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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Stage12 『Law of the Krone』


たたーらーらー♪ ららーらーらららー♪ ららーらーらららーらららららーらららー♪


「……お兄様、なぜGet Wildを」

「こうすると雰囲気が出るから」

「だと思いました」

≪まぁこれで事件解決……ようやく帰れますね≫

「うん」


ここまでのあらすじ――とある男性の殺人事件を解決直後。

その犯人≪由良さん≫も無事に……自首扱いで、聖夜市警察へと連行されていった。

それを見送り、僕も今日のお仕事は終了。なんだか楽しくもあり切ない日で……軽く伸びをしながら、家路に就く。


……え、凛達? 常務の手はずで送られる予定だったから、問題なし。ひとまず僕は。


「――ちょっと待ってくれるかしら」


……すると後ろの方から、慌てて様子でセーラー姿の子が飛び出してくる。

軽く息を切らせながら、右手を豊かな胸に、僕の前で深呼吸。


「おのれは……」

「奏――速水奏よ」

「あぁ……いろいろ付き合わせて悪かったね」

「大丈夫よ。……これから付き合わせるのは、私の方だもの」

「へ?」

「一目惚れってあるのね」


…………その言葉にすっと下がって警戒。


「……さすがに一気に引くのは、酷くない?」

「駄目だよ。初対面の男にそんなことを言っちゃ。
……おのれはきっと、まだ春先に芽生えたつぼみだ。これから花咲くのに、散らしちゃいけない」

「私の身体を通して出る力で、ただこの気持ちを伝えたくて……」

「Zガンダムかぁ! つーか話を続けるなぁ!」

「というかお前、そんなブラックジャックみたいな断り方をするキャラじゃないだろ」

「チョイスミスだよなぁ……」

「し!」


ヒカリ、ショウタロスもちょっと黙ってて! 今は肉まんをほおばってていいから、ちょっと黙ってて!

つーか待て! 僕は何もしていない! ここから引っ張られる理由なんて一つも。


「そうね……キスをすれば、お互いに分かるかもしれないわ。
……私達が一緒にいられるかどうか、試してみる?」

「ち、痴女だー!」

「お兄様、通報しましょう」

「だね! 僕、忍者だし……警察じゃないし! 助けてポリスメーン!」

「酷い言い方をしないで? 一目惚れも半分冗談だから」


呆れた様子で速水奏は、あるものを取り出す。

それは…………ディープブルーに彩られた≪HGUC Zガンダム(新)≫。

いわゆるRevive版として、リメイクされた新キット。


変形は差し替え式だけど、その分あっちこっちの稼働はKPS関節を用いて最新機構。ぶっちゃけ非変形型で仕上げるのも楽しそうだった。

でもそれを、突然取り出して……しかも滅茶苦茶丁寧に作られているってことは……!


「お兄様相手にそれを出すということは……そういうことですか」

「えぇ、そういうことよ」


さらっとしゅごキャラが見えていた速水奏は、軽くウィンク。


「人間として……男としてのあなたへの興味もあるけど、それ以上に蒼い幽霊と戦ってみたかったのよ」

「おのれ……」

「奏って呼んで」


奏は腰後ろのポーチにZガンダムを仕舞い、また僕の懐へ入ってくる。


「まずはそれからでもいいから……」

「恭文、さん……!?」


…………そこで殺気を感じる。

左側を見ると、卯月が瞳を赤くして……一歩ずつにじり寄っていた。


「やっぱり大きくて、大人っぽい人が好きなんですね……!」

「卯月、待って! 誤解だ! あの、挑戦されたの! ビルドファイターとして」

「でも私、負けません! フェイトさんにも、ほしなさんにも……ジャンヌさんにも負けません! 私が一番の彼女になるんです!」

「話を聞いて!?」

「あらあら……これは話し合わなきゃ駄目ね」

≪そうですよ。フェイトさんには連絡しましたから、どうぞこのままジェットコースターみたいに駆け上がってください≫

「やめろ馬鹿ぁ! つーか誰のせいだぁ!」

≪The song today is ”Get Wild”≫


あれ、Get Wildを流し始めたぞ! つーかアルト……アルトか!

待て! このままなんかいい感じにエンディングとかおかしい!

僕が想定していたのは、ハードボイルドな感じなんだ! 『この街には、オレのような男が必要なのさ』的な!


崩れていく…………僕のハードボイルドが、崩れていくぅぅぅぅぅぅぅぅ!


「うりゅりゅー!」


ほらー! どこからかぱんにゃの泣き声も…………ぱんにゃ?

足下を見ると、灰色でふさふさな……茶ぱんにゃよりも一回り大きい子がいた。

ライオンみたいにやや逆立った毛並みの子は、くんくんと僕の周囲をかぎ回り……。


その様子に卯月も、奏も停止して、静かに見守り……。


「……うりゅ!」

「「「「「「――どちら様?」」」」」」

「うりゅりゅ! りゅりゅ……りゅりゅりゅー!」

≪なの!?≫

≪……Get Wildは後ですね≫

「アルト」


いや、僕も何となくだけど分かる。この子……この”人”は……!


≪白ぱんにゃ達のお父さんだそうです≫

「やっぱりぃ!」


だと思ったよ! このぱんにゃ、僕から白ぱんにゃ達の匂いがするって言ってるし!


「それに匂いも……うん、白ぱんにゃの感じが混じっているな」

「お姉様の言う通りですね……不本意ながら」

「不本意!?」




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常/美城動乱編

Stage12 『Law of the Krone』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでのあらすじ――――フェイト達に連絡した上で、急ぎ足で帰宅。

おかえりなさいとただいまのキスをしっかり交わし合った上で、灰色のぱんにゃを三人に会わせると……。


「………………うりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♪」

「うりゅ……♪」

「うりゅりゅー!」

「うりゅ!」


灰色ぱんにゃの上に、茶ぱんにゃ・白ぱんにゃ・黒ぱんにゃの順に乗っかり……そのまま家族揃って、楽しげにジャンプしだした。


「「「「うりゅりゅ! うりゅりゅ! うりゅりゅりゅりゅりゅー!」」」」

「合流が遅れていたお父さん……灰色だったのか」

「白ぱんにゃ達も間違いないと言っていましね」

「これで家族勢揃いかぁ……またエンゲル係数が増えるな」

「それも言わないで……!」


というか、そこはもう覚悟しているしね。

とにかく四人は団子状態を解除。灰色ぱんにゃは僕を見上げながらぺこりとお辞儀。


「うりゅりゅりゅ! りゅりゅ!」

「ううん、大丈夫だよ。このままいてくれていいから」

「「あーい♪」」

「双子も歓迎しているし……まぁ予防接種とかを受けてもらう必要はあるけど」

「うーりゅー!」


あぁ、問題なしかぁ。やっぱりペットというには、知能が高すぎるような……。

ヴィヴィオ達の調査を待つのも手だけど、ここは僕が直接向かった方がいいかもしれない。

……やっぱりみんな、魔力があるんだよね。魔法生物の類いなら……正体も気になるし。


でも、今一番気になるのは……。


「愛らしい子達ね……よしよし」

「白ぱんにゃちゃん、また大きくなりましたか?」

「うりゅー?」

「うりゅりゅー♪」


……なぜか卯月と奏が、家に来ていることだけどね! ちくしょお……どうしてこうなったぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クロが苦手な夏も終わり、秋口……お父さんがやってきた。


「うりゅりゅりゅ!」


お父さんは後始末とかもちゃんと終わって、なんの問題もないと髭を張る。それにはわたしも、お母さんも安堵。

……ここの優しい人達を、面倒事に巻き込みたくはなかったから。


「……うりゅりゅ」


すると、お父さんが感心した様子で恭文さんを見上げる。


「うりゅりゅりゅ、りゅりゅ」


女の子に押されると弱いのがアレだけど、自分に正直な匂いがする……今時珍しい子だって。


「うりゅ♪ うりゅりゅりゅりゅー♪」


だからわたしも、そうだよーって……正直で、優しくて強い人なんだよーって、胸を張って伝える。


「うりゅー」


お母さんもフェイトさんを見上げて、嬉しそうに鳴く。

……ちょっとドジで慌てると駄目な子だけど、この子も優しい子なのよーって。


それは他のみんなも同じ。私達は……本当に、家族として受け入れてくれて。


「うりゅりゅ、うりゅりゅりゅりゅ……うりゅ」

「「うりゅ!」」

「うりゅ……♪」


だからわたし達も……もうちょっとだけ、この優しい場所に腰を落ち着けることにした。

いつかは旅立つことになるけど、だからこそ……一緒にいられる時間を大切に。


でもそれなら、やっぱりちゃんとお話…………したいなぁ。


「……うりゅー♪」


ぴょーんって恭文さんに飛び込むと、恭文さんは優しく受け止めてくれる。

それで、あの……温かい手でわたしを優しく撫でてくれる。


「よしよし……」

「うりゅぅ……」


この手に撫でられると、なんだか駄目になる……。

温かくて、柔らかくて……それでとっても優しい太陽の手。


というか、蕩けて……なんだか幸せ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とりあえずぱんにゃ一家も揃い、すぐ後に凛達も帰宅。

いろいろあった一日だけど、万々歳で終わる…………んだけどー。


「……ねぇ、五億って……ポケットマネーの額なの?」


深夜〇時も近い中、なぜか泊まりになった奏が相談を持ちかけてきた。

仕方ないので僕とフェイト、フィアッセさん、リインが対応することに……。


「その前に、森へお帰り?」

「駄目よ。父さん達が赤飯を炊いて迎えてくれるには、まだ早いし」

「今回のことをどういう形で話しているのか、あとで詰問させてもらうから……!」

「なのですよ! というか……リインがいながら、また浮気してー!
しかもやっぱりどたぷーんな人なのです! 恭文さんはリインをなんだと思っているですかぁ!」

「今の流れに同意しながら、そのツッコミはおかしくないかなぁ!」

「どたぷーん……そう。でも、魅力的に思ってもらえるのは嬉しいわ」

「むかつくですー!」


リイン、落ち着いて! というか奏も近い近い! あの、ちょっと見えてるからぁ!


「まぁまぁ二人とも……えっとね、奏ちゃん。まず五億のポケットマネーって表現は……うん、使うところでは使うよ」

「話に入っていいの!?」

「うん。奥さんだし、頑張るから」

「フェイトー!」

「フェイトさんに舵取りを任せるのは大失敗だったのです!」


あぁ、でも時間がないし……え、フェイトの解説が意外すぎる?

一応フェイトも捜査官の端くれだったから、そういう巨大企業トップやら、政治家の資金力を知ってはいるのよ。


――その情報は、数時間前に逮捕した由良さんから……クローネの仕事相手だった人からもたらされた。

由良さん、346プロの内部事情が荒れているのを知って、いろいろと調査していたのよ。


そうしたらまぁ……美城会長は反省もなく、ポケットマネーでそれだけの額を引き出し、リベンジを図ろうとしていたわけで。


「役員報酬もそうだし、政治家の報酬も年間数千万単位が一般的みたいだしね。
しかも346プロは戦前から続く歴史もある会社。その後継者の資産となれば、それくらいはポンと出せると思う。
ただ……その由良さんだっけ? 個人的財貨を個人的に支出って言ってたんだよね。弁護士を通さずに」

「えぇ」

「普通そういうお金って、税金対策なんかも兼ねて金庫番の弁護士を付けるものなんだ。
それを通さなかったというのは、さすがに……ヤスフミ」

「三億については僕達も把握していたけど、そこから追加で二億……それも今日のうちにだからねぇ。
多分今西部長が765プロ事務所に来て、返り討ちに遭ったのが影響している」

「あとは使い道だよね。あの、株を買い直すの? でもそれ……逆に五億で足りるかなぁ……!」

「足りないし、買い直しそのものが不可能だよ」


――ではここで、改めて美城の株がどうなっているかを解説しよう。


「五割を会長と常務が折半する形だったけど、それは二人が決裂したことで崩壊している。
常務の持ち株は市場に出回っていたものも含め、全て縁者が確保しているわけで……」

「ふぇ? でも常務さんの株は…………あ、そうだよね! うん、そうだった!」

「つまり、現時点で美城会長は筆頭株主でもなんでもないのよ。
しかもこの状況を覆すなら、保有株が五割を超えるだけじゃ足りない。
美城縁者から共益権を奪わないと、結局株主総会で責任追及を受けて……アボンだ」

「縁者さん達を黙らせるためにも、美城常務を改めて引き込んでーとか考えているかもしれないね。
でもそれだと、やっぱり五億じゃ……その三倍か六倍くらいないと」

≪なら、お金の使い道はまた別なの?≫

「間違いなくね。そもそもここまで確執が進んだ状態で、縁者が株を売るわけがない」


となると…………ち、面倒なことになってきたねぇ。

でも仕方ない、社長と律子さんには”万が一のとき”にはって許可ももらっているし……上手く動くか。


「……奏、忍者を雇ってよ」

「忍者を?」

「僕じゃない。僕の知り合いに凰鈴音ってそこそこできる奴がいるから……ソイツをボディガード代わりに雇って。
依頼料は美城常務にも話を持ちかけていけば、なんとかなるよ」

「どういうこと、かしら」

「今も言ったように、株となると五億でもどうなるか分からない状況だ。
でも………………暴力で誰かを屈服させるのが得意な奴らを、こき使うには十分」

「――!」


僕の言いたいことが分かったようで、奏がゾッとした表情を浮かべる。


「あの……」

「あり得るですよ、それ」

「「…………」」


しかもフィアッセさんやフェイト達も、慌てた感じじゃないのが余計に……ねぇ。


「実際……僕が関わった事件で、そういう状況はあった。
ある秘匿研究に携わっていた研究者が、反乱を画策してね。
その研究の情報保護に動いていた特殊部隊一つを、丸々籠絡したのよ」

「そのときも、五億?」

「そのときは十億」

「じゅ……!?」

「政治家も多数絡むような案件でね。ソイツはツテでそれだけの金を……政治家のポケットマネーをもらえたのよ」


言うまでもなく、雛見沢……入江機関と、鷹野三四の件だ。あのときも確か……富竹さんはゾッとしたって言っていたなぁ。

なにせ鷹野はそういう金の匂いを……贅沢やら、服装やら装飾品の豪華さやらを、一切匂わせていなかったから。


「もちろんスキャンダル関係での攻撃もあり得る。なんにせよまともな手段を取るとは思えない」

「だからこそお金を実弾なんて表現するしねー」

「……それを込めて、撃つ銃があれば、どうとにでもできる……」

「だったら、特に常務さんが危ないよね! 株も持っている……うん、持っているし……ヤスフミ!」

「だから常務にも話を通してって言ったのね……あなたは」

「もちろん美城の縁者にも警戒させておく。……しかしあのアホども」


まぁまぁ分かってはいたけどね。それでも腹が立って、カップに入ったホットミルクをぐいっと飲み干す。


「結局常務も、おのれらのことも見ていないのよ」

「……私達は、あくまでも彼らの総意を入れる器であればいい?」

「そういうことだ」


常務も……まぁいろいろ不器用なところはあるけど、僕的には面白い奴だと思っている。ツッコミもできるしね。

アイドル部門だって当初伝えられた形と全然違うけど、そんな常務に引っ張られる形で、どんどん変わってきている。

もしかするとクローネは、本当に見上げる王冠になるかもしれない。


そうして示すのよ。

日高舞のような強烈なスター性に依存するだけではない――。

今までの部門のように、豊かな個性だけでもない――。

スター性と個性。今までどこかで相反するしかなかったものを、高い次元で融合させる……新しい美城アイドルの形を。


それはまぁ、結局プロデューサーとしてはあまり動けていない僕からしても、魅力的な夢物語で。

だから余計に……ううん、だからこそと言うべきなのかもね。

奴らは結局、それを怖がっているんだ。そうして今まで焦がれていたものが否定され、過去に追いやられるのを。


それを人生の否定に等しいものだと……怯え、竦んでいる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それから少しして――今日は、チョマーさんからお願いされた新しいお仕事。

というか、その顔合わせ。また井沢ホテルにおじゃまして、その宴会場に入る。

立食パーティー形式で、たくさんのテーブルとお料理、楽しげに会話する男女が入り乱れて。


その外側には、ガンダム作品の写真がずらーっと。更に第七回世界大会のバトル写真も……ちょ、ちょっと恥ずかしい!


『――というわけで、ガンダムビルドダイバーズ! 来年一月から放映開始となります!
アフレコについては十二月中から、みなさんにお願いしていきますので……どうかよろしくお願いします!』

『よろしくお願いします!』

『ひとまずみなさんには、今後お仕事に備えて鋭気を養っていただければと思います!
それとお帰りの際には、お土産もございますので!』


壇上に上がっていたプロデューサーさんが見せたのは…………主役機のダブルオーダイバー。というか、強化パーツを装備したダブルオーダイバーエース。

それと、あれは……隣り合うパネルに描かれているのは、なに?


ハロに……ハロにこう、スチームパンク的なパワードスーツに載せられていて。

いわゆるSD的で、手足も細い……というかデフォルメメカっぽい。というか鳥山メカっぽい?


『HGBD≪ダブルオーダイバーエース≫。そしてお隣は、ビルドダイバーズの商品展開に合わせ、発売予定の≪プラハロ モビルハロ≫!
劇中でもゲームの無料体験キャラとして登場予定ですが、こちらもプラモとして作ることになりました!
――今回、バンダイさんとヤジマ商事さんにご協力いただき、これらのテストショットをご用意いたしました!』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『なおテストショットとは言いますが、箱や説明書の使用は商品そのまま!
この打ち入りが終了後、モビルハロについては商品も正式発表いたします!
SNSに書き込んでも情報漏洩になりません! 素晴らしい!』

「マジか……マジかマジかー!」

『こちらの方もお手隙の際に作っていただき、より作品を……ガンダムビルドダイバーズの世界を知っていただければと思います!』


おぉぉぉぉ…………ガンプラがもらえるとはー! つい興奮してガッツポーズ。

しかもダブルオー……ダブルオーダイバーだよ! HGのダブルオーに追加パーツを合わせたものなんだって!

あの、過労死同盟に入ってもいいくらい酷使されている、HGダブルオーだよ!


メイン機体として使っていたこともあるので、ついガッツポーズ。発売から四年とか立っているけど、未だに一線級だしなぁ。


≪テンション上がってますねー≫

「モビルハロもいいよねー。……マシーネン塗りしようかなぁ」

≪でも主様ぁ、ラッカーはアイリちゃん達が……ぱんにゃちゃん達も≫

「あ、アクリルで頑張る……」


見ての通り――今度のアニメは、ガンプラバトルでMMORPGという世界観らしい。

ガンプラバトル・ネクサスオンラインというネットワークゲームが大人気な世界で、チャンピオンに憧れてバトルを始める主人公と親友。

その二人を中心に、ハイランカーや同じ目線のライバル達が切磋琢磨し、様々な冒険に飛び込んでいくってお話だ。


いいねいいね……プラモシミュレーションでネットゲームだよ! ある意味こっちの方がプラモ狂四郎に近いよ!

しかもゲームだからこそできることもあるし……もらったプラモを作りながら、いろいろ考えようっとー♪


「そう言えばお兄様、ガンプラバトルのアニメというのは、今まで……」

「ガンプラビルダーズくらいかなぁ。
ただあれは店頭で流す広報アニメで、テレビアニメとしては話していた通り」

「それに参加できるなんて、さすがはお兄様です」

「気合いが入るよねー!」

「それより肉だぞ肉! あ、ポテトサラダも美味そうだぞ!」

「はい、ストップー!」


そこで飛び込んで、ポテトサラダを全部食べられても困る。

なのでヒカリは右手で制止して……なんか、引きずられるけど踏ん張って……!


「下手に動くな……!」

「恭文?」


僕は集中していた……そして警戒していた。

ご飯の味を覚えて、またフェイト達に作ってあげたい……それはある。

でもそれ以上に、気をつけなければならないことがある。


「もしも、ゆかなさんがビルドダイバーズに出演していたら――この場にいたらぁ!」

「……お前……」


ヒカリ、そんな呆れた顔をせず、辺りを見渡してみてよ。


「その前に気にするところがあるだろうに……」

「――御主人様、どうぞ……新しいドリンクです」

「あ、どうも」


メイド服姿のちひろさんから、お茶を受け取り一口……うん、いいお味。さっぱりするダージリンかな?


「御主人様、ご飯を取ってきましたー」


それでメイド服姿の卯月も……あぁ、ローストビーフやフライ、リゾットなんかを野菜と一緒に揃えてくれて。いい子だー。


「うーん、卯月ちゃんはまだ盛りが甘いかな。
……御主人様には、これくらいドーンといかなきゃ!」


そしてメイド服姿の美奈子も、卯月の五倍くらいどーんと乗せた皿を持ってきてくれる。

そう、だから……だからこそ…………僕は問いかけるしかない。


「……………………どちら様でしょうか」

「恭文さん!?」

「もう……私は、あなたの事務員≪メイド≫ですよ?
もちろん朝から晩まで、御奉仕いたしますので」

「わ、私だって負けません! もちろん大人なことも……頑張ります!」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なんでだぁ! 今更だけどなんでだぁ! なんでメイドとして三人がついてきているんだぁ!

だからね、視線を集めているんだよ! 知っていたよ! ヒカリの言う通りだって……でも忘れたかったんだよぉ!


どうしてこうなったのかと頭をかけて、振り返るけど…………やっぱり分からない!


「御主人様、あーん♪」

「あー、あーん」


そして美奈子には通じない……ローストビーフ、ポテトサラダ……どんどんアーンで食べさせてもらう。

美味しい、美味しい……さすが井川ホテルのお料理。でもね…………コイツはバーサーカーだ! 状況をガン無視しているし!


「お兄様はそれとして……まず千川さん、どういうことですか」

「まさか、フラグを……!」

「いえ、フェイトさん……奥様から頼まれまして。晴れの舞台なので、サポートが必要だろうからと」

「私も同じくなんだー。はい、あーん」

「あ、あーん……」


白身フライをしっかり頂き、食べて……飲み込んだ上でツッコミ! ツッコミです!


「…………だからってメイドはないでしょうがぁ! しかもそのままの格好でここまできたしぃ!
目立っているんです! 卯月と美奈子ともども、ちひろさんは目立っているんです! まるで主役気取りでしょ!」

「そうですね、私はあのとき……自分が主役というか、ヒロインのように感じていました。
メイドのバイトにかこつけて、彼に求められるまま身体を開き、愛し合っていたときは」


どういう振り返りしてるんですかぁ!? というかやめろぉ! 美城常務にもその話は駄目って言われたでしょ!


「や、やっぱりちひろさん、恭文さんのことが……!」

「それに……蒼凪プロデューサーはいずれメイドさんも雇っていくでしょうから、私で練習しておいた方がいいかと思って。
えぇ、私は教えられますよ? メイドさんが恋人というシチュについてはとても詳しいんです」

「それは、私的にも教えてほしいです! 御主人様にはもっとずっしりしてほしいですし!」

「そうね。もっとしっかりしないと、ハーレムも成り立たないかも」


だからやめろぉ! 振り返るなぁ! この場でそれを振り返るなぁ!

それじゃあ僕がちひろさんに、エッチな御奉仕も望んでいるみたいだろうがぁ!


あと美奈子は目的が何か違う! ちひろさんは精神的なものと勘違いしているけど、コイツは体重的なものだ!

おのれ…………やっぱりデブ専かぁ! 察してはいたけど!


「なので蒼凪プロデューサーに……御主人様につきましては、お手つきでメイドを弄ばないよう、私がしっかり監督したいと思います」

「そんなことしないよ!」

「えぇ。ちゃんと一人一人に責任を持って……それでこそ御主人様です」

「独自解釈を推し進めるなぁ!」

「…………私も頑張ります!」


卯月は駄目ぇ! 卯月はアイドルゥ! さすがにそれを公言するとかあり得ないー!


「私も御主人様のため、頑張りますよー。……はい、あーん♪」

「あ、あーん……」


美奈子が有無を言わさない! コイツはヤバい……知ってはいたけど、愛が重たい!


「なら私も、まずは卯月ちゃん達にレクチャーする感じで頑張りますね」

「絶対やめてもらっていいですか!? 美奈子はもう諦めるしかありませんけど、卯月のお父さん達には申し訳がないので!」

「駄目です」

「ちひろさんー!」

「……二人の気持ちも、ちゃんと考えてください」


え、なんで叱られるの!? 仕方ないって様子で……しかも軽く呆れてぇ!


「フェイトさん達のプレッシャー、凄いんですから。しかも蒼凪プロデューサーはハーレムしていますし」

「う……!」

「もちろん卯月ちゃんは、今後の進路も考えている最中です。恋愛だけが全部になるのは駄目です。
……だけど、その中でも……あなたが卯月ちゃんにとって、本当に運命の人だということは、忘れないでください」

「ちひろさん………………だったら、この流れについてもおかしいという事実を、忘れないでもらえると」

「私にとってはこれが日常でした」

「その過去は忘れていいと思うなぁ! というか、分かっています!?」


さすがにあり得なくて、左手で場を指す……この、凄い場を!


「――スタッフさんはサンライズの精鋭ばかり! キャストさんも超豪華!
そんな中、僕が……僕だけが! メイド同伴なんですよ! どんな貴族ですか!」

「なんですよねぇ。でも実は私、アニメ関係はそこまで詳しくなくて……卯月ちゃんは」

「多少はって感じですね。
えっと……オルフェンズにも出ている速水さんもいますし」

「そうだよ! 超ベテランだよ! 大御所だよ! ガンダムにも何度も出ているよ!」

「五十代とかだよね? こう、凄くダンディでカッコいいなぁ……。あれでもう二回り大きければ」

「美奈子、そこまでだ!」


僕、マジでお会いしたとき叫びそうだったもの! 少し古いけど、エルガイムとかオーガスとかも好きだもの!

もちろん第08MS小隊のギニアスとか! 最近HGUC 陸ジムの絡みで出てきたザ・ブルーディスティニーのニムバスとか!


そう言えばリメイク漫画版のBD2号機と3号機、なんか陸ガンじゃなくてオーガスタ系≪RX-80≫なんだっけ!?

いわゆる違う世界戦で、最新設定を盛り込んだって感じだよ! プラモが出るの楽しみ! だってペイルライダーとかと同系列だし!

なんかそれで原作と違うとか批判もあるそうだけど……小さい小さい! 世界線が違うんだからいいんだよ!


というか、それは劇場版ドラゴンボールやら、平成ライダー前半の映画とかを見て言えるのかな!? 奴ら、割りとパラレルとか平然と出してくるぞ!

……っと、閑話休題。現状に戻るけど……ヤバいヤバいヤバい! 僕はやっぱり悪目立ちしている!


≪でも速水さんは、あれですね。遠坂の凛さんと桜さん……お父さんの時臣さんを思い出しますね。ついでにルヴィアさんも≫

「それは、言わないで……」

≪いいじゃないですか。あなた、言われたでしょ。ハーレムはしておくものだと≫

「あの人はおかしいからね!?」


閑話休題だったはずなのに、アルトがまた余計なことを! というか凛と桜については……いや、今はいい! やっぱり現状だ!


「それに千早の付き添いで何度かおじゃました、Gレコにも出ていた諏訪部さんとか!」

「あ、あの方なら分かります! 莉嘉ちゃんが聞かせてくれたBLCDに出ていた人です!」

「BL!?」

「はい! なんか……す、凄かったです……」

「……御主人様」

「…………莉嘉ちゃんには、事情聴取が必要かもしれない」

「えぇ……! こう、対象年齢がどの層なのか……きっちりと」


ちひろさんも決意の炎を燃やしているようで何より…………じゃない! だってまだまだいるもの!


「まぁそっちはちひろさんに任せるとして」

「それは……仕方ないですよねー」

「ほら、まだいますよ!」


次に指すのは、女性陣の中でもひときわ小さい……というか僕より小さい方。あの人もこっちを見ていた。


「あむと声がそっくりな伊藤さんとか! 大正野球娘とか、とある科学の超電磁砲とか……佐天さんはあむより年上に見える。
あ、でも僕よりちっちゃい大人の女性って久々に見たかも! 姉弟(菜々さん)は十七歳だしね!」

「えぇ! そこは大事ですね!」

「ちひろさん、圧が強すぎませんか? というか御主人様もテンションが高い……」


えぇい、美奈子は細かいことを気にするな! 姉弟については仕方ないんだよ!


「バトスピ覇王や新鬼武者に出ていた羽多野さんとか!
凄い主役キャラやりまくっている松岡さんとか!」

「松岡さん……あ、私も知っていますよ! ソードアート・オンラインとか、最近やっているジャイロゼッターとか!
杏奈ちゃんと百合子ちゃんが圧凄くて!」

「ジャイロゼッターはいいよ……井上麻里奈さんも出ているし、OPがマッチだからね。マッチだからね」


レッツゴーレッツゴー……っと、いけないいけない。つい一人一人掘り下げようとしてしまう。

でも松岡さんは凄いよ! ソードアート・オンライン、凄いよ! もう大人気だもの! そう言えばJupiterの翔太に声が似ていたね!


あ、今作の主役の方も忘れちゃいけないね!


「『RE:死んでも続ける異世界転生』ってなろう小説で主役をやって、凄い売れてきた小林さんもー! つーかカウレスと声そっくり!」

≪あぁ、そう言えば……一度絡ませたいですねぇ≫

「あとあと、オルフェンズでシノも演じている村田さんもいるし…………森さんも、いるんだよね……!」

「あぁ……あの背の高い方ですよね。有名な方なんですか?」

「元宝塚劇団員」

「「宝塚ぁ!?」」

「二人とも、本当よ。私も何度か見させてもらったことが……」

「僕も実は、ロシアン・ブルーの舞台を見ました」


森さんについてはミス・ユニバース・ジャパンファイナリストという経歴もあるし・というか、わりと最近だよ?

でも声優業って……宝塚で鍛えてきたなら、きっと凄いんだろうなぁ。楽しみだなー。


「あ、それと346プロの櫻井桃華と声がそっくりな、女性声優の照井さんもいる! 見ていたよ、『勇者は五十鈴刀鎧である』!」

「桃華ちゃんとですか!」

「あとあと、≪アイドルグランドマイスター≫って育成ゲームに出ている沼倉さん! あっちは響と声がそっくり!」


なおアイドルグランドマイスターっていうのは、弱小事務所のプロデューサーになって、アイドルを育成するってゲームでね。

そのアイドル達が個性豊かで、アーケードゲームだったのがコンシューマやらスマホゲーになったりで、大発展しているのよ。

なお、続編が出るたびにいろいろパラレル的世界線でやっているから……やっぱり劇場版ドラゴンボールとかで鍛えられた僕達にとっては、受け入れやすい。


「その近くにいる田丸さんも! 実は僕、魔法科高校の劣等生に出てくる幹比古がいいキャラしていると思うのよ!
あ、でも最近なら学園都市アスタリスクもあるか! OPカッコいいよね! もうフルでうたえるよ!」

「恭文さんが止まらない……」

「御主人様、基本的にアニメやゲームも大好きだからなぁ」

「やかましいわ! というか、止まらない原因はおのれらなんだよ!
そんな凄いメンバーに注目されまくっている原因は、おのれらにあるんだよ!」

「大丈夫ですよ、御主人様。卯月ちゃんと美奈子ちゃんも……もちろんこの私も、堂々としていればいいんです。
そうすればこの場にあったかのように、違和感もなくなり」

「そうして堂々とした結果、給料泥棒しながら御主人様といちゃついていた駄目メイドでしょうが! あなた!」

「…………えぇ、そうですよ! ベッドはもちろん廊下やお庭、お風呂まで御奉仕していましたよ!
普通そこまでしたら結婚とか思うじゃないですか! だから頑張りましたよ! それの何が駄目なんですか!」

「暴露を続けながら切れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


駄目だ、ちひろさんは放っておこう! とにかく凄いメンバーが……ベテランから新人まで揃っているのよ!

さすがはガンダム! ついつい流しがちだけど、巨大なコンテンツだよ! 実力派をばしっと揃えているよ!


詰まるところ何が言いたいかっていうと………。


「………このまま、モブとして会場を出たいです」

「駄目ですよ、御主人様……私達の御奉仕も受けていませんし」

「そうです! 私、頑張ります!」

「だって、だって、ゆかなさんと共演したことのある人が、ちらほらと……」

「「…………ぁ…………」」


そう、二人も察してくれた。


「御主人様、例えば?」

「……伊藤さんは、バトルスピリッツブレイヴで……わりと終盤だけど。
波多野さんは新鬼武者で……ほら、柳生の」

「あれかー!」


そして美奈子も察してくれた。

…………また、あの噂についてツッコまれたらぁ! さすがに死ぬ! 死んでしまうー!


「腹を決めろよぉ。そうしたらもう上手くやるしかねぇだろ」

「無理無理無理無理無理ぃ! ショウタロスの鬼ぃ! 悪魔ぁ! ちひろぉ!」

「私を巻き込まないでもらえますかぁ!?」

「ポリシーは最初からクライマックスだろうが!」

「こんな状況でクライマックスとかできないー!」

「お兄様は日奈森さんですか?」


シオンが何か言っているけど、頭を抱えて打ち震えるしかない。


「というかお兄様、よーく周囲を見てください」

「分かってる! みんな見ているんでしょ!? 視線を集めまくっているんでしょ!?」

「ゆかなさんや島村さん達のことだけじゃありません。お兄様は仮にも世界大会でベスト2に入り、四月には決勝戦も控える身。
……ここは堂々としてください。世界を背負う男として……そして、私の夫として」

「最後おのれの欲望じゃね!? つーかなんでどいつもこいつも、欲望に忠実過ぎるのよ!」

「お前がそういう奴だからだろ……察しろよ」

「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


そうでしたぁ! 僕も自分大好き人間だったぁ! そりゃあそうなるよね! ならない理由がないよね!


≪大丈夫ですよ。あなたならいつもの調子でフラグを建てていきますから≫

≪なのなの。主様、自分を偽ることなくさらけ出していくの。
ほら、照井さんとか主様好みだと思うの≫

「おのれらまでぇ!」


だって、だって、だって……幽霊って思われてぇ! ハーレムも引かれてぇ!

しかもライブ会場で目をキラキラさせていたのが見えるなら、もうライブにも行けないよね! 目立っちゃうし!


どうしてこんなことになってしまったんだぁ! 僕はただ、ゆかなさんにドキドキしまくっていただけなのにぃ!


「まぁまぁ、落ち着きましょうか」


すると、細くて柔らかい手に肩を叩かれ、背中も軽く撫でられる。

それにこう……甘くて優しい匂いが、ふわりと。これはコロンの匂い?


「はい、深呼吸ですよー」


それで深呼吸……すると、なんとか落ち着いてきて。

そうだ、僕はまたガンダムに出る……泣いている場合じゃなかった!


「落ち着きましたか?」

「はい。ありがとうございま…………」


そうして振り返って、その明るい声の正体と向き合う……というか確信する。

だって……滅茶滅茶知り合いだったから。


「………………姉弟かよ!」

「第一声ひど!」


そう、ソイツは安部菜々。相変わらずウサミンとして生きている女だった。


「菜々さん!」

「はいー! 卯月ちゃん、ちひろさん、美奈子ちゃんもお疲れ様ですー」

「「「お疲れ様です」」」


いや、挨拶している場合? 確かに現場での基本だけど!


≪菜々さん、なんでいるんですか。靴磨きのバイトですか?≫

「それは円満退職していますから!」


なんで経験があるの……!? というかそれ、十七歳がするバイトじゃないよ! やっているとしたら家なき子くらいだよ!


「というか、菜々も出演者ですよ!」

「はぁ!?」

「オーディションを受けたら、モブ的にちょいちょいお邪魔させてもらうことになりましてー! やっぱりアイドル、辞めないでよかったですー♪」

「なによ姉弟……一緒に地獄へ落ちたいの? まぁホッパーゼクターとベルトも送ったけど」

「えぇ、送ってくれましたね! ガチに変身できて、クロックアップっぽい何かができるオーパーツを! でも違いますからね!?」

≪〜〜〜♪≫


おぉ、ホッパーゼクターも一緒かー。姉弟の肩に乗っかって嬉しそうに……僕も制作者として元気なのは嬉しいので、軽く撫でてあげる。


「しかもこの子、ボディガードみたいについてくるしー! どういうことですか!」

「異世界を旅したとき、モノホンと出会ったから……それでコピーを」

「その冗談か本気か分からない告白、やめてくれませんか!?」

「……蒼凪プロデューサー、うちのアイドルを戦闘要員にするつもりですか?」

「義姉弟の契りですよ」

「変身アイテムを送る契りは、間違いなく戦闘要員化フラグですよね!」


今はメイドで、事務員じゃないちひろさんには何も言われたくない……ゆえにスルーして、姉弟の笑みと向き合う。

だって、確認しなきゃいけないことがあるから……。


「……いやー、でも蒼凪プロデューサー達に会えてよかったですよー。実は菜々、ちょっと心細くて」

「姉弟、ゆかなさんと遭遇したら盾にしていい?」

≪!?≫

「会話してくれませんか!? というか落ち着いてくださいよ! 確かに……もう業界中の噂ですけど」

「それで落ち着けるかぁ! つーかなんでおのれはそこを認識してるんだぁ!」


ゲームショーで魅音が話したってだけじゃないよ! ちゃんと……業界の中で噂を聞いたって感じだもの!

そりゃあ菜々さん、アニメの仕事もちょいちょいしているけど! でも……ねぇ!


「そりゃあもう……ほら、あそこにいる中原さんから、いろいろお聞きしましたし」

「へ?」


……スタッフやキャストさんと談笑している、ボブロングの女性。

すらっとした体型に切れ長の瞳は、どこかハーフっぽい印象も抱かせるんだけど…………うん、知っている人なんだ。

千早がGレコに出演したとき、アフレコのイロハを教わってね。その流れで765プロの面々とも顔を合わせているのよ。


でも、おかしいなぁ……メインキャストの中に、お名前が……。


「中原さんは、後半から出演されるそうですよ。今日はまぁ、お暇だったということで」

「あぁ、そういう…………………………あれ?」


…………そこで、軽く血の気が引いてしまう。


「恭文さん、どうしました?」

「…………中原さんは、ゆかなさんとの共演作が結構多いんですよー」

「えー!」

「お二人とも、十年以上活躍している実力派さんですからねー」


そう、中原さんは……ゆかなさんとの共演が結構多い。

あの、僕が大好きな舞-HiMEもそうだし……。


「魔法少女と言いながら、メカ武器でドンパチする『魔法少女ルナテックこのは』の第三期でも共演していた……」

「蒼凪プロデューサーもあれ、見ていたんですか!」

「戦闘シーンが大好きでね。このはが目つぶしや首折りもよく使うから、実にリアルで納得がいくものだった」

「いや、どんな魔法少女ですか!」

「でもあの共演は凄かった……タイトルが『魔法戦記ルナテックこのはDestroyers』になっていた時点で察するべきだった」

「ですよねぇ……」

「名前が不穏すぎますよ!」


つい姉弟としみじみしてしまう……。

最初はこのはやこれまでのメインメンバーが設立した『外殻戦技対策部隊:ライアーズ』の新人隊員で、教え子の役だったのよ。

あの、名前がティアラ・メイソンって言ってね。どっかのツンデレガンナーと違って素直ないい子なのよ。


でも教導やら現場での方針から行き違い、衝突……このはと仲間達が話し合おうとするも、それを偽善と両断して部隊から出奔。

それも致し方ないことだった。このはや親友のメイラ達は、過去作の事件では敵……犯罪者扱い。

そこから超法規的に一般生活へ復帰したので、元犯罪者の集団として疑わしく思うしかなかったのよ。


その後独自に事件を追いかけ、このは達とは別組織のトップに見初められ、そこの捜査官として活動。

最終的にこのは達とはライバルとして再会し、ライアーズ設立に潜んでいた暗部を暴き、その活動を停止させたんだよね。


それまで培った人間関係も、信頼も、復讐が如く奪われたこのは。

それとは対称的に、本筋の事件……その黒幕へ迫っていく教え子。

失意のこのはは血を絞り出すような思いで、一人の魔法少女として戦いを挑み……あぁ、あの最終回は何度思い出しても泣ける。


……え、まだ見ていない? 大丈夫、DVDとBlu-rayBOXも出ているから、今すぐTSUTAYAとかでチェックだ。


「でも卯月ちゃん達、このはは見てないんですね」

「はい……。というか、それは本当に魔法少女ですか?」

「魔法少女という皮を着た、蒼凪プロデューサー寄りの女の子が大暴れするお話と考えてください」

「「「あぁぁぁ…………」」」

「え、僕よりじゃないでしょ。戦闘ってああいうものでしょ? 僕でもそうする、誰でもそうする」

「誰でもしませんから! でもそうなると……あ!」


このはは深夜枠でもあったし、さすがに……そう思っていた菜々さんが、パンと拍手。


「それなら、侍少年ナギー! こっちは分かりますか!?」

「あ、はい! 大好きです! ……そう言えば……ゆかなさん、ナギーのメインヒロインというか、ソウルパートナーのリリィちゃんをずっと」

「あとあと、ワルキューレランサー編のシルビアとかも……射撃の名手、カッコいいですよねー」

「私は超時王編が好きです。あれでパラレルワールドも舞台になるようになりましたし……」

「そこから二人の世界編……最高でしたよねー! 各世界のナギーやヒーローが集まっての大決戦! 見開きは燃えましたー!」


そう……実はゆかなさん、侍少年ナギーにも出ているのよ。

……………………リインやらシルビィモデルのキャラでね!


なお、超時王編が良太郎さんやモモタロスさん達と会ったときのこと。

二人の世界編が、ダブトの僕と士さんのお話です。ワルキューレランサーは親和力事件だね。いろいろ脚色しまくっているけど。


「中原さんは、そこに出てくる”マイティア”ってキャラを演じているんですよー」

「鬼道六家編ですね! 確かそれは……」

「しかも滅茶苦茶人気キャラじゃないですか! スピンオフで主役を務めることも多いし!」

「舞台版に楓さんと瑞樹さんも出演したわね。あれもよかったわ」


そしてマイティアというのは……はい、ティアナモチーフのキャラです。鬼道六家は言うまでもなく機動六課のこと。

でね、この鬼道六家編が滅茶苦茶人気で……アニメや小説、舞台、劇場版、実写ドラマという形で何度もリメイクされているのよ。

そのたびに展開がいろいろ変わってくるから、もはやライフワーク中のライフワークと言うべき状況になってきた。


「あ、でも……そうだ! お写真を見たことがあります!
あの、スピンオフのエクス編と、その二部作の煌臨魔獣編の劇場版で! パンフレットに載っていました!」

「卯月ちゃんも? あの、実は私も……志保ちゃん達と一緒に見に行ったから」

「あとは、せみぐらしの鳴く頃に編のナレアも兼ね役ですよー」

「ナレアの方でもあるんですか!」


なお、エクス編はイクスと関わったときのお話。

せみぐらしの鳴く頃に編は、雛見沢でのあれこれ。ナレアはレナのことだね。


煌臨魔獣編は……実はねぇ、ルネッサ・マグナス(マリアージュ事件の首謀者)のアホ、もう一つテロ事件と関わっていてさぁ。

それが逮捕後しばらくしてから判明して、あむ達とシルビィ達が駐屯している世界……パーペチュアルへ向かったのよ。


そうしたらもう大変。シルビィ達と、向こうの知り合い……ブルーフェザーって部隊のみんなと協力して、地下でドンパチを……。


「でも煌臨魔獣編はよかったですよねー」

「はい! 異次元から召喚される煌臨魔獣達! その謎を追うクレッシェンドブルーとマイティア、そしてナギー達!」

「地下水路を使って、街全体に魔法陣を……って下りは見ていてゾクッとしました!
それに魔獣も滅茶苦茶強くて、戦闘上手のナギーも”打つ手なし”ってくらいまで追い込まれて……」

「それで最後、濁流に呑まれたナギーを……みんなで探して、見つけるところが……感動的なんですよね。
あの、ナギーを探すときの、マイティアの台詞……いいですよね……!」

「はい……。『私のお尻を触ったんだから、責任を取りなさいよ! ハーレムでもなんでも覚悟してあげるから!
私も……責任、取ってやるわよ! アンタにそこまでさせて、助かったんだから……だから……だからぁ!』…………って」


あ、うん……大体そんな感じなんだ。


「それでそれで、今メインでやっている夢のたまご編も楽しいですよねー。というか、しゅごキャラとこころのたまごが題材って……」

「草薙まゆ子先生も、しゅごキャラが見えているんでしょうか」

「かもしれませんね。…………っと、そうだ! あの伊藤さんが、ムーアちゃんの声優さんなんですよー」

「そうなんですか!?」

「わぁ……私、ムーアちゃん大好きなんです! いや、でも……ここは自重……一応お仕事場ですし……」

「辛いところですねー」


こっちはあむ達との出会いや戦い……なお、あむはムーアっていう滅茶苦茶可愛いキャラにアレンジされている。

でも、でも、その話で盛り上がるのはやめて? 僕が突き刺さるの……心が痛いの。


「でもだからこそ…………御主人様に逃げ場はないと」

「…………えぇ」

「「…………」」


やめてぇ! ちひろさんも、姉弟も、やめてぇ! 今侍少年ナギーの話をするのもやめてぇ!

あれ、真雪さんが脚色してはいるけど、ほとんど僕の冒険譚だって……アイディア料で隠し財産を作っているのとか、バレそうだからやめてぇ!

というか、真雪様と慕うしかないよ! だって僕がザックリと話したあれこれ、人様に迷惑がかからないよう面白おかしくアレンジしているしさぁ!


しかも中原さんとは…………実は、その真雪さんが上京するときとか、Gレコでの付き添いを通じて顔見知りで。

いや、中原さんってデビューしたすぐ後くらいに、真雪さん著作のアニメに抜擢されたことがあるのよ。

その後もキャリアを積む中で、ちょいちょい出ることがあって……その絡みで………………ヤ、ヤバい。


僕が世界大会に出る前の話だったから、幽霊とかのことは聞いてなかったんだけど……もしや、もしやぁ!


「きょ、姉弟……」

「……中原さんも、いろいろ覚えがあったそうですよ? 瞳の輝き辺りで」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「というか、ナギーやテイルズに出ている声優さんはみんな覚えがあったとか……」

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!」

「で、でも安心してください! いろいろ対策を整えたそうですから!」

「……そうそう。私達もはやし立てたから」


そこでびくりと震える。

すると、いろいろ話していたはずの中原さんが……!


「お久しぶり、やっくん」

「お、お久しぶりです……!」

「千早ちゃんは元気かなぁ。アフレコ終わってから、会う機会もなくてー。みんな寂しがってたんだよ」

「えぇ、それはもう……! また何かしたいなーって話はよくしていて……そ、それで……中原、さん?」

「幽霊の話でしょ? 大丈夫……実はね、やっくんだけじゃなくてリインちゃんも噂されていたんだけど」

「リインも!?」

≪いや、当然ですよね≫


だよねー! だってリイン、僕と一緒にライブへ行くことも多いし……そりゃあ目立つよ! 風貌は幼女だもの!


「えぇ、そうらしいのですよ……」


…………そうして、その影からにょろっと出てきたのは…………メイド服姿のリインだった。


「…………何をしてやがりますか?」

「恭文さんがメイド浮気をしないよう、リインも御奉仕しにきたです!」

「どうやって入り込んだぁ!?」

「君の関係者ってことで顔パスだったらしいよ?」

「…………おのれらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『まぁまぁ』

「納得できるかぁ!」


ヤバい、なんか……リインも圧が強い! というか菜々さんの……こら! 胸部装甲を見るな! 菜々さんは十七歳なんだ!


「とにかく、その話なら大丈夫なのです!」

「え」

「私がいい方法を考えたの。ほら、私も幽霊だってはやし立てた一人だし……責任感じちゃって」

「中原さん……!」

「いい?」

「はい!」

「ゆかなさんはあくまでも初恋。
やっくんは今……それを振り切って、私に夢中だって公言するの」


その予想外のカウンターに、僕とリインは躊躇いなく床に突っ伏した……。


「……やっくん、リインちゃんもどうした?」

「…………なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「何か問題?」

「問題だらけでしょうがぁ!」

「ですです! それだとまた……リインは浮気なんて認めないのですよー!」

「でもほら、私みたいな……性格もよくて、ルックスもいい女を好きになるのは、男の子として自然……自然だから」

「「は……!?」」


凄い迷いなく、自分がそういう存在だと突きつけてきたぁ!? うわ、僕もよくやるけど、人にやられるとここまで来るのか!


「………………恭文さん、そう……なんですね」


いや、言っている場合じゃない! また卯月が目を赤くしてぇ!


「やっぱり、大人っぽい人が……私、バージンだから……子どもっぽいから……」

「卯月ぃ!」

「でも、そうだ……だったら、だったら……アニメ業界の人に迷惑をかけるのは駄目です!
だから、私にしましょう! 私なら大丈夫です! ちゃんとファンの人達にも分かってもらいます!」

「落ち着けぇ! スキャンダルでしょそれはぁ!」

「御主人様、それなら美奈子に任せてください。……私の気持ちはもう、固まっていますから」

「美奈子、ちょっと控えてくれないかな! それについては後でまたお話するから!」

「……そうですよねぇ。恭文さん、どたぷ〜んな人がいいですよね。フェイトさんやフィアッセさん、ジャンヌさんもあれですし」


リインがまた髪をメドゥーサにぃ! やめてやめて! 落ち着け! これ以上状況を混乱させるなぁ!


「……でも蒼凪プロデューサー、卯月ちゃんに恋している人がいるっていうの、割りと最初からバレているんですよ?」

「え!?」

「あ、私も聞いた。なんか城ヶ崎美嘉ちゃんのバックダンサーをやったとき……あれでしょ? 好きな人がいる的なこと言ったから」

「それです」

「え、あの……そうなんですか!? ちょ、恭文くん!」


美奈子も御主人様を解消するくらい動揺している!? いや、当たり前だけど!

でもそう言えば、なんか……ステージに立った感動を誰に伝えたいかーってMCをしたらしいけど………………それかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

それでそういう反応をしたのかぁ! というか、よく今まで炎上しなかったね!


「はい! だから……えっと、お気持ちは嬉しいんですけど、さすがにご迷惑をかけてもあれなので!」


卯月、腕に抱き付かないで!? 当ててこないで!? その前に気にするべきことがたくさんあるから!


「恭文さんは私が受け止めます! メイドですし!」

「いやいや……それこそほら、迷惑はかけられないよ。あくまでも身内で噂していただけのことだし?」

「やめてぇ! とりあえず落ち着いてぇ! 僕が悪いのは分かったからぁ!」

≪いいじゃないですか。また器を広げられますよ?≫

≪なのなの。主様、気張るの≫

「やかましい!」

「うぅ……それなら、リインがいるですよー!」

「おのれも落ち着けぇ!」


なぜこうなったぁ! 神様、僕が一体何をしたの!? 僕はただ真面目に生きてきただけなのにぃ!

ただまぁ、リインについては……また一杯受け止めて、ぎゅーっとしました。


……僕も、ずっと待っているんだけどなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


信頼は、懇願は無慈悲にはね除けられた。

昭和の頃には確かにあった、強い人情。日高舞がいた時代には、確かにあった大らかで優しい気質。

そんなものは幻想と言わんばかりに踏みにじられる。


会長はあんなにも、その時代を望んでいる……その輝きを望んでいる。

ならば許してほしい。

どうか、許してほしい――。


ここで会長に逆らえば、本当に私は全てを失う。

なにより今まで仕えてきた王に対し、これは余りに無礼だ。

時代が変わった? いいや、変わったのは人だ。人が余りに冷たく無慈悲になった。


だから、今だけは……今回だけはと願っても、否定され続ける。

そうして会長が焦がれたものを見て、判断するという懐の深さすらない。

しかも私にはもう、それを覆すだけの力が……どうすればいいのかと悩み、苦しんでいたところで、会長から呼び出される。


それでどうしたのかと思ったら……黒髪・褐色肌・スーツ姿の男を紹介されて。


「いや、どうもどうもー」

「会長……この方は」


都内の割烹料亭……その室内で、明るく笑う男に、つい怪訝な顔をする。


「カーティス・ロスコ――ガンプラ代行制作会社≪GMカンパニー≫の主催だ」

「ガンプラ……?」

「えぇえぇ! あなた方がお困りと聞いて……こういうプランをご用意しました」


彼が出してきた書類を受け取り、中身を確認する。えっと……これは……。


「……765プロとのガンプラバトル対決……?」

「ヤジマ商事が問題としているのは、蒼凪恭文の存在だけではありません。
765プロアイドルが少数精鋭の機動力を生かし、ガンプラバトルの仕事も上手くこなせるからです。
対して346プロは……失礼ながら巨大企業故に、その辺りの調整にも時間がかかっている」

「確かに、そうですね……」


765プロアイドルがガンプラバトル絡みの仕事を受けられるようになったのも、元々知り合いである蒼凪くんが教えているせい。

それは事実だが、もう一つ側面がある。彼一人で、教えられる範囲の人数だからだ。

新人アイドルも入れたそうだが、それでも二十名弱。それぞれの仕事をこなし、余課で勉強会という形であれば、まだなんとかなる。


言うなら学校のクラス……私塾と言っても差し支えないだろう。だからかゆいところに手が届く。

本来なら弱点たり得る規模の小ささを、利点に変えているわけだ。

だが346プロはそうもいかない。アイドル部門だけでも百人以上……他のタレント部門も含めればそれ以上。


そもそもガンプラバトルを教えるトレーナーなども慶くん以外いない状況では、どうしようもないんだ。

だが、シアター計画があれば……ヤジマ商事という大型総合商社の力があれば、なんとかなるかもしれない。

実際PPSEの社員を多数引き入れ、ガンプラバトルのノウハウも多く吸収している。それは運営側としてだけじゃない……制作側としてもだ。


ワークスチームを抱えて、スポンサーチームとしても大会に参加していた。その技術を丸々……765プロが手にするかもしれない。

そう、765プロはただ仕事を請け負うだけじゃない。ヤジマ商事のワークスチームとして、立場を確立するかもしれないんだ。

それも少数精鋭の、高い機動力を生かし……そうなっては、誰も太刀打ちはできないだろう。


会長はそれを危惧しているし、同時に惜しいとも思っている。

美城ならばその技術を、より高い次元へ昇華できるからだ。蒼凪くんもこちらに来るのであれば、それは盤石だった。


「だったら、そちらも少数精鋭で人数を絞り、徹底した強いファイターを育成すればよいのです!」


だが……カーティスを名乗る男は、我々が想定していたものを容易く覆す。


「まずは向こうの水準に追いつけなければ、意味がないでしょう!
その上で765プロにぶつけ、証明する! 自分達の方が、ガンプラを上手く扱えるのだと!」

「しかしそのための人材が……それに765プロが勝負を受けるとも」

「安心しろ。そこもカーティス氏が調整するそうだ」

「本当ですか!」

「あなた方にも協力をお願いする必要はありますけどね!
それで……会長、先立つものとしましては」

「そちらの請求通りに」


――そこで会長が出してきたのは、幾つかの黒塗りのアタッシュケース。

それが開かれると……おびただしい数の、百万円札の束が……!


「そちらのケースには、要望通り……めぼしいアイドル達の情報を入れてある」

「拝見致します」


カーティス氏は私がゾッとしている間に、その全てをチェックする。


「……確かに。
ではこちらもお約束の品を……まず一つになりますが」

「一つだと」

「さすがにあなた方二人で、この部屋の半分以上を埋める資材は運べないでしょう?
そちらは後日、指定の場所にお送りいたしますので」

「……念書は書いてもらうぞ」

「もちろんです♪」


明るくそう答えた彼は、あるサングラスを……それっぽいものを、私達の前に置いた。


「これを、美城常務にかけさせてください。
そうすれば765プロは……蒼凪恭文は、嫌でも勝負に乗るしかなくなる」

「そんなことで、よいのですか?」

「えぇ。そしてこれと同じ物を十三個用意しています。
……これはガンプラバトルのシステムと連動し、脳波を受信……そうしてガンプラの操作精度を飛躍的に上げるイメージトレースシステムです。
そこに我々が提供するガンプラを合わせれば、正しく無敵! 如何に蒼い幽霊と言えど手も足もでない!」

「それは、爽快だな――!」

「これで……あなた方は勝利者ですよ。誰も否定できない」


………………そんな、上手い話があるのだろうか。

だが……もうこれに乗るしかなかった。

346プロにも、765プロにも……他の誰からも相手にされない。


私達は時代遅れの妄想を吐き散らす、愚かな老害としてしか扱われない。

それが……そんな悲しい末路が覆せるのなら。

私達が勝つことで、昭和の人情を皆が思い出してくれるのなら。


それは、例え皆が望んでいなくても……。


(…………どうして、こんなことになってしまったんだ)


私はただ、アイドル部門を……優しい、仲間を認め合える場所にしたかった。

だからCPや武内くんの失敗も、仲間として受け入れ、認めてほしいとみんなに頼んだ。

彼女達はきっと成果を出し、素敵なアイドルになれる。よい仲間に……ライバルになれるのだと、全力で伝えた。


それが恣意的と罵られ、彼女達は村八分にされ、挙げ句査問委員会にも否定され……そうして、そうして……!


(行き着いた場所が、こんな……ところなのか……!?)


我々を完全否定したあの常務に、こんなものをかけただけでそんなことになる。


これはどう考えても怪しい話だった。どう考えても、あのサングラスはまともなものじゃなかった。

分かっている。分かっている。分かっている。だが、他にどうすればいい。


「だが急げ。もう時間が」

「分かっています! 彼女達への説得も含めて、全てお任せください!」

「それもできるんだな」

「えぇ。多少力ずくにはなりますが」

「構わん」


ここで逆らえば、結局全てが壊れる。私は全てを失う。


「あの会社が誰のものか……。
誰のために働いているのか……。
それすら理解できない愚物どもだ。商品価値さえ下がらなければ、どう扱ってもらってもいい」

「それは、娘さんも込みで?」

「無論だ」

「……承知いたしました」


会長も悪気があるわけではない。ただ、夢をもう一度見たいだけなんだ。

それを支えることが、仲間のはずだ。否定することは間違いじゃない。

なら……私は、間違っていないじゃないか……!


そうだ、それでいい……もう、それでいい。


もう、それで……許してくれ……!


(Next Stage 『Managerial mad』)








あとがき


恭文「というわけで、久々の美城動乱編。まぁ直接的に続くというより、番外編の後日談みたいになりましたが……次からはまた本格始動。
なお、今回でまくったいろんな人のお名前や略歴などは、現実のそれとは一切関係がありません」

古鉄≪えぇ、関係がないんですよ。だからこのはDestroyersについても……いえ、きっと見られますね≫


(まさか第四期で、それまでのメインキャラに死亡者が出るとは……)


あむ「いや、いつまでその劇中劇を引きずるの!? ……というか、今日はそんな場合じゃなくて」

恭文「そうだったね。…………まずえーすな日常/あどべんちゃーSeason2第4巻は販売開始。みなさん、何とぞよろしくお願いします」


(tri.をできるだけ肯定のコンセプトで作っていきます)


あむ「マジか!」

恭文「世の中に反旗を翻したい年頃なのよ。察してあげよう」

あむ「それって何歳!?」

恭文「あとは……実は十五年前の今日、魔法少女リリカルなのは初回が放映開始されました! なのはシリーズ十五周年だー!」

あむ「おめでとうー!」


(ポータルサイトもできたし、配信サイトなどでも見放題のところも……あ、YouTubeでも公式配信開始しました。
ひとまず無印第一話のURLをご紹介『https://youtu.be/x5bKXoHyJmc』)


恭文「…………でも、あれ……デジタルだ。おかしいなぁ……十五年前は、セル画で……セル画で……」

あむ「それ、ガンダムでも言ってるじゃん……! というかもう飲み込んで!? 十五年前はデジタルなの! なんならもう二十年選手!」

恭文「…………しゅごキャラってセル画だったよね」

あむ「あたし達はおもくそデジタルだったじゃん!」


(しゅごキャラのアニメも是非見てほしい。要所要所の映像やエフェクトが滅茶苦茶奇麗だったのです。
本日のED:水樹奈々『Innocent Starter』)


恭文「そうそう、リリカルなのはの楽曲のコンプリートアルバムも出るとか。つまりティアナもまたうたう……頑張れ」

ティアナ「私が残念みたいな言い方をするな……! でも、十五周年……StrikerSから数えても十二年」

恭文「……セル画だったよね」

ティアナ「重くそデジタルって言ってるでしょ!」

あむ「SEED系でも相当ウザいくらい狼狽するのに、この上リリカルなのはもってぇ!」

はやて「そやかて、そやかて……仕方ないやんか! いつの間に十五年とか経っていたの!? ねぇ! ねぇ! ねぇぇぇぇぇぇ!」

なのは「…………なのは、とまと設定だともう三十路……三十路…………がふ」

あむ「こっちもかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ティアナ「いや、フェイトさんはまだ……まだ!」

フェイト「う、嘘だよね。だって、ほら……消費税って三パーセントだったし」

シルフィー「フェイトちゃん、しっかり! 今日から十パーセント……十パーセントなんだよぉ!」

あむ・ティアナ「「そっちぃ!?」」

???「お前達の平成って、醜くないか?」

あむ・ティアナ「「アンタは帰れぇ!」」(げし!)


(おしまい)





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