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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第13話 『どうにも微妙なスタート・ダッシュ』:2



「・・・というわけで、まずは自己紹介からかな。あ、蒼凪君達もお願いね。一応新メンバーだから」

「了解」





そして、あれから少し経って・・・僕達はロイヤルガーデンに集まった。まぁ、ご挨拶は大事なのです。





「初めまして、Jチェア・・・四年の三条海里です。それで、こいつが俺のしゅごキャラで・・・」

「ムサシだ。以後、よしなに」



緑色の髪を頭頂部近くで一つにまとめて・・・昔の浪人スタイルの髪型で、メガネをかけて、緑が基調の和服に刀・・・あ、侍キャラなんだ。また渋いなぁ。



「・・・キセキ、よしなにってなんでちか?」

「・・・・・・僕に聞くな」



まぁ、よろしくという意味に受け取っておけばいいと、僕は後ろで話している二人に



≪あなた達がバカだという意味ですよ≫

「なんだとー!!」

「なんでちかそれはー!!」

「ち、違うっ! 全く違うっ!! 頼むから拳を握るのはやめてくれっ!!」



アドバイス送る前になんか爆弾投げられたー! やめてー!! もう昨日ので爆弾は十分なのー!!



「Qチェア・・・六年、真城りま。こっちがクスクス」

「クスクス・・・よろしくー♪」



そう言って出てきたのは、赤と白の水玉模様のピエロ服を着ている、小さい悪魔と髪の色が同じな女の子。右のほっぺたに緑の星マーク、左のほっぺたに涙のマークが付いているのもポイント。

・・・マジでこの小さい悪魔がQだったのか。僕はびっくりだぞ。あと、こっちの子・・・よ・・・四年って・・・。



「恭文っ!? ねぇ、どうしたのっ! なんでいきなり落ち込むのかなっ!! いや、理由分かるけどっ!!」



あぁ、あむの声が遠い。なんだろう、人生って・・・なんだろう。



「あの・・・ジョーカーVは俺を見てこの状態になったようなんですが、何か失礼でも」

「あぁ、三条君気にしないで。蒼凪君は少し身長にコンプレックスがあってね、年下の君より身長が下なのがグサってきたんだよ。こう・・・グサっと」

「そうでしたか。・・・ジョーカーV、あまりお気になさらない方がよろしいかと。年齢的には、まだまだ伸びる年齢なのですし」



・・・19歳だけどね。



「統計的にも幼少期には身長が低くても、10代後半で急激に伸びたというパターンもかなり多いです」



・・・・・・もうすぐ20代ですが、14センチしか伸びませんでしたよ?



「なにより、同い年であるジョーカーやKがあなたとさほど変わらないんです。問題はありませんよ」

「・・・そうだね、ありがと。うん・・・ありがと。すごく嬉しいよ」



・・・・・・・・・もちろん、こんな発言が出来るわけもなく、僕はただお礼を言う事しか出来なかった。事情を知っている人間全員が僕を生暖かい目で見るのは気のせいだ。

あはは・・・成長期かむばーっくっ! 因果律なんて壊れてしまえー!! 僕はフェイトとキスするとき、背伸びする側じゃなくてされる側になりたいんだー!!



「とにかく、挨拶です。・・・えっと、ジョーカーUの蒼凪リインです。改めてよろしくですよ〜♪」

「・・・ジョーカーVの蒼凪恭文です。改めて・・・よろしく。で、こっちが」



手の平の上に乗せる。・・・まぁ、デバイスかどうかとかは抜きにして、単純に相棒とだけ紹介しよう。



「僕の相棒」

≪初めまして、古き鉄・アルトアイゼンです≫

「・・・しゅごキャラじゃない」

「これはまた面妖な・・・」



Jが興味深そうに青い宝石を見る。で、Qは・・・あぁ、視線外した。そしてなんか思った。もしかしたらフェイトやなのはも僕と初対面の時はこんな気持ちだったのかなと。

しかしまた・・・め、面妖って・・・いやいや、それ言ったらしゅごキャラだって面妖でしょうが。普通の人には見えないしさ。



「うん、よろしくね。と、とりあえず・・・涙は拭いて? ほら、最初が肝心だから」

「あ、あのさ・・・唯世くん。ちょっと確認なんだけど」



あむが僕を見る。右手で涙を拭う僕を。いや、僕とリインを。

・・・まぁ、当然だろう。僕だって昨日会議出てなかったから、リインから聞いてびっくりした。リインはともかく、僕まで来るとは思わなかったから。



「あ、二人の役職の事? ・・・色々考えたんだけど、蒼凪君とリインさんは日奈森さんと同じく、基本的に×たま狩りに専念してもらおうかと思って。日奈森さんも、二人の能力は知ってるよね? 二人なら、十分にその仕事をこなせる」



その言葉にあむがうなづく。・・・まぁ、色々手札見せてるしなぁ。



「ただ、トランプとにらめっこしながら役職名を考えたんだけど・・・三条君や真城さんがJチェアUとか、QチェアUとか・・・ちょっと視点を変えてブルースペードとか、スカイクローバーとかも考えたんだけど、いまいちピンと来なくて。
それで、二人にはこれからどういう動き方をして欲しいかと言うのと、分かりやすくて呼びやすいというのでジョーカーを増やしてみたんだけど・・・だめだったかな?」

「い、いやっ! だめとかじゃないのっ!! ただ、ジョーカーが3枚はびっくりかなーって」

「・・・うん、僕もびっくりしたよ」

「へ?」



・・・微笑みながらそんな事を言って来たのは、K。まぁ、その辺りの意図がどこにあるるかは僕には分からない。



「もう帰っていい?」



ふと、唐突にそんなことを言って来たのは・・・新生Q。

・・・そっか、帰るのか。うん、分かった。



「だめだからっ! まだ来たばかりじゃんっ!!」

「・・・お茶」

「はいっ! りまたんっ!!」



な、なんか召使いがいるっ! というかややっ!! おのれなんでその行動っ!? おかしいでしょうがっ!!

あぁ、聞いてないし。普通に日本茶注いでるし。なんですか、これ。



”・・・これはまた強烈ですね”



リインが呆れてるとも感心してるとも取れるような思念の声を僕に送ってきた。僕はそれにうなづく。



”でしょ? でさ、問題は・・・僕とあむと唯世はこの強烈なのと常に一緒というところですよ”

”クラス、まだ学級崩壊です・・・よね。総会の時のあむさんとりまさんへの声援を見て、分かりました。アレ、完全に真っ二つじゃないですか”

”・・・ね、僕もうゴールしていいよね? 許されるよね”

”だめです。色々厄介なことになってるんですから、頑張らないとアウトですよ”










・・・だよねぇ。差し当たっては、あむのたまごの事か。





なお、僕達は口出ししない。あむが自分から話すのだ。で、これには理由がある。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あのね、恭文。まぁ・・・フェイトさん達もなんだけど、たまごの事はあむちゃんやボク達の問題だから、あむちゃんがちゃんと話すまでは黙ってて欲しいんだ」

「いやいや、さすがにそれは・・・」

「でもね、ここで恭文やフェイトさんが出てくるのは簡単だけど、そうしたら今度はあむちゃんのためにならないから。・・・自分のことだもん。ちゃんと自分で話せなきゃ、だめでしょ?」



昨日の夕方、あむが落ち込みながら帰る直前、僕とフェイトにミキが真剣な顔でそう言ってきた。

で、僕達は顔を見合わせて・・・うなづいた。視線だけで考えてることが分かるようになってきているのは、いい傾向としておきたい。



「・・・分かった。私もヤスフミも、黙っておくね」

「ありがとうございます。あと・・・ご迷惑おかけして、ごめんなさい」

「ううん、いいよ。でも・・・ミキちゃん、なんだかあむさんのお母さんみたいだね。あむさんのこと、色々考えてる」

「そ、そんなことないですよ・・・」





フェイトに微笑まれながらそう言われて、照れているミキ。その様子が微笑ましくはあるけど・・・まだ話は終わってない。





「ただね、ミキ。物が物だから・・・状況によっては僕達から話すよ? そこは覚えておいて」

「・・・うん、それでいいよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・で、現在問題の日奈森さんはと言うと・・・普通を装いながらも切り出すタイミングを見計らってる。まぁ、いい傾向としておこう。





まぁ、言うなら今だよね。新JとQがどう思うかってのもあるけど・・・それでも、言わないよりはマシですよ。










「それで、唯世さん。これから何をすればいいですか?」

「あ、うん。まずは真城さんと三条君にガーディアンの業務の説明を」

「その必要はありません」



そう言って来たのは・・・三条海里。言いながら、テーブルにどーんと・・・数冊の分厚い本やら書類を束ねたバインダーやらを置いてきた。

こ、これは・・・なんですか?



「すでに予習は済ませております。・・・あぁ、これは過去五年間の活動報告書を拝見しましたが」

「え、これ報告書なのっ!?」



僕は唯世を見る。・・・あ、うなづいた。というか、なぜにこの子がそれを? 僕はびっくりですよ。

だけど、それに構わず右手をメガネに当て・・・ゆっくりと動かした。瞬間、メガネが輝く。



「無駄が多すぎる」



コイツもいきなりぶった斬りやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「小規模な組織で全校生徒を統括するには合理化が必要かと思われます。つまり、もっと機能的かつ効率的に活動するべきです。データによりますと、歴史上の少数精鋭によるユニオンリーダーとはそもそも・・・」



・・・だめだ、唯世もややもあむもポカーンとしてる。小さい悪魔は無関心に日本茶飲んでるし、リインに至ってはうんうんとうなづいている。きっと、はやての補佐やってたから、こういうのが分かるんだろう。

つまり・・・誰もコイツにツッコまないっ!? おいおい、僕がやるしかないんかいっ!!



「・・・あー、海里・・・って呼んで大丈夫?」

「はい、ジョーカーV」

「いや、僕も名前でお願いしたいんですけど。さすがにその記号付きみたいなので呼ばれるのはちょっと・・・」



・・・なんか唯世に突き刺さったけど、気のせいだ。



「分かりました。では・・・蒼凪さんで。それで、ご用件はなんでしょうか」

「うん・・・あのね、もっと簡潔に言って。今のガーディアンの体制にまずい所があるのは分かった。けど、目指す所と改善すべき所をみんなに分かってもらえないんじゃ、意味ないから。
ほら、見てみなさい? 唯世もややもあむも話についていけてないから。ポカーンとしちゃってるから」

「・・・そうですね、これは失礼しました。つい熱が入ってしまいまして」



あ、なんかすっごい素直に謝ってきた。・・・うむぅ、ちょっと肩に力入りすぎかも知れないけど、真面目な子なんだね。



「え、リインは分かりますけど」

≪私もですね。あなた、脳筋過ぎですよ≫



はい、お前ら黙れっ! お前らだけわかっても意味がないでしょっ!? 最悪キングである唯世だけが分かればいいけど、その唯世がポカーンとしてるんだからだめでしょうがっ!!



「でもでも、海里さん・・・すごい頑張り屋なんですねぇ〜。リイン、感心してしまいました」

「きょ、恐縮です・・・」

「それで、海里さんから見ると、今のガーディアンの仕事振りは若干効率が悪いということなんですよね。
業務・・・というより、書類仕事などの事務作業の効率化で余裕を生むことで、今まで手が届かなかった事も出来るはず・・・と」



リインがそう言うと、唯世達が納得した顔になった。小さい悪魔は・・・うわ、無関心かい。

・・・どうやら、リインは空気を読んでいるらしい。さりげなく海里が言いたかった事をみんなに分かりやすく伝えた。



「そうですね。ただ、問題はまだあります。それも、最大の問題が」

「なんですか?」

「ジョーカーです」



そう言って見るのは・・・あむ。それにあむが固まる。そりゃそうだ、海里の視線が厳しくなったから。



「・・・俺の独自の調査によると、ここ最近、急激にこころがからっぽな未成年者が増加しています」

「そ、そんな調査までしてたんですか・・・。ちなみに、その原因って分かりますか?」

「いえ、残念ながら。ただ、一つだけ言える事があります。それは・・・」

「×たま狩りのペースが追いついてない・・・とかですか?」



海里があむを見ながら、リインの言葉にうなづく。・・・確かに、あむの普段の生活を見てると・・・普通に平和に生きてるしなぁ。そんな思いっきり×たま狩りに情熱燃やしてる場面は見た事がない。



「これでは、×たま狩り専任であるジョーカー失格です」



ま、またキツイボールを・・・あむがなんかヘコんだし。



「・・・日本茶嫌い。ココアが飲みたい。おせんべいも嫌だ」



こっちはこっちでなんか普通にお茶して不満垂れてるしー! あぁ、お茶を入れた唯世がヘコんだー!!



「やや、買って来て」

「ラジャー! りまたんっ!!」

「あー、やや。必要ない」

「へ?」



・・・とりあえず、チョップ。



「てい」

「いた」



頭を抑えて、小さい悪魔が僕を見る。・・・とりあえず、しっかり言おう。さすがに見過ごせない。



「何するのよ」

「何するのかじゃない。・・・ココア飲みたいなら自分で買ってきなよ。で、おせんべい嫌いなら何も言わずに食べるな。お茶も嫌いなら何も言わずに飲むな。僕が全部食べて飲んでやるから。
あと・・・唯世に謝れ。一生懸命淹れてくれたのに、それを開口一句否定ってなにごとだ。礼儀知らないのにも程があるでしょうが」

「嫌いなものは嫌いなんだから仕方ないじゃない」

「仕方なくない。・・・謝れ」



僕が視線を厳しくすると・・・にらんできた。そのままにらみ合う。・・・あぁ、僕いつからこんなキャラに? おかしくないか、これは。



「あぁ、蒼凪君。僕は大丈夫だから」

「大丈夫じゃないでしょうが。つーか、黙って聞いてればいくらなんでも勝手過ぎ」

「・・・大丈夫だから。ね?」



微笑みながら言って来た。ただし、視線で言って来る。『お願いだから、矛を下げて欲しい』・・・と。

全く・・・Kの言うことなら聞くしかないじゃないのさ。・・・この王様はすごいよ。僕、遠慮なく剣預けてるし。



「分かった。ただし・・・このお茶は僕が貰うよ? このまま処分はお茶が可哀想だもの。で、二度目はない」

「あはは・・・わかったよ。・・・真城さん、ごめんね。ココア以外にも飲みたいものなり食べたいものがあったら、言ってくれるかな。きちんとそろえて置くから」

「・・・ん」



で、僕は小さい悪魔・・・あぁ、もうめんどい。名前で呼んでやれ。りまの前から湯飲みをふんだくる。

そして、飲み干す。・・・美味しい。うん、唯世は日本茶を淹れるの上手いわ。



「それで、話を戻すけど・・・三条君の結論としては、全体的な効率化と×たま狩りのペースをもっと上げるべきだってことで・・・いいんだよね?」

「そうなります。原因は不明ですが、このまま放置しておくのはいかがかと。あと・・・」



海里が僕の方を向く。というより、僕とリインを見る。



「蒼凪さんとジョーカーU・・・リインさんの方がよろしいでしょうか」

「あ、それでお願いするですー」

「了解しました。とにかく、キャラもちでもないこの二人がガーディアンに居る事。これは問題ではないでしょうか?」



・・・あぁ、そう来たか。まぁ、ツッコまれるんじゃないかとは思ってたけどさ。



「あのね、三条君。それには理由があって」

「もちろん、蒼凪さんが×たまを浄化出来る能力があることは知っています。ただ、それでも・・・です」

「あなた、キャラもちでもないのにここに居て、私にチョップなんてかましてきたの? ・・・不愉快」



あはは・・・りままで乗ってきた。やばいなぁ、いきなりギスギスフィーリングですか?



「本来ガーディアンと言うのは」

「あー、海里。もういい。・・・言いたい事は大体分かった」



僕がそう言うと、海里が言葉を止めて僕を見る。・・・ふむ、これは・・・アレだね。なんとかしないといけないか。



「ね、海里。ようするに・・・僕やリインをガーディアンのメンバーとして認められないってことだよね。それもジョーカー・・・×たま狩り専任の役職に付くべきなのかと。
もっと直球で言っちゃえば、僕達はガーディアンを今すぐやめるべきだと思っている」

「簡潔に言えば。・・・もちろん、上級生であり、見習いとは言えガーディアンの先輩であるあなた方にこの様な発言は失礼かとは思っていますが」

「いいよいいよ、だって当然だと思うし。確かに僕やリインが居るのは、間違いって言えば間違いだしね」



僕があっけらかんと言うと、唯世達が驚いた表情になる。それは海里も同じ。



「・・・あら、分かってるじゃない。だったらガーディアンやめれば?」

「嫌だね。つーかお前がやめろ」



ニッコリ言うと、りまの視線が厳しくなるけど・・・気にしない。



「ねぇ、海里。時として居場所ってのは・・・自分の手で勝ち取る必要があるものだと思わない?」

「・・・それは、どういう趣旨の発言でしょうか」

「そのままの意味だけど? 海里とそこの性悪は僕とリインの資質とガーディアンに居るべきなのかどうか疑問がある。理由は、僕達はキャラもちじゃないから」



そして、これは当然の疑問だ。だって、ガーディアンは元々キャラもちの子が受け継いでいたんだから。僕とリインがそこに割り込んできたのだから、むしろ疑問に思わないほうがおかしい。

今までは唯世やあむ達が好意的だったからこそ、問題にはならなかっただけ。いずれはこういう事は起こってたと思う。ただ・・・それが少し遅く起きただけの話。



「でも、僕とリインはここの王様やエースとジョーカーに通さなきゃいけない筋ってやつがあってね。今更×たま関連の話から手を引けなんて、聞けない相談なのよ。
察するに、海里はガーディアンをやめた僕達が独自に関わろうとしても・・・止めるでしょ?」

「当然です、そうすればあなた方は一生徒。そんな勝手を許すわけにはいきません。
・・・というより、なぜ俺のやる事がそこまで分かるのですか? 俺とあなたは初対面だと言うのに」

「前に、違うところでこれと似たようなシチュに置かれた事があってね。海里どうこうって言うより、前にそういうこと言われた事があるから。資格・・・力もないのに何故そこまでするのかってさ」

「なるほど、納得しました」



そう、意味合いは違うけど、フェイトとも昔こんな感じでやりあったから。そして、今とシチュが似てる。だから・・・肌で分かる。

この状況は、戦って・・・居場所を勝ち取り、関わる意味を守る局面だと。



「・・・あ、そういうことですか。なら、賛成です」

≪私もですね。派手にやりますか≫

「というわけで・・・海里、僕から一つ提案」



右の人差し指をピンと立てる。・・・さて、始めますか。



「僕とリイン・・・あと、アルトで力を示す。キャラもちじゃなくても、ガーディアンの一員に足ると証明する。・・・やめるかどうかって話は、それの結果次第ってことでどう?」

「・・・いいでしょう。では、こういうのはどうでしょうか。あなたは剣術を使いますよね」



僕はうなづく。・・・というか、そこまで調べてたんかい。ちょっとびっくりなんだけど。



「俺も少々覚えがある身。剣を持つ者同士・・・剣で自らを示すというのは。・・・蒼凪さん、俺と勝負してください。俺に勝てば、あなた達を認めます」

「いいよ。・・・いや、よかったよ。これで×たま多く狩れたらオーケーとかて言われたらどうしようかと思ってたし」

「それでは負けると思っていたのですか?」



僕は首を横に振る。もちろん、違うと言う意味で。



「僕にとって×たまは、なんとかして助けなきゃいけないものだから。・・・そんな勝負のために使うなんて、嫌だし」

「・・・納得しました」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・話の流れはいきなりだけど・・・まぁ、いいか。





ジョーカー・・・その中でも本当の意味で全容が明らかになっていないカード。それが彼だ。彼がどういう人間か知るには、きっとコレが1番いい。





真の侍の剣には、魂が宿り、それらがぶつかり合うだけで、まるで言葉を交わすように理解し合える・・・と言うしな。





まぁ、俺が本当の意味で侍かどうかというのには・・・いささか疑問が残るが。










”海里・・・いいのか? これでは”

”いいんだ。それに・・・なぜだろう、心が躍るんだ”

”・・・確かにな。あの者、かなり手ごわい。武士として心が踊らないわけがない”



知ってる。俺だって映像で何度も見たんだから。そして、驚いた。この現代社会に刀を持って・・・それを武器とする侍が本当に居るなんて思ってなかったから。

まぁ、忍者が国家資格になってるくらいだから、俺のこの認識は間違っているとも言えるけど。




”そのせいでいささかキャラが変わっていたしな。拙者は横から見ていておどろいたぞ”



そ、それは言わないでくれ。



”それに話通りならば、あの者は死線を幾度と無く潜り抜けてきた兵。勝てる見込みは恐らく・・・無い。我らの目的とは違うが、それでもいいのか?”



・・・警防・・・だったな。確かに、それを言われると辛い。目的とも違うのも確か。きっとバレたら怒られるだろうな。でも・・・それでもいい。

俺の中の何かが、あの人と剣を交えたいと叫んでいる。・・・はは、確かにキャラが違うな。俺、本当にどうしたんだろう。



”・・・全く、お前と言うやつは”

”すまない、ムサシ”

”かまわん。・・・さっきも言ったはずだ。武士として心が踊らないわけがないとな。
拙者も、あの者と剣を交えたくなった。勝ち負けではなく・・・我らが魂、ここにぶつけるぞ”

”あぁ”










とにかく、俺の方は・・・まぁ、問題無い。さて、あとは場所だけど










「・・・待って」





俺がそこをどうするかをキングに相談しようとした時、発言してきたのは・・・クイーンだった。



そして、そのまま蒼凪さんをにらむ。その瞳には、明らかな敵意。





「それなら、私もやる」

『えぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・結界よし・・・っと。リイン、そっちは?」

「問題ありません。これで思いっきり暴れてもオーケーですよ。邪魔もありませんから」

「・・・あの、蒼凪さん、リインさん。これは・・・なんでしょうか。空が幾何学模様になっていますが」

「あ、僕達の能力の一つ。結界・・・要するに、フィールドを張ったの」





そして、体育館の中・・・ここで僕&リインと、海里&りまで、ちょっとやりあう。

・・・というか、あの小さな子は唯世や海里が言っても全然聞かなかったし。

とにかく、僕とリインで結界をしっかり張って、準備完了。さすがに学校の設備を壊すのは躊躇われるので、これは当然の処置である。



外でやるのも考えたけど・・・そうすると今度はどれくらいの範囲の結界を張るかというのが問題になる。これが1番面倒がなかった。





「簡単に言えば、今の状態なら例え床が砕けようと天井が吹き飛ぼうとガラスが割れようと・・・本当に体育館が壊れるような事にはなりません。
あと、張っていれば音が漏れたり、誰かが乱入・・・という事態も防げます」

「そ、それはすごいですね・・・。というより、お心遣い、感謝します」



海里は現在、ムサシとキャラチェンジ中。というわけなので・・・頭の後ろにまげがあったりする。そして、手には木刀。

僕も木刀の方がいいのかと聞いたのだけど・・・これは僕とリイン、相棒であるアルトのテストなので、アルトが居ないのもリインが居ないのも意味が無いということで、却下された。・・・なんつうか、律儀な子だよ。



「・・・そんなのいいから、始めましょうよ。まぁ、キャラもちでも無い子が私に勝てるとは思わないけど」

「ねぇ、知ってる? それ・・・ぶっちぎりの負けフラグなんだけど。
ぷぷ、バッカだねー♪ 自分から『今から私負けますねー』って言ってやがんのっ! バーカバーカっ!!」



すると、彼女は表情を険しくして・・・にゃはは、挑発合戦で僕に勝てるとでもっ!? 認識甘いわボケがっ!!



「そう、なら・・・それが勘違いだって教えてあげるわ」

「いいよ? ・・・ただし、恨みっこなしね。これはあくまでも、僕達がガーディアンに入るだけの力が在ることを証明するためのものだから。ケンカとは違う」

「えぇ、構わないわよ。だって・・・あなたが私を女々しく恨むことになるんだから」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ」



そして、また僕達はにらみ合う。・・・しかし、なんですか。この子の自信の源は。なぜにここまで強気で出れる? まるで、ガーディアンの中で自分は優れてると言わんようにも見える。

こりゃ、油断しない方がいいかな。なんかそんな感じがする。



「いや、あの・・・クイーン。もう一度言いますがあなたは下がってください。これは俺と蒼凪さんの」

「なにか問題ある?」

「いえ、なにもっ!!」



・・・海里、弱いなぁ。ねね、あれは絶対女の人の尻に敷かれるタイプだね。で、家事とか得意になるのよ。嫁さん・・・そこまでいかなくても、家族がやらないから。



「なぜ家の内情をご存知なのですかっ!?」

「マジで敷かれてるんかいっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あ、あのー恭文ー!? あんまりやりすぎないようにねー!!」

「蒼凪君、本当にそこはお願いっ! 相手はキャラもちだってこと以外は普通の女の子なんだからねっ!?」

「りまたんっ! 今のうちに逃げた方がいいよっ!! 恭文怒るとすっごく怖いんだからっ!!」

「・・・ココア買って来て」

「らじゃっ! ・・・って、違うからぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





・・・あぁ、どうしてこんなことに? 現在、あたしと唯世くんにややは、体育館の隅で四人を見守っている。なお、必死に説得した。新J・・・三条君はこう、なんか馬が合う感じがしてたけど、真城さんはやばい。

何がやばいって、恭文がちょっと怒ってたから。なお、現在あたし達はリインちゃんが張ってくれた防御フィールドの中に居ます。まぁ、流れ弾対策とかって言ってたけど・・・すっごい不安。

というより、よくよく考えたら流れ弾ってなにっ!? まさか二人とも、あの模擬戦みたいな暴れ方するつもりじゃっ!!



うぅ、結局ダイヤのたまごのこと話せなかったし、いきなりケンカみたいになるし、恭文は味方内だってこと忘れてるみたいに真城さんと挑発合戦してるし・・・。



あぁ、いっそ魔法の事とかバラしたいー! あの模擬戦の映像とか見せたいー!! そうすればなんかすぐに解決しそうなのにー!!





「恭文さーんっ! 本当に本当に、乱暴しちゃだめですよー!? 女の子には、優しくーですっ!!」

「うん、大丈夫。・・・殺しはしないから」



スゥの言葉に、にっこりと笑ってそう答えてくれた。・・・あぁ、そうか。なら安心だ。

だって、殺しはしないんだから・・・って、だめじゃんっ! それ以外はなんでもやるって受け取り方があると思うんですけどっ!?



「・・・・ち」



やっぱりそのつもりだったんかいっ!!



「・・・気づかれたですね」



リインちゃんまでなにやってるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! お願いだからそのバカを止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



≪あれですよ、この部分だけカットすればいいんじゃないですか? ほら、編集点がこことかにも≫



アンタも乗るなぁぁぁぁぁぁぁっ! いや、分かってたけどっ!! なんかすっごいそういうキャラだって分かってたけどねっ!?



「二人とも・・・絶対に真城さんを怪我させちゃだめだからねっ!? 打ち身とかもだめだからっ!! 無傷で玉のように綺麗な状態で家に帰してあげてっ!!」

≪「「無理っ!!(ですっ!!)」」≫

「恭文もリインちゃんもこてつちゃんも即答するなぁぁぁぁぁっ! ちょっとは頑張ろうよっ!!」



なんて話している間に、真城さんはクスクスと隣に置いた。



「・・・バカみたい」

「クスクスクスクスッ!!
りま、皆に負けるって思われてるみたいだよ〜」

「こんな・・・キャラもちでも無い奴に、負けるわけないのに。
私の心・・・アンロック」



そして、そのまま・・・真城さんとクスクスは光に包まれ、一つになった。

・・・へ?



「た、唯世くん・・・あれって・・・!!」

「・・・キャラなリだ」

「わわ、りまたんキャラなり出来たのっ!?」





真城さんの姿が変わった。頭に赤いリボン、白と赤が混じったフリフリスカートの服・・・いや、あれはピエロ・・・道化師の服だ。



というより・・・すっごく可愛い。つい見とれてしまう。





「キャラなり・・・クラウンドロッ」

≪Struggle Bind≫





真城さんがキャラなりを終えた瞬間、りまの足元に出てきたのは・・・あ、あれ・・・えっと、そうだ。ベルカ式の魔法陣。フェイトさん達が教えてくれたのだ。

その青い色をした魔法陣がの足元に現れて、そこから何本も縄が生えてくる。

真城さんは逃げようとするけど、それより早く足首を縛り上げ、腕・・・胴・・・肩・・・そして首を縛った。



そのまま、縄は真城さんを引っ張って・・・地面に押し付けた。真城さんは動こうとするけど、全然動けない。

あ、あの・・・これってなにっ!?





「なに・・・これ・・・う、うごけない・・・」

【りま・・・大丈夫ー?】

「だめ・・・。キャラなりで力は上がってるはずなのに・・・外れない。というか、本当になんなの?」



それは当然の疑問。そして・・・それに答える声があった。



「・・・はい、これで一人脱落・・・っと」



それは・・・見とれることもなく、一歩も動かず、平然と勝利宣言をかました。それに真城さんの視線が向く。



≪あなた、ちょっと語尾食い気味でしたよ?≫

「いいじゃん。変身終わりの直後だったんだしさ。お約束は破って無いよ?」

≪それもそうですね≫



そう言ってきたのは、恭文。なんか『疲れたー』って言わんばかりの顔をしながら、右手で左肩を叩く。

・・・えっと、つまりあの縄発生は・・・恭文の魔法っ!?



「恭文さん、それだけじゃ足りないですよ。やるなら徹底的にです。
・・・えっと、ちょっと冷たいですけど、後ですぐ外しますので許してくださいね」



リインちゃんが手をかざす。手の平には・・・白色のベルカ式魔法陣が回転してる。

次の瞬間、もがく真城さんの両足に氷の塊。そして、両手首にも同じく。それは地面に張り付き、完全に真城さんの動きを封じた。



「・・・なによ、これ」

「バインドって言う拘束術。ま、分かりやすく言うと・・・縛ったりして動きを止めるんだ。つまり・・・お前の負け」

「ふざけないで。まだスタートの合図もしてないのに、こんなの」

≪Stinger Rey≫



生まれたのは光の光弾。それが・・・真城さんの目の前の床を砕く。それに真城さんが固まる。

というか、床・・・あ、結界張ってるから大丈夫なんだっけ。



「・・・バカか、お前? 戦いにスタートの合図なんてあるわけないだろうが。対峙した瞬間から、もう戦いは始まってんの。自分でやると言いながら、甘えた事言ってんじゃないよ」

≪一回しか言いませんから、よく聞いてくださいね? ・・・これ以上ガタガタ抜かすなら、あなたの頭、撃ち抜きます。その砕けた床を見ながら、どうするかは考えてください≫

「残念ながらリイン達、ここであなたのルールや理屈には従えないし、あなたの召使いになるほど優しくないんです。これ以上邪魔をするなら、遠慮なく・・・潰します」



ま、また派手な脅しを・・・真城さんが完全にストップしちゃったし。というか・・・あれ? なんか泣き出したっ!!



「というわけで、海里ー」

「・・・え?」

「いやいや、『え?』じゃなくて・・・」



ちょっ! 無視かいっ!! 泣いてるのを放置ってヒドイでしょうがっ!!



≪あぁ、大丈夫ですよ。・・・嘘泣きですから≫

「ですです。リイン達にはそういうのは通用しませんよ?」

「・・・なんで分かるの?」



あっさり認めたっ!? なんか舌打ちしたしっ!!



≪女なら誰だって涙腺のコントロールくらい出来るでしょ≫

「常識ですよね〜」

「あら、あなた達分かってるじゃないの」



なんか普通に通じ合って・・・合って・・・いや、ちょっと待とうよ君達。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうかそんな常識みたいに言わないでよっ!! あたしはそんなの出来ないんですけどっ!?」

「だめね。そんなんじゃ男の心はつかめないわよ?」

≪そうですよ。あむさん、だめですね≫

「ですです。女の涙は武器になるですよ?」



縛られながらアホな事言ってんじゃないわよっ! というか、アルトアイゼンとリインちゃんもなぜ通じ合ってるっ!? ・・・あぁもう、なんか心配して損したっ!!

とにかく、これがバインド・・・そう言えば、魔法でそういう術式があるって言ってたっけ。



「ほら、ランスターさんがそれに縛られそうになった時に、フェイトさんが教えてくれたアレだよ。多分、リインさんの氷もそれだね」

「あ、ややも思い出した。・・・というか、あんなの使えたんだ。
むむ、なんで今までややに教えてくれなかったのかなー!!」

「でも、蒼凪君とリインさんに感謝だね」



え? あの、唯世君。それってどういう・・・。



「だって、あれならもう真城さんは戦えない。頭を撃ち抜くとは言ったけど、それだって非殺傷設定だろうから。つまり・・・あとは三条君だけ」

「恭文、やや達の言う事聞いてくれたんだ。・・・うーん、なんか感激」





・・・あ、そっか。恭文、普通にアルトアイゼンで斬ったりすると怪我させると思って・・・それで初っ端で動きを封じたんだ。

あ、でもそれなら二階堂と対峙した時にあれ使えば・・・って、だめか。魔法陣思いっきり出てるし、魔法のことバレちゃうよ。



というか・・・それなら今使ってるのもかなりヤバいんじゃっ!!





「・・・だから、感謝なんだよ。手札を晒してでも、動きを止める事を選んでくれたから」










唯世くんが静かにそう言った。・・・確かに、そうだね。





うぅ、ごめん二人とも。あたし達が止められればよかったんだけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・手札、晒しちゃいましたね。でもでも、唯世さん達に言われたからってよかったんですか?”

”まぁ、しゃあない。つーか、アレにケンカ吹っかけた僕が悪い。自業自得だよ。ぶっちゃけ、唯世達が言わなくてもこうするつもりだったし。・・・リインもそうでしょ?”

”実は・・・です。さすがに味方内相手だとちょっとためらいますから。まぁ・・・後は頑張っていきましょうか”

”だね”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねー、海里。これでクイーンは脱落・・・でいいよね?」

「いや、しかし・・・これはあまりにも卑怯かと。不意打ちもいいところですし」

「何言ってるの。勝ち負けの付く戦いやろうって奴が、不意打ち如きでグダグダ抜かすなんざ、ありえないでしょ。
勝ち負けの無いお遊戯やりたいなら幼稚園行ってこいよ。・・・常在戦場って言葉の意味、知ってる?」



その言葉に、表情を苦くする。そして、静かにそう言ってきた恭文の目を見る。それから・・・真城さんを見る。そこから視線がまた動いて、唯世くんを見る。唯世くんは・・・うなづいた。

それにため息を一回吐いて、一歩踏み出し・・・向き合った。



「・・・・・・条件があります。クイーンへのこれ以上の攻撃行動はしないこと。よろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。・・・ありがと」

「いいえ。常在戦場・・・あなたの言う通り、油断したこちらに落ち度はあります」



三条君が木刀を正眼に構える。



「もう、俺とクイーンはあなた方という敵と対峙していた。戦場にスタートの合図などないのを忘れていたのは、失敗でした。
それ故に、俺は味方であるはずのクイーンを守る事が出来なかった。まだまだ、未熟です」



それを見て、恭文の左手が動く。そこに持たれていたのは・・・またあのベルトっ!?

それを腰に巻く。そして、パスを開いてカードをセット。



≪Fusion Ride RinforceU Set up≫



パスを閉じてから、ベルトの青いボタンを押す。・・・音楽が鳴り響く。そのまま、パスをベルトのバックル部分に当てる。



「変身っ!!」

≪Vinculum Form≫



二人が青い光に包まれる。その光がはじけた時・・・姿を現したのは青い空色の髪をした恭文。・・・あ、そっか。リインちゃんとユニゾンしたんだ。



【「・・・最初に言っておくっ!!」】



そんな二人の声が・・・って、またそれかいっ! あぁ、また右手を上げて指差してるしっ!!



「僕達はかーなーり強いっ!!」

【ついでに言っておきますっ! これがリイン達の・・・全力全開ですっ!!】

≪まぁ、テストですから・・・これくらいはしませんと≫



恭文もアルトアイゼンを抜いて・・・同じように構えた。



「・・・それが、あなた達の力ですか」

「まぁね。で、確認。本当にこれでいいの? ぶっちゃけ・・・すぐ勝負が付くと思うんだけど」

「かまいません。あなた達全員の力を計らなくては意味がありませんから。俺はただその力を見極めるだけです。なにより・・・俺の事を甘く見過ぎかと」

「・・・分かった」





距離がじりじりと詰められていく。二人とも、どこか楽しげに笑っている。



・・・数秒。本当に数秒間だけのにらみ合い。だけど、それがとても長く感じられた。空気は二人の出す覇気で重くなる。



そして・・・二人は同時に飛び出して・・・。





「「はぁぁぁぁぁっ!!」」










木刀とアルトアイゼンの銀色の刃が、ぶつかり合った。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・海里、大丈夫?」

「はい。・・・加減、していただきましたので」



勝負は・・・一撃で決まった。僕の斬撃は海里の木刀をへし折り・・・いや、真っ二つにして、そのまま首元に当てられた。もち、寸止め。

で、降参である。・・・だから木刀の方がいいんじゃないかって聞いたのに。



「恐らくですが、木刀でも同じでしょう。あなた達は俺の斬撃を砕き、勝負をつけた」

【まぁ、こうやって一つになってますから、ちょっとズルしてますけど】

「いいえ。・・・俺はあなた方全員の力を計ると言ったのですから、問題はありません。それを言えば、俺だってムサシの力を借りています。同じことですよ」

「左様。この勝負、全ては我らが望んだ事。貴行らが気にする必要はない」



・・・またいさぎいい子だねぇ。感心しちゃうよ。いや、ちょっと古風なのかな。

とにかく・・・僕はベルトを外してユニゾンを解除。アルトも待機状態に戻す。リインも僕も、元の制服姿に戻った。で、こっからが肝心だ。



「それで、海里。僕達はどう?」

「その前に、無礼な発言の数々・・・どうか平に」

「あぁ、そこはいいからっ! つーか、さっきも当然の疑問だって言ったでしょうがっ!!」



頭を下げるような感じが見受けられたので、必死に止める。というか、居心地悪いからやめて欲しい。

僕の言葉に、海里は一回咳払いをして・・・僕達を見る。



「・・・お二人の力の正体がなんなのか、俺には分かりません。キャラなりのように一つにもなれるけど、キャラなりではない。ただ・・・それがキャラもちの人間より劣っているものだとは、俺には思えない。
なにより・・・俺は負けましたから、約束は守らなければなりません。蒼凪さん、リインさん、お願いします。これからジョーカーとして、ガーディアンに力を貸していただけますか?」










その言葉に、僕とリインはうなづく。・・・まぁ、上手く行ったってことで・・・オーライ?










「ひどいなぁ、三条君。それは僕のセリフだと思うんだけど?」

「あー、そうだよねー。うー、1番年下なのに生意気だよー」

「あ、キングっ! これはその・・・失礼いたしましたっ!!」

「・・・ねぇ、ちょっと」



なんか声がする。そっちを見ると・・・あ、忘れてた。



「・・・むかつく」

【というか、忘れないでー!!】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




・・・それは、もうすぐ夕方になろうかと言う時の話。ヤスフミとリインが学校で少し暴れている時・・・あの子の様子を気にしつつ、私は咲耶とシャーリーとランちゃんと一緒に、午後のおやつを食べつつ楽しく雑談をしていた。





そんな時・・・異変は起きた。





あ、今日のおやつは私特製のチョコクッキー。・・・ヤスフミが帰ってきたら、食べてもらおうっと。今日は中々上手く出来たと思うから、反応が楽しみなんだよね。










「・・・目、覚まさないね」

「そうですわね。というより、寝過ぎですよ」



咲耶は食べ過ぎだけどね。あと、もうそれで打ち止めだから。さすがにおかわりし過ぎだよ。

・・・そんなすがりつく子犬みたいな目をしてもダメっ! ヤスフミが食べる分がなくなっちゃうでしょっ!?



「うーん、もしかしてそうとう激しくぶつかったのかなぁ。うぅ、フェイトさん・・・もしかしたらもう一日お世話になるかも」

「あ、それは大丈夫だよ。うん、ヤスフミも私もランちゃんが居てくれるとうれしいし」

「・・・いや、私はまだ見えないんですけど・・・すみません、ちょっとKY発言でした」



そんな会話をしつつ、心の中でシャーリーに謝りつつ・・・クッキーを食べる。



「よしっ! おやつ食べたらお目覚めダンスをやろうっ!!」

「・・・お目覚めダンス?」

「はいっ! こう・・・おっきってっ! おっきってっ!! ・・・という感じでっ!!」



片手を振って、元気よくそう言ってきたランちゃんを見て、表情が緩む。というか・・・か、可愛い。ヤスフミがしゅごキャラ可愛いってすごく言ってたのがよく分かるよ。

そして、またあの子を見る。すると・・・あの子の小さなまぶたが震えた。



「う、うーん・・・うるさ・・・はっ! こ、ここは・・・っ!?」



え、もしかして・・・起きたっ!? うそ、お目覚めダンスしてないのにっ!!



「というか、目が開いてませんわね」

「・・・そうだね。ねぇ、君・・・だいじょ」

「あぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



あの子は叫んでバスケットのベッドから上空・・・というか、天井目掛けて飛び立つ。それもすごい勢いで。一瞬、ヤスフミのアクセルでのダッシュの幻覚が見えたのは、気のせいじゃない。

あの子は天井の照明器具のケーブルに捕まり、震える。その目で・・・私達を見る。いや、目は開いてないんだけど。



「ら・・・拉致られてしまったんですっ! エル一生の不覚なんですっ!!」

「ら、拉致なんてしてないよっ! お願いだから落ち着いてっ!? ここは私とヤスフミ・・・あと、みんなの家で」

「いやぁぁぁぁぁっ! 奪われるぅぅぅぅぅっ!! 汚されるぅぅぅぅぅぅっ!?」



そう叫んであの子は部屋の空間を羽を羽ばたかせながら飛び回る。

と、とにかく・・・お願いだから落ち着いてー!!



「そうだよっ! 私もフェイトさん達も、そんなことしないからー!!」

「犯罪者はみんなそう言うんでげふっ!!」



・・・あ、壁にぶつかって・・・落ちた。

私とランちゃんは立ち上がってその子のところへ行く。え、えっと・・・ランちゃん、お願い。



「は、はい。・・・ねぇ、君・・・大丈夫?」

「・・・やすふみっ!? さ、さっきやすふみって言いませんでしたかっ!!」



いきなり起き上がって、私を見る。私は・・・うなづく。



「やすふみ・・・蒼凪、恭文」

「・・・あ、あの・・・もしもし? あの、私はフェイト・テスタ」

「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



またあの子は叫んで突撃。そのまま近くに置いてあった自分のたまごに閉じこもった。

え、えっと・・・これはどうすればいいの?



「簡単ですわ。・・・出てこないとミキサーで殻ごと砕いてふりかけの材料に」

「咲耶はお願いだから黙っててっ! というより、そんなことしたら完全に私達悪者だよねっ!!」

「問題ありませんわ、冗談ですから」



全然冗談に聞こえなかったんだけどっ!? ・・・あぁ、なんだかたまごが震えてるしっ! あのね、そんなこと絶対にしないから安心してー!!



「あ、私が話してみます」

「・・・そうだね、しゅごキャラ同士ならいけるかも。ランちゃん、お願い」

「はい。・・・ねぇねぇ、そこから出てきてくれないかな。私達、絶対そんなことしないし」

「嘘ですっ! エルをふりかけの材料にして身も心も食べる気なのですねっ!? なんという鬼畜っ! 外道っ!!」



あぁ、咲耶のせいですっごく警戒されてるよっ! うぅ、どうすればいいのこれー!!



「ねー、エルってばー。お願いだから出てきてよー。私達、本当にそんなこと」

「気安く呼ぶなですっ!!」



たまごがぱかっと開く。きざきざな割れ目から、あの子が顔を出す。表情には・・・警戒の色。



「蒼凪恭文は歌唄ちゃんの宿敵・・・日奈森あむの仲間。ということは、エルとその仲間であるあなた達とも敵同士なんです」

「・・・そうなの?」

「おーっと、それ以上はシャラップなんです。エルが誰のしゅごキャラなのか知りたいんでしょーが、おあいにくさま。絶対に口を割らないんです」



・・・え、いや・・・あの・・・えっと・・・どうしよう、これ。

私が困っていると、ランちゃんがボールを投げた。当然とも言えるボールを。



「・・・君、やっぱりほしな歌唄ちゃんのしゅごキャラだったんだね」

「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ! な、なぜそれをっ!? サイコメトラーですかっ! 心を読まれたんですかっ!!」

「いや、違うよねっ!? あなたが自分で喋って」

「ぴえぇぇぇっ! 危ういっ!! 危うくハートを盗まれるっ! この泥棒・・・ハート泥棒っ!!」










お、お願いだから・・・私達の話を聞いてー! 本当にお願いだからちゃんと会話をしてー!!










「・・・フリーダムですわ」

≪咲耶嬢、あなたにだけは言われたくないかと≫

「あら、私は常識的ですよ?」

≪どこの世界の常識か、一度お聞きしたいですね≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、それから1時間後・・・ようやく私の願いは叶えられた。





現在、エルちゃんはテーブルの上で自分サイズの湯飲みでお茶を飲みながら、ランちゃんと私を相手に愚痴を吐き出している。





でも、ただの愚痴じゃなかった。・・・敵の情報。それも、貴重なプライベートな情報。










「・・・そっか、そのイルちゃんって言う子、本当に意地悪なんだね」

「そうなんですっ! いっつもエルをいじめて、蹴って・・・ひどいにも程があるんですっ!!」




私の言葉に、ちょっとした怒りも込めて返してくれた。・・・話を簡潔に言うと、この子は家出してきたらしい。

ほしな歌唄には、エルちゃんともう一人・・・ヤスフミ達が見た黒いたまごのしゅごキャラ、イルちゃんという子が居る。

その子がイルちゃんにそうとう意地悪らしい。話を聞いていて、ヤスフミのなのはに対する態度を思い出した。



もちろん、イルちゃんがヤスフミで、エルちゃんがなのはの立場。





「そっか、それはひどいね。意地悪されて、うれしいわけがないものね」





いや、なのははなんだか嬉しそうなんだけど・・・よし、あれは例外だよね。うん、きっとそうだ。

とにかく、私はこの子が言った事を復唱する。・・・人から話を自然に聞きだしたい時の常套手段。

聞き手が自分の話を復唱している形だと、話し手は聞き手が自分の話を聞いてくれていると安心する。



それだけじゃなくて、話し手が自分から色々な事を話してくれるようになる。

尋問とかとはまた違う、相手との会話のテクニック。お兄ちゃんに教わった。

とにかく、今この子に対しては敵とか対立という空気を出しちゃいけない。



私達に敵意が無いこと。ここが安心出来る場所なんだということを分かってもらわないと。





「はいっ! それでそれで、歌唄ちゃんも同じくらいヒドイんですっ!!」

「ほしな歌唄さんも?」

「はいっ! エルが意地悪されても、全然助けてくれないんですっ!!
それにそれに・・・歌唄ちゃん、最近はイルやマネージャーさんと一緒に悪い事ばっかり・・・!!」



出てきた。もしかしたらこういう情報が引き出せるんじゃないかと思ってたんだけど・・・ビンゴだよ。

私はオンになりそうな執務官モードを抑えつつ、今までと変わらずに・・・エルちゃんに優しく話しかける。



「そっか、助けてくれないのは嫌だよね。でも・・・悪い事ってなに?」

「はぅぅ・・・それは・・・」

「・・・それは?」

「歌唄ちゃん、最近になって路上でゲリラライブをよく行うんです」



・・・ゲリラライブ?



「あ、歌手さんだから、その活動のためなんだね」

「はい。でも・・・それだけじゃないんです。歌唄ちゃんはイルとキャラチェンジした状態で歌を歌うのです。
そうすると、それを直接聴いた人からこころのたまごを抜き出すことが出来るんです。それも一度に大量に」



私はその言葉に頭を回転させる。悪い事・・・自分のしゅごキャラとマネージャーさんと一緒に・・・。

つまり、ゲリラライブをやるのはこころのたまごを抜き出すため。



「エル、それ・・・ほんとなのっ!?」

「ホントなんですっ! でもでも、エルが何度言っても歌唄ちゃんもエルも聞いてくれなくて・・・!!
お願いです・・・歌唄ちゃんを・・・歌唄ちゃんを止めてくださいっ!!」










・・・私は、自然と拳を握る。14歳やそこらの女の子が、そんなことをしている。

そして、周りの大人たちはそれを止めようともしていない。いや、多分・・・利用している。

なんとかしなきゃいけない。絶対に・・・なんとかしなきゃいけない。





だって、きっとあの子は・・・昔の私と同じだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、現在は夕方。とにもかくにも本日は解散となった。・・・明日から新体制で頑張っていく事になる。





ただ、まだ頑張らないといけないことがある。それは・・・僕の隣に居る女の子がだけど。










「・・・うぅ、言えなかった。結局言えなかった」

「ごめんなさいです。リイン達がゴタゴタさせちゃったから・・・」

「あぁ、リインちゃんや恭文のせいじゃないよ。でも・・・よかったね。ガーディアン入り、新メンバーに認められて。
まぁ、真城さんはともかく・・・三条君とはいい感じみたいだし」

「まぁ、剣術使い同士って事だよ。なんか通じ合うの」

「なら、今までは恭文とそういうの相手出来る子が居なかったから、これから仲良くなれるかもね」





そう、あむだ。なお、理由はランと預かっているあの子の様子を見るため。



・・・本当についさっきのこと、あの子が目は覚ましたとメールがフェイトから来た。



なんか色々混乱があったらしいけど、気にしてはいけない。





「でも、ラン貸してくれてありがとね。なんかメールでフェイトが相当助かったって言ってたから」

「あー、いいよいいよ。というより、迷惑じゃなかった? あの子相当騒がしいし」

「いんや。もう夕飯も朝ごはんも美味しそうに一杯食べてくれたし。
むしろ嬉しかったくらい。フェイトも、なんか嬉しそうだったから」

「そっか、ならよかった」



で、家の玄関のドアを開けた途端に・・・叫び声が聞こえた。



「歌唄ちゃんを・・・歌唄ちゃんを止めてくださいっ!!」










・・・はい?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・歌唄がっ!?」

「・・・うん。エルちゃんの話だと、どうもそうみたいなんだ」





聞こえた悲鳴に近い声にびっくりしつつ家の中に入って・・・フェイトから話を聞いた。

この子が歌唄のしゅごキャラなのは確定と言うのと、現在の歌唄の状態について。

つか、そんなこと・・・いや、二階堂があれなんだから、予想は出来ていた。



そして、思う。・・・ほしな歌唄は、敵であると。





≪エルさん、もう一度お聞きしますが、お話してくれた事は本当なんですね?
そして、そのゲリラライブが行われるようになったのは、本当に最近のこと≫

「はいです」

≪・・・どう思います、コレ。まぁ、今まで沈黙を破っていたほしな歌唄が動き出したのは、二階堂が失脚したせいだとは思いますが≫



どう思うも無いと思う。多分・・・これが原因だ。



「フェイト、実は今日・・・ガーディアンの会議で話に出てたんだけど」

「うん」

「最近、たまごを抜かれて、心がからっぽになった子ども達が急増してるんだって」

≪原因は不明。ただ、ガーディアンとしてもこの事態を放置しておくわけにはいかない。
これからは私達や唯世さん達も積極的に動いて×たま狩りに力を入れる・・・ということで話がまとまったんですが、無関係だと思います?≫



アルトの言葉に、フェイトは首を横に振った。そして、真剣な目で・・・考えつつ、感じた事を言葉にする。



「関係ないとは思えない。・・・エルちゃんの話だと、ほしな歌唄の歌は、生で聴いた人限定だけど、一度に大量のたまごを抜き出せるらしいから」

「間違いない・・・ですね。リインも同意見です。いくらなんでもタイミングが合い過ぎますよ」



・・・くそ、このゴタゴタしている時期に暴れおってからに。こっちの迷惑考えろっての。



「え、えっと・・・つまりどういうことですかぁ?」

「簡単ですわ、おじいさま達が学校で聞いた話の主犯は・・・ほしな歌唄とその関係者ということです。
ですが、何の目的もなくそんなことをしているとは到底思えません。やはり、目的はエンブリオでしょう」

≪そして、二階堂が×たまを大量に集めてエンブリオを生成しようとしたのと同じ可能性もあります。。
ようするに、たまごを大量に抜き出してなにかに活用しようとしているのかも知れません≫

「はわわ・・・それは大変ですー」





とは言え、ゲリラライブ・・・厄介だね。いきなり路上とかに車を止める。

で、そこから飛び出て歌ったりするわけでしょ?

普通にコンサートとかならともかく、そうじゃないのはきつい。



どこでどう出てくるか、全く読めない。





「もちろん、エルちゃんの話と今の状況だけで組み立てた推測だから、確固たる証拠はないよ? でも、かなり疑わしいのは事実」

「確かにそうですね。・・・なぎ君、私達はどうする?」

「これ、さすがに放置はまずいよね。・・・あむ、すぐに唯世達に相談・・・あむ?」



僕達はあむを見る。・・・なんかヘコんでる。すっごいヘコんでる。あの・・・なに、これは。



「・・・むり」

『はぁっ!?』

「無理無理絶対無理っ! 自分のたまごの事だってあるのに、歌唄のこともどうにかするなんて絶対無理ー!!」



な、なんかすっごい後ろ向きな事言い出したっ! しかも頭抱えて机に突っ伏したしっ!!



「あむちゃんっ! そんなこと言ってる場合っ!? 恭文とフェイトさん達の言う通りなら、大変な事になるんだよっ!!」

「そうだよっ! ここで頑張らないと」

「・・・やめちゃおうかな、ガーディアン」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』





僕とフェイト・・・リインにみんなは顔を見合わせる。で、咲耶は・・・両手挙げてお手上げポーズ。



もしかして、自分のたまごに×が付いた状態だから、ちょっとヘコみやすくなってるとか?



あぁ、どうしてこう次から次へと・・・。





「うぇぇぇぇぇぇいとっ!!」

「ぎゃっ!!」



そんな頭を抱えたくなる状況で、叫んであむの頭の側面に蹴りをかました子が居た。・・・エルだ。

というか、なんかちょっと怒ってる。あむは蹴られたところを抑えつつ、エルを見る。



「うぇぇぇぇぇいとっ! つまり待てぇぇぇぇぇっ!! アンタっ! それでも主人公キャラですかっ!?
こういうときは・・・『よぅし、ここはあむにおまかせっ!!』・・・とか言っておくのが美しい流れなんですっ! それを即否定とは、セオリー無視も大概になされっ!!」

「そんなこと言われても・・・てか、口調変わってない?」



・・・あぁ、こういう子なのね。なんかフェイト達が呆れた眼で見てるし・・・あ、でも待てよ。

もしかしたら・・・今のあむにはこういうのが必要なのかも。



≪はぁ? なに言ってるんですか、あなた。主人公は私ですよ≫

「私ですわね」

「はい、お前ら黙れっ! 話がややこしくなるから一切発言するなっ!!
・・・あー、エル。このバカ二人は気にせずもっと言ってやって。もうガンガン言ってやって」

「ラジャーですっ!!」





そうして、エルは僕に敬礼してから、再びあむに向き直り・・・ガンガン言い始めた。

・・・落ち込んでる時は、落ち込ませてあげたい。でも、今はその余裕が無い。手が一つでも欲しい。

だから・・・エルだ。エルみたいにガンガン引っ張ってく感じが今は必要。



下手に励ましてもきっと逆効果だから・・・考えさせずにそうするのだ。





「・・・エルは歌唄ちゃんを救いたいんですっ! だからこーして宿敵に頭を下げてるんですよっ!? それをアンタって人はー!! 人はー!!」

「なんで二回言うかな。・・・つか、敵なら歌唄のとこ帰ればいいじゃん」

「それが出来たら苦労はしませんっ!!」



あ、なんかそっぽ向いた。そして、そのまま喋り続ける。



「エルは歌唄ちゃんが迎えに来るまで帰りませんっ!!」

「あ、あの・・・エルちゃん? ほしな歌唄はここを知らないだろうし、迎えに来るとは」

「それまでは、ここで居候です・・・ふぁぁぁぁ、なんだか眠くなりました。というわけで・・・おやすみなさい」

「えっ!? あの・・・ちょっとエルちゃんっ!!」



フェイトの静止も聞かず・・・そのまま自分のたまごの中に戻って・・・あぁ、いびきだ。すっごいいびきが聞こえる。

あ、あははは・・・だめだこりゃ。つーか、フリーダム過ぎだし。



「・・・明日、ガーディアンのみんなに相談してみる」

「そうだね、そうしてみて」





頭を抱えつつ今後の方針に関して思考を働かせる。



・・・つーか、居候って・・・このフリーダム天使と同居かい。



あぁもう、どうなるんだよこれ。あ、それと忘れちゃいけないことが一つ。





「みんな、街を出歩く時は気をつけるようにね。どこでゲリラライブに遭遇するか分からないんだから。で、遭遇したら離れて」

「・・・そうだね。ボク達はともかく、フェイトさん達は歌を聴いたら1発でアウトだろうし」

「うん、そこはちゃんとする。・・・あむさん」



フェイトが呆然とエルのたまごを見ていたあむに声をかける。優しく・・・だけど、ちょっと厳しく。



「色々大変なのは分かるけど・・・止まったらだめだよ。今はその時じゃない。
そんなことしても、あなたのたまごは見つからないし、ほしな歌唄も止められない」

「でも」

「でもじゃない。・・・あむさんは、決めたんだよね。
×たまのことなんとかするって。唯世君を助けてエンブリオを見つけるって」



フェイトの言葉に、あむはうなづく。表情が苦いのは、気のせいじゃない。



「大丈夫、私達も力を貸す。きっと、唯世君達だって同じ。だから・・・ね?
一人でなんとかしようなんて考えなくていいの。あなたは一人じゃないんだから」

「・・・はい」










とにかく・・・明日だ。あむの×がついたたまごにほしな歌唄、ガーディアンの新体制・・・一つずつ片していくしかない。





全部を一気になんて無理な話。だから・・・一つずつなんだ。




















(第14話へ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・さて、新キャラの三条海里とほしな歌唄のしゅごキャラのエルを迎えて、新たなる事件に立ち向かう事になります。
そんな今回のお話、みなさんいかがだったでしょうか。さて、本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「・・・ヤスフミとラブラブしてないと思う、フェイト・T・ハラオウンです」





(金色の女神、なぜかそこを気にする。・・・そんなにエロがいいのか)





フェイト「べ、別にそういうのじゃないからっ! うん、本当だよっ!?」

古鉄≪怪しいですね。記念小説でもそうとうエロかったですし≫

フェイト「い・・・いいの。メガーヌさんに『好きな人の前だけは、女の子はすっごくエッチになっていい。でも、恥じらいを見せるのも忘れないように』ってアドバイスされたもの。で、ヤスフミも・・・その、エッチな私も好きだって言ってくれるし」





(・・・あのシングルマザーはロクな事を言わない。青いウサギはそう思った。でも、いいキャラなのでこれはこれで面白いとも思った)





フェイト「と、とにかく・・・今回のお話はガーディアンの新体制・・・って、あれでいいの? UとVって・・・」

古鉄≪いいんです。あんまり特別な感じがしないように・・・とか、劇中で言ったような感じで考えた結果、こうなりました。なにより、分かりやすいでしょ?≫

フェイト「ま、まぁ・・・それはね。あとは真城りまさんだね」

古鉄≪若干複雑な事情がある故にああいう感じになっているキャラなので、その辺りの話は今後やっていきます。
というより、原作でもかなりその辺りで何話かやっているので、一気にいい感じには出来ないんですよ≫





(青いウサギ、そう言って閃光の女神に参考資料を渡す。閃光の女神、それに目を通して・・・納得する)





フェイト「・・・なるほど、こういう背景のキャラなんだね。というより、なんだかみんな複雑だよね。
まだ話はやってないけど、唯世君や海里君もそんな感じでしょ?」

古鉄≪その辺りも出来ればいいんですよね。まぁ、まだまだ期待ということで。
・・・それでは、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「フェイト・T・ハラオウンでした。それでは・・・また」










(二人、カメラに手を振りながらフェードアウト。
本日のED:NICO『ホログラム』)




















恭文「フェイト、ただいまー。あむのこと送ってきたよ」

フェイト「・・・あ、ヤスフミおかえり。あむさん、どうだった?」

恭文「だめ。あれは相当だよ。まぁ、一気にゴタゴタしちゃったから仕方ないんだけどさ」

フェイト「そっか・・・。ねぇ、ヤスフミ。ほしな歌唄って、本当にこんな事をする子なの?」

恭文「アレ、僕と同類・・・ドSだよ? ただでイースターの言う事聞いたり、出世のためにこんなことやるようなのじゃないよ。
だから、ただじゃないと思う。・・・気になる事も言ってたしね」

フェイト「気になる事?」

恭文「エンブリオを見つけて、イクト・・・月詠幾斗を救う・・・だってさ」

フェイト「つまり、細かい理由はどうあれ、強い意志を持って、自分のために行動してるってことなんだね。
そして、目的はエンブリオ。・・・絶対に、止めなきゃ。例えそうだとしても、こんなこと間違ってる」

恭文「・・・そうだね。でもフェイト、気負っちゃ・・・だめだよ? あむと同じ。フェイトは、僕と言うパートナーが居るんだから」

フェイト「うん、分かってる。・・・ありがと、頼りにしてるよ」










(おしまい)





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