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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第14話 『対峙するは黒き輝き 目覚めるは白と蒼と緑・・・多っ!!』



「・・・そっか。なんだかんだで大変だったんだね」

「うん。・・・うぅ、やっぱりチョップはまずかったかなぁ」

「でも、見過ごせなかったんでしょ? 学級崩壊も続いてるし」

「さすがにそれで授業が進行できないとかは無いんだけどさ、一触即発状態なのよ。ちょっと触れるだけですぐに二分割」





夜・・・添い寝しながらフェイトとお話。なお、今日は偶数日。・・・大丈夫、エルはリインと居る。鍵は閉めてる。カーテンもかけてる。なんの心配も無い。あのキャラだから、僕はそうとう用心した。



手を繋ぎながら、一緒の布団に包まりながら、お話。もう沢山してるけど、それでも・・・この温もりは手放せない。凄く幸せで、大切な時間だと思うから。





「ヤスフミ」

「うん?」

「あむさんのこと・・・お願いね。私達は学校には居ないから」

「うん。さすがに・・・アレはなぁ」





・・・ちょっとだけ、思ってた事を吐き出す。誰でもない、フェイトだから。





「ね、フェイト」

「なにかな」

「・・・自分らしさって、なんなんだろうね」

「いきなり難しい質問だね」



自分でもそう思う。ただ・・・なのですよ。今日、あむを家まで送る時にちょっと聞いた。あの日何か・・・こう、ショックな事があったんじゃないかと。だから、×が付いたんじゃないかと。あの時、泣いてるようにも、見えたから。

そう言ったら、あむは少し驚いた表情を浮かべて、話してくれた。



「クラスの男連中が、可愛い女子ランキング付けてたんだって。で、それを聞いちゃったとか」

「そ、そんなことしてたんだ。でも、それだけで」

「それだけじゃなかった。・・・らしくなくなったって言われたんだって。クール&スパイシーで、一匹狼っぽいところがよかったのにーって」



フェイトが顔を顰める。多分、あの時の僕と同じ表情。僕もさすがにどうかと思ったから。

あむが言うには・・・頑張っていこうとしたけど、外キャラ外していこうとしたのに失敗ばかりして、挙句それらがらしくないって言われて、分からなくなったそうだ。自分らしさってなんだろうと。



「それで・・・なんだ。あぅ、私知らなかったとは言え、偉そうな事言っちゃって・・・」

「大丈夫だよ。僕がフォローしといたから。たださ、あむに聞かれたんだよ。自分らしさって、あたしらしさってなんだろうって。・・・僕はまぁ、自分なりの答えは出してるわけですよ」





あの時・・・雨の中、イレインと戦って、魔法無しなのが決定打となって負けて、それでもやもやして・・・僕らしさってなんだろうと、考えてた時期がある。理由は、ある人にいつも通り、らしく行ければ僕はすごく強いと言われた事。

そして、僕は答えを出した。・・・目の前で壊れそうな今に手を伸ばす事を、それを守って、未来へ繋げていく事を、迷いたくない。躊躇いたくない。

そのために強くなり、へらへらと、楽しく戦う。『魔導師だから』とか『局員だから』なんて言い訳が出来ない、ただのバカ。



それが・・・僕らしさの一つの形だと、そう答えを出した。それは今でも変わらない。うん、僕・・・結局バカなんだ。そして、それが僕らしさだったんだ。





「でもね、あむにそのままその答えを当てはめるのは絶対に違うじゃない? 正直、どう答えていいのか分からなくてさ」

「・・・確かに、そうだね。私やヤスフミから見たあむさんらしさを言っても、それはきっとその男の子達があむさんの外キャラを見て『らしくない』って言ったのと同じだし。
うーん・・・どうしよう。その辺りが解決しないと、×が付いたたまごも戻らなそうだし・・・問題、山積みだね」

「そうだね・・・。あぁ、あとアレもあったんだ」



僕は内心頭を抱える。まさかこんな一気に来るとは思ってなかったから。とは言え・・・やらなきゃいけない。きっちりしていかないと。



「フェイト、悪いんだけど」

「うん、それは大丈夫。でも・・・もう一度聞くけど、本気なんだね? きっと大変な事、一杯あるよ? 私もそうだったから、分かるの」

「・・・うん。覚悟、決めたから」

「・・・そっか」



フェイトが、そのまま抱きしめてくれる。そして、頭をそっと・・・優しく、優しく撫でてくれる。



「うー、子ども扱い禁止ー」

「子ども扱いじゃないよ。その・・・コミュニケーションなんだから」

「なら、僕もコミュニPーションする」

「ふぁ・・・。だ、だめ・・・いじめるの、禁止・・・」










・・・一年半ほど前。僕はある女の子と知り合った。生まれたばかりで、知らない事ばかりで・・・上手く笑う事も出来なかった。

その子がもうすぐ、今まで居た場所から外の世界に踏み出す。小さいけど、大きな一歩。

僕は・・・その子の保護責任者となることになった。なお、本人たっての希望。出来れば、僕の所で仕事の手伝いをしたり、色んな勉強をしてみたいと。





というか、僕に話す前に施設の人達に相談して、執務官の補佐官資格を取っていた。理由は、こうすればフェイトの補佐官になって僕と行動を共に出来るから。

・・・行動が早い。というか、それで取れるのがすごい。もちろん、局に恭順する方向で動くというのと、僕や当面の仕事場の家長であるフェイトの名前がそこそこ売れているおかげではあるんだけど。

そのために聖王教会のカリムさんの誘いを断り、双子の相方とも離れることになった。そして、僕にとってもこれは大きな一歩かな。まさか、自分がそんな事が出来るとは思ってなかったから。





数ヶ月前に本人から相談されて、結構考えて、フェイトとも沢山話して・・・やってみようと言う気持ちになった。僕にどこまで出来るか分からないけど、諦めたりせずに、幸せを掴み取れる手伝いが出来ればと思った。

本当はミッドのなのは達の家で僕やフェイトと一緒に暮らすはずだったんだけど、見ての通り僕はこの状態。

いくらなんでも、保護責任者である僕が側に居ないのは問題。でも、僕は動けない。ということで・・・来るのだ。





そう、この街に・・・この家に。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第14話 『対峙するは黒き輝き 目覚めるは白と蒼と緑・・・多っ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・蒼凪君、それ・・・本当なの?」

「本当だよ。ほしな歌唄・・・そうとう荒っぽい事をしてるみたい」

≪この子が話してくれた事、かなり信憑性が高いと思います。もちろん、現時点で私達はその現場を見ているわけではありませんし、話の全てを正解とするのは間違っているんでしょうが≫

「確かにそうだね。だけど、関連性が無いとは到底思えない。三条君、どう思う?」

「俺もキングや蒼凪さん、アルトアイゼンと同意見です。全てを確固たる物的証拠も無い以上、証言と状況証拠だけで確定とするのは愚か。しかし・・・重要な手がかりではある」





で、翌日のガーディアン会議で・・・話した。エルの事とほしな歌唄の事。

なので、エルが居るのです。ちょこんとテーブルの上に座ってたりするわけです。悪の巣窟に行くのなんて嫌なんて言ってたのを、ふん捕まえて連れてきた。

どうやってこの事を知ったのかという話になれば、エルの事を話さないわけにはいかないから。ついでに、エルを見せれば話に真実味が増す。



そして、全員の表情は・・・りま以外、重い。まぁ、あむはまた違う意味合いだけど。





「しかし蒼凪さん、どうやってこのほしな歌唄のしゅごキャラを?」

「・・・歌唄のところで扱いが相当悪くて、家出してきたんだって」

『家出っ!?』



・・・あー、驚くよね。普通に驚くよね。うん、分かってた。すっごく分かってたよ。だって、僕も驚いたから。しゅごキャラって家出するものなんだって、関心すらしたし。



「で、行き倒れてた所を僕が拾った。たまご自体は、前にほしな歌唄に会った時に見覚えがあったからさ」

「なっ! 何嘘八百を並べているんですかっ!? エルは行き倒れたのではなく、そこのひな」

「行き倒れた。・・・そうだよね?」



僕がニッコリとテーブルの上に居るエルを見下ろすと、エルは・・・コクンコクンとうなづいた。

・・・まだあむが×たまの事話してないんだから、ここでダイヤのたまごの事がバレるのはまずいのよ。



「ふむ、しゅごキャラが持ち主の所を離れて家出・・・興味深いです」

「それであなた、この子どうするの?」



りまが目を合わせずに聞いてきた。・・・とりあえず、恨みっこなしという約束は守ってくれている様子なので、ちょっと安心している。召使い使って嫌がらせとかも無いしね。



「りまさん、それが利口です。恭文さんは、嫌がらせをされたらちゃんと自分の正当性を証明した上で、10倍にして返しますから」

≪まさに悪魔ですよ悪魔。人の皮を被ったケダモノですよ≫

「お前ら一体僕をなんだと思ってるっ!?」



と、とにかくエルの扱いだよ。実はここが悩みどころである。



「・・・それがさぁ、歌唄のところに返そうかとも考えたんだけど、本人が『迎えに来るまで帰らない』ってアホなこと言っててさ」

「アホじゃないですっ! 当然ですっ!!」

「ね、蒼凪君・・・ほしな歌唄って君の家知ってるの?」

「遊びに来たことも無ければ、住所も教えた覚えがないのに、知ってると思う? むしろ知ってたら怖いよ」



僕の言葉に、全員がエルを見て・・・ため息を吐いた。なんか『しゅごキャラと持ち主との絆があるから大丈夫です』とかアホなこと言ってるけど、スルーします。

・・・まじでキャラ質にするわけにはいかないし、かと言ってスゥみたいに料理なり出来るってわけじゃないし・・・ぶっちゃけ、タダ飯たかってる人だよ。



「失礼なっ! エルが居るだけでみんな癒されるではありませんかっ!!」

「エル、今度辞書かウィキペディアで『勘違い』と『荒らし』って言葉の意味を調べた方がいいよ? 今のエルのことが載ってるから」

「むきー! あなた、何様ですかっ!? この愛の天使・エル様に向かってそんな口の聞き方が許されると思っているのですかっ!! 反省するですっ! いや、天罰で今すぐレッドゾーンへごぉとぅへるですっ!!」



僕の前まで飛んできて・・・あぁぁぁぁぁっ! うざいっ!! 真面目にうざいんですけどっ!? なんですかこのフリーダムキャラっ!!



「やかましいっ! なんならおのれをトイレに流してごぉとぅ下水道にしてやろうかっ!? つーか何様って聞いたよねっ! ・・・蒼凪恭文様だけどなにかっ!!」

「あぁ、恭文落ち着いて落ち着いてっ! というか、それやったらしゅごキャラ虐待だからねっ!? ほら・・・唯世の入れてくれたお茶だよー!!」



ややにお茶を差し出されて・・・飲む。グイっと飲む。・・・あぁ、なんか落ち着いた。

・・・やや、ありがと。



「ううん、大丈夫。・・・でもでも、確かに恭文のところで預かるしか選択肢なさそうだよね。あと、フェイトさんもしゅごキャラ見えるようになったんでしょ?」

「うん、おかげさまで。ただ・・・本人も僕達もなんで見えるようになったのかさっぱりだけど」





アリサがどうとかって言ってたんだけど・・・謎だ。全くの謎だ。アリサ、一体なにしたんだろ?





「・・・フェイトさん? 誰それ」

「あ、えっと・・・蒼凪君の家族なんだ。ガーディアンの協力者・・・という感じかな。とにかく、話どおりの事が起こってるなら、僕達でなんとかしなくちゃいけない」



唯世の言葉に、みんながうなづく。・・・あとは、どうするか・・・なんだよね。



「まず、×たま狩りは昨日決めた通り体制強化。僕達もジョーカーについて少しでも数を減らす。だけど、それだけじゃ足りない」

≪×たまの対処の方も大事ですが、敵の目的を探ることも同時進行でやらなくてはいけません。・・・ここはやはり、1番手っ取り早い方法を使うべきでしょ≫

「そうだね。ゲリラライブの現場を捕まえて、ほしな歌唄なりイースターの関係者に直接アプローチを仕掛ける。・・・蒼凪君、リインさん」



唯世が僕を見る。僕とリインは顔を見合わせてから、もう一度唯世の方を見てうなづく。

僕達は二人とも、唯世の言う事が分かったから。つまり、その役目を僕達がやる。



「ちょっと待って。唯世くん、恭文とリインちゃん二人だけでそれは危険なんじゃ」

「でも、僕達がやるよりはずっと成功率が高いし、二人はどちらかと言えばこういう荒事が専門なんだ。
それにね・・・なんだか、すごく嫌な予感がするんだ。出来る限り速いうちに手は打つべきだって、感じるから」

「・・・分かった。でも、恭文もリインちゃんも無茶したらだめだよ? 怪我とかも、絶対無し」

「分かってますよ。リイン達だって、痛いのは嫌ですし」





僕もあむの言葉にうなづいた。・・・嘘ではない。痛いのは嫌いなのだ。

とにかく、方針は決まった。あむはこれまで通り×たま狩り。で、それにガーディアンの面々が交代で付く。

僕とリインはそれとはまた別行動で×たま狩りをしつつゲリラライブを見つける。・・・いや、どうやって見つけるかって問題が残ってるんだけどさ。



そんな時、僕の頭と、隣に座るあむの頭を撫でる手が現れた。それに驚いて・・・いや、気配で分かってたんだけど。まぁ、感触に覚えがあるのでそっちを見ると・・・あ、居た。





「・・・今日のおやつ、かりんとうにマドレーヌって、また両極端だなぁ」

「新Qが日本食がお気に召さなくてね。というか・・・中学校クビになったの?」

「バカ、なってねぇよ。暇だから見に来たんだ」

「空海っ! ダイチっ!!」



・・・そう、後ろから来ていたのは空海とダイチだった。なお、中学校の制服は黒に白のラインが入った少し大人っぽい制服になっている。

パンツも、小学校のものとは違うロングパンツになっている。



「おう。・・・しかしよ、恭文。お前もうちょっと驚くなりしてくれてもいいんじゃねぇのか? 見ろよ、ややなんて俺から離れようともしねぇし」



腕に抱きつき、じゃれるややと話しながら空海は他のメンバーを見る。



「よ。お前らが新ジャックと新クイーンか? 俺は」

「相馬空海先輩・・・旧Jチェアの方ですね」

「おう、よろしくなっ!!」



1番に視線が海里とりまに行くのは、きっと必然なのだろう



「・・・でよ、恭文。話は戻るがもうちょっと驚けよ。そんなんじゃ、尊敬される最上級生には程遠いぞ?」

「いやいやっ! それは関係なくないかなっ!? ・・・てゆうか、そんなこと言われても困る。空海が近づいてたの、気配で分かったし」

「あ、なるほど。つか・・・相変わらずお前すげぇな。足音とか完全に消してたのによ」

「ま、鍛えてますから」



おどけて言うと、空海は笑顔で『そっか』と返してくれた。・・・うーん、なんか空気が一瞬でよくなった感じがするのは、空海の人柄のせいなんだよね。ここは見習いたいな。

僕はどうもこういうの苦手だし。むしろ、僕はいじめる方が専門なのですよ。



「というかさ、やや・・・お前もそろそろ離れろ。つーか、ぶら下がるな・・・」

「だってー! 久しぶりなんだもんー!!」

「バカ、久しぶりって・・・まぁ、そうか。春休み中も会ってねぇしな。でも、ぶらさがるのはやめろ。重い・・・マジで重いから」

「あー、女の子に重いって言っちゃだめなんだよっ!? 空海デリカシー無さ過ぎっ!!」



・・・なぜだろう、こんな事を言う女の子は理不尽だと思うのは僕だけなのかな。だって・・・単純に考えてもあむややや達は目測で大体30キロはあるよ? フェイトだって、多分50前後だよ? 身長ちょっと高めではあるし。

で、30キロとか50キロ前後の物質が女の子だからって重くない道理があるとは、僕にはどうしても思えないんだけど・・・うーん、でもフェイトが乗っかってる時はあんま重さは無いし・・・謎だ。



「相馬君・・・」

「ん、なんだ唯世? ・・・と言うか待て。なんだよその灰色の写真は」



唯世が空海の白黒写真を持って、どこかすがるような目で空海を見る。



「あのね、卒業式の時に言いそびれちゃったんだけど・・・何かあったり困った時、この写真に話しかけていいかな」

「・・・恭文」

「ほい」



僕は机の下からあるものを取り出す。それは・・・ハリセン。

空海はそれを受け取ると、容赦なく唯世に振り下ろした。



「ふんっ!!」



スパァァァァァァァァァンッ!!



「い、痛いよ相馬君っ!!」

「やかましいっ! つーか、それなら普通に電話かけてこいよっ!! なんだよその写真はっ! まるで俺がお亡くなりしたみたいじゃないかよっ!! 縁起でもないっ! マジで縁起でもないっ!!」

「・・・でも、咲耶さんがこっちの方がいろんなことが吐き出せるって」

「あの女の入れ知恵をまともに聞くなー! 唯世、そこは本当にお願いっ!! 基本的にあれは性悪だからっ!!」



・・・咲耶、今日の夜はちょっとお話だ。いや、真面目にだよ? これはありえないから。



「で、日奈森・・・は元気そうじゃねぇな。どうした?」

「え? ・・・あ、ううん。そんなことないよ」

「ジョーカー、お話中のところ申し訳ありませんが、そろそろ×たま狩りの時間なので・・・」

「あ、うん」





それを見て、空海は少し考えるような顔をすると、僕とあむの手を取った。





「うし、今日の×たま狩りは俺とやるぞ。恭文、お前も付き合え」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「旧ジャックっ! 困りますっ!! それでは俺のスケジュールが」

「細かい事は気にするなっ! つーわけで・・・いくぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!」










そのまま、いわゆる『走りこみダッシュ』で僕とあむは空海に引っ張られて行った。





え、えっと・・・これ、なに?










「・・・どーだ日奈森っ! 体動かすと、頭すっきりするだろっ!!」



空海が学校の敷地を飛び出してから数分後、そんな話をしてきた。それにあむの顔がハッとする。

そこで、ようやく足が止まった。



「え・・・なに?」

「分かってるぜ。お前・・・なんか悩んでるだろ」

「へ?」



す、鋭い。あの一瞬で見抜きますか。



「そうだなー、新メンバーに馴染めないとか。自信なくなったからガーディアンやめようとか」



あむに鋭く何かが突き刺さる。当然、あむは驚く。そんな疑問を込めた視線に空海にぶつけると、空海は自信満々な顔で答えた。



「どーだ、冴木のぶ子の占いよりは当たるだろ。・・・つーか、見りゃあ分かるんだよ。ふふん、元ジャックをナメるな。まぁ、アレだ。俺でよければ話してみろよ。な?」

「・・・空海ー!!」

「おわっ!? お前・・・こら、泣くなー!!」



・・・・・・そんな二人の様子を見守りつつ、僕はゆっくりと空気を読んで



「逃げるなよ? ・・・どーせお前も一枚かんでるんだろ」

「な、なぜそこまでっ!?」

「見れば分かる」

「その理屈はおかしいでしょうがっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お、俺の話を・・・」

「海里さん、もう仕方ないですよ。とりあえず、リイン達は他のお仕事をしましょう」

「・・・リインさん、あなたはなぜそのように落ち着いていられるのですか? 正直に言えば、昨日の一件で仕事が溜まって・・・いや、これは俺の責任が多分にあるのでいいんです。
ですが、状況が状況だけに事態への対処の遅延は命取りに」

「それは分かっています。だから・・・恭文さん達を放置するんです」



海里さんが判らないと言う顔でリインを見ます。まぁ、当然ですよね。・・・どうやら、唯世さんとややちゃんは分かったみたいですけど。



「リインちゃん、もしかして・・・恭文の運の悪さに期待してる?」

「正解です」

「・・・どういうことでしょうか?」

「恭文さん、運がそんなによくないんです。よく戦闘が起こるようなトラブルに巻き込まれる事が多くて・・・もしかしたら、恭文さんならリイン達が欲しがってるカードを引けるかも知れません」



なので、懐から携帯端末を取り出します。・・・リインが行くのも手でしょうけど、さすがにこれ以上ジョーカーが居なくなるのはまずいと思うのです。

というわけで、ぴぽぱ・・・あ、繋がったです。



「あ、もしもし。フェイトさんですか? えっと、実はお願いがあって・・・」










電話をしながら、ランちゃん達を見ます。・・・どうやら、あむさん達を追いかけるようですね。あと、エルさんも同じくです。





うーん、これでいつものパターンで行くと・・・絶対なにか起こるです。さて、どうなりますかね〜。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・日奈森のたまごに×が付いて、学級崩壊して、挙句ほしな歌唄が主立ってまたイースターが動き出したと。また新年度早々厄介な事になってんな」

「正直ね、どれか一つにして欲しかった。もしくは一つずつにして欲しかった。これ、一度に処理は無理だって」

「そうだな、俺もそう思う。で、日奈森はそういうのが一気に来て完全に参っていると」

「ん・・・ほんと、らしくなかった・・・のかも。分からないんだ、あたしのキャラ、あたしらしさ」



遊歩道を、三人でアイスを食いながら歩く。なお、全部僕のおごり。理由? この中で1番年上だからですが、なにか?



「いや、とか言いつつ自分が1番のっけってるだろうが」

「うっさい。どうせ自分の金なら、派手に行きたいんだ」

「なるほど、納得したわ。・・・でよ、日奈森。それ・・・みんな同じだぞ? なぁ、恭文」



空海が軽くそう言うと、うつむいてた顔を上げて、あむが空海を見る。その表情には、どこか驚いたものを感じられた。



「・・・まぁ、そうだね。僕らしさとか言われても、明確な答えは出せないかな」

「だろ? 俺だって俺らしさなんて聞かれても、分からねぇよ。今だって、サッカー部に入るかバスケ部に入るか、はたまた陸上部に入るかって、悩みまくってるしな」

「なんだ、そんなこと・・・?」

「おいおい、そんなことって言うなよ。俺はかなり悩んでるんだしよ」



というかですよ? またすっごいので悩んでるなぁ・・・。ちなみに陸上部、何をやるつもりで?



「あ、砲丸投げ」

「やっぱり丸いもの関連っ!?」

「・・・てゆうかさ、空海。空海はサッカー部のキャプテンだったんだから、サッカー部入ればいいんじゃ」

「なんでだ?」



本当に、どうしてそうなるのか分からないと言う顔で聞いてきたのは空海。あむは、それを見てちょっと固まる。



「そりゃあサッカーは好きだし、勧誘も来る。でもよ、お前が今言ったのは、サッカーやってりゃあ俺らしいってイメージに基づいてだろ?」

「・・・うん」

「でもよ、俺はもっと・・・色んな俺に挑戦したい。俺らしさなんてよく分からねぇけど、その方がワクワクするじゃん」



どこか楽しげに空海はそう言う。・・・いや、本当に楽しいんだ。分からないものに、未知なものに、期待と希望を持ってその目を向けている。



「自分が自分で、分からないのに?」

「当然だ。だってよ、わかんねーってことは・・・どんな自分にもなれるってことじゃね?」



空海の言葉に、あむの表情が少し変わった。どこか、鬱屈としたものが抜けたような、そんな・・・明るい顔になった。



「なぁ、恭文。お前は・・・どう思う? なりたい自分や自分らしさなんて言うのに、明確な答えなんて、出す必要あると思うか?」

「・・・ないよ。僕もね、そうだったから」



歩きながら、アイスを一口パクリ。

そうしてあむを見る。やっと・・・どう言えばいいのか分かったから。



「いいじゃん、人から見たらしさなんてどうだってさ。迷ったっていい。自分が分からなくたっていい。僕も・・・正直分からないし、迷う事は沢山ある」

「・・・恭文も? 私や空海より大人なのに」

「まぁ、二人に比べたら、ある程度自分の答えってのは出してるよ? でも、それでも分からない事だらけだよ」

「なら・・・私も、迷ったりしていいのかな。自分が分からなくて、いいのかな」





僕と空海がうなづくと、あむの表情が柔らかくなった。・・・どうやら、大丈夫みたい。まぁ、少しだけ持ち直した感じかも知れないけどさ。



空海の方を見る。サムズアップで返事してくれた。で、僕も左手で返す。



・・・さて、そろそろかな。





「・・・つーわけで、話はまとまったから、出てきていいよ?」





最後のアイスをパクリと食べる。で、コーンもそのまま頂く。



それらをしっかり租借してから・・・言葉を続ける。





「あ、あの・・・恭文?」

「隠れてるならそれでよし。その代わり、それごと撃ち抜くけど」





僕はそれだけ言うと、近くの木に向かって左の人指し指を向ける。そこでようやく、影は現れた。



金色の髪のツインテール、気の強い瞳、そして黒のワンピース。・・・まさか、自分から出てくるとは思わなかった。





「ほしな・・・歌唄っ!?」

「正解よ、日奈森あむ。・・・お久しぶり、恭文」

「久しぶり。でさ、また随分とご活躍らしいじゃないのさ。正直すっごく会いたかったんだ。ちょっとそこの喫茶店で、ゆっくりと語り合わない?
主に最近やってるって言うゲリラライブと、その腰の黒いたまごの子との関連について」



僕がそう言うと、歌唄が僅かに表情を顰める。僕の言っている意味が分かったらしい。

だけど、すぐに元の不敵な表情に戻して、言葉を続ける。



「残念だけど、それは無理よ。私、好きでもない男と二人っきりで喫茶店なんて入りたくないの。もしかしたら、なにかの拍子に手とか繋がれるかも知れないじゃない?」



・・・それは心外だね。僕をそんなセクハラ野郎と一緒になどして欲しくない。僕はいつでもどこでも紳士的よ?



「というより、随分耳が早いのね。ゲリラライブの事、もう気づかれてるとは思わなかったわ」



あっさりと歌唄は認めた。ゲリラライブの裏の目的をだ。・・・全く、やりにくいったらありゃあしない。でも、手心は加えるな。このまま放置なんて、出来ないんだから。



「否定とかしないわけ?」

「言ったでしょ? 私、こそこそするの嫌いなの」

「さっきまで隠れてた人間の言うこととは思えないね」

「あら、空気を読んであげたのよ。でも、それもこれでおしまい」





歌唄の左手が上がる。そのまま、黒い衝撃波が襲って来た。僕は動かず、歌唄に向かってスティンガーを発射。スティンガーは衝撃波を突き破り、歌唄に向かう。



だけど・・・歌唄は左に飛んで避ける。僕は衝撃波を食らうけど、全然問題無い。ちょっと強めの風程度の威力しかない。





「あぁぁぁぁっ! 俺のアイスがー!!」





なんか聞こえたけど、問題はない。そして、またにらみ合う。





「・・・例のホーミングじゃないのね」

「僕、撃つより斬る方が好きでさ」

≪Riese Form≫



そのままジャケットを装着。腰からアルトを抜く。



「そう。でも、今日の目的はアンタじゃないのよ。・・・というか、エル」



へ? エルって・・・歌唄の視線を追いかけると、居た。エルとラン達が。どうやら僕達を追っかけてきたらしい。



「歌唄ちゃんっ! エルを迎えに来てくれたのですねっ!?」

「違うわ」



あ、地面に落ちた。ま・・・またひどいことを。あぁ、なんか泣き出したし。



「というより、アンタ・・・見かけないと思ったら、日奈森あむのしゅごキャラになってたの?」

「違いますっ! エルは現在蒼凪恭文の家に居候中の身なんですっ!!」

「そう、だったらずっと暮らしなさい。アンタ、いらないから」



その言葉に、エルが固まる。・・・とりあえず、歌唄に視線を戻す。まだだ、まだ・・・抑えろ。



「う、歌唄ちゃん・・・どうしてですか? どうして、そんなことを」

「簡単よ、私には新しいしゅごたまがあるから。ほら」



そう言って、右手で持って出してきたのは・・・ダイヤのマークが付いている×たま。

つーか、あれは・・・あむのたまごじゃないのさっ! なんで歌唄がそれをっ!?



「それ、あたしの・・・! 返してっ!!」

「違うわよ。・・・ほら、私の周りから離れない」



たまごは確かに、歌唄の周りを飛ぶ。本来の持ち主であるあむの方へは近づこうともしない。

そして、変化はそれだけじゃなかった。歌唄のうしろからまるで沸くように、黒い人形達が・・・おいおい、またこれかい。



≪数・・・30以上ですか。少々骨が折れそうですね≫



確かに。でも、やるよ。このチャンス、逃すわけにはいかない。



「・・・歌唄、いつからこそ泥になったのさ。人のものをブン取るアイドルだって、ゴシップ週刊誌に書かれるよ?」

「確かにそうね。それなら、こうしましょうよ。私が負けたら、たまごは返す。それで私が勝てば・・・その役立たずはいらないわ。その代わり」



歌唄が指差す。あむ・・・いや、あむの身に着けているあるものを。



「アンタのつけてるハンプティ・ロック、私にちょうだい?」



歌唄の視線を追いかける。それが向けられていたのは、あむがいつも首から提げているおしゃれな南京錠だった。

四葉のクローバーを模していると思われるクリスタルの装飾が施されたそれに、歌唄の視線が突き刺さる。あむが思わず後ろに下がる。



「ちなみに、その心は?」

「簡単よ。アンタは知らないでしょうけど、イクトがそれと対になるキー・・・つまり、鍵を持ってるの。鍵と錠、イクトが鍵を持つなら、錠は私が持つべきだと思わない?」

「知らないね。・・・歌唄、その前に役立たずってのは誰のこと?」

「エルよ」



あっさりと言い切りやがった。だけど、まだ言葉を続ける。



「で、いらないのは?」

「エルよ」

「・・・最後に一つ。どうして、エルをいらないと言う」

「優しくても、弱いんじゃ意味ないもの。戦いに、競争に勝つためには強くなくちゃ。その子、アンタにあげるから好きにしちゃっていいわよ?」





踏み込んだ。もう・・・色々限界だったから。だけど、途中で足を止めた。歌唄の前に立つ影があったから。

それは、右の手で歌唄の頬に平手を叩き込んだ。その音が辺りに響く。

僕から見えるのは揺れる金色の髪。握られた左拳だけ。あと、驚きに染まる歌唄の顔。乱入者の顔は見えない。だけど、見える。



どこか・・・悲しげな表情が。長い付き合いだから、どういう顔をしているか、分かる。





「・・・弱いから、役立たずだからいらない? ふざけないで」





言葉は続く。突然の乱入者は、睨む歌唄に一歩も引かない。





「あの子は、あなたの『なりたい自分』だよね? 持ち主であるあなたがあの子を否定したら、あの子を信じなかったら、消えちゃうって知ってるよね?」





歌唄は右手を先ほど自分がされたように打ち込む。だけど、その女性は左手でその腕を掴む。掴んで・・・握り締める。





「あなたのその言葉で、今ここに居るあの子が・・・どれだけ傷ついたか分からないのっ!? 弱いことの、負けることの、一体なにがいけないのっ! どうして・・・もう一人の自分に、そんなことが言えるのっ!!
そんなあなたがあむさんに勝つっ!? ・・・勝てるわけがないっ! 本当の強さも、優しさの意味も分からないあなたは、誰にも勝つことなんて出来ないっ!!」

「うる・・・さいっ!!」





握り締められた腕の手の平を開いて、至近距離から歌唄は衝撃波をその女性に打ち込む。だけど、避けられた。その女性は、歌唄の目の前から消えたから。



そして、金色の雷光を纏った上で僕の隣に来た。・・・私服姿のフェイトが、僕の隣に居る。





「フェイトさんっ!? どうしてここにっ!!」

「リインから連絡を貰って、追いかけてきたんだ。あと、私だけじゃないよ?」

「私も居ます」



後ろから声。そっちを見ると・・・咲耶が居た。呑気に手なんか振ってくる。というか、リイン・・・気を利かせすぎでしょ。全く、恐ろしいパートナーだよ。

そのまま、咲耶は僕の隣に来る。いや、あむと空海も同じくだ。



「フェイト、下がってて」

「分かった」

「あと・・・はい」



左の手の平をフェイトに向ける。フェイトは、疑問顔になる。だから、そのまま言葉を続けた。



「イライラ、全部引き受けるから、渡して」

「・・・うん」



そうして、右の手の平をパシーンと僕の手に叩きつけ・・・痛がった。

まぁ、当然だよね。だって僕ジガン装着状態だし。



≪・・・アホでしょ≫

「うぅ、そう思います。と、とにかく・・・下がってるね」

「うん」



フェイトはそのまま下がる。空海もキャラチェンジして、僕も戦闘態勢はオーケー。

そして、そんな僕達を見て、歌唄は笑う。



「・・・バカな人ね」

「ほう、フェイトがどういう具合にバカなのさ」

「優しさとか、ゆとりとか、そんな事を言っても蹴落とされるだけなのに。きっと、負けてばっかりなのよね」

「うんにゃ、むしろ勝ち組のエリートだよ。若手の出世頭もいいところだ」



僕がそう言うと・・・歌唄が鼻で笑った。どうやら、本気にはしてないらしい。



「あと・・・フェイトのこと、言えた義理じゃないでしょうが。フェイトがバカなら、お前は大バカだ」



そのまま、一歩踏み出す。落ち込んで、傍らを飛んで来たエルをひっ捕まえて、左の手の平に乗せる。



「どういう意味かしら」

「エルは、敵である僕達になんて言ったと思う? ・・・お前を助けたいって、必死にお願いしてきたんだよ。自分では止められないから、なんとかして欲しいって」



必死に、泣きそうな顔で・・・懇願してきたらしい。こんなこと間違ってるはずだからと、必死に・・・。

その様子に、フェイトもラン達も動かされたとか。それがフェイトの気合いの入り方に繋がってるから、またすごいよね



「そう・・・。バカね、思いっきり裏切りものじゃない」

「やっぱ、お前バカだわ。それも、取り返しの付かない究極のバカだ」

「・・・なんですって」



歌唄が僕を睨む。それを鼻で笑ってやると、更に視線が強くなる。



「ただ勝つだけなら、どこぞのロボットでも出来る。でもね・・・勝ったからって、強いってことにはなんないのよ。確かに、優しさってのは弱さでもある。そこは事実。でも・・・優しいって事は、無茶苦茶強いってことでもあるんだ。
力だけじゃ、勝つだけじゃ、それだけじゃあ絶対に守れないものがある。絶対に手に出来ない未来がある。それをつかむための力が・・・優しさなんだ。弱いからこそ、分かる事が、守れるものがあるんだ」



そのまま、歩き出す。止まらず・・・揺らがず、左手にエルを乗せたまま。



「フェイトも言ってたけど、僕からも言ってあげるよ。・・・それを理解出来ないお前に、僕達は負けないよ。
この子を、自分の中に居る弱さ・・・ううん、優しい自分を認めず、否定することしか出来ないお前なんかには、絶対に負けない」

「恭文さん・・・」



・・・いくよ、アルト。このバカ・・・叩き潰す。



≪えぇ、やりましょう。この腐った勘違いは、今すぐ修正しなくては≫

「・・・つーかアンタもあの女もこの私にそんな口を叩くなんて、一体何様よ」

「通りすがりの古き鉄とその嫁だ。・・・覚えておけ」










なんか叫び声が聞こえたけど、気のせいとしておく。そうだ、気のせいなんだ。

『ま、まだ嫁じゃないよっ! いや・・・あの、お嫁さんになってもいいなとは思ってるけど・・・あの・・・えっと・・・!!』とか聞こえたのは・・・気のせいじゃない。





ここに関しては、あとでしっかり追求することにする。





・・・なんて考えたその瞬間、辺り一帯が光に満ちる。





僕達がそれに驚いてその発生源を見る。そこにはあむが居てあむの胸元にあるロックから光が溢れていた。溢れた光は、その場を更なるカオスに誘うため、力をばら撒いた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・優しいけど、弱い自分・・・そっか、歌唄にとってエルはそれなんだ。

だから、勝つためにそれを否定して・・・だけど、それは違う。きっと違う。

弱くたっていいじゃん。恭文だって今言ってた。弱いから、優しいから分かるものが、守れるものがあるんだって。それは、強さなんだって。





嫌だ。





あたしは・・・このままなんて、絶対に嫌だ。





あたし、歌唄の事別に嫌いとかじゃない。嫌いになんてなれない。





だって、優しくて弱い自分を、ちゃんと持ってるじゃん。そんな人を、嫌いになんてなれるわけがないよ。





その瞬間、胸元のロックから、光が溢れ始めた。その光を浴びてると、力が沸いてくる。





これ・・・なに?










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”私の声が・・・聞こえるか?”





あれ、この声・・・誰の?





”聞こえるようだな。すまないが、少しだけお前の力を貸してくれ”





ボクの? というか、君・・・誰なの? 姿も見えないし。





”少し事情があってな、姿は見せられないんだ。・・・頼む、今のところ、お前が1番波長に合う”










あの、それってどういう・・・あ、あれっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむさんが、ヤスフミの手の平の上に居たはずのエルちゃんと一つになる。エルちゃんはたまごに包まれて、あむさんの胸元へと吸い込まれる。





そうしてあむさんの姿が変わった。白いワンピースを見に付け、背中に天使の羽を付けた・・・あれ、なんて天使?










「キャラなりっ! アミュレットエンジェルっ!!」










それだけじゃない。空海君の頭にゴーグル、昔空軍で使われたようなフライジャケットとロングパンツ、ブーツを見に付け・・・ブースター付きのスケボーに乗ってる。





と、というか・・・まさか、アレはキャラなりっ!? あむさんと新Q以外はキャラなり出来ないはずだったのにっ!!










「キャラなりっ! スカイジャックっ!!」





な、なんですか・・・これ?




「なに・・・これ。この光は、なに? 浴びているだけで、体中に力が・・・」



そうして、ほしな歌唄の隣にあったたまごが割れた。その中から出てきたのは、黒い肌に黒のワンピース。金色の髪をカチューシャで一つにしている。ただし、カチューシャが問題。

ダイヤの形に・・・×が上から付いている。アレ、たまごが孵ったってことっ!?



「ダイヤ・・・」



そのまま、ほしな歌唄が光に包まれた。そこから出てきたのは、黒い宝石。

黒の皮製のシャツとミニパンツに編み上げタイツ、黒いヒールを履き、ツインテールを結んでいた髪飾りは輝く二個の宝石を模したものになる。あれ、もしかしなくても・・・キャラなり。



「キャラなり・・・ダークジュエル」



そのあまりの状況に、全員が驚く。場の空気が騒がしい。

私も、その・・・ちょっと混乱してる。



「う、うそですぅ。ダイヤのしゅごキャラとほしな歌唄さんが、キャラなりしちゃいましたぁ」

「残念ながら、嘘ではありませんよ。恐らくですが、あのロックからの光が原因でしょう」

「というかというか、エルとあむちゃん・・・空海とダイチ・・・ほしな歌唄さんとダイヤが、キャラなりしちゃったよっ!? ねぇ、ミキ・・・あれ、ミキ?」





ランちゃんが私の周りであっちこっち見る。・・・私も見る。あれ、ミキちゃんが・・・居ない。





「と、というか・・・なんだよこれっ!? なんで俺達までキャラなりっ!? 俺の心までアンロックかよっ!!」

【空海落ち着けっ! というか・・・よ、あれなんだ?】

「はぁ?」

【ほら、あの青いの】





その場に居た全員がその青いのを見る。そして、その中から声が聞こえた。





【・・・ねぇ、これどうなってんの? なんでボク・・・これ?】

「僕が聞きたいんですけど」

≪まぁ、アレですよ。ほら、あなた謝ってくださいよ≫

「だから僕だってわけわからないんだよっ! なんだよこれっ!? なんなんだよこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





そう叫ぶのは、ヤスフミ。だけど、いつものヤスフミじゃない。

まず、ジャケットが違う。ジガンスクードや両足のブーツの形状が流線型になっていて、デザインが変わっている。

そして、ジャケットの両肩と両手の甲の部分にスペードを模したと思われる装飾が付いている。



色合いも、普通の状態よりもより明るい色・・・ミキちゃんがいつもつけているスペードの飾り付きの帽子と同じような色合いになっている。

ロングパンツも黒というよりは藍色に近い色合い。そして、腰にはスペードのマークが付いた特殊なバックル・・・あれ、確かあれ・・・どっかで見たような。

そしてマント・・・それが首元に巻かれた長めのマフラーみたいになっている。その裾は、右と左と両側に別れている。



ベルトの右側にカードホルダーらしき物があるし、こ・・・これは・・・なにっ!?





【よし、冷静に考えよう。・・・キャラなりしちゃってるみたいだね】

「しちゃってるみたいだね・・・じゃ、ないからぁぁぁぁぁぁぁっ! する要因が無いのに、なぜこれっ!? 訳分からんわっ!!」

≪だから、あなたが謝ってくださいよ。そうすれば万事解決しますから≫



しないよっ! さすがにそれは無理なんじゃないかなっ!? それにヤスフミは悪くないよねっ!!



「く、くくく・・・よくは分からないけど、チャンスよっ!!」



ほしな歌唄がそんな事を言って右の指を私達に向かって差す。すると、待っていましたと言わんばかりに人形達が飛び出す。

そのまま、人形達は空海君やあむさん達をすり抜けて、私達のところへ・・・。



「行かせるわけ、ないでしょうが」



声は、本当に前から聞こえてきた。そこには・・・姿を変えたヤスフミがいた。

うそ、動き・・・見えなかった。



「ミキ、とりあえず考えるのは後。・・・いくよ」

【了解】





そのまま、腰の左に付けられた鞘からアルトアイゼンを抜く。



でも、その刀身が違う。いつもは銀色なのに、今は虹色だった。





「うわぁ、リアル『にじ』だぁ。僕ね、7周して『にじ』七本集めたよ」

≪あぁ、やってましたね。クロノでトリガーなやつで。さて、この状況ですけども、技とか分かるんですか? こっちから魔法発動・・・どうも出来ないみたいなんですよね≫

「完全に不思議キャラってわけですか? ・・・ふふふ、大丈夫。魔法少女的なアレのおかげか、頭の中にコマンド表が入ってる。10連コンボも即行ける」

【いやいやっ! コマンド表ってなにっ!?】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「空海、半分引き付けて。その間に、残りを片す」

「了解っ!!」





空海が、一団の間を突っ切り、二分割する。



ブースターつきのスケボーに乗り、そのまま逃走。半分が空海を追いかけて走り出す・・・いや、飛ぶ。おいおい、飛行能力まであるんかい。





「おらおら・・・こっちだこっちっ!!」





空海が引き付けている間に、僕は突っ込む。というか・・・あれ、なんかすっごく速くて・・・一団にぶつかるーーー!!



地面を蹴って、宙に上がるようにして一団を飛び越え・・・って、なんか一気に数十メートル上がってるしっ!!

周りの風景は空の青。わぁ、町並みが綺麗・・・って、加減間違えた。

くそ、さっきは上手く行ったのに。ちょっとピーキー過ぎるぞ、これは。





≪どうやら、この形態・・・スピード重視らしいですね。普通に高速移動魔法のレベルでスピード出てますよ≫

【というか、これだとボク達、あれをなんとか出来ないんじゃ】

≪あぁ、問題ありません。・・・コマンド表、読み終わりましたか?≫

「・・・ぱーぺきっ!!」



まずはこの速度に慣れること・・・いや、この速度に合わせた思考に切り替えること。そうしないとどうにもならない。



【そんなこと、出来るの?】

「出来る。・・・忘れた? 僕、アクセルやソニックムーブって言う高速移動可能な魔法、使えるんだから」

【そう言えば・・・】

≪スピードはそれらとほぼ同じくらい。基本さえ忘れなければ問題ありません、もう知っている領域なのですから。なにより・・・≫



・・・思考のスイッチを変える。



「僕の本当の意味での最高速は・・・こんなもんじゃない」





普通の移動ではなく、アクセルやソニックムーブを発動している時の思考に。あれなら行ける。

必要なのは集中。そして積み重ねてきた基本と反射。

高速移動になればなるほど、雑な挙動は厳禁。大事なのは基本に忠実な動き。



あと、勘に頼った動きも厳禁って言われるけど、僕はそうは思わない。第六感って、大事だもの





「ミキ、ちょっと酔っちゃうかも知れないけど、ぶっ飛ばしちゃっていい?」

【大丈夫。思いっきりやって】



その言葉に頷いてから、僕は地面に向けて突進した。普通に飛べる形態らしい。いつもの感覚で飛ぼうとしたら、即座に応えてくれた。

空気を切り裂き、空間を突きぬけながら、僕は・・・虹色のアルトの刃を、一体に打ち下ろす。



「はぁっ!!」





人形一体を両断すると、人形は粉々に砕けた。そして、その中から白いたまごが出てきて・・・どこかへと飛んでいった。



普通に斬るだけで浄化か。こりゃあ楽でいいわ。・・・次が出てきた。一気に十数体が正面から飛び掛る。

いや、足を止めて左手を上げる。そして、黒い光弾を放ってきた。

光弾は地面へと着弾して、路面を破壊する。あっという間に、歩道の路面は抉れて見る影もなくなった。





「・・・1対多数での高速機動戦闘の基本その1。一つ所にとどまらない」

【その心は?】

「止まってたら、あっという間に蜂の巣だ。そして、高機動型ってのは、往々にして装甲が低くて打たれ弱いって相場が決まってるの」

【なるほど、納得だよ】





もう、連中の後ろは取ってる。・・・マジで速いし。ちょっとでも気を抜いたらコントロールミスりそうだ。こりゃ、本格使用は訓練必要かな。



とにかく、連中が振り向く前に僕はアルトを左から打ち込み、まず一番後ろに居た奴を仕留める。

それから一歩・・・本当に一歩踏み込み、袈裟にアルトを打ち込む。返す刃で左下から袈裟に一撃。これで・・・三体。

また飛んで来た弾丸を跳んで避けて、僕は連中の頭上を取る。そして、左手をかざす。





「基本その2・・・確実に攻撃を当てて、一撃で仕留める」

【そうしないと、簡単に囲まれちゃうからだね。・・・あ、恭文。僕にもコマンドが浮かんできたよ。アレ、使えるみたいだね】

「うん、だから・・・いくよ」





・・・なぜコレがコマンド表にあったのかは、気になるところだけど、構うことなく発動する。



左手に浮かぶのは虹色のスフィア。それ構築してから、引き金引く。





【カラフル・クレイモアッ!!】

「ファイアっ!!」





虹色の散弾が人形の身体を貫き、砕く。そうして、人形が倒れた。僕はそのまま着地。・・・5体、沈めた。たまご・・・オーケーと。うん、さすがに魔法少女的な能力だけのことはある。クレイモアもオーケーとは。



そして、左右から残った7体が飛びかかってくる。僕はそのまま前に飛ぶ。人形達は正面衝突する形でぶつかり、動きが止まった。





【1対多数の基本その3はなに?】

「最初から最後までクライマックスっ!!」

【うん、いいことだっ!!】



右足で地面に着地。そのまま僕は前に飛ぶ。・・・虹色の刃に力という名の光が灯り、全てを斬り裂く刃となる。それを僕は・・・右から打ち込むために、一気に動きが止まった所に踏み込んだ。

距離は一瞬で零になる。人形達が散開しようとするけど、遅い。



【「鉄輝・・・!!」】



虹色の斬撃が、右から打ち込まれ、黒き戒めとなっている人形を真一文字に斬り裂く。



【「一閃っ!!」】



僕達の眼前で人形は倒れ、そのまま砕ける。そこから、たまご達は解放される。



【・・・すごい。力強くて、速くて、全てを断ち切る斬撃・・・なんて美しいんだ。これはもはや芸術だよ】

「う、美しいって・・・そうかな?」

【そうだよ。このボクが言うんだから・・・あ、そうだ。このキャラなりの名前、ハイセンスブレードにしない?】



名前・・・あ、そう言えば、魔法少女にありがちなこう・・・名前のお告げとかなかったしなぁ。



【・・・あぁ、あるね。なぜかポーズとか分かっちゃうってやつ。ちなみに、ボクもなかった。だから、提案してみた】

「そっか。・・・やっぱり年齢かな。ギリギリどころかぶっちぎりでアウトだしなぁ」

【そうだね。ティアナさんの年でもギリギリアウトだし】



アレだよ? プリキュアだって最初の変身で名乗りとかポーズとか全部お告げで教えてもらえるのに。まぁ、その辺りは後で考えるとして・・・今は名前ですよ。



「実は、僕も考えてた。・・・スペードフォームってよくない?」

【それはだめっ! ダサいもんっ!!】



なんでっ!? 分かりやすくてかっこいいのにっ!!



「なら、ブルースペードっ!!」

【却下却下っ! だから・・・恭文のセンスは本当にどうなってるのっ!?】

「おいお前らっ! 口喧嘩はいいけど・・・いつまでこうしてればいいんだよー!!」



空中から空海の声がする。・・・おぉ、人形にすごい勢いで追いかけられて、大変そうだね。後ろから黒い弾丸が飛んできたりして怖そうでもある。

空海頑張れー! 僕達は応援してるよー!!



「応援するなぁぁぁぁぁぁっ! つーか、助けろよっ!! なんか射撃してきて大変なんだぞ、こっちはっ!!」

「ならー、僕の方に真っ直ぐ向かってきてー! で、避けてーって言ったら避けてねー!!」

「分かったー!!」





というわけで、向かってくるので・・・僕は左手を使って右腰のカードホルダーからカードを取り出す。絵柄は『10・J・Q・K・A』の五種類。というか、トランプ。それを、前方に放り投げる。



するとそれらは、その順番で僕の前に並ぶ。一番手前は10。そして、最後はA。まるで、何かの障壁のように立ちふさがる。・・・いや、敵を見定める。





【いや、あの・・・僕これ何かのビデオで見た事あるんだけど。もっと言うと、あみちゃんとお母さんが見てたディケイドでこんなのが】

≪あぁ、剣(ブレイド)の最強フォームの必殺技ですね。多分、この人のイメージに引っ張られたんでしょ。青で剣でスペードって事でこうなったんでしょうね≫

【やっぱりそういうのなのっ!?】





トランプは青い光の障壁となる。でも、それは阻むためじゃない。力を増幅し、攻撃を届かせるため。



虹色の光が刃に集まる。それを僕は・・・袈裟に打ち下ろし、解き放った。





「ロイヤル・ストレート・フラッシュっ! 避けてー!!」




光の弾丸として飛び出した虹色の光はAのカードを突き破る。

次に10・・・J・・・Q・・・最後にKのカードを突き破ると、それは太く、大きな力の奔流に変わった。

そのまま・・・空を飛んでいた黒い人形を飲み込み、空で弾けた。



空を見ると・・・はじけた虹色の光。その中に、白いたまご達があって・・・どこかへと飛び去っていった。





「・・・気持ちいいー」

【そう、それは・・・よかったね】

「つーか、恭文っ! お前・・・俺危うく直撃食らうとこだったじゃねぇかっ!! なんだよあれっ!?」



空海が僕の横に下りてきてなんか言い出したけど、気のせいだ。大丈夫、ちゃんと警告はしたから。



「いや、だから避けてって」

「そういう問題じゃねぇからなっ!?」



そんなことはともかく・・・なんか空海が睨んでるけど、気にしてはいけない。もっと気にする事がある。それは・・・あれだ。



「ね、空海。あれは・・・なに?」

「・・・日奈森が白旗振ってるようにしか見えねぇな」



そう、あむが白旗を振っていた。歌唄が右手からこう・・・黒い光の攻撃をバーって放ってる。



「シャイニングブラックっ!!」



あぁ、それそれ。で、どうも光を放出する拡散技みたいなんだけど、それから逃げ回って、とにかく白旗を振っている。

とりあえず、聞いてみよう。



「・・・あむー、それはなにー?」

「知らないわよっ! エルが『ホワイトフラッグ』とか言って勝手に出したのっ!!」

【うぅ・・・だって、歌唄ちゃんと戦うなんてやっぱり出来ないですー!!】





・・・僕は、もう一度アルトをしっかりと持った。あの調子じゃ、無理だ。とにかく、ほしな歌唄を止めないといけない。だから、僕は踏み込んだ。



踏み込んで・・・崩れるようにひざをついた。





「恭文っ!?」



瞬間、ミキとのキャラなりは解除。僕の隣にミキがぜーぜーと息を吐きながら出てきた。

かく言う僕も、結構体力を消耗してる。というか・・・きつい。



【おい、大丈夫かっ! しっかりしろー!!】

「ダイチ、耳元で大きな声出さないで。・・・大丈夫、まだ動ける」



というか、なにこれ。いや、体力切れなのは分かるけど。そして、それは僕だけじゃなかった。

目の前で、あむと歌唄も同じようにキャラなりを解除して、崩れ落ちる。二人とも、ぜーぜーと息を吐いている。これ・・・どういうこと?



「電池切れってとこか?」



声は上から。立ち上がって・・・見据える。

木から下りてきたのは、月詠幾斗だった。・・・くそ、嫌なタイミングで。



「ガチなタイマンに大暴れ、おつかれさん。で・・・ほれ」



そのまま、僕と空海の所に来て、あるものを差し出した。それは、スーパーの袋。

いぶかしみながらもそれを受け取る。中には・・・え、ガリガリ君に、チョコモナカに小豆バー。これ、アイス?



「・・・なに、これ?」

「歌唄が落っことしただろ。あ、お前は食うなよ? 全部食べてたんだからな。あむとそっちの奴だけだ」

「え、これあのアイスの弁償っ!?」



僕の言葉にうなづいた。・・・な、なんかズレてる。というか、すっごく気が抜けたんですけど。



「あと・・・悪かったな」

「へ?」

「ちょっとイクトっ!?」



ふらふらしながらも、歌唄が月詠幾斗の方へ行く。で、僕達の方にあむと、事を見ていたフェイトと咲耶も来る。

え、えっと・・・なんですか、これは。



「なんでじゃねーだろ。お前も謝れ」

「いや」

「いいから謝れ」

「やだもん、私・・・絶対悪くないし」



どの口からそんなことが言えるのかを是非聞きたい。兵隊連れて襲撃は十分に悪事だと誰かあのバカに教えてあげて?



「歌唄」

「なによ、あむの味方ばかりしちゃって・・・もう、イクトのばかー!!」



そのまま、歌唄は幾斗を押し倒し・・・えぇぇぇぇぇぇっ!? な、なんか押し倒して胸に腕をこう・・・とんとんとしてるっ! キャラが違うっ!! もっと言うと声色が違うっ!!

な、なんですかこれはっ!? てゆうか、ちょっと泣いてるしっ!!



「ばかばかっ! イクトのばかっ!! なによ、あむのことばっかり気にしちゃって・・・私の気持ち、知ってるくせにっ!!」

「気持ちって、おま・・・」

「ん・・・」



そのまま、歌唄は顔を月詠幾斗に近づけ・・・唇を重ねた。そして、濃厚に・・・こう、舌とか絡めてる感じで・・・ディープにしてる。



「な・・・な・・・なにやってるのあなた達っ!? だ、だめっ! そういうのはもっとこう・・・二人っきりになれるところで」

「フェイトさんっ! それもちょっと違いませんっ!? というか、あれの・・・えぇぇぇぇぇぇっ!!」

「お、大人の世界ですぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

「バカっ! 歌唄やめろっ!!」



歌唄を月詠幾斗が引き剥がす。それも結構力いっぱいに必死な感じで。どうやら、真面目にあれはアウトと思ったらしい。かなり慌ててるし。

まぁ、公共の場でこれは・・・ねぇ?



「だって・・・!!」

「だってじゃないっ! 俺達兄妹だぞっ!?」




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?





















「ちょ、ちょっと・・・よろしいでしょうか? 月詠幾斗さん」

「あぁ、なんだ? こっちは今忙し」

「いいから答えろ。・・・きょうだいって、なに?」

「なにって、そのままだよ。歌唄は俺の実の妹だ」




















この言葉に、僕達は完全に固まった。そして、次の反応はこうなる。




















『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』










うん、叫ぶね。思いっきり叫ぶね。そりゃ仕方ないって。










『兄っ!?』





全員が月詠幾斗を見る。そして、次は歌唄。





『妹っ!?』



え、これ妹キャラなのっ!? ツンデレ妹キャラ・・・ありだと思いますっ!!



「・・・そうよ、私の本名は月詠歌唄。血の繋がったイクトの妹。
でもっ! イクトを好きな気持ちは誰にも負けないっ!!」



み、認めやがった・・・。いや、誰にも負けないとかじゃなくて・・・あぁ、どこからツッコめばいいんだよ、これ。



「なのに・・・なんであむばっかり。こんなにイクトが気にした女の子、今まで居なかった」

「え・・・?」



あむが月詠幾斗を見る。猫男は、起き上がりつつ唇を拭く。

・・・ねぇ、それってさすがにマナー違反じゃないの? いや、分かるけどさ。実の妹からコレは、さすがにびっくりだけどさ。



「何言ってんだ、お前だって最近はあのチビスケが気になるって言いまくっごふっ!!」



あ、後ろ足で蹴られた。・・・迂闊な奴。

そして、歌唄はあむににじり寄る。というか、僕達もちょっと怖いので下がる。だって・・・後ろに憤怒の炎が見える。



「とにかく・・・イクトに寄り付く悪い虫は、全て私が追い払ってきた」

「え・・・あたしっ!? ちょ、ちょっと待ってっ! アタシは別にイクトの事なんて」

「冷たいな・・・。夜の遊園地でデートした仲だってのに」



鼻を押さえながらの猫男の言葉に、このブラコンお姉さんはさらに燃え上がる。

というか、デートなんてしてたんかいっ! そこ普通にびっくりなんですけどっ!?



「・・・許せない、日奈森あむっ! 私・・・アンタなんかには、絶対負けないんだからっ!!」

「どうしてー!?」










・・・・・・なんだろ、バカらしい。すっごいバカらしい。





僕は、燃え上がる歌唄に威圧されまくるあむに背を向けた。もう興が冷めた。ここでやる気にはなれない。










「フェイト、咲耶、空海・・・帰ろうか」

「そうだな、そうするか」

「え、えっと・・・いいのかな」

「いいの。・・・あ、それと歌唄」





僕は歌唄を見る。歌唄は、憤怒の炎を納めて、僕を見る。





「・・・これ以上やるなら、骨の二、三本は覚悟しとけ。そっちの猫男もだ。もう、手心は加えない」

「ふん、それはこっちのセリフよ。恭文、私はアンタに負けるつもり、無いから。あと、そっちの女にもよ。私に手を上げた事、後悔させてあげる」

「いいよ、それなら私も・・・加減はしない。ちゃんと『お話』して、分かってもらうね」










そんな会話を交わして、そこから去った。





・・・また、やりあう事になるんだろうね。間違いなくさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、僕はなんとか自宅に帰りついた。あむ? まぁ・・・なんとかなるんじゃないの?





というか・・・あの、なにこれ? すっごい疲れてるんですけど。現在、リビングのソファーに寝っ転がって沈んでいます。










「・・・アンタ、大丈夫? 油汗出てるじゃないのよ」

「ヤスフミ、もうすぐご飯出来るけど、食べられる?」

「うん、なんとか。つーか、空海とかは平気だったのに・・・」

「本来の持ち主以外とのキャラなりは体力を非常に消耗するのです。というわけで、エルも・・・ダウンなのですね」



そう、僕だけじゃなくてエルもテーブルの上のバスケットベッドでうーうー唸っている。こりゃ、あむとミキも同じくと見ていいか。

そして、アレは多用できない。毎回この状態じゃあ、身体が持たないもの。・・・くそ、消耗が咲耶とのユニゾン以上に激しいっておかしいでしょうが。そこそこ鍛えてるのにこれかい。



「あと、ヤスフミとミキちゃん、キャラなりで相当激しく動いたでしょ? そのせいもあるんじゃないかな。
でも、どうしてキャラなりなんて出来たんだろ。空海君も今まで出来なかったって言ってたし」

「空海だけじゃなくて、他のガーディアンのメンバー・・・新Q以外は今まで出来なかったんですよね。やっぱり、そのハンプティロックってのから出た光が原因なんじゃ」

「そうだね、それしか考えられない。あとは、出来ればこの効果が今回だけであって欲しいな。私達だけならいいけど、ほしな歌唄もダイヤのしゅごキャラとキャラなりしてたから」



あー、それもあった。・・・でも、そうだとしてもこれでダイヤのたまごの所在地は掴めた。あの様子なら、壊したりとかそういうことも無いだろうし、ある意味安全・・・なのかな?



「でもフェイトさん、私、ちょっと疑問なんですけど」



シャーリーが今日の夕飯のカレーにつきながら、聞いてきた。フェイトはそれに視線を向けて応える。



「あむちゃんの×がついちゃったたまご、ほしな歌唄の方に行っちゃったんですよね。というより、離れようとしなかった。
それってつまり・・・たまご自体がほしな歌唄を持ち主として認めてるってことなんじゃ」

「うん・・・。実はね、帰り際に空海君にその辺り聞いたの。そんなことが可能なのかって。そうしたら、可能かも知れないって答えが返ってきたよ」



しゅごキャラは、持ち主の心のありようで変化する。たまごが壊れたり、×が付いたりするのはそのため。

つまり・・・その逆もありえるのだ。



「ようするに、そのダイヤのしゅごキャラがほしな歌唄の何かに惹かれて・・・付いて行っちゃったかも知れないと。
心のありようが変わって自分に×をつけたあむちゃんよりも、ほしな歌唄を選んだ」

「・・・うん」

「なんにしても、厄介な事ばかり・・・ですね。しかも、せっかく接触出来たのに進展出来てないですし」

「ううん、シャーリー。大進歩だよ」



フェイトが首を振って、シャーリーの言葉を否定した。僕も、視線だけ動かしてフェイトを見る。



「向こうに、自分達の考えてる事がバレているという楔を打ち込めた。これだけでも大きいと思う。それにあむさんのたまごの所在も掴めた。あとは、向こうがどういう出方をしてくるか・・・だけど」

「私なら、しばらく行動は控えます。こちらが徹底的に邪魔をしてくるのは見えているわけですし」

「うん、そうだね。私もそう思う。出来れば、これで沈静化してくれるといいんだけど」










・・・出来れば、そうしてくれるとありがたい。





そうすると、残りの二つの問題に集中出来るから。それはとてもとてもありがたいのですよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「・・・ガーディアンの連中にこっちの動きがバレてるっ!?」

「えぇ、思いっきりね。・・・どうするの?」

「そりゃもちろん強行・・・と行きたいけど、邪魔が入るわよね」



間違いなく入る。普通ならともかく、アイツはやる。

何があろうと、アイツは私の邪魔をする。・・・そういう奴だから。



「なに、随分あのおチビちゃんの事買ってるじゃないの」

「・・・私、アイツが壊す現場を見てるから。三条さん、油断しない方がいい。アイツ、止めるためならライブの最中に攻撃してくる可能性だってある」

「ライブ中に攻撃? いやいや、それはさすがにないでしょ。そんなまねしたら、公式的にイースターを敵にまわ・・・」



そう笑いながら否定しようとした三条さんの言葉が止まる。そして、私の目を見る。・・・私は、さっきから真っ直ぐに三条さんを見ている。




「どうやら、マジみたいね」

「かなりね」

「実際にそんなことされるとマズイわよね。二階堂に対してのやり口を見るに、相手がアンタだろうが加減しないだろうし、人形も本当に足止めくらいにしか使えない感じだし・・・あぁもう、どうすりゃいいのよこれ」

「ね、確かあの人形って量産型よね」



三条さんが私の言葉にうなづいた。えっと、話通りなら性能を下げた劣化品。

なら、量産型じゃなくてワンオフ物を沢山作ってぶつければ・・・。



「専務が許可してくれないのよ。さすがに高過ぎるって言ってね」

「・・・そんなに高いの?」

「かなりね。私も値段聞いてびっくりしちゃったから。まぁ、イースターの経済力なら問題はないけど、量産すると大痛手・・・って感じかな。
とにかく、これからの活動方針だけど・・・どうしたものかしらね。いっそ殺し屋でも雇おうかしら」



アイツなら、それでも止まらないと思う。むしろ、嬉々として叩き潰すだろう。そんな実力行使はアウトだ。



「いっそ覆面してライブするとか」

「はぁ? 歌唄、アンタ何言ってるのよ。そんなことしたって何のPRにもならないでしょうが。これ、×たまだけの話じゃなくてアンタの活動の一つでも・・・」



三条さんが言いかけて、言葉を止めた。そして、右手を口に当てて・・・考え始めた。

それから数秒後、三条さんが閉ざした口を開いた。不敵な笑みを浮かべつつである。




「歌唄、それ行きましょ」

「え?」

「アンタのそれ・・・覆面付けて歌うってやつ。いけるわよ。元々の私の計画が少し変更になるけどね。
・・・ふふふ、前よりずっといい感じになるのは間違いないわ。これならきっと、ガーディアンの連中も出し抜ける」










よくは分からないけど、いい方向に話は動いたらしい。





・・・気にしてる・・・か。確かに気にしてるかも。でも、それは恋とかそういうことじゃない。





なんだろう、この気持ちは。アイツの中から感じる・・・とても硬いものが、どうして気になるんだろう。




















(第15話へ続く)




















古鉄≪さて、カオスだった今回のお話、どうだったでしょうか? 本日のあとがきのお相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫

なのは「えー、高町なのはです。・・・なんか、すごい話になってきたよね」

古鉄≪まぁ、この辺りは原作どおりという感じで。いや、更にカオスになってますけど。・・・さて、高町教導官。サブキャラになったわけですけど、気分はどうですか?≫





(先日、あまりにツンデレ過ぎるので、IFヒロイン候補から外されたお姉さんを、青いウサギは見る)





なのは「・・・べ、別に? 私はあの・・・恭文君の事はなんとも思ってないわけだから」

古鉄≪でも、あなたにIFヒロインに返り咲きして欲しいという意見も出てるんですよ? 可愛いのにーとか≫

なのは「それは嬉しいけど・・・でもでも、違うし」





(やっぱりツンデレはツンデレらしい。・・・好きなくせに)





古鉄≪分かりました。では、強硬手段に出たいと思います≫

なのは「なに?」

古鉄≪よく考えたら、本編中で自覚シーンがないから、拍手でもこんなツンデレになると思うんですよ。つまり・・・しゅごキャラクロスなり現在修羅場製作中なSecond Season内であなたが自覚して、絡むシーンを書けば、嫌でも自覚するわけです≫

なのは「す、するわけないよねっ!? 私は恭文君のこと、なんとも思ってないんだからっ!!」





(・・・抵抗は無意味です)





なのは「ちょっとそれどういう意味っ!?」

古鉄≪言葉通りですよ。・・・さて、本日はここまで。とりあえず、次は半分以上仕上がっている幕間を書き上げたいと思っている作者を応援する古き鉄・アルトアイゼンと≫

なのは「高町なのはでした。え、あの・・・これどういうことっ!? 誰か教えてー!!」










(だけど、当然だれも教えてくれるわけがない。
本日のED:『熱風ライダー』)




















ミキ「・・・ついに出しちゃったね。僕と恭文とのキャラなり」

恭文「反響が怖いけどね。非常に怖いけどね。出来れば優しさが欲しい」

ミキ「というか、また出る予定あるの?」

恭文「ぶっちゃけ、今のところ未定」

ミキ「・・・そっか、なんかそんな感じしてたよ。あぁ、でもあの大暴れは楽しいなぁ。出番も増えるしさ。身体・・・ギシギシだけど」

恭文「そうだね、僕も・・・ギシギシ。二人でストレッチでもしとこうか。明日はきっとヒドイよ」

ミキ「うん、ちょっと頑張ろうか」










(おしまい)





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あきゅろす。
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