小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory77 『挑戦と復讐と』
いよいよ始まったインターミドル! 選考会でヴィヴィオ達≪チーム・ナカジマ≫は、最高のスタートが切れました!
そして翌日……日曜日に行われた、スーパーノービス戦。
事前説明通り、本戦と同じ形式による登竜門をくぐり抜け――現在、午後三時十五分。
「ママー! 全員勝ったよ! 最高の結果!」
ヴィヴィオ達にりまさん、シャンテ、ルールー……もちろんミウラさんも大勝利! 来週からはエリートクラスで激闘編です!
「うん、信じてたよ! おめでとうー!」
「ありがとう!」
『ありがとうございます!』
「というわけで、お祝いとしてフルーツタルトを作ってみましたー! お茶はハーブティー!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
うちに帰ると、これはまた煌(きら)びやかなケーキの数々ー! いやー、すばらしいことですー!
――ここからは一回負けたらおしまいのトーナメント。今の実力を突きつけられる……そういう恐怖も確かにある。
でもそれはほんのちょっとだけ。今は何より、あの場所で戦えることが嬉(うれ)しい。
そんな気持ちをかみ締めて、来週に備えて……ちょっとだけ休憩。明日からは対戦相手の研究も進めなきゃいけないし、大忙しだぞー!
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory77 『挑戦と復讐と』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
順番に手を洗った上で……フルーツタルトで祝勝会です。
ヴィヴィオはねー、フルーツタルトは人類の叡智(えいち)だと思うんだー。
色とりどりのフルーツに、甘ーいクリーム。ビターさも感じさせるほどさっくりとしたタルト生地。
宝石箱のように美しい外見は、見ているだけで心が華やかになってくる。
食べ物は目でも食べるものって言うけど、その意味を実感したのが……翠屋で桃子さんや美由希さんが作ったフルーツタルトなんだぁ。
なのでもうテンションマックスー。改めて、優しいママには感謝感謝の雨あられ。
口に入れると、期待通りに味の玉手箱。そこから更にハーブティーで追いかけると……あぁ、幸せー。
「みんなの予選開始は来週からなんだよね」
「はい! エリートクラスからは、大きな会場で……しかもDSAA公式リングで、お客さん達が見ている前!」
「あこがれの舞台……しかもリングアナによる紹介つき入場! BGMも自分で選択可能!」
「あぁ、あったねー。好きな曲とか……プロリーグだと≪ウルトラセブン≫で入場してくる人もいて」
「エイジ・タカムラ選手ですね! えっと……漫画のキャラをリスペクトしてたんだっけ」
「そうだよー。はじめの一歩ってボクシング漫画に出てくる鷹村ってキャラが、物すごく強い世界チャンピオンなの」
リオとコロナもテンション上げ上げなんだけど……ただ、あむさんは特に興味なさげな様子……いや、違うな。
「ま、試合とは関係ないじゃん。普通に入ってくればいいし」
「甘い!」
「ふぁ!?」
「あむさん、それは甘い……私が作ったフルーツタルトの十倍は甘い!」
いきなりママがテンションフォルテッシモとなり、あむさんがタルトとママを交互に見ながら動揺。
「格闘選手の入場はね、大事なの! 試合が始まる……これから盛り上がるぞーって期待感のスイッチが入るんだから!
そういうところも含めての試合なの! そういうところも含めての選手なの! 自覚が足りなすぎるよ!」
「そこまで言いますかぁ!」
「言うよ! 言うしかないよ! というわけで全員、すぐに入場BGMを決めるように! もう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)盛り上がるやつでね!」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
「…………ママ、そんなに格闘技が好きだっけ?」
実はヴィヴィオもかなり驚いています。というか、IMCSも割と冷静な感じで見ていたのに……。
「アリサちゃんの影響で、人並みにはね」
「でも今までは」
「いや、今まではプレッシャーを掛けちゃいけないと思って、冷静に務めていたんだけど……もういいよねー! だって入場があるもの!」
「どういうブレーキを掛けていたのかなぁ!」
「あ、ノーヴェにも言っておかないと……ノーヴェ、こういうことはズボラっぽいからなぁ……」
……ノーヴェが凄(すご)く大変そうだけど、まぁ放置でいいか。それよりヴィヴィオ達は実質宿題を出されたも同然だし……こちらの方が大変です。
「でもね、ヴィヴィオはもう決めてるよー」
「何かな何かな!」
「なのはさん、テンションが高すぎ……!」
「完全に子どもの活躍を喜んでいる親のテンション……というか、アタシ達の家と全く同じ!」
「親なら基本そうなるってー。で、何かな!」
「えっとね、高橋真梨子さんの『ごめんね…』!」
そう答えてからタルトをまた口いっぱいにほおばると。
「……」
ママがいきなり無表情となり、ヴィヴィオの両肩を強く叩(たた)く……というか、威圧してくる。
「絶対にやめてくれるかなぁ……!」
「えー、みんな驚いてくれるのにー」
「マイナスの意味でだよね! どん引きだよ! 十才の子どもがそのセレクトって! 会場中がひんやりするからー!」
「『ごめんね…』? え、何の曲なんですか」
「……レイジングハート」
≪再生します≫
レイジングハートから音楽再生――しっとりとしたバラードが流れていくたびに、みんなの表情が変わる。
コロナが、リオが、あむさんが、キャンディーズ達が頬を引きつらせて……一斉にヴィヴィオを指差し。
『アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「いきなりどうしたの?」
『アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
「ほんとそうだよ! 却下却下! 大却下ぁ! Climax Jumpとかでいいでしょ!」
「それでもいいけど……そうすると、たくさんあるバージョンからどれにしようかなーって悩むことになって」
「悩んでいいよ! むしろ悩もう!? それが健全な心だってなのはは思うよ!」
「ヴィヴィオさん……!」
アインハルトさんまで嫌なのか……ヴィヴィオの袖を掴(つか)んで、必死に首を振ってきたよ。
仕方ない、じゃあママの許可も得られたし、悩むとしようか。
あ、でも水樹奈々さんの歌でもいいなぁ。うーん、そうするとやっぱり……悩むなー!
「ですが、入場曲……!」
≪にゃー?≫
なお、一番悩んでいるのはそのアインハルトさんだった。こういうのは想定外だったみたいで。
「私はそういう、世俗に疎いので……普通に入場するのは」
「却下!」
「……ママ、それだとママは完全にチーム・ナカジマのスタッフだよ……」
「ほんとじゃん!」
「ならスタッフとしてアドバイスすると」
「しかも受け入れたし!」
「別に流行(はやり)の曲とかが分からなくても大丈夫だよ? なんだったらクラッシックの有名曲でもいいし」
そしてアドバイスも有能だった。クラッシックでもOKとなってか、アインハルトさんの肩から力が抜ける。
「アインハルトも……例えばベートーヴェンの≪運命≫とかは知っているでしょ。ああいう感じのでも盛り上がるし」
「なるほど……。そういうのでしたら……その、クラウスをイメージして作られた曲が」
「音源とかすぐ手に入りそう?」
「音楽の教科書にも載っていますので。……戦記組曲第13曲想≪拳慕≫というのですが」
「あれかぁ……切ない曲調だけど、情熱的で胸に残るよねぇ」
「はい……」
拳慕……ヴィヴィオ達もその曲なら知っている。ザンクト・ヒルデが聖王教会母体なのもあってね。
あの激しい……無呼吸運動を思わせるピアノの音色で入場かぁ。……おぉ、なんかカッコいいぞー!
「うん、あれならヴィヴィオも賛成ー。アインハルトさんのイメージにも合ってるし」
「そんないい曲なんだ……」
「はい。えっと……楽曲データはうちにあるんですけど」
「というか、ここにもあるよ? ちょっと再生するね」
『えぇ!』
「以前仕事でコンサート警備をしたことがあってね。そのときの生演奏がよくて……CD買っちゃったんだよー」
音楽とか基本素人のママでさえこれかー。だったら余計に……ヴィヴィオ達的には再確認の意味も込めて、拳慕をBGMにお茶会再会。
その情熱的で切ない旋律に、あむさんは圧倒され……。
「〜♪」
ミキは楽しげにリズムを取り、スケッチを続けていた。
音楽を……その中に込められたイメージを、必死に書き写そうとしていて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
どうやらアインハルトは拳慕で決まったみたい。でも、入場曲って……入場曲ってー!
どうすればいいの!? そんなの想定してなかったし! というか、さすがにあの……きゃー!
「でもあむさん、入場曲を決めてなかったなんて……」
「思考にすらなかったなんて……」
あれ、コロナちゃん達が冷ややかな視線を! やめて、なんか痛い! 凄(すご)く突き刺さる!
「あむちゃん、基本的にヘタレなのは変わらないしねー」
「うっさいし! でもどうしよう……やっぱないと駄目な感じ!? というかノーヴェさんー!」
「ノーヴェには説教が必要だね……!」
「な、なのはさんがスパルタモードに突入してますぅ……」
「ノーヴェは今日、寝かせてもらえないわね」
「やめてあげてよぉ!」
「まぁあむさんはゴジラのテーマでピッタリだと思うなぁ」
「なのはさんまで怪獣扱い!?」
いや、やめてよ……それは嫌だぁ! ちょ、考える! 考えるからその、仕方ないなーって感じの断定はほんとやめてぇ!
そ、そうだ……落ち着け。まずはその、リオちゃん達を参考に……!
「えっと、じゃあ二人は……」
「アタシは西沢幸奏さんの≪Brand-new World≫で!」
「あれかー。最近やっているものね、アスタリスク」
「なのはさんも見ているんですか!」
「昔からアニメっ子でねー」
なのはさんは知っているの!? え、有名なの!? 知ってなきゃ駄目なの!? ……ああああ! この空気は辛(つら)い!
「私は≪誰より好きなのに≫……あ、佐久間まゆさんがカバーした方で」
「…………空海君の意志は尊重してね」
しかも今度は何! 何を察したの! これもアニメ!? アニメなのかなぁ!
「というか、もうちょっと盛り上がる感じの曲で」
「じゃあやなぎなぎさんの≪ラテラリティ≫で……」
「あ、あれならいいよね。イントロもカッコいいし」
「ダールグリュン……ダールグリュン…………ダール、グリュン……!」
「コロナァ!?」
「私だって、七年後には必ずあれくらい……ううん、あれ以上にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
コロナちゃんはまたなんで瘴気を放出し始めているの!? なんか重い! ダールグリュンってことは、空海絡み!?
空海のラッキースケベに絡んでこれ!? というかこの感じ……千早さんだ! 千早さん二号だぁ!
「ああああああ! 名前を出すだけで虫ずが走るぅ! 憎しみで人が殺せたのならぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「コロナちゃん、落ち着いて! あれは事故! というか完全に八つ当たりじゃん!」
「コロナァ、もうハーレムの覚悟を決めるしかないと思うなぁ。ヴィクトーリアさんも割と乗り気らしいし」
「それ空海が決めることじゃん! というか重すぎるじゃん!」
「でも恭文は」
「恭文は例外!」
そうだよ、例外だよ! だってさ、アイツのハーレムってアイツに主導権がないんだよ!?
女性の方が全力出して、上手(うま)く纏(まと)めようとしているんだよ!? おかしいじゃん! 参考にならないじゃん!
そ、そうだ。こういうときはあの、大人のなのはさんにきっちり言ってもらって……とりあえずヴィヴィオちゃんは止めてもらってぇ!
「……みんな、やっぱりアニメ系中心かぁ」
かと思ったら、ハーブティーを飲みながら優雅に話を進めてきたぁ!? ガン無視もいいところだし!
「なのはさん、無視でいいの!? ほら、ツッコもうよ! というか止めようよ!」
「………………絶対触れたくない」
「涙目はやめてよ! あたしが悪いみたいじゃん!」
ごめん、なのはさん。あたしにはそれすら分からない……! あたしはそれほどアニメとか詳しくない…………あれ?
「やっぱり?」
「IMCSに限らず、割と多いんだよ。さっき言ったウルトラセブンみたいに……」
「まぁそこは人それぞれですけどねー。アインハルトさんみたいにクラッシックな人もいますし、ジャズとか、サイケデリックなやつとか……」
「あぁ……そういうのも盛り上がりそうだよね」
そういうのなら……一瞬歌唄の曲で入場とか考えたけど。
――友達でもなんでもないのに、何しているのよ。気色悪い――
そういうことを言いそうだから、絶対にやらないと誓う……! でもゴジラのテーマも嫌だぁ! あああ、どうすればぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私はオットーと一緒に、ミカヤちゃんを訪ねていた。ヴィヴィオ達の訓練でもお世話になったし、一応の報告も兼ねてね。
そのはずだったのに現在…………私達はたくさんのスクラップ車に囲まれていた。ここはミッド郊外にある廃車場。
役目を終えた数々の車体が、解体からのリサイクルを待ち、野ざらし状態ではあるけどそのときを待っている。
近くにもリサイクル工場があって、そのためにスクラップの山をたくさんの作業員さん達が行き交っている。
そんな作業員さん達の視線も軽く厚めながら、ミニスカなミカヤちゃんに付いていく形で歩いていく。
でもミカヤちゃん、スタイルいいなぁ……脚線美と黒髪が実にマッチしていて。
「そう……チーム・ナカジマのみんな、無事にエリートクラス入りかぁ」
「はい、おかげ様で」
「ディエチちゃん、オットーくんもわざわざありがとう。というかごめんね、私の都合に付き合わせちゃって」
「それは大丈夫だけど……でも、なんでこんなところに」
「実は今朝方、やっと刀身の研ぎが仕上がったんだよ」
ミカヤちゃんは右肩に担いでいた長筒……布製のそれを、楽しげに私達へ見せてくる。
「刀身?」
「私のデバイス≪晴嵐(せいらん)≫の、新しい刀身……そうだなぁ、君達なら”アルトアイゼンと似た方式”と言えば分かるかな?」
「……メインは柄の部分に集約されて、刀身部分はデバイスとしての機構を極力省き、頑強な武器として特化していると」
「そう。……なかなかいいレアメタルが手には入ってね、最終調整前の試し切りをしたいと思って」
「道場ではなく、こんな場所で?」
「そう、ここで……というか、ここ以外ではできないんだよ」
苦笑しながら、ミカヤちゃんが足を止めて見上げる仕草。
その視線の先を追いかけ………………。
「「……!?」」
オットーと二人、唖然(あぜん)としてしまった。そこにあったのは、二階建てのバス。観光やら長距離移動用によく使われるタイプだった。
廃車になってから相当時間が経(た)っているのか、車体の塗料が所々剥げ、そこからサビが浮いている。
なお、車体の全長はどう見積もっても十五メートル以上……高さも五メートル近くある。重量も相応だよ……!
「危ないし、運ぶのも大変だしね」
「「バスゥ!?」」
「うん」
「え、あの……魔法はありで」
「多少の肉体強化はするけど、それ以外はなしかな」
「砲撃とかも、なしで」
「それは全く別の術者がやることだしね」
は、はははは………………ははははははははははは! もう笑うしかないよぉ!
「なんでぇ!?」
「ディエチ、落ち着いて!」
いや、ミカヤちゃん……笑っている場合じゃない! どういうこと!? なんでこんな真似(まね)をぉ!
「ち、ちなみにミカヤさん……天瞳流ではこれが普通」
「実は廃車斬りってのが、目録試しの一項目なんだよ。とはいえもっと小さい……普通乗用車とかでやるものなんだけど」
ミカヤちゃんは楽しげに笑って、改めて筒袋を……中の刀を撫(な)でる。
「これだけ大きくて、頑丈そうな車を斬るのは……私も初めてなんだよ! ちょっとドキドキしちゃうなぁ!」
「……ミカヤさん、だから恭文とも仲良くなったんですね」
「どういう意味かな、それは!」
「オットーに賛成……!」
しかも、このバス……前方と後方にワイヤーがくくり付けられて、軽く持ち上げられ始めているようなー!
「おぉミカヤちゃん、待ってたよー!」
「どうも、お世話になります!」
「もうやっちゃうかい!?」
「はい、お願いします!」
どうやら作業員の人達とも、廃車斬りに協力してもらっている関係から仲良しらしい。
とても警戒に意思疎通をした上で、準備を開始……その途端、クレーン二つに挟まれ、引っ張り上げられていたバスが揺れ始める。
振り子……ううん、ブランコって言うべきかも。なお、そのブランコが向いている方向は……当然こちらで……!
「あの、まさか……ミカヤちゃん」
「うん?」
「あれを、放り投げるなんてことは……」
「投げるけど」
「馬鹿なの!? ねぇ、馬鹿なの!?」
「ボクも、今回はディエチを止める気になれません……!」
あれ、投げて失敗したら……命がけだよね! 潰れるよね! 大会前に大けがだよね!
しかも初めてなんだよね! なのにどうしてあんな……軽く準備できるのぉ!? どんだけ廃車をぶった切ってきたの、この人ぉ!
というか天瞳流……そうだよ、天瞳流だよ! 天瞳流の実績が怖すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「はははは、それは否定できないかなー。まぁちょっとした冒険ってやつだよ」
「それも恭文がちょくちょく言ってたことぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いちいち仲良しっぽい感じに受け止めるの、やめてくれないかな! 別にあの男とは……むしろ、恨みつらみがあるというか」
あれ、顔を背けて、ちょっと赤くなったような……は、まさか……!
「いや、恋愛関係とかではないんだ」
説得力がない。だってミカヤちゃんってスタイルもいいし、間違いなく恭文の好みドンピシャだし。
しかも剣術家ということで共通点も多いでしょ? フラグが立っていても不思議は。
「彼……結局IMCSには出なかっただろ? あの舞台で戦う機会は、一度もなかった」
「「う……」」
あ、ヤバい……心が痛い。というか、オットーもさすがに辛(つら)くて顔を背けちゃったよ。
「「ご、ごめんなさい……」」
「いや、二人が謝ることじゃ……というかそれ、ナカジマちゃん……ノーヴェちゃんにも言われたんだけど。あとはあむちゃんにも」
「あぁ、あむもその……恭文がIMCSに出られなかった原因に、一部絡んでいるというか」
「何かしたってわけじゃないんですけど、一緒に事件対処していた身なので……いろいろ気にしているんじゃないかなーと」
「そうか……。それは悪いことをしてしまった。何かお詫(わ)びをしなくては」
いや、それについてはむしろこちらが詫(わ)びをするべきような……! でも、ぐさぐさ突き刺さりながらも、改めて納得した。
私達が起こした事件は……こういうことを世界中に起こすものだってさ。
命を奪う、身体を傷付ける、物を壊す……それだけじゃない。目には見えない、夢や希望、約束も壊して、誰かをバラバラにする。
確かに私達は、いろんな事情や状況に助けられて、こうして自由の身を満喫できる。
でも、忘れちゃいけない。私達はそんな痛みを当然とした上で、この手に銃を握り、引き金を引いた……その事実を。
特に私は、世界のことも、人のことも知ろうとせず、命令だからと引き金を引いた。
それは、痛みを背負う覚悟すらない……悪意を認める力すらない、とても最低な行為だと……今は思う。
……絶対に、忘れないようにしよう。それを罪と断じ、変わろうとしたときの気持ち。
その上で前に進むことが、助けてくれた人達への恩返しになるはずだから。
じゃあ、閑話休題…………あ、やっぱ駄目かも。
現実を見たら、絶望しかない……!
「でもそれなら、私達がいるとお邪魔なんじゃ」
「ううん、せっかくだからそこで見ていてよ。あ、でも危ないからちょっと離れてもらえると」
「「はいー!」」
私達は馬鹿になれないので、糸を引くように脇へズレる。それも全力で……徹底的に!
ミカヤちゃんはそれを見届けてから、揺れる巨人のブランコを見上げ、筒の紐(ひも)を解く。
「――」
『ミカヤちゃん、準備ができたら合図をくれよー!』
「はい」
そこから白木の鞘(さや)を取り出し、左腰に携えるように持つ。……間違いなく居合いの構えだ。
巨人のブランコは揺れ続ける……遠心力によりその勢いを、力強さを加速させ続ける。
でも込められている力がます旅に、ガタの来ている車体が強く軋(きし)み、不快なオーケストラとして辺りに響き渡る。
そんな中でも、心を乱されることなく……ミカヤちゃんは息吹。
”……しかし凄(すご)い話だね、ディエチ”
”でも、実体剣なんだよね”
”フェイトお嬢様やディードのような光剣ならともかく、あれを多少の肉体強化でなんて……いや、でも可能ではあるのか”
”恭文やヒロリスさん、サリエルさん……ヘイハチさん達なら”
ヘイハチ一門の技量はやっぱり圧倒的だし、それくらいはやりそう……うん、やってくれるんだろうなとは、思うの。
でも私達にとって、ミカヤちゃんの実力は未知数で。試合映像もチェックしていたけど、どうにも繋(つな)がらない。
そうしてただただ戸惑い続けていると。
「――準備万端!」
ミカヤちゃんが一喝。半身に構え、白木の柄に右手をかける。
――ただそれだけの仕草で、場の空気が鋭いほどに冷たくなった。
「お願いします!」
『あいよ!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
巨人のブランコを形成していたクレーン……そのアームから、チェーンが器用に外される。
蓄積された遠心力。それに突き動かされる膨大な質量は、一切の淀(よど)みを見せることなく、こちら目がけて射出。
金属の甲高いノイズと、幾重にも折り重なった風切り音の重奏。命の危機すらあり得る、音と風の衝撃。
でも心は水を打ったように冷静なまま、足下からベルカ式魔法陣を展開。
その色は蒼色……奇(く)しくも、彼と同じ魔力の輝き。
――冷静な心に、ひとしずくの恐怖が交じる。
それはあの黒衣(こくい)から振りかざされた殲滅(せんめつ)により、砕かれた右手が発生源。
……私はどうも、やられたことをサクッと割り切れるほど大人でもないらしい。
こうして……命が危機に脅かされる刹那に、自分の未熟さを鋭く突きつけられていた。
ならば、振り払おうとは考えない。
それもまた一つの糧として……この右手で鞘(さや)を握る。
恨みはない。あるのは悔しさだ。
彼女の……王者の全力を受け止められなかった、自分への悔しさ。
だがもう違う。復讐≪リベンジ≫はさせてもらう……滾(たぎ)る激情を刃へと載せて、鋭く打ち上げる。
魔力ではなく、意識を載せる。そうして無機質な刃を血肉とした上で、足を踏み出す。
迷いなく、ただ斬るものだけを見据え、それを成すための機構として、鍛え上げた技を放つ。
そこに淀(よど)みはない。先ほどバスが放り投げられたときと同様……私の技は単なる行動ではない。
数千、数万と剣を握り、振るい、様々なものを斬って斬って斬り抜いて、神経の隅々にまで覚え込ませた経験だ。
そう、それに歪(ゆが)みが走るとすれば、私の心持ち次第。
ゆえに刃は。
「天瞳流抜刀居合――」
天月を映す水面の如(ごと)く、我が心として迫る脅威に打ち込まれた――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
瞬(まばた)きする暇すら与えぬほどに、引きつけてくる鋭い剣閃。
それが長大なバスを先端部から後部まで真っ二つにして、彼女の身体はその合間をすり抜ける。
ミカヤちゃんは両脇を突き抜ける質量に目もくれず、振り切った刃を逆袈裟・袈裟と振るって、周囲にまとわり付いた蒼を払って納刀。
「――天月・霞」
唾なり音が響いたところで、ミカヤちゃんの背後に突き立てられたバスが……今度は真一文字に切り裂かれる。
結果墓標のようにそそり立っていた巨体はバランスを崩し、またも轟音(ごうおん)を立てながら落下。
四つに分かたれたそれらは、更なる衝撃により破裂。細やかなパーツに分解されつつ、巨大な土煙をもうもうと上げていく。
「二連撃…………!?」
「ディエチ、見えた?」
「ううん」
…………私達は戦闘機人で、普通の人よりも強い肉体と鋭敏な感覚……視覚だって同じ。
一応、注意してみていた。各種センサーもフルにして、一挙手一投足を見逃さないように。
なのに、剣閃が……魔力が刻んだ残光以外、全く…………何一つ見えなかった……!
特に二撃目だよ! 一体何時放ったの!? それも、あんな……十五メートル以上はあるバスを真っ二つにするほど、広い斬撃を!
『おぉ……やったな、ミカヤちゃん!』
「ありがとうございます!」
戦々恐々としていると、ミカヤちゃんは作業員の皆さんへしっかりとお礼。
「おかげでいい試し切りができました!」
まだ土煙は上がっているけど、慎重に……慎重に、ミカヤちゃんへと近づく。
「ミカヤちゃん!」
「大丈夫ですか。腕や刀は」
「問題ないよ。さすがに手ごたえは重かったけどねー」
ミカヤちゃんは言葉通りだと笑って、右手をぶんぶんと振る。……いや、アレをその一言で片付ける……というか、それ以前の問題じゃ!
「ほ、本当に大丈夫なの? ミカヤちゃん、確か」
「ジークリンデ・エレミアの”イレイザー”で砕かれているしね、この右手」
「そうそう!」
「だから問題ないんだよ」
あぁ、そっか……それならよかったと、ホッと一安心。
……でも、やっぱりイレイザーなんだね。ノーヴェもまさかって感じで言っていたんだけど。
「それにしても凄(すさ)まじい……魔力もほとんど使わずに、こんなことが」
「ヘイハチ一門以外にできる人間がいたとは?」
「……えぇ、まぁ」
「それが技術――天瞳流抜刀居合いと言いたいけど、刀の性能との合わせた結果、かな」
改めて収められた刀が抜かれて、その鈍い鉄の輝きが私達に見せつけられる。
……確かに凄(すご)い。刀は歪(ゆが)むこともなく、刃先がひび割れることもなく、ただただ美しく、そして鋭く輝いていた。
「薄く鋭い刃と、重い刀身――そして抜刀に適した反(そ)り。天瞳流はこの居合刀あっての技だから。
……私がインターミドルに出られるのは、今年を含めてあと二回。後悔しないよう、思いっきり試合を楽しまないと」
『さてミカヤちゃん、残骸を捨てるよー』
「あ、すみません! ありがとうございます!」
作業の邪魔にならないよう、改めてお礼を言いつつ、ミカヤちゃんはこの場から離れる。私達もそれに続きながら……オットーと念話。
”……陛下、予選でミカヤさんと戦うんだよね”
”うん……まだ細かい組み合わせは発表されてないけど。あとはあむも同じ組だから”
”恭文をよく知っているあむならば……とも思うけど、今のを見ると厳しいとも感じる”
”でも、IMCSは魔法戦でもある。そこで上手(うま)く先手を取れれば……”
とは思うけど、年齢と経験差は大きいからなぁ。特にルールを熟知したハイランカー相手だと、どうしても一歩遅れる。
……そういう意味でも、本当の洗礼はこれからだ。できれば全員、勝ち上がってほしいけど……それも無理な話。
ここから本当の意味で勝者となれるのは、たった一人。その強さで、技術で、精神力で、頂きまでただ一つの負けもなく駆け上がれる人間だけ。
だからこそミカヤちゃんも、悠然としているようで研ぎ澄まされていた。
「あ、そうだ。せっかくだから、お茶でもしないか?」
ミカヤちゃんは軽く振り返って、斬撃を放ったときとは別人のような……人なつっこい笑顔を見せてくる。
「中央本部での予約には、まだ時間もあるし」
「時間? どこかの世界へお出かけに」
「ヴェートルの維新組で、稽古を付けてもらうんだ」
維新組……EMPDが設立した特殊捜査部隊か。なるほど、あそこの方々に揉(も)まれれば強くなりそうだ。
実際隊長格の一人であるシンヤさんは、相当な天才……恭文とも速度・技術で渡り合い、異能力込みでも対等だって言うし。
でもどこで縁故を……いや、天瞳流の方針とコネクションを考えれば、十分あり得る。実際恭文がそれで関わっているんだし。
「その後は地球にね」
「「地球?」」
更に環境を変えて合宿かー! これは……ヴィヴィオもだけど、あむ達もかなり危ないかも! ノーヴェに一言言っておこう!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コロナは強化しすぎたみたい……そんなことを考えながらも、お祝いのティータイムは続きます。
「でも楽しみだなー。来週の試合、私も会場に行くから」
『ありがとうございます!』
「それは嬉(うれ)しいけど……ママ、お仕事は大丈夫なの?」
「……そろそろ有給休暇を消費しておかないと、人事部からの突き上げが」
『あ……はい』
ママ……休みはちゃんと取っていたんじゃ。え、それでも溜(た)まるくらい扱いがいいってこと?
それは娘的にも嬉(うれ)しいけど、逆に大変そう。なのでママのお代わりティーは、労(いたわ)るようにヴィヴィオが煎れてあげます。
「そう言えば、はやてちゃん達は? ミウラも出てるけど」
「あー、ザフィーラとヴィータさんだけって感じみたい。というかママは」
「それがねー、ヴィータちゃんとは現場で一緒になることも多いのに、全然教えてくれないのー!」
――ライバル選手の親に情報を与えるわけがねぇだろ! このタコが!――
「だってー! ヒドくない!?」
「あぁ……まぁなのはママ相手なら、むしろ御褒美だよ」
「御褒美じゃないよ! 未(いま)だ鳴り止(や)まない暴言になのはは傷ついているからね!?」
それはなのはママが馬鹿なことばっかりするせいでは……。ヴィータさん、前にちょっと愚痴ってたもの。
なぎひこさんと仲良くなってから、頭のねじが外れてきているーって。きっと色ボケということだろう。
「でもはやてちゃん達は……仕方ないかー。今は妊娠中だしね」
…………そこでつい、あむさんと顔を見合わせてしまう。
「ヴィヴィオ? あむさんもどうしたのかな」
「……なのはさん、鷺沢文香さんって分かるよね」
「もちろんだよ、会ったこともあるし……あ、コロナ達は」
「ヴィヴィオから聞いています。本好きの方で、はやてさんや恭文さん達とも仲良し……というか」
「私もヴィヴィオちゃんと同じく、本の虫な関係で何度かお話を」
そこで挙手したのは、空海さん目当てで地球に通い妻もしていたコロナ。そのコロナも困った様子なので、ママが真剣な顔に代わる。
……でも文香さん、奇麗な人なんだよねー。
控えめだけど、整った顔立ちとママ達にも負けないグラマラスボディ! ヴィヴィオの目標その二十です!
「文香さんね、最近スカウトを受けて、346プロにアイドル候補生として入所したんだって……」
「346プロに!? え、凄(すご)いよそれ!」
「あの……ヴィヴィオさん、その346プロというのは……」
「美城プロダクション。地球にある、超大型の芸能事務所なんです。クリスー」
≪!≫
クリスが映し出してくれるのは、美城の本社ビル群。公式HPに載っている紹介写真なんだ。
正しく城と言うべき佇(たたず)まいに、アインハルトさんやリオも驚いた様子で目を開く。
「わぁ……凄(すご)いおっきいところじゃん!」
「自社の番組や映画、CDの制作レーベルもここに集結しているからねー。それで所属タレント数も千人単位。
俳優や歌手さんもいるし、文香さんが入ったアイドル部門だけでも百人近く人がいるんだー」
「しかも大型寮も完備しているし、中には……エステティックサロンとか、福利厚生施設も備えているんだっって……」
「正しく城……名前通りの場所なのですね。ですが、これだけ大きな事務所に見初められたのなら、特に問題はなさそうな」
「ところがあるの! 恭文から聞いたんだけど……後継者問題で、オーナー親子と縁者が仲たがいをしているらしくて!」
「仲たがい?」
そこからはかくかくしかじか――問題の主軸は、現在アイドル部門のトップにいる美城常務。
会長の娘であるこの人が、美城の後継者なんだけど……四十台間近なのに独身だそうで。
しかも本人は今のところ結婚をするつもりなどなく、仕事や美城の頂点に立つことを優先している。
……じゃあ、美城常務の後は……一体誰が引き継ぐのか。
この年齢だと高齢出産になるし、その場合のリスクも無視できない。そんな状況に陥ったことで、縁者さんは相当にお怒りらしい。
十年単位でその問題に触れて、次代の後継者選出に専念してほしいと要望したのに、一切合切を無視してきたオーナー親子に……!
「――その縁者さんで、若い人は」
「常務の叔父さんとかもいるそうだけど、会長達がそっちに渡すつもり……ないみたいなの。
だから美城の縁者さん達、外部の人に自分達の株を渡して……その人を新しい会長にして、美城常務達を追い出そうとしているんだって。
常務さん達はその動きを察知して、アイドル部門を改革……ようは今より凄(すご)い生家を出して、それが間違っているって証明したいの」
「文香ちゃん、それに巻き込まれちゃっているの!? で、でも……ただ候補生として所属しただけなら」
「それだけじゃないの! なんかね、最近……美城常務の新しいアイドルプロジェクトに参加するよう要請されたらしくて!」
「アウトォォォォォォォォォォ! え、文香ちゃん……まさか受けるつもりなの!? 下手をすれば常務達共々潰されかねないのに!」
「……文香さんの担当さん、常務達が始めた改革の煽(あお)りを受けて……他に担当していたアイドルさんのデビュー、白紙にされたそうなの」
「……常務さんの尻馬に乗らないと、その”無能評価”は覆せない。だから担当さんや同僚のために……?」
「うん」
ある意味では人質同然。そんな状況に心を痛めたのか、ママが頭を抱える。
「だからはやてさんや……恭文と唯世くん達も、相談に乗っているみたいなの。
しかも文香さんの心証からすると、常務も悪い人じゃないみたいで……」
「逆に、頑張って常務さんを助けようって感じ? そのプロジェクトが成功すれば、親戚の人達も常務を認めてくれるーって」
「それ。やっぱ、無理だよね……恭文なんかは失笑していたそうなんだけど」
「無理だよ! それで押し切っても、結局後継者は誰にするのかって話になるよ!?
会長さんに愛人なり、隠し子がいないとどうにもならないよ!」
「だよねー!」
主軸が違うって話だよ。ようは『常務から先の直系血族、途絶えかけてんだぞ。どうすんだコラ』ってみんながお怒りなわけでしょ?
そこを解決できるわけでもないなら、活躍しても意味がないよ。どうしようもないよ。
あとは今すぐに、誰かしら素敵な人と子作りに入ってもらうしか……そんな状況だから、ママも両手をパンと打つ。
「よし、それなら私も話してみるよ」
「なのはさんも?」
「まぁいきなり加わっても寄ってたかってになるだろうし、はやてちゃんの相談相手になる感じにしておくよ。妊娠中でストレスを溜(た)めてもアレだしね」
「……お願い。ザフィーラさんも言ってたんだけど、文香さんがかなり強情で……はやてさんも困っているみたいなの」
「それならそれで相談してくれればいいのにー」
「きっとライバル選手(ヴィヴィオ)の親だから、距離を取られてたんだよー」
「大会は関係ないよね!」
そうして消えていく友情……人が疎遠になることなんて簡単なんだと、ママは自分を抱き締めながら打ち震えるのでした。
「それにまぁ……今は346プロ、魅音ちゃん達もいるんでしょ? みんななら中から上手(うま)く解決できちゃうかも」
「だよねー!」
「魅音さん達だしなぁ……! そのまま会社を乗っ取りそうで怖いんだけど!」
「あの……ヴィヴィオさんと日奈森さん達からも軽く伺ったのですが、園崎さんや竜宮さん達というのは……そこまで凄(すご)い方なんですか?」
アインハルトさんは魅音さん達について興味津々だったようで、小首を傾(かし)げる。
「魔法能力者でもなんでもないのに、恭文さんと肩を並べて国家的陰謀も阻止したとか……」
「信じられない感じ?」
「はい……」
「アタシも気になる! いや、当然ただ者じゃないってのは分かるんだけど!」
「ん……多分魅音ちゃん達の強さは、アインハルト達が想像しているものとは違うと」
そこで脇にいたルティとクリスが、ふわりと浮かんでパタパタ……パタパター。
≪……ぴよぴよー≫
「ルティ?」
≪!≫
「クリスも?」
揃(そろ)って空間モニターを展開し、トーナメント表らしきものを……というか、トーナメント表だよ!
「これ、来週からのエリートクラス予選の組み合わせじゃん! ……あぁそっか! 今日の夕方に発表するって言ってたよね!」
「IMCSの公式サイトですね。そっか……チェックしてくれたんだね、ありがとー」
お手伝い上手な二人には、頭を撫(な)でてしっかりお礼。
みんなで一度ハーブティーを飲み切って、落ち着いて……トーナメント表をさっとチェック!
「……私とアインハルトさんは、順当に行けば三回戦で……って感じですね」
「えぇ」
「アタシも三回戦まで勝ち進めば、ハリー選手とかぁ。……りまさんとは、その後で戦える……勝てればだけど」
「というか今更だけど、砲撃番長ってアリなの……!?」
「スバルのバスターみたいな、近距離砲撃を主軸としたインファイターかぁ。
戦闘スタイルは喧嘩(けんか)殺法で直線的だし、慎重な立ち回りが要求されるね」
「でも慎重すぎても押し切られる。雷帝みたいな重装甲がない限り、長期戦は不利……」
「相手も歴戦のハイランカーだしね」
さすがはあむさん……この辺りは感覚的に理解できるみたい。
あむさんの経験はヴィヴィオ達にはないもので、だからこそちょっと憧れてもいる。
「……っと、そうだ」
あむさんは神妙な顔をしていたけど、ハッとしながらトーナメント表の一つを指差し確認。
「あたしとヴィヴィオちゃん、あとミウラは……」
「あ、そうだよね。四組だとミカヤさんもいるし……って、あむちゃん!」
ミキが叫ぶのも必然だった。ヴィヴィオとあむさんは、まだ大丈夫だった。
初戦で負け確定ーって言えるようなカードではないんだけど……ハイランカーとガチマッチではなかったんだけど。
「ミウラの、一回戦の相手って……!」
「ミカヤさんです!」
でも、ミウラさんは違った。
一回戦の相手は、いきなりミカヤさん……天瞳流抜刀術の使い手。
対剣術使いの練習相手として、いっぱいお世話になった恩人だった。
「それに、モンディアルさんも……」
「はい……!」
エリオも似たようなものだった。
一回戦の相手はジークリンデ・エレミア……危惧した通り、いきなり世界最強と御対面だよ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あ、あれ……おかしいなぁ。僕、一応大会前にその、お祓(はら)いとか……必勝祈願とか、したんだけどなぁ。
なのになんで、いきなり最悪なカードで始まるの……!? 滞在中のホテルでビクビクしていると。
「…………」
「くきゅー」
一緒に組み合わせ評を見ていたはずのキャロとフリードが、揃(そろ)って数メートル離れ……僕に合掌していた。
「負けるって決めつけないでもらえるかなぁ!」
「決めつけてないよ!」
「じゃあその合掌は何!?」
「エリオ君のことは、忘れないよ……って意味だから」
「よりヒドい形ってどういうこと!?」
「くきゅー!」
フリードまで全力で頷(うなず)いているしぃ! あぁ、どうしてこうなった……最初に出会ったころの、純粋だったキャロを返してー!
「でもエリオ君、実際問題……試合はかなり気をつけた方がいいと思う」
ただそんなキャロだけど、僕へと改めて近づきながら……困り果てた様子で、空間モニターを展開する。
そこに映し出されるのは、右手を押さえ蹲(うずくま)るミカヤ選手。
そして、それを冷徹な表情で見下ろす……ジークリンデ・エレミア。
この映像は僕も見たものだ。去年の試合……ジークリンデさんが棄権する前の試合。この一戦で、ミカヤ選手は拳を砕かれている。
「多分これ、”イレイザー”だよ」
「……物質変換≪ブレイクハウト≫と同等……いや、それ以上の危険性を秘めた魔法」
リンディさんやアルフは、恭文の特殊能力やら、それを前提とした魔法使用を控えてほしかった。
それは一種のアレルギー反応でもあったんだ。だって……前例があったんだから。
なおフォン・レイメイじゃない。フォン・レイメイが瞬間詠唱・処理能力の持ち主だと言うのは、JS事件時に判明したことだもの。
二人が恐れた前例……それは今の常識からかけ離れた、危険度の高い魔法。
その最も足る例が、殲滅(せんめつ)魔法≪イレイザー≫だ。
「基本は魔力付与打撃――でも、その密度が半物質化すら飛び越え、臨界点ギリギリにまで高められている。
その圧力ゆえに魔力自体が超振動を起こし、触れるもの全てを破砕する。
そこにはあらゆる魔法も、あらゆる物理攻撃も……あらゆる肉体も等しく消し去る。正しく殲滅(せんめつ)の爪」
「この時点で失格にならなかったってのは、ルール上問題じゃないのかなぁ。というか、魔法のスロットは」
「そういうシステムの外で構築する≪アレンジ≫だからね。……IMCSの魔法制限は、枷としては完全に機能していない。
根幹の使用プログラムを変えず、魔力運用の範疇で突き詰めればこういうこともできる」
「……だから、この物騒な大砲も警戒せざるを得ないわけだ」
基本を突き詰めに突き詰めた先にある極地……それが殲滅(せんめつ)系魔法≪イレイザー≫。
ミカヤ選手の手が形を残していたのは、本当に運がよかったんだよ。
これは非殺傷設定なんて意味がない。その衝撃は肉体の形を残したとしても、その根幹を打ち砕く。
もちろん普通に打ち込んだのであれば、『手首から先がなくなっていた』。それくらいに危険な武器だ。
しかもそれが、次元世界最高レベルの格闘競技者から放たれる。避けることだって至難の業だ……!
「エリオ君……約束して。本当に危ないと思ったら、即刻棄権するの」
キャロはモニターを閉じて、今度は真剣に……聞き返しはなしと、視線も交えて突きつけてくる。
「私が勝手にタオルを投げる場合もあるから、それは承知して」
「分かった。……まぁ」
「何かな」
「そこまで追いすがれるか……それが差し当たっての問題だけどね」
……正直、逃げていた部分がある。
僕も努力はしてきた。以前よりは強くなったし、できることも増えたと思う。
でも……恭文やサリエルさん、ヒロリスさん、GPOの人達や……良太郎さん達にはどうしても届かない部分があって。
なぜ届かないのか。なぜ届かないことが悔しいのか。その感情を……その結論が導く”何か”に、ずっと恐怖して。
だから迷って、今までの成果に縋(すが)って……そういう自分が嫌になって、休職して旅に出て。
IMCSに参加したのも、自分の殻を破るためだ。あぁ、でもそうか……それなら恐れる必要はない。
目指すべき山の頂が、幸か不幸か目の前にあるんだ。だったら、全力で挑めばいい。
この全力を引き出せるかどうかは別として、今の力を叩(たた)きつけて……あとは、結果を受け止める覚悟だけあればいい。
そう気持ちを纏(まと)めながら、窓から見える二つの月を見上げる。
夕暮れの中で煌々(こうこう)と輝く二つの月……その輝きにほほ笑みながら、一週間後を楽しみにしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ザフィーラを手伝う形で、アタシもミウラの強化特訓をお手伝い……なんだが……!
「……やべ、今週で終わりかもしれねぇ……!」
「落ち着け」
「入場曲……LAST ALLIANCEの≪HEKIREKI≫にしたんだっけ? ≪はじめの一歩≫のOP」
「主はやての一声でな。で、なぜその話を」
「あれにしようぜ。ほれ、あの……ずーっと無音が続く、クラッシックの。それで目立たないように……負けた場合は、そのままフェードアウトして」
「だから落ち着け……!」
落ち着けるかぁ! つーか運が悪すぎるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
馬鹿弟子だってもうちょっとまともに大会……あ、してなかったな。何だかんだで最後は結晶体暴走とかで潰れていたし。
「それはミウラ、お前も……おい、聞いているか?」
自宅近くの砂浜……ミウラやザフィーラ道場の子達との訓練にも使う場所。
二つの月がさざ波やヤシの木達を照らす中、ミウラは目を回し続けていた。
それはそうだ。何せコイツ…………あむに負けず劣らず、緊張するタイプだからな!
「あ――う――ぁ――え――」
「……ミカヤ・シェベル。最高戦績は二年前の都市本戦三位……完全に格上だな」
「一回戦で当たるというのが実に不運だ。いずれ当たる壁だとは思っていたが、せめてあと二回……ミウラに場慣れさせた上でなら」
「もうそこは割り切るしかねぇか」
あぁ、そうだ……もう割り切るしかない。混乱しかけていた頭だが、当のミウラがこの調子なので、かえって頭が冷めてきた。
そんな頭を軽くかきながら、簡単に思考を纏(まと)める。
「……ミカヤ選手はこれまでの試合を見る限り、重装甲のパワータイプじゃねぇ」
「ジャケットは薄く、反応速度に重点を置いている。テスタロッサに近く思えるが、魔法使用を前提としたタイプでもない」
「…………やっぱ、被るんだよなぁ」
「お互いに意識し合っていたそうだからな。ヴィータはその辺り」
「そっちはサリエルさん達の領域だ。ちょうどアタシ達も六課絡みで忙しかった時期だから、そんなに詳しくねぇ」
シャマルならそれなりに聞いているだろうが、強いて言うならそれだけなんだよなぁ。となると……。
「……あの、被るというのは」
あ、ミウラがようやく落ち着いたか。きょとんとしながらザフィーラを見上げている。
「……蒼凪とだ」
「恭文さんと!?」
「単純に刀使いというだけではない。蒼凪も素養の問題から、魔力量や魔法に依存しない形の魔導師として仕上げている」
「それは……はい、分かります」
「ミカヤ選手も同じだ。しかも魔力光まで一緒だから……意識し合う関係らしい」
「あれだけ強い恭文さんが、ライバルとしても認識していると……!」
そこがミウラにとって、厄介な部分なんだよなぁ。魔法も込みで……単純な出力なら、間違いなくミウラが上だ。
だが、相手はその差を鍛え抜いた技量で覆せる。そういう戦い方ができなきゃ、古参のランカーとして名を馳(は)せることはできない。
多分今のミウラにとっては、本当に……相性最悪の相手だ。しかもそれが前提として覆しようがないってのは、もうなぁ。
……だが、前提は前提にすぎないとも言える。
前提が覆せないのなら、その上で……ミウラの一番得意なものをぶつけるしかない。
「じゃあ、あの……やっぱりカートリッジシステムとかは使わないんですよね」
「これまでの試合では、お前が見た通りだ。つまり魔法の登録制限も足かせになりにくい。
使う攻撃魔法は基本一つ。刀身を軸として、魔力を打ち上げ刃とする」
「…………鉄輝一閃」
ミウラの結論に、ザフィーラと一緒に頷(うなず)く。
「馬鹿弟子が開発したオリジナル≪斬撃魔法≫――そこも含めて似た者同士ってことだ」
「しかも去年、ジークリンデ・エレミアに拳を砕かれている。大会出場年齢に近づきつつあることもあって、意識も相当に高いはずだ」
「はい……」
ミウラは重苦しい表情を浮かべながら、ぎゅっと拳を握り締め、ゆっくり開く。
その手には星形のデバイス≪スターセイバー≫が現れ、淡く輝く。
「なら、やっぱり抜剣をぶつけるしか」
「アホか!」
「えぇ!? で、でも」
「確かに向こうからすれば不意打ちになるし、ミカヤ選手は装甲も薄い。直撃を取れればそれだけで仕留められるだろう」
「そ、そうです! だからお二人やシグナム師範に教えられた通り、当てられる距離まで近づいて、斬る!」
「シグナムのことは忘れろ……いいな」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
つーかシグナムェ……! いや、アタシも乗っかったけどよ! 駄目だ、ここはちゃんと言っておこう!
つーか基本的に頭もよくないんだし、不用意に突っ込んでぶった切られるのがオチだ! セコンドのアタシ達で制御しないと!
「そもそも技量の点で勝っている相手だぞ。居合刀によるリーチの差もあるのに、簡単に当てられるものか」
「あ……」
「そこも厄介だよなぁ。懐に入れば有利だが、そもそも入らせねぇだろうし」
使用デバイスの晴嵐も、ミカヤ選手の体格に合わせて作られている。リーチで言えば一メートル近く差があるんだよ。
それが鞘走(さやばし)りにより加速した状態で飛んでくるんだ。間違いなく無傷では終われない戦いになる。
となると方針は決まってくるので、右拳を平手にパンと叩(たた)きつけて、気合い重点。
「そういうことで、まずは斬撃対策だ。フィールド構築から見直して、今までの試合映像も参考にオートバリアの反応速度も高める。
その上で……この一週間で徹底的に、拳の方を鍛え上げる」
「拳を?」
「お前のよさは抜剣ではない。その強打を、持ち前の突進力でコンスタントに押しつけられることだ。
懐へ入り、距離を取らせず、相手に当てていく――それだけでもチャンスは作れる」
「でも、ミカヤ選手は機動力もあるし、返す刃で払われる可能性が」
「だからこそ回転力を高める。無論破壊力を落とさない形でな」
「それには拳が最適ってわけだ。……いいか、足での抜剣は絶対にやるな。
イレイザーに押し負けた件から考えても、間違いなく対策があるはずだ」
「対策?」
「……イレイザーの破壊力に対抗しうるだけの、大砲……今までの試合では見せたことのない必殺技だ。当然お前の抜剣……その最大火力と同レベル」
ミウラはやや困った様子だけど、言いたいことは理解してくれたのか……頷(うなず)きながら、両拳を上げる。
「でも、一週間でそこまで鍛え上げられるんでしょうか。御存じの通り器用じゃありませんし」
「何を言っている。練習していたアレがあるだろう」
「………………アレ、ですか!? でも、まだ実戦レベルじゃないって!」
「だが完成には近づいている。……ここからはかなり厳しく絞っていくが、大丈夫か」
「はい! 御指導、よろしくお願いします!」
迷いなしかぁ……まぁ、この調子なら問題なさそうだな。少なくとも”機関砲”の出番はありそうだ。
「うし、じゃあまずは……重りは付けているよな」
「バッチリです!」
「それで足腰も鍛えつつ、ウィービングの往復二十回! シグナムが戻ってきたら、バシバシ斬ってもらうからな!」
「それも頑張ります!」
幸い刀剣術相手は慣れている。馬鹿弟子がいろいろと頑張っていたおかげでな。その辺りの経験も伝えれば……いい勝負はできるはずだ。
……勝てるかどうかは、その………………かなり微妙だと思うが。
”……ザフィーラ”
”今はいいだろう”
”あぁ”
経験や技量、能力の差だけじゃない。もし上手(うま)く競り合えたとして、最後の最後で決め手になるものがある。
万が一その領域に持っていかれたら……いや、今はいい。
できるだけのものを持たせて、送り出してやろう。後はミウラが自分で決めることだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
IMCSの選考会は無事に終了。りまとあむもエリートクラスにて戦闘開始です。まぁそれも来週の話。
とりあえず僕はお仕事……なんだけどぉ、ホントに馬鹿じゃないのかと! 頭をかきむしりながらも、夕焼けの中マンションの玄関をくぐる。
「恭文、どうする。美城常務も、会長も、全く自覚がないようだぞ」
「まぁ……ガンプラマフィアの件は警告したし、上手(うま)く動いてくれることを祈るしか」
「焦(じ)れったいなぁ……!」
「仕方ないでしょ。今のところは犯罪者でもないし、違法でもない」
シアター計画――ヤジマ商事から765プロに持ち込まれた、夢のプラン。
それも765プロがこれまで上げてきた業績と、僕の存在を信頼しての業務提携だった。
でも……予測通りに346プロが、粉をかけてくれてねぇ! 計画の手伝いを申し出てきてくれたのよ!
まぁそこについては、ガンプラマフィアの件も交えてうまーくお断りしたんだけど……恐らく納得はしていない。
「……美城縁者がリコールの準備を整えているのは、間違いないのでしたね」
「常務の叔父を筆頭に、こそこそ動いているからね。多分相当焦っているよ」
「このままリコールが発動すれば、自分達の味方はいない。だからその前に……拭えないくらいデカい能力証明をってことだな。
そしてその辺りの話が解決しない限り、ヤジマ商事としても話を引き受けることはできない」
「社の支配構造そのものが切り替わる瀬戸際だしね。……あとは文香や加蓮のことかぁ」
「……なぁ、本当に……受けるのは無理なのか。常務も悪い奴らじゃないなら、別にこのまま美城のトップにいても」
「ショウタロス」
また生卵になっているので鋭い視線をぶつけると、ショウタロスはバツが悪そうにソフト帽を被り直した。
「相変わらずこの先輩は……常務達が縁者達の声を蔑(ないがし)ろにして、信頼を損ねてきたのは事実だろうが」
「その辺りの判断は、美城のスタッフや株主が、正しい手段を持って決めることです。
仮に彼らが会社から排除されたとしても、同族経営からの脱却はいい効果もある……でしたよね、お兄様」
「そうだよ。なんにしても、手柄を立てて……なんてその場しのぎに付き合う必要はない。いいね、ショウタロス」
「……あぁ」
≪私も反対ですよ。そういうのは機動六課でウンザリなんですよ≫
「うんうん」
とりあえずその辺りは各所に連絡したし、あとはお任せ……僕はひとまずでも、のんびりさせてもらおう。
ジャンヌと、ぱんにゃ達とも遊ぶ約束をしているしね。まずはそれを優先して……。
「ただいまー」
「「「ただいまー」」」
わくわくしながら、ヒカリ達と一緒に玄関に入ると。
「お帰りなさいませ、旦那様」
ミカヤがなぜか、そこにいた。しかも割烹(かっぽう)着姿で、三つ指をついてお辞儀。実に丁寧なお出迎えに、思わず荷物を落としそうになる。
なお荷物の中身は、頼まれていた食材関係です。帰りに買ってきたんだ……って、そうじゃない!
「お風呂になさいますか? ご飯になさいますか? それとも……私の御奉仕、でしょうか。そちらも全力で勤め上げたいと思います」
「……すみません、間違えました」
「ヤスフミ、待って! 間違えてない! 大丈夫だよー!」
すると慌てた様子で、後ろに控えていたフェイト達がフォロー。出ていこうとする僕を引っ張り、玄関へと戻してくれる。
「うりゅー?」
あぁ、白ぱんにゃだけが癒やしだ! 飛び込んでくる白くてフワフワな新しい家族を受け止め、頭を撫(な)でてあげる。
「……じゃあ、白ぱんにゃとお散歩」
「うりゅー♪」
「逃げるのも駄目ー! あの、これには事情があって」
「事情って何!? ミカヤをこんな……若奥様にした覚えはないんだけど!」
「すまない。軽いジョークというやつだ」
「怖すぎるからやめて!?」
ミカヤはゆっくり立ち上がり、クスクスと笑う。
「済まないが、しばらくここで厄介になる」
「はぁ!?」
「それで訓練に付き合ってほしい。……あぁ、知り合いの選手については、何も教えなくていいから。ただ思う存分斬り合ってくれるだけで」
「なんで!? いや、ドンパチするのはいいよ!」
「ヤスフミ、そこを認めるのは台なし……!」
「でも、練習相手ならもっと他にも」
その瞬間、ミカヤが笑みを消して、ずいっと詰め寄ってくる。
「……私は、ずっと待っていたんだぞ」
悔しさも滲(にじ)ませる言葉に圧倒・というか、器用に上目遣いなのも怖い……!
「君がIMCSに出てくるのを……全力で、あの舞台で戦えるのを」
「「う……!」」
その言葉が突き刺さったのは、僕じゃあなかった。
フェイトが……慌てた様子でリビングから出てきたディードが呻(うめ)いて、壁に寄りかかってグスグス言い始める。
「ご、ごめんなさい……それについては、私にも責任が……」
「私も、いろんな御迷惑を恭文さんにかけてしまって……」
「ディ、ディードちゃん! フェイトさんもしっかりしてー!」
「あ、いや。奥方達を責めるつもりはなかったのだが……そう言えば、ディエチちゃん達も似たような反応だったな」
「あ、うん……みんなは特にね」
でもおかしい。興味があるとは言ったけど、出るとか……そういう約束はしていなかったような……! タツヤじゃあるまいしさぁ!
「そういう問題ではない」
心が読まれた!?
「でも、それとこれとどういう関係が」
「まぁ……基本的にはない」
「ちょっと!?」
「ただ君と、IMCSが関わる中で戦いたい……それも待ち望んでいた分、全力で……それだけのことだ。だから付き合ってほしい、私のわがままに」
……ミカヤの目が、心が、真っすぐに……僕との時間を求めてくれていた。それは僕が、どういう形であれ放り投げてしまったもので。
アルトやヒカリ達を見やるけど、やってしまえと頷(うなず)きが返ってきた。
ん、そうだね……いつも通り、楽しく暴れるんだ。
「……僕も仕事や学校があるし、夜だけだよ?」
「十分だ。ありがとう」
≪いい流れですねー。この調子で更に混乱すると楽しいんですけど≫
「うりゅー!」
「黙れ……!」
「あ、それと申し訳ないんだが」
ミカヤは困り気味に脇へズレて、右手でリビングの方を指す。するとそこには……!
「あちらの奥方……かのジャンヌ・ダルクと同姓同名らしいが、どうも私とお前の関係をいろいろ勘違いしたようでな」
「……!」
涙目でこちらを見つめ、うーうー唸(うな)っているジャンヌがいた。あは、あはははは……すっごいヤキモチモードだー!
「ジャンヌちゃん、涙は拭こうか」
「そうよ。というか、アンタも同じだったからね? 私達からすれば、似たようなものだったからね?」
「やっぱり、私ももっとパワーアップしなければ……!」
フィアッセさんやティアナが宥(なだ)めているけど、全く聞いていない!
「勘違いだと説明するか、それとも押し通すか……好きな方を選んでくれ」
「おのれ、やっぱり今すぐ出ていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
――こうしてミカヤはまず一週間……我が家に滞在することが決定。
それで最初にやることは何か。それはもう…………説教しかないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!
(第78話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、鮮烈な日常第78話――幕間第11巻の熱闘編リマスターも進めていたら、すっかり遅くなって。
そちらの方は二話分まで完了。HP版で増えたシーンやらを追加して、すり合わせて……ちょこちょこ変更という感じですが、文量も結構増える形に」
古鉄≪これで第11巻でやった分は終わりましたから、また三話目のリマスター開始ですね。
これももうちょっと時間がかかるでしょうが、お待ち頂ければ幸いです≫
(まだまだやるぞー。というか、そういうのの報告は今後Twitterで多めにしていこうと思います。
後書きでやろうとすると、ついつい纏めて書こうとしてレスポンスが悪くなる……)
恭文「お相手は蒼凪恭文と」
古鉄≪どうも、私です。……今回はインターバル。本格的にトーナメントが始まる前の準備段階≫
恭文「そしてエリオは………………いや、僕は空気を読もう。キャロじゃないし」
(『私だって空気を読んだよ!』
『いかいおー!』)
恭文「そして格闘イベントのお決まり、入場時のあれこれ……まぁヴィヴィオ達はまだ楽だ。適当にアニメの曲とか持ってくれば……!」
古鉄≪中の人ネタでもいけますしね。……問題はそれじゃあ駄目な方々≫
恭文「ミッド由来の音楽とかでなんかやっている感じにしよう……」
(『雑すぎるじゃん! じゃあやらなきゃいいじゃん!』)
恭文「仕方ないでしょうが! 同人版のアップデートも視野に入れて、ボクシングとか総合格闘とかいろいろ見てたんだから!
試合内容以外でもパワーアップできるところが欲しかったんだからぁ!」
古鉄≪まぁそれで詰まってもあれですし、適当に行きましょう≫
恭文「だね。……しかし、日本だと夏はまだ続いているけど、暑さがある程度落ち着いてきたらしいけど」
古鉄≪台風の影響で曇り空も多かったおかげですね。それは今後一週間も変わらないですけど≫
恭文「これくらいなら扇風機でのんびりしてもいいよねー。……まぁ、僕達……今ハワイなんだけど!」
(そう……FGO夏イベのため、エンドレス同人サマーを満喫中)
恭文「つーかもう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 帰りたい! 日本に帰りたいー!」
マシュ「恭文先輩……また……」
ロビンフッド「おたく、今回は完全に戦力外だよなぁ……」
ショウタロス「そうなるって言ったよな、オレ……!」
ロビンフッド「うん、忘れてないよー。しかしここまでとは……予想外に重症だな、これ」
シオン「更に言えば、高町教導官やフェイトさんの宿題をやらされた件もありますから」
ロビンフッド「やっぱり夏は鬼門ってわけね」
BB「…………ああもう! センパイはいっつもグチグチグチグチ! 温厚なBBちゃんもさすがにお怒りです!
せっかくセンパイのために、素敵な夏休みを楽しませてあげようと頑張ったのに!」
ジャンヌ・オルタ「まぁその心遣いには疑問があるけど……三割くらいは賛成ね。ちょっとは気持ちを切り替えていきなさいよ」
マシュ「そ、そうですよ! これだけ素敵な場所で、夏休みを好きなだけ満喫できるんですよ!?
私も……このまま、恭文先輩やみなさんとの夏休みが終わらなければと……考えることが」
恭文「………本当に そう思うの?」
マシュ「え」
恭文「夏休みが永遠に続けばいいと……」
マシュ「は、はい! あくまでも願望ですが」
BB「終わらない夏! 素敵じゃないですかー! なのでほら、気分はさくーっと入れ替えて同人誌を作りましょう!」
恭文「仮に……夏休みが終わらないとして、それでおのれらは何をしたいのよ。永遠に休み続けたいの?」
BB・マシュ「え………………」
古鉄≪あぁ……前に長谷川さんも言ってましたねぇ≫
恭文「サーヴァントのみんなが新学期に入っても休み続けるのか。
みんながカルデアから卒業して、自立し、働き始めても休み続けるのか。
元職員の某が出世しただの、結婚しただの、ぐだ子や脳筋姉、ザビーズに嫌味を言われながら休み続けるのか」
BB・マシュ「………………」
恭文「みんなが定年し、足腰立たなくなっても……その涙の横で休み続けるのか。
皆が新しい家族を築き、人生を謳歌しているのを横目に……。
本当は私も働きたかった。結婚したかった。親孝行したかった。
そんな事を思い、家族も誰もいなくなった部屋で一人……それでもお前は休み続けるのか。
そうだろうな。何故なら永遠の夏休みを願ったのはお前達なのだから」
BB「いや、あの……センパイ? 私達、何もそこまで」
恭文「お前達は休み続けなければならない。休まずに休み続けなければならない。
分かるか……休みというものは、生活の基盤たる労働活動の義務を果たして初めて存在できる。
休みだけあっても、それは休みにはならないんだよ……!」
BB・マシュ「ひぃ!?」
恭文「なんだってそうだ。休みだって終わりがなければ働く事と変わらない。義務苦痛に変わる。
終わりがあるから休んでいられるんだ。終わりがあるから働いていられるんだ。
終わらない夏休みなんて――無間地獄と変わらねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
BB・マシュ「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」
恭文「――――――ありがたく思えぇ! お前達の人生に義務と休み――起伏が存在している事を!
お前達の『夏休み』がまだ『夏休み』と呼べる事をなァァァァァァァァァ!」
ジャンヌ・オルタ「怖すぎるでしょ! というか、アンタはどんだけ深い怨嗟を抱えてここにいるのよ!」
古鉄≪この人というか、長谷川さんですけどね≫
(というわけで、休みすぎても駄目だというお話でした。
本日のED:LAST ALLIANCE『HEKIREKI』)
ロビンフッド「いや、でも言いたいことは分かるよ? その長谷川さんだっけ、その人の言った通りだ。
起伏は大事ですよ、起伏は。……つまり、坊主には仕事が必要ということだ」
ジャンヌ・オルタ「その仕事を根底から否定しているんだけど、コイツ!」
ヒカリ(しゅごキャラ)「星梨花がいてテンションも上がったと思ったら、今度はその星梨花もループに巻き込んでいる事実で心へし折れたからなぁ……もぐ」
ロビンフッド「だったら余計に問題なし。……坊主、喜べ! 終わらない夏も、休みもない! 最後にはドンパチが待っているからな!」
恭文「………………え、ドンパチ!?」
ロビンフッド「そうだ! メインで暴れていいぞー! どうぜBBもボスっぽくどっかで出てくるから、タコ殴りにしてよし!」
恭文「それなら頑張る!」
ジャンヌ・オルタ「アンタはそれでいいの!?」
BB「というか私、今回は散々すぎるんですけど! この間は襟首をブラの紐ごと掴まれてぶんぶん揺らされ、危うくR18になりかけたしー!」
ロビンフッド「それは自業自得でしょ」
BB「ひどーい!」
シオン「ところで」
長谷川「……………………」(路上に蹲り、うつろな目で地面を見つめ続け血エル。その前には『暑中お見舞いください』と書かれた缶)
シオン「どうして長谷川さんがいるんでしょう」
ジャンヌ・オルタ「………………え、あの人なの!? 例の怖い怨嗟の人!」
ヒカリ(しゅごキャラ)「あぁ。マダオはホームレスだからな。終わらない休みという無間地獄を味わい続けている」
ジャンヌ・オルタ「うわぁ……!」
ロビンフッド「……で、そんなホームレスがどうしてハワイにいるんですかねぇ」
酒呑童子(ロコモコを食べながら)「なんでも怖い眼鏡の男達に捕まって、荒れ狂う海で蟹を捕る仕事を紹介されたんやって。
でも途中で海から落ちて、流れ着いて……可哀相やわぁ」
BB「あぁ……よくある話ですねー」
ロビンフッド「あってたまるか!」
ジャンヌ・オルタ「ほんとよ! どう考えても違法な仕事じゃない! どう考えても地獄じゃない!
しかも見てよ! このバカンス一色の中、ただ一人不幸せ全開なんだけど! 淀みとして存在しているんだけど! コイツが特異点なんだけど!」
マシュ「…………長谷川さんも事件が解決したら、日本へと送らなくてはいけませんね。先輩のご友人ですし」
(おしまい)
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