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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第3話 『人間、気合いを入れればなんだって出来るって言うけど、限度はあると思うんだ。なぁ、そう思わないか? ・・・アンタもっ!!』



古鉄≪いやぁ・・・今年も終わりですね≫

フェイト「そ・・・そう・・・だね」

エリオ「そう・・・なるのかな」

キャロ「なるということにしておこうよ、エリオ君」





(なんていいながら、閃光の女神と桃色の召還師と雷光の槍騎士はコタツに入っている。あと一人居るけど、なんか空気)





古鉄≪しかし、いろんなことがありましたねぇ。マスターが神速使えるようになって、チート化したり≫

キャロ「あったね。でも、体力的にあんまり使えないから、さほど差が無いのがなぎさんらしいというかなんというか」

エリオ「もしかして、体型とかはそういうので狙ったのかな」





(作者注:狙っておりません)





古鉄≪孫と本妻がやってきたり≫

フェイト「うん、あった。・・・私ね、恭太郎と会えて、すっごくうれしかったんだ。ちゃんとヤスフミの時間・・・未来に繋がっていくんだって」

キャロ「私もです。なんだか、うれしかったです。まぁ、色々大変でしたけど」

フェイト「そうだね、確かに大変だった」





(閃光の女神、どこか寂しげな表情でそう口にする。・・・色々あったのだろう)





古鉄≪はやてさんが(ぴー)したり、きっと誰もが忘れているであろう戦議披露会の話であんなことがあったり≫

エリオ「あったね。・・・僕ね、あの時のこと思い出すと、すっごく胃が痛くなるんだ」

フェイト「私もだよ・・・。ヤスフミはもっとひどかったらしいけど。胃に穴が開く寸前だったらしいから」





(全員が表情を重くする。きっと・・・本当に色々あったのだろう)





古鉄≪あぁ、六課を解散してからも大変でしたね。あなたとマスターとなのはさんが良太郎さんと同じく小さくなったり≫

フェイト「あ・・・あったね。あれも大変だった。過去に遡って昭和の街で戦ったり、鬼退治したり、時を超える戦艦相手に暴れたり・・・」

キャロ「私、小さくなったフェイトさん見たかったです。なぎさんはどうでもいいですけど」

エリオ「・・・キャロ、それもひどくない?」

キャロ「だって、なぎさんは小さくなっても変わりなさそうだし」





(桃色の召還師、何気にひどいことを言う。でも・・・事実)





古鉄≪あと、こっちの世界に飛ばされてきたクレイジーでBASARAな方々の相手をしたり・・・≫

フェイト「あぁ、あった・・・そんなことあったっ!? 私は全く覚えてないんだけどっ!!」

キャロ「あぁ、あったよね。私ね、かすがさんと仲良くなれたのがすごく嬉しかった。・・・元気かなぁ」

フェイト「キャロもなんで乗っかっちゃうのっ!? 普通になかったよね、そんなことっ! というか、BASARAな方々ってなにっ!!」

古鉄≪まぁ、そんな色々なことがあった1年でしたけど、どうでしたか?≫

恭文「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうでしたかじゃないわ、ボケェェェェェェェェェッ!!」





(青い古き鉄、今まで黙ってたけどもう我慢出来なくなって喋ることにしたらしい。なお、拳がフルフル震えてる)





古鉄≪どうしたんですか、いきなり叫んで≫

恭文「『どうしたんですか、いきなり叫んで』・・・じゃないからっ! なにこれっ!? なんなのこれっ!! もうギャグ的にくたばれよっ! とりあえずギャグ的にすぐ復活しちゃうような感じでくたばってくれよ、頼むからっ!!」

古鉄≪分かりました。ではまず・・・手本として、ギャグ的にあなたがくたばってくださいよ。ほら、見ててあげますから≫

恭文「なんで僕がくたばる必要があるんだよっ! つーか、どんだけフカシこいたら気が済むっ!?今は年末どころか7月の半ばだよっ! クワトロ大尉じゃなくても『まだだ、まだ終わらんよ』とか言いたくなるよっ!!
なのになんでこんな年末風景っ!? というか、これのフェイトとエリオとキャロと四人でコタツに入っている図は、どこかで見た事あるんですけどっ!!」





(・・・そう、今回の絵は、何かによく似ている。なお、絵はないので各自脳内保管してください)





古鉄≪あぁ、それは本編25話のワンシーンの絵をそのまま使いまわしてますから≫

キャロ「見た事があるもなにもないよね」

恭文「なにお前ら普通に認めてるのっ!? つーか、これ小説っ! 小説だからっ!! 絵とかそんなアニメや漫画みたいな事言うなよっ! 読者完全置いてけぼりでしょうがっ!!」

古鉄≪いや、仕方ないじゃないですか。私がTVの銀魂の第144話を見て、なんかこういうボケがしたかったんですから≫





(青い古き鉄、自信満々に言い切った。どうやら、そうとうやりたかったらしい)





恭文「そんなことのためにまたこんな状況かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

フェイト「ヤ、ヤスフミっ! 落ち着いてっ!? ほら、ミカンあげるからっ!!」

恭文「フェイトもお願いだから順応しないでー! ミカン一個でどうにかなる状況かこれはっ!!」

エリオ「えー、というわけで・・・本編、始まります。・・・次は使いまわしじゃないよね?」

キャロ「うん、完全新規な特別版だよ」

エリオ「その言い方もおかしくないかなっ!?」




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常 Second Season


第3話 『人間、気合いを入れればなんだって出来るって言うけど、限度はあると思うんだ。なぁ、そう思わないか? ・・・アンタもっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜・・・ぶっちゃけ身体の時間間隔は深夜・・・でも、不思議と眠気はない。





食事が終わって、恭也さんと二人・・・あと、見学人が数人、裏庭に出てきた。恭也さんは訓練着。ただし、両腕には暗器を仕込んでいるホルスターが見える。腰の後ろには練習用の刀。





かく言う僕はコートを脱いだ状態・・・まぁ、いつものジーンズ上下。でも、腕にはしっかりと暗器を仕込んでいる。





裏庭は芝生が敷かれていて、踏み心地もいい感じ。そこそこ広さもあるから、動きが制限する事も無い。そして、風が・・・心地いい。










「・・・本当に久しぶりだな、お前とやりあうのは」

「そうですね。かれこれ・・・ごめんなさい、なにも無いんです。本当に忍さんとは何もないんです。ごめんなさいごめんなさい」

「いや、頼むから蹲って泣くのはやめてくれ。大丈夫だ、もうあんな事はしないから。・・・いや、本当にだぞ?」



ようするに2年ぶり? 死ぬかと思ったあの死闘からもうそんなに経つのだ。

この辺りは、恭也さんがドイツに居るというのと、僕がヒロさんサリさんと修行してたことに起因する。



「ルールは覚えているな?」

「もちろん」



とりあえず、立ち上がりながら腰のものを確認する。・・・今回はアルトじゃない。恭也さんが持っていたアルトと同サイズの刀。

僕は、それをそのまま腰に差す。



「基本本気で斬り合う。急所狙いも寸止めであればオーケー。実戦のつもり・・・いや、実戦として戦う」

「・・・まぁ、簡潔に言うとそうだな。しかし、相変わらずお前は単純思考と言うかなんというか」

「放っておいてくださいっ!!」

「ただ、今回は少しルール変更だ」



・・・はい?



「互いの武器を破壊出来れば勝ち・・・というのはどうだ?」

「・・・え、なんで?」

「なに、ちょっとしたサプライズだ。それで、恭文」



・・・・・・なんでしょう。



「お前は、なんのために神速を使いたいと思う」

「・・・強く、なりたいからです」

「なんのためにだ」

「・・・どんな業を背負っても、今あるありったけで」



多分、前だったら絶対に言わなかった言葉。だから、なんだか照れくさくて・・・つい苦笑しながら答える。



「守りたいものが、あるからです。・・・自分を含めて」

「お前自身も含めて・・・か」

「はい。なんて言うか、そのために迷ったり止まったりするのなんざ、嫌ですけど」



なんて言いながら、僕は構える。腰を沈め・・・足に力を入れ、抜きの方に持っていく。



「・・・恭文」

「はい?」

「お前も変わったようだな」



どこか嬉しそうに、恭也さんが右の方の小太刀に手をかけ、僕と同じように腰を沈める。

居合いの型・・・まずは一撃・・・かな?



「今日の組み手、楽しめそうだ」

「なら、嬉しいです」










それだけ言うと、僕達は少しだけ息を吐いて・・・一気に踏み込んだ。





そしてそのまま、刃を抜き放ち・・・夜の闇を、銀の閃光が斬り裂いた。





夜の闇を、ひんやりと冷えた空気を震わせながらも、空間を切り裂いた銀色の二つの閃光は、火花を散らしながらぶつかる。

・・・あ、ぶつからなかった。交差はしたけど、刃同士は当たらずにただ振りぬけるだけだった。

相手の衣服をその切っ先で斬った上で・・・だけど。





そのまま大きく互いに後ろに飛び、左手が動く。そして、中ほど・・・前方20メートルほどの距離で、金属製の刃同士がぶつかる。

僕と恭也さんがホルスターに仕込んでいる飛針だ。数本投げて・・・全部撃ち落された。僅かだけど、こっちの方が動きが早かったのに。

そのまま・・・にらみ合う。・・・やっぱ隙がない。下手な小細工なんてしたら、すぐに潰される。





だから、僕は踏み込んだ。結局・・・僕にはコレしかなかった。そこを狙うように、恭也さんの腕が動き、飛針が飛ぶ。先ほどと同じように、飛針を投擲して、それらを撃ち落す。そのまま接近。僕は、刀を左から打ち込んだ。

だけど、それは夜の闇を斬るだけだった。恭也さんは上に跳んで・・・僕の首の回りに、糸が輪を作り絡もうとする。僕はしゃがんでその輪から抜け出す。糸は次の瞬間、音を立てて小さく締まった。・・・ま、また危ない事を。

そのまま恭也さんは着地。一気に接近してくる。左から袈裟に刃。それを後ろに少し下がって回避。恭也さんはすぐに右の刃を動かす。





そこを狙って・・・刀を右から打ち込む。僕の刀と恭也さんの小太刀同士がぶつかる。そこを始点に、空気が震えた。










「・・・同じ事を考えていたらしいな」

「みたいですね」










徹・・・打ち込んできた。振動と振動がぶつかり合い、中和され・・・ない。それでもやっぱ痺れるのは変わらないから。

後ろに飛ぶ・・・いや、飛ばずにそのまま押し込む。恭也さんが少しだけ押されて・・・僕の右側から刃が一閃される。恭也さんの左手に持った小太刀が。

身体をまた後ろに下げて、その一閃をかい・・・いや、振りぬかれると思ったのに、途中で止まった突きたててきた。右に跳んで避けて・・・飛針がまた投擲された。





それを刀で打ち払うと、恭也さんが目の前に迫っていた。両手から刃が振り下ろされて・・・僕は咄嗟に鞘でそれらを受け止めた。

いや、受け止めたと思ったけど、何時の間にか恭也さんの右手の刃が腹の近くに・・・急いで大きく後ろに下がる。腹の皮と服を掠めた。

い、今の・・・まさか、貫っ!? くそ、マジですり抜けるようにくるしっ!!





この隙を逃す恭也さんじゃない。また一気に接近して・・・消えた。

それを見て、身体の体温が急速に冷めるような感覚に襲われた。これ・・・神速を使われたんだ。毛穴が開いて、寒気がどんどんと強まっていく。





咄嗟に右に飛んだ。瞬間、左の腕に刃がかする感触。そこから血が出る。そのまま振りかえるように見ると・・・恭也さんが居た。そして、また消えた。

今度は正面からの斬撃。なんとか2発防ぐけど・・・他のを貰った。服と身体がどんどんボロボロになる。

恭也さんが姿を現す。そして、消える。斬撃が跳んでくる。その繰り返しが何度も行われる。





その度に身体中が傷ついて・・・くそ、やっぱりこのスピードを普通に見切るのは無理か。

・・・集中して。まだ足りないんだ。浅くでも身体を斬られて、いつ致命傷な攻撃が跳んでくるかも分からない。なのに、まだ足りない。

神速と言う別世界への扉を開くには、まだ足りないんだ。





そして・・・恭也さんが姿を現す。鞘に僕の血で濡れている小太刀二本を収めてから、右手を小太刀の柄に。左手を鞘の鯉口に添えて、構える。

あれは・・・確か前に見せてもらった御神流の奥義。確か、えっと・・・虎切。小太刀での居合いの技。

・・・ヤバイ。通常時で見せてもらった時もこれは見切れなかった。反射で防ぐのがやっとだった。





神速使われた上で、アレを撃たれたら・・・見切ることなんて出来ないっ!!










≪・・・あなた、なんのために来たんですか≫





首で待機状態でかけている、アルトのそんな言葉に、身体が元の感覚を一気に取り戻した。

・・・そうだった。僕の目的は、この領域にたどり着くことなんだ。だったら、やることは一つ。



僕は鞘に刀を納め、かがんだ。そして、敵を見据える。





「アルト、行くよ」

「はい」










次の瞬間、恭也さんの姿が消えた。・・・集中する。思い出すのは、あの時の感覚。

手を伸ばしたくて、守りたくて・・・そして、もっと速く動きたいと思った時の気持ち。

結局、僕はここだ。バカだから、神速のメカニズムやらなんやらなんてよく分からない。想いで・・・想いから、全部を覆していく。





でも、一つだけあの時と違うことがある。それは、僕が自分の意思で、選んでこの領域に踏み込こと。

その一点だけは違う。あと・・・自分でちゃんと元の領域に戻るということ。帰って来て、今を使い潰さないように戻って・・・絶対に、絶対にフェイトを泣かせない。

そう考えたら不思議と身体に力が溢れてきた。それが嬉しくて、唇の端に笑みが浮かぶ。・・・行くよ。ここからが、クライマックスだ。





そう思った瞬間、スイッチが入る。景色がモノクロになっていき・・・見えた。さっきまで見えなかった恭也さんの姿が。

恭也さんは踏み込みつつ・・・もう小太刀を鞘から完全に抜きかけていた。あの刃が完全に抜き放たれれば、僕に迫るのは明白。





だから僕も・・・刀を抜く。いつもより遅いスピード。だからどうも速く動いている感覚は無いけど、向こうも同じスピード言う事だけは分かった。

僕の刃と恭也さんの刀の刃がぶつかる。だけど、僕はそのまま構わずに・・・斬った。恭也さんの刀は中ほどから折れ、その役割を終えた。

一瞬、恭也さんと目が合う。そのまま、恭也さんの動きが遅くなった。僕よりも、ずっと。





ここからが難題だ。前回はこれが出来なかったからみんなに心配をかけた。僕は意識を集中して・・・スイッチを・・・オフに・・・した。

まず、視界に色が戻っていく。身体にまとわり付いていたあの重い空気が無くなっていく。

瞬間、身体と頭に痛みが走る。あと、疲労感。・・・ま、まだ・・・あの時よりは軽いし、問題無いか。










「・・・ちゃんとオフに出来たようだな」



恭也さんが構えを解く。僕も、同じく。

刀を下げて、息を荒くして恭也さんを見る。・・・身体、キツい。



「・・・へ?」

「神速だ。ただ使うだけではなく、しっかりとコントロール出来ていた」



・・・あ、ほんとだ。よく考えたら・・・コントロール出来たっ!!



「発動時間は1秒・・・まぁ、最初にしてはいい方だな」

「そ、そうですね。あと・・・恭也さんにも勝てましたし」

「・・・いいや、引き分けだ」

「え?」



次の瞬間、僕の持っていた刀の刀身が・・・折れた。もう真ん中から綺麗さっぱり。

な、なんですかこれはっ!? なんでいきな・・・あ、まさか・・・さっきの一撃かっ!!



「く、くそぉ・・・初勝利と思ったのに」

「まだまだお前に先を行かせるわけにはいかないということだ。とりあえず・・・今日はここまでだな」



僕はその言葉に驚きを隠せなかった。だ、だって・・・まだ数分も打ち合ってないのに。

あの恭也さんが・・・美由希さんと7時間とか打ち合って、すっごく楽しそうにしていた恭也さんが・・・こんな程度で満足するなんて。



「バカモノ。お前は俺をバトルマニアか何かと思っているのか?」

「僕だけではなく、美由希さんと忍さんとフィリスさんも思っていますがなにか? というより、そう思われるようなこと、結構してますよね?」

「・・・・・・それはともかくだ」




あ、なんか納刀しながら逃げた。話題をすり替えようとしてる。



そして僕に目を合わせようとはしない。もっと言うと、忍さんの視線からも逃げてる。





「俺はともかく、お前の身体が持たないだろう。現に、体中が倒れた時ほどではないにしても、ギシギシ言っているはずだ」



た、確かに・・・ギシギシ言ってる。すっごく言ってる。



「お前の身体で、それは大技もいいところ。連続での使用が可能になるのは、当分先と思え。とにかく・・・基本的には毎日これでいくぞ。いいな」

「・・・はい。で、話は変わりますが恭也さん」

「なんだ」



いや、なんだじゃなくて・・・あの・・・ですね。

こう、感じるんですよ。忍さん以外で強くて痛い視線を。



「あれはどうしましょうか」

「・・・とりあえず、謝っておけ。それで万事解決だ」

「解決しなかったら、恨んでいいですか?」

「ダメだ」










そうして、僕はゆっくりと視線を向ける。





・・・今にも泣きそうな顔で僕を見ていて、だけど止めるのを必死にこらえているのか、拳をギュッと握り締めている金色の髪の女の子を。





とりあえず、左手を上げて笑いかけた。そうして、その子は・・・泣き出した。





なお、この後しばらく、僕がその子に対してのフォローで大変だったのは、言うまでもない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・私が、なぎ君を・・・ス・・・ス・・・好きって、そんなわけないからっ!!」





夜、寝室で横になりながらそんな独り言をつぶやいた。原因は、昼間八神部隊長から言われた一言。それが気になって、ご飯のお代わりも普段の特盛りじゃなくて、大盛りで5杯しか出来なかった。

・・・違うよ、違う違う違う違う違う違う違う違う。なぎ君とは友達なんだから。すごく・・・大切な友達。

私の身体の事を知っても、関係なく・・・ううん、違う。全部含めて、私を友達だと言ってくれた。私、なぎ君になら色んな事を話せる。それくらいに、大事で、大好きな友達。



父さんには言えない、この身体絡みであった辛い事とか、悩みとか・・・そういうのもなぎ君になら話せた。なぎ君も、私の事友達だって信じてくれているのか、自分の暗い話とか、話してくれた。不謹慎かもしれないけど、そういうのが嬉しくて・・・。

なんでだろう、あの親近感は。だから私、なぎ君と居るのが楽しくて、嬉しくて・・・ついつい世話をお母さんみたいに焼いちゃって。

・・・お、おかしくなんてないんだからっ! その、あの・・・友達としての好きなんだからねっ!? 恋愛感情とかじゃないよっ!!





『せやけど、それはただのツンデレや』





突然開いた通信画面。私は・・・遠慮なくそれを叩き切った。



今のは幻覚だよね。うん、間違いない。





『ギンガっ! 自分何いきなり失礼かましてんのっ!? うち、ちょっと傷つくやないかっ!!』

「いきなり通信画面を開く人には失礼でいいんですっ! というより、ツンデレってなんですかツンデレってっ!!」



私はツンデレじゃないよっ! ツンデレはティアなんだからっ!!

ツンデレって言うのは、ツインテールでちょっと素直じゃない女の子ってなぎ君が言ってたから、間違いなく私じゃないよっ!!



『いやいや、髪型関係なく自分はガチでツンデレやんか。・・・ギンガ、IFの自分の声に耳を傾けた方がいいで? IFのアンタはあないに素直で恭文エル・オー・ブイ・イーやったのに』

「そういうメタ発言はやめてくださいっ! というより、エル・オー・ブイ・イーってなんですかっ!? 普通に『LOVE』って言えばいいでしょっ!!」

『そうや、自分は恭文LOVEなんや。自覚持つんや』

「違いますからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



息を切らしながら、ぜーぜーと言っている私を八神部隊長が可哀想なものを見る視線を向けてくる。

・・・ねぇ、怒っていいよね? 私、すっごく怒っていいよね。この握り締めた拳はきっと罪じゃないよね?



『なぁ、ギンガ。恭文の事、好きやろ?』

「だから」

『好きになることは、罪とちゃうよ?』



そう言われて・・・その言葉が胸を貫いた。鋭く、小さく・・・だけど、確かに私の心の壁を貫いた。

そこから出てくる。今まで隠していたものが、ゆっくりと。



『うちな、アンタが2年前に恭文に守ってもらった話を聞いてから、なんやそうやないかなそうやないかなと思うてたんよ。で、今日ナカジマ三佐から連絡もらってよう分かった。アンタ、恭文のこと、好きやろ?』

「私は・・・その・・・」

『自分の全部を、そのままのアンタを受け入れて、ずっと友達で居てくれたアイツに惹かれてるやろ』



貫かれた部分・・・穴から、ヒビがゆっくりと入っていく。八神部隊長の言葉と共に、ゆっくりと・・・。



『今のままやったらアンタ、絶対後悔するよ? 今は恭文とフェイトちゃんおらへんから、まだ逃げられる。でも、恋人として・・・繋がった二人見たら、アンタはもう逃げられん。こうなったら、今認めるか、逃げられなくなってから認めるかのどっちかや。
・・・・・・なぁ、ギンガ。もう一回だけ聞くな。アンタ、恭文のことが好きなんやろ? 友達としてやのうて、異性として惹かれてるんやろ?』



・・・私は・・・あの、その・・・そうだ、もう逃げられない。

私、ずっと逃げてた。あまりになぎ君が一途だから。フェイトさんに一直線だから。ぶつかっても見込みが無くて、だから・・・108に誘ってた。



「・・・私は、なぎ君が」



一緒に仕事をすれば、当然側に居られて、そうすればフェイトさんじゃなくて、側に居る私を見てくれるんじゃないかと無意識に考えてて・・・。

私、卑怯だった。なぎ君は見込みが無くてもぶつかって、変わっていこうと手を伸ばして・・・そうして、フェイトさんの気持ちを掴んだのに。



「好き・・・です。友達としてなんかじゃない、男の子として・・・好きです」










私は、手を伸ばすことすらしなかった。この気持ちを認めることすらしなかった。





だから今・・・こんなに苦しいんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・本当にっ!?」

『マジや。いや、ごめんなすずかちゃん。いきなりこんな話で』

「ううん。・・・そうなんだ、はやてちゃん・・・おめでとう」

『うん、ありがとな』



夜、はやてちゃんから電話がかかってきた。用件は・・・ちょっとしたお祝い事。

なんだろう、嬉しい。気分が沈んでたから余計に。



『というか、すずかちゃん。大丈夫?』

「いきなりどうしたの?」

『いや・・・なんか声聞いてたら落ち込んでる感じがしてなぁ』



・・・はやてちゃんは昔からするどい。こういう時、すぐ見抜いてくる。

だから私は・・・正直に話す。



「なぎ君にね、振られちゃったんだ」



それだけ言うと、はやてちゃんには全部伝わったらしい。だって、受話器から息が止まったような音がしたから。



『・・・そっか』

「初恋が実らないって、本当だね。私・・・頑張ってたつもりだったんだけどな」



あ、でもなぎ君は実ったんだよね。フェイトちゃんが初恋なんだから。・・・なんだろう、ちょっと複雑。



『ごめんな、すずかちゃん。うち・・・』

「知ってたんだよね。フェイトちゃんとなぎ君の関係の変化」

『うん・・・』



今、なぎ君ははやてちゃんと仕事場が同じ。だから知ってて当然だと思う。

でも、だからってはやてちゃんを責めるつもりは当然無い。だって・・・聞くのを拒んだのは、私だから。



『つーか、アイツもちゃんと話せっちゅうに。いきなり言われたらすずかちゃんかて』

「あのね、なぎ君はちゃんと話してくれようとしたんだ。・・・去年のクリスマスに。多分、フェイトちゃんとの関係が変化してからすぐだと思う。
でも私、どうしても聞きたくなくて・・・クリスマスに好きな人に振られるなんて、嫌で・・・お願いしたんだ。今日だけはやめてって。なぎ君、私のわがままを聞いてくれただけなんだ。悪いの・・・私なの」

『・・・そっか』










・・・ちゃんと次に会えたら、笑いたいな。





友達として、なぎ君とフェイトちゃんに。二人は、大切なお友達。・・・うん、二人ともお友達なんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして・・・それが終わった後、僕とフェイトは同じ寝室を宛がわれて、そこで寝ていた。





なお、リインは『今日からは空気を読むです』・・・とだけ言って、雫と一緒に就寝することにした。





いや、読まれても何も出来ないんですけど。だ、だって・・・フェイトのダメな日はまだ継続中だし。










「・・・傷、大丈夫?」



そう言って、フェイトが僕の腕を撫でる。恭也さんとの組み手で付いた傷の部分を。

なお、ノエルさんの的確な治療で、明日には傷はふさがってるとか。ただ、明日にはもう傷が塞がるのは、もう一つ理由がある。



「うん。・・・恭也さん、僕が神速使いやすくするためにわざと浅く斬ってくれたしね。問題無いよ」

「そうなの?」

「そうなの。いつもの恭也さんなら、神速使った時点で僕の意識なんて飛ばせるもの」



それくらい、あの人は強い。・・・たまに本当に人間と言う生物に属しているのか気になることがあるけど。

とりあえず、僕は左手を伸ばして・・・フェイトの髪を撫でる。フェイト、頬をほんのりと赤く染めて・・・すごく可愛い。



「むしろ、傷より身体の方が心配だよ。うぅ、明日起きたら大変な事になってるんじゃ」



具体的には凄まじい筋肉痛とか。・・・いや、マッサージはしてるから多分大丈夫だろうけど。



「・・・やっぱり、きつい?」

「かなり。恭也さんにも言われたけど、しっかり鍛えていかないと怖くて使えないよ」



そう言って、フィリスさんの言葉を思い出す。・・・今を使い潰す・・・か。確かにそうかも。

これ連発は、間違いなく使い潰す選択だ。少なくとも、今の僕にとっては。やっぱり、しばらくは訓練やりつつ封印だね。今の持続時間や消耗度じゃ、切り札どころか捨て札にもならない。



「・・・使う方向で考えてる」

「ソ、ソンナコトハアリマセンヨ?」

「そんなこと、あるよね」



じーっとフェイトに若干睨み気味に見られて・・・こくんとうなづいた。いや、もう言い訳のしようが無かったんだけど。

するとフェイトは、それにため息を吐いて・・・両腕を伸ばして、僕をギュっと抱きしめた。



「使うななんて・・・言わないよ。でも、もしそれが今を使い潰す選択なら、私は絶対に認めないから。・・・絶対、認めないから」

「・・・そんなこと、しないよ」



だから僕も・・・両腕を伸ばして、ギュッとフェイトを抱きしめる。力強く、安心させるように。



「だって、素敵で可愛い彼女を泣かせたくなんてないもの。・・・これからいっぱいラブラブしたいし」

「そ、そんな理由っ!?」

「だめ?」



少しだけ身体を離す。そうして、フェイトを見る。・・・嫌、かな?



「だめじゃ・・・ないよ。私も・・・その、ラブラブしたい。うぅ、ごめんね。ダメな日・・・まだ終わらなくて」

「いいよ。それに、ラブラブするって、エッチするだけじゃないでしょ? 他にも色々出来るし。ギュってハグしたりとか、こうやって手を繋いで眠ったりとか」

「・・・そ、それはそうなんだけど。あのね、ヤスフミ」





なに? というか、フェイト・・・何故にそんなに僕を見つめるのさ。

あの、そんなに瞳を潤ませないで? なんか、こう・・・恥ずかしいから。



フェイトが僕の背中から手を離して、頭を撫でて・・・くれる。力強く、だけど・・・どこか優しさもあって。





「きっとね、私もなのはと同じなんだ。ちゃんとぶつからないと、ヤスフミと理解し合えない。分かってるからなんて油断してたら、きっと簡単に離れちゃう。
だから・・・恋人として、いっぱい、いっぱい話して、繋がって欲しいんだ。それで喧嘩しちゃうこともあるかも知れないけど、それでも・・・ヤスフミとちゃんと繋がりたいんだ」

「・・・うん、あの・・・僕もそうしたい」

「うん」



フェイトが、そう言って優しく微笑む。それが嬉しくて・・・胸が暖かくなる。

というか、あの・・・えっと・・・だ、だめだから。抑えて、僕。



「というわけなので・・・大丈夫かな?」

「なにが? え、というかなんですか。その前振りは」



胸を貫かれるような衝撃を受けながら、フェイトを見る。フェイトは頬を更に赤く染めていた。それで・・・動悸も荒い。



「あの、男の子って・・・溜まるんだよね」



・・・いきなり何を言い出してるっ!?



「だ、だって・・・前に呼んだ本だと、男の子は大体2、3日に一回はそういう・・・じ、自慰で・・・性欲を発散しないと大変だって。でも、今は私が居るし・・・頑張るよ」

「だからいきなり何の話っ!? 何をどう頑張るつもりなのさ、アナタっ! そしてその前振りからその話になるのはおかしいでしょうがっ!!
・・・大丈夫だよ、そういうのは・・・あの、大丈夫だから」



大事な事だから二回言ってみました。えぇ、言ってみましたよ。

でも、通じなかった。フェイトの心配そうというか、申し訳なさそうな表情が変わらなかったから。



「本当に? あの、私は大丈夫だよ。ヤスフミが辛そうなのは嫌だし、身体での繋がりも頑張っていくって決めているし」

「妙な気の使い方はやめてっ!? 大丈夫、大丈夫だからっ!!」










や、やばい・・・ここは話を逸らそう。この状況はまず過ぎる。





具体的には・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・そういうフェイトはどうなの?』

『え?』

『フェイトだって・・・その、そういうことしないとダメなんじゃないの?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



だめなのはこの会話じゃボケェェェェェェェェェッ! 普通にセクハラだよねっ!? 間違いなくセクハラだよね、これっ!! いくら恋人同士でもこれはアウトだよっ! なにより話が逸れてないしっ!!





あ、そうだ。こう・・・真剣なお仕事絡みのお話をしよう。プライベートではなくて、そういう絡みならきっとフェイトもちゃんと普通の状態に戻って・・・よし、あれにしよう。










「ね、フェイト。帰ったらさ・・・軌道拘置所行く予定あったよね」

「あ、うん。・・・セッテの説得、続けてるしね」



よし、成功だ。フェイトがマジモードに入ったぞ。

・・・セッテとは、JS事件で僕とフェイト・・・六課がやりあったスカリエッティ一味の一人。なお、僕と少々因縁がある。



「ね、僕も付き合っていい?」

「それはいいけど・・・でも、どうして?」

「・・・いやさ、今までも行ければ行きたかったんだけど、なんだかんだで試験対策とか、囮捜査やらなんやらで忙しかったじゃない?」

「そう言えば・・・そうだね」



で、試験が終わったら終わったでデンライナー来るし・・・なんだかんだでご無沙汰になってしまった。

とりあえず、セッテにはチンクさん達と同じく保護プログラムを受けてもらわないといけない。



「約束、守ってもらわないといけないしね」

「再戦・・・だよね」

「うん」





JS事件の最終局面で、僕とセッテは戦った。そして、一つの約束を交わした。

今度は殺し合いではなく、朝から晩まで、力をぶつけ合って・・・戦うと。

でも、セッテが捜査協力を拒み、更正プログラムへの参加をも拒んで軌道拘置所に居るために・・・その約束は、果たされないものになっている。



平穏な日々の中で、忘れそうでも忘れられない約束。それがセッテとの約束だ。





「・・・またフラグ立ててる」

「フラグじゃないよっ!! ・・・その、ちゃーんと僕には素敵な彼女が居るもの。大丈夫だよ」

「ごめん、冗談だよ。・・・あのね、何度も・・・話してるんだ。私だけじゃなくて、保護官の人達やチンクやセイン達・・・保護官を通じてだけど、トーレやスカリエッティもなの」



・・・はい? なんでまたその二人が。



「スカリエッティは分からないけど、トーレはセッテの教育係・・・師匠に近かったらしいから、それでだね。あのね、私もお願いされたの」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「テスタロッサお嬢様、セッテのこと、頼みます」



思い出すのは去年の話。暇を見つけて軌道拘置所に行った時の話。そう言って、あの人は頭を下げる。強化ガラス越しに、薄暗く・・・今ひとつ清潔感の無い部屋の中で、白い囚人服を着た上で。

戦ってた時とは全く別人・・・家族を心配する姉のような・・・そんな姿に、私は自分を重ねた。ヤスフミをお姉さんとして心配していた時の私と。



「・・・あの、頭を上げて? セッテには継続して呼びかけは続けていくから。ただ・・・とても硬くななの。
あなたと同じように『敗者には敗者の矜持がある』・・・それだけ言って、私だけじゃなくて、他の人の言葉も聞いてくれないの」

「・・・そうですか。まったく、少しは頭で考えろと・・・いや、私が言えた義理ではないか」



そう言って、彼女は私を見る。どこか穏やかな瞳で。



「あの時・・・あなたに言われた言葉が、最近になって身に染みています」

「・・・あの時?」

「ドクターのアジトで私と一騎打ちをした時に、あなたが私に言った言葉だ。
『存在する意味は、自分で作り、見つけていくもの。誰かに与えられたり、もらったりするものではない』・・・そう言ったではないですか」

「うん、言ったね。よく覚えてるよ」



だ、だって・・・あんまりに勢い任せで思い出すとちょっと恥ずかしくて。いや、ヤスフミと・・・あの、同年代の男の子と女の子という感じになって、最近はアレもいいかなって思い始めてるけど。

最初からクライマックスって・・・いい言葉だしね。



「私は、アイツにそれを教えてやれなかった。だから・・・アイツは私のつまらない教えを絶対とし、こんな狭い世界で生きていく道を選んだ」



そう言いながら、トーレが自分の居る部屋を見る。・・・牢獄と言う名の世界を。

そして、そのまま言葉を続けていく。



「アイツは私やドクターとは違う。まだ変われる。違う未来を選べる。いや、手を伸ばしさえすれば、確実にそれを掴める。なのに、アイツは手を伸ばそうとしない。話を聞くに、頑なにこの世界にしがみつこうとしている部分さえ見受けられる。
私はアイツの教育係でありながら・・・自分で意味を見つけて、探して・・・作っていくという行為を、本当に基本的な行為を教えてやれなかった。それがこの現状を呼んでいる。私が、アイツの世界を狭めているんです」



そこまで言って、彼女は少し俯いて、笑う。自嘲するように、どこか悲しげに。



「まぁ、私自身がそれを出来なかったのだから、当然なのかも知れないですね。・・・あなたは弱いかも知れない」



私の瞳を見る。そして出てきた言葉は・・・あぁ、あの時言われた言葉だ。私は・・・弱い。そう言われた

うん、弱いね。私は力は強く出来ても、心を強く出来なかった。だから、壊されかけた。あんな嘘っぱちの言葉達に。



「だが、私はそんなあなたより弱い・・・あなたに負けて当然の存在だった。今は、そう思います。意思を持って道を行こうとする存在に、人形が勝てるはずが無いのですから」

「トーレ・・・」

「話は変わりますがテスタロッサお嬢様、蒼凪恭文は・・・今、どうしていますか?」



トーレの口から出てきたのは、あの子の名前。あの子とセッテに何があったのか、もちろん私は知っている。

だから、どうしてとは聞かずにちゃんと答える。



「ヤスフミなら、今は六課だよ。それで、私達と一緒に仕事をしている」

「では・・・彼にセッテの説得を頼めませんか?」

「実はね、ヤスフミも一度私と一緒に話しているんだ。でも、これで・・・」



私がそう言うと、トーレの表情が曇る。そして、それを見て改めて思う。もう、そこにあの時戦った時の・・・戦機としての顔は無い。

純粋に、妹を・・・生徒を心配する女性の顔。私にはそう見えた。



「それに、ヤスフミも今、すごく忙しいんだ。魔導師の昇格ランクがあるから。それが終わってからなら、何とかなるんだけど」



実際、訓練や仕事でここに来る暇が中々取れない。特に、クリスマスにお休み取ったりするから、その帳尻あわせもあるし。



「そうですか・・・」

「ただね、ヤスフミも口には出さないけど、セッテの事・・・気にはしてるらしいんだ」

「そうなのですか?」

「うん。・・・ヤスフミとセッテね、再戦の約束してるんだ」



そうして、私は話した。最終局面で、ヤスフミとセッテになにがあったのかを。

まぁ・・・事件自体には特に関係の無い話だから、問題無いとする。



「だから、きっと試験が終わったら・・・暇になったら、ヤスフミの事だから自分から説得再開するって言い出すんじゃないかな」

「・・・テスタロッサお嬢様、随分楽しそうですね」

「そうかな?」

「はい」



・・・楽しいのはきっと、色々気づいたからだと思う。色んな事を、気づいたから。

私達は姉弟かも知れないけど、それと同じように、私は女の子で・・・ヤスフミは男の子だという、簡単な事実に。



「ねぇ、トーレ。どうしてヤスフミに説得を頼むの? 私や保護官の人達、みんなが居るのに」



いや、わかるんだけど。実際私達はあまり役に立ててないから。



「・・・彼は、たった一度の邂逅でセッテを変えました。そして、今の話を聞いて思いました。二度目の邂逅で更に変えています。彼の一人の意思を持った戦士としての矜持が、アレに戦機としてではない、彼と同じ戦士として、勝ちたいと言う気持ちと約束と言う未来に繋がる楔を打ち込んだ。
本来なら、ありえない。ありえるはずがない。・・・テスタロッサお嬢様もご存知のはずです、セッテとうちの末妹達に施された処置のことを。ドクターとクアットロの処置は、完璧と言うレベルでした」





私は、トーレの言葉にうなづく。セッテと開場隔離施設に居るディードとオットーは、スカリエッティはナンバーズの4番であるクアットロのアイディアの元、この三人に感情を抑制する処置を施した。

・・・ようするに、怒ったり笑ったり泣いたり・・・そんな当たり前なことが出来ないようにされていた。

でも、セッテはその中でも1番完璧な処置を施されていたのに、悔しいと言う感情をヤスフミによって呼び起こされた。ディードも、なんでもヤスフミと仲良くなってからよく笑うようになったらしい。オットーは・・・人をからかうのが好きになって、ギンガやみんなが大変とか。



もしかしたら、ヤスフミにはそういう人の意外な部分や素敵なところ・・・もっと言うと、人間らしいところを呼び起こす力があるのかも知れない。実際、キャロもそんな感じだし。うん、なんだか普通の女の子に見える。

特に話を聞いているとディードの変化が凄いとか。保護官のチェックが入りはするけど、頻繁にメールのやり取りをして、料理の事とか外の世界の事とかお話して・・・。物静かな印象は変わらないのに、どこか明るい部分も持ってきていて、これにはチンクもびっくりしてるとか。

・・・あれ、なんで私ちょっとモヤモヤしてるんだろ。いいことなのに。



と、とにかく、トーレの言いたいことがわかった。ヤスフミなら、一度でどうこうは無理でも、継続して説得していけば・・・。





「もちろん、彼には彼の都合がある。私の不手際の尻拭いをさせるために無理強いは」

「それならきっと大丈夫だと思うよ。理由は、さっき言った通り」

「なら、いいのですが・・・」

「とにかく、セッテのことは任せて。・・・ところで、私はもう一つ聞きたい事があるの。あなたの意思は、変わらないかな?」



本当なら縦になんて振ってほしくなかった。でも・・・首は、縦に振られた。

つまり、このまま捜査協力はせずに、ここに収監されるということ。



「・・・ねぇ、トーレ。今から局員どうこう執務官どうこうじゃなくて、私個人として話をさせてもらうね。あなたも、そのつもりで聞いて欲しい。
これは局への捜査協力どうこうとは関係ない、私の本当に個人的な意見だから」

「・・・はい」

「あなたがそれで・・・本当にセッテが話を受けると思う? 私が見るに、あなたのことを気にしている節もあるんだけど」



私がそう言うと、トーレの瞳に・・・あぁ、まただ。



「では、私もドクターどうこうではなく・・・私個人として話をさせてもらいます。恐らく、それがこの場での礼儀でしょうから」

「ありがと」

「いいえ、礼には及びません。あなたが望む答えは出せないのですから。・・・すみません、これだけは・・・曲げられません」



彼女の瞳に、光が宿る。それは・・・誇り。戦士としての誇り。

そして彼女は、表情を変える。今までの姉・・・先生としての顔ではなく、戦機としての顔に。



「私は、戦士です。例え力を奪われ、この狭い世界に居ようとそれは変わらない。いや、変えたくはない。戦士として、自らの矜持は曲げられません」





どんな形であれ、道は間違えていたのかもしれない。でも、彼女は自分に持っている。

戦士である事、戦う者であることに誇りを。だから、彼女だけがナンバーズの年長組の中でもどこか異質に感じる。

ウーノやクアットロはスカリエッティという存在に依存・・・妄信している節がある。



だけど、彼女は違う。彼女は、誰でもない、自分の意思でここに・・・この世界で生きる事を選んでいる。私は、あれから話をさせてもらって、そういう風に感じていた。





「私達はあなたに、六課に負けて・・・どんな形であれ、その道を否定されました。・・・妹達はいい。何も知らない世界の中に居たのだから。
ドクターも上の姉達やクアットロは・・・まぁ、あぁいう感じだからいい。ただ私は・・・私の矜持に殉じる。それだけの話です」

「それが、あなたから未来を奪っても?」

「それが、当然の責だと思っています。・・・私は、妹達よりは世界を知っている。知った上で、自分の意思でドクターの手ごまとなり、あなたやこの世界から未来を奪おうとしたのですから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ほほう、つまりあれですか。あの青髪は自分の不始末を僕に押し付けて、自分はせまっ苦しい牢獄で人生終えようと。





そんなこと・・・許されるはずが無いと言うのに、全く。










「フェイト」

「うん?」

「決めた。帰ったら、セッテの問題・・・何とかするよ。絶対の絶対に。つーか、死んでも再戦の約束は守ってもらう」



一応の基本方針はある。まぁ、細かい部分は帰っておくまで考えておくとして・・・とりあえずの問題は、目の前の狸だ。



「私ははやてじゃないよっ!?」

「なに言ってるの。僕から切り出したのをいい事に、こういうこと言って焚きつけようとしたくせに」

「・・・バレた?」

「バレないと思ったの?」



・・・小さく舌を出して『ごめん』と謝っても許してあげない。うん、絶対許さない。



「・・・やっぱり、協力してもらおうかな」

「・・・いいよ」



あ、しまった。自分からまた地雷原に・・・!!

でも、協力は・・・して欲しいかも。



「ね、どうすればいいのかな。あの・・・一応知識ではあるけど、実際は分からないし。ヤスフミ・・・詳しいよね?」

「ぼ、僕だってしたことないから分かんないよっ! 知識だけだからっ!! フェイトと同じだよっ!?
というか、あの・・・そ、そっちじゃないから。・・・また、ギュってしながら寝たい。それだけでいいから。それに・・・あのね」

「うん?」



ま、まぁ・・・一応話しておこう。多分またこういう話題が出てくるだろうから。



「多分、今フェイトとそういうことしたら・・・僕、間違いなく我慢出来なくなるから」

「・・・え?」

「つまり、その・・・全部したくなって・・・」



この言葉に、フェイトが顔を真っ赤にした。というか、僕も真っ赤。

なんだか・・・体が熱い。熱くて熱くて、熱が出たみたいになってる。



「そ、それはちょっと困るかも。私・・・まだダメな日だから。あ、でもそれならやっぱり、溜まってるんだよね」

「ま、まぁ・・・溜まってないといえば・・・嘘になるかな」



・・・三日だしね。一昨日はフェイトが泊まりに来て、昨日もフェイトとリインと寝て、今日もフェイトと寝てて・・・偶数日なんて越えてるし。

なお、寝室別にすればいいとは口が裂けても言えない。状況がそれを許してくれないから。



「その、そういうエッチな協力はいいから、ギュってしてくれる? それだけで・・・幸せで、やましい気持ち、なくなるから」

「・・・本当に、それでいい?」










僕は、フェイトに対してうなづきで返した。フェイトは・・・そのまま、優しく抱きしめてくれた。





優しく、包み込むように・・・それだけで、なんだか幸せで、暖かくて、フカフカで・・・そのまま寝ちゃってしまった。





明日は暇を見つけて・・・少しだけでも一人になろうと思いながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、ドイツでの日々は瞬く間に過ぎていった。





ヤスフミは恭也さんと修行して。










「はぁぁぁぁぁっ!!」

「脇が甘いっ!!」

「まだまだっ!!」





ご飯食べて。





「・・・おかわりお願いしますっ!!」

「心得ました。恭文さん、お味はどうでしょうか?」

「もう最高ですっ! 色々盗ませてもらってますっ!!」

「なら、よかったです」





雫ちゃんとアルトアイゼンのコンビに弄られ。





「お兄ちゃんのヘタレって、まだ治らないの?」

≪治りませんね。もうあれは一種の持病ですよ≫

「そうだよね、見ててそんな感じがした」

≪・・・ね、雫。僕の前に居るんだからアルトばっか見ないでほしいな。というか、お前ら絡むな。マジでうっとおしいから≫





修行して。





「ま、また恭也さんの姿が消えた・・・」

「あはは・・・恭也は楽しそうだなぁ」

「それで神速連発ですか・・・。恭文さんも恭也さんも、本当に似たもの同士ですね」





ご飯食べて。





「・・・ふむ、グラタンの隠し味に日本酒を」

「はい。・・・試しにやってみたら、これが好評なんです。味どうこうではなくて、風味付けレベルではあるんですけど」

「というか、恭文君が家の厨房に毎日入ってる気が」

「お母さん、もうあれは食べてるというか作ってるよ」





雫ちゃんとアルトアイゼンのコンビに弄られ・・・。





「お兄ちゃんのドジ」

≪ヘタレ≫

「甲斐性なし」

「だから・・・おのれらは絡むなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










あれ、最後がなんだか余計だね。まぁ、いいか。





恭也さんの仕事の都合もあるから、月村家でドイツの文化なんて勉強しつつ、色々とヤスフミとお話したり、ノエルさんの案内で観光したり・・・。





そして、翌日にはもう帰る日となっていた。そんな中、私と忍さんは・・・酒盛りをしていた。










「・・・あ、美味しい」



ビールってあんまり飲んだ事ないんだけど、これはこう・・・程よい苦味がまたなんとも。

・・・あ、訂正。私だけが一杯だけいただいている。忍さんは・・・ジュース。なんでだろう、お酒好きなのに。



「でしょ〜。いや、ドイツに来て、私はビールのとりこになったのよ」



嬉しそうに、ソーセージをかじりつつ忍さんが言って来た。それに私は微笑みで返す。

恭也さんとヤスフミは、ノエルさんと一緒にお買い物に言っている。あと、雫ちゃんもだね。今、家には二人っきり。



「でも、修行・・・いい感じで終わってよかったね。一時はどうなるかと思ったんだけど」

「はい。・・・包帯だらけですけど」

「あぁ、確かにね。ま、それは恭也もなんだけど」



修行の中で本気で斬り合うから・・・二人揃って体中が傷だらけになってしまった。

・・・やっぱり、心配だよ。それは変わらないみたい。でも、今までの心配とは少し違うのかな。多分、恋人としての心配。



「まぁ、致命的なのは無いってノエルも言ってたし、そこはよかったよね。・・・うん、心から思うよ。これで恭也に何かあったら、私達どうしたらいいのか考えちゃうもの」



そう言いながら、忍さんがおなかを愛おしそうにさす・・・る・・・。それを見て、私は妙なデジャヴに襲われた。

私はこの光景を見た事があるから。・・・そうだ、エイミィが・・・忍さん、もしかして。



「あ、気づいた? ・・・ノエルの見立てだと、2ヶ月だって。もうすぐ3ヶ月」

「・・・だから今日までお酒飲んでなかったんですね」



それだけじゃなくて、普段は月村家に居るノエルさんがこっちに居るのも・・・それが理由だったんだ。

つまり、妊娠初期でまだ安定していない忍さんのサポートのため。



「ご名答。あー、本当だったら恭文君と酒盛りしたかったんだけどなー。でも、さすがに妊娠中にお酒はまずいしなぁ」



・・・赤ちゃんが、居るんだ。雫ちゃんの弟・・・もしかしたら妹が。

なんだか、不思議な感覚。エイミィが妊娠した時にも思ったけど、こう・・・私にはまだ想像出来ない。



「フェイトちゃんも、恭文君とそうなれば実感沸くよ。というか・・・まだなの?」

「は、はい。・・・なんというか、あの・・・私の身体の方がダメで。もう明日には大丈夫になるんですけど」

「あー、そうなんだ。なら、一緒の寝室って辛かったんじゃない? ごめんね、気を効かせたつもりだったんだけど」



私は首を横に振る。もちろん、そんなことはないという意味で。

・・・その、一緒に寝るの。横になりながら色んな話をするの、楽しかったから。だから、いいの。



「エッチとかは無いんですけど、沢山・・・話せましたから。将来のこととか、今までのこととか」

「そっか、ならいいんだ。・・・あのね、フェイトちゃん」

「はい」



忍さんが表情を引き締めて、私をジッと見つめる。私はそれに見つめ返して、視線で答える。

忍さんは、それを確かめてから、口を開いた。



「いきなりなんだけど恭也ね、最初・・・恭文君のこと、怖がってたんだ」

「え?」

「原因は、あの子が人を殺したこと」



その言葉に、胸が締め付けられる。そして、信じられなかった。だって、あの恭也さんが・・・。



「でもね、ちゃんと理由があるんだ。・・・ほら、恭文君って普段から自分の本当の気持ちをあんま見せないじゃない? 飄々としてて、マジな気持ちとかを隠すところがあって。だからね、恭也・・・なのはちゃんや君から話を聞いて、ずっと見てて、分からなかったんだって。
あの子が、奪ったという事実についてどう思っているのか。どう向き合おうとしているのか。もしかしたら飄々としているのは、事実を忘れて、心の中にすごく歪んだものを持ってるせいで、それでいつか周りの人達を傷つけるんじゃないかって、危惧してたんだって」

「・・・そうだったんですか」

「そうなんだよ。でね、恭也は・・・まぁ、あんな感じになった。あの子が言い訳も、逃げも、忘れる選択すらも放り出して、全部受け止めるという気持ちを持っている事を知ったから。
私、その話を聞いて、その後のあなたを見てて少し思ったんだ。・・・フェイトちゃんも、怖がってたよね」



その言葉に、胸を貫かれた。そして、私は・・・うなづいた。

でも、怖がってたのは人を殺したこと自体じゃない。それは違う・・・絶対に違う。



「・・・私が怖かったのは、ヤスフミが・・・居なくなる事だったんです」

「うん、見てて気づいてたよ。だって、あの時のフェイトちゃん、私から見てもちょっとおかしいくらいだったから。
恭文君に、これ以上重い物を背負って欲しくなかったし、普通に生きて欲しかったんだよね」

「はい・・・。忘れて、普通に・・・学校に通って、友達を作って、平和に、静かに暮らして欲しかったんです」



でも、結果は・・・今の通り。ヤスフミは戦う事を選んだ。何度も言った。忘れていいから、誰も責めないから、罪滅ぼしなんて必要ないからとも言った。

それで何度も喧嘩して、何度も仲直りして・・・。互いに学習能力が無いなって思うことも沢山あって。



「でも、今は・・・違います」

「どう違うの?」



・・・私は、きっと分かろうとしてなかった。どうしてヤスフミが忘れたくないと思ったのか。どうしてヤスフミがあんなに私を守ろうとしてくれていたのか。好きだと・・・何度も言ってくれたのか。

ずっと、ずっと子ども扱いしてた。弟で、年下で・・・家族だからって。だから・・・あの・・・あぁもう、上手く言えないよ。



「だから・・・とにかく、覚悟を決めたんです。ヤスフミの忘れないという選択に付き合う覚悟を。それで・・・もし、もしも・・・」



忍さんの目を見る。胸を支配するのは、甘い疼き。だ、だって・・・こう、恥ずかしいから。



「私が側に居て・・・一緒に、戦えるなら、そうしたいなと」

「・・・あなたが守るんじゃなくて?」

「はい。私が守るんじゃなくて、戦いたいんです。守るのは、その上でです」



私がそう言うと、忍さんが表情を崩した。どこか優しく・・・暖かい笑顔を浮かべた。



「・・・フェイトちゃんがうらやましいよ」

「え?」

「私はね、恭也と一緒に戦う力は無いもの。どっちかって言えば、頭脳労働が専門だしね。・・・あのね、フェイトちゃん」



忍さんが手を伸ばして、私の両手をギュっと掴む。

力強く、痛いくらいに。



「恭文君のこと・・・お願いね」

「え?」

「・・・私さ、好きなんだよね、あの子の事」



・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? す、好きって・・・えぇっ!!



「あ、もちろん恋愛的にじゃなくて、家族的な意味合いでだよ? 恭也は弟か親戚の子か何かみたいに思ってるし、それなら・・・私にとってもそうだから。実際、あの子やアルトアイゼンとはノリが合うしさ」



・・・あ、そうなるのか。恭也さんは実際にどう思っているのかはわからないけど。

だめだな、私。少しびっくりして忍さんのことガン見しちゃったよ。



「実は、ちょっと心配だったんだ。ほら、以前はさっき言った通りの様子だったのに、今までのやり取りを見てたらちょっと信じられないくらいに変わってたからさ。
なんていうか・・・忍ちゃんなりの審査? 大事な弟君を本当にあなたに任せていいのかというね」

「私・・・合格ですか?」

「まぁ、今のところは・・・だね。でも、油断は禁物だよ? いろんな意味でさ。恭文君はモテるし、結構熱心にアプローチしてくる子も居るし」

「・・・はい、頑張ります」





・・・私にとっては生まれて初めての恋。私は今、生まれて初めて男の子と交際している。それで、私・・・あの子の事が好き。まだなりかけだけど、好き。

もしかしたら、ヤスフミが自分の居場所を諦めていたように・・・私がどこかで諦めていた可能性。その、恥ずかしいけど・・・誰かと愛し合って、その人と一緒の未来を進んで行く可能性。私は今、それを少しだけかも知れないけど手にしている。

だから、大切にしたい。私の中に芽生えた気持ちも、この気持ちが生まれるきっかけを作ってくれたあの男の子も。気づいた事、向き合っていくと決めた事、何も後悔になんて・・・したくないから。



あの子と、いっぱい・・・いっぱい恋愛して、今よりももっと深く繋がっていきたいから。



あ、そうだ。ちょうどいい機会だし・・・聞いてみようかな。





「あ、あの・・・忍さん」

「うん?」

「その・・・少し、夜の生活について教えて欲しいんですけど」

「・・・・・・はぁっ!?」





そうして、事情説明をする。ヤスフミにいっぱい我慢をさせていたと。



それで、そういう・・・身体でのコミュニケーションもちゃんとしたいんだけど、ヤスフミがなんだか遠慮してて、中々上手く行かないと。





「それで、ここに居る間に・・・誘ったりしたんです。本当に繋がるのは無理だけど、あの、それ以外でも色々なやり方ってあるじゃないですか」

「うん、あるね。・・・え、まさかそれやろうとしたの?」



私はうなづいた。・・・あれ、忍さんが表情を変えた。



「でも、ヤスフミ・・・『大丈夫だから』とだけしか言ってくれなくて。いっぱい我慢してるはずなのに、平気な顔しか見せてくれなくて」

「なるほどねぇ・・・」



・・・忍さんは納得してくれたらしい。というより、ちょっと呆れてる?



「あのさ、フェイトちゃん。恭文君が遠慮してるのって、多分互いに初めて同士って言うのが大きいんだよ。特に恭文君はフェイトちゃんのこと大好きだからさ、あんまり順序無視なことをしたくない」

「そ、それは分かるんです。ただ・・・あの・・・」

「なにかあったの?」



・・・あった。ヤスフミと一緒に寝てる時に、少し・・・あった。



「あの、男の子って興奮すると・・・あの、そうなるじゃないですか」

「あぁ、なるね」

「それで、夜中にトイレに行きたくなって、目が覚めると・・・あの、寝てるヤスフミのが・・・そうなってて」



私が言うと、忍さんが目を見開いた。咳払いを一回だけして・・・小さな声で聞いてきた。



「・・・見たの?」

「み、見てはないんですっ! ただ、身体がくっついてたから・・・・あの、分かっちゃっただけでっ!!
それが、一回だけじゃないんです。こう・・・ほぼ毎晩。それで、その時の恭文・・・ちょっとだけ表情が苦しそうで」

「なるほど、それでフェイトちゃんは何とかしてあげたいと。確かに、そうなってる時は男の人はちょっと痛い時があるらしいから」

「はい」



理由は以前言った通り。我慢とか、遠慮とか・・・しないで欲しいなと。

知識だけはあるし、その・・・頑張るとも言ってるんだけど。うーん、でもやっぱり初めて同士だからなのかな。



「まぁ、それが1番大きいんじゃないかな。自分はともかく、フェイトちゃんに嫌な思いさせるんじゃないかって考えるんだよ。でもさ・・・もう大丈夫なんだよね」

「はい」

「だったら、明日ちょっと頑張ってみなよ。私が色々テクニック教えてあげるからさ」

「あ、あの・・・ありがとうございます」










そして、少し教えてくれた。・・・これには、感謝しかないと思う。だって、はやてが見せてくれた本よりも実戦的で、勉強になったから。





あ、あの・・・色々あるんだよ。うん、本当に。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それじゃあ恭也さん、忍さん、ノエルさん、あと豆。お世話になりました」

「豆はお兄ちゃんでしょ?」

「うっさい、僕より雫の方が豆でしょ?」

「なに言ってるの。そのうち身長と戦闘能力はおにいちゃんを追い越すもん。それで、胸の大きさと美しさはフェイトお姉ちゃんを追い越すもん。そうして私は神になるんだから」

「どんだけ自信過剰っ!? つーか、ちょっとは自重しろよチートキャラっ!!」



玄関で、そんな会話を僕と雫がしていると、皆が暖かい目で見てくる。・・・なぜだろう、若干呆れた感じがするのは。



「お前達落ち着け。雫が恭文を追い越すのは決定として」

「なんでそうなりますっ!?」

「冗談だ。・・・雫、あんまり意地悪が過ぎると、お兄ちゃんがもう雫とは遊びたくないって言い出すかも知れないぞ?」



雫がそう言うと固まって・・・あれ、なんですかこの反応。



「わ、私が遊んであげてるんだよ。お父さんなにを言って」

「でも雫? 恭文君はフェイトちゃんみたいな穏やかで優しい女の子が好きだから・・・意地悪な雫は嫌いになる可能性、大きいかも」

「う・・・」



忍さんが続けて言うと、なんか泣きそうな顔になった。

あ、あれ? な、なんかこう・・・デジャヴが。



「ま、まぁ・・・少しは優しくしてもいいかな。ヘタレなお兄ちゃんに合わせてあげようじゃないの。雫、大人だし」



何を言うか五歳児が。つーか、どうしてちょっと足が震えてる? なんで泣きそうな顔してるのさ。



「・・・雫お嬢様は、昔から恭文さんがお気に入りですから」

「そうそう。こっちに来るって分かった時からもうはしゃいじゃってはしゃいじゃって」

「お母さんっ!? というか、ノエルさんも何言ってるのっ!!」



・・・そうなの? このクソ生意気な子どもは、そういう一面を持ってたの?



「持っていたんだよー。もう口には出さないけど、小さい頃から何度も遊んでくれた恭文君のことが、雫は大好きなんだから」

「リインとも一緒に寝てた時も、ずーっと恭文さんの事ばかりお話したがってましたしね」

「リ、リインさんっ! それは内緒って言ってたよねっ!!」

「具体的には・・・こんな感じです♪」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねぇねぇリインさん、お兄ちゃんが暮らしてるミッドチルダってどんな所なの? お兄ちゃん、どんな家で暮らしてるのかな」

「・・・雫ちゃん、そんなに気になるですか?」

「べ、別に興味あるとかじゃないから。ただ、あのヘタレなお兄ちゃんがどういう感じか気になってるだけなんだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・雫、私が思うに、5歳児でツンデレっておかしくない?」

「忍お嬢様、ツンデレは素晴らしい属性だと恭文さんがおっしゃっていましたから、問題は」

「あるからっ! 私はツンデレじゃないもんっ!!」



不満そうな雫はともかく、ノエルさんが一歩前に出て、僕に微笑みかける。



「恭文さん、雫お嬢様は少し素直ではない所がありますが、決して嫌わないであげてくださいね」

「ノエルさん余計な事言わないでー!!」



慌てた様子の雫を見て、皆が温かい瞳で見てる。もちろん、対象は僕と雫。

ま、まぁ・・・嫌われるよりはいいかな。僕も別に雫は嫌いじゃないし。



「・・・ね、雫」

「なに?」



僕はしゃがんで、雫の目線に合わせた上でにっこりと笑いかける。



「これからは定期的にここに来て、恭也さんに稽古つけてもらうことになったからさ。また・・・遊んでくれる?」



雫は・・・目に溜まっていた涙を右手でごしごしと拭いて、うなづいてくれた。



「ありがとね」

≪また私と一緒にこの人をいじりましょうね。きっと楽しいですよ≫

「・・・うん」

「・・・・・・いや、それは心からやめてくれると嬉しいんだけど」



とにかく、立ち上がって・・・そろそろ、行かないと。

僕はもう一度みんなを見る。



「それじゃあ、恭也さん」

「あぁ、また来てくれ。俺もそうだが、忍も雫もノエルも待っている。雫は特にな」

「お父さんっ! そういうことは言わなくていいからー!!」










そうして、四人に手を振りながら・・・僕達は歩き出した。





修行は無事に終了。神速は・・・本当にちょっとだけではあるけど、ものに出来た。





結果的な使用限界時間は、1秒とちょい。日に・・・1、2回が限度。使うなら、本当にクロスレンジでの一瞬にかけるしかない。





でもまぁ・・・いいか。これから強くなっていくんだから。今を使い潰さないように。だけど、そのために躊躇って後悔なんてしないように。





そうして、今を未来に繋げていけるように。・・・だから、これでいい。今はこれでいいんだ。










「・・・フェイト、リイン」

「うん」

「なんですか?」



再び両手を二人に占領されながら歩き、言葉をかける。・・・こういうのは、必要なのですよ。



「ありがと、ここまで付き合ってくれて」










二人は、その言葉にうなづきで返してくれた。それだけで嬉しかった。





右のフェイトの手を握る手と、左のリインの手を握る手の力を、強くする。だけど、優しく、包み込むようにも握り締める。





言葉だけでは伝わらない、ありがとうという気持ちを込めながら。




















(第4話へ続く)




















おまけ:帰り着いた後のこと・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達は、無事にミッドチルダへと帰還した。現在・・・2月の10日。中々に有意義な休暇・・・修行となった。





リインを隊舎へと送った後、僕とフェイトは・・・あの、僕の自宅に居た。





フェイトは、今日は僕の家に泊まる。つ、つまり・・・その・・・あの日のリベンジというか、そんな感じ。










「・・・こ、こういう時ってどうすればいいんだろうね」

「そ、そうだね」





でも、現在・・・二人してお茶を飲みつつ、ソファーに座って固まったり、そわそわしたりしております。な、なんというか・・・あの、どうすればいいのか分からなくて。



うぅ、落ち着いて考えると、僕達30話のおまけでどんだけ暴走してたんだろ。若さって怖いなぁ。





「ね、ヤスフミ・・・手、繋いでいい?」

「え?」

「いい、かな?」

「・・・うん」



僕の右側に座るフェイトが・・・ゆっくりと手を繋ぐ。繋いで、僕の肩に頭をポンと乗せる。

フェイトの体温と柔らかい匂いを感じて・・・ドキドキする。



「ヤスフミ、いい匂い・・・するね」

「そうかな・・・」

「するよ。暖かくて、優しくて・・・いい匂い」



そのまま、ギュっと僕の身体に空いている方の手を回して、抱きしめてくれる。

だから、僕も勇気を出して、右手をフェイトの頬・・・は無理だから、頭と髪を撫でる。ゆっくりと、慈しむように。フェイト・・・少しだけ息を吐いた。それが耳をくすぐって・・・あの、ダメ。



「・・・あの、フェイト。僕・・・初めてなんだ」

「うん、私も。あのね、男の子へのキスも・・・ほっぺたのアレが初めてなんだ」



そ、そうだったんだ。なんというか・・・嬉しいと言うか、光栄というか。



「だからあの、ちゃんと出来るかどうかわからないけど、いい?」










フェイトは肩から顔を外して、コクンと・・・恥ずかしそうにうなづいてくれた。





だから、そのまま・・・顔を近づける。フェイトは瞳を閉じて・・・そのまま、受け入れてくれようとした。





僕も、それを見て嬉しい気持ちになりながら、ゆっくりと、瞳を閉じた。




















ピンポーンッ!!




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?










「え、えっと・・・」




寸前の所で、二人目を開く。そして・・・顔が近いから、当然真っ赤になる。

な、なんですかこれ? なんでまたこれ? おかしいでしょうが。



「よし、居留守を」

「ダメだよ。大事な用だったらどうするの? ・・・私、待ってるから、出てきて」

「・・・はい」





フェイトは中々に厳しいと思いつつも、僕は玄関に出る。そして、とっとと追い返してやろうと思いつつドアを開けた。



すると、そこには一人の女性が居た。僕より身長が高く、白のセーターにブラウンのスカート。青のストールを羽織り、長い金色に近い色合いの髪をポニーテールにしている女性が。

そして、その傍らには・・・黒色の髪を三つ編みにしている女性。というか、美由希さん。なぜか苦笑いで僕を見ている。

でも、それよりも重大なことがある。だ、だって・・・ポニーテールの女性がここに居るわけが分からなかったから。



な・・・なぜ・・・ここにあなたがっ!?





「恭文くん・・・久しぶりっ!!」



そのまま、玄関に飛び込んで僕に抱きつく。



「私、来ちゃったよ。・・・結婚の約束、守ってもらうためにね」

「フィ・・・フィアッセさんっ!?」










・・・この人の名前はフィアッセ・クリステラ。職業・歌手兼クリステラ・ソング・スクールの校長先生。





僕とはわがまま仲間で友達で・・・そして、婚約者である。




















(第4話へ続く)




















あとがき



古鉄≪さて、マスターが最低な感じで終わった今回のお話、みなさんどうでしたでしょうか? 今回のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

ティアナ「・・・ティアナ・ランスターです。ねぇ、アイツ・・・マジでなにやってんの?」





(ツンデレガンナー、みんなが思っているであろう疑問をぶつける。・・・でも、それに答えられる人間は居ない。だって、誰もわからないから)





古鉄≪まぁ、そこはともかく・・・今回は絵的にもつまらなくなる率ナンバー1の修行編です≫

ティアナ「アンタ、そういうこと言うんじゃないわよっ! いや、確かに修行編ってなんか盛り上がりに欠ける部分があるけどっ!!」

古鉄≪まぁ、そこは置いておいて・・・。なんだかんだでドキドキラブラブな二人の様子を映しつつ、雫さんとマスターをいじりつつ、修行の日々となったわけです。まぁ、ちょこっとやってましたけどね≫

ティアナ「あのさ、人がまた消えたって表現っておかしいと思うんだけど、気のせいかな?」





(気のせいDESUYO)





ティアナ「・・・そっか、気のせいか。それはよかったわ。あと私・・・もう一つ気づいたの。
・・・なんでちょっと聞きかじったような中途半端なヒップホップ調でナレーションしてるのよっ! おかしいでしょうがっ!!」

古鉄≪気にしてはいけません。色々あるんですよ≫

ティアナ「色々あってもこうはならないわよっ! こうはねっ!!
まぁ、そこはともかく・・・最後いいところでフィアッセさん・・・と。そう言えば、連絡してなかったのよね」

古鉄≪性格には、したけど時期を見て欲しいと言われたんです。それでこれですよ。・・・というわけで、次回は修羅場です≫

ティアナ「まぁ、そうよね。むしろこれで他にどう見ればいいのかが分からないわよ。他にあるなら教えて欲しいわよ」





(むしろ、作者も教えて欲しいらしい。ここから修羅場以外の何が連想出来るのかを)





古鉄≪というわけで、本日はここまでっ! お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

ティアナ「ティアナ・ランスターでした。それでは・・・また次回に」










(そうして、二人手を振り・・・カメラ・フェードアウト。
本日のED『トライアングラー』)




















士郎「・・・なぁ、桃子。美由希は本当に・・・その、フィアッセと一緒に行ったのか?」

桃子「えぇ。それで、フィアッセ・・・多分知らないわね」

士郎「まぁ、恭文君は連絡しようとしたし、イリアからしばらく待ってもらえるようにと言われたから仕方ないと言えば仕方ないんだが・・・大丈夫なのか、それは」

桃子「大丈夫と思う?」

士郎「いや、思わない」

桃子「恭文君、刺されないといいんだけど・・・」

士郎「いや、さすがにそれは・・・ありえそうで怖いな」

桃子「でしょ?」










(おしまい)





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あきゅろす。
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