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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第12話 『別れと炎にお前が泣いた 出会いと嵐に僕は泣きそう』



朝もやが止まぬ街を・・・歩く。なんとなく、目が覚めた。時間は午前5時になろうかという時間。みんなが目を覚ます前に、ちょっとしたお散歩である。





えっと、朝一番でヒロさん達とはやてとリンディさんが帰るでしょ? で、週明けになのはと師匠とスバル・・・と。あははは、今日の朝ごはんはきっと大変だな。帰ったらすぐに準備に取り掛からないと。





ま、そんなことはともかく・・・僕は右に目を向ける。僕の隣を歩く『女の子』に。










「・・・全く、昨日唯世から聞いて、僕はびっくりしたよ?」

「ごめんなさいね。やっぱり・・・言い出しにくかったから」





そう、なでしこだ。たまたま僕と同じく目が覚めたとか。で、二人で早朝散歩である。



散歩しながら、そんな文句を軽く言ってみたりする。まぁ・・・これくらいはね? きっとあむのフォローをすることになるだろうし。





「行き先はどこ?」

「ヨーロッパよ。向こうで、世界を見てこようかと思って」



・・・なるほどね。まぁ、そういうことならしゃあないか。病気の治療とか、怪我したとかそういうのじゃないんだからさ。

明け始めている空を、珍しく白のロングパンツを履いて出歩いている子と一緒に見る。これだけ見るとデートか朝帰りかと言うような感じだけど・・・気にしてはいけない。



「まぁ、気をつけていきなよ? 僕はいいから、あむへの連絡は欠かさないように」

「あら、あなたはいいの? そう、私とのことは遊びだったのね」

「違うわボケっ! 僕はまだ大丈夫だけど、あむにはちゃんとフォローしろって言ってるのっ!!」



もうすぐ新学期で、空海もガーディアンから居なくなる。見てると、若干それについて寂しそうに感じている節も見受けられる。この場合・・・やっぱりきちんとメンタル面でフォローは必要なのだ。

もちろん、僕もやる。でも・・・本人がきちんとする方が、僕がやるよりもずっと効果的なのは間違いない。



「ごめん、冗談よ。ちゃーんとあむちゃんにはフォローするわ。・・・あぁ、そうそう」



なでしこが、懐から出してきたのは・・・手紙。差し出されたそれを、僕は受け取る。表には可愛らしい文字で・・・『あむちゃんへ』と書かれていた。裏には、なでしこの名前。

なぜこの状況でコレを出してきたかなんて、もう考えるまでも無い。ついでに、それを聞くほど野暮でもない。



「・・・渡しておくよ。それまでは、責任持って預かっておく」

「ありがと。私、恭文君のそういう理解力の高いところ、好きよ」

「そりゃどうも。・・・でさ、なぎひこ」



僕がそう言うと、なでしこが固まった。そして、いつものように笑う。

朝もやの街の空気を感じながら、ゆっくりと歩きつつ・・・である。



「もう、恭文君ったら・・・。私はなでしこよ? なぎひこは双子の」

「気づかないと思ってた?」



僕がそう言うと、なでしこ・・・いや、なぎひこが言葉を止めた。で、僕は続ける。



「これでも、人を見る目はあるんだ。・・・根っこは同じだよ。人の根っこ・・・心根に、男の子か女の子かどうかなんて関係ないでしょ」



あと、気づいたのにはもう一つ理由がある。なでしこから感じていた違和感がなぎひこと会って、一つの形になった。いや、違和感じゃなかった。あれは・・・デジャヴ。

だって僕も・・・あぁ、考えちゃいけない。この1年の間、アレになることはなかったんだ。考えちゃいけない。考えたらまたあれが出てくる。



「・・・参ったな」



そう言って、声がする。ただしそれはなでしこの声じゃない。あの時、バスケをした男の子の声。そしてその子は、髪を結っていた紐を解く。そうして開放された長く潤いのある髪は重力にしたがって下ろされて、僕の目の前に男の子が現れた。

そう、それは・・・なぎひこ。つまり、なでしことなぎひこは同一人物。ようするに、目の前に居る子は、男の子だ。



「まさか気づかれてるとは思わなかった。僕、恭文君のそういう理解力の高いところ、ちょっと苦手だな」

「さっきは好きだと言ってたのに。そう、僕との事は遊びだったのね」

「なんか無駄に生々しい言い方はやめてよっ!! ・・・僕、基本男には厳しいんだ」

「そっか、それは奇遇だね。僕も同じだよ。・・・でも、どういうこと? なぎひこがなでしこの振りして今回の事に紛れ込んだ・・・とかかな」



その言葉になぎひこは首を横に振って否定した。そして、そのまま歩きながら・・・話し始めた。



「・・・藤咲の家には、一つ家訓があるんだ」

「家訓?」










そう言えば・・・なでしこの家って。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『おっすっ! 師匠っ!!』



日武の家元で・・・。



「おうっ! お前らよく見ておけっ!!」



それで・・・あれだよ、藤咲破だっけ?



「ふぅぅぅぅじぃぃぃぃさぁぁぁぁきぃぃぃぃっ!!」



で、両手からあのポーズでどかーんとエネルギー破を出るのよ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



それで山が砕けるのですよ。いや、すごいね。藤咲破。



『うぉぉぉぉぉっ! 師匠すごいっスー!!』










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、今度お邪魔していいかな? ちょっと手合わせをお願いしたいから」

「いくらなんでも勘違いがヒドイよっ!? というより、日武の藤咲破じゃないからっ! 『日舞』の『藤咲派』だからっ!!」

「僕の願望だけどなにか問題でも?」

「大有りだよっ! その願望は今すぐどこかへ捨て去ってよっ!!」



まぁ、アニメにあやかったジョークはともかくとして、話を進めよう。



「ね、藤咲家の一族ってボケもやりたいんだけど」

「やらなくていいからっ! そして一歩も進んでないからっ!!」



なぎひこがなんか不満そうなので、話を進めよう。

とにかく・・・察するに日舞の勉強のためにってことだよね。



「うん。・・・男の子は日舞・・・女形舞踊の勉強のために」



女形とは、日舞の芸風・・・ちょと違うな。表現方法の一つ。簡潔に言えば、男性が女性として踊るというものである。女性としての艶や仕草を学んで、それを踊りの中に盛り込んでいくのだ。

なお、一流と言われる女形舞踊は・・・マジで見惚れる。女性より女性らしいのだ。



「小さい頃は女の子として過ごす・・・ようするに、生活そのものから女性と言うものを理解するための勉強をするんだよ」



つまり、そのためになぎひこは学校でも『藤咲なでしこ』という女の子として生活していた・・・と。

つか、学校の中でもそこまで出来るものなの? 生徒とかはともかく・・・先生とかが許すとは思えないんだけど。



「普通はね。だから、入学する時に事情を説明して、理解を求めたんだ。幸い、理事長はそういうことならと認めてくれて、僕はなでしことして聖夜小に入ったというわけ」

「なるほど・・・。ちなみに、この事を知っている人間は他には?」

「理事長と辺里君と、あと・・・当然だけど藤咲家の人間。それだけだね。結木さんや相馬君・・・あむちゃんは知らない」



なら、僕もそのメンバーには黙っておかないとだめと頭に入れておく。さすがに・・・これは他人の口からバラすのはアウトでしょ。



「あ、忘れるところだった。咲耶さんもだね」

「咲耶がっ!?」

「うん、コンサートの時に聞かれた。でも、びっくりしたよ。なぎひことしての僕には会ってないはずなのに、あっさり見抜くんだから」



あはは・・・。あの女、無駄にスペック高いからなぁ。つーか、あれに付き合っていく恭太郎ってすごいと思うんですけど。



「恭文君、悪いんだけどみんなには・・・」

「内緒にしておく。てゆうか、僕からは言えないでしょ」

「・・・うん、そうしてくれると助かる。あ、それとさ」



・・・なに?



「あむちゃんのこと、お願い出来るかな」

「・・・理由は?」

「僕、離れちゃうし、イースターの行動もどうなるか分からない。だから・・・」



僕はため息を一つ吐く。そして、なぎひこを見る。ちょっと呆れ気味なものが篭ってるのは、気のせいじゃない。



「他に居るだろうにあむのことを真っ先にって・・・」

「まぁ、僕にも色々あるんだよ。そこは君の高い理解力で察してくれると、助かるかな」



ウィンクしながらそんなことを言って来た。・・・まぁ、察しはなんとなくつくので良しとする。



「・・・正直、僕もいつまでこっちに居るかわかんない」



僕がそう口にすると、なぎひこの表情が曇る。だから、言葉を続けた。



「だから、居る間は頑張るよ。僕は、あむに・・・いや、みんなに通さなきゃいけない筋ってやつが出来たから。仲間として、友達としてね」

「恭文君・・・」

「パーフェクトに出来る自信なんて無いから、あくまでも出来る範囲にはなるけど・・・それでいいかな?」

「うん、それで十分だよ。・・・ありがと」



僕はその言葉に首を振り、問題無いと返す。なぎひこは、笑顔で返してきた。多分、男の子としての笑顔。

それを見て・・・ちょっと思いついた。



「ね、なぎひこ。せっかくだからバスケしてかない? この間のリベンジしたいのよ」

「あ、いいね。・・・せっかくだから、花は持たせて欲しいんだけどな」

「だめ。僕、基本的に男には厳しいの」

「あぁ、それは奇遇だね。僕も同じだよ」










そのあと、どこからともなくボールを調達して、二人でギリギリまでバスケをした。・・・まぁ、僕はまだまだ大人にはなれなかったとだけ言っておこう。決着は帰ってきてからつけることにする。





それから、みんなで騒がしく朝食を食べて、ヒロさん達にはやてにアギト、リンディさんを見送った。週末はなぜか僕も参加でティアナの訓練をやって・・・なのは達も帰った。





そして、週が明けてからすぐ・・・なぎひこは、ヨーロッパに留学した。





またすぐに会えるからと、いつも通りに帰って行って、そのまま旅立っていった。事情を知っていたあむ以外のガーディアンのメンバーも同じく。いつも通りにじゃあねと行って、見送りも行かずにお別れした。





なお、手紙はちゃんと僕からあむに渡した。その様子は、想像にお任せする。




















「・・・いや、まだなのはさん達は帰らないからっ! そして僕もまだもう少しだけ出るからっ!! なんでこんな勢いよくフェードアウトっ!? おかしいでしょこれはっ!!」

「いやいや、これくらいの方が別れの寂しさを演出出来るんだって」

「意味分からないよそれっ!!」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第12話 『別れと炎にお前が泣いた 出会いと嵐に僕は泣きそう』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・つーわけで、やっさん。みんなもまたね」

「いや、慌しくて悪いな。俺らももうちょい滞在したかったんだが・・・」

「いえ、お気になさらずに。あの、本当にありがとうございました」



朝食をみんなで楽しくいただいてから、あたし達ガーディアンのメンバーと恭文にリイン、フェイトさんは、これからえっと・・・ミッドチルダだっけ? 魔法文明の発祥の地って言うところ。

とにかく、そこに帰るヒロリスさんとサリエルさん、はやてさんにリンディさんを見送っていた。なんでも、転送魔法って言うのでパッと帰れるらしい。



「いいえ、可愛い息子と娘がお世話になっているお礼があれくらいで出来たのなら、お安いものよ」



そのウィンクしながらの言葉に、恭文とフェイトさんが苦笑いを浮かべる。それだけで分かった。どうやら、お母さんには誰も勝てないということが。



「そうやそうや。・・・リイン、しっかりやるんやで? なんや小学校生活も大変そうやしな」

「はいです、ヴィータちゃん」

「あ、そこはややにおまかせをっ! リインちゃんとはもうすっかり仲良しですしっ!!」

「うん、ほんならややちゃん・・・リインのこと頼むな」



あぁ、そう言えばややと同じクラスだったけ。・・・そう言えば、新学期のクラス分けどうなるのかな。唯世くんやなでしこと同じだといいんだけど。

そんなことを言っている間に・・・四人の足元に魔法陣。それは、映像で見たティアナさんの魔法陣に似た円形の物で、だけどとても大きかった。



「あ、もう時間か」

「さすがに時間ぴったりだな」

「・・・ほな、みんなまたな」

「恭文君やフェイトの事、よろしくね〜」

「か、母さんっ!!」



そして、四人は手を振って・・・光の粒子に包まれながら消えた。本当に、一瞬の間に。

・・・な、なんというか・・・魔法ってすごいかも。こんな事まで出来るとは思わなかったよ。



「・・・なんか、一気に寂しくなっちまったな」



空海が恭文の隣に立って、そう言ってきた。恭文とフェイトさんは顔を見合わせて・・・静かに、うなづいた。



「まぁ、また会えるからあんまりしんみりも無いけどね。みんなやたら元気だし」

「そっか、それはいいことだ。さて・・・俺達はこのまま解散か?」

「そうだね。さすがに二日続けてお泊りは予定してないし、みんなも予定あるんだよね」





・・・まぁ、一応ある。空海はサッカー部のみんなとゲーム大会。唯世くんは学習塾の特別講習。ややはパパとママのお手伝い。

で、あたしは・・・さっきなでしこから誘われて、ちょっとお買い物に行く。



というか、なんか恭文も行くらしい。・・・なんで?





「あら、決まっているわ。恭文君のファッションを改善するためよ」

「・・・はいっ!?」

「え、えっと・・・なでしこ、それはどうして?」

「だって、もうちょっとなんとかした方がいいと思うの。今でも悪くはないけど・・・もうちょっとね」



確かにそうかも。着こなしはまぁ・・・悪くない。元も・・・まぁまぁ悪くない。とにかく、おしゃれ用の服の二、三着は持っておくべきなのかも知れない。

まぁ・・・色々あるだろうけど、きっとそれくらいはやっていいと思う。



「よし、恭文。あたしとなでしことミキで見立ててあげるから、行くよ」

「・・・ちなみに、拒否権は? 僕は今日ぬいぐるみ作ろうと思ってたんですけど」

「あるわけないじゃん」

「だから、その軽めの人権否定やめろっ! 僕だって傷つくんだぞっ!?」

「ヤスフミ、抑えて抑えて・・・。二人とも好意で言ってくれてるんだから、ちゃんとしないとだめだよ。それに・・・おしゃれするのだって、きっと楽しいと思うな」










ニッコリ笑顔でそう言われて、恭文はうなづいた。頬を赤らめてたのは気のせいじゃない。





どうやら、フェイトさんは恭文より強いらしい。というか、そういう力関係らしい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで・・・みんなでおかいものー!!」

「昨日あんなに暴れたのに・・・恭文さん、パワフルですねー」

「・・・どういう服が似合うかな。あれもいいし、これもいいし」

「ミキがなんだかやる気だ」

「ですぅ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「でも、お買い物も結構久しぶりだよねー」

「そうだね、私も実は久々」

「だねー」

「よし、せっかくだからいいの見繕っちゃおうかなー」

「あ、アタシもシグナムやルールーへのお土産、今のうちにみつくろうっと」



・・・って、なのはさんにフェイトさんにヴィヴィオちゃんにスバルさんにアギトさんまで居るー! え、どうしてっ!?



「・・・着いて来るって聞かなかったからだよ」

「あら、そうなの。・・・ちなみに、ヴィータさんやティアナさん達は?」

「ほら、前に話したティアナの訓練。週末使ってびっしりやるから」



あぁ、空を飛べるようになるための訓練してるんだっけ。



「うん。・・・本当は、私も参加予定だったんだけど、ヴィータとリインがダメだって」

「私も同じく。二人に思いっきりシャットアウトされたんだ」

「フェイトママは、なのはママや私としばらくコミュニケーションしてないから、行って来いって言われたの」

「なるほどね・・・。確かに、親子間のコミュニケーションは大事ですもの」



でもティアナさん・・・大変だなぁ。昨日あんなに暴れまわったのに。すごく頑張ってるってことなんだよね。・・・強く、なるために。なりたい自分に近づくために。

とにかく、このメンバーで商店街を歩く。というか、男の人が見るなぁ。主に・・・なのはさんとフェイトさんを。すっごい美人だから、やっぱりこうなるんだよね。



「・・・ねぇ、なんか僕に対して視線を向けてくるのが居るんだけど、どうすればいい? しかも男」

「あ、あはは・・・どうしようか、それは」



その言葉に、あたし達は全員苦笑いしかできなかった。まぁ・・・見ようによっては女の子にしか見えないしなぁ。



「というかさ、横馬」

「なに? ・・・って、名前で呼んでよ」

「嫌だ」



なんかいきなりとんでもない否定をぶつけたっ!? というか、横馬ってなにっ!!



「サイドポニーだからだよ」

「・・・そっか、うんわかった。やっぱりアンタマジセンスないわ」



これは今日の買い物、かなり厳しくなると予想した。いや、真面目にだよ?



「というかさ、フェイトママ」

「うん、なにかな」

「恭文がなのはママに意地悪なのはもういいんだけど」



・・・ヴィヴィオちゃん、それはキツくない? なんかグサってなのはさんに突き刺さったし。さすがにその見捨てるような発言は・・・。



「だって、恭文は心を許してる子にしかそんな風に意地悪しないですから」



心を許してるって・・・え、そうなの?



「ね、スバルさん」

「あー、そうだね。私も恭文にいじめられたよ〜? 豆芝ーとか、空気読めないーとか・・・でも、恭文の意地悪は『好き』の裏返しだから。つまり・・・なのはさんを横馬呼ばわりするのは『大好き』ってことなんだ。ねー、恭文」

「・・・別に? 僕はなのは虐めるのが楽しいからやってるだけだもん」



そっぽを向いて、恭文が膨れる。だけど・・・なんか微笑ましい。恭文もこういう意地っ張りキャラな部分があるんだって分かって、ちょっと親近感。あたしも覚えがあるから。

というか、意地悪は好きの裏返しか・・・。なら、えっと・・・私にもそうなのかな。もちろん、フェイトさんが居るから友達として。だったら・・・ちょっと嬉しいかも。



「それで、フェイトママ・・・恭文と手、繋がないの?」



その言葉に、恭文とフェイトさんが顔を真っ赤にする。・・・そして、察しがついた。いつもは繋いでいるんだと。すっごく繋いでいるんだと。



「ヴィヴィオ・・・さすがに、それはダメだよ」

「そ、そうだよ。僕小学生になってるわけだし、近所だし、見られたら・・・あの・・・」

「あと、あむさんやみんなも居るし・・・」



あぁ、あたし達の事気にしてたのか。まぁ、それは分かる。あたしも同じ立場だったら・・・ねぇ?

・・・って、あたしなに考えてるのっ!? な、なんで唯世くんと手繋ぐとこなんて想像して・・・いや、嫌じゃないっ! 嫌じゃないんだけどっ!!



「あら、私達のことはお気になさらなくて大丈夫ですよ?」

「あ、私もなでしこちゃんと同じくっ! というか、六課に居た時はずーっとラブラブだったんですから、今更ですよっ!!」

「そ、そんなことないからっ! 仕事場では普通だよっ!? 私とヤスフミがラブラブするのは二人っきりの時だけなんだからっ!!」

「「「「いや、してたから。すっごいしてたから」」」」



魔導師組の声が見事にハモった。それもヴィヴィオちゃんも含めて。・・・無自覚だったんだね。うん、分かった。よく分かった。



「・・・はわわ、熱々なんですねぇ」

「というか、さすがに仕事場はマズイんじゃ・・・」





スゥとミキがふわふわと浮かびながらそう言ってきた。当然、視線は恭文とフェイトさんに向いている。

二人は更に顔真っ赤に・・・あぁ、わかったよ。恭文があたしを弄る理由が。これ・・・理屈抜きで楽しい。

・・・まぁ、事情は分かるので、みんなそれ以上は言わずにまた歩く。なお、別に繋いでもあたし達は気にしないと言った上で。



そうして、一軒の衣料店に行く。そして、そんな中でまずは恭文の服を見立てていく。ジーンズ系やぶ厚めのジャケット系に手を伸ばそうとするのをストップして、みんなで引っ張っていく。

今着ているものよりも薄手で、着崩しもしやすい感じ・・・もっと言うと、今よりも軽い感じの服を探す。というか、見つけては試着させていく。



でも・・・意外と最近の流行的な着合わせが似合わない。うーん、なんでだろう。こう、なんか違うというかかんというか。





「・・・多分、ちょっと男らしい感じがし過ぎてるからじゃない?」



ミキが唸りながら言って来た。目は真剣に、恭文を見ている。なお、現在ちょっとパンクに挑戦してもらってる。表情が若干疲れてるのは気のせいだと思う。



「恭文は顔立ちも柔らかいし、どっちかって言うと女性的だからさ。そこまでいっちゃうと服に負けるんだよ」

「・・・あ、そっか」

「うん、もうちょっと女の子みたいな・・・というか、柔らかい感じにすれば問題は」

「・・・・・・おおありなんですけど? 主に僕が」



何か聞こえたけど気のせいだ。あたしとミキのファッションセンスに任せてもらえれば完璧なんだから、ここは頑張ってもらいたい。



「フェイトー、助けてー!?」



そう言って、涙声でフェイトさんの方を向く。あたしも視線が向く。



「え、えっと・・・似合うかな? さすがにちょっと露出が多い気が」

「わ、私も・・・これはちょっと恥ずかしいかも。いや、バリアジャケットもこれくらい露出あるんだけど」





そして、そこにはなぜかタンクトップでへそだしで谷間が見えてたりするなのはさんとスバルさんが居た。というか、ちょっと夏仕様な服。

・・・でも、スバルさん・・・大きい。自分の胸に手を当てる。



い、いいもんっ! これからじゃんっ!? そうだよ、これからなんだからっ!!





「そんなことありませんよ。なのはさんもスバルさんもスタイルいいんですし、これくらいはいけます。これで今年の夏はなのはさんの物ですよ」

「そうだよなのは、素敵だと思うな。スバルもイメージに合ってるんだし」

「なのはママもスバルさんも、似合ってるよー」

「なんか楽しくお買い物中のところ悪いんですけど、お願いだから僕を助けてー! へるぷみー!!」



だけど、当然その声は届かなかった。・・・だって、ねぇ? 今日は恭文ががんばらないといけない日だもの。ここで助けたら意味がないよ。



「・・・まぁ、アレだ。頑張ろうぜ? 方向性はやっと見えたみたいだしよ」

「うん・・・頑張る」










ぽんと、アギトさんが恭文の肩を叩く。それにすがるように、ちょっと涙目。





・・・うーん、さすがにパンクは挑戦させ過ぎてたかな。みんな若干引き目で見てたし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで・・・。










「こうなりましたー!!」



白の長袖のボタン無しシャツに、上から赤と白のチェックのパーカー。なお、同じく長袖。黒の穴あきベルトを腰に巻き、黒のロングパンツにスニーカー。

まぁ、一応基本スタイル? これにプラスしつつ考慮するのですよ。なので、シンプルに・・・だけど、応用が利くようにしてみた。



「わぁ・・・恭文さん、素敵ですー」

「うん、元がいいんだから、やっぱりバリエーションだって」



そして、とうの本人は・・・あ、なんか照れてるのか、ちょっと顔赤い。



「・・・な、なんと言うか・・・あの」

「ヤスフミ、素敵だよ。うん、かっこよくなった」

「あ、ありがと・・・」



そうして、固有結界が発動される。なんか空気が甘い。すっごく甘い。

というか、なぜなでしこがにやりとするのかが分からない。



「あぁ、なでしこちゃんはさっきフェイトちゃんに『とりあえず誉めてあげてくださいね。きっとフェイトさんの評価を気にしてますから』・・・ってアドバイスしてたの」

「さすがに振り回し過ぎちゃったしな。いや、助かったよ。アイツ、内心きっと疲れ果ててたからよ」

「問題ありませんわ、アギトさん。でも・・・嬉しそうね」





うん、恭文、なんだかうれしそう。・・・コレを機に、おしゃれに目覚めるといいんだけどなぁ。



おしゃれって、やっぱ楽しいもん。好きな人にあんな風に見てもらえるのは、幸せだから。





「あら、あむちゃん。もしかして・・・ヤキモチ?」



なでしこがどこか意地悪げにそう言って来た。とりあえず、首を横に振って否定。全力で否定。



「え、そうなのっ!? ・・・あぁ、恭文君はまたフラグ立ててたんだ」

「なのはママ、また現地妻ズの会員増えるのかな」

「ち、違いますっ! 普通に恭文とは友達ですからっ!! というか、あたしはちゃんと本命居ますからねっ!? あとヴィヴィオちゃん、現地妻ってなにっ!!」

「あ、恭文にフラグを立てられた人達の総称なんだ。まぁ、一種のファンと言うかそんな感じなんだけど」

「だから違いますからっ! そしてスバルさんも答えなくていいですからねっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・三条さん、路上ゲリラライブって・・・どういうこと? というか、勝手にやったら警察とかがうるさいんじゃ」

「その辺りは問題ないわよ。ちゃーんと処理してる。・・・まぁ、ちょっとした実験って感じね」



実験?



「ほら、二階堂の奴がヘマしたじゃない?」



そう言われて私は思いだす。・・・あぁ、あの子と・・・恭文に負けたんだっけ。

なんでも、半殺しにされたとか。やっぱりアイツ・・・手ごわい。



「で、私としてはあのバカの二の舞にならないように、しっかりと今後の作戦を立てたわけよ」

「バカって・・・昔付き合ってたって言ってなかった? 昔付き合ってた男の悪口言う女は、モテないと思うな」

「う、なかなかにキツイお言葉・・・というか、それは言わないでよっ! 例えそうだとしても、アイツと付き合った事は人生最大の汚点なのよっ!?」



・・・なんだろう、本気でそう思ってる風に思えないのは気のせいなのかな。ちょっと恥ずかしそうというかなんというか。

とにかく、私の疑問は一つ。それと今回・・・というか、もうすぐ行う路上ゲリラライブとどういう関係があるのかが分からない。



「簡単よ。一つは・・・これの性能テスト」



そう言って三条さんが出してきたのは・・・人形。黒くて、球体がくっついて人型になったようにも見える人形。



「これ、二階堂が作った×たま強化ボディの量産型なの」

「強化・・・ボディ?」

「そうよ。まぁ、開発局の連中曰く『性能はオリジナルより低め』・・・らしいけどね。同じように数体作ると、制作費がとんでもないことになっちゃうんだって。で、あとは・・・」



三条さんがにやりといやらしく笑う。そして、そのまま言葉を続ける。



「ちょっと考えてることがあってね。歌唄、アンタの歌で×たまじゃんじゃん抜き出しちゃって」

「・・・どうして?」

「それはおいおい教えてあげる。さぁ、歌唄・・・行ってらっしゃい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あむちゃん、恭文っ!!」



・・・僕達がお店の外に出た途端・・・ランが叫んだ。それに僕とあむが視線を向ける。



「たまごの気配がするよっ! それも・・・大量にっ!!」

「た、大量って・・・ラン、どういうこと?」

「分からないよっ! とにかく、すぐに行こうっ!?」



僕とあむ、それになでしこは顔を見合わせて・・・あ、待てよ。



”フェイト、ちょっと行ってくる”

”え?”

”ランがたまごの気配・・・それも大量に感じたんだって”



僕が思念通話でそう告げると、フェイトの表情が変わる。そして、そのまま手を伸ばして・・・僕やあむ、なでしこの荷物を引き受けた。



”ここは私に任せて、ヤスフミはあむさん達と一緒に行って”

”・・・分かった。あ、それと”

”なに?”

”アギト、ちょっと連れてくね。・・・今は咲耶もリインも居ないから”




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、アギトも入れて四人でダッシュ。その道すがら簡潔にだけど事情説明。





で、当然反応は・・・こうですよ。










”・・・なんつうかお前・・・やっぱ運無いな”



・・・僕もそう思う。



”とにかく、アタシは余計な手出しはせず、お前の指示に従えばいいんだな? つーか、出しようがないか。アタシはそのしゅごキャラってのが見えてないんだから”

”・・・そうだね。とにかく、事情は今説明したとおりだから・・・何かあったら、力を貸して”

”あぁ、分かった”





そんな会話をしつつたどり着いたのは・・・近くの路上。そこに倒れている人が数人。そして・・・黒い人形。

近くで車が猛スピードで走り抜けて行った。多分、あれが今回の事態を引き起こしている。・・・くそ、お手並みが鮮やか過ぎるぞ。

でも、今の問題はそれじゃない。目の前の人形が問題なんだ。



それを見て、僕とあむは驚きを隠せなかった。だ、だってあれは・・・。





「あれ、二階堂先生が使ってたボディじゃんっ!!」

「・・・量産化、されていたわけね」



なでしこがそう言ったのが合図になった。人形達はいっせいに右腕を上げて、衝撃波をかましてくる。僕とアギトは左、あむとなでしこは右に飛ぶ。その間を黒い風が吹きぬけ、コンクリの路面を削る。

数は6体。さすがにあれクラスがこれだけ居るとは考えたくないけど・・・



「おい、恭文。様子見はちとヤバイんじゃねぇか? つーか、アタシでもあれは見える。だったら・・・」

「・・・だね。アギト、早速で悪いけど」

「おうよっ!!」



僕は左手から空色のデンオウベルトを取り出し、腰に装着。



「久々のユニゾン・・・いくぜぇぇぇぇぇぇっ!!」

「了解っ!!」





そんな間にあむとなでしこは・・・。





「あたしのこころ・・・!」





自分の胸元の南京錠の前に両手の親指と人差し指で四角を作る。そしてそのまま・・・手を回転させる。





「アンロックっ!!」





瞬間、あむの回りをピンク色の光が包んだ。





「てまり、キャラチェンジ」

「はいな」



戦闘準備を整えている。僕は、パスを開いて、カードスロットを展開。そこに二枚カードを挿入。

一枚は、アギトのカード。そしてもう一枚は『Sound』と書かれたカード。



≪Sound Ride&Fusion Ride Agito Set up≫



カードスロットを閉じる。それから、パスを閉じる。

あむの姿は、その間にピンクを基調としたチアガール姿になっている。そう、基本形態だ。



「キャラなりっ! アミュレットハートっ!!」



で、なでしこは・・・。



「おんどりゃぁぁぁぁぁぁっ! 覚悟しいやっ!!」





・・・なぎなた持って吼えてるけど気にしない。僕は僕でやることがあるから。



というわけで・・・パスをセタッチっ!!





「変身っ!!」

≪Blaze Form≫










ベルトから赤い光が溢れ、それが炎となり身体を包む。僕の傍らに居たアギトが、僕に吸い込まれるようにして消える。

それから、次々と変化が起こる。今まで来ていたオニューな服は一瞬で解除され、赤い分厚いジャンパーを羽織り、下は黒のジーンズ。両手はジガンスクード、ブーツもいつもと同じく。

そして、それらが装着されたジガンスクードと、右のガントレット、そして具足が一瞬炎に包まれて、金色に色を変え、ジャンパーの肩に・・・同じ色をした、厚い板状の装甲が追加される。





最後に、僕の髪と瞳が、綺麗な赤に染まる。熱く、強い炎の色に。





そして、炎が弾けた。僕達の周囲に、羽のような炎が舞い散る。それだけじゃなく・・・懐紙吹雪が降り注ぐ。










【アタシの炎は・・・泣けるぜっ!!】

「涙はこれで拭いときなよ?」



左の手を上げる。手の平の上に炎が燃える。それを・・・握りつぶす。

それから、ニヤリと笑う。不敵に・・・らしく。



「で、一緒に燃やしてあげるよ」





結構久々なアギトとのユニゾン・・・ブレイズフォームッ! 炎・・・王道・・・さいこー!!





≪The song today is ”Double-Action Blaze Form”≫





ベルトから音楽が鳴り始める。・・・演歌、思いっきりド演歌。





「ちょ・・・え、それなにっ!? なんでまたそれなのかなっ!!」

【・・・あむちゃん、恭文のセンスは相当だね。あれの修正は無理だと思うんだけど】

「おぉ、随分ノリがえぇやんけっ! おのれら・・・見込みあるわっ!!」

「そしてなでしこは落ち着いてー! なんか飛び込もうとしないでー!!」



ゆっくりと歩き出す。人形が僕に向かって衝撃波を撃って来るけど、僕は平然と、その中を歩いていく。黒い風は、炎を揺らがす事すら出来ずにただ通り過ぎるだけだった。

・・・おぉ、全然効かない。さすがに装甲厚めなことはあるねぇ。



「うおりゃぁぁぁぁぁぁっ! 余所見しとる場合かぁっ!?」



そんな中、背中からなでしこがなぎなたで袈裟に斬りつける。それにより、一体がよろめく。それに他のが視線を集めた隙を狙って・・・一気に飛び込んだ。

アルトを抜き放ち、一体の腹を薙ぐ。それから袈裟に打ち込んでもう一体を斬る。そこに・・・右から拳を人形が叩きこんできた。それを僕は左手で掴んで止める。



【・・・効かねぇ・・・なぁっ!!】



拳を強く握る。黒い人形は引く事も、押すことも出来ずに、ただそこで右往左往するだけだった。



「言ったでしょうが・・・っ! 僕達の炎は・・・泣けるってさっ!!」



そのまま胴を薙ぎ、また刃を返して右から一閃。他の三体は・・・あ、なんかなでしこが斬りつけて倒しちゃってる。



「・・・あぁっ!? おんどりゃこれで終わりかぁっ! ナメとったらガチで舌抜くぞ、おらぁぁぁぁぁぁっ!!」



というか、すごい勢いで威圧を・・・こ、怖いなぁ。あれはさ。



【なぁ、あのねーちゃんはいつもあんな感じか?】

「・・・多分」





あむがその様子に圧倒されて半笑いだし。まぁ、いいや。とりあえず、半分は任せた。僕はもう三体を潰す。

アルトを正眼に構える。刀身に魔力を込める。刃は赤く・・・紅蓮と言うべき色に染まる。これは、僕とアギトの魔力を練り合わせた炎熱系の攻撃。

全てを焼き尽くし、叩き伏せる浄化の炎。携えた刃を、左に置き・・・腰だめにして、構える。柄を両手で持ち、何時踏み込んでもいい体勢に持っていく。



黒い人形が三体・・・飛び込んでくる。だから僕は、アルトを左から真一文字に叩き込んだ。





【「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」】





空間を、迫り来る敵を、赤い熱を宿した閃光が斬り裂く。黒い人形はそれに両断され、斬撃の痕から火花が散り・・・人形三体は、炎に包まれた。炎は、そのまま人形を燃やし尽くす。



そして、そのまま爆発した。その中から・・・白いたまごが三個現れて、倒れている人達に吸い込まれていった。





【「・・・灼花、一閃」】

≪後から言うのは基本ですよね。で・・・問題は≫

【あっちの連中だな・・・って、もう終わりそうだけど】





あむが人形三体を右手で指差す。左手は腰に添えて・・・そのまま言葉を続ける。



その回りにミキとスゥが浮き、同じポーズで構える。





「ネガティブハートに・・・ロックオンっ!!」





そのまま両手を前にもって行き、両手の人差し指と親指でハートマークを作る。それを人形三体に向ける。



そこにピンク色のエネルギーが溜まっていき・・・。





「オープン・・・!」





南京錠から光が溢れる。その光はハートマークの間を通り・・・力となり、前方へと放射される。





「ハートッ!!」





ハートの形をしたエネルギーが放出される。その直撃を受けた人形三体は・・・叫び声をあげながら消滅した。そして、そこにはたまごが三つ。



それは当然白く、羽の絵が描かれている。そのまま、たまごの持ち主と思われる人達に吸い込まれていった。





【・・・魔法少女だな】

「でしょ?」



アギトが呆れてるとも感心してるとも取れるような言葉で返してきた。・・・そうだよね、アレ見たら魔法少女って単語しか出てこないよね。僕、間違ってないよね。



【なぁ、アタシしばらくこっち居ちゃだめか? アレ、もっと見たいんだけどよ】

「こらこら補佐官、シグナムさんはどうするのさ」

【あぁ、あれは放っておいても・・・いや、まずいな。マジで仕事以外は若干だめなところ多いしよ】



・・・うん、よく知ってる。こう・・・若干自分のことに無頓着なところがあるのよ。よーく知ってる。



「でも・・・恭文君、その姿は?」



・・・なでしこ、キャラチェンジ解いたんだね。というか・・・あの落差はどこから来るんだろ。僕はよく分かんない。



「あ、そうだよっ!! ・・・それって・・・あの、えっと・・・もしかしなくてもアギトさんとのユニゾン?」

【そうだ、コイツが持ってるパスの力でユニゾンしてるんだよ。・・・よっと】



僕がベルトを外すと、ユニゾンは解除。隣に、フルサイズのアギトがポンと現れる。

で、手を出す。そうして・・・ハイタッチ。それから、アギトは二人を見る。ちょっとだけ真剣な顔で。



「でもよ、お前ら・・・あんなのいつも相手にしてるのか? 今のはなんか動き鈍かったから、チャッチャと片付けられたけど、やばいだろ」

「・・・戦闘のプロであるアギトさんから見ても、あの人形は危険に見えますか?」

「見えるな。・・・まぁ、コイツはいいんだよ。無駄に運が悪いせいか戦闘経験だけは人並み以上だしよ」



そうそう、僕は運が悪いから・・・って、なんでそうなるっ!?



≪事実でしょうが。魔導師でも魔導師以外でもどっさりと≫

「ま、まぁね」

「でも、お前らそうじゃないだろ? なんか対策は考えてた方がいいかも知れないな」

「対策・・・かぁ」










・・・でも、何がある? 1番手っ取り早いのは戦力強化だけど・・・でも、魔法少女のパワーアップなんて僕達の専門外だし。





うーん・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ちょっとっ!? アンタ達が作ったデクノボウ、すっごい簡単にやられちゃったんだけどっ!!」

『も、申し訳ありませんっ! ですが、説明した通り何分まだ試作段階でして・・・』

「言い訳してんじゃないわよっ! それともなにっ!? 二階堂居ないと全員揃いも揃って役立たずってわけっ!!」

『そ、そんなことは・・・』

「・・・三条さん、もういいじゃない。私、ご飯食べに行きたいんだけど」










・・・あぁ、聞こえてないわよね。うん、分かった。分かってた。





でも、アイツ・・・姿が変わった。キャラなりみたいだったけど、違う。だってあの赤髪の女の子は普通に10歳くらいの体型で、皆から見えていて・・・。

認識、改めた方がいいのかも知れない。三条さん達は所詮子どもで、キャラもちでもないからと侮っているけど、私はそうは思えない。

アイツには、私達の知らない力が備わっている。だから、この状況に首を突っ込んで・・・勝てる。





ふふふ、なんか楽しくなってきちゃった。もしかしたら、日奈森あむを相手にするより楽しめるかも。同じドS仲間でもあるしね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・そうして、その後僕達はフェイト達と合流して、買い物の続きを楽しんだ。





で、夕方前には解散。現在僕は何をしているかというと・・・あむと二人で居ます。





夕方の街・・・住宅街の中を、あむと二人で歩く。なお、これにはちゃんと理由がある。










「・・・でも、わざわざ送ってもらわなくてもいいのに」

「いいんだよ。女の子一人で夜道歩かせるのも間違ってるでしょ」

「いやいや、フェイトさん達だって女の子じゃん」



あ、フェイト達はなでしこを送っている。あれは男の子だけど、フェイト達はそのこと知らないしね。

とにかく・・・それなら問題無い。全く問題無い。



「なのははともかく、フェイトとスバルは素手でも強いし。特にスバルだね。殴ったり蹴ったりするのが専門だから、素手での格闘戦だと僕でも勝てない」

「そ、そうなんだ・・・。それは、安心・・・なのかな。というか、なのはさんはともかくってどういうこと?」



・・・そんなの簡単である。僕は右手の人差し指をピンと立てて、あむの方を向きつつその問いかけに答える。



「あれ、運動オンチなの。普通に動く分はともかく、格闘戦なんて魔法なしじゃあ出来ない出来ない」

「・・・ねぇ、それって魔法の先生としてはいいの? 昨日のを見るに、魔法戦闘ってそうとう激しく動くよね。それで運動オンチって」

「・・・僕もたまにそれは思うけど、局としてはいいみたい」



黄昏る空を見ながら、一歩一歩あむの家に向かって歩いていく。静かで・・・なんか落ち着く時間。なので、ちょっとだけお話したりする。



「あむ、ありがとね」

「え?」



両手を広げて・・・ニコリと笑う。それから、言葉を続ける。



「服見立ててくれて。まだ、ちゃんとお礼言ってなかったから」



僕がそう言うと、あむが表情を崩して、少し笑う。



「いいよ、そんなの。・・・まぁ、これからは少しはおしゃれとか頑張ってみたら? 強くなる事だって大事だろうけど、それだけってのも問題じゃん。
中身も外見もバッチリな方が、きっと気分だっていいし」

「・・・そうだね、なんかそう思い始めてる」

「やけに素直じゃん」

「うーん、思ってたより学校生活って楽しいからさ。・・・今みたいなのも、悪くないんだなって思って」

「・・・そっか」





なんて話している間に・・・あむの家の到着した。二階建ての一般的な一軒家。概観を見るにとても綺麗。

うーん、手入れが行き届いてるなぁ。玄関は家の鏡って言うけど、これだけ綺麗にしているところを見ると中もきっと素晴らしく綺麗・・・。



とにかく、あむは門の中に入る。で、僕は当然その外。これから家に戻らないといけないから。





「じゃあ、あむ。また学校でね」

「うん、送ってくれてありがと。帰り、気をつけなよ?」

「了解」





そのまま・・・歩いていく。家の方に向かって、夕飯のメニューなんて考えながら。





「・・・あのさっ!!」





後ろから声がかかる。振り向くと・・・当然あむが居た。



僕が視線で『何?』と言うと、あむが言葉を続けた。





「・・・なんで、信じてくれたの?」

「え?」

「あの時、なんであたしのこと、信じてくれたの? あたし・・・恭文みたいに強くない。ビビリキャラだし、力なんて無いし・・・それに、恭文言ってたじゃん。
信用するってのは、力があること前提だって。あたしが、昔の自分と同じ感じだったから・・・だから、信じてくれたの?」



・・・二階堂とやりあった時のことだと言うのは、分かった。

とりあえず、真剣に答える事にした。あむがなんか必死な顔してたから。



「それも・・・理由かな」

「・・・そっか」



あむが俯く。予想していて・・・そして、言われたくなかった。そんな感情が、その仕草から見えた。



「でも、それだけじゃない」



僕の言葉に顔を上げる。だから、そのまま笑って・・・言葉を続ける。



「強いってさ・・・きっと、力だけのことじゃないよ? 力があっても、心の弱い人は居るし、その逆もある」



そう考えると、僕はきっと・・・まだまだ弱い。迷ったり悩んだり後悔したり、そんなことばかり。最近はとくにその傾向が強い。

アルトやリイン・・・みんなが居るから、戦えるだけかなって、ちょっと思う。



「なんかね、あの時あむに『少しは自分を信じろ』って言われた時、信じたくなったんだ。無謀で、バカかも知れないけど、あむのこと・・・あむの強さ、信じたくなったの」

「・・・なにそれ、ワケ・・・わかんないし」



なんて言いながらそっぽを向くけど、表情が柔らかいから・・・少し安心した。まぁ、きっと色々あるんでしょ。思春期だしね。



「あのさ、恭文」



あむの顔が僕に向く。だから、僕はあむを見る。あむは・・・瞳を震わせながら、言って来た。



「ありがと。あたしのこと・・・信じてくれて」

「ううん、いいよ。だって、僕が信じたかったんだから」

「それでも、ありがとうなんだよ。いいから、素直に受け取ってろってーの」

「・・・意地っ張りキャラ」

「う、うるさいうるさいっ! てゆうか、それは違うでしょうがっ!!」










それだけ・・・本当にそれだけ言葉を交わして、僕は改めて帰路についた。





あむは、僕が背中が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・留学? じゃあ、ガーディアンは」

「やめることになりますね。1年の予定ですから、多分・・・そのまま中学に」



なでしこさんを送っている最中、なでしこさんからそんな話をされた。・・・踊りの修行のために、ヨーロッパの方に留学するとか。

それで・・・お願いされた。あむさんには内緒にしておいて欲しいと。



「ねぇ、なでしこさん。本当にいいの? だってあむさんは、あなたの親友なんだよね」

「・・・多分、あむちゃんが見送りに来たら、私・・・泣いちゃいますから」

「そっか・・・」



別れの寂しさ・・・私も分かる。それに、この子はこれで縁を切るとかそういうことはしない。

本当に、すぐ帰ってくる感じで、お別れじゃなくてちょっとお出かけする感じで・・・出たいんだ。



「でも、なんにも言わないのは・・・感心出来ないかな。まぁ、昨日会ったばかりの私が言うのもあれなんだろうけど」

「それなら大丈夫です、恭文君にお手紙を預けてますから」



・・・ヤスフミに? じゃあ、ヤスフミも知ってるんだ。



「はい。・・・フェイトさん、なのはさん、スバルさんに・・・ヴィヴィオちゃん。本当にお世話になりました。今日、とても楽しかったです」



そう言って、なでしこさんが頭を下げ・・・あの、そんなことしなくていいよ。むしろヤスフミのことで色々配慮してもらって、お礼を言うのはこっちの方なんだから。



「でも、一応必要なことですから。フェイトさん・・・ガーディアンのみんなや、あむちゃんのこと、お願い・・・出来ますか?」

「・・・うん、任せて。あなたが心配で勉強に集中出来ないなんてことがないように、私もヤスフミもティアも皆・・・頑張るから」

「はい、ありがとうございます」










・・・それから、三日後。なのは達が帰った翌日のこと、なでしこさんはヨーロッパに旅立った。





本当に・・・また明日学校に来そうな感じで、いつも通りに、普通にお別れじゃなくて、お出かけ。そんなことを感じさせるくらいに鮮やかに、この街から旅立っていった。





あむさんは・・・あの、ヤスフミから手紙を渡されて相当だったらしい。でも、なでしこさんの『また会いましょう』の言葉で、泣き崩れたりとかはなかったとか。





そして、私には・・・違うな。私達には、色々な懸念事項が出来た。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・人形が出てきた事は、ヤスフミから聞いてるよ。性能はあの時のものとは比べ物にならないらしいけど」

『はい、それは僕も藤咲さんの方からも報告で』





現在、私は唯世君と電話中。夕飯の準備をしていると、突然相談したいことがあるとかかってきた。用件は、この間の休日に起きた異変の事。



K・・・ガーディアンのリーダーである唯世君からすると、これは由々しき自体と思ったらしい。まぁ、私もなんだけど。





『・・・フェイトさん、僕に・・・魔法の力があるかどうか、調べてもらえませんか? そうすれば、ガーディアンの戦力強化につながりますし』

「それは可能だけど・・・お勧めはしないよ? 例えあなたに魔法の力があっても、それがヤスフミみたいに×たまに対する浄化を可能とするかどうかは分からないもの。
なにより、ここにはあなたにちゃんとした魔法戦闘・・・ううん、戦い方を教えられる人間が居ない。戦闘技能なんて、今日始めて明日身につくものじゃないよ」

『そう・・・ですよね』



間違いなく、この間の一件はイースターが原因と見ていい。人形が出てきた事と、一度に大量に×たまが出てきたのがその何よりの証拠。多分、二階堂先生の時みたいに誰かに抜き出されたんだ。・・・あぁもう、強行捜査でもなんでも出来ればいいのに。

いっそイースターに潜入・・・だめだ。ヤスフミの事がバレている以上、私やシャーリー、咲耶の顔もバレてる。二階堂先生がコンサートの場で見張ってたから、間違いなく報告されている。リスクが高過ぎるよ。



「とにかく、私の方でもイースターの動きについては調べてみるから、焦らないで・・・しっかりしていこう?
大丈夫、なにかあった時のために、ヤスフミやリインがみんなの側に居るんだから。Kのあなたが不安になってたら、みんなにもそれが移っちゃうよ」

『・・・はい』





それだけ言って、電話は終わった。携帯端末の通話ボタンを切ってから、ため息を一つ。

・・・さすがにこのままはまずいよね。とりあえず、イースターの内情・・・なんとか調べないと。とは言え、管理局の手は使えない。×たま関連の事が知られるのは、やっぱりまずいから。

だけど、顔が割れている私達では限界がある。いや、変身魔法で姿を変えて潜入・・・だめだ。どちらにしてもリスクが高過ぎる。相手は世界的な企業。どんな手を使うか分かったものじゃない。そうすると・・・これしかないか。



私はもう一度携帯端末を操作。そして、電話をかける。・・・数秒後、それは繋がった。





『はい。・・・というか、フェイト・・・久しぶりじゃない。どうしたのよ』

「ごめんね、アリサ。突然電話しちゃって」

『バカ、何謝ってんのよ』










その声は、アリサ・・・アリサ・バニングス。





私となのは、はやての幼馴染で、今も交流のある友達。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『・・・なるほど、それでイースター社について調べて欲しいと』

「うん・・・」



私は全部話した。というより・・・話をさせられた。うぅ、やっぱり隠し事出来なかった。

まぁ、当然だよね。だって、いきなり世界的大企業について調べて欲しいなんてお願いするんだから。



『安心して、秘密は守るわよ。とにかく、そのしゅごキャラ関連でイースター社がエンブリオって言う願いをかなえるたまごを見つけるために、悪事を働こうとしていると。でも、状況が特殊過ぎて、普通に管理局のツテを使って調査も頼めない。
アンタやナギは向こうに面が割れてるから、イースターに直接潜入も出来ない。だからと言って、個人での捜査にも限界がある。で・・・アタシを頼ってきたと』

「うん。アリサ、久しぶりの電話なのに、こんな話でごめん。でも、他に思いつかなくて・・・」

『あぁ、いいわよ。確かに話を聞く感じ八方手詰まりって感じみたいだしね。というかさ、フェイト。アンタ・・・ちょっとイライラしてるでしょ。いつもの調子でナギと戦えなくて』

「・・・かなり」



まぁ、そこはいい。その・・・普通に専業主婦してるとか考えると、あの・・・色々と勉強にはなるから。



『とにかく、アレよ。イースターの内情についてはアタシの方で調べておく。何か分かったら連絡するから』

「・・・アリサ、ありがと」

『いいわよ。・・・でさ、フェイト。アンタのイライラの原因はいつもの調子でいけないことだけ?』



アリサは、頭の回転が速い。だから、今までの会話で・・・的確に見抜いてきた。

私は、内心見抜かれると思ってたから、素直に話す事にする。



「しゅごキャラ・・・見えないのも、ちょっとイライラしてる。なんというか、話題や状況についていけないというか、なんというか」

『いや、二回言わなくていいから。そこは別に大事じゃないでしょ。・・・でも、それはアタシやすずかと同じね』



え?



『まぁ、昔の事だけど、魔法のこととか知った時・・・アタシやすずかも同じだったわよ? アンタ達と同じものが見えなくて、触れられなくて・・・イライラした』

「・・・そうだったんだ。あの、アリサ・・・ごめん。私、全然気づかなくて」

『だから・・・謝らないでよっ! 昔のことって言ってるでしょっ!? 全く、本当にアンタは昔っから・・・!!
とにかく・・・アンタはさ、その子達の存在を疑ってるのよ。だから、見えない。その子達の存在が、自分にとってあまりに常識外だから』



・・・唯世君と同じ事をアリサは言った。確かに、そうだ。見えないから、触れられないから・・・どうしても、信じ切れない。キャラなりとかも見てるのに、それでも信じられない。



『まー、あれよ。アンタは考えすぎるとこあるし、一度頭空っぽにして、その子達を見たい・・・触れたい・・・って思うところから始めたら? そうしたら、意外と見えるかもよ?』

「・・・うん、そうする」










もうすぐ・・・新学期。私達がここに来てから2ヶ月弱が経つ。





だけど、まだ事態は解決の糸口さえ見えない。・・・これからなんだ。きっと、全部はこれからなんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・空海、卒業おめでとう」

「おう、ありがとなっ!! ・・・いや、お前は素直にそう言ってくれて助かったわ」



あはは・・・さすがにややみたいに『卒業するなー』とは言えないって。つーか、縁起でもない。



「でもよ、恭文」

「なに?」

「お前いっそ、卒業するまでここに居ないか? いや、事情はあるだろうけどせっかくだしよ・・・」



・・・イースターの連中とエンブリオに聞いて。それの都合次第だよ。



「あははは、違いねぇな。んじゃま、来年の四月くらいまで滞在が続くようにとお祈りしとくか」

「あぁ、そうしようか。それはそれでいい気がしてきた。・・・まぁ、アレだよ空海」

「なんだ?」



僕は、あむを見る。卒業式の会場設備で頑張っているジョーカーを。なぜ空海も一緒にやっているのかという疑問は置いておこうと思う。いや、めんどくさいし。



「暇な時でいいから、ロイヤルガーデンに来てよ。・・・というより、あむに会いに来てあげて」

「あぁ、そのつもりだ。・・・なんだ、随分日奈森の事心配してるじゃねぇか」

「別にそういうのじゃないよ。たださ・・・別れって、寂しいから。僕も出来る限りはフォローするけど、やっぱり、当人同士の繋がりで決まるでしょ」



空海が息を飲んだ。・・・どうやら、僕の言いたい事が分かったらしい。



「・・・そっか。まぁ、お前も頑張れよ。最上級生なんだしよ」

「もち。誰からも尊敬される6年生になってやろうじゃないのさ」

「あははは、期待してるぜー!?」

「こら・・・空海っ! 頭撫でるなー!!」










・・・なんて会話を交わしてから、早くも半月。今日は始業式。新クラスの発表やらでちょっとドキドキなのです。





だから、昨日アイロンをかけたばっかりの制服にそれを通す感触も、ちょっと心地よかったりする。










「・・・それじゃあ、フェイト」

「うん」





・・・フェイトの頬に右手を添える。そしてそのまま・・・背伸びをして、唇を重ねる。



今日はその・・・ちょっとだけいつもより長く。そうして、唇を離す。



少しだけ見つめ合って、今度は、フェイトから・・・いつもの行って来ますと行ってらっしゃいのキス。甘くて、柔らかくて、幸せな時間。





「・・・行ってらっしゃい、ヤスフミ」

「うん、行ってきます。フェイト」





唇を離してから、そのまま学校へ・・・っと、その前に。





「あのさ、フェイト」

「うん?」

「・・・スゥから・・・というより、しゅごキャラのみんなから伝言」



フェイトが驚いたような顔をする。・・・シャーリーが教えてくれた。フェイト、しゅごキャラが見えないのが少しフラストレーションになってるとか。

それをみんなに相談したら、スゥがメッセージを考えたのだ。で、みんなも面白そうだからって乗った。



「『いつも私達や、あむちゃん達をいっぱい助けてくれてありがとう。フェイトさんの優しい笑顔が、私達は大好きです』・・・だって」

「・・・そっか。あのね、じゃあ私も伝言、お願いしていいかな」

「なに?」



フェイトは優しく・・・優しく微笑んで、そのまま言葉を続けた。



「『メッセージ、とっても嬉しかったよ。・・・もし、もしも・・・私がスゥちゃんやみんなを見えるようになったら、友達になって欲しいな。あと、ヤスフミのこといつも助けてくれて、ありがとう』・・・って」

「・・・わかった。伝えておくね。それじゃあ、フェイト。改めて・・・行ってきます」

「うん、いってらっしゃい」










そのまま、僕はフェイトに手を振りながら玄関を出て・・・外で待っていたリインと合流。二人で聖夜小に向かった。





なにか・・・新しい事が始まる予感を、胸の中に一杯感じながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・今日から新学期。そう、新学期。そのはずなんだけど・・・なに、これ?





なんで・・・なんでたまごがあるのっ!?










「・・・四つ目のたまご・・・だよね」

「そうですねぇ」





ミキとスゥが言うように・・・朝起きたら、たまごがあった。今度は金色のダイヤの装飾がされたたまご。

えっと、ランがハートで、ミキがスペード、スゥがクローバー・・・で、ダイヤ。いやいや、あたしちょっと安直過ぎない?



・・・あれ、なんでまた恭文に弄られる図が頭に浮かんだんだろう。





「恭文ならやりかねないね。『安直だ。やっぱり魔法少女だ』・・・とか言ってさ」

「うぅ、あの意地悪キャラは元々だったんだよね。あたし、なのはさんへの弄りを見ててびっくりしたよ」

「平気な顔して魔王とかって言うしね。・・・というか、どこが魔王なんだろう」

「全て」

「おぉ、ミキ物まね上手いじゃんっ! 似てた似てたー!!」





そんな話をしながら、あたしはそのたまごを手に取る。・・・暖かい。ラン達が出てきた時と同じ。



この中に居るんだ。あたしの・・・四人目のしゅごキャラ。





「ねぇねぇあむちゃん」

「なに、ラン」

「どんな子が生まれてくるのかな」

「・・・うん、どんな子だろうね」










・・・春、色々あった三学期を無事に終えて、今日から新学期。





なでしこは居なくなっちゃったし、空海も卒業しちゃって寂しいけど・・・。





でも、それでも、なにか楽しい事が始まりそうな予感で、ワクワクしてる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「えっと・・・月組・・・ですね」

「あぁ、リインちゃんとやや、クラス同じだー!!」

「ややさん、またよろしくですー♪」

「うん、よろしくー!!」



・・・クラス発表かぁ。なんというか、この無駄なドキドキはなんだろう。あはは・・・マジで小学生生活に馴染み始めてるし。

まぁ、そこはともかく、隣でハグしながら騒ぐ新5年生は置いておくとして・・・えっと、僕は・・・星組か。



「・・・クラス、同じだね」

「お、唯世おはよう」

「うん、おはよう」



いつの間にか、隣に居たのは唯世。・・・なお、聖夜小のクラス分けは星組と月組・・・ようするに、二つだけになっています。

で、唯世と僕はクラス同じ。あと・・・あらま、これまた奇遇な。



「日奈森さんも星組なんだね。僕達と同じだ」

「だね。・・・うん、よかった」

「え?」

「ほら、なでしこ居なくなって寂しがってたからさ。これでクラス違うとかだったらどうしようかと」



さすがに一人置いておくことになるのかと、ちと心配だったんだけど・・・これなら大丈夫かなと、胸をなでおろしている。



「・・・蒼凪君、日奈森さんのことよく考えてるんだね」

「別に? あれがヘコんでると、弄り甲斐がないもの。生かさず殺さず、適度に元気で居てもらわないと」

「なるほど、納得した」










・・・唯世がなんか優しく微笑んでくれるのは、きっといつもの天然ジゴロっぷりのせいだとしよう。





そうだ、僕は特に変なことは言ってない。だって、フェイトが本命だし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、6年星組の教室へ。なんか我ながら学生生活にすっごい馴染んでるなとか思いつつ、席に座る。





当然のようにクラスが決定直後ということで、顔見知り同士で話したり、話しかけられたり・・・。










「・・・でも、蒼凪君って・・・こう、気さくな感じなんだね」

「そうだね、私達はこう・・・もうちょっと話しにくい子かなって思ってたから」



僕も話しかけられていた。えっと・・・髪の両サイドをくるくる巻きにしている子と、めがねの子。確か、まなみちゃんとわかなちゃんだ。

で、なぜ話しかけられているかというと、原因がある。・・・日奈森あむだ。この二人はあむと四年の時までクラスが一緒だったとか。で、ガーディアンのメンバーと交流が深くて、あむとも仲良さげな僕に興味があったらしく、話しかけられたのだ。



「素敵な女性には優しく紳士的であれって、周りの女性連中から教えられてるの。もっと言うと・・・強制? 反抗すると、理不尽に怒られるの」

「あはは、それは大変だねー」

「大変だよ〜。奴らは自分を『素敵な女性』だと言いたいらしいの」

「なるほど・・・その紳士的な部分を生かして、元クイーンの藤咲さんとは遠距離恋愛中なんだね?」





その言葉に、ずっこける。うん、思いっきりずっこける。



い・・・いつぞやの学級新聞の影響がまだ残ってるしっ! あぁ、春休み明けたから大丈夫だと思ったのにー!!

つーか、アイツ男っ! 普通に男なんだからねっ!? いや、バラせないけどっ!!





「とりあえず・・・違う。僕は別にちゃんと本命居るし。つーか、あれは誤解だから。なでしことは普通に友達だから」

「でも、藤咲さんはそう思ってないかもよ?」



そんなの嫌なんですけどっ!? アイツ男だからっ!!



「うーん、それじゃあ・・・五年のリインちゃんは妹さんなんだよね」

「うん」

「だったら中等部のティアナ・ランスターさん? お昼とかもそうだし、一緒に帰ること多いよね」

「あ、あたしも見かけたー! なになにっ!? 蒼凪君って年上が好みなんだっ!!
あー、でもランスターさんはわかるかも。実際中等部でも人気高いし、初等部の男子の間でも結構憧れてる子多いんだって」



ま、まぁ・・・フェイトも年上だし、それは間違いじゃないかな・・・って、違うからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「だからどうしてそうなるっ!? アレも普通に友達だからっ!!」

「なら・・・やっぱりあむちゃんっ!?」

「あ、それは弄る対象」

「「なんかこれだけ違うっ!? というか、テンションそのものから違うっ!!」」



いやいや、素晴らしい逸材だと思うんだよねー。もう楽しい楽しい。

まぁ、しばらくは自重だけどさ。さすがに色々あったしなぁ。・・・ドSとしては道を間違っているとちょっと思った。



「あ、そう言えば知ってる? なんだか、転入生が来るって」

「転入生? ・・・よし、さっそく黒板消しをセットして」

「それはだめだからー!!」

「蒼凪君って、意外とお茶目なんだね。うーん、ちょっと意外」





で、僕もそうだけど、あむと唯世もこんな感じ。しかし・・・あむは大丈夫か? さっきから表情が・・・ぎこちない。というか、硬い。むだに硬くて怖い。笑顔で新クラスに馴染もうとしてるのは分かるけど、あれでは馴染めない。近づきたいと思わない。





”・・・新クラスですし、新年度ということで頑張ってるんでしょ。ただ・・・頑張り方間違えてますって”

”だよねぇ、しかし・・・怖いから。あの笑顔は怖いから”





なんて、アルトと二人で今年度のあむの出だしのスベリ具合を心配していると・・・変化が起きた。





「・・・はーい、みんなお待たせ〜」



そう言って出席簿らしきものを持って入ってきたのは、ぼさぼさの髪にめがねをかけて・・・。

またおのれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「あー、蒼凪君。いやぁ、また君のクラスの担任になれるなんて・・・先生光栄だなぁ。これから1年よろしくね〜」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、はい。よろしくお願いします」



そう、それは二階堂だった。ぶっちぎりで二階堂だった。二階堂以外の何者でもなかった。とにかく、二階堂が来たのでみんな席に戻る。まなみちゃんとわかなちゃんも、手を振りつつ戻る。

・・・まぁ、よしとしよう。また担任がイースターの回し者だとか、そういうのよりはマシなはずだ。



「・・・さて、そんな話はともかく、僕がこのクラスの担任の二階堂悠です。これから1年よろしくね。
というわけで、さっそく担任としてお仕事したいと思います。実は・・・転入生が来ます」



その言葉で、クラス中が沸き立つ。というか、男連中。

・・・こいつら、絶対に女の子が来ると思ってるし。



「はーい、静かにー。静かにーしてー。そんなにがっついてたら、転入生の子がおびえちゃうよ?」



今度は女子が笑った。・・・怖い、女はいくつになっても怖い。今、瞬間的にクラスが二分する図が見えた。もちろん、男と女で。



「とにかく、紹介するね。さ、入って〜」



そう言って、教室の前の方から入ってきたのは・・・唯世やあむ、僕の肩より少し高いくらいの身長の女の子。金色にも見えるブラウンの色の髪をウェーブにして、腰まで伸ばしている。

そして、黒いリボンを巻いて・・・あらま、かわいい子。



「転入生の、真城りまさん」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』



瞬間、男子の声で教室が揺れたのは気のせいじゃない。僕と二階堂は耳を塞いだ。・・・なんか行動が被るのがムカつく。



「・・・あー、耳痛い。はーい、それじゃあ真城さん。みんなにニコニコごあいさつ〜」

「先生、あのね」





そして、また叫び声が・・・あぁもうっ! お前らうるさいっ!! 一体どこの熱狂的ファンだよっ! つーかすでに14歳の病気発症してるんじゃないのっ!?





「おかしくもないのにニコニコ出来ないから」





その子は、とても・・・そう、とても可愛らしい、柔らかい声でそう言った。そのギャップゆえか、全員が固まった。



ま、また・・・初日でキツイボールを投げるなぁ。どんだけ神経図太いんですか。・・・あ、アルトと仲良く出来そうだね。





”あいにく、私はあそこまでKYじゃありませんよ”



・・・そっか。うん、僕はもう何も言わない。とにかく、真城りまと名乗った子は、静かに指を差した。

僕の前・・・あむの左隣の空いている席を指を差す。



「先生。私の席、あそこ?」

「あ、うん。そうだね」





それだけ返事がもらえればよかったのか、あの子はてくてくと歩き出し・・・その様子をクラス全体が見守る。



席の前に来た。でも、座らない。全く座らない。全然座らない。

そして、僕の方を見た。だから、にっこりと笑顔で返す。

・・・なぜだろう、まだ見る。うーん、よく分からない。





”・・・あなたに席を動かして自分を座らせろって言ってるんでしょ”





・・・まぁ、それしかないよね。この状況を説明出来る理由はさ。とにかく、そういうことだったら話は簡単。





”絶対やらない、そしてずっと立ってろ。小学生からそんな緩い生き方、お父さんは許しませんよ”

”・・・そうですよね、あなたはそういう人ですよね。優しさが欠けてますよ”

”・・・・・本能が今は下手な事をするなと叫びまくってるの。なんでかさっきからすっごい綱渡り感覚なの”

”納得しました”





・・・そして、結局その子はつまらなそうに自分で席に座った。座る時、若干にらんでたけど怖くない。



で、理解した。これは・・・そうとう曲者だと。





「あ、あのさ・・・あたし日奈森あむ。あの、よろしく」





おぉ、勇者が居たっ! あむが勇者だっ!! いや、勇者があむかっ!?



あむはここぞとばかりにりまに話しかけている。笑顔で、にっこりとだ。まるで目の前の子を安心させるかのように。

どうやら、色々感じるところがあったらしい。様子を見ててそう思った。

・・・なんか、あむも転校生だったという話を思い出した。多分そのせいだね。





”ですけど、相手がまずいですって”

”・・・だよね。僕は正直、目の前の曲者にはちょっと関わりたくないもの。少なくとも今は”

”正解です。だって、初手がアレですから。きっと次の球はそうとうキツイと見ました”



そして、僕達がそんな会話をしている間に、第二球が投げられた。



「なに笑ってるの?」



あむの表情が固まる。



「おかしくもないのに・・・バカみたい。つまんない用事で話しかけないで」



初っ端からマジでKYな発言出てきたー! つーか、それはぶっちぎりで爆弾でしょうがっ!! この女、なに考えてるっ!?

そして、その言葉に食いついたのは・・・みなさん、ご存知だろうか。女の味方は女・・・そして同時に、女の敵もまた女だということを。



「・・・ちょっとアンタっ! いくらなんでもヒドくないっ!? そんなんじゃ友達出来ないわよっ!!」

「そーよそーよっ!!」



だから、女子全員が怒るわけですよ。怒りの視線をこの目の前の可愛い曲者・・・いや、悪魔にぶつけている。そして・・・悪魔は平然とそれを流している。

いや、更に第三球・・・爆弾を投下した。きっとこの子は命知らずなチャレンジャーなのだろう。初日で女子全員にケンカ吹っかけるなんざ、きっと誰も真似出来ない。



「別に友達なんていらないし。私には・・・」



ちらっとこの悪魔は男を見た。その瞬間、まるで獰猛な肉食獣のように男どもの瞳が輝き、一瞬でこの悪魔の側についた。

きっと僕はこの瞬間、リアルにチャームとか誘惑の状態異常になる人達と、それを可能とする人間を見た奇跡の目撃者になったのだ。



「なにかお飲み物でもっ!!」

「おしぼりどうぞっ!!」

「召使いが居れば十分だもの」



マジで召使いを飼っている子だったー! つーか、前っ!! 前見えないからねっ!? お前らマジで14歳の病気発症しただろっ!! あぁぁぁぁぁっ! こいつらと同類に見られるかと思うとマジ頭痛いんですけどっ!!



『サイテー!!』

『お前らっ! りまさまに何を言うかっ!! サイテーなのはお前らだー!!』

『なんですってー!!』





・・・僕は、ゆっくりと席から立ち上がった。みんなに気づかれないように、そっと。

大丈夫、僕は世界で宇宙で次元そのもの。自然と視界から外れる事などたやすいのだ。



そして、目の前の様子に頬を引きつらせている担任を引っ張って、廊下に出る。そっと・・・ドアを閉じた。





「・・・ねぇ、二階堂」

「いや、頼むから先生を付け・・・はぁ、まぁいいや。で、なに?」

「提案なんだけど、今から逃げない? 僕は逃げたい」

「奇遇だね、僕も逃げたい。でも、僕はこのクラスの担任だもの。そういうわけにはいかないの」



そうかそうか、それはよかった。んじゃ、僕は逃げ・・・ようとしたのに、肩をつかまれた。



「はい、君も逃げちゃだめだよ? 君はこのクラスの生徒なんだから」

「じゃあ他にどうしろとっ!?」

「逆ギレしないでよっ! というか・・・それは僕が聞きたいんだからねっ!! いきなりこんなクラス崩壊されて、僕がどんだけ困っているとっ!?」



二階堂がかなり必死な顔で言って来た。というか、半分涙目。・・・それを見て、ちょっと悪かったかなと思った。



「よし、だったら困ってなさい。僕は逃げるから」

「だからだめだって・・・! お願いだからこの状況を何とかするのを手伝ってよっ!!」

「担任が生徒に頼るなっ! やってもいいけど、屋根ぶち破った攻撃かましていいかなっ!?」

「それはだめぇぇぇぇぇぇっ! もっと平和的な解決ぷりぃずっ!!」



逃げようとする僕を必死で止める二階堂を余所に、教室の中の闘争は激しさを増す。・・・教室の中から聞こえてくる声から察するに、男女に完全に真っ二つになってる。

察するに、真城りま派(僕と唯世を除いた男子全員)に日奈森あむ派(女子全員)かな。あー、巻き込まれたくない。ぶっちゃけ巻き込まれたくない。



「よし、今から月組に変更にしてもらって」

「いや、それ無理だから。・・・でも、僕も正直それはお願いしたいかも。あぁ、厄介なこと引き受けちゃったなぁ」

「やっぱ逃げよう。それしかないよ」

「だから・・・逃げられないんだって。僕達はこれから1年間アレと付き合わないといけないんだよ」










そして、僕と二階堂は顔を見合わせて・・・ため息を大きく吐いた。





教室の喧騒は、まだ止まない。・・・これから、ぶっちゃけ不安だ。




















(第13話へ続く)






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あきゅろす。
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