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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
サイト開設11周年記念小説その6 『雛見沢DAYBREAK/僕達は迷いながら』


その日の夜……魔導師組的にはもう、大敗北を突きつけられまくって、全員でホテルに戻り、反省会。

特に私は、本当に……何もできなくて……! その上恋愛すらサッパリなお猿さんだと見なされて……ふぇぇぇぇぇぇ……!


「……とりあえず、あれよね。シャッハ……あなたは恋愛感情というものを、もう少し勉強するべきだわ」

「それはフェイトちゃんもやな……。まさか、あんなどストレートに聞くとは」

「「す、済みません……!」」

「あ、やめて……ください。それは、私にも……突き刺さる……!」

「そうだよ、ティアナー。ゴリライズの上にあれはよくないと思うなー。
ミミズだって、オケラだって、アメンボだってやることやっているのにー」

「……それ、なのはちゃんが言われてヘコんだやつやろ」

「しー!」


いや、なのは……無理だよ! 私、忘れられないよ!? あの死にそうな顔! 部屋に戻ってからもずっと引きずっていたのに!

というか、ティアナに勝ち誇ろうとするのはほんとやめよう!? 見ていて悲しいよ! ただの強がりを超えているよ!


「だけどはやて、騎士カリム……レナちゃん、本局の方に運ばなくても、本当に」

「それはうちらも考えたけど……さすがに無理よ。お父さんへの説明もあるし」

「それにはやてやキャロ達が調べてくれたけど、魔力的な異常は感知されなかったの。そもそも理由付けができないと……」

「でも、それなら精密検査すれば」

「何より……あの状態のレナさんを収容して、症状が発揮されたら…………どれだけの被害が出るか予測できないわ」

「ぁ…………ぅ…………」


そう、言われると……! 実際みんなで総掛かりでも鎮圧できなかったそうだし。

というか物理法則を無視するとか、チート的なプロフィールが現実になるとかおかしくない!? 本当に魔法能力者じゃないのかな!


「まぁそれもまた明日、改めて考えようか。圭一君達もなんや思う所があるようやし」

「それは、そうですよね。レナさんは大事な部活仲間でもありますし……」

「くきゅー」

「それも、このままでいいのかな……。やっぱり素人さんだし、下がってもらっていた方が……」

「でもうちらだけで好き勝手もできんからなぁ。……難しいところや」

「……うん……」


明日……とにもかくにも明日。

何も起きなければいいんだけど。それで、すぐに石が見つかるの。


そうすればお仕事も終わるし、魔法が使えない子達を巻き込むこともないし……うん、それが一番だよね。




とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常Ver2020

サイト開設11周年記念小説その6 『雛見沢DAYBREAK/僕達は迷いながら』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年(西暦二〇二〇年)六月十七日――午前七時二〇分


その電話は、僕が梨花ちゃん宅でご飯を食べているとき……唐突にかかってきた。


『着信:竜宮父』

「……レナのお父さんから?」

「……わたくしには圭一さんからですわ」


食卓を囲み、沙都子と首を傾げながらも……揃って電話に出る。


「はい、もしもし……蒼凪です」

『あぁ、蒼凪くん……朝早く早々申し訳ない。レナの父です』

「お久しぶりです、お世話になっています」

『突然だけど、レナはそちらに伺っていないかな』

「……はい?」

「……レナさんがいなくなった!? どういうことですの、圭一さん!」


沙都子の驚いた顔で、納得する。二人の用件はほぼ同じだと……。


「今、梨花ちゃん達の家にいるんですけど……状況は察しました。レナの姿が見えないんですね」

『そうなんだよ。いつもなら朝ご飯の準備をする時間なのに、出てこないから部屋を見たら……そちらには伺っていないんだね』

「えぇ。いなくなる前の様子は」

『いや、際だっておかしいことはなかったよ。寝る前も……少し元気がない様子だったけど、それくらいで』

「……分かりました。一旦そちらにお伺いしてもいいでしょうか」

『頼むよ。圭一君達もくるので……君達には本当に、いつも迷惑をかけてしまって』

「大丈夫ですよ。僕達も放っておけませんし」


――そうして数秒で話を纏めて、電話を終了。


「分かりましたわ! レナさんの家へ集合で!」


沙都子も同じくで、携帯を置いて……困惑した表情で僕や梨花ちゃん達を見る。


「レナのお父さんが言うには、寝る前か……朝一番で拾われたっぽい」

「それで行動開始なのですか……! というか、反応はなかったのですか!?」

≪それが全然なんですよね≫

「とにかく、レナの家へ急ぐのですよ。手がかりがあるといいのですけど……」


――――それからピッタリ十五分後。全員急ぎに急いだ関係もあって、部活メンバーはレナ以外竜宮家に到着。

興宮に向かった可能性もあるので、はやて達にはその辺りを連絡し、向こうで捜索してもらう手はずとなった。

で、僕達は足がかりとして、レナの部屋を見せてもらうことになったんだけど…………。


≪なの…………!?≫

≪……相変わらず、一歩間違えれば汚部屋ですねぇ≫


レナの部屋はまぁ、一応女の子っぽく、人がお泊まりできるくらいの奇麗さは保っているんだけど……どちらかと言えば、物がやたらと多かった。

ゴミ山などで拾ってきたかぁいいものが所狭しと置かれていて、いわゆる平均的な女子部屋を想像すると、結構ギョッとする。


「……って、お前は入ったことがあるのかよ!」

「ほら、結婚詐欺の件でお話した夜ですわよ。恭文さんも竜宮家にお泊まりしましたから」

「おじさん的にも慣れ親しんだ部屋だよねぇ。だからあんまり変わったものは……ん?」


魅音が勉強机の上に気づく。そこに……乱雑に置かれた雑誌の数々。

更にノートパソコンも電源を落としていなかった。そちらもちょっと確認してみると……!


――凄技ガンプラテクニック――

――ガンプラバトルの覚えるべきイロハ――

――ガンプラバトルを盛り立てたレジェンド達――

――RX-78-02の全て――

「なんじゃこりゃ!」

「全部ガンプラや、バトル関係だよね……」


そこで圭一と悟史が僕を見やるけど、すぐに首を振る。


「ないない! つーか拾ったらさすがに報告してるって!」

「だよね……。でも、バトルやガンプラが好きな人ってことか……」

「……悟史くん、それだけじゃなさそうですよ」


ノートパソコンをカタカタ操作しながら、詩音が焦った顔をする。

どうやらレナが見ていたサイトの履歴を確認していたようで……それを僕達も見させてもらうと。


「急いで止めないと、レナさん……リアル失楽園しちゃいますよ!」

「むぅ!?」

「ちょ、この人は……!」


そのサイトの全てには、ある男の人が映っていた。

刈り上げた単発に、赤いアロハシャツという出で立ちの男性。

その人は二代目メイジン・カワグチを抜いたら、日本で最も有名なビルドファイターかもしれない。


……第二回ガンプラバトル選手権・世界大会第二位。

イオリ・タケシ――――――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七五年(西暦二〇二〇年)六月十七日――午前八時十二分


魅音の先導で、僕達は興宮に全速力で移動。更に六課メンバーとも合流して、やってきたのは…………真新しい、二階建ての大型ホビーショップ。

車が十数台は止まれる駐車場に、広々とした店内が自動ドアから見える。これは、なに……!


「……ねぇ、魅音……確かここ、もうちょっと小さかったような」


おかしいなぁ。確か一年前は……ちっちゃいバトルシステムを置いていた、住宅も兼ねた建物だったはず。

それも今は古き町のおもちゃ屋さんって感じでさ。ゲーム大会とかもあって、親しみやすい感じだったのに……。


「立て直したんだよ。バトルで街起こしを目指してね」

「幾ら何でも目標がデカすぎない!?」

「分かってる! だからそのためにね、今回の綿流しに合わせて、ゲストも呼んでいたんだよ!」

「ゲストって……まさか!」

「とにかく中に! 予定だと今日はリハーサルだったはずだから!」


まさか、まさかと思いながらみんなで入店……なお開店時刻前だけど、表玄関の自動ドアは普通に開いた。

そして、中に……七基接続の大型バトルベース近くに人影が見える。


近くには倒れた魅音のおじさん。その脇に立つのは、レナと…………マジで世界二位の人がいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「ま、待ちたまえ……竜宮レナ君! 僕にはリンちゃんという最愛の妻と、セイという息子が」

「嘘だッ!」


そしてもう手遅れだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「タケシさんは不満に思っている。自分の大好きなガンダムを、心から理解してくれないリン子さんに。
人それぞれだと大人な顔をしても、本当は一緒に好きなことを共有したい……それは当然のことなんです。
でもそれがリン子さんとはできない。リン子さんとはその一点が分かり合えない。
ザクとボルジャーノンくらい区別を付けてほしいと思っているのに、それすらできないリン子さんは、タケシさんを愛する努力をしていない。
それはつまり、タケシさんとリン子さんは既に夫婦として破綻しているという事実に他ならないんです。
でもレナなら違う! タケシさんを愛していける! 全身全霊で愛してあげられる!
タケシさんのためならザクとボルジャーノンの違いも! プラモでやたら出ているRX-78-02の違いも!
全部、全部、全部……ちゃんと受け止めてあげられる! 分かち合える! タケシさんが求めている本当の家庭をそのまま渡してあげられる!
レナの一生を賭けて、タケシさんの全てを満足させてあげられる! そう……それこそが! タケシさんが求めていた帰るところなんです!」

「うぉ……うぉおおおおおお…………うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


うわぁ、凄いまくし立ててきたよ! というか顔も合わせたことでないであろうリン子……リンちゃん!? どっちでもいいわ!

とにかくリンちゃんのこと、よく分かってるね! ビックリしてるよ!

というか、食いついてる……アロハのおじさん、凄い前のめりで食いついてるよぉ!


「さぁ、レナの手を取ってください! レナと一緒に極めるんです! ガンダムの……そしてガンプラとバトルの頂きを!」

「わ、わた、私は……私は……リンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

ちょっと……


さすがにそれは見過ごせないので、フェイトの声真似をしながら、フェイトの襟首を掴んで……!

「ふぇ?」

待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


遠慮なく全力の投てき!


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


二人の間をフェイトは音よりも速く通り過ぎる……いや、その前にレナがノーモーションでレナパンを発動!

フェイトは顔面を撃ち抜かれ、その場で床に崩れ落ちる。


そしてレナは……あのつや消しアイズを、凍り付くような温度の視線を、僕達に向けてきて……!


「……恭文くん……みんな、いきなり何をするのかな……かなぁ」

「今のはフェイトが容赦なく飛び出しただけだ。僕は何もしていない」

『嘘つくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


はいはい、みんな五月蠅いー。その前にやることがあるでしょうが。


「アンタ、マジで頭がおかしいんじゃないの!? 平然と声帯模写してたでしょ!
その上でフェイトさんが突撃したかのように、ぶん投げたでしょ! 明らかに完全犯罪狙ってるじゃない!」

「や、ヤバいっス……! 幾ら何でもクレイジー過ぎるっス! というかフェイトさんへの配慮のなさが怖いっスよぉ!」

「――――――イオリ・タケシさん、挨拶もなしで不躾ですけど、白いオットセイを拾いましたか!?」

「オットセイ……もしや、これのことかい?」


そこで右の胸ポケットから、イオリ・タケシさんが出すのは…………見つけたぁ! 白いオットセイだぁ!


「それです! それのせいなんです!」

「はい?」

「実はかくかくしかじか……というわけでして」

「なんだと! そんなことがあり得るのか!?」

「じゃあ逆に聞くのです。レナはどうしてここにいますか」

「それは……突然やってきて、私を好きだと言い始めて……開店前だと押さえようとした店長さんをのして」


それでこの状況かー! で、僕達がやってきたところで嘘だーが飛び出したと! それでこの人、籠絡されかけたと!


「そしてあなたの妻……リンちゃんだかリン子だかという人について、あなたは教えましたか?」

「いや……そうだ、そう言えばおかしい! 彼女と私は初対面だぞ!」

「教えていないのなら、それが全ての答えなのです!
勾玉を通じ、レナはあなたのことを知り尽くし、好きになっているのです!」

「――――!」


梨花ちゃんと羽入の説明で、イオリ・タケシさんもさすがに冷静を取り戻す。

ギョッとして、一歩下がるけど……その倍レナが近づくから、全く意味はないんだけどね!


「だから……梨花ちゃんと羽入ちゃんも、邪魔をしないで! レナは心からタケシさんを愛しているの!」

「レナちゃんはティアナなの!? そしてスバルなの!?
そんなインスタント恋愛はね……失敗するんだよ! というか、失敗してしまえばいいんだよ!」

「なのはさん、さり気なく私とティアをディスらないでもらえますか!? というか願望! 願望が口から出ているからぁ!」

「よし、絶対この人より先に彼氏作って、自慢してやる……!」

「ティアも闘志を燃やさないでぇ! いや、気持ちは分かるけど! それでも今は仕事ぉ!」


おぉおぉ、残念砲撃女がまたテンション高い……って、構っている暇はない! それよりこっちだ!


「とにかく、うちらはその石を探しておりまして。早めに専門家で封印せんと危ないしろものなんです」

「なんで、その白いオットセイを渡しちゃもらえませんかね。
封印は今説明した、こっちの小さい嬢ちゃん達できっちりやりますんで」

「……待ってくれ」


するとタケシさんは、静かに右手を挙げる。そうして僕達を制したかと思うと……。


「つまりこの石があれば……リンちゃんはザクとボルジャーノンの区別がつくということかい!?」


なんかとんでもないこと企んでたぁ!?


「無理ですよ! 元の石はレナが飲み込んだんです! もう消化されてますから!」

「というか、初対面で失礼だけど……アンタは馬鹿なの!?
オカルトアイテムで興味を持ってもらっても、全く意味がないじゃない!」

「そ、それは確かに……だが……だがぁ……!」

「…………心揺らいでいますわね。それもかなり本気で」


嘘でしょ……まさかここまで思い悩むとは思わなかった。というか、僕達がもう一歩早ければぁ!


「どんだけガンダムに理解のない奥さんと結婚したんだよ……! つーかそれでよく付き合えたな!」

「む、むぅ……」

「圭ちゃん、悟史くん、多分アレですよ。
お互いの趣味にはあまり踏み込まないけど、夢中な姿に惚れちゃったってやつです」

「……でもおかしいなぁ。イオリ・タケシさん、家族で模型店を経営しているって肩書きなのに」

「だったら私も分かりませんよ! むしろ経営の邪魔でしょ!」

「……この場にはいないのに、散々な言われようのリンちゃん……同情するしかないな」

「ヴァイス陸曹さんも達観している場合じゃありません!
……あの、とにかく石を譲ってください! そうすればレナさんも元に戻るのでべごあぁぁ!?」


あ、シャッハさんが吹き飛ばされた……また学習せずに、突っ込むからぁ。


「だーめ! レナの恋路を邪魔させないよー! それ以上ゴチャゴチャ言うなら、レナがみーんなやっつけちゃうんだから!」

「や、やっぱり自制はできないっスか……!」

「しかもタケシさん当人も石を手放したがっていませんし……これは、どうすれば……」

「………………レナと本気でそうするつもりなら、僕は止めませんよ」

「やすっち!?」

「お前、なに言って…………いや、その通りだ! それなら俺達は止める権利がない!」


右手でみんなを制したところで、圭一も乗っかってくれる。うんうん、さすがは口先の魔術師……すぐに察してくれたよ。

そう、これは北風と太陽と同じ……下手に引き裂こうとすれば、シャッハさんの二の舞だ。もっと言えば昨日の繰り返し。


となると、そこはきっちり認めた上で……前提として崩さないようにした上で、絡め取っていくしかない!


「でもな、レナは今本気で、タケシさんに恋をしているんだ。
それを弄ぶような真似をしたら、俺達は……友達としてアンタを許せないかもしれない」

「ぐぐぐぐぐぐぐぐ……確かに、それは……というか彼女、未成年だしなぁ! 大人としてはなぁ!」

「タケシさん、迷わないでください! 年齢差なんてすぐに飛び越えられます!」

「で、タケシさんの子どもや奥さんを泣かせるわけか……以前の自分と同じように」

「――――!」


そこでぶん投げたボールで、レナが顔面蒼白になる。


「ちょ、やすっち!」

「そうだぞ、レナ。ハーレムするならともかく、お前はリンちゃんからタケシさんを奪うんだよな?
散々恭文にも、ハーレムしている子は嫌いとか言っていたもんなぁ! となれば、略奪愛しかないよなぁ!」

「そ、それは……!」

「圭ちゃん!」

「……ここまで痛めつけられたら、もう手段を選べないだろ」


そう……ゆえに、レナにとってのアキレス腱をつつく。

そういう意味では、既婚者で子どももいるタケシさんが来てくれたのは……最高の状況だった。


「以前の……ちょっと、恭文君」

「レナの両親は離婚しているんだよ。離婚原因は……キャリアウーマンだった母親が、同僚と浮気したせい。
レナのお父さんは専業主夫で、仕事に出張る母親を支えていたんだけど……そういう気づかいは全く通用していなかったわけだ。
……そういう見えない気づかいより! 外で華々しく働く自分と同等で、仕事を隅々まで理解している相手の方がよかったわけだ!」

「――――ちょ……待って! そんなの関係ない! ただレナは、タケシさんを」

「別に悪いとは一言も言ってないでしょ! ただ……レナはハーレムとか認められないんだよね!」

「それは……うん……」

「だったら略奪するしかないわけだ! でもそれは当然のことだ! ね、圭一!」

「おうよ! そもそも恋愛とはなんだ! 厳しい世界の中、子孫を残そうとする本能だろうが!
そのためにより優秀な異性に乗り換えることだってある! なにせお前がその口で言ったことだもんな!
自分は……リンちゃんより魅力的で! リンちゃんなんてつまらない女は捨てて当然だと! 自分は勝ち組で、リンちゃんは負け組だと!」


レナの勢いがどんどん削られていく。

それに反比例して、タケシさんの表情がどんどん険しくなっていく。

そう……僕達はレナの傷を抉っているだろう。非道と言えば非道だろう。


でもね……その非道を当然としたのは、間違いなくレナだ! 石の力があるとしてもそれは変わらない!

現に昨日だって、富竹さんと鷹野、巴さんと反町さんを引き裂こうとした! そして実力行使の結果、今日の状況を招いている!

ならば手段を選ぶことこそ悪! レナの傷を抉ろうとも、手段を選ばず……この場の悪と正義を定めることが必然だ!


しかもレナは僕達に暴力を振るうこともできない! それはそうだ……僕達は認めているんだから!

その上で! 友人として! タケシさんにお願いしているだけだ!


「だから、待って! どうしてレナを悪者に」

「というわけでタケシさん、心の底からお願いします。レナは……大切な友人なので」

「俺からもお願いします。まぁ略奪愛ということでいろいろ大変でしょうけど、そこは大人の余裕でぐいっと……。
俺達はお互い本気であれば、決して……決して邪魔をするようなことはしませんので」

「う、うぅぅぅぅぅ……!」

「…………君達の話は分かった! だが、レナ君の気持ちを考えれば、この石をただで渡すことはできない!」


それは本来なら絶望の宣告だろう。でも…………よく考えてほしい。

どうして”ただで”なんて言うのかな? 普通にレナ一直線であれば、僕達の戯れ言なんて拒絶すればいい。


その答えはただ一つ……既にタケシさんには! 固有結界の効果が消えている!


「なのでこうしよう! 君達が私とガンプラバトルで勝負して、勝てたら……この石を君達に渡すことにしよう!」

「ちょ、タケシさん!」

「このバトルで、私はレナ君への誠意を示す! 君達はそれを試してくれるだけでいい!
……レナ君、どうか私に……このバトルに全てを賭けてくれるね」

「だったら、レナがバトルします! レナもガンプラ持ってるし……小ずるく邪魔する圭一くん達なんて、蹴散らしちゃうんだから!」

「それとも君は……私を信頼してくれないのかい?」

「………………!?」


だからほら……レナの行動を制止してくれる。

こう言われては、レナはもう何もできない。なぜならそれは、タケシさんへの裏切りを……不信を示すからだ。


「もしそうなら、ちゃんと答えてほしい。我々はこれから夫婦になるのだから。
……それとも、夫婦で隠し事をするのかい? 君は」

「そんなことないです! だから、あの……」

「あぁ」

「……はい。タケシさんを……信じます……」

「……ありがとう」


それは僕達も同じだった。圭一ともども、タケシさんには深々と感謝……ただただ感謝!

……というか、これについては……。


(圭一……)

(リンちゃんとは相当ラブラブだったんだろうなぁ……)

(だね)


そう、リンちゃんという奥さんとの絆があればこそだ。

最初こそ揺らいだけど、改めて僕達が……レナに話す体で、タケシさんを説得したからだ。

それで改めて考えて、レナに乗っかることはできないって話になったんだよ。それくらい奥さんが好きだから。もちろん噂に聞く子どもも同じく。


その辺りを利用して、ようやくという流れなので…………あとは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ふぇ……ふぇ……なんか、気を失っている間に……話が纏まっちゃってる!


というか、ガンプラのバトルで決着するの!?

さすがにそんなのはおかしいので、挙手して間に入る。


「あの、そういうのじゃなくて、ちゃんと普通に渡してもらえませんか!? レナちゃん、凄く大変な状態で!
というか……ヤスフミはまず謝ってぇ! 私をぶん投げたことを謝ってぇ!」

「あ、ごめんね。他に手がなかったから」

「軽すぎるよ! 反省が何一つ見えないんだけどぉ!?」

「フェイトさんの仰る通りです!」


シスター・シャッハも何とか復活して、私と同じように声を上げてくれた。うん、これは心強い。


「これは遊びではないのです! いいからあなたの持つ石を」

「アホか!」

「「ぎゃふう!?」」


と、突然ゲンコツを食らった……!? というか、首根っこを引きずられて!


「いや、ごめんなさいねー。こっちはもう納得しとりますんで、どうぞご自由にー」

「ちょ、はやてー!」

「はやてさん、何をするのですか! 我々は」

「えぇからこっち来い……!」


それで一旦隅っこに引きずられて……ようやくシスター・シャッハともども解放される。

そこになのはやスバル達も慌ててついてきて……。


「フェイトちゃんはもう諦めるしかないけど、シスター・シャッハもなんで脳筋なんや……!」

「はい!?」

「私、諦められるほどなの!?」

「……フェイトさん、それはそうですよ」


そこでティアナが、呆れた様子でため息……。


「ああでも言わなきゃ、まずレナが実力行使に出るでしょ。しかも私達じゃあそれを鎮圧できない」

「もしタケシさんを誘拐みたいに連れ去られたら、それだけでアウトだよね」

「「ぁ…………」」


ティアナと……そしてスバルの言葉で、私とシスター・シャッハもようやく察する。


「だから圭一達も、回りくどく説得したんですよ。わざわざ友達の傷まで抉って」

「じゃあ、この勝負は……」

「あれで世界第二位があっさり負けて、ジエンドってわけ。
大人としてもレナの状態を見てられなかったんでしょ」

「ふぇ…………!」

「いや、しかしですね! 昨日と違ってフルメンバーですし、何とかなる可能性が」

「三度も直撃食らって、吹き飛んだ人に言われても説得力皆無ですよ」


そ、そう言われると反論できない……現にシスター・シャッハ、悔しげに黙っちゃったし。

というか、また部活メンバーだけで勝手に話が纏まってるのに……。


「なので、ここは大人しく見ていましょうか。すぐ決着も付くだろうし」

「そうやなぁ」

「い、いいのかな……それで。あの、私達も何かできること、あるんじゃないのかな。それでレナちゃんも落ち着くように説得して」

『絶対無理……』

「総意!? 総意なの?! ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――それで、勝負に挑むのは君達だけかい?」

「いいや……せっかくだし、おじさん達も遊ばせてもらおうかねぇ」

「魅ぃちゃん……!」

「そう怖い顔をしないでよ、レナ」


おぉ、魅音も調子を取り戻したか。笑いながら……堂々と! 今更なのに参戦してきたよ!

いや、それは梨花ちゃんも、羽入も、沙都子も、悟史も、詩音も同じだ! 全員で僕と圭一に並び立ってくれる!


「えぇ。お姉と私達は……レナさんの思い人に覚悟があるかどうか、確かめたいだけですし」

「そこは、友達として……不安だしね。うん」

「なにより世界二位とバトルなんて、早々できるものじゃないのですよ。部活的にも見過ごせないのです」

「ぼくも頑張るですよ!」

「何より……そんなにも略奪愛を通したいのであれば、我が部には手っ取り早いやり方があるでしょう?」

「……そうだね、沙都子ちゃんの言う通りだ」


そう、僕達部活メンバーには、あの方法があった……。


『勝ったものが正義――!』

「いいだろう! ならば勝負の形式も全て君達に……その部活の流儀に任せよう!」

「わたしら全員との勝ち抜き戦だよ!
おじさん達部活メンバー全員を倒せばアンタの勝ち! 一人でもアンタに土を付けられればおじさん達の勝ち!
……まぁ世界二位の超絶ハイランカーには、これくらい楽勝だよねぇ。くくくくくく!」

「問題ない! 君達の準備が終わり次第、早速始めよう!」

『おう!』


話は纏まった。更に盤石を整えるため、魅音達も笑って乗っかる。

ただ問題なのは…………。


「圭一」

「……念のため、俺から出る。お前は大将だ」

「最悪の場合は私達でなんとか時間稼ぎをしますから、後は任せますね」

「分かった」


普通なら八百長の流れになるとこだけど、万が一ってことはあるからねぇ。

第一……レナがそれを許すとも思えない。滅茶苦茶不満そうに、僕達やタケシさんを見ているもの。


だから、本気で挑む必要がある。

世界二位を……この場で、攻略しうるだけの気概と札を持って……!


「でもいいの?」

「なに言ってんだかー。一番やる気満々なくせしてー」

「八百長なんてすっ飛ばす勢いで、勝つ気満々なのですよ。みぃ……」

「それは、まぁね」

≪でもあなた達、ガンプラは……≫

「魅音に頼まれて、賑やかしで作ったのがあるからな」

「あちらをご覧あそばせー」


そこで圭一が指差すのは、バトルフロアの一角……展示されているガンプラの数々。

そこには派手に改造したり、サンプルみたいにきちんと作られたりした、数々のガンプラが……あそこに部活メンバーの機体も入れてあるのか。


「ここのオープンに備えて、ぼく達も幾つか作って飾ってもらっていたのですよ」

「備えあれば憂いなしなのですわね」

「となると、あとは恭文君だけど……」

「そっちは大丈夫!」


みんなには問題なしとサムズアップ。

その上でコートの内側から取り出すのは……じゃーん! ガンプラと工具を収納したアタッシュケース!


「こういうこともあろうかとガンプラと工具は常備しているから!」

「恭文君は馬鹿なのかな!? 電車の中でも思ったけどさぁ!」

「ほんとよ! 仕事って分かってる!?」


あ、魔導師組が隅っこから戻ってきた。どうやら脳筋二人への話は纏まったらしい。


「あのねぇ……僕も仕事なんだって。ジンウェンとしてのさ」

「仕事しながら別の仕事をするなって前にも言ったでしょ!」

「そのおかげで助かっているんでしょうが」

「それはね!?」

「というわけで……じゃーん」


ケースを開けて、早速ガンプラをチェック。みんなどれもこれも臨戦態勢だけど……さて。


「ラゴゥ、レッドウォーリア、ジルバインアリア、ハウリングガンダム、インフィニットジャスティス……それに新作の」

「五体も用意していたの!? というか……ハウリングガンダム!?」

「なのは、それって」

「去年のガンプラ関ヶ原バトルで大活躍したガンプラだよ!」

「そう……Vチューバーでありながら特別枠に参加し、激闘を繰り広げたビルドファイター≪ジンウェン≫のガンプラですわ」

「ほへぇー。おじさんもライブでは見ていたけど、またあれから作り込んだ? 別物じゃん」

「わりと急ごしらえだったし、改めてね」


魅音達に見られるのもこそばゆいけど……いや、ほんと持ってきておいてよかったよ! じゃなかったらどうなっていたことか!


「でもアンタ、なんでこんなに持ち歩いて……」

「魅音達とのバトルでも使うって言ったでしょ。さすがにスペアは用意するって」

「そりゃあそうかー!」

「あとはまぁ、そのバトルで……最終調整を済ませるつもりだったんだけどね」

「え?」


脇から覗き込んできたティアナには、当然のように告げる。


……トーナメント形式で行われる地区予選も、一試合ごとに一週間のインターバルがあるとはいえ……なかなか厳しい戦いだしね。

こういう予備機体の準備というのは、とても大事なことだった。本来なら僕も……くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!


「……なのはさん……恭文、どうしたっスか。なんで血の涙を」

「……今年のガンプラバトル選手権、もう地区予選が終わっているからだよ」

「じゃあ次の大会は」

「来年の五月頃……」

「機動六課さえ……機動六課さえ……ガジェット事件さえなければぁ…………!」

「………………なんか、その……ごめんっス」


ウェンディが謝りながら、僕の肩をポンと……いや、そこまでしなくていいよ? 機動六課に恨み辛みはあるけど、おのれは違うし。


「でも恭文さん、本当にレッドウォーリアを作っているとは……!」

「配信でも使ったでしょうがー」

「レッド……ウォーリア?」

「確かに赤いガンプラですけど、何か凄いんですか」

「プラモ狂四郎という漫画が昔あってね。その中で主人公が作ったオリジナルガンプラだよ」


疑問そうなエリオとオットーに補足したのは、ホビー関係にも詳しい魅音だった。

……ちょっと、僕が説明したかったとか……言わないよ!? 言わないからね!


「その漫画はガンプラとかのプラモを戦わせる話でね。
別名パーフェクトガンダムIII。シンプルな機動力で勝負する機体さ」

「そんなガンプラがあったんですか……!」

「ただ市販はされていないよ。やすっちのスクラッチ……ベースはやっぱり初代ガンダム?」

「Revive版とEGをミキシングしつつね」

「よくできたねー!」

「ほら、ガンダムベースにフリーの成形機が設置されたでしょ。
図面だけで改造パーツが仕上げられたのよ」

「あー、ビルドダイバーズにも出てくるあれかー! おじさんも気になってたんだよー! いいないいなー!」

「いえ、図面を仕上げるだけでも普通は高難度なんですよ?」


そう……お台場のガンダムベースには、そういうサービスがあるのよ。まぁ使用料金は払うし、図面みたいな事前準備も必要なんだけどね?

でも今なら図面を仕上げるのも、ソフトの発達で決して高いハードルではない。


「あれもこっちで導入したかったんだけど、さすがに需要がねぇ……」

「それよりかは自宅で3Dプリンタの方がまだ分かるけどなぁ。
さて……」


ケースを閉じて、さっと立ち上がる。それでみんなと顔を見合わせて、早速バトルの準備。

魅音のおじさんに頼み、ガンプラを取りだし……ものの五分で整備を終えて、先陣を切るのは。


「ふ、ならば先鋒はこの前原圭一が切らせてもらう!」


我らが部長:前原圭一だった。


「ほう、まずは君からか! その勢い、無謀ながらも……気に入った!」

「ありがとうございます!」

「うぅ……いいないいなぁ。世界二位と……あのイオリ・タケシとバトル」

「……アンタ、一応仕事中だってこと忘れてない……!?」


はいはい、リアル五月蠅い……ティアナ五月蠅いー。

……せっかくの機会なんだよ! 絶対の逃せないんだから! なのに一番手を取られるなんて……作戦とはいえ悔しいー!


「俺のストライクフリーダムで、撃ち抜いてやるぜ!」

「これは我が部の名を世界に轟かせる一大チャンスですわね。
さて……圭一さんが何秒持つか賭けませんこと? わたくしは三秒ノックアウトだと思いますわ」

「沙都子はチャレンジャー過ぎるので、ボクは三十秒程度にしておきます。
それで圭一にかあいそかあいそなのです」

「梨花ちゃんがそれなら、僕は……逆張りで二分」

「……みなさんは早速部活を始めるんですね……」


オットー、そんなに呆れた顔をしないで? これもまた我が部の風潮だから。


「というか、ちょっと待って。なんでアンタ達”ガチに戦う感じ”になっているの?」


あぁ、ティアナはまた……読みはいいけど、ちょっと甘いと軽く首振りしてしまう。


「万が一があるからだよ」

「ちょっと、それ……!」

「それも圭一のバトルを見た上でだ。……さて」


というわけで、僕はしっかり適当なところに着席させてもらい、“新作”を取り出し細部チェック。

もちろんバトルからは目を離さない。というか、それを見つつの最中調整だから。


「……って、アンタそれ……!」

「え、恭文……完成していたの!?」

「暇を見つけつつなんとかね。……あとは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Forest≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

フィールドは遮蔽物もない丘陵地帯。晴れ晴れとした空の中、優しく風も流れていた。


(逃げ場はなしの、真正面勝負か。望むところだ)

≪Please set your GUNPLA≫

(世界二位の実力者。未だその名声は衰えない、日本を代表するガンプラファイター。
それと同時にバトルシステムのテスターでもあり、その裏の裏まで知り尽くしたマスター)


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


(恭文の……タツヤやサツキ・トオルの、夢の足がかりでもある。
部長として、ちょっとくらいは引き出せないとなぁ!)

≪BATTLE START≫

「前原圭一! ストライクフリーダム……行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


アームレイカーを押し込み、機体は空へと飛び出す。

そして同じように飛び込む影をチェック。真正面から……空と大地の間を突き抜け、それは走る。


……HGUC RX-78-02ガンダム。

ビームライフルに背部のビームサーベル二基、そして左腕にシールド。

本当に、親の顔よりも見たフォルムだ。だが一概にガンプラ……HGの78≪ナナハチ≫と言っても、様々な種類がある。


あのディテールとボディ構造を見る限り、あれは……!


「くそ、やっぱりかよ!」


背部左の機動兵装ウイングを展開した上で、腹部の≪MGX-2235 カリドゥス複相ビーム砲≫を展開。

金色の砲口に一瞬光が走り……集束したエネルギーを放射する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ストライクフリーダムが放った砲撃を、あのガンダムはするりと避ける…………が、その進行方向上に第二射。

両手に装備した≪高エネルギービームライフル≫を接続し、ロングライフルとした上での射撃だ。

この第二射が本命と言わんばかりに、赤い閃光が迫って……でも、それすら空を切る。


ナナハチは更にバレルロールでやり過ごし、空を舞い続ける。第三射、第四射と鋭い狙いで飛ぶのに、それを……いとも簡単に!


≪普通なら舐められていると言うところなんですけどねぇ≫

「まぁねぇ……」

「舐められている? どういうことよ……だって」


ティアが疑問なのも当然だよ。続く射撃を、ナナハチは軽やかに避け続けるんだから。


「……当たりませんね。威力はありそうですが」

「圭一君も当たるとは思っていないみたいだけどね」


だからほら、一射、二射と砲撃を重ねながらも前進して、ライフルの展開を解除。

二丁のライフルを連射で牽制室、腰部の≪MMI-M15E クスィフィアス3レール砲≫も連続発射。

そうしつつロングレンジからミドルに踏み込むけど、それもスラロームで回避されて……!


「……なのはさん、圭一の射撃って……」

「結構レベルが高いよ。狙いも正確だし、きちんと直撃コースも取れている」

「でも当たらない……あっちの世界第二位がそれだけの腕ってことですか」

「え、でもほら……さっきの話だと……あ、すぐに負けたら駄目だよね、うん」

「レナさんを納得させられるだけは戦うのですね。かなりハラハラしますが……」


……フェイトちゃんとシスター・シャッハは……ううん、シスター・シャッハは気づいているみたい。

元々武闘派な正当騎士だし、その経験からどんどん表情が険しくなっていた。


「というか、これは……この打ち込みは……!」

「でも、それだけじゃない……」


恭文君も視線が厳しくなるのは当然だった。

確かに、ナナハチの……イオリ・タケシの反射速度と機動力は凄い。


だけど……だけど……一番の問題は。


「ガンプラのスペックなら、圭一の方が高いってのに……上手く捌くものだ」

「だね……」

「はぁ!? いや、だって……世界第二位のガンプラなんですよね!」

「理由は二つあるよ。一つ、あれはいわゆる初代ガンダムのガンプラなんだけど……」


言っている間に、ストライクフリーダムとナナハチの距離が更に縮まる。残り二百を切って……MSなら一足飛びができる距離だ。

ナナハチはビームライフルで牽制するも、ストフリはバレルロールで射撃をかいくぐり、再びレール砲を発射。

素早く赤いシールドが構えられ、レール砲二門による直撃を回避……というか、砲弾を弾いた。


……するとその下をかいくぐるように、ストフリが右ハイキック。


(いつの間にか肉薄していた……!?)


そのまま蹴り飛ばされ、ナナハチが大きく吹き飛ぶ。

そこを狙い、ストフリは機動兵装ウイングから蒼いパーツ≪MA-80V スーパードラグーン ビーム突撃砲≫を展開。

それらは空中で浮遊し、その矛先を反転するガンダムに向けて……光を放つ。


それもライフルやレール砲、カリドゥスと一緒に……!


『当たれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


ストライクフリーダムのハイマットフルバーストだ!

緑、赤、黄色……色とりどりの閃光が密集し、回避コースを押さえつつもナナハチに迫る。


『……!』


するとナナハチはきりもみ回転しながら……シールドで、先んじて飛んで来た光条を一発目を跳ね上げる。

斜めにして光条を逸らしながらも、更に反転。ハイマットフルバーストを……弾幕を、あっという間にすり抜けて……!


ナナハチのボディに、攻撃は……届いていない!? いやいや、それ以前の問題だ!


「あうあうあうあう……あれを避けるのですか!」

「圭ちゃんもかなりいいタイミングでぶっ放したってのに……よくもまぁ平然と」


……そしてドラグーンはナナハチの周囲に展開し、次々と光条を放つ。

でもそのオールレンジ攻撃も、攻撃が放たれる前に反応し、容易く回避コースを取り続けて……あの機体で、踊るように避けていく……!


『……今のはシャアやフル・フロンタルのキックと、キラ・ヤマトの合わせ技か!
しかもこのドラグーンもマニュアル操作……っと』


ナナハチは反転……右翼から突撃してきたドラグーンを、その切っ先から放たれていたビームをやり過ごし、それを蹴り飛ばす。

そうして他のドラグーンにぶつけてなぎ倒しつつ、すぐさま射撃……流れるような連射で、全てのドラグーンが撃ち落とされた……!


『ちぃ……!』


そこで直ぐさま飛んでくるのは、ライフルによる牽制射撃……その合間を縫うように飛び交うストライクフリーダムの斬撃。

ライフルビームが回避先を押さえていたにも拘わらず、ナナハチは浮遊するように、そのボディを地面と平行に浮かす。

そうして≪MA-M02G シュペールラケルタビームサーベル≫による右薙・左薙の連撃を容易く抜けて……ストフリと交差。


そして、背後を取られたストフリ目がけて、ナナハチのライフルが火を噴く。

それがメインスラスターから胴体を真っ直ぐに貫き…………ぁあぁあぁぁぁぁ……!


『なん、だと……!』

『少々気負いすぎだったね。だが、いい攻めだった』


ストフリは派手に爆発。反転しながらナナハチは、静かに地上へと降りていく……。


≪BATTLE ENDEAD≫


粒子が消えていく中、圭一君が崩れ落ち、膝を突く……。


「圭ちゃん!」


魅音ちゃんが慌てて駆け寄る中、私達は動けなかった……というか、さすがに恐ろしかった。

今の射撃、本当に隙を縫って……防御すら許さない、正確な一撃だった。


「なのはさん……!」

「うん……!」


あんな射撃、なのはには早々撃てない。あんなマニューバもなかなかに難しい。

それは同じ射撃型で、空戦魔導師を目指すティアも同じだった。


確かにガンプラと魔導師戦という違いはあるけど……それでも、三次元機動の難しさは変わらないから。


「というか、マジか……あれを”初期のナナハチ”でやれるんか!」

「映像通り……いや、それ以上だね」

「いや、感心してる場合じゃないよ! ヤスフミ、どういうこと!? 話が違うよ!」

「そりゃあ八百長なんてするわけがないよ」


あぁぁぁぁぁあ………………そういうことかぁ! 流れ的に先日の焼き増しと思っていたら、そうはならないってことだね!

現にタケシさん、当然という顔だもの! 悪びれた様子もなく、むしろ堂々としている!


「タケシさん……」

「……当然のことだが、加減はなしだ」


しかも宣言もしてくれたよ! そんな八百長作戦には乗らないって!


「一時リンちゃんを忘れかけてしまったのは不徳だが、だからこそこれ以上は譲れない。
私の生涯を賭けて愛し抜いたガンプラに……そしてバトルに! 一片の嘘も持ち込むことはないと知ってほしい!」

『――――――!』


ああああああ……亀田投手とは違うパターンですかぁ! しかも目をキラキラさせながら断言しちゃったよ!


「ふぇ……つまり、あの……ヤスフミ、どうするのー!?」

「そうよ! 世界二位相手にガチンコでやるつもり!? ほら、何か手は……集団戦を挑むとか!」

「その場合、レナも参戦することになる。下手をすればそのまま共倒れだ」

「じゃあどうするのよ!」

「どうしようかなぁ」


……それで目を輝かせているのは、恭文君もだった。


「ほんと、どうしようかなぁ……」

「ちょっと、アンタ……」


恭文君はとても楽しげだった。それで喜んでいる……完全に喜んでいる。

世界第二位と……そんなに凄い相手と、本気で戦う。それが……心を高ぶらせ続けていて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――圭一君の後は、梨花ちゃんのベアッガイ、羽入ちゃんのアストレイレッドフレームがそれぞれ飛び出す。

でもある程度受けに回られて……向こうが反撃に転じたら、あっという間にやられちゃう。向こうの攻撃に対応できない……!

それで今度は、悟史君が…………出てきたのは、ORIGIN版のRX-78-03(G-3ガンダム)!? わぁ、同種対決だ!


「悟史さんも、同じガンプラ!? 色は違うけど!」

「いや、悟史の方はORIGIN版だ」

「……恭文、その……もうちょっと詳しく説明を……」

「昔のアニメを、今風にリメイクしたやつ。漫画連載だったんだけどね」


悟史君は色こそG-3だけど、装備は初期型だね。ショルダーキャノンにショルダーマグナム、ガトリング、腕部バルカンも装備している。

宇宙空間でキャノンを乱射しながら、向こうのナナハチを捉えようとするけど……これが平然と避けてくれるんだよ!


『さすがはORIGIN版! それに工作も丁寧でよい出来だ!』

『あ、ありがとう……ございます!』

『それに狙いも甘いように見えて……おっと!』


そこで両足を前に突き出しながら急停止。タケシさんのナナハチが、ショルダーキャノンの砲弾をすれすれで回避する。

本当に、発射される前に反応している勢いだよ……! ニュータイプ機動が怖すぎる!


「でも、確かに……同じガンダムなのに、ちょっと違うところが……パネルラインみたいなのは、悟史さんの方が多いです」

「イオリ・タケシさんの方は、マジで最初期のHGUCやからなぁ」

「最初期?」

「うちやなのはちゃん達が生まれたくらいのプラモやから……二〇〇一年や。
で、悟史君のORIGIN版は今年の三月」

「作られた時期だけで十九年違うんですか!」


一九年前に製造されたプラモ……もう旧キットに属していてもいいレベルのものだよ。

しかもバトル導入前の……KPS≪粘りあるプラ≫が入ってくる前のものだし。


「ガンプラはバトル導入も手伝って、可動範囲や耐久性、作りやすさなんかが滅茶苦茶上がっている。
圭一君が使ったストライクフリーダムも、あのORIGIN版ナナハチも、その中でも最新キットの類いや。
で、そういうのも性能としてガンプラバトルの強さになるから……」

「だから、圭一さん達の方が強い!? でも世界第二位の人なら、何か凄い改造とかしてるんじゃ!」

「……あれ、そういうのないで」

「え……!」

「恭文の目から見ても同じやろ」

「うん、全く……特別なところはない」


はやてちゃんや恭文君の言葉がみんな信じられないようで、みんながザワザワとし始めた……。


「少なくとも表面上は、特別なところは一切ない。
基本通りの工作に、塗装、軽い汚し……模型のサンプルに使えるほどきっちりはしているけど、逆を言えばそれだけなんだよ」

「それで駆動系に手を加えた様子もないね。何度か見せたスウェー、パーツ分割の関係で少し不自然だったもの。
……しかも同じナナハチでも、今タケシさんが使っているものより新しいものは幾つもでているのに」

「幾つも!?」

「タケシさんが使っているものを、リメイクしたRevive版。
HGより構造をフラッシュアップしたリアルグレード。
ガンダム生誕四〇周年を記念して、工業メカ的にリデザインされたG40。
悟史君が今使っているORIGIN版。
初心者向けに特化しながらも、フォルムと稼働を追及したエントリーグレード……」

「ほ、本当にいっぱいだぁ……!」


フェイトちゃん、混乱……するのもしかたないけどさぁ!


「あとは今月出たばかりの、ガンプラ四〇周年記念のBEYOND GLOBAL版とか……」

「なお余談だけど、スケール違いでもいろいろ出ているんだ。
……ナナハチはガンダムの象徴的機体だから、そのときどきの最新技術を詰め込む素体に適しているんだよ」

「それでなお、古い機体で!?」

「ただ、古いキットでもデザイン解釈からそちらの方がいいとか、動かしやすいとか……または”古いキットしかない”から、それを改造して使う人もいるしね」

「その辺りは趣味の世界やからなぁ。一概に新しければなんでもえぇとは言えんのよ」


暗に手加減とか、相手を侮っているとか、そういう話じゃない……そう告げると、スバル達も一応納得する。

でもまぁ、衝撃は消えないけど。ガンプラバトルを初めて見るみんなからしても、あのマニューバの凄さ……伝わっているようだし。


「でも問題は、その性能差すらものともしないマニューバだよ……!」

「そ、そうですよね! 今のだって悟史、射撃戦で圧倒しようとしているのに……!」


追いすがるように突撃する、悟史君のナナハチ。次々と放たれる射撃武器をすり抜けたかと思うと、鋭く反転。

そうして放たれた射撃が…………悟史君が防御するより早く、その腹を射貫いて……!


『く…………ごめん、みんな!』

『次!』

「また、やられちゃった……!」

「第二回世界大会でもあれと同じナナハチで出ているんだけど、確かに……あの動きだった。
ううん、恭文君が言うようにそれ以上だよ。同じ機体を扱い続けているなら、当然その長所も、弱点も知り尽くしているだろうから……」

「習熟度でも負けている……って、それは!」

「……ふだんの恭文君とは、真逆の図式だ」


……圭一君……みんなも、大将である恭文君の参考になれば……って感じだったんだろうね。

でもそれが一人三分足らずで負けて、引き出せたのが『半端ない地力の違い』だけ。


これは、さすがに二の足を踏みかねない……そう思っていると。


「――――――――」


どうやら、その心配はいらないらしい。驚きながらも恭文君を見やったスバルも、その表情には納得する。

恭文君、すっごく……すっごく燃えているんだから……! それも今まで見たことがないくらい!


「あらら……お姉、どうします? やっちゃん、ガチンコやりたがっていますけど」

「馬鹿だねー。わたしらも三分以上持つか怪しいってのに……でも、だからこそか」

「えぇ。圭一さんやにーにー達の奮闘も、決して無駄ではありませんわ。
……正真正銘の化け物を呼び起こしかけているんですもの」


それで新作の方もいじり続けている。ほぼ完成しているのに、思いついたこと、感じたことを盛り込んでいる。

こういう顔、実戦だとなかなか見せてくれないんだよね。これが遊びだからこその顔だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


続いては魅音ちゃんと詩音ちゃんのコンビ。


「さて……おじさんは詩音をセコンドにして、挑ませてもらおうかねぇ」

「了解した」

「ちょっと待って! タイマンじゃないの!?」

「セコンドを付けないとは言ってないでしょ。だよね、イオリのおじ様ー」

「こちらは問題ないよ。それに君達は双子……でいいのだろうか」

「えぇ。奇麗な園崎が私で、エロい園崎がお姉と覚えてください」

「アホかぁ! つーかエロいのはアンタじゃん! 悟史の貞操を常に狙っていてさぁ!」

「む、むぅ……」


ちょっとー! そこで変な喧嘩をしないでぇ! というか貞操って……や、やっぱりなのはは置いていかれているんだ……!


「全く……お姉は何を言っているんですか。
……悟史くんの貞操は! 狙うまでもなく! 私のものです!」

「詩音!?」

「詩音さんはこんな場で何を言っておられますの!?」

「え、なに……悟史……リハビリがてら、頑張っちゃったの? 大人の階段を上ってリハビリしちゃったの?」

「してないしてない! そもそも僕達、学生だし……詩音も駄目だよ!」

「だって、当然のことじゃないですか」


…………平然と、疑問もなく言い切った……!? ちょ、怖い! そのマジな目は怖すぎる! 詩音ちゃん、愛が重たいよ!


「……横馬、気分はどう? 悟史と詩音も……今のところプラトニックだけど、やることやっているんだよ」

「やめてぇ! そのプラトニックさえないなのはの心を抉らないでぇ!」

「はははははは! 元気がいいのはよいことだよ! ……じゃあ、始めようか!」

≪――――BATTLE START≫


それで魅音ちゃんが出してきたのは、どういうわけか戦艦≪エターナル≫…………って、スクラッチしたの!? 凄いね!

それでどうしたものかと思っていたら…………!


『お姉!』

『おうさ!』


ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが、エターナルの艦橋から続けて発進。

更に艦首両脇にセットした複合兵装ユニット≪ミーティア≫がリフトオフ。


フリーダムとジャスティスの背部へはめ込むようにセットされて……!?


『『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』』


そのままタケシさん目がけてフルバーストアタックを………………って、ちょっと待ってぇ!


「なにこれ! なにこれ! 魅ぃちゃん、詩ぃちゃん! これはルール違反じゃないのかな!」

『いや、これは…………そうか!』


さすがの弾幕数に……更にエターナルのミサイル群にも押されて、タケシさんのナナハチは宇宙空間で大きく加速。

それらを振り払い、時にギロチンバーストでミサイルをなぎ払いながら、なんとか回避していく。


「あの、レナ、これ……多分合法」

「はぁ!? 恭文くん、なに言っちゃってるのかな!」

「僕だって言いたくないわ! だってこれで魅音達が勝ったら、僕はバトルできないかもだし!」

「はいー!?」

「恭文君、落ち着いて!? 目的が完全に変わっているから!」


駄目だ! この子、目的が手段に入れ替わっている! それはカリムさんも慌てるよ! 慌てて両肩をがしがしするよ!


「というか、これが合法って……」

「まずバトルのオフィシャルルールでは、ああいう”二刀流”もアリです。
メインファイターが全て操縦するのであれば」

「でも、あれはどう見ても二人でバトルしているわよね」

「そうだよ! だからルール違反じゃないのかな! かなぁ!」

「それとは別の”支援機”であれば、セコンドが操縦してもOKでしょうが」

「……はう……!?」

「支援機…………って」


…………そこでなのはも、間抜けにも気づく。


今魅音ちゃんと詩音ちゃんが出しているのは? エターナルとストライクフリーダム、インフィニットジャスティス。

そしてそれらが装備するミーティアだよ。今もビームソードを展開して、タケシさんに切りかかりまくっているアレだよ。

まぁまた器用に逃げてくれるんだけどね! 基本的に推力任せの突撃戦法だから、動きが読みやすいのかな!


とにかく、実質的に出している機体は三体。となれば……支援機は……!


「つまり、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスは、”エターナルの支援機”って扱いなんだよ」

「…………だから、二人で動かしてもいい!?」

「というか、システム的にもズルはできないようロックされていますから。それでなおバトルが進んでいるのなら……」

「どっちにしても合法なのね」

「なにそれー! というか魅ぃちゃん、いつの間にそんな戦法を!」

「いや、むしろ魅音なら納得だぞ……!」

「そうだったぁ! 魅ぃちゃん、ルールを熟知して挑むタイプだったぁ!」


レナちゃんが……発狂状態のレナちゃんが頭を抱えたぁ!? どんだけ上等主義なの、部活って!


「あの、恭文さん……」

「……魅音ってね、自分で部活を始めようって言いだしたくせに、最初は負け組常連だったそうなのよ」

「あれで、ですか!?」


エリオが驚きながら、戦い続ける魅音ちゃん達を見やる。

そこに昨日の光景を加えると、それはもう……信じられないよね。負け組の戦い方じゃないよ。


「だからこそ、ゲームについては入念に下調べをして、勝てるだけの札を揃えてから挑むタイプになったのよ。
レナはそんな姿を初期の初期から知っているから、今更だったと後悔しているわけ」

「納得、しました……!」

『くくくくくくく……! 世界二位相手に、まともな手で勝てるとは思ってないさ!
詩音、右翼から挟み込んで! 敵は突撃を狙って、カウンターを仕掛けてくる! 接近戦は危険だ!』

『了解です! お姉!』


しかも小ずるいのは、そうしている間に戦艦≪エターナル≫を遠くに離していること。

これじゃあ”支援機”を片さないと、どうやってもエターナルを潰せない! 艦橋に一発で何とかなりそうなのにぃ!


『なるほど……余り褒められたやり方ではないが、その執念は買いだ!』

『余裕ぶってくれますねぇ』


そこで再び放たれる、ダブルフルバースト。


『手も足もでないくせに!』


空を染める幾つもの光条。それが全ての回避先を奪った……そのままナナハチは圧殺される。

そう思っていたのに……ナナハチが、その弾幕の飽和から消え去った。

そしてファンネルを連想させるほど、見当違いな方向から光が連続で走る。


それがミーティア二基の中心部を捉え、貫通し…………その巨体を爆炎に包む。


『そうでもないよ?』

『な……!』

『はぁ!?』


それを成したのは、ミーティア達の右斜め上を取ったナナハチ。

取り回しのいいライフルから放たれた、キロ単位のロングレンジショット……それが、圧倒的な武装を容易く潰して!


「おいおいおいおいおい…………なんて精度のロングレンジショットだよ……!」


狙撃については一家言あるヴァイス君も、言葉を失うほどの見事な一撃。

というか、魅音ちゃん達にも……確かに油断があった。平均的な武装ゆえに、こんな手を取られるはずがないと。

でも、それでも常識外だ。ミーティアの装甲だってそれなりにぶ厚い。それを二基同時に貫通したんだ。


ロングレンジショットによるビーム減衰だってあるだろうに……それすら計算に入れて!?


『確かにミーティアの武装は圧倒的だ。それが二体連携で襲ってくるとなれば、対処するのも厳しい…………ならば!』

『お姉!』

『まだだよ!』


ミーティアの爆炎を払い、飛び出してくるフリーダムとジャスティス。

二体一斉の……固定装備でのフルバーストが放たれる中、ナナハチは螺旋を描くようにそれを迂回。

そのままフリーダムのドラグーンによる飽和射撃を……二体の合間をすり抜け、袈裟・右薙の連撃……!


それがジャスティスの右肩を、フリーダムの脇腹と左腕を両断し、交差する!


『きゃあ!』

『こっちがフリーダム斬りされるだとぉ!?』

『私も本気をぶつけよう!』


いや、それだけじゃない。かと思うと今度は真上から切り抜け……そして右、左、右斜め上、左斜め上、下……!

ナナハチとは思えないほどの超速起動で、二体をどんどん切り刻んで……!


「な、なのはさん……あれ、なんですか!? さっきまでと全然、スピードが!」

「分かんないよ! ナナハチ、あんな動きができる機体じゃないのに!」

「…………ミーティアの破片か」

「え!?」


恭文君に言われて、改めて周囲を見やる。

……爆散したミーティアの破片は、それぞれがそれなりに大型のパーツ群。それらが二機の周囲に漂っていた。

……ナナハチは突撃してから反転し、それを蹴り飛ばして……速度を上げながらどんどん刃を打ち込んでいた。


「シャアが専用ザクでやった五艘飛びだ……!」

「あ……!」


そして、正体に気づいた瞬間全てが終わっていた。


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


二人の背後から、今度は袈裟の切り抜け……それが二体を同時に両断し、ナナハチはその合間を突き抜ける。

自由と正義が爆散する中、ナナハチは漂っていたミーティアのアームに着地。膝立ち状態で停止する。


その後は全速力でエターナルへ突撃し、艦橋を落として……ハイ終了!


≪BATTLE ENDEAD≫


……粒子が消えゆく中、なのは達はただ硬直するしかなかった。

今まで……本気の本気すら、出させていなかった事実に。

ルール違反寸前の手を取って、それで……ようやくそれを引き出せた事実に。


「わぁ……タケシさん、やっぱり凄いです! レナの目に狂いはありませんでしたー!」


一人はしゃいでいるレナちゃんを余所に、私達はただ、冷たいものを噛み締めるしかなくて……。


「……さすがに……今回はキツかったけどね」


タケシさんは流れていた汗を払い、それでも楽しげに笑う。

覇気は消えていない……湯気のように、身体から放出され続けていた。


「くくくくく……ようやく、これを引き出せたねぇ」

「えぇ」


それで魅音ちゃんと詩音ちゃんは、互いの立ち位置を入れ替え……素早く、壊れた愛機達を回収し、労りながらケースへ入れる。


「じゃ、次は私とバトル……と言いたいところですけど、今回は無理ですね」

「だね。レナの介入を許すことになる」

「……そうだね。さすがにこれで二連戦はズルいかな、かな」

「だけどアンタの底は……その片鱗は見せてもらった。相応に手も焼かせてやれた。
だったら後は、その手を更に延焼させるだけのことだ。……沙都子、出番だよ!」

「をーほほほほほほほほほほ! 大将戦に挑みたければ、この北条沙都子を倒してからにしていただきましょうか!」

「……なるほど。君達の狙いは私を消耗させ、最後の最後で勝つというわけか。
しかし……それは逆効果と考えてもらおうか! 君達ほどの才覚溢れる若きファイターを前にしたら、私の心はより昂ぶり」

「ぐだぐだと小うるさいですわね。
男が言うべきはただ一言……愛のささやきだけでしてよ?」


沙都子ちゃんは不敵に笑いながら、静かに入れ替わる……魅音ちゃん達と交代し、バトルベース前に立つ。


「なにより、そんなのは次策ですわよ」

「なに?」

「さぁ、参りましょうか」


………………そうだね、今ここで燃え上がっている火は、一つじゃない。

恭文君も、今のバトルで熱くなってる。もっと、もっと……今すぐ戦いたいって、身体が震えているもの。

壁がどれだけ凄く、高いのか……それを見せつけるのも、作戦の一つってわけなんだ。


みんな、恭文君という札に賭けてる。もちろん自分が一つの札として、勝ちに行くのを諦めることなく……とんでもない信頼関係だよ。


……こういう繋がりを、六課でも作れたら……嬉しいんだけどな。


(その7へ続く)





あとがき


恭文「というわけで、部活の精神で挑むことになったガンプラバトル。対するは世界第二位イオリ・タケシ……でもまともには勝てない!
なので魅音と詩音がレナート兄弟みたいなことをしながらも一蹴され、残りは僕と沙都子……!」

フェイト「ふぇ……あの、これ……普通に説得とかは……!」

恭文「レナを納得させるなら、この手が一番だ」

フェイト「勝てるの!? 勝てるのかな、これぇ!」


(それも次回です)


恭文「実質七対一……消耗、損傷を与えて、それでなんとか……!」

フェイト「それでもギリギリ……!」

恭文「この段階だと、どうしてもね」


(さすがに今、まともな勝負で勝つのは無理です)


恭文「まぁそっちは次回として……フェイト、まだ……残っているよね」

フェイト「あ、うん……」


(そう……三月二十二日は佐竹美奈子の誕生日。
故に蒼い古き鉄の前には、たっぷりのご馳走が詰まっているのだ)


フェイト「でも、無理は……無理はなしの方向で」

恭文「うん……! もちろん、全部美味しくいただくよ! 美奈子が気持ちを込めて作ってくれたからね!」

美奈子「はい! なので口休めのお饅頭ですよ。あーん♪」


(満腹御奉仕からは、逃げられない……。
本日のED:高橋瞳『僕たちの行方』)


詩音「くぅ……沙都子、機体の準備は万全ですか?」

沙都子「えぇ、問題ありませんわ。あとはバトルフィールドですけど、わたくし運はいい方ですもの」

恭文「……!」(うずうずうず)

沙都子「……まぁ、恭文さんはもう戦いたがっているようですけど」

恭文「分かっているって……我慢、我慢、我慢……!」

圭一「まぁ気持ちから負けていないってのはいいことだ」

悟史「うん……もしかしたら、もしかするかも」


(おしまい)






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