、香港に行く。そうして、実弾訓練や弓華さんや美沙斗さんと組み手をさせてもらう。まぁ、軽く傷が出来たりもするけど・・・それでも楽しい。普通に事務所で隊員の人達と雑談したりもするし。



”きっと、認められないよね”

”認めると思いますか?”



歩きながら、首を横に振る。多分、認められない。僕のなりたい自分と、行きたい道は、少なくとも管理局という組織の中では、認められない。



”組織が必要とするのは、言い方は悪いですがその色に染まった人間です。染まり具合は人それぞれとしても、定めたルールと動き方に順じた行動が取れる人間が欲しいんです。
それにどんな理由があろうと逆らい、従えない人間は、その資質や人望、その他諸々を問わず・・・必要とされません。されるわけがありません”

”でも、先生はそれでもそのルールと動き方に逆らった。そんなので取りこぼすなんて、納得できないから。組織のルールを変える前に、自分の剣で目の前の現実を変えたかった”

”はい。だから・・・グランド・マスターは、認められませんでした。その功績や人柄、個人としての評価はともかく、管理局という組織の人間としては、あの人は失格もいいところです。
実際、上層部の中でも古株の人間にはグランド・マスターを相当嫌っている人間も居ます。組織の規律を乱し、その評判を著しく下げる『管理局始まって以来の恥部』・・・と”



つまり、先生は英雄ともてはやされるのと同時に、組織・・・社会に生きる人間としては不適格だってこと。まぁ、最近そういうのがよく分かってきた。

12歳ですから。それは将来のことも色々考えたりするのですよ。



”きっとリンディさんもフェイトさんも、あなたをそんな風にしたくないんですよ。一人の社会人として、全て・・・というのは無理でも、7割くらいの人間には認められて、それだけの人間が正しいと言う道を進んで欲しい。
大事な家族に、不適格の烙印など押されたくない。そう思っているんです。だから、自分達と同じ局員としての道を歩いて欲しいと思っている。就職先と考えるなら、局は福利厚生もしっかりしてますし、魔導師であれば出世の道だって開ける。悪い選択ではありませんから”

”だろうね。・・・アルトは、どう思う?”

”あなた、それを今更聞くんですか?”



どこか呆れた声で行って来た。・・・というか、器用にため息までつくし。



”私の進むべき・・・いいえ、進みたいと思う道は、私の存在の在り方は、私の名が既に指し示しています。その道を私として突き進む事が、私のプライドです。・・・あなただって、そうでしょ?”

”・・・うん、同じだね”





僕も、ルールを変える前に、今目の前の消えそうな何かを守りたい。変えている間に消えるなんて、認められない。組織のためになんて、規則や理屈のためになんて、戦えない。

目指すところはきっと、最強で最悪。そしてその道は、先生と同じ道。・・・不思議なもんだね。

社会不適格者って言われても、僕は先生の事を先生だって思ってるし、好きな気持ちも変わらない。



結局僕も、古ぼけた時代遅れの鉄だってことですよ。





”あはは・・・こりゃ、今はともかく遠かれ遅かれ揉めそうだね。いつまで嘱託やってるんだーってさ”

”覚悟は決めておきましょうか。私達二人、揃って社会不適格者の道を歩くことになるでしょうから”

”だね”





そうして歩きながら・・・夜空を見ている。



夏の澄んだ空気のおかげなのか、それとも僕の居る場所が割り合い郊外に近いせいなのかは知らないけど、星は、輝いている。輝いて、闇の世界を照らしている。





”・・・このバイトが終わったら、美由希さんと一緒に香港、行ってこようかな。予定より少し早くはあるけどさ”

”また美沙斗さんに突き技を仕込まれそうですね”

”多分、仕込まれるね”





それだけ言葉を交わして、会話は途切れた。それから数分後、僕はとある廃ビルに通りがかった。



歩を進めつつ、それを見ながら少し思い出す。・・・なんでも、工事途中で受け持ち会社が倒産してそのままになったとか。

それも、なのはが小学校に入学する前から。権利関係やらがややこしくて、今でも所有地問題で揺れてるらしい。

だから、外見もなんかそれっぽくて、絶対に入ってはいけないと大人が注意してくる場所になっている。



あー、それで幽霊が出るとかなんとか。なのはとはやてが言ってたのを、フェイトが怯えながら聞いてたから、よく覚えてる。とにかくそんな廃ビルから・・・悲鳴が聞こえた。



これ・・・女の子?





「アルト」

≪中から妙な反応を感じます。どうします?≫

「とりあえず・・・行きますか」



そのまま敷地内に突入。すると、廃ビルの入り口から女の子が飛び出してきた。で、僕にぶつかった。



「きゃっ!!」



女の子は転ぶ。・・・栗色ショートカットで、メガネをかけて、赤いスカートに白のシャツ。そして・・・リュック式のカバン。だけど、おかしい。服が・・・すすけて汚れている。

なにより、こんな時間に女の子ってのがもっとおかしい。僕より年下だよ?



「あの・・・大丈夫?」

「ひ・・・!!」



なんか怯えた様子で後ずさりして・・・僕はしゃがんで、女の子に目線を合わせる。



「・・・あの、僕・・・なにかしたかな」

「あ、いえ・・・あの、ごめんなさい。あの・・・あの・・・」



女の子が僕にしがみついてきた。そして、そのまま叫ぶ。



「助けてくださいっ!!」



その瞬間、僕の前から白いもやみたいなものが迫ってきた。僕は、女の子を抱えたまま右に飛ぶ。飛んで・・・着地。

白いもやはそのまま地面に衝突。地面を砕いた。そしてそれは、人の形を取り・・・叫ぶ。



『ヴルアァァァァァァァァァァァッ!!』





人の声とは思えない叫び声。それに呼応するように空気が重くなる。空気はよどみ、先ほどまでの清々しい夜の空気は一気に吹き飛んだ。



それはまた僕へと向かって飛び出した。白い人形(ひとがた)となって。速度・・・結構速い。





「・・・逃げて」

「え?」

「早くっ!!」

「は、はいっ!!」





女の子を道路側へ逃がすと、僕はアルトをセットアップ。そのまま抜き放ち・・・胴を斬る。

だけど、斬れなかった。まるでもやみたいに刃をすり抜けた。それだけじゃなく、左の二の腕が爪で引っかかれ・・・少々抉れた。シャツが裂け、腕から血が吹き出る。

痛みに顔をしかめるけど、止まる事は出来ない。その人形は足を止め、右手を突き出してきたから。それを左に飛んで回避。爪先が右の頬をかすめ、頬に爪跡が残る。



裏拳の要領でまた打ち込まれた右手をしゃがんで避けつつ、右足で足払い。だけど、またすり抜ける。

両腕が上から振り下ろされてくる。それを左にまた飛んで避ける。

その衝撃で、土で出来た地面にクーレターが出来た。大きく後ろに飛んで、距離を取って対峙。



・・・攻撃が通用しない。実体が無いみたいに・・・いや、無いんだ。



それに、なに? さっきから感じてるこの・・・妙な寒気。あれはヤバイって本能が言いまくってる。





≪・・・霊体ですね≫

「霊体っ!?」





つ、つまり・・・幽霊っ!? なんですかそれはっ! というか、噂はマジだったんかいっ!!

というか、後ろに気配。そちらをパッと見る。

白いもやが五つ。それが目の前の奴と同じように人の形を取った。



・・・うわ、もう五体出てきてるしっ!!





「で、アルトさん。なんでこいつらが幽霊だって分かるの? ほら、もしかしたらちょっとしたコスプレかも知れないじゃない」

≪これがコスプレなら、この間のコミケは阿鼻叫喚の渦で大騒ぎですよ。あと、分かるのには理由があります。グランド・マスターと一緒に居た時に、何回か相手をしたことがあるんです≫

「先生そんなもんとやりあってたんかいっ!! ・・・あ、でもそれならもしかして、対処法とか分かったりするの?」



やばい感じがする六体に警戒を向けつつ、アルトに聞く。そして、答えがすぐに返ってきた。



≪あります≫



さすがは我が相棒。伊達に僕より8歳も年上じゃない。

して・・・その対処法は?



≪いいですか? この手の類は物理攻撃は一切通用しません。霊体というのは物理的なものでその存在が構成されているわけではないのが原因です。この類はいわゆる精神が現実世界で形取ったものです。
これらには、物理関係とは全く別のエネルギーで攻撃する必要があるんです。そして、それは私達の手札の中に既にあります。・・・魔力です≫

「つまり・・・魔力を伴った攻撃をしろと? また簡単だね」

≪全ては昔の魔導師が頑張ってくれたおかげですよ。どうやら、古代ベルカの時代にはそういう類との戦いもあったようですから。
その辺りも視野に入れて、魔法の基礎構築部分と言うのは作られているんです。まぁ、今の魔導師はそんなことほとんど知りませんけど≫





でも、それなら簡単だ。・・・斬れると分かったからなのか、げんきんにも落ち着いてきた。



というか、先生ありがとうございます。おかげで命を落とさずに済みます。





≪ですが、霊体を斬るということは・・・一度死んでいる者をまた死なせる・・・つまり、二度殺すということです≫





その言葉に、身体の動きが一瞬止まる。だけど、すぐに復活する。

言いたい事は分かった。どっちにしろ、殺しは殺しだと言いたいんだ。

人間じゃないからと言い訳をするなと言っているんだ。



だから、僕はこう返す。





「そのためにこんなとこで死ぬのなんて、ごめんだよ。・・・優先順位なら、とっくに決めてる。
僕、傲慢だからさ。敵も味方も全部を救えるどっかのスーパーヒーローになんてなれないのよ」

≪なら、問題ありません≫





迷うな、躊躇うな。今やらなきゃいけないことはそれじゃない。・・・そうだ、迷うな。迷えば、そこから簡単に崩される。

僕は弱い。力も、心も。そんな僕が戦う上で絶対にやらなきゃいけないことは一つ。戦ってる最中は、迷わない事。躊躇わない事。誰がなんと言おうと、揺らがない事。

それが、弱い僕が戦う上での本当に最低限な条件。心を研ぎ澄ませる。薄く、鋭く、全てを斬り裂く刃へと変える。



そして、そうしつつも頭を働かせる。さっきの様子を察するに、この女の子とこいつらが無関係だとは思えない。そして、ここで僕だけ逃げる選択もない。

あの女の子はコイツらから逃げてきたと思われる。そうじゃなかったら・・・あの子がアレに対してあんな怯えた目をして見るはずがない。

白い人形があの女の子に視線を向けて、笑ったようになんて感じるわけがない。その視線に、とてもいやらしいものを感じるわけがない。あの子も絶対に守らなくちゃ。



・・・伸ばされた手を掴んだ。掴んだら、絶対に守りたい。壊されるのなんて、消えるのなんて、嫌だ。



精神を集中させろ。大丈夫、あれは・・・斬れる・・・ううん、斬るんだ。



先生だって言っていた。斬ろうと思って、斬れないものなんて、どこにも無い。もし、先生が本当にこの手の類と戦った事があるなら、斬れるものの中には、霊体だって含まれるんだ。





≪正解です。・・・この世ならざる者との戦いに必要なのは、精神を強く持つことです。肉体が器であるなら、その中身が精神です。
精神は器である身体にも大きな影響を与えます。それが揺らげば、連中に簡単に引っ張られます。1番恐ろしいのはそれなんです≫





アルトの言葉が続く。それによって、さっきまで動揺しまくっていた心が、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。



刃を正眼に構える。そうして見据えるは、害意ある存在達。僕が、この手で斬るべき存在。





≪迷わないでください。躊躇わないでください。そして、恐れないでください。あなたの目の前に居るのは、そんな存在ではありません。
ただ私達とは住む世界が違うだけで、斬れない存在ではありません。私と言う刃と、あなたの中の魔力という力があれば、斬れる存在なんです。恐れる理由など、なにもありません≫





精神を・・・強く。自分自身、それを強く・・・信じる。



呼吸を整える。いつの間にか荒くなっていたから。ゆっくり、だけど確実に整える。

吸って・・・吐いて・・・また吸って・・・吐いて・・・。

そんな事を繰り返すうちに、心が落ち着きを取り戻すだけじゃなく、焼けるように熱くも感じていた左の二の腕の痛みがゆっくりと無くなっていく。これは、集中してきた証拠。



人形の一体が飛び出してきた。僕は・・・左に避けつつ、アルトに魔力を込めて打ち込む。

人形は今度は・・・それを避けた。そう、避けたのだ。大きく跳び、僕に爪を突きたててくる。

それを前転で回避。後ろに気配がした。



また左に避け・・・いや、大きく飛ぶ。いつの間にか一体が回りこんでいた。

連中に囲まれる形にはなってるけど、大丈夫。動ける。呼吸をちゃんと整えて、落ち着いて・・・相手の動きを見る。

視野を広く持ち、見えない部分にも感覚の視線を向けて一箇所ではなく空間全体を見る。大丈夫、基本は同じ。いつもと・・・同じなんだ。





≪大事なのは、揺らがない事。絶対に負けないと、誰がなんと言おうと信じぬく事。・・・あなたなら、出来るはずでしょ?≫

「・・・うん、出来るよ。今まで、ずっとそうしてきた」





んじゃま、覚悟決めて背負いますか。結局、僕にはそれしか出来ないんだし。





「それはこれからも、変わらない」





そんな僕の様子を見て取ったのか、六体が構える。

配置は前に一体、左右に三体、後ろに二体。

囲まれては居るけど、決して不利じゃない。僕なら上という逃げ場もある。



なんでこんなとこでいきなりこれなのかはわからないけど、とりあえず・・・潰す。





「・・・守りたいものが背中にあるなら、幽霊だろうがなんだろうが、絶対に・・・負けない」





美由希さんが前に教えてくれた御神流の極意。御神流は戦ったら勝つだけの不敗の剣術。その心根は、そこ。



背中に、自分の中に守りたいものがあり、それを守るために奪うという業を背負う覚悟をして、剣を振るう。

自分が倒されれば、守りたいものは簡単に砕かれる。

だから、負けない。必ず勝って、大切なものを・・・守りたいものを守る。そんな、とってもシンプルな考え。





「人からなんて言われようが、そんなの関係ない。僕は、負けて何も守れないのも、手を伸ばせないのも、絶対に嫌だ。・・・僕の目の前で今を壊そうとするなら、ぶった斬る」





なりたい自分の一つの形。そして、きっと僕が行くべき道。でも、僕はやっぱりまだまだ弱いから、心の中で何度も呪文のように唱える。



迷うな・・・躊躇うな・・・そして止まるなと。よどんだ空気に圧されて、噴出しそうな怯えをそうして鎮めていく。



何度も自分に言い聞かせる。規則正しい呼吸で行われる空気の行き来に、心の中の迷いを乗せて吐き出していく。アルトを強く握り締めて、気持ちをしっかりと固める。





≪かっこつけ過ぎじゃありません?≫

「いいのよ、僕・・・主人公だし」





なんて軽口を叩きつつ、飛び出してきた前後の三体を、僕はアルトを構えたまま、迎え撃つ。



集中しろ。油断さえしなければ、対処出来ない相手じゃないんだ。まずは・・・





「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」





聞こえたのは女の人の声。その瞬間、僕の前後に炎が・・・いや、それを模した光が地続きに走る。

それを見て、白い人形が大きく後ろに飛びのく。

その炎が飛んで来た方向を見ると、巫女服を着た那美さんとその足元に久遠。



そして、那美さんが着ている服を改造したような動きやすい服装の薫さんが・・・あれぇっ!? な、なんでここにっ!!





「・・・あ」

「・・・あら」





そして、まだ居た。それは、金髪の髪をして・・・昨日見た正体不明なお姉さんだった。

現在、那美さんと一緒に女の子の側に寄り添ってる。あらためて見ると、服のおおまかな装飾が今薫さんの着ている服と似ている。



もう一度言うけど、なんでここにっ!? というか、この人誰っ!!





「それはこっちのセリフたいっ! 自分、こんな時間になにしとるかっ!!」

「夜の鍛錬の帰りに偶然鉢合わせしましたっ! そして、現在これですっ!!」



すっごく端的に状況を説明すると、薫さんがずっこけた。



「・・・いやいや、ありえんだろそれはっ!!」

「自分でもそう思いますけど、本当のことなんですから仕方ないじゃないですかっ!!」



お願いだからツッコむなー! 僕は正直に言うと泣きたいんだっ!!



「あぁ、泣くなっ! 男やったらもっとしっかりせんかいっ!! と、とにかく・・・那美、十六夜、そっちの子はどうかっ!?」

「大丈夫だよ。でも、この人達・・・ダメだよ、薫ちゃん。完全に戻れなくなってる」

「どうやら私達は遅かったようですね」



その言葉に、薫さんが表情を苦くする。



「・・・今、眠らせてあげる。それと、君は早く逃げなさい。あとは私と那美とで」



残念ながらそれは無理だ。止まれない。左右の三体がやってきたから。

・・・コイツらは斬れる。ううん、斬るんだ。僕は、鞘にアルトを納める。



「恭文君っ! 逃げてっ!!」



・・・・・・突撃の速度、囲まれている状況、それらから出た結論は・・・んな余裕、ないっ!!



「鉄輝・・・!」



飛びかかって来たのは白き亡霊が三体。それ目掛けて、アルトを抜き放つ。



「一閃っ!!」





まず、右から飛び込んできた一体。



そして、そのまま時計回りに回転しながら左から飛び込んできた二体を真一文字に斬る。





「・・・瞬(またたき)」





円形に青い斬撃の線が夜の闇に描かれ、それに斬り裂かれた白い人形はもやへと戻り、叫びを上げながら・・・塵に帰った。





「これで、半分」



そのまま前後の三体を見据える。そして・・・不敵に笑う。



「どうしたの? さっきまでの威勢がないね。・・・ほら、来いよ。ぶった斬ってあげるからさ」



こんな挑発をしても、全く問題はない。だって僕はもう、こいつらを斬れるから。

だから・・・下がった。全力で那美さんの方にダッシュ。理由は簡単。薫さんが動いているから。



「十六夜っ!!」

「はい」



那美さんの所に居た金色の女の人が光に包まれて、薫さんの持っていた刀に吸い込まれる。刀はそのまま抜き放たれる。刀身には、先ほど見た炎が灯っていた。

薫さんは上段から、その場を動かずに刀を打ち込む。



「神気・・・発衝っ!!」





炎は闇に包まれた空間を突きぬけ、僕の後ろの二体へと飛ぶ。

それはあまりに速く、白い人形は動く事も出来ずに、その直撃を食らった。

そのまま、声を上げながら、炎に焼かれつつ・・・消えた。



残るは一体。アルトを構える。だけど、必要なかった。





「くぅんっ!!」



その人形の上から、雷が降り注いだ。小さくか細い雷光。だけど、それは的確に人形を貫き、消し去った。

・・・辺りに訪れるのは静寂。さっきまで感じていたよどんでいた気配・・・すっかり消えてる。それでアルトを鞘に収めつつ、那美さんの方を見ると、おかしいことがあった。



「・・・あの、那美さん」

「あ、えっと・・・」



子どもが、もう一体増えていたのだ。金の髪に狐の耳。白い巫女服に首から数珠で繋がれている大きな鈴をかけている。

どう考えてもおかしい。むちゃくちゃおかしい。さっきまであんな子は居なかったのに。



「それよりも・・・なぜ逃げんかったっ!!」



薫さんがこっちに刀を納めつつ来る。・・・どうやら、逃げずに攻撃したのが原因らしい。



「いやいや、逃げられなかったじゃないですか。状況見てから言ってくださいよ」

「その前段階でいくらでもタイミングはあったろうがっ! 君、アレが何か分かっとるんかっ!? アレは」

「霊体・・・ですよね」



僕がそう言うと、その場に居た全員が固まった。どうやら、僕が知ってるとは思ってなかったらしい。



「で、あれを斬るってことは・・・一度死んだ人間をもう一度殺すってこと」

「・・・だったらなぜ」

「薫ちゃん、落ち着いてっ!! ・・・ね、恭文君。この子のこととか、私達の事とか、気になるよね。でも、私達も・・・あなたの事が気になるんだ。少しお話、いいかな?」










僕はその言葉にうなづいた。とにかく、なんでいきなりこれなのかを聞きたい。





・・・ねぇ、どうして? 普通にひと夏のバイトでいいじゃん。なのに、なんでいきなりバトル要素入ってくるのさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、近くの公園に移動して、自販機でお茶を頂きつつ話す事になった。あ、女の子はちゃんと警察に送り届けてからだね。

あと、怪我した二の腕も治療してもらった。消毒をした上で、那美さんが・・・こう、手の平から光を出した。

それに触れていると、とても暖かくて、痛みがすぐに消えて、傷口も綺麗に無くなった。・・・というか、これは回復魔法・・・いや、違うか。魔力反応は感じなかったから。とにかく、すごい。





まず、僕の方から。まぁ・・・結構簡単になんだけど。










「・・・魔法か。またぶっ飛んだ話になってきたな」

「まぁ、私達もその類と言えば類だから・・・。でも、その魔法が通じたのはどうして?」

≪過去に、魔法を使う世界でも幽霊相手での戦闘があったおかげですね。その研究の結果分かったのですが、魔力を用いる魔法には、それらと対抗する力があるんです≫

「うちらの霊力と同じというわけか。・・・まぁ、事情はあらかた分かった。君がそういう部分に対して覚悟を決めているというのもな。
だが・・・その年で、そんな覚悟をしてまでなぜ剣を持つ。そして、その事実が分かっていながらなぜあそこで剣を振るったんだ?」



薫さんが真剣な顔で聞いてきた。どう返したものかと、ちょっと頭を捻る。

・・・だめだ、何にも思いつかない。ここは普通に返事していこう。



「言葉にすると、あんまり上手くは言えないです。ただ・・・」

「ただ?」

「きっと、薫さんや那美さんがあそこに来て、霊体を倒したのと同じ理由です」



僕がそう言うと、薫さんが黙った。そして、僕の目をじっと見る。

・・・静かに、ため息を一つだけ吐いて『分かった』と言ってくれた。



「じゃあ、次はうちや那美のことか。君は、退魔師というのは聞いたことがあるか?」



僕は薫さんの言葉に首を横に振る。もちろん、無いと言う意味で。



「私や那美はその退魔師だ。・・・さっきの霊体が暴れたり・・・などの心霊現象を、私達退魔師は霊障と呼んでいる。その霊障を解決するのが、退魔師の仕事だ」

「霊力を用いて、暴れる霊を斬って鎮めたり、一種のお祓いとかで心残りを無くして成仏させてあげたり・・・するんだ。
まぁ、恭文君やみんなが思っている一般的な霊媒師とかと同じと言えば、同じなのかな」

「じゃあ、さっきの炎がどーんって言うのとか、那美さんが僕の怪我を治してくれたのとかも、その退魔師としての能力ってことですか?」

「そうだよ、霊力を用いた攻撃があれなの」



えっと、しんき・・・はっしょうだっけ? うむぅ、あれは凄かった。

でも、傷の治療まで出来るのはすごいよねぇ。霊力って便利だよ。



「那美はどちらかと言えば、そういう関係の力の使い方が上手なんだ。私もよくお世話になる」

「それで、もう想像が付いていると思うけど、あそこに来たのはそのお仕事のためなんだ」





なんでも、退魔師というのは地元警察から協力を頼まれることも多いらしい。つまり、退魔師の人達のお得意さんの一つなのだ。

それで、あの女の子が居なくなったと捜索届けを出されて・・・無駄にこういうことに慣れている海鳴警察署の署員達は、ぴーんと来た。

さざなみ寮に薫さんと那美さんが居ると聞きつけて、連絡してきたのだ。もしかしたら、霊障の可能性があると。



そう、それが僕の取ったあの電話だ。まぁ、そりゃあ慌てもすると納得した。女の子の命がかかってたわけだしね。





≪それで、捜索を始めて・・・あそこにたどり着いた≫

「そうだ。そうしたら、君達はあの状態だったというわけだ」





なお、あそこを見つけたのは気配がしたというのと、女の子の目撃情報を事前に警察の人達が調査してくれていて、そこから絞り出したというのと・・・もう一つ。あそこの敷地で一度、霊障を呼び込むような事件があったとか。



この辺り、詳しくは話してくれなかった。きっと、胸くその悪くなる話なんだと、思う事にした。





「それでえっと・・・久遠と十六夜のことなんだけど」



そうして、那美さんが見るのは、女の子と女の人。

どうも、女の子の方は久遠らしい。というか、えっと・・・なんで?



「久遠は簡単に言っちゃえば、霊力を持った狐。元は普通の動物だったんだけど、すごく長生きをしたおかげで妖狐になったんだ」





そう言えば、はやてが貸してくれたミステリー関係の本で読んだ事がある。動物はマレに平均寿命より長く生きると、特殊な力を持つようなものが出てくるって。




例えば、猫。10年生きると人の言葉が喋れるようになり、20年生きるとちょっとした超能力が使えるようになる。

で、30年生きると尻尾が二つに増えて・・・猫マタという妖になるとか。



つまり、久遠もそれってことか。





「まぁ、認識はそれでいいかな。・・・ほら、久遠」

「・・・くぅん」



どこか警戒したような瞳で僕を見る。・・・うぅ、やっぱりアレが尾を引いてるんだ。

まぁ、一日しか経ってないからとうぜ・・・あれ? 一日しか経ってないのに、なんで僕こんなことになってるんだろ。謎だ。



「あのね、久遠。裸を見られた事は、私はもう気にしてないから。
なにより、恭文君はなのはちゃんの友達なんだよ? 仲良く出来なかったら、なのはちゃん悲しむと思うな」

「なのはの・・・ともだち?」



あ、なんか喋ったっ! というか・・・え、あの横馬と知り合いなのっ!?



「あ、うん。私、高校時代は海鳴で過ごしてたんだけど、その時になのはちゃんと久遠、すっごく仲良しになったの。もちろん、久遠の事もちゃんと知ってる」

「くおん、なのはとともだち。・・・あなたも、なのはとともだち?」

「・・・うん」



今、なんかすっごく嬉しそうな顔したのが見えたけど、砂でもかけて追い払ってやる。そして、あっかんべーだ。

・・・泣いても無視。



「くぅん」



小さく鳴くと、近づいて僕に手を伸ばす。僕は・・・それを手に取る。・・・暖かくて、優しい感触。つい頬が緩む。

久遠も、笑ってくれた。なんだろう、これであんなに距離を取られる事はなくなるのかと思うと、ちょっと嬉しい。



「では、今度は私ですね。・・・昨日は驚かせてしまってもうしわけありませんでした。私、神咲家に使える霊剣・十六夜と申します。蒼凪様、古鉄様、お見知りおきを」



そう言って、ぺこりとお辞儀・・・すごく綺麗。それに、スタイルが・・・こう、ボンキュッボンで・・・素敵だ。もうそれしか言えないけど素敵だ。



「あ、いえ。こちらこそよろしくお願いします。あと・・・僕は名前でいいですから。十六夜さんみたいな美人に蒼凪様とか言われると、こう、くすぐったいですし」

「あら、お上手ですね」



そう言って、十六夜さんは静かに微笑む。・・・温和で、穏やかな微笑み。なんだか、見てるだけで癒される。

ちょっとだけ、フェイトを思い出したのは・・・やっぱり、寂しいからかな。



「分かりました。では・・・恭文様で」



・・・結局、様付けは決定なんですね。

まぁ、そこはともかく・・・霊剣ってなに?



「簡単に言えば、魂を持った刀だ。死後、なんらかの原因で人の魂が刀に取り憑いて、それにより霊的な力を持つようになった物を霊剣と呼ぶ。
十六夜は、そのうちの一本だ。まぁ、君のアルトアイゼン・・・古鉄のように、私の相棒と言う感じかな」

≪いえ、この人は私の召使いですけど≫

「はい、黙れっ! とりあえず黙れっ!! いいから黙ってくれないかなっ!?」

≪全く、ツッコミがワンパターンですね。そんなことだから鬼畜と罵られるんですよ≫

「意味が分からんわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





とにかく、霊剣である十六夜さんは、今みたいに実体を持った体を現界させて、行動する事も出来るらしい。まぁ、目立つから移動する時などは刀の中だとか。



そして、昨日ふわふわと浮いていたのは、久々にさざなみ寮に帰ってきて嬉しくて・・・ということらしい。なんだろう、こんな美人だと怒る気になれないから不思議だ。





「本当に申し訳ありませんでした。まさか、私の行動であなたにそのような目に遭わせるとは思っていなくて」

≪問題ありませんよ。なんだかあの後嬉しそうでしたから≫

「嬉しそうになんてしてないでしょっ!? 明日どんな顔して会えばいいのかとか考えまくってたんだよっ!!」

「・・・すまない、少し脅かしすぎたようだな。まさかそこまで気にしてるとは思わなかった」



いや、気にしますから。すっごく気にしますから。いくらなんでも初対面でこれはないって思いますから。



「薫ちゃん、恭文君って意外としっかりしてるんだよ? 夕飯の片付けの時も『恋人でもなんでもない人の裸を見ちゃったから、気にしないわけがない』って言ってたし」

「ふむ、そこまでか。・・・ならいっそ、責任を取ってもらうというのも手だな」



せ、責任っ!?



「ちょ、薫ちゃんっ! からかい過ぎだよっ!! ・・・あぁ、恭文君しっかりしてー! そんなに赤くならなくていいからねっ!?」

「薫、どうしたのですか? まさか熱でも出たとか。あぁ、だから体調には気をつけるようにと口をすっぱくして言っているではありませんか。あなたは昔から身体が弱いんですから」

「十六夜・・・それはどういう意味だ?」










とにかく、朝が・・・来た。あはは、完全徹夜だよ、これ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・やばい。





かなりやばい。





理由? んなの決まってるよ。今日の朝に神咲姉と那美と久遠と十六夜さんと一緒に帰ってきたあのチビスケだよ。





今は『朝から寝ちゃうと、昼夜逆転しますから』とか言って、頑張って起きながら掃除してる奴だよ。





あ、今は買い物行ってるけどな。どうやら、買い物当番はあいつの仕事ってことで決定したらしい。まぁ、男手であるのは間違いないし、いいか。





でもよ、アイツが来てからまだ三日目だぞ? まだ48時間経ってないんだぞ? なのに・・・なんで久遠や十六夜さんの事までバレてんだよっ!!










「真雪、賭けはボクの勝ちで決まりらしいね」

「うっせぇっ! まだわからねぇだろうがっ!! このさざなみ寮の秘密はな、108まであるんだよっ!? 全部分からないとだめだからなっ!! なおっ! 秘密はあたしの都合でどんどん増えていくっ!!」

「真雪、それは思うに少々ずるいのではないか?」



うっせぇ猫娘っ! コイツとの賭けにいくらつぎ込んでるか知らないからそういうことが言えるんだよっ!!

・・・新作の秋物バーゲンのための貯金を倍加出来ると見込んで賭けたんだ。負けるわけにはいかない。



「ほほう、その辺りの事、詳しく聞きたいですね」

「右に同じく・・・ですね」



声がした。そっちを見ると・・・あはは、やっぱリビングでこんな話は間違ってるか。

あたしとリスティが振り向くと、鬼が二人居た。



「か、神咲姉・・・」

「あ、愛・・・」

「仁村さん、リスティ。・・・なんばしよっとかー!!」

「本当ですよっ! 寄りにも寄ってそんなことを賭けにするなんてっ!! どういうことなんですかっ!?」










この瞬間、あたしは恐怖に怯えながらも、内心ほくそえんでいた。





だって・・・ねぇ? これなら、賭けがお流れになりそうだから。うし、やっぱり人間地道に働いて地道にお金貯めていかないとね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・耕介さん」

「はい、なんでしょ。エイミィさん」

「すみません、色々お騒がせしちゃって。どうもあの子は・・・こう、昔から運が無くて」

「あぁ、大丈夫ですよ。というより、こっちも驚かせてしまってすみません。びっくりされたでしょう?」

「あー、いえいえ。これはこれで楽しいですから。・・・あ、味見お願いします」

「はい。あ、そう言えば美由希さんは何時頃帰りでしたっけ」

「えっと、木刀とか研ぎに出していた刀の受け取りだけって言ってましたから、もう夕方には帰ってくると」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



熱い・・・。熱過ぎる。夏ってこんなに熱かったっけ?





くそ、これならJAMの歌なんて聴かなくても十分燃えられるよ。熱くビートがたぎっちゃうよ。





・・・無駄に太陽がまぶしいのは何故?










「あほっ! それは自分が寝てへんからやろっ!?」

「大丈夫ですって、僕はいつでも覚めない夢を見ているんですよ。片方の目で過去を見て、片方の目で今を見ているんです。そして額の第三の目で未来を」

「自分、そんなハードボイルド似合うキャラちゃうやろっ! つーかそれはどこの厨二病患者やっ!?」

「え、えっと・・・今のはハードボイルドなんですか? 私はよくわからないんですけど」





商店街を、荷物片手に三人で歩く。なお、メンバーは僕とゆうひさんと知佳さん。両手に花とは言う事なかれ。色々辛いのよ。



いや、色々あって・・・熱くて・・・頭がパンクしそう。





「ね、恭文君。本当に大丈夫? ちょっと顔色・・・は悪くないね。うん、普通」

「あはは、しぶといのだけが取り得みたいなものですから」

「でも、無理はだめ。夕飯の準備は、私とゆうひさんとエイミィさんでやっておくから、帰ったら休まなきゃだめだよ」



僕は・・・うなづいた。でも、まだゆうひさんと知佳さんの表情が晴れない。むむ、なんか問題あるのかな。

そして、二人は顔を見合わせて、力強くうなづいた。



「うし、恭文君。ちょおうちらとデートしようか」

「・・・はいっ!?」

「いいからいいから。ほら、こーんな美人二人を連れて歩けるなんて、嬉しいでしょ?」



いや、だからそれとこれと今の状況と何の関係が



「「嬉しい・・・でしょ?(やろ?)」」

「・・・はい、嬉しいです。すっごく嬉しいです」










こう答えるしか選択肢が無かった。だって、二人とも目が笑ってなかったんだもん。

とにかく、僕はそのまま無理矢理引っ張っていかれて・・・入ったのは映画館。見るのは、いわゆるアクション物。えっと、ダイハードだね。もうすぐ4をやるらしいから、それを記念してのアンコール上映。

僕は真ん中に置かれ、右にゆうひさん。左に知佳さんという配置で席に座る。何故だか両手を二人と繋ぎながら・・・ちょっと落ち着く。





そして、そのまま・・・眠った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・眠ったみたいやな」



映画、まだ始まってへんのに。まぁ、えぇか。そのためにここに連れてきたんやから。



「そうですね。まぁ、一昨日昨日と色々あり過ぎたから、少し休ませてあげないと」



知佳ちゃんが心配するのも無理ない。どうも見てると、恭文君は頑張り過ぎなとこがあるしなぁ。

耕介君が寝てていい言うたのに、仕事しに来たのにそれはないって言って・・・これやろ? まぁ、この子の事やから倒れるんは自室に入ってから・・・になりそうやけどな。



「と言うより・・・眠れなかったんでしょうね」



知佳ちゃんがそう言うて、うちに寄りかかってる恭文君の頭を撫でる。

その表情が大人びて・・・いや、この子はもう立派な大人やった。あかんあかん。



「原因は、昨日の一件やろうな」

「はい。霊体、斬ったからだと思います。この手で、命に二度目の死をもたらしたから」



撫でる手を止めずに、そのまま優しく、慈しむように知佳ちゃんは手を動かす。

うちも知佳ちゃんやさざなみ寮のみんなも、簡単にやけど昨日の事は聞いた。なんや、そういうのは相当重いらしい。現に、薫ちゃんは・・・ホンマに苦しかった時期が有ったって、言うてたしな。



「私の同僚にも、同じような状態になった人が居るんです。まぁ、恭文くんとはちょこっと事情が違いますけど」



知佳ちゃんは、現在カナダにある国際救助隊っちゅう世界規模のレスキュー部隊で仕事をしとる。まぁ、ちょお事情込みでな。

その辺りの事は、とらハ2をやってもらえるとようわかると思いますんで。



「目の前で誰かが亡くなったり、存在が消えたりするのは、正直・・・キツいですから。慣れる事なんて、一生無いって思います。それが自分の手によるものなら、きっと、もっと苦しい」

「・・・そやな。多分このチビスケ君は、平気な顔してるだけや。なーんでこんなちんまい身体してるのに、強情っぱりなんやろうなぁ」

「ゆうひさんもそう思いますか?」

「思うなぁ。うち、ほんまにフィアッセからこの子の話をよう聞いてたから」



・・・うちが好きな男でも居ないのかと聞いたら、この子の名前を出してきたのが去年の年末くらいの話。

詳しく話を聞いてびっくりしてもうたもん、いくらなんでも年齢離れ過ぎやし。そして、それからよく話をされる。ちゅうか、あれは半分ノロケやノロケ。



「でもゆうひさん、随分恭文君のこと気にかけてますよね」

「それは知佳ちゃんもやろ? うちは・・・ほら、うちのナイスバディを見られたから、責任取ってもらおうかと」



・・・いや、マジでハプニングで見てしまった耕介くんと、うちの愛する人にしか見せた事のない裸を見られたわけやからなぁ。

うーん、もしかするとこれは・・・運命の出会い? あぁ、奪略愛ってもしかしたらありかも。



「・・・ゆうひさん?」

「冗談や」



あー、でも今度の曲はこういう歌でもえぇかも知れんなぁ。もちろん、略奪愛やのうて、ハプニングでお互い意識して・・・って感じ。

さすがに裸見られる言うんはアウトやろうけど、こう甘酸っぱい感じやったら、結構えぇのが出来そうやな。



「そういう知佳ちゃんは、なんでそないにこの子を気にかけるん? 昨日も随分かばっとったし」

「私は、こう・・・かわいい子だなぁと思って。私、お兄ちゃんも欲しかったけど、弟も欲しかったんです」

「なるほど、それは納得や」





・・・あと、うちがこの子に結構おっぴろげで居られるんはもう一つ理由がある。フィアッセや。

この子はフィアッセの危機を救った恩人・・・それと同時に、あの子の大事な友達や。そこ考えたら、仲良うならん理由はない。あと、あれもあるしな。

HGS・・・あの子があの年になってもどこかで気にしとる部分。なんや色々事情込みらしいけど、普通に受け入れたらしい。フィアッセ、めっちゃ感激したって言うてた。



あの子のここ半年近くのメールの内容・・・大体恭文君のことやし。

やれ恭文君とこんな話をした。やれ恭文君にこんなアプローチを仕掛けたら照れて大騒ぎしてた・・・とかや。

うむぅ、この年にして恐ろしい天然ジゴロや。しかも、フィアッセと15歳差でアレやで? 気をつけんと。ゆうひちゃんのか弱いハートもさらわれそうやし。





「・・・そこまでですか?」

「そこまでやなぁ。知佳ちゃんも気をつけておかんと、あっという間に現地妻っちゅうファンクラブの仲間入りやで?」

「ご心配なく。私、年上の方が好みですから。というか・・・20歳近く年が離れてるんですよ? ないですって」










・・・なら、何故にフィアッセはあの状態なんやろうな。まじで7年後互いに相手がおらへんかったら結婚しそうやし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・はっ! こ・・・ここはっ!?





あ、映画館で・・・映画見て・・・うわ、序盤の序盤の新作予告が始まる前に寝てて・・・なんか目が覚めたらビルからスローで落下してる人がいるー!!










「・・・最悪の目覚めだ」

「そやなぁ。このシーンで目覚ますんは確かに最悪やなぁ。あ、落ちた」



小声でそう言ってきたのは、ゆうひさん。というか・・・あの、なんか僕、ゆうひさんにもたれかかってる?



「あの、ごめんなさい」

「えぇよ、映画終わるまでもたれかかっとって。うちの肩は寝心地よかったやろ。もう愛する人から好評やからなぁ」



想像して・・・だめだ。あれとか思い出すのはダメなんだ。絶対ダメなんだ。



「恭文くん、気を付けた方がいいよ? ゆうひさん、恭文くんに責任とって貰うつもりらしいから」



知佳さんの言葉に、僕は叫びたくなる口を押さえて、驚きの視線だけゆうひさんに送る。・・・な、なんか舌出して笑ってる。

いやぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでっ!? どうしてこんなことにっ!!



「きっと運命やろうな。まぁ、もうちょっと寝ててえぇよ?」

「いや、映画終わりですし」

「何言うてんの。これから2が始まるんやから、1時間半は寝れるやろ」



・・・あ、そう言えば1と2の二本立て上映だっけ? 一種のファンサービスも兼ねて・・・という感じらしい。



「なら、余計に起きておかないと」



僕は、ゆうひさんに小声でお礼を言ってから、頭を上げる。

そうして、体勢を整えた。



「恭文くん、本当に大丈夫?」

「はい。というより、2は好きだから見たいんです。3作の中で1番好きなんですよー」

「お、そうなんや。うちはどっちかって言うと3なんやけどな。スケールが大きいしアクションも派手やし」

「・・・私は、1が好きだったり」










・・・・・・まぁ、そんな好みがばらばらな僕達だけど、2を楽しく観賞した。





そして、号泣した。なんか、マクレーンさんに親近感を抱いてしまったから。きっと、3がクリスマスじゃないのはあんまりに可哀想だからということだったに違いない。




よし、4は絶対見よう。何が何でも見よう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



結局、映画館を出ると夕方になっていた。・・・日用品だけでよかった。これが食料込みとかだったらまずいって。





なお、耕介さん達には連絡済みとか。・・・そんな様子なかったのに、いつの間に。





僕達は夕暮れの海鳴の道を歩く。僕の家はあの辺だーとか、普段はどんな風に暮らしているのかーとか、そんな話をしながら、ゆっくりと。





でも、気になる事がある。・・・なんで、僕は二人と手を繋いでいるのだろう。しかも、恋人繋ぎ。










「いや、うちらも噂の現地妻にしてもらおうかなと」

「やめてぇぇぇぇぇぇっ! お願いだからそれだけは勘弁してぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ゆ、ゆうひさんダメですよっ! 恭文くん困ってるじゃないですかっ!! というか、私は入りませんからねっ!?」



よかった、知佳さんはマトモだ。すっごくマトモだ。だけど、それでもこの繋ぎ方なのには色々不安を覚えるのは、何故?



「・・・これでいいんだよ。こうしてると、安心出来るでしょ?」

「ま、まぁ・・・そうですね」

「あのね、恭文くん」



夕日に照らされながら、知佳さんが手の力を強くする。そして、少しだけ真剣な顔で、僕に話しかける。



「覚悟ってね、決めてても・・・怖いものは怖いし、苦しいものは苦しいよね」

「え?」

「私ね、普段はカナダの方でレスキューの仕事に就いてるんだ。災害現場や事故の現場での人命救助がお仕事。だから・・・どうしても、見ちゃうの。人の死を」



知佳さんは、歩く方向を見据えながらそう言った。僕はその言葉に、息が詰まった。

知佳さん・・・どこか遠いものを見ていたから。



「多分、恭文くんはすっごく強いんだよね。だから・・・いつもの自分でいようとしてる。でもね、今だけは、私達に甘えて欲しいな」



言われている意味は、なんとなく分かった。きっと、心配してくれている。

だから、返事の代わりにゆうひさんと知佳さんの手を強く握る。



「ありがとう・・・ございます」

「・・・うん」

「えぇよ、そんなん」










空を見上げる。茜色に染まった空を。





・・・忘れず、下ろさず、背負っていこう。それは、変わらないし変えられない。





でも、今だけは・・・ちょっとだけ、甘える事にした。きっと必要な事だと思うから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ほい、ご注文の木刀と練習刀が6本。それと、これ。しっかり研いでるから」

「ありがとうございます。・・・でも、どうしたんです? ちょっとご機嫌みたいですけど、何かあったんですか?」

「実はね・・・まぁ、美由希ちゃんだったら教えてもいいかな。知り合いの古美術商からちょっと見て欲しいって頼まれた刀があってね。
今日の朝届いて、それを見てみたんだけど、また綺麗な刀でさぁ。もう波紋がね、他の刀とはダンチなくらいに綺麗なのよ」

「あ、それいいですよね。・・・えっと、ちなみにそれって」

「あぁ、見せてもいいよ。美由希ちゃんには特別サービス」

「ありがとうございますっ!!」




















(幕間そのじゅうよんへ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・さて、平和な時間・・・じゃありませんよね。なんですか、これ。どんだけトラブルに巻き込まれてるんですか≫

なのは「というか、霊体相手によくもまぁ、初対決で普通にやれたよね・・・」

古鉄≪この辺り、私のアドバイスが大きいんです。それに、霊体ごときで驚いてたら、自動人形や魔法戦闘や黒い人型のコピー人形とかはどうなるんですか。まだ霊体の方が常識的ですよ≫

なのは「それもそうだね。・・・あ、今日のあとがきのお相手の高町なのはです」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです。というわけで、本日もIF候補から外されてサブキャラクターに落ちたアニメ本編の主人公と話していきたいと思います≫

なのは「・・・ひどいよ、それ」





(でも、事実だったり。というか、自業自得だったり)





古鉄≪あなたがマスターを好きだと認めないからですよ。はやてさんだって言ってるではありませんか、好きになることは罪ではないと≫

なのは「・・・というかねっ! 色々と間違ってると思うのっ!!」





(白の砲撃手、机をドンと叩く)





古鉄≪あぁ、間違っていますよね。あなたのTV版の行動のあれとかそれとか≫

なのは「そっちじゃないよっ! だって、拍手の中とかで好きとか認めたり関係が進展したらそれはそれでだめじゃないかなっ!?」

古鉄≪なるほど、つまり・・・本編の中なら進展させたいと。もっと言うと、偶数日はフェイトさんですけど、奇数日はあなただと≫

なのは「そんなわけないからっ! あと、恭文君は絶対そんなことしないよっ!! 本当にフェイトちゃん一筋なんだよっ!? リインはまた別の要素だから仕方ないけど・・・私の方なんて見てくれるわけがないんだからっ!!
というか、みんな勝手言い過ぎだよっ! 私だって・・・私だって・・・恭文君が本当の意味でフリーだったらアタックライドしたいよっ!! 本編の中で、素直に好きって言えるヒロインになりたいんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





(・・・ぶっちゃけやがった。誰もがそう思った。この話が始まって1年とちょい。ようやくTV本編の主人公がぶっちゃけやがった)





古鉄≪・・・いじめられたいんですか?≫

なのは「いじめられたいよっ! いっぱいいっぱいいじめて、私だけ見て欲しいよっ!! 私、恭文君がいっぱい構ってくれるのうれしいもんっ! そうだよ、私はドMだからドSな恭文君が大好きだよっ!? でもそれのなにが悪いのかなっ!!」

古鉄≪では、今度はそれを本編で言わないとダメなんですよ≫





(白の砲撃手、その言葉に固まる。そして、汗がダラダラと流れ、顔が蒼白になる)





なのは「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なーんちゃって。い、今のは冗談だよ」

古鉄≪さて、本編で告白するらしいので、ここは期待大ですね。どうなるんでしょうか≫

なのは「お願いだから無視しないでー! 今のは冗談なんだからっ!! 本気じゃないんだからねっ!?」

古鉄≪というわけで、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンでした。いやぁ、やっとすっきりしましたね。で、どうするんですか? やっぱり押し倒すんですか?≫

なのは「押し倒さないよっ! お願いだから本気にしないでー!!」










(だけど、全員無視。そして、泣き出す人間まで出てきたりで大変だけど、今日はこれで終わっとく。
本日のED:『あなただけ見つめてる』)




















恭文「・・・くーおーん♪」

久遠「くぅん?」

恭文「あぁ、可愛いー♪」

那美「恭文君、すっかり久遠がお気に入りだね。久遠もだいぶ懐いてきてるみたいだし」

久遠「やすふみ、なのはとともだち。なら、くおんも、やすふみとともだち」

薫「うん、いいことだ。・・・しかし那美、例の件だが」

那美「あ、うん。見つからないね。一体、どこにあるんだろ」

薫「早く見つけないと・・・なんだか、嫌な予感がする」










(おしまい)





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あきゅろす。
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