[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory72 『約束/PART2』


楽しくも熱い祭りの場は、騒乱と嘆きに満ちあふれている。前例のない事故とそれに直面した衝撃で、誰もが混乱していた。

有志による避難態勢を整えていなかったら、一体どうなっていたか。いや、それでも自主的に動いていた人達もいたですけど。

かく言うぼくは、後ろを梨花達に任せて、慌てて会場に逆戻り。……恭文、あのバトルで相当消耗していました。


本来であれば余り派手なことはできませんけど、この状況ですし……はい、いわゆる一つの新フォーム登場なのです!


………………多分。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory72 『約束/PART2』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突如発生した暴走事故。まずは年少者のみりあちゃん達を優先して、会場外に何とか避難……それでほっと一安心。

……とはいかない。会場外は想定外な暴走事故のせいで、あっちこっち混乱していて。

怒号に等しい誘導や、泣き声……不安な声が漏れている。笑顔で楽しいガンプラが、一瞬で……壊されて。


「何なの、これ……」

「分かんないよ! というか、あの変なクリスタルとか何!? それにプラフスキー粒子って、今まで一度も事故なんてなかったのに!」

「まさか…………」


そこで美波さんが小さく呟(つぶや)く。それも、顔を青ざめながら。


「杏ちゃんが言っていたことって、これ……!?」

『――――!』


静岡(しずおか)から、今すぐに……杏ちゃんはそう言っていた。危ないことがあると……でも、そうか。

もし、こういう事故が起きる……そういう予兆をどっかで掴(つか)んでいたなら! だから、恭文さんも何かを調べていた!?


「じゃ、じゃあ杏ちゃん、もしかして中に!?」

「それだと、やっくんもだよね! だって試合が終わってからすぐだし!」

「……あぁそうだ。二人揃(そろ)って、この災害を止めようと四苦八苦している頃だ」

「圭一さん、知ってたの!?」

「俺達の仲間が上手(うま)く聞き出してくれたからな。……つーかそろそろか」


その様子に心を痛めていると、こちらに影が二つ駆け寄ってくる。


「みんなぁ!」


それは大荷物の魅音さんと、魅音さんにそっくりの……双子の詩音さんだった。


「魅音!」

「詩ぃちゃん!」

「遅くなってごめん! 突然だけど美波、トオル、CPの指揮権をアンタ達に譲渡する!」

「「はい!?」」

「レナ、圭ちゃん、ガンプラは持ってきてるね」

「バッチリだよ」

「調整もキッチリしたぜ」


圭一さんはストライクフリーダムを。

レナさんはサンドロック改(EW)を取り出し、不敵に笑う。


「詩音、避難誘導は大丈夫なんだよね」

「大まかにですけど終了しています。……あ、それと富竹さんからも連絡がありました。
自衛隊の災害救助部隊が飛び出しているそうです」

「あとはその指示に従いつつ、安全区画まで逃げて……かぁ。わたしらが無事なところから考えると、一気に吹き飛ぶ心配はなさそうだね」

「えぇ。……沙都子と梨花ちゃま達は、別所(べっしょ)の避難誘導を担当しています。私達は先行しましょう」

「ま、待ってぇ! 中に杏ちゃんがいるんだよね! だったらきらり達も」

「駄目。というか、ガンプラがないなら無意味だ」

「どういうことですかぁ!?」


それだと、まるでガンプラがあれば何とかなるって言ってるみたいなー! そうです、逃げるのに必要なはずがない!

この状況を止めるのに、ガンプラがあれば……だから自然と、腰から下げているガンプラケースを開き、ウイングガンダムを取り出す。

PA/GMは現在改造中。今日は初代ガンダムじゃなくて、こっちを持ってきていました。


その、恭文さんが選んでくれたガンプラだから……ついつい、一緒に出歩いてしまって。


……その間に魅音さん達は後ずさりながら、こっちに手を振っていたのに。


「ちょ、魅音さん! ねぇ……ちゃんと説明してよ! これって何なの!?」

「悪いけど無理! 守秘義務がかかっててね! ……じゃあ、そういうことで!」


そう断言した上で、魅音さん達は全力疾走……結晶化しかけな入り口をすり抜けていく。

……その背中を見ながらも、ウイングガンダムを優しく仕舞(しま)い、全力疾走!


「卯月ちゃん!」

「しまむー!」


結晶体の脇を抜け……それが肥大化し、入り口を塞ぐのも構わず、宇宙空間と化した会場の中へ。


(勝手なことをしているって分かっています。でも……でも私は……)


そこで思い出すのは、逃げる途中で見た光景。混乱のままに戸惑い、涙を流す人達。それは、私が止められなかったものと強く被っていて。


(誰かが泣いているのに、ただ黙って見ているだけなんて……絶対に嫌なんです!)


だから走る、走る、走る……全力で走り抜ける!

感じるから! 私にもできることがある……戦う道があるって! だから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――――きゃあ!』


そこで悲鳴が響く。


トレミーに戻る道中だった、キャロラインのナイトガンダムが被弾――。

背中にガンダムハンマーを吹き飛ばされた瞬間、ベース内のキャロラインが崩れ落ちた。


『キャロライン!』

『なんですの、これ……痛い……痛い……!』


見ていられるカバーに入ったニルスが、菊一文字で初代ガンダム型モックを袈裟一閃に切り捨てる。

が、その爆炎を突き抜けるようにケンプファー型が突撃……交差しつつもショットガンを撃ち込む。

その散弾を食らい、戦国アストレイの各部が破損。その途端、ベース内のニルスが激痛に表情を顰(ひそ)める。


『つ……!』

『ニルス!』

『なんだ、この痛みは……まさか』

「ニルス、キャロライン、一旦下がって!」


慌ててコンソールを叩(たた)き、二人のコクピットを調整――。

更に操作をこちらで強制的に乗っ取り、ナイトガンダムと戦国アストレイを安全圏まで急速離脱。

その途端に二人の表情が和らぎ、キャロラインについては戦闘中にも拘(かか)わらずポカーンとした。


追いかけてくるケンプファー型は、トレミーのGNミサイル、及び橙導師の放つ誘導弾に追い立てられ、追従していた他のモック十八体共々爆散する。


『なんですの、今の……体に、痛みが……』

『アシムレイト……! 恭文さん!』

「異常な環境下でのバトル……それがもたらす各自の使命感と、極限まで高められた集中力。更に人の意思を伝達する粒子の効果」


いら立ちながら、つい右手で頭をかいてしまう。


「それにより、この空間でバトルするだけでプラシーボ効果が発生し、ガンプラへのダメージが肉体へ跳ね返るのか……!」


ガンプラが倒れたら、下手をすれば意識昏倒(こんとう)……この場から退避することも叶(かな)わなくなる。ううん、それで済めばいい。

まだ先がある……まだ、生き残れるチャンスが僅かにでもあるんだから。もしプラシーボ効果が更に増大していったら、最悪命にも関わる……!


………………いや、待て。


考え方を変えるんだ。アシムレイトにより、みんなのガンプラはその性能を三倍以上に上げている。

機体の反応や出力がそれだけ増大しているとするなら、それをシステム回りで制御すれば。


『ちょ、何よそれ……きゃあ!』

『キララちゃん!』


今度はキララさんのガーベラが、左腕を落とされた。それを成したのはAGE-1スパロー型のモック。

右手のシグルブレイドで、肘から奇麗にばっさり……キララさんが腕の痛みに耐えかね膝を突いたので、こちらも先ほどと同じように操作を掌握。

キララさんとガーベラとのリンクを奪ったことで、粒子も用いた自己暗示≪プラシーボ効果≫が強制途絶。


キララさんもハッとしながら、さっきのキャロみたいに困惑しながら立ち上がる。


その間にガーベラは、僕の操作で後退しながらスラローム……! でも、ヤバいヤバいヤバい!

損傷をめざとく見つけたのか、あっちこっちの敵がこっちに狙いを定めてる!


「ティアナ、ごめん!」

『分かってる! ダーグ、突っ込んで!』

『おうよぉ!』


すかさずティアナの狙撃が入る。


橙導師はいわゆる法術を使える武者SD。

幻術や射撃術がその中心だから、ティアナの得意スキルを活(い)かすセッティングとなっている。

オレンジ色の閃光(せんこう)が虚空を突き抜け、追撃してきたAGE-1スパロー型二体の右脇腹を撃ち抜き、爆散させる。


更にダーグのブラックベルセルクは、トマホークブーメラン。うなりを上げて飛んでいく斧が、合流しかけていた大隊を一斉になぎ払う。


『やすっち!』

「安全圏に入った! 杏、このままドッグに!」

『その前に操作をキャロ達に戻して』

「でも」

『ここでアンタが倒れたら、一体誰がシステム管理をするのよ!』


ティアナがそこで鋭く叱責……確かにその通りだ。

複数のガンプラからのダメージ反映を受けたら、さすがに僕も持たない。僅かに戻った体力も一気に削られる。

でも、だからって……一撃食らっただけで、大の大人なキララさんだって倒れかけたのに!


『ランスターさん達の、言う通りですわ……早く、わたくしのガンプラを返してください』

「キャロライン」

『こっちは私達の喧嘩(けんか)よ。邪魔はするなっつっての』

「キララさん……でも」

『いいから早くしなさい!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――あおあおあおあお! あおー!』


そこであおの声が……プトレマイオスやガーベラを追い抜き、閃光(せんこう)のように突き抜けるのは蒼いサイコ・ザク。

それらはサブアームにマシンガンを携え、両肩に背負ったバズーカを連射。

敵の弾幕を置き去りにする強烈な加速を伴いながら、幾つもの爆炎を作っていく。


かと思うと急加速でフェニーチェに接近。そのままサブアームでスピードローダーの束を放り投げた。


「あお、助かったぜ!」

『あおー!』


フェニーチェはバスターライフルを中程から二つ折りにして、使用済みのカートリッジをパージ。

その上でスピードローダーをセットして、新しいカートリッジを装填。ライフルを元に戻した上で、Nフィールドに向かって砲撃を放つ。

それはビルゴ型が展開した、プラネットディフェンサーと正面衝突するが、圧力の差からディフェンサーを奴らごと飲み込み、圧壊する。


……あおをバトルに介入させて、作っておいたスピードローダーを持ってこさせた。まぁ裏技だが、たまにはこう言うのもアリだろ。


「あお、Nフィールドを頼む!」

『あお!』

「ヤスフミ、お前も無茶(むちゃ)するな!」

『リカルド』

「一緒に遊びたいのは分かるがなぁ!」


次はSフィールドに二発……すぐに二個目のスピードローダーをセットして、再装填。

すぐに変形して、再構築されつつあるNフィールドの右翼を叩(たた)きに行く。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……そう、ぶっちゃけよう……ぶっちゃけようか。リカルドにツツかれたし、もう遠慮する必要はない。


「みんな、ズルいなぁ……そんな楽しそうな遊びを楽しんでおきながら、仲間外れってさぁ」

『楽しそう……!?』

『悪いわねー。でも貧乏くじを引いたからって、横入りは感心しないわよ?』

『えぇ。では、納得していただいたところで……返していただけますか? わたくし達のガンプラを』

「分かった」


マオや鷹山さん達じゃないけど、こんなシチュでバトルなんて……ほんと、アニメみたいだもの! それで世界を救うなんて最高すぎる!

むしろ楽しみたいよ! 僕だって飛び込みたいよ! なのに……なのに僕は足場作りってー!

でも……うん、そうだね。ほんとキララさん達の言う通りだ。……信じよう、その強がりを。


それがきちんとした遊びで終わるように調整するのが、今の仕事だ。まだその目処(めど)は立っていない……飛び込むのは、それが終わってから!


気持ちを切り替え、コンソールを素早く叩(たた)く。


「機体反応と出力……粒子循環効率を七十パーセントにまでダウンさせます。少し動きにくくなりますけど、ダメージ反映も減少できると」

『いらないわ』

『同じくですわ。それでやられても無意味ですもの』

「分かりました。でもシステムをそちらに戻した瞬間、ノーシーボ効果でダメージ繁栄が再開されるはずです」

『ノーシーボ……あ、プラシーボの反作用効果ね』

「えぇ。衝撃に備えてください」


アルトを見やると、ストフリノロウサボディで即座に頷(うなず)きが返ってくる。隣のジガンも両手足をパタパタとさせてくれる。

逐一入ってくる損傷データ……みんなの反応を加味して、調整するお仕事も追加。アルトとジガンも手伝ってくれるなら可能だ。

まぁ実験に等しいけど……! キララさん達はそれも分かった上で、問題なしと笑ってくれる。


『了解! 行けるわね、お嬢様!』

『問題ありませんわ!』

『ボクもそれでお願いします』

「じゃあ……ヤジマ・キャロライン、キララ、ニルス・ニールセンのガンプラ操作システム、通常モードに移行!」


エンターボタンを押して、操作権限をキララさん達に戻す。

その瞬間、三人はびくりと震え、痛みに顔をしかめて……でもすぐに戦闘機動を再開。

キララさんとニルスは機体を反転させ、別方向からの襲撃に対して先制攻撃。


戦国アストレイは身を翻しながらの、二刀での袈裟斬り。

ガーベラはビームマシンガンを片腕に構えての空間掃射。


それぞれの攻撃が迫りくるモック達を斬り裂き、撃ち抜き、破砕していく。


「みんな!」

『大丈夫ですわ……これは心の痛み。ガンプラが傷つくことへの嘆きが具現化したもの』

『えぇ。ガンプラが好きだからこそ……入れ込んでいるからこそ、強制的にでも踏み込んだんです』

『ほんと、なんなのかしら。ガンプラなんて仕事道具にすぎなかったのに……こんな痛いの、正直ゴメンなのに』


キララさんはビームマシンガンを四方八方に乱射し、敵を撃ち抜きながら自嘲気味に笑う。


『なんか、嬉(うれ)しいのよ――! 私、こんなにガンプラが好きだったのかって驚いてる!』

『じゃあ三人とも、一旦プトレマイオスに入って。こっちの資材でできる限り修理する』

『『『了解!』』』

『やすっち、ターミナル組のスペックは落とすなよ!』

『みんなよりは丈夫な身体ッスからね! ……イビツさん、もっと前に出るッスよ! それでチナちゃん達もしっかりカバー!』

『はい!』


確かにグリードでもあるダーグやイビツ、フェンリルアンデッドらしいトウリさんなら、ダメージ反映も受け止められるだろう。

みんなを盾にしつつ、道を開くのが得策か。それも了解するしかない。


「分かった。でも絶対にやられないで……それでバスターライフルやサテライトみたいな、戦略級攻撃には注意を」

『分かってるよ!』

「リイン、おのれもGビットの展開は注意して。Gマニューバも今は禁止」

『了解なのです!』


さて……こっちもただただ足回りを磨いているだけじゃ足りない。

今、僕はバトルの管理者でもあるんだ。何か……システムサイドから、みんなの手助けができるような手は。


……ううん、違う。

これを遊び≪バトル≫と定義するなら、必要なのは公平な一手。


アリスタは今、マシタ会長の拒絶に従い、意にそぐわないものをはね除(の)けようとしている。

みんなに発現しつつある強制アシムレイトもその一端だ。なら、僕がそんな手に出れば、アリスタがどんな動きをするか分からない。


できるとしたら……マシタ会長達の反面教師か。公平なバトルの監督役だよ。

みんなの安全をしっかり確保しつつ、アリスタののど元に導くこと――だから。


(……仕方ない)


こういうこともあろうかと……共同開発していた、赤・青の小さい玉達を取り出す。なおそれぞれ八個ずつです。

それを一個ずつ口に入れて、ポリポリとかじって一気に食べる! その瞬間、口に広がるのは極めて強烈な不協和音。

味覚がおかしくなるんじゃないかと思ってしまうほどの、とんがった苦みや酸味、甘味(かんみ)の激突に顔をしかめる。


うぅ……うぅ……うぅ……! でも、我慢……我慢……!


「……お兄様、それは」

「おま、絶対使いたくないって言ってたやつじゃねぇか!」

「おげぇぇぇぇぇぇぇ……!」

「吐くな吐くな! 確かにすげーマズかったけどな!」


食いしん坊のヒカリですらウンザリという顔をして、シオンとショウタロスもどん引きする代物。

それは兵糧丸と飢渇丸。忍者食の一つなんだ。


兵糧丸は『一つ食べれば一日動き回れる』と称されるほどに高カロリーな非常食。

その材料はそば粉・はと麦・ごま・蜂蜜・砂糖などで、忍者だけでなく武士階級も愛用したと言われている。


飢渇丸は『一日三粒飲めば、心力衰えることなし』と言われる健康食品。滋養強壮強化のサプリメントと思ってくれればいい。

こちらは朝鮮人参やユキノシタ、ヤマイモなどが使われている。元々は製薬技術に長(た)けた甲賀(こうが)忍者が愛用したものだよ。


現代の忍者は戦国時代とはまた有様も違うけど、こういう携帯食は戦場でも便利だからね。調合方法も教わるんだ。

その効果は絶大だった。口の中でドリアンの匂いが破裂したような衝撃に数秒打ち震えていると、次に訪れるのは力の噴火。

それもとんでもなく膨大……細胞の一つ一つが、兵糧丸と飢渇丸から得られたエネルギーで活性化しているのが分かる。


疲労困ぱいで乱れていた息も一気に整い、どこか鈍っていた思考も一気に鋭さを増す。


≪あ、主様……魔力がふだんの二倍くらいに跳ね上がってるの!≫

≪身体スペックも上がってますねぇ。これ、ドーピングって言うんじゃ≫

「言わないで……!」


アルト達も安堵(あんど)するほどの即効的効能。

だったら、なぜすぐに飲まなかったか? うん、簡単だよ。


実際作業を進めていたタツヤ達も、ギョッとしてこっちを見てるし。なお、二人の表情は全く違うものだった。

タツヤは恐怖で打ち震え、アランは呆(あき)れた様子でツッコんでくる。


「おいおいヤスフミ……なんか、元気いっぱいってオーラが出ているんだが! それをどうして早く出さなかったんだ!」

「駄目だ、アラン!」

「何でだい! あれがあれば、君だって」

「死ぬぞ」

「え」

「マズすぎて死ぬんだ……!」

「……」


初見のアランでさえ、見て分かるほどに効果的な特製兵糧丸だけど、一つ欠点がある。

それは余りにマズいこと。タツヤも一度試食したことがあるから、全力で……あれだけは嫌だと言い切っていた。

その様子にアランも何かを悟るので、ただ頷(うなず)きを返す。


というかね、これらは、その……えっと……さっきも言ったように、共同開発して…………うん、そうだよ!

以前死にかけた『パワーアップルジュース』の同系統だよ! スゥと共同開発したんだよ!

スゥが兵糧丸について知って、忍者さんなら持っているのかーって話を振られたことがあってさ!


実際に作れるって話したところ、パワーアップルジュースの経験を生かして調整が……! なお、死ぬってのは比喩じゃない。


あんまりのまずさに、一口かじった途端フェイトは卒倒した。

ティアナは引きつけを起こし、死んだお兄さんと会話をし始めた。

歌唄は一時的に幼児退行を引き起こし、リインはC.C.みたいなキャラに変貌。


りんはまるでエッチなビデオの冒頭インタビューみたいに、過去の恋愛経験を赤裸々に……だから使いたくなかったんだよ!

揃(そろ)いも揃(そろ)って、まずさの余り現実逃避を始めるレベルだから! つーかりんには絶対飲ませたくない!

だ、だってその、あの……僕もハーレムしているから言う権利ないけど、ちょっともやもや、するし。


……と、とにかく体力は戻ったけど、まだ戦場には飛び込めない。というか、ここで僕一人が飛び込んでも焼け石に水。

まずは強制アシムレイトを何とかしないと。冴(さ)えまくりの頭で幾つかの計算をする。


「……現象自体を止めることは不可能」

≪えぇ。結界魔法なんて、この状態じゃあすぐに破砕されるでしょう。そもそもそんな魔力を捻出自体できない≫

≪ならなら……みんながすぐに避難できる態勢を整えつつ、ダメージを緩和するの?≫


アルトとジガンの言う通りだ。痛みを恐れて逃げても、何の意味がない。そもそも逃げるような馬鹿はここにはいない。

あのチナだって覚悟を決めて、踏ん張っている。だったら僕がやることは、その気持ちを貫くお手伝いだ。


でも僕が痛みを引き受けるのは駄目。それでサポート体制が崩れても無意味。

というか、これだけの人数を僕一人で管理? 無理無理……システム面だけならともかく、咄嗟(とっさ)の判断が必要な脱出も含めるとさぁ。


となれば……。


「勉強はしておくもんだね」


右親指の腹を軽く噛(か)み切り、血を流す。走る痛みには構わず素早く両手で印を組んで……!


「隠流(かくれりゅう)」


素早く右手を眼前へかざし、時空間忍術発動!


「口寄せの術!」


僕の眼前で、白い煙が音を立てながら破裂。――これはカクレンジャーと関わって、教えてもらった忍術≪口寄せの術≫。

生物or無機物と契約を結び、血を伴った印でいつでも召喚できる。僕からすればNARUTOよりも、キャロやルーの召喚魔法に近い能力だ。

僕が契約したのは戦神谷(せんじんだに)に住む獅子(しし)一族。人の言葉を介し、自らも異能力を使える凄(すご)いみなさん。


それで煙の中から現れたのは……ライオン。ただしその体長は標準的な猫サイズ。

やや若々しく引き締まった身体を包む毛並みは、僕の魔力と同じ蒼色だった。それでぶっきらぼうそうにこちらを見やる。


「あれ……獅二郎(しじろう)!?」

「おうよ」


この子は獅二郎……僕がメインで契約を結んだ獅子路様の孫。獅子路様とその夫である獅武郎様は戦神谷の長(おさ)でもある。

だから将来的には、この子のお兄さんが谷を受け継ぐ跡取りになる……んだけどー!


「待って待って……僕、獅子路(ししじ)様を呼んだはずなんだけど」

「ばっちゃまは今、じっちゃまと修羅場中だ。で、父ちゃんと母ちゃん、兄ちゃんがそれを諫(いさ)めているから、俺が代理」

「嘘ぉ!」

最悪だぁ! どうしてよりにもよってこんなときにぃ! 獅子路様の獅子(しし)秘術なら、みんなのガードも可能なのにぃ!

……えぇい、嘆いていても仕方ない!


「で、どういう状況なんだよ。これは……」


獅二郎は呆(あき)れ気味に周囲を見やり、大量のモック達やア・バオア・クーにはあきれ顔。


「ばっちゃまも言ってただろ。人の世に迷惑はかけたくないから、滅多(めった)やたらに口寄せは使うなってよ」

「その人の世が消える寸前なのよ!」

「は……!?」

「あのデカい要塞に隠れている結晶体を壊さないと、対消滅が世界中に広がってアボン! でもガンプラでしか壊せないの!」

≪あれはプラフスキー粒子の結晶体なんです。下手に近づけば、私達も対消滅で潰されますから≫

「ちょ、やべぇじゃねぇかよ! だからあの、みんな必死におもちゃを動かしているのか!」

「そうなのよ! ねぇ、獅子路様は本当に無理なの!? ほら、肉体活性化は得意技だったよね!」


プランとしては、獅子(しし)路様の秘術でみんなの肉体をブースト。ようはダメージを受けても大丈夫なよう頑丈にするのよ。

更に分身の術も使えるから、みんなに付いてもらって……危なくなったらブースから引きはがすって寸法だった。

これなら判断が遅れる心配も薄れるし、身動きが取れない状況でフルボッコってのも避けられる。


そう、避けられるはずだったのに……!


「だが、今のばっちゃまは無理だぞ。じっちゃまの隠し子が出てきて、文字通り台風の目状態だからな」

「隠し子ぉ!?」

≪ちょっとちょと……ハーレムすればよかったじゃないですか。なんで隠しちゃうんですか≫

≪なのなの。主様を見習うの≫

「じっちゃま達が生まれてくるの、あと二百年遅ければよかったんだけどなぁ……!」


獅武郎様、何をやっているのぉ! いや、ハーレムしている僕が言う権利はないと……思うんだけどー!

獅二郎の吐き捨てるような言葉と、その表情でもよく分かる。今この場で獅子(しし)路様を呼んでも……場が混乱するだけだと。


は、はははは……やっぱり夏は鬼門だぁ! つーかこれだと……練習中だけど、ブースト魔法で何とかするしか!


「しゃあねぇ……俺が何とかしてやらぁ!」

「できるの!?」

「あたぼうよ!」


でも救う神はここにいた。獅二郎は問題なしと、右前足を掲げてくる。


「だが全員は無理だ。戦闘者じゃない奴を中心に……それでいいか」

「お願い!」

「おっしゃ! じゃあいくぜ……!」


獅二郎は後ろ足だけで直立し、さっきの僕と同じように親指を歯で噛(か)み切り。


「獅子(しし)秘術――! 獅子(しし)・分裂の術!」


床を右手でパンと叩(たた)くと、白煙が破裂。その中から十匹ほどのライオンが続々登場。というか、獅二郎の分身体だった。


「自分の血を触媒に、同一体を口寄せした……! しかもこれは!」

「あぁ。ばっちゃま直伝……しかも覚え立ての秘術だぜ。……おいお前ら! 話は分かってるな!」

『おうよ!』

「戦い慣れてない奴の肩に乗っかって、肉体へのダメージは秘術で逐一緩和・治療しろ! 最悪の場合はベースから引っ張り出せ!」

『おうよ!』


分身体は素早く散開。ターミナル組とリイン・ティアナ以外の面々に次々乗っかっていく。

さらにはアランと一緒に作業を進めながらも、疲労困ぱいから抜け出せないタツヤにも――。


「恭文さん、これは……」

「そのまま言う通りにして……じゃなきゃ、兵糧丸の刑だよ」

「は、はい……!」

「君、なんか凄(すご)いことをしてるんだけど……え、いいの?」

「いいの。忍者なんだから」


本来は極力使わないようにしている技だけど、今回は解禁だ。……僕もいろいろと勉強してきたからね。

特に忍術が使えるようになったのは大きい。足かせでもあった魔力資質から解放されて、また違う戦闘スタイルが構築できたから。

……魔法限定だと僕は、攻防出力の問題からフロントアタッカー寄りのガードウィングが適切になる。電子戦限定ならフルバックもいけるけど。


でも多弾生成や術式の並列処理が苦手な関係で、中・長距離を制圧するセンターガードはできない。

フロントアタッカーとしても攻防出力が足を引っ張って、スバルや師匠のような撃ち合いは苦手。魔法に偏らなければいけるけどさ。

動けるフルバックと考えても、サポートするくらいなら前に出た方が速い。


だからこそガードウィング……転送魔法や物質関連に特化した術式を使い、自由自在に動き回るフリーアタッカー。

それが今までの戦闘スタイルだった。でも……それは一つの限界でもあって。


それを感じ取れたのは、旅の中でいろいろな人に教えを受け、少しずつ手札を増やしてきたから。

そうして得てきた力と技量を使い分ければ、全ポジショニングを担当できることに気づいた。


忍術を用いた斥候や中・長距離戦、分身の術による一斉同時射撃……それらはセンターガードに通ずるものだ。

口寄せの術で獅子(しし)路様達の力を借りれば、変則的な回復・支援役もこなせる。これは正しくフルバックの動き。

ゲキレンジャーのみんな、それにマスター・ジミーと関わって習得した紫激気&黄臨気、”爆激気”はフロントアタッカーの特性を強めてくれる。

ウェイバーが教えてくれた魔術による投影や憑依経験≪インストール≫は、ガードウィングらしい機動力を発揮する。


そうしてチーム≪みんな≫の不足分を埋めて、又は長所を伸ばし、より盤石な陣営を整える。

そう……自分で言うのも非常に気恥ずかしいけど、今の僕は≪スーパーオールラウンダー≫。

全ポジションを瞬時に切り替え、使いこなせる者。サリさんクラスまで突き詰めて、ようやく手に入る達人の証(あか)し。


でもそういう可能性もあると気づいて……気づかされて、思った。魔導師としての僕ももっともっと成長できる。

昔の僕は実に甘かった。……別にリンディさんの言っていたことを、認めたわけじゃない。

魔法文化を、それだけを信じて、預けて……そんな甘ったれたやり方じゃ、この限界に気づくことすらできなかった。


そう、限界。能力が偏っているから、限られた手札を使いこなして……なんていうのも限界だったんだ。

そうして自分にできることをと考え、”できないこと”への挑戦から目を背けていた。


多弾生成や術式の並列処理が苦手なら、単発で中・長距離を制圧するセンターガードになればいい。

フロントアタッカーとしての攻防出力が足りないのなら、今の方向で仲間の盾になれる道を探せばいい。

瞬間詠唱・処理能力の処理を含めた上で、仲間の呼吸を読み、支援できる最高速かつ戦う前衛型フルバックを目指せばいい。


自分なりのやり方を、本当の意味で突き詰めていなかった。”どうせ”とどこかで諦めていた。

でも……今はもう違うよね。

気づいたのなら踏み出せる。憧れたのなら走り抜ける。


今は忍術や魔術に頼るところも大きいけど、それでもいつかは……究極の万能職をマスターする。

昔の自分ができずに、どこかで諦めていた道を踏破する。そんな自分にキャラチェンジしていくの。

それもまた新しい夢。これまでの旅で学んできたからこそ、生まれた夢……冒険だ!


「んじゃあ、お前は治療……必要ねぇな」


獅二郎はどこか嬉(うれ)しそうに笑いながら、僕の右肩にひょいっと載る。


「うん。おのれはみんなのことをお願い」

≪なら、引き継ぎの準備も進めておきましょうか≫

≪なのなの!≫

「――恭文!」


すると、慌てた様子で羽入が走り寄ってきた。しかも巫女(みこ)服姿……羽入は元気いっぱいなぼくを見て、ホッとした様子。


「羽入!」

「よかった……無事」


と言いかけたけど、戦うみんなの様子を見て、一気に険しい表情になる。


「……とはいきませんね。しかもオヤシロ様フォームは不要なのですか」

「今回はね」

「おいおい、コイツは……おま、なんて方と知り合いなんだよ!」

「それについてはまた後でね。……僕はやることがあるから、みんなのサポートをお願い」

「なら、私達も手伝います」


そんな羽入の後を追いかけてきたのか、慌てながらまた別の人影が……しかも、想定外な奴らもいて……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんかいきなり、変な猫……もとい、ライオンがわたしやチナ達の肩に乗っかってきた。そうしたらまぁ……!


「忍者って本当にいたのね! ビックリだわ!」

『アイラちゃん、それでいいの……!?』


スイートソードでモック達を袈裟・逆袈裟と切り払いながら、楽しくて笑っちゃう。


「まぁいいじゃない! このライオンさん達がいれば、身体の痛みは治してくれるんでしょ!?」

「アシムレイトってのは身体に傷が付くもんじゃないらしいし、あのサムライボーイ達は問題なく治せたからな。だが」

『本当に忍術が使えるのとか、あなた達のことは内緒に……だよね』

『悪いなぁ』

『それも大丈夫』

「えぇ」


幾ら私達の安全を優先するとはいえ、遠慮なく忍術を使う馬鹿なんだもの。さすがにこれでバラしたら、恩知らずってレベルじゃないでしょ。

それにまぁ、わたしが好き勝手に動けるお手伝いもしてくれたし? ……アイツにも一応感謝しているのよ。


そこは問題ないと、ベアッガイと並び立ちながら揃(そろ)って笑う。


「だったら分かってるな。マジでやべぇときは、ベースから連れ出す……有無は言わせねぇぞ」

「やられなければ問題ないってことでしょ?」

『それに逃げないよ、わたし達。もう戦わずに逃げるのなんて……嫌だから!』

「……馬鹿ばっかだなぁ、コイツら」

『あぁ』


それについてはやっぱり否定できなくて苦笑。……次々放たれる光条をスラロームですり抜けつつ、腹部拡散メガ粒子砲を発射。

ミサイルを撃墜しつつ上昇し、更にファンネルを展開。周囲にいた二十体を次々撃ち抜き、爆散させる。


『いいんじゃないの?』


そのとき、鋭い銃声が響く。こちらに迫っていたモック達が次々胴体部を撃ち抜かれて爆散……。

その炎をすり抜け、飛びかかってきた斧持ちに対して、黒い機体が回り込んで左回し蹴り。


丸い胴体を蹴った上でスタンさせ、零距離の射撃で一気に仕留める。


『その方が人生は楽しめるってもんだ……ベイビー』

「あ、この機体って……」

『その声、もしかしなくても』

『あぶない刑事キター!』

『『オフコース!』』


機体名は≪ジム・ピースメーカー≫……そう、先日のフェス内でも使っていた機体よ。

いつもおじ様達が着ているスーツのように、黒で塗装された陸ジム。手に持ったのは黒塗りの銃……それがやたらとカッコいい。

なんだろう。デザインとかは余り変わってないのに、今の射撃と動きだけですっごく強そうというか。


……おじ様達は日本(にほん)の危機を何度も救った伝説の刑事らしいし、そのせいかしら。


「じいちゃん達、久しぶりだな!」

「アンタ、知り合いなの?」

「前にちょろっとな」

『悪いな、遅くなった』

『他の避難も手伝っててさー。……でもおかげで状況把握はバッチリ。ここに残っている馬鹿は俺達くらいだよ』

『それは何よりッス。でも』


トウリさんは何か言いかけるも、二人の表情を見て納得……やや呆(あき)れ気味に首を振った。


『じゃあ、杏ちゃんとリインちゃんの指揮下に入ってください。戦術構築は二人の仕事ッスから』

『鷹山さん達はNフィールド……えっと、右翼の敵を片してほしいのです! 補給タイミングもこっちで指示するのですよ!』

『了解した』

『……あ、他の増援ももうすぐ来るからよろしくー』

「他……?」


その言葉に小首を傾(かし)げそうになるけど、全員揃(そろ)って散開。打ち込まれたミサイルを回避して、各々の仕事を続ける。

でも他……あぁ、そっか。お手伝いをお願いしていたのよね。だからわたし達だけじゃない……わたし達だけであるはずがない。


こんなのに納得できないのは、みんな一緒なんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


しっかしどうするかなぁ……! 


『お姉ちゃん、これは絶対にまずいの……』

「分かってる」

『リイン達、プランが甘かったですね……!』


トウリさんのセコンドについているセフィからも、戦術の再構築を提案されている。

そりゃそうだ……一撃食らったら、身体が動かなくなるかもしれないオワタ式な上、戦力差がありすぎるんだから。

しかも時間をかけている余裕もない。このまま結晶体の暴走が続けば、この超大型バトルベースの制御すら飛び越えかねない。


蒼凪プロデューサーも手札を切ってくれたけど、それだって万全じゃない。

長期戦の覚悟も……とは誰かが言ったけど、さすがにこのままじゃあ。


『くそ……アンズ、オレ達も出るぞ!』

『うん! このまま黙って見ているなんてできない!』

「駄目って言ったでしょ」

『でも、みんなで協力すれば!』

『自惚(うぬぼ)れるなです!』

『え……!』

『たった二機のガンプラで戦局を変えられると思うなです!』


焦るセイとレイジは、リインの一喝で制止する。でも、これも一時しのぎにすぎない……二人も相当に焦れている。

自分達という切り札を温存し、守るため、みんなが痛みを承知の上で戦っている……その事実が想像以上にプレッシャーなんだよ。


でも手は………………あるには、あるか。一応想定はしていたしさ。


「……キャロ、キララさん、ニルス、修理は終わったよ」

『ありがと! ……ガーベラ・テトラ、もう一度出るわよ!』

『戦国アストレイ、いきます!』


トレミーのドッグには、接着剤やプラ板、塗料を持ち込んでいてね。修理用のオートマトンも常駐させているんだ。

それを操作して、みんなのガンプラを補修。弾薬もしっかり補給した上で、ガーベラと戦国アストレイは宇宙に飛び出す。

ただ、キャロについてはやや不満顔で、カタパルト内に留(とど)まっていて。


「キャロ?」

『キャロラインです。……アンズ、どうしますの』

「そうだねぇ……特攻するかなぁ」

『だと思いましたわ』


あははは、見抜かれていたかぁ。でもさぁ、その呆れ気味なため息はやめてくれないかなぁ。


『特攻? お姉ちゃん……まさか……!』

「お、セフィちゃんは勘がいいなぁ。……セイ、レイジ、トレミーに入って。あとは援護役に……チナ、アイラもお願い」

『え……!』

『どういうことよ』

「ニルスはそのまま待機。万が一杏達がやられたときに備えて、控えに回って。蒼凪プロデューサーももうすぐ復帰する……だよね、ライオンさん」

「おう。体力は問題ないからな。……味覚が壊れそうだが」


あぁ……なんかクソマズい兵糧丸でドーピングしたんだっけ? しかもそれはライオンさんも食べたものらしく、左肩の上でうげぇって顔をし始めた。


『待ってください、それは!』


リインがブルーウィザード達を使いつつ、ア・バオア・クーの様子も探ってくれていたから……バッチリ掴(つか)んでいるよ。

ア・バオア・クーの中枢に繋(つな)がるハッチ。今もガイドビーコンを出して、モック達を射出している土手っ腹。


…………いや、たった今ハッチが閉じられた。あははは、以心伝心ってやつかなー。

でもプランは変わらない。あれが虎穴で、それを晒していたのは確かなんだし。


「トランザムを使用後、GNフィールドを最大展開。更に各部武装で敵を掃討しつつ、最大船速でア・バオア・クーに突っ込ませる」

『正気ですか! この状況で……こんな危険なバトルで! 君の身体がどうなるかも分からないというのに!』

「じゃあ他に手があるの?」

『ッ……!』


そう、ない……だからニルスも苦虫を噛(か)みつぶした顔をする。

……最初から言っていることだけど、この数を殲滅(せんめつ)するのは無理だ。道を切り開くことさえ困難というのなら……後は四人次第だ。

中枢に取り付きさえすれば、機動力で押し切れるかもしれない。幸い敵は外へ外へと展開しているから、それが戻るまでには相応の時間がかかる。


もし中の戦力がそこまでじゃなければ……何にせよギャンブルってのが、もうアレだよねー。

しかもトレミーは戦線離脱も同然になる。もう補給も無理になるんだから。


「というわけで獅二郎、治療よろしく。あと……引っ張り出すのはなしで」

「おい……!」

「メインゲートはギリギリまで守らなきゃいけないから」

『でしたら、わたくしも手伝いましょう』

「キャロ」

『沈めさせませんわよ……決して』


言っても無駄かぁ。なら仕方ないと、コンソールを叩(たた)いて早速出力調整……このトレミーは太陽炉持ちだ。

だから太陽炉搭載機がいなくても、トランザムは可能。出力も相当にある方だと自負はしている。

計算上は何とかなるけど、さて……いや、ここは野となれ山となれー。


『チナさん達も早く! もう一刻の猶予もありませんわよ!』

『……分かった。イオリくん』

『杏さん、お願いします!』

「任されよー。……というわけでみんな、ここからは補給等はできなくなる」


急いで戻ってくるベアッガイとミスサザビー、更にスタービルドストライクとビルドガンダムMk-IIを収容。

前線にいたベアッガイ達は急いで補修作業に入り、スタービルドストライク達も一応こちらでチェック。

とはいえ、こっちは手を出す暇すらないんだけどねぇ。ほとんど戦っていないのもあるけど、完成度お化けは変わらずだし。


ニルスの戦国アストレイは一緒に弄(いじ)っていたからまだ分かるけど、こっちは手を出しただけで完成度を下げちゃいそうだよ。


「大技連発でのエンプティには気をつけてね。……ベアッガイ達の補修作業が終わり次第、作戦を開始するから」

『了解だ! なら、その口火は俺とフェニーチェが切るぜ!』

『だったら付き合うぜ! ブラックベルセルクもまだまだ元気いっぱいだ!』

『……いえ』


そこで、上方からイオンビームが走る。その反対方向からは、水色の巨大砲撃≪サテライトキャノン≫。

交差し、バツの字を描く二つの砲撃は、モック達の尖兵(せんぺい)達をなぎ払った。


『それは、ワイらが引き受けます! お二人は今まで通りに戦線維持を!』

『この声は……マオ君!』


サテライトキャノンを放ったのは……クロスボーンガンダムだった。

全身に刻まれた水色のリフレクター。それは背部のフレキシブルスラスターにも及ぶ。

スラスターは分かりやすいブースターを取っ払い、リフレクターに集めた粒子を推進力として使っている様子。

印象的なのは、胸元の巨大な骸骨頭。それが口を開き、隠されていた砲門を露出していた。


両手には海賊旗に描かれている骨を思わせる、カタール式の武装。それが赤熱化し、左右から迫っていたモック二体に打ち込まれる。

振り下ろされたビーム・アックスごと機体を溶断……紅(あか)い炎を刻み込むような回転斬りにより、モック達は粉砕。


『遅くなってほんまに申し訳ありません! ミサキちゃんを逃がしてまして!』

『ソイツは……あぁ、そうだったな! それがお前の新機体だったな!』

『はい! クロスボーンガンダム魔王です!』

「なら、今のバスターライフルは……」

『俺じゃねぇぞ!』

『私です!』


そこで飛び込んでくるのは、バード形態のウイングガンダム(EW)……しかも、あのピンクカラーは!


「卯月!?」

『あお!?』


そう、卯月のウイングガンダムだった。それを正解だと示すように、通信モニターに卯月の顔が映し出される。


『杏ちゃん!』


更に後ろから飛んできたのは、セラヴィーガンダムとケルディムガンダム……しかもセラヴィーは、めちゃくちゃ見覚えのある作りだった。


『よかった……無事だったんだね……』

「かな子、智絵里……なんで!? だって」

『話は後! 私達もトレミーに収容して!』

『かな子ちゃんが、トランザムをサポートするから……それで、私が……!』


智絵里のケルディムがライフルを掲げる。……それで突破口を開くってわけか。


『だから、リカルドさんも……ダーグさんも、絶対に……今全力を出すとかは、駄目です……』

『おいおい、それは……』

『智絵里ちゃんの言う通りです。私達が飛び込んだら、一斉に狙われる。それまで取っておいてください』


それも分かった上で、かぁ。だから口火を切ると言った二人は、自然と杏を見るわけで。

……説教している時間はない。それに二人の言うことは正論だ。

技術・ガンプラ性能的にも上位なメンバーは、やっぱり外の守りに回したい。これだけのメンツが揃って、ようやくこの状況だしさぁ。


あとはドッグを再確認……うん、大きめに作ったから収容は問題ない。


「智絵里は右舷カタパルトに腰掛けだよ? 完全に砲台代わりだ」

『了解……!』

「でもほんと、なんで……」

『そうよ! ウヅキ、カナコ達も何をやっているのよ!』

『状況は把握しています! というか、恭文さんから聞きました!』

「……蒼凪プロデューサー?」

『ごめん……というか、首根っこを掴(つか)まれてがしがし揺らされて……げふ』


あぁ、凄(すご)い勢いで問い詰められたんだね。でも卯月、また無茶(むちゃ)なことをぉ……そう思っていたら、新しい機体反応が届く。


『あと、来たのは卯月達だけじゃなくて……』

『遅くなったねぇ! 騎兵隊の登場だよ!』


杏達の後方から、超巨大なメガ粒子砲が発射……それは空間を扇状に薙(な)ぎ、並みいる敵機を尽く塵に変える。

それを成したのは、翡翠(ひすい)色に塗装されたビグ・ラング。それも百四十四分の一が二機……!


その脇にはミーティア装備のストライクフリーダムと、サンドロック改(EW)版がいた。


『ビグ・ラングゥ!? カルロス・カイザーッスかぁ!』

『いいや……カイザー・ミオンだ!』

『あははは……なんか凄(すご)いことになってるねー。でもでも、レナ達がきたからもう大丈夫だよー』

『圭一! レナ! ということは、そっちのビグ・ラングは……』

『どうも、ティアナさん。お邪魔しますねー』

『くくくくく! なかなかに大ピンチってところだねぇ! しかし諦めるにはまだ甘い! この程度でわたしらを相手取るなんざぁ、百年早いよ!』

『そっちは詩音さんと魅音さんですか!』


……園崎姉妹、半端ないなぁ。並び立ってくるビグ・ラングは、どう見てもフルスクラッチ。完成度も相応に高い。

さすがにカイザーのものと比べるには、ちょーっと辛(つら)いけどね。


『杏さん、みんなの補給は私が引き継ぎます。お姉のビグ・ラングは脳筋仕様ですけど、こちらは奇麗な園崎にふさわしい救護用ですし』

『誰が脳筋だぁ! こっちだって補給・修理重視のセッティングだっつーの! ……そういうわけだから杏』

「助かるよ。それじゃあ……」


ベアッガイ達の補修作業も終わったので、深呼吸――。


「マオ、サテライトキャノンは打ち止めじゃないよね」

『X魔王と同じく連発可能! いつでも行けます!』

「卯月もバスターライフルのカートリッジはある」

『予備も含めてバッチリです!』

「じゃあマオのチャージが完了してから十秒後、フェイズIIに移行!」

『はい!』


杏はこういうの、正直好きじゃない。だってニート志望だし? 働いたら負けだし?

でも……それができる世界を、平穏を壊されるのはもっと嫌い。だからまぁ、今だけは頑張ろう。


この後には、バラ色のネオニート生活が待っていると信じてー。


『――マイクロウェーブ、照射!』

『杏さん、ビルドストライク以下七機は問題ありません! ベアッガイとミスサザビーも補修完了しました!』

『ケルディム、配置についたよ……!』

『セラヴィー、ドッグコンデンサと接続完了! まずはこっちのトランザムで……杏ちゃん!』

「全速前進!」


アームレイカーを押し込み、戦場最後方から加速――。


『トランザム!』


かな子のセラヴィーがトランザム発動。連動するようにトレミーが赤色に染まり、文字通り三倍の速度で突き進む。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


杏ちゃん達を載せたトレミーは進軍……マオ君のチャージも完了したところで。


『卯月はん!』

「はい!」


杏ちゃんが示したプラン通りに、私達は別方向から砲撃を発射。

マオ君のサテライトキャノンがトレミー前方をなぎ払い。

私のバスターライフルが上方の敵を飲み込み、消し去っていく。


そのまますぐに変形して、圭一さん達と一緒にトレミーを追いかける。


『シールドビット、展開!』


智絵里ちゃんのケルディムは、シールドビットを全展開。それらはトレミーの最前部にて防御陣営を敷く。

飛んでくる狙撃ビームやミサイルを受け止め、移動し、また別の攻撃を受け止め続ける。


『――――当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


圭一さんはミーティアの各部武装を展開。フルバーストで無数の敵をなぎ払いながら、巨大アームからビームソードを展開。

ミーティアの突撃力を生かし、メガサイズザクやガンダム、AGE-1の合間をすり抜けながら、次々と胴体部を斬り裂いていく。


その間も別のモック達が、トレミーに迫りながら攻撃……長距離ビームやミサイルを赤いフィールドで遮り、トレミーは突き抜ける。

私は右翼から迫る迎撃隊の真横を取りつつ、もう一発バスターライフルを発射。大隊を蹴散らすと、脇を蒼いサイコ・ザクが突き抜ける。


『あおあおあおあおあおあおあおあおあおー!』


あお君が戦場を突き抜けながら、無数の弾幕を展開。敵を蹴散らし、トレミーへの攻撃を少しでも少なくしていく。

それは私と圭一さんも同じ……バード形態に変形しつつ、メガサイズガンダムに急接近。

バレルロールでライフルを避けながら、MS形態に変形。ウイングを広げて軌道調整しつつ、シールドからサーベルを抜刀。


そのコクピット目がけて緑の光刃を突き立て、ボディを足場にして跳躍。

背後から遅い、迫っていたザク型モック達に両肩のマシンキャノンをまき散らし、次々撃ち抜いていく。


『卯月ちゃん!』


レナさんの声に合わせて、再びバード形態に変形。左手でサンドロックの手を掴(つか)みながら、一気に加速。

トレミーを追いかけつつ、その左翼に展開し、砲撃態勢に入っていたヴァイエイト型達にバスターライフルを照射。

特大のイオンビームによる不意打ちを食らい、数十体のガンプラが爆炎になっていく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


サテライトキャノンのチャージは四秒弱……でもさぁ、それで連発できるのが凄(すご)いよねぇ。

感心しながらも卯月ちゃんのウイングから離脱し、ヒートショーテルを振りかざし……。


「がら空(あ)きだよ!」


トレミーにバズーカを放とうとしていた、メガサイズザク目がけて唐竹(からたけ)双閃。

両肩から股下までを一気に斬り裂き、マントを翻しながらその脇を突き抜ける。

発生した爆炎には構わず、ヒートショーテルを大きく広げながら連続バレルロール。


赤い熱を携えるショーテルは、宇宙に溶断の嵐を巻き起こす。

そうして飛びかかってきたモック達を次々切り払いながら、虚空を踏み締め滑りながら停止。


十二時方向から九時方向にかけてマシンキャノンを乱射し、敵を次々撃ち抜く。そうして空(あ)いた戦線を埋めるようにまた敵が補充される。


「……聞いていた通りに多いね。というかこれ、CPU戦みたいに粒子で敵が作られているんじゃ」

『だと思うよ』


そこで後衛だったはずのビグ・ラング(魅ぃちゃん)が突撃しつつ、メガ粒子砲でギロチンバースト。

キロ単位の空間を一瞬でなぎ払い、無数の爆炎を生み出す。


『マシタ会長の恐怖が原因で暴走しているしね』

「魅ぃちゃん……やっぱり」

『何! その呆(あき)れた顔は! せっかくフォローしようって思ってたのにさぁ!』

「オッゴで?」

『いいや……行け、ザク達!』


するとビグ・ラングから、次々といろんなザクが出てくる。

標準的なザクIIに旧ザク、高機動型ザクII、ザクフリッパー、マインスレイヤー、アクト・ザク……ってこれはぁ!


「魅ぃちゃん、それは」

『はーははははは! このカイザーミオンに不可能はなぁぁぁぁぁぁぁい!』

「完全なるパクリかな! かな!」

『やかましい! 偉大なるリスペクトと言えぇ!』


ザク達は散開し、大隊的な陣営を組む。


フリッパーとスナイパーは後方から狙撃と観測に徹し。

マインスレイヤーは敵陣営の再構築を阻むため、ザク達の護衛を受けつつ機雷散布。


高機動型ザクIIやアクト・ザクは、その機動力を生かして遊撃隊。補給・修復重視のセッティングとはなんだったのか。


『というかレナァ、ぼーっとしてていいわけ? ……撃墜数最下位は罰ゲームだってのにさぁ!』

「はう! そうだった!」


よーし、それなら……またまた出てきたメガサイズの中隊目がけて飛び込み……!


「甘いよ!」


次々放たれるザクマシンガンやライフルをスラロームですり抜け、まずは最右翼のザクから仕留める。

打ち込まれる拳を伏せ気味にやり過ごしつつ、左薙の切り抜け。脇からコクピット部分までを両断し、爆炎を背に方向転換。


中心にいた二機のガンダムにも連続切り抜け! もちろんまともに撃ち合ったら辛(つら)いから、急所狙いのクリティカルってね!


……すると、Sフィールドの方でまたたくさんの爆発が起こる。更に圭一くんと同じように、ビームソードを展開しながら突撃する影が。


『あうあうあうあうー! ぼくも負けないのですよー!』


そう、羽入ちゃんです。羽入ちゃんのアストレイはミーティアを装備し、大量殲滅(せんめつ)に貢献していた。

くぅ……みんな、いちいち大仰だと思うな! 戦いの基本は肉弾戦だよ!


「――こんなふうにね!」


一旦ヒートショーテルを仕舞(しま)い、飛び込んできたシャイニングガンダム型に半身で構えて――。


「おっもちかえりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃl!」


レナパン百連発――その瞬間、飛びかかってきた十八体のシャイニングガンダム型は制止し、その全てが破裂する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レ、レナさんがなんか凄(すご)いことをしてる……! あのレナパンっていうの、ガンプラバトルでも撃てたんだ。

……って、駄目駄目。残り十キロ……GNスナイパーライフルを構えながら、額ガンカメラを展開。


「シールドビット、損耗率三十……四十……!」


幸い、ビットが壊れるだけなら、アシムレイトのダメージはない。でもこのままじゃ、たどり着くまでに全部壊れて……ううん、いい。

壊れたら、ちゃんと直してあげる。だってこの子は、杏ちゃんと一緒に戦うために……作ったもので。

ベアッガイのままだと……やっぱり、ちゃんと連携できないから。でも直接戦うのは苦手だし、狙撃ならって……。


『トランザム、終了三十秒前……二十……十五……!』

『OK。終了後、今度はこっちがトランザムだ。かな子は少し休んでて』

『お願い! 終了十秒前! 九、八、七、六、五、四』


八キロ、七キロ……タイミングは、トランザムの引き継ぎが上手(うま)くいってから。

それまでは今まで通り、ビットの制御と攻撃の撃ち落としに集中……!


『三、二、一……〇!』

『トランザム』


セラヴィーのトランザムが終了して、ほんの一瞬……トレミーの速度が落ちる。ううん、落ちると思っていた。

でも杏ちゃんはそのタイミングをきっちり呼んで、トレミー本体のトランザムを発動。よどみなく巨体は加速し続けてくれる。

それに驚きながらも……それにどこか安心しながらも、今度は私が……!


「――トランザム! フォロスクリーン展開!」


両手でGNスナイパーライフルIIを構え、一つ、また一つと砕けるビットに構わず、バックパックから照準用フォロスクリーンを展開。

狙うは中心部の発着ドッグ……閉ざされているそのハッチ。

それを遮るように前へ出てくる敵達。でも、その全てが再び放たれたサテライトキャノンで焼き払われる。


それが生み出す爆炎を突き抜け、その光に目を細めながらも、狙いを定める。


「もう、逃げない……」


信じるために、信じられるために……自分にできることを、全力でやる。幸運のお呪(まじな)いなんかに頼らない。

全部自分で引き寄せる……そういう気持ちも、魅音さん達から短い間に教わった。特に……憧れたのは。


――智絵里ちゃん、信じることは大事なんだよ――


あの大人っぽくて、笑顔の似合う……レナさん。


――たとえ手が届かなくても、たとえ声が聞こえなくても、信じることはできるの。
絶対に変えられる……この運命は変えられる。そう信じることはできるの――

――でも、私は……――

――智絵里ちゃんは、まず自分を信じなきゃ駄目かな――

――私、を?――

――自分が信じられる自分になるために、ありとあらゆる努力を尽くす。それができると信じるの――


そんなこと、考えもしなかった。

信じてほしい、信じてくれたなら絶対にって……私が、自分を信じるなんて想像もしていなかった。

……それで、人から信じられようなんて傲慢なのに。だからもうやめる。


これは、ここに来たのは、そんな弱い自分に決別するため。卯月ちゃんが飛び出した瞬間、自然と踏み出していた。

たとえ一歩でも、前に進みたい……たとえ一かけらでも、私が信じられる私になりたい。


そう願ったから……!


「狙い」


何の役にも立てなくて、信じてもらうことすら……できない弱い私……だけど……!

でも、気づかせてもらった。強い人達に甘えて、信じることを押しつけて……そんなのじゃ駄目だって。

信じてほしいなら、私が……まず踏み出して! みんなを信じなきゃ駄目だって!


だから撃ち抜く……弱い自分を……昨日までの、卑きょうで情けない自分もろ共……。


「撃ちます!」


引き金を引き、走る光条で敵を討ち貫く――メガサイズザクやAGE-1、ボルトガンダム型を撃ち抜きながらも、光条は揺らがない。

ううん、その揺らめきすら私の計算した通り。だから、願いは閉ざされていた扉を貫く。


トランザムの出力が生み出した出力は、扉に確かな穴を開ける。ううん、そこに至るまでの道筋に……かな。

爆発の帯が一直線に突き抜ける中、トレミーもまたフィールドごとそこへと飛び込む。

爆炎を振り払い、本当の意味でノーガードとなった道筋を進み……ハッチへと激突。

私が開けた穴にフィールドがぶつかり、押し広げるようにその船体を飛び込ませる。


ガタガタと揺れるボディを立て直している間に、トレミーは滑るようにハッチ内部で停止……トランザムも中断された。


「や、った……?」

『うん、やったよ。……セイ、レイジ!』

『おっしゃあ! セイ!』

『みなさん、ありがとうございます!』


あ、そうだ……慌ててカタパルトから飛びのくと、ビルドストライク達が次々飛び出し、内部の通路へと消えていく。


『すぐに戻ってくるから、待ってなさいよ!』

『絶対……絶対ですよ! 怪我(けが)しないでください!』

『了解ー』


杏ちゃんはいつもの調子で四人を送り出してから、ふぅ……っと一息。


『さて、これで文字通りの四面楚歌(しめんそか)だ。……ほんと馬鹿な奴らだねぇ』

「一人で突撃しようとした杏ちゃんにだけは、言われたくないよ……」

『全くですわ』


ナイトガンダム、更にかな子ちゃんのセラヴィーも出てきて、外への迎撃体勢を取る。

……お腹(なか)に乗り込まれたせいか、いろんな機体が……敵意が、こっちに向いているのが分かるの。

卯月ちゃんや魅音さん達が、フェリーニさん達がガードしてくれているけど、私達も……頑張らなきゃ、駄目だよね。


この数で防戦一方になるんだもの。きっと、凄(すご)く辛(つら)いことになる。


……痛いのは嫌だ。怖いのも、苦しいのも嫌だ。私はそんな、戦う主人公じゃないから。


『智絵里ちゃん、トランザム直後だし無理しないでね』

「うん……大丈夫」


でも……私は……。


「ちゃんとみんなで、笑って帰るんだから……!」

『うん!』


今ここで、杏ちゃん達を置いて逃げる私には……もう、戻りたくない……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


みんなの後押しを受けて、わたし達は要塞中心部を目指す。敵の襲撃も予測していたけど、怖いくらいに静かだった。

ドッグから通路を抜けて、空洞地帯へ……セイはデカい剣を携えつつ、わたし達を扇動する。


『セイ、結晶体は中心部だったな』

『間違いないよ。そこまで行けば後は……』

「それは間違いないと思うわ」


私の能力……粒子そのものを感知する感覚のおかげか、もうビシビシと来てる。


『粒子の流れがあるの。セイが今向かっている方向から、風みたいに流れてる……しかもどんどん濃くなっていて」

『なら、急がないと!』

「今も外ではドンパチで楽しそうだものね」


特にアンズ達が心配よ。……絶対に失敗は許されない。痛みも覚悟した上で、盾になってくれたんだから。

しかも、事情を話してもいない仲間達まで……アンズはいい友達を持っているのね。わたしも見習わなきゃ。


……そう一人ごちた瞬間に、違和感を悟る。


セイ達にも言った粒子の流れが、妙に激しくなった。まるで流星雨の中に飛び込んだような、輝きに包まれる感覚。

横方向の大きな通路を飛びながら感じる、力が集まっていくような……。


「ッ……!」


敵がいない事実も交えて、全てを悟る。慌ててスロットルを上げて、ビルドストライクに突撃。

その瞬間見えたのは、眼前から迫る巨大な粒子砲撃。それも、通路を埋め尽くしかねない勢いで……!


「レイジ!」

『イオリ君!』


本当に幸運だった。


一つ、わたしと同じタイミングで、チナが踏み込んでいたこと。

多分レーダー代わりのわたしが動きを変えたことで、察したんだと思う。


一つ、二人の不意を完全に突いたことで、無駄な抵抗をされずに済んだこと。

一つ……砲撃が、本当に通路を飲み込むものじゃなかったこと。


二人を突き飛ばした結果、機体は通路内壁に叩(たた)きつけられる。そして……わたし達は、わたし達だけは、砲撃に飲まれて。

悲鳴を上げることすら許されず、わたしとチナは……ミスサザビーとベアッガイIIIは、その中へと埋没していく。



(第73話へ続く)





あとがき

恭文「というわけで……絶対、絶対使うまいと思っていた切り札≪パワーアップル兵糧丸≫によって、僕も復活。
更に魅音達の力添えもあり、なんとか本丸へ乗り込んで……多分次回でラストな鮮烈な日常BF編。あとがきのお相手は蒼凪恭文と」

フェイト「フェイト・T・蒼凪です。それと口寄せの術でみんなのサポート……って、いつの間にー!」

恭文「ガマガエルとか呼び出すのは忍者の基本でしょ!」

フェイト「あ、そっか」


(閃光の女神、そこは理解できるらしい。……なお蒼い古き鉄の契約動物は、ゴッドライガーの絡みがあるため獅子中心です)


恭文「そして同人版ではちょいちょい言っていたスーパーオールラウンダー適性。ようはサリさんとかと同じ感じ」

フェイト「でもそれ、苦労性ってことじゃあ……サリさんも私達のフォローとかで、地味な役回りをよくしてくれているし」

恭文「言うな……!」

フェイト「現に今回だって、みんなのサポート中心で」

恭文「だから言うなぁ! というか、思い出させないでよ……獅二郎に頼まれたんだよ!? 獅子路様達の仲裁!」

フェイト「この後に出向くの!?」

恭文「そうだよ! こう、ハーレムしている経験から……ずばーってさぁ! でも逆効果だと思うなぁ!」

フェイト「だから、それが苦労性」

恭文「だから言うなぁ!」


(『こっちへこい……こいよぉ。ほらほらほらー』)


フェイト「でもヤスフミが超万能職……うん、そうだよね。もともと後衛向きの資質って言われてるしね。適性はあった」

恭文「でしょ? あとは、出力……出力さえあれば……!」

フェイト「それは、もう割り切るしかないんじゃないかなー」


(蒼い古き鉄の強み:多彩なスキルと異能制御能力、そして能力の発動速度。
蒼い古き鉄の弱み:魔法オンリーだと多弾生成とかできない。全体的に出力不足)


フェイト「瞬間詠唱・処理能力や多弾生成が苦手って点を除くと、ヤスフミの魔法資質はヴィヴィオに近いしね。
ヤスフミも攻防の出力が低いけど、フィジカル的な機動力と技能で何とか埋めているわけで……でも、そういう物理的側面が通用しない相手だと」

古鉄≪ユーリさんのように出力お化けな相手とか、相性最悪ですからねぇ。実際GOD編でもとどめを刺しきれなかった。
もちろん射程が取れない問題で、はやてさんのような超長距離砲撃に晒されるのもアウト。
……スーパーオールラウンダーになってもその弱点は決して変わらず、向き合っていくしかないんですよ。覚悟を決めましょう≫

恭文「やっぱり、駄目?」

古鉄≪駄目です≫


(一番得意なものをぶつけるのが大事というお話でした。その辺りの理屈は、やっぱりなのはStSコミックス第二巻で)


古鉄≪それより、ほら≫

恭文「あ、そうだった。……今日(2018/02/20)は箱崎星梨花と三条ともみ(とまと設定)の誕生日! おめでとうー!」


(というわけで、蒼凪荘ではまたまたパーティーです)


星梨花「ありがとうございます! わたし、また一つ……大人になりました!」

ともみ「御主人様、ありがとうございます。それで今日は、美奈子ちゃんを見習って……あーん」

恭文「あ、あーん……美味しい……けど、どこをどう見習った!?」

ともみ「こう、御主人様が幸せだと、私も幸せって感じ?」

星梨花「はい!」

恭文「そうか……うん、そうなんだ。あの、ありがとう」


(天使の笑顔に蒼い古き鉄、心から納得する)


フェイト「ヤスフミ、押しが弱すぎない……!?」

桜セイバー「ほんとですよ。いや、まぁ……星梨花さんが愛らしいのは分かりますけどねー。見ているとほっこりするというか……はぁぁぁ」

フェイト「桜セイバーもファンになってる!?」


(天使の笑顔は、いろんな人を魅了するものなのです。
本日のED:箱崎星梨花(CV:麻倉もも)『夢色トレイン』)


星梨花「恭文さん、今日はともみさんと一緒に、いっぱい独占しちゃいますね」

ともみ「うん、お誕生日だし……なのでりんは自重。いいね?」

りん(アイマス)「いや、それはいいんだけど……どうして星梨花をガードするように動くの?」

ともみ「……最近、星梨花ちゃんにもコミュニケーションを取ろうとしているから」

りん(アイマス)「いかがわしいことはしてないよ! ただぎゅーっとしたり、同意の上でマッサージしているだけだし!」

星梨花「あ、あの……それは大丈夫です。だって、マッサージすると大きくなるって……わたしも、ともみさんやりんさんみたいになりたいです!」

ともみ「りんの場合はいろいろ邪心が混ざっているから駄目……!」

りん(アイマス)「えー!」

恭文「りん、そろそろ自覚しよう? ……同性でもセクハラは成り立つの!」


(おしまい)






[*前へ][次へ#]

20/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!