小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第89話 『アプリスク五日目/黄昏のとき』 前回のあらすじ――恭文が絶望の表情を浮かべました。うん、気持ちはよく分かる。 身内同士のゲーム大会とかもう嫌だって言ってたのに、またそのノリだしね! しかも相手が美由希さんって! 確かめちゃんこ強いんだよね! 恭文も負け越しているって言ってたし! 「まさか恭也達もいたなんて……」 「フィアッセさんのお知り合いなんですか?」 「私の幼なじみなんだー。それでね、御神流っていう……古流剣術の使い手。フィジカルオンリーなら恭文くんより上かも」 「な……!」 「あの、ホントなの。あたし達も一回見せてもらったんだけど、滅茶苦茶強くて……!」 しかも美由希さん、見る限りはゲームの中でも強さは変わらずだし。その上安全なバトルフィールドはどんどん狭くなっていく。 ……これって、どう考えても分が悪いんじゃ! 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と彼女の機動六課の日常 第89話 『アプリスク五日目/黄昏のとき』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――状況を整理しよう。 脳内リミッターを解除して、肉体と知覚の限界を突破する≪神速≫はゲーム内では使えない。それはシステム外スキルすぎるもの。 つまり神速の重ねがけやら、最終奥義とかを出される心配はない。 こちらも自己催眠による潜在能力解放≪修羅モード≫は使用不可能だけど、そういう意味では条件は同じ。 ……なら、僕は美由希さんに勝てるか。 神速というチート技能も封じられたのなら、勝てるのではないか。 残念ながらそんなことを思えるほど、温い生活を送っていない。 「――はぁぁぁぁぁぁぁ!」 美由希さんの身のこなしは、神速がなかったとしてもかなりの速度。正しく電光石火……空を突き刺す瞬きそのもの。 神速や元々の身体能力に頼らない完全なスキルで切り抜けたかと思うと、背後を取って刺突の構え。 すかさず振り返り一閃。しかし美由希さんは斬撃を避けつつ、投てき武器≪アンカーワイヤー≫を射出。 こちらを縛ろうとする鋼糸をすり抜けた上で踏み込むと、左手で小刀を連続投てき。 それを刀で払いのけると、美由希さんは地面を踏み砕きながら疾駆。僕の眼前にまで来て横へ飛んでから、すかさず脇腹へ刺突。 咄嗟に足を止めてその斬撃を回避。返す刃を魔光刃で捌きつつ、その柄尻で顔面に刺突。 美由希さんは左手でそれを受け止め……僕達は同時にお互いを蹴り飛ばしながら、地面を派手に転がる。 起き上がると美由希さんは二刀を取り出し……魔光刃じゃ追いつかない! 刃を仕舞い、僕も小太刀二刀を取り出す。 袈裟・左薙・刺突・唐竹――二刀交互に連続で振るわれる刃を何とか捌きつつ、美由希さんの懐へ入って胸元に刺突。 美由希さんはそれを伏せて避け、鋭く回転しながら僕の脇を抜け、背後を取って背中に袈裟一閃。 素早く左の小太刀を背中に回し、刃を受け止めつつ前のめりにお辞儀の姿勢。美由希さんの刃はこちらの小太刀を滑りつつ、一気に突き抜ける。 美由希さんと交差してから切りかかろうとすると、こちらに左ミドルキック。咄嗟に小太刀で防御するも、体格差から大きく吹き飛ばされる。 ……地面を滑って着地しながら、すぐさま自らバランスを崩しあお向けに倒れる。 小太刀を一本仕舞い、残りの一本で放った神速の抜刀術。リンボーダンスの要領でその刃をすれすれで回避しながら、幾度も宙返り。 安全圏ギリギリに着地した上で、美由希さんと改めて退治……くそ、さすがにキツい……! 美由希さんの速度は恭也さん以上。ぶっちゃけフェイトも魔法ありだろうと追いつけない……地上戦限定だけどね? そんな速度で、どんどん狭くなるフィールドの中でドンパチは……いずれこちらの反応が遅れて、一気に潰される。 銃器は当然通用しないし、グレネードも決定だにならない。できるとしたら、範囲が徹底的に狭くなってから自爆? ……それは違う。 僕は勝ちに来たんだ。 決して、そんな……負けないための戦いをするためじゃない。 十代さんとのデュエルではやったけど、あれもかなり悔しかったんだよ? 僕が十代さんの地力を受け止められなかったって証明でもあるし。 これもあのときと同じ? ううん、何かが引っかかっている。まだ諦めるなってこころが言っている。 つーかそろそろ、勝ち越したいんだよねぇ……! そのための足がかりとして、まずは。 ≪範囲縮小、安全圏決定。魔導ガス展開まであと三十秒≫ …………ちょっと待って。 (『どんどん狭くなるフィールド』?) 視界情報の一つとして移っているミニマップ。 既に分刻みで狭くなっていくフィールド。 僕にあって、美由希さんにはない経験値。 ……………………もしかしたら、勝てるかもしれない。 こっちもリスクがある。でもそれは当然のことだ。 明石さんならこういうとき……きっと、こうかましてくれるよね。 「……ちょっとした冒険か」 「……何か思いついたみたいだね」 残り十秒……じりじり下がると、美由希さんは小太刀をすっと引き、腰を落としながら突撃の構え。 美由希さんの得意技。速度を生かした上での突き……! この状況ではもってこいだ! 「でも、簡単に負けるつもりはないかなぁ。女の子にも優しくしてなかったし」 ……スバル達のアレか。まさか見ていたとは……って、当たり前だよねー。同じ飛空挺に乗っていたんだし。 「僕の中で奴らは女性ではないので、問題ありません」 「……だけど、恭文と仲良くなりたがっていたよ? 何があったかは分からないけど」 「分からないまま口出しすると、ろくなことにならない……大学時代のアレで学習したはずなのに」 「言わないでー! ……なのは達とのこととは関係なく、あの子達を受け入れる。それで……いいんじゃないのかな」 「アイツらの嘘っぱちに巻き込まれるのはゴメンなんですよ」 まだまだ……残り十五秒。 「アイツらの夢は、アイツらの嘘でアイツら自身がぶち壊した。あの馬鹿どもはそれに巻き込まれた嘘吐きの仲間」 「……嘘だけじゃ、ないんじゃないのかな」 「そんなもんに関わるのはウンザリだ」 「今度はあの子達と手を取り合って、本当のことを作っていけば」 「何のために」 十……九……八……! 「……恭文」 「可愛い妹を庇いたいのは分かるけど、そんな感傷に巻き込まないでよ」 時間稼ぎは完了……! 本当にギリギリまで下がって待ち受ける構えを取ると。 「――――――――分かった」 美由希さんは目を細めながらも疾駆。雷光を思わせるような鋭き踏み込みが、その姿すらも……存在すらもかき消していく。 ≪範囲縮小開始≫ 麦畑を一直線に切り裂く突撃。 一瞬で距離を埋められ、放たれる刺突。 それに対して僕は……小太刀をほいっと、無防備に美由希さんへと放り投げた。 「え……」 美由希さんはほんの一瞬、僕の行動が理解できず、その剣先を鈍らせてしまう。その隙を見逃さず左スウェー。 フリーになった左手でグレネードを取り出し、美由希さんの足下に投てき……同時に大きく後ろに飛ぶ。 美由希さんはすぐさま左に跳んで、グレネードの爆風を回避。ただし僕はあえて逃げ遅れて……空中でその衝撃を浴びる。 一気にHPが削られ、残り一割を切る中、派手に吹き飛びながら地面を転がる。 「自爆覚悟の攻撃……読んでいたよ、それは!」 すぐさまグレネードを更に投てき! もう一個ついでに……大きめに投てき! その上で慌てて……ティアナと恭也さんが倒れた場所を目指す! そっちは本当に、ギリギリで範囲内に収まっていた! 「やるね。でもそんなことではやられ………………あれ」 ……そこで美由希さんは、ようやく気づく。 円形のエリアフィールド……その端で真横に退避した自分が、一体どうなっているのか。 なぜ自分のHPがスリップダメージを受け続け、青い靄に包まれているのか……! 「体力が減って……視界が、青く………………あああああ!」 そう……安全圏の外に押し出した! もちろん普通なら美由希さんにそんな隙はない! でも今はちょうど範囲縮小タイミング! 戦闘中なのもあって、無意識的に大きく外に出ちゃったのよ! そして美由希さんが足を止めている間に、僕が吹き飛ばされている間に、スリップダメージはHPをどんどん削っている。 「ちぃ!」 ……すぐさま安全圏に戻ろうとした美由希さんに、追加のグレネードが飛ぶ。当然安全圏を確保した上で回避するけど、その分大回りとなる。 そうしている間に、美由希さんのHPは残り六割……こっちも一瞬だけ範囲外に出て、ティアナのボックスを漁ってアイテム確保! 「まだまだぁぁぁぁぁぁ!」 それでも美由希さんは安全圏に足を踏み入れる。…………そこでその足下から、閃光が走った。 そう、三発目の爆弾は、転がしておいたスタングレネード! 美由希さんの視界は潰され、ステータス異常として本当に……一瞬だけスタンが発動。 「あ……!」 美由希さんはスタンがなければ、即座に回避行動を取っていたはずだ。御神流は視界に頼らず、周囲の気配を探るのも極意の一つ。 その訓練を積んでいる美由希さんなら、たとえ全盲だろうと対等に戦える。……でも、これはゲームだ。 現実とは違うルールが、道理がある。ゆえに次の瞬間、訪れた光景は必然だった。 ティアナの荷物からパクったアサルトライフルを構え、停止した美由希さんにフルバースト。 美由希さんは一切の反応を許されず、そのまま残りHP全てを削られる。 スリップダメージによりHPが半減していたことにより、スタン回復直後の回避行動すら許さず、美由希さんはあえなく倒れた。 ”待って、待って……え、こういうの……アリなの……!?” 「ゲームですから」 ”というか、さっきのアレも……” 「時間稼ぎに決まってるでしょ」 ”何それぇぇぇぇぇぇぇ! アリなの!? アリなのそれぇ!” 「ゲームを忘れた方が悪い」 ふだんの性格&言動的にも、美由希さんがゲーム慣れしているとは思えない。 更に言えば、範囲外に出たときのダメージは結構大きい。たとえ仕留めきれなかったとしても、この対面状態での回復は難しい。 次のチャンスに繋げられる道筋もあったし、僕には損のない作戦だった。 ……でも。 (恐ろしや……!) 脳内リミッターを切って発動する神速は、ゲームの性質上システム外スキルとしても使えないのに、この強さだもの。 正直こんな絡め手でも使わなかったら、間違いなく勝てなかった。 ”また辱められた……! やっぱり責任は取ってもらうからぁ! あの子達とは仲良くしなくていいけど、私とは肌と肌の触れ合いから頑張ってもらうからぁ!” 「GMー!」 ”だから呼ぶ理由が分から………………ぐふ!” 美由希さんのアバターが消え、アイテムボックスが現れた瞬間……勝利者は確定。 ≪Winner――YASUHUMI!≫ 「おっしゃあああああああああああああああ!」 百人によるバトルロイヤル……その勝利を掴んだ感激と興奮。 ふだんのキャラなんてかなぐり捨て、天高く拳を掲げ、思うがままに吠え続けた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――優勝商品は性能とは関係ないアバターアイテム。狼のエンブレムが刻まれたコート……これがカッコいいのよー。 そんなコートを着つつ、あむ達と合流。 「みんな、やったよ! ドン勝つ取ったよー!」 『………………』 すると、なぜかみんな微妙な表情で。 「アンタ、生き生きしすぎ……!」 「遊んでるんだから当たり前でしょ」 「それで済ませていいわけ!? というか……なんで恭也さん達がいるの!」 「ひかるが誘ったそうだよ。ついでに言うと、一緒に参加していた特殊部隊連中も……プロの能力再現ができるかどうか実験したかったって」 「あんな一杯入ったら単なる迷惑じゃん!」 「だよねぇ……!」 「いや、それは蒼凪君も……何でもない」 あれ、唯世が何やら困り気味に。そうかそうか……さすがにプロ集団は怖いか! 僕もだよ! 「まぁ恭也さんや美由希さん達は、ゲームとのすり合わせが楽な部類だからねぇ。余計脅威度が高いというか」 「すり合わせが楽? というと」 「たとえばおのれなら、キセキとのキャラなりをそのまま再現はできないでしょ」 「まぁそうだね。ゲーム的にもあり得ないし……あ、そういう」 唯世は僕の例えで要領が得られたのか、なるほどと拍手を打つ。 「それと安心していいよ。美由希さんにも軽く聞いたけど、さすがに自重するらしいし」 「そっかー。……じゃあ私達は」 「予定通り、まだまだ遊び倒す!」 『おー!』 そう、ゲームはまだ終わらない! 『どれか』とか言ってたけど、参加できる演習は一つだけじゃなかった! 次は……キャッスルブレイクだー! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文さん、凄いです……! やっぱり実戦を知っている人は強いと、庭園の中で気合いを入れ直す。 「卯月ちゃん、やる気満々ねー」 「はい! 美波さんが作ってくれた装備もありますし……ありがとうございます」 「どういたしまして。でもやっぱり意識しているのかしら」 美波さんがそう言いながら、イメチェンした私を一瞥。楽しげに頬を緩める。 「でもそれだけじゃないんです。試したいこともあって」 「試したいこと?」 「はい! だから次の試合、頑張ってみます!」 今の……恭文さんと戦っていた人達の動きも加味すれば、凄いことができるかもしれない。 イメージで動くアバターは、やっぱり現実の技能や感覚という限界値がある。だけどイメージ……想像力が骨子なのは間違いない。 それを超えることができれば――! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――キャッスルブレイクのルールは至って簡単。フィールド中央に設置されたチャリオットの奪い合いだ。 チャリオットは自軍メンバーが乗り込むと、相手陣地に向けて決められたルートを進軍。 途中三箇所のチェックポイントがあり、そこでは一定のチャージタイムを重ねることになる。 チャリオットは基本的に一度乗り込めば、あとはオートで進んでいく。例え乗り込んだ人間が離れてもね。 でも敵軍メンバーが乗り込むと乗っ取られ、自軍に向かって進むようになるから防衛の必要があり。 そうしてより深く、相手陣地に踏み込んだ方が勝ちだ。 試合時間は十分。 参加人数は八人まで。 倒されてもバトルロイヤルのように脱落はなく、十数秒のリスポーン時間を経た上で復活可能。 わりとこぢんまりとしていて、指定されたフィールドも狭く…………というか、僕とあむが転送されたフィールドは、クヤウトの中央区! 僕達アザサキ組は城を目指し、敵であるクヤウトはそれを防衛する形となった。 「街中でバトルか……! というか恭文と一緒」 「オートマッチングだったのにねぇ。……遮蔽物がないから、基本は殴り合い。あとは遠距離攻撃に注意」 「チャリオットに乗っかったら、的になるからだね。でもずっと乗ってる利点って」 「進行速度が速くなるのと、高所を取れるから遠距離攻撃が有利になる」 「そっちは私の担当ね」 そう言いながらすっと横を取ってくるのは……げ、ティアナ……! コイツもアザサキだったのか! 「人数が少ないし、戦力比率も大きいんだから……ちゃんと連携してよ?」 「おのれ程度の腕じゃあ、足を引っ張られるのが関の山だ。好きにさせてもらう」 「ちょっと!?」 「恭文、それは」 「だって」 そう、だって……変に連携連携なんて足並みを揃えていたら……! 思わずガクブルし、フリーアタッカーとして戦う覚悟を定める。 「きっとまた、恭也さんが……美由希さんが……特殊部隊が……!」 「何それ!」 「……あの、ティアナさんが負けた二人とか……地球の方で滅茶苦茶強い、達人級の人達で」 「美由希さんも!?」 「うん……というか、男の人はお兄さんの恭也さん。なんかね、仲間の特殊部隊と一緒に参加していて」 「高町家はどうなっているのよ……!」 ティアナが戦々恐々とするのも無理はない。引退こそしているけど、士郎さんも相当な使い手だったし……揃って戦闘民族だもの。 「だから結局みんなやられるんだ。だったら一人でも戦ってやる!」 「悲観的過ぎじゃん! というか、自重するとか言ってなかった!?」 「オートマッチングって言ったよね!」 「運が絡むのかー!」 「いや、だからこそ連携……本気で震えないでよ! そんなに信じられないの!?」 「……恭文さんー」 するとトタトタと走ってきたのは、侍服に刀を装備した卯月だった。 「卯月さん!」 「おのれも……って、その格好は」 「はい! 最終日は剣術小町仕様です! ……どうですか?」 卯月は桜色の和服にブーツ、金属式の小手、更にどこからか調達した刀……髪はアップにして、とても軽快な仕様だった。 「よく似合ってるよ」 「あ、ありがとうございます! ……よし!」 「……えっと、この子は」 「黙れ疫病神」 ティアナが関わらないよう、卯月をカバーしつつ睨み付ける。 「天使が穢れる……見るな」 「同じチームって認識だけは持ってくれる!?」 「アンタは本気すぎだから! はいはい、やめやめ! ここはもういい機会だし、仲良くすればいいじゃん!」 「じゃあ金」 「「金ぇ!?」」 「日給だから」 「「日給!?」」 ≪――競技開始まであと十秒――カウント開始≫ お、始まったか! 今回は……ティアナ以外前衛という脳筋仕様だから、実のところ大した作戦は取れない。 つまりところ、邪魔する奴らは全て蹴散らして、押し通す! ≪五、四、三、二、一……攻城開始!≫ カウントが切られ、全速力で駆け出す。中央区の噴水広場、その中央に存在しているのは目的のチャリオット。 いや、チャリオットっていうかあれは……やぐら、なんだけどね……! 可愛らしい杭とか、大砲とかがついているだけで、完全にやぐらなんだけど! 手抜きにも程がある! くそ、あれじゃあ遠距離から狙い撃ちだし! チャリオットっていうから攻撃能力があるかと思ったら……そう甘くないわけかぁ! 敵の構成は……格闘士や戦士が五人、狩人が一人、魔法士が二人ずつか。 やぐら……もとい、チャリオットに常駐すれば、遠距離攻撃で狙い撃ち。となると……。 「あむ、脇は任せた!」 「OK!」 「まぁ」 そう言いながら跳躍――すかさず≪兼定≫を抜刀。 早速飛んできた矢弾や炎、氷の砲弾を袈裟・逆袈裟・回転しながらの右薙一閃で切り裂きつつ、やぐらに着地。 するとやぐらは赤に染まり、ことことと進軍開始。ルートは地面上にガイドビーコンとして出されているので、敵味方ともに迷う心配はない。 それはつまり、やぐらのルート上に待ち受けることもできるって話だけどねぇ……! 「仕事はそんなにないと思うけどねぇ」 ≪兼定≫を手元で一回転させ、袈裟・逆袈裟の連撃。矢弾を次々と切り払っている間に、やぐらは右へと大回り――第一チェックポイントに到達する。 ≪第一チェックポイント到達。進行再開まであと十秒――≫ やぐらの足が止まる。それは当然ながら、向こうの防衛チャンスだ。すかさず範囲指定型の炎熱魔法が詠唱――。 足下にその攻撃範囲を示すサークルが表示されるので、大きく宙返り。地面から吹き出す爆炎を避けながら、石畳に着地する。 すぐさま速度を生かして飛び込んでくる、赤髪の槍持ち………………って、またおのれか! 「いけぇぇぇぇぇぇぇ!」 「甘い!」 そこであむが飛び込み、突き出される槍を両腕でガード……ガントレットと切っ先が衝突する中、あむはすかさず身を伏せる。 ガントレット表面で刃を滑らせ、槍をかいくぐり、更に両手でその柄を強くホールド。 エリオは引くこともできず戸惑っている間に肉薄され……鋭い≪コンボ≫を全身に受ける。 「がは……!?」 すかさず僕はその背後を取り、側頭部目がけて袈裟一閃。エリオは頭を輪切りにされながら地面を転がり、そのままHPが尽きる。 「あむ、ナイス」 「当たり前じゃん」 ”どうしてー!” エリオのアバターが消える前に蹴り飛ばし、こっちに飛び込もうとした斧持ちへとぶつける。 すかさず飛びかかっていた我がチームのグラップラー達が飛びかかり、二人がかりで殴り合う。 向こうのロングソード持ちがやぐらに乗るけど、その瞬間ティアナのヘッドショット……容易くアバターが吹き飛ぶ。 しかし登場判定は取られてしまったため、やぐらは反転。すかさず走り込み、やぐらに乗り込む。 やぐらは再度反転して、再び第一チェックポイントに到達。またカウントは最初から……面倒だけど仕方ない。 「恭文!」 …………本当に面倒だし! というかスバルまで……でもそこで、電流走る。 あはは、なんだ……これはむしろ好機! コイツを煽れば、相手チームはすぐに瓦解する! 「今度こそ勝負だよ! それで」 でも、今回については相手をする必要がないらしい。 「させません――」 だってポニテにした髪を翻しながら、卯月が前に出てくれたから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文さんは自由に動かした方がいい。魔法や矢弾も切り払える上、機動力があるんだもの。 やぐらの定期的な確保、更に向こうのフロント排除にも役だってくれる。なら、私はそれより前だ。 でもそれ、李衣菜ちゃんから教わったコツとは正反対……まずはやられないことと言いますし。 リスポーンが積み重なるだけでも、何もできない時間が増える。だからやられず、生き残って立ち回り続けること。 あとは”自陣配置をきちんと整えること”。この時間とルールなら、最悪でも五回……理想は三回以下だと言っていました。 なら――。 「どいて! 私は」 ――美波さんに作ってもらった≪阿修羅≫。その鍔元に左手を当て、腰を落とし。 「あの子とぶつかり合って、友達になりたいんだぁ!」 打ち込まれる拳に構わず身を反転――そうして想像するのは、あの人の背中。 あのときからずっと惚れ込んで、憧れて、追いかけていた強さ。あの人が振るう刃の煌めき……その軌跡。 そんなあの人と戦って、対等にやり合っていた人達の軌跡も、そこに動員する。 本当の私なら、現実の私なら、到底到達できない世界。でもここは違う。 確信はない。 でも、できると思う。ううん、やってみせる。 想像しろ、最強の私≪自分≫を。 創造しろ、今までの私とは違う私≪戦い方≫を。 鍛造しろ、鋭い刃のような私≪決意≫を。 追いかけろ。 この世界で息づく血脈、その全てを総動員して。 より速く、より鋭く……焦がれて追いかけるだけじゃあ足りない。 私は、あの人と並びたい……今は、仮初めの世界だけだったとしても! ――――――――次の瞬間、私の身体は前のめりに倒れ、瞬間加速。 地面を踏み砕きながらも≪阿修羅≫を抜刀し、袈裟の切り抜け。 青髪の人は振りかざしていたガントレットで防御するも、それは一瞬で打ち砕かれる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そうだ、私は伝えたい……もう一度、伝えたい。 何があったかなんて、私には分からない。でも、ちゃんと伝えたい。 私達は仲間になれる……なっていいんだって、恭文に伝えたい。 だってこんなの、寂しいもの。六課はあんな形で終わって、友達にもなれなくて。 でもこれから……これから、変わっていくことはできる。それでいいんだって……だから拳をぶつける。 私の気持ちをありったけ込めて、一生懸命伝えれば……少しだけでも、信じてくれるかもしれない。 それで、友達になれるかもしれない。ティアとも、エリオ達とも……なのはさん達とだってそうしてきた。 だから大丈夫。ゲームの中だって、きっと大丈夫……そう思いたかった。 ”SUBARUさん、足並みを揃えて!” ”一人で突っ込まないで!” ”大丈夫です!” そう、大丈夫……私はプロなんだから。身体を動かして戦うゲームで、プロが素人に負けるはずがない。 だからこの人のことも蹴散らして、恭文を倒す……そうすれば、きっと少しだけでも私達を。 「――」 訪れたチャンスが勘違いだったと示すように、侍さんが疾駆――突然目の前に現れた。 慌てて両拳でガード体勢を整えると、凄まじい衝撃が拳に……纏っている武装に襲いかかり、砕かれた。 「な!」 一瞬で武装の耐久値を奪うような、とんでもなく鋭い斬撃。ゾッとしながら振り返ると……! 「ひ……!」 彼女はとても。 冷たく、鋭い視線のまま飛び込んでいて。 咄嗟に拳を打ち込もうとするけど、それより鋭く……顔面を潰される。 鋭い刃で顔を貫かれたのだと気づいた瞬間、私は倒れ、リスポーン通知で目の前が一杯になった。 「……そんなことはどうでもいい」 リスポーンまでのカウントが始まっている中、あの子はその瞳でそう呟く。 「戦場にことの善悪もなし――ただひたすらに」 「スバルさん!」 エリオが彼女を押さえようと飛び込むけど、それより速く彼女は疾駆。袈裟に打ち込んだ刃をエリオは何とか防御。 でもあの子はその槍を掴んで引き寄せ、強引にエリオを前のめりに……その上で脇腹から刃を突き立てる。 そのまま蹴り飛ばし、自分を狙っていた矢弾の盾にして……! 「斬るのみです――!」 何、あれ……なんなの、あれ! あんな、ヒドい戦い方! 相手の顔面を刃物で貫くようなこと、なんでできるの!? しかもあれは……そうだ、あれは! 私やエリオを容易く倒してきた、恭文と同じ――! それに、美由希さんとかもやってたものだ! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 第一チェックポイント、通貨……やぐらは再び前へと進み出す。 「……卯月がぶち切れた」 「うん……!」 卯月は敵陣に踏み込み、アーツスキルもなしで……不要と言わんばかりに駆け抜け、敵を切り裂いていく。 斧持ちも分厚い鎧の隙間に刃を差し込み、的確に急所を抉る。 ロングソード持ちとも斬り合うことなく、鋭い踏み込みで背後を取って首を断ち切る。 再び踏み込んできたエリオの刺突を蹴り上げた上で、刀を持ったままボディブロー。 すかさず左手で小太刀を抜き出し、目を右薙一閃で断ち切った上で……心臓目がけて刺突。 またまたリスポーンしてきたスバルに対して、そのアバターを蹴り飛ばし……僕もやったとはいえ、さすがに不憫な。 いや、蹴りやすいんだよ。エリオの身体は小さいしさ。でも三度目となると、さすがにちょっと反省。 「駄目……駄目だよ! そんな戦い方をしちゃ! そんなの、誰とも友達になれない!」 そしてスバルは謎の説教をかましながら、また不用意に飛び込む。 「あ……まだ前衛が復活してないのにー!」 「援護だ援護! SUBARUさんも下がってぇ!」 「いいから任せてください!」 慌てて援護の矢弾が飛ぶも、卯月は鋭い視線で乱撃を放ち、その全てを切り払う。 すかさず左に跳んで、範囲指定型の風属性魔法を回避……その先にスバルが回り込み、卯月の両手を押さえる。 「ねぇあなた! もっと、正々堂々……みんなと分かり合える戦い方をしようよ! あの、私はスバル・ナカジマ! あなたは」 その瞬間、卯月は何の迷いもなくヘッドバッド。 「がぁ!」 「押しつけがましい」 更に小太刀でまた目を切り裂き。 「ぎゃあああああああああ!」 「この状況でお友達になりにくるなんて……ほんと」 視界を奪った上で小太刀は鞘に収め――刀を平晴眼に構え、零距離で刺突。 目を切られたことでガードが上がっていたスバルは、急所を貫かれ……吹き飛びながら再び地面を転がる。 「とち狂ってますね」 ……進むやぐらの上で、僕は勝負の決着を確信した。 中国のことわざには『殺一警百(しゃーいーじんぱい)』ってのがある。 一人をむごたらしく殺すことで、百人の敵に警告を飛ばす――卯月の容赦がない攻撃は、その効果を全員に与えつつあった。 同時に全員が卯月に……卯月が見せる、尋常じゃない希薄と戦闘力に引きつけられている。 やぐらを奪うことではなく、卯月というオブジェクトを倒すこと……そこに集中してしまっているんだから。 もちろんそれは一時だ。卯月は恐らく、あと二分も持たずに体力が尽きる……でもそれでいい。 その二分の間に、こちらの進軍はどんどん続いているんだから。卯月はそのためにも自らを盾としてくれている。 戦力の大半を、その思考を、異常とも思えるほどの冷徹さで引きつけて……ね。 なお、これには実例もある。ルーマニアを収めていた、ドラキュラのモチーフにもなっている串刺し公爵ヴラド三世だ。 ヴラド三世は二万ものオスマントルコ兵を串刺しにし、それを見せつけることでワラキアの倍以上はある戦力を恐怖させ、足止めさせたから。 「――今度こそ一斉にかかるぞ!」 「おぉ! 食らえー!」 ――リスポーンしたスバルとエリオが突撃すると同時に、卯月に……卯月だけに、矢弾と魔法の飽和攻撃が飛ぶ。 卯月はそれで回避先を潰され、発生する硝煙の中……エリオとスバルが挟み撃ち。 それより速く、他の前衛二人が飛び込むも、卯月は一人の首を落とし、もう一人は小太刀で首を射貫く。 でもそこで両手が塞がり、エリオ達に対応できない。 「ち……」 卯月は刀を慌てて引き抜き、ギリギリでスバルの腹を射貫くも……急所を外していた。 その間にスバルの≪スピンナックル≫を、エリオの≪ジャンプ突き≫を食らい、減っていたHPが一気に底を突き、消失。 「やった! これであとは……恭文!」 やぐらに乗りながら、カウントを確認――エリオはもう少し生かしといてやるか。タイミングをずらしたいし。 「一対一! 正々堂々の真剣勝負! ――いっくよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ハンドガンを取りだし、笑いながら突撃するスバルに連続射撃。 スバルは目を見開きながら防御体勢を整えるけど、そんなのは無意味だ。 弾丸はスバルがガードに回した頭部と両腕以外……太股や腹に次々着弾し、卯月の攻撃で減っていたHPを根こそぎ削り切る。 「え……」 「お前みたいな頭のおかしい奴と、友達になりたいはずがないでしょうが」 「ッ……!?」 そのままスバルはあお向けに倒れて消失。……え、ヒドい? 大丈夫大丈夫……これも勝つための布石だから。 「スバルさん! ……このぉ!」 エリオは大きく≪ジャンプ≫……スキルによる大跳躍をした上で、僕の頭上から襲いかかってくる。 「スバルさんが強引なのは否定しない! でも……」 これは先ほども使った、槍のアーツスキル≪ジャンプ突き≫。 「少しくらい……気持ちを分かれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 既にエリオはスキル発動状態に入っている……それこそが狙い。 そこにハンドガンを向けて連射。当然この程度じゃあエリオは倒せない……でも。 「え……あ……ととととととと!?」 こちらに突き出された槍の穂先。そこに次々と着弾する弾丸。ダメージにはならないものの、それは突撃の機動を乱し――僕の背後に鋭く墜落。 槍の穂先が石畳を砕き、エリオが地面に倒れ伏す。それも当然……あんな一直線の突撃、機動を僅かにずらすだけで問題なく回避できる。 更に言えば、僕が乗っているやぐらも移動中だ。僕は足を動かす必要すらない。 ただそれもここまで……再び魔法や矢弾が飛んできたので、宙返りでやぐらから飛び降り、エリオの脇に降り立つ。 「い、いたたあ」 「分かる価値がないんだよ?」 その襟首を掴んで、一気に回転し……僕達のスタート地点へ遠慮なく投てき! 「お前らの気持ちは」 「あああああああああ!?」 放物線を描き飛んでいくエリオ。その着地点に待っていたのは……リスポーンした卯月! こちらに走り込んでいた卯月は躊躇いなく刃を抜き放ち、そのままエリオの心臓目がけて刺突。 空中にいた上、投げられたことで防御体勢も整えられなかったエリオはなすすべなく攻撃を食らい。 「がふ……!?」 そのまま鎮圧……この場から消失する。 そうしている間に、やぐら目がけて次々と炎や氷、風の魔法と矢弾が着弾。幾つもの爆炎をやぐら越しに見ながら、カウントを確認。 やぐらが進んだ分だけ、僕達のチームにはポイントが入る。それが多ければ勝ちってルールだからね。 でも確認するまでもなかった。この時点で進行カウントは五十……半分を超えていた。あとは、これを守り切れるかどうかの話だ。 「恭文、あれはいいの!? 完全に暴言なんだけど!」 「ああすればアイツら、更に足並みを乱してくれるでしょ」 「勝つこと優先かー!」 そう、足並みを乱す……更に乱してくれるのが狙いなのよ。言うなればシステム外スキル≪口での挑発≫だ。 「……前衛! 攻撃は控えて! 他二人がリスポーンしてから、一斉に攻撃します!」 「でもあのグラップラー、全然言うこと聞きやしないぞ!」 「しかもやたら強いのが二人……いや、三人もいるしよぉ!」 愚痴る前衛達には、ティアナがライフルで牽制射撃――する必要もない。 ティアナはむしろ後衛を狙っている。 「きゃあ!」 「くそぉ……反撃! 反撃だぁ!」 不用意に頭を出せば、弾丸をまき散らす……そう言わんばかりに、その周囲に弾丸をばら撒く。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こちらのやぐらは進軍していくけど、完全に向こうの足が止まった。じりじりと……こっちに合流した卯月さんも、それに合わせて速度を緩める。 ”よし……Udukiさんも、ここからはこっちと連携で! 向こうはスバルのアホが飛び出しているせいで、カッコ撃破できますから!” ”分かりました” うわぁ……卯月さん、やっぱキャラが変わってる! 声から一段低くなってるもの! まさしく人斬りキャラだよ! いや、落ち着け。それでも上手く合わせていかないと……海里だって言ってたじゃん。 やぐらが第二チェックポイント……城へ続く細長い通路に入りかけたところで、停止する。 その間に海里が言っていたことを、改めてリピート……何せ初めてのゲームだしなぁ! ――リスポーンありの集団戦と言えど、幾度もやられていては意味がありません。 特に試合時間が短く、参加人数も少ない場合は……一人当たりの戦力比が大きいですから―― だからこそやられない……生き残ることを基本とした戦術が必要なんだ。でもそれだけじゃないらしい。 やられるってことは、全体の戦力バランスが崩れるということ。八対八なのが、一時的にでも七対八や……八対一になり得る。 「…………うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 するとスバルさんが全力疾走で戦線復帰。拳を握りながら、恭文目がけて飛び込もうとする。 「おいグラップラー! 止まれ! みんな一斉に行くんだ!」 「大丈夫です! 私に任せてください!」 「やめて! これ以上場をかき乱さないで!」 「僕もつきます!」 「あなたも同じだからぁ! 戻って戻って……戻ってぇぇぇぇぇぇぇ!」 スバルさんが飛び込み、他の前衛さんが慌ててそれを追いかける……でも、そこには確かな距離! こっちはティアナさん以外、格闘士や侍、戦士という脳筋パーティー。でも……だからこその利点もある! 「あむ、みんなもアイツらを押さえて! Udukiさんはすかさず強襲!」 『了解!』 「アンタはスバル達が押さえられたら、他の奴らを!」 「OK」 装甲の厚いフルアーマーなお仲間さんが、スバルの突撃と拳を防御。あたしもエリオ君に飛び込み、槍の一撃を左腕で防御する。 ……すかさず恭文が脇を抜け、スバルさん達の仲間である前衛組二人に強襲! 「恭文、待って! 私と」 スバルさんはフルアーマーさんを払いのけ、恭文に飛び込もうとする……でも次の瞬間、フルアーマーさんがあたしともども同時に≪挑発≫。 ジョブスキルにより少しの間ターゲットが固定され、二人は強制的にあたし達へ向き直る。 ――その瞬間、右薙の斬撃が走り、スバルさんの首が落とされる。それを成したのは鋭い瞳の卯月さん。 スバルさんの胴体が崩れ落ちる中、ギョッとするエリオ君の槍を掴んでホールド。 「ッ……!」 エリオ君がしまったと言わんばかりに顔を青ざめるけど、もう襲い。卯月さんがその左こめかみに刺突。 ……でも、エリオ君は咄嗟に伏せて回避……したところで、その背後からロングソードでの刺突が飛ぶ。 別のお仲間さんがエリオ君を貫き、そのまま地面へと張り付けにする。すかさず他のみんなが切りかかって、エリオ君は……うぷ。 (いや、落ち着け……! 怖がっている場合じゃない! これはゲーム、ゲーム……!) なお恭文は手慣れたもので、他二人の攻撃を軽く引きつけ……あえて倒すのを十数秒遅らせた上で、さっくり首を落とした。 そう、スバルさんが倒され、リスポーンした直後に……! 更にあたし達をカバーするように、放たれる矢弾を切り裂きながら前進。 それも孤立する程度じゃない。恭文の機動力ならすぐに戻ることができる距離だ。更に、それは姿を見せつける意味もある。 もちろん……リスポーンしてから、スバルさんに……! 「……恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 スバルさんは今度こそと言わんばかりに、また突撃――たった一人で……味方と連携しようともせず。 恭文は素早く下がって、私達が前衛を務める。更にハンドガンを取りだし、ティアナさんと迎撃射撃。 まき散らされる弾丸に対し、スバルさんは両腕でガードしつつ強引に押し込もうとする。HPががしがし削れているのに……。 「こんなものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 ……だから、背後に回った卯月さんに気づかず、また首を袈裟の切り抜けで落とされる。 「え……」 「スバルさん!」 スバルさんがリスポーン地点に戻ったところで、エリオ君が突撃。そこを狙いフルアーマーさんが挑発。 エリオ君をしっかり引きつけたところで、他のみんなで取り囲んでフルボッコ……エリオ君は地面に倒れ、機動力を生かせずげしげしと蹴られ続ける。 「よし……この調子で押し込んでいくわよ! でも無理はしないで、HPがギリギリのときはタイミングを見てやられちゃって!」 『了解!』 ティアナさんもルールを上手く活用しているからか、アイツも指示には従ってくれる。それには心から安堵……! そこでまた、海里の言葉を思い出す。 ――オブジェクトルールには、それぞれの戦力が局所に集中します。そのため戦力比率というのがとても重要になります―― 海里曰く、オブジェクトを取り返そうと思ったら、相手より高い戦力比率をぶつける必要がある。ようは数が多ければって話だよ。 しかもリスクがある。もし返り討ちにあったら、リスポーンタイムで貴重な攻撃チャンスが無駄に削られる。 だから単独での打破が無理なときは、味方と足並みを揃え、一気に襲いかかる……らしい。 恭文も不用意に飛び出さず、やぐらの防衛に専念しているけど、それは向こうの集中攻撃を警戒してのことだよ。 でも、向こうはそれができない……スバルさんが恭文への執着に囚われて、味方と連携しないから。 というか、アイツが自分に執着するよう、暴言をぶつけて挑発したから……! エリオ君もそれに乗っかるなら、この勝負は数の比率からこっちに傾いてくれる。 あたし達は二人で飛び込んでくるスバルさん達を潰しつつ、六人チームのクヤウト組を押し込めばいい。 でも油断はできない……こっちは脳筋PTだし、一気に全滅しちゃったら……やぐらの速度から考えて、ギリギリで逆転される可能性もある。 だからティアナさんも、そこを考えてあえてやられるのも……そういう話をしたんだよね。HP回復手段もないから。 まぁ問題があるとすれば……! 「スバルのアホ……!」 ティアナさんが、めちゃくちゃ頭痛そうなところだけど……! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 確かにリスポーンありのルールだけど、何回もやられていたら戦力外もいいところ。 僕に固執している時点で、スバル達は足手まとい同然。このままピエロとして踊り狂ってもらおう。 「だから……飛び出すんじゃねぇよ! お前のせいで負けかけてるんだろうがぁ!」 「大丈夫です! 今度こそ……私はプロです! 邪魔をしないで!」 「ふざけんな! おい、コイツキックしようぜ! あとこのチビも!」 「そんな……待ってください! 今度はちゃんとやりますから、見ていてください!」 「だからいい加減にしてよ! ちゃんと他のみんなと一緒に戦って!」 「僕達はプロだと言ったはずです! あなた方こそいい加減にしてください!」 それでいい感じに、人間関係も崩れていく。怖いねー、ネトゲーの闇が披露されてるよー。 「恭文……なんか、勝負どころじゃないんだけど!」 「愚かな奴らだ」 「挑発したアンタが言うの!?」 「安い挑発に乗る方が悪い」 「だからアンタが言うなぁ! それに」 そう、それに……そうして強引に飛び出したスバルとエリオを、簀巻きの如く容易く両断した卯月だ。 「卯月さん、あんな……アンタよりの戦い方をする人なの……!?」 第三チェックポイントに進みながら、ガード役のあむが冷や汗を流す。 「ふだんなら絶対やらないよ。なによりそれだけの技量もない」 「じゃあどうして!」 普通なら分からない。僕にもさっぱりと言うところだ……でも、僕は一つ答えを得ていた。 「……憑依経験≪インストール≫」 「ッ……!」 あむはそのワードを聞いて、あからさまに顔を真っ青にする。 「もちろんおのれの知っているものとは違う。これはVRゲーム……僕達はドリームメーカーを通じて、アバターを動かしているからね」 「う、うん」 「基本その動きと感覚はリアルに準じているけど、それでも自分の身体じゃあない。ラジコンみたいなものだ。 ……卯月は自分の限界を超えたもの――僕や美由希さん達なんかを参考にして、その動かし方を切り替えた」 「理解し、共感し、想像して……」 よく見るとあの動きは、僕や恭也さん、美由希さんが見せたものに近い。完璧に同じではない……劣化品だけどね。 バトルロイヤルの試合映像は配信されていたし、それでチャックしたものを模倣≪トレース≫しているんだ。 しかも単なる物まねの領域を超えている。……そりゃあ強いはずだよ。 「あそこまでくると、一種の自己催眠に近い能力だよ」 「じゃあ、今は見様見真似でも」 「高まれば……とんでもないことになる」 ――もう一度言おう、卯月だけで勝てるほど、チーム戦は甘くない。 だから僕もティアナにはああ言ったけど、フリーアタッカーとして穴は埋める形で動いていたし。 でも、卯月の覚醒は確かに……大きな流れを形作った。 それを押し戻す力は、悲しいかなクヤウト組には存在せず。 ≪Winner――アザサキチーム!≫ 攻城完了とは行かなかったけど、侵略ポイント七二対〇……完封勝利を迎えることとなった。 さすがに拠点近くだと、リスポーン復帰も速くて押し込めなかった……! まぁ反省点があるとすれば。 ……さすがにマッチング、バランス悪すぎじゃない? 自力で勝った気が全くしないんだけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そうして、試合は無事に終了……僕達アザサキ組の勝利! コロンビアーってしていると。 「「ど、どうして……」」 近くにポップしていたスバルとエリオが平然と疑問を口にする。 「恭文さん、やりました! 見てくれてましたか!?」 「うん、見てたよ。……というかおのれが今回のMVPだって!」 「そうなんですか!? でも私、結局三回くらいやられちゃいましたし……」 「いや、十分じゃん! 卯月さんの強襲で、完全に陣形とか乱れてたし! それにほら、その装備も……」 「あ、はい! これももらっちゃいましたー♪」 卯月がMVPということで、愛らしい桜色の花飾りを髪に……これも奇麗なんだよねぇ。宝石がちりばめてあるんだけどさ。 「でもこちらの方々、知り合いなんですか?」 「うん……恭文の友達が作った実戦部隊にいた、新人の隊員さん達なんだ」 「そんな凄い人達なんですか!? ……あ、でも新人さんだから、そこまで強くなかったんですね」 卯月による鋭い砲撃が飛び、スバルとエリオがプロのプライドを根こそぎ吹き飛ばされる。おぉ……痛々しい。 「……ねぇアンタ、この人は……誰? アサシン?」 「ググレカス」 「分からないから聞いているのよ!」 「いやティアナさん……今回はコイツが正しい。……アイドルさんなんだ」 「アイドルゥ!?」 「『ウヅキ』って検索したら、多分すぐ出てくるよ? 今年デビューした人気アイドルさんだから」 ティアナが驚くのも無理はない。アイドルの戦い振りじゃないもの、あれ。僕が言うと説得力皆無だけどさぁ。 なお、それについてはスバルやエリオ達も衝撃を受けていた。 「なんで!? だって、私だって……エリオだって頑張ってたのに、アイドルに……なんで!」 「おのれらが弱すぎるだけだ」 「恭文くんー?」 すると戻ってきたフィアッセさんが少し困り気味に……優しく、相手をした方がいいと窘めてくる。 ……でもそう言われても困る。 「他に言いようがないんですけど」 「ないの!?」 「ありません。じゃあ行きましょう」 「いいの?」 「いいんです」 何より時間もないしね……! 急げ急げ! 次の試合はもうすぐだー! 「卯月もほら、βテストのレポートもあるんですから」 「あ、そっか。お仕事で入っているんだものね」 「はい! この調子で……頑張ります!」 「……待って! だったら、もう一回勝負して! そっちのアイドルさんもだよ! 今度は正々堂々一対一で! もちろんあんな、ヒドい戦い方もしちゃ駄目! そうすれば」 するとスバルがティアナのげんこつを受け、前のめりに倒れる。 「何するの!?」 「話を聞いてたでしょ! お仕事として入っているのに、邪魔しちゃ駄目でしょ!」 「だって……このままじゃ私達」 「何より、さっきも言ったでしょ! アンタ達が足並みを乱していたせいで負けたのよ!? それにいちゃもんを付けるような真似、最低でしょうが!」 「ティア……!」 向こうはいろいろ揉めているけど、気にせず退散……これ以上は関わりませんようにー! 「……卯月、この件もしっかりレポートしておくといいよ」 「と言いますと」 「いろいろ面倒だったとはいえ、プロの戦闘者に競り勝ったってのはかなり貴重なデータだよ?」 「でも恭文……スバルさん、立ち直れないほどヘコんでるけど」 「放置」 「だからそれでいいの!?」 「そっちはなのはの領分だもの」 するとあむがフィアッセさんともども、きょとんとした顔をする。 「どういうことかな」 「担当教導官が言うべき領分なんですよ。なのでなのはに連絡しておきますので」 「いや、ちょっと待ってよ。そんな……深いとこなの?」 「実はね」 まぁ面倒だけど、言った通り横馬に連絡しておこう。じゃないとまたリアルがうるさくなる……それは勘弁したいのよ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――恭文君からメッセージをもらい、危うく飲んでいたタピオカドリンクを吹きかけた。 ただまぁ、これだとフォローが必要だと思い、慌ててスバル達のところへ向かって……最終日にGMを呼ばれて退去とか嫌だし! 「――まぁ、いい勉強ができたよね」 「勉強……!? なのはさん、どうしてですか! だって」 「結論から言うよ? みんなにはそもそも武器がないんだよ」 「だからどうしてですか! 武器ならあります! 私にはなのはさんとギン姉が鍛えてくれた、シューティングアーツが! エリオだってスピードが!」 「それ、リアルでの話だよね」 「そうです! なのに……足手まといなんて! 私達、いつも通り戦おうとしただけなのに!」 「あ……!」 どうやらエリオはずーっと考えていたようで、私の言葉をキッカケに答えへと行き着き……ゾッとした表情を浮かべる。 「エリオ?」 「……スバルさん、なのはさんの言う通りです」 「え……」 「現にこのゲームでは、魔法なんて使えないじゃないですか!」 「そう……ここはVRゲーム。リアルの武器をそのままの形では持ち込めない。もちろんゲームスキルやシステムを駆使しても、完全再現は難しい」 現に魔法を例にとっても、口頭詠唱が必要だし……リアルの魔法ほどの応用力はない。ゲームバランスの問題もあるしね。 スバルで言っても、ローラダッシュなんかは使えないし、デバイスの機能も然り。まずそこが前提だよ。 「で、でも……私、ちゃんとフロントアタッカーとして鍛えてきた! なのに普通の殴り合いでも、アイドルなんかに負けるはずがないです!」 「身体能力も”リアルのスキル”に入るからだよ。スバルの長所……その土台はやっぱり、人より強い肉体だよね。 もちろんスバルがこれまで鍛えてきた技能も、それを前提とした上で突き詰めている」 「ここでは違う……スバルさんの肉体強度を前提とした戦い方を持ち込むのはアウト……! でも、技術だけなら」 「その技術も問題があるんだ」 まぁこういうことを勉強する機会があるかも……とは思っていたんだけど、ここまで脆いとは。 正直教導官としては課題のやり残しを突きつけられているようで、辛さの余り鉛を噛み締めるような顔になってしまう。 「そもそもみんなは局員として、魔法を犯人制圧の道具として扱い、その術に長けているよね」 「えぇ」 「……だからこそみんなのインファイト技能は、突出した長所がない」 「え……!」 「魔法と持ち前の身体能力から切り離して、完全な技量のみになると、相手を制圧する……文字通りの必殺技がない。 それができるだけの攻撃をする度胸も、精度もない。だから幾ら近づかれても全然怖くないし、対処もできる」 本来であれば、局員に求められる戦い方は制圧……決して対象を殺すことじゃない。 その制圧に用いる”道具”が、管理局で言えばプログラム式魔法なの。でもここではそれが使えない。 もちろん二人の身体能力なども、さっき触れた通り使えない。さすがにそれはチートだ。 まぁ身も蓋もない言い方をすると、技量負け云々以前の問題……スバル達の攻撃は甘く、そして軽い。 まぁ、かなり限定的な条件なんだけどね……! 「じゃあ、恭文は!? 恭文だって私達と同じ魔導師なのに! おかしいじゃないですか!」 「恭文君はこっちで忍者として活動して、魔法なしでの実戦だって幾つもくぐり抜けているよ? もちろん……アイアンサイズの一件も、デバイスや魔法に頼れない状況だった」 「フィジカルのみで、相手を制圧しうる必殺技……またはそれに属するだけの、攻撃の打ち方。 ……確かにあの卯月さんは、僕達の急所や目つぶしを積極的に狙ってきて」 「なお、これはお兄ちゃんとお姉ちゃんが、私やフェイトちゃんに言ってきたことなんだ」 「美由希さん達が……って、そうですよね。実は凄い達人で、戦闘民族の一角だったわけで」 「戦闘民族ぅ!? ティア、違う! うちはそんな家系じゃないよ!」 うわぁ、すっごい疑わしく見始めたよ! いや、確かに美沙斗さんやお父さんのことを考えると……でも違う! あくまで一般家庭なのー! と、とにかく話が逸れそうなので、気を取り直してせき払い。 「それで一番の理由は、ここがゲームであること。……本当の殴り合いなら、そんな攻撃は躊躇うよ」 「僕達はリアルに頼りすぎて、ゲームをゲームとして突き詰めていなかったんですね……」 「そういうことだね」 断言するとスバルががく然として。 「嘘、だよ……」 「スバル」 「だって、頑張ってきたのに……私の拳は、なのはさんが鍛えてくれたのに……」 「力の問題じゃない。戦い方の問題だよ」 「なのは、さん……」 「スバルの強いところを出すなら、ここではふだんと違うやり方が必要になる。そういうことだよ?」 そんなはずはない……そんなはずはないと俯き、唇を震わせる。 ……一緒にマッチングした人から、完全に足手まとい……疫病神扱いされたこともショックだったみたい。 ネトゲーは集団でクリアするコンテンツも多い分、下調べとか準備をしていない人は……寄生プレイとして嫌われがちだからなぁ。 こういうところも予め説明しておくべきだったと、経験者としてちょっと後悔です。 「ならなのはさん、私やキャロは」 「二人はすりあわせが楽な方だったんだよ。そもそもティアの場合、誘導弾とかも使えないからばっさり切るしかないでしょ?」 「確かに、そうですね」 「むしろ先入観がより少ない方が楽かもしれないね。実際アイドルさんやあむさんがその類いだ」 「……あむさんはえげつない急所狙いこそなかったけど、とても柔軟に……視野も広く、恭文さんやチームをサポートしていましたしね。 卯月さんだって……というか、恭文さんだってあまり飛び出さず迎撃のみに絞って」 「先陣は切ったけど、戦力比率の問題から注意していたみたいね。そこはよく分かったわ」 「ああもう! 本当に反省だ!」 エリオはそう言いながら、頭をかきむしる。 「人にあれだけ迷惑を掛ける前に気づけなかったなんて……!」 「でも、それなら修正はできるはずだよ。まぁこれも勉強と思って、もう一度頑張ってみようか」 「「……はい!」」 「スバルもだよ。スバルのいいところは突進力だけど、同時に悪いところは視野の狭さだ。そこも意識して、もう一度戦ってみようか」 「……」 ……スバルは立て直し、無理かもしれないなぁ。完全に心がへし折られちゃっているもの。 というか、恭文君に徹底拒絶されているのも…………それも、なのは達のせいだ。 (やっぱり無理……なのかな) スバル達はなぜ拒絶されるのか分からなくて苦しんでいる。だから心を開いて、受け止めてあげてほしい。 もう全部終わったこと。予言や六課のことは気にする必要もない。 だからここから、みんなと友達になればいい……きっといい友達になれる。魔導師としても切磋琢磨し合える。 そうして仲良くなって、私にとってのフェイトちゃんやはやてちゃん達みたいな……でも。 ――それを、お前達が言うの?―― ……恭文君の視線が思い浮かぶ。 ――スバル達を巻き込んで、傷付けて……苦しめたお前達が―― 疑念と失望に満ちた、あの視線が――。 ――全部終わった。全部片付いた……もう何も関係ないと……ふざけるなよ―― ……恭文君にとって、私達がスバル達と一緒にいることは……とても薄気味悪いものに見えているのかもしれない。 でも、それならどうすればいいの。なのは達が罪人だと言うのなら、それはいつ許されるの……!? もう全部終わらせた……なのは達は、なのは達なりに仲間になって、それぞれの未来を目指そうとしている。 それが駄目なら……それが間違いなら……なのは達は、これから……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そんなわけで、改めて唯世達と合流し……この後も激戦に次ぐ激戦。 というより、オブジェクトルールは単純に楽しいんだよねー。オブジェクトに絡もうとすると、嫌でも乱戦になっていくしさ。 そうして最後の最後まで徹底的に遊び倒し――アプリスクのβテストは、終了のときを迎えた。 「……………………はぁ」 「遊び倒したねー」 カウケン高地で夕焼けを見ながら、ごろり……フィアッセさんも、りんも、シルビィと龍可も……あむ達も集まってのんびり。 「これ、早く市販されないかしら……まだ行きたいところもあったし」 「あたしも剣士として強くなりたい……」 「りんちゃん、ヒーラーはどうしたの……?」 「ほんとじゃん! またバーサーカーって麗華さんに怒られるし!」 「えぇ、怒るわよ……リアルで」 「やめてよ!」 そんなりんの姿を笑いつつも、僕はさっと立ち上がる。 「よし、最後に記念撮影しよう!」 「そうだねー。それじゃあ恭文くんと……今度こそ夫婦のキスを」 『それは駄目ー!』 最後はみんなできっちり記念撮影。なお、今回のデータやらは製品版にある程度引き継げるそうで。 更には撮影したSSも……ネットなどにアップは禁止だけど、個人的に保存するのなら問題ないとか。 だから大切にしておこう。また、この場所に来られるように……行ってない場所もたくさんあるしね! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――最後の景色は、涙が浮かぶほど奇麗な夕暮れ。それをしんみり……みんなで見ながら終えたゲームの時間。 それで家に帰り着いてから、僕はまた改めてお出かけ。デンライナー経由でヒーローワールドに趣き……新宿駅構内。 「恭文君、ありがと……とっても楽しかった」 「ん……僕も」 改札駅手前で、龍可のお見送り。フレミングアクアも寂しそうに出てきて、龍可と抱擁を交わす。 「大学の方、本当に大丈夫?」 「そこは行った通りだよ。でも……やっぱり寂しいな」 「ん……」 なんだかんだで結構一緒にいたし、それに……いろいろ、伝えてもらったし。 だから繋いだ手が離せず、お互いの指と指を触れ合わせ続けていて。 「だけど、また……一緒に遊ぼうね」 「もちろんだよ。僕もDホイールの免許は取ったし、デュエルしても楽しそう」 「…………あ、それがあった! くぅ……時間調整ミスったかなー」 「なら、今度の約束だね」 「うん」 ……そうして僕達は自然と……お互いに目を閉じて、頬にキスを送り合う。 雑踏の中で交わしたキス……ほっぺだけど……それが照れくさくて、でもそれがキッカケになって、僕達の指は離れて。 「じゃあ……また……絶対だよ!」 「うん! またね、龍可!」 手を振って、改札に入る龍可をお見送り……雑踏の中にその姿が消えて、見えなくなるまで手を振り続けていた。 ……それから、寂しさを払うように東口の方から外に出る。 ≪もっと大胆にアバンチュール、してもよかったのに≫ ≪なのなの。あっさりすぎなの≫ 「やかましい! ……いいのよ、これで」 確かにもっと一緒に……そう思う気持ちもあったけど、これでいいの。龍可には龍可の生活があるし、それを途中で放り出させるのも駄目。 きっと、また道は交わるから。そのときのために僕も…………もっと、成長したいんだけどなぁ……! そこで、こっちへ来る前に試したアレの結果を思い出し、つい頭を抱える。 「それより星の道だよ……!」 「……まだ通行止め状態だったからなぁ……もぐ」 「あれはヒドかったです」 そう、星の道だよ。そろそろ落ち着いたかと思ったら……また嵐でさぁ! どうなってるのよ! ……でも、それも一つ……前々から考えていた引っかかりがあって。 「ですがお兄様」 「……僕達が入るのを、誰かが拒んでいる」 「誰かは聞くまでもないか」 「……ショウタロス」 そして、忘れ去られた拳聖……仮に二人が何もしてなくても、その意志が何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。 そういうことも、あるのかもしれない……何せ不思議が一杯だからなぁ、あそこは。 ……すると、後ろからトタトタという足音が響く。 「ヤスフミー!」 振り返るとそこには……金髪ロングを揺らし、慌てた様子で近づいてくる子がいた。 「お待たせ! 修行が終わったよ! ランさんにも太鼓判を押される感じに」 「誰だっけ」 そう告げると、その子は……フェイトは派手に滑り、僕の足下を転がってくる。でもすぐに顔を上げて、不満そうな涙目で見上げてきた。 「……ヒドいよぉ! フェイトだよ、フェイトォ! うぅ……走輔さんのこととか、いろいろ納得した上で戻ってきたのにー!」 「…………フェイト、嘘を吐くと地獄へ落ちるんだよ? まぁフェイトは機動六課の件でもう遅いけど」 「だからヒドいよー!」 「ちょっとランさんに確認してこないと……何をやったのよ」 「何もしてないよ! 鍛えてたの! 壁とか上りまくったんだからー!」 そうは言っても信じられず、疑わしい目を向けるしかない。………………それは、決してフェイトが嘘をついているという意味じゃない。 むしろその逆……実のところ僕も冷静じゃあなかった。 「お兄様……!」 「分かってる」 「これは、本当に頑張っていたらしいな……もぐ」 シオン達も余りに変わりすぎていて、冷や汗を垂らしていた。……それほどに今フェイトが纏う覇気は、力強いものだった。 決して周囲や僕を威圧するような形じゃない。でも、自然体の状態で……放出を意識しない状態でなお、それだけのオーラが感じられる。 もちろんとても自然な形でだ。本当にランさんへ確認する必要がある。 一体どんな形で、どういう修行をして、これだけの力を身につけたのか――! (第90話へ続く) あとがき 恭文「というわけで、次回からはサザエさん時空もちょっと進んで十二月――。そんな九百九十万Hit記念のとまかのです。 ……また時間がかかったー! でも次は……次はさくっとやるぞ……!」 あむ「が、頑張ってね。えー、お相手は日奈森あむと」 恭文「蒼凪恭文です。まだまだスバル達との遺恨は時間がかかりそう……」 あむ「というか、星の道へいけないの、そのせいじゃ……!」 恭文「まぁ仕方ない。実際僕も割り切りを付けるまでには時間がかかった。……見てると哀れだもの、奴ら」 (『そうね……ちゃんと信頼してくれるようになったの、イースターとやり合い初めてからくらい……だものね』) 恭文「そしてリスポーン連発が地雷たり得るというお話。……作者もスプラトゥーンで痛感するんだけど、死なないことの大事さよ」 あむ「でも、ただ死なないだけじゃ駄目なんだよね」 恭文「どんなゲームにも言えるけど、その場に貢献するのが基礎だからね。生存は……あぁ、ゲームにもよるのかなぁ。 ガンオンとかは味方とのコストやらダメージ、覚醒ゲージなんかで、やられる順番やタイミングとかをコントロールするのもテクニックらしいし」 (そちらは余り詳しくない古き鉄) あむ「でもあの挑発はヒドすぎじゃん! 美由希さんもだけどさぁ!」 恭文「あむ、部活」 あむ「こっちで雛見沢組が出るかどうか分からないじゃん! というか出てないじゃん!」 (設定上は出ていない……というか、敗北END後の世界となっています) あむ「でもヴラド三世かぁ……」 恭文「とまかのでApocrypha編をやろうとして、いろいろ頓挫した名残だね」 あむ「頓挫してたの!?」 恭文「同人版でやりたいことはやったしねー」 (ちょうど時期的にもクリスマスが近いし、それに絡んだ話もできるかなーとか考えてました。なお、同人版は十一月頃のお話です) 恭文「そして唐突にフェイトが再登場……」 あむ「相変わらずの扱い……! でも、なんか変化しているような」 恭文「ドジなのは変わらないよ」 あむ「それもそっか」 (というわけで、こつこつ書いて……まだだ、まだ終わらんよ……! 何せ次は十二月だから! 本日のED:『スタートドライブ』) あむ「それで卯月さんがまたアグレッシブに覚醒……」 恭文「まぁこれからの話には余り関係がないんだけど」 あむ「こらー!?」 卯月「それでも私、頑張ります!」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |