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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのに 『とある魔導師と彼女の出会いと危機』:2



というわけで、後編・・・というか、後半戦です。それは、2年程前に話を遡る。

僕がエイミィさんの子育てのお手伝いを無事にお役ゴメンとなり、無事に魔導師に復帰した第一戦をかまそうとした時のことだ。

僕は、1年前に友達である八神はやて経由で知り合った、ゲンヤ・ナカジマさんに呼び出されていた。





用件は・・・とても重かった。そう、僕にも関連することだった。




















「・・・狙われている?」

「あぁ」

≪ギンガさんが・・・ですか≫

「あぁ」





ギンガさんというのは、ゲンヤさんの娘さんであり、ゲンヤさんが部隊長を勤める陸士第108部隊で捜査官をしている陸戦魔導師の女の子。

僕と同い年で、一年前にゲンヤさんと同じタイミングで知り合って、友達になっている。



そのギンガさんが・・・狙われているって、どういうことですかっ!?





「まだ断定・・・ってわけじゃねぇんだがな。どうも、最近アイツの周りに妙な影を見るんだよ」

「・・・ゲンヤさん、一つだけ確認です。彼氏候補とかじゃないですよね? 真面目な話なんですよね?」

「彼氏だったらいいんだけどな。残念ながら真面目な話だ」



ホントに残念ですね、それは。



「アイツ自身も誰かの気配を感じたりすることがあるみてぇだし・・・どうにもキナくせぇ。
だが、敵もやるやつなのか、尻尾を出しやがらねぇんだよ」





・・・なるほど。





「ひょっとして、僕にギンガさんのガードをしろってことですか?」

「そうだ。今、アイツを一人で行動させるのは危険だしな。お前さんならアイツも気負わないですむだろうし、気も晴らせるだろ。
復帰一戦目でキツイ仕事になるたぁ思うが・・・引き受けてくれねぇか?」





ちなみに、この話はギンガさんには内密にするというのを前提で進んでいる。

まだ、本当にそうかも確定していないししね。

ギンガさんの様子が変わったことで、一端引き下がって、またほとぼりが冷めてから・・・なんていう手を防ぐためだということだ。



つか、そこまでやると、その犯人はすっごい陰湿だと思うよ。僕は。





「・・・わかりました」

「引き受けてくれるか?」

「まぁ、ギンガさんは友達ですし、こっちに来るたびに世話を焼いてもらった恩もありますから。
・・・ただし、一つ条件があります」

「なんだ? 報酬ならうんと弾むぞ」

「実はそれなんです。
僕の最近知り合った友達にも協力を頼みたいんです。で、僕はいいんで、その友達の分も報酬を・・・」

「友達? お前、八神以外にも魔導師の友達いたのか」





ゲンヤさんが、どういうわけかものすごくビックリしたような顔をしてそう言った。



・・・怒っていいのかな? ここは怒っていい場面なのかな。





≪えぇ。寂しそうなイメージと違って、交友関係が広いんです≫

「ちょっとっ!?」

≪その人たちは、元は捜査官の仕事をしていまして、いろいろな所にコネがあります。
私とマスターがガードに付くのと一緒に、その人たちにはギンガさんの最近の身辺を調べてもらうのがいいのではないかと
察するに、かなり面倒ごとですよね? マスターだけで対処してどうにもならなくなっても、私たちは責任が取れません≫



かかってるカードは、ギンガさんの安全だ。使える札は、どんどん使っておきたい。・・・僕だけなら、まだいいけどね。



「ふむ・・・分かった。協力してくれるならこっちとしてもありがたい。
ただ、一つ確認させてくれ。そいつらは信用できるのか?」



ゲンヤさん、お願いだからそんなに睨むようにして念押ししないでください。そりゃあギンガさんが心配なのはわかりますけど・・・。

てか、この人、経験豊富な部隊長だよね? そんな人がここまでになるなんて、ギンガさんになにかあるのか?



「その点は問題ありません。実を言うと・・・僕の兄弟子姉弟子に当たる人たちなんです」

「というと・・・お前の先生、ヘイハチ・トウゴウの生徒ってことか?」

「はい。先生が10年以上前に個人的に取っていたそうなんです。多分、ゲンヤさんは知ってるはずです。聞いたことありません?
『ランブル・ウィッチ』と『カタストロフ・ドッグ』っていう、14歳の匂い満々な二つ名を持った魔導師二人組ののこと」

「・・・は?」

「いや、その人たちなんですよ。最近知り合った友達兼姉弟子兄弟子って」

「はぁぁぁぁぁっ!?」










さて、ゲンヤさんに事情説明をしている間、どういうわけかずっとビックリし通しだったのは、時の中に流していこうと思う。

とにかくこうして、復帰直後のミッションは決定した。そして、僕はゲンヤさんの許可を貰ってから、ある人に連絡を取る。そう・・・頼りになる姉弟子だ。




















『・・・りょーかい。こっちの方でも色々調べておくわ。そういう話だと、結構急いでやったほうがいいよね?』

「そうですね。出来るだけ早くお願いします」

『分かった。あいつなら、明日中には調べ上げられると思うから、吉報を待ってて。
・・・あぁ、それと一つだけ確認』





・・・うん、聞かれると思ってた。





『その子・・・ギンガちゃんだっけ? 狙われるような理由、心当たりはないの?』

「無い。とは言ってました」





僕も失礼を承知で同じ事を聞いた。ギンガさんが狙われる理由に心当たりはないのかと。

その理由が事前に分かれば、ガードするのにも対処が取れるし、なんにしても有益な情報になる。だけど・・・。





『あるにはあるけど、答えてくれなかったってとこかな?』

「はい。結構重い理由かもしれないです」

『あー、分かったわ。とにかく、大至急調べるね。あと、私もそっち向かうわ』





来るって、なんでまたっ!? てか、あなた仕事はどうするんですか。





『仕事なんてどうにでもなるって。それにやっさんは二代目ヘイハチ先生となるであろう逸材なんだから、こんなことで死なれちゃ困るよ』



・・・姉弟子の視線が痛い。つか、かなり真剣。



『今まで見た限りは大丈夫そうだけど、復帰直後なんだから、実戦の勘がやっぱり錆びてるかもしれない。ここは油断せずに行かなきゃだめだよ』

「・・・はい」

『と言っても、その子やその子を狙っている輩に気取られないような距離は保っておくから、安心していいよ。
それじゃあ・・・なにかあったら必ず連絡するんだよ? いいね』

「はい。・・・あと、ありがとうございます。急な上に無茶なお願いなのに、聞いてくれて」

『いいっていいって♪ 私ら、弟子どうこうの前に・・・友達じゃないのさ』





とにかく、重々にお礼を言って、通信を切る。



・・・さて、これで準備はいい・・・はず。





≪そうですね。あの二人に任せておけば、情報面で苦労することはないでしょう。あとは、実際に狙っている輩が居るとして・・・≫

「どう出てくるか・・・だよね」




















・・・そして、その翌日のこと。僕はギンガさんと一緒にある人と会っていた。










「初めまして。本局執務官のグラース・ウエバーです」

「第108部隊所属の、ギンガ・ナカジマです。よろしくおねがいしますっ!!」

「いえ、こちらこそよろしくおねがいします。・・・それで、この方は?」

「あー、どうも。嘱託魔導師の蒼凪恭文です。ギンガさんの助手だとでも思ってください」





そう、本局の執務官のグラースという人と会っていた。

理由は・・・昨今、色々なところで出没している無人兵器『ガジェット・ドローン』に関してだ。



なんでも、その生産プラントがミッド西部。・・・ようするに、108部隊の管轄内のどこかにあるらしいという情報を入手したそうだ。

それで、管轄の部隊のエースであるギンガさんが、その調査を手伝うことになったのだ。

で、僕は部隊長命令で付き添い・・・という名のガードである。





「そうですか・・・」





・・・このおっちゃん、なんというか嘗め回すような目で見るな。



金色のオールバックの髪に不釣合いなほど深い緑色の瞳。ガタイは・・・結構がっしりした感じ。

正直、お友達にはなれないと思う。どうにもタイプじゃないや。





「あ、なぎ君・・・いえ、蒼凪さんはとても優秀な魔導師ですから。荒事になった場合、間違いなく頼りになります」

「いえ、噂は聞いていましてね。初めてお会いするので、少し興味深い目で見てしまいました。すみません」

「噂?」



・・・僕、そんな有名か? だって、1年位は普通に暮らしてたし。



「本局では有名・・・というより、優秀な提督一家である、ハラオウン家の秘蔵っ子。フェイト・T・ハラオウンと並び立つ本局の切り札。
そして、『あの』ヘイハチ・トウゴウ氏の剣技とパートナーデバイスを受け継ぐほどの、優秀な魔導師だと、聞いていましたから」

≪・・・まぁ、間違ってはいませんよね。『本局の』切り札と優秀と秘蔵っ子ってとこ以外は≫

「うっさいっ!」



別に僕は本局どーこーでハラオウン家に居るわけじゃないし。なんかめんどくさい噂立ってるね。



「二つ名は、デバイスの名前からとって『古き鉄』」

「・・・そんな二つ名まで」



真面目に知らなかったんですが。どーなってんですかこれ。



「『あの』ヘイハチ氏と同じく、あらゆる現場で時代遅れとも取れる過剰な武闘派行動を取り続け、局の威信と信頼を失墜させる青きジョーカー。
それによって、犯罪者にも畏怖を撒き散らす、嘱託魔導師きっての大問題児。・・・とも、聞いてますがね」

「・・・あぁ、そうですか」



・・・本人前にしてそれを言うか。そして、大体間違いじゃないのがムカつく。つか、ギンガさんもその苦い顔やめて。



≪マスター≫

「めんどいからやめて」

≪了解しました≫

「まぁ、いざというときは頼らせてもらうことにしましょう。そうならないとは思いますが」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」



やりかえすのはやめよう。うん、そんなことしても楽しくない。あー、ちょっと辟易。

それは向こうも同じだと思うけどね。やっぱりこの人とは仲良くできそうもないわ。



”なぎ君、ダメだよ”

”ギンガさん?”



そのままの流れで、調査区域について打ち合わせをしていると、いきなりギンガさんから念話が届いた。



”確かに、なぎ君のタイプじゃないかもしれないけど、これから少しの間でも一緒にやっていくんだから、ちゃんと仲良くしないと・・・”

”分かってるよ。大丈夫、迷惑はかけないから”

”ならいいけど・・・”










ちょっとだけ過敏になっていた。





ギンガさんを狙っている輩が居るとして、そいつらがどういう形で近寄ってくるのか・・・分からないからだ。





ひょっとしたら、今目の前に居る嫌味な感じのするおっさんなのかもしれないしね。





とにかく、そんなことを思いつつも打ち合わせは終了。

その日の夜。さっそく該当区域にある、プラントの捜査を始める事になったのだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・やっさんとあのキザとロングヘアーのお嬢ちゃんは、さっそく調査開始か。



結構急ぎ足だよなぁ。まぁ、ガジェットとかって神出鬼没らしいし、早く情報を掴んでおきたいってのはあるだろうけど。



とにもかくにも情報だよね。・・・ったく、なにしてるのさ? あいつ、開発局に移ってから少したるんでるんじゃないの?





『ひどい言い様だな。こっちは必死こいて情報集めてたってのに』

「仕方ないでしょ。時間かかりすぎなんだから。こっちはもう話が次の段階に進んでるよ?」



タイミングを見計らったとしか思えないような状況で、うちの相方が通信をかけてきた。



「で、収穫は?」

『大有りだよ。・・・ギンガちゃんだっけ? あの子、狙われる要因ありまくりだよ。あと、妹もね』

「というと? いや、つか妹もってどういうことよっ!?」

『まぁ、そこはレポート送るからそれ見て。というか、送った』



あ、ほんとだ。届いてる。・・・つか、暗号化してるし。ここまで念入りってことは・・・そうとうか。



「アメイジア、いつも通りお願い」

≪もうやってるよ。・・・ほい、これで完了≫

「アンタはまた勝手に・・・」





・・・ごめん、マジで固まったわ。だって・・・ありえない情報がどっさりと出てきたんだもん。

いや、知ってたよ? こういうのがあるってのは。だけど・・・まさか・・・ねぇ。





「一つ確認。これ、マジ?」

『マジだよ。見ての通り、ナカジマ姉妹は・・・そういう感じだよ。
つまりだ、いかがわしい研究している連中とか、そういうやつらが作ったシロモノで商売している連中にとっては、いい『商品』なり『モルモット』になるってこと』



気分の悪くなる言い方だけど、それは事実だ。私らは、それをやんなるくらいに知ってる。



『そりゃあ、やっさん達には話せないさ。俺もびっくりしたくらいだもん』

「・・・そっか。で、今回もそれ絡み?」

『間違いなくだな。それにも書いてるけど、彼女のデータが勝手に引き出された形跡がある』

「ナカジマ三佐は知って・・・るだろうね」

『予想がついてるって感じかな? ま、仕方ないけど』





・・・私達は、捜査官時代にそういうのを嫌になるほど見てきた。

特別な力や身体があるが故に、それを利用しようとする輩に狙われて・・・危険や理不尽な暴力に晒される人達を。



場合によっては、人間としての尊厳を踏みつけにされて、死んだほうがマシって惨状を、間近で見たこともある。

なんつうか、そんなことばかりが起こる世界ってどうなのさ?

・・・まぁ、そんな現状に仕事的に関わるのに嫌気がさして捜査官やめた私達には、もうなにも言う権利がないんだろうけどさ。





『だな。でも、あの二人は関わろうとしてる。友達だからな』

「あいつはそういうやつだよ。まったく、古き鉄の異名は伊達じゃないってか?」

≪なんつうかよ、ボーイはやっぱじーちゃん似だよ。アレ、きっとどこまでも突っ走るぜ。・・・で、どーするよ、姉御≫

「そんなの、決まってるでしょうが」





とにかく、私達のやることは一つだ。やっさんと、現マスターを守ろうとするアルトアイゼンの通したいと思うことを手伝う。

ま、姉弟子兄弟子だしね。それくらいはやんないと。

あー、せっかくのロートル生活もこれでおさらばか。まぁ、やっさんと会った時から、覚悟はしてたけどさ。



・・・鉄はね、引き合うんだよ。理屈じゃない。心がね。やっさんが古き鉄なら、私らだって同じだ。

ヘイハチ先生から、鉄の遺伝子ってやつを引き継いでる。時代遅れで、錆だらけで、古臭い。



だけど、むちゃくちゃ強い鉄の想いをね。





『・・・正直、お前がそっち行っててよかったと思うよ。今すぐやっさんの救援に行ってくれ。
下手すると二人とも、いや、あの慇懃無礼もか。全員、そのまま二度と会えなくなる』










・・・やっさん。





私は最初に会った時、いろいろ経歴聞いてから、ずっと思ってたんだけどさ。

どーしてあんたはそんなに不幸やらトラブルが似合うのよ?





まぁいいや。可愛い弟弟子のため、お姉さん頑張っちゃうよ〜!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・妙な感覚だ。





今、グラースさんとギンガさんと三人で、ガジェットが生産されていたと思われるプラントを探索しているんだけど・・・どうにもいけ好かない。





いや、グラースさんがどうこうじゃない。





今のこの状況が・・・いけ好かない。





なんて言えばいいんだろう? こう、誰かの手の平に誘われているような感覚を覚える。今、こうやって呼吸していることすら、支配されているような・・・。










「なぎ君、どうかした?」

「いや、なんでもないよ」





・・・ギンガさんの言葉にそう答えたものの、どうにも解せない。

なに? このさっきから感じている違和感は・・・。いや、僕は知ってる。この違和感は・・・アルト。





≪問題ありません≫





なら、大丈夫か。そんなとき、一つの変化が起きた。





「・・・ここから先は二手に分かれていきましょう」





グラースさんがそう言って、指差した方向には・・・なんとまぁ、見事な分かれ道。





「私が右のほうへ。ナカジマ捜査官と蒼凪さんは左をお願いします」

「でも、お一人では危険です」

「大丈夫です。これでも執務官ですから」





執務官というのは、単独行動のスキルが重要視される。

フェイトがいい例だ。近接戦闘が得意なんだけど、それだけじゃなくて中距離・遠距離での戦闘スキルも高い。

犯罪者を相手に一人でも立ち向かうだけの戦闘技能が、試験では重視されるっていうしね。





「まぁ、本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫でしょ。ただし、連絡は密に・・・ですよね?」

「もちろんです。それでは、お二人ともまた後で」





そう言って、グラースさんはスタスタと右の通路へ入っていった。





「それじゃあ、僕達も行こうか」

「うん」





そして、僕とギンガさんも歩く。



通路を少し進むと・・・行き止まり?





そう、これまた見事に行き止まりだった。なんていうか、迷路みたい・・・まって。





僕達がここに来てから、基本一本道だった。

そして・・・分かれ道。



僕は考えるよりも早く、グラースさんに通信をかける。



・・・通じなかったけど。なら、念話・・・・だめかいっ!!



そこに気付いた時点で、少しだけ遅かった。ギンガさんと僕の間の床と天井から、いきなり壁が飛び出してきて、僕達を隔離したっ!



それだけじゃない。僕の周りに・・・殺意が生まれ、それが向けられた。



そして、その小さな部屋は、それによって満たされた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・うぅ。





ここ・・・は・・・?










「・・・なぎ・・・くん?」





意識を復帰させた私の第一声は・・・あの子の名前だった。





「あの坊主ならいねぇぞ?」





その声にハっとする。



私が目を見開くと、その正面の先に、一人の男。


そしてその周りに・・・数人の男がいる。年のころは、私より少し上といった所。



だけど・・・正直、なぎ君じゃないけど好きになれそうもない。



視線が実にいやらしいのだ。なにか、気色の悪い目で・・・私を見ている。





「なぎくんを・・・どうしたの?」





口が・・・思考が・・・上手く動かない。

ここまできてようやく気付く。私の身体は、今、コンクリートの床に寝そべっている状態。

身体を縛られて、動く事も、立つこともできない。無理に振りほどくのもアウト。身体に力が・・・入らない。マヒ毒かなにかを盛られたのかも。





「殺した」

「なっ!?」

「おいおい、そんな怖い目で睨むなよ。
別に俺が手を下したわけじゃねぇよ。俺らのダチが、ちょっと隔離して、不意打ちかけただけだぞ?」





そんな・・・。嘘・・・。



嘘・・・。嘘だ嘘だっ!!





「それよりさ・・・自分の心配したらどうよ?」

「そうそう、これから私はどうなるの〜っとかさ」





・・・どうなる・・・?





「あー、大丈夫。コイツみたいにはしねぇから」





そう言って、リーダー格と思われる男がある方向に指を挿す。



私は、力の入らない体に鞭を打って、視線だけでもそこを見る。



すると・・・そこには血溜まりがあった。



金髪のオールバックの髪は、血に濡れて、血色の良さそうな肌は・・・青白くなっている。



そう、私達と別行動を取った・・・グラースさんだった。





「う・・・そ・・・」

「そいつも、無駄な抵抗しなきゃ怪我しなくてすんだのによ〜」





私がこうしている間にも・・・血が広がって、床に染み込んでいく。



命が・・・消えていく。



いや。





「いやだ・・・こんなの・・・いや・・・」





声を絞り出す。・・・気持ちが凍り付いていくのを止めたくて、恐怖に染まるのを止めたくて。



だけど・・・それじゃあ止まらなかった。



心が、どんどんと恐怖と絶望に染まっていく。



私・・・死ぬの? ここで殺されるのっ!?





「大丈夫だって、殺さないから」

「そーそー。だって、お前・・・金になるし」





・・・え?





「だって、お前化け物だろ?」

「ちがうっ!!」





声を振り絞る。喉が・・・潰れるくらいの声で。





「化け物じゃん。身体の中に機械を埋め込んでさ〜」

「それで力無茶苦茶強くて怪我してもすぐ治るっていうし、化け物以外の何者でもないよな」





知ってるんだ。



こいつら・・・私の体のこと・・・知ってるんだ。





「で、その化け物なお前を欲しがっているもの好きな連中がいてな。そいつらに『売る』ことにした」

「でも、お前やあの頭固そうなオヤジに、直接頼んでもダメだろ? だから・・・」

「邪魔なやつには死んでもらって、さらうことにしたんだよ。いや、最近出てるガジェットだっけか? いい餌が出来たよな。簡単に釣れたし」





そんな・・・・。



私の・・・せい?



私の・・・せいなの?



なぎ君や、グラースさんが・・・あんなことになったの・・・私のせいなのっ!?





「そうだ」

「お前が居なきゃ二人とも、楽しく生きられたのになぁ」

「化け物だからかな? 不幸しか呼びこまねぇし」





いやだいやだ。こんなの・・・いやだっ!!





「いやじゃねぇよ。お前、元々そういうのだろ? 『戦闘機人』だっけ。すげーよな。外見だけだと、全くわからないし」

「人工的に作られた・・・。気持ち悪いよな。つか、よく生きてるよな、お前兵器だろ?」





違う・・・! 私は、兵器なんかじゃ・・・!!





「兵器だろうが。あれだ、質量兵器とかと同じだよ。壊して壊して壊して壊して、それしか出来ないんだよ。つか、今だって壊してるよな」」

「お前のせいだぞ、これ? まったく・・・兵器が人間の振りしてるなよ。人間様の迷惑だろうが」

「ちが・・・う・・・! 私は・・・」

「あー、もういいや。・・・なぁ、こいつの身体の中身って、知りたくないか?」

「お前、悪趣味だな。やめとけよ、傷付けたら報奨金減るだろうが」





男の一人が、ナイフを持って私に近づく。とても・・・いやらしい瞳で、私を見る。その瞳に寒気を覚える。

狂気と興味が入り混じったどす黒い瞳。見ているだけで鳥肌が立つ。





「いいじゃねぇか。だって、機能停止しても、再生とかできるんだろ? だったら、俺たちで楽しんでから渡そうぜ。どーせ、同じことされるんだしよ」

「いや・・・。ちかづか・・・ないで・・・」

「うるさいんだよ、機械の分際で。ガタガタ抜かさずに言うことを・・・」

≪Stinger Ray≫

「スナイプショット」





その瞬間、暗闇に満ちた部屋に、一筋の青い光が走った。細く、針のような光。

それが・・・私に迫っていた男の頭を、打ち抜いた。



その衝撃で、面白いように回転して、男は頭から地面に倒れる。そして、そのまま動きを止めた。





「・・・天の道を往き、全てを司る人のお婆ちゃんはこう言ったそうだよ」



え?



「男には、やっちゃいけないことが二つある。食べ物を粗末にすることと・・・女の子を泣かせることだってね」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・その時だった。



私が拘束されていた部屋の壁の一角が・・・吹き飛んだ。





「なっ!?」





男たちが動揺している。これで・・・私にもわかる。これは、予想外のことなんだと。





「・・・で、確認ね。その人を泣かせてんの、お前ら?」

≪あー、死にたくないなら、今のうちに謝ったほうがいいと思うぜ? ・・・もう無駄だけどな≫

「だね。しっかし、ここまで腐ったのが居るなんて、局の人事担当はどうなってるのさ? いくらなんでも目が無さ過ぎでしょ」

≪全くです。まぁ、知り合いに居ますから、あまり言えませんが≫





この・・・声・・・。



爆煙の中から二つの影が出てきた。





一つは、とても小さな影。もう一つは、それよりも大きい細身の影。



そして、そこから聞こえる声は四つ。



二つは知らないけど、もう二つは、私の知っている声だった。



そんな・・・嘘・・・じゃない・・・よね?





「嘘じゃないよ。あと、小さいって言うなっ! そして『とても』とかつけるなっ!! 僕はミジンコかっ!?」





そのいつも通りと言えばいつも通りな返事に、私は・・・涙が溢れてくる。





「・・・ごめんね、ギンガさん。悲しい思い、辛い思いさせちゃって。
もう大丈夫だよ」

≪さて、あなたがた。私の大事な友人を泣かせた罪、償ってもらいますよ。
もちろん≫

≪「命をかけてね」≫





なぎ君とアルトアイゼンの姿が、そこにあった。





無事・・・だったんだね。





「まー、助ける必要なかったけどね。つか、やっさんが襲って来たやつ全員のしてたし」

「はぁっ!? バカ言え、ちゃんと連絡は・・・」



その瞬間、なにか、大きいものがこちらに投げ込まれた。それは・・・人。



「・・・そいつと、そいつのお仲間から色々聞かせてもらった。で、ついでにちょっと嘘もついてもらっちゃった♪」



その投げ込まれた人は、生きている。だけど、生きているというだけで・・・あとはひどかった。

両腕と両足が両方ともありえない方向へと曲がり、着ている服がボロボロ。見るに耐えない状態。

ただし、顔だけはきれい。それはもう異様なほどに。



≪お前らのお仲間、全員そんな感じだぜ? そいつはまだマシな方だ。つか、いきなりボーイとねーちゃんに不意打ちなんてするほうが悪い。
加減なんて『しない』に決まってるじゃねぇか≫

≪その通りです。・・・あぁ、さっきのにもう一つ付け加えておきましょう。
私の信頼する友人兼相棒兼イジる対象を、殺そうとしてくれた罪、万死に値します。というか、全員殺す≫

「・・・よし、アルト。友人はいい。相棒もいい。だけどっ! イジる対象ってなにっ!?」

≪当然でしょう≫

「当然じゃないわボケっ!!」





そうだったんだ。よかった。本当に、よかったよ。というか、アルトアイゼンがキレてる。妙な殺気が出てる・・・。



でも、あのなぎ君と一緒の女の人は・・・誰? なぎ君は随分親しい感じで話してるけど。それにアルトアイゼンと同じ勢いで喋っているあのデバイスは・・・。





「あの・・・あなたは・・・?」

≪ま、特別ゲストってとこだな≫

「ども〜♪ はじめまして、ギンガちゃん。いや、やっさんと友達してると大変でしょ〜。でもね、それを楽しめるようになってこそ一人前だよ?」



えっと・・・あの・・・。



「いきなりなに言い出してるんですかっ!?」

「お、お前らなんなんだっ!? つか、俺達を無視してんじゃねぇっ!!」

「あらら・・・そんなこともわかんないの?」

≪まぁ、無視されて当然の雑魚なんですから、仕方ないですよ。・・・なら、名乗ってあげましょう≫

≪≪「「僕達は(私達は・俺達は)・・・」」≫≫




















「通りすがりのピザ屋だっ!!」

≪「可愛いお姫様を助けに来たナイトだよっ!!」≫

≪アルトアイゼンと愉快な仲間達ですっ!≫




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?










辺りを、妙な静寂が支配した。




















「まったまったっ! やっさん、ピザ屋ってなにっ!? ちょっと狙いすぎて逆に外してるよっ!! つか、先生の真似はしちゃだめだからっ!!」

≪ボーイ、もうちょい空気読もうぜ? すっかりギャグシーンじゃないかよ≫

「ほっといてっ! つか、僕はちゃんと本命いるからねっ!? あとアルトっ! なんで自分が一番偉いみたいなこと言うの? おかしいでしょうがっ!!」

≪なにを言ってるんですか。マスターを指して『ナイト』などと言う存在と言うあなたとアメイジアのほうがおかしいですよ。
そして・・・私がリーダーなのは当然です。というか、私がこの話の主役でしょ?≫

「「なにさそれっ!?」」

≪あ、なるほど。さすがねーちゃん≫

「「そこ納得するのっ!?」」





あ、あの・・・・。え? なんでいきなりこれっ!?



私の心は、さっきまで感じていた恐怖はどこへやら。いきなり口喧嘩を始めた四人に呆れるしかなかった。





「「「「このやろぉぉぉぉっ!! ぶっ殺してやるっ!!」」」」

「なぎ君っ!」





男たちが四人、デバイスを持ってなぎ君と女性に襲い掛かった。





「だーかーらー! 僕は本命居るし、ギンガさんだって他に相手いるかもしれないんだし、こういうことを・・・」





なぎ君は襲い掛かってきた相手に手を向ける。その瞬間、青い光が溢れた。

そう、なぎ君は相手に向かって魔力弾を撃ち込んだ。なんの躊躇いもなく。そうして男は吹き飛んで、そのまま動かなくなった。



腹や胸には、焼け焦げたようないくつもの弾痕。クレイモアを撃ちこんだんだ。あんな至近距離で、あんな魔法撃つなんて・・・。





「簡単に言っちゃアウトでしょうが」

「かー、わかってないねぇ。いい? 女の子は・・・」

「「うぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」」





今度は、女性の方に襲い掛かってきた男二人のデバイスが一瞬で真っ二つにされた。いや、細かく輪斬りにされた。





≪イヤッホォォォォォォォッ!!≫

「うっさいよバカっ!!」





その様子に驚いている二人に女性は相手の懐に一気に飛び込む。白い魔力光に包まれた・・・片手剣を両手に持ち、それを振るい、腹を薙ぐっ!



次の瞬間、男は二人とも倒れた。





「いつだって、どんな時だって、自分を守ってくれる白馬の王子さまに憧れるもんなのよ」

≪姉御の言う通りだぜ。あのねーちゃんに彼氏居るかどうかもわからないんだし、臨時でもいいからなろうって気概はないのか?≫

≪マスターはそれが出来ないからこそ年齢=彼女居ない暦なんですよ? フェイトさんフラグが立てられないんです≫

≪「あ、それもそうか」≫

「うっさいわばかっ! つーか何時の間に・・・」





横から襲い掛かってきた最期の男も、なぎ君がアルトアイゼンで一閃を打ち込むことで沈黙する。



す・・・すごい。

口喧嘩しながら、あっと言う間に四人も。特にあの女の人、まるで子どもの相手をしているみたいな感じで攻撃してた。動きに、まったく無駄がない。



それだけで分かる。この人、強い。私やなぎ君よりも、ずっと。





「僕包囲網が出来上がってるんですか?」

「いや、やっさんだし」

≪ボーイをおちょくるのは、次元世界の法則だよな≫

「ちょっとっ!?」

「ま、それはともかく・・・」



その人は、近づいて来て、私の手足を縛っていたロープを斬る。



「大丈夫?」

「あ、はい。ありがとうございます・・・」





そして、そそくさとグラースさんのところへ向かった。





「・・・まだ大丈夫かな。やっさん、私はこのキザ男に回復魔法かけてるから、そいつらとっとと片しちゃって」

「はぁっ!? あんだとおばさん、勝手なことしてんじゃね・・・・ぐはっ!!」





そんなことを言ってこちらに攻撃を仕掛けようとした男の一人が・・・吹き飛んだ。



あの人の剣から放たれた魔力の斬撃破を顔面に受けて、その衝撃でコンクリートの地面に思いっきり後頭部をぶつけて、そのまま動かなくなった。

顔は物理干渉や殺傷設定にはなっていなかったのか、斬撃を食らったとは思えないほど綺麗な状態だった。

ただし、顔の真ん中に赤い線がついているけど。





「うっさいんだよ雑魚が。可愛い弟弟子やら知り合いが殺されかけて、こっちはイライラしてんだよ。
なにより、私はまだ31だ。おばさんだとかなんとか抜かすと・・・殺すよ?」

≪あー、マジで年齢の話はやめとけよ? 俺には止められないし≫



こ、この人からすごい殺気が・・・! 身体が、押さえつけられてるみたい。



「・・・お願いですから落ち着いて」

≪なんというか、キレて暴れるのは我々の役目なので≫

「つか、グラースさんと知り合いなんですか?」

「うん。うちの相方との、捜査官時代に色々とやりあっててね。ま、死なれると胸糞悪くなるくらいは、付き合いあるかな」

「なるほど、納得です。・・・さて、お前ら」





なぎ君の言葉に返すように、陣形を組んで、デバイスを出して構える男たち。





「選んで。潰されるか、壊されるか、ひき肉にされるか、消されるか」

「はぁ?」

「いやだなぁ。僕だけならまだしも、僕の友達にこんなくっだらないケンカの振り方しておいて、ただで済むと思ってんの?」





にこやかな笑みを浮かべている。だけど・・・雰囲気が、それをそのまま受け取ることを否定する。

そういえば、さっきも普段は絶対使わないような撃ち方でクレイモアを撃ってた。普段とは違う、全く容赦の無い攻撃。つまりそれは・・・。





「なに言ってやがる? いいか、その女は人間じゃねぇんだよっ! 化け物だよっ!! どっかの映画みたいなサイボーグだっ!!」



・・・知られた。

なぎ君に・・・知られた。私が・・・人間じゃないって・・・。



「そんなのと友達って、てめぇバカじゃねぇのかっ!? そいつは・・・ごふ」

「・・・しゃべるな」





その声は、さっきまで喋っていた男の前を発信源としていた。



なぎ君が、何時の間にかその男の前に居て、アルトを左から振りかぶり、胴へと打ち込んだ。

刃ではなく、峰の方で。





「・・・バカな奴らだよ。最後の一線踏み越えやがった」

≪ボーイ、俺達は止めないから、好きにやっていーぞ≫





辺りに骨が軋み、砕ける音が聞こえる。男の口から、赤い何かが吐き出される。

それに構わずなぎ君は、自分の身体を回転させながら、アルトアイゼンを右斜め上へと振り抜いた。



その衝撃によって、男がなぎ君の頭上へと吹き飛ばされた。





「うん、言われなくても・・・」





それを狙うように、なぎ君が左手を上に上げる。手の平に、青い魔力が砲弾上に集まり、そして・・・。





「そうする」

≪Icicle Cannon≫





放たれた砲弾は、男を飲み込み、青く、冷たい息吹を巻き上げながら爆散した。

その爆煙の中を突き破るように、男がコンクリートの地面へと叩きつけられ、動かなくなった。



全身に、氷が張り付いて、口からは血。腕と胴が、ひしゃげているようにも見える。そのあまりの様子に、私も、男たちも言葉を無くす。





「・・・どうしたの、僕やらグラース執務官を殺そうとしたでしょ?
なのにそれでなんでそんなに驚くのさ。そんな権利、お前らには無い」





なぎ君の口調はいつもと変わらない。いつもの、トボけたような、ふざけてるような、そんな口調。



だけど、それに震えが走った。言葉とは裏腹に、なぎ君の周りの空気が、完全にいつものなぎ君の物じゃない。

もっと、冷たくて、刺すような、そこ冷えのするものに変わったからだ。あの女の人と同じくらいの・・・殺気。



間違いない。なぎ君、怒ってる。それも、本気で。



多分、あれがはやてさんの言ってた・・・修羅モードのなぎ君なんだ。



それに気づいていないのは、きっと男たちだけ。

数の方では上。そしてこちらは手負いの人間が居る。そんなアドバンテージのせいで、平然となぎ君をあざ笑ってる。





「アルト、いくよ」

≪はい≫





その次の瞬間、残った男四人が、デバイスを・・・なぎ君に向ける。





その先には、巨大な魔力の光・・・高出力の砲撃魔法っ!? こんな場所で、そんな出力のものを大量に撃ったらとんでもないことになるっ!!





「大丈夫」

「えっ!?」





傷付いたグラースさんの治療をしながら、なぎ君と一緒にきた女性は答える。





「やっさんとアルトアイゼンの本気で全力全開なら・・・すぐに終わるから」

「・・・邪魔」





撃ち出された高出力の砲撃魔法は、なぎ君の方へと飛んだ。



そして、その全てがなぎ君の前で爆散した。いや、たった一刀ですべて斬り払われた。



その光景に、私も、男たちも唖然とする。それに意を介していないように、なぎ君が歩を進める。ゆっくりと、前へと。





「こっからは僕とアルトのターンだ。お前ら、1ターンでオーバーキルにしてやるよ。
いいよね? ・・・・・・さぁ、お前達の罪を・・・・・・数えろ」

≪答えは聞いていませんがね≫



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ぐぬぉぉぉぉっ!!」





手下っぽい二人が襲ってきた。正面から・・・明確な殺意を持って。



杖の先から魔力を圧縮させて、刃を作り上げ、斬りつけるっ!



だけど、それは僕に届く事はなかった。



バキンっ!





「なっ!?」



僕が無造作に振ったアルトによって、その魔力刃は見事に圧し折れたからだ。



そして・・・僕は。





「鉄輝・・・」



アルトに魔力を込める。古き鉄は、青き閃光へと生まれ変わる。だけど・・・その光は、いつもよりも力強く、そして荒ぶる怒りを秘めている。



「一閃っ!!」



雑魚二人の胴に、アルトを右からの横薙ぎ一閃で、斬り裂くっ!!



「ぐへっ!」

「ごはっ!」





二人は吹き飛ばされて・・・壁へと激突する。そこから、ぴくりとも動くことはない。





そして、僕は二歩下がる。なぜなら・・・。



上から、スピアを突きつけてきた奴が居たからだ。そいつのスピアは、地面に空しく突き刺さる。



すぐに左手でそいつの胸元を掴んで・・・力任せに、床に叩きつける。





「・・・邪魔っつったろうが」

≪Break Impulse≫



発動した魔法により、男の胸元に衝撃が注ぎ込まれて、身体が地面にめり込む。

そこから手を離してすぐに、魔力スフィアを生成。それを放つ。



「クレイモア」





その次の瞬間、スピアも、その使い手も、散弾に撃ち抜かれて・・・倒れる。

ま、非殺傷設定だけどね。・・・いや、こう考えると残酷だよ。



とにかく、これで雑魚敵は全て終了である。





「な・・・っ!」





なんか驚いているリーダー格のやつへと・・・一歩、また一歩とゆっくり歩み寄る。





「く、来るんじゃねぇっ!」





そいつが、何発か砲撃魔法を撃って来る。このまま直撃すれば大怪我間違いなしな威力で。距離もよけられないような近さ。だけど・・・。





「無駄」










まるで、子どもの手を振り払うような手つきで、アルトを振るう。刀身には、青い魔力。それによって、砲撃魔法は斬り裂かれ、爆散する。





もう一発・・・。今度は、上から打ち込む。同じように斬り裂かれ、爆散。





何発も打ち込んでくるけど、、それら全てを打ち払っていく。当然僕達にダメージはなし。





普通ならこんな真似は出来ない。だけど・・・今の僕とアルトなら出来る。

身体を突き動かすのは、久方ぶりに感じる本気の怒り。感情が、普段は抑えてるものの鎖を砕いて、解放する。





こいつら、潰す。





もう二度とこんな事が出来ないように、徹底的に・・・壊す。










「・・・ギンガさんは化け物なんかじゃない」

「な、なに言ってやがるっ! そいつの身体の中には機械が」

≪Stinger Ray≫





左手から放たれた光の弾丸は、的確に・・・男の左ひざを撃ち抜く。



その痛みに耐え兼ねて、男は崩れ落ちる。ギャアギャア騒ぎ出した。・・・うるさい。





≪Stinger Rey≫



今度は、男の目の前に着弾。目の前で床が穿たれる光景に、男が顔を青くし、黙った。



「・・・だから、なに? ギンガさんは・・・口うるさくて、おせっかいで、その上、人の話は聞かないしむちゃくちゃよく食べるし・・・だけど、すっごく優しくて暖かい人だ。
そして、僕の大事な友達だ。お前ら、そんなギンガさんに、いったい何をしようとした?」

≪あなたがた、手を出す人間を間違えましたね。残念ながら、今回は私も止めるつもりはありません。それはなぜか。
・・・私も、徹底的に叩き潰したいからですよ。彼女は、私にとっても友人ですから。さぁ、フィナーレです≫





大事な友達を・・・お前らは『モノ』として扱おうとした。



勝手な理屈で、オモチャにしようとした。



ギンガさんの今を、壊して楽しもうとした。さぁ、その代価を払ってもらおうか。



お前らの今・・・破壊してやるよ。





「く、くそっ! それなら・・・」





そいつは、崩れ落ちながらもロッドを構える。その矛先が、ギンガさんに向く。・・・無駄。





≪Struggle Bind≫





そいつの足元に、青いベルカ式の魔法陣が発生する。そしてそこから、青い鎖が生まれ、男の身体を締め上げる。



ストラグルバインド。僕が昔から使い慣れている拘束魔法。それに縛り上げられ、男は縄に持ち上げられるようにして、身体を宙に浮かせる。

何のために足を打ち抜いたと? おかげで仕掛けるの楽だったし。





「くそ・・・。離せっ! 離せっ!!」

「離してあげるよ。・・・いや、苦しそうだから、今すぐそれから解放してあげる」





僕は、男の前に立つと。そうすると、アルトの刀身に、魔力が宿っていく。青く、凍れる絶対零度を秘めた魔力が。



安心して。なぶり殺しにはしないよ。でも・・・ケジメだけはつけてもらう。





「・・・すぐに楽になれるよ。足を打ちぬかれたときとは違う。もう、なにも考えなくてすむ。よかったね」





そう言って、僕は笑う。



そして、男が更に青ざめる。



そう、僕がやろうとしていることがわかったから。そして、その結果自分がどうなるのかも。





「やめろっ! お前・・・ふざけんじゃねぇぞっ!?」

「まじめだよ。すっごくね」



アルトを振り上げる。カートリッジを三発使う。魔力が上乗せされる形で、更に刀身に宿る。



「そ・・・そうだっ! 見逃してくれれば金をやるっ!! それも、相当な額だ。こんな機械女助けるよりはずっと・・・」

「消えろ」





もう古き鉄は、凍れる刃へと、その姿を変えている。躊躇う理由など・・・ないっ!!





「氷花・・・・・一閃っ!!」










そうして振り下ろした刃は・・・愚かな男を一人飲み込んで、闇を切り裂いた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あー、その後のことを語らないといけないわな。

このすぐ後、俺と108部隊の人たちが現場に駆けつけたんだけど・・・偉い事になってたわけですよ。原因はもちろんあの弟子コンビ。





もうあの二人だけは、絶対に組ませちゃいけないって実感するような有様だった。

最悪止められる人間を入れるべきだ。ちなみに、俺には無理。





犯人達も下手をすれば・・・いや、二人の実力を考えると、完全無欠に過剰防衛と取られてもおかしくないような叩きのめされ方をしていた。

一応言っておく。殺してはいない。

ただ、殺していないというだけで、精神的にも肉体的にも、その2歩手前くらいまで徹底的に痛めつけられていた。・・・恐ろしいやつらだよ。





で、今回とばっちりとも言うべき形で大怪我を負ったグラース執務官は、応急処置のおかげで命を取り留めた。

・・・まぁ、本人は不覚を取ったし、色々と因縁のある俺たちに助けられたって悔しがっていたけどね。あと、やっさんに助けられたのも不服そうだったようだ。

あいつ、やっさんみたいな自由気ままなやつは好きじゃないしね。ただ、それで実力を認めないっていうわけじゃないのが凄いけど。





で、今回あのギンガちゃんを襲ったのは・・・実は局のエリート魔導師。・・・なんというか、腐ってるよね。管理局って。





やつらは上層部のバカ数人から子飼いにされている連中で、今回の事件以外にも色々とやらかしていた。





そう、これは局の上の人間が起こした犯罪だった。当然、ぶっちぎりでスキャンダルですよ。





で、そいつらから金をやるからさらえと命令されたそうだ。その連中はギンガちゃんをさらってどうしようとしてたかというと・・・知らないほうがいいと思う。

うん、知らないほうがいい。人間には、掛け値無しに殺してもいいんじゃないかって思えるやつが居るってことを再認識するだけだから。





その命令したやつらには、後日、俺と相方とできっちりと制裁を加えました。・・・いや、スポーツライクにだよ? やっさんはエグイから。





しっかり恐怖を叩き込んだ上で、権力なんかで逃げられないようにもした。

今回の件に関係有る無しに関わらず、連中がやってた違法行動の証拠の数々も探し出した上で、グラース執務官に突き出した。

・・・情報網を、引退した時からずっと更新・保持してて正解だったよ。証拠を探すの、むちゃくちゃ楽だったし。





あと、ギンガちゃんの素性が他のバカ連中にばれないように情報制限もかけた。

ようするに、あの場にギンガちゃんは居なかった。

体外的にはそういう話にしたのだ。狙われたのは、油断しまくって不意打ちかまされたキザ執務官と、一人の嘱託魔導師だけ。





あ、実行犯だったあの腐った連中も、その突き出された首謀者共々、当然のように軌道拘置所行きが決定した。

そりゃそうだ。管理局はバカだけど無能じゃない。悪党放っておくほど、威信ってやつが大事ってわけじゃない。天網恢々疎にして漏らさずなのである。





あと、即日でその他色々な防御作を、講じた。ただ、これは俺たちだけじゃない。

キザ男と、やっさんから事情を聞いて、ギンガちゃんの力になって欲しいと頼まれたクロノ提督と一緒にである。





・・・これは、クロノ提督から聞いたんだけど、やっさんは頭を下げて、必死に頼み込んできたそうだ。ギンガちゃんを守って欲しいと。

自分はいい。でも、大事な友達にまたあんな思いはさせたくない。同じ事で泣かせたくない。だから・・・力を貸して欲しい。そう言ったそうだ。

家族であるが故に、依頼以外で提督という立場を使っての干渉はしないと決めていたクロノ提督も、これには負けて・・・協力してくれたのだ。





その話をしていた時のクロノ提督は、お人好しで、どうにもバカな義弟だと呆れながらも、少し・・・嬉しそうだった。

なので、もうこれで、同じようなことで襲われる心配はないはず。ある意味、見せしめにもなってるしな。




















ここまで言うと、見事に無事解決・・・なように聞こえるかも知れないけど、問題があった。それは当事者とその友達である。





まず、今回の件で、怒れる修羅と化したやっさんとアルトアイゼンは、俺たちの制裁に加わる気満々だったけど、このコンビはまた別口で大変だった。

あの怒れる修羅達でさえ勝てないものがある。それは、家族と友達と師匠と片思いの相手だ。





なんでも、今回のやっさんとアルトアイゼンの犯人に対する過剰威圧と過剰防衛を知った仲間内から、そうとう絞られたそうだ。

それのみならず、ペナルティとして事件後、二週間の外出禁止を食らった。

その間、ずっとハラオウン執務官が付きっきりだったとか。・・・つか、あの人すごいよね。

2ヶ月とかの長期任務の途中だったのに、それを即効解決させて、やッさんのために戻ってきたんだよ?





で、説教しつつ、泣かれたらしい。それもそうとう。

『あの』やっさんがそれ見て、本気で反省したと言ってた。で、出来うる限り今回みたいなことは無しな方向で頑張っていくとか。





真面目に言っていい? 俺達は、何のジョークかと思ったよ。ただ、ジョークじゃなかった。

この後、やっさんの過激行動は、あくまでも多少ではあるけど、抑えられるようになったから。

ハラオウン執務官は、それを見て、少しだけ嬉しそうだったとか。つか、アイツ、やっぱりハラオウン執務官に・・・なんだね。よし、今度からかってやろう。





・・・後日、それをやって殴られました。みんな、アイツの前で、ハラオウン執務官の胸の話はしちゃだめだぞっ!?





で、その説教の内容というと・・・『犯罪者といえど人権はある』という理念のもと怒られたらしい。いや、正直人権は無いと思うよ? とくに今回の場合。

やっさんや、噂話やらでは聞いてたけど、高町教導官やハラオウン執務官、その仲間内は、相当な理想主義者の集まりらしいね。

あとでお説教の内容を聞いたんだけど、発言が現実離れしてるように感じてしまったさ。





とは言っても、そう思っても仕方ないんだけど。

・・・ギンガちゃんの素性を知られないために、やっさんがあのキザ執務官の怪我にキレて、一方的に大暴れしたみたいな情報しか入ってきてないはずだし。

なお、クロノ提督は事情を知ってはいたけど、一切の養護はしなかった。やっさんが、ギンガちゃんさえ守ってもらえれば、それでいいと言ったしな。

ただ、そこは兄弟。謹慎が解けた途端に、焼き鳥屋で食いつつ飲みつつ色んな話をしたとか。・・・やっさんの奢りでね。それが代価らしい。





とにかく、やっさんには今回、色々と泥を被ってもらう結果になったし、フォローしないといけないなと、相方と相談中だったりする。





あと、これは蛇足なんだけど、この事件終了後、こんな風評が、アングラや局内で囁かれ始めた。





『古き鉄を敵に回したものは、何者であろうと全てを撃ち抜かれ、あらゆる意味で殺される。
死にたくなければ、敵に回すな。やつの周りで、やましい事をするな。
そしてなにより、やつと親しいものに手を出してはいけない。自分が、この世に存在したことを後悔させられる』・・・と。





・・・やっさん、よかったね。これで、憧れのリ○・インバースになれたじゃないのさ。実際、今の風評もそんな感じだし。

俺達が二人で全力全開で、無い事無い事無い事触れ回った甲斐があったよ〜。




















そんな話をしつつも・・・とにかく、これで事件は解決・・・といけばよかったんだけど、そうは行かなかった。そう、それがもう一つの問題だ。





ギンガちゃん、今回のことがかなりショックだったらしく自宅に閉じこもっているそうだ。





そりゃあ・・・そうだよな。自分の身体を『化け物』呼ばわりされた上に、自分のせいで無関係な人間を命の危険に晒したと思っちゃったんだから。

俺は直接話しちゃいないけど、やっさん達の話だと、結構責任感の強い子らしいし、辛いのは当然だと思う。

多分、他の人間がギンガちゃんのせいじゃないって言っても、そうは思えないんだろう。





それを見かねた父親である、ゲンヤ・ナカジマさんが一計を打った。

今回の一件に関わった人間。つまり・・・俺や相方、やっさんとグラース執務官を呼んで、事情説明したいと連絡が来たのだ。





だけど、俺は調べまわってた時に事情を知ってしまっている。

その旨と、娘さんのことを勝手に調べた事に対する謝罪をして、謹んで遠慮させてもらった。

グラース執務官も、なにやらかっこつけたこと言って断ったそうなので、やっさんと相方だけがその場に行くことになった。

つか、あのキザ執務官。昔と全然変わってないし。どうしたらあぁなるのか、是非聞きたいよ。




















しかし、思えば俺達二人は歴史の生き証人になりそこなったと思うね。










あのやっさんが。










1から5まであるフラグのうち、3までしか立てられなかったであろうあのやっさんが。










ハラオウン執務官の恋心故に、『次元世界の恋の敗残兵』の二つ名を持つやっさんが。いや、これは俺達がつけたんだけと。










とにかく、あのやっさんが、1から5まであるフラグのうち、4までを立てたであろう瞬間に立ち会えなかったんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・戦闘機人」

「そうだ。さっきも言ったが、ギンガと・・・あと、妹のスバルは、とある研究施設から、俺の嫁のクイントが助け出してな。
アイツ、自分に似ているからってことで、二人をそのまま引き取ったんだよ」

「それで、ギンガさんと・・・その妹のスバルって子は、ゲンヤさんの子どもになって、今に至ると」

「そうだ」





ギンガさんは、俯いたままだ。ずっと黙ったままで、目も合わせてくれない。・・・ったく。





ゲンヤさんから呼び出されて、マリエルさん同席の元いろいろと話を聞いたのだけど、結構重いな。





戦闘機人。人の身体に機械を埋め込んで作り出される人工生命体。そして、ギンガさんの身体の一般的呼称。





なぜそういった技術が生み出されたというと、これには一つの理由がある。

これは、当たり前といえば当たり前なんだけど、魔法というのは先天資質に大きく左右されるものだ。

ようするに・・・使える人は使えるし、使えない人は使えないというシロモノ。





使える人だけを見ても、なのはみたいに砲撃などの大出力放出が得意なタイプや、フェイトみたいに魔力を圧縮させての斬撃が得意なタイプ。

僕のように魔力のコントロールには長けていても、二人のような膨大な魔力はないタイプなど、個人の資質によって様々なタイプに分岐してしまう。





まぁ、だからこそ局の魔導師は慢性的な人手不足って言われているし、高能力者は優遇されるんだけどね。

そして、過剰な戦力によるミリタリーバランスの崩壊なんていうのも、防げるわけだ。





そして、その仕方ないといえば仕方ないバラツキ問題を、色々なもんをぶっちぎったうえで解決したのが、戦闘機人の技術だ。





素体となる人間を、機械を埋め込んだ状態でも問題のないように生み出す前の段階から調整。

そうした上で、身体強化や固有の特殊能力などを生み出すための装置を備え付ける。人型の兵器として、使用するために。





つまり、人為的に安定した能力を持った存在を、これまた安定した形で多く生み出すための技術・・・ってことで大丈夫ですよね?










「うん、そうだね。もちろん、論理的にも大問題だから、違法技術の一つになっているんだけど・・・」





ただ、違法だからと言ってやらない人間ばかりじゃない。

・・・ギンガさんと妹さんを生み出したそのどこぞのバカも、その技術を確立したジェイル・スカリエッティってやつも、そういった類の奴だったってことでしょ。



「だね。しっかし、あの変態ドクターはまだ捕まってなかったんだ。なにしてんだろ局の連中」

「知り合いなんですか?」

「いんや。でも、私やあのキザの世代でジェイル・スカリエッティを知らないやつはいないよ?
なんせ、生体関係の犯罪のコンプリートを目指してるようなやつだから」

≪罪状を見るだけでスクロールバーが0.01ミリ単位になります。マスター、試してみるといいですよ?≫



・・・いや、やめておくわ。つーかそこまでの奴が野放しになってるんかい。



≪で、マリー姉さんはブルーガールと、その妹の主治医みたいな感じってことか≫

「うん、そうだよ。・・・でも、あなたまでいらっしゃるなんてびっくりしました」

「それを言ったら私もだよ。あ、戦闘機人やらなんやらのことじゃなくて、やっさんとマリーちゃんが知り合いだったってこと」

「恭文くんとは、魔導師になった頃からの友達なんです。プライベートでも仲がいいんですよ」

「なるほどねぇ・・・。いや、うちの弟弟子って意外とプレイボーイ? 話聞いてると本命以外で大人気らしいし」

「実はかなり」



・・・なんか聞こえるけど、話が話だし無視することにする。



≪・・・とにかく、話は分かりました≫

「ということなので・・・」





うん、ここまで聞いたらやることは一つでしょ。





「ご飯食べに行きません? 近くに、美味しいカレー屋さんがあるんですよ」

「あ、こないだ行ったとこ? あそこ美味しかったよね〜。うし、みんなで行くかっ!」





・・・あれ?





「なんでゲンヤさんもマリエルさんも黙ってるんですか?」

「いや・・・なんていうか・・・」

「お前さん方、今の話を聞いて、何の感想もなしかっ!?」

「ありません」

「特に・・・ねぇ」



・・・いや、お願いだからそんなに睨まないでくださいよ。怖いじゃないですか。



「まぁ・・・そういう事情だったのなら、最初から話せなかったのも納得ですし」

「私も。さっきも話しましたけど、捜査官時代にギンガちゃんみたいな子の話やら事件には散々関わってきましたから。
今さら特にどうこうっていうのはないですね。もちろん、それが当たり前とは思ってませんけど」

≪私も同様です。あぁ、一つだけ疑問があります。・・・不謹慎なのを承知で聞きます。ギンガさんが大食いなのは・・・それ故なのですか?≫



アルト、それは本当に不謹慎だよ。・・・まぁ、僕も気になるけど。



「いや、遺伝だ。さっきも話したが、ギンガとスバルは、うちの女房の遺伝子が元となっている。
クイントも大食いだったからな。いや、付き合い始めた頃はびっくり・・・って、お前らが疑問に思う所はそこかっ! もっとあるだろ他にっ!!

「まぁまぁ落ち着いて・・・。恭文くんもアルトアイゼンもこういう子ですから」

「そうですよゲンヤさん。あまり怒ると脳の血管に負担が・・・」

「お前らの発言をどうにかしてくれれば、そんな心配はしなくてすむんだがな?」

≪これが私達のいいところですよ≫

「そうですよ。僕達にシリアスなんて、似合うわけがないじゃないですか」





・・・ゲンヤさんが頭抱えてるけど、そこは気にしないことにした。さーて、無事に解決。ご飯だご飯♪





≪・・・ギンガさん、そういうわけなのでご飯にしましょう。マスターも恵比須顔になるほど美味しいお店です。
ナンとライスはお代わり自由ですので、きっとあなたも満足するでしょう≫

「うんうん、すっごく美味しいんだから。早く行こう?」

「・・・どうして?」

「え?」





俯いていたギンガさんが、顔をあげた。



その表情は硬く、不安で満ち溢れていた。そして、瞳は・・・僕を真っ直ぐに見る。ゲンヤさんでもマリエルさんでもない。僕を。





「どうして・・・そんなに平気な顔してられるの?」

「どうしてと言われましても・・・」

「アルトアイゼンやそちらの方が大丈夫なのは・・・分かったよ。でも、なぎ君はどうして平気なの?」



・・・納得出来ませんか。



「・・・私、人間じゃない。生まれた目的も、守るためじゃない、何かを壊すため。今だって、身体の中に、そのための力が・・・ある。
それに・・・なぎ君を危険に巻き込んだ。迷惑をかけた。危うく、死なせるところだった」



はぁ。このまま日常には戻れないってわけですか。うん、わかってた。・・・じゃあ、もうちょい真面目にやるか。



「それで、ギンガさんは疑問なわけだ。
そんな目に遭わせたのに、なんで僕が平気でいられるのかとか。人間じゃない、壊すために産まれた自分を、怖くないのかとかどーだとか」

「・・・うん」

「平気だよ。で、怖くもないよ」



ハッキリと断言してやった。正直な気持ちを。



「うそ・・・。だって・・・私・・・」

「まず一つ、人間じゃないからどーこーって話をしたら、アルトはどうなるのさ。はやての家の末っ子のリインは?
・・・二人とも、人じゃないかもしれない。だけど、僕にとっては大事な存在だもん」



二人とも、僕の大事なパートナーだよ。二人が居たから、僕はここに居るし、戦える。うん、一人じゃないから・・・強くなれるの。



≪マスター・・・≫

「逆にギンガさんに聞きたいよ。それを言ったら、僕は怖くないの?」





あんな大暴れかましてるし。特に今回は、ぶちギレ修羅モード開放しちゃってるし。



なお、僕の後ろで傍観決め込んでるお姉さんは怖かったそうです。真面目な話、アレとはやりあいたくないって思ったとか。





「でも、なぎ君は・・・人間だよね」





自分とは、違う。



そう言いたげなニュアンスを含んだ言葉に呆れつつも・・・僕は言葉を続ける。今のギンガさんの考えが、間違いにも程があるって伝えるために。





「そうだね。でも・・・僕だって、ギンガさんの言う人間の力だけど、場合によっては壊すための力だよ?」





いや、ちょい違うか。場合によってじゃない。





「僕ね、殺したことがあるの。この手で・・・人をね」





ギンガさんが『え・・・?』というような表情で僕を見る。



まぁ・・・リインと会ったばかりで、アルトや先生、なのは達と会うまでの間の話だけど、僕は魔導師としての戦いの中で人を殺した事がある。

小隊規模の連中を相手にして、正当防衛もいいところだったけど・・・人をこの手で殺めた。命を、踏みつけにして、奪った。





まぁ、今は人の命を奪うようなとこまで真似はやっていないけど。そう思わせるような発言をして、相手をビビらせることはしてもね。

・・・うん、結構ギリで踏みとどまってる。今回もそれだったし。一応心構えはしてるけど・・・それでも、ね。



殺しても、守りたいものの全部は守れないから。取りこぼして、悲しい思いをさせるから。出来るなら、やりたくない。





「僕から言わせれば、壊すための力なんてのは、人間か人間じゃないかって話とは、明らかに別問題だよ。
僕達はそういう意味で言えば、みんな壊すための力がある。・・・殺すための力が。誰かを傷つけて、不幸にして、奪うための力がね」





今回やりあったあの雑魚もそうだし、なのはも、フェイトも、はやても。僕もそうだし、ギンガさんも。みんな、基本は同じだ。





「ギンガさんはさっき、生まれたのは壊すためって言ったけど・・・今までそのためだけに力を振るってたの? そうしようと思って生きてきたの?」

「そんなことないっ! 私、母さんや父さんから、人間として育てられたっ!!
そんな生き方だけが全部じゃない。そう教えられたっ! だから・・・私・・・!!」





でしょ? だったらいいじゃないのさ。





「そりゃあ、ギンガさんがそういうことを平気な顔してやる悪党だったら怖いし、お近づきになりたくないって感じるかもしれない。けど、そうじゃないもん。それで、なんでギンガさんを怖がる必要があるのさ」





少なくとも、僕にはない。そんな理由、0だ。





「まー、さっきはちゃんと言ってなかったしね。だから、言うね。普通の人とは身体が違うからなんて、ギンガさんを怖がる理由にならない」

「なぎ君・・・」





力は、結局力でしかない。

力をどういう形で振るうかは自分自身で決めること・・・なんだよね。きっと。





「それと、最期。僕を危険に巻き込んだことだけど・・・」



座り込んでいたギンガさんと視線を合わせるようにして・・・しゃがむ。



「別に気にしてない。僕だって・・・ギンガさんを巻き込むことがあるかもしれないわけだし」

「でも・・・!」

「それにね、ギンガさん。一つ、大事なこと忘れてる」





ギンガさんの両手を握る。伝わるのは・・・暖かくて、優しい温度。

少しだけ、ドキドキしてしまうような、そんな甘くて熱い温もり。





「大事なこと?」

「そうだよ。・・・僕達、友達でしょ?」





少なくとも、僕はギンガさんを友達だって思っている。今この瞬間も。友達だったら、相手が困っていたら助けたいと思うのは当然である。



まぁ・・・色々考えましたよ? 説教は適度に聞き流しつつ謹慎中ずっと。つか、説教なんぞよりこっちの方が大事なのよ。



真面目に話せば、ギンガさんが人じゃないって聞いて、衝撃も受けた。これからどうしていこうって、アルト共々かなり考えた。



で・・・出た結論は一つ。



ギンガさんと友達でいる。というより・・・友達で居たい。

こんなことで、せっかく仲良くなれた女の子との縁を切るのはバカバカし過ぎる。

もう一回くらい、アイツらをぶっ飛ばしたくなるくらいに、バカバカしいと思う。もちろん、非殺傷設定で。





「なぎ・・・くん・・・・」

「まぁ、ギンガさんが僕を友達って思うのが嫌だっていうんならしかたないけど。
僕は、ギンガさんの言う『壊す』戦いをしてるわけだし。今も、形は違うけど継続中だしね。この間みたいな事も、必要と思ったら遠慮なくやるし」





実際問題として・・・僕は壊すために、殺すために戦ったことがある。そして現実に殺した。

生きるためとはいえ、友達を守るためとはいえ、その事実は変わらない。

そして、誰かの何かを壊すことはやめてない。願いを壊し、想いを壊してる。



それが歪んでるかどうかなんて、問題じゃない。壊しているのは事実なんだから。

だから、ギンガさんが今の話を聞いて僕を拒絶したとしても、それはきっと・・・仕方ない。





「そんなことないっ! 私、今の話を聞いても、あの時の怒ってるなぎ君を見ても、なぎ君のこと友達だって思ってるよっ!!
こんなことで、なぎ君の見る目を変えたりなんて・・・」

「・・・変えたり・・・なんて、なにかな?」

「変えたりなんて・・・しない。絶対に。・・・ごめん、なぎ君。私・・・怖かったの」





ギンガさんの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

いつもの凛として強気な印象は・・・そこには感じられない。





「私・・・こんな身体だから・・・。なぎ君、離れちゃうんじゃないかって。化け物だって思うんじゃないかって・・・。
すごく、怖かったの。そんなの絶対に嫌で・・・嫌で・・・」

「・・・どうして、嫌だったの?」

「友達・・・だから。私、なぎ君のこと・・・大好きな友達だって思ってるから。だから・・・絶対に・・・」

「そっか。なら、安心して欲しいな」





ギンガさんを優しく抱き締める。そして、安心させるように頭を撫でる。大丈夫だから・・・。





「僕も、ギンガさんと同じだよ。せっかく友達になれたのに、離れるなんて嫌だよ」

「ほん・・・とに?」

「ホントだよ。つか、化け物なんて、思うわけがないじゃないのさ。
ギンガさんの身体がなんだろうが、それでギンガさんと僕が一緒に居た時間の何が変わるの? ・・・変わらないよ。変わるわけ、ない」





正直、身体のことは・・・何にも言えない。

僕がそれをあーだこーだ言うのも違うから。だけど、これだけは言える。ギンガさんと一緒に居て、刻んだ時間と記憶。それは、変わらない。

変わるわけがない。僕だって・・・楽しかったんだから。



ギンガさんが居るのが、楽しかった。一緒に過ごした、ほんの少しの時間が、大事な思い出になってる。

僕は知ってる。人は偽る。世界も偽る。だけど・・・自分の中にある記憶と時間は、偽らない。ただ、そこにあるだけだから。

それは、ギンガさんの中にもあるはずだから。だから、偽れない。



だから、選ぶ。身体のことも全部含めて、ギンガさんと友達で居る道を。僕が、そうしたいから・・・選ぶ。



そんな気持ちが伝わるように、ギンガさんを抱きしめていると・・・ギンガさんが、僕の肩に顔を埋めてくる。というか、髪のいいにおいが鼻をくすぐる。

なんていうか、やましい気持ちは無い。ただ・・・安心させたい。きっと、本当に怖かったはずだから。





「だからね、僕は大丈夫。ギンガさんは、ギンガさんだもん。
ギンガさんも、僕で大丈夫かな。僕のこと・・・怖くない? 嫌じゃ、ない?」

「・・・うん、怖くない。怖くなんて・・・ない。嫌なわけ、ないよ。なぎ君は、なぎ君だから。私も・・・変わらないよ。変わるわけ、ないよ」

「ありがと。・・・ほら、僕達同じこと考えてたんだよ。だったら、今まで通りだよ。ね?」

「うん・・・!」










・・・こうして、この事件は幕を閉じた。ただ、僕の言ったことは少しだけ間違っていた。今まで通りになどならなかったのだ、





変化したことは二つ。一つは、この一件で僕は、ギンガさんとの繋がりを、今までよりも強く、硬いものにしたということ。

結構、色んな事を話すようになった。僕もそうだし、ギンガさんも。互いの暗い部分も含めて。





そして、ギンガさんは、なぜだか、僕の世話を焼くようになった。いや、ミッドに引っ越してきたり、108の仕事が多くなったからなんだけど。





ただ、なんというか勢いが凄いのですよ。えぇ、それはもう。

























(本編へ続く)











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あきゅろす。
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