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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
とまと生誕13年記念小説その4 『AtoZ 運命のガイアメモリVer2020/鼠(ねずみ)達の牙』




とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020・Episode 0s

とまと生誕13年記念小説その4 『AtoZ 運命のガイアメモリVer2020/鼠(ねずみ)達の牙』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


示してもらったのは、残酷な現実と立ち向かう道。そこを進むための覚悟と決意の重さ。だけどそれは希望でもあった。

だから僕は、シュラウドさんに……文音さんに示してもらった希望を、息子であるフィリップにも伝える。それが、託されたものの使命だと感じたから。


フィリップは孤独に苛まれていたような表情を消し去って、ただ呆然と……僕を見続けていて。


「……あぁ、そうだな。お前は……そうなっちまうな」


翔太郎もソフト帽を目深にかぶりながら、僕を……こら、頭を撫でるな。僕を子ども扱いするな。


「確かに“らしくない”とは思った。
……だが、それでもお前が、本当にそうしたいなら……俺も止めねぇよ」

「……いくら相棒でも、立ち入ってほしくないことがあるって言ったよね? 翔太郎」

「あぁ」

「そもそも、僕らしいってなんだ……!?」

「……あぁ」

「僕らしい……僕だって分からないのに! 君になにが分かる!
僕のらしさを――僕のことを本当に分かっているのは……僕の、家族だけだと……」

「だがそれでも、決断には危険だって伴う。……お前はそれを知っていたはずだ」


フィリップは首を……縦に振り、浮かんでいた涙を払う。


「そうだったね……甘さに流されて危険な目に遭うのは、君の専売特許。
僕はずっとそれを冷ややかに見ていたのに……本当に間抜けだ」

「うるせぇ」

「でも、自分で歩いて、走って……転んでみないと、分かんないことだってたくさんあるよ」

「美澄苺花……」

「……それだってシュラウドさんが、示してくれた道でもあるから」

「……ありがとう」


そうして決意の表情で、懐からL字型の赤いドライバーを……ロストドライバーを一基取り出した。


「翔太郎、もしものときは頼む」

「あぁ」

「蒼凪恭文も……まぁ、君の得意な遺書制作を頼むよ」

「安心していいよ。容赦なく奴らごとバーベキューにしてあげるから」

「やめろ馬鹿!」

「いや、むしろ安心だ。翔太郎は甘すぎるからね」

「なんだとぉ!?」


フィリップはからかうように笑いながら……静かに公園から出ていく。その背中を見送ってから、翔太郎はロストドライバーを大事そうに撫でて……。


「だがアイツ、いつの間にこんなのを……」

「おじさんが使っていたもののコピー品だよ。万が一に備えてってね」

「で……お前も勝手にバラすなよ! どうせシュラウドには許可を取っていたんだろうがなぁ!」

「察するに、シュラウドのところへ寄ったのもそのためか」

「いつ爆発するか分かりませんでしたし」

「爆発した結果を間近で見た身としては、こじれなくて本当に安心しているよ……!
でも、本当に大道克己さんのお母さんなら……この状況をなんとも思わないのかな」

「風花ちゃん……」

「私はたくさん思ったし考えたよ。それでも、恭文くんが誰かを助けたいって……メモリという不運も希望だって信じたいって……だから応援できた。だけど……これは……!」

「……そうだな」


照井は泣き出し始めたふーちゃんの頭を撫で、困り顔のまま俯いてしまう。……僕もふーちゃんの言葉が、そりゃあ突き刺さったよ。


まずフィリップはそういう寂しさをずっと抱えて、それでも踏ん張っていた。でもそれが瓦解してしまったのよ。

原因はやっぱり……大道マリア。もう理屈じゃ止まらないくらい、マリアさんに心を許しているんだ。たとええその感覚が勘違いでも、フィリップにとっては本物。

忘れてしまった母親の影を重ね、恋い焦がれ、それでどうしようもないほどに突き進んでいる。だから……アレだ。


「だがもしかしたら……大道マリアも、分からなくなっているのかもしれないな」

「照井さん……」

「それが本当に大事だということが……それで、フィリップもそんなものを感じ取った」

「…………」

「左、蒼凪」


翔太郎は照井の言葉になにも答えず、ソフト帽をかぶり直してそのまま歩き出した。


「翔太郎くん!」

「亜樹子、照井、お前らは風花ちゃん達を頼む。俺は……ちょっと拾いものだ」

「……気をつけてね」

「そっちもな」


大事なことは忘れていないようなので、一安心。翔太郎が場を離れたことで……僕も腹が決まる。


「うっし、大道マリアの捕縛も考えておこうか」

「お兄様も大概ですねぇ。まぁ、できる限りはというのはいつも通りですか」

「それはあたしも賛成! 罪は罪できっちり償わせないとね! ……でも、どうするの!? ドライバーを渡されてもメモリが!」

「なので照井さん、実は渡すものがもう一つあります」


そこで取り出した赤いメモリ……照井さんはそれを手に取り、驚きながらも笑っていた。だからそのまま、メモリをスイッチオン。


≪Accel≫

「それ、アクセルメモリ……T2タイプじゃない!」

「フィリップが飛び出したとき……ケースからこれだけはくすねられたんです」

「――助かった」

「でも、それじゃあ翔太郎くんと恭文くんが! 今はキャラなりもできないのに!」

「いや、あります……恭文くんにも切り札が!」

「そして翔太郎の分は、もう事務所にある」


そう……翔太郎にはもう伝えてある。自分に訪れた切り札が、鳴海探偵事務所にあるんだってさ。


「翔太郎と捜索中に相談して、手はずを決めておいたんです。こういう状況もあり得るから、“あえて”二本だけ見つけないようにしようって」

「それが、見つかっていないアレ! え、でも……それで事務所って」

≪ほら、雨漏り……穴が突然空いたんでしょ? それも翔太郎さんがいた所長デスクの近くで。奴らが輸送機を撃墜した直後に≫

「それで……実はその雨が降ったとき、恭文くんのところにもメモリが落ちてきたんです。私のお迎えをしてくれた直後に」

「えぇ!?」


ほんと、切り札って怖いわ。甘さでブタになるときがあっても、それが強さになるときもあって……ただ冷徹なハードボイルドってだけじゃあ、やっぱり限界はあるみたい。


「だから、大丈夫」


そう、逆転の札ならちゃんと用意してある。


「戦力も、戦略も……ちゃんと揃っている」


それを使って……まだまだ逆らい続けてやる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの場を飛び出し、やってきたのはマリアさんに指定された場所。そこは風都にあるコンサートホールの一つで、今日は特にイベントはない。

でもその会場はライトアップされていて、あの人はステージ上にいた。


「…………」


マリアさんは白いドレス姿で、ピアノの傍らで左手を伸ばし、不規則に鍵盤を叩いていた。

その姿がとても美しく、胸を締めつける。それでもボクは足を進め、ステージ上へ上がる。

板作りのそこで足音を響かせると、マリアさんはボクに向かって優しくほほ笑んだ。


「来てくれたのね」

「はい」


昨日マリアさんが……さり気なくボクの懐に入れてくれていたのは、あのオルゴール。

中には手紙が入れてあって、ボクはそれで……でも、彼女は」


――大道克己の母親なんだよ!――

「……」


あぁ、分かっている。分かっているよ……翔太郎……蒼凪恭文。

黙っていたことを今更ごたごたと言うつもりもない。相応にお返しはするつもりだしね。

それに……君達はエールをくれたもの。母さんに送られたものを、僕に届けてくれた。だからここに立てる……迷いなく立てる。


もう、運命に振り回されはしない……!


「ここはね、息子が演奏した場所なの」

「息子……ではマリアさんは」

「元風都市民。あの頃は、本当によかった」

「マリアさん、あの」


言うのをためらってしまう。もし否定されたら、もし肯定されたら……分かっているはずなのに迷ってしまう。

だけど……決意を持って、自分でその扉を開いていく。


「……その息子というのは……今」

「ここにいるさ」


期待と不安――両方が入り混じった言葉。だがその返答は、マリアさんからは返ってこなかった。

それに、嘲笑で返してきたのは、ステージの影から出てきたあの男だった。


「おめでたいなぁ、兄弟」

「大道克己……マリアさん、こっちへ!」


マリアさんは首を横に振り、そのまま自分の隣にやって来る大道克己の陰に隠れた。


「マリアさん……あなたが彼の母親なのはもう知っています! でも……それならなぜこんなことを!」

「…………」

「ほう……検索したか。さすがだな」

「違う! ……伝えてもらったんだ、受け止める勇気と一緒に」


覚悟の上で、奴と距離を取りながら吠えるが……それすら奴は楽しげに笑い飛ばす。


「なら俺の言葉も受け止めてもらう。……ここで演奏していたのは……そう、俺だ」

「だが、君は交通事故で帰らぬ人となった……」

「……えぇ、そうよ。
私にとって克己は全てだったわ。だから、NEVERにした」

「おふくろは毎年俺に活性酵素を打ち込み、身体を大きくしてくれた。おかげで見ての通りさ」

「あなたはそんな大道克己を見て、なにも思わないんですか」

「…………」

「あなたはあのとき、小さな子と母親を助けるために出てきた! ただボク達に接触するだけなら、見過ごしてもいいのに……その手で銃を握り、T2ドーパントと戦った!
それがただ信頼を得るためだけの行動だったとは、ボクには思えなかったんです! だからここに来た!」


吠えても、伝えたいことが伝わっている自信なんて……かけらもない。だがなにも言わずにはいられなかった。

まずボクの気持ちを……どこかで迷いと寂しさを抱え続けていた、彼女の瞳を見据えながら。


「マリアさん、あなたが欲しかった未来は……取り戻したかった今は、この形なんですか!?」

「言ったはずよ、これが現実だと」

「そうしてあなたはあの親子を……第二第三の大道マリアと大道克己を作り出す! それで本当にいいんですか!
あなた達が幸せそうに笑っていた今は、そんな形で作られていたものなんですか!? ……マリアさん……いや、大道マリア! 答えろ!」

「…………」

「御託はいい……」


その瞬間、大道克己は僕へと踏み込み……腹に鋭い痛みが走る。


「ご苦労だったな、兄弟。お前が最後の鍵だ。
お前とT2メモリが揃う事で、この街は地獄に変わる」


そこでボクの意識は断たれ、ただ絶望だけが襲ってきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


事務所に戻って所長用のデスクへ座り、自分の至らなさを思い、頭を抱える。

フィリップが出てもうかれこれ二時間……連絡は一切なし。恭文の方も同じくだ。

風花ちゃんや苺花ちゃんは、風都署で刃さん達の保護を受けている。そっちは大丈夫だと思いたいが……。


「…………これも、成長かぁ」


アイツは俺と出会った時、無神経で歯に衣着せぬ物言いが目立っていた。

感情的になってたのは、いつも俺の方だ。何回か殴ったことだってあるさ。……殴られるかもしれないって思ったのは、これが初めてか?


でもここで過ごしていくうちに所長が来て、照井が来て、ウォッチャーズのみんながいつも騒いで……アイツは変わっていった。恭文や若菜姫、苺花ちゃん達もいたしな。

そんなアイツが母親かもしれないって奴を見て、冷静でいられるわけがなかった。


「修行が足りねぇな」


ついため息交じりにソフト帽を……深く……深くかぶり直す。


「本来なら、恭文に頼らず……俺が解決しなきゃいけねぇことだったのに。相棒失格だ」


……それでも止まっていられないと立ち上がり、玄関へすたすたと歩き出すと……いきなり木造りの玄関が吹き飛んだ。


「な」


轟音を立てて飛んでいったドアは、そのまま事務所中央のスタンドへぶつかり共倒れ。

俺は右わきに倒れるそれらと、ぽっかり開いた玄関だったものを見て、声をあげるしかなかった。


「なんじゃこりゃ!」

「はーい」


だが声をあげてすぐ、俺は両腕でガード体勢を取る。そうして玄関から突撃し、左まわしげりを打ち込んだ奴と対峙。

奴の蹴りをガードで受け止め、俺はその冷たい身体と黒髪に目を見張った。


「お前は……ヒートの女!」

「Wの左側」


奴は跳躍しながら左足を引き、俺の背中に向かって右回しげり。それを食らってたたらを踏んだ俺の腹へ、一度着地しながら左ミドルキック。

打ち上げるような蹴りを食らった俺はその場で呻くが、そこで顔面に蹴りが飛ぶ。その蹴りを下がって回避してから、俺は飛び込んで奴に掴みかかる。

奴は俺の右手をすっと左へ避け、掴んだと思うと右後ろ回しげり。ローで体勢を崩され、続けて胸元へ一撃。


「ぐ……!」


息が詰まっている間に奴は、俺を強引に振り回す。

腕を引っ張り、右足を俺の首に当て強引に持ち上げたかと思うと、そのまま応接用のテーブルへ叩きつけた。

玄関と同じく木製なテーブルは真っ二つに砕け、俺の身体は床に激突……くそ、生身でもまじ強い……!


「ほんと、調子乗ってくれちゃって……相棒が地獄へ行くまで、ちょっと待っててね?」

「フィリップ……お前達、なにをした」

「あたし達が面倒見てるの。で、あのクソ生意気なチビも今頃京水にお仕置きされている」

「……そりゃ甘いぜ、ファイヤーガール」


俺の喉元に突きつけられた右足を、両手で掴んで必死に外す……訂正。外そうとした。

だが全然外れねぇ。くそ、やっぱ変身なりしないと、戦闘のプロには対抗できないか。


「アイツらはお前達の手に負えるほど、いい子ちゃんじゃない……特に恭文はな」

「は?」

「仲間の命が惜しいなら、今すぐ連絡して引き返すように言い聞かせろ。もう手遅れかもだがな」

「冗談……変身もできなくなった子どもに、京水が負けると?」

「そういう油断をしていたから、ミュージアムも負けたんだよ……!」


軽い挑発で気を引きつつ計算……フィリップは殺されるようなことも……ないだろう。さすがの俺でもいくつか想定できるところはある。それにフィリップは腹を括って踏み込んだんだ。簡単に終わらねぇ。

それで恭文も……コイツらがガキだと舐めている間は大丈夫だ。なにせ昨日の負けで……戦闘で得られたデータを元に、またまた“徹底対策”しているからな。


となると、俺はコイツを何が何でも仕留める必要もある……。


「は……! 話にならないわ」

「ファイヤーガール……いや、冷たいからコールドガールか」

「アンタ……ほんとムカつく!」


奴は険しい顔となり、もう一度俺を引き上げ、胸元を蹴る。

壁に叩きつけられながらも、続けてきた右ミドルキックは左へ転がって回避。


「あたしはこの冷たい身体が」


奴の蹴りが壁を砕いたかと思うと、その足が一気に右薙で打ち込まれる。ソファーの上を転がっていた俺はすぐさま跳んで、その蹴りを回避。床になんとか着地。

その蹴りは壁をガリガリと削り、でかい傷を残してくれる。…………我ながら、丈夫だよな。あんな蹴りを思いっきり食らって、なんとか生きてるんだからよ。


しかし修理はどうすれば……よし、恭文の修理魔法に頼ろう。


「嫌で嫌で仕方なかった!」

≪Heat≫


奴は俺へと振り返りながら、ヒートメモリを取り出す。そうして一瞬で炎の麗人へと変化。

両足に炎をまとわせながら左ミドルキックが飛ぶので、側転で事務所奥へと退避。すぐさま腰からロストドライバーを取り出し、腰前面に装着する。


「だからヒートのメモリと惹かれ合ったんだ! これは、あたしを熱くさせてくれるから!」

「……そうか。だったら」


ベルトの展開によって、ドライバーは腰にしっかりと装着された。

そして起き上がりながら左手で取り出した、黒いメモリを見て奴が声を漏らす。


「俺とコイツが惹かれ合うのも、運命なんだろうな」

「それは……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


混乱が続く街の中……僕は昨日戦った港の一角で、ぼーっと風都タワーを見ていた。

できるだけ都心部から離れて、引きつけるように……どうせこっちの居場所はすぐ割れるだろうからね。


「キーメモリ……鍵を開くだけじゃなくて、鍵となるものを探す能力もあるんだよね」


縁から立ち上がりながら、軽く伸び……そうして振り返ると、そこにいたのは泉京水……ルナドーパントの男だった。


「だから、絶対くると思っていたよ。察するに翔太郎のところにも向かっている」

「あら……覚悟が決まりきっているってことね。
あなたも大きくなったら、いい男になりそう…………克己ちゃんには負けるけどね!」

≪…………ほんとうるさいですねぇ、コイツ≫

「というかなんでよりにもよって一番の変人が僕のところに」

「あなたにだけは言われたくないわぁ! というかあなた、変人を飛び越えた狂人なのよ!? 狂人狂人きょきょきょきょほけきょっきょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


いや、どんな切れ方!? というか、狂人とか言われる筋合いはないわ! 僕は常に世界のスタンダードだし!


「まぁいいや。とっとと地獄へ送り返してあげるよ。僕の誕生日を祝うローソクとして燃やし尽くしてね」

「あらぁ……昨日克己ちゃん達にボロ負けしておいて、まだまだやる気満々?」

「だから、一人ずつすり潰すことにしたの。お前達の遺書も書いたし、準備万端」


そこで手紙の束を見せると、奴はなぜか口をあんぐり……。


「本当に書いたの!?」

「僕は約束を守る男だ。もちろん自分との約束もね」

「律儀さの発露が間違っているのよねー!
というか、さすがにあなた一人で対抗とか……ちょーっとな・め・す・ぎ?」

「……その子どもを虐殺したら、克己ちゃんどん引きだろうなー」

「安心なさい! あなた、その克己ちゃんもお気に入りだから……本気でやっていいって言われているの!」


奴は笑いながら右手を振りかぶり、さっと鞭をしならせる。


「なので…………私のムチ使い! 今度こそその身で味わいなさい!」


こちらへ鋭く……音速を超える形で飛んできた鞭に対し、どこからともなく取り出したアルトで右薙一閃。

更に蒼い魔力が斬撃波として放たれて、ムチは両断。それはそのまま泉京水へと迫り……回避しようとするも、即座にバインド展開!


「いぎ!?」


そして回避を瞬間的に封じられた奴は、首をはねられ……そのまま中へと飛ぶ。首から血しぶきが舞い、コンクリの床が血に濡れていく。


「…………おう゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ちょ、ヒカリ! おのれ不可思議空間に隠れていろって……というか普通に吐くな! 海にモザイクを吐くなぁ!


「おま、だから……グロいのはやめろとぉ……!」

「はいはい……お姉様、全部吐きましょうね。朝ご飯どころかこれまで食べてきたご飯も全て」

「それでは死んでしまうだろ、私!」

「お前、ほんと食物で生きてんだな……! つーか変身すらさせずにってマジかよ」

「僕は常に効率を重視する主義なのよ。知らなかった?」


警戒は解かず、刃を逆袈裟に振るって納刀。……これで終わり。


「ちょっと、なにするのよ! 痛いじゃないのよ!」


……だと嬉しかったんだけどなぁ! というか、平然とごろりと落ちた首が喋ったんだけど!


「いやぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁ! 首が……首が喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ヒカリ、うるさ……落ち着けぇ!」

≪それも無茶ぶりでしょ。完全にこの人が駄目な系統ですよ?≫

「レディの首をなんだと思っているのかしら! それに……ふん!」


あー! 僕のバインドがぁ! 平然と……首を落とされたはずの体が身震いして、ぐいって動いて……砕いてきた−!

そして歩いて、首を拾って、切断面にくっつけて…………。


「……よっし、完璧♪」


なんでそこで首をぐるぐる回して復活できるの!? 骨もぶった切ったんだよ!? なのに即時再生ってぇ! 怖すぎるわ!


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいい! …………きゅう」

「ヒカリィ!」

「このアホ、また落ちやがったぁ!」

「お兄様、私達は不可思議空間に引っ込んでいます」

「うん、お願い!」


ああもう、ヒカリはこのグロ・ホラー体勢皆無なのがなければなぁ! 今まで何度か力を借りたかったタイミングで、それが発動してってことがあったもの!

というか、僕は大丈夫なのに『なりたい自分』がこれって今ひとつ理解が……ああいいや! それよりは現状だ!


「さて……このお仕置きは、どうしようかしらねぇー」

「よし、神父を呼ぼう。洗礼詠唱で浄化してあげる」

「何かの悪霊扱いはやめてくれるかしら!」

「大丈夫大丈夫……超激辛ラーメンを人に食べさせて、苦しむところを見て愉悦に浸る性悪神父だけどさ。信仰心は圧倒的なのよ。一瞬で天に送ってくれるよ」

「何一つ大丈夫じゃないのよ! というかあなた、食べさせられたの!? 小さいのにまぁ苦労しているわね!」

「おのれらほどじゃないよ。
……復活して、風都タワーで儀式みたいなことをやろうとしているんだから」


そう告げると、泉京水の表情が凍り付く。それも鋭く……僕への殺気を伴いながら。


「鍵はエターナル、T2メモリ全て……そしてフィリップ。
ガイアインパクト……メモリによる人間の強制的変質……進化に近いことをやろうってわけだ」

「……なるほど。狂人なのはあくまでも“振り”。あなた、人を振り回しながら洞察していたわけね?
どうしたら私達に勝てるのか……なにが必要で、なにが足りないのか。
それも私達の言動、行動パターン……あらゆるものをつぶさに……小さな欠片も見逃さず利用し尽くす構え」

「おのれだって似たようなもんでしょ」

「よく分かったわ、本当に……あなたが恐ろしい子だってことが」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


メモリが使えなくなった。

キャラなりもできなくなった。

それでもあの子は心を止めていない……しゅごキャラ達も折れていない。その時点で気づくべきだった。


いえ、リスクも相応にあるのに、T2でいろんなドーパントになって、私達を圧倒したときから片鱗はあった。あの時点で結論を出してもよかった。

あの子は、それで恐怖や焦り……絶望を乗り越えられちゃうのよ。

そんなもので思考を止めない。昨日の負けからもなにかが得られると“狂信的なまでに”強いものを持っている。


その上で拾い上げたものがあの子の手にはある。それぞれがどんなに小さなピースでも、それが私達を倒しうる切り札になると信じている。

ただ冷静に、冷徹に、勝つためだけに……私達を倒すために思考を走らせて……克己ちゃん、あなたが面白いと言った意味がよく分かったわ。


ただ……ただねぇ……!


(同時に、私達にとってはとんだ驚異よ……!)


確信がある。この子をこのまま放置はできない。この子を今ここで潰せなかったら、間違いなく私達の計画に重大な亀裂が走る。

現に追撃が来るのも見越しているもの。だとすると……切り札は見つかっていないメモリの一本……Dのイニシャルを持つそれ。

あの子はドライバーなしで変身できる……それはもう分かっている。なら、そのドーパントが相当強力だということ?


これは……腕の見せ所ってやつね。年季の違いはあるってところ、見せていかなきゃ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「だったら……本当に残念ね。そこを悟られているならもう殺すしかない」

「そこで困ることが一つ。このままじゃあ僕は勝てない。まず間違いなく殺される」

「あら……やっぱり理性的なのね。それが分かっているなんて」


奴はメモリを取り出し、スイッチを押してそのまま投擲。


≪Luna≫


身体をくねらせ、踊るようにして一回転――そうして奴は額にメモリを受け入れ、一瞬で金色の怪物となった。


『だったら抵抗しないでくれるかしら。せめて……苦しまないように絞めてあげるからぁ』

「まさか」


左手で取り出したロストドライバ−を腰に装着。


「その理性的な奴が、勝てる手段も用意しないで待ち受けていると……本気で思っていたの?」

『それこそまさかよ。……それが、あなたの切り札ってわけ?』

「――さぁ」


その上で……僕のところに来てくれた切り札を一回転させながら、前にかざしてスイッチオン。


「実験を始めようか」

≪Dummy≫

「――変身!」


ダミーメモリを……僕と苺花ちゃんにとっても因縁深いメモリを差し込み、ロストドライバーを展開。

その際一回転してから、右腕を横に伸ばす。


≪Dummy≫


銀色の……鉄色の旋風を纏い、変身した僕はふだんのウィザードからケープや魔法帽を取り除いた形となる。それで色は旋風と同じ鉄色。

伸ばした腕を胸元まで引き戻しながら、鋭くスナップ。


『ちょっと……ドーパントになるならともかく、仮面ライダーって!?』

「そう……仮面ライダー」


もう一度手首をスナップさせて、今の僕を……新しい魔法使いの姿を名乗る。


「ダミー」

『仮面ライダーの偽物!?』

≪The song today is “Law of the Victory”≫


そして突然鳴り響く音楽……おやおや、これもやっぱり知らない曲だなー。でも乗れるからよし!


『ちょっと、なにこの音楽! もうもうもう……意味分かんないしぃぃぃぃぃぃ!』


伸びた触手……こちらを押しつぶすに十分な威力を発揮する一撃。

故に、僕は僕の……いや、奴の記憶から“それら”を引き出し擬態する。

右手を振るうと、変質していく体はその一撃を払い、虚空にはじき飛ばす。


『な……それはぁ!』


驚くのも無理はない。今の僕は……。


≪Luna≫


奴そっくりの……ルナドーパントなんだから。


『どうして!? ダミーがルナでルナがダミーになって……もうお肌引き裂けそうなくらいなんだけどぉ!』


――ダミーメモリ。偽物の記憶。いや、擬態の記憶と言うべきかもしれない。

これはいわゆる変身……変装能力が基本なんだけど、そのベースとなるのは自分や第三者の記憶。たとえば苺花ちゃんの場合、風都入りする際にミュージアムが雇った適合者と入れ替わっていた。

そいつは苺花ちゃんのお母さんや苺花ちゃん本人の記憶を参照として、立派に“美澄苺花”という記号を演じきった。……苺花ちゃんのお母さんに、エッチなことをしようとさえしなければ。


そう、記憶……本人かどうか認証するためのデータベース。だからその人物に近く、詳しい人間の記憶であればあるほど、その再現は……擬態は精密となる。参照元からはほぼ間違いなく偽物と見抜けない。

ただ、それゆえに“参照元が知らないこと”は再現できないし、その想定外を……上を行くこともできない。あくまでも記憶の再現が本質なんだ。

その点についてはウィザードメモリに近い。参照元……人の記憶などへの共感も必要だから、適合者も相当レアだったそうだよ。


……だからこそ、僕にダミーメモリが訪れた。偽物や擬態って字面は悪く聞こえるけど、このメモリもようするに“魔導師”だから。

それもウィザードメモリとは違う、変身することに特化した魔法使いと言える。だからこそダミーメモリには、もう一つ面白い能力があって……。


≪あなた、どうですか≫

「大丈夫」


エックスビッカー、大道克己と連中の配置、装置の配線や設備、電力の流れ……五人だけで地道に作っていたからこそ、コイツにはその記憶も詳細に残っている。

それも関節的に参照できたから、もうばっちり……! 狙い通りに獲得できたよ! NEVERの情報が、たっぷりと! 少なくとも風都タワー占拠直前からのものはコンプリート!


「もう閲覧済みだ」

『でもでも、偽物だって分かっているなら……そぉれぇ!』


そこで奴は十六体に分身。なので僕も右腕を……ムチとなったそれをしならせながら、同じ数だけ分身。


『ふふーん……これで本物の格が……って、なんでぇ!?』

「それ!」


そのまま両腕を振るい、分身達と一斉攻撃!


『ならばパワー……力こそパワーよぉ!』


そして本物ルナ達も触手を一斉展開。本物と偽物が正面衝突し……パワー負けすることなく、その全てが中間距離で弾かれ、腕が引き戻される。


『なんでぇ! こういうとき、偽物が負けるのってお約束なのにぃ!』

「……そう……まだ気づいていないんだね。自分が僕によって作られた偽物って」

『いきなり劇的な展開を混ぜ込まないでくれる!?』

「さぁ、お父さんとお呼び?」

『ないないない……さすがにそれだけはないわぁ!』


とか言って動揺しているので、次は……コイツに変身だ!


≪Iceage≫


とげとげ真っ白な氷河期ドーパントに変身。そのまま右手をかざし……再び突き出される触手めがけて冷気を放射。

奴らの腕は悉くが凍り付き、僕の眼前で重量に負けて落ちて、砕け散っていく。


『ちべたいぃぃぃぃぃぃぃぃい! なにこれ! 今度は氷!? 氷なのぉ!?』

「……自分が砕ける音を聞きな」

『しかも決めぜりふ怖いんだけどぉ!』


キツいでしょー。参照したのは僕の記憶……照井さんと初めて会ったとき、対応したドーパントだ。

アイスエイジは凍結系能力の中でも相当協力だから、ヒートでも完全には相殺しきれなかった。まぁ分身をいくら凍らせてもあれだけど……。


「それが嫌なら」

≪Weather≫

「こんなのもあるよ」


続いて、揺らめきながら変身するのはウェザードーパント……井坂のメモリだ。

分身達が腕を再精製させている間に、右手をかざし……ぎゅっと握りしめる。


「――ふん!」


突如上から発生する雨雲……そうして次々と降り注ぐ雷撃に、ルナが、その分身達が次々と焼き払われる。


『いぎぃぃぃぃぃぃぃ! 痛い痛い痛い! いた気持ちいぃぃぃいぃぃ!』

「まだまだ!」


右手を奴に向け、雨雲を操作……突如降り注ぐ豪雨に撃たれてもらった上で、雨雲を奴の周囲に取り囲ませながら、雷撃を発生。

音すら置き去りに速度で放たれる連続雷撃照射に、奴は鞭の腕を無様に振り回し、戸惑い、焼かれ続ける。


『いた! いた! いた! いた! ちょ、しびれる……さっきよりしびれるぅ! 私、打たれている!? 鞭でお仕置きされているのぉ!?』

「それ!」


奴へ迫りながら、右手をかざし熱線放射――雨雲を散らす太陽の輝きは、奴の体を焼き、激しい火花を走らせる。


『今度は日焼けさせられちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!』

≪……いちいち反応がでかいしうるさい人ですねぇ≫

「全くだよ……!」


そう……これこそがダミーメモリの本質だ。記憶を参照に擬態するということは、その引き出した記憶が……擬態する存在の能力も再現するということ。

それこそ歌やダンスいたいなものもそうだし、クセとかそういうのもだよ。できることとできないことも、知っている限りはちゃんと再現できる。

それゆえに……ドーパントや仮面ライダー、異能力者などなどの戦闘力についても、“参照元が詳細を把握しているのであれば”再現できる。


ウェザーやアイスエイジ、ルナについても、敵として……またメモリ使用者としてよく知る能力だ。だからここまで猛威を振るうことができる。

仮に僕がよく知らなくても、相手が知っている存在であれば再現可能。もちろん全てを再現するから、いわゆる本物が偽物より劣る云々ってテンプレは存在しない。

その記憶が知っているから。それが本物だと……その本物に擬態し、運用する。それがダミーの力だ。


とはいえ本物を知っているがゆえに、弱点などなどについても再現時には適応されるからね。その点は注意も必要。それに素の状態では身体能力も高くないから、それで通用しない場合は寸詰まりとなる。

というか、八歳の僕が変身して“それ”な時点で……直接的な肉弾戦は基本NG。やるとしたら相当にパワー自慢な奴に擬態しないと話にならない。適切な運用は距離を取っての飽和攻撃だ。

……そうしてその欠点が補えるなら、相当強力なメモリだよ。だからこのメモリは擬態できる……この状況を覆す切り札に擬態できる。


切り札が翔太郎のところに来るというのなら、僕は“使い方次第でそう振る舞える魔法”が来てくれた。きっとこのメモリも、幸運だ。


だからこそ次は……。


「ショウタロス、シオン、力を借りるよ!」

「へ?」

「もしやお兄様」

「僕達のこころ……アンロック!」


そう、だからこその実験。これで……ここでいろいろ試していかなきゃ、先に繋がらないしね!


≪――――X-TREME!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ま、まずい……私、弄ばれちゃっているわ。八歳の男の子に責められて、染められちゃっている……でも駄目! 私の全ては克己ちゃんのものなの! 体は汚されても、心は折れない……ってそんな場合じゃなくてぇ!

というかなんなの!? ダミーって……ただ姿が変わるだけじゃない! ドーパントの能力までを完全再現している! それも偽物だからってパワー負けする要素もない!


(でもそれは、かなりまずいってことよね……)


だって、この子が知っているドーパントが多ければ多いほど……その能力が驚異的であればあるほど……ここで自分の間抜けを悟る。

私はこの子が危険だと悟った。生かしておけば重大な障害になるとも、こちらへの対抗手段があるとも悟った。なのに……その上でまだ油断した!

この子が軍服を着た将校なら! 戦闘服を着た兵士なら……あの探偵やイケメン刑事みたいな大人だったらこうはならなかった! 


でも私は油断した! この子が子どもで、どうせ作戦も子どもらしい浅いものだと見くびった! 勝手に……最悪の事態に備える必要はないと!


そうよ、この子は自分が子どもであることを……その姿見すら利用して、私を勘違いの渦に引きずり込んでいる! まずそこから脱却しなきゃどうしようもない!


『ぐ……!』


マトモに戦うのは駄目だと、ここは背を向け一時撤退。

このまま克己ちゃんに近づけるのも危険だし、情報だけでもと……そう思って跳躍したら。


「キャラなり――」

≪Prism≫


そこで走る極光……ハッとしながら振り返ると、そこにはできないはずのキャラなりをしたあの子がいて……!


「ダブル・エクストリーム!」


跳躍した……背を向けて隙だらけになった私めがけて、右薙に抜いたショートソードで斬撃波を放つ。

プリズムのそれは音すら飛び越え直進してきて……! 振り向いて咄嗟に両腕でガードするけど、それすら断ち切られて直撃を食らう。


「――プリズムブレイク」

『んぎぃぃぃぃぃぃぃ!?』


爆炎に包まれながら墜落……なんとか身を翻し着地し、反撃に腕を伸ばす……斬られた分展開しようとした。

でも伸びない。腕が……全くと言っていいほど伸びないの!


「プリズムブレイクは、ドーパントの特殊能力を封じる。これでお前はもう幻影も出せない」

『……!』


そうか、昨日克己ちゃんに撃ち込もうとしていたのは……だったらまずい! この子、持ち前の頭脳と洞察力で、異能力戦のやり口を考え抜いている! 昨日の段階でもエターナルの危険性を看破していたんだわ!

というか、ドーパント以外の偽物にもなれるなんて! だったら私はまだ甘かった!


この子がそういう異能力者を知っている分……。


「ご名答……それ!」


次は銀髪・黒コートの小さな女に変身。そのまま右手をかざすと、私の足下から爆炎が生まれて……派手に焼かれながら吹き飛ばされる。


『ぶっとびぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃ!?』

≪Nasca≫


続けて青い怪人となったあの子が、翼を生やして……私の前に周り込んできていて。


『ぐ……!』


咄嗟に腕を振り回して殴り潰そうとする。でもそこであの子は加速……幾重もの青い閃光となった上で、私の腕を……根元から微塵に切り裂き……体にいくつもの斬撃をたたき込んで……。


『滅多切りぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

「はぁ!」


――更に腹部へ蹴りを食らい、地面へとたたき落とされる。


≪Teller≫


更にマントを羽織って、頭がやけにでかいボスキャラっぽい怪人に変化。あの子は着地しながら、この周囲を黒い淀みに染め上げる。

それに触れた瞬間、妙にしびれた感じがして……あぁあああがあぁあ……あれ、なんともないわね?


「ふむ……やっぱり死体であるおのれらには、テラーのような精神干渉波は通用しないか」


テラー!? ミュージアムの首魁よね! というか、なにさらっとボスキャラに変身しているのよ!


「でも、これなら通じるでしょ」


あの子は頭のオブジェを分離……というか色を離脱させる。

それが巨大な、目がぎょろっとしたドラゴンみたいなものになって……そのまま私へと飛びかかる。


『なにそれ! きもいきもいきもい! ちょっとこっちこないでー!』

『―――!』


さすがに慌てて逃げようとするけど、ドラゴンちゃんは巨体に似合わず凄い速度で……私に噛みつき…………。


「テラードラゴン、やれ」

『!』


胴体が千切れんばかりに……幾度も歯を突き立ててくれる……!



『あぁああぁああぁああぁああぁあぁ!?』


そのまま私はまた上空めがけて飛ぶ……というか放り投げられる。


≪Wizard≫

「――Gravity」


すると今度は……あの子は蒼い魔法帽子をかぶった仮面ライダーに変身。私めがけてなにかの力を発動したかと思うと……そのまま私は急降下。

地面にクレーターを作りながら、そのまま押しつぶされようとしていて……骨が砕ける……肉が潰れる……ドラゴンに噛み砕かれた箇所を、再生不可能なほどに……ずたずたに引き裂こうとする……冷酷さが感じられて……!


「じゃあ、実験もそろそろ佳境かな?」

『ふざけた、ことを……言って、くれるわね……』

「おのれがよこされることも予測できて、それが当てられた……それだけでも十分すぎる成果だ」


…………でもそこでまた……その冷酷さにぞっとされる。


「NEVERの中だと、おのれはどちらかと言えば“僕より”だ。僕の異能力にも対応できると踏んだんでしょ。僕もそう踏んでいた。
羽原レイカや堂本剛三じゃあやり過ごされるのがオチだし、大道克己は動かせない。芦原賢も直衛として必要。
でも……それはこっちにとって好都合。お前が消えれば、分身体精製はできない。数の上でおのれらは圧倒的に不利となる」

『あなた』

「だったらあとは簡単な話だ。おのれの言動、行動、性格、ルナに変身して戦っていたときの様子……全てを動員して、“あり得る展開”を全て想定すればいい」

『本当に、とんでもない子ね……!』


何が魔法使いよ。とんだ詐欺じゃない。

ターゲットを洞察し、その行動を全て紐解き、狙える隙を……入り込める隙をかいくぐって、確実に仕留める。場合によってはそれで偶然すら支配する。

それは紛れもなく……暗殺者(アサシン)のやり方よ……! この子の本質は魔法使いなんかじゃない! 知略と計算で、確実に敵を殺す暗殺者のそれ! しかもトップクラスの道理!


そりゃあ命を奪うこと……人を傷つけることへの覚悟も据わっているはずだわ! 計算した末の必然だもの! それを受け入れられないなら、最初から放り投げている。

だったら……もう逃げ場なんてない。


『ぐぅあ……!』


大丈夫、こっちも大体分かった……今の、重力を操るってことよね。それでウィザード……つまりあの子が変身するライダーも、このダミーと似たようなことができる。

でもそれは……やっぱり駄目だと、なんとか立ち上がり……気合い十分であの子と向き合う。


……たとえ差し違えてでも、あの子を倒す……それが愛! 私の、克己ちゃんへ送る最高の愛なのよぉ!


「それは無理だ」


あの子は私の考えを読み取ったように……読み取った?

待って、読み取った……読み取ったのなら、それは……それは……1


≪Eternal≫


――――そいつは……よりにもよって……蒼い炎をたぎらせながら、克己ちゃんのエターナルに……変身する……!

それでナイフ型ガジェットを……エターナルエッジを取りだし、手元で一回転。


「…………はぁぁあぁあああぁああ!」


それがどうしても許せず、吠えながら突撃……もう触手は出せない。幻影も出せない。それでも……この拳で……力で! 私は愛を貫くのよぉ!


「つーか……それならその思う気持ちを……」


そしてあの子は……エターナルメモリを、エッジのスロットに差し込み……スイッチオン。


「それと同じ気持ちを持つ誰かを! どうしてお前達は踏みつけられるんだ!」

≪Eternal――Maximum Drive


……その瞬間、私の体に衝撃が走る。びりびりとしびれるような……いえ、うちから焼かれていくような衝撃。


「あ、これ……これはぁ……これ、はあぁあぁああ」


体が動かず、縛られたような体勢になり、プリズムが走るように、変身が解除されていく……。

しかもこの感覚には覚えがあった。


――ペナルティーの内容は……まぁ大したことじゃない。今からお前達のメモリを、エターナルメモリで停止させる――

――はぁ!? おいおい、そりゃ――

――敵はT2メモリを……それも運命の相手を見つけたものすら利用したんだろう? だったら一番簡単な止め方は“これ”だろう――

――それで解除できるかどうか……仕掛けられるかどうかも含めて実験ってわけ? でもリスク高すぎなんだけど――

――改めてプロフェッサーの了承と、解除が可能なことは確認している。問題ない――


そう、それが……情けなく敗走した私達へのペナルティー。それで実験は成功した。それがどうして必要だったかは……現状が示していた。

克己ちゃんは、その万が一に備えていた。だけどそれが……プロとして当然の気構えが、今あの子に利用されていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うっし、実験成功……! コイツの記憶を参照したことで、T2へのメモリ停止能力も行使できる! というか、コイツら一度試していやがった!

でも絶対やっていると思っていたよ! プロなら、使う装備品の能力をきちんと把握したいと思うもの! 最悪の事態に備えてさぁ!

しかもその最悪の事態は、僕が引き起こしている! だったら気になるはずだもの! それを止めるのに、一番簡単な方法が可能かどうか確かめたいはずだもの!


これで確定だ! エターナルメモリはT2メモリ全体の抑止力であり、本当に……メモリの王様を目指して作られた! メモリ使用者の権限で、永遠凍結の解除も可能!

だとすると、まずそっちをなんとかしないと……仮面ライダーとしては戦えないって! そこだけは分かればもう十分だ!


そう、それゆえに……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


眠らない死者に、たぎる鎮魂歌をたたき込む。


『…………!』


螺旋を描くように飛び込み、打ち込んだ右跳び蹴り――。

それが変身解除中のルナへ……泉京水の胸元を穿ちながら、その体を吹き飛ばす。そして僕は更に回転を続け、その場に着地。


「あ、あぁああぁ…………」


蒼い炎に焼かれ、完全に変身解除されながら……ビクビクと震える泉京水。それに背を向けながら、右手を横に伸ばし……。


「ビートスラップ」


右指を軽く鳴らす。


「エターナルエフェクト」

「克己、ちゃ…………ごめ」


そして炎が爆発。いくつもの蒼い衝撃をまき散らしながら、泉京水を……その身体を焼き払う。

……それを見送り、変身解除。海から吹き抜ける風に頬を撫でられながらも……すっと深呼吸。


「……人から逸脱した奴は、塵を残すことすら許されない……か」

「神様の救いからも外れているわけだ」


出てきたショウタロス達に頷きながら、ゆっくりと爆発地点へ近づき……やっぱりブレイクもできず、排出されただけのT2ルナメモリを拾い上げる。


「僕達も……進み方次第ではああなる」

「……おう」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いや、そんなはずはない! お前達はもう、変身できないはずだ!」


これが最後の二本――その一角。同時に俺達が最初に見つけたメモリ。

あの雨漏りは、コイツが天井をぶち破って事務所内へ落下したせいだった。

だからさ、所長用デスク付近に埋まってたんだよ。俺はこれを回収しに来た。


ここに隠してたのは……まぁ、万が一に備えてってやつだな。隠し持っているメモリがバレる危険だってあった。

だから落ちた時の状態そのままにしておいたんだよ。まぁ忙しくて、改めて回収するのが遅れたとも言えるが。

ついさっき拾い上げたそれを持ったまま、左腕を斜めに倒しながらスイッチオン。


「どうやら切り札は、常に俺のところへ来るようだぜ?」

≪Joker!≫


メモリをドライバーへ挿入し、右拳を握り締めながら身体の前で斜めに構える。

黒い波動と待機音が流れる中、ドライバーに当てたままの左手を押し込んだ。


「……変身」

≪Joker!≫


波動は一瞬でJの文字を形作り、時計回りに回転。俺の身体は黒い旋風に包まれた。

その姿は、左右両方がジョーカーなW。そう分かる理由は簡単だ。構えた右腕が黒い。


「そんな……馬鹿な! 本当にT2!?」

「仮面ライダー」


奴の驚きは構わず、右手をスナップさせる。


「ジョーカー。
……さぁ」


それと入れ替わりで左手を挙げ、スナップさせつつ奴を指差した。


「お前の罪を、数えろ」

「このぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


……飛びかかってきた奴が打ち込んだ左ミドルキックを、右の掌底で下に弾いて回避。

そのまま跳躍し一気に身を捻り、奴が続けて打ち込んだ右ミドルキックを飛び越え左かかと落とし。

それが奴の頭頂部を打ち抜き体勢が崩す中、俺は着地。まずは左アッパーでさっきのお返しをさせてもらう。


――ヒートの女ともみ合いながら外へ出て、俺達は近くの橋から川へ落下。

だが……。


(……おい、身体がなんか軽すぎるんだが!)


というか、動きか? バランスが上手く取れず俺は、左肩から川へ落下。

ヒートは俺から離れ、無事に着地……なんだよ、この差は。だが構っている余裕はない。


「……」


膝立ちになりながら、右手を軽くスナップ。そうして少し考えるが……そういやジョーカーは、運動能力を強化するんだったな。

つまりこの軽さは、メモリを単独使用しているせいか。ならふだんと戦い方を変えていこう。


「……いくぜ、ファイヤーガール」


少し戸惑ってはいたが、もう大丈夫だ。

仮面の下で不敵に笑い……立ち上がりながら踏み込み、まずは左右交互にミドルキック。

奴はそれを右足で受け止めてから、そのまま踏み込み右ミドルキック二連発。


左掌底でそれを下へ払うと、奴は下げた右足で地面を蹴り、こっちへ飛び込む。打ち込まれる左回しげりを側転で避け、奴へ向き直りながら右フック。

それは同じように振り向いたヒートの右回しげりと正面衝突し、弾かれた。


(パワーはこっちの方が下か。だが……!)


振り切らずに返され、奴の右足が俺の胸元を狙う。

すかさず左足を打ち上げ、その足を下からけり飛ばす。奴はその衝撃で体勢を大きく崩し、川底へ転がる。

水が弾ける中奴はブレイクダンスのように回転し、周囲に水をまき散らしながら体勢を整えた。


そうしてシャワーの中左後ろ回しげりで、俺の足を払おうとする。すかさず右足を上げてそれを回避。

そのまま回転しながら奴は立ち上がり、こちらへ左ハイキック。右の掌底でそれをさばくと、今度は右ミドルキック。

そちらは左の掌底で払い、すかさず奴へ踏み込む。右腕をしならせるようにジャブを放ち、奴の顔面と胸元を打ち抜く。


そうして体勢が崩れ下がったところで半歩踏み込み、右ひざ蹴り。


奴が両腕でそれをガードしたところで、左半身を前へスイッチ。水しぶきが走る中、顎を狙って左アッパー。

顎が上がったので右フックを放ち、奴の左腕でしっかりガードさせる。

拳が命中する瞬間にすかさず手を開き、奴の腕を取って一気にひねり上げる。


カウンターで打ち込まれた右ミドルキックは、足が上がり切る前にこちらの右ローキックで潰す。

その足で次に動こうとしていた左足を蹴り、奴の体勢を下げる。

すかさず腹に二発蹴りを入れ、こちらへ掴みかかろうと伸ばされた右手を避ける。


そうして関節を取ったまま一回転し、奴の左サイドを取りつつ思いっきりぶん投げる。

すかさず踏み込み、すぐさま起き上がった奴の懐へ入り込み左右の連打。

まずは顔面を右ストレートで打ち抜き、そこでガードが入ったのですかさず左はボディブロー。


腹に一発入れると奴は体勢を下げつつ右足を上げるので、左半身を前にしつつ左ローキック二連発。

奴の足をそれで潰し、左のジャブ三連発で顔面をまた打ち抜く。

とどめは強烈な右フック――奴はそれをまともに食らい、また水の中に倒れる。


……やっぱり速度は俺の方が上か。確かな手ごたえを感じつつメモリを抜き出し。


「これでも食らえ」


ベルト右サイドのマキシマムスロットへ挿入。そのまま右手でテンポよく叩いてから、一気に走り出す。


≪Joker! ――Maximum Drive≫

「ライダーキック」


一気に飛び上がり、身体を起こした奴へ右足をたたき込む。

俺の右足はマキシマムドライブの影響で、黒色の輝きに包まれていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


奴が咄嗟に両腕でガード体勢を取るので、すかさず身を捻って回しげりに移行。

薙ぐようにして奴の真横をけり飛ばしてやると、ヒートの身体は嘘みたいに吹き飛びきりもみ回転。

そんな奴を背にしながら、俺は着地し膝立ち状態。その衝撃で、水面がUの字を描くようにして弾ける。


『あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そして奴は俺の背後で派手に爆発。立ち上がり右手をスナップさせ、さっと振り返ると赤い炎が空中で舞っていた。

そんな中から変身を解除した奴が、水面へ派手に叩きつけられる。それと同時に、赤いメモリが俺達の間に落ちた。


「……コイツは返してもらうぜ」


落ちたヒートメモリを拾い上げる。それから忌々しげにこちらを見る奴へ、メモリを軽くかざして右手をスナップ。


(……しかしメモリが壊れてないと、どうにも不安だな)


また使われそうだと思っていると……そこで奴が表情を一変。


≪〜♪≫


奴の落とした携帯から着信音。いや、通信機か、あれは。そこで彼女は……震える手でそれを拾い、通話を繋ぐ。水浸しのそれで、自分の顔が濡れるのも構わずだ。


「京水……悪いけど、すぐに来て。探偵が」

『ジョーカーに負けたんでしょ? だったら潔く捕まっていろよ』

「……!」

「……だから言っただろうが、俺は」


……あのやろ……性格悪いな! わざわざ敵の通信機で死刑宣告してきやがったよ!


「ちょっと、なんでよ……アンタが……アンタみたいなガキが!」

『お前ら、少年兵って知らないの? 子どもだってやり方次第で大人を……同じプロを倒せるんだよ』

「ふざけるな! 京水は……仲間はどこ!」

『豪勢に燃えているよ。もう塵すら残っていない』

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

『ねぇねぇ、今どんな気持ち? 子どもに仲間が殺されて、自分もメモリがなくて手も足も出ない状況に追い込まれて……今どんな気持ち?』


煽るな馬鹿たれがぁ! アイツ、ほんと後で説教だな! 年々性格がひどくなって。


「………………ぁうあぁああぁあ……!?」


すると、あの女がいきなり呻き苦しみだした。両手で胸元を押さえながら、体中が水浸しになるのも構わずに悶える。

それと同時に身体中に白いブツブツみたいなのができて、それが煙のように漂っては消えていく。


いや、ブツブツっていうよりは粒子か? そうだ、奴の身体が粒子みたいになっていってるんだ。


「……おい!」

「なに、これ」


奴自身も混乱しているらしく、変身を解除して一気に抱き上げる。

どういうことだ。俺はマキシマムドライブを撃っただけで……ブレイクはできないが、それでもふだん通りメモリだけを壊す要領で撃ち込んだ。


……まさか、それが引き金か!?


「身体が……維持、できない。いや、あたしまた、死ぬの?」

『……なるほど。NEVER……不死のゾンビでも、マキシマムドライブ相当の攻撃を食らったら終わりか。そりゃあ豪勢に燃えてくれるはずだわ』

「そんな……あたし、知らな……」

「おい、しっかりしろ!」


慌てながらも身体を揺らすと、ヒートの女は……羽原レイカは、俺を見上げて呆れた顔をする。


「なんて顔、してるの」


それで奴は胸元にあった右手を伸ばし、震えながら人差し指で俺ののど元を突く。

いや、ただ触れるようにしてから、アイツはおかしそうに笑った。自分の身体が、今にも消えそうなのにだ。


「ほんと、甘い……甘過ぎ」


それだけを言って奴は目を閉じ、伸ばしていた右腕も力なく落とす。……身体はまるで弾けるように消え去り、後にはなにも残らなかった。

さっきまで感じていた重さも、冷たさも、その全てが俺の腕からこぼれ落ちた。


「………………」


ほんと、意味が分からねぇ。水に濡れたロングパンツを軽く払いながら、立ち上がり……ソフト帽を取り出し、目深にかぶり直した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


通信機を適当にしまい込み、軽く……近くのコンテナに背を預けて、大きくため息。

腹は決めていても、やっぱり気分はよろしくないね。翔太郎も甘いし……まぁ割り切るか。


「……エックスビッカーの詳細も、配置も分かった。狙いも分かった。
そしてルナメモリには、擬似的にでも楔を打ち込んだ……まずまずの成果ですね」

「多少は時間が稼げるはずだよ。で……ヒカリは?」

「駄目ですね。うなされていますから……今日一日はあの調子かと」

「相変わらずだなー」

「いや、お前が言うなよ!」


……泉京水……面白くて楽しいおじさんだった。もし出会い方が違っていたら……ううん、そんな話に意味はないか。

すぐにおのれの大好きな大道克己も、仲間達もそっちへ行く。少しの間待っていろ。


≪〜♪≫


そこで僕のスタッグフォンに着信。左手でそれを取り、通話開始……。


「はい、蒼凪です」

『俺だ。……あとで説教だからな、お前……!』

「精神的に屈服させて、情報を聞き出す……忍者の基本なんだけど」

『人間としての基本からは外れているんだよ! そういう話はしてきたよな! してきたはずだよなぁ!』

≪まぁまぁ……でも昨日とかギリギリだったんですねぇ。あれで羽原レイカを倒せていれば、また違っていたのに≫


……アルト、それは言いっこなしだって。なんにせよ結果論になるわけだしさ。


『あと……フィリップはやっぱり、奴らに捕まっている』

「だろうね。……服に仕込んでいたスパイダーの発信器も潰されている。
ただ、反応が消える前……移動していた方向は風都タワー方面だった」

『それだけ分かれば十分だ。だが……ダミーで一掃ってのは無理か』

「多分その前に回収されるよ。ゾーンがあるからね」

『あれかぁ……!』


ゾーンメモリの転送能力、通常の状態でも相当強力だしね。まぁ一点特化型の能力を使うドーパントだから、例に漏れず戦闘能力が低めなんだけどさ。

でも、あれをマキシマムドライブするのなら、“兄弟”を集めるくらいはできそうだ。


「だから、いいね? おのれは迷いなくフィリップのところだ。ジョーカーとダミーに変身できるのも、あと一回が限度だろうし」

『そこでアイツに近づけなかったら、俺達はそれまで……まぁそこんとも合流して、改めてだな』

「うん」


通話を終えて、改めて風都タワーを見る。

……もうすぐ……解放してあげるからね。それで照井さんと所長さんの約束も、ふーちゃんと苺花ちゃんとの約束も……絶対守る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


奴をタワーまで運び、エクスビッカー前に設置した椅子へ座らせる。そこで手足を拘束し、ビッカーから伸びているヘッドギアを装着。……これで準備は完了だ。

三分クッキングにもならない簡単な仕事に、少し拍子抜けししまう。


「ん……」


だがそんな時、奴は目を覚ました。それで奴は俺を睨みつけながら、無駄なのにがしゃがしゃと四肢を動かし抵抗する。


「いいか、お前は今エクスビッカーの補助装置となっている」


笑いながら右手人差し指で自分のこめかみを叩くと、奴は動きを止めて視線を上げる。

そうして自分に取りつけられている、銀色のヘッドギアに目を向けた。


「データ人間であるお前はT2メモリ全ての力を、最大限に増幅させる。そうして……この街を地獄へ変える」

「そのために……ボク達を利用したのか!」

「彼女の発案だ」


そう言うと俺の後ろから、アイツがすっと出てくる。奴の視線は当然のように、俺から彼女へ向けられた。

話通りなら、母親だと勘違いしていたわけだしなぁ。だから今、コイツも地獄を楽しんでいる。


そしてこれからこの街全てが……地獄へと変わる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


くそ、やはりガイアインパクト……それに近い現象を起こす構えだったのか! しかも地獄ということは、父さんやミュージアムが目指した“人類の進化”とは全く違う。というより、さすがにT2メモリだけではそこに至れない!

覚悟していたとはいえ、このままでは本当に……大道克己の周囲にはほとんどのT2メモリもある。普通に対抗しては翔太郎達でも……いや、待て。

今、奴はなんと言った? “T2メモリ全ての力”を、この装置で……ボクで最大現増幅すると言った。つまりボクとT2メモリを接続するという話だ。


この装置で……ボクと、メモリを……。


「………………!」


一つチャンスがあった。

悪魔のボクだからこそ……甘さに流されたボクだからこそ、この場で使える切り札があった。

チャンスを待つんだ。それは必ず来る。大道克己はもう……手にしたジョーカーを、ボクに渡すしかないんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


風都タワーを一望できる高台にて、全員が合流。というか、苺花ちゃんとふーちゃんまで……風都署で待っていてって言ったのにさー!


『…………』

『――――――!?』

『――――――!』


……まだ街は欲望まみれで、その喧騒は無駄に大きい。街が泣いているとしたら、とんでもない大泣きだった。


「……よし、行くか。恭文は俺の後ろに」

「うん」


そう言いながら翔太郎はヘルメットを手に取り、改めて敵の根城を――風都タワーの回る風車見上げた。


「死ぬなよ、お前ら」

「知らないのか?」


それに対し照井は不敵に笑い、静かな言葉を返した。


「俺は死なない」

「奴らを火あぶりにするまでは死ねないよ」

「おいそこ! ついに悪意をぶちまけやがったな!」

「なにか問題?」

「大ありだろ!」

「全くだ……!」


それでも僕達は笑い、お互いに腕をぶつけ合って健闘と再会を祈る。


「……所長、夜までには終わらせる。帰ってきたら、一緒に花火を見よう」

「竜くん……うん、見ようね! それでそれで、恭文くんの誕生会もやり直し!」

「それは必要だな――!」

「……恭文くん、照井さん達にお任せっていうのは、やっぱり」

「なし!」

「そこ、言い切らないでほしかったなぁ……!」


ふーちゃんが頭を抱えるけど、それでも……すぐに笑って、背中を押してくれる。


「だったら、ちゃんと帰ってきてね」

「うん! わたしと若菜さんも、またごちそう作るから!」

「ありがと!」


それから全員、静かにバイクへ跨り……走り出していく。


「……恭文くん! 翔太郎さん達も……気をつけて! 絶対、戻ってきてください!」

「みんな死なないでね! あたし達、待ってるから!」


ふーちゃん達には左手を挙げて応え、僕達は走る……決戦の部隊は、風都タワーだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


京水とレイカが奴らを打破しに行った後、俺と賢……いや、俺は一人バカどもの相手に苦労していた。

この街の人間はどっからかメモリを持ってきて、俺に『これだろ!? これで十億だろ!?』と詰め寄ってくる。

まぁそれはいいんだ。俺達が始めた余興だしよ。だが考えは甘かった。


金の亡者どもは目を血走らせながら、数十人という単位で俺に迫ってきやがる。


「だったらなんだよ! なんだったらいいんだよ!」

「だから、形が違うんだよ! もうちょいメカっぽいこういうので」

「同じじゃないのよ! 同じメモリじゃないのよ! いいから十億よこしなさい!」

「十億でそんな雑対応が許されると思ってんのかぁ!」


白い丸テーブル上、そしてそこからこぼれた大量のメモリには、辟易していた。

それでも俺は男女問わず詰め寄ってくる、馬鹿な奴らを落ち着かせるのに必死だった。


「全部ミュージアムのメモリばっかじゃないかよ! 京水達も帰ってこねぇし……!」


別にいいんだけどよ! 本命はキーメモリで見つけられるしよ! でもコイツらうぜぇよ! 俺達が凶悪犯とかそういうの抜きで近づいてきやがるし! こりゃ余興として駄目だろ!

しかも腹立つのは……俺は後ろで銃の手入れなんてしてやがる、無口な馬鹿を睨みつける。


「おい賢! お前もこっち来てちょっとは手伝えよ!」


賢はこちらを見たかと思うと、手入れしてたライフルを構え……おいおい!

慌てて椅子を蹴飛ばす勢いで身を伏せると、連続的に銃声が響く。


『きゃああああああああああああ!』


続けて悲鳴と足音がドタドタと響き、場はすっかり静かになった。


だがこの野郎……馬鹿じゃねぇのか! 手伝えとは言ったが、撃ち殺せとは言ってねぇぞ! 無口なだけじゃなく、日本語も通用しないのか!

いや、無口なのは日本語喋れないせいか!? だからこれか! あぁ……克己になんて言えば。


「…………ん?」


そう思いながら恐る恐る目を開けるが、死体や血などはなかった。それに驚いて賢を見ると。


「威嚇射撃だ」


すげーあっけらかんとした感じで答えが返ってきた。……手伝いはしてくれたらしい。


「おま……それならそれで……言えないけどなぁ!」

『――――』


そこで大きめのエキゾーストか? エンジン音と一緒に聞こえてきて、ハッとして住民が逃げた方を見る。

というか、その脇に続いている車道か? そこに音の発生源が存在していた。二台のバイクに……あの仮面ライダーの男達と、危なっかしい子どもが乗っていて……!


「なんだありゃ!」


言っている間に、賢が俺の脇を取ってライフルを連射。小気味いい音と一緒に、銃口から光が走る。

そうして連射された弾丸達は、三百メートルほど先にいる奴らへ襲いかかる…………が、突如としてその周囲で地面が隆起。それが砲弾としてこちらに射出された。

質量の大きさからそれは弾丸をはじき飛ばし、こちらに……合計五個の砲弾が、火花を走らせながら飛んできて−!


「うぁおあぁおああぁおあぁあおああぁぁ!?」

「ち……!」


俺達は左右に散開し、空間を突き抜け、こちらまで迫った砲弾を回避……砲弾は風都タワー根元に激突し、派手な破砕音を響かせる。


『あーあー……NEVERに告ぐ! NEVERに告ぐ! こちらは風都警察!
お前達を≪人の誕生日にテロを起こし、滅茶苦茶気まずい誕生会を開かせた罪≫で……公開処刑にする!』

「そんな罪状と裁き方があるかぁ! つーかそんな状態なら誕生会なんてやるなぁ!」

「……アイツは、本当に頭がおかしいのか?」

『お前達にそんなことを抜かす人権があると思っているのか! あるわけないだろうがボケがぁ!』

「聞こえているのか……」

『忍者イヤーを舐めるな!』


というか待てぇ! この声……あのガキ、結局誕生日を祝ったのかよ! だからやめろよ! テロを起こした俺達が言うのもアレだが……そこはやめろよ! 誰も笑えないのは明白だろうがぁ!


『あと、メモリをNEVERに持ってきた奴らは全員摘発! 警官隊の皆さん……レッツゴー!』

『――――は!』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

『逃げても無駄だぞー! おのれらの顔、住所、仕事は全てチェックしている! 草の根分けても追いかけ、NEVERの同類として燃やしてやるから覚悟しろぉ!』

『いやぁぁあぁあぁぁあぁあぁあぁああぁあぁあぁぁ!』

『もちろん逃げても射殺するぅ! 今見てもらった通りにだぁ! お前達にも人権など……存在しなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!』

『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』


なに平然と市民の逮捕まで進めてんだぁ! というか処刑準備も同時並行とかおかしいだろうがぁ!

いや、それ以前に……なんでほんの数秒で! 悉くがお前のペースになってんだぁ! いくらなんでも大人と周囲を振り回しすぎだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!


(その5へ続く)








あとがき

恭文「というわけで、仮面ライダーダミーが爆誕! 欠点は多いけど、徹底的に相手をメタれる状況なら強いというカードに仕上がりました。きっとこれからも出番が」

静香「……ありませんよ。というか、あなたが使うとえぐいので禁止です」

恭文「なんでだぁ! なんでおのれがそれを決めるのよ!」

静香「当然でしょう!? 私はあなたの妻なんですから!」

恭文「そんなのモラハラだぁ!」

静香「違います! 世界平和のためです!」


(というわけで、うどんアイドルが早速大暴れです)


静香「というわけで恭文さん……十四日はいつも通りに、私の誕生日記念日です。また、一緒に……手を繋ぎながら、ふだんは言葉にしきれない思いを伝えられたらと思います」

恭文「う、うん……」

静香「特に……鈴村優さんというアイドルさんと、最近仲良くなったこととかについて。
身長百五十五センチで、トップバストが八十八センチという……素晴らしく愛らしいアイドルさんに、いろいろぐいぐいこられているそうで……!」

恭文「優は素敵なんだよー! サービス精神旺盛で、プロ意識も高くて……ほんとアイドルって感じでさぁ! しかも濃厚系ラーメンや天一、王将などのチェーン系も網羅しているから! 僕や歌唄とも話が合うし、もう楽しくて−!」

静香「…………浮気です!」

恭文「なにその理不尽!」

静香「あなたは私のプロデューサーじゃないですか! それなのに浮気なんて!」


(うどんアイドル、お怒りでした)


恭文「違うよ! 浮気とかじゃないよ! 純粋にファンになったの! アイドリープライド、最高って話をしているの!」

静香「なるほど! 純粋にアイドルとして惹かれていると! だったら……私も負けないくらい素敵なアイドルになります。
女性としても……あなたが目を離せないくらいに上を目指します。だから、よそ見……しないでください」

恭文「静香……」

静香「今日は……私のことだけ、見ていてくださいね? 恭文さん」

恭文「……うん」


(というわけで、次回いよいよ完結。果たして恭文は無事に誕生会のやり直しができるのか。
本日のED:RIDER CHIPS『Law of the Victory』)


※2017年7月 飲み会の場で

鷹山「…………お前、ダミーメモリは絶対禁止だからな……!?」

先輩「うん……それはほんと、駄目だね? もう審議するまでもないから」

恭文「なんでだぁ! 僕にダミーメモリを持たせたことが、どれだけ平和に貢献したか分かったはずでしょうがぁ! というかなんで先輩にそこの決定権があるんですか!」

先輩「ないけど止めたいんだよ! やっていること完全にラスボスだからね、君!」

全員『うんうん!』

大下「そうそう! 俺達に分かったのは、やっちゃんにそんな応用力の馬鹿高いメモリを持たせたら、ほんとやばいってことだけだよ!
しかもなんだよ! さぁ実験を始めようかって……マッドサイエンティストだろ! ライダーの言うことじゃないだろ!」

恭文「言いますよ?」

伊藤「あ、言うね。今度やる≪仮面ライダービルド≫がちょうど決めぜりふで……主人公さんが天才物理学者なんです!」

大下「嘘だろ……!」

恭文「それで早速、BUILDジャケットを作る資材も準備していてー」

大下「例のライダージャケットの新作かよ!」

鷹山「蒼凪……お前、ほんと趣味に生きているのな」


(当時はエグゼイドの次として、情報が出たばかりの頃です)


フィリップ「でも彼にダミーメモリが飛んできたことは救いだった。
前日にT2でいろいろなドーパントになったのも、その能力の枠を増やすだしね」

風花「私と苺花ちゃんはもう、びっくりしましたけど……ただフィリップさん的には納得なんですよね」

フィリップ「偽物というと字面も悪く感じるが、ようは参照元さえきちんとしていれば“なんにでもなれるし、なんでもできる能力”だからね。
発達障害の絡みで得意不得意……できるできないの差が激しく、そういうところに壁を感じながらも憧れていた彼に……いや、彼と美澄苺花に引き寄せられたのかもしれない」

鷹山「そうか……ちょうど美澄苺花も側にいたんだよな」

大下「じゃあそれもやっちゃんと苺花ちゃん、二人のメモリだったわけか」

恭文「だから、僕達は獅子すら倒せる鼠になれた。翔太郎も同じです」

大下「ジョーカーメモリの概要があれなのもあって?」

恭文「純粋スペックでは文字通りWの半分。でも翔太郎の資質とジョーカーメモリの特性が上手くかみ合うと、とんでもない格上殺しもできる」

大下「まさしくジョーカーで勝負するわけかぁ。でも……エターナルでT2も停止させられるって、やばくない?」

恭文「だから大道克己もいろいろ想定して、実験をしていたんです。
でも……その戦闘のプロとして当然な準備が、こっちの切り札にもなった」

シオン「えぇ。これで大道克己が起こそうとしていた“地獄”は、根底から否定されましたから」

恭文「我ながらあれは有意義な実験だった……」

いちご「……恭文くん、ダミーメモリはやっぱり禁止だよ?」

恭文「いちごさんまでー!」

いちご「そうじゃなくて……なんでもできて、なれるメモリに頼らなくても……恭文くんはできること、なれるものがたくさんあるってこと」(蒼い古き鉄の両手を取って)

恭文「いちごさん……」

いちご「もちろん、楽しかった気持ちも……それでもっともっといろんなことができるって気持ちも、分かるよ?
だけど……それなら一緒に、いろんな可能性を探したいな。私は恭文くんの彼女だもの」

恭文「まぁ、そういうことなら……はい、納得します」

いちご「ん……じゃあ、約束。一緒に、たくさんだよ?」

恭文「はい」

大下「…………だから……そこまで言うならよぉ……!」

舞宙「大下さん、大丈夫です。一年経つといろんなものが飲み込めるようになります」

才華「いらだちを通り越して、砂糖を吐くんだよねー」

大下「ほんとお前ら慣れているなぁ! むしろ心配になるレベルだわ!」


(おしまい)




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