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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのじゅういち 『生きていると、やるせないと思うこともある 生きていると、色々考えて色々思うこともある 人は誰でも歯車でありからくり・・・編』



古鉄≪さて・・・気になるところで終わった幕間そのじゅうの続きですよ。みなさんおはこんばんちわちわ、古き鉄・アルトアイゼンです≫

はやて「えー、おはこんばんちわちわ。八神はやてです。さて、今回のお話は」

古鉄≪・・・可愛くないですね≫

はやて「うっさいわボケっ! ちゅうか、アンタかて言うてるやろっ!?」

古鉄≪私が言ったら可愛いからいいんですよ≫

はやて「なんやその理屈っ!! ・・・とにかく、今回の話は全開・・・間違えた。前回の続きや。さて、どうなることやら」

古鉄≪全開でも間違いではありませんけどね、スターライトかまされましたし。とにかく、幕間そのじゅういち、さっそくスタートですっ!!≫

はやて「とうぞー!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのじゅういち 『生きていると、やるせないと思うこともある 生きていると、色々考えて色々思うこともある 人は誰でも歯車でありからくり・・・編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・状況が飲み込めない。全く飲み込めない。ただ・・・分かる事がある。でも、それはきっと本当の意味で理解したことにはならない。だって、目の前の状況を説明しろと言われたら、描写的なことしか話せないんだから。





恭文くんやはやてちゃん達が空を飛んできて、それで・・・世界が黒に染まった。白と青のドームに包まれている私達の周りの土が抉れて、破壊されていく。その音が、衝撃が、その波に晒されていない私やエリスにまで伝わってくるよう。





あの、確かに久遠だったり忍の事だったりで色々不思議なものは見てきたつもり。私自身も・・・それになるし。





でも、これは・・・なに?










「くぅ・・・!!」

「蒼凪、しっかりしろっ! 今この状況で盾となれるのは、我とお前だけだっ!!」

「はいっ! ・・・くそ、あの厨二アイテム・・・絶対ぶっ潰してやる・・・!!」



苦悶の表情を浮かべながら、恭文くんが前に手をかざす。まるで、あの黒の奔流に耐えるように。それを見て、猫耳の人と髪の色が変わっているはやてちゃんは歯噛みしてる。



「・・・フィアッセ、これは・・・なんだ」

「分からないよ・・・。これ、なに?」



そして、短くて・・・だけど長い時間が終わりを告げた。黒の奔流が姿を消した。それを見て取ったのか、恭文くんが手を下げる。同時にシールド・・・うん、多分シールドだっただね、あれは。とにかく、それらも消えた。



「はぁ・・・はぁ・・・」



恭文君が汗を浮かべながら肩で息をつく。多分、私が一度も見た事のない表情を見せている。それは・・・疲労と焦り。

普段は飄々としているあの子がそんな表情を浮かべている。それだけで、今の事態の深刻さが飲み込めた。



≪大丈夫ですか?≫

「なんとかね。でも、だいぶ魔力削られた・・・くそ、やっぱり回復魔法修得しとくべきだった」

「今更だ。それより・・・来るぞ」



青い狼から発せられたその言葉に、肩で息をついていた恭文くんが顔を前に上げる。



「主、指示を」

「・・・え?」

「・・・・・・主、指示をお願いします。指揮官はあなたです」



その言葉に、はやてちゃんは表情を切り替えた。どこか真剣な顔で。



「・・・フィアッセさん、エリスさん」

「あ、うん」

「巻き込んでほんますみません。それで、すみませんついでに、うちらにもうちょい付き合ってください」



あ、あの・・・それはどういう



「ザフィーラ、アンタは二人をガードや。それで、転送魔法で結界の外に送り返す」

「心得ました。ですが、もしも転送が不可能な場合は・・・」

「事態が解決するまで、付き合ってもらうしかない。そこは頼むで。恭文、ロッテさん。二人は前衛。うちは・・・うちの仕事をする」



そのまま、はやてちゃんは十字槍を構える。そして、分厚い茶色の表紙の本を開く。



「・・・どれくらいかかるの?」

「5分や。それで、たった今シグナム達にも指示は出した。悪いんやけど」

「了解、やすっち。それまで持たせるよ」

「うぃさ」



そのまま、恭文くんと猫な女の人は前に歩み出て・・・あれ、恭文くんは行かない。あ、こっちにきた。



「・・・フィアっセさん、あの」

「ダメだよ」



自分でも出てきた言葉はそんな言葉。あの、ちょっと私もびっくりしてる。



「恭文くんは、これからやることがあるんだよね。何かは分からないけど・・・とっても大事な事」

「・・・はい」

「だったら、余所見なんてしちゃだめだよ。大丈夫、私とエリスには後で話を聞かせてもらえればいいから。だから・・・ね?」

「あの・・・ありがとうございます。それじゃあ、ちょっと行ってきますね」



そう言って、いつもの笑顔で笑いかけてくれてから・・・また空高く飛んだ。

・・・そうだよね、ちゃんとお話聞かせてもらえればいいんだ。それだけで・・・いいんだ。



「・・・主、ダメです。結界の影響で転送に妨害がかかっています」

「結界内のどこかに送る・・・言うんもダメなんか?」

「はい」

「まぁ、予想はしてたわ。うちら逃がしたら意味ないし。ほな・・・ザフィーラ、フィアッセさん達とうちのガード、頼むな」

「心得ました」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・さて、現状整理や。うちらはフィアッセさんとエリスさんの保護のために戦力を二分。で、シグナム、ヴィータ、シャマル、グレアムさんにアリアさんはもう交戦しとる。

相手は・・・偽シグナムにシャマルにロッテさんにアリアさん、あとはさっきの三人組の一人で、鏡を持ってた奴や。そして、残りの偽ヴィータとザフィーラ、それと三人組のリーダー格と残りの一人がこっちに向かっとる。

・・・シグナム達の方は問題ない。むしろ問題はうちの偽者。スターライトぶっ放した後に行方をくらませてる感じらしい。





また広範囲魔法撃たれると厄介や。スターライトまで撃てる言うことは、うちが覚えてる広範囲魔法のあらかたは使えると見てえぇ。出来うる限り早く行方を見つけて潰すしかない。シャマルとザフィーラには徹底捜索してもらってるし、すぐに見つかる。

あとは・・・相手がどう来るかやな。いや、ここは考えるまでもないな。ガチなターゲットはうちや。

うちはうちの家族の中でリイン除いたら一番単体での戦闘能力が低い。せやけど、火力で言うたらうちが一番高い。そう、固定砲台はこちらにも居る。





そのうちを真っ先に潰せば・・・シグナム達への精神ダメージにも繋がる。それだけやのうて、広範囲殲滅魔法で一気に潰される危険もなくなる。

そして、戦力を分担されてガードが薄くなった上にフィアッセさんとエリスさん言う『お荷物』まで存在しとる。おそらくはもう気づいとると見てえぇ。

この好機、絶対に逃すはずがない。現にうちは術式詠唱。ザフィーラはそのうちとフィアッセさん達の盾になっとる。実質戦力は・・・恭文とロッテの二人だけ。一気に攻め込まれたらこちらが不利や。





いや、一気に攻め込まないはずはない。奴らの目的はなんや? 闇の書の最後の継承者であるうちと、その闇の書の防衛プログラムやったうちの家族への復讐。

あの感じやと、自分の命を度外視しとるかも知れん。自分達の味方から死ぬまで魔力吸い上げて偽者を作った言うくらいや。捨て身で来る可能性・・・かなりや。とは言え、最初からそれで死ぬのはバカらしい。憎い敵が苦しむ姿、見たいはずやからな。

つまり、この場合・・・やっぱ、基本で来るはず。すなわち、前衛と中衛によって足止め。後衛の固定砲台でデカイのを1発ドン・・・や。










”恭文”





前に出ているチビスケに念話を繋ぐ。なお、この会話は全員に聞こえとる。

アイツはちょうど・・・偽ヴィータと交戦し始めた感じや。空中で黒い鉄の伯爵とアイツの相棒が激突して、火花散らしとる。

ロッテさんは人型になった偽ザフィーラと交戦やな。攻撃を捌きつつ同じく空中で格闘戦闘や。



残りの二人はセンターガードなのか、中距離から魔法で支援しとる。誘導弾を避けつつ交戦・・・くそ、やっぱりうちとザフィーラが動けんから前衛に負担かけとる。

とにかくや、ここはちょい頑張ってもらわんと。





”今、偽者のうちの捜索をしてる。・・・多分、すぐに見つかる。そうしたら、アンタは真っ先にそれに向かうんや”

”偽はやて、潰せばいいんだね”





一旦距離を取り合う。そこから偽ヴィータは黒い鉄の弾丸を四つ、恭文に向かって発射する。恭文は左手からスティンガーを発動させて、同じく発射。青い光の弾丸が、闇夜を切り裂きながら飛ぶ。

そうして、鉄の弾丸をそれが全て撃ち抜く。その間に偽ヴィータが接近して・・・な、ギガントっ!? 形状変換まで使えるんかいっ!!



恭文は上段から来たコンパクトサイズなギガントを後ろに飛んで避ける。だけど、当然追撃は来る。その出だしを狙って、あいつは前に突撃。袈裟に相棒を打ち込んでその打撃を止める。

さすがに対処が早い。模擬戦散々やっとるから当然なんやけど。あと・・・師匠本人はともかく、師匠の影に負けるわけにはいかんとか思うてるんやろ。





”正解や。そんな物分りのえぇ子には、あとでご褒美あげんとな。うし、ほっぺにちゅーでもしてあげるな”

”普通にご飯奢るだけでいいよっ! なんでいきなりほっぺにちゅー!?”

”こういう時はそれが基本やからに決まっとるやろ? ・・・それで、うちらの中でアンタは一番突撃力がある。瞬間火力も同じくや”



恭文がなのはちゃんから教わって使ってるあのアクセル、カートリッジの魔力も使ってる分相当ダッシュ重視やしな。ちゅうか、元のアクセルとは完全に別もんや。普通にブーストするだけでどこぞの移動魔法張りの速度が出る。

前に進むだけやったら、うちの子達もあれには追いつけんし、弾幕張るなりせぇへんと逃げられん。アレに追いつけないものなんて、せいぜいフェイトちゃんの真・ソニックくらいや。



”そーだね。さすがにあれはなぁ・・・あと、エロいし”

”同感や。フェイトちゃん、プリプリなお尻とか出しすぎやで。あれ、元々の黒いジャケットより恥ずいと思うんやけど”



せやけど、そのまま振りぬかれて、アイツは吹き飛ばされる。そこを狙って、砲撃が飛んできた。撃ったのはあのリーダー格の男。アイツは空中でアクセルを操作してそのまま足を止めて・・・いや、思いっきり後方にバックした。

砲撃は本来ならタイミングよくアイツへと当たるはずやった。せやけど、それによってそのタイミングをずらされて・・・アイツとその様子を見ていた偽ヴィータの間を通り過ぎるだけに終わった。



”とにかく、やすっちはそのまま突撃して偽はやてを潰す。そうした所で”

”はやて君が広範囲魔法で一気に・・・だな”



そう、うちらの作戦も向こうと同じ。デカイ大砲で決める。そして、意味合いは少々違うけど互いにその大砲を潰そうとしてる。なんにしてもこの勝負、もうちょいでケリが付く。そないに長くはかからん。

全く・・・これが復讐とかやのうて、単にうちの魅力にめろめろになった男の子相手やったら、まだ嬉しいんやけどな。



”それではやて君、詠唱完了まであとどれくらいだ?”

”あと・・・4分・・・いや、4分切って3分台になりました”



向こうで交戦中のグレアムさんの声に、即座に答える。今うちが唱えてる魔法、この乱戦な状況にはうってつけなんやけど、その分ちょお詠唱に時間がかかってまう。それも普段よりも上乗せでや。

あぁもう、うちも恭文レベルとまではいかんでも、もうちょい早く詠唱と処理が出来るんやったら、恭文一人特攻させるような真似せぇへんでもえぇのに。いや、そんなこと言うても仕方ない。これがうちの戦い方なんやから。



”グレアムさん、そっちはどないですか?”

”残念だが、中々に手こずっている。シャマル君が捜索に当てられているので、状況はそちらと変わらん。さすがに能力だけは同じだからな。
・・・やはり、はやて君をコピーされたのがネックだな。遠方から広範囲魔法を連発されれば、それだけで私達は終わる”

”というか、局の連中は何してるのよ。あんな物騒でチートなロストロギア放っておくなんて”



うちもそう思います。広範囲魔法の迎撃なんて、まず出来んし。



”アリア、それは仕方ないよ。だってあのアイテム、やすっちが『こういうの持ってるかも知れない』って言ったやつだから”



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・偽ザフィーラと拳をぶつけ合いながらそう言ってきたロッテさんの言葉に、うちらの心は一つになった。そう、アレや。



””・・・蒼凪””

”バカ弟子”

”恭文くん”

”恭文さん”

”恭文”



だから、場をわきまえずについこう言うてしまう。



”””””だからこれっ!?(ですかっ!?)”””””

”・・・クロノからそうとう運が悪いとは聞いてたけど、これはないよ。君、いったいどこのノストラダムス?”

”え、僕のせいっ!? ちょっと待ってっ! それはいくらなんでもありえないでしょっ!!”




とりあえず、ほっぺにちゅーやのうてほっぺ掴んでむにーとすると心の中で決意しつつ・・・うちは思考を更に回転させる。全く、マジで余計な事考えおってからに・・・。



”バカ弟子、しっかり責任取ってこいよ”

”師匠っ! どうしてそこ乗るんですかっ!?”

”当たり前だろうがタコっ! 狙われてこの状況になってるのはぶっちぎりでアタシらのせいだけど、あの厨二な鏡が出てきたのは間違いなくお前のその余計な思考のせいだろっ!!
お前、フラグって言葉の意味判ってるかっ!? 『あー、平和だなー』とか『こういうの出てきたりして・・・』ってのは、完全に何か起こったりそれが出てくるフラグ成立じゃねぇかっ!!”



なんて会話をしながらも、恭文は再び偽ヴィータと激突。アルトアイゼンをハイブレードモードに変えて、それをぶん回して黒いギガントと激突しとる。



”それはすっごい分かるけど絶対違うからー!!”





・・・うちの魔法は誘導弾やら砲撃みたいに撃ち落しやらそんなこと出来る魔法ちゃう。

うちの魔法は、どんだけ詠唱遅かろうと、味方に守られてるだけで終わろうと、味方信じて必死に術式唱えて、それを発動させただけで終わるようなどデカい大砲・・・戦略級兵器なんやから。



しかし・・・うちら結構余裕あるな。約1名のアホのおかげで、あんまシリアスしてる感じないで。





”蒼凪、とにかくお前に任せるぞ。フラグどうこうは抜きにして・・・く”



前衛同士のぶつかり合いを潜り抜けるようにして、砲撃が飛んできた。それをザフィーラがシールドで防ぐ。せやけど、その顔にはいつもとは違う苦悶の表情が・・・。

さっきのスターライトでそうとう消耗しとる? くそ、やっぱりはよ決めな。



”ザフィーラさんっ!?”

”やすっちっ! アタシ達の事はいいから前だけ集中するっ!!”



そう言いながらリーゼさんが偽ザフィーラの打ち込んできた右拳を避けて、その腕を取り・・・思いっきりぶん投げる。



”やすっち、ストライカーって言葉・・・知ってる?”

”え?”



偽ザフィーラはそのまま空中で受身を取り・・・左手をかざした。



”その人が居れば、どんな状況でも引っくり返せるってみんなが信じられる魔導師の総称だよ。
エースが一騎当千。アンタの先生が持っているマスターが唯我独尊の最強の称号なら、ストライカーは・・・みんなの希望”

”希望・・・”



瞬間、リーゼさんは大きく上へ跳ぶ。偽ザフィーラから黒い頚が生まれ、空間を薙いだ。



”この状況で、エースなみんながやすっちの突撃力と爆発力に期待してる。なんとか出来るって信じてる。だったら・・・アンタはストライカーなんだよっ!!”





そのまま、空中を足場にするように飛び込み・・・偽ザフィーラに右足で飛び蹴りをかます。それを偽ザフィーラは両腕でガード。せやけど、そのままじゃ止まらん。それを足場にロッテさんはちょこっと後ろに飛ぶ。



拳を引き・・・そのまま、また正面から拳を・・・力を叩きつけるっ!!





”だから、その希望と期待、背中に背負って・・・この状況、覆すことだけに集中してっ!!”





そのまま、強引に拳を振りぬき、偽ザフィーラを吹き飛ばした。





”・・・はいっ!!”





・・・あ、あはは。なんつうか・・・すごいなぁ。いや、当然か。



よう考えたらロッテさんもアリアさんも闇の書事件の時、不意打ち気味とはいえ、うちの自慢の守護騎士を全員出し抜いて圧倒しとるんやから。さすがはクロノ君の師匠やな。





”しかし主”



ザフィーラが再三飛んでくる攻撃に対処しつつ、うちに思念の声をかける。



”・・・やはり、あの影達は我らの能力を完全にコピーしているようですね”



・・・そうやな。形状変換もそうやしスターライトや鋼のくびきまで。普通にやりあったら、負けてる可能性もあるわな。



”だね。つーか、こっちも偽シグナムがシュランゲフォルム出して大暴れしてるし。・・・同じくシュランゲ出したシグナムとな”

”シグナム君が若干楽しそうなのは気のせいか?”

”気のせいじゃねーです。アイツ・・・きっと自分の影と戦えるのが楽しいとかちょこっと思ってやがる”



あ、シュランゲ対決はちょっと見たい気が・・・いやいや、なに考えてるんや。集中集中。



「・・・リイン」

「はいです」



うちは詠唱を続けつつリインに声をかける。なお、とっくにユニゾンは解除済み。



「やること、もう分かっとるな」

「はい。・・・恭文さんの突撃時には切り札を切る」

「うん、おりこうさんやな。それでもう一つの札も状況しだいやけど切ってえぇで」





向こうのミスは二つや。・・・一つ、最強の切り札をコピーせぇへんかったこと。二つ、その切り札が居る状況でうちらに喧嘩を売ってきたことや。アイツは・・・うちの悪友は、ロッテさんの言うように十分にストライカーや。

全く・・・これやとうち、巻き込まれてくれてありがとうと言うしかないやん。アンタがいつもの調子で暴れとるだけで、うちは安心して魔法詠唱出来るし。

ま、ほっぺにちゅーくらいは・・・したろうかな。・・・あくまでも友情的な意味でやけど。



うち、見込みの無い恋するほど情熱的ちゃうし。あーあ、将来有望で理解もし合えるえぇ男、フェイトちゃんに取られてもうたなぁ。初手で押し倒すくらいのことしとくべきやったわ。いや、ここはシャマルを見習ってバストタッチもありか?





”はやてちゃんっ! 偽はやてちゃんの位置・・・特定しましたっ!!”



・・・うし、来たっ! 待っとったでシャマルっ!!



”こちらでも掴んだ。既に位置はアルトアイゼンに送っている。蒼凪、リイン。あとは頼むぞ”

””はいっ!!””



その声にうちの傍らに居たリインが飛び出す。それを見て、リーダー格の男が誘導弾を生成。リインに発射するけど・・・当たるわけがない。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「フリジット・ダガーッ!!」



ザフィーラが出した鋼のくびき・・・白い刃のようになっている魔力が地面を割って出てきて、誘導弾の行く手を阻む。そこから僅かに漏れ出るようにしてリインへ向かっていった弾丸達も、リインが撃った氷の短剣達によって排除される。

弾丸達が撃墜され、発生した爆煙の中を突っ切るように、リインが恭文に向かう。



≪Icicle Cannon≫



恭文は、黒いギガントを持った偽ヴィータと鍔迫り合いをしながら、左手を向けて・・・そのままぶっ放した。



「ファイアっ!!」



零距離から放たれた砲撃を避けられず、偽ヴィータは吹き飛ぶ。でも、それはそんななのはちゃんみたいな真似をしたあのバカも同じや。思いっきり衝撃で吹き飛ばされた。

せやけど、その方向は・・・リインの居る場所。そして、そんな二人の合流地点目掛けて、男二人がデバイスを向ける。そして・・・砲撃が放たれた。



「恭文さんっ!!」

「リインっ!!」



それに構わず、二人は手を伸ばす。そして・・・それが触れ合った瞬間



「「ユニゾン・・・インっ!!」」



青い光が生まれた。撃ち込まれた砲撃はその光にかき消されるかのように霧散した。

そして、その光が散って・・・雪がその中から出てきた一人の・・・いや、二人の周りに舞い散る。



「・・・なんとかなったようですね」

「そやな」



空色の髪と瞳。青い薄手のジャケットに白銀に染まった硬き盾。所々の意匠がリインのジャケットに似とるんは、二人の融合の相性の高さ。

そう、あれは・・・恭文とリインのユニゾン形態。この状況を覆すには十分過ぎる、二人の切り札や。



「・・・いくよ、リインっ! アルトっ!!」

【はいですっ!!】

≪さぁ、ぶっとばしますか≫










そのまま、二人は全速力で飛び立った。男達が構えて砲撃を撃とうとするけど・・・あかん。アクセルの加速力の前にあっと言う間に見失った。





・・・さて、あとはうちらやな。










”・・・ロッテさん”

”あいよ。まぁ、あんま期待はしないでね?”





そう言いながら、どこか楽しげにロッテさんが空中で構える。そうやな、ここからはロッテさん一人であれらの相手や。



あ、訂正。途中まで・・・やな。





”ヴィータ、アンタはすぐにこっちに来て。いくらなんでもロッテさん一人で四人は捌き切れん”

”わかった、すぐに向かう。シグナム、シャマル”

”こちらは私達とアリア殿にグレアム殿に任せろ。なに・・・すぐに片付ける”










うし、これでオーケーやな。さて・・・これで残り3分、切ったな。





どちらにしてももうすぐ決着は付く。うちは、自然と相棒を握り締める右手の力を強めた。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



残り・・・2分。くそ、意外と遠いところに居やがるし。





アルトの誘導で僕はアクセルを全速力でぶっ飛ばす。そうして・・・見つけたっ!!





森の中、黒い魔法陣。その上に居るのは、黒いはやて。・・・表現的に色々似合ってると思ったのは、きっと罪じゃない。





とにかく、僕は全速力でそこに向かって直進。そうして、アルトを・・・あれ?










【・・・恭文さん、あれっ!!】

≪やはり、居ましたか≫





そう、居た。黒い・・・僕が。丁度僕の進路を防ぐように。でも、慌てる必要は無い。ここは既に予想済み。

はやての火力と攻撃範囲は驚異的だけど、個人戦闘能力は皆無に等しい。それだけじゃなくて近接戦闘も出来ない。

あくまでもシグナムさんや師匠達みたいな優秀な前衛・中衛に守られた上で真価を発揮する。それが固定砲台・八神はやての戦闘スタイル。



あの影は本当にそのまま僕達を模倣していた。師匠達の戦闘スキルや動きだけじゃなくて、武装・・・デバイスの形状変換まで。それなら、固定砲台足るはやての影には、恐らくガードしている人間が居ると見ていた。

誰が来るかと思ったけど・・・まさか僕とは。でも、関係ないや。邪魔するなら、叩き潰すだけだ。

それに今の僕は、あれとは違う。リインと一つになって、アルトが居る。三人で戦ってる。だから・・・負けない。ここで僕があれを潰せるかどうかで、この戦いに勝てるかどうかが決まるんだ。絶対に、負けない



そうこうしている間に、残り時間は1分に迫ろうとしている。あと、向こうの魔法・・・。





【・・・まずいです】



僕の中のリインが焦りを含んだ声でつぶやく。どうやら、あの偽狸が使ってる魔法が何か分かったらしい。



【あれ、長距離弾道攻撃ですっ! あんなのピンポイントなターゲッティングには出来なくても撃たれるだけで・・・というか、もうすぐ発動しますっ!!】



あー、そういやあの狸、精密なターゲッティングとかも苦手だったよね。・・・いや、リインとのユニゾン時のコピーだから、もしかして・・・そういうの出来る?

リイン、残り詠唱時間って分かる?



【えっと、はやてちゃんの詠唱データや魔力反応と照らし合わせて・・・】



僕は、そのまま直進。そうしながら、向こうも直進して、うちこんできた。僕は、腰から鞘を抜く。そして、鞘を左手で持って・・・。



【残り1分ですっ! はやてちゃんの攻撃、間に合いませんっ!!】





なら、方針は決まったっ! 僕と僕の影はそのまま互いの獲物を激突させたっ!!



・・・訂正。向こうは黒いアルトの刃だけど、こっちは・・・鞘。そう、アルトを抜かずに鞘だけを叩き付けた。

僕の影がそれに気づいて反応しようとするけど、遅いっ! 自分の戦い方や思考や行動、僕が分からないはずないでしょうがっ!!



そのまま、右手を動かし、鞘と黒いアルトごと黒い僕を縛り上げる。使ったのは鋼糸。遠距離はともかく、さすがにこの距離なら何とか出来る。





≪あなた、何を・・・≫

「話は後っ! このまま・・・押し込むっ!!」



アクセルを羽ばたかせる。ブーストを全開にして、そのまま地面に向かって突撃。そうしながら、何とか偽はやての方に近づいた。僕は・・・アルトを抜く。魔力を込め、僕の偽者の腹へ深々と突き立てる。

僕の偽者はその行動を止めた。魔力にはスタン属性を付与させてるから、その影響も有ってどうにか動きは止められた。身体が震えているけど・・・そこは気にせず、スタート。



≪・・・なるほど、こういうことですか≫



そうして、僕と偽者が居る周りから星が生まれ、降り注ぐ。

蒼き流星が・・・アルトの刀身へと。



「リイン、どっちが早い?」



ここに来るまでに10秒以上使った。さて、どうなる?



【・・・こちらですっ! 30秒もあれば、撃てますっ!!】

「・・・・・・うし」





ゆっくりと星が降り注ぐ。流星が、黒い血で染まっていたアルトの刀身を青く染める。それゆえか、僕の偽者の身体の震えが激しくなる。

偽はやての方も僕の接近には気づいてるけど対処できない。そりゃそうだ。今詠唱している術式を中断して対処しても、間違いなく意味が無い。きっと詠唱を急ぐことを重視する。



ただ、ちょっと甘い。高速詠唱と処理は僕の十八番。もう・・・刃は打ち上がってる。





「猛撃・・・!」





刃を返し、青く染まった星の光の刃を影の身体の中から振り抜く。そうして、胴を斬る。





「必壊っ!!」





影がそれに構わず、自由になった右腕に持ったアルトを打ち込もうとするけど、遅い。





【「スタァァァライトッ!!」】





僕はアルトの刃を更に返し、右袈裟に打ち込んだ。





【「ブレェェェェェドォォォォォォォォォォォォォォッ!!」】










星の光の刃は、僕の影を斬り裂いた。そしてそこから・・・魔力の奔流が生まれる。





それは僕の影を瞬く間に消し去り、そのまま・・・詠唱終了直前の偽はやてすら飲み込み、それと同時に起きた魔力爆発をも飲み込み、闇に染まった大地を、木々達を・・・吹き飛ばした。





・・・とりあえずだけど、責は・・・果たしたかな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



遠くで見えたのは青い光。まるで空の色のようにも見える膨大な魔力の奔流。





蒼凪のやつ・・・スターライトを使ったな。全く、この状況で集束攻撃を放つとは。今更だが、アイツの魔力運用の技術には頭が下がる。










”・・・偽狸、撃破しました”




私達の頭に直接届いた声。それは、脅威の排除と仲間の生存を同時に知らせる喜ばしいものだった。・・・全く、たった2年やそこらで私達に背中を預けさせるとはな。

さて、蒼凪とリインは自らに課せられた責を全うした。今度は私達の番だ。蒼凪が戻ってくる前に・・・終わらせる。



「すまないな」





私は目の前の私の影にそう声をかける。そして、レヴァンティンを蛇腹剣から、片刃の剣への戻す。



油断せず、隙を見せず、私はそのまま構える。目の前の私の影も同じく。





「お前との戦い、出来るならもう少し楽しみたかったが・・・そうも行かなくなった」










現状を整理だ。今ここに居るのは私とシャマル、アリア殿とグレアム殿。対峙しているのは、例の鏡を持った男が一人と私とシャマルとアリア殿とロッテ殿の偽者。鏡を持った男は、またあれを使うつもりなのか、積極的に戦闘に参加しようとはしない。

そして、主はやてとロッテ殿にザフィーラ・・・そして、クリステラ女史とそのガードのマグガーレン女史の所には、リーダー格を含めたミッド式の魔導師二人と偽ヴィータとザフィーラが居る。その場所には、今ヴィータが向かっている。

私達の方は問題はない。数の上では不利だが、蒼凪とリインのおかげで広域殲滅魔法に怯える必要はなくなった。





だた、主はやての方は・・・危ういな。主とクリステラ女史達のガードのために、ザフィーラが文字通り盾になって戦闘支援も出来ずに居る。そして、ロッテ殿の能力と今救援に向かってるヴィータの力があっても、戦力に差があるのは否めない。

戦場には本来、一騎当千のエースなど存在しない。数が多ければ単純に有利になるし、それを構成する人員の能力が高ければ高いほど、それは確実なものとなる。そして、この場合・・・私達は不利だ。

不確定要素のせいにするのは情けないが、そのために貴重な戦力を削られているのは間違いない。だが、それでもなお・・・私には全くと言っていいほど負ける気がしない。





・・・戦いはノリのいい方が勝つ・・・か。蒼凪らしい言い回しだ。そして、それは決して間違いではない。

相手の能力と戦い方、デバイスの性能まで恐らくは全く同じ。それらで構成された集団が相手。そして私達は不利。その場合、何を持って私達はその中で勝利を手にする?

簡単だ。奴らはあの影たちを鏡と契約を結んだ者の言う事を素直に聞く人形と言った。だが、私達は人形ではない。










「すまないが、早々にカタをつけさせてもらう。・・・行くぞ」





そのまま、私は飛び出した。私の影もそれを見て、カートリッジを使った上で黒き炎の魔剣に火を灯す。本来であれば赤いはずの炎は、黒き・・・形容し難い禍々しさをその中に内包している。





そして、それは私も同じ。レヴァンティンのカートリッジをロード。赤き炎を刃に纏わせる。











”・・・みんな、お待たせっ! 詠唱完了やっ!!”





そう高らかに主の思念の声が私達の間に響き渡った。なら・・・ここは一蹴させてもらうっ!!



私は、そのままレヴァンティンを両手で持って振りかぶる。





「紫電・・・!!」





そのまま、黒と赤の炎が袈裟に打ち込まれ、激突する。





「一閃っ!!」





そして、ぶつかり合った箇所を視点として、炎と熱の暴風が吹き荒れる。私はそれに肌とジャケットと髪を焼かれながら・・・構わず、強引にレヴァンティンを振りぬく。



そうして、私の影を吹き飛ばした。・・・いや、距離を取った。





”みんな、もうえぇなっ!?”

”大丈夫ですっ! はやてちゃん、いっちゃってくださいっ!!”

”了解やっ!!”









その次の瞬間、空にいつの間にか立ち込めていた暗雲から・・・雷撃がほとばしった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・我、ここに願う」





あと・・・少し。





「荒ぶる雷鳴の神よ」





ロッテさんは目の前で偽ザフィーラと偽ヴィータと必死に交戦中。襲い来る拳と蹴り、鉄槌に対して距離を取りつつ、引き付けつつ何とか凌ぐ。

そして、残りの二人は・・・ザフィーラのシールドをなんとか破ろうと必死に・・・そう、必死や。必死に砲撃をぶちかましてくる。理由は簡単、うちがなにやろうとしてるのか分かってるからや。



すなわち、さっき自分達がかまそうとしてた事と同じ。もううちの偽者は居ない。そこは察知しとるに決まっとる。つーか、あの膨大な魔力反応掴んでそこまで頭回らんのは、トーシローもえぇとこやろ。





「我が望むは」





偽ザフィーラの拳を両腕でガードして、ロッテさんが空中で踏ん張る。せやけど、そこを狙って・・・偽ヴィータが右からコンパクトサイズのギガントを打ち込んできた。ロッテさんは逃げようとするけど、拳を押し込まれててそれは無理。咄嗟に障壁を発生させて、ギガントを受け止める。

ただし・・・一瞬だけ。そう、一瞬だけ止めて、次の瞬間障壁は砕かれた。そのまま、鉄槌が迫る。

ロッテさんは、偽ザフィーラの拳の勢いを生かして、大きく後ろに飛んだ。それでぎりぎり・・・うん、ぎりぎり逃げられたわ。



でも、休む暇はくれん。偽ザフィーラの前に来る形になった偽ヴィータがそのまま追撃。ギガントを上から袈裟に打ち込んでくる。ロッテさんはまた大きく跳んで避けた。

そこを狙って・・・偽ザフィーラが大きく跳んで、飛び蹴り。それは避けられずに両腕でガードして・・・吹き飛ばされた。





「深き闇を切り裂く眩き雷光」





こちらにも攻撃が続く。緑色の魔力砲撃や誘導弾や射撃が絶え間なく打ち込まれる。それにザフィーラは前に出て必死に耐えてくれてるけど、中々にキツい。

徐々に表情を険しくして・・・体勢が伏せ気味になる。



せやけど、それに手を貸すことは出来ん。うちに出来るんは・・・ただ唱える事だけなんやから。





「我が前に・・・」





せやから、唱え続ける。・・・偽ザフィーラと偽ヴィータがこっちに来ていてもや。



うちが出来る事は、ただ唱えるだけ。そう、それだけや。ただし・・・。





「吹き飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





仲間を、信じてや。



巨大な巨人の鉄槌が、横薙ぎに左から来る。風を切り、空間を震わせながら、その柄を伸ばして脅威となり、黒き人形達に迫る。

そして、それは二つの脅威へと激突し・・・吹き飛ばした。





「悪いっ! 遅くなったっ!!」

「ヴィータッ!!」






それがうちの戦い方。一人ではなんも出来ん。でも・・・みんながちょっとずつでもカード貸してくれるなら、うちは力を振るえる。



現に、今がそれや。うちは、天高く右手に握り締めた十字槍の穂先を向ける。





「汝が力とその心、我が前に示せ」





詠唱は、完了や。





「サンダー・・・ストームッ!!」





空にいつの間にか覆うように現れていた暗雲。それから・・・雷が放たれる。



突き刺さるような雷は、まず目の前の黒い二人に迫る。当然偽者二人は回避しようとする。というか、避けた。せやけど・・・無駄や。

雷は地面に激突する前に折れて、そのまま追尾。二人を飲み込んだ。

更に空から雷光が何発も・・・何発も直撃する。それにより、黒い影は一気に消えた。



・・・あとに残ってた魔導師二人も同じや。地面に降り立って、二人して魔法障壁張って攻撃防いだけど、すぐに2発目3発目が来て、障壁は砕ける。そして・・・雷光に飲み込み、倒れた。

ここからは視認出来んけど、多分グレアムさんとこも同じや。この嵐からは逃れる術など、無い。

なお、うちらは全くのノーダメ。距離を取って普通に障壁張ってるだけでえぇ。これは・・・そういう魔法なんやから。



この魔法は、敵の座標軸・・・ちゅうか、データを入力した上で発動すると、その敵の反応が無くなる・・・ま、簡単に言うとノックアウトするまで頭上に呼んだ雲から雷で攻撃するっちゅうトンデモ呪文や。

ただ、制限も多い。魔力消費が多い言うんと、屋外やないと使えん言うんと、詠唱がとんでもなく長い言う事や。ついでに、普通の詠唱処理だけやのうて音声詠唱も絡ませて、正確にやらんと全然発動せぇへん。

それに発動してから術式が終了するまでの時間も短い。もう30秒経つか経たないかで消えてまう。せやから、もう暗雲消えとるしなぁ。



ちゅうわけで、普段は全然使わないんやけど・・・この乱戦では役に立ってくれた。ちゅうか、これで終わらせられへんかったら、うち完全にアウトやし。










『・・・こちら、シグナム。主はやて、我らの影と賊はノックアウトしました』

『影も攻撃を受けることで消滅した。鏡の方も割れて、あれならもう使い物にならないと思うよ。そっちは?』

「こっちも・・・影は消滅です。あと、賊も撃墜しました」

『そうか。なんとか・・・しのげたな』










あっさりと言えば・・・あっさりとした終わり方。とにかく、これで決着はついた。





なんちゅうか・・・しんどいなぁ。覚悟は決めてたけど、それでも・・・キツイわ。




















そう思うてた瞬間、うちの身体は宙を舞った。





・・・え?










「・・・ま、まだ・・・だ」





舞った身体は、何かにうちの身体が撃たれた証。せやけど・・・なんとかシュベルトクロイツで防いだ。あ、あはは・・・なんつうか、うちもこういう見切り出来たんやな。奇跡やで、これ。

ただ、うちの身体は衝撃を殺せずそのまま、地面へ転がり、数メートル後方に下がる。その聞こえる声の方に目をやる。それは・・・あの魔導師の男の片割れやった。



身体・・・うん、大丈夫や。せやけど、これは・・・?





「はやてっ!!」

「動くな・・・。動けば・・・どうなるか、わかってるな」



聞こえた声は結構近く。ちゅうか、うちの後ろ。こっちには、リーダー格。

くそ、二人してしぶとく立ち上がれる言うわけか。あの魔法の攻撃受けてこれとは・・・あかんわ。



「・・・この娘は、もらって・・・いくぞ。くくく・・・可愛がってやるから、安心しろ。死ぬ事よりも辛い目に遭ってもらう」

「我らが主にそのような無礼・・・させると思うか?」

「出来るさ・・・。お前らは主が可愛いからな、攻撃などできまい」



その言葉に、ヴィータとザフィーラが歯噛みする。特にヴィータは、アイゼンを握り締める手が震えとる。



「・・・あぁ、そうだ。そこの女二人」

「・・・なんですか」

「お前らも来い。人質にしてやる」



その言葉に、フィアッセさんを守るようにエリスさんが立ちはだかる。

いや、立ちはだかろうとした。せやけど・・・身体は動きを止められた。頬を掠めるように、魔力弾が撃たれたから。



「お前らに選択権はない。・・・来い」

「フィアッセ・・・」

「大丈夫だよ、エリス。・・・行きません」



その言葉に、男の表情が固まる。そして、すぐに怒りのそれへと変わり、フィアッセさんにロッド式のデバイスを向ける。



「来いと言っているんだ」

「いいえ、行きません。・・・あなたは、何のためにこんな事をするんですか。それも分からないような人に、着いて行く道理がありません」

「ふん、簡単だ。我らが同胞をこいつらに殺された。だから・・・」

「復讐・・・ですか」



フィアッセさんが、悲しげな・・・哀れむような目を見せる。それに男の表情が更に険しくなる。



「それをして、何が変わるんですか? 奇麗事だと思います。でも、あなたが今していることは・・・あなたの同胞を殺した人間と、全く同じ事をしています。
踏み付け、傷つけ、あなたはそれを正しいと言うつもりですか? 違いますよね。そうは思えないから、あなただって・・・今、ここに居る。彼女に力を向けている」

「黙れ」

「いいえ、黙りません。・・・その子を、離して下さい。今ならまだ、間に合います」

「黙れと・・・言っているっ!!」



うちは男に強引に身体を引っ張り上げられて、抱き寄せられる。

腕の感触が・・・本能的に気持ち悪い。めっちゃ嫌や。ちょお胸にも腕当たっとるし。



「いいえ、黙りません。私は、あなたの行動を認める事が出来ませんから」



フィアッセさんは、そのまま近づいてい来る。一歩ずつ・・・確かに。

・・・って、あかんっ! コイツはマジやっ!! そやから・・・近づいたらあかんっ!!



「来るなっ! それ以上来れば撃つっ!!」

「そうして、自己を正義の味方とするつもりですか? そんな愚かな事を行うために、あなたはここに居るんですか?」

「いい加減に黙れっ! いや、もう黙らせて」

「・・・あなた、私の言っている事が聞こえないんですかっ!? 私は・・・黙らないと言っていますっ!!」



フィアッセさんの普段からは想像も出来ないような強い言葉に、男が面を食らったのか、動きが固まった。フィアッセさんは、息を整えて、さらに言葉を続ける。



「・・・私の知っている人にも、復讐に取り憑かれた人が居ました。失ったものが、あまりにも大きくて、何もしないことを、このまま今を受け入れる事が出来ないで、その手に剣を握りました。闇の中でずっと生きて、ただそれだけのために生きていました。
私も・・・同じです。復讐じゃないけど、あなたが今抱えている物に比べたら、本当に軽い物かも知れないけど・・・後悔を背負った事があります。自分を責めて、責めて、責め抜いて、心から血が溢れるように流れてもそれでも責め続けて。・・・辛かったんですよね」



男の身体がその言葉で震える。いや、震え続ける。



「失ったものに、傷ついてしまったものに、力になる事すら出来なかったから。助けにもなれなかったから。誰よりも、自分を責めて、行き場の無い怒りが胸の中で何時までも渦巻いて」

「やめろ」

「でも、もう一度・・・もう一度だけ考えてください。今、あなたがやろうとしている事で、どんな未来が築けますか? きっと・・・悲しい未来しか待っていません。そして、そこにはあなたが居ない」

「やめろ・・・」



それでも、フィアッセさんはやめない。どんどん男に近づいていく。そして・・・男はうちを抱えたまま後ずさる。



「そんな未来があなたは欲しいのですか? ・・・違いますよね。あなたはただ、失ったものが存在している未来が欲しいだけ」



その時、男のデバイスから魔力弾がフィアッセさんに向かって放たれた。そしてそれは真っ直ぐにフィアッセさんに向かって・・・外れた。

フィアッセさんの右の頬に薄く・・・血がにじむ。髪が数本ハラハラと夜の闇に舞いながら、地面に落ちる。それでも、フィアッセさんはこちらへ歩いてくる。



「でも、そんな未来は絶対にこないともう知ってる。だけど、それを認められなくて・・・許せなくて、だからこんな事をしている」

「やめろ・・・! それ以上近づくなっ!!」

「やめません。・・・もう、いいんですよ」



そして、射程距離に入った。男の頭に手を伸ばし・・・フィアッセさんは優しく、撫でる。



「もう、自分を責めないでください。その感情のために、この子だけじゃなくて、あなたの未来まで自分の手で消さないでください」

「なぜ・・・こんなことをする」

「・・・それが、とても悲しい事だと私は・・・友達に教えてもらいました。そして、あなたを見て、私のよく知っている人と同じ瞳をしているのはすぐに分かりました。だから、放っておけなかったんです」



男のうちを掴む手の力が緩む。いや、外れた。うちは・・・ゆっくりと離れる。

そして、男は崩れ落ちた。



「・・・なら、どうすればいい。どうすれば・・・俺はアイツに報いる事が出来るんだ。
いや、俺達はどうすればいいっ!? 殺す事も許されず、責める事も許されず、このまま・・・何もするなと言うのかっ!!」

「・・・・・・認める所から、始めるんです。こんなはずじゃなかった今を。そうして、そこから・・・前を、向くんです。忘れずに、下ろさずに、一歩ずつ・・・歩いて行くんです。
大丈夫、あなたが思った事は、きっと間違ってなんていません。ただあなたは、行く先を間違えただけなんです」











男が、叫ぶように泣き出した。フィアッセさんは優しく・・・まるで、子どもをあやすかのように、ずっと、ボロボロの男の頭を撫で続けていた。





こうして、戦いは終わった。本当の意味で・・・終わりを告げた。





なお、このすぐ後に到着した恭文がフィアッセさんの傷を見て、ブチギレたのを止めるのに皆が四苦八苦したのは、言うまでもないやろ。・・・アイツ、マジでどんだけフィアッセさん大好きなんや?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、1時間後。襲撃の連絡を受けたアースラメンバーがやってきて、男達は収容された。





なお・・・。










「・・・女」

「はい」

「名前は・・・なんと言う」

「フィアッセ・クリステラです。歌手をしています」

「・・・そうか。なら、機会があればお前の歌・・・聞かせてもらう」





リーダー格の奴とこんなやり取りがあったのは、きっとフィアッセさんの人徳のおかげとしておきたい。



そして・・・僕は僕でちょこっと問題があった。

それは、はやて達がアースラの方で事情説明をしている間の事。僕とグレアムさん達は巻き込まれただけというのと、正式な局員では無いという事で、地球の方に居るのだけど・・・。





「・・・局と聖王教会の幹部っ!?」

「・・・うん。どうもね、あの人達にはやての事を教えたの、はやての事を疎ましく思っている人たちみたいなの」



現場調査のために残ってたフェイトと、ちょこっとお話。で、まだ確定情報じゃないんだけど・・・という話をされた上で、教えてもらった。

今回の襲撃、糸を引いている人間が居たと。



≪はやてさん、なんだかんだで出世コースに乗っていますしね。そういうのもあるんでしょ。犯罪者が権力握るのを疎ましく思った・・・というところですね≫

「多分そうだね。・・・とにかく、今回の事は徹底調査して、しっかりと追及するってクロノも言ってるから、もう大丈夫・・・ヤスフミ?」

「・・・バカらしい」

「ヤスフミ・・・」



・・・バカらしいよ、本当に。じゃあ、ある意味アイツらだって上の人間の勝手な理屈に振り回された被害者じゃないのさ。

いや、もちろんそれで襲撃かましたりしようとした理由にはならないとは思うけど。



「・・・ね、フェイト」

「うん」

「局って・・・なんなの?」



フェイトの方を見ながら、そんな事を言う。

胸を支配するのは、やるせない怒り。ぶつけようのない苛立ち。



「人を、世界を守るのが仕事なのに、こんなくだらない事して、人を煽って自分では手を汚さずにいい思いしようとする奴らが上に居て・・・ホント、なんなの?」

「・・・あのね、ヤスフミ。確かに、そういう部分はあるよ。でも、それだけじゃないから。知ってるよね? 身内びいきになるけど、母さんやクロノ、エイミィ達だって居るんだから」

「でも、屑みたいな連中も居る」



僕の言葉に、フェイトが固まる。そして、どこか悲しげな瞳で僕を見る。



「・・・ごめん、別にフェイトや皆の事、言ってるわけじゃないの。ただ・・・なんか、こう・・・イライラするの」

「ううん、大丈夫。私も、同じだから」

「そっか」

「うん」



フェイトが、優しく安心させるように微笑んでくれる。それだけで・・・苛立ちが少しだけだけど、消えていく。

・・・あ、そうだ。まだやる事があったんだ。



「フェイト、それで・・・フィアッセさん達なんだけど」

「うん、ヤスフミが話すんだよね」



まぁ・・・その、僕が適任ということになったので、一応。



「・・・私も一緒に、事情説明するよ。一応、仲介というかそんな感じで」

「あの、ありがと」

「ううん、大丈夫」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、グレアムさんの家の一室を借りて、フィアッセさん達に話した。





魔法の事、次元世界の事、その他いろいろ。










「・・・そうだったんだ。だから恭文くん、あんなに場慣れしてたんだね」

「いや、フィアッセ。『そうだったんだ』で納得するのか? 正直これはあまりにも」

「でもエリス。さっきのあれらはそうでも言わないと説明がつかないよ? それに、恭文くんもフェイトちゃんもこの状況で嘘をつくような子じゃないもの」

「それは・・・まぁ、なぁ」



・・・やっぱりエリスさんは苦い顔か。でも、フィアッセさんがあっさり受け入れてくれたのはちょっと嬉しかった。

そして、フィアッセさんが僕を・・・いや、アルトを見る。



「それで、あなたが恭文くんのパートナーのデバイスさん・・・なんだね」

≪はい。・・・こうしてお話するのは初めてですね。初めまして、フィアッセさん。私、古き鉄・アルトアイゼンと言います≫

「アルトアイゼン、初めまして。私はフィアッセ・クリステラだよ。それで・・・エリス?」

「あ、あぁ。エリス・マクガーレンだ。もう知っているとは思うが、よろしく・・・。なぁ、フィアッセ、やっぱり若干違和感があるんだが」



エリスさんがこう・・・きついし辛いと言わんばかりの顔でフィアッセさんや僕を見る。

というか、フィアッセさん。なんか慣れてません? 僕、意外と適応力あるのでびっくりなんですけど。



「・・・あの、フィアッセさん、エリスさん。先ほどもお話したと思うんですけど、次元世界や魔法の事は本来であればこちらの世界では秘密事項なんです」

「フェイトちゃん、そんなに心配そうな顔しなくてもいいよ。・・・大丈夫、ちゃんと黙っているから。あ、でも・・・私達は知っていていいんだよね? 記憶消されたりとかは」

「あの、そんなことしませんから。はい、そこは絶対に」

「なら、よかった。・・・ね、恭文くん」



フィアッセさんが僕の右隣に座るフェイトから、僕へと視線を移す。にこやかだけど・・・どこか、真剣な顔で。

僕は、それに視線で応えつつも、言葉でも返す。



「はい」

「私、恭文くんに話したいことがあるって言ったよね」

「・・・はい」

「実はね、今日こっちに来たのも、それが理由なんだ。聞いて・・・くれるかな」



僕は・・・うなづいた。フィアッセさんはそれに嬉しそうな表情をして『ありがとう』と小さく返してくれた。

そして、それから話し出そうとしたとき、動いた人間が居た。フェイトとエリスさんだ。



「あの、そういうことなら私達は・・・」

「お邪魔・・・だろうな」

「あ、フェイトちゃんもエリスも居て大丈夫だよ」

「いや、しかし・・・あの話だろ? 私達が居ても」



あの話? ということは、エリスさんも知ってる話なのか。



「大丈夫だよ。・・・エリスはもう知っているし、フェイトちゃんにも聞いて欲しいんだ。まぁ、魔法の事とか教えてもらったから、その代わり・・・かな?」

「そ、そういうことなら・・・あの、お邪魔します」



立ち上がりかけていた身体を、再びソファーにフェイトとエリスさんが沈めるのを見てから、フィアッセさんは・・・ゆっくりと話し始めた。



「二人は・・・変異性遺伝子障害って言う言葉は、聞いたことある?」



・・・へんい・・・なんですか、それ?



「確か・・・2、30年前に発見された病気・・・ですよね。比較的新しい病気で、先天性の遺伝子病。死病ではないけど根源的な治療は、現代の医学では不可能な難病」

「そうだよ。生まれつき遺伝子に特殊な情報が刻まれていて、それによって様々な障害を引き起こすの。・・・というか、フェイトちゃん知ってたんだね。すごい」

「実は、中学校の社会科のテストに出たばかりなんです・・・」

「そっか、普段は中学生さんだもんね。うん、関心関心」



・・・すみません、学校にも通ってなくて知らなかった僕は非常に居心地が悪いのですが、これはどういうことでしょうか?

エリスさんまで、なんか励ましているような瞳で僕を見るし・・・なにこれ。



「それでね、その遺伝子障害の中でも、20人に一人という割合でHGSと呼ばれる症状を持つ人が居るの。その正式名称は『高機能性遺伝子障害』。・・・これはどう?」

「そ、そこは習ってなかったです」

「まぁ、一般的には知られていないしね。それで・・・」

「あの、フィアッセさん。僕に話したかった事って・・・」



フィアッセさんが、その言葉にうなづいた。つまり・・・フィアッセさんはその病気、HGSにかかっている。



「正解だ。・・・君達は、フィアッセが海鳴に滞在していた話は知っているな?」

「それは、私もなのはから・・・あ、もしかして」

「そうだ、フィアッセはその病気の治療のために海鳴に滞在していたんだ。もう会っているとは思うが、ドクター・フィリスはその主治医だ。
この病気の専門家を父親に持っていてな、彼女自身もそれにあたる」



フィリス先生・・・カウンセラーとは言ってたけど、まさかそんな病気の専門家だったとは。



「・・・私の病気には種別呼称があるの。それは変異性遺伝子障害Pケース。種別XXX(スリーエックス)。
このケースだと、患者は念動力・・・いわゆる、超能力を使えるんだ」

「「・・・超能力っ!?」」

「うん。それでね、能力の発言の際、背中に翼が生まれるの」



そう言いながら、静かに・・・フィアッセさんが立つ。



「一般的にそれはリアーフィンって呼ばれてる。所有者の能力をイメージ化したものが翼になるの。私は・・・」




光が、フィアッセさんの周りから生まれる。眩い感じじゃなくて、どこか・・・優しい光。



そして、その光が形を取る。それは・・・羽。




「これ・・・なの」





羽は輝き、部屋に舞い散り、消える。そんな事を目の前で繰り返している間に、フィアッセさんの背中に翼が生まれた。



それは輝き、確かに存在している。ただし・・・色は、黒。





「固有名称・・・AS-30・ルシファー。これが、私の・・・翼」





黒い翼を生み出し、フィアッセさんはどこか、悲しそうな・・・怖がっているような、そんな表情を浮かべている。



だから、僕は・・・いつの間にか立ち上がって、そっと、手を伸ばしていた





「・・・綺麗、です」

「え?」





でも、翼に触れられない。・・・そっか、イメージが見える形になってるだけなのか。





「すごく綺麗で、優しい感じがして・・・僕、この翼・・・好きです」

「恭文・・・くん、それ、本当に?」

「はい」

「・・・黒いよ? 天使みたいに白じゃないよ?」



それでも、綺麗なものは綺麗だと思う。僕は、フィアッセさんの右の頬に手を伸ばし、撫でる。

シャマルさんの回復魔法で傷・・・すっかり消えてるから、ちょっとすべすべしてる。



「それでも、綺麗なんです。ね、フェイト」

「うん。・・・私も、そう思います。その翼、すごく・・・綺麗です」

「・・・そっか、二人とも、あの・・・ありがとね。私、凄く嬉しい」



そうして、フィアッセさんがなんだかポロポロと・・・あの、なんで泣くんですかっ!?



「・・・泣かせたな」

≪泣かせましたね≫

「ダメだよ、ヤスフミ。女の子を泣かせちゃ」

「え、僕のせいっ!? 待って待ってっ! 絶対に違うよね、それはっ!!」










・・・フィアッセさんが、その瞬間抱きついてきた。小さな僕の身体に全部を預けて、そして、顔を肩にうずめる。





僕は、優しく・・・優しく、フィアッセさんを抱きしめた。よくはわからないけど、そうしなきゃいけないって、思ったから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



こうして、事件は終わりを告げた。その後の観光や事件の処理なども滞りなく終わり・・・フィアッセさんのコンサートを約束どおりに観覧してから、僕達はイギリスを後にした。





なお、ロッテさんが非常にひどいことになったのは言うまでもないだろう。いや、泣かれるほどに別れを惜しまれるというのは、なかなか嬉しいんだけどさ。





・・・これはその後フィアッセさんから聞いた話。フィアッセさんの能力・・・ルシファーは、フィアッセさん自身の生体エネルギーを消費するため、多用は命に関わるという危険なものだったそうだ。

海鳴へ治療のために滞在することになったのは、その能力を使って友達を助けたために、歌手の命である声が出なくなってしまったかららしい。あ、今はちゃんと治療を続けているし、元気全開でバリバリですよ。





あと、例のお父さんと士郎さんが巻き込まれた爆破事件で、フィアッセさんは自分の翼が嫌いになったらしい。エリスさんが・・・ちょこっとだけ教えてくれた。なんでも、フィアッセさんを助けるために士郎さんが大怪我をしたのが原因だったとか。

だから、あんなに翼の事を話す時にどこか怖がってたような顔をしていたのかと、一人納得した。

ただ、そんな秘密を打ち明けあったおかげか、以前よりもずっとフィアッセさんと仲良くなれたのは・・・ちょっと嬉しい。僕も、昔の事とか少しずつ話すようになったから。





で、現在僕は何をしているかというと・・・。





本局で、ヘバってます。










「・・・上手く、いかないね」

「そ、そうですね・・・」



現在、本局の技術開発局のラボを一つ借り切って、そこの主任で友達のマリエルさんとあるものを作っている。それは・・・カード。

そう、僕がイギリスに向かった理由、それの成果をここで作っている最中なのだ。ちなみに、今は10日目です。



「魔力と術式の内包はもう大丈夫だけど、即時発動が上手く行かないね」

「やっぱり、もうちょっと容量を下げないとダメですかね」

「そうだね。でも、ただ下げるだけじゃだめだよ。恭文くんの術式に合わせてバランスを絞っていかないと・・・あぁもう、もう少しなんだけどなー」





リーゼさん達が教えてくれた補助装備は、魔力と術式を内包したカードだった。魔法も即時発動なそれを複数枚持つことで、状況に対応していくというもの。これなら魔力はその場では確かに消耗しないのだ。

ただし、問題がある。・・・術式はともかく、魔力自体は自然吸収するというもので、使用には時間がかかるらしかった。あと、使い捨てらしい。あくまでも補助装備なため、そこまで使い勝手は重視してないとか。

そこで、考えた。カードにカートリッジの性能を持たせたらどうかと。つまり、カートリッジのように儀式的に魔力を込めて、術式はその魔力を用いて発動するという仕組みである。あと、使い回しが出来るように、再入力可能な機能も付与することにした。



なんだけど・・・そういう感じで、元の形を超えるようにと作ってみたところ、かなり苦戦している。というか、結構煮詰まってる。





「・・・今日はここまでにしておきますか」

「え?」

「いや、だって・・・マリエルさんこれから会議ですよね?」

「でも、だいぶ時間あるよ。もうちょっとなんだから、頑張ってみようよ」



・・・いや、そういうことじゃない。そういうことなんだけど、そういうことじゃない。



「マリエルさん、鏡・・・見てください」

「鏡?」

「そうすれば、僕の言いたい事が分かると思います」



そうして、自分の白衣の懐から化粧用のコンパクトを取って自分の顔を見ると・・・静かに閉じた。それから僕ににっこりと笑って・・・こう宣言した。



「・・・恭文くん」

「はい」

「明日に、しようか」

「それが正解だと思います」










・・・なお、マリエルさんがどういう状態だったのかは、本人のために内緒にしておこうと思う。





とにかく、僕もシャワーを借りてさっぱりしてから・・・本局内をぶーらぶーら。とりあえず、完成までは家に帰らないと宣言しているので、ヒマ。みんなも仕事してるから、冷やかしに行くのもアレだし。










「・・・なぁ、そう言えば聞いたか? 上層部の連中がごっそりしょっ引かれたって話」

「あぁ、聞いた聞いた。なんか、局員先導して誰か襲ったとかなんとか」





・・・この間の一件か、なんか凄い騒ぎになったらしいね。僕はカード作ってたからその辺り全然だけど。





「そりゃあ大騒ぎになるに決まってるよ。おかげで僕達も大変でさ」



後ろから声がした。そちらを見ると・・・緑色の長い髪をして、白のタキシードを着ている男が居た。

なので、僕はそのまま無視して、再び歩き出した。



「・・・え、ちょっとっ!? なんでいきなりそれかなっ!!」



無視して更に歩を進める。というか、走る。

なんか後ろから足音がするけど気のせいだ。



「ちょっと待ってっ! どうしていきなり全力疾走っ!? おかしくないかなっ!!」

「きゃー! 助けてー!! 変質者ー! (ピー)されるー!!」

「しないからっ! お願いだから止まってー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ヴェロッサ・アコース・・・ねぇ」

≪あなた、嘘つくならもっとマシな嘘ついてくださいよ。査察官って言うのは、無駄にピシっとした制服着ていて、ねちっこい感じ全開で、重箱の隅をつつくような陰険が服と人の皮を着て歩いているような最低な屑野郎と相場が決まってるでしょ。
あなた、制服すら着てないじゃないですか。それのどこが査察官なんですか? 査察官なら自分査察されないように、まず制服から着てくださいよ≫

「・・・君、ひどいね。何気に傷つくんだけど。というよりそれは偏見だから。もう偏見の見本市に出せるくらいにひどいものだから」

「で、クロノさん。この人は本当に局員なんですか?」

『・・・本当だ。というより恭文、お前はそのためにわざわざ僕に通信をかけてきたのか?』

「そうですけど、何か?」



なんかため息吐いたけど、気のせいだ。うん、きっと気のせいだ。



「あ、あはは・・・クロノ、君の弟は中々に個性的だね」

『個性的過ぎて誰もついていけない時があるがな。現に今がそれだ』

「納得したよ・・・」



あの、僕悪くないと思うんですけど。だって、いきなり知らない人に話しかけられたらそりゃあ怖いもの。

正直、なぜ二人が呆れた表情で僕を見るのかが分からない。・・・なんで?



『とにかく、そういうことだ。恭文、あまりアコース査察官で遊ぶなよ?』

「えー、せっかく面白そうな逸材なのに」

『やっぱりお前はそういうつもりかっ! お前には年上に対しての尊敬の念はないのかっ!!』

「尊敬した上で弄びますがなにかっ!?」

『自慢気に胸を張ってそんな事を言うなっ!! ・・・くれぐれも失礼の無いようにな』



そう言って通信が切れる。そして、僕は二人っきり・・・よし、帰ろう。



「さっそく帰ろうとするのはやめてくれないかなっ!? ・・・とにかく、互いに自己紹介もしたことだし、ちょっとそこでお茶でも飲もうよ。僕が奢るからさ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、近くの喫茶店でパフェを奢ってもらうこととなった。・・・あぁ、美味しい。





まぁ、そこはともかく、なんでこのお兄さんが僕に話しかけてきたのかが分からないので、そこから聞くことにする。










「なに、クロノから話を聞いて元々君に興味があってね。少し話したかったんだよ」

「なるほど・・・」

≪いや、先ほどはすみません。白いタキシードを着ているせいで、ぶっちぎりで怪しく見えたんですよ≫

「あ、あははは・・・。僕、なんか嫌われてるのかな」



いや、からかってるだけだと思うので問題はないと思う。まぁ、そこはともかく・・・チョコレートパフェのクリームを一口。



「でも、今回は大活躍だったね。君やはやてが大暴れしてくれたおかげで、局の空気が一気に綺麗になった」

「・・・僕はなにもしてませんよ。連中にとどめさしたのは、はやてですし・・・あれ? はやてとお知り合いなんですか?」

「うん、クロノ経由でね」



・・・査察官ねぇ。今ひとつそういう風には見えないけど、見かけだけで判断も違うよなぁ。

それ言ったら、なのはだって普通の女の子に見えるけど、中身は魔王だし。



「・・・それでさ」

「ほい?」

「まぁ、僕はこういう仕事柄、関係者にも事情を聞かなきゃいけないんだよね」



なるほど、そのためにってことか。なら、納得だ。僕一応巻き込まれた人間だし。



「ただ、僕が君に聞きたい事は一つだけなんだ。それも個人的に」



・・・はい?



「君の場合、詳しい事情をほとんど知らない。単純に巻き込まれた・・・いや、巻き込まれようと飛び込んだだけだもの。
イギリスのグレアムさん達と同じくね。で、そこを踏まえたうえで一つ質問」

「なんでしょうか」

「君、管理局という組織について、今回の事を通してどう思った?」



優しく、穏やかに飛び出してきたのは、その響きと反比例するように心を貫く鋭さを持った言葉。

・・・そして、考える。目の前の人に・・・それを話していいのかと。



「まぁ、これもはやてから聞いたんだけど、君・・・管理局に入るかどうか考えてたんだよね」

「はい」

「今から聞くことは、はやてもそうだし君の家族・・・あと、フェイト執務官にも絶対に言わない。だから、聞かせて欲しいな。その気持ち、今も変わってない?」

「・・・・・・変わってないか変わっているかで言えば、変わりました」



どうにも辛くて、パフェと一緒に頼んだ紅茶を一口。・・・苦味が増してるのは、気のせいとしておきたい。



「僕、管理局って・・・単純に治安維持のための組織だと思ってたんです。まぁ、規模の大きさや云々は抜きにして」

「うん、間違ってはないね」

「でも・・・今回の事、その治安維持のための組織の上の人間が手引きしていたんですよね」

「そうだね。でも、局だけの話じゃない。聖王教会という組織の人間も、一枚噛んでた。その組織の中にも、はやての存在を疎ましく思う人間が居たんだよ。
そうして彼らは自分勝手な欲望のために、沢山の人間を振り回して・・・一人の人間とその家族を謀殺しようとしたんだよ。決して許されるべきことじゃない」





どうもそうらしい。・・・つーか、どんだけ四面楚歌なんだよ。あの狸は。



だから、改めて考えた。どうして先生が命令違反やルール違反を散々やらかしていたのか。前に・・・それを聞いた事がある。

どうして、そういう守ろうとする組織のルールを破るのかと。別に責めるとかじゃなくて、単純な興味。

そうしたら先生は・・・静かに、答えてくれた。





『ワシの道理とそぐわん時もあったということじゃ。恭文、覚えておけ。組織は、一人の思想で動いておらん。沢山の人間が一つの目的のために集まって、動くもんじゃ。言い方は悪いが、組織に属する人間の一人一人が、一つのデカイからくりの歯車じゃ。
その歯車があるから、からくりは動き、強い力を発揮する。そして、歯車は歯車でも意思を持っているから・・・なのはちゃんやフェイトちゃん達みたいないい子も出て来る。ただし、逆に腐ったのも出てくる。後者はいわゆる権力やなんかのためにしか動かんやつがな。管理局というからくりとて同じじゃ』





どこか、遠いところを見て・・・言葉は続く。





『そんな歯車が出てくる事は止められん。それを止める事は、歯車が意思と思想を持つ事すら否定するのと同じじゃ。そんなの良い事じゃないわい。ただ・・・ワシ、そんなやつらの道理のために戦うのも、命賭けるのもごめんでのぅ。
ワシは結局、ワシの道理にしか命と想いを預けられんかった。リンディちゃん達みたいに、組織・・・引いては志を同じくする仲間を信じ、歯車になることは出来んかった。ワシは、ワシというからくりを動かすためだけに戦いたかった。ただ・・・それだけの話じゃ』











・・・と、答えてくれた。その時はあまり意味がよく分からなかったけど、なんか・・・今回のことでよくわかった。





局に入るって事は、先生の言い方を借りれば組織というからくりを動かす歯車になることで・・・それは、自分という存在と同じ意思をもった歯車に預けあうこと。

でも、自分とかみ合う歯車がいい歯車かどうかなんてわかんなくて、からくりを正常に動かし、前に進む。そのために剣を・・・力を振るうことにもなって。

きっとそれは、今までみたいに自分のために戦うことが出来なくなって・・・。





なんか、そう考えたら、局入りするのが嫌になってきた。もっと言うと・・・信用出来ない。僕と言う存在を預けていいのかどうか、歯車になってまでこの組織の中で生きていっていいのかどうか、判断に迷う。










「・・・そうだね、僕達は言うなれば歯車だ。ただ、歯車は歯車でも、トウゴウ先生の言うように意思をちゃんと持ってる。このとても大きいからくりの中で、君の意思を貫くことは決して不可能なことじゃない。
例えばクロノやはやて、高町教導官やフェイト執務官に守護騎士のみんなだってそうだ。今君が感じているやるせなさを抱えて、それと付き合いつつ、歯車として生きている。組織のためじゃなく、自分や、自分が信頼出来る人達のためにね」

「でも、僕には・・・無理そうです。子どもっぽいかも知れないですけど、こんな理屈のために取りこぼしたり、ためらったりするの・・・嫌なんです」

「なら、しばらく嘱託でもいいんじゃないかな」



いつの間にか・・・本当にいつの間にか俯いていた顔を、僕はあげる。ヴェロッサさんは、優しく微笑んでいた。



「まぁ、君が普通の経歴ならこのまま局入りを勧めてもいいんだろうけど、君はトウゴウ先生の弟子だ。そして、あの人と同じ鉄を受け継いでいる」



先生から鉄・・・うん、受け継いでいる。僕の心の中にちゃんとある。僕だけの・・・僕というからくりを動かすための鉄が。

僕の表情から考えている事が伝わったのか、ヴェロッサさんがうなづいた。それから、言葉を続ける。



「今、君が躊躇うのは、きっと君の中にある鉄が納得出来ないからだよ。・・・だったら、しばらくは自由気ままな嘱託で居て、その立場から管理局と言う組織をもう一回見直して、そこから考えればいいんじゃないかな。・・・管理局はね、色々な問題を抱えている。
今回のは、ただの一例に過ぎない。そして、その問題を解決していくためにはフェイト執務官達や、君のような優秀で将来有望な人材が必要不可欠。でも、それはこちら側の理屈だもの。中に入るかどうかは、やっぱり・・・自分で決めなきゃ」

「・・・そう、ですよね」

「君は、決められる子だよね? そのための心を、トウゴウ先生や君のパートナーからもらったんだから」

「はい、決められ・・・いいえ、決めていきます」

「・・・そっか」










それから、パフェをもういっぱいご馳走になって、これからまた仕事というヴェロッサさんには、話を聞いてくれてありがとうとお礼を言って、その場で見送った。





また、本局を歩き出す。足が・・・ちょっとだけ軽い。










「ね、アルト」

≪はい≫

「僕・・・もうしばらく、嘱託で居るわ」

≪そうですか≫





・・・なんか淡白だなぁ。ちょっとつまらないんですけど?





≪何言ってるんですか。あなたが何をしようと、どこに居ようと、私があなたと戦うというのは、変わらないでしょ?≫

「・・・そうだね、変わらないね」










一歩ずつ、ゆっくりと歩く。・・・そうだ、ショッピングセンターに行って、服買ってこようかな。





新しい服で気分を変えて、リフレッシュですよ。うん、そうしよう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・そうか、やはり溜め込んでいたか」

『お兄さんの読みどおりだったね。でも、よくわかったね』

「アイツとの付き合いももう1年以上だ。問題なく分かる。あと、グレアムさんからも少しな」

『なるほど、納得したよ』





艦長室で、ロッサから通信を受け取った。用件は・・・うちの弟の進路。

恐らくだが、今回の一件についてのあれこれについての感想を溜め込んでいると読んだ上での行動だ。はやてが教えてくれたが、局入りも考えていたらしいからな。

なら、僕達に話せばいい・・・とは思うことなかれ。アイツの事だから、局員である僕達に言うのは躊躇ったに違いない。気分を害するとか考えてな。全く、愚痴くらいなら聞けると言うのに・・・。



そんなわけで面識が無く、アイツより年上で人の心を掴むのが上手いロッサに探りを入れてみてくれと頼んだんだが・・・まさか、しょっぱなであんなパンチが来るとは思わなかった。





『でも、本当によかったの? あの子の意思に任せちゃって』

「なんだ、口八丁で局入りさせればよかったとでも言うのか?」



僕がそう言うと、通信の中のロッサが首を横に振る。どこか飄々としたいつもの調子を崩さずに。



『いや、そうは言わないよ。ただ・・・家族としては心配とかないのかなと』

「あぁ、心配だ。現にうちの家長や使い魔に妹は、将来的には局員になって欲しいと思っているらしいからな」



この辺りは事情込みだ。能力もあるし、親しい人間の間だけで言うなら人望もある。

なにより、管理局は福利厚生もしっかりしているし、出世や何かの役職に付く・・・と言った将来的な事を考えれば、局員になるのは悪い話ではない。



『・・・ね、それは無理だと思うんだけど』

「僕も同じくだ」










組織の歯車には、アイツはきっとなれない。なぜなら・・・アイツは鉄だ。





それも、錆びだらけの鉄。その上、凄まじく固くて強いときてる。その鉄は、アイツというからくりを動かす事にしか力を発揮しない。いわばアイツそのものだ。





それを歯車にしようとすれば、まずその鉄を歯車の形に・・・組織に属する者として適応するように変えることから始めないといけない。そんなの、生半可な事ではないだろう。





・・・恭文、正直に言えば、お前が局員になってくれれば心強いと思う。





きっと、組織内外を問わず色々なことを変えて行ける。贔屓目かも知れないが、お前にはそれだけの可能性がある。だからこそ、トウゴウ先生もお前を弟子にし、自身の剣術の技を伝えた。僕はそう思っている。





だが、お前の道だ。やっぱり・・・行く先は、お前が決めろ。





お前がどこへ行こうと、僕がお前の兄というのは、変わらない。それだけは・・・変えたりはしない。お前はもう、僕の大切な荷物の一つなんだからな。




















(本編へ続く)






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