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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage13 『Managerial mad』

私にとってその出会いは、本当に特別なものでした。

苦しくて、悲しくて、夢を目指していたことすら後悔して……もう、私なんていなくなっちゃえばいいんだって、何度も思って。

だけどあの人は……世界中の誰もが止まってしまった中、それを動かそうと必死に抗っていて。


そうです、私は勇気をもらったんです。悲しいことは悲しいままじゃない……背負って、未来を変えていくことはできるんだって。

そうしてよちよち歩きでまた進み始めた私は、プロデューサーさんに見つけてもらって……あの日……。


「――――あ、プロデューサーさん! 見てください!」


通っていたスクールに、またまた様子を見に来てくれたプロデューサーさん。

なので先日失敗したステップ……からのターン! ビシッと決めて天を指さすと、僅かにプロデューサーさんの表情が緩んだように感じる。


「……どうでしょう!」

「いい感じだと思います」

「ありがとうございます! 今日はなにをしましょう!」

「レッスンを、お願いします」

「はいー!」


……まだまだ外の桜はつぼみを作りかけ。きっと桜も、プロジェクトも花開く準備中。

ちょっとフライング気味な子もいるけど、それでも私はその時まで……気持ちを改めていると、プロデューサーさんが頭を下げてきた。


「プ、プロデューサーさん?」

「申し訳ありません。レッスンばかりで、おまたせしていて」

「いえいえ! 私、レッスン大好きですから! ……残りのお二人はまだ」

「はい」

「ですよねー」

「今、一人は交渉中で」

「え!」


あれ、交渉中……もしかしてもう一人って、この近辺なのかな!

……だったらと、どんどん気持ちが高ぶる。

自分がフライング気味なのは察していたのに、もう抑えられない。プロデューサーさんへ一歩踏み込んでいた。


「今日も今から会いに行くところで」

「あの、今からですか!」

「……はい」

「わ、私も一緒に行っていいですか!」

「……え」


プロデューサーさんに目を丸くされるけど、はやる気持ちは抑えられない。それに、やっぱり会いたいんだ。

これから仲間になる子がどんな人か。そうじゃないとわくわくしすぎて……し、心臓が持たない。

――そうして渋谷の街を歩くに向かう……というか、レッスン場から家への帰り道だった。

そのままプロデューサーさんについていくと、そこは……CP参加が決まったとき、お花を買ったお店で。


「あれ、このお店は」

「島村さん、ご存じなんですか」


………………お花を買って……そう思っていたら、目に飛び込んだ一つの影。

三人のしゅごキャラを連れた、黒コートの子。栗色の髪は肩まで伸びていて……あのときと変わらない。

そうだ、変わらない。顔立ちも、姿も…………それで、胸が凄くときめいて……。


「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「…………ん?」

「やっと……やっと見つけました!」


私はあの子に駆け寄り……その両手を取って。


「あなたですよね! 一昨年の十一月……黒くて大きな怪物と戦っていた子は!」

「……!」

「それにしゅごキャラちゃん達も……初めましてー」

「は、初めまして……おい、ヤスフミ!」

「コイツ、私達が見えるだけでなく、巨大×キャラの事まで知っているのか」

「お兄様……また私に内緒で、嫁を増やすんですか?」

「初対面だよ! 増やす云々以前の問題だよ! というかどちら様ー!?」

「私、あなたにずっと会いたかったんです。助けてくれて、ありがとうございました」


そして私は瞳に涙を浮かべ、小さな両手を抱き締めながら、感謝のお辞儀。

……ずっと、ずっと……伝えたかった。


私は……あなたに、希望をもらったんだって……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その人……蒼凪恭文さんとシオンちゃん達には状況を説明して……すっごく驚かれたけど、納得してもらって。

それで、お友達みたいになって……いっぱいいっぱい嬉しい毎日が続いた。

憧れのヒーローと会えたから? ずっと探していたのは、友達になるため?


ううん、違う……そうじゃないんだ。でもどう表現していいか迷っている間に、私にもチャンスがきた。

美嘉さんのバックダンサー……今のニュージェネメンバーが選ばれて、一生懸命練習して……いよいよ本番。


――緊張はMAXだけど、それでも止まらない。

昇降装置へと乗り込み、三人で呼吸を合わせ。


「では」

「「「フライド――」」」

「いきます!」

「「「チキン!」」」


スタッフさんに押し上げられながら、ステージへと飛び出す。

私達を迎えるのは、美嘉さんのTOKIMEKIエスカレート――。


そして、無数のサイリウムが生み出す星の海だった。


その輝きを、歓声を受けているだけで、いつもより激しく、鋭く動ける。

自然と笑顔が零(こぼ)れ、ステップも精彩を増していく。


これが、アイドル……ずっと夢見ていた、私の願い。


……追いかけて、よかった。

諦めなくてよかった。

あの人が繋(つな)いでくれた希望は、嘘じゃなかった――!


――感動のまま曲が終わると、美嘉さんがMCに入る。

美嘉さんも汗をかきながら、笑っていた……そうして感謝を、ときめきを言葉として伝えていく。


『みんな、ありがとー!』


そこで歓声が帰ってきて、美嘉さんは満足そう。

でもそう思った瞬間、美嘉さんが右手で私達を指す。


『ところで今日、バックを勤めてくれたこの子達! まだ新人なんだけど、アタシが誘ってステージに立ってくれたんだー!』


いきなり注目が集められた!? あ、感じる……視線を感じる!

しかも美嘉さんは、マイクまで向けてきて。


『感想でも聞いてみようか! どうだった!?』

『えぇぇぇぇぇ!? あの、その、えっと……!』

『ふむふむ……一番大事な人に、この感動を伝えたいと! ときめきでロマンティックが止まらないと!』

『違いますー!』


そ、そもそもそんな人、私には……でもそこで、あの人の姿が浮かんだ。


私より小さくて、でも大人で――だけど、輝く夢を持っている人。

不思議なこと、楽しいことには、子どもみたいに目をキラキラさせる人。

星みたいな瞳の輝きを見ていると、胸が高鳴って……あぁ、そっか。


『……一人、います』

『え、マジ!?』

『はい……苦しくて悲しくて、笑えなくなっていた私を助けてくれた……』


私、ずっと……あの日から、ずっと。


『私の、世界で一番大好きな人に……ありがとうって……いっぱい、いっぱい……伝えたいです!』


そうだ、伝えたい。私はずっと、あの日――あの戦いを目撃してからずっと――。

あの人に、恋をしていたから。

でもそれだけじゃない。私に希望をくれたあの人に、同じだけの希望をお返しできたら……それくらい強くなれたら。


まだ迷子で失敗も多いけど、それでも……この気持ちに嘘はない。

だからもっと、ちゃんと……伝えないと、駄目だよね


ただ見上げて憧れるだけじゃない。私は……恭文さんと……。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage13 『Managerial mad』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――――――いろんな人にごめんなさいと謝らなくてはいけなくなりました。

というか、どうしてこうなった……! どうしてこうなったぁ!


「えっとヤスフミ、その中原さんともお話しないとだよね。うん、奥さんとして頑張るよ」

「完全に誤解と悪のりだから、落ち着いて……!」


メイド三人と家のみんなに囲まれ、夜食代わり≪ポテトサラダ≫をがっつきながら悩むばかりで……。


「とにかく……恭文さんのことは、私がちゃんと引き受けますので! はい、大丈夫です!」

「リインがいるからノーサンキューなのです! アイドルはステージで踊っているといいのですよ!」

「リインちゃんはまだ小さいじゃないですか! なのでお姉さんの私が頑張ります!」

「リインはもう立派なレディなのですよー!」

「まぁまぁ! ここはこの私、佐竹美奈子が間を取るということで!」

「「間なんて存在しません!」」

「おのれら落ち着けぇ! その修羅場も人目を引いたんだよ!
その欲望全開な有り様も僕の所業としてみんなに刻まれたんだよ!」

「「「――!」」」


そうは言っても、三人とも火花を散らすばかりで…………やめてー! 僕のために争わないでー!


「……ほら、ヤスフミ……ちゃんとしないと」


フェイトも呆れた顔をするなぁ! 僕の頭を撫でにくるなぁ!


「大変だなぁ……本当に」


ミカヤも同情の視線を! くそぉ、なぜこんなことにぃ!


「でもよかったじゃないか。好きなガンプラで夢まで叶っているんだ」

「それは、まぁねぇ……」

「局勤めしていたら、いろいろ難しかったのですよ」

「なんでも諦めないものだ」

「……諦めない……」


卯月がなにか……感慨深げに呟くと、僕をマジマジと見つめてくる。


(……そうだよね)


その、ハーレムしているというのもあるけど……卯月にも、ちゃんと……向き合っていかないと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三日後――346プロ第一ビル≪第三会議室≫

定例ライブまであと一週間



会議室に持ち込まれたものは、大型のバトルベースに工具関係……塗装・工作関係の材料が、一通り揃えられているのが素晴らしい。

それもこれも、346プロ内に模型ショップを併設した関係からだけどね! これが資本主義ってやつかぁ!


ただ、問題があるとすれば……バトルベースは現在動かないこと。うん、粒子結晶体の事件があったから仕方ないね。

ただそれは分かっているのよ。それより問題なのは……!


「――というわけで、本日のガンプラ講習の講師は、蒼凪恭文ガンプラプロデューサーに行ってもらう。
ライブ会場入り直前ではあるが、これも今後の指針を定めるための重要な通過点と考えてほしい。
なにせ765プロを中心に、アイドルがガンプラバトルをする環境は整いつつあるからな」

『……はい』


なぜか……僕が、クローネに教えるという図式になっていることで。

なので上座に座らせてもらいながら、挙手……頭を抱えながらも挙手!


「…………あの、美城常務」

「なんだ? 思う存分辣腕を振るってくれて構わないが」

「今更だけど、なぜ僕に頼んだ……!?」

「蒼凪プロデューサーが疑問に思ってる!?」

「君が一番適任だからだ。実力が申し分ないのは、大会で示されているしな」

「いろいろ難しい状況だってのに……」

「最善だと思う手を最高の形で打ち込むのが流儀と知ってほしい」

「そりゃそうだ」


ようはこの間の一件で、僕への興味もあるからと……そういうことなら仕方ないので、腹を括って立ち上が…………立ち上がれない!

だって、その前に気にするべきところがあるから!


「じゃあ、じゃあ、じゃあ……!」


左手で指差す……八時方向に控えている三人を。

秋らしい色合いのカーディガンとスカートで纏めた、双子を……双子を……!


そして、またまたメイド服な卯月を! その腕に抱かれている白ぱんにゃを!


「なんでその話が、こやつらから伝わっているの!
いや、卯月はいい! 卯月はまだ分かる……でも他二人ぃ! それに白ぱんにゃ!」

「うりゅー♪」

「二人は765プロへ連絡した際、君のメイド兼専属秘書だと紹介してもらったのだが……」

「誰の仕業だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「まぁまぁ御主人様、私達は気にしていないから」

「そうそうー。というか、アタシらの身請けもようやくOKしてくれたでしょ?」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そう……当然と言う顔で笑っている二人は……リーゼロッテさんとアリアさん達だ。

ご存じグレアムさんの使い魔であり、クロノさんの魔法戦(アリアさん担当)&格闘戦(ロッテさん)の師匠。


いや、確かに……腹を決めたよ! グレアムさんに代わって契約を結んでって……でもさぁ!


「……私が言えた義理ではないが、身辺整理に手を抜かない方がいいぞ?」


しかも美城常務、哀れんできたし!

やめて! その申し訳なさそうな顔はやめて! さすがに罪悪感が湧く!


≪よかったですね。ミカヤさんに続いて妻が増えて≫

「妻じゃない!」

「まぁそう心配しないでよ。アタシら、しばらくはやてちゃんのとこで厄介になる予定だし」

「はやての…………あ、なるほど」

「父様も初孫……いや、初ひ孫? そういうレベルで心配しているしね。お手伝いってわけ」


なるほど……それならまだ……というか、考えて然るべきだった。


「はやて?」

「僕の友人で、二人の家族が面倒を見ていた子だよ。今年の六月頃に懐妊してね」

「まだまだ大変な時期だし、まずはそっちをサポートって感じなんですよ」

「それはまた……だが本当に大事な時期だな」

「そうそう。父様……アタシ達の親も心配していてね」

「父様にとって、はやてちゃんは姪っ子であり娘みたいなものだから」


グレアムさんも諸事情あれど、今やはやてにとっては父親であり祖父であり……局員の先輩として、いい相談相手でもあり。

それなら、ロッテさん達を送り出すくらいはやりそうだ。なにせまだまだ安定期に入ったばかりだしね。ここからが大事だよ。


……となると、僕も負けてはいられない…………なら、卯月は!


「じゃ、じゃあ……」

「あ、白ぱんにゃちゃんはついてきちゃって……その分私が面倒を見るので、大丈夫です! 頑張ります!」

「うりゅりゅー♪」

「…………よろしく、頼む」

「常務……!」

「止められるわけがないだろう……!」


匙を投げてきやがったぁ! いや、仕方ないけど! 卯月の熱量が半端ないし!


「もちろんクローネの糞虫どもがまた下痢気味な(ぴー)を垂れ流さないよう、しっかり見張ります! ……分かったか! (ぴー)がぁ!」

「うりゅ!?」

「「卯月(ウヅキ)ぃ!?」」

「……島村さん、その……もしかして、意味が分かっていないのでは…………」


文香の言う通りだった。だって凄いはつらつで……あんな明るく笑う卯月、初めて見るってレベルの笑顔だった。


「恭文、お願い……あたしが言うのもあれだけど、卯月は止めてあげてぇ!」

「そうだよ! さすがに申し訳ないよ! だって……アイドルとして言っちゃ駄目なこと連発してるしぃ!」

「えぇい、加蓮と奈緒も落ち着け! 分かる、気持ちは分かる! 僕も気になるし、後でちゃんと確認するから!」

「島村、さん………………!」


まぁその前に武内さんがやりそうだけどね!? 頭抱えて、汗ダラダラだもの!


「あ、あの卯月……ハートマン軍曹は、一旦ストップで……ね? ビックリするから……手元狂うから」

「いいんですか?」

「いいのよ! その分アシスタント! ね!? ね!?」

「そ、そうだな……だが島村くんのアシストが必要な難易度なのか?」

「いえ、かなり基礎の方からですから……とはいえこの人数ですし」

「納得した」


既にみんなの前には、本日制作するガンプラも用意されているしね……。

そう、みなさまお馴染みHG IBO≪グレイズ≫! 安い簡単高性能の三拍子揃った新型ガンプラだよ!


「とりあえず凛とアーニャ、奈緒、痴女な奏以外はガンプラ制作経験がないとのことなので、自分で作ってみるところから」

「グレイズか……蒼凪プロデューサーからすると、割りと慣れ親しんだというか」

「鉄血のアニメ、出ているしな!」

「……でも、痴女はヒドくないかしら」

「……初対面の男に抱擁寸前まで近づき、愛を囁くのは普通の行動ではないがな」

「えぇ、私も大胆だと思います。だけど……胸の高鳴りには逆らえなくて」


常務がぽつりと呟いても、奏は…………スゲー強いなぁ、コイツも。


「ただまぁ、奏に興味津々なのは僕も同じなんだよねぇ」

「待て……」

「いや、女性としてじゃなくて、ビルダーとしてだよ。……奏、あのZガンダム出してみて」

「えぇ」


奏が出してきたZガンダム……マーキングもしっかりされ、塗装も完璧。その美しさに全員が目を見張る。


「……凄く、奇麗です」

「というか、普通のZガンダムと大分違うよね。腹部のサスペンションというか、シリンダーとか」

「えぇ。実はこれ」

「…………って、NAOKIさんの作例Zじゃないかぁ!」

「そうなの、奈緒の言う通り」

「やっぱりかー! スタイリングとか、オリジナル要素の強いロングライフルとか……すっごく見覚えがあったんだよね!」


あとは背中のフライングアーマーが翼みたいな形状になっているのとかさ! 機械的でありながら有機的なのは本当に凄い!


「NAOKI? ……奈緒、恭文」

「プロモデラーさんだよ! ガンプラの原型制作とかにも関わっているような人!
その人が……もう六〜七年前? 劇場版Zガンダムが出たとき、アレンジで作例を出したんだ」

「…………それがこれなの!?」

「いや、ガレージキットとしても後に発売されたんだけど……あ、でもサイズが違うよね。ということはこれ、ほぼスクラッチ……!?」

「スクラッチ……唯、そこは勉強した! 自分でパーツとか作るんだよね!」

「そうなの。どうしても写真で見て、セクシーでキュートだから……欲しくなっちゃって」


いや、それでこれは……初心者のレベルじゃない。塗装や造形も、雑誌の作例として出して十分な仕上がりだ……!

というか、初めて見たとき軽く戦慄した……っと、奏の名誉もあるし、一応説明しておくか。


「分かる……その気持ちはよく分かるよ」


とりあえず同意した上で、取っかかりを作ると……常務やロッテさんが軽く小首を傾げる。


「蒼凪さん、モデラーとしてはよくあることなのですか?」

「よくあるというか、わりと複雑なんですよ。
……前提を起きますと、いわゆる盗作や海賊版販売は絶対に駄目です。アウトです。
ただ、雑誌とかバトルで見たガンプラを、自分の手元に置きたいとか……そういうのでコピーを作ることはあります」

≪ただ単純にコピーって言っても、ここまでアレンジが入っているものは……作るだけでも大変なんですよ。
そうして作業工程や必要な技術なんかを細分化・分析し、実戦していくことで、自分の技術として僅かながらでも取り込めるんです≫

「そういう意味でもあるあるなんだー。……あー、そう言えばやすっちも言っていたねー。ホビー雑誌見てこれ凄いーってさ」

「あったあった。旅先に持ち込んでいたやつでね」


ちょっと照れくさいけど、そういうものだとロッテさん達には頷いておく。

……全ての技は模倣から始まる……とはよく言ったもので。模倣することで、オリジナルの凄さが分かり、敬意が深まる場合もある。

奏もそんなエポックメイキングとして、手の中のZガンダムを認識しているようで……こちらに笑顔を向けてきた。


「いわゆるコピーで技術や精神性を学ぶというのは、芸事にも通ずるので分からなくはないが……君がその辺りを肯定するのは意外だな」

「僕も実戦では、敵や目上の人が使った技や戦術をちょいちょいコピーで使うんだけど……それだけじゃなくて」


いやぁ、ちょうど持ってきておいてよかったよ。ガンプラのケースから、Hi-νガンダムインフラックスを取り出して……っと。


「パートナーのスタイルを理解するためとかで、そのレプリカを作るって実例を見たからねぇ」

「それは…………あぁ、そう言えばそのガンプラは三代目メイジン作のレプリカだと」

「三代目メイジン……あのサングラスのカッコいい人!?」


宮本、おのれ……いや、いいか。あの有様を見てカッコいいと言ってもらえるだけ、タツヤは幸せだ。


「私もインタビュー記事で見ました。パートナーのアラン・アダムスさんからいただいたもので、だから装備もケンプファーアメイジングと被っていると……」

「ところがそれだけじゃないのよ。……タツヤはガンプラ塾出身で、自分でも高精度のガンプラを作ることができる。
そのタツヤに、ビルダーである自分は必要なのか……その疑問を向き合った結果がこれよ」

「それで、コピーですか?」

「元ネタ≪Hi-νガンダムヴレイブ≫はタツヤがガンプラ塾時代に作った改造ガンプラでね。
それをフラッシュアップしつつ、タツヤの戦闘スタイルや一番得意なことを最大現発揮できるよう、武装を調整したのがこれだ」

「じゃあ、ウェポンバインダーも……あぁそうか。だからケンプファーアメイジングでも使われたんですね! それもより改良されて!」

「とまぁモデラーにとってのコピーやレプリカ作成は、自分の手を動かすことと違法行為NGを前提として、複雑なものがあるのよ」


アランとインフラックスの件は、僕もいろいろ考えさせられたのよ。特にアランが真剣に悩んでいたからねぇ。

もちろん繰り返しになるけど、海賊版販売やら盗作行為はアウトだよ。それはもう絶対。

でもあくまでも個人で楽しみ、制作元へきちんと配慮するなら…………まぁ難しい話ではあるんだけどさ。


「確かにそうね……。実際私もこのレプリカを作って、いろいろ勉強になって……だから今、新しいのを作っているところなのよ」

「あ、そうなんだ」

「ほら、昔レッドウォーリアってあったでしょ? あれの色変えで」

「「い!?」」


そこで反応したのが…………僕と、奈緒だった。というか、つい奈緒と顔を見合わせる。


「…………あの、もしかして」

「僕……一年半くらい前に、ブルーウィザードって蒼いレッドウォーリアを作って……今日は持ってきてないんだけど」

「あたしも今作ってるところ! イメージカラーに合わせて!」

「あら……」

「…………いろいろ大変そうで悪いが、その辺りの討議は終わった後で大丈夫だろうか。講義が進むか不安になってしかたない」

「「「はーい」」」


美城常務の言う通りなので、そこは三人揃って元気よく返事。すると常務は静かに苦笑した。


「でも本当に、今バトルできないのが残念よね……。奈緒もバトル調整ができないし」

「それはねー」

「僕もちょうど新作で、マドロックとか作ってたし……戦わせてみたかった」

「いいなぁ……唯もこういうのなら作りたいかも!」

「…………おのれ、作業時間は軽く二百時間を超えるのよ?」

『二百!?』

「といっても分からないだろうから、原型の……Revive版のZガンダムを組んで持ってきました」

「準備がいいな、君は……」


またまたケースから取り出すのは、その原型なZガンダム。

奏のZと並べておくと、みんなが交互に見て……。


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


美城常務も含めて、大きな声を上げてしまって……。


「おい、これは……足の長さとか、胴体のバランスも大分違うだろ……!」

「それに武装の形も……背中の、バインダー……でしたか?
その部分や他の形状も……速水さんのは有機的なラインも含んでいますが……」

「だからさっき言ったような流れなんですよ。
まぁこれは目標の一つとして、今日のところは……組み立てに慣れるところからやってみようか」

「……だから、ぐれ……ぐれ……グレイズ?」

「それ」

「んー、でも武器が斧ってダサくない? 剣とか槍とかの方がカッコいいと思うんだけど……木こりさんみたいだし」


例の大槻唯が首を傾げたので、鋭く右指で指しておく。


「そこの美希二号、おのれは甘い」

「それ言わないで!? 町を歩いていても間違えられるんだから!」

「それも当然のこと……だから由良さんに対してもあんな逆ギレができるんだよ」

「い!?」

「そうそう、それについては文香も同じだ。
加蓮と奈緒も……感情論ばっかで、理論的に説明できていなかったでしょ。
……なぜ会長や部長のやり方が正しいのか……なぜライブを見るだけで全て理解できるのか……ってさ」

「…………それはやはり……駄目なこと……なのでしょうか……」

「駄目だ。……なのでアンチ斧な大槻唯がぐぅの音も出ないよう、理論的に斧のよさを説明しよう」


ようはそれもお手本だと告げると、文香は少し困りながらも頷いてくれる。

それについては美城常務や武内さん達も同じ……そうそう。


「そういや武内さんについては、感情論でまた押しつけをやらかしましたからねぇ……」

「そうだったな。なので説教の意味も込めて、ビシッとやってくれ」

「…………謹んでお受け致します。
それで蒼凪さん、斧が武器である意味……それを理論的に説明するのであれば、まずは」

「やっぱり利便性からですね。結論から言うと斧は、人類が発明した”最優の武器”だ」

「最優!? え、分からないと当然なの!? 美希ちゃんに間違われるの、当然なの!?」

「ここからは第一種忍者として……実戦武術を修める人間としての意見も入るけど」


改めて忍者資格証を見せた上で、自前で作って改造したグレイズを取りだし、ハンドアックスを見せる。


「もちろん威力・射程なども含めると、斧なんかより殺傷能力のある武装はたくさんあるよ」

「そ、そうでしょ!? 銃とかそっちの方が凄いよ!」

「でも石器時代から存在するこの武器は、その利便性が半端ない。
おのれが言ったような木こり……伐採や整形、薪作りなどの工作作業はもちろん、武器としても扱いが簡単だから。
難しいことはいらないのよ。ただ重さに任せて振り下ろすだけで、敵を破壊することができる」

「でも、剣でもそれは……ほら、お侍さんとかもずばーって!」

「……致し方ないこととはいえ、刀を斧と一緒にするのは非常識極まりないって覚えておいた方がいいよ」

「どうして!?」

「刀は重さではなく、刃の鋭さ……反りで”引き切る”のが基本なのよ」


というわけで、予備武器の小太刀を一本取りだし……さっと抜刀。


『おぉ!?』


みんなや常務を傷付けないように軽く振るい、その反りを……輝きを見せる。

更に左手からおやつ用のりんごを取り出し……さっと真っ二つにしてみる。

その上で納刀し、用意していた皿にりんごは置いてーっと。


「刃を当て、引くことにより対象を斬り裂く。そのためにはこの反りが大事なのよ。
これがあるから鉄の兜だろうと、甲冑だろうと、骨と肉だろうと、きちんとした技術さえあれば断ち切れる」

「凄いな……りんごというのもあるのだろうが、音もなく瞬時に、歪みすら感じさせず真っ二つにしたぞ」

「やすっち、メインウェポンは日本刀系だからねぇ。……というかそれ、くっつけられるでしょ」

「えぇ」

「…………は?」


そのりんごを……元の状態になるよう軽く押し当てる。

その上で美城常務に放り投げると、常務は慌ててりんごをキャッチ。そうして、その顔色が真っ青になる。


「………………くっついている……だと……!」

『え……!?』


小太刀を鞘に納めている間に、常務がりんごの右半分を持って軽く振る。でもりんごは元の状態でズレない……全くズレない……。


「戻し斬り……断面の細胞が全く押しつぶされないことで発生する現象。
まぁ完全にくっつくにはまた時間がかかるから、そろそろ……」


ロッテさんがそう告げると、ようやくりんごの左半分が落ちる。常務は慌ててキャッチするけど、先ほどまでの現象にまだ驚いている様子で……。


「……今外れたのも、私が無理をしたからか……」

「驚きました……! 斬撃の技術と切れ味鋭い刃……両方揃っていなければできない高等技能なのですが」

「アンタが知っているってことは、マジであるんだ……!」

「プロデューサー、古武術習ってました。だから武術……凄く詳しい……」

「まぁ熟知しまくれば、こういうこともできるってことで。
でもそうじゃない……技術のない子が振るっても、その真価は発揮できない……というか折れちゃう」

「折れるって……嘘だよ! だって時代劇だと、がきんがきんって斬り合ってるよね!」

「あれは見栄え重視にしている演出だよ」


……いや、唯? 呆けた顔をしないで……本当のことなんだから。


「実際は極力刃で弾くようなことはせず、攻撃は避けるか……その前に切り捨てるのが理想だよ」

「彼の肩を持つわけではないが、見栄えでの打ち合いがあるのは事実だ。
実際の刀でそれをやると、刃がぼろぼろになってすぐ使い物にならなくなるらしい」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「更に言えば、刀は頻繁なメンテナンスが必要。常務が今も触れてくれたけど、鉄なんかにぶつければ刃こぼれもするし、人を斬れば血と脂で鋭さも鈍る。
……研ぎに出すのだって、腕がよくない人に任せたら一瞬でガタガタだもの」

「お金もかかるの!?」

「そういうがきんがきんについては、むしろファンタジーとかで使われる西洋剣の領域だ。
あれは合戦で鎧ごと断ち切り、その上で継続使用するのを目的として、頑強さ重視で作られているしね」

「確かに、ぶ厚いよなぁ……」

「でも全く鋭さがないってわけでもない。
現代で行われた実験で、車のドアとかも平然と両断していたし」


そこでまたざわつきが……やっぱり武器とかの扱いって、普通は勉強しないよねぇ。特に女の子だとさ。

この驚きも、講習にとっては大事な資料。ようは伝えていくレベルを示すって話だから。


「重さがあって、その上で鋭さがあれば……それくらい楽勝ってことか! なら蒼凪プロデューサー、斧は……」

「利便性で一つ抜けているのよ。投てき攻撃とかね」

「ぶん投げる……あ、ファンタジーにもよくあるアレだな!」


そうそう。奈緒はやっぱりその手のことが…………そう考えると、奈緒も悪い子ではない。

やはり悪い大人に引っかからないよう、知識を教えていくことは大事だと痛感した。うちの翼とかさぁ……!


「剣だとある程度技量が必要だけど、斧はただぶん投げるだけでいい。
斧の刃が遠心力で回転して、それだけで必殺の攻撃になるから。
それに刀や普通の剣に比べて、メンテナンス性や製造効率が抜群に高い。それこそ石斧でもいいわけだしさ」

「だからお金もかかりにくい……なんか、滅茶苦茶便利そうなんだけど……!」

「何より……さっき言った”工具としての利便性”は、いつ如何なるときに戦闘が発生しても、すぐ対応できるという即時性にも繋がっている。
……例えば銃や刀を堂々と持っていたら警戒されるけど、作業用の斧なら? それを持っていても不自然じゃない場所なら?」


そう言われて、唯も……みんなも想像を始める。


「まぁさすがに都内の街中だと不審者だけど、田舎とか……昔の旅先とかなら…………あ、分かるかも」

「こう、少なくとも不自然ではない。すぐ作業用の武器で戦えるってことだから……」

「一般常識ですね」

「ありすちゃん、その常識はうちら知らんかったわ……」

「だから最優……威力や射程という問題を置いても、利便性が滅茶苦茶高いのよ。
これを石器時代に発明できたことは、人類の発展に大きな力となっているもの」


まぁ僕自身は剣術使いだけど、斧という装備の利便性には着目するところが多くてね。というか、それは僕だけの話じゃないんだ。


「でも蒼凪プロデューサー、武器って……やっぱり使いこなさなきゃ意味がないんだね」

「あとはきっちりとした状態管理。まぁそういうのを飛び越えた武具もあるけど、それはそれだし……」

「飛び越えた?」

「その昔に生み出され、現代まで戦闘可能な状態で維持されている刀剣の中にはね、特殊な力を宿すものもあるのよ。
過ごしてきた年代……武具そのものが持っている経験から、一つの異能を携え、それが時間経過とともに深くなっていくから」


ようは神秘の問題だよ。僕が持っている乞食清光みたいにね。

ただその辺りを詳しく説明すると長くなるし、脱線するのでさくっとしておこう。


「……非科学的です。これだけ科学が発達した現代社会で、そんなオカルトめいたこと」

「実際オカルトだもの。というかありすちゃん、霊障……霊現象の実在は知っているでしょ」

「それは…………な、何かの科学現象が誤認させているだけで、実際は」

「バカにすると死ぬよ」

「ひ!?」

「実際僕は、霊障に関わって死にかけたことが何度かある」

「ひぃ!?」


いや、バカにはしていないけど……なかなかにキツい状況だったのは、もう言うまでもない。


「退魔師の人達や……似たような専門家の間でもね、そういう武具はかなり希少で、大事に扱っているの。退魔の切り札だから」

≪あなたも欲しくなって、あっちこっち旅しながら探したけど……結局当てが外れまくりましたねぇ。私はよく覚えていますよ≫

「探してたんだ……!」

≪えぇ、それはもう。……一度エクスカリバーがあると聞いて、アングラオークションに乗り込んだら……もうどったんばったん大騒ぎ。
あっちこっちの闇組織が襲撃を仕掛けて、そのドタバタで出品物を幾つかがめつつ敵も殲滅したら……ほとんど贋作なんですから≫

「しかもエクスカリバーじゃなかったのよね……銘がね、エクスカリパーだったのよね!」

≪パーでしたねぇ≫

『パー!?』


そう、パーだよ! ファイナルファンタジーのあれだよ! まさか実在しているとは思わなかったよ! 思わずずっこけたよ!


「今思い出しても腸が煮えくり返る……! 渡航費とオークション参加費用を返してほしい!」

「いや、それ以上にがめたんだよね! 贋作だったエクスカリパーもぶんどったんだよね!」

「凛は何を言っているのよ………………全て揃って二束三文! 五万円にもならなかったわ! 三百万以上の大損だよ!」

『三百万!?』

「蒼凪プロデューサーこそ何を言っているのかな! 一応正義の味方だよね!」

「あんまそういう自覚はないかも。僕、ただ嫌いな奴に悪党が多いだけだから」

「幽遊白書!? というか、もっと立場と手段に頓着してぇ!」


凛、頭を抱えないでよ。おのれはエクスカリパーを掴まされたわけじゃないでしょ? だったらもっと強く生きられるでしょ。


「なるほど…………」

「……って、卯月もメモしないでぇ! 完全に同族嫌悪だよ!? 完全に逆ギレだよ!?」

「まぁ……その冒険譚にはいろいろと興味もあるが、やはりまた次の機会に聞かせてもらうとしようか……」

「次があるの!?」

「だが今までの話を鑑みると、斧を量産機に載せるというのは……理に適っているな。ザクなどもそうだろう?」

「……まぁね」


とりあえずエクスカリパーの怒りはさて置き……斧の話に戻ろうと思う。というか、美城常務にはちょっと感謝。


「特に鉄血の世界観では……ナノラミネートアーマーによって、射撃攻撃が通用しにくい。質量を生かした近接物理攻撃が基本。
でも量産型となれば、誰が乗るかは特定されない。扱いが難しい武器を載せても、使い切れない奴が必ず出てくるのよ」

「それじゃあ意味がないから、簡単な武器……」

「それについては、あたし達も同じかな……。武器の扱いなんて、練習したこともないし」

「はい、加蓮は正解。なので今後の講習では、そう言う点も踏まえつつやっていこうか」


ただ動かして遊ぶだけでも、そういうとこを踏まえると楽しい……そんな風に切り替えながら笑うと、みんなも釣られてくれる。


「実際三代目メイジン……タツヤもそこから学んで、あの技量に到達したからね」

『はい!』


みんな元気よく返事……美希二号な大槻唯についても、考えを改めたのかいい笑顔だった。


「…………というか、ごめん」


すると唯がぺこりと謝ってきた。


「今のでよく分かった。唯……本当に、喚いているだけで……由良さんが犯人じゃない理由とか、ちゃんと……考えてなかった」

「それは、私達もです……。ただ感情に訴えて……思い通りになればいいと……」

「……僕の知り合いは前にこんなことを言われたよ」

「え……」

「――偉そうなことをほざくな、青二才が。
力も、後ろ盾もない貴様が、気安く正義を語れるほどこの世界は甘くはない――」

「「……!」」


唯と文香は怒っていると思ったのか、軽く身を竦ませる。


「別に怒っているわけじゃないよ。……僕も何度も似たようなことは言われてきた」

「恭文……さんも……?」

「おのれらだってローウェル事件みたいな不正の話は知っているでしょ?」

「それは……うん、唯も歴史の授業で教わったから」

「でもそれは間違いなく”正義”だった。それで事件を追っていた捜査官が殺されても……罪なき人が悪魔のように罵られようとも……。
その”悪”に対して、対抗する手段も、力もなかったのなら、それは正義で押し通せる」

『…………』


そう……正義とはかざす理想や理論の正当性で決まるものじゃない。つーか悲しいかな、そんなのは創作物の中だけだ。

……正義とは、力であり証明だ。勝者のみが正義を語る権利がある。


正義が強いのは当たり前――。

悪がそれより弱いのは当たり前――。


勝者が正しいのは当たり前――。

敗者が間違っているのは当たり前――。


だから文香も、奈緒も、加蓮も、美城常務も……凛達も何も言えない。みんなは勝者になり、自分の正しさを押し通そうとした身だから。

それは僕も同じ。つーか僕の場合は、殺人すら厭わない形で暴れているしね。もっとあくどいとも言える。


「もちろん、それでもある程度普遍的な正しさはある。なら……あとはそれを守れるかどうかという話だ」

「そのために、権力や後ろ盾か」

「警察や政府組織なんかだとそれが王道であり正道だ。
自分の正しさには利がある……味方をすれば得をする。
誰にでも分かるように……それこそ敵にすら分かるように説明できなきゃ、それは得られない」

「……しかしそれは、利害関係です。本当の信頼ではありません。
自分は、島村さん達にはもっと純粋にアイドルの道を」

「ちょいちょいお兄さん? その利害すら結ぶ努力も見せなかったら……前のCPみたいになるだけだよー」

「――!」


そこでロッテさんから援護射撃が……つーかその辺りも知っているの!? さすがに恐ろしいよ! 武内さんともどもちょっと震えたし!


「まぁアタシとアリアも、海外の方の……治安維持組織に関わっていてね? 父様もそっちの偉い人だったから、嫌ってほど知っているんだよ」

「組織の中で、それを正しく動かすために必要なもの……子ども達を真っ直ぐ進ませるなら、大人が被るべき泥。
……恭文君もTOKYO WARとかの実績を買われて、そういう泥を被る側に回らないかって……いろんなとこから声をかけられてるんだよ」

「泥を……ヤスフミ、偉い人になるんですか? でも……」

「似合わないでしょー? だけどね、この子は国家存亡の危機にすら発展した大規模都市型テロや不正なんかに幾度も関わった専門家。
その経験と知識を生かして、人を動かす側に回ったらーって期待はやっぱりされちゃうんだよ」

「専門家……そう言われると確かに」

「…………世情も絡んだだけで、僕が望んでやってるわけじゃないけどね」


感心した様子の美城常務には、ちょっと辟易気味に手を振る。

というかロッテさんとアリアさんはぁ……! あぁ、辛い! 僕はただ必死に頑張っただけなのに!


「まぁあなた達はアイドルだし、そういうのが領分じゃないのは分かるけどね」

「でも唯はあのとき……声を上げても、誰も味方してくれなかった」

「というか、アタシもだよぉ! ただ思いついたことぶちまけただけで、そこまで考えていなかったしぃ!」

「考えられないのもある意味当然だ。
そのためにはよく学び、よく考える必要がある。それもそういうことを念頭に置き、意識した上でだ」


まぁ仕方ないとフォローはしたんだけど……。


「つまりアンタ、悪い学びしかしとらんっちゅうことやな」

「がーん……!」


あ、塩見がだめ押しを……まぁヘコむ宮本は放置しようか。


「……なのでそういうときは、仲間や家族に相談するんだよ」


大事なのは、ここで人を頼ること……目を開くこと。それを伝えることだから。


「つーかおのれらの頭は、泣く子も黙る美城敦実常務だよ?
この城の王様に……自分の父親相手に、ふざけんなって殴って叩き出したんだ」

「……私は、美城の将来を鑑みただけだ」

「そのために王様をぶん殴る……それがどれだけの度胸か、加蓮……奈緒……文香……おのれらなら分かるでしょ」


三人に問いかけると、それはもう凄い勢いで……全力で頷く。


「もちろん荒事が絡むのなら、相談に来てくれてもいい。
とにかく煮詰まったら、自分だけで考えないこと。それで自分達の頭が、王様をもぶん殴れる凄い奴だってことを忘れないこと。
……おのれらがどういう方向に進むとしても、まずはそこからだ。OK?」

『……はい!』

「よし、じゃあ寄り道もしたけど……早速実製作に入ろうか」

「…………待て。それだと私の気恥ずかしさなどは」

「そこら辺の痰壺にでも吐き出しておいて」

「あるわけないだろ……!」

「うりゅー♪」


わなわな震える美城常務には、白ぱんにゃが飛びかかり……胸元に甘えてすりすり。

それを出して憮然とする常務は気にせず、早速みんなで楽しく……ガンプラだー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで寄り道もしたけど、早速制作に入る。

……これもまた、アイドルとしての正義を通すための第一歩……かもしれない。

まぁそれも、やってみて試すって感じで。だから余り気負わないよう、ジョークも交えて進める。


基本はニッパーでの二度切りと、ヤスリやナイフを使ってのゲート処理。

刃物を使う工作だし、ここは慎重に……無理に力を入れない形でというのを厳命しつつ、一時間半後……。


『できたー!』

「……なんか、凄い簡単に形になるんだねぇ」

「ホント……でも、腰が……」

「あー、HGグレイズ唯一最大の欠点ですね」


そう、腰が回らない……接続部の位置が悪くて、可動範囲がほとんどないのよ。

でもフォルムや他の可動範囲はバッチリなんだよねぇ。しかもほら、グリグリ動きまくって凄いから。


リーゼさん達もその点が残念という様子なので……!


「なので……ここからはもう一歩踏み込んで、腰を改造してみようか」


リーゼさん達の反応は分かるし、みんなも同意見……なので一歩踏み込むと、唯がバっと立ち上がる。


「これ、動くようにできるの!?」

「それもガンプラの楽しさ……というか、ネットで見た方法なんだけどね」

「うんうん!」

「例えば接続部を腰ブロックに移植するとか……アフターパーツとして売られている接続パーツを付けるとか」


というわけで、僕のグレイズをバラすと……ほら、接続部が元キットより下になっているでしょ。

ボールデンアームズっていうアフターパーツを使って、腰アーマーの接続部を変えたのよ。だから……僕のグレイズは腰がグリングリン!


その様子に唯も、他のみんなも目を見張る。


「わぁ……!」

「これはいいねー! ……でも、なんでキットは最初からこれじゃないの?」

「ガンプラ製造はいろいろ大変なんだよ、宮本」

「むー、名前で呼んでくれていいよー? フレちゃんってさー」

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ」

「なんでさー!」

「……先日のあれで、警戒されとるんやろうなぁ……」


なぜか塩見も呆れるけど、僕は気にしない……ほら、僕も結婚しているし。やっぱりいろいろ自重をね?


「もちろん丁寧に工作しないといけないし、失敗することもある。
僕も塗装でやらかして、ABS関節をバキバキ……バキバキ……」

「そ、それは嫌かも……」

「ただグレイズは店売りだと八〇〇円前後だし、そういう作業の練習台としても最適なんだ」

「…………え、千円しないの!?」

「一種のスターターキットでもあるようですしね……。でも、これでその価格は……凄いです」

「なのでここからは、キットの気になるところを改造するって段階だ。
……で、こういう経験の積み重ねから、NAOKIさんのZみたいな作例も生まれるわけよ」


ここは奏ではなく、ちゃんと元ネタなNAOKIさんのお名前を出した上で……フォロワーとして奏を指す。


「もちろんそれに憧れた奏みたいなフォロワーもね」

『はい!』

「……そう言われると、少し照れくさいわね」


うんうん、また元気のいい返事…………これから先、地獄が待っているとも知らずに。


「美城常務もそれで」

「問題ない。むしろそういう道筋を教えてくれるのは、本当に有り難い……が、いいのか?」

「みんなが楽しんでくれるならそれでよしだ。……あとは、バトルだけど」

「それも初心者だが、熱意はあると思う。早い復活を願うところだが」

「やっぱ初心者だから、脳内バトルは無理だよなぁ……智絵里とかな子にも引かれたし」

「………………できれば一般受けしやすいもので頼む……!」


地獄、却下されました。僕や慶くらいなら楽々なんだけど……難しいものだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


蒼凪プロデューサーがまた玄人向けなことを……! グレイズの腰を弄りながら、ちょっとギョッとしたし!


「…………脳内バトルって、なに?」

「なんか、凄い単語が出てきたんだけど……」


それで唯やフレデリカが、興味津々でこっちを見てきて……! いや、知っているけど! でも真っ先に疑われる感じは嫌だ!


「凛ちゃん達は知っている感じなんだよね」

「あー、うん……簡単に言えばイメージトレーニングだよ」

「それ、あたしも恭文から聞いたことがあるよ。
ガンダム歴代作品のパイロット達との疑似バトルは当然――。
その上で優秀なビルダー同士なら、作品を見ただけでその性能を把握し、自分のガンプラと戦っている様子すら手に取るように分かるって」

「イメトレだけなら分かるのに、後半が全く理解できない!」

「唯もだよ! え、そうなの!? そうなの!?」

「それくらい世界レベルならできるよ」


蒼凪プロデューサー、認めちゃったし! 当然って顔で言い切ったし!


「現に世界大会にも出てきたイオリ・セイとヤサカ・マオは、お互いの作品≪ビルドストライクとガンダムX魔王≫を見せ合ったとき、想像上の戦いを繰り広げた」


その上で前例を持ちだしてきたよ! というかセイとマオ、何しているの!?


「『自分のガンプラをバトルシステムで動かせば、どういう性能が発揮されるか』――それをきっちり把握しているからこそだね」

『あ……』


でも……そのフォローで、異常な中二病バトルがグッと身近になって。


「……単に戦わせるだけじゃなくて、作る側として熟知しているかどうかなんだ」

「だから”自分が知りうる作業工程から生まれた能力”なら、相手のガンプラの性能を見抜くのも難しくないのよ。
歴代作品のパイロット達やら、他のファイターとのイメージバトルだって同じ。
強さやクセみたいなものをしっかり踏まえると、想定くらいはできる」

「そりゃアタシ達には無理だよー。だってバトルで動かすこともできないしー」

「セイ達はビルドファイターとしても古参だしね……。
そう言えば蒼凪プロデューサー、その……脳内バトルって結局」

「ラルさんが介入して世界大会へ持ち越しになったよ。
……まぁその前に僕がマオを蹴落としたんだけどね!」

「台なしすぎるオチだったよ!」


そうだった! 確かに蒼凪プロデューサーと一回戦でぶつかって……フラグはへし折るものなの!?


「まぁそのオチはともかく……足場が分かっていないという意味では、本業であるアイドル活動も同じだろうな。
君達は今回のステージが初めてだ」


美城常務が言うことも正解だった。というか纏めにはいって……うん、初めてなんだよね。

私やアーニャもまだまだ新人だし、クローネとしての活動はこれが第一歩なんだから。


いや、私は今回CPとして出るけど……なんにしても初めましてで、新しい挑戦。それは変わらない。

だからできるだけ力になりたいと思って……だから、今日も顔を出したわけで。


「……だが、だからこそ一瞬一瞬で学べるものを大事にするべきだ。
お姫様の頂点を目指すにしても、まずは足場を踏み締めることから始まる」

『はい!』

「なのでまぁ、脳内バトルもまた次の機会として……今日のところは」

「あら、それなら私はできるわよ?」


そこで笑顔を浮かべてきたのは、奏さんだった……! というか、また艶っぽい目をぉ!


「………………」

「美城常務…………その、なんと言えばいいのか…………」

「アタシは応援してますよー」

「私もロッテに同じくで」

「応援する暇があるなら、止めてくれ……!」

「うりゅ?」

「あぁ……君は、いい。そのままで大丈夫だから……」


そして美城常務が折れたぁ! そりゃそうだ、纏めに入って、上手く進めようとしたところで……これだもの!

しかも白ぱんにゃにすごい気づかってる! もしかして意外とああいう子、好きなのかな……。


「それならわたしも……できると、思います」

「アーニャ!?」


かと思っていたら、アーニャがとんでもないことをぉ!


「インパルス、使い慣れていますし……」

「あ、あたしもだ! ガンプラバトルは小学校の頃からやっているし!」

「奈緒!? え、そんな簡単に」

「できるよ?」

「い!?」

「まぁ僕がフェイタリーやらで本気を出すと、ちょっと難しいところもある。
それにやっぱり一度、実際にバトルで動かすことが条件だけど……」


蒼凪プロデューサーは驚く私に、笑いながらグレイズを見せつける。


「……あ、そっか!」


それで思わず拍手を打っていた。


「自分が把握している範囲なら、詳細にイメージできるから……」

「グレイズであれば……私達でも、そういったイメージバトルも可能なんですね……」

「あと、こういうイメージとレーニングはモーション調整≪セレクト≫の際にも役立つんだ。クセを付けておくのをお勧めするよ」

『……モーションセレクト?』

「あー、みんなが持っているGPベース、あるよね」


一応バトルはできないんだけど、資料として……PPSE社製のGPベースは渡されていた。

これも後々、ヤジマ商事製のバトルシステムに対応できるようアップデートされるんだって。だから持っていても問題ないんだ。


「それは自分の戦績や対戦映像の記録だけじゃなくて、ガンプラの動き≪モーションデータ≫も記録されているんだ。
通常は共用データの中からオートで取捨選択される。
……例えばトリガーを引いて、敵が遠くにいたら……狙いを定めて銃を撃つって感じだね」

「そのデータも、個人で調整できるんですよね。そちらもネットの方で見ました」

「え、自分でガンプラの動きを作れちゃうの!?」

「専用ツールがあるので。なぜその必要があるかというと……例えば大槻さんが私のグレイズに攻撃しますよね。近接戦闘です」

「うん」

「斧を振って、胴体を叩きたいのに……こう、突きになったらどうします?」


そうしてありすちゃんが、右手を突き出す。斧を持ったという体で……それを見て、唯がハッとする。


「……当たっても倒せないよね! だってほら……切っ先!? そういうのがないよ!」

「それどころかこれ以後攻撃のチャンスがなくて、逆に負ける可能性もあります。
……そういうものを、イメージと実運動の齟齬と言うんです」

「だからね、そういう齟齬が少しでも少なくなるように……この状況で、こういう攻撃のときはこの動きーって、プログラムを作るんだって。
私やアーニャ……卯月もまだそういうレベルじゃないんだけど」

「でも世界大会に出ている人は、みんなやっているんですよね……恭文さんも」

「やっているよ。特に凄いのはリカルド……リカルド・フェリーニかなぁ」


…………そこで思い出すのは、静岡で会った……あの気さくで明るい人。

でもそっか、確かにリカルドさんなら……。


「使っているガンプラがずっと同じウイングガンダム系列だから?」

「それそれ。その分モーションも洗練されているし、同じガンプラを使い続けるメリットの一つだね。
……………………あ、ヤバい。バトルしたくなってきた……やっぱり脳内バトルを」

「そうね。私達だけの世界で、愛し合うように」

『却下ぁ!』


奏さんも乗らないで! というかその世界、真面目にニュータイプだからぁ!


……でも、なんだかおかしいなぁ。

クローネ……王冠という名前に似つかわしくないような空気だけど、それが嫌いじゃなかった。


「なら……その空気を変えるために、もう一つ質問を」

「ありすちゃん?」

「バトルから離れますけど、例の五億はどうなったんでしょう」


だけど……誰もが笑みを浮かべる中、ありすちゃんが少し真剣な表情で、その空気を壊して。


「あれは私達の足場を壊しかねない劇薬だと思いますが」


……確かにそうだ。

由良さんから教えてもらった……蒼凪プロデューサーも把握していた、個人的支出。

五億という金があれば、株はともかく……いかなる暴力的手段も使えるって話だったし。


それで、何か邪魔をされたら……!


「……その件か。実は……講習が終わった後で、進展を報告しようと思っていた」

「そうだったんですか。では……結果は」

「安心してくれ。ひとまずという形になるが……奴らの手元にはもう、そんなあぶく銭は存在しない」

「……どういうことですか」

「「………………」」


あぁああぁぁぁ! 蒼凪プロデューサーが……美城常務がとっても悪い顔をぉ!


「……やすっち、やらかしたの?」

「いえいえ、ただ愉悦なだけですよ」

「それがやらかしたってことだよ? 御主人様」

「うりゅー♪」


なにかやったんだ! こう、詐欺的なのを……何かぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


悩みながらも時間が過ぎ去り……定例ライブまで残すところ六日となった。

何もできず、何も言えず、私は……会社に行くと偽り、街をブラつくだけ。

会長からはあれから、なんの連絡もない。あの話はうまく進んだのだろうか。


それが不安になりながらも、今日も帰宅すると……。


「あはははははははは! なにそれ、おかしいー!」

「もう最高だったんですよ! それが……ねぇ!」

「もういやだー! あなた最悪よー!」

「でも、だからこその御主人様ですねー!」


家の外まで聞こえる、楽しげな声。

慌てて鍵を開けて、中に入ると……リビングには、妻と、娘と……蒼凪くんが……! というか、千川くんがメイド服でぇ!


私の席に座る彼を、二人は快く受け入れていた。それは千川くんもだ。


それが、たまらなく不愉快で……!


「な、な、な……!」

「あら、あなた……お帰りなさい」

「お帰り、父さん」

「「お帰りなさい、今西元部長」」

「何をしているんだ、君達は――!」

「そんなことを言わないの。あなたがどういう状況か、教えてくれたんだから」


…………そこで、寒気が走る。

家族には会社でのことは隠していた。なのに……なのに……!


「会社でのことなら、問題はない! すぐに誤解だとみんなが分かってくれる!
……さぁ、分かったら帰るんだ。それとも警察を呼ばれたいかね」

「あなた、それは私達の客人に対して無礼じゃないかしら」

「この家の主は私だぞ!」

「仕事でポカをやらかし、それを黙っていたあなたがそれを言うのね」

「だから、それも今言った通り」

「この子の学費だってまだかかるのよ――!?」


何を、言っているんだ。


「あなた、本当に目を覚まして! このままじゃ……あなたは犯罪者になるわよ!?」


私は……この家の主で、家族なんだぞ。


「というか、クソジジイすぎるにも程があるよ! 可愛いアイドルにえこひいきして、首にされるとか!
……恥ずかしくないの!? 自分の年を考えてよ!」


なのになぜ、お前達まで、私を疑うんだ……!

それが許せなくて……情けなくて……必死に叫ぶ。


「…………話を聞け! この男から何を聞いたか知らないが、全て嘘だ!」

「だから会社にも問い合わせましたよ。……株主総会で、会長共々進退が決まる状況だそうですね」

「だから、それも誤解だ! 我々は何も間違ったことなどしていない!」

「ならあなた……GMカンパニーってところから、何を購入したの」


すると、唐突に話が飛ぶ。

そうか、彼が…………駄目だ。

それまで壊されてしまったら、本当に駄目だ……!


追い求めていた理想が……昭和の輝かしき時代の再臨が、本当に壊れる……!


「お前達には、関係のないことだ。それは職務上重要なことだからね」

「だからガンプラマフィアに騙される」


…………一瞬、意識が飛んでいた。

彼が何を言ったか……それを、理解しがたくて。

というより、これこそ悪夢……劇薬。


理解してしまったら、心が……壊れそうで……!


「は……!?」

「GMカンパニーは、ガンプラマフィアのフロントカンパニーだ」


そこで彼はある冊子を投げつけてくる。

それを咄嗟に両手で取ってしまい……。


「GMカンパニーの信用調査……その報告書だ。読め」


…………あまりに予想外な押しつけと言葉。

それに流され……震える手で、それを見る。


「元々はPPSE社の後援を受けて設立した会社だけど、その大本があれだったからねぇ。
運営実態を調べたら、ほとんどが大うそ。ガンプラマフィアが資金繰りのために、ロンダリングを行う会社だった」

「馬鹿を言うな! 会長がそんなことをするはずが!」

「そっちこそ馬鹿を言わないでよ! 一度本当に切り捨てかけられたんでしょ!?」


家内の言葉で、ゾッとする。

確かに、あのときは……彼らが抗議に来たときはそうだった。

だが違う。それなら会長は、私をあの場で…………そのために、呼び出した?


封じ込めていた疑念が、もうどうしようもなく詰んでいる現状が心を縛り上げていると……。


「大体さぁ、もう証拠は揃ってるんだよ? GMカンパニーと取り引きした……それを試みたって証拠が。
そのためにアイドル達の個人情報を、外部に、無許可に渡したって証拠が」

「だから、馬鹿を言うな! そんな証拠がどこに」

「あの料亭で食べた幽庵焼き、美味しかったそうだねー」


……………………そこで、身体が凍り付く思いだった。


「は……は……は……!?」

「最初に出た炊き出しも、野菜のいい味が引き出されていたとか。
お酒もいいのを……冷や下ろし? 最高だねー」

「待て、なぜそれを……」

「またお会いしましたね、今西部長」


――そこでリビングに入ってきたのは、知らない少女だった。

にっこりと笑い……栗色の髪をツインテールにした、彼女は……!


「誰だ、君は!」

「嫌だなぁ……あのときお会いしたでしょ?」


そしてようやく気づく。

彼女の手に、あの……アタッシュケースがあることに。


「ほら、あのとき受け取ったものも……ちゃんとここに」


彼女は笑いながらそれを開くと……金が……大量の、金がぁ!


「GMカンパニーの奴が来ていたけど、どうも行き先を間違えたみたいでね。だから、代理になってあげたのよ」

「あぁあぁぁぁぁ……」

「今西部長、ご紹介しますね?
彼女は凰鈴音――第二種忍者で、蒼凪プロデューサーの後輩に当たる方です」

「あぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ……!」

「ねぇ今西部長……そろそろさぁ、自覚してくれないかなぁ」


いつの間にか蒼凪くんが私の後ろに回り、そっと両肩に手を当てる。


「ぁ……!?」


いや、握り締めてきた。骨が潰れんばかりに……肉が割けんばかりに!


「や、やめ……痛い痛い痛い! 離せぇぇぇぇぇぇ! おい、助けろぉ! 警察を……警察をぉ!」

「呼びたいなら呼べばいいよ。自首って扱いになるから」

「ひ――!」


悲鳴を上げても、両膝を突いて、床に押さえつけられた私を見ても、家内達は助けてくれない。

ただ冷淡に、裏切られたと言わんばかりに……私を、見ていて……!


しかも自首だと?

ではこれは、尋問だと言うのか。

逃げる権利がない、強制的な……。


私は、逮捕される瀬戸際だと――!?


(Next『Not Calamity』)








あとがき


恭文「というわけで、改めてクローネのみんなと交流しつつ、ネットで見たグレイズの改造案もご紹介。
そしてガンプラマフィアとのバトル展開はキャンセルという掟破り」

あむ「いや……これで洗脳されても、夏の繰り返しだけどさぁ……!」

恭文「情報があるなら潰すしかなかった」

あむ「それもどうなのかなぁ!」


(潰すしかなかった)


恭文「なお奏のZガンダムはリスペクト機体。本機体はまた考えるとして……」

あむ「また考えてなかったの!? えっと、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。いやぁ、今年のクリスマスももう終わりだよ」

あむ「FGOね……!? リアルはまだだから」


(シットリでいいイベントだった)


あむ「でもさ、アンタは……またお空の世界じゃん。あたしもいるけど」

恭介「僕達もいるよ、あむさん」

アイリ「えへへへ、ガチャピンと一杯遊べて楽しいー♪」

白ぱんにゃ「うりゅりゅ! うりゅ!」

黒ぱんにゃ「うりゅ……♪」


(そう、ガチャピンコラボイベントはまだまだ開催中です。
……では、閃光の女神はどうしたのかというと……。
本日のED:『ツンデレガンナーティアナだぞVer2020』)



ティアナ「消せ! その忌まわしい記憶をいますぐ消せぇ!」

フェイト「ティア、落ち着いて! とにかく……ヤスフミとぐだ子ちゃんもまたお空の世界だし、第五章も私が頑張るよ」(ガッツポーズ)

ティアナ「いや、フェイトさんはいいんですか!? 家族放置で、遊びに行ってる感じですけど!」

フェイト「あ、でも買い出しも兼ねているんだよ? お空の世界、ご飯も美味しいものが多いし」

ティアナ「納得しちゃってるんだ!」

カブタロス「香辛料とか、いいのが多いんだよ……」

シルフィー「でも第五章、来週にはーって流れがあるっぽいけど……どうなるんだろー」


(おしまい)







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あきゅろす。
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