小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory73 『約束/PART3』
ゴーストボーイと三代目の戦いが決着……したかと思ったら、暴走事故!? こんなの初めてじゃないかしら!
とにかく二代目の御身を第一に……アイ達も手伝ってくれて、何とか外に出てきた。今なお会場の外は、有名ファイター達による避難誘導が続いていて。
「会場から今すぐに離れろー! それと、怪我(けが)している奴はフェスの救護施設に駆け込め!」
「消防に連絡したので、すぐに来るはずです! 落ち着いて、冷静に行動を!」
「――おじさん!」
そこでミスター・ジオウが駆け寄ってきた。無事な私達の様子を見て……誰よりも二代目を見て、安堵(あんど)の息。
「……まずは年少者の心配をせんか、馬鹿者」
「その年少者より動きの鈍い車いすだろうが! ……あーっと、すみません。
今もあっちこっちで言っている通り、フェスの救護施設が受け入れ先になっています。
そこまで行けば一応は安全……なはずなので、はい」
「ありがとうございます! じゃあ、エレオノーラ先生!」
「えぇ。さ、二代目……こちらに」
車いすを押して避難しようとすると、二代目が車輪の取っ手を掴(つか)んで制止してくる。
「エレオノーラ、預かっているものを出せ」
「――!?」
その言葉に、心臓が止まる思いだった。どうして、それを……何も、何一つ漏らしていないというのに。
「預かっているもの?」
「ゴーストボーイから預かっているだろう。早くしろ」
「おじさん、まさか……」
「駄目です! あなたの身体は」
二代目が振り返り、私を見上げてくる。その視線は鋭く……とても厳しく、しかし必死さも感じられるものだった。
もしかしたら初めてメイジンから、本気の懇願を受けているのかもしれない。
だから、応えるしかなかった。
荷物の中に入れていた、小型のアタッシュケース。
それを取り出し、メイジンに渡すしか……手が、なかった。
「感謝する」
二代目は静かに立ち上がり、力強い足取りで会場へと進む。
「二代目!」
「あの、それなら私達も」
「馬鹿者。教師の面目は立ててやれ。……この者達を頼むぞ」
「それは、ズルいだろ……!」
止めようとしたミスター・ジオウも、私達のことを頼まれて見送るしかなかった。
ただ一人、静かに歩いていくあの人を……大丈夫と信じよう。
いいえ、大丈夫に決まっている。
勝利こそ絶対……なら、生きる戦いに勝てずして、何がメイジンか!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
何とかあの子達を送り出し、戦いはトレミー及びメインゲート防衛に入る。でも……戦況は決して明るくなくて。
「ちぃ……!」
五月雨のようなビームをすり抜けながら、ビームマシンガンが緊急冷却スロットを展開。
仕方ないので右腕の110mm速射砲に武装を切り替え、扇状に掃射――。
目の前のモック達を蹴散らすと、クロスボーンガンダム魔王が再びサテライトキャノンを放射。戦場を切り裂くように、無数の敵をなぎ払ってくれる。
そうして生まれた爆炎の帯を突っ切り、ビームサーベルとビームジャベリン、ジャイアントバズ持ち三機が射線元に……でも構っている暇はない!
『ユージ、ヤバい……』
刑事のおじ様はショットガンやマシンガンを撃ち、私の脇をカバー。でも、おじ様の一人が困った様子で呟(つぶや)く。
『弾が切れそうだ』
『悪いが今回は出前なしだぞ……!』
「元から敵の数と弾の数が合わないのなんて」
こっちも速射砲は弾切れ……仕方なしにマシンガンを放り投げ、サーベル抜刀!
「承知の上でしょ!」
ザクマシンガン持ちの胴体に刃を突き立て、一旦ビーム発振をカット。すぐさま再展開から逆風一閃。
ザクマシンガンとお別れしてもらった上で、サーベルを仕舞(しま)い、ボディを蹴り飛ばす。
奪ったザクマシンガンを手に取り、背後を取っていた五機の急所に連続射撃! うーん、快感!
『なるほど、そういうのなら……』
『俺達も得意だぜ、お嬢さん』
おじ様達は弾の切れたショットガンやマシンガンを放り投げ、それぞれの敵に対処。
鷹山のおじ様はサブミッションで槍持ちを容易(たやす)く組み伏せ、腰裏にセットしていたアサルトライフルを奪取。
大下のおじ様は鋭いフックとアッパーで殴り飛ばし、連邦制ブルパップマシンガンを奪った。
あら、初心者にしては見事……でも、マジでこういうのが得意になる刑事って、凄(すご)すぎない?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
これは、単純に保管していたガンプラだけじゃない。CPU戦のように、粒子による機体再現も込みだ。
そうでなければさすがに、この勢いは……! 拠点が定まったせいもあるが、徐々に、徐々に、我々は押しつぶされようとしていた。
『きゃああああ!』
ナイトガンダムが力の盾を切り裂かれ、バランスを崩す。すかさずカバーに入り、ガンダムX型の頭頂部に菊一文字で刺突。
ナイトガンダムに……キャロラインに振りかざされようとしたサーベルは、彼女の眼前すれすれで停止する。
「キャロライン!」
沈黙したガンダムX型を蹴り飛ばすと。
『ニルス!』
背後からビーム砲撃――戦国アストレイが背負う鬼面シールドに直撃を受け、衝撃が走る。
シールドが粉砕され、更に背中にも痛みが……!
「く……!」
振り返り、第二射の砲撃を粒子斬撃で切り裂く。更に虎徹で唐竹一閃……の前に、セシリアさんのダブルオーがカバー。
GNソードで斬撃波を放ち、ガナーザクウォーリア型を両断する。
「助かりました!」
『お安い御用ですわ。しかし……』
……苦戦はボク達だけではなかった。
リナーシタとエストレアはミサイルやビーム砲撃に追い回され。
『くそぉ……キリがねぇ!』
ア・バオア・クー内部から……メインゲートを迂回(うかい)する形で、また別の敵も出現。
『ぐぅ……!』
その敵が放つ射撃を食らい、よろめくブラックベルセルクとAGE-1レイザー。
『イビツ!』
『それより前!』
『おう!』
ミーティアに長距離狙撃を受け、爆炎を浴びながら離脱するストライクフリーダム。
限界を超えたのか、右のヒートショーテルがへし折れてしまうサンドロック。
『ちぃ……!』
『圭一くん!』
『大丈夫だ!』
『二人とも、無理しないで! 一旦下がって補給を! 羽入さん、カバーお願いします!』
『はいなのです!』
ザクによる陣形を自爆特攻同然な突撃で崩され、さらには実弾砲撃により破損が進むビグ・ラング。
『お姉!』
『アンタは後方支援に集中してな! しかし、これは……』
『まだ、数が増える……!?』
三村さんがさすがに恐怖の声を漏らし……それでも操作するセラヴィーが、攻撃の手を緩めないのはさすがだが。
『というか、今までと違う……壊されるのも気にせず、飛びかかってきてる……』
緒方さんも冷静に、しかし慌ただしく狙撃を続けてくれる。だが、これ以上は……。
「詩音さん、そっちの方は」
『……資材は半分近く使ってますけど、まぁなんとか』
『チナさん達が手早く料理しなければ、圧殺ですか。余り笑えませんわね』
『今度もやっぱり、負ける戦いかなぁ……きゃあ!』
すると今度は、島村さんのウイングガンダムが被弾。しかも顔……右目に弾丸を食らい、動きが完全に止まる。
追撃でヒートホークを振り下ろそうとした敵には、すかさずサイコ・ザクがカバー。
ザクマシンガンの弾丸で滅多打ちにしつつ、ヒートホークで左薙の切り抜け。そのままウイングをサブアームで掴(つか)み、引きずりながら退避する。
『あおあお!』
『まだ、やれます……だから……』
『無理するな! くそ……まだ終わらねぇのかよ!』
アイドルの彼女が、目を撃たれた。その衝撃で心が揺らぐ。
……分かっていたことだ。こういうことになると、分かっていた。だが腹を決めた。
巻き込む以上、嘘はなくお願いして……この場は調っている。だが、それでも手は震えていた。
背負うべきものだと覚悟していたのに、その重さが想像以上で……心が軋(きし)み続けていた。
「……もういい!」
だからそれに耐えきれなくなり、思わず叫んでしまう。
「みなさん、撤退を!」
『ニルスの言う通りに! 後は俺とイビツ達で何とかする! 獅二郎、アイドルはすぐに引っ張り出せ!』
『嫌です……!』
そう、いの一番に断言したのは……島村さんだった。
通信画面に映る彼女は、赤く染まった右目を見開く。ウイングもそんな彼女に呼応して、再度動き出す。
自分達へ迫る敵陣目がけて、五発目のバスターライフルを放射――また、宇宙に爆発の帯を形作る。
『私は、逃げません……』
『無理しちゃ駄目ッスよ。自分達は荒事も慣れているッスから』
『それに……どこに逃げろって、言うんですか……』
……そこで、重圧から逃げようとした自分を恥じる。
そうだ、逃げ場などない……それはボク自身が分かっていたことだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
痛い……痛い……痛い……!
ライオンさんが温かい光を当ててくれるけど、痛みは止まらない。でもこれは違う……体の痛みじゃない。
「逃げて済むなら、とっくに終わってる……こんな悲しいこと、終わっているんです!」
『このガンプラ達は……それを動かすプレッシャーは、以前の私達だよ』
かな子ちゃんは前に出て、GNバズーカによるギロチンバースト。……それでも撃墜しきれなかった敵から狙撃を受け、右肩アーマーが損傷する。
『つぅ……!』
『かな子ももういい! ここは杏だけで』
『よくない!』
でも、それでも怯(ひる)まずに再度GNフィールドを展開。痛みに呻(うめ)きながら、援護射撃を続けてくれる。
『そうだよ、よくない……この子達は正しい戦い方も、それを探す知恵も、勇気も知らない……臆病な子どもだから』
『……だったら、止めないと』
それは智絵里ちゃんも変わらない。かな子ちゃんをカバーするように前に出て……もうGNシールドビットも全損しているのに。
『わ、私も……そんな気持ちで誰かを傷つけるのは、もう嫌……だから……!』
『みなさん……』
「だから、逃げません……」
そうだ、まだ動ける……まだ、戦える。どんなに痛くても、どんなに苦しくても、まだ心は止まっていない。
「ライオンさん……」
「……わぁったよ」
涙のように流れる血とその熱さも、軋(きし)み続ける心を奮い立たせる熱になっているから。
「お前は、死んだように生きていたくないんだな」
「え……」
「違うのか?」
「…………………………いいえ」
……アームレイカーを鋭く動かし、あお君と散開しながら砲撃を回避。
「違いません――!」
接近してくるドートレス型三機をマシンキャノンで打ち倒す。
でもその直後に、左脇からプロヴィデンス型が突撃。左腕のシールドから光刃を展開し、左薙の切り抜け。
こちらのシールドで防御するも、衝撃から弾(はじ)き跳ばされ……ドラグーンによる全方位射撃を受ける。
咄嗟(とっさ)に身を逸(そ)らしてその全てを回避するものの、掠(かす)めた光条が熱を生み出し、私の身体に刻み込まれる。
『島村さん!』
「そうです、逃げる必要なんてない」
何度でも言う……何度でも受け止める。
『あおあおあおあお!』
痛いのは身体じゃない。痛いのは心……それくらい、ガンプラが、バトルが好きになっている私の心。
「こんなの」
それを受け止め、その上でもっと先に進む。ううん、進めるはず……それを直感した瞬間、アームレイカーが今までで一番鋭く動いた。
再び血の熱さを感じながら、直撃コースのライフル射撃をバレルロールで回避。
『あお!?』
「痛く――――ない!」
その上でシールドを鋭く投てき。決して投げるものじゃないはずの盾は、その切っ先でプロヴィデンス型の胴体を捉え、粉砕。
砕け散ったボディに、停止したドラグーンに構わずシールドを回収し、バスターライフルを先端部にセットした上で離脱。
「だから、任せてください――」
次々襲いかかる砲火をかいくぐりながら、シールドからサーベルを抜刀。
直撃コースの砲撃を袈裟・逆袈裟・右薙と切り抜けつつ、再び戦場を駆け抜ける。
「これでも、負け続ける戦いは得意なんです!」
そうだ、逃げない……もう、逃げて止まることだけはしない。
誰に負けたっていい。誰に笑われたっていい。どんな痛みが襲ってきたっていい。
それでもライオンさんが言うみたいに、死んだように生きていたくない。あのときみたいな自分に、戻りたくない。
そうだ。私は燃え尽きるまで――死ぬまで生きて! あの日憧れた景色を追いかけ続ける!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
島村さんの機動が、変わった……そうとしか表現できないレベルで動いていた。
ウイングはカメラアイを赤く輝かせ、虚空にその軌跡を刻みながら揺れ動く。それも、通常のマニューバではない。
まるで人間のように艶(なま)めかしく敵陣へ切り込み、サーベルで次々と敵を切り裂いていた。
当然敵も野放しにはしない。彼女を囲み、袋だたきにしようとする。だが……その前に刃が走り、切りかかろうとしたモック達は両断される。
ならば遠くから狙い撃とうとすると、彼女はその矛先から消失。気づくと眼前に飛びかかられて、その心臓を抉(えぐ)られる。
行き場を失った命はすぐさま放り投げられ、ミサイル群を防ぐ盾とされる。そうして生み出された爆炎を突き抜けながら、翼は次の敵へと迫る。
最後のバスターライフルを放射したかと思うと、脇を取った敵に槍の如(ごと)く叩(たた)きつけ、その胴体部を粉砕。
すぐさま壊れたライフルをパージし、翼を広げながら反転――。
背後から襲う敵を唐竹(からたけ)に斬りつけたかと思うと、更に回転して脇にいたデスサイズ型をシールドで貫く。
デスサイズ型が震える両手で、シールドを掴(つか)んで拘束。その背後から……彼女の左右から、襲いかかるのはヒートホークの投てき。
刃を両肩アーマーに、左の翼に食らいながらも、彼女はシールドをパージ。
『ああああああああああああ――』
獣のような雄たけびをあげながら……”両目”から血を流し、赤く染め上げながら、空間一杯にサーベルを伸張。
『ああああああああああああああああああ!』
百メートル以上もの長さになった刃にて、自分を傷付けた敵達を……これから襲いかかろうとしたモック達を、尽く切り裂き爆散させる。
『……行けるな、お前』
彼女の異様な戦い振りに、意志を宿さないはずのモック達もたじろぎ、その進軍を緩めてしまう。
『当たり前です』
でも彼女は止まらない――飛び込み、左手で……ただの手刀でモックを貫き、その衝撃波だけで後続の敵を粉砕する。
かと思うと稲妻のように鋭く動き、敵を一人、また一人と引き裂き、握り潰し、両断する。
今の彼女は正しく別人……鬼と呼べるものだった。いや、あれは……。
「悪魔……」
そうだ、そう言うにふさわしい……人ならざる覇気に溢(あふ)れていた。
『マジ、かよ……!』
『あれは……今彼女が見せている機動は、自分達がやってきたものとは全く異質ッスね。文字通りガンプラと一体化している』
「自己催眠による潜在能力解放。アシムレイト……いや、それ以上の暴走≪オーバーロード≫……!」
『……それが、あなたの強さですのね。卯月さん』
恭文さんがトウリさんの試合などで見せたものだが、彼女の自己催眠は……はっきり言えば恭文さん以上。
そのせいでアシムレイトの効果も飛躍的に高まり、正しく暴走≪オーバーロード≫と言えるレベルに達している。
今の彼女は、人間ではない。
人間の反射や思考速度の限界を容易(たやす)く超え、衝動のままにガンプラと突き抜けている。
正しく悪魔……CP≪シンデレラプロジェクト≫の悪魔――!
『卯月はいろいろ思い込むと突っ走る方だったけど、まさかこう来るとは』
だが、それだけではない。
今の彼女は、確かに恐ろしい。あのまま全てが砕け散るまで、走り抜ける危うさもある。
『でもマズい……アレはマズい……! 獅二郎君、卯月ちゃんを引きずり出して! 今すぐに!』
『……イビツ、よせ』
『でも先輩、彼女のアシムレイトは既に暴走状態です! これ以上やったら身体にどんな反動が襲うか!』
『あれは、無理だ』
『えぇ、無理ですわ。それにいらぬ心配でもあります』
止められない――彼女は、そう覚悟を決めた。ありったけで、痛みを厭(いと)わずに闘い抜くと決めた。
『彼女はアシムレイトの深層に到達しつつある』
『深層?』
『ニルスさん達が言った通りですわ。受ける痛みはあくまでも”心の痛み”。それでもなお、ガンプラと戦う理由が見つけられたのなら……』
『でなければ、あの動きはあり得ません』
そして自分のガンプラと一緒に、こんな悲しいことは止めると定めた。
学者でもなければ、戦闘者でもない。ただのアイドルが……キラキラしたものに憧れていただけの女性が……なのに。
「……何をしているんだ、ボクは……!」
そうだ、分かっていた。セシリアさんは暗に”しっかりしろ”と活を入れてきた。
自分で言ったことすら嘘にしているのが、今のボクだ。一瞬でも怯(おび)えた自分を恥じ、そして罰するように両手で頬を叩(たた)く。
……ボクが甘かったのは事実だ。だが、それを理由に今止まることは許されない。
それは、そんな甘いボクの願いに、言葉に動いてくれた人達への侮辱だ。だったらボクにできることは。
(今ここで、全てを使い尽くすことのみ)
彼女は確かに悪魔かもしれない。でも、強く突き動かされるものもある。
『ウヅキに続くぞ!』
だから自然とボクも、他のみなさんも前に出ていた。
負けないためではなく、傷つかないためではなく、痛みを伴っても勝利して、笑うために――!
『キララちゃん、まだいけるな!』
『当然! ぽっと出の新人にあそこまでやられちゃあ、面目丸つぶれだもの! つーか潰されたし!? そこのイギリス代表に!』
『あら、これはごめんあそばせ。でも……わたくしも一応潰された側(がわ)でしてよ?』
もちろん、ボクの面目も丸つぶれです……!
『彼女があれだけ突き抜けて、ようやく気づきましたもの……!』
『あらら、そうだったの。じゃあ今の心境は?』
『自身への懲罰もかねて、思いっきり暴れたいです!』
『じゃあ私らと同じね!』
そうだ、ボク達はここへ勝負をしにきたんだ。
なら勝ちにいくのは必然。島村さんだけにはやらせない……ボクも、全てを使い尽くす!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まずはあの突っ走った可愛(かわい)い悪魔を回収だ。あおと二人モック達を蹴散らしつつ、ウヅキのウイングをカバー。
「ウヅキ、よくやった! だが一旦下がれ! スイッチだ!」
『あおー!』
『大丈夫です、まだ』
『駄目!』
そこで強く引き留めてきたのは、かな子のセラヴィーだった。
ウイングをカバーしつつ、サンドロックがそれでも進もうとする彼女を制止。
更にケルディムの狙撃が幾つも走り……射程距離をすっ飛ばす形で、正確な光条を撃ち込んできた。
それで俺やあおが対処する間もなく、モック達を次々と蹴散らしてしまう。
『卯月ちゃん、一度きちんと修理して! 私達がカバーするから!』
『かな子ちゃん』
『最後まで戦いたいんだよね。だったら言う通りにして』
『私達も、同じ……! 燃え尽きるまで……もう逃げずに、一緒に進み続けるから!』
レナとチエリの言葉でようやく気持ちが変わったのか、ウイングはサンドロックに引き連れられるように、静かに下がっていく。
『……分かりました』
『ん、いい子だ。……詩ぃちゃん!』
『受け入れ体制はバッチリですよ! いい感じで逆転ムードになってきましたからね!』
『そうです! 卯月はん、えろうすんません! 一人だけ痛い思いさせてもうて……でも』
それでまた、マオがサテライトキャノンを放射――少しずつだが、押し込まれていた前線が切り開かれていく。
『おかげで目が覚めました! まだ諦めるには速すぎますよね!』
『――――――うむ。それでえぇ、マオ』
……そこで一つの声が響いた瞬間、前方宙域に爆発が広がる。
『勝利とは、決して諦めぬ者に訪れるものだよ』
それも一つじゃない……二つ、三つと、どでかいものが生まれてくる。
しかも生まれているのはそれだけじゃない。どでかい月が……周囲の粒子を吸い込みながら、とんでもなくデカい月が生まれている。
『月……まさか、あれは』
慌てて月の発生地点、及び周囲をズームアップ。するとそこには……三機のガンプラが並び立っていた。
『師匠!』
一体は両肩を金色に染めたマスターガンダム……珍庵師匠だ。
「ラル大尉!」
『うむ』
二体目はグフを全領域対応型高機動機体として昇華させた≪グフR35≫。
フィンガーバルカンは外付け装備としてシールド共々両腕に装備し、ヒートサーベルは両足の追加スラスター上部にセット。
色と外観はさほど変わらないように見えるが、細部の作り込みは正しくレジェンド。あの噂(うわさ)に名高い機体がお目にかかれるとは……!
『……二代目メイジン』
で、あっちのカテドラルが二代目メイジン!? なんでアイツが……いや、そういうことか。
なるほど、ヤスフミの奴……すげぇじゃねぇか。二代目お手製のガンプラをもらうなんてよ。
『……ニルスさん』
「恭文さんの判断です」
『全く……!』
セシリアはガンプラ塾塾生として、大まかな状況を理解したらしい。そのためか何も言えず、面倒そうに頭をかきむしる。
『未熟者どもが……後先も考えず戦うからこうなる』
『死にかけの身体で、こんなバトルに飛び込むあなたにだけは言われたくありません!』
『何が問題だ。教えたはずだぞ、セシリア・オルコット――勝つことが全て。
勝利せねば未来を得られないというのなら、敗北に至る過程など意味を持たない。
これはそういう戦いだろう。――ならば』
そして、月は放たれる――自分達へ押し寄せていく数百、数千というガンプラ達を全て押しのけながら、こっちに直進……っておい!
「散開しろ!」
『あおあお!』
慌てて月の範囲外に飛びのきながら、その重圧を……敵陣そのものを消し飛ばすような圧力を見送る。
月はア・バオア・クーすれすれをかすめながら、そのままフィールド端へと消えていく。……よかったぁ、さすがに要塞直撃はなしか。
『私とカテドラルの領域だ』
『ぶ、ぶっ飛んだおじさんなのです……。でも……今この状況では、とっても心強いです!』
「二代目だけじゃあねぇぜ……」
アストレイ使いの羽入とやらには、これが初撃にすぎないと警告する。
「何せラル大尉と珍庵師匠もいるからな!」
あの二人も二代目と同レベル……正しくレジェンドだからな!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『しかし、お前さんも変わったもんだのう。若い奴に手助けするとは……』
『言ったはずだ、全ては勝利のため』
「あぁ、それでいいのかもしれん」
思想も違う、楽しみ方も違う……しかしそれでも一つとなって楽しめるのがガンプラバトルだ。
ウヅキ君の暴走は危なっかしくもあるが、その基本を竦(すく)んでいたみんなに思い出させた。もしかすると私達がくる意味はなかったかもしれんな。
……だが……済まないね。おじさん達もこういう楽しい遊びには、目がないのだよ。
「珍庵、久々にアレを使うぞ」
『いよっしゃあ!』
右手首のヒートロッドを展開――マスターガンダムと互いの両足裏を合わせて、蹴り出すように射出!
砲弾のように飛び出しながら、ヒートロッドをしならせて鋭く回転。周囲の粒子を巻き込みながらの乱舞により、巨大な渦巻きが形成される。
月によって両断された、モック師団の右翼にそのまま突撃――その鼻っ柱からケツの先までを、一気に飲み込む嵐となる。
『ガンプラ心形流! 究極奥義――――珍庵蹴りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
私が起こした竜巻の中心を貫き、珍庵のマスターガンダムが跳び蹴り。
お互いの粒子エネルギーが相互干渉を呼び、文字を浮かび上がらせながらも大爆発を起こす。
――ガンプラ心形流――
続いては左翼側……いや、こちらはカテドラルが対応している。右手をかざし、虚空の粒子を制御――なんと、どこからともなくコロニーレーザーを召喚。
数瞬のときを置いてチャージされた発光が、無数のモック達を飲み込み、一瞬で焼き払う。
それを笑いながらも、竜巻の攻撃を逃れ、散り散りとなったモック達に狙いを定め……両腕のフィンガーバルカンをかざし、時計回りに回転しながら乱射。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
『きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
珍庵も私に背中を預ける形で、石破天驚拳っぽいエネルギー波を放射。私達の周囲で幾つもの爆炎が生まれ、世界を埋め尽くしていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『な、なんなの……あのデタラメな強さ』
「すげぇ!」
『はい!』
キララちゃんが軽く引き気味な中、俺やマオはもうテンションMAX!
「あれが青い巨星の……いいや! 殿堂入りファイター達の実力か!」
『師匠、最高ですー!』
『いや、あの……それだと私の出番は』
『はいはい、前のめりはいいですけど、まだ修理中ですよー』
『だって、詩音さんー!』
『というか、リインの出番もないですよ!? せっかく無人機の完全マニュアル操作≪Gマニューバ≫を覚えたのに!』
『はいはい、後方支援機も状況把握を頑張りましょうねー』
はははは……ウヅキ、すっかり元に戻っちまったなぁ。両目から流れていた血も獅二郎の治療で止まったらしく、こちらも完全回復していた。
『……ほら、言った通りでしょう? 結局卯月さんも、ガンプラ馬鹿というだけです』
『まぁね。でも……先輩! マジで凄(すご)いですよ、レジェンド級!』
『……俺達はまだまだ小兵だったってことか。いや、でも今回は有り難い!』
『そうですわ! これで一気に形勢逆転ですもの! ニルス!』
『まだ油断はできませんが……とりあえずセイ君達に状況確認を』
――すると、ア・バオア・クー上部の円盤型岩塊から、光が漏れる。
「ん? あれは」
いや、光が漏れるというか……内部から黄金色の極光が突き抜けた。
サテライトどころかあの月すら飲み込みかねない、超特大砲撃が――それは岩盤を砕き、再出現したモック達を巻き込み破壊していく。
「なんだぁ!? リイン!」
『待ってください……コロニーレーザー級!? ア・バオア・クー中央から放たれたものなのです!』
『なら、セイさん達は……チナさんは! 杏さん!』
『杏よりライオンさんに聞いた方が速いね。……どんな具合?』
『……罠だ』
その言葉で誰もがゾッとする。
『その、コロニーレーザーだっけか? 中心部のどでかい通路に砲門があって……チナと、アイラが……!』
『なん、ですって……!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――――僕達を飲み込もうとしていた砲撃。でもベアッガイIIIとミスサザビーがそれぞれ僕達を突き飛ばし、壁際へと叩(たた)きつける。
その代わりに二人は……死の光が消失した瞬間、目に見えたのは半壊し、スパークをそこらかしこから放つ二機の姿。
そして砲撃によって外壁や内部通路を砕き、仕上がった外への巨大な直通通路だった。
「あ…………! 委員長!」
『アイラ!』
慌ててベアッガイIIIに駆け寄る。レイジはミスサザビーに……。
「大丈夫だ……」
すると、左肩の獅二郎さんが苦しげに呻(うめ)く。
「ちょっと待て。声を繋(つな)ぐ……よし、できた」
(うん、大丈夫……わたし達は大丈夫だよ)
あ、この頭の中に声が響く感じ……そうか、ニュータイプ的テレパシーなんだね!
「委員長!」
(ライオンが、引きずり出してくれたの……)
『アイラ! 生きてるのか、お前!』
(バッチリよ。ちょっと、ぎしぎしって感じはしてるけどね)
(こっちも同じく……あの、ありがとうございます。獅二郎さんは痛くなかったですか?)
「俺達は大丈夫だ。だが……やっぱ引きずり出すだけじゃ駄目だな」
安堵(あんど)のため息を吐きかけたところで、獅二郎さんの苦い言葉で凍り付く。
「コイツらとガンプラとのライン、まだ残ってやがる。放置するのはあんまよくねぇぞ」
「……だったら、すぐに避難させよう」
『だな。幸い近道もできて』
――というところで後方からアラーム。レイジのスタービルドストライクが、背部にミサイルを三発くらい、爆炎を背負う。
「レイジ!」
『ちぃ……!』
ユニバースブースターをパージした上で、レイジはライフルとシールドを構え……ない。
アイラさんが突き飛ばしたとき、両方とも手放しちゃったみたい。
だから漂っていたミスサザビーのスイートソードを持ち、ライフルモードに変えて連射。
狙いは……直通通路から飛び込んできたモック軍団! シャアザク型がモノアイを輝かせ、先頭を切って近づいてくる。
(イオリくん、行って)
委員長にそう言われても、身体は自然と守る方向で動いていた。
まだ、ガンプラとのラインは繋(つな)がっている。しかもぎしぎしって……やっぱり痛みは伝わっているんだ。
それでもし全損なんてしたら? 最悪の事態を避けるために、ビームライフルMk-II二丁を構え、レイジと一緒に迎撃……!
一体、また一体と撃ち抜くけど、追いつかない。このままじゃあ……しかも、背後の巨大砲台もチャージを始めている。
(わたし達は大丈夫だから……!)
『うっせぇ!』
「そんなの無理だよ! ……獅二郎さん!」
「恭文、すぐに二人とのラインを何とかしてくれ! ……え、無理!? もう戦場に出ちゃった!?」
『「なんでこのタイミングでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」』
それはつまり、管制役から外れて救援にってことだよね! いや、予定通りだったかもしれないけど……なんで今このときにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
『このタイミングだからこそだよ』
『「え?」』
いきなり入った通信にビクリと震える。
『儀典≪アポクリファ≫――』
『燃え上がれエクシア――』
『幻想大剣・天魔失墜≪バルムンク≫』
『トランザム!』
――洛陽(らくよう)を思わせる極光が走る。それは波のようにうねり、僕達の眼前すれすれまで広がりながら、迫っていたモック達を打ち据える。
そうして中心部にいた大隊が粉砕され、その爆炎を切り裂くように赤の閃光(せんこう)が突き抜ける。
極光の範囲外にいた、又は退避したモック達を次々撃ち抜きながら、その機体は閃光(せんこう)を払い停止する。
『アームビット!』
かと思うと左肩基部の黒衣(こくい)を払い、蒼い拳を外に向けて打ち出す。火を走らせながら飛ぶ拳もまた、穴から入ってきた別の大隊を粉砕し、こちらへと帰還。
「この機体は……」
それは左腕や破損部位に、フェイタリーのパーツを組み合わせた機体。左肩には黒衣(こくい)を携える。
アメイジングエクシア・パッチワークと言うべき姿だった。
更にそんなパッチワークの隣に、ゴーストフレームも到着する。
「ユウキ会長! それに恭文さんも!」
『遅くなってすまない。それとコウサカ君達の方だが』
『アルト、二人の操縦システムは切ったんだよね』
『えぇ。ただこの状況ですからね。やっぱり詩音さん達のところまで送り届けるのが得策かと』
『なら……セイ、レイジ、二人は僕達に任せて』
そう言いながらゴーストフレームは、どこからともなく取り出したグレネード三本を砲台に投てき。
更に自身も左手をかざし、爆発によってまき散らされたチャフに干渉。その効果を高めるように粒子変容を起こす。
それによって再度放たれた砲撃はチャフによって遮られ、砲台やその周囲へと無数に反射。
砲身も兼ねている外壁などに反射し、無数の弾痕を刻み込む。び、ビーム攪乱帯……しかも粒子干渉でより高度化するって。
『その水先案内人は、私が勤めるとしよう!』
今度は……父さん!? しかも父さんもバトルベースに入っているし!
「父さん!」
『あれだけの粒子ビームを撃てたということは――』
すると、外の方から流星が走る。トリコロールカラーの増加装甲を装備するそれは≪パーフェクトガンダム≫――伝説の改造ガンプラ!
『あの砲台の向こうに、大型結晶体があるということだ!』
パーフェクトガンダムは肩部大型キャノンを構え、砲撃をチャージ。
それに合わせてゴーストフレームも古鉄弐式を弓に変えて――粒子の矢を発射。
一矢は一瞬で無数の輝きとなり、砲台中心部のクリアパーツに突き刺さっていく。そうして無数のヒビを走らせたところで。
『ディスチャージ!』
父さんが砲撃を発射。黄色いビーム粒子が脆(もろ)くなっていた中心部に着弾……呆気(あっけ)なく破砕し、その機関部も撃ち抜き消失させる。
すると……本当だ。砲台の向こうに道が見える。それに、粒子の光っぽいものも漏れ出した!
『行け、セイ!』
『頼んだぞ! イオリ君、レイジ君!』
(お願い、イオリくん……)
(行きなさい、レイジ!)
あぁ、そうだね。
僕達はみんなから大事なものをたくさん……たくさん託されている。
行く道を引く権利なんてない。僕達が返せる最大の返礼は――!
「恭文さん、Gスライダー……もうちょっとお借りします!」
『貸しは高いよー』
「覚悟の上です! レイジ!」
『行くぞ!』
外からはモック達の増援。そうしてまき散らされる、雨のようなビーム射撃。
でもそれには構うことなく、改めてGスライダーをボード代わりに乗っかり前進。レイジもしっかりと追いかけてくれる。
――行く先に立ちふさがってくるモック達をGスライダーでの特攻で、レイジの射撃で撃ち抜きながら、ただ前に……前に!
そうして見えるのは、PGサイズの扉。その上には固定砲台があり、継続的に弾幕を展開。
それもGスライダーで波打つように回避しつつ、ビームライフルとスイートソードの射撃で全て撃破。
更に固く閉ざされた扉も撃ち抜き……内部に突入! でも、その途端に黄金色の嵐で機体が絡め取られる。
そこは円形の大型フロアで、中心部には……見つけた! 巨大結晶体だ!
『なんだ……』
「粒子の嵐……!」
前に進もうとしても、駄目だ……動けない……! Gスライダーも出力全開だっていうのに、これじゃあ。
『動け、ねぇ』
「いいや!」
でも、手はある。
今度はずーっと持っていた、ニルス君からの預かり物を放り投げて発動。
黒塗りのトランクは瞬間展開し、甲高い音を響かせる。
それは空間に響く粒子を、その嵐をかき乱し、一つ一つに反応して霧散させる。
そう……これもビーム攪乱帯! 多分サイコシェードの応用だ!
でも長い時間はかけられない。サイコシェードで嵐が消えている間に、さくっとドッキング開始。
まずはビルドガンダムMk-IIからブースターを分離! 恭文さんから預かったGスライダーもローダーに変形!
「二人でなら」
ブースターは停滞していたビルドストライク≪レイジ≫のバックパックとしてセット。こういう状況にも備えて、共通規格化してあったんだ。
そう、共通規格化……三ミリ軸棒一本による接続! だから……!
「みんなとなら」
大剣モードからローダーモードにした上で、Mk-IIのバックパックにローダーのコネクトをセット!
両手両足もローダーにセットして、合体完了……ローダーのフレームもRGシステムに巻き込み、一気に出力を跳ね上げる。
よし、恭文さんの配慮に心から感謝! 細かいフィッティング調整も必要ないくらい、ばしっとハマっている!
これならやれる……ここにはいないけど、みんなの力も巻き込めるなら!
「進める!」
『――おう!』
プラフスキー粒子の結晶は、人の意識に左右するらしい。つまりこのデカい要塞は、自分可愛(かわい)さに隠れることしかできない会長の弱さ。
でも僕達は違う。弱さを何度も突きつけられた。だけど諦めず、それでも立ち上がってきた。
一人じゃできないことを、二人で埋めてきた。そうだ、答えは今までの中にある。
この一撃は、僕達だけの力じゃない。みんなから教えてもらったもの、伝えてもらったもの――その全てがここにある!
『「RGシステムVer2.0」』
――RADIAL GENERAL PURPOSE SYSTEM Ver2.0――
ここまで温存していた全ての力を……消失したサイコシェードと入れ替わるように、再び吹き荒れた嵐の一部も取り込みながら、一気に燃やす!
『「完全開放!」』
――LIMIT BREAK――
ビルドストライクはフレームを赤く滾(たぎ)らせながら、炎を噴射。ビルドガンダムMk-IIも蒼の炎を吐き出し、その力をローダーに伝えていく。
そうして二人で、左拳を振り上げ……握り締めながら……!
「もっとだ」
『もっとだぁ!』
「もっと!」
溢(あふ)れる炎を、みんなのおかげで溜(た)めに溜(た)められた力を、ただ一点に凝縮して――――踏み込む。
『「もっと! 輝けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」』
アームレイカーを全開で押し込み、嵐を沸き上がる炎で……僕達とガンプラの力で払い、粒子結晶体の中心部に肉薄。
「ハイパー!」
『ビルド!』
「ツイン」
狙うはただ一点。中心部目がけて、燃え上がる拳を叩(たた)きつける!
『「ナックル!」』
その途端に生まれる爆発と、損傷報告……左腕は肘からへし折れ、粒子結晶体は未(いま)だ健在。でも、まだ終わりじゃない。
捉えたよ……結晶体に打ち込まれた、二機の左前腕部! それを楔(くさび)として、更なる奥に力をたたき込む! だから、今度は右拳を握り締め――!
『「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」』
レイジと二人、全力で拳をたたき込んだ。それは楔(くさび)を押しつぶしながらも連動――。
一つのフレームとして粒子を滾(たぎ)らせ、破砕振動を結晶体の中心部から注(そそ)ぎ込む!
――――それは荒ぶる粒子と相互反応を起こし、その圧倒的な巨大質量に亀裂を刻み込む。
ぴしり、ぴしりと音が小さく響き、積み重なり……それが一つの音楽を奏でるかのように連鎖し、オーケストラとなった瞬間。
『「――!」』
黄金色の粒子は瞬間停止。結晶体は僕達がよく知るアリスタの色に戻り、粉々に砕け散った。
世界を覆っていた重圧が、マシタ会長の身勝手な嘆きが一瞬で消え去るのを感じる。
僕とレイジは自然と顔を見合わせて――。
「「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
全力のハイタッチを、駆け寄りながら叩(たた)きつけた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ベアッガイIII達をカバーしつつ、外へと連れ出す戦い。さすがにタケシさんもいると楽……とはいかなかった。
何せ数が多い上、屋内戦だからねぇ。それでも立ちふさがるモック達を切り裂き、道を開き……何とか外に出たところで。
『これは……』
モック達が全て、完全に停止した。そしてその大半が消えていくフィールドに合わせて霧散する。
ア・バオア・クーも、激戦続きだった宇宙も、その全てが……まるで夢のように消える。
慌ててフィールドベースに降り立ちながら、取り戻された現実の光景を見上げる。するとそこには、眩(まばゆ)く輝く夕焼け……もうそんな時間だったのか。
「セイ、レイジ……やるじゃないのさ」
≪えぇ≫
≪これでちゃんと決められたのなら、二人とも立派なのー≫
「でも、僕は反省点山盛り……」
だってだって……楽天の極地が使いこなせなくて、当初の予定とかすっ飛ばしてエンプティでしょ?
卯月も危ない目に遭わせたし、見通しが甘かった部分もあるし……はははは、もう機動六課のことはあれこれ言えないなぁ。
「まぁたまにはいいじゃねぇか」
そう言いながらショウタロス達が出てくるので、お疲れ様とハイタッチ。でもショウタロスは顔を背けた。
「……その対価は払ってるだろうが。つーかお前、味覚が……」
「あ、うん……」
スゥと開発した特製兵糧丸セット、あんまりにマズいため……食べると三日ほど、味覚が馬鹿になる。
現に今もなんか、口の中が辛(から)いんだかすっぱいんだか、よく分からない感じがしていて……!
「……っと、そうだ」
それに構っている場合じゃない。慌てて卯月の方へ駆け寄ると。
「卯月!」
「あ、恭文さん……」
卯月は右目を閉じながら、床にへたれ込んでいた。その両脇には智絵里とかな子、杏……それにイビツがいて。
「ごめん」
「謝らないでください。私が強引に飛び込んだんですから……それで、イビツさん」
「……セシリアちゃんの言葉を借りるなら、君は受け止め方を見つけたってことだね」
イビツはやってられないと首を振る。
「目の出血ももう止まってる。身体に刻まれたノーシーボ効果による傷も消えているよ」
「じゃあ卯月ちゃん、大丈夫なんですね!」
「よかったぁ……」
「……でも、君のオーバーロードは規格外もいいところだ。なので精密検査をキチンと受けて、関係医療機関でも調べてもらうこと。いいね」
「はい。お騒がせしましたぁ」
卯月はいつも通り明るく笑いながら、ぺこりとお辞儀。その上で僕を見上げてくる。
「恭文さん」
「うん」
「これで、世界は守られたんですね……」
「そうだよ。僕達みんなの手で守ったんだ」
「でも、ガンプラバトルは……」
「大丈夫」
それも何とかなると、卯月に目線を合わせて頷(うなず)く。
卯月はそれで安堵(あんど)して……零(こぼ)れかけていた涙を払い、また笑顔を届けてくれる。
「きゃああああ!」
すると、そこら辺に転がしていたベイカーから悲鳴が響く。
そちらを見やると……マシタ会長が赤い光に包まれ、その身体から光の粒が漏れ出していた。
「ひ、光っていますわ!」
「会長……!」
「……アリスタがぶっ壊れたから、この世界への楔(くさび)も消えた」
ぼう然とするマシタ会長に近づきながら、そう声をかける。
「そういうことだよね、マシタ会長」
「そうだ……アリアンに、戻される……!? い、嫌だ! せっかくこの世界で成り上がったのに!」
≪……本来であれば逮捕と言いたいところですけど、あなたにとってはこっちが罰になりそうですね≫
「だね。でも……本当に残念だよ。おのれとベイカーが作ったものは、あんな汚い真似(まね)をしなくても……みんなから必要とされていたのに」
「え……」
……僕もガンプラバトルに出会えて、大会に出られて楽しんでいた人間の一人だ。だから自然と……そんな言葉をぶつけていて。
「おのれは自分の手で、築き上げてきたものを壊したんだ。失うことに怯(おび)えて、弱い自分を作り替えようとしなかったから」
「私が、この手で……君や、刑事達ではなく……私が……私、自身が……!?」
「だから、お前の罪を数えろ。……そうじゃなきゃお前は、一生そのままだぞ」
マシタ会長は顔を上げて、悔恨の表情で俯(うつむ)く。それでも……意を決して、もう一度僕を見上げた。
「………………頼みがある。ベイカーちゃんは、何も悪くない……全部、ボクがやったことなんだ。だから」
「ベイカー秘書のことなら、相応の裁きが待っている。でも人道に乗っ取り、公平な形で対処する。
その上でそういう結論に出ることも、あるかもしれない。……それでいいかな」
「あぁ……」
「待って……会長……」
「ベイカーちゃん、ごめんね……いろいろ、迷惑かけちゃって。でも、全部ボクのせいにしてくれていいから。それで」
「待ってぇ!」
「ありがとう――――!」
最後に思うのは、誰よりも側(そば)にいた彼女の姿。この二人もまた、ビルドファイターズだった。
ただやり方を少し間違えただけ。それでも、マシタ会長はその間違いを受け入れ、静かに消えていく。
「会長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
かと思ったら、そこでベイカー秘書が強引に立ち上がり、大きく跳躍。それで止める間もなくマシタ会長に覆いかぶさり――!
「げぇぇ!?」
そのまま、マシタ会長共々この場から消失した。跡形もなく……奇麗、さっぱりと。
「き、消えた……!?」
「なんですの、今の!」
いや、あの……リカルド、マオも、そう言いながら僕を見ないで? いろいろと困っちゃうから。
あ、でも説明が必要? うん、そうだね……そうだよねぇ! でもね、僕も大変なんだよ、これから!
「……蒼凪、これはどう処理するんだよ」
それで鷹山さんと大下さんが、困り気味に脇を取ってくる。
「被疑者逃亡を許す……始末書じゃ済まないぞぉ、これ」
「だ、大丈夫ですよ。大下さん達だってほら……ね? 警察官、できていますし」
「いやいや、自分達は極々一般的な警察官ですので」
「そうそう。第一種忍者な蒼凪さんには負けますって」
「嘘をつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ちくしょお! やっぱり反省会だぁ! 反省会の議題が一つ増えたぁ! うぅ……でも、まぁいいか。
最後の最後には、キチンとした形で罪を数えていたんだから。
……じゃあね、マシタ会長。それで今度は……正しい形で、思いっきり成り上がってよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
赤い光に包まれての消失。そこで思い出すのは、初めてユウキ先輩とバトルをした後のこと。
――レイジ、作るよ。このガンプラを。ビルドストライクガンダムを最高の……うん、最強の機体に仕上げてみせる!――
――頼むぜ、セイ――
――ああ!――
そのときもレイジは、こうして……いきなり発光し始めて!
――なんか、光ってない!?――
――おっと、時間みたいだ。またな、セイ――
――あ……え、え!――
次の瞬間、レイジは光とともに消失。まるで……そう、まるでテレポートしたみたいに、この場からいなくなった。
僕は池の畔(ほとり)で一人残され、ただぼう然とする。
あのときは本当に驚いたし、アリスタの件を知るまでは目の錯覚だと思っていた。でも、今は違う……ただ寒気が走り続ける。
巨大アリスタが楔(くさび)となって、マシタ会長の生活を許していたとしたら……レイジは、どうなるの?
レイジだって巨大アリスタがあるから、こっちに来たのかもしれない。というか、ニルス君達が前にそういう話をしていた。
レイジは偶然地球に来たんじゃない。マシタ会長のアリスタを目印に跳んできたのかもしれない。
――レイジ……! どうして!――
――お前が祈ったんだ、だからオレは来た――
――え――
あのとき、僕の願いに応じて、レイジが来てくれたみたいに……!
「レイジ!」
慌てて右隣のレイジを見やると。
「ん? どうした、セイ」
レイジはいつも通り、のんきな様子で前かがみになっていた。それには安堵(あんど)する。
「……はぁ」
「……じゃあ、そろそろやろうぜ」
「そろそろ?」
「約束が残っていただろうが」
……でも、安堵(あんど)はその言葉で吹き飛んでしまう。レイジの言葉が、その中に含められた重さが強烈で。
そんなレイジが見やるのは………………ユウキ会長だった。
「悪いな、セシリア、チナ……お前達との約束は、セイが自分で叶(かな)えに行くから待っていてくれ」
「構いませんわ。……でも、無様なバトルは許しませんわよ?」
「当然……!」
「え、あの……」
「まさかアンタ達、今から戦うつもり!?」
委員長とアイラさんに頷(うなず)きながら、脇にしゃがみ込んで整備用のボックスを取り出す。
それを開きつつ、ビルドガンダムMk-IIとビルドストライクをチェック。
やっぱり破損が酷(ひど)い……あの嵐自体が強力な攻撃でもあったわけか。とりあえずボディを補修して、両腕は……えぇい、それも後だ!
あとはGスライダーの修理も後回し! 借りた以上はキチンと奇麗にして返したいけどね!
「粒子が消えかかっている。もう……ガンプラバトルができないかもしれねぇ」
「レイジの言う通りだよ。一応ね、僕とニルスで再開発って決めてはいるけど……いつまでかかるかは」
「……アラン、手伝ってくれ」
「分かった」
アランさんも改めてエクシアを受け取り、整備開始。時間はない……即興でぶっつけ本番の調整になるけど、上手(うま)くやっていくしかない。
「つーかヤスフミも悪いなぁ。あんなバトルじゃあ勝った気がしないだろ」
「それも問題ないよ。後々ボコボコにするから」
「言うと思ったぜ」
「でも、ガンプラもボロボロなのに……」
「そこは任せといてください!」
リカルドさんとマオ君がいそいそと近づき、リナーシタの両腕とクロスボーンガンダム魔王のクロスボーンガンソードを手渡してくれる。
「使え」
「使ってください」
「ありがとう……リカルドさん! マオ君!」
共通規格ってすばらしい。ぱちりとはめ込んで、即席だけど……オリジナルガンプラの完成だ。
「――今はこれが精一杯だ」
「ありがとう、アラン。……恭文さん、フェイタリーはもうしばらくお借りします」
「うん。楽しんでくるといいよ」
ユウキ会長はアメイジングエクシア・パッチワーク。お互いにボロボロだけど、何だかそれが逆にワクワクする。
なんだろう、この気持ち……そうだ、覚えがある。初めてオリジナルガンプラだーって、ミキシングしたものを動かす前みたいだ。
まぁ当然上手(うま)く動かないんだけどさ。僕の操縦技術はあれだし……でも、それも含めて凄(すご)く楽しかったっけ。
少し気恥ずかしいような、楽しい気持ちをかみ締めていると……恭文さんがベース脇に立って、コンソールを叩(たた)く。
「よし――三人とも、準備はいいね。周囲に漂う残存粒子で稼働するけど、試合時間は五分とない。決着をつけたいなら即行で」
「ありがとうございます。では」
「行こう、レイジ!」
「おう!」
「システム――起動!」
≪――Plaese set your GP-Base≫
ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。
ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。
≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Forest≫
ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。
あれ、これは……サザキとウイングガンダムでバトルしたときと同じ、桜の木々が立ち並ぶ平原。何だか懐かしいなあ。
≪Please set your GUNPLA≫
指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。
スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。
カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。
メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。
モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。
コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。
レイジが両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。
機械的なカタパルトへと変化。
同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。
『――全世界にいるガンプラファンのみなさん、この映像が見えますか』
あれ、これってミホシさんの声だよね。……全世界!? え、まさかこの状況で中継……余計に負けられないや!
『もし見えているのでしたら、この映像を見逃さないでください!』
≪BATTLE START≫
「行くぜぇ!」
「うん!」
アームレイカーを押し込み、お互いの機体は空へと飛び出す。まずはガンソードで牽制(けんせい)射撃――。
エクシアは左右のスラロームで回避しつつ、右手のライフル……フェイタリーのもので射撃。
それを飛び越えながら交差すると、エクシアは宙返り。逆さになりながら反転し、イオンビームをチャージ。
でも、微妙に銃身がぶれている。
『ッ……!』
ユウキ会長は苦悶(くもん)の声を上げながらも、イオンビームを放射。それを左回りにすり抜けながら、ビルドストライクは急停止。
銃身下部から放たれたグレネードを宙返りで回避しつつ、危険がないようにイーゲルシュテルンにて全て撃ち落とす。
『ありがとう。イオリ君、レイジ君……』
その爆炎を振り払いながら、ビルドストライクは左のガンソード刀身を上九十度回転。
カタールから普通の刀剣っぽく持った上で、その刀身を赤熱化。
『私はこの戦いを望んでいたぁ!』
「あぁ! 俺もだぁぁぁぁぁぁぁ!」
エクシアは左腕にセットしていたビームサーベルを展開。お互いに袈裟に撃ち込み、虚空でつばぜり合い。
その衝撃が辺りに舞い散り、桜吹雪が生み出される。その光景にゾクゾクしている間に、ビルドストライクとエクシアは交差――。
「――ありがとう、レイジ」
「なんだよ」
楽しそうに戦うレイジに、改めてお礼。
「君と組まなきゃ、こんなバトルは味わうことはできなかった。……父さんのようになりたかったけど、僕は操縦が下手だから」
「セイは下手なんかじゃねぇよ」
「え」
「お前はガンプラが好きすぎるから、バトルで傷つくのが嫌だった」
再び射撃戦を演じる中、レイジはふだんより少し優しく語りかけてくる。
「だから迷って、操縦に集中できないでいた。……足りないのは技術じゃなくて、”何を失っても戦う”という覚悟だ!」
何を、失っても…………あぁ、そうか。
「うん……」
思い返してみる。レイジに出会ってから積み重ねてきた、たくさんのバトルを。
僕の世界は確かに変わった。大会に出たからってだけじゃあない。一歩踏み出したことで、たくさんの人達に出会えたんだ。
「その覚悟を、いろんな人に教えてもらった」
負けて悔しかったこともある。
自分の至らなさに涙したこともある。
ビルドストライクが傷ついて、苦しかったこともある。
でも……あぁ、そっか。さっき自分で言ったじゃないか。二人でなら……みんなとなら、進めるって。
それはレイジから、みんなからたくさんのことを教わってきたからなんだ。
「ユウキ先輩、恭文さん、リカルドさん、マオ君、ニルス君、トウリさん、イビツさん、ジオさん、アイラさん――」
それに……サブモニターで見やるのは、みんなと一緒に見守ってくれている委員長。
「委員長には、自由な発想を教えてもらった。それ以上にもっと大切なものも」
『……セイくん』
あれ、初めて名前で呼ばれたような……でも、悪い気はしないかも。……いや、待って。よく考えたらこの話、外にも丸聞こえ?
世界中で生放送? あれ、あれれれれれ…………なんかすっごく恥ずかしいかも! でも、出た唾は飲み込めないよね! うわぁぁぁぁぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……右手首のリングから、光がまた一つ欠ける。
やっぱ残存粒子ってやつだけじゃあ足りなかったか。オレのアリスタも対価として引っ張り出してきやがった。
だが、怖くはない。不思議と落ち着いた気持ちだった。最後のバトル……本当に最後かもしれないバトル。
だけど、不思議と信じられるんだよ。終わりじゃない……終わるわけがないって、その先をよ。
だったらこのバトルは、セイがもう一歩踏み出すために使ってやりたい。バトルが復活したら、改めてチナと向き合うんだしよ。
「……そんだけもらってたら、もう前に出られんだろ」
危うくバトルをすっ飛ばしそうになったセイに苦笑しながら、ビルドストライクを着地させる。
ユウキの野郎は意図を読んだのか、こっちに合わせて停止していやがる。それにはまぁ、一応感謝を送る。
「できるかな」
「やってみろよ!」
だから、セイと入れ替わる。セコンドに入るのなんて性に合わないから、脇で観戦だ。
最初のときとは真逆……あんときはオレが強引に奪ったんだっけなぁ。たった三か月くらい前のことなのに、妙に懐かしくなった。
それでセイは深呼吸――すぐに気持ちを整え。
「行きます!」
鋭く前に踏み出し、エクシアと斬撃をぶつける。左の剣で受け止めたかと思うと、がら空(あ)きだった背中を狙って右の剣でなぎ払い。
それをエクシアが伏せつつすり抜け交差すると、すぐに襲う唐竹(からたけ)の斬撃を防御。かと思うと無理せず下がり、左の剣で零距離射撃。
ビームはエクシアのライフル弾丸とほぼ同時に放たれ、俺達の真正面で衝突・爆発。
それに怯(ひる)まずセイは踏み込み、右の刃で袈裟一閃――!
「そうだ、セイ……いいぞ……!」
一つ、また輝きが欠けていく。
だがそれを対価に、高揚感が膨れあがる。今までずっと感じていた、熱い気持ちが確信に変わっていく。
これなら、大丈夫だ。一つの約束は、夢は終わっちまうのかもしれない。だが、新しい何かに繋(つな)がっていく。
そうしてオレ達は……そうだろ、セイ。オレ達はまだ、こんなところじゃ終われねぇ……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前へ、前へ、前へ……!
レイジが、みんなが教えてくれたことを糧に、前に踏み出す。恐れたっていい……泣いたっていい。
でも止まらずに、前に! 笑って、たくさんのドキドキをかみ締めながら、前に!
『ぐぅ……!』
エクシアは鋭く回転斬り。桜並木(さくらなみき)の合間で突風が吹き荒れ、ビルドストライクはそれに吹き飛ばされる。
二百メートルほど跳びながらも着地して、すぐに踏み込む。スラスターは全開……放たれるライフル射撃を右に、左にと連続スウェーで回避。
さすがはアランさんの調整だ。全く違う機体同士の修復ミキシングなのに、がっしり仕上げている。
ユウキ先輩もフェイタリーのくせに戸惑っていただけで、もう慣れた様子だった。
それゆえに射撃は鋭く、どれもこれもが一撃必殺級。だけど……見える……僕にも敵が見える!
次に放たれたグレネードは、右のビームマントを展開。反時計回りに身を翻しながら、マントをたなびかせ受け止める。
爆炎と衝撃を回転エネルギーで全て受け流し……一気に跳躍! 足下を通り過ぎたのは、巨大なイオンビーム。
グレネードによってチャージ時間を稼ぎ、そのままって寸法だった。でも、先輩は回避されることも読んでいた。
砲撃を回避されてもなお止まらず、飛び込む僕に対してサーベルを振るう。こうなればあとは、踏み込みの勝負……!
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!』
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
右ガンソードの銃口からビームザンバーを展開。迎撃の刃に叩(たた)きつけ……その刀身ごと右腕を両断。
『ッ……!』
地面を踏み砕きながら着地して、左ガンソードからもザンバー展開。エクシアの懐で身を翻し……最後の一撃!
右薙の斬撃がエクシアの右腕を断ち切り、その脇腹に……刃が触れた瞬間。
「ん……!?」
全ての動きが静止する。
ビルドストライクが、エクシアが、バトルフィールドやコクピットベースの粒子が弾(はじ)けるように消え去り、僕達は現実世界へと引き戻される。
「プラフスキー、粒子が……」
……そして、僕の左脇に赤い輝き。
まさかと思いそちらを見ると、今度は…………気のせいとかじゃなかった。
「レイ、ジ……」
レイジは両腰に手を当て、満面の笑みだった。ただし、マシタ会長と同じ光に、包まれて……!
「たまんねぇよなぁ! ガンプラバトルは! ――最高だぜ」
「もちろんだよ……!」
レイジの顔を見ていることができず、停止したビルドストライク達の方に目を背けてしまう。
もしかしたら、これが最後の……本当に最後の会話かもしれないのに。
「だから、ずっとやろう! 僕も……できる範囲だけど、バトル復活に手を貸すつもりだし!
父さんみたいなテストバトルとかなら、僕にもできるから! それで……来年も、再来年も、ずっと一緒に!」
でも、レイジは何も応えてくれない。何も言わず、何かをかみ締めるように黙り続ける。
「……なんで、何も答えてくれないんだよ」
それが信じられなくて、認められなくて、レイジの方に振り向き、右手で腕輪を指差す。
「ずっとガンプラバトルをやるって願えよ! その石に祈れよ……!」
もう無理なのに。レイジのアリスタは……半分以上砕けていて。それでようやく察する。
さっきのバトルが一体、何を削った上で……何を対価にした上で行われていたのか。
「なぁセイ……この前お前と戦って、オレはこう思ったんだ」
レイジは夕暮れの空から、僕に視線を戻す。
「”強くなったイオリ・セイとガンプラバトルがしたい”。それが、今のオレの願いだ」
「レイジ……」
「強くなれ」
それでレイジは、右手を挙げる。いつもみたいに……僕も、それに、合わせて……!
「約束だ」
「――――うん」
そうして、ハイタッチ。でも触れることはない……僕の手は、レイジに触れることはない。
消えゆくレイジと、その残滓(ざんし)とハイタッチ。そうして夕暮れの中、僕のパートナーは帰っていった。
この世界に持ち込まれた不思議な粒子……その粒子が生まれた、在るべき世界に。
でも、約束したから。
これで終わりじゃないし、終わらせない。僕達はいつだって……そうだよね、レイジ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
黄色い花々が咲き乱れる中、紋様の刻まれた空を見上げる。あー、セイ達風に言うとコロニーってやつか?
これで一夏の冒険も終わり……って言えば聞こえもいいが、やること満載だよなぁ。
(また会えるさ、セイ)
まずはマシタの野郎が更生できるよう、きちんと身柄を掴まねぇと。ヤスフミや鷹山のおっさん達が心配するからなぁ。
つーかアイツも馬鹿なだけで、商売の才能はあるんだからなぁ。いっそあの……モックとか作らせて、こっちでバトルを流行(はや)らせるか?
あ、それはいいな。ベイカーって秘書もいるならバッチリだろ。よし、そうしよう。
(大丈夫。オレ達はいつでも繋(つな)がってるんだから)
んじゃあ家のみんなにただいまーって挨拶して、手を回して……これから忙しくなるぞー。
「――忘れものよ」
すると、後ろから女の声。振り向くとそこには……!?
「うぁああぁあぁぁぁぇえ!?」
「何よ、その叫び声は!」
なんでか、宮殿の花畑にへたり込むアイラがいた。いや、オレも花畑のど真ん中だったけどよぉ。
それでアイラは、右手にビギニングガンダムを持っていて……いつのまに持ちだしたんだよ、お前。
「なんでお前がここにいるんだよ!」
「……決まってるでしょ、祈ったのよ」
そうか……セイがアイラに渡していたアリスタ! あれで願っちまったのか! こっちに来るとか、そういう感じで! でも……。
「なんて?」
「〜〜〜〜〜!」
細かいところが分からず呆(ほう)けると、顔を背けていたアイラは怒った様子で呻(うな)り、立ち上がる。
「どうして分からないのよ!」
そうして髪を振り乱しながら、オレに詰め寄ってくる。
「鈍いにもほどがあるでしょ!」
「何、怒ってんだよ……!?」
「れ、れ、れ、れ――――――レイジの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――あっという間に一年が経(た)ちました。
レイジくんとアイラさん、それにマシタ会長達は依然として行方知れず。
マシタ会長達はユウキ会長……いえ、三代目メイジンへの洗脳、関係者の拉致などで今も国際指名手配中。
二人が見つからないことで、フラナ機関への追及が厳しくなっているようで。
だから二人がアリアンから戻ってきたとしても、もう居場所はどこにもない……とは恭文さんの談。
本当に、異世界なんでしょうか。まだ信じられなくて……やっぱり見たこともないし。
でもわたし達があの日見たものは事実。不可思議な石がもたらしたものは、とても大きくて。
PPSEはマシタ会長達トップと、プラフスキー粒子を失ったことで事業停止状態となりました。
わたし達が十年培って追いかけてきた夢は、一人の自己愛によって簡単に壊されてしまった。
でも……。
それを失ってもわたし達は、できることから始めて、前に進んでいく。
例えばキララさん――念願の武道館コンサートを行い、また旅に出ていたフェリーニさんも見に行ったそうです。もちろんわたし達も。
あお君も一緒に見に行ったそうです。飼い主さんのところへと戻ったはずなのに……でも楽しそうでした。
マオくんも珍庵さんと修行中。メイジンとアランさんはガンプラ布教のため、世界中を行脚。
あれから教えてくれた理想の形、少しずつ作り上げています。勝つのが一番ではなく、楽しむためのガンプラバトルを。
卯月先輩は精密検査の結果、全く問題なしと即日解放。それで……ガンプラバトルも続けると、堂々と表明。
お母さん達はアシムレイト・オーバーロードがあるので、やめてほしいと言ったそうですけど。
それも先輩は押し切り、アイドルを続けながら、アシムレイトの研究機関に協力しています。
自分の力を安全に使う術も探しながら、そのデータを後世に残すという……何か凄(すご)いことを、始めていて。
……いつか自分みたいな子が現れて、それでも戦いたいと思ったときのために。
燃え上がる炎のような子が、その先へ行けるように。卯月先輩はそう言って、新しい夢に向かっています。
ニルスくんと恭文さん、杏さんは、キャロちゃんの実家であるヤジマ商事と協力提携。
ISSっていう宇宙ステーションで、プラフスキー粒子の精製に成功しました。結果ヤジマ商事の株価は急上昇。
三人とキャロちゃんは開発者特許も取り付けたので、何だか凄(すご)いお金持ちになりそうです。
……恭文さんが”株を買えたら”とか言っていたのが、凄(すご)く引っかかりましたけど。
それ、インサイダー取り引きですよね? 絶対駄目ですよね? いや、駄目だったからやらなかったんでしょうけど。
ニルスくんと杏さん達はそういうこともなく、至って真面目に粒子開発に携わっています。
あと……ニルスくんが当初考えていたような、粒子の他分野応用は見送られることになりました。
理由は結晶化したときの危険性。気持ち一つで、街や国が粒子に飲み込まれてしまうから。
その辺りは司法の判断もあるそうで。詳細を知っている私達にも、改めて秘匿が命じられました。
粒子は人と人を繋(つな)げる。手を伸ばし合えば、アイラさんとレイジくんのように。
でも自分の小心さに、身勝手な支配欲に押し流されれば、会長やベイカーさんのように全てを失うから。
それでも、ニルス君はこう言っていました。いつか……人という種そのものが、その危険性も受け入れるほど進化したなら。
正しい形で、粒子エネルギーを使えるときがきたなら……ううん、きっと来る。
そのときのために、よりプラフスキー粒子を知っていくと決めたそうです。
あ、それで一番大事なことを忘れていました。
ヤジマ商事は、事業停止状態のPPSE社の資産――資材だけじゃなく社員も全て受け入れていたんです。
ガンプラバトルはヤジマ商事の一大事業となって――――――――だから今日、わたしはここにいます。
二〇一三年五月――第八回ガンプラバトル選手権・地区予選。第三ブロック会場。
去年とは違う気持ちで、客席に座る。
わたしが見るのは、一年前より大人っぽくなったあの子。でも目の輝きはどんどん強くなっている。
その輝きをもっともっと好きになっていて、最近ようやく……自分の感情を素直に表現できました。
わたしはあの瞳に、最初のときから恋をしていたんだと。
「――セイくん、頑張って」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「イオリ・セイ――ビルドストライクコスモス、行きます!」
レイジ、約束は守るよ。
レイジが教えてくれたこと。
みんなが教えてくれたこと――。
全部持って前に進む。もう怖がって止まったりしない。
だから、いつか僕と!
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory73 『約束/PART3』
(鮮烈な日常『ビルドファイターズ編』――おしまい)
あとがき
恭文「僕の出番が少ないぞ!」
(げし!)
あむ「空気を読もうね……! セイとレイジ達が頑張ってたんだから! 卯月さんだってさぁ!」
恭文「は、はい……」
あむ「えー、そんなわけで、鮮烈な日常ビルドファイターズ編も一応終了。ただ、この話にはいろいろ後日談もあって」
(GMの逆襲編、第八回世界大会編などが待っています。なお同人版の方、いろいろ追加シーンを書く予定です。
アイディアをもらって出せなかったアレコレとかがあるので)
あむ「でもそれはまた別の機会に……だよね」
恭文「うん。その前に語るべきところがあって……お相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。それで過去の騒動から端を発したいろんな事件は、ここで一旦集束。次からは……いよいよ」
恭文「セイとレイジの物語は一旦幕を落とし、バトンを受け継ぐのは……そう、卯月です。
一応同人版の『幕間リローデッド第11巻〜第14巻』までやった鮮烈な日常・熱闘編第一部と同時期のお話になります。
それであれでしょ? 346プロが全百階のフロアダンジョンになったから、みんなで攻略するって話で」
あむ「違う!」
(そう、違う……機密情報の入った王冠を奪い合う、武闘派シンデレラ達の物語)
あむ「それも違う! というかそれ、ISの学園祭じゃん! あのただただ一夏さんが可哀相なやつじゃん!」
恭文「まぁ頑張ってほしい。僕は別件でいろいろ忙しいし、ほとんど手を出せないだろうし」
あむ「アンタも引くなぁ! 違うって知っているよね! ……でも卯月さん、大丈夫なの!? なんか凄い覚醒を!」
恭文「というわけで次回、右目に眼帯をかけ、右腕を包帯で固定した卯月の姿が」
あむ「あ……やっぱり、何らかのダメージが」
(『いえ。あの、ものもらいになっちゃって……あと右腕は、お庭に水を撒いているとき、勢いよく柱にぶつけて……ぽきっと』)
あむ「バトルと関係なし!?」
卯月「そっちは大丈夫だったので、調子に乗っていたら……うぅ、反省ですー」
あむ「早速出てきたし! というか待って! これでいくの!? これでいいの!?」
恭文「え、駄目かな」
あむ「むしろいいと思う理由が知りたい!」
(というわけで鮮烈な日常無印としてはここで一区切り。
この続きは『鮮烈な日常・美城動乱編』として、秋から冬にかけてのお話が描かれます。お楽しみに。
本日のED:ヒャダイン『半パン魂』)
恭文「あーれーるーぜー……止めてみなー!」(レンコンサクサクー!)
あむ「……って、何してるの!?」
恭文「僕や作者が密かに押していた『紺田照の合法レシピ』がドラマ化されているんだけど、主役が竜星涼さんなんだよね。キョウリュウレッドの」
古鉄≪更にいろいろ因縁深い『春 雨太郎』が稲葉友さん……仮面ライダーマッハですよ。しかもピッタリときているのが実に嬉しいですね≫
恭文「Amazonで配信中だから、みんなも見てみよう!」
あむ「あ、うん……で、なんでレンコン?」
恭文「第一話を見ろ、ひまもり……!」
あむ「二階堂先生みたいな呼び方するなぁ! つーか殺気! 殺気を出すなぁ!」
(おしまい)
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