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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory74 『新暦七九年/チーム・ナカジマの軌跡』


新暦七九年(西暦二〇一二年)七月――ミッドチルダ住宅街・高町家


恭文がガンプラバトル選手権に出場して、なんかすげー騒ぎになっているが、次元世界の中心部≪ミッドチルダ≫は平穏な時を満喫していた。

そんな中、待ち望んでいた戦いがもうすぐ始まる。

IMCS――インター・ミドル・チャンピオン・シップ。U-19の民間魔導師達による、次元世界最強の十代を決める魔法格闘大会。


それに挑むのは……ア、アタシが……コーチを務める、チーム・ナカジマ……がああああああ!


「……ノーヴェ、まだ照れてるの?」

「うるせぇ!」


今日はなのはさんの家を借りて、チビ達と作戦会議……というか、今後のトレーニング方針の説明。

なおチーム・ナカジマってのは……仕方、なかったんだ。エントリーするとき、道場とかの名前を書く必要があって。

単純に流派云々(うんぬん)の話じゃないんだよ。緊急の連絡先も兼ねているから、どうしても……さぁ!


でもだからって、チーム・ナカジマはぁ! 普通にあれだよ……『ヴィヴィオと愉快な仲間達』でいいじゃねぇかぁ!

……あ、駄目だ。それ、アタシが却下したんだ! ふざけすぎだってさ! ちくしょおおおおおお! アタシの馬鹿ぁ!

なんでこんなことに……なんでこんなことにぃ! 更生を志してから、一生懸命生きてきたはずだったのにぃ!


「……それで、えっと……確か最初は、地区予選会でしたね」

「そうですよー」


げ、ヴィヴィオとアインハルトが話を進めている! アタシの苦悩を差し置いて進んでやがる! これが若さなのかぁ!


「選考会では健康チェックと体力テスト、簡単なスパークリング実技があります。その結果で予選の組み合わせが決まるんです。
普通の人はノービスクラスですけど……選考会で優勝、又は過去に入賞歴がある人は、エリートクラスから地区予選がスタートします」

「そちらは、相馬さんですね。では……私達は」

「……お前らの実力だと、多分スーパーノービスからエリートって感じだろうな」

「スーパーノービス?」

「選考会で優秀だったが、それまでの戦歴が薄いって場合は……スーパーノービスとして認定。
そのメンバーによる二次選考が行われるんだ。実際のトーナメントと同じ形式でな。それに勝てばエリートクラス出場って寸法だ」


まぁ当然ながら、全員初出場だから……今言った感じで進むと思う。

悲しいかな、こいつらは一般枠を既に飛び越えているからなぁ……! 初っぱなからエリートクラスの洗礼を受けることになるわけだよ。


「それで地区代表が決まるまでトーナメント。次はミッドチルダ中央部十七区から二十人の代表と、前回の都市本戦優勝者で≪都市本戦≫」

「そのトーナメントで勝ち抜いたら、ミッドチルダのナンバーワンってことだよね……!」

「あむの言う通りだ。だがまだ終わらない……そこから都市選抜で世界代表を決めて、選抜優勝者同士で≪世界代表戦≫。
そこまで行って優勝すれば、文句なしに次元世界最強の十代になれるわけだ」

「では……改めてになりますけど、ノーヴェさんの率直な感想としては、以前仰(おっしゃ)られた通り」

「……変わらないなぁ」


そうそう……そこも確認しておきたかったんだった。こっちも改めてになるので、頭をかきながらちょっと困っちまう。


「元々ミッド中央は激戦区。DSAAルールの選手として、能力以上に先鋭化している奴も多いんだ。
しかも古代ベルカ戦乱で活躍した、王や英雄の末えいってのも……結構出ている」

「え……!」

「マジだ」


アインハルト……やっぱり知らなかったのか。そもそも興味がないって様子だったし、予想はしていたが……!


「でな、そういう末えいは、先祖代々受け継いだ技能を……現代格闘技に適応させているんだ。
当然誰も彼も強敵で、ハイランカーばっか。それについてはアインハルト、お前もまず一人知っているぞ」

「と、言いますと……」

「雷帝……ヴィクトーリア・ダールグリュン」

「……空海と因縁……というか、ラッキースケベ……というか、フラグというか…………馬鹿じゃん!?」


あむ、思い出し怒りはやめてやれ。確かにあれ、酷(ひど)かったけどさぁ。つーかもう嫁にもらうしかないけどさぁ。


「空海、さん……あんな、大きな、人の胸に……し、しかも服をはぎ取って、押し倒し……ふふふ、ふふふふふ……」


つーかコロナもやめろ! 怖いんだよ! その笑いはマジで怖いんだよ! 胸をぺたぺた触るのもやめろ! 成長期を待てぇ!


「あの、コロナさんはどうしたのでしょうか。何か、よくないオーラが」

「気にしないでやってくれ。……あむ、それなら雷帝については」

「概要程度だけどね。なんかすごーく遠縁の親戚だから、アインハルトみたいな直系ではないんだけど……強い人だよね」

「あぁ。恭文をして『あの防御力を大会で持ちだすのは反則』と言い切らせたくらいだからな」

「だよね……実際去年も空海、最後の最後で押し切れなくて」

「悔しそうでしたぁ……」


スゥと一緒に、あのときの空海を思い出すあむ。

まぁそれはさて置き……問題は打ち震えるアインハルトと、呆(あき)れ気味にそれを見るヴィヴィオ達だ。


「ノーヴェさん、それだとアインハルトさんがしていたストリートファイトって……」

「ぶっちゃけ、馬鹿だな」


あたしの鋭い言葉で、アインハルトの背中に矢が突き刺さる。おぉ……肉を裂く音が聞こえたぞ、今。


「だからアタシも、お前と初遭遇したときにああ言ったんだよ。
聖王はともかく、その手の末えいと戦いたいなら……表舞台が一番手っ取り早いしさぁ」

「ですよねー」

「コ、コロナさんも……そこは、ご存じだったん、ですね……」

「はい、常識ですし」


次はハンマーが頭に命中。飽くまでもイメージだが、実にいい音を響かせやがった……。


「大丈夫ですよ、アインハルトさん! 情弱は直りますから!」

「そうですよ! 情弱は恥ずかしいことじゃありません! 情弱のままでいることが恥ずかしいんです!」


とどめはヴィヴィオとリオの快刀乱麻……アインハルトは(精神的に)首を落とされ、そのまま前のめりに倒れ込む。


「アインハルトさん!? どうしたんですか!」

「あ、あは、あはははは……あはははは」

「そうですよ! ちょ、過呼吸! 落ち着いて……深く息を吐いて、吸ってー!」

「お前らぁ……」


とどめを刺しておいて、何を驚いてるんだよ! むしろその行動が驚きだよ! 怖いよ! サイコパスかよ!


「とにかく、王様の末えい達は強敵ってことだよね。……だから、前に言った通り?」

「あぁ。ヴィヴィオ達は地区予選前半まで。ノービスクラスならまだしも、エリートクラス相手じゃあ手も足も出ない。
アインハルトとあむもエリートクラスなら、地区予選の真ん中らへんが限界だろう」

「……ノーヴェ、あむさんもこの状況でよく」

「「おいこら待てぇ!」」


その目はやめろ! ヴィヴィオ、お前にだけは非難される筋合いはねぇぞ! そもそもお前達のせいだからな、アインハルトが死にかけているの!


≪ぴよぴよ……ぴよ?≫

「……そうだな。あむが特異能力相手の戦闘に慣れているのは知っているが、これは飽くまでも格闘競技の試合だ。
また先鋭化の話になるが、やっぱDSAAルールに慣れている奴は強いんだよ」

「あたし達はまだ素人ってことかぁ。でも……だからこそ、挑戦する価値があるって思うんだ」

「それも正解だ」

「こうなったら、ちょっと……雛見沢(ひなみざわ)に行って、精神を鍛えて……」

「絶対にやめろ……!」


ヤバい、あむも思い詰めてやがる! とんでもない奴らを引っ張り出そうとしているぞ!

やめろやめろ! アイツらの定石に乗ったら、大会が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になる! つーか地獄が生み出されるぞ!


「じゃあどうするの!? 他に手は」

「ある! それ以外はある! つーかキブスを渡すときに提示しただろ! ……コロナはゴーレム召喚と、操作精度の向上」

「はい!」

「リオは春光剣と炎雷魔法の徹底強化。武器戦闘も込みでやっていくぞ」

「はい! あと……ノーヴェ師匠、≪溶断≫の練習もしておきたいんですけど」

「……魔力結合か」

「はい!」


どうすっかなぁ。あれは集束魔法≪ブレイカー≫と同レベル……いや、それ以上のSランク魔法だぞ。

だがリオの資質なら、使いこなすことは確かに可能。切り札にもなるし……ここは、譲るべきか。

それにリオの実家が実家だし、相応のことは伝えているだろう。リオもその通りと言わんばかりに、全力で頷(うなず)いてきた。


「分かった。ただし、威力設定はキチンとするぞ。あれを全開で格闘競技に持ちだすのは……」

「それも承知しています」

「溶断? あの、ノーヴェさん」

「また後で説明する」


あむにはそう告げて……そうそう、あむにも課題を出していたんだ。


「あむは基礎を固めつつ、改めてデバイスとの連携戦闘を練習だ。特にリンクスイッチが厄介だからなぁ……!」

「それなんだけど……リンクスイッチ、試合では使わないことにしたから」

「あぁ、そうなのか………………はい!?」

「あむさん、どうしてですか!」

「まず、あたしは四つも同時に能力使い分けとか……無理……!」


……だよなぁ。うん、知ってた……しかもIMCSルールだと六つしか持ち込めないし。さすがに……なぁ。


「キャラなりと同じ要領では」

「時間が足りないと思う。……もちろんリンクスイッチは、みんなの心が詰まった贈り物だよ。
だからこれからルティと一緒に、少しずつ使いこなせるよう頑張っていく」

≪ぴよー♪≫

「でも試合では、あたしの……今の力を試したいんだ。だから、ベースステイツもあたしなりに改修しておきたいの。駄目……かな」

「いや、いいと思うぞ。やりたいことを一本に定めて、その分特化させて一番強い武器にする……そういう話だよな」

「うん。それもね、なのはさんとルティのおかげでいいのが思いついたんだ」


ならそこは改めて聞くことにしよう。……きっとそれは、新しい未来へのカケラだ。

だからほら、ラン達もすげー嬉(うれ)しそうなんだよ。あむが自分の力で踏みだし、強くなろうとしているってさ。


「それでヴィヴィオは、格闘戦技全体のスキルアップとカウンターブローだ。……そういやお前も、プラットフォーム一本で出るんだよな」

「あむさんと同じ理由でねー。じゃあ、アインハルトさんは……」

「アタシが変に口を出して、覇王流のスタイルを崩してもなんだ……代わりに公式試合経験がある、スパ相手を山ほど探してくる」

「ありがとう……ござい、ます……! こんな、情弱な私に、そこまで……」

「おい、やめろ……それは、頼むからやめろ……!」


つーかヴィヴィオ……リオー! そんな他人(たにん)事みたいに『良かったねー』って顔をしている場合か! お前らのせいだろ、この自虐!


「……っと、そうだ。それについてはあむも同じだ」

「あたしも!?」

「お前の強さは、たまごの浄化やイースターとの戦いで……ようは実戦で得たものだからな。
お前自身で思っているより、戦いの中での観察眼や対応力が高いんだよ」


それも一度食らったら終わりな、接触致死型の特異能力持ち相手が多かったからなぁ。

そういう経験もあって、ヴィヴィオとは違う意味で”目”に注目していたんだよ。


「あと……あむの臆病な一面も、実は利点だと思っている」

『えぇ!?』

「まぁ聞けよ。……それは危機に対する察知能力や、反応が速いってことだからな。そういうのは天性の才能なんだよ。
だからあむは戦いの中でも致命傷を避け続け、最後の最後で切り札として踏みとどまれるんだ」

「あたしの……臆病さが」

「問題があるとすれば、臆病さの度が過ぎて、精度についてはメタメタすぎるってとこか?」


でも問題も多いとツッコむと、あむは苦しげに呻(うめ)いてつんのめる。


「腹を括(くく)るまではムラがありすぎるんだよなぁ。括(くく)ったら括(くく)ったで、今度は足下が疎かになりがちだし」

「だよねー。あむちゃん、未(いま)だにヒドイン脱却は遠いからなぁー」

「う、うっさいし! ……でも、それならどうすれば」

「だから適切な知識と対応力に基づき、その精度を改善する。上手(うま)くいけば恭文の超直感レベルでアテにできるぞ」

「あれと同じくらいに!?」

「将来的……ってのが付くけどな」


それもコイツを鍛える上での裏テーマだったりするんだ。

そのためには、やっぱり実戦在るのみ。それもエリートクラスで多く戦う、正統派との戦闘経験が必要だろう。


「……分かった。アインハルト、一緒に頑張ろうね」

「はい」


さー、これから忙しくなるぞー。……地球の受験勉強は夏が本番だって言うが、こっちも似たようなものだ。

夏休みに入って得られる時間をフルに使い……まずは、アタシが勉強しようと思う。


…………主に、教え子の心が分からないときにはどうすればいいのか……とか……!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory74 『新暦七九年/チーム・ナカジマの軌跡』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――しかし、コーチってのもなかなか大変なんだね」


自宅に戻って……あっちこっちから借りてきた栄養学やスポーツ科学の本を見ながら、改めてトレーニングメニューを調整。

なかなかに重労働だと笑っていると、ディエチが紅茶をそっと添えてくれる。


なおウェンディはアタシの脇で、すっごい……ウズウズした様子でこっちを見ていて。


「トレーニングメニュー作りに、食事や休息の指導まで……」

「ありがと。……何せ子どもだしな。身体に負担を与えちゃ元も子もない。健全な成長を邪魔しないように……なおかつ技術と根性は付くように」

「ジープ特訓はしないッスか?」

「奴らは例外……いいな」

「えー」


ウェンディ、つまらなそうな顔をするなよ。まさか運転するつもりだったとか……絶対やめろよ、それ……!


「……つーか、別に世界を救えとか、命がけで戦えって話じゃないんだ。ルールが決まった”格闘ゲーム”だからな」

「実戦には実戦の流儀があるように、ゲームにはゲームの……かぁ」

「そういうことだ」

「よし、お姉ちゃんも協力するよ。練習用の差し入れ、作ってあげる」

「そりゃ助かるよ」

「ならあたしも手伝うッス!」

「ジープジャンキーはいらない……部活もやめろよ!? 本当にやめろよ!」

「ノーヴェ、ハイレグにされたのがトラウマになっちゃって……いや、私もだけどね!」


さすがに責任、取り切れないしな! ヘイハチ一門流とか、雛見沢(ひなみざわ)部活流とか……マジで無理!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヴィヴィオちゃんがイクスのお見舞いに向かうとのことで、後門前で別れて……リオちゃんと二人の下校。

外はもうすっかり夏……爽やかな暑さと日差しに目を細めながらも、私達はのんびり歩く。


「そう言えばアインハルトさんのデバイス、どうなったんだっけ」

「もうちょっとかかるみたいだよ? でもどんな子になるんだろう……」

「アインハルトさんが、刀や銃を使うとは思えないし……」

「クールに指輪型?」

「指輪で殴るの、危ないと思うなぁ」

「じゃあ殴るの禁止で、腕での打撃技は全部エルボーやラリアット!」

「それはカッコいいか……ふにぃ!?」


すると、突然目の前が真っ暗になり、柔らかい感触が……慌てて飛びのくと、セーラー服姿のお姉さん達がいた。

一人はこの夏にマスクを付け、一人はポニテにサングラス。一人は黒髪ロングで……あははは、なんか睨(にら)まれているー!


「ご、ごめんなさい!」

「ごめんなさい! コロナはどうぞ……腹で許してあげてください!」

「リオちゃん!?」

「馬鹿! おめー気ぃつけろよ!」


はいー! ……と叫びそうになったけど、そう注意されたのは……マスクのお姉さんで。

お姉さん達は慌てた様子でしゃがみこみ、私やリオちゃんをつぶさにボディチェック。


「悪い! ちょっとぼーっとしてたわ!」

「大丈夫? ぶつかったとこ、痛くねぇか。コイツぺったんこだし」

「ぺ、ぺったんこじゃないわぁ! ちょっとは……あるからな!?」

「あの、平気です! こちらこそすみません!」

「ごめんなさい! ……コロナ、よかったね! 腹は避けられたよ!」

「リオちゃん……」


なんだろう、ちょっと友情を疑いたくなった瞬間だった。というか腹って……腹って……。


「おーい、何やってんだお前ら」


……そんなお姉さん達の後ろから、赤毛ポニテの人が近づいてくる。しかもその人、超有名人で……思わずリオちゃんと手を取り合った。


「あ、あなたは……!」

「砲撃番長≪バスターヘッド≫ハリー・トライベッカ選手ぅ!?」

「あ……お、おぉ……」


この人は去年のインターミドルで上位シードを軒並み倒して、都市本戦五位まで登り詰めたハイランカー。

無流派≪ノンスタイル≫の近接射砲撃型≪インファイトシューター≫……って言えば、分かるかなぁ。

スバルさんのディバインバスターみたいなのを、バシバシ撃って圧倒するって感じなんだ。


その快進撃がまた、カッコ良くて……実はファンです!

でもこのお姉さん達、今更だけどハリー選手のお友達……みたい。だからいい人達だったんだね。


「インターミドルの試合映像、見ました! カッコ良かったです!」

「やっぱりすげーぜ、リーダー!」

「サインください!」

「ちびっこにも人気の有名人だぜ!」

「べ、別に大したこと……ねーけどな!? ……おい、ペン貸してくれ、ペン」

「はーい」


あ、リオちゃんがサラッとサインを……! リオちゃんの手帳に、サラサラと番長の筆が走る。


「しかしなんだ……お前ら、ちびっ子のくせに魔法戦競技が好きなのか」

「はい! 今年はアタシ達も参加するんです!」

「マジか!」

「お前ら、二人とも?」

「はいー」


お姉さん達に笑いながら宣言すると、感心した顔をされる。


「うちのリーダーだって、初参加は中等科一年のときだぜ」

「近頃のちびっ子はすげぇなぁ……」

「実は同い年のお友達と、中等科二年の先輩達も出場するんです」

「そーかー。しかしお前らも参加者ってことは、オレのライバルってことになるよな」

「対戦表によりますけど、もしかしたら」

「――試合で会ったら、容赦なくぶちのめすぜ」


……尋常ならざる覇気に、リオちゃんはさっと後ろに飛びのき……警戒の構え。それで、私はというと。


「……へぇ……お前、そこで踏みとどまるか」

「はい。だって……そういうのって私の台詞(せりふ)ですし」

「ははははは、面白いなぁ。お前」

「負けず嫌いなだけですよ」


番長はすっと手を出してくる。……なので申し訳なくなりながらも、私も、手帳を渡して……サインを……!


「まぁ安心しろ。オレぁ予選シード枠が決まっているから、滅多(めった)なことじゃあ当たりはしねぇよ」

「あはは、ですよねー。なのでコロナ……その、負けず嫌いキャラは、一旦引いて」

「なんで?」

「そこで疑問を持つんだ!」

「――――ほれ、書けたぞ! こんなもんでいいか?」

「「ありがとうございます!」」


私達は揃(そろ)って手帳を受け取った瞬間……ほっこりしてしまった。

サインって言ったのに……可愛(かわい)い猫は、わんちゃんのイラストがタップリ。しかも絶妙に上手。


((……番長、絵……可愛(かわい)すぎます))


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ミッドチルダ南部・抜刀術≪天瞳流≫第四道場


異世界とは思えないほど、日本的な佇(たたず)まいの道場……屋根も瓦だったしさぁ。

そんな中で胴着を着させてもらい、道場の床に正座。まずは黒髪ストレートロングなお姉さんの説明を受けている最中です。

身長……一七〇近いのかな。でも女性らしく胸やお尻も盛り上がっていて、大人っぽい。


あたしも成長したって思うけど、まだまだだなぁ……!


「格闘型にとっての難敵。斬撃武器の対策を嫌ってほどやれる……そういうお話だったね」

「「はい!」」

「ただ、私も出場選手だからね。余り加減はしてあげられないよ」

「はい!」

「――構いません。コーチからは”斬撃の怖さを体感してこい”と言われています」

「特に、彼の友人となれば……」


お姉さんがギロリと、切れ長の瞳で私を見てくる。思わず身を竦(すく)ませそうになるけど、我慢……多分、ハッタリだけだし。


――この人はミカヤ・シェベル。抜刀術≪天瞳流≫の剣士さんで、この道場の師範代。

インターミドルでの最高戦績は都市本戦七位。


それでどうも……恭文の、知り合いらしくて。でも恭文、何をしたの!? ミカヤさんだけじゃなくて、他の人達も目の色が変わってるし!


「あ、あの……恭文は、一体何を」

「正確には彼と彼の兄弟子達だな。うちの師範に依頼されて、道場破りを仕掛けてくれた」

「誰も彼も何やってるのぉ!?」

「……もしかして、抜き打ちテスト……でしょうか」

「テスト!?」

「御名答。ようは不意の事態に対し、私達がしっかりしているかという話だ」


あ、そういう……でも、きっと恭文はそういうことも関係なく、暴れたんだろうなぁ。

サリエルさん達も……この視線の突き刺さり具合は、それを雄弁に語っている……!


「しかし、斬撃の怖さかぁ。彼に頼めばよかっただろうに」

「あの、恭文は今、ガンプラバトル選手権に出ていて……準備中でいろいろ忙しいから」

「あぁ、そうだったな。……地球の、おもちゃのバトルに出る余裕は作れるのか」


……あたしも一応ファイターだから、ガンプラバトルを低く見られるのはちょっと気に食わない。

ただ、それは言葉での印象だけ。ミカヤさん、少し悲しげだったんだ。


「ガンプラバトルが嫌い……とかじゃあないよねー」

「恭文、まさかまた……」

「十分あり得ますぅ。ミカヤさん、恭文さん好みですしぃ」

「斬ってフラグを立てたのかしら」

「……あぁ、すまない。ガンプラバトルを馬鹿にしているわけではないんだ」


ミカヤさんはあたしの視線に気づいたのか……いや、脇に控えているラン達もみて、申し訳なさげに言っている。しゅごキャラ、見えてるんだ……!


「まぁ……私の個人的恨みというか、妬(ねた)みというか」

「恨み? 妬(ねた)み?」

「君達もナカジマちゃんから聞いているだろうが、我が天瞳流はミッドでも数少ない”魔法を前提としない武術”を教える場所だ」


それは聞いているので、アインハルトと一緒にうなずく。


――そういうのは魔法文化推奨の関係もあって、やっぱり一般には認知され辛(づら)かったそうなの。

ただ天瞳流はそれで斬った張ったをするというより、抜刀術を精神修行の一つとして取り入れ、育てていた。

ようは演舞的というか……ショー的というか。でも、その状況もここ数年で変わって、武術としての面も大きく注目されているみたい。


その原因は二つ。…………恭文が尽く関わってきた、魔法文明への信頼を揺らがせる”超常的犯罪”の数々。

もう一つは、このミカヤさん。IMCSという公の場で、戦うための技を披露し続け、相応の成果を出していたから。


ミカヤさんは単純な師範代というわけではなくて、今や天瞳流の顔でもあるんだ。


「私がIMCSに出始めた頃は、それを戦闘で使うなんてもってのほか……なんて感じだったが、それも大分緩和されてきた。
……彼はそういう流れが生まれる前から、私と通ずるところが多くてね。初めて会ったときから気になっていたんだ」

「通ずるところ?」

「同じ日本刀のデバイスを使う、近代ベルカ式の術者」


そう言いながらミカヤさんが、足下から魔法陣を展開。ベルカ式のものなんだけど、問題は魔力光……恭文のものとよく似ている蒼……!

いや、知ってる。試合映像も確認していたよ。でも、なんか……リアルで見ると驚いて。


これで抜刀を放つ姿に、恭文がオーバーラップするの。性別はもちろん、体型や剣筋だって大分違うのに。


「魔力光も近く、得意とする技は抜刀術。否(いや)が応でも意識してしまうんだよ」


ミカヤさんは驚くあたし達に自嘲し、魔力テンプレートを解除する。


「彼もIMCSに興味があったと聞いて、いつか戦えるのではと……思っていたんだがね」

「……ですが、恭文さんは出場されなかった」

「無論、ただ戦うだけなら試合に拘(こだわ)る必要はない。それでも……まぁ、そんな個人的八つ当たりだ。彼には一切の落ち度はない。
……分かっているんだ。彼にはそのとき助けたい人達がいて、全力で手を伸ばしていたと」


それでも……どこかで期待してしまって、それが断ち切られていて。


「ガンプラバトルを通し、探していた友人がいるのも知っている。なのに……私は」


うん、これは……あれだね。

恭文、アンタ……IMCS、一度くらい出場しなかったら駄目じゃん! いや、できる状況じゃあなかったけど!

というか、そのうちの一つにはあたし達も絡んでるし! 最後のチャンス、イースターとの戦いで潰しているし!


な、なんかヤバい……凄(すご)い罪悪感! 心が軋(きし)む! 朧気(おぼろげ)なミカヤさんの表情が突き刺さる!


「ご、ごめんなさい……」

「いや、君が謝ることじゃあないよ。というか、私が謝るべきだ……すまなかったね、つまらない話をしてしまって」

「ううん、そんなことない! ……えっと」


よし、話を切り替えよう。この空気、耐えられない……というか胃がキリキリして辛(つら)い。


「ミカヤさんも大会に向けての対策ってことだけど、あたし達でいいの?」

「もちろん。ナカジマちゃんから聞いた話だと、君達は格闘型でなおかつバリバリの接近戦型≪インファイター≫。
……徒手格闘型≪ピュアストライカー≫にとって、斬撃がどれほど危険か知らしめると同時に」


ミカヤさんは暗い空気を払い、すっと刀を抜く。居合い刀……今回は練習用で刃を潰しているらしいけど、結構、長い……!

そのままあたしとアインハルトの肩に当てても、三十センチ近く先が残ってる。


「素手と武器、この間合いの差が持つ意味を感じてもらおうかな。……私の居合い刀は、彼のアルトアイゼンより長いだろう」

「ッ……!」


考えが、読まれた……!?


「それも当然のことだ」


ミカヤさんは刀を引き、静かに納刀する。今のは単純なプレッシャーじゃないみたい。


「そもそもの話、武器というのは自分の体型に合わせて、その長さも変化する。例えば私なら……身長は一七〇近く。
その場合二尺四寸(約七十三センチ)ほどが適切とされている」

「じゃあ、恭文……というか、アルトアイゼンの場合は」

「二尺一寸五分(約六五センチ)。デバイスの全備重量は三百グラムほど差があるな。私の晴嵐が一キロを超えているから」

「同じ刀でも、八センチ近く違うの!?」

「恭文さんの体型が、成人男子としてはあり得ないほどに小柄だから……ですね」

「その通りだ。彼は小柄な体型とその機動力、野生じみた反応速度を生かすため、取り回しと攻撃精度を重視している。
対して私は体格を生かし、一撃の重さを重視している。これだけでも随分違いがあるだろう」


確かに……しかも近接戦闘において、たった八センチ……されど八センチだよ。あれ、でも待って……体型に合わせてってことは。


「そう……相手の体格と、それに合わせた武器のリーチも正確に見切る技術が必要になる。
ナカジマちゃんが彼ではなく私に頼んだのは、多分そういうことだろう」

「あたし達がよく知る恭文との違いも吸収して、武器持ちとの戦いに慣れろ……」

「とはいえ、そういうのは数をこなすしかないので……」


あぁ、それでなんだ。ずーっとさっきから気になっていたんだけど……道場奥に置かれた、何本もの居合い刀にようやく納得する。


「微妙に長さの違う刀……そのリーチを見極め、見事懐に入ってほしい。こちらは何もさせずに斬って捨てるつもりでいくから、あしからず」

「利害の一致ですね」

「あぁ」


最初はアインハルト……あたし達は立ち上がり、あたしはラン達のいる壁際に。

アインハルトは防御フィールドで全身をしっかり硬化した上で、左半身を前に向けるようにして構える。


「お役に立てるよう、頑張ります」

「怖いな……目がそうは言っていないぞ。殴り倒す気満々じゃないか」

「お見せします――覇王流の斬撃対策」


アインハルトは足下にも魔法陣を展開。髪を魔力の流れになびかせながら……一気に飛び込む。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――ヴィヴィオの弱点。それは恭文ととてもよく似ている……というかどんがぶり。

前衛としては魔法の攻防出力が弱くて、もし強烈な一撃を受けたらそのまま倒れちゃう。

長所は……魔法の詠唱・処理速度と魔力制御に長(た)けていて、更に”目”がいいこと。


視野が広くて、距離を掴(つか)むのも上手(うま)く、そのために反応速度も高い。だからこそヴィヴィオのスタイルは≪カウンターヒッター≫。

相手の攻撃をかいくぐり、前に出て必殺のカウンターをたたき込む。強大な力ではなく、針の穴を通すような精密な攻撃精度で……急所を突く。


……うん、恭文もヴィヴィオと同じなんだ。


運の悪さゆえの高い危険察知能力……超直感。

小柄な体型を生かした、魔法に依存しない形での機動力と攻撃速度。

アニメ・ゲームなどの創作物も交えた、膨大な戦闘に関する知識。

何より……獣≪修羅≫の解放による、人間を逸脱した超反応。


微妙に内容は異なるけど、恭文もまた攻撃精度に特化した≪カウンターヒッター≫。

何の皮肉か、ヴィヴィオが一番参考にできるのは……ママ達でもなければ、スバルさん達でもなくて……恭文だった。


≪〜〜〜?≫

「ん、おさらいだよー」


学校の中庭でごろんと転がるヴィヴィオに、クリスが不思議そうにのぞき込んでくる。……まぁ、前にも言ったお話だし、仕方ないよね。


「……一応、切り札はできつつある。でももう一つ……エッセンスが欲しいなーって」

≪?≫

「そのためには………………よし」


ヴィヴィオの能力を最大限生かす魔法……実は、覚えておきたいものが幾つかある。

でもそれは、ここでは無理な話で。なのでさっと起き上がり、お仕事中のママに通信。

……なのはママはいつもの笑顔で、すぐに出てくれました。


『はーい。どうしたのかな、ヴィヴィオ』

「あ、ママ? ちょっとお願いがあるんだけど」

『ん、何かな』

「夏休みに入ってからでいいけど……パーペチュアルで修行したいんだ」


するとなぜだろう。ママの笑顔が凍り付き、冷や汗が流れた。


「ほら、恭文の知り合いに、ブルーフェザー……ルシードさん達がいるでしょ? ちょっと調べたいことがあって」

『え、それは……ママに休みを取れと』

「いやいや、なのはママはお仕事も大変だし、そんなこと言わないよ。ヴィヴィオとクリスだけで行ってくるから」

≪!?≫

「あ、現地のことはシルビィさん達を頼って」

『アウトォォォォォォォォォォォォ!』

「なのはママ、”可愛(かわい)い子には旅をさせろ”って言うよ?」

『それを自分で言っちゃう子は可愛(かわい)くないと思うなぁ!』


というわけで、ヴィヴィオは夏休み……スタンドバイミー! 一夏の冒険に出てきます!


『ちょ、待ってぇ! 勝手にモノローグに入らないで! 許可してない! 許してないからぁ!』

≪……………………!≫

『クリスも『やってやるー』って感じでガッツポーズしなくていいの! フェイトちゃんじゃないんだよ!?』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新暦七九年(西暦二〇一二年)八月中旬――ミッドチルダ南部・湾岸道


八月に入り、恭文さんも……ガンプラバトル選手権・世界大会に出場している真っ最中。

映像ではあるけど、その激闘の様子は常に注目していた。……同時に……ガンプラ、いいなって。

おもちゃのバトルと思っていたけど、それはとんでもない勘違いだった。


手のひらサイズのプラモの制作技術やその運用方法で、試合の勝敗が決まる……紛(まぎ)れもないスポーツの一つだった。

どの選手も、目の前の戦いに全力を尽くし、持てる技術をぶつけていて……私も、あのように戦えたら。

何よりいつも楽しそうに戦うあの人の姿が、とても鮮烈で……でも、セシリア・オルコットさん、ですか。


やはり恭文さんは、成熟した大人の女性が好みの御様子。ハラオウン執務官達の風貌で察してはいましたが。

それが、妙にもやもやして……そんな感情を抱えながらも、今日はノーヴェさん、チンクさんとお出かけ。


「あー、さすがにちょっと早く着きすぎたかなぁ」

「遅刻しては失礼だからな。少しゆっくりすればいいさ」

「……ここが、八神司令が住んでいらっしゃる」

「あぁ。運動にはいい感じだろ」

「そうでした……確か、八神道場というのを開いておられるとか」

「そうそう」


ヤシの木が大型道路沿いに生え、南国(なんごく)らしいロードサイドショップが所々に点在。

ここは観光地域としても知られ、すぐ底には澄み渡る砂浜と海が広がっていた。

八神司令は旦那様や御家族と一緒に、首都から少し離れたこちらで生活しておられるとか。


それだけではなく、八神道場という青空道場を開いており、近所の子どもに格闘技を教えているらしい。

ただ、一つ気になることが……。


「服務規則は、大丈夫なのでしょうか……」

「飽くまでもザフィーラ……あ、非局員の家族が道場主だからな。副業云々(うんぬん)にはギリギリで反していない」

「……ときにノーヴェ、向こうにあるのはドーナツ屋台ではないか」

「あー、いいね。美味(うま)そうだ!」


ドーナツ……アスリートとして体重制限とかは大事だけど、私も実は……好きな方だったりする。

ドーナツの真ん中には幸せがある。昔見たドラマで、そんな台詞(せりふ)があって……それ以来だろうか。

……そうだ、八神家へのお土産と、デバイス作成のお礼にドーナツを買っていくのはどうだろう。


御近所のお店だから、慣れているかもしれないけど……気持ちだけでも。


「……あれ」


いろいろ考えていると、九時半方向に人影を見つける。

薄い桜色のショートヘアーに、スポーツジャージを纏(まと)った……ヴィヴィオさんくらいの女の子。

彼女は汗を流しながら、懸命な表情で幾度も両拳を打ち込み、シャドーボクシングに勤(いそ)しんでいた。


それから近くの……マットを巻いた立ち木に向き直り、拳を打ち込み、次は鋭い蹴りを放つ。


「どうした、アインハルト。何か面白いものでも」


チンクさんが私に近づきながら、あの子の動きを見て訝(いぶか)しげにする。


「練習しているのか、あの子は。ストライク・アーツ……」

「恐らくは」


ただヴィヴィオさんや日奈森さんのものとは随分違う。

ヴィヴィオさんのように、基本に忠実な正統派……というわけでもなく。

日奈森さんのように、実戦経験を生かした柔軟な動き……というわけでもなく。


でも、動きのキレはとてもいい。それだけで練度の?さがビシビシと伝わってくる。


「かなりできるな」

「はい」


すると彼女は、二十メートル近く後ずさる。左拳を腰だめに構えながら引き、右半身を前に……その気配が、とても静かなものになる。

あんな遠くから……一体何をするのかと思っていたら、彼女は地面の砂を踏み締め、疾駆。

まるで風のように……いいえ、戦場を突き抜ける砲弾のように、その距離を一瞬で梅、跳躍しながら右回し蹴り。

衝撃吸収剤も仕込まれたマットごと、立ち木を一刀両断にする……!


「……………………あああああ! ま、またやっちゃったぁ! せっかく師匠とヴィータさんが作ってくれたのぃ!」


あの子はゾッとするほど冷静だった瞳を震わせ、折れた立ち木を抱えてワタワタし始める。

まるで別人みたいな様子に、軽く引いてしまっていた。


……覇王流の歩法とも、ストライク・アーツの踏み込みとも違う。だけど速い……それにあの威力の蹴打。

こんなところにも、あんな凄(すご)い子が……でも、ヴィータさん? 師匠? もしかして彼女は。


「何を見ているのかと思ったら……あれ、ミウラじゃねぇか」


するとドーナツを買っていたらしいノーヴェさんが、袋片手に戻ってきた。


「ノーヴェ、知り合いか」

「八神道場の通い弟子だよ。ミウラ・リナルディ――八神家の近くで、レストランをしている家の子でさ。
アイツも今年、インターミドル初参加だってさ。……挨拶しておくか?」

「いえ。練習のお邪魔をしては……というか、時間が」

「おぉそうだ! さすがにこれ以上は……じゃあ、ミウラはまた後でな」

「はい」

――初参加でも、あれだけのレベル……ノーヴェさんの、ヴィヴィオさん達の言う通りだ。

私は確かに情弱。世間知らずもいいところだった。


インターミドル……今の私達では、通用しない――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうやらミウラの練習風景を見て、アインハルトも気合いが入ったらしい。いい傾向だ。


すっかり上がりきった太陽を見上げ、心地よい風に目を細める。うん、格闘競技とは関係なく立派なスポーツ日和だな。

さざめく波を見やりながら、つい笑っちまう。それは隣を歩くチンク姉……それにアインハルトも同じだ。


「しかし悪かったなぁ。随分かかっちまって……」

「いえ。八神司令とみなさんも、お忙しい方々ですから」


ミッドチルダ南部にある、八神家の本宅。今日はそこにお邪魔して……いよいよアインハルト用デバイスの受け取りだ。


「ですがみなさんは、その……世界大会へ応援に向かわれなくても。恭文さんも決勝トーナメントに残りましたし」

「姉達もそうしたかったんだが、恭文から”来るな”と言われた」

「え……」

「別に応援が嫌という話ではない。どうも大会の裏で、また騒動が起こっているそうでな」

「また……!?」

「いつものことだよ。………………アイツ、夏は鬼門だから」


……ごめん、アインハルトの顔をまともに見られない。その鬼門の原因を作ったの、アタシ達でもあるし。


「分からないのなら、ヴェートル事件とJS事件、マリアージュ事件……奴が関わった大事件の大半が、いつ起きているかを思い出すといい」

「今くらいですよね。JS事件はかなり長期的なものですが、本格化したのは………………あ」

「そういうことだ」


アインハルトも状況を察して、とても悲しげに瞳を震わせる。多分恭文が見たら、頭を抱えてもんどり打つ程度には……強烈に。


「恐らく姉達の能力を持ってしても、単純には解決できない状況だろう。行くのなら、相応の覚悟を持って協力するしかないわけだが……」

「アイツはそういうの、嫌うからな。……あー、ここは人の力を借りるのがどうこうって話じゃないんだよ。
チンク姉は局員扱いで働いているし、アタシも救助隊のヘルプとかしているからさ。
管理外世界の問題に巻き込んで、そういうのが潰れたらーって気づかってるんだよ」

「そう、だったんですか。……噂(うわさ)通り、古き鉄は魔法世界の常識から外れた超常的犯罪の専門家なのですね。
だからそのような状況でも……大会出場中だというのに」

「まぁ恭文は大丈夫だ。地球はホームグラウンドだし、フェイトお嬢様達だっている。上手(うま)くやっていくさ。……それより今は、お前のことだ」

「はい」


さすがに初めてデバイスを持つというだけあって、緊張しきり。そんなアインハルトの背中を叩(たた)き、八神家の門をくぐる。

はやてさんとアギト、シャマル先生達は快く出迎えてくれて……しかも、どういうわけかお祝いムードで、クラッカーが鳴らされる。


「というわけで……アインハルト、ほんまにお待たせしたなぁ! 約束の覇王専用愛機≪デバイス≫が完成したよ!」

「「わー!」」

「は……はい! ありがとうございました!」

「いやいや、えぇんよ。……………………過去で、散々……御迷惑をおかけしたお詫(わ)びが、できるなら……!」


……はやてさんは顔を背け、ガタガタ震えながら自分を抱く。妊娠中で安定期直前だっていうのに。

なおアインハルトやフローリアン姉妹、夜天一家と顔を合わせて、はやてさん達の記憶は完全回復。

過去の愚かさを突きつけられ、ぎったんばったん大騒ぎだった。


「でも、これじゃあ……足りんやろうか。うちのおっぱい、揉(も)む?」

「はい!?」

「なんでだぁ! なんでそれが詫(わ)びになるんだよ!」

「じゃ、じゃあ私のおっぱいで。本来は恭文くんのものだけど……はい」

「だから、詫(わ)びになる理由がさっぱりだっつってんだよぉ! つーかやめろやめろ! そろって胸を突き出すなぁ!」

「八神司令、シャマル医務官も落ち着いてください。アインハルトもその件は踏まえた上で、今の司令達を信頼しておられますから……」

「そうだぞ。つーか制作途中も、それで凄(すご)い入れ込んでたってのによぉ……まぁ、それを抜いても楽しいデバイス制作だったよ」


アギトは呆(あき)れ気味に息を吐きながらも、すぐに明るく笑う。


「お任せしてもらう範囲も広かったし、アインハルトから渡された予算もかなりのものだったからなー。つーか貯金、大丈夫か?」

「以前お話しした通り問題ありません。お時間と技術を頂く以上、相応の対価を払うのは当然ですし。それで……制作したのは」

「AIシステムは八神司令、シャマルが」

「ユニットベースはリインちゃんと夜天一家、それに恭文くんが手伝ってくれたの」

「恭文達が!?」

「まぁ、そこは事情込みでな。で、外装はアタシと……」

『あたしが手伝ったんだ!』


すると、そこで空間モニターが展開。そこに一人の女の子が映し出される。

紫のツインテールに、ディードやフェイトお嬢様以上の大きな胸。ゴスロリちっくな服装……その姿はとても見覚えがあって。


「あ、紹介するよ。恭文のお嫁さんで、朝比奈りんちゃん……地球のアイドルさんなんよ」

「は、初めまして。アインハルト……ストラトスです」

『初めましてー。噂(うわさ)はリイン達から聞いているよー』

「りん、お前……今は大会中」

『ちょうどインターバルなんだ。それでまぁ、ちょっと説明もあるし、恭文とみんなの代わりにね』


なおアインハルトの視線は、そんなりんのウインクではなく……深い、深すぎる谷間に注目していた。

それでチンク姉共々、自分の胸をさわさわして唸(うな)る。


「「くっ……」」

「……でもお前、魔導師じゃあなかったよな。魔法資質も」

『あるにはあるけど』

「あったのかよ!」

『最近検査を受けてねー。つまりあたし、中二病時代のあれこれを実現できるってわけだよ!』

「ともみや麗華が泣くから、絶対やめろ……!」

『ただ、今回はそっち方面じゃないんだ。……ヴィヴィオやルーテシアにお願いして、シュトゥラの歴史を調べてさ。デザインしたの』


デザイン……デバイスを!? アタシが察したのを理解すると、りんは自慢げに頷(うなず)き、アギトさんが苦笑。


「本当はアタシが全部やろうと思ったんだけど、どうも上手(うま)くいかなくてさぁ。
それでりんはお洒落(しゃれ)だし、自分の服とかも手作りするって言ってたのを思い出して」

「あ……そうだそうだ、言ってた! ライブ衣装も手がけることがあるんだよな!」

『恋多き女として、積み上げたキャリアのおかげだよー。それでアインハルト、その……覇王だったクラウス・G・S・イングヴァルト陛下?
その人というか、治めていたシュトゥラ地方では≪雪原豹(ひょう)≫っていうのを飼っていたんだよね』

「え、えぇ……雪原豹(ひょう)はその地方だと、優秀な兵士でもあったんです。クラウスはもちろん、オリヴィエも大切にしていました」

「……今で言うところの警察犬みたいな感じか? 動物の鋭い嗅覚や勘を生かして、警備とかに役立てる」

「はい」


やっぱりアインハルトにとって、覇王イングヴァルトの記憶は大切なものらしい。

りんのプレッシャーに威圧されていたってのに、一気に表情が緩む。


『そんなわけで、シュトゥラの雪原豹(ひょう)をモチーフにデザインしてみたんだ』

「そのりんのデザインを受けて、アタシが外装を作ったって感じなんだよ」

「そういうことだったのか」


確かにそれなら、魔法能力関係なしに……りんの能力があればこそって感じだな。

…………ただ、一つだけ疑問がある。


「動物型……あむのルティや、ヴィヴィオのクリスと同じなんだよな」

「あぁ」

「だが、豹(ひょう)なんだよな。余り大きいと、連れ歩くのが大変では……」

「豹(ひょう)……豹(ひょう)……いきなさい、ひょうー」


アインハルトは『脇に豹(ひょう)を従え、凜々(りり)しく命令している自分』をイメージしているのか、うっとり気味だが……さすがにどうなんだ!?

ただ、そういう心配は気の回しすぎだと言わんばかりに、二人は楽しげに笑って……。


「その辺はノープロブレムだ! というわけで、これを」


そこで渡されたのは……おい、なんだ。この……動物用のケージは。

両手で抱えられるサイズのそれが、アインハルトへと丁寧に渡される。


「アインハルト、開けてみて」


アインハルトははやてさん達に頷(うなず)き、ドキドキしながら……ケージを開封。

すると、中から出てきたのは……!


≪にゃあ……………………にゃああああ……………………♪≫

「「「猫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」


白にまだら模様の猫が、心地よさそうに……クッションの上で寝ている姿だった。


「いやいや、猫じゃないって! 子ども! 雪原豹(ひょう)の子ども!」

「あ……なるほど!」

「確かにこれなら、連れ歩いても問題ないな」

「やろ? なお、性能は折り紙付きやでー。なんと言っても」


すると、寝ていた猫……もとい、雪原豹(ひょう)の子どもがもぞもぞ。

アタシらの声が大きかったのか、何事かと眠たげな瞳を開く。


「あ……」


そのまま起き上がり、クリクリとした瞳でアインハルトを見上げて――。


≪にゃあー♪≫


とても可愛(かわい)らしく鳴いた。その愛らしい姿が気に入ったのか、アインハルトは顔を赤らめ打ち震える。

……つーか待て。この声は……なんか、聞き覚えが。


「触れたげて、アインハルト」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


八神司令に促されるまま、子猫と言って差し支えない愛機を抱き上げ、優しく撫(な)でる。

……とても温かく、柔らかい。まるで生きているみたい……いえ、これも失礼なのでしょうか。

デバイスもまた、私達と在り方が違うだけで同じときを過ごすのだから。


私はこの子という命を預かり、最後のときまで付き添う覚悟が必要……責任が必要。

そんな重さをかみ締めながらも、優しい瞳のこの子に頬ずり。


≪にゃあにゃあ……にゃあー♪≫


ただ、一つ疑問が。この声は……なんというか、覚えがあって。それはノーヴェさん達も同じくらしく、一緒に小首を傾(かし)げていた。


「……なぁ、この声ってもしかして」

『ふふふふ……気づいたー? そう! ボイスサンプリングはあたしとユーリがやったんだ!』

「やっぱりか!」

「ちょうど二人の声質、全く同じーって気づいてなぁ。ほんまはユーリだけやったんやけど……ほら、あの子はそういうこと慣れてないから」

「それでアイドルとして、場数もそれなりなりんがフォローしたと……」

≪にゃあー≫


するとこの子は頭だけ振り向いて、朝比奈さんに嬉(うれ)しそうな笑みを浮かべる。あぁ、分かるんだ……この人がお母さんでもあるって。


「……こんな、可愛(かわい)らしい子を……本当に私が頂いていいんでしょうか」

「もちろん!」

「あなたのために生み出した子だもの」

『まぁあたしとしては、大事にしてほしいってのが条件かな。何だかんだで思い入れもあるんだ』

「はい……約束します」

「……あ、マスター認証がまだだから、よかったら名前を付けてあげてね」

「分かりました」

「でも……ニャアタロスとか、やめてね?」


………………何となく分かる。そのネーミングを言いだした人……でも、悲しくなるので触れない方向で。

認証は危なくないよう、広めのお庭を借りて行わせてもらう。この子を大事に抱えながら、私達は改めて外に。


(そう言えば……)


あの子を両手の平に載せながら、過去の……クラウスの記憶を呼び起こす。


(オリヴィエ聖王女殿下が、特に気に入っていらした”番(つが)い”がいたっけ。気の早い殿下は、いつも子が産まれる前から名前を考えてくれていて)


愛らしい栗(くり)色の瞳……この子は耳をぴくぴくさせながら、真っすぐに私を見つめてくれる。


(クラウスとオリヴィエ殿下が共に過ごした、最後の年……生まれてくる子ができなかった子がいて。
あの豹(ひょう)の子には、なんて名前を贈ろうとしていたんだっけ)


その瞳から……向けられる純粋な思いから、逃げることなく向かい合い、その輝きに答えを見いだす。


(思い……出した)


紡がれてきた記憶……その中から見つけたのは、一冊の書物。


(二人が好きだった、物語の主人公)


どんな名前にも意味がある。だって、生まれてきた子へ贈る……初めての贈り物だから。

生まれ変わりとか、そういうことじゃあない。ただ私は、この子にその名前を贈ってあげたくて。


(勇気を胸に、諦めずに進む、小さな英雄の名前――)


これから続く長い時間……その第一歩を、初めての贈り物で記していく。


「個体名称登録――あなたの名前は≪アスティオン≫。愛称≪マスコットネーム≫はティオ」

≪にゃあー♪≫

「アスティオン、セットアッ」


すると、アスティオン……ティオは手元からぴょんと跳び上がり、翡翠(ひすい)色の光に包まれながら変化。

柔らかな体毛と愛らしい瞳は、一瞬で無機質な機械的アイテムに変化。

更に右手に……白いバイクらしき、見慣れないおもちゃが収まっていた。


「……あれ?」

『さぁ、その≪HA-Oドライバー≫にシグナルバイクを入れて、変身だよ!』

「へ、へんし……!?」


あの、それは、まさか……まさか……まさかぁ!


「ヴィヴィオさんのSEI-Oベルトと同じ……変身アイテムですかぁ!」

『そうだけど……あれ、もしかしてはやてさん……』

「おい、どういうことだ! 何も聞いてねぇぞ!」

「姉もだぞ! しかも何の経過報告もなかったと記憶しているが!?」

「あぁ……そやったそやった。ごめんごめんー」


いや、そんなに軽く謝られても! 今更仕様変更しろとは言えませんけど……でも、変身って! 私はそんなキャラでは!

しかも私、そこはお断りしたような。


「でもアインハルト、言うてたやんか。過去……自分の拳が通用せん怪人がいたーって」

「え」

「まぁはっきり言うと……アンタの求めてたスペックに到達するためには、通常のセットアップじゃ無理?」

「え……!」

「アインハルト……お前」

「い、言いました……確かに」


デバイスと一緒に戦うなら、あのとき……お役に立てなかったところも反省し、より強い姿になれたらと。

つまりこれは、私のリクエストで…………いや、だからと言って変身アイテムになる意味が!


「スペック要求は、シュテル達の協力もあって何とか満たせたんよ。
でも魔力消費やら、デバイス強度にいろいろ問題があってなぁ。そこで恭文に相談して……」

「では、恭文が手伝ったというのは」

「その部分なんよ。まぁ、こんな感じに――」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


大会の準備中で実に申し訳ないけど、恭文に相談をさせてもらった。どうにもうちらじゃあ、アイディアが詰まってもうてなぁ。

すると恭文は大まかなスペック表やユニット構造を見ながら、納得した様子で頷(うなず)く。


『うん、詰め込みすぎだね』


一刀両断かー!


『アインハルトの処理が持たないよ。それにその子も産まれたばかりなのに……これじゃあ常時フルドライブでしょ』

「そうよなぁ。つまり、アンタの意見としては」

『スペックを落として、通常セットアップの領域に持っていくしかないでしょ。このままじゃ将来的な拡張性も皆無だし』

『えー! せっかく凄(すご)い子ができたのにー! やだやだやだー! このままがいいー!』


あぁ、レヴィはとても不満そうに……恭文ががしがし揺らされまくりで大変なことに……!


『それと……もう一つ!』


ただ恭文は、そんなレヴィを払って大きくため息。


『それに合わせて、機能を分割する』

「分割?」

『ようはメモリの増設だよ。今はジャケットの構築と補助機能、それに必要な魔力制御……その容量が足りていないわけだからさ。
本体とは別に、その処理を手伝ってくれるサポートデバイスを用意するのよ』

『おいおい待て! ではもう一機作るのか!? それでは資金が足りんぞ!』

『分割するって言ったでしょ。この子の場合だと……』


恭文はコンソールを素早く叩(たた)き、簡単な図面を提示してくれる。

すると、なんや……どっかで見たような、携帯電話をはめ込んで変身するライダーが登場。

それが腕時計型アイテムで胸をパカーって開く。又はトランク型アイテムに携帯を差し込んで、強化変身……って!


『本体に制御リソースを。サポートデバイスにジャケットの構築データを入れておくのよ。
で、用途に応じてデバイスを入れ替えることで、ジャケットの性質が変化できるようにすると……拡張性もバッチリ確保だ』

「ファイズギアやないかぁ!」

『そうだけど、何か問題が』


うわ、言い切りおったし! まぁ、うちらが悪いんやけどな!? 調子こいて、こんなデバイスを作った時点で……なぁ!


『でもね、これは特撮ものってだけじゃないんだ』

「はい?」

『ゲーム機もそうでしょ』

「…………おぉ!」


あ、そういう……そうかそうか、そりゃ考えて然るべきやった!

ゲーム機もソフトによって、いろいろな遊び方ができる! 外部機器に繋げてそこを広げることも可能!

それと同じように、ジャケットを”ソフトウェア”で発動する機能の一つと捉えれば……確かにこれがベストか。


『おま、そんなのでいいのか! 戦技に関わることだぞ!』

『……ですが、ヤスフミの案には筋が通っています。本体が制御に集中することで、より細やかなサポートが可能でしょうし』

『将来的には、ボク達が作ったパワフルフォームもOK!?』

『アインハルトとこの子のレベルアップが前提となりますが、問題ありません』

『だが、むむむむむ……! 何かが……我らの中にある何かが、これを拒否している!』


……ディアーチェ、それは仕方ないわ。なにせ……な? 特撮のアイディア、デバイス開発に持ち込んでるんやもん。

有効なのは分かっておっても、そりゃあ……古代ベルカの遺産としては、納得できんわなぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――というわけなんよ」

「な、なるほど……」


より強力な力を、確実かつ繊細に扱うために……物すごいアイディアが詰まったデバイスだったんだ。……勉強不足だと反省してしまう。


「では、この……アイテムは」

『恭文がパラレルワールドでの戦いに巻き込まれたとき、現地で見た変身アイテム……ウチガネドライバーを参考にして作った≪HA-Oドライバー≫だよ!』

「そもそも、そのウチガネドライバーとはなんでしょうか……!」

「ほんとだぞ! ライダーか! また仮面ライダーなのか、おい!」

『恭文はインフィニットストラトスって言ってた』

『何それ!』


というか、異世界の技術って……いいのだろうか。いや、仮面ライダーさんの変身にも、同じようなものがあるそうだけど。


『とにもかくにも実践だよ! まずはHA-Oドライバーを腰の前に付けて!』

「は、はい!」


ドライバーを言われる通り、お腹(なか)の辺りにくっつける。すると両サイドから白いベルトが展開して、きゅっと巻き付いてくれる。


『シグナルバイク……あ、そのおもちゃみたいなのね!』


左手で持ったままだったバイクを見ると、それが独りでに震え、クラクションを鳴らす。


『さっきも言った通り、そこにジャケットのデータや機能が入っているから。
それと自律行動とデータ処理の補助用に、簡単な人工知能も付けているんだ』

「人工知能……この子も生きているのですね。名前はあるのでしょうか」

『≪シグナルハオー≫だよ。その子をドライバーのスロットに入れて。バックル上部に、斜めに展開しているでしょ』

「これ……ですね」


右手でスロットを触る……どうやら押し込み式らしく、上から押すとスロットが収納される。

それを確認して絡もう一度スロットを動かし、シグナルハオーを差し込む。


≪シグナルバイク!≫


すると、ティオの声で勢いよく……というか、いきなり日本語になった!?


『後はスロットを押し込み、セットアップコードを音声入力! コードは≪変身≫だよ!』

「そ、それも必要なんですね」

『もちろん!』


少し……いえ、かなり恥ずかしいけど、深呼吸。

あの人の強い背中を思い出しながら、私なりに……!


「……変身」


音声入力――右手でスロットを押し込み、シグナルハオーとドライバーを一つにする。


≪ハオー!≫


いえ、ですから日本語……でもそんなことを気にしている間に、収納されたシグナルハオーの後輪が鋭く回転。

カバーとなっているスモークグレーのクリアパーツごしに、その激しい律動が見えるほどだった。

その回転から私の魔力光が吹き出し、渦を巻きながら物質として形を作っていく。


ジャケットは今までと変わらない……ように見えて、ツインテールがサイドテール気味に変化していた。

左側には黒い大きなリボンが付いていて、それで可愛(かあい)らしくまとめられている。


それで一番大きい変化は、左半身。動きを阻害しない程度に、軽装鎧≪ライトアーマー≫が装備されていて……。

『おぉぉぉぉぉぉ!』

「髪型が……変わってる」


今更ながら、リボンと髪をさわさわ……更に左腕と左胸、足を包む銀色の装甲にも触れてみる。

物理装甲には術式の紋様が刻まれており、その素材から強化されていることがよく分かる。


「これは、古代ベルカの保護術式……よくこんなマイナーなものを」

「やっぱ詳しいなー。それ、刻んだ術式が空気中の魔力素を自然吸収して、物質の強度や性質を高めてくれるんよな」

「えぇ。かなり古い強化魔法≪エンチャント≫に属するものです」

『ルーテシアとユーリ達にはお礼を言っておきなよー? たまたま持っていた書物に書いてたんだって』

「はい」


既に廃れてしまった、古い術式まで……単に外見だけじゃない。随所にみなさんの拘(こだわ)りや心遣いが感じられて、今にも泣きそうだった。


「それでどうや? 追加装甲が重いとかは」


その言葉に、改めて周囲を確認……一応、はやてさん達からもしっかり離れる。

軽装鎧に刻まれた術式は、強度強化の他に金属としての柔軟性を高めるもの。重量もさほどじゃないし……。


「――!」


両足で地面をかみ締め、その反動を左拳に載せて突き出す。……拳が空気を穿(うが)ち、断層を作り上げる。

その断裂音で周囲の木々や家の壁が震える中……実感をかみ締めつつ、静かに拳を引いた。


「……問題ありません」

「アスティオンも合わせてくれているみたいだしな」

「そう、なんですか?」

≪にゃー≫


……やっぱり、私はまだまだらしい。ティオの気づかいにも気づけないなんて。

でもドキドキしている。ここからまた、新しい一歩……新しい始まり。


それを迎えられたことが、本当に嬉(うれ)しくて。


「でな、さっきはああ言うたけど……実はそのジャケット、予定より出力を落としてるんよ」

「え……!?」


でもそんな喜びに、冷や水をかけられる。……ただ、すぐに反論はできなかった。はやてさん達の表情はとても真剣なもので。


「ようはリミッターやな。アンタとアスティオンはまだ成長過程やし、過剰な負荷をかけないというのが一つ。
次にデバイスの扱い、まだちゃんと覚えてないやろ?」

「……はい」

「……実を言うとな、これはなのはちゃんやティアナ、ノーヴェからのアドバイスや」


みなさんの……ノーヴェさんを見ると、その通りと頷(うなず)いてくる。


「なのはさんはな、お前とそう変わらない年の頃に……過剰な訓練とフルドライブの多用で、大けがをしたことがあるんだよ。
ティアナはその段階では無理な大技の連発で、危うくミスショットを起こしかけた。
二人ともそういう観点から、アタシに進言してきたんだよ。時間もあるし、慎重にやった方がいいってさ」

「リミッターは全部で四段階。ノーヴェ達の判断で今の出力を扱いきれると思うたら、少しずつ解除していく。
ちょうど……一緒にレベルアップするって考えればえぇよ。大丈夫かな」

「はい、問題ありません」

≪にゃあー≫


……いろいろと御迷惑をおかけした、私の身体や将来のことまで考え、相応の配慮をしてくださっている。

その配慮に驚きこそすれど、不満はなかった。


(えぇ……これでいいんだ)


これからはこの子と一緒に歩いていくのだから、最初からやり直すくらいの気持ちがちょうどいい。

――――そして、私達はそれぞれに力を蓄え、希望に胸を焦がし、激闘の秋を迎えることとなった。


(Memory75へ続く)








あとがき


恭文「どうも、僕です」

古鉄≪どうも、私です≫

恭文「まずはIMCSに関するアンケート結果の方を、こちらに掲載したいと思います」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


コルタタのアンケート(鮮烈な日常IMCS編HP版をどうするか)2018/03/30〜4/9まで

1位:HP版でもIMCS編が見たい!
投票:53票
コメント:20件

名前:しお
コメント:作者さんの負担にならないなら、色んな展開が読めたほうが嬉しいのでこちらで

名前:復活の初投稿者
コメント:主に空海がフラグを建設させるのとなぎひこに出番を!!

名前:フロストライナー
コメント:自分は同人版を購入していないので、HPでもやってくれると嬉しいです。

名前:ライクロ
コメント:同人版を追えてない学生身分としては同人版だけになるのは悲しいなと……

名前:匿名
コメント:負担にならなければこちらで。空海のフラグ立てとりまの攻勢(色んな意味で)もお願いします!

名前:鋼平
コメント:簡易版でもいいからHPで読みたいっす!!

名前:啓晃
コメント:HPでもIMCS編が見たいです。

名前:モッブ
コメント:みんなが期待しているのは、空海のラッキースケベなんだよ!察してよ作者様ァ

名前:復活の初投稿者
コメント:空海がコロナとかリオとか雷帝さんとか番長さんにフラグを建てるのがみたい!!

名前:名無し
コメント:空海のラッキースケベをお願いします!


名前:復活の初投稿者
コメント:色々と書いたりしましたがようはタダ見でみたい!!

名前:通りすがりの暇人
コメント:出来れば見てみたいって感じッス

名前:復活の初投稿者
コメント:Vividのアニメ本当にやるか分からないので単行本主体で良いのでは?

名前:鳴神 ソラ
コメント:見てみたいので知りたいです!

名前:鬼畜法人撃滅鉄の会・副会長
コメント:クウや隊長がモテまくって四苦八苦する姿がみたいぜ!(発言後砲撃でふっとばされる)

名前:ジョン・ドゥ
コメント:HP版は同人版と違ってお金のやり取りもない作者の趣味の場所として扱っても良いと思います。

名前:セツナ
コメント:原作そのままは

名前:レイ
コメント:同人版は購入していないので読みたいですが、戦闘シーンは簡潔でもいいです

名前:騎士棋士
コメント:HP版希望、だがオリジナル要素大存分にどうぞ。ただ、ここしばらく真綿で首を絞めるような、負の面といった陰が妙に濃くなっているように感じます。もう少し気楽にやってもいいのでは? いっそう題名通りに鮮烈なものを希望します! 応援します。

名前:復活の初投稿者
コメント:空海のちょっとあぶない拍手を作りたいのでどうかラッキースケベなネタを!



2位:同人版(幕間11巻〜14巻)でいいや。
投票:8票
コメント:3件


名前:匿名
コメント:何人か原作よりも強くなってますし空海達もいますしオリジナルでいいと思います

名前:黒@ジャックちゃんのおかあさん
コメント:どちらでも楽しくなるとおもうので、あくまで気分で選んでみます

名前:KK
コメント:HPとは


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文「というわけで、アンケートのご協力、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「皆様のアンケート結果を受けて『一から書き直し・同人版とはまた違う展開に』という前提で始まった鮮烈な日常IMCS編。
セイとレイジの物語に一応の区切りが付いた後……新暦七九年(二〇一二年)十月。
ヴィヴィオとアインハルト、あむが再びバトンを受け取り、いよいよIMCSに挑戦します」

古鉄≪ただまぁ、同人版を書く際に使ったネタの一部は……得に原作でもやった会話部分などは、どうしても被ってしまうんですが。
そこはお目こぼししていただければと思います≫


(具体的には、居合い刀の長さとか……専門のところで確認したデータなので、そこを変えるのはちょっと。
それとりん(アイマス)にユーリ、アスティオンによる声優ネタとか)


恭文「まぁ声優ネタとかはともかく、格闘技や武術に関するデータ的な部分は……かなり難しいんだよねぇ」

古鉄≪正確じゃないと、嘘になっちゃいますしね。そこはまた別の観点や解釈から調べて、何か書いていくことにしましょう≫


(そうしようそうしよう。同じものを示そうとするから駄目なんだ)


古鉄≪なお、十月からと言いましたが……今回はいわゆる導入編。BF編の合間に、チーム・ナカジマが頑張っていた様子を描いています≫

恭文「次回からいよいよ大会スタート。まずは選考会で……それからミウラ対ミカヤだよ」

古鉄≪そうそう……当然ながらIMCS編ということで、新キャラやこれまであまり出られなかったキャラも出ます。ルーテシアさんとか≫

恭文「ルーは、カルナージで隔離状態だったからね……」


(『お父さん、結婚しようねー』)


恭文「いきなりの挨拶がそれはおかしい!」

古鉄≪いいじゃないですか。ちょっと危ない拍手では≫

恭文「あれはあれ! 本編は本編!」


(というわけで参考資料として、修羅の刻を読みながら頑張りたいと思います。
本日のED:sacra『identity』)


恭文「伝説である――平安の世より無手を持って戦う、修羅の者達がいたという。人はその技を」

あむ「修羅の刻や門は駄目ぇ! アンタ、ヴィヴィオちゃんに受け継がせる気!? 必殺過ぎる必殺攻撃!」

桜セイバー「いやぁ……まさか陸奥さんのことが漫画になっているなんて! 凄いですね、マスター!」

恭文・あむ「「え!?」」

古鉄≪ちなみにアニメ『修羅の刻』幕末編に登場した沖田総司は、中村悠一さん。ヴァイス陸曹、月詠幾斗さんの中の人です≫

恭文「今の演技とはまた違うんだよねぇ。でもこれがまたいいんだよ」


(おしまい)





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あきゅろす。
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