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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory76 『選考会!』

IMCSもいよいよスタート。まずはうちのチビ達とりま、エリオの選考会。……正直、かなりビビってる。

IMCSの平均的レベルは超えていると思う。なんだったらU-15の格闘リーグに出ても、いいところが取れるくらいだ。

しかも新人だから、大した情報も出ていない。わりとアドはあるんだよ。なら何が問題か。


……他の選手も似たような感じの奴がいるかもだし、それでいきなり強豪とかに当たると……しかも初試合ってのがネックだ。

テンション高めで平気に見えるが、どうにもこうにも……!


「……ねぇノーヴェ、ヴィヴィオ達……テンション高すぎない?」

「うん……むしろ浮き足立つ寸前」

「やっぱ、そう見えるか?」

「「かなり」」


それはアイドルとして、舞台慣れしているりんとともみも見抜けた穴。大丈夫とは思うんだが、試すのも初めてなため余計に不安が強くなる。


「りまが羨ましいよ。初出場なのに平常心だからなぁ」

「その辺りはほれ、恭文の影響だよ。……夢の舞台に立って、ベスト2入りだからねぇ」

「シアター計画で忙しくもなるし、お守(も)りもほどほどにしろって……見せつけたいみたい」

「そりゃあいい傾向だ」


仲間としても、弟子としてもいろいろ気づかっているってわけか。まぁそうだよな、ガンプラ絡みでまた凄(すご)いことになりそうだしよ。

……ヴィヴィオ達も似たようなものだって言えたら嬉(うれ)しいんだけど、アタシには無理だった。

だって、アイツら……特にヴィヴィオとコロナが、もう自由過ぎて……! 正直自信がない!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory76 『選考会!』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やっぱりチームの頭なんて、ガラじゃなかったのだろうか……そう思い始めていると。


「ノーヴェ」


タンクトップにスラックスというラフな格好で近づく影。

珍しく人間形態の旦那≪ザフィーラ≫だった。

「りん、ともみも来ていたのか」

「あぁ、旦那!」

「「ザフィーラさん!」」

「……なんか、その姿は御無沙汰だなー」

「うんうん。いっつも基本狼形態ですし……でも、そう考えると私、もふもふしまくっていたのは……!」


ともみが顔を真っ赤にしている!? 落ち着け! それは旦那が常々悩んでいるところだ!


「……なんというか、すまん」


謝っちゃったよ! そりゃそうだよなぁ! ともみはもう……御主人様だろ!? 御奉仕三昧なんだろ!?


「あ、いえ……でも、そうですよね。確か八神道場の子も出場するから、サポートも必要で」

「そういうことだ。……ただ、かなり目立って仕舞(しま)っている……というか、あっちこっちから視線を感じる」

「あぁ……それも、分かります」

「あたし達もこうしていると、ビシバシ感じるよー。ライバルからの熱い眼(まな)差し」

「え……!」


視線……視線!? 慌てて気配を探ると、確かにそれっぽい熱が突き刺さるのを察知した。

これはどういうことだ。女だけで集まっていたならナンパと分かるが、旦那もとなれば…………あ、なるほど。


この視線の元は、出場選手やトレーナー……又は観客席に交じっているハイランカー達だな。


「ノーヴェはともかく、二人はよく分かったな」


やべ、心が読まれている! 一応ライバルなのに!


「そりゃあもう。オーディションの空気感と似てるし」

「ん……一緒に受ける子のパフォーマンスとか、その仕草とか。どうしても注目しちゃうんだよね。
それが同年代とかなら、今後受けるオーディションでも対決していくだろうし」

「こちらも似たようなものだ」


……これは単なるクラス分けじゃあない。既にハイランカーにとっても、試合は始まっている。

何度も言っていることだが、現代スポーツにおいて奥義というものは存在しない。

たとえそんなものがあったとしても、デジタルの魔法によって記録・分析され、その特性が丸裸にされるからだ。


もちろん選手それぞれの得意・不得意やら、抱えているクセも丸わかり。

トーナメントとはそういう洗礼を受けてなお、勝利するただ一人を決めるサバイバル。

となれば、戦うかもしれない選手の情報を得られる機会は、決して逃したくない。それが初出場の有力選手ならなおさらのことだ。


しかもこの選考会は本戦と違い、ネットでのアーカイブなどもない。この場に来て、直(じか)に確かめるしかないんだよ。

ゆえにこれだけの人がごった返しているとも言える。


IMCSファンは、有力新人選手の初戦を見るため。

ハイランカー達は今も言った通り、ライバルとなり得る逸材を厳しくチェックするため。


しかもそれは、試合前から始まっている。選手のみならずトレーナーやその関係者も注目されるからな。

ここは簡単な理屈だ。トレーナーが過去に有力選手を輩出していた奴だったら、今回でる選手も……って感じだよ。

でもりん達は…………やっぱアイドルだから目立つのかなぁ。身バレはしていないとしても、垢(あか)抜けた感じがあるし。


じゃあ、それならアタシは? …………やっぱこれ、ナンパ目的も込みじゃないかと思った瞬間だった。


「あ、ザフィーラだ! 久しぶりー!」

「ザフィーラさん!」


するとそんな道場関係者でもある、ヴィヴィオとあむが駆け寄ってきた。


「ヴィヴィオ、日奈森……ちょうどよかった」

「過去では大変だったよー」

「ぐはぁ!」

「ヴィヴィオちゃん!?」


先制攻撃をかましやがったぁ! 旦那も馬鹿をやった自覚はあるのか、倒れちまったし! はやてさんもそうだったけど、そこまで気にしていたのか!


「その傷口を抉(えぐ)るスタイルはやめない!?」

「そんなヒドいことをしませんよ! 化膿(かのう)しないよう、塩を塗り込んでいるんです!」

「「同じことだぁ!」」

「あむちゃんとノーヴェちゃん、シンクロしてる……」

「……こうして後継者はすくすくと育っていくんだね」


りん、やめろ。その何かを悟ったような顔はやめてくれ……アタシに突き刺さる。


「それよりザフィーラさん、ちょうどよかったってのは」

「あ、あぁ……ミウラを、ちゃんと紹介したことがなかったからな」


りんもさり気なく鬼だ。倒れた旦那に”とっとと起きろ”と鞭(むち)を打ちやがった。

それでも旦那は何とか復活し、振り返って四時半方向を見やる。


そこには見慣れたショートヘアを揺らめかせ、スポーツバッグの中身を整理している女の子がいた。


「……ミウラ!」

「あ、はい!」


その子がクリクリとした瞳をこちらに向けて、勢いよく賭けだしてくる。


「あ、ヴィヴィオさんと……日奈森あむさんですよね! それと、朝比奈りんさんと三条ともみさん! 初めまして、ミウラ・リナルディです!」

「初めまして……って」

「あれ、この声は……」


りんとともみはすぐに気づき、ギョッとしながらあむを見やる。それについてはヴィヴィオも同じで、震えながら指差ししていた。


「あむさんと声がそっくり!」

「だ、だよね!」

≪!≫

「え、声紋分析にかけたら、適合率九十パーセント以上? 凄(すご)いー!」

「声だけなら双子ですぅ!」

≪ぴよぴよー!≫

「アタシも初見では驚いたよー」


そう……実はあむとミウラ、声もそっくりなんだが、他にもいろいろ共通点があってな。髪の色も似た感じだしよ。

……ただ、完全にそっくりさんってわけでもない。声はあむの方がトーンも低めだし、外見やスタイルも大人っぽい。

あむ、基本的にはアタシなんかよりお洒落(しゃれ)さんだしな。そういう差もあって、明確に別人だと分かる。


だが声や髪色のせいもあって、並ぶとこう……少し年の離れた姉妹って印象を受けてしまう。


「と、とにかく……あの、初めまして」

「初めましてー。ミウラさんのお噂(うわさ)は金がねー」

「わたしもです! ずっとお会いしたかったんです……お二人とも、わたしの姉弟子に当たる方々ですから!」

「姉弟子!? いや、あたしは時折相手をしてもらってただけだし!」

「そうですよー。ヴィヴィオに至ってはミウラさんの方が年上ですし、ヴィヴィオも教えてもらっていたのはちょっとだけですからー」

「あと、あむさんはボクと声が似ていると聞いていたので、どんな方かと思って……すっごく大人っぽくて素敵です!」

「あ、その……あの、ありがと。でも、別にこんなのは普通じゃん」


あむ、お前また、そんな外キャラ全開で……だから学校でも、あれだろ? 地球の粒子結晶体暴走を解決したーとか言われていて。

内心頭を抱えているだろうなぁ。


「あむちゃん、またー」

「そのクセが抜けない限り、成長はないね」

「ヒドイン脱却は夢のまた夢ですぅ」

「でも姉弟子……あぁ、そうね。あむちゃんは恭文君で言うところの、ヒロリスさん達の立ち位置。ならもっとしっかりしなきゃ」

「う、うっさいし! アンタ達も好き勝手言い過ぎ!」

「それにしゅごキャラさん達が四人も……みんな可愛(かわい)いです」

『さらっと見えてる!?』


そこでアタシや旦那を見てくるので、見えているんだと頷(うなず)きを返した。


「あ、このウサギさんと鳥さんも可愛(かわい)いですねー!」

「ウサギはクリスって言いますー。ヴィヴィオの愛機なんですー」

「ルティ……フォルティアだよ。この子はあたしのデバイス」

≪ぴよぴよー≫


……同年代ってこともあるのか、急激に中を縮めていく三人とデバイス、しゅごキャラ達。

なんというか、大会前なのにほっこりするなぁ。四人揃(そろ)ってその様子を、温かく見守ってしまう。


「うちのも大概だけど、ミウラもテンションが高いねぇ」

「ミウラも大きな大会は初めてだからな。……まぁいざ試合が始まったら、がちがちに緊張するだろうから……今のうちにほぐしておかなければ」

「あ、そういうタイプなんだ。というかそれって……」

「あむちゃんと、同じ……」

「……あぁ」


その辺りは頭が痛いらしく、旦那が困り気味に顔を背けた。……そういう意味でも似ているのか、あの二人は。


でもそれ、すげー分かる。あむを大会に出すって決めたときから、ずーっと付きまとっていた不安だから……!

いや、対策はしたんだよ。言った通り出稽古もタップリやらせたし、試合経験も積ませた。

だが、拭えないんだ。どうやっても、あの……外キャラで突っ走る様を見ると、不安が加速するんだ。


だから、やめてくれ。三人とも、そんな目で見るな。泣きたくなるから、その生暖かい瞳を向けるなぁ……!


「まぁ、あむはまだいいんだよ。腹が決まればどうせぶっ飛ばすし」


そう言って自分を慰めつつ、問題はヴィヴィオ達だと告げる…………すげー疑わしそうに見られているが、もう気にしない。


「うちのは全体的にはしゃぎ過ぎでねぇ。楽しんでいるのは何よりなんだけど……」

「アインハルトは落ち着いているじゃないか」

「……ザフィーラさん、多分あれは」


ともみが言いかけたことは、即座に現実となる。

コロナともともオットーに付いていく形で、こちらに戻ってきたアインハルト。


だが、普通に歩いている様子だったのに、何の迷いもなく近くの柱に激突した。


≪にゃあ!?≫

「アインハルトさん!?」

「大丈夫ですか!」


…………アインハルトのドジっぷりを見て、旦那がともみを見下ろす。


「やっぱり……表に出ないタイプだったんだ」

「というか、ともみと同じだね」

「うん……!」

「……そうだったか」


――ともみはそのモデル体型やら、クールな印象が目立ちがちだが……実際は内気で人見知りも激しい。

あむと同じように外キャラが強いタイプとも言える。まぁ、だからこそあむとも仲良くなったと言えるが。

そういう意味では今のアインハルトも外キャラ全開……自分で動揺していることすら気づかないほど、頭の中がパニクっていた。


ゆえにともみも理解できたんだろう。でも、その痛々しそうな表情はやめてやれ。あれか、分かりすぎて辛(つら)いのか。


「……強さとこの手の舞台慣れは、また別物なんだよなぁ」

「よく分かる」

「じゃあさ、ともみから見て誰が一番落ち着いていると思う?」

「……コロナちゃんかな」

「アタシも同感」


コロナは手を伸ばし、混乱状態のアインハルトを優しく介抱するが、その手つきがもう……一から十まで落ち着き払っていた。


「この手の度胸じゃあアイツが一番かも。何より手本が手本だ」

「恭文さん?」

「あぁ」


ヴィヴィオとはまた違う意味で、コロナが一番参考にするべきは……恭文だ。同じ能力≪瞬間詠唱・処理能力≫持ちでもあるからな。

更に恭文もまた、自らにしか使えない……使いこなせない術を持って、数々の状況をクリアしてきた魔導師。その点もコロナは参考にできる。

しかも……コロナは大人しいキャラに見えがちだが、実はそうじゃない。瞬間詠唱・処理能力はいろいろと五月蠅(うるさ)く言われがちな力でもあるから。


自分の力が持つ社会的リスクやら、それとの付き合い方をずっと悩んできた奴だ。実はメンタル面じゃあかなり強いんだよ。

ゆえに、同じ能力者で……それを世のため人のためにも使っている恭文は、アイツにとって尊敬できる先人でもあって。

だからさ、影響を受けるのも分かるんだよ。ただ……時折見せる非情な一面は、継承しないでほしかった……!


……そんなコロナは問題ない。となると、後は他のみんなだが……さっきは酷評したあむも含めて、自然とこう言い切れた。


「まぁみんな試合が始まれば、何とかなるさ」

「大した自信だな、よほど鍛えてきたのか」

「あぁ、一緒に鍛えてきた……強いよ、うちのチビ達は」

「……だね」

「空海君とりまちゃんには、改めて発破をかけないと」


アイドル二人からも太鼓判がもらえて、くすぐったくなっていると。


『ゼッケン367・554の選手、Cリングにて待機してください。
続いて1066・1084の選手、Eリングにて待機してください』


いよいよ実戦の時間がきた。アナウンスに従い、各リングに該当選手が集まっていく。

しかも今呼ばれた番号は……!


「よ、呼ばれちゃいました! 緊張してきました!」

「ミウラさんなら全然大丈夫ですよー」


367は……ミウラのゼッケン。1066がヴィヴィオだ。二人揃(そろ)ってトップバッターかー。


『444・1114の選手、Fリングにて待機してください』

「444……あたしだぁ!」

「いよいよ、怪獣あむちゃんの大進撃がスタートだね!」

「誰が怪獣!?」


そう……この嫌がらせとしか思えない不吉な数字は、あむだ。

だからキャンディーズもあえてボケて、あむの緊張を適度に解していた。


……この調子なら大丈夫と、改めて自信を持って。


「おっし、じゃあ行くか! ヴィヴィオ、あむ!」

「はーい」

「……よっし、やってやるしかないじゃん!」

「「「「おー!」」」


チーム・ナカジマは、IMCS緒戦を飾る――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

では、ここでルールのおさらいといきましょうー。

選考試合ではできるだけスタンダードな能力を見るという趣旨から、デバイスの形状変換、バリアジャケット展開などは基本禁止。

安全維持のため最低限のバリアフィールド、及び得意武器での戦闘オンリーとなっている。


なので今回は変身もせず、ひょいっとリングに上がって軽く跳躍……待ちきれない気持ちをそれで僅かにでも発散させる。


『Cリング――ゼッケン1066 VS』

「テンション上げすぎだ! 落ち着いていけよ!」

「分かってる分かってるー!」

『1084』

「あはは、可愛(かわい)いちびっ子だー」

「間違って怪我(けが)をさせないようにな」


ヴィヴィオの対戦相手は十六才くらいのお姉さんで、外はねボブロングの髪が特徴的。手持ち武装はロッド型のデバイスかぁ。

しかし、初出場ってこともあってか全く警戒されていない。これはこれで寂しいぞー。


≪セコンドアウト≫


ノーヴェが離れたので、まずは礼……実戦ならともかく、これは格闘競技だしね。礼儀作法は大事です。


≪Cリング――スタンバイ・セット≫

(さて……強そうな人だし、思いっきりぶつけてもきっと大丈夫だよね)


左半身を向けるようにして構えて、その武器の間合い……予測される攻撃の筋をトレース。


(……礼儀作法は大事だけど、こっちの体格やなんかで甘く見ている今が好機。初手で一気に踏み込むよ。いけるね、クリス)

≪!≫


視線でクリスにサインを送ると、右手をビッと挙げてお返事。それに満足しながらお姉さんと改めて向き合い――!


≪READY・GO!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪Fリング――ゼッケン367 VS 554≫

「あうあう……えっと、ええと……!?」

「……いいから落ち着け。真っすぐ相手を見ろ」

≪セコンドアウト≫

「やることはいつもと同じだ。届く距離まで近づいて殴る!」

「はははははははいー!」


と、とにかく構えて……! 届く距離まで近づいて蹴る届く距離距離まで近づいて蹴る……あ、距離って二回言っちゃった。

あ、相手の人は黒髪三つ編みで、武器はなし……ボクと同じピュアストライカー。

加えて選考会なら、ジャケットや魔法による絡め手が出てくることも少ないはず。


とにかく、近づいて……近づいて……蹴る! 蹴る! 蹴る!


≪Fリングスタンバイ・セット――READY・GO!≫


その瞬間、全力でリングを蹴って跳躍。


「先手必しょ……!?」


お姉さんが前のめりに踏み込む……踏み込みかけたところで肉薄。右回し蹴りを叩(たた)き込んだ。

ガードされるも、強引に押し切りながら一回転。お姉さんの体勢が崩れたところで、素早く着地。


”届く距離まで近づいて斬る!”


シグナムさんの教えを思い出し――。


”くっついたら――”


ヴィータさんの教えにも従い、リングを踏み砕くようにして再度突撃――!

一メートルも離れていないその距離を、決して変えることなく……より密着するかのように、お姉さんの懐に入って。


「ハンマー」

”鉄槌(てっつい)でぶっ叩(たた)く!”

「シュラーク!」


全力の右リバーブロー。空気すらも破裂させる勢いで拳を振り切ると、お姉さんは大きく吹き飛び……数十メートル先のフェンスへと叩(たた)きつけられる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――突撃することで、瞬間的に突き出されるロッド。その切っ先がこめかみすれすれにまで迫ったところで、身を更に伏せながら地面を蹴る。

ロッドを脇にやり過ごしながらも一気に突き抜け、お姉さんの懐に肉薄。すかさず左ボディブローからの右ストレート。


「は……!」


咄嗟(とっさ)にロッドで防御されるけど、構わずに乱打乱打乱打ぁ!


「速……重!」


次々打ち込まれる拳をプレッシャーとすることで、お姉さんは大きく後ろに跳躍……それに合わせてヴィヴィオも跳躍。

お姉さんは跳躍と同時に身を翻し、ロッドのリーチを生かした上で回転斬り。


……でも、その剣閃上にヴィヴィオはいなくて。

もちろん牽制(けんせい)の意味も込めた一撃だから、当たらなくても問題はなかった。距離を取って、得物の得意とする間合いになるだけでいい。

だけど、そういうレベルじゃあない。ヴィヴィオの姿そのものが、眼前から消えていた。


「な……!」


だからお姉さんは、真上を……自分に指している小さな影を見上げる。


(鍛えたのは、どこでだって打ち合うスタイル)


いつの間にか自分の頭上を取って、身を翻すヴィヴィオを――。


(そのために磨き上げた――)


そのまま回転の勢いも生かして、顔目がけて右回し蹴り!


「ビートスラップ」

(大地を縮める俊足!)

「リリカルエフェクト!」


魔力が迸(ほとばし)る火花のように研ぎ澄まされながら、右足に纏(まと)い……虹色の斬撃としてお姉さんの顔に命中。

お姉さんは乱回転しながらリングアウト。ヴィヴィオは着地しながら一回転し、髪を両手でパッとかき上げる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あむとヴィヴィオ、ミウラの試合……あむの相手は、体格では二回りほど大きい重量級(男性)だったけど。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ごふぉ!?」


いかんせん、あむも資質的にはかなりの強打者≪パワーヒッター≫。

クロスカウンターでパワー負けした重量級選手は、容易(たやす)く殴り飛ばされリングアウト。

……まさかあむのアホ、激気とか使ってないよね? 魔法オンリーであれだけできるって、さすがに驚きなんだけど。


ただ……そんなあむの頑張りが霞(かす)むほど、ヴィヴィオとミウラの動きは鮮烈で。


「恭文、今……ヴィヴィオが見せたのって」

「縮地だね」

「やっぱり……! 恭文さんの動きととても近かった」


りんとともみも気づく……って、当たり前かぁ。付き合いもそこそこな上、トウリさんとの試合でも見せていたし。

……僕が乞食清光での憑依経験≪インストール≫から得た、英霊:沖田総司の技術。その一つが縮地だ。

しかも今の、ヴィヴィオの独断で覚えたものじゃあないみたい。ノーヴェが動揺していないしさ。


「ヴィヴィオにも見せたことはあるけど、基本は切り札……それほど多くは使ってないのに」


縮地もそうだけど、憑依経験の剣技と乞食清光は……それこそ英霊みたいな相手に対してだけ、使うとっておきだよ。

だからイースターとの戦いでもほとんど出番がなかった。それよりかは結界やら転送魔法で、あむ達のフォローをする方が重要でもあったし。

もちろん次元世界での騒動も同じく。ロストロギアだレアスキルだと騒がれても面倒だからさ。


しかし……一体どういうことよ。僕がやっているのも物まねだし、ヴィヴィオが使うこと自体は不満なんてないんだけど。


「僕でも憑依経験≪インストール≫なしで使えるようになったの、五年くらいかかったんですけど……!?」

≪ヴィヴィオさんの素養、恐るべしですね≫

「ただ、恐ろしいのはあの……ミウラも同じくよ」


僕と同じく冷や汗を垂らすティアナ……そんなティアナが注目していたのは、たった二撃でベテラン選手を吹っ飛ばしたミウラ。


「選考会でジャケット補正もないってのに、何よ……あのパワーは! ヴィヴィオは相手が空中にいたからまだ分かるけど!」

≪それも考えてみれば当然ですよ。なにせザフィーラさんやヴィータ師匠、シグナムさん達が先生ですから≫

「バリバリ脳筋仕様ってことかー!」

「というか、それだけしかできないって感じなのかも」


ともみはやや厳しいことを言いながら、ミウラを見つめる。

ミウラは同時に試合終了したヴィヴィオとあむに駆け寄り、楽しげにハイタッチしている。

その姿だけを見ると、あんな……恐ろしい強打者とは思えないほど、幼く愛らしい姿で。


「試合前、がちがちに緊張していたし、相手が動くよりも早く踏み込んでいたから。多分恭文さんみたいなタイプとは相性最悪?」

「でも、これはリングの中で戦う格闘戦技だしね。……ミウラも十二分に、格闘戦技に先鋭化した選手だよ。下手をすれば都市本戦もあり得る」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィヴィオのアホがぁ……! 切り札の”縮地”を平然と出しやがって! 注目される……絶対有力選手から注目される!

……とはいえ悪くはない戦い方だったので、腰に両手を当てて苦笑。


「ま、こんなもんか」

「ヴィヴィオと日奈森も強くなったものだ」


どうやらザフィーラの旦那も満足がいく結果だったようで、嬉(うれ)しそうにこちらへ近づいてくる。

その視線は、やっぱり仲良しになったあの三人だ。


「あむについては、旦那の領域が大きいだろ」

「大したことはしていない。むしろ我がいろいろと教わっている」

「そっか……」

「……過去とか、過去とか……過去とか……」

「旦那ぁ!」


ヤバい、八神司令だけじゃなくて、旦那もこれか! 正真正銘の黒歴史ってことか!? さすがに哀れだぞ!


……でも、そういう意味でもあむと旦那は師弟だった。

教え合い、そうしてお互いに高め、進んでいく。きっとこの二人も長い付き合いになっていくことだろう。


「……そ、それで旦那……次に会うのは予選試合かな」

「そうなるだろうな」

「……そういえば、ミウラって予選は何組だっけ」

「言ってなかったか? 四組だよ」


……気を取り直した旦那の言葉で、勝利への満足感というか……明るくなっていた気持ちが一気に吹き飛んでしまう。


「あの二人とは、予選でぶつかる組み合わせだ」


……ミウラもスーパーノービス確定。午後の試合でも勝ち上がりは、すると思う。

そうなれば……同じルーキー同士だし、二人にとっては一番の障害となるかもな。


特にヴィヴィオは……素養だけで言えば、相性最悪だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――チーム・ナカジマの快進撃はまだまだ続く。


≪Bリング――選考終了。勝者、ゼッケン2014≫

≪Aリング――選考終了。勝者、ゼッケン695≫


リオとコロナの試合も無事に快勝で終わり、アインハルトも……………………ただ、あの……うん。

相手選手が、最近知り合った子とよく似ていてさぁ。いや、別人ではあるんだよ……瞳の色も違うし、名前だって。


でもなんか驚いてしまって、その試合に注目していた。


≪Dリング――スタンバイ・セット≫

「でぇぇぇぇぇぇぇい!」


アインハルトの相手選手は、金髪ショートの髪を翻し、全力の突撃……ただの無謀ではない。

この魔法格闘競技会においても珍しい、レスリングを主体とした戦闘方法……いきなりラリアットが飛ぶ。


アインハルトはただ穏やかに構え、その伸びた手を軽々と止める。より深く沈み込み……左の掌打。

その子は黒いスポーツシャツの上からでも分かるくらい、大きな胸をたゆんと揺らしながら吹き飛び、倒れ込んでしまう。


「まだまだぁ!」


かと思ったらすぐに起き上がり、アインハルトに再度突撃。

アインハルトだけど、冷静にそのタックルを受け止め…………数メートル滑るものの、何とか耐え凌(しの)ぐ。


即座に頭部へ向けて拳を打ち込もうとした瞬間……変身魔法もなしな状況が仇(あだ)をなす。


アインハルトは同年代から見ても細身で小柄。

ゆえに相手選手はアインハルトをしっかりと持ち上げ、そのままジャーマンスープレックス。


「おらああああああああ!」

「ッ……!」


アインハルトは咄嗟(とっさ)に両腕でガードするものの、派手にリングへ叩(たた)きつけられる。

すかさず相手選手は……≪福田のり子≫似の子は、即座に腕十字ひしぎ。アインハルトの右腕と首を締め上げホールドした。


「油断大敵!」

「ぐ……」

「プロレスなら、攻撃は受けて当然ってね! さぁ、どうする!」

「………………致し方、ありません」


……するとアインハルトは……右腕に魔力を集中させ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


五十キロ近い重量ののり子を……右腕にしがみつく形の相手を持ち上げ。


「え……!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


強引に、リングへと叩(たた)きつけた。

相手も頭をまともに打ったことで力が抜け、拘束を解除。それでも何とか起き上がったところで。


「今度こそ終わりです」


伸び上がるような掌打をたたき込まれ、のり子はリングアウト……同時に意識も断ち切られる。

≪でぃ……Dリング、選考終了! 勝者、ゼッケン935≫

「ありがとうございました」


勝利に感情の動き一つ見せず、ただ冷静に……淡々とアインハルトはゴングを受け入れ、リングアウトする。


≪……びっくりしましたねぇ。親戚か何かでしょうか≫

「ま、まさかー」


アインハルトの方はさておき……次はいよいよ、りまの試合。


りまは御存じの通り運動音痴だった上に、ガンナータイプ。実はね、選考会が一番の鬼門だったの。

それを言えば本戦も決して有利な条件じゃないんだけど、手札がある程度自由になるからね。


それでどうなったかというと……。


「潰れちまいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


アマゾネスっぽい装束の子に飛びかかられたりまは、その場でボール化……久々のボール化!


「が……!」


そのまま相手の勢いも加味して、飛び込みながら下半身へ体当たり。

結果相手はりまに引っかかる形となり、前転……そのまま顔面からリングに衝突し、意識喪失。

余りにあっ気ない上、予想外な終わり方で誰もが唖然(あぜん)とする中、ゴングが鳴り響く。


≪え、Hリング選考終了……ゼッケン888≫

「やったー!」

「よっし!」


セコンドのティアナとクスクスがその勝利に喜び、良手を取り合い幾度もジャンプ。


「恭文、やったよ! りま、ちゃんと勝ったよー!」

「まさか、マジで作戦通りにいくとは……! というか格闘競技としてこれはアリなのか?」

「勝てばいいのよ、勝てば」

「……みんな、幾ら何でも喜びすぎじゃないかしら」


呆(あき)れた様子で戻ってきたりまは、そのままティアナとクスクス、空海に担ぎ上げられ……というか僕も担ぎ上げて。


「確かに肉弾戦は……って、何するの?」

『胴上げだー! 万歳! 万歳! 万歳ー!』

「だから喜びすぎでしょ!」

≪みなさん、どれだけ不安に思ってたんですか……! というかマイスターまでぇ!≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


りまさんェ……! というか、ボール化で相手を引っかけて自爆!? 絶対恭文発案の作戦でしょ! 相変わらず意地が悪いし!


「あああああ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お、落ち着け! 来年! また来年がある!」


ほらぁ……相手選手、すっごい落ち込んでるよ! あんな負け方をして恥ずかしそうだしぃ!

そんなどったんばったんの大騒ぎを、アインハルトさんはとても……とても複雑そうな顔で見ていた。


「……日奈森さん、あの……あれは」

「……りま、運動とか苦手な子だったんだ。だから司令塔≪センターガード≫なんだけど」

「では、あの……丸まったのは」

「りまの得意技……! でも喜びすぎじゃん! もう優勝した気分じゃん、あれ!」

「よし、あれには触れない……それでいいな、お前ら」

『異議なーし』


というわけで、チーム・ナカジマは自分達の今後に集中したいと思います。……早々に選考結果も出たそうだしね。


「ノーヴェ、選考結果は……というか、すっごく早いねー」

「出番自体が最初の方だったからな。……喜べ! 五人とも、スーパーノービスからのスタートだ!」

「ということは、一回勝てばエリートクラスへ御招待!?」

「その通りだ!」

『やったー!』


はい、それでは改めて説明しましょう……選考会によって出場クラスが分けられるけど、初出場選手の最良はスーパーノービス。

スーパーノービスは午後の二次選考会に出場し、本戦と同じ形式で試合。試合相手はランダムで一回限り。

そこで勝てば、晴れてエリートクラスデビュー……名うてのハイランカー達と凌(しの)ぎを削り合うわけです!


まずは一歩前進! コロナ達とついはしゃいで、みんなでハイタッチ……ハイタッチ! チョーイイネ! サイコー!


「で、ハイランカー相手のドンパチがここからスタートするわけだが……それだけじゃないぞ」

「……あ、そうじゃん。有力な新人選手もチェックするんだよね」

「お前とヴィヴィオの場合は、やっぱミウラだな。……動き自体は単純極まりないパワーファイターだが、それゆえに恐ろしい。
ミウラは突進力とその強打が持ち味だ。下手に打ち合えば一瞬で落とされる」

「相手選手、凄(すご)い勢いで吹き飛んだっぽいしね……!」

「アインハルトとコロナが出る一組なら、やっぱエリオか? カートリッジや形状変換が封じられていると言っても、アイツも一般より上だからなぁ」


そうそう、エリオさんの試合もさくっと終わって、無事に勝ち上がったそうです。それはもう、実戦経験の成せる技で。

……そう、エリオさんは決して弱くないんだよ。魔導師としては、ノーヴェが言うように一般より上。

なのに周囲がやたらと強い上、魔法一本じゃあ相手にならないような敵ばかり出てきたからねぇ。


そのせいか、今一つ実力が認められないという……悲しい立ち位置にいるのでした。


「……形状変換が封じられている? あの、それはどういうことでしょうか」

「ストラーダの形状変換は、それ自体をブースターとして飛翔(ひしょう)……その勢いを斬撃に載せるものばっかりだからな。
飛行魔法が原則禁止とされているIMCSでは、使用自体を差し控えるしかねぇ」

「なるほど、それで……」

「本来ならそれも、大会用に調整しておくべきなんだがなぁ」


そういうのもまた先鋭化……そうしてIMCSという遊び場に特化して、戦いやすい形を模索するのも、ファイターのお仕事というお話でした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今年は初出場の子達が大きく活躍しているみたい。その姿を見ていると、熱くも切ない気持ちで胸が一杯になる。

「……初出場したときを思い出すわね」


客席から噂(うわさ)の覇王……そして聖王の末えいであり、エース・オブ・エースの娘である高町ヴィヴィオを見やる。

いいえ、彼女達が所属するチーム・ナカジマと言うべきかしら。


特に高町ヴィヴィオの加速は目を見張った。あれは魔法仕様を前提としない技術≪スキル≫……次元世界の理に縛られない、自由な戦い方。

ああいう子が出てくるから、IMCSは面白い。そうして受けた刺激で、私達ハイランカーもまた頂きを目指していけるから。


「あなたもそうじゃなくて?」


そう語りかけながら近づくのは、ジャージ姿の子。最前席でポップコーンを楽しげに食べていた。

深く被っているフードを掴(つか)んでさっと外してあげると……。


「ヴィクター?」


収められていた長い黒髪ツインテールが、柔らかに踊りながら解放される。

彼女も驚いた様子で振り替わり、つぶらな瞳で私を見上げた。



「久しぶり、ジーク。……そんなにフードを深く被っちゃ駄目よ。見えづらくないの?」

「目立つの嫌やもん」

「それに、またこんなジャンクフードを!」


彼女がフードを被り直そうとしているところで、ビッグサイズのポップコーンを回収。

なお、味はキャラメルミルク……また美味(おい)しそうだけど、これだけって……!

「あー!」

「ちゃんとしたご飯、食べているの? またうまい棒生活に入ってるんじゃ……」

「食べてるよ。それはたまたまなんよ……返してー」

「でも良かったわ」


まるで宝物のようにポップコーンを欲しがる彼女がほほ笑ましくて、つい容器ごと返してしまう。

それから右隣の席に座らせてもらって……。


「予選が始まる前に、またあなたと会えて。今年はどう? ちゃんと最後まで戦えそう?」

「……去年はゴメンやった。ヴィクターと当たる前に欠場してもーて」

「それはもういいのよ。ちゃんと謝ってもらったし」

「あの相馬空海って子とも、ヴィクターをどうするのか話すべきやったのに」

「それはよくないわね! というか、話って何を!?」

「そやかて、おっぱい……むにゅって……エドガーさんもそれが勤めやって」

「エドガーは気にしなくていいのよ! 頭がおかしいんだから!」


というか、やめてぇ! ようやく……ようやくね!? 一つの思い出として昇華されつつあるの! だからもっと優しく触れてぇ!


「ま、まぁ……元気そうで何よりだわ。それで今年も出場する気があるなら、なおのことよし」

とりあえず気を取り直した上で、ジークの頭を撫(な)でてあげる。申し訳なさげに俯(うつむ)く彼女が、見ていられなくて。


「あなたは私の目標なんだもの」

「前から言ってるやん……うちは目標にしてもらう選手とちゃうよ。……ヴィクターや番長達の方が、ずっと凄(すご)い」

「それでも私は好きよ。あなたの戦技も、強いところも……」

「んんー」



恥ずかしげなヴィクターは、私の手を優しく払う。それでも押し通して……これがいつもの私達だった。

「選考会は見ていたのよね。今年はどう?」

「うん、何人か面白い子がいた……高町、ヴィヴィオ」

「やっぱりそうよね」

「でもあの年であんな技術が使えるなんて、驚くしかないわ。……相手の観察を行いながら、呼吸や死角の隙(すき)を窺(うかが)い、突き続けていた」

「えぇ、そうね……あの子と戦った選手は、私達が見ているよりずっと速く、鋭く感じていたはずよ」


あの子の武器はスピード……じゃないわね。ロッドでの突き、命中寸前まで見切っていたもの。

それを可能とするのは、『眼(め)』よ。あの速度域でも冷静に攻撃を……それこそ思考すらも見切った上で、適切なカウンターを打ち込む。

資質的には後衛より。同じタイミングで戦っていたミウラ・リナルディ選手とは正反対のタイプね。


冷静な判断力と知性、経験に基づき敵を観察し、打ち砕いていく。次元世界の中でもなかなかに珍しい戦闘スタイル。

あの子なら間違いなくエリートクラス入りすると思う。まぁ四組にはミカヤもいるし、そう簡単には。


「……あー、くっそ! すっかり遅刻しちまった!」
「リーダーが寝坊するからッスよー!」


するとフェンス脇の通路から、のんきに四人組が登場する。……その戦闘を歩く赤髪ポニテに目を引かれた。

ノースリーブのシャツとジャケット、股下ギリギリなミニスカ。でもペンダントやリストバンド、ブーツなどでほどよくお洒落(しゃれ)も欠かしていない。


「アホのエルスが生意気に選手宣誓なんぞするって聞いたから、笑ってやろうと思ってたのによー」

「自分ら、何度も起こしましたよ?」

「感謝してるってー。……ま、結構面白い選考試合も見られたし、良しとする……か……!?」


そんな彼女がこちらを……恥ずかしげにフードを被り直したジーク共々、視線を向けてきょとんとする。

「ポンコツ不良娘……相変わらず騒がしいわね」

「へんてこお嬢様(相馬空海の嫁)じゃねーか」

「変なルビを振らないでくれる!? 嫁って何よ! 彼とそんな関係になったつもりはありません!」

「いや、でも……去年の試合、堂々と言ってただろ。ギリギリでアイツをぶちのめした後で」

――申し訳なく思うなら……もっと強くなって、私に責任を取りにきなさい――

「……って」

「いやああああぁあああああぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあ!」


つい頭を抱えて、忘れかけていた思い出にもんどり打つ……!

というか、待ってぇ! あれは、初出場選手に対していろいろ気を使ったというか、ハイランカーの勤めを果たしたというか!

でも、待って。家のみんなならともかく、外の人間である不良娘達もコレってことは……!

「まさか」


慌てて不良娘とその取り巻き達を見やると、意図を呼んだのか頷(うなず)いてくる。

……世間的にも、そういう認識ってことぉ!? そんな話が広まっていると!? よし、全部エドガーのせいにしましょう!


「でもお前、選考会からスタートだっけ? 旦那の方はシード枠だったから、その応援じゃあないだろうし」

「違うわよ! そもそも旦那じゃないわよ! シードリストも見て……見ているわよね!
空海がシード枠なのも知っているんだから! だったらなんで分かってないの!? 私も彼と同じ組よ!」

「いや、だから疑問だったんだよ。高飛車お嬢様キャラとして、有象無象の塵どもなんて気にすることはないかなーと」

「そこまで傲慢なキャラをした覚えはないわよ!?」

「あとはまぁ……お前のことなんざ眼中にねーから、特に気にしてなかった」


………………その言葉がカチンと来て、立ち上がって彼女を見下ろす……その貧相な体つきごと見下す!


「あなたこそ、今年は地区予選で落ちてくれると助かるわ……ていうか負けちゃって? あなたと戦うの、面倒くさいから!」

「なんだとてめー!」

「あ……ヴィクター、番長も……」


――その瞬間、魔力反応が走る。

私達の身体に赤い≪チェーンバインド≫が次々とかけられて、その動きを戒めてくれる。

手首、腕、足……またぎっちりとしてくれるわねぇ。


「何ですか。都市本戦常連の上位選手≪ハイランカー≫がリング外で喧嘩(けんか)なんて!」


……頭だけ振り返ると、呆れ気味な表情でエルス選手がやってきた。


「会場には選手の御家族もいるんですよ? インターミドルが柄の悪い子達ばかりの大会だなんて思われたら、どうしま」

「アホか!」

「ぶぎゃ!」


すると、そんなエルス選手の背後からげんこつ。

彼女が膝を抱えて倒れ込むと、姿を現したのは……更に呆(あき)れた表情の恭文さんとしゅごキャラ達だった。


「リング外での魔法使用もあれでしょ!」

≪なのなの!≫

「や、恭文、さん……!」

「おぉ! 大将じゃねぇか! 久しぶり!」

『お元気そうで何よりです!』


不良娘と取り巻き達は、恭文さんに恭しく一礼。……これも去年の大会でできた縁故から。

不良娘達、この方が≪古き鉄≫だって知って、いろいろ尊敬の念を抱いているようで……アウトロー同士仲良くなったというか。


「ヴィクトーリア、番長もお久ー」

「「「お久ー」」」

「えぇ、御無沙汰しております。……ところで」

「お前ら、ほんと騒がしいなぁ」

「まぁいいじゃねぇか。喧嘩(けんか)するほど仲がいいってよ」


すると……彼の後ろからやって来た影を見て、鼓動が急激に高鳴る。

彼は去年見かけたときより一段と大人びていて、背もまた高くなっているようだった。


「ヴィクター、久しぶり! 元気そうで何よりだぞ!」

でも、快活で人なつっこい笑顔は変わらない。それが嬉(うれ)しく感じながらも、気恥ずかしさで顔を背けてしまう。


「え、えぇ……というか、あなたは何をしているんですか! そもそも高校受験があるでしょ!? その大事な時期に格闘大会だなんて!」

「だからきっちり勉強もしてるって。でも心配してくれてありがとな」

「心配などしていません!」

「……ヴィクター、お母さんみたいや」

「ジーク!?」

「……ジーク……げげ! チャンピオン!」


そこで復活したエルス選手が、困り気味のジークに気づいて大声。

……それはまるで、水面に投げ込まれた石のようなもの。
チャンピオンという称号が生み出す影響は、波紋のように……瞬く間に会場中に広がっていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


チャンピオン……その言葉にヴィヴィオ達も八都市、当たりを見渡す。それで…………いたぁぁぁぁぁぁぁあ!


「――チャンピオン!?」

「え、どこどこ!?」

「……ほんとだ! 二階席の……あそこ!」

「というか、恭文と空海もいるじゃん!」


恭文達もいたー! おかげで見つけやすかったけど、そこはいい!

問題はその近くにいる、黒髪ツインテールの人……間違いない!


「あれが……」

「はい! 一昨年の世界戦優勝者! ジークリンデ・エレミア選手です!」

「ですが、お顔が……ポップコーン?」

「だ、だよね……」

≪ぴよ?≫

≪にゃあー≫


……アインハルトさんは決して間違っていない。

なんかね、大きいポップコーンの箱で、顔を隠しているの。……なんか可愛(かわい)い。


「というか、あれって……相馬空海だぁ!」

「地球のガンプラバトル選手権で上位入賞している、チームとまとの蒼凪恭文もいるわよ! こっちの人間だったんだ!」

「すげぇ! ガンプラバトルだけじゃなくて、IMCSも制覇するのかよ!」


……恭文、なんか誤解が積み重なっているけど、大丈夫? そもそも出場選手じゃないのに。

まぁそこも何とかなるだろうと思いつつ、改めて……あの小動物っぽいチャンピオンを見上げる。


「恥ずかしがり屋さんみたいですねぇ〜」

「でもでも、それだけじゃないよ! ほら……去年のミッド都市本戦、三・五・八位のハイランカーがそろい踏みだー!」

「うん! ……そろい踏み……だけど……」


リオとコロナはテンションが上がりそうになるけど、すぐに冷静さを取り戻し、ヴィクトーリア選手たちを見ながら疑問顔。


『なんでバインド?』

「恭文じゃあないよね。魔力光が赤だし……ノーヴェさん」

「……無の境地だ……心を空のように広くするんだ……」

『ノーヴェ(さん)!?』


ちょ、もしかして嫌なのかな! 関わりたくないのかな! だから顔を背けるの!? そうなのかなー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一昨年の優勝選手……公式戦では、未(いま)だ負け知らずの無敗王。

予選一組で、きっと私が当たる人……。


すると彼女は私の視線に気づいたのか、笑顔でピースサインを送ってきた。


≪……にゃあー≫

「えぇ……!」


でも……そこからコンマ三秒後。


「〜〜〜〜〜〜〜!」


彼女は恥ずかしがって、またポップコーンの箱と一体化……丸まり始めた。……真城さんの真似(まね)でしょうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……っと、騒ぎになるのも面倒くせーな。ま、ここは大人しく退散すっか」


不良娘は不良娘は軽やかに言いながら、容易(たやす)くバインドを引きちぎって脱出。


「ちょ、そんな簡単にぃ!」

「全くよ」


私もそれに続く形で、お手上げポーズ。その途端にバインドはバキバキーとへし折れる。

……というか、せっかくの再会なのに……縛り上げられてお話とか、絶対に嫌だ!


「あなたと会うと、どうしてこうグダグダになるのかしら」

「この人もまたぁ!? い、一年で結構成長したはずの……私のバインドがぁ!」

「ミラーフォースーは添えるもの……バインドもまた同じく。アーメン」

「「「「「アーメン」」」」」

「こらそこの男子二人ぃ! 両手を合わせないでー! しゅごキャラ達もー!
だ、大丈夫です! ちゃんと新兵器がありますから! 勝利の鍵がありますからー!」

「ジーク、オーッス」


ジークへとても気軽に話しかける不良娘。その様子に、エルス選手はショックを受けて膝を抱えそうになる。

……気持ちは分かるわ。バインドのことなんて記憶にもないって様子だものね。いや、私が言う権利はないんだけど。


「あ……そういやアホのエルス」

「誰がアホです!?」


でも、そんな気軽な不良娘のおかげで、彼女は無事に復活する……怒りに塗れているけど。


「あと、私の方が年上! できれば敬語ぉー!」

「うっせぇよ、アーホー。……お前と俺は同じ組だからよ、まぁ楽しくやろうぜ

「去年の雪辱、果たしますからね!」

「……あぁ、こうやって敗北フラグを成立させていくのか。アーメン」

「「「「「アーメン」」」」」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


恭文さん達がまた酷(ひど)い! というか何の根拠があって。


「つーか恭文、確かガンプラバトル選手権でも」

「タツヤと前大会優勝者が戦う約束をしていたけど、その優勝者が予選落ちしておじゃん。
そのタツヤも別件で出場辞退したせいで、また別の約束をすっ飛ばすというフラグ成立の林(はやし)状態だったからねぇ」

『実体験!?』


さすがに根拠があるとは思ってませんでした! あぁ……二人もさすがにどうかと怯(おび)え始めて!


「……エルス、やっぱこう……お互い慎重に行こうぜ。こう、一戦一戦……大事に戦って」

「え、えぇ……賽(さい)の河原で石を積み重ねるように……!」


……そうして、改めてトーナメントの恐ろしさを痛感した私達だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そんなこんなで、第一会場の選考試合は全て終了。

この後は二次選考があるけど、ヴィクターは帰宅。……帰宅というか、またキャンプとかじゃ。


いろいろ不安に思いながらも、私と恭文さん、空海……途中合流したりんさんもお見送り。


「……ジークリンデ、かなりの美乳と見た! せひお近づきに」

「ふん!」

「ぶげ!?」


そんなりんさんには、恭文さんのデコピンが下される。でも誰一人……何もツッコまない。

だって……私のも触ってきたもの、この人! 同性でもセクハラが成り立つって教えてあげてぇ!


「ジーク、帰るなら送っていくわよ?」

「いいんよ。走って帰るから」

「でもりんさんに胸を揉(も)まれるかもしれないし」

「……追いつけんよう、頑張って走るわ。風の如(ごと)く、鳥の如(ごと)く……光の如(ごと)く」

「ならばあたしは、時すら超える速度で手を伸ばそう!」


りんさんの言葉で、ジークは水を引いたように後ずさる。


「あれ、なんで逃げるの?」

「りんさん、同性でもセクハラが成立するって……そろそろ理解してほしいっす」

「大丈夫……撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。ならば! 揉(も)んでいいのは揉(も)まれる覚悟のある奴だけ!
あたしは自分の胸を触られる覚悟くらいはした上で言っている! さぁ、どうぞ!」

「「遠慮します」」

「どうしてー!? 恭文も夢中になるIカップバストなのにー! もう毎日離してくれないんだから!」

「公共の場ー!」


そこで閃(ひらめ)く恭文さんのハリセン。でも、りんさんは不満げに『むー』と唸(うな)るのみ。

……この人がアイドルだと信じられない私達は……決して間違っていないと思う。


「今はどこに住んでいるの? 近くかしら」

「割と」

「たまには連絡しなさいね」

「GPSを埋め込んだら? そうしたら逃げ場がないよ」

「怖すぎますよ!」

「じゃあ携帯を持たせよう。大丈夫大丈夫……僕なんて三十分連絡がないと、歌唄に捜索されるし」

「それはお断りや……!」


それも実体験!? 実体験なの!? でもストーカーみたいだから絶対にやりません!


「安心して、ジーク……さすがにGPSは躊躇(ためら)うから」

「ほんとに?」

「だからもう一度言うけど、連絡してね」


遠慮がちなこの子に気を使わせたくなくて、優しく頭を……くしゅっと撫(な)でてあげる。


「うちに来たら、あなたの好きなおにぎりでも、おでんでも、たくさん食べさせてあげるから」

「近くに行ったら、きっと連絡する……ありがと、ヴィクターはやっぱり優しいね」


ジークはシューズのヒモを結び直し終わったので、笑顔で立ち上がる。


「あなたほどじゃないわ。あなたの方がずっと優しい……」

「……今年はきっと戦おうね! 都市本戦で!」

「えぇ、きっと!」


ジークは長い黒髪を揺らし、勢いよく走っていく。


「気をつけてね! 迷子にならないのよー!」

「へーき――!」

「りんさんには気をつけるのよー」

「ちょ、ヴィクター!」

「全力で逃げるー!」

「初対面なのに拒否された!? ちょ、待って−! 優しくする! 優しくするからー!」

「ナンパ男の言い訳か!」


再びハリセンが閃(ひらめ)く音を聞きながら、ジークは全速力で突き抜けた。

そんなジークの姿が見えなくなるまで見送って……また、小さな不安が胸に生まれる。


「おのれは気苦労が多いねぇ」


すると恭文さんは、あの子の背中を見ながらそう言ってきて。


「”イレイザー”でミカヤの右手首を砕いたこと、相当気にしているみたいだし」

「……甘やかしすぎも駄目だとは思うんですけど、つい心配になって」


この人も物質変換なんて危なっかしい能力を使っているから、その辺りの悩みは分かるらしい。

件(くだん)の……リンディ・ハラオウンやらがやらかしていた件も聞いているので、その言葉が単なる同情じゃないのはよく理解できた。


「まぁそっちは僕も対処することになるかもしれないから、おのれは試合に集中しててよ」

「え?」

「アインハルトが覇王の末えいってのは」

「もちろん聞いていますけど」


更に言えば、彼女は数少ない記憶継承症例の一人で。


「………………あ……!」


察した私に、恭文さんが真剣な顔で頷(うなず)く。……本当に、運命のイタズラなのかもしれない。

そんな彼女と、同じく……”黒のエレミア”を継承したジークが、ここで急接近しているのは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――インターミドル選考会・第二会場


第一会場の選考会も盛り上がっているけど、こちらもそれは変わらない。私から見ても見所のある子達がたくさんで、もうワクワクしっぱなしだよ。


≪Aリング、選考終了――ゼッケン3010。予選六組≫


シャンテも無事に勝ち上がった。重量級の相手だったんだけど、スピードで上回り圧勝。

シャッハが教えた通り、聖王教会騎士として正しい戦い方だった。……まぁ、”外面”がいいとも言えるけど。



≪Cリング、選考終了――ゼッケン1920。予選十組≫


ルーテシアも格闘戦のみで相手を制し、無事に勝利。セコンドのキャロちゃんも見ほれるほどに見事な戦いっぷりだった。


「ルーテシア、やるねぇ。格闘戦だけで相手を制するとは」

「ガリューが練習相手になってくれたから」


隣のメガーヌは我が子の活躍が嬉(うれ)しいのか、誇らしげに笑い飛ばす。


「でも、召喚術や他の魔法も鍛え上げているわよー」

「そりゃ楽しみだ」

「しかし……今年は初参加選手が粒ぞろいだね」

「えぇ」


そう同意してくれるのは、たまたま鉢合わせしたミカヤちゃん。せっかくだからってことで一緒に見ているんだ。

試合とは違い洋装でさ。シンプルなモノトーンスタイルを、大きな胸が押し上げて…………くっ。


まだだ、まだだよ……私にだって成長期は来るんだ。


「ハイランカーなミカヤちゃんから見てもっスか」

「チーム・ナカジマの五人も凄(すご)いと思ったものだけど……あなた方が連れてきた子達も、なかなか凄(すご)い。ただあの、シスターの彼女は」

「シャンテっスか?」

「……何か、押さえ込んでいるというか……小ぎれいであろうとするというか。いや、言葉のチョイスが悪くて申し訳ないが、妙な違和感が」


へぇ……そこで見抜くか。確かにその通りだ。ウェンディは小首を傾(かし)げているけどさ。


「違和感っスか? でも、シャンテはいつもあんな感じで」

「いや……それ、シスター・シャッハも言ってたんだよ」

「シスターが?」


どうやらセインはその辺りを聞いているらしく、困り気味に明るく笑うシャンテを見つめる。


「元々十才やそこらで、一地域のストリートギャングを”力だけで”纏(まと)めていた子だからさぁ。
本来の戦闘スタイルは、もっと荒っぽいらしいんだよ。時間をかけて矯正したそうなんだけど」

「……シャッハも甘いねぇ。それは無理だっつったのに」

「無理だったの?」

「まぁ仕方ないけどね。シャッハは結局”人”だから」


そのシャッハが理解できるとは思ってないし、それを強制していいとも思っていない。

だけど……私は気づいていたよ。あの子は外面を創り上げただけ。その本質は何も。


「………………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


――そこで響き渡るのは、命の危機に貶(おとし)められたかのような絶叫。

すぐさまゴングを響かせ、それを合図にとあるリングへと審査員達が殺到していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『び……Bリング、試合停止! これは、ありなの!?』


ナレーターさんが困惑するのも仕方ない。


突然出場選手の子が……ユナ・プラッツ選手だったね。お父さん好みなトランジスタグラマーさん。

その子が試合中、痛々しく泣き叫び始めた。しかも相手は一切触れていないの。

怯(おび)えながらトレーナーにしがみつき、もう戦えないと言わんばかりに混乱している。


……そんな子の相手は、黒いゴスロリ衣装を纏(まと)っていた。

周囲には黒い悪魔が……かなりデフォルメされているけど……何匹もうろつき、怯(おび)えるあの子を嗤(わら)い続けていた。


『ちょ、ちょっと大会委員会に確認します! 選手はそのまま!』

「……確認不要。ルール上は問題なし――フォビアの勝ち」


うわぁ、まだ判決も出ていないのに、勝利宣言ですか。また大胆な……というかあの無表情、私のお馬鹿さん時代を思い出すというか。


「……ルルっち!」


すると試合も終わって意気揚々としていたシャンテが、慌てた顔で飛び込んできた。


「Bリングのあの子って……」

「あ、シャンテも気づいた?」

「えっと、もしかしてかなり特殊な……」

「うん、特殊も特殊。私とキャロの召喚魔法より珍しいかも」

「……だよね」


セコンドについてくれていたキャロも、その特異性に目を見開いていた。フリードも警戒してか、ぐるるーって唸(うな)っているし。


「でもルーちゃん、判定的には」

「問題ないはずだよ。パーペチュアルの魔法も、殺傷行為に属するもの以外は許可が出ているくらいだし」

「あぁ……そうだったね」


パーペチュアルの魔法は異次元世界に存在する高次元存在から、力を借りて発動する魔法……お父さん風に言うならスレイヤーズ式。

だからAMFには抵触しないんだけど、非殺傷設定も使えないから……普通は無理なんだよ。

ただ昨今の情勢も鑑みて、直接的攻撃魔法以外……障害魔法のように、相手を一時的に状態異常にする魔法程度ならOKとなっているの。


と言っても、習得難易度がかなり高いから、”なっているだけ”なのが現状だけど……あの子もそんな、例外の一つだった。


「え、待って。パーペチュアルの話をするってことは……」

『――委員会裁定が出ました!』


主審がマイクを握り、リング上に上がって会場への説明。


『ただいまの選考試合、ルール抵触箇所はなし! よって勝者――ゼッケン429!』


会場がざわめく。明らかに普通じゃないから、納得しきれないと言わんばかりに。

それは混乱状態の選手を受け止める、相手方のトレーナーも同じ。凄(すご)い勢いでフォビアって子を睨(にら)んでいるから。

普通は精神操作系の……禁呪カテゴリーでも使ったのではって疑うし、大会委員会もそれを考えた。


……でも、そうじゃない人間もいる。


一部の有識者……魔法文化全般に詳しいハイランカーなどは、すぐ正体に気づいた。


「私も実物を見るのは初めてだよ。魔導師じゃない、魔女――それもばりばり正統派の」

「ま……!」


シャンテは慌てて端末を起こして、出場選手データをチェック。


「あった……! フォビア・クロゼルグ十三才。初出場……じゃあ、あのデフォルメっ子達は」

「悪魔使役(デビルテイマー)により呼び出した子達かな。多分だけど相手の子、呪術により幻覚か何かを見せられたんだよ」

「それって禁呪カテゴリーではぁ!」

「じゃない。……この場合褒めるべきは、やっぱりDSAAスタッフかなぁ。数分も経(た)たず、その特異性も踏まえた上で正しいジャッジができるんだから」


とはいえ特殊過ぎるし、判定だけじゃあ無理だよね。会場もクレームが飛びそうな寸前だし。

……だからスーツ姿の、五十台くらいのおじ様が登場。


「……よしよし……プチデビルズ、偉い……」

『ギタギタギタギター!』

『ゲーゲゲゲゲゲゲゲゲ!』


デビルちゃん達を可愛(かわい)がっている彼女へ近づき、紳士的に一礼。それから二言三言質疑応答をした上で――。


『みなさん、お待たせして大変申し訳ありませんでした。私、IMCS審議委員会に所属するシャルマン・グレネーズと申します。
今の試合でフォビア選手が使用した術式について、飽くまでも簡単にではありますが説明したいと思います』


そう前置きした上で始まる解説の中、シャンテが私の肩をつんつんツツいてくる。


「……ルルっち……あたしは美的感覚でも、職場的にも、あの子とは相いれない気がするんだ」

「あはは、そうかもねー。でも大丈夫……キャロ、あの子って予選十組だよね」

「そうだよ。だから当たるとしたら、ルーちゃんの方……」

「げげぇ!?」


シャンテはお断りって感じだけど、私的にはもう嬉(うれ)しくて嬉(うれ)しくて……笑いしか出ない状況だった。



「でも超ラッキーだよねー」

「ラッキー!?」

「正統派魔女と、魔法戦で遊べるんだよ? 最高だよ」

「「そうくるかー!」」


燃え上がる気持ちのまま、そのための準備も頭の中で纏(まと)めていく。……お父さんに最高のおもてなしをするのは、ちょっと先送りかな。

目の前の獲物を逃がすなんて、いい女のすることじゃないもの。よーし、やるぞー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

≪……姉御、ルーテシアが≫

「やっさんがガンプラバトルで頑張っていたせいもあって、元々気合いが入っていたからねぇ」

「えぇ。大活躍だったもの。実際に応援に行けなくて残念ーって何度も言っていたし」


張り切るルーテシアにほほ笑みながら、メガーヌは大きく胸を張る。


「でも魔女にシスター、覇王や聖王の末えい……特色ありすぎよねー」

「元々雷帝なんかもいましたから、今更ですよ。……でも、だからこそインターミドルは楽しいんです」


でも私らの中で一番楽しそうなのは、ミカヤちゃんだった。


「今年は特に――!」


こうして鮮烈な戦いの初日は、あっという間に終わりへと向かい……みんなは次の戦いに目を向ける。

……ここからが本番だった。


誰にとっても忘れ難い、勝利と敗北の乱舞がまき散らされるんだから。


(Memory77へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、鮮烈な日常第76話です。……同人版とはあんまり変わらず」

古鉄≪いや、変えられる部分がなかったでしょ。試合結果とかいじれないでしょ、ここでは≫

恭文「だよねー。……今回で原作第四巻辺りまで無事に終了。次からは本戦スタートです」

古鉄≪着実にその後のドタバタフラグも積み重ねつつ……のり子さんが登場。まさか魔導師だったとは≫

恭文「似ているだけだよ!?」


(そう、似ているだけ……ただそれだけのお話です。今は……)


恭文「今は!?」

古鉄≪まぁそれはさて置き、次はいよいよあの試合ですか≫

恭文「いや、導入部とかあるから、次の次くらいだと思うけど……どうしよう、果たしてあのキャラは勝てるのか」


(イメージが作れない……! あ、そうか…………勝てるくらい、強くすればいいんだぁ)


恭文「それインフレの発想だよ!」

古鉄≪そうしてガチャを引かせるわけですね、分かります≫

恭文「それはまた別の発想!」


(というわけで、インフレしない程度に頑張りたいと思います。
本日のED:『ベーコンがカリカリに焼けていく音』)


あむ「………………EDじゃないし!」

恭文「環境音というやつだよ」

あむ「それでなんとかなるの!? ……ところで恭文、ユナ・プラッツがアンタ好みってどういうことかな」

古鉄≪バリアジャケットは原作だと装備していませんでしたけど、アニメだと苦無型デバイスに忍者っぽい感じになっちえるんです。
そしてトランジスタグラマー……声が高橋李依さんという勝ち組ですよ。モブにしておくには惜しいキャラです≫

あむ「恭文ぃ!」

恭文「待て待て! 僕は何も知らない! そもそも第二会場にすらいない!」

古鉄≪でもあなた、忍者は好きでしょ?≫

恭文「うん。………………って、違う! そうじゃない!」

あむ「やっぱりだし!」

古鉄≪それとここからは追記です。ご存じの通りIMCS編はヴィクトーリアさん対シャンテさんまで、同人版の幕間リローデッド第11〜14巻まででやっています。
そこからHP版を新しく書いているんですけど、それに合わせて先に出した同人版の方も元にバージョンアップ予定です≫

あむ「バージョンアップするの!?」

古鉄≪こちらは誤字&追加修正版という形で、後日メロンブックスDLS様にて順々にアップしていきます。
とはいえ同人版の範囲に追いつくのももうちょっとかかりそうだから、差し当たっては第11巻の三話分からになりますが≫

ジガン≪更新はこっちの掲載に応じて進めて行くから、気長に待っていてほしいの。
一度購入されている方は、メロンブックスDLS様の会員であれば無料・無期限で再ダウンロードが可能なの。よろしくなのー≫


(おしまい)







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