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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第20話 『強襲』


いやぁ……ほんと、誰も彼も派手に暴れてくれますね! 神社でドンパチの次は、診療所が乗っ取りですよ!

幸い急な休診日とかで、誰もいなかったのが幸いでしたけど……重火器を持った奴らが相当暴れてくれたようで!

会議室で赤坂さん達とお話していたら、急に舞い込んだ一報……それで全員がソワソワです。


「……大石さん」


そんな中で悔恨の表情を見せるのは、巴ちゃん。机に突っ伏し、プルプル震えまくっていますよ。


「私……神社でドンパチした人のどっちかに、紹介されるんですよね」

「……そう、ですね」

「その前に結婚したいです……!」

「無理だと思いますよぉ、それ……」

「巴さん、もう腹を決めましょうよ。ほら、お見合いと思って……ね?」


同性の御剣さんが必死に宥(なだ)める中、赤坂さんは渋い顔で腕を組む。


「まぁ南井警部は御剣さんにお任せするとして……診療所は鷹野一派でしょうか」

「ですがおかしくありませんか? 診療所は彼らにとってホームベースです。それをわざわざ、事を荒立てるように……」

「しかも誰もいないと来ていますからね。だが、このタイミングでコレというのは……」

「あの……」


すると御剣さんが、ビクビクしながら……半笑いで挙手。


「犯人、分かっちゃったんですけど」

「本当ですか!」

「いや、分かったっていうか、もしかしたら……っていうかー!」

「――失礼します!」


すると現場の状況を調べてくれていた熊ちゃんが、慌てた様子で飛び込んできた。


「おぉ熊ちゃん、待ってましたよー! それで」

「大下さん達の方は問題ないです。”武装集団”は御剣さんが連れてきてくれた忍者さん達に引き渡す形で。
それと診療所の方は、署の機動隊が取り囲み、犯人と交渉中です。……ただ」

「ただ?」


あれ、熊ちゃんも半笑いだ。御剣さんみたいに、頬がヒクヒクしてるし。一体どうしたんだと思っていたら……。


「えっと……全員マスクにサングラスをかけていますけど、主犯はやたらとステップが鮮やか。
警官隊に空砲で威嚇射撃をしたとき……『動くなベイビー』、『どうも、私です』と言っていて」


………………………………………………熊ちゃんの告げた現実が受け入れられず、一瞬……本当に一瞬、首を括(くく)りたくなった。

それは赤坂さんも、巴ちゃんも同じ。プルプルと震えながら御剣さんを見やる。


「他、には……」


その御剣さん、絶望し切った様子で頭を抱えて、巴ちゃんの代わりと言わんばかりに突っ伏しているのに。


「あとは、かなかな言う女の子と、丁寧口調の女の子……以上っす」

「あ、うん……ありがと。とりあえずあれだ、現場には……犯人を刺激しないよう、取り囲むだけにしておいて。多分、それが狙いだから」

「そう、指示しておきました……」


あぁ、熊ちゃんも報告を聞いて、確信しちゃったんだ。いや、その、確かに……一番安全な場所かもしれないけどぉ!


「……赤坂、さん」

「ベイビー……どうも、私です…………あは、ははははは……!」

「やっぱ、間違いないっすよね! 診療所に立てこもっているのは」

「何も! 何も言わないでください!」

「……………………」


蒼凪さん……というか前原さん達もぉ! これ、どうやって始末をつけるつもりですかぁ!

私は無理ですよ!? 本当に山くらいもらわないと……無理ですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「あ………………」


するとそこで、御剣さんの携帯に着信。御剣さんは震える手で携帯を見てから……慌てた様子で通話に出る。


「もしもし……恭文君!?」

『いづみさん、どうもー。実はちょっとお願いが』


当然のように巴ちゃんはそれを奪い。


「この――大馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」




とまとシリーズ×『ひぐらしのなく頃に』クロス小説。

とある魔導師と古き鉄の戦い〜澪尽し編〜

第20話 『強襲』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


午前十一時四五分。園崎本家前に止めた指揮車内で、電撃が走る。


「入江機関が襲撃された……!?」

『そうよ! あの忍者のガキが……小此木、園崎本家に突入しなさい!』

「三佐、その前に確認を。富竹二尉と入江所長は」

『入江機関よ! 回収しようと思ったら、急にドアが故障して……いいから速く! 本家にいるRさえ始末できれば、私達の勝利なのよ!』

「ち……!」


そりゃあ故障じゃねぇな。俺の第六感が告げている……。


(奴ら、機関のシステムにも入り込んでやがったのか……)


TOKYO WARの一件……いや、もっと前だな。篠原重工のHOSにウィルスが仕込まれていた一件で、警察の一部有志達は研究会を設立した。

いわゆるサイバーテロに対応する可能性を考慮し、その対策を構築する……まぁ『東京(とうきょう)』と似たようなものだ。

あくまでも今言ったように、一部有志による研究会……いや、勉強会って感じだが、それは年々規模を拡大しつつある。


TOKYO WARで警察・政府・自衛隊上層部が入れ替わり、ある程度風通しがよくなったのもあってな。

そこには確か、特車二課・第二小隊の元隊員が立ち上げたIT会社も絡んでいたはず。

……蒼凪恭文もそんな研究会の創生期から、積極的に顔を出していた一人だ。


忍者な上まだ十代前半ってことで、結構噂(うわさ)になっていたらしい。だが先見の明はあった。

現に核爆破未遂事件の際、過激派が使用していたSNS会社のサーバーを掌握したからな。

そうして奴らの犯罪を立証すると同時に、自らや鷹山刑事達にかけられたえん罪も晴らした。


そのときはあくまでも予見であったサイバー犯罪対策が、見事に実を結んだと言える。

そうだそうだ……奴はウィザード級のハッカー。しかも入江診療所には二度ほど立ち入っている。

一度目は顔見せだが、二度目は北条鉄平が暴れたとき……三佐も、俺達もいなかったときだ。


とすると、朝からの動きは丸見えか。だったら本家ももぬけの空とみていいが……あぁ、そこは後だ。


『それで殺しなさい! 邪魔する者は誰一人残すことなく……そう、全員よ! H173-2も使用許可を出すわ!』

「……了解。これより園崎本家に突入します。H173-2の使用検討はその後で」

『検討!? 私が……この私が使えと言ったのよ! 即刻使いなさい! そうすれば問題ないでしょう!』

「三佐……山狗への対ガス装備は、全て入江機関にあります。退避までの時間を作らないと使えませんぜ」

『それを何とかするのがあなた達でしょう! いいから』


三佐の金切り声は聞こえない振りをして、通信終了。指揮車内の空気が妙に重たくなるが、それは一喝で吹き飛ばす。


「狼狽(うろた)えるな! 作戦通り園崎本家に突入! もう準備はできているな!」

「各班、問題ありません!」

「それと入江機関とのラインは切っておけ! ここまでの通信も全て傍受されていたと見ていい!」

「そちらも問題なく! ウィルス等も現在検索中……あ、待ってください! 出てきましたよ……大量に!」

「……最新設備が仇(あだ)になったわけか」


昔ながらの電波通信ならともかく、装備をデジタル関係に更新していたからなぁ。そうなるとウィルスなどもやりようによっては……ってところだ。

自衛隊ってバックボーンのおかげで、いい武器や設備が使えるってのは嬉(うれ)しいもんだが、こういうときはなかなかに辛(つら)い。

キチンとした研修を受けている奴がいないと、途端に砂上の楼閣扱いだからな。


……だが、伊達(だて)に俺達も暇を貪ってはいない。そういう専門家を育てる時間なら、たっぷりとあったよ。


「だが駆除は問題ないんだな」

「はい!」

「よぉし……それと通信手段の遮断、改めて急げ! 広域ジャミングも使用を許可する!
谷河内(やごうち)にも連絡しておけ! 発煙筒を見ても散布せず、必ず俺に話を通すように!
こればかりは三佐の肩書きを気にするな! 毒ガスの巻き添えで発狂したいのなら別だがな!」

「はい!」


さすがに俺も巻き添えはゴメンだ。ここからは上手(うま)く嬢ちゃんの機嫌を取りつつ、とち狂ってブッパしないよう注意せにゃあならん。

もちろんH173-2を盾にして、古手梨花の身柄を要求するって手もある。だがそこで引っかかるのが、こっちの通信網を掴(つか)まれていた点だ。


「隊長、H173-2の存在を盾にして、奴らにRの身柄引き渡しを要求するのは」

「それは俺も考えたが……却下だ。既に小此木造園及び入江機関は奴らの手が伸び、証拠もどっさり掴(つか)まれているだろう。
谷河内(やごうち)の部隊も当然同じ。番犬部隊到着までには時間がかかるだろうが、それ以外……PSAなどが強襲を仕掛けた場合、完全に詰みだ」

「はい……」

「となれば、方法は一つ……」


完全に見誤っていた……『東京(とうきょう)』と番犬部隊への連絡要員である富竹だけを注意し、奴らをただのガキだと侮っていた。

情報戦を制したものが戦いを制する。近代戦の基本に乗っ取るのであれば、俺達はまんまと奴らに踊らされた。


奴らの狙いは最初から入江機関だ。

切り札である富竹を、Rを、協力者である入江所長を、鷹山・大下刑事達を囮(おとり)にした上で、この駒をかすめ取りやがった……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――入江診療所を制圧しました。そうしたら巴さんがまた凄(すご)い声を……!

鷹山さん達も近藤課長に怒鳴られまくったそうだけど、こんな気持ちだったのかー。


『アンタは何を考えているのよ! というか、レナさんまで巻き込んでぇ!』

「いや、仕方ないでしょ! 富竹さんと入江先生も捕まっていて、早急に救出する必要があったんですから!」

『じゃあこの状況はどうするのよ!』

「巴さん、署長共々言ってくれましたよね……後の始末は自分達でやると……あ、ちょっとすみません」


巴さんに一言断った上で、キーボードをカタカタと叩(たた)く。


「やっちゃん」

「山狗達、通信回線を切り替えてきたね。更にこちらとのラインも遮断してる」

「通信の盗み聞きはもうできないと……まぁ」


そう言いながら詩音が見やるのは、壊された無線装置。脱出するとき、やらかしてくれたらしい。


「そういう場合じゃないですよね、これ」

「それなら問題ないよ」

「ないんですか!」

「二重三重の策は張ってあるって」


何せこの日のために、最新の対テロ対策マニュアル、読みあさったからねぇ。まず一番の仇(あだ)は……ここが最新設備ってところ。

こっちのメインサーバーを押さえたってことは、それと繋(つな)がっていた奴らの指揮車もとっくに侵入済み。

まぁ対応はバッチリだよ。今ごろ必死になって、外部アクセスを断ち切ろうとしているけど……無理無理無理無理。


僕が仕込んだ防諜(ぼうちょう)ウィルスは、正真正銘の奥の手。核爆破未遂事件の教訓も生かして作ったものだ。

しかも方舟(はこぶね)事件で使われたHOSそのまま…………ではないけど、その凶悪性も真似(まね)ている。

不可視属性ファイルとしてシステムに入り込み、そのバックアップメモリや学習データなどに偽装・潜伏。


アクセスした対象に感染・発症を繰り返し、プログラム改変や論理的排除による抹消も見越し、自己修復機能も備える。


それに……向こうの通信がパーでも、大事なところはがっちり掴(つか)めているしね。


「……っと、すみません」


その辺りの調整もしつつ、巴さんとの電話に復帰。


「それでさっきの話ですけど」

『えぇ……!』

「有言実行、よろしくお願いします!」

『他力本願すぎるでしょうがぁ!』

「恭文くん……」

「やっちゃん、それは……」


おいこら待て! おのれら、そんな顔をするな! 納得したよね! おのれらだって同罪……距離を取るなぁ!


『自分で拭える程度に収めなさいよ! それくらいはできるでしょうがぁ!』

「そうしたかったんですけど、今回はちょっと無理だったんですよ」

『なんで!』

「毒ガスです」


巴さんがこれ以上怒って、血管が切れないうちに……入江機関のメインコンピュータをかたかたと叩(たた)き、データを送る準備開始。


『え、あの……なんて?』

「毒ガスです。散布するだけで症候群の末期症状を引き起こす、最悪の改良型を作っていました。……しかもそれは完成して、散布の準備を進めている」

『はぁ!?』

「ここからは入江先生に代わります」


電話をふらついている入江先生に預けて、僕はキーボード入力の速度を上げる。……急がないとヤバいしねー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


急に毒ガスと聞こえて、さすがに全員が身構える。それで巴ちゃんにくっつくようにして、電話から響く声に集中……!


『もしもし……お電話代わりました、入江恭介と申します』

「初めまして、南井巴です。それで、毒ガスというのは」

『……正式には『H173-2』。H173は治療薬研究のため、モルモットなどに投与し、雛見沢症候群の症状を加速させるための薬でした。
ただその治療薬開発の目処(めど)が立ったため、現物は全て破棄したはずなんです。それを……鷹野さんは、知らない間に改良していたようなんです!』

「具体的症状は……あぁ、蒼凪君が言っていた通り。ならあなたはどこでそれを」

『先ほど鷹野さん個人の端末を調べて! 先日死亡した間宮律子も、その実験体として殺されています!』


間宮律子……! 巴ちゃんと御剣さんが私を見るので、間違いないと頷(うなず)きを返す。

彼女は雛見沢症候群の症状に近い死に方をしていたけど、まさかそんなものの実験に……というか、どうして関わったんですか!

いや、そこはいい! とにかく大事なのは、そういう実験を繰り返し……そんな毒ガスが完成していることです!


『山狗達による号令、又は発煙筒による合図で発動とあります! すぐに止めないと、梨花ちゃんの死に拘(かか)わらず雛見沢(ひなみざわ)は……!』

「でも、待ってください。毒ガス散布ということは……飛行機か何かを使うんですか?」

『いえ、それは』

「マズいですよ……!」


それで私は知っている。そんな毒ガスを散布する方法が、あることを……!

というか、先日赤坂さん達と話したとき、ちょろっと触れましたから!


「谷河内(やごうち)はこの時期、農薬散布のためヘリが配備されているんです!」

「なんですって!」

「熊ちゃん! 発着場の飛行許可は!」

「申請自体はまだのはずっす! でも、先んじてヘリが準備されていてもおかしくないです!
入江先生、谷河内(やごうち)にその……山狗の奴らはいるんですか!」

『はい! 緊急事態や訓練に備え、中継基地のようなものを作っていると聞いたことが!』


あー、人気がない場所ですからねぇ! そういうのには持ってこいと! だったら余計にマズい!

そんな毒ガスを運び込み、作戦まで保管する場所があるってことですから!

でも、私達にはまだ楽観する心があった。それなら今使ったら、鷹野さんや山狗達も巻き添えですから。


さすがにそれで、ぶっ放すことはないだろうと……そう思っていたら。


『それと……』

「まだ何か」

『鷹野さんには雛見沢症候群の症状が見られます』


でもそんな楽観視は、入江先生の必死な声で容易に吹き飛ぶ。

しかもそれは十分にあり得ることだった。彼女の現状を考えれば、ストレスマッハですから。


『まだ軽度のものですが、これ以上負荷がかかると』

「散布命令を出しかねない……いや、そもそも離反を考えたのもそのせい!?」

『はい!』


そう言えばさっき、言ってましたよねぇ……! 発煙筒による合図もアリだって。

つまり? 鷹野三四がとち狂って発煙筒をブッパしちゃったら、その時点で雛見沢(ひなみざわ)は……いや、雛見沢(ひなみざわ)どころの騒ぎじゃない。

村全体に散布されるガスだ。風の流れとガスの性質によってはこの興宮(おきのみや)も……その周囲も危ない。


下手をすれば鹿骨(ししぼね)市全体が、とんでもバイオテロの被害に遭う……!? 冗談じゃない!

村民二〇〇〇人どころの騒ぎじゃない! その数倍……いいえ、数十倍の人間がバーサーカーとなって暴れ出すんですから!


「…………いづみさん!」

「すぐに向かいます!」

「私も」

「はいはい、巴ちゃんは待っていてくださいね」


巴ちゃんが慌てて立ち上がろうとするので、それはサッと制しておく。


「我々で何とか………………できるかなぁ!」

「大石さん、それは」

「私も最後に行ったのは随分前の話になるし、道には余り詳しくなくて! ナビも役に立つかどうか!」

「ふだん、余り人の出入りがない場所っすから……! 自分も自信が!」

『もしもし……電話戻りました。それなら大丈夫ですよ』


そこで蒼凪さんの声が響く。……そうか、本拠地を占拠して、毒ガスのデータも引き出しているんですよね。だったら何か手が……!


『谷河内(やごうち)にいる奴らの端……………………タを………………』

「あれ……恭文君? ちょっと電話が」


変なノイズが入ったかと思うと、電話が通じなくなる。ぷつりと切れて、ツーツーという電子音だけを響かせた。

一体どうしたのかと思ったら、御剣さんは苦い顔で舌打ち。


「……ジャミングか」

「例の山狗でしょうね。しかし困ったな、そうなると彼が何を伝えようとしていたかは」

「いえ」


御剣さんが慌ててスマホを取り出し操作。


「さすがに仕事が速い……! キチンとデータを送ってくれていますよ」


失礼ですが私も画面を見せてもらう。えっと……あぁ、これは航空写真ですね! それで興宮(おきのみや)署から現地までのルートも示されている!

えっと、文面にはこうありますね。衛星写真を利用したもので、鷹野の端末から引き上げたと……しかも裏付けはバッチリって!


「蒼凪さん、ナイスですよ! ……赤坂さん!」

「もちろんお手伝いしますよ」

「すぐに車を出してきます!」


これで彼らの戦いとその結末を、指を咥(くわ)えて待つ必要はないらしい。……我々も自分の戦いを始めるのだから。

だから巴ちゃんをその場に残す形で、会議室を飛び出る。外の熱気に当てられたかのように、全速力で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ほんと、ギリギリなタイミングだったというか、なんというか……! しかし困ったなぁ。こっちの携帯も潰しにかかるとは。

とにかく端末を操作して、ここのメインサーバーだけはしっかり確保しておく。……あとは、東京(とうきょう)への連絡方法なんだけど。


「恭文くん」

「広域ジャミングだね。TOKYO WARのときと状況が似てる」

「じゃあ、ここから『東京(とうきょう)』に連絡するのは」

「無理。しかもこれ……」


念のために、奴らのシステムを改めて検索……………………あ、やっぱ駄目だ。


「システム経由の遠隔操作≪リモート≫じゃない。元々村に設置していたものを、手動で動かしてる。こっちから操作できない」

「恭文くんでも無理なんだね」

「電話線が繋がっていないようなものだしね」

「それでも山狗達の通信は大丈夫」

「逆を言えば、そこは利用しやすいってことだ」

「じゃあ谷河内(やごうち)の方は……!」

「もう巴さん達に任せるしかない」


一応データは何とか送れたし、仮にも地元だしね。まぁ何とかしてくれるでしょ。

こっちでできることは……状況を上手く動かして、奴らがH173-2を使いにくくするだけだ。


「ただ向こうの……小此木? なかなかにやり手だよね。H173-2の存在を持ちだしても無意味だって、よく分かってる」

「……まぁね」

「蒼凪さん、それは……どういうことでしょうか。H173-2があれば、梨花さんの身柄を引き渡すよう要求することは」

「できません」


……魅音達と一緒に立てた作戦ではこうだよ。とにかく奴らに嫌がらせ!

奴らが梨花ちゃんの死亡疑惑で右往左往している間に、富竹さんや赤坂さん、劉さん達が話を進める。

でもこれは残念ながら、HGS部隊投入などで瓦解。梨花ちゃんの遺体についても、その存在がかなり疑わしくなった。


だからこその第二プラン。それをキッカケに奴らが園崎本家襲撃を企て、富竹さん達を入江機関に拘束したところで……その機関を襲撃。

奴らの本拠地を押さえるのと同時に、キーマンである富竹さんと入江先生の身柄も確保。確実に番犬部隊招集をかけるってわけだ。

そう……なんてことはない。こちらも狙いとしては、山狗達と変わらないのよ。


この勝負、富竹さんの身柄を確保した方が勝つ。だったらこっちも手を伸ばして当然って寸法だよ。

もちろんこれで奴らは帰る場所を失い、もう後に引く選択肢はない。H173-2についても、鷹野があの調子だから不用意には使えない。

いや……そもそも自殺行為なんだよ。脅しをかけている間、奴らは退避することも叶(かな)わないんだから。


しかも対ガス装備の準備も、本部を押さえられた関係で万全にはできない。

それで万が一、鷹野が暴走して発煙筒をブッパしたら? というより……。


「うん、できない……できないんだよね。監督、考えてみてください。本拠地を制された上に通信網まで掴(つか)まれた状態ですよ?
谷河内(やごうち)の部隊も切り札たり得ないって思うはずです。対応されたらって」

「あ……」


レナがサクサク説明するのは、いろいろシミュレーションしてきた結果だよ。バイオテロ関係はこの件(くだん)の最初に危惧していた話でもあるしね。


「何より脅しをかけている間、鷹野さん達は退避することも叶(かな)わない。……それでもし、梨花ちゃん達を渡すより先に番犬部隊が到着したら?」

「そういうこと、ですか……となれば、方法は一つ」

「どんな手を使ってでも梨花ちゃんを見つけ、殺す――」

「もちろん村の人達も危険になる。だからこそのプランBだ。……詩音、葛西さんは近くにいるんだよね」

「ついさっき連絡が……万が一に備えて、非常脱出口付近で待機してますよ。大下のおじ様達も合流したそうです」

「じゃあ富竹さんを興宮(おきのみや)に送ってあげて。相当に危険かもしれないけど」


そう言いながら、詩音に通信機の一つを投げ渡す。……保安部隊の奴らから回収したものだよ。

この状況では、通常の通信装置は使えない。でも……奴らのものを利用するなら問題なし。

しかも最新型のIP通信だから、これを経由して奴らのシステム情報に干渉可能。いい拾いものだよー。


「通信傍受は」

「既に洗浄≪ロンダリング≫済み。通信システムも不可視属性ファイルにしてあるから、普通には気づかないよ」

「これで東京(とうきょう)に連絡は無理と……」

「さすがに危なすぎる」


……まぁ、連絡だけなら問題はないんだよ。向こうの通信網をジャックするって手もある。

ただそれをやると、奴らが暴走して村内で暴れかねない。今は駄目……今は無理。


「了解です……でも、やっちゃんの”手品”でも駄目って」

「舐(な)めてかかれる相手じゃないってことだ。だからほんと……よかったぁ……!」

≪えぇ。アルファベットプロジェクトの性質上、村全体への制圧兵器も用意しているとは踏んでいましたけど……通信で漏らしてくれて助かりましたね≫

「そっちは診療所のシステムから探れなかったのかな」

「端末そのものを切り離して、また別個にしていたからね。……この間お邪魔したとき、調べられていればなぁ」

「さすがにそれは無茶(むちゃ)というものだよ。それでこちらの動きが察知されていたかもしれないしね。……しかし見事な手際だなぁ」


そう言いながら、富竹さんが僕の手元をのぞき込んでくる。その快活な笑いに心から安心する。


「君がウィザード級とは聞いていたけど、ここのシステムも手足のように動かせるとは」

「そういう富竹さんこそ、いいお目覚めみたいで」

「あの気付け薬のおかげでね。……それと番犬部隊の方は、済まないが」

「ここでの呼び出しは無理なんですね」

「村全体の通信手段も遮断しているとなれば、『東京(とうきょう)』へ連絡するには村を脱出するしか……」


やっぱりかぁ……僕の携帯でサクッと終わらせたかったんだけど、まだ富竹さんも意識朦朧(いしきもうろう)としていたからなぁ。

しかもH173-2が……! 本当に厄介なことしかしてくれないし! アイツら、はっきり言うけどテロ犯だからね!?


「できることなら君達は下がって……と言いたいんだけど」

「無理ですよ」

「だよねぇ」


その原因は三つある。一つ、富竹さんと『東京(とうきょう)』の連絡がまだついていない点。

一つ、さっきも言った通り、焦った奴らが村内で暴れ、村民に危害を加える可能性もある。

一つ……H173-2。これがブッパされたらどうしようもないし、赤坂さん達が谷河内(やごうち)にたどり着くまでの時間を稼ぐ必要もある。


正直ね、いつひっくり返されてもおかしくない。勝利も、敗北も、等しくテーブルの上に乗っている状態だ。


……だから、誰かが引きつけておかないといけない。

奴らの狙いを村民や雛見沢(ひなみざわ)全土に向かないよう、その攻撃を受けなくちゃいけない。

富竹さん達の村外脱出を間接的にでも支援し、そちらに対しての増援が送られないよう配慮しなきゃいけない。

その上で、囮(おとり)役も誰一人欠けることなく生き残る。そうして初めて、僕達は勝利の美酒に酔いしれることができるのよ。


で、それをやるのはやっぱり…………レナを見やると、大丈夫と頷(うなず)きが返ってきた。

更に『一人で行かせないから』という念押しも届く。それは分かっているって言うのに……いや、本当だよ?


そこで僕とアルトだけでーなんて言うのは、凡ミスをやらかしたお魎さんや茜さん達と同じだ。

だから決めた通りに、みんなで戦う。僕も今回は部活メンバーの一人として……まぁ、僭越(せんえつ)ながら先陣を切らせてもらうけどね。


「すまない。僕がもっと上手(うま)くやっていれば……」

「大丈夫ですよ、富竹のおじ様。……レナ達、いろいろお礼がしたいだけですし」

「そうそう。こういうのは僕やアルトの趣味なんですよ」

≪まだまだショータイムは継続中ですしね≫

「……分かった。まぁこの騒ぎは僕が後で何とかしておくから……気をつけてね」

「ありがとうございます!」


富竹さんには全力の一礼……一礼!


「恭文くぅんー」

「いや、いいんだよ。後始末はよろしくーってお願いされていたしね」

「でもどうしよう。普通なら女性を紹介するところなんだけど、富竹さんには必要ないからなぁ」

「必要ないの!? ……あ、そっか……それはそうですよねー。だって……ねー」

「ははははは……え、何。もしかして僕、そんなに分かりやすいのかい?」

「「「かなり!」」」

≪ヒューヒューだよー≫


レナ達と一緒に断言すると、富竹さんは『参ったなぁ……』と頬をかく。

その様子にまた安堵(あんど)を覚えていると、富竹さんは照れ隠しでまた笑う。


「それと蒼凪君、君……狙撃用ライフルとか持ってないよね」

「持っていますけど」

「だったらサブアームの拳銃と一緒に貸してもらえないかな」

「あ、はい」


というわけでコートの内側から取り出すのは、≪SV-98≫と弾丸三ケース分。

更にサブアームとして予備のFN Five-seveNとカートリッジ、フリーサイズのホルスターも追加。


「ありがとう」


富竹さんはホルスターをタンクトップの上から装着。次にFN Five-seveNを手に取り、誰もいない方向に向かってさっと構える。


「うん、若いのにいい手入れをしている。しっくり馴染(なじ)むよ。それにSV-98というのも有り難い。現役時代に散々使ったからね」


更に富竹さんは、SV-98を手に取って同じように構える。……その手慣れた動きで分かる。この人、相当に手慣れている。

なおSV-98は、ロシアのイジェマッシュ社が開発したボルトアクション式狙撃銃……なんだけどー!


「スコープは五十倍。弾は7.62mm×54R。サブレッサー、バイポッド装備……うん、いい感じだ」

「気に入ってもらえたなら幸いです」

「でも富竹のおじ様、気をつけた方がいいですよー。恭文くんから銃器を借りるときは、女性を紹介しないと駄目ーってルールがあってー」

「それは困ったなぁ。僕、余りモテる方じゃないんだけど」

「いえいえ富竹さん……そこはレナですって。レナが紹介してほしいんですよ、異性を」

「嘘だッ!」

「嘘じゃないよー。……じゃあ行こうか」

「あ、こら! そうやってまたレナに意地悪してはぐらかすー!」


拳を鳴らしながら、まずは……鷹野達が使った脱出口に。ここで堂々と魔法を使うわけにもいかないしねー。


「蒼凪さん、竜宮さん、お気をつけて……それとこれを」


入江先生が慌てて手渡してきたのは、携帯型の注射器だった。あ、さっきごそごそしていたのはこれだったのか。


「もし鷹野さんに末期症状が出ているようでしたら、これを打ち込んでください!」

「分かりました」

「僕もすぐに準備を整える。だから、決して無茶(むちゃ)はしないようにね。あと」

「鷹野三四は五体満足で制圧しますよ。そっちも後のことはお願いします」

「……ありがとう」


そう軽く返した上で、部屋を出てレナとひた走る。その上で二人揃(そろ)って、同じインカムを装備。

スイッチを入れると……ほらほら、聞こえてきたよー。負け犬どもの声が、しっかりと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


完全に見誤っていた……『東京(とうきょう)』と番犬部隊への連絡要員である富竹だけを注意し、奴らをただのガキだと侮っていた。

情報戦を制したものが戦いを制する。近代戦の基本に乗っ取るのであれば、俺達はまんまと奴らに踊らされた。


奴らの狙いは最初から入江機関だ。

切り札である富竹を、Rを、協力者である入江所長を、鷹山・大下刑事達を囮(おとり)にした上で、この駒をかすめ取りやがった……!

俺達は帰る家を失ったホームレスも同然。しかもこの調子じゃあ、東京(とうきょう)の郭公についても掴(つか)まれていると見ていい。


となると、俺達が勝つ手段はただ一つ……Rの行方を早急に掴(つか)み、殺すこと。

そうすれば多少のゴタゴタをすっ飛ばし、緊急マニュアルは発動可能になるだろう。

それにだ、幸いなことに時間はある。三佐を引っ張ってきた奴らは、山狗の中でも特に信頼を置いている奴らでなぁ。


全員揃(そろ)って十分に仕事をしてくれた。富竹の連れだしが不可能と判断し、機関内の通信機器を壊してくれたらしい。

これで富竹の奴は、村の外に出ない限り『番犬』部隊を呼び出せない。だが当然、国道などには封鎖部隊を配置してある。


RPG-7も装備させているからな。大抵のことは何とかなるだろう。


「……っと、そうだ」


頭の中で算段を立てる最中、大事なことを失念しているのに気づいた。


「東京(とうきょう)の郭公に連絡しておけ。今すぐその場から離れろとな」

「はい」

「では」


改めて通信マイクを取り……一息に張り叫ぶ。


「各班……突入せよ!」


山狗達は塀を乗り越え、園崎家の私有地に堂々と突入。森(もり)の木立を駆け抜けながら、窪地(くぼち)にある地下祭具殿の入り口を目指す。

既に偵察用ドローンにより、全体の地形は把握済み。その映像も指揮車内にはきっちりと届く。

本家邸宅内に人の気配はなく、あと隠れる場所と言ったら……確かあそこには、どっかへと続く抜け道もあったはずだ。


素早く隊員達が駆け抜ける中……一人、また一人と派手に転び、空中を舞う。

一体何のドジかとも思ったが、そのギャグ漫画みたいな吹き飛び方に悪寒が走る。

他の隊員達がそれを訝(いぶか)しんだ瞬間、足がつんのめり……奴は三メートルほど吹き飛んだ上で、顔面から着地する。


それで察する……明らかにトラップだ。

しかも吹き飛んだ隊員達には、拘束具の如(ごと)く縄が巻き付いていた。下手をすると血流をせき止めるほどに強く。


仕方なしにマイクを取り、素早く指示。


「火食、全隊前へ。祭具殿までの道をなぎ払え。それ以外の奴らはトラップを解除後、他隊員を治療しつつ後方へ下がれ」


冗談じゃない……俺達は暇を持てあましてはいたが、錆(さ)びたつもりはない。キチンと定期訓練は積んでいる。

にもかかわらず、これか。普通の……子どものイタズラ程度であれば、隊員達がアッサリ引っかかるはずもない。

となれば仕掛けたのは……あの忍者、トラップについても問題なしってのはどういうことだ。


だがまぁ、そんな小細工は通用しない。こういう状況に備えての火食達だ。

……二〇匹の猛鳥達はずらっと並び、それぞれ右手をかざす。


「よし……攻撃!」


そうして不可視の衝撃波を放ち、地面を抉(えぐ)り、草木を舞い散らせる。

扇状に放たれた力場……それが安全を知らせ、徐々に、徐々にだが俺達の活動範囲を大きくする。

それに合わせ救助された隊員達も、他の奴らも一歩ずつ進軍再開。


その間にも衝撃波によって、縄やら板、トラバサミが粉砕されていく。……あんなものまで仕掛けてあったのか。危なっかしい奴め。

……だがそうして吹きすさぶ衝撃波が、突如……一陣の風によって散らされる。

蒼色の風……鋭く走る矢弾は吹き飛ぶ衝撃波を切り裂き、地面に着弾。そうして巨大な爆炎を火食達の眼前にまき散らす。


「な……!」

「おい、どうした!」


その爆炎で、ドローンからの映像及び通信が一瞬で途絶。車内は騒然としながら、突如生まれた異変にデジャヴを覚える。

そう、これは………………今日の朝から、幾度も感じてきた狩人の気配だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの場からすぐに転送……まずは園崎本家に。火食全隊とやらが飛び出す様を見ながら、奴らの右翼――森(もり)の中を飛び回っていた。

枝と枝の間を静かに飛び移っていった結果、大樹の一つに着地。その上で双眼鏡を取り出し、奴らをチェック。


「……うしうし、まずはアレを始末しないとね」

≪えぇ。それでどうします? 殺さず止めるのは至難の業ですけど≫

「まぁ用意はしているし、チャンスがあれば何とかしよう」


懐から取り出すのは、PSAからの贈り物……HGS患者がいるということで、お願いして用意してもらったのが……この銀色の手錠達。

これはただの手錠ではなくて、超能力抑制リング。HGSの超能力は凄(すご)いように見えるけど、そこまで野放しってわけでもない。

これまでの研究成果によって、患者の超能力を抑制する手段ってのも発見されているのよ。


例えば知佳さんやリスティさん達は、自分の力を制御する意味も込めて、リミッター付きのイヤリングを常時装備している。

これもそれと同じ。違うところは対象を選ぶことなく、完全に能力をシャットアウトするって点。

ただし対犯罪者用だから、一般に売っているものじゃあない。使用についても相応の許可が必要。


今回は劉さん達の手はずで、何とか手に入れられたんだ。さて、それじゃあ……手錠は仕舞(しま)いましてー。


「――起動(イグニッション)」


魔力回路を走らせ、右手を大きく開く。そうしてイメージするのは、常に最強の自分。

その行程に注目し、その道程に共感し、その骨子に驚嘆し、その遺志に焦がれる――。

想定した一つ一つの要素をイメージし、徹底的に描く。それは絵の具の点が折り重なり、大きな絵画となるようなもの。


そのイメージは魔力を糧として、世の理を打ち砕こうと足掻(あが)いていた。

右手から走る蒼い火花が迸(ほとばし)り、結ばれるたびに、それは姿を現していく。


その名は≪乞食清光≫――僕が京都(きょうと)で見つけた≪沖田総司≫の愛刀であり、現存する宝具。

火花の残滓(ざんし)を払い、乞食清光を手元で一回転。切っ先を奴らの進行方向に……無駄に放たれ続ける衝撃波に向ける。


……僕の手から再び火花が走り、電磁レールが形成。更に”あえて”柔めに作った宝具を……そこに込められた魔力を暴走。

乞食清光の刀身がひび割れ、蒼い風を漏らし始めたところで。


「壊れた幻想≪ブロウクン・ファンタズム≫」


乞食清光は矢弾の如(ごと)く射出される。超電磁砲……レールガンの応用。

音速域で飛び出した刃は、物理的衝撃をたやすく切り裂き地面に着弾――爆炎が巻き起こる。


土と草木が吹き上がり、火食達が爆煙に包まれ足が止まった中……枝葉を払うように大きく跳躍。

乞食清光≪本物≫を左腰に装備し、森(もり)から爆煙へと飛び移りながら、左手で手刀!


≪The song today is ”IIII-43”≫


おぉ……これは……暴れん坊将軍の≪殺陣(たて)のテーマ≫!? ヤバい、これは絶対に殺せない!

すぐに大音量で流れる音楽に魔力を乗せて、変則ソナー構築。敵の位置をしっかり掴(つか)んだ上で、まずは最右翼にいる奴目がけて襲撃。


更に乞食清光を抜いて、刃を返す。――その上で引き出すのは、この刀の持ち主≪沖田総司≫によって刻まれた経験。

宝具を知り、使用者に共感し、理解し、その経験を宿す憑依経験≪インストール≫。


まだまだ未熟だけど、それでも……この言いようのないワクワクをかみ締めながら、僕は戦場の風を切る。


(これでよし……!)


奴はこちらに気づいて咄嗟(とっさ)に障壁を展開するものの、それは袈裟の切り抜けで本人ごと両断。

血を吐き出し倒れる仲間……その姿に奴らが驚いている間に、二人目の胴体部に柄尻で刺突。

吹き飛んだところで袈裟・逆袈裟と三人を切り抜け、すぐさま左に走る。


身を伏せ、地面を蹴り砕きながらの疾駆により、広範囲に巻き起こされた衝撃波を回避。

爆煙が衝撃波によって晴らされる中、今度は最左翼にいた奴の背後を取り、その背中に柄尻で刺突。

徹も込めた一撃は、ただ斬られるだけでも相応の衝撃を奴らに加える。


それによって吹き飛ぶ男は弾丸となり、仲間数人を巻き添えに転がる。


「くそ!」

「潰せぇぇぇぇぇぇ!」


これで六人……というところで、上から重圧。サイコキネシスによる力場には、乞食清光での逆風一閃で切り払う。

宝具による鋭い一撃を受けた瞬間、異能の格によって奴らの力場は拒絶され、甲高い音を立てながら破裂――その様子に火食達も恐れおののく。


「馬鹿な……今のは、一体」

≪決まっているでしょ。――大人しく腹を切れ≫

「切ってしまえー!」

「撃て撃てぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


すぐに十一時方向へ走り、後続部隊の射撃を回避……というか、火食達を盾にして、一旦射線を区切る。

すぐに奴らは浮遊し、空からの攻撃を試みようとする。でも……その間にまず一人、僕の肉薄を許す。

軽い跳躍からの袈裟切り抜け……そのまま地面を滑りながら着地して、懐からグレネードを取り出し、火食達の上方に放り投げる。


背後にいる後詰め隊から飛ぶ、更なる射撃を――。

爆煙を防ぎつつ、放たれたサイコキネシスを――。

その全てを右に避けると、奴らの射線が合致。その途端に一人が低空飛行で突撃。


右手で取り出した木刀に力を宿し、光刃とする。しかもそれは共振……高周波ブレードと化す。

切り抜けを伏せて回避すると、男は着地しながらも右薙・袈裟・刺突・右薙・左切上と連撃。

それを下がりながらのスウェーで回避し、柄尻で奴の柄を……右手を打撃。返す刃での唐竹一閃をキャンセルした上で胴を薙(な)ぐと、奴の姿が消失。


テレポート……更に僕の背中に蒼い光が当てられる。

すぐさま地面を蹴り砕きながら横に飛び、身を連続で翻しながら地面に転がる。

光は何もない草むらに当てられ……次の瞬間、音もなく五十センチほどの穴が開く。


サイコキネシスじゃない。テレポートに近い置換能力だ。発動したら防御とは関係なしに、肉が臓器・神経ごと持っていかれる。


能力を発動したひげ面が、得意げにこちらに振り向こうとする。でもそれで気づく……自分の手に、鋼糸≪ワイヤー≫が絡まっていることに。

飛びながら投てきした鋼糸を伝い、電撃を瞬間発生。


「が……!?」


鋼糸は仲間のサイコキネシスですぐさま断ち切られるものの、それは予測済み。

十秒も受ければ死に至る超高圧電流によって、ひげ面は意識を奪われ、数メートル下の地面に落下。

両足を無様に潰しながら、ぴくぴくと震えて横たわる。その間に光刃持ちが僕の背後を取り、唐竹一閃。


右に走りながら回避すると、光刃持ちがワイヤーを取り出す。それを一気に展開し、鞭(むち)のように翻して打ち込んでくる。

それもまた異能によって光を宿し、全てを切り裂く刃となる。か細い糸は縦横無尽に振るわれ、僕の両脇を鋭く両断。


「グレネードォ!」


後詰め部隊から放たれるグレネードを、飛針の投てきで撃ち抜きつつ、あえてその爆発に飛び込む。

サイコキネシスも応用して、追尾してくるワイヤー。しかしそれはグレネードの爆風により煽(あお)られ、大きく光刃持ちのところへと吹き飛ぶ。

黒い爆煙を突き抜けながら、小太刀を取り出し回転しながら投てき。それは再度揺らめき始めたワイヤーで断ち切られるものの、問題はない。


その間に後詰め部隊に肉薄――瞬間的に放たれる自動小銃の射撃を尽く切り払いながら、手近な奴の顔面に右薙一閃。

峰で鼻っ柱を打ち砕きつつ、返す刃で両脇の二人を倒し、素早くスライディング。

至近距離での射撃を、撃ってきた男の股(また)をくぐり抜け、背後にて立ち上がりながら頭頂部をたたき割る。


鮮血を走らせながら倒れようとする奴に対し、時計回りの回転斬り。背骨をへし折りながらも光刃持ちへと吹き飛ばす。

そこを狙い疾駆――当然仲間に対して攻撃するわけにもいかず、光刃持ちはワイヤーを引っ込めて右に回避。


「な……!」


奴を影にして、突撃していた僕と鉢合わせるように。更に地面を蹴りながら背後に回り、ピンポイントなサイコキネシスを回避。

僕を吹き飛ばそうとした力場は、地面の土や草を破裂させる。それが光刃持ちの目つぶしと鳴っている間に、袈裟・逆袈裟の連撃。

両腕を砕いた上で、逆風一閃。今度は股関節を潰し、回転しながら頭部を薙(な)ぎ……いや、そのまま空でのんきにしている奴らへと吹き飛ばす。


光刃持ちはこちらへ放たれた火炎放射に飲まれ、火だるまになりながら奴らの間を抜け、地面に転がる。


「な……あぁ……!?」


もうちょっと後ろ、かなー。


「落ち着け! 挟み撃ちにするぞ!」

「クソガキがぁ!」


そうして残り十一人から一斉に放たれたサイコキネシスを、背後から飛ぶ一斉射撃を、身を伏せながら……いや、ここは避けなくていいかな。

というか甘い……甘すぎる! このテーマがかかっているとき、被弾などするはずがない!

というわけで速度的に先へ到達する弾丸を、袈裟から始まる十六連撃で全て払い……。


「があぁ!」

「うぐぅ!?」


弾(はじ)かれた弾丸が後詰め隊の数人に跳ね返されるのも気にせず、刃を返し……サイコキネシスに右薙一閃。

力を重ね、束ねた衝撃は相応の手ごたえだけど、その全てを一気呵成(いっきかせい)に切り裂き、破裂される。

その粉砕の風が吹き抜けたことで、奴らもようやく気づく。


……僕が遥(はる)かに格上だって。


「ば、馬鹿な……」

「怯(ひる)むな! もう一度……今度はもっと、強く力を束ねろ!」

『おぉ!』


うんうん、そうだよね。そう来るよねぇ。でも、それこそが狙い。

空間を軋(きし)ませるほどの圧力が放たれた瞬間、身を伏せながら全力の疾駆――そのまま髪先すれすれの距離をすり抜ける。

サイコキネシスは後詰め隊から放たれた弾丸を粉砕し、地面を抉(えぐ)り。


「おい……」

「くるな、くる……ぎゃああああああああ!」


仲間の身体を地面に転がし、すり潰していく。

口や腕から血が走り、全員身体のどこかしらがひしゃげ、半死半生の肉塊達が無数に横たわっていく。

束ねた力を、考えなしに放ったせいで……同じ釜の飯を食う仲間を、その手で傷付けた。


その事実が奴らから冷静さを奪う。僕への敵意を滾(たぎ)らせることは、間違いなく悪なのに。

だからまた一人……鋼糸に足を絡め取られ、電撃で焼かれることになる


「ががががががががががががががあぁ!?」


奴らの足下をすり抜けながら、投げ放った鋼糸。それが中心部にいたロン毛に絡みつき、ほぼ同時に電撃発生。

白目を剥きながら、仲間と同じように血へと落ちていく。その様を見ながらも、奴らの後方を取ってさっと振り返る。


鋼糸のリールをさっと巻き戻し、軽く跳躍する。


「なんだ、あの速度は……!」

「同志討ちを、最初から狙っていたのか……この」


すると火食の中で一番若い奴が前に出て、両手を突き出しながら火炎を放つ。


「卑怯(ひきょう)者がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


……乞食清光で唐竹一閃。更に手首のスナップを利かせ、刀身にかまいたちを纏(まと)わせ……射出。

放たれた飛飯綱によって発火能力は真っ二つに両断され、僕の両脇を紅蓮(ぐれん)が染め上げ、地面を焼く。

飛飯綱はそのまま若造の顔面……胴体部へと直撃。局部も含めて身体を縦一直線に切り裂かれながら。


「ぐぎょえ…………!?」

「……どの口が言ってんだよ」


奴は悲鳴を上げながら、地面に頭から落下。首の骨をごきりとへし折り、ぴくぴく震え続ける。……なお、両断はしていない。

火炎放射の威力も読んで、多少緩めに構築したから。かまいたちは放射により威力を最低限にまで削(そ)がれ、直撃した衝撃で破砕している。

それでも痛いとは思うけどね。まぁこれもブーメランってことで、どうか納得してほしい。


「くそ……ならば!」


囲もうとしても無駄。右指を鳴らし、術式発動――奴らの真上に、巨大な音響爆弾を設置・起爆する。

不可視の衝撃波に突然襲われ、火食達は耳をつんざかれながらも落下。地面に倒れ、すぐさま起き上がろうとしたところで、再び零距離を取る。


「もう飛ばせないよ?」

「な……………………!?」


まず一人……心臓すれすれに刺突。柄尻を掴(つか)んで動きを止めようとしても、加えられた衝撃によりその身体は吹き飛び、祭具殿の鉄扉へと叩(たた)きつけられる。

すぐさま右薙一閃で衝撃波を切り払い。


「だから、どうなってんだよ……なんでこっちのサイコキネシスが通用しない! おい、サイコメトリーは!」


今度はスモークグレネードを投てき。奴らが咄嗟(とっさ)に身構え散開したところで、右足を踏みだす。


「駄目だ、読めない……全く読めない!」


そのまま地面を蹴り砕きながら、縮地によって奴らに肉薄――。


「コイツ、”暴れん坊将軍のテーマ”を頭の中でずっとハミングして――――――ぐぎゃあ!」


刃を幾重も振るい、戦場を駆け抜けていく。……そうそう、言い忘れていたね。

心を読む能力程度なら、適当にあしらえるよ。リスティさんに特別訓練を受けて……あ、あれは……怖かったぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


爆煙が晴れた途端に生まれていたのは、正しく地獄だった。診療所にいると思われた蒼凪恭文が、こちらの横っ面を強襲。

どういうわけかHGSの異能力を刀一本で容易(たやす)く払い、あっという間に…………火食達を全滅させる。

しかも後詰めを勤めていた後続部隊も、サイコキネシスの巻き添えを食らう形で壊滅。


誰も彼も、腕か足が最低二本以上へし折れているような状態だった。それも、たった一人のガキに……この、歴戦の山狗が……!

増援に出た奴ら共々、その惨状にはゾッとするしかなかった。それで奴は表情一つ変えず、刃を片手にこちらへ迫る。


「た……隊長……!」

「……落ち着け! 全員構」


すると奴は手近な倒れている奴らを蹴り飛ばし……あの小柄な体躯(たいく)からは想像できない力で、全力で蹴り飛ばし……!

俺の仲間を即席の砲弾とした上で、手近な仲間に叩(たた)きつけ、その骨をへし折りながらもなぎ倒す。

……その有様に舌打ちしながらも、AKを構えて連射……いや、引き金が直前で止まる。


奴は適当な奴の首根っこを掴(つか)み、回転しながら投てき。右へ転がって避けると……鋭い眼光を滾(たぎ)らせながら、俺の懐に入ってきた。

咄嗟(とっさ)に左スウェーで刃を回避すると、胸元から肩にかけてジャケットが切り裂かれる。

だが皮一枚……切っ先が掠(かす)めただけ! すぐさま銃を構え直すと、奴は部下達に肉薄。


接近戦に備えナイフを取り出しても、その手が峰打ちで粉砕。次の奴は頭を、肩を、股間を、腹を撃ち抜かれ、次々倒れていく。

ただ剣閃が一つ走るだけで、最低でも三人は同時に倒される。ようやっと反撃の射撃ができたかと思うと、射線上に奴はいない。

いつの間にか脇を取られ、次の斬撃で潰される。そうして……この場には、俺だけが残る。


俺はいつの間にか指揮車を背後にして、ゆっくり……じわじわと、奴から距離を取っていた。


「てめぇ……!」

「もうちょっと強い奴を雇った方がいいよ? こんなんじゃあチンピラと変わらないでしょ」

≪柘植や内閣情報調査室の連中は、もっと気合いが入ってましたしね≫


アイツは今まで使っていた刀を仕舞(しま)い、別の刀を……逆刃刀を抜く。

漫画に出てくるような武器だ。俺達にはその程度で! 殺さないような武器で十分だと抜かしてやがる!


認識が甘かった。HGSも含めた、対異能力のエキスパート……それがコイツの評価だった。

それは当然のことだ。なにせ、コイツ自身がその異能力者なんだからな……!

あのワイヤーからの電撃やら、とんでもない移動速度やら……さっきの爆発やら!


もう認めるしかねぇ! コイツは火食より…………俺達より上だ!


「で、お前が小此木……山狗のリーダーだね」

「よく」


だったら……。


「御存じだ!」


素早く拳銃≪サイドアーム≫を抜き放ち、奴の頭を狙う。たとえ化け物だろうが、結局は人間……頭を撃てば死ぬ!

そんな余裕をこいている時点で隙(すき)だらけ。だからこれで終わり……そう思っていたら、”銃が突然震えて飛んだ”。


「ッ……!」

「鷹山さん達の方が三倍は早いね」


いつの間にか奴の左手にはFN Five-seveNが握られ、俺のベレッタを容易(たやす)く撃ち落としていた。

おいおい、冗談じゃねぇぞ……。いつ抜いた。何時撃った……全く、見えなかった。

しかも、あのロートルデカどもより遅いだと……! 本当に、心から舐(な)めてくれやがる!


怒りのままに脇のナイフを抜こうとする。当然奴は対応……だが、それは大きな隙(すき)だ。

既に貴様の首を取る準備はできている。そう、だから遠くから狙う弾丸に気づかない。


だが奴は回転斬り――七時方向から放たれた狙撃弾丸を容易(たやす)くたたき落とす。衝撃と火花が鋭く走る中、奴は改めて俺に銃口を向ける。

すぐに左へ転がると、奴は何の躊躇(ためら)いもなく銃を撃っていた。それにゾッとしながらもナイフを抜き、奴に肉薄。


……できなかった。


一歩踏み出そうとして気づく。いや、気づいていた……気づいていたが認めたくなかった。

奴の周囲に展開されている結界が、とてつもなく強固だということに……!

戦闘者の射程というのは、それ自体が一つの世界。鍛え抜かれた技量によって培った絶対領域。


そこに踏み込むということは、侵略に等しい。相応の腕がなければ、容易(たやす)く踏みつけられる。

……俺の第六感が告げている。奴の”絶対領域”に踏み込むことは、死を意味する。

コイツ、ただ異能力が強いだけじゃあない。相応の修羅場を……俺達以上の修羅場をくぐっていやがる。


足を狙った狙撃弾丸もちょっとした引き下がりで容易(たやす)く回避。別方向からの二発目も無造作の剣閃で容易(たやす)く払う。

奴の領域には、音速域の弾丸だろうと踏み込むことを許されない。


だが、そんな果敢にもそんな無謀に挑む馬鹿がいた。


『隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


車両の一つが奴に突撃。さすがの奴も咄嗟(とっさ)に左へ飛んで、そのはね飛ばしを回避。

その間にワゴンのドアが開かれるので、慌てて起き上がり飛び込み……それを受け止めた途端、車は全速力で走り出す。


その間に待機させていたスナイパーは、更なる狙撃を行う。

だが奴は一発一発、丁寧に切り払い……足下を狙う弾丸も容易(たやす)くすり抜け、スナイパーへと突撃していく。

核爆破未遂事件では対物ライフル相手にドンパチしたというが……あんなのはアリか!


「隊長、大丈夫ですか!」

「あぁ……助かった」


ぬるりと流れる脂汗を払い、何とか部下達に起こされる。……こみ上げる言い訳といら立ちは飲み込み、今やるべきことを再度整理。

まともに勝負する必要はない。奴が手掛かりを押さえる門番だと言うのなら、全力で圧殺するのみ……!


「だが確信できた……奴が出てきたということは、祭具殿にRがいる可能性は高い!
祭具殿を中心に、包囲網を敷き直せ! 幾ら奴が化け物と言えど、こっちの数に一人で対抗できるはずが」


すると……車内に通信用のアラームが響き、通信兵が慌てて対応を開始。


「どうした」

「鷹野三佐についている、白鷺(しらさぎ)からの報告です! 村中にて……逃走者の一部とRを発見!? 現在追跡中とのことです!」


……どうやら読みを軽く外していたらしい。連中は既に脱出して……そうかそうか、そういう手はずか。

あの忍者が俺達を引きつけて籠城している間に、村の奴らに助けを求めるって寸法かよ。つくづく馬鹿にしてくれるな……!


「今はどこだ」

「連中は裏山に向かっている模様! 三佐から『急ぎ合流せよ』との命令も出ていますが」

「……負傷者の回収は」

「……残念ながら」


仕方あるまい。奴があれだけ前に出てきたのだから……いや、反省は後だ。


「ならば今すぐにこの場を撤退。白鷺(しらさぎ)と三佐には、十五分で到着すると伝えておけ。
いいか……ここが正念場だ! 全力投球でいく! 全班で包囲、圧殺するぞ!」

『了解!』


指揮車は急速反転――裏山の麓へと走り出す。ようやく掴(つか)んだ尻尾……それが俺達の勝負を、五分五分のところまで引き上げる。

まだだ、まだ終わらんぞ。この礼はたっぷりしないと、俺個人としても気が済まないからな……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


裏山のふもとに集まった隊員達は、その誰もが険しい表情をしている。

代償は大きかった……誰もが予測していなかった火食の壊滅。本拠地の制圧。

その意味を知らない者は、この中には誰一人としていない。その上敵も然(さ)る者だ。


深いブッシュでは重火器も使いにくい。こちらも即座に装備変更を求められる。

今回使用するのは一応非殺傷設定のテーサーガン。射出型のスタンガンと言えば、聞いたことがある奴もいるだろう。

電気圧で杭(くい)を飛ばし、それを相手の衣服に突き立て電流発動……まぁ射程距離は極めて短いだが、その分近接戦闘では威力を発揮する。


”一応”と付けたのは、電圧操作により殺すことも楽勝って代物だからだ。護身用じゃあないけんね。


「――隊長! 全班、作戦開始位置に到着しました!」


指揮車内の鳳4から、威勢のいい声が響く。


「さすがに展開が早いぜ。三佐、全班に有り難い訓示を頼みます」

『――鷹野よ、Rだけは生かして捕らえること。他は殺してしまってもかまわないわ!
この山から逃しては駄目! この山で、今日の戦い全てに決着をつけるのよ!』

「鶯(うぐいす)、雲雀(ひばり)、白鷺(しらさぎ)、山狩りを開始しろ。
鳳(おおとり)はゴールキーパーで予備兵力を努め、緊急展開が可能なよう常時待機しろ」

『了解!』

「さぁ、おっ始めろ!」


部下達は警戒した足取りで、慎重に山へ入っていく。数メートルほど間隔を開け、そのまま少しずつ散開。

この裏山はふだんなら、村人も出入りしない未開の山。獣道はあっても、人が通るための道など舗装されていない。

俺達が行うのは水も漏らさぬ山狩り。相当の慎重さと丹念さ、更に忍耐が求められる厳しい状況だ。


隊員達を見送ってから、三佐が待機しているワゴンへ。すると三佐が焦れた表情で社内から出てきた。


「お待たせしやした。とりあえず配置は完了、あとは燻(いぶ)されて出てくるのを待つのみです」

「……小此木、山狩りというのは普通、どのくらいの人数がいるの」

「一概には言えませんが、多けりゃ多いほどいいとされています。山狗の人数じゃあ、フルでも全く足りません」

「でも向こうも少人数なんだから、そう不利な条件じゃあないでしょう?
ほら、よく言うじゃない……守備を崩すには三倍の兵力がいるって。こっちは数十倍なんだから」

「確かに」


三佐は実戦経験こそないが、我ら山狗の上官。簡単な戦術講習くらいは受けているお人だ。

既にこちらは三倍……いや、三百倍以上の戦力があるのだから、崩せるに決まっている。そう考えるのも当然だ。


しかし……残念ながらそこは、シチュで補える要素でもある。


「ですが三佐、それは数万の兵力――ようは国家間の戦争なんかで適応される数式です。
今回のような密林、又は山岳地と言った極地――ではそうもいきません。米軍がベトナム戦争で、そいつを嫌になるほど証明してます」

「なら今回の山狩り、小此木はどれだけの兵力がいると思っているの」

「……あくまでも『なんでもあり』の話になりますので、御了承を」


三佐は言っている意味が分からないらしく、眉をひそめる。


「ここに我々をおびき寄せたということは……当然トラップが仕掛けられているでしょう。
それも急ごしらえじゃない。徹底したやつを作り、なおかつこの山全体を自分のテリトリーにしている」

「そんな馬鹿な。蒼凪恭文はこの村の人間でもないのに」

「三佐、こんな話があります。地の利が十分な子ども一人は、よく訓練された強襲偵察隊一個班に匹敵する」


三佐はおかしなことをと言いかけたが、俺の目を見て黙ってしまう。


……こちらも冗談でこんなことは言っていない。

先ほどこちらの兵力は三百倍と言ったが、それも地の利を生かせば補える可能性が高い。

それほど地の利――戦うシチュエーションというのは大事なんだ。地形や天候などで数の差を覆すのは、決して難しくない。


ベトナム戦争だけじゃあない。人間が闘争に知恵を持ちだしたときから、そんな例は数えるのも馬鹿らしいほどに存在している。

もっと言えば、さっきのだってその一例だ。まぁ、認めたくはないがな。

達人級に強いといえど、たった一人の敵相手に、こちらの戦術が容易(たやす)く覆される。そんな非常識だからな……!


だが飲み込むしかない。それで”そんな非常識”がこの山の中でひしめいているという覚悟も、指揮官としてはしなくちゃならない。

本来なら”これっぽっちの戦力”でやる作戦じゃあない。では、どれだけの戦力が必要かというと



「それで具体的な数ですが……今朝の政治的奇襲、及び電子的掌握も含めて、向こうの指揮官は相当優秀です。
そして火器・近接格闘のベテランが最低一」

「そこは認めるけど……でも結局は素人の遊び。それも子どものおもちゃでしょう? だったら」

「なので山岳歩兵が一個師団。師団ってのは……まず山狗が中隊規模。それを三つか四つ足して大隊。
ソイツが更に三つ四つくっついて連帯。それが更に三つ四つで師団ですんね」

「さ……三十倍もの兵力が必要だと言うの!?」

「まだ足りません。砲兵陣地に要請して、山ほどの事前砲撃が必要です。航空支援が得られるなら爆撃機でナパームもばら撒(ま)かせたいところですね」

「冗談じゃないわ! そんな兵力、ここにはないわ! じゃあ、それに満たない山狗で山狩りをしたら、どうなるっていうの!」

「楽じゃないでしょうなぁ。へへへへへ……ははははははははは」


つい不敵に笑っちまうが、三佐はヒステリーを起こしたりはしない。これでも十分伝わったのだろう。

……それでもやり遂げるのが、俺達山狗だと。

そうしてあのガキどもに、大人を舐(な)めたツケを払わせると……特にあの蒼凪恭文≪クソガキ≫だ。


認めてやるよ。確かにお前は格別だ。その年で伝説扱いな活躍をするだけのことはある。

だが大人ってのはよぉ、お前が思っているよりもずっと怖いものなんだよ。


さっきの礼はたっぷりとしてやる。そうして後悔させてやらねぇと、俺の気が済まねぇ……!


(第21話へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、ついに部活メンバーと鷹野一派が真正面から激突。
有利そうに見えて、向こうが備えている爆弾の処理でギリギリという戦況……ここからがクライマックスです」

静謐(ちびアサシン)「……マスター、よくよく考えたらこれの直後にヴェートルの一件なんだね」

恭文「うん……いろいろ大変だった」

静謐(ちびアサシン)「やっぱり夏は鬼門」

恭文「言うな!」


(何度目かになるが説明しよう。蒼い古き鉄の誕生日は八月一日……しかし、その近辺はどういうわけか毎回大きな騒動に巻き込まれるのだ。
最初のときはリインを助け――。
さざなみ寮の妖刀騒ぎに首を突っ込み――。
二〇〇七年はヴェートル事件に首を突っ込み――。
二〇〇八年はJS事件でゴタゴタして――。
二〇〇九年はスーパー大ショッカー事件――。
二〇一〇年はマリアージュ事件及び召喚魔獣事件(同人版)――。
二〇一一年は765プロバックダンサー騒動(同人版)――。
二〇一二年は第七回ガンプラバトル選手権での粒子結晶体暴走――。
二〇一三年は)


恭文「やめやめやめぇぇぇぇぇぇぇぇい! 振り返りたくない! これだけは振り返りたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
ていうか、全部作者のせいだからね!? 作者がその近辺にそういう話を書くせいだからね!?」


(そんなことを言われても……。夏って夏休みがあるから、暇が作りやすいし、いろいろキャラも出しやすいし)


静謐(ちびアサシン)「拍手の方に手を伸ばすと、去年もクガ(ぴー)とかあったよね……。
その前は無人島でサバイバルして、その後は北斗の拳みたいな世界観で暴れて」

恭文「だからちびも言うなー!」

静謐(ちびアサシン)「やっぱり、もう一度お祓い……しよう?」

恭文「チビー!」

武蔵(FGO)「あははは……二人とも楽しそうねー。でもね、まずはこれ! これをなんとかしない!?」


(吹雪走るロシア……蒼い古き鉄達の前には、なんかどたぷーんなボスキャラ)


恭文「駄目。ちびのレベル上げがまだだから」

武蔵(FGO)「なんで二部が始まる前にやっておかないのー!」

静謐(ちびアサシン)「うんうん……!」

アナスタシア(FGO)「……なんてのんきな人達なの」

カドック「こんな奴らに、なんで人類史が救えたんだ……!」

恭文「やかましい。ネットの先人達に則ってイキリ道民って呼んでほしいのか」

アナスタシア(FGO)・カドック「「絶対にやめろ(やめてください)!」」

恭文「つーか………………お前らに! チェイテ城ピラミッド姫路城を直視させられた衝撃が分かるというのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

アナスタシア(FGO)「はぁ!?」

カドック「なんだそれはぁ!」

武蔵(FGO)「あぁ、うん……あれは、ねー」

静謐(ちびアサシン)「いろいろ滅茶苦茶だったよね……うん」


(あれに比べたら、クリプターなど恐るるに足らず……以上、ロシアから愛を込めて。
本日のED:岸田教団&THE明星ロケッツ『Blood on the EDGE』)


あむ「あぁ、うん……気持ちは、よく分かる。まさかあれ、去年からそのままとは思わなかったしね」

恭文「前にも言ったけど、これが歴史の積み重ねって? あり得ないわ!」

あむ「でさ……イキリ道民って何!? え、マジでそんなこと言われているの!?」

恭文「……僕も実はビックリした。あとね、ちょっと調べてみたところ……」


・ケモナー。

・インスタグラマー


恭文「こんなのもあった」

あむ「意味が分からない! ケモナーは……まぁ分かるよ!? アナスタシアのお話、あんな感じだし!? でも後者が分からない!」

恭文「ただ、どれもこれもシナリオ配信前の勝手な印象。シナリオがキチンとクリアされて、キャラ造形がハッキリしたら自然と収まるよ」

アナスタシア(FGO)「私が一体何をしたと……!?」


(おしまい)





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あきゅろす。
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