小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) Memory75 『戦闘開始!』 西暦二〇一二年九月――765プロ事務所 先日、ヤジマ商事から持ち込まれた新企画≪劇場計画(シアタープロジェクト)≫により、事業拡大が決定した765プロ。 ただ現状ではやっぱり手が足りない。そんなわけで新規スタッフとして、社長が呼び寄せたのは――。 「初めまして。高木順一朗の従兄弟(いとこ)で、高木順二朗と言います」 『初めまして……!』 高木社長によく似た、デネブさんボイスのおっちゃんだった。その姿が余りにそっくりなので、僕達も目をパチクリさせるばかり。 「え、従兄弟(いとこ)……双子とかやないんよな」 「従兄弟(いとこ)なんだよ。まぁ隔世遺伝というか……我々は親戚で言うと祖父似らしいんだけどねぇ」 「それで順二朗については、専務という形についてもらう」 「専務、ですか。でも」 「といっても、あくまでも役職上の話なんだよ」 真が『それなら赤羽根さんが……』という顔をしたので、順二朗さんは当の本人を見やる。 「社長と音無くんは765プロの事務所や全体業務を管理して、私がシアターの総支配人という形を取る。 現場のことは、今まで通り君達の裁量に任せる形で進めようと思っているからね」 「それでいいんでしょうか」 「構わないさ。私は新参者だし、君達の能力についても十分信頼に足るものだと考えている。……というか、だね……!」 「はい」 「総支配人として、粒子取り扱いの勉強は……やっぱりかなりの量になるんだよ。君がそれを引き受けると、家に帰れなくなるよ?」 「家に!?」 「天海くん達のことも見て、その上となると……うん、やっぱり企業的に問題があると思うんだよ。 さすがに嫌だよ? 事業拡大のために、優秀な社員を過労死させるとか」 『過労死ぃ!?』 あぁ、やっぱそういう配慮からかぁ。ただぽっと出でいきなり専務ってのが心苦しいのか、順二朗さんも相当困り顔だけど。 「あ、蒼凪君……!」 「僕は元々粒子力学もかじっていまし、IT関係の研修も受けていましたからね。素人が一からとなると……難しくなりますって」 「そりゃそうかぁー! まぁ、お話は納得しました。それで具体的には……」 「うむ、実は社長とも相談の上で、大まかに纏(まと)めてきたよ。……ただその前に」 専務が見やるのは、志保と百合子、杏奈、可奈……みんなに並び立つ黒髪ロングの女の子。 ロングの子はスレンダー体型で、青いカーディガンにスカートを纏(まと)う。キリッとした利発的な視線が印象的だった。 「えっと、北沢くんと七尾くん、望月くん、矢吹くんは聞いていたんだが、そちらの彼女は」 「自己紹介が遅れました。このたびアイドル候補生となった、最上静香です」 「静香は最近765プロに……というか、社長からスカウトされたんですよ」 「おぉ! もう新プロジェクトのメンバーを見つけていたのか! さすがは順一朗兄さん!」 「あ、あぁ! まぁな……あはああははあはあははははは!」 「社長、嘘はいけませんよ。シアター計画発動前に声をかけたそうじゃないですか」 「かけられましたね……」 そう、この子……最上静香は、社長が直々にスカウトしたアイドル候補生。 ただねぇ、シアター計画前に声かけして……つい昨日! 門を叩(たた)いてきたんだよ! 僕達も何も聞いてなかったから、ほんとビックリしたよ!? まぁ一番ビックリしたのは静香だと思うけどね! だって765プロの内情がカツカツだって、聞いていなくて……悩んだ末にコレだよ!? あり得ないでしょ! 「……順一朗兄さん」 僕達の視線から大まかな状況を察したのか、順二朗さんが困り気味にお兄さんを見る。 「というか、そうだよなぁ。会社の金を不動産詐欺で使い潰したわけで……本当に済まなかったぁ!」 かと思ったら土下座したぁ!? 全力の、何の迷いもない謝罪だぁ! 「私が専務となった暁には、そのようなことがないように、全力を尽くすので……どうか! どうかぁ!」 「……社長、この姿をよーく目に刻んでください。これが身内というものです」 「な、何も言わないでくれぇ……!」 「あの、この事務所、本当に大丈夫なんですか……!?」 「静香、やめて。それは私達にも突き刺さるから……」 あぁ、志保達が達観した顔を! でもそうだよね、心配だよね! さすがにないものね、この有様! ……ただ。 「順二朗さん……もとい専務、顔を上げてください。その気持ちだけで十分ですから」 とりあえず順二朗さんを諫(いさ)めつつ起き上がらせ、軽くスーツを払う。 「で、静香が”新プロジェクトのメンバー”ってのはどういうことですか」 「え……! いや、そうですよね! さっきそう言ってもらいました!」 「あぁ、そうだね。実はただシアターを作るだけではなく、それに伴う新しいアイドルプロジェクトを立ち上げたいんだよ」 「新しいアイドルプロジェクト!? ほな、それは私らは」 「まぁまぁ、そこも……社長、お願いします」 「うむ! みんな、これを見てくれ!」 すると社長は、どこからともなく無地のポスターを取り出す。そこには墨字でこう書かれていた。 ――39プロジェクト―― 『サンキュープロジェクト?』 「そうだ。北沢くん達八人に加え、あと三十二人……新しいアイドル候補生を招き入れる! つまり合計三十九人の新人アイドルユニットを、劇場の中心とするのだよ!」 「それが39プロジェクト! この劇場の主軸は天海くん達ではなく……君達新しき星だ!」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 あ、なるほど。だから合計で三十九人……39プロジェクトってわけか。……ダジャレとも思うけど、こういうのは分かりやすい方がいいからなぁ。 魔法少女リリカルなのはVivid・Remix とある魔導師と彼女の鮮烈な日常 Memory75 『戦闘開始!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 765プロの新しい大躍進……その名は≪39プロジェクト≫。その発表に沸き立つものの、疑問点もあるようで……真美達が一斉に挙手。 「ちょ、待って待ってー! それなら真美達は!?」 「もしかしなくてもお払い箱!?」 「そんなー! それじゃあ私達、お給料どうなるんですかー!」 「あー、落ち着きたまえ。この辺りは君達の仕事量や、シアターの今後が関係しているんだ」 「ですよねぇ……」 「プロデューサー、どういうことですかぁ?」 「まず前提から。この手の劇場は、基本毎日運営するものでしょ。でもおのれらは今の段階でもあっちこっちで仕事があり、更に学業もある」 「確かに、AKBではそうですよね……」 そう呟(つぶや)いた真が、ハッとして拍手を打つ。 「あ、そっか……」 「そう……それでおのれら旧メインメンバーを売りにしちゃうと、そもそも運営そのものに支障を来す。 もちろん今からシアター中心の活動にシフトするって手もあるけど、それだとおのれらの影に隠れて志保達が目立たない」 「だからぼく達ではなく、ここで改めてデビューする志保達でと……」 「一長一短はあるけどね」 春香達を出せばシアターの集客は約束されるけど、シアターの安定したサービス確保のため、みんなの活動と行動に大きな制限がかかる。 それは今説明した通りなんだけど……志保達メインもリスクはあるんだよ。 「逆に志保達メインだと、春香達をメインとした”セカンドブランド”として成立させられる。 今後の業務も多角的な展開を構築できるよ。……でも、志保達の能力は未知数。下手をすれば大外れもあり得る。 しかもそれだけの大人数ユニットは、AKBなどから派生していったものが大量にあるしね。かなり遅めの後発という点も痛い」 「その通りだ。だがこちらには、プラフスキー粒子を用いたパフォーマンスという独自性があるからね。 無論それに依存しないよう、北沢くん達には更なるパワーアップが求められるが」 「それはもちろんです。粒子パフォーマンスは万能の必殺技じゃなくて、あくまでも選択肢の一つだと思いますし」 「ゲームでも……蝶必殺技は、隙(すき)が多くて出すのも大変……。だからこそ、ふだんの小技を……どれだけ使いこなせるか……」 「うん、その通りだ」 志保と杏奈……美奈子達も腹は括(くく)れているらしい。しかし志保もすっかり柔軟になって……。 以前やった部活的推理ゲームで、コテンパンに潰されてから視野が広くなったらしい。 「言うならおのれらは、特撮で言うところのレジェンド≪先輩ライダー・戦隊≫枠。 今のヒーローがキャラ立ちしたあとで、コラボしてみんなを沸かせる役割だ」 「プロデューサーさんらしい説明だなぁ! いや、分かりますけどね!? 分かりやすいですけどね、それ!」 「まぁ蒼凪くんの言う通りなんだよ。天海くん達旧メインメンバー十三名はレジェンド枠。 更にティアナ・ランスターくん、シャリオ・フィニーノくんも彼女達をサポートする形だ」 「私達も……」 「ティア、これはチャンスだよ!」 「えぇえぇ!」 そう、ティアナ達もそこに絡む……まだアイドルやろうかーって段階だったしねー。 ただ、また一つ気になることがあって……十三名ってことは。 「あの、待ってください。旧メインメンバーというと……千早と美希は」 「それなんだがねぇ……というか、君には話していなかったのか」 「え……!?」 「美希達、改めて復帰することにしたのー」 そう言いながらドアを叩(たた)いて入ってくるのは、美希と千早あった。 「美希!」 「千早ちゃん! え、嘘……ほんとに!?」 「ほんとよ。ただ私はアイドル活動より、新人達へのガンプラ制作・バトル講習のチーフって感じになると思うけど」 「美希もそんな感じ。ハニーが過労死しないように、現場から見ておきたいなーと思って」 「嬉(うれ)しい気づかいだが、せめて俺に話を通してくれないか!?」 「だって聞かれなかったから」 「蒼凪君みたいなことを言うなよ!」 そうは言うものの、赤羽根さんはとても嬉(うれ)しそうだった。……だから僕と一緒に、顔を真っ青にしていたある一人を見やる。 ”旧メインメンバー十三名”と聞いた時点で、まさか……まさかと打ち震えていたあの人を。 「なら、お前も”そんな感じ”ということかな……律子」 「え、えぇええぇあ……え?」 そう、律子さんです。それが嬉(うれ)しくて嬉(うれ)しくてもう……僕は笑いながらずいーっと詰め寄り、逃げられないよう両手を取る。 「ついにエビフライテールに復帰するんですね、おめでとうございます!」 「いやいやいや………………いやいやいやいやいやいやぁ! そこは茹(ゆ)でエビテールって言ったでしょ! というかあの、え、本当に……!? 竜宮小町の仕事は!」 「それこそ蒼凪くんが言うレジェンド枠だね。……ただこれは、蒼凪くんや天海くん達が前々から出していた要望だけじゃないんだよ。 今回の件を受けて改めて調べてみたんだが、もう一度旧メインメンバー十三名によるライブが見たいという声も多くてねぇ」 「そこで星井くん達にも相談し、余り頻繁ではないが……まぁ一年に一回くらいは、そういう場を作ってもいいのではと。 幸い自分の劇場を持てることだし、あとは君達次第だ」 「マジですかぁぁぁぁぁぁ! いや、でも……あれですよ!? 私、もう……恭文君のメイドですし! そりゃあもう、毎晩毎晩御奉仕三昧! エロの極みへ到達して限界突破してますし!」 「ぬわにぃ!?」 そんな言い逃れをする律子さんにはげんこつー! 「嘘をつくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! そんな覚えが全くないんですけど!? 僕の家に泊まらせたことすらないんですけど!?」 「嘘なのかね!」 「お願い、そういうことにしてぇ! もううちのお父さん達もそんな感じだしぃ!」 「できるわけないでしょうがぁ! あとそれは、律子さんが撒(ま)いたタネですよね! 親戚が勧めるお見合いから逃げようと、僕に許可なくついた嘘ですよね! 自分で何とかしてくださいよ!」 「無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 応援モードが凄(すご)すぎて、もう………………私、もしかしたら恭文君を愛しているのかもしれない」 『それはただの思い込み!』 ほらー! 僕だけじゃなくて、春香や順二朗専務までツッコんだよ! あり得ないからね!? そんな恋愛あり得ないからね!? 「はい! というわけで律子さんも再デビュー決定! まぁレジェンド枠だから出番は少なめだけど、よしとしようか!」 「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「……やったー! 律子さんとまた一緒だ! 嬉(うれ)しいよー!」 『嬉(うれ)しいよー!』 「アンタ達もプレッシャーをかけないでよ! え、逃げ場なし!? エロエロよ……それはもう、エロエロよ! 凄(すご)いんだからー! もうセクシーアイドル張りに凄(すご)いんだからー!」 「だから嘘をつくなっつーの!」 どこまでも往生際の悪い律子さんには、もう一発撃ち込んでおく。 ……まぁ律子さんについては、春香達に任せれば問題ないでしょ。逃げ場をきっちり封じてくれるし。 「……でも専務、そうなると新しいスタッフが」 「俺達で五十四人の管理は不可能だしな……! それこそ過労死案件だぞ!」 「もちろんプロデューサーも増員し、新しい事務員も雇う予定だ。そちらは私と音無くんに任せてほしい」 「事務員の後輩……よっしゃあああああああ! これで寿(ことぶき)退職しても安心ね!」 「「音無くぅん!?」」 「社長、専務……許してあげてください。大下さんとも上手(うま)くいっているので」 でも小鳥さん……そうだよね、気にしていたものね。結婚したら765プロの事務はどうしようーって。 まぁシャーリーもいるし、新しい人もキチンとした人なら……とすると、いろいろ準備も必要か。 これまでは身内の零細企業だったから、ある程度の融通は利いた。でもここからはそうもいかない。 企業としての筋道がある程度必要にもなるし、その整備はキチンとしておかないと。 今までのやり方を、企業方針として……新しい手にも共感し、後押ししてもらえるようにね。 ……僕個人が勝手に暴れるなら、こういうのも必要ないんだけどね。でもこれは、みんなで叶(かな)える”夢”だもの。 あとは……SEEDの回想が如(ごと)くちょろちょろ出てくる機動六課……そう、今! 今流れているよ! あの酷(ひど)い体たらくが! ああいう顛末(てんまつ)にならないよう、きっちり調整していかないと! また落ちていく中央本部の姿に、僕は一人そう誓った。 「となると、オレや蒼凪君達の仕事は……」 「まず赤羽根くんには、チーフプロデューサーとして全体の指揮を。それとオーディションも開く予定だから、その取りまとめもしてほしい」 「オーディション……765プロのアイドルになりたくて、門戸(もんど)を叩(たた)く子が出てくるのか……!」 「天海くん達を先輩として、憧れてね」 「……というわけですよ、律子さん。そんなセクシーアイドル路線は、本当に彼氏ができてからぶっちゃけてください」 「君も割とエグいねぇ! いや、確かにあの様子で憧れとか持てないけど!」 「はい……! というか、どれだけお見合いが嫌だったんですか!」 静香が率直な意見をぶつけたことで、律子さんが崩れ落ちる。まぁその痛みも抱えて頑張ってほしい。 ……でも、いろいろ感慨深いなぁ。つい春香達と顔を見合わせ、しみじみしてしまう。 「春香、おのれも気をつけないとね」 「私は大丈夫ですよー。プロデューサーが閣下とか言わなきゃ」 「…………以前、じ(ぴー)もののAVをネットで見た結果ウィルス感染して、みんなにまき散らしたでしょうが」 「ごげぶぅぅぁうぅあうあうあ!?」 「ちょっと待ちたまえ! それはあの、専務として……大人として聞き捨てならないよ!? さすがに性癖があれすぎるだろ!」 「動物ものの可愛(かわい)いビデオを検索していた結果、見てしまったそうですよ。しかも無修正」 「……あれも酷(ひど)かったそうですねぇ」 あのときのことは本当に……シオンが言うように酷(ひど)くて、大きくため息。 「しかもそのせいでパソコンがウィルス感染して……USB接続で充電していた携帯にも伝染。 そこから千早や美希、赤羽根さん……みんなの端末にもウィルスが広まっていったんです」 「兄ちゃんの端末にも引っかかったけど、そっちはセキュリティーをしっかりしていて大丈夫だったんだよね。 で、変なのが入っているって気づいて……調べたらもう、凄(すご)いことに」 「幸い潜伏期間で悪さをする前だったから、何とか被害は防げたけどねー」 「そういうドジをちょいちょいかますんですよ、この春小物は。だから気をつけろって言っているのよ」 「や、やめて……あれ、ナイトメア見るから。意図せず見て吐いて、ナイトメア見たから……!」 「ま、まぁ……そうだね、わざとじゃないとしても、注意はしようか。……だが、それならこの人選で大丈夫そうだな」 そう言いながら、専務が僕をマジマジと見つめ、納得した様子で何度も頷(うなず)く。 「39プロジェクトのアイドル発掘≪スカウト≫担当は……蒼凪くん、君に任せようと思う」 「へ!?」 「お兄様が……」 「マジかよ!」 「凄(すご)いことを任せてくるなぁ、このおじいさん……もぐ」 かと思ったら、とんでもない話題が出てきた! 「僕がですか!?」 「あぁ。……君のフィールドワーク能力と人を見る目、更に培ってきた危機管理能力に期待してのことだ。 都内はもちろん、必要なら都外への出張も認めるよ。思う存分腕を振るってくれたまえ」 「……分かりました。じゃあそこも赤羽根さんと相談しつつ進めていきます」 「頼むよ」 「じゃあ早速」 「……へ?」 鉄は熱いうちに打て――適当な知り合いに連絡してみる。≪デバイレーツ≫を取り出しポチポチ操作。 「ん……蒼凪くんの携帯は、変わっているね。どこの会社のかね」 「ワンオフのお宝ですよ」 「なんか凄(すご)いね!」 とか言っている間に電話が繋(つな)がったので、早速お願い開始です。 「あ、舞さん? 僕です僕……蒼凪です。いつもフェイトがお世話になってます」 『あ……ん、どうしたのぉ? こんな昼間から……』 あれ、妙に声が色っぽいな。というか、なんかぎしぎし……それでスレているような音が。 あと微妙に、低めの吐息も交じっている? ……あれ、なんか嫌な予感がしてきた。 「突然ですけど、765プロでアイドル、やりませんか? 今ちょうど新企画が持ち上がっていて。お小遣いが稼げますよー」 「君ぃ!?」 『ん……パス。今ね、旦那様に御奉仕で忙しい……というか、真っ最中なの』 「あぁ、そうなんです…………………………すみません、失礼しました!」 『いいわよ、別に…………あん♪ もう、本当にきかん坊ね。これなら愛の弟か妹、すぐにできちゃいそう……』 「ホントすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 電話を即座に終了ー! ま、まさか……そんな最中に出てくるとは! もう嫌だ、人に電話かけるの、怖くなりそう! ……とりあえず呼吸を整え、何事かとざわめくみんなに……極めて冷静に伝える。 「済みません、一人目は失敗でした。ちょうど旦那さんと楽しくセックス中で」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』 「ストレートに言う必要はどこかねぇ! というか、誰だ! どこの奥さんなんだね! というか結婚している人を…………星井くんがいる時点でアウトかー!」 「えぇ。だから美希をヒントに………………日高舞さんにかけたんです」 『アウトォォォォォォォォォ!』 「ちょ、待って! 恭文さん……あの日高舞さんと知り合いなんですか!?」 あ、静香は知っているのか。まぁ元々アイドル志望だったそうだし、勉強していたんだね。 「僕というより、フェイト……うちの奥さんがね。……元々は日高愛って子と仲良くなったのがキッカケなんだ」 「876プロの子ですよね。……そっか、765プロは876プロと提携を結んでいるから」 「愛と仲良くなって分かったんだけど……日高家、うちからそんなに離れてないのよ。 だからフェイトも聖夜市に引っ越してから、スーパーで何度も顔を合わせていたらしくてさぁ」 「それで、君も仲良くなったのかね!」 「…………でも、今後は顔を合わせるだけで辛(つら)くなりそうです。こう、凄(すご)く近くで何かと何かが擦れる音が……水音が……!」 「そ、そこは忘れようか! な!? な!? 多分覚えておいてもいいことなんて一つもないよ!」 専務さんに頷(うなず)きながら、必死に……あの情欲に満ちたノイズを頭から振り払う。 あぁ、でも専務さんはいい人だ。ここまでがしがしツッコミができるんだから……! 「でも、あなたはちょっと剛胆すぎませんか!? いきなり日高舞を招き入れるって!」 「何とかなるような気がして……めざましテレビのラッキー占いで、獅子(しし)座は運勢最高だって言ってたし」 「……前々から言っているじゃない。アンタは常に運勢最底辺なんだから、占いとか信じちゃ駄目だって」 「伊織が酷(ひど)い!」 「酷(ひど)くないでしょ! その結果が悪夢のようなノイズでしょ! ……こんな調子で大丈夫なのかしら」 「まぁ何とかするよ。幸いお宝探しは趣味だ」 「そのためにドンパチもするから心配なのよ……!」 はて、一体何のことやら……というか、僕はドンパチが嫌いだと言っているのにー。 ……とにもかくにも、こうして765プロの新しい挑戦はスタートする。それは僕にとっても同じことだった。 今までとは違う戦い方だけど、変わらないものも、変わっていくものも大事に持って……始めようか、クライマックス! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦七九年(西暦二〇一二年)十月――ダールグリュン邸 「お嬢様」 トレーニングルームで懸垂を続けていたところ、執事のエドガーが入ってくる。 「大会の出場枠通知が参りました」 「開けてちょうだい」 「そう仰(おっしゃ)ると思って、既に開封を。……お嬢様は地区予選六組。エリートシード第一枠ですよ」 「そう」 これで六〇〇〇と……懸垂を終えて、安全確実に床へと着地。脇に置いていたタオルで、肌にまとわり付く汗をサッと払う。 「ジークは出てる? それからあの不良娘は何組」 「ジークリンデ様は去年途中欠場されていますからね。エクストラシードはなくなっていますが、それでも予選一組の第一枠です」 「そう……今年もちゃんと出るならいいのよ。あの子はあの子で心配だったから」 朗報だと胸をなで下ろし、ストロー越しにスポーツドリンクを頂く。……あぁ、この清涼感がクセになるのよね。 「ハリー選手は五組ですね」 「よぉし、ちゃんと出ているのね! あのポンコツ不良娘との決着は、都市本戦で」 「その前に相馬空海様ですが」 「が”?!?」 その名前が出たことで、運動とは違う動機で鼓動が乱れる。まさかと思い、エドガーを見やると……。 「空海様はお嬢様と同じく予選六組。順当に勝ち進めば、四回戦くらいで当たるでしょうか」 「そ、そう! 彼、今年も出ていたのね! 去年派手に負けたっていうのに! というか、私に負けたのに、また不運ね!」 「おかしいですね……彼に『また来年戦おう』と言ったのはお嬢様では」 「エドガー!?」 「あと、旦那様達が何とか彼をうちに招待できないかと言ってまして」 「絶対やめてぇ!」 「ですが、お嬢様を押し倒したどころか、服を引っぺがし、柔肌に触れたわけですし……これはもう婚約するしかないかと」 「エドガァァァァァァァァァア!」 ――相馬空海。地球の中学生で、去年……いろいろと因縁があった殿方。 一応私の方が年上なのに、いろいろと小生意気で……でも、情熱に溢(あふ)れた子だったわ。しゅごキャラのダイチもいい子だし。 ただ、試合前にその……いろいろ、私の油断もあったせいで、胸とか……触られてしまって……! でも、わざとじゃない! コケそうになった私を助けてのことなので! まぁ、下着姿にされてしまったけど……でも、彼はそんな人ではないから! それに恋愛感情もない。あくまでも競技者として、対峙(たいじ)しているだけにすぎないから。 だから、お父様達には後で話をしなくては……! というかエドガー……エドガァァァァァァァァァ! ほぼほぼあなたのせいでしょ! あなたが何か言ったんでしょ! もうそうとしか思えないわよ! そもそも婚約って何! 速すぎるわよ! そ、そういうのはまず……文通からではなくて!? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 子分……というか妹分の、ミアとリンダ、ルカに手伝ってもらい、自宅でしっかりトレーニング……! 少し前、オレのファンだっていう子達とライバル宣言しあってから……なんか燃えまくっててさー! サインも喜んでくれたし、この調子で……調子で……しかし、あれだな。 「ルカ、お前……太った……よなぁ」 「リーダーが酷(ひど)い! 違うっス! 成長期! 第二次成長期!」 「いや、太ったな……これ。五キロくらい、ずしーんっと……あれか、ペヤング大量摂取したのか」 「なんで分かったっスか! ペヤング四箱一気食いしたの!」 「マジでやったのかよ、大量摂取!」 うちの中では割と小柄なルカに乗ってもらい、親指を軸に腕立て伏せ……何回も、何回も、何回もー! ペヤングの重みをかみ締めながら、一つずつ鍛えるのさー。これが勝利の方程式ってやつさー。 「それよりリーダー、これ凄(すご)いですよ!」 するとリンダがマスクを外し、オレ宛てに届いた出場枠通知を確認。 「予選五組……第一シード!」 「ま、シードは……去年の順位で……決まる、からよー。ふつーだ、フツー……つーかオレよりルカの方、が……」 「同性でもセクハラは成り立つっスよ!?」 「……ペヤング四箱とか、成人の必要カロリーをそれだけで摂取できるだろ」 「……お、あのへんてこお嬢様は六組かぁ」 「あ、馬鹿おめ!」 すると昼飯を作っていたミアが、慌ててた様子でリンダを止めてくる。 「……またリーダーが泣くだろ。去年なんてもう」 ――ちくしょー! アイツに負けたんだー!―― 「……って、グスグス泣きじゃくって大変でさー」 「あ、ごめん」 「全部聞こえてるぞ、お前らぁ……!」 わざとやってるんじゃないかとつい睨(にら)みたくなったが、怒りはグッと飲み込み、もういっちょ……体を起こしてっと! 「……まぁあのへんてこお嬢様、強かったしなぁ。また戦えるんなら、今度はきっちりぶっ倒すけどな。 あんなぐだぐだの泥仕合じゃなくて……白黒ハッキリ、つけようぜって……アイツも、そう思ってんじゃ……ねぇ、かなぁ……」 「……やっぱりうちのリーダーはカッコいいなー。ところでリーダー、ルカはそんなに」 「ペヤングの重さが、呪(のろ)いのように腹へと響いてくるぜ……!」 「「あぁ……」」 「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――ミッドチルダ中央本部・メインロビー玄関 長期滞在になるので、大きめのキャリーバックを引きながら外に出る。一番に目に入るのは、青い空と二つの月。 秋らしい涼やかな空気を、お母さんと一緒に胸一杯に吸い込み……! 「「あいるびーばーっく!」」 「元気っスねー、ルーお嬢様達」 「……四年前はこんな性格になるとは想像できなかったなぁ」 迎えに来てくれたウェンディとセインに見守られ、久々のミッドチルダにただいまー! ……ここは一応の生まれ故郷としては、感慨もある。もちろん戒めは忘れないけど。 私には罪がある。事情はどうあれ、力を振るい、理不尽な痛みをたくさんの人に強いた罪が。 罪の精算は一応終わって、晴れて自由の身。でも数えた罪は忘れず、私らしくまた一歩を踏み出す。 「でも楽しみねー。恭文くんとりんちゃん達も毎週見に来るそうだし」 「今度こそ、お父さんには年貢の納め時を覚悟してもらわないとねー」 「えぇえぇ!」 「「しかも相変わらず肉食系!」」 「ただその前に……」 なぜか戦々恐々とするウェンディ達に振り向き、右人差し指をピンと立てる。 「お世話になっている人達へ、挨拶回りにいかないと」 「エリオとキャロもくるしねー」 「あ、二人とも合流しないとね。でもエリオくん、どこまでいけるかしらねー。休業中の身とはいえ、現職局員だもの」 「というか、これで初戦負けしたら元機動六課フォワードの名折れっスよ」 「プレッシャーをかけるねー」 …………あ、お母さん達は知らないんだ。どうしようかなぁ、水を差すのもアレだけど。 いや、本当に負けた場合のこともあるし、言っておこうか。 「でもかなり気合いが入っているみたいだし、一気に都市本戦」 「だけは絶対ないね」 「えぇ!?」 「ルーお嬢様、厳しいっスねー!」 「それどころか、運が悪ければ一回戦負けかも」 「「へ!?」」 「ルーテシア、それはどうして」 疑問そうなので、豊かに実りつつある胸の谷間から、既に発表されている出場枠のコピー用紙を取り出す。 それをみんなに見せて、エリオが出場する”予選一組”の部分を指差すと……三人が揃(そろ)って息を飲む。 「ちょっと、ルーお嬢様!」 「予選一組……これは」 「エリオは初出場だから、まずは選考会……でも、エリオの実力ならノービスで留(とど)まるはずがない。つまり」 「嫌でも当たるっスか! 世界チャンピオンと!」 そう……エリオの出場枠は、ジークリンデ・エレミアと同じ予選一組。とはいえ、今の段階だといつ当たるかは不明。 今も言った通り、エリオはまず選考会があるし、ジークリンデ・エレミアも去年の出場辞退でエクストラシードが取り消されているから。 それで私の見立てだと、十中八九……ううん、百パーセントの確率でエリオが負ける。 ……それくらい驚異的なんだよ、『黒のエレミア』は。 (でも、『黒のエレミア』と覇王イングヴァルトの末えいが同じグループかぁ……) 多分、アインハルトも意識するよね。これはアインハルトが望んできた戦いでもあるんだから。 ……同時に、試練でもある。 アインハルトが過去を超えて、キチンと今の自分を確立できるかどうか……それを占う、大事な試練。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦七九年(西暦二〇一二年)十月――ミッドチルダ首都・クラナガン自然公園 首都クラナガンの一角……よく≪チーム・ナカジマ≫の練習場としても使う多目的公園。 揺らめく池の畔(ほとり)で、アタシは……今更胃が痛くなっていた。 「……ノーヴェ、未(いま)だに慣れないの? チーム・ナカジマ」 「ディエチィ! お前か! お前が喋(しゃべ)ったのかぁ!」 「言いがかりも甚だしいよ! その中間管理職みたいな有様を見れば、嫌でも分かるからね!?」 現在、ちびっ子達は池の周りをクールランニング中。その帰りを待っている中、ディエチとオットー……それに恭文がやって来て。 しかも恭文はまた、いろいろ忙しくなっているというのに。 「でも恭文、ボク達もいるし、週末の試合は無理してこなくても……というか、ティアナ達もだっけ」 しかもティアナとりん、ともみも来るとか。……あ、エリオも出場するから、キャロが付くんだっけか。 なおエリオとキャロについては、同じく大会出場予定のルーお嬢様が目当てでもある。 「というか恭文の場合、765プロで新しい計画がスタートするんでしょ?」 「いいのよ。765プロの方はまだ準備段階だし……それにりんは、ちょっと目をかけている子がいてね」 「目を?」 「リンネ・ベルリネッタ。ほら、前に話したでしょ」 お前が誘拐されかかったところを助けた子だっけか。つーかりんも関わっていたのかよ。 いや、でも……りんって何気にコミュ力高いし、料理や裁縫も得意だろ? ……強烈に親父臭いセクハラ癖さえなければ、悪い奴じゃないんだよ。無駄にオパーイへ拘(こだわ)るところさえなければ。 「じゃあ空海達の様子は」 「そっちはかなりいい感じ。……マーベラスと士さん達のおかげで、改めて実戦も経験できたし。 うん、あの……どうしようもない馬鹿どものせいで、ねぇ……ねぇ……ねぇ……!」 「恭文、落ち着いて……落ち着いて」 「……お前も許していないわけか」 うん、大変だったけどさ。すげー大変だったけどさ。空海達、その二人に散々やられて……それはなぁ。 ≪何を言うかと思えば……あなたはいいじゃないですか。ゴーカイジャーの仲間に入れてもらえたでしょ?≫ 『はい!?』 「いや、あの……うん、こんなの、もらっちゃって」 するとアイツが出してきたのは、スマホ型端末。というか、鍵穴(かぎあな)があるような……。 「これがデバイレーツで」 ゴーカイジャーのレンジャーキーだった。 トリコロールカラーだけどマントが付いていて、顔がインフィニティーマーク……どういうことだぁ! 「こっちがレンジャーキー」 「お前、いつの間に!」 「大会の後、大変だったのよ……。粒子結晶体の暴走で次元の歪(ゆが)みができて、ザンギャック残党が転移してさぁ」 ≪おかげで卯月さん達にも魔法のこととか、次元世界のこととかバレましたしねぇ≫ 「またそのパターンかよ!」 つーか卯月って…………あぁあぁ知ってる! 島村卯月だったな! アイドルだよ! なんかすげーおっかないらしいけど! ≪それで主様も、ゴーカイジャーの仲間としてデビューしたの! ムゲンゴウって海賊船もゲットしたの!≫ 「お前……!」 「恭文……その、よかったね。天職について」 ディエチがアッサリ真実に触れたぁ!? お前度胸があるな! 「天職って言うなぁ! 僕は海賊じゃない!」 ……これほど、説得力のない言葉がどこの世界に存在していたのだろうか。 コイツのやり口を見ていると、海賊か山賊の類いだって思うのが当然だろうに。 「お兄様、嘘はいけません。ファミーユさんに『一緒に頑張りましょう』って言われて、全力でOKしていましたよね」 「その通りだ。しかもまたフラグも立てて……もぐ」 「フラグとかじゃないし! アイムは宇宙天使なんだよ!? ……僕はただ、アイムが笑顔でいてくれればいいの。 僕がお嫁さんにしたいとか、そういうことじゃないの」 「では決を採ろうか。今の発言だけでフラグ立てる気満々だと思う人、手を挙げて」 『はーい』 そんなの、しゅごキャラを含めて満場一致に決まっていた。 「なぜだぁぁぁぁぁぁぁ!」 「自覚しろよ……! 宇宙天使とか言う時点でアウトだからな! つーか結婚して子どももいるってのに!」 「おのれ、天使に会ったらどう表現するっての? 天使は天使と言うしかないでしょうが。六課メンバーが”スバルの2Pカラー”と表現していたように」 「そういうことじゃねぇよ! つーか哀れむな! その悲しげな瞳は今すぐやめろぉ! あと、誰がそんな侮辱をかましたか後で詳しく教えろ!」 ≪まぁ安心するの。その件でティアナちゃんやジャンヌちゃんに説教されていくの≫ あぁ、されていく……現在進行形なのか。うん、病気も同然だからな。つーか天使、三人に増えてやがるのかよ。 コイツの天使認定病は直るだろうか……そんな不安を感じている間に、遠くから足音が聞こえる。 それは凄(すご)い勢いで、どんどんこちらに近づいてきていて……。 「あ、戻ってきた……速い速い」 「……つーか速すぎない? ノーヴェ」 「疲労抜きのスロージョグっつったんだよ、アタシは……!」 九時方向から近づいてくるちびっ子たちは、全力疾走……完全に競争と化していた。 「いっちばーん!」 「負けないからー!」 なお、順位はリオ・ヴィヴィオがワンツーフィニッシュ……全然嬉(うれ)しくないけどな! 次にアインハルトとコロナが同着三位。 なお最後尾はあむなんだが……あむは、別にいい。スロージョグって趣旨を守った上で走っていたからな。 「あむちゃん、追いかけなくていいのー?」 「どんどん置いていかれてますよぉ」 「いや、当たり前じゃん! ノーヴェさんにも指示されたじゃん!」 「これが、若さか……」 「ミキィ!? あたしを年寄りみたいに言うなぁ!」 ミキ、それは理不尽だからやめてやれ! あむは間違ってない……正しいんだよ! 「みんな、若いのね」 ……慌てて右側を見て、恐れおののく。なぜか、そこにはダイヤが……いつの間に戻ってきたんだ、お前はぁ! 「それと恭文君、海賊のお嫁さんを作ったんですって? ……私というものがありながらぁ!」 「いつそんな話ができたと!?」 「あむちゃん、恭文君がまたいじめるのー! 私のことが好きだからってー!」 「そんな覚えはないんだけど!」 「…………やぁぁぁぁすぅぅぅぅふぅぅぅぅぅみぃぃぃぃぃぃぃ!」 「おいこら、速度を上げるな! スロージョグスロージョグ!」 本当にいつからいたんだよ! 海賊の話って結構前だぞ!? あれか! 超常的……スーパー能力か! そうなのか! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ とにかくスロージョグも終わり、まずはみんなに労(ねぎら)いの一言。 「――そんなわけで、特訓を続けてもう四か月。いよいよ選考会と地区予選の始まりだ」 「はい!」 「今回は個人戦だから、チームメンバー同士で戦うこともある。それは大丈夫だな」 「「はい!」」 いの一番にアインハルトとコロナが乗っかり、リオとヴィヴィオも拳を握ってガッツポーズ。 「スポーツだから勝敗が付くのは当たり前……でも終わったらノーサイド!」 「正々堂々、全力でいい試合にしようねって……そういう話、あたし達みんなでしてたんだ」 「そうそう! だから――ありとあらゆる手段を用いて、たたき潰しに行くよ! 心配しないで、ノーヴェ!」 「この馬鹿チンがぁ!」 心配なので馬鹿にハリセンで唐竹一閃! それはクリーンヒットし、実にいい音を響かせた。 「ノーヴェ、いきなり何をするの?」 「やかましいわぁ! スポーツ競技って分かるか!? ルールがあるんだよ! マナーがあるんだよ! アスリートとして、スポーツマンシップに乗っ取れぇ!」 「……………………スポーツマンシップなんて、恭文や魅音さん達から教わったことがないけど」 「恭文ぃ!」 「全く……おのれは何を言っているのよ。――部活第一条! 目指すは一位のみ! 第二条! 勝利のためにはありとあらゆる努力が推奨される! 基本でしょ!」 とりあえずこの馬鹿にもげんこつー! 悪びれもしないで言い切ってくれたからなぁ! これくらいはいいよな! つーかやべぇよやべぇよ……改めて確認が必要だ! パーペチュアルで何をしてきたかとか、絶対確認が必要だ! 「……それでノーヴェ、参加ブロックはもう決まっているんだよね」 「あ、あぁ……」 半泣きになりながらも、ディエチに何とか宥(なだ)められつつ、先日届いた組み合わせ表を確認。 まずは選考会があるから、どのブロックで始めるかって程度だけどな。 「……リオ、予選五組。 ヴィヴィオとあむは予選四組」 ≪ぴよ!?≫ 「リオの五組には、砲撃番長ハリー・トライベッカ選手がいます。彼女を倒さないと、本戦にはいけませんね。……そう言えば恭文、りまも」 「うん、りまも同じく五組だ。もしかしたら初っぱなで当たるかもね」 「なら、どっちも倒しますよー! たとえりまお姉様が相手でも!」 「お姉様って、お前……」 いや、そうだったか……あの合宿で姉妹のちぎりを交わしたんだっけか? ただオットーと恭文の説明には、一つ抜けていたところがあるので補足しておく。 「だが敵は砲撃番長だけじゃない。その番長と競り合ったエルス・タスミン選手もいるし、それ以外にも都市本戦出場者が何人かいる」 「五組はひときわ激戦区ってわけですね! 燃えてきたー!」 「じゃあ、あたしとヴィヴィオちゃんの組は……」 「スパーリングで世話になったミカヤ・シェベル選手がいる。あと……八神道場のミウラってのもいるな」 「ミウラさん! うん、話には聞いているよ!」 「あたしもザフィーラさんから。でも会うのは初めてだし……楽しみだね」 「はいー!」 しかしミカヤ……その強さを肌で感じたアインハルトは、特に苦い顔をしていた。 「かなりの強敵、ですね」 「それについてはアタシ達より、恭文の方が詳しいかもな」 「そうでした……確か恭文さんは、エグザさん達と天瞳流道場に道場破りをしたことがあるとか」 「あくまでもなんちゃって……道場主さんに頼まれて、師範代や門下生の実力を試す抜き打ちテストだけどね」 ……どうもそうらしい。サリエルさんと、天瞳流の師範が顔見知りらしくてさ。こいつの修行がてら頼まれたとか。 それでまぁ……フラグを立てたとか、そういう話ではないんだが、それから意識し合う関係らしい。 同じ抜刀術と日本刀の使い手で、術式も近代ベルカ式。年頃も同年代と言って差し支えない。 しかもこの次元世界で、魔法を前提としない戦闘術に感銘を受け、それを修めている数少ない同志。 ミカヤとは性別を超えた友人同士というか、アタシやオットー、ギンガとはまた違う距離感があるようだ。 「あむ、ヴィヴィオ、もし対戦するなら……絶対油断しない方がいい。もう年齢の問題も絡んでくるしね」 「年齢?」 「ミカヤは今年で一九才……U-19の大会であるIMCSには、今年も合わせてあと二回しか出動できないんだよ。 以前チャンピオンのジークリンデ・エレミアに拳も砕かれているし、相当に気合いが入っていると思う」 「それを抜いても、ミカヤ選手は大会常連のハイランカー……その中でも最高年齢に近い古兵≪ベテラン≫だ。 IMCSでの戦いを熟知しているし、どんな札が飛び出すか分かったもんじゃない。改めて試合映像はチェックしておけ」 「「はい!」」 うんうん、ヴィヴィオとあむはいい感じだな。自分達が戦うかもしれないってのに……まぁ、そこは大丈夫か。 ヴィヴィオはこういう奴だし、あむもスポーツとして、お互いを高め合えるなら……そういう意識を持っているからな。 ……で、そんな二人より問題なのは――。 「でだ、アインハルトとコロナは予選一組……なんだよ」 「はい。……あの、ノーヴェさん、どうしたんですか」 「私達も、さっきヴィヴィオちゃんが言った通り、邪魔なら同門であろうと蹴散らす覚悟ですけど」 「………………恭文ぃ!」 「コロナは元々こういう子だったって」 絶対嘘だ……! つーかなんだ! なんでそんなに本気なんだよ! お前の何がそうまで滾(たぎ)らせるんだよ! 「そうだ、負けていられない……ダールグリュン……打倒ダールグリュン……!」 空海かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 空海がかましたラッキースケベかぁ! それで人格が切り替わっているのか、お前! そんなヤンデレみたいな……冷たい瞳でダールグリュンって呟(つぶや)き続けているのか! でもやめろ! 怖いんだよ! 見ていると泣きたくなるんだよ! 「で、何が問題なんですか?」 それでサラッと平常運行に戻るのか! お前、なんか……凄(すご)いな! いや、よくないけど! ……あぁ、もうやめよう。今は試合の方だ。ここは、絶対注意が必要だしよ。 「一昨年の優勝者が、一組のトップシードにいるんだよ」 「一昨年? …………まさか」 「ジークリンデ・エレミア……」 その名前を出しただけで、みんなの表情が分かりやすくこわ張る。 ≪ジークリンデ・エレミア……敗戦記録は去年の出場辞退だけで、戦って負けたことは一度もない。 近代総合格闘技の三本柱≪打撃・投げ・関節≫のみならず、魔法戦も得意とする生粋のオールラウンダーでありエリートファイターですね≫ ≪はわわわわ……! 予選一組参加者は絶望なの!?≫ 「そうとも言えないよ。能力的相性……状況次第では、ルーキーの方がいい勝負になるかもしれない。何せ事前情報がないんだから」 「恭文の言う通りだ。お前らがどう戦うにしても、コイツを倒さなきゃ都市本戦はあり得ない。覚悟はしておけ」 「「はい!」」 ――こうして、アタシ達の挑戦は始まる。 秋空を熱く……熱く燃え上がらせる戦いの日々に向かって、ただ期待に胸を膨らませ続けていた。 『チーム・ナカジマ――ファイト! オー!』 「……それ、やっぱりやめてくれ」 「ノーヴェは往生際が悪いなぁ」 「うるせぇよ!」 そこのハ王! とりあえずその、生暖かい瞳はやめろぉ! 腹立つんだよ! 無性に腹が立って仕方ないんだよ! だ、だが慣れなくては。もう撤回なんて無理だし、頑張れ……頑張れアタシ……! 「……ともあれ、明日からいよいよ選考会。それが終わったら予選開始だ。今日からは魔力バンドも外して、回復に向かわせるぞ」 『はい!』 「預かるのでこちらに」 『はーい!』 みんなは両手足の魔力負荷バンドを外していく。その様子にディエチと恭文が目を見張った。 「四つも付けていたんだ」 「出力MAX――負荷四倍だよ。最初は一つでも辛(つら)そうだったけど、すぐに慣れてくれてね」 「で、成果は?」 「とりあえず魔力量はそこそこ上がったし、無意識下での魔力制御はかなり上手(うま)くなったぞ。……でも、大事なのはそっからどう応用するかだ」 「だね」 ディエチとオットーの三人で、はしゃぐチビ達を見守っていると……。 ”……ノーヴェ、ちょっといい” 恭文から、突然念話が届いた。 ”ヴィヴィオとアインハルト、ちょっと注意しておいて” ”注意?” ”ジークリンデ・エレミアと戦うときは特に” …………そりゃあまた物騒な話だ。一体どういうことかと、みんなに悟られないよう念話に集中する。 ”なのはからは僕からも言っておく。対戦するときには、ヴィヴィオについていられるようにね” ”どういうことだよ、そりゃ” ”ジークリンデとは、以前の大会辞退前に知り合ったんだ。……ヴィクトーリア・ダールグリュンが面倒を見てるんだよ” ”雷帝ダールグリュンが?” それは、初耳だなぁ。いや、ある意味当然か? 打倒チャンピオンを明言しているハイランカーは多いんだが、そのハイランカーもスポーツマンとして優秀だからな。 試合の結果はそれとして、ハイランカー同士で仲良くしている姿もちょいちょい見かけるんだ。 だから、現世界最強とされるジークリンデ・エレミアに、雷帝が親しくてもそれは………………違う。 そういう意味じゃない。だったら、そこでなんで二人が絡むんだよ。 その理由なんざ、一つしかなかった。 ”おい、まさか……” ”あの子は古代ベルカ戦乱を生き抜いた、伝説の一族……≪黒のエレミア≫の末えいだ” ”聖王と覇王の知り合い……!” いや、予測はしていた。何せハイランカーの中にはダールグリュンみたいな末えいもいるんだ。 だが、今のアインハルトは相当安定している。ヴィヴィオだって記憶継承に近い現象は、今の今まで一度も起きていない。 それでもなお、恭文が密(ひそ)かに忠告してくるってことは……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ――第六回インターミドルチャンピオンシップ:ミッドチルダ地区選考会第一会場 大会が行われるのは、ふだんは大型イベントなどで人が賑(にぎ)わう巨大多目的ドーム。クラナガンの中央本部にもほど近い場所にあります。 そこには当然プロの格闘競技会も含まれていて……U-19魔法格闘競技選手としては、そこに選手として入れるだけでも夢の舞台。 既に選考会用のステージが幾つも設置されていて、準備に入っているスタッフや選手も大勢いる。 試合前のドキドキや不安……選手とスタッフ、観客とではそれぞれ質の違う相反する鼓動。 それらがオーケストラのように会場全体を包み、嫌でも興奮のるつぼへたたき込んでくれる。 ……あ、一つ忘れてた。 会場がある区域は、興業用に確保されたイベント区域で、ここからちょっと離れたところに第二会場もあるんだ。 ルールー、シャンテが参加する組は、そっちで行われることになっている。 「……改めて考えると、この中から勝ち抜くってだけでも凄(すご)いことだ」 あむさんは勝ち上がる難易度と、得られる栄誉の輝きを見つめ、ぐっと唾を飲み込む。 「でもでも、みんなすっごくワクワクしてる」 「はい〜。勝ち負けがあるのは仕方ないことですけど、本当に格闘技が好きな子ばっかりなんですねぇ」 「勝っても負けても楽しくワクワク! よし、頑張ろうー!」 「もちろん!」 「ふふ、あむちゃんも気後れせずに気合い十分ね」 ≪ぴよぴよー≫ しゅごキャラのみんなもテンションはマックス。……そんな中、こっちに近づいてくる赤髪の人が……。 「ヴィヴィオ、みんなー!」 「エリオ! こっちこっちー!」 そう、休業して旅をしていた関係から、大会出場も可能になったエリオさんです。……別名、哀れな羊とも言うけど。 そう言えば第一組だったなぁと思い出し、ついヴィヴィオはコロナと一緒に合掌。 「……ルーとキャロみたいな真似(まね)、やめてくれる!?」 「二人にも合掌されたのかよ……!」 「されたよ! まだエリートクラスにいけるかどうかも不明なのに! 対戦する前に負けるかもしれないのに!」 「ま、まぁ……逆に信頼されているってことじゃん? 少なくともエリオ君を倒せるの、チャンピオンくらいだーってさ」 「そう言われると悪い気はしないんだけど……」 何やら迷いがあるようで、エリオさんは困り気味に頭をかく。……そんなエリオさんの反対側から、また見慣れた影がやってきた。 「――日奈森ー!」 ノーヴェが後悔しながら頭を抱えている間に、恭文とりんさん、ともみさん、ティアナさんがやってくる。 その後ろには、空海さんとゼッケン装備なりまさん……更に鼻息むふーと荒い、金髪三つ編みの女性が。 「チーム・ナカジマのみんなー! 元気だったかしらー!」 「チーム・ナカジマ、ばんざーい!」 「えっと……ば、ばんざーい」 かと思ったら死体叩(たた)きだよ! りまさんを筆頭に、りんさんと……ともみさんまでもー! 「………………恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 「いや、大会のエントリーシートに書いているでしょ」 「今回についてはコイツのせいじゃないわよ。諦めなさい」 「そうだったぁ!」 「あれ……ヴィヴィオ、あの人達って」 「ま、魔王エンジェルの朝比奈りんさんと三条ともみさんだよね!」 あ、そっか。リオとコロナは初対面だから……だた二人はすぐに落ち着きを取り戻し、拍手を打つ。 「……って、驚く必要もなかったよね。チームとまとにも入っていたし」 「恭文さんと知り合いで、魔法のことを知っているのも当然かー」 「そうそう」 「「……じゃあ、あっちの……鼻息が荒い人は」」 コロナとリオは驚きを諫(いさ)めつつ、あちらの女性を見て……不思議そうに小首を傾(かし)げた。 うん、知らないよね。あれについてはヴィヴィオも話しか聞いてないし。 「…………恭文、もしかしてまたフラグを」 「エリオさんも見習わないとー」 「僕にハーレムの甲斐(かい)性はないよ!」 「でもほら、貴音さんと仲良しになったんですよねー」 「なんで知ってるの!?」 「ヴィヴィオの耳は地獄耳ー♪」 クリス共々両手で耳をアピールしている間に、みんなはヴィヴィオ達と合流……なんだけど。 「――あむぅぅぅぅぅぅぅぅ!」 ……チーム・ナカジマってところを大きく叫んでいたりまさんが、光の如(ごと)くあむさんへ突撃……全力の抱擁をプレゼントしていた。 「クスクス……ちょっとだけお久しぶりー!」 ≪ご、御無沙汰しています!≫ 「ん、クロスクラウンも元気そう……って、りま! 恥ずかしいから離れて! というかくっつきすぎじゃん!」 「何を言っているの。私とあなたの間柄じゃない……」 「恋人か何かですかぁ!?」 「ここには邪魔者≪藤咲なぎひこ≫なんていないわ。さぁ、愛を語らいましょう」 「やっぱり恋人か何かですかぁ! ちょ、みんな……助けて! やっぱりりまが怖い!」 あむさんが楽しそうだなぁーと思いながら、恭文達を見上げる。 「無視しないでー!」 「えっと、あの」 「駄目ですよ、アインハルトさん。愛を邪魔しちゃ」 「あ、はい」 「愛なんてないからぁ!」 きっと愛は難しいんだと納得しつつ、まず聞くべきは……やっぱり鼻息の荒い人だよね! 「恭文、こちらの……人は」 「あ、そうだね。紹介するよ、この子は」 「蒼凪ジャンヌ! あ・お・な・ぎ! ジャンヌです!」 その瞬間、恭文の鋭いげんこつが走る。その上で首根っこが割と遠慮なく掴(つか)まれた。 「初対面の自己紹介でそんなテンションが許されるとでも!? 許されるのはGTOだけなんだよ!」 「駄目なんですか!?」 「もっと落ち着いていこうよぉ! ほら、みんながぽかーんっとして!」 「そ、そうですか……では、改めて……初めまして、ジャンヌ・ダルクです。将来的には蒼凪ジャンヌとなりますけど」 『フランスの聖女と同姓同名!?』 「はい、まぁ……いろいろ偶然がありまして」 ………………大うそに等しいけどね。 だってこの人、正真正銘……本物のジャンヌ・ダルクだもの。過去に死んで、座に召し上げられた英霊。 それが恭文と縁を結んで、受肉した上で戻ってきた。ヴィヴィオも聖杯大戦とかの話だけは聞いていて……でもビックリしたよー。 恭文が宇宙に行って、プラフスキー粒子の製造中だったもの。フェイトママもびっくりしていてさー。 ……でも、改めて見ると奇麗な人だなぁ。髪も艶(つや)やかだし、スタイルも抜群。 そのためアインハルトさんとコロナ、リオ、あむさんが自分の胸をさわさわして、悔しげに顔を逸(そ)らしてしまう。 「「「「くっ……」」」」 「それでこっちの二人も……コロナとリオ、アインハルトは初めてだよね。朝比奈りんと三条ともみ……ぼ、僕のメイドさん……メイド、さん……」 「…………彼女さんってこと?」 「うん……!」 「初めまして、みんなー」 「初めまして」 それで二人もスタイル、抜群なんだよねー。 ともみさんはすらっとした長身だけど、出るところはきっちり出ているモデル体型。 りんさんは恭文とほとんど身長が変わらないのに、HだかIだかにも見える……たゆんとしたバストを、ゴスロリ衣装に包んでいて。 幼げな八重歯の笑顔とは正反対な、完熟した女性の体つき。それにヴィヴィオも押されてしまい……。 「「「「「は、初めまして……くっ……」」」」」 「いや、なんであむとヴィヴィオまで言うの!? 知り合っているよね! お休みのときに会ったよね!」 「あむちゃん……もしかして、私とティアナさん、キャロちゃんと作った甘味部、嫌になった?」 「いや、そんなことない! あの、ごめん……つい威圧されちゃってー!」 「そうそう! こう、二人ともまた奇麗になって……ねー!」 というかというか、いいないいなー。ヴィヴィオもやっぱり速く大人になりたいかも…………って、待って。 今、何やら聞き逃せない話があったようなー。だからエリオさんもギョッとして軽く詰め寄る。 「ちょ、待ってください……甘味部!? そんなのをいつ作ったんですか!」 「女の子同士、甘いもので仲良くなったからよ」 「キャロちゃんもお料理上手だしね。……そう言えばキャロちゃんは? てっきりエリオ君と一緒だと思ってたんだけど」 「ルー……ルーテシアの方に付いているんです。久々のミッドだからってのもあるんですけど。あ、それと……恭文」 「何よ」 「…………ルーがメガーヌさん共々、顔を見せるって。試合前に」 そこで電流走る……普通なら挨拶だと思うだろう。でも違う、そうじゃない。 ヴィヴィオ達はギョッとしながら、会場上部に取り付けられたマルチモニターを見上げ、時間を確認。 「開会式、もうすぐだよ!?」 「恭文に求婚するって言ってた」 「あほかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「……ヤスフミ、どういうことですか」 あ、ジャンヌさんが顔を赤くして、膨れ始めた。というかヤキモチを焼いているのか、なんか可愛(かわい)らしい。 「ルーが、メガーヌさん共々……あぁ、聞いています。確か召喚師の方々とか」 「そうそう。ただ……二人とも、いろいとぶっ飛んでいて……! エリオ、ちょっと盾になってよ」 「嫌だよ! 僕だって試合があるんだよ!? 頼むから集中させてよ!」 「馬鹿野郎! 常在戦場――集中する余裕を作る必要がある時点で生ぬるい!」 「正論を言われたよ! いや、何一つ納得できないけど!」 ……この調子ならエリオさんも大丈夫だね。いい感じで肩の力が抜けているし。 少なくともGWのような失態はしないはず。きっとこれも、旅の影響だと思う。 「分かった、じゃあこうしよう! ……キャロには黙っておくから」 「何を!?」 「貴音と一緒に……それも何度かご飯を食べに行っていること。しかも、貴音に相当気に入られて」 「とりあえず人の迷惑がかからない程度に止めてみるよ」 『買収されたぁ!?』 「というか、キャロには落ち着いてほしいんだけど……! 別に恋人とかじゃないしさぁ!」 『うわぁ……!』 エリオさん、全く気づいてないんだ! やっぱり兄妹意識で付き合ってるんだ! でもこう言うってことは、エリオさんは貴音さんを………………いずれ、血の雨が降りそうなんだけど。 ≪じゃあ早速仕事ですね、あなた≫ 「え……!?」 ≪あっちなの≫ ぬいぐるみ状態のアルトアイゼンとジガンが、ヴィヴィオ達の後方を差す。 するとそこには、駆け足気味なヒロリスさんとセイン、ルールー、メガーヌさんが……! 「おーい! やっさーん! みんなもお待たせー!」 「待ってません! ヒロさん、待ってません! 今回は待ってませんから! つーか……この馬鹿どもがぁ! とっとと第二会場へ行けぇ!」 「お父さん、結婚してー!」 「私もよ、恭文くんー!」 「大会はどうしたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「…………ごめん、恭文。もう一発アウトだ」 「だよねー!」 エリオさんが任務失敗して先行き不安になる中、いよいよ開催セレモニーがスタートです。 セコンドやスタッフなみなさんとはちょっとお別れして、選手は番号順に整列。 『――それでは昨年度の都市本戦ベスト10選手、エルス・タスミン選手に、第一会場の選手達に激励の挨拶をお願いしたいと思います』 代表として壇上に立つのは、結界魔導師≪エルス・タスミン≫さん。 黒髪を小さめのツインテールにして、細めの卵形フレーム眼鏡を正す。 ストライブの入った緑ジャージは、清潔感タップリ。なお十六歳らしいけど、リオばりにスレンダー。 この人は砲撃番長なハリー選手のライバル……なのかなぁ。去年はバシバシ殴り合っていました。 戦闘スタイルは今も言ったように結界魔導師。術式はミッドチルダ式で、バインドによる捕縛魔法を軸に、各種格闘技で戦う。 その実力も折り紙付き。参加履歴は今年で四回だけど、最高で都市本戦八位に入賞している……って、これも今言った通りだね。 その幼げな外見とは裏腹に、威風堂々とした立ち居振る舞い。ヴィヴィオ達も思わず背筋が伸びます。 『御紹介に与(あずか)りました、エルス・タスミンです。年に一度のインターミドル……。 今年は開催期間がズレましたが、その分各々の課題と向き合い、厳しい鍛錬を重ねてきたことと思います。 今日は練習の成果を十分に出して、全力で試合に臨んでいきましょう! 私も頑張ります! みなさんも全力で……では! えい! えい!』 その号令に合わせ、みんなで右手を突き出しながら――。 『おー!』 いよいよ始まる鮮烈な日々。ガンプラバトル選手権の地区予選みたいに、一週間に一回集まり、クリスマスまで戦い続けていく。 初めての大会。 これから出会うたくさんの人達と激戦。 ヴィヴィオ達はどこまで進めるんだろう。 それも分からないけど……まずはやっぱり全力全開! ママを見習って頑張ります! (Memory76へ続く) あとがき 恭文「というわけで、幕間リローデッド第17巻がメロンブックスDLS様にて販売開始。みなさん、何とぞよろしくお願いします」 (よろしくお願いします) 恭文「今回の鮮烈な日常は、39プロジェクト始動やらIMCS開催やら……。そしてエリオに不吉なフラグが」 あむ「救いはないの……!?」 恭文「あるじゃん。貴音と仲良くなってるみたいだし」 (そのうち二人でご飯を食べる姿が、見られることでしょう) 恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」 あむ「日奈森あむです。……明日(2018/05/31)は望月杏奈ちゃんの誕生日! だから現在、前夜祭からお祝いスタート!」 恭文「杏奈、おめでとう……だから、その……」 杏奈「ん……」 (ゲーマーアイドル、蒼い古き鉄にくっつきっぱなしです) あむ「くっつきすぎじゃん! 離れて離れて!」 杏奈「駄目……誕生日だから、恭文さんは……一緒……」 恭文「は、はい……」 アブソル「むぅ……でも、今日は我慢」 ラルトス「ラルトスもー」 (蒼凪荘のポケモン娘、プレッシャーをじりじり……じりじり……) 恭文「というか、杏奈……これは、なぜ」 杏奈「また、素敵なプレゼントもらった……だから、お礼……」 あむ「……いや、確かに……凄い情熱だけど、さぁ」 (そう言いながら現・魔法少女が見やるのは、vivid_rabbitの最新型ガンプラ……ガンプラ……ガンプラ……) あむ「造形も一からやり直して、今の装備準拠で作り直して……凄い手間だけどさぁ!」 杏奈「でも……でもね、杏奈……もっと、大人になった……。恭文さんに、そんな杏奈のこと……知って、ほしいです……」 恭文「だ、だからくっつく必要性はー!」 杏奈「知ってほしいから……ある……の……」 あむ「あるかぁ!」 (というわけで、次回からIMCSスタート。まずは選考会……そして一回戦。果たしてエリオは生き残れるのか。戦闘シーンはあるのか。 本日のED:Zwei『純情スペクトラ』) あむ「恭文、六月六日にFGOの生放送だって! しかもぐだぐだ生放送(タイトルです)!」 恭文「悠木碧さんも出るし、新イベント発表もあるそうだしねぇ。やっぱり噂された通り、あたらしいぐだぐだイベントか……」 あむ「あとは、魔神セイバー……だっけ? そういうのも出るかもーって」 桜セイバー「つまりは沖田さんの時代ということですね! ノッブは大人しく水着復刻でも待っていればいいのですよー! ………………かふ!」 あむ「ああもう、調子に乗るからまた吐血したし!」 恭文「相変わらずだなぁー」(口をフキフキしてあげる) 古鉄≪ここからは追記です。ジャンヌ(Fate)さんの紹介やデバイレーツなどは、いただいた拍手を参考にしております≫ ジガン≪拍手、ありがとうなのー≫ (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |