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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory71 『約束/PART1』


やっちゃんから連絡をもらい、とりあえずはエレベーターで目的のフロアに……PPSE社の関係者しか入れない、正しくVIPフロア。

まぁ偉い人のセキュリティってのは、往々にして仰々しいものだ。そう感じながらも、エレベーターの中で両手を軽くスナップさせ、腰をくいくい。

心を空っぽに……無我の境地無我の境地。それで軽く呆(ほう)けながらも、目的の界に到着。


するとドアが開いた途端、二人の黒服が登場。お仕事熱心で何よりだ。


「ここは関け」


即座に左手の男に右フック。側頭部を殴り飛ばし、一発で意識を奪い。


「な……」


もう一人がこの至近距離で右手をかざしてきたので、反転してバックブロー。


「ぐふ!?」


顎先を鋭く撃ち抜き、脳をミキシング……白目を剥いて倒れる中、拳に軽く息を吹きかけ労(ねぎら)ってあげる。


「しかし右手……あぁ、やっぱりそういうことか」

「おい、何をしてる!」


向こうから三人ほどやって来たので、咄嗟(とっさ)に左手の角に隠れて……放たれる衝撃波を回避。


「おぉおぉ、派手に轟音(ごうおん)を響かせちゃってー。これは成り立つよね」


S&W M10を取り出し、二発、三発と放たれたところで……角から顔を出して、スタン弾を五発発射!

奴らはすぐさま両手をかざして、力場を発生させながらガード。弾丸は虚空で平然と止まってくれる。


「いきなり撃ってきた……なんなんだ奴らは!」

「例の刑事達か! だが」


そう、奴らも足を止める……非常階段の脇で、間抜けにも。そこで階段のドアが蹴破られ、タカが登場。

背後に控えていた四人が待っていましたと言わんばかりに右手をかざすけど。


「見えみ……!?」


その間に決着はついていた。銃声とマズルフラッシュは、正しく瞬(まばた)きよりも速く繰り返される。

タカの早撃ちで四人は胸元を撃ち抜かれ、あっという間にダウン。……見え見えでもさぁ、腕が違えば対応できないってわけよ。

タカが至近距離で潰されないうちに、弾をリローダーで入れ替えた俺も飛び出す。


奴らは当然迷う。一瞬だが迷う……背後のタカ、眼前の俺。その間に百メートル近い距離は縮まっているというのに。

それでも、それでも……すぐに役割を分担し、二人がタカに向き直り、もう二人がこっちにサイコキネシスを発動。

いや、発動しようとした。しかし俺達は、そんな隙(すき)を逃すほど甘くない。


奇麗に掃除された通路をスライディングし、俺の担当二人に弾丸をお見舞い。

タカの方はもっと楽だ。対応しようと向き直る……その前に撃ち抜き、倒しちゃうんだから。


そうして白目を剥いて奴らがバタバタと倒れる中、俺も素早く起き上がってタカと並び立つ。


「悪いな、遅くなった」

「いやいや……むしろ早いくらいだって。というか、無理してない? 足腰立ってる?」

「ハーレムに備えて鍛えてるからな」

「OK、夏海ちゃんには言っておこう」

「おま、それはズルくない?」


そう言いながらも背後へ振り向き、何事かと駆けつけてきた黒服二人に射撃……スタン弾をまともに食らい、奴らは揃(そろ)ってあお向けに倒れる。

……でもこれで終わりじゃない。まだまだあっちこっちから足音が……じゃあ、さくっと片付けますか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合はもう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)……ただ、当事者同士としてはもう決着を付けてやるーって感じで纏(まと)まっていて。うん、コイツら馬鹿だなー。

しかし、あれは修羅の解放とは違う。しかもりんりんやユウキ・タツヤもその潜在能力を解放していた。

音楽効果……だけじゃないよなぁ。その始点は間違いなくやすっちだった。だからこそユウキ・タツヤも勝機を取り戻した。


それは、すばらしいことだ。

それは、実に嬉(うれ)しいことだ。

地上を目指して駆け抜けていく中で、それは心から思う。


ただ……胸の内で走る悪寒は、全く消えることがなくて。


『ダーグ様、飛燕です』


地上までもう少しというところで、飛燕から通信が入った。全力で走りながら、展開したモニターに応対。


「おう。そっちはどうだ」

『先ほど、自動人形達がアラン・アダムス氏を確保。怪我(けが)や薬物投与などの痕跡もありません』

「そりゃよかった?」

『ただ問題点が二つ。一つ……PPSE社はガンプラマフィアと繋(つな)がっています』

「……何だと」

「飛燕さん、ニルスです! では、あのHGS患者達は……」

『マフィアサイドの人間です。アダムス氏曰(いわ)く、ベイカー秘書にも内緒にしていたようで』


その言葉にはつい舌打ちしちまう。ようは表と裏、両方の支配者だったってわけか。どこまでも強欲な奴らだ。


『それともう一つ……アダムス氏を囲んでいた連中以外のマフィアは、既に全滅していました』

「はい……?」

『誰も彼も肉弾戦、又はスタン弾で撃ち抜かれています。かなり手慣れた人間の仕業ですね』

「おい、まさか」

『一人をたたき起こして確認したところ……老刑事二人にやられたと』

「鷹山さん達ですか……!」


おいおい待てよ待てよ……やすっちから相当できるとは聞いていたが、HGS患者相手の屋内戦で暴れて、結果鎮圧してるのかよ!

確か、異能力者でもなんでもないんだよな! どんだけなんだよ、そのおじいちゃんズ!


『ただ、それとは別に……アロハ姿の男にやられたと言う者もいて』

「誰ぇ!?」


ごめん、老刑事は分かる! でもアロハ!? 夏にアロハ……は当たり前だけどぉ!

どういうことだ! 一体何が起こった! 何が……分からない! もしかして地上は思っていたよりもカオスかも!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory71 『約束/PART1』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダークマターという檻(おり)に捕らわれていた心は、全力のバトルによって解除された。ただ……ただ……もう、精も根も尽き果てそうだよ。


でも、まだだ。

やっと……約束が守れそうなんだ。


だったら後のことなんて考えず、ぶっ飛ばすしかないでしょ!


「――タツヤ、状況は分かっているね」

『えぇ。差し当たっては』

「そう、とりあえずは」


タツヤはトランザムの出力を更に上昇させ、両袖口から発振するサーベルを更に長大化……翼のように翻す。

僕は古鉄弐式を鞘(さや)に収め、抜刀の構え。


『「目標を――駆逐する!」』

「あの……試合を中止して、いろいろ抗議は」

「はぁ!? そんなもんは後だよ後!」

『えぇ! 今はバトルが先です! 損傷はそれなりですが、まだ僕は戦えますよ!』

「こっちだって!」

「……ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


そう、後でいい。マシタ会長を引きつける役割もあるしね。これでようやく、約束通りのバトルができる。

トオルも安心してくれるだろうし……全力で楽しむぞー! おっしゃー!


「りん!」

「限界突破≪ブラスターIII≫――リリース! 更にサテライトシステムオン!」


月は出ているか……もちろん出ているよ! そう、思いっきり煌々(こうこう)と輝いていた!


四秒弱で放射されるマイクロウェーブを受け止めながら、フェイタリーはそのボディから蒼い炎を滾(たぎ)らせる。

跳ね上がる出力を、沸き上がる熱を全て古鉄弐式に凝縮。幾度も力を打ち上げ、研ぎ澄まし、鉄輝とする。


……呼吸を整え、もう一度意識を集中。


自分の殻を……限界の壁を打ち破り、脈打つ鼓動を全身に行き渡らせる。


「次で決めるよ」

『望むところだ――!』


二人同時に――星々の輝きが満ちる海を踏み締め、加速。


エクシアは翼のように翻る、粒子の刃を突き出す。それに対しての切り札は、ただの一歩。

迷いも、痛みも、苦しみも……全てを受け入れ、突き抜けるからこそ踏み出せる一歩。


『こい――天翔龍閃もどき!』

「……いいや」


その一歩を踏み出して、その上で放てる一撃……それは天翔龍閃だけじゃない。


「これは、その先を目指すものだ」

――瞬・極(またたき・きわみ)、最終奥義じゃないぞ――


それは少し前、サリさんとヒロさんが教えてくれたこと。


――瞬・極(またたき・きわみ)は、ヘイハチ一門……というより、ヘイハチ先生が目指した”天元”に至るための入り口だ――

――……実はそうなの。やっさん、アンタにヘイハチ先生が目を付けたのには理由がある。
一つ、アンタに”人ならざる者”が棲(す)んでいたこと。一つ、アンタにはそれでもなお、人としての夢があったこと――


人ならざる者――それは僕の中にいる修羅。闘争を好み、ただ突き進む破壊の権化。

人としての夢――それはショウタロスであり、シオンとヒカリ達。探偵のおじさんに、ヒーロー達に示された輝き。


――それでもう一つは昔のアンタに、先生が遭遇した”天元の花”が宿っていたことだ――


僕自身は全く自覚がなかっただけで、天眼と呼ばれる異能があったらしい。……先生が過去、敗北した女剣士と同じ能力が。

事象に干渉し、その方向性を……未来を限定的にする魔眼。斬りたいと思えば、斬り裂ける未来を作り出す瞳。

先生は天元の花と称する存在に相対するため、強くなることを選んだ。その輝きに魅せられ、追いかけることを選んだ。


だからこそ先生は言っていた。斬りたいものを斬ると……たとえ獣がいなくても、魔眼がなくても、意志力だけは負けないようにと鍛え続けた。

そうして得たんだ。手を伸ばせば傷つくような高嶺(たかね)の花に、届きうる方法を。


もちろん、これはまだ真似(まね)っ子。

先生が憧れ、手を伸ばしたように、僕もその頂きを見上げているのが現状。

でも手は伸ばし続ける。何があろうと絶対に諦めない。だから踏み出せる……だから突き抜けていける。


目指すのはただ一筋。

極地と呼ぶにふさわしき一閃。

美しく、強く、気高く、そして眩(まばゆ)い夢。


――迫る光翼を前に、左足を踏みだし、鍔(つば)を切る。

逆風一閃……しかし、その斬撃は袈裟・右薙の連撃と重なる。

同時に放たれ、同時に命中するという矛盾。それを成り立たせるのは、超神速の抜刀と踏み込み。


左足の踏み込み……そこから瞬・極(またたき・きわみ)の三連撃を更に加速させる、同時三連斬撃。

その矛盾は、世界の事象すら崩壊させる”魔剣”は……刃を答えへと至らせる。


そう、それは正しく極光だった――。


『が…………!』


刃を振るった右腕が粉砕。しかし、エクシアの突きだした刃は……そのボディは穿(うが)たれ、衝撃で表面塗装が剥離。

赤から青色へと戻り、虚空を漂いながらフェイタリーと交差する。


『今……の、は…………』

「……瞬・極光(またたき・きわみのひかり)」


これこそが正真正銘、ヘイハチ一門最終奥義。

”同時に放たれ、同時に命中する斬撃”という矛盾による事象崩壊現象。それがもたらすのは防御すら許さぬ絶対破壊の魔剣。

これこそが、先生が目指した花へ至る道。いつか……いつの日か、あの花と再び巡り会えたらぶつけようと、温め続けた秘技。


ただ、これもまだ”もどき”の域を出ない。無明三段突きと違い、リアルでも兆しに等しい。……それがちょっと悔しい。


『瞬……あぁ、そうか……これが、あなたの……』

≪BATTLE END≫


エクシアは力を失い、バトルは終了。波乱に満ちた戦いの部隊は静かに消えていく。それに合わせ、タツヤもあお向けに倒れ込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ会長、サングラスを外すクセがあるんでしょうかぁ。そんなことを感じながらも、試合の決着を見届ける。

その要は、目にも映らぬ斬撃。エクシアの圧倒的出力をも、その本体ごと斬り裂いた光の刃。


その美しさに、その鋭さに、私達はただただ……唖然(あぜん)として。


「瞬・極光(またたき・きわみのひかり)……なるほど、あれが最終奥義なのかな」

「最終奥義? レナさん」

「恭文くんの先生≪ヘイハチ・トウゴウ≫さんはね、示現流をベースとした実戦剣術の達人なの。撃てば必殺の抜刀術を奥義としていたんだ。
地面に這(は)うような低姿勢から、股下目がけての一閃――それが瞬(またたき)。
二撃であれば瞬(またたき)・二連、三撃であれば瞬・極(またたき・きわみ)」

「極みの光ってことは、それ以上……だから最終奥義ですか! あの、レナさん達は」

「俺達も見るのは……つーか聞くのも初めてだぞ! あんな隠し球があったのかよ!」

「だからもう、ゾッとしてるよ。今の、全く見切れなかったし……しかも腕が壊れてるし」


……それだけ強力な……ガンプラバトルで試すのも、相応のリスクがある必殺技。その姿に、私達もただただ感嘆の息を吐くしかなくて。

対称的に険しい表情を続けていたのは、トオルさんだった。あぁ、やっぱり前半がアレだったから。


「でも、トオル君的には物足りないかな?」

「いや……そんなことはないが」

「でも、ちょっと静かだったし」

「……まぁ何があったって疑問はあるが、それ以上に……あそこへ行きたいって気持ちが、凄(すご)い勢いで燃え上がってるんだよ」


そう言いながらトオルさんは、ようやく……苦しげだった表情を緩めて笑う。


「ほんと、急いで俺のストライクを出してやらないとな!」

「自分の心から、だったよね」

「あぁ!」


恭文さんとユウキ会長は、一つの約束を守った。でも終わりじゃない……今度はトオルさんの番だった。

すぐにでもそのバトルを見てみたいです。ううん、それだけじゃあない。


……燃え上がっているのは、私も同じだった。


私も……ただ見上げて、憧れるだけじゃなくて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……フェイタリーとエクシアを回収した上で、りんと二人倒れたタツヤのところへ駆け寄る。


「タツヤ!」


タツヤを抱え起こすと、汗だくのタツヤは薄く目を開き……震える声で、まず謝罪を口にする。


「あ……恭文さん。朝比奈さんも、すみません、僕は……」

「それについては、セイ達に謝るんだね。来年まで持ち越しだもの」

「そうそう。……で、一応聞くけど」


りんは怒りの形相で、タツヤが捨てたサングラスを見せる。


「こんな危ないおもちゃ、どこで買ったの」

≪改めて解析しましたけど、やっぱりエンボディシステムですよね≫

≪でもでも、フラナ機関は壊滅したの! 所属メンバーだって逮捕されてるの!≫

「……!」


その答えを示すように、タツヤはVIPルームを……マシタ会長がいるあの場所を、忌ま忌ましげに見上げる。

僕にもバッチリ見えてるよー。あ、タケシさんもいる……軽く手を振ってきたし。


それじゃあ逮捕した上で、ここまでの事情をしっかり聞かせてもらおうか。せっかくの大会を邪魔してくれた礼も含めてね。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エンボディシステムを振り払い、ユウキ少年は愛機の力を高める。

広げた両腕……翼のように展開した長大なビームサーベル。奇(く)しくもエクシアは、その所属組織≪ソレスタルビーイング≫のエンブレムをかたどっていた。

恭文君も刀を鞘(さや)に収め、抜刀の構え。お互いに手加減なし……全力の一撃をたたき込むつもりらしい。


試合で言うなら、既に少年の反則負けは決まっている。だがそれでもと言ったところか。

そして、極光は走る――目にも映らぬ斬撃が光を呼び、光翼を、エクシアを両断。それがバトルの決着となった。


無論、この男の妄執を断ずる一撃でもあった。


「え、何……嘘! 嘘嘘嘘嘘! なんでぇ!? ベイカーちゃん……いなかったぁ!」

「そうだ、それでいい……それでいいんだ」


混乱するマシタ会長は気にせず、彼らの姿が誇らしくて笑ってしまう。


「君達はちゃんと、前に進んでいる……それでいい」

「そう褒めてもらえると、知り合いとしてはうれしいですよ」


すると、ドアがゆっくりと開かれ……やや疲れた様子の鷹山刑事達が入室してきた。


「やっちゃん、りんちゃんもよくやった。それでこそ友達ってもんだ」

「鷹山刑事! 大下刑事!」

「な、なんだ……なんなんだ! お前達までぇ!」

「やぁどうも。マシタ会長……楽しそうなところ申し訳ないですけど」


鷹山刑事が懐から出してきたものは、マシタ会長を絶句させるにふさわしいものだった。


――逮捕状――

「未成年略取、エンボディシステムの悪用、及び違法なエネルギー取り扱いの件で、あなたに逮捕状が出ました」

「港署まで……は遠すぎるから、ちょっと静岡(しずおか)県警まで来てもらえます? お茶は出しますんで」

「何を言っているんだね! 一体、何の根拠があって!」

「根拠ならあるよ」


そこで、メイド服姿の女性を伴いながら、四人目の男が入室――。


「――!」

「やぁ会長、ベイカー秘書は……あぁ、いなかったね。昨日は……本当にお世話になったよ」


それは、怒りの形相を浮かべていたアラン・アダムスだった。


「なにせ僕が、そしてタツヤが証人だ。……あなたは”弟”と一緒にガンプラマフィアをも影で操り、利権を貪ってきた。
さらにはHGS患者の犯罪者を囲い、ボクとタツヤを暴力にて圧倒し、改良型エンボディシステムでタツヤを洗脳した」

「ひ……!」

「ガンプラマフィア……弟だと! アダムス君、それは本当かね!」

「えぇ。この耳ではっきりと聞きましたから」

「嘘だ嘘だ! そんなこと、嘘だぁ!」

「確かに会長が言う通り、客観的証拠がないと駄目だな。……なら聞いてみるか、俺達が叩(たた)きのめした奴らに」


どうやら彼の言うことに嘘はないらしい。鷹山刑事の理論的な言葉により、会長の顔から血の気が引いたのだから。


「それで、タケシさんが途中で殴り飛ばした奴らに……しかしまた無茶(むちゃ)をしちゃってー」

「私もあなた方と同じで、こういう”遊び”が大好きなんですよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どうして、こうなったんだ。


ボクは、ただ幸せになりたかっただけなのに。

食うものにも困らず、着るものにも困らず、住むところにも困らず、毎日ぜい沢に暮らしたい。

美味(おい)しいものを食べて、明日の生活なんて心配せずに毎日、好き勝手に生きていくんだ。


そのために最大限の努力をしてきた。そのために、必要なことも頑張ってきた。なのに、なのに……!


「そうそう……地下の超巨大粒子結晶体も、既に確保済みだそうだよ。その上で別所(べっしょ)に移している」

「は……!?」


アラン・アダムス主任の言葉が信じられず、思わず手元のアリスタを見やる。


「ニルスと協力者に、HGS能力者による攻撃を仕掛けたらしいねぇ。立派な殺人未遂でしょ、これ」

「な……あ……あじゃあ、あの……ああ……」

「もちろん、ベイカー秘書共々現行犯逮捕」


鷹山刑事、大下刑事の宣告に、足が震える……思考が停止する。

言い逃れは、できない。でも、どうして。完璧だったはずだ……ボク達の計画に、落ち度なんて!

そうだ、ボクは悪くない。だから、だから、だから……!


「ふ、ふざけるなぁ!」


慌てて立ち上がり、男達に宣言する……いや、命令だ! だって、だってベイカーちゃんはぁ!


「お前達、誰に何を言っているのか……理解しているの!?」

「もちろん」

「だとしたら余計に愚かだ! ボク達がこの世界に来たおかげで、革命が起こったんだぞ!」


……そうだ、ベイカーちゃんはそう言ってくれた。夢を叶(かな)えてくれた……未来をくれたと、ボクを神のように崇(あが)めてくれた!

それが嬉(うれ)しかったんだ! さすがに、神様は行き過ぎだと思うけど……でも、居場所をくれたんだ!

鼻つまみものだった”ボク達”に……盗みをしなきゃ、生きていけなかったボク達に、居場所をくれた!


こんなボク達にも、才能があるんだと教えてくれた! だったら、これが間違いであるはずがない……これが、間違いだったら。


「なのにそれを潰すというのかぁ! この夢を、この輝かしい時間を……ちっぽけな正義感のために! そんなこと、たとえ神だろうと許さない!」


そうだ、ベイカーちゃんはそう言ってくれた。それでボクにこの輝かしい世界をくれたんだ。

それが間違っていたとしたら――。


ボクは一体、どうやって生きていけばよかったんだ……!


「……幾ら欲しいんだね! 金ならうんざりするほどあげると言っただろう! それで」


すると鷹山刑事達は顔を見合わせ、お手上げポーズを取りながら近づき……ボクに手錠をかける。

錠の音が、身体ごとさび付くような重さが、必死の抵抗を……言い訳を考える心、その動きそのものを戒めて。


「え……!」

「悪いが興味はないな」

「金より、そのちっぽけな正義の方が面白いんだわ」


……アリスタも奪われた。

ベイカーちゃんも奪われた。


大事な石から……ボクの価値を教えてくれた、神様みたいな人から引き離された。


「あ、うそ……こんな……」


ただ、願っただけなんだ。


「なんで……」


ただ、欲しただけなんだ。

特別なことじゃない……人様に迷惑をかけるつもりなんて、これっぽっちもない。


「なんで……!」


願ったことはただ一つ。どこまでもぶれない、ボクという人間を示す答え。


「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ただ満たされたい……衣食住、何一つ不自由なく満たされたい。

たったそれだけの願いを叶(かな)えるために、ここまで……進んで、きたのにぃ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――その瞬間、会長の手に持っていたアリスタから黄金色の光が放たれた。

俺はタケシさんを……タカはアランを庇(かば)って伏せるが、俺達には何も起こらない。


そう、俺達には……窓の外、会場では変化が起こっていたというのに。会場の各所から同じ色の光が吹き出し、その色を……姿さえ変化させていく。


会場は宇宙空間へと染め上げられ。

円すい型の歪(いびつ)な隕石(いんせき)が……超巨大な衛星が創成される。

それは大会で使われるバトルフィールドよりずっと広大で、会場天井に衝突し……そして。


「……ユージ!」

「大丈夫だ! だが……これ、ちょっとヤバいんじゃないの?」

「暴走だ……」


アランが立ち上がり、怯(おび)えるマシタ会長に右ハイキック……って、すっごい大胆!


「あぎゃあ!」


会長が倒れ、握られた懐中時計……収められていたアリスタが地面に倒れる。でも、会場の変化は変わらない。


「クソ、止まらないか! マズい……マズいマズいマズい!」


端々には何やらこう、結晶体のようなものができて、出入り口を塞ぎ始めていた。


そうこうしている間に、俺達の周囲も星々が瞬く宇宙空間に早変わりー。あははは……もしかしなくてもこれは。


「もしかしてお馴染みのボーナスタイム……爆破オチ?」

「かも……! つーか、ユージィ!」

「俺のせいじゃないでしょ! タカが婚約者もできたのに、チューリップも枯らすような有様だからぁ!」

「それを言うなよ! と、とにかく避難……一旦避難だ!」

「あぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地上は目前……あとは出入り口のドアを蹴破って脱出完了。そのドアも目の前に見えてきたところで、ぞくりと背筋が震える。

なんだ、これ……悲鳴? 恐怖や混乱の声が響いてくる。まさか。


『大変です、ダーグ様』


それが正しいと言わんばかりに、飛燕が通信をかけてきた。


『粒子結晶体が転移……消失しました』

「は……!?」

「なんだってぇ! おい、それじゃあ」

『兄弟、外だ!』


ブレイヴタウラスの声に従い、ドアを蹴破り真夏日の下に……そのまま世界大会会場が見える、広いところまで出ると。


『あっちだ! 馬鹿でかいエネルギー反応……が……………………!?』


馬鹿でかいのは、エネルギー反応どころの騒ぎじゃなかった。

会場のドームを……その天井を突き破り、宇宙が描かれていた。

その中には、どう見積もっても数十メートル規模の要塞。円盤と円すいが組み合わさったようなそれは、俺にも見覚えがあって。


「なんじゃこりゃ……」

「ニ、ニルス!」

「ア・バオア・クー……!」


そこにあったのは、宇宙要塞ア・バオア・クー。

初代ガンダムにて、最終決戦の部隊となったジオン軍の基地。


それが、超巨大規模で構築されていた……!


『「なんじゃこりゃあああぁあぁぁぁぁああぁああああぁぁ!」』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


各所から吹き出した粒子は、超巨大なフィールドを構築する。更にそれらが物質化……変異現象の暴走か!

出続ける汗を強引に払って、慌てて連絡。電話は……よし、繋(つな)がった!


「杏!」

『大丈夫! ジオさんとカイザーが主導で、有力ファイター達による避難活動中! ディアーチェさん達も手伝ってくれてる!』


杏の言葉を示すように、会場各所から響く悲鳴には、必死な誘導も交じっていた。


「非常口はこっちよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「みなさん、並んでください! 冷静に……家族連れ、特にお子様を最優先に! 慌てずに進んでください!」


あっちは任せるしかないか。それより僕は……バトルベースに向かおうとして、軽くふらつき膝を突く。


「お兄様!」

「ヤスフミ、しっかりしろ!」

「大丈夫……」


左手でマジックカードを三枚取り出し、効果発動……損耗した体力を補い、また立ち上がって駆け出す。


「これは、僕の仕事だ……!」

「あぁ、そうだな……踏ん張れ。ニルスと杏がいない以上、お前にしかできない。……ジガン」

≪分かってるの! 主様、サポートするからサクッとやっちゃうの≫

「お願い……」


何とかベースに取り付き、システム制御用のハッチを見つけて展開。

自分のGPベースをセットした上で、端末による赤外線通信からアクセス……。


「杏、できるだけ早くこっちに……」

『分かってる! 蒼凪プロデューサーは大丈夫なんだよね!』

「当然……!」


幸いというか何というか、アリスタの出力を察知してか、巨大ベースとそのシステムは自動的に稼働を行っていた。

ただ通常のフィールド領域では収まりきれないが故に、会場全体をガンプラが動く”世界”に変えちゃっているけど。

でも、大丈夫……ギリギリだけど、制御は調っている。


あとはこれを、こちらの管轄下に置いて……逐一制御していけば……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


各所で起こる変異現象の暴走。作られていく世界に取り込まれていく観客達……でも、事前に整えていた避難誘導の効果は絶大で。

ただ僕とレイジ、セシリアさんと委員長……更にフェリーニさんとミホシさんは、それとは真逆の方向に走っていて。


「ユウキ先輩! 恭文さん!」

「リン! おい、お前ら……しっかりしろ!」


恭文さんは荒く息を吐きながら、ベースに持たれていた。りんさんも大して変わらない。

地面にへたり込んで、ゼーゼーと肩で息をするだけ。ユウキ先輩もまともに動ける状態じゃあなかった。


恭文さんには僕とセシリアさんが。

ユウキ先輩にはレイジが、りんさんには委員長がついて、何とか抱え起こす。


「セイ、レイジ……セシリア」

「喋らないでください! すぐ外に運ぶ手はずを整えますから!」

「駄目……システム制御が残ってる。それと粒子結晶体は、あの中だ」


そう言いながら恭文さんが左親指で指すのは、ア・バオア・クー……うわぁ、ラストバトルって感じの流れだー!

……って、そうじゃない! ヤバいヤバい、状況が異質で浮き足立ってる! でも落ち着け!


「あの中って……結晶体は地下だったんですよね! それでなんで!」

「地下どころか、別空間に置いてたよ。でも転移してきた……レイジがこの世界へ来たときみたいに」

「あ……!」


そうか……よくよく考えたら当然のことだ。レイジがアリスタの力でこっちの世界に来たのなら、その源となったアリスタも相乗りなわけで。

別空間がどこかは知らないけど、そもそも無意味だったってことか……!


「それとセイ、おのれに渡しておくものがある」

「え」

「思ってたよりシステム制御がタイトなのよ。下手をすれば最後まで動けない……だから」


恭文さんはコートの中から、黒いアタッシュケースを取り出す。それを床に置いた上で、開くと……。


「これは!」


中にはアストレイ・ゴーストフレームと、その追加装備が置かれていた。今は大剣≪スライダー≫って感じだけどね。

でもね、銀色の輝きも眩(まばゆ)い大剣が、ただの大型武器じゃないのはすぐ理解できた。


「Gスライダー……規格はビルドストライクとビルドMk-IIに合わせてある。もちろん戦国アストレイでも使えるよ」

≪RGシステム発動時には、これ自体もフレームの一部と定義した上で打ち込んでください。それでいけるはずです≫

「恭文さん、そのためにアストレイの改造機を……!」

「できるね」

「――はい!」


自分だけじゃなくて、僕やレイジ……粒子結晶体破壊組で使い回すための装備。

それを預かる責任はかみ締めた上で、Gスライダーを丁寧に取り出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


リンも、ユウキ・タツヤも相当に消耗してやがる。つーかヤスフミもだ。あの不遜な奴が、エンプティ状態で身動き一つ取れないってんだ。

……それでもみんなが無事なように、システム制御をきちんとしてるってのが……ほんと、大した奴だよ。

だったらそれが無駄にならないよう、きっちり働かねぇとな。


とりあえずリンとユウキ・タツヤには、スポーツドリンクを飲ませて……っと。


「ぷふぁあ……生き返るー」

「えぇ……すまない、二人とも」

「いえ。でも、どうしてこんなに……」

「バトル直後だからって、ヘタレすぎだろ」

「それも当然ッスよ」


そこでやってきたのは、チームとまとの奴らと……トウリにイビツだった。


「恭文! エル、イル!」

「はいなのです!」

「歌唄、がーっといけぇ!」


しゅごキャラ二人が用意したドリンクを口に含み、ウタウはヤスフミへと突撃……そのまま、ディープキス……!?


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

「ちょ、あなたは何をしておりますのぉ!」

「……決まってるじゃない」


ウタウはドリンクを口移しした上で、こちらへ振り返り不敵な様子で笑う。


「妻として、元気が出るお呪いよ」

「そんな暇がありまして!?」

「暇? 世界の方が配慮するに決まってるじゃない」

「た、確かに……ならあたしも、お互い供給し合う感じで」

「納得しないで……! あとタツヤ君は……うん、彼女を作ってからだね」

「三条さん、やめてください……ヤナや父さんと同じ事を言うのは、やめて、ください……」

「言われたのかよ……」


でもそうだよなぁ。お前、ガンプラのために学校を休学する奴だもんなぁ。ガンプラ馬鹿で彼女もできねぇってか。

そりゃあ心配するよなぁ。オレも王族として、今のうちからいろいろと……って、それはいい!


「歌唄、あの……」

「いいから……はい」


なんか二度目の補給≪ディープキス≫が入るのもいい! それよりもコイツの始末だ!


「それでトウリ、何が当然なんだよ」

「珍庵師匠……マオ君の先生から聞いたんッスよ。……楽天の極地。恭文君の師匠が発案した潜在能力解放。
仲間や敵対者の心にすら訴えかけ、その力を発現する。その本質は戦う楽しさや喜びに没頭することで生まれる≪無我の境地≫だ」

「無我の、境地……?」

「思考と肉体を切り離すことで実現可能な圧倒的反応速度。その速度は攻防ともに生かされ、それでなお進化する」


思考と肉体……考えるより早く動いて、対処するってわけか。確かにさっきのバトル、ゾッとするような反応だった。

それは正気に戻った後の、ユウキ・タツヤも同じだ。だが、無我の境地……すげぇなぁ、おい!


そんな極地があったのか! やっぱガンプラバトルって面白ぇ! いや、バトルが関係あるかどうかは知らないが!


「でも……それはノーブレーキでアクセルを踏み込んでいるのと同じ。体力の消耗がとんでもなく激しいらしい」

「……だから会長も、恭文さん達も動けないんですか!? その、ノーブレーキで暴れまくったから!」

「そういうこと」

「これで完全じゃない……まだ『兆し』程度って言うんだから、驚きッスよね。本覚醒したら一体どうなることか」

「でもそれじゃあ、どうやって避難を……ううん、大丈夫!」


チナは気持ちを入れ替えるように、両頬を叩(たた)いてトウリ達に頭を下げる。


「あの、お願いします! 会長達を運ぶの、手伝ってください!」

「そっちは千早ちゃん達に任せるッス。できるッスよね」

「えぇ……朝比奈さん」

「りん、しっかりして」

「ご、ごめん……」


チハヤとトモミがリンを抱え、ティアナもユウキ・タツヤを支えようとするが。


「僕は、大丈夫です……まだ、やることがある」

「……はいはい、ゾッコンってわけね。歌唄、アンタも千早達を手伝いなさい。二人だけじゃ無理よ」

「確かに、この混乱だものね」

「後はリイン達に任せるですよー」


リインとティアナは拳を鳴らし、ベースにどんどん近づいていく。もちろんトウリやイビツもだ。

その様子にミホシやチナも面食らう。


「あ、あの……みなさん、何を」

「チナ、お前もチハヤ達と一緒に逃げろ」

「そうッスね。自分達は、結晶体を何とかするッスから」

「え……」

「ぶっ壊すんだよ、アレを……オレ達のガンプラで」


そう言いながら左親指でア・バオア・クーを指すと、チナの頬が引きつる。


「壊す……ガンプラァ!? え、あの……でも、そういうのって警察や消防のお仕事じゃ!」

「今回については無理だってよ。近づいた途端、あんなふうにされちまうかもしれねぇ」


更に結晶体がちらっと見えた場所を指すと、その頬が更に引きつって半笑い。


「だがガンプラなら……粒子を取り込んで動くから大丈夫なんだってよ」

「……イオリくん」

「ごめん。そういうわけだから」

「……嫌だよ」


そこでチナは混乱を払い、決意の表情でベアッガイを取り出す。


「だったら、わたしにも手伝えること、あるよね」

「駄目だよ! 普通のバトルじゃない! 何が起こるか分からないって、僕達も散々言われてるんだ! だから」


必死に止めるセイに対して、チナは踏み込み、全力の叫び。


「もう、逃げないって決めたから!」


……必死の形相……震える足を踏み出しての叫びは、オレ達の心を鋭く貫く。何も言えなくなっていると、こっちにどたどたと足音が近づいてきた。

そちらを見やると、ダーグ、ニルス、キャロライン、杏……一緒に戦おうって約束した奴らが、ゾロゾロやってきた。


なおマシタ会長とベイカーは、ぼこぼこにされた状態でそこら辺に転がされる。自業自得とはいえ、また痛そうだなぁ。


「アラン……鷹山さん達は」

「タケシさん達を逃がしているよ。……タツヤ、大丈夫か?」

「何とかね。それで、早速で申し訳ないが」

「君の機体はすぐ調整する」

「ありがとう」


その言葉に、ユウキ・タツヤは”頼む”と頷(うなず)きを返した。

なんか面白くなってワクワクしてると、ダーグの背中からひょっこりと……アイラが出てきた。


「なら、大会ベスト十六であるわたしの力も役に立つわよね」

「アイラ! お前も何してんだ!」

「ちょっとちょっとー、メインMC兼イメージキャラクターを置いていくのはどうなのー?」

「待て待てキララちゃん! 君は今すぐ外に」

「冗談――!」


馬鹿を言ってんじゃないと言わんばかりの視線で、フェリーニがたじろぐ。

つーかアイラも同じなので、もう納得するしかなかった……つーか問答している時間もねぇ!


「ニルス、わたくしも加勢いたしますわ」

「キャロライン……! 本当に、あなた方は」

「どいつもこいつも、馬鹿ばっかりだな!」

「……私達も一応同じ気持ちなんだけどね。でも……朝比奈さん、いきましょう」


それでチハヤとウタウ達は、リンを連れて素早く退避。それになんか、デカい牛ものしのしと付いていった……あの牛、なんだ!?


『兄弟、俺はこいつらを送るついでに、逃げ遅れてる奴がいないかどうか見てくる! しっかりやれよ!』

「あぁ! 頼むぞ、ブレイヴタウラス!」

「みんな、すぐに戻ってくるから!」

「美味(おい)しいところは私達の分も残しておきなさい! いいわね!」

「できればなー!」


戻ってくるつもりなのかと呆(あき)れながらも、手を振って千早達は見送った。

……その上でオレ達は、あの馬鹿でかい要塞を見上げる。


「行こう、レイジ……!」

「あぁ! それで取り戻すぞ、オレ達の遊びを!」

「うん!」


幸い、このバトルベースは八十人とか九十人とかでも同時バトルが可能。

しかもシステムについては、コンピュータに詳しいヤスフミがきちんと管理してる。

だから……GPベースを置くと、いつも通りに粒子が働き、コクピットベースが展開。


『みんな……聞こえるね』

「おう。聞こえるぞ、ヤスフミ」

『みんなのコクピットベースも状態観測を始めたから、何か違和感があったらすぐに言って。いいね』

「分かった。んじゃあ……」

≪BATTLE START≫


――予感がある。


『リカルド・フェリーニ、ガンダムフェニーチェリナーシタ、出撃する!』

『キララ、ガーベラ・テトラで出るわよ!』


これが一つの区切り。この世界で行う、バトルの終わり。


『セシリア・オルコット――ダブルオーティアーズ、参ります!』

『コウサカ・チナ、ベアッガイ――出撃します!』

『アイラ・ユルキアイネン、ミスサザビーで出る!』


いや、終わりじゃねぇよな。つーか終わらせねぇよ。


『ニルス・ニールセン、戦国アストレイ――参ります!』

『双葉杏、プトレマイオス2改――発艦するよ』

『ヤジマ・キャロライン! ナイトガンダムで決めますわよ!』


こんなに馬鹿な奴らがいる世界だ。アリスタも、粒子も、きちんと向き合って引き連れてくに決まってる。


それにまだ、セイとの約束も残っている。セイに伝えたいことも残っている。だから……!


『イオリ・セイ! ビルドガンダムMk-II――行きます!』

「スタービルドストライク!」


いつも通りに、何の憂いもなく次を信じて、アームレイカーを押し込む!


「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


全力で宇宙空間に飛び出し、隣のセイを……ビルドガンダムMk-IIを見やると、デカい剣に乗ってサーフィンしていた。

ヤスフミがオレ達に合わせつつ作った新装備だな。つーかマジででけぇ……これだけでアリスタなんてぶっつぶせそうだ。


……すると左となりに、水色のサザビーが並んできた。ただし下半身がやたらとスリムで、ライフルではなくカタールっぽい武器を持っていた。


「それがお前の新作か、アイラ」

『えぇ。ミスサザビー……これでもう負けないんだから』

「は! またオレが勝つに決まってんだろ!」

『言ってくれるじゃないの!』

『あ、あの……二人とも? 一応言っておくけど、今はバトルしちゃ駄目』

『「………………分かってるってー」』

『なんだろう、その返しには溜(た)まらなく不安になる!』


その必要もねぇのになぁ。だって、これも約束だぞ。またバトルする……次があるっていう、未来への約束だ。

それはきっと守られる。……たとえ今みたいに、この世界へと来られなくなっても。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いやぁ……まさかこんな形で、世界を救うバトルをやるとはなぁ。ガンプラバトルを始めたときには予想だにしてなかった。

だが、これは遊びを遊びとしてすくい上げる戦いでもあるしな。だったら遊びで守られるのもまた必然か?


『スガ・トウリ――ガンダムAGE-2エストレアで決めるッスよ!』

『イビツ! ガンダムAGE-1レイザー――行きます!』


トウリとイビツが宇宙空間へ飛び出す中、俺もアームレイカーを押し込んで出撃。


「ダーグ――ブラックベルセルク、行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


対ブルーウィザードも想定し、ジュリアンとのあれこれも絡んで組み上げた新機体……それは黒いレッドウォーリア。

ビルドストライク・フルパッケージの≪チョバムシールド≫と同じく、一枚一枚プラ板を張り付け成形したマント≪フルクロス≫。

マスク部は熱く銀色のシャッター状。赤い右目は盾に傷がつき、左目は黄色時に赤点が入っている。


バックパックにはサブアームで懸架(けんか)したカレトヴルッフ&ムラマサブラスター。

両足スネ外側にはガントマホーク。

右腕にはブランドマーカー。

左腕には実体三枚刃のアームレザー。

フロントスカートにはシザーアンカー。

腹部にはストライクフリーダムのようなビーム砲。


がっちがっちの重武装機体だが、バックパック基部から黒色の粒子マントを展開。それを翼のように翻し、超光速で突撃する。


『おぉ……ダーグさんはレッドウォーリア系ッスか!』

「おぉよ! さぁ、ターミナル組の底力、見せつけてやろうぜぇ!」

『付いていきますよ、先輩!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんはエンプティで置いてけぼり……まぁこういうときもあるのですよ。それに、こういうときに備えての機体なのです。


『ティアナ・ランスター! 橙導師で出るわよ!』


ティアナはバイク≪駄尾怒尊≫に跨(また)がったSD武者……そのベースはレッドウォーリアで、昔の漫画に出ていた紅武者なのですよ。

バイクのタイヤは宇宙空間を踏み締め、しっかりと全身する。それを追いかけるようにリインも出撃!


「リインフォースII、ガンダムAGE-FR……行きます!」


リインの色で染め上げられ、更に各部に特殊ユニットGファンネルを展開。

それを通じて、パーフェクトAGE-1、クロスボーンGR、ブルーウィザード達が出撃。

はい、ガンダムXのGビットなのですよ。これで敵大戦力を壊滅なのですよー。


……まぁ過剰かとも思ったのですよ。まさかそんな、大量に出ないだろうなぁと……思って、いたのですけど……うん。

一応このFR≪フォロー・リインフォース≫は後衛。Gファンネル化した機体を遠隔操作して戦う支援機体なのです。

ゆえに元のFXより探知能力を強化しているのです。みんな脳筋的に突撃していくですから、そういう意味でもフォローするリインなのです。


その鋭敏なレーダーが、敵機の反応を掴(つか)んでくれる。それも多数……本当に大多数……!


「杏さん! データ送るです!」

『ありがと。……みんな、聞いてー。今から右翼をNフィールド、左翼をSフィールドと呼称するよ。
で、それぞれのフィールドから、大量に敵影反応。その数……合計三百』

『は……!?』

「しかも、更に増えていくですよ……!」


光学映像で様子を見ているですけど、寒気がしっぱなし……一人当たり、何機倒せばいいですかね。


「ティア、悪いですけど最初はバックヤードで援護なのです」

『了解しました。……アンタ、聞こえてるわね』

『タツヤ達に確認してみる』

『お願い』


タツヤさん達PPSE社の人間なら、鉄輝の正確な数を把握しているかもです。

そっちは恭文さんにお任せするとして……さぁ、バトル開始なのですよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……歌唄からの熱烈な補給で、確かに……元気になった。だっていっぱいドキドキして、キスもしたくなって……うぅ、こんな状態でお陀仏とか嫌だ!

何がなんでも、絶対に何とかしてやる! そのためにもまずは……アルトとジガンも加わり、システム回りのチェック。

あっちこっちが異常変容により亀裂が入り、倒壊の兆しすら見せている会場。だけどそのインフラは未だに保たれていた。


だからこそ瞬間詠唱・処理能力を活かし、会場内……及びPPSE社のシステムに堂々と入れる。

いいや、これから入るところ。なので一応五体満足なアランにお願い。


「アラン、マシタ会長を”これ”にディープキスさせて」

「分かった!」


展開したモニターの一つに、マシタ会長の顔面が叩きつけられる。


「ちょ、ま……何何! 何してるのぉ! ………………んぎゅ!?」

≪虹彩認証開始――認証完了≫

「ありがと。もういいよ」


アランが縛られた会長を適当に放り出すのを見つつ、指を動かして素早くタイピング。

空間モニター内に映し出されたキーボードを叩き、まずは……ガンプラの保管庫回りのデータをチェックする。


「恭文さん」

「生体認証も絡めたセキュリティは、無理に突破すると中のデータが自爆しかねないからね。
……でも最高責任者≪マシタ会長≫の認証が取れたから、後は押し通せるよ。それよりタツヤ」

「こちらは大丈夫です」

「ザクアメイジングやケンプファーを持ってくる時間はない。でも、今あるもので修理≪リペア≫してみるよ」


アランがそこで見やるのは、脇に置いた僕達の工具箱。


「幸い工具と資材、ミキシングに使えそうなガンプラ≪フェイタリー≫もあるからね」

≪フェイタリーを使うつもりなの!?≫

「構わないよ。関節部の規格は」

「AGP規格に乗っ取り調整している。問題ないよ」


セイにも言ったけど、僕は今回……最後まで動けるかどうかかなり微妙。

自分の得意な武器を活かし、みんなが安全に”遊びの範疇で”戦い続けられるよう、調整するのがお仕事だ。

だから、ファイターとしての領分はタツヤに注力する。フェイタリーの損傷もそこそこだけど、アランの腕前ならすぐに調整できるはずだ。


それでいいと、観測しているデータが教えてくれていた――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


三種の神器を纏(まと)ったナイトガンダム≪キャロライン≫と並んで飛んでいると、アンズから光学映像が送られてくる。

各ガンダム作品をオマージュする形でカスタマイズされたモックが、大量にこちらへ迫っていた。その様子にゾッとしてしまう。

それに交じって、メガサイズガンダム、ザクもチラホラ。一体どこで溜(た)め込んでいたのか……!


『ニルス、これは……』

「予想はしていました。しかし、何て数だ……!」

『まぁ今更ビビっても仕方ねぇだろ!』

『フェリーニの言う通りね! 数で劣るなら、そもそも消耗戦は無理だって割り切れるでしょ!』

「それは確かに」


キララさんもアイドルと言うが、なかなかに肝の据わった方だ。となると……よし。


「セイ君、レイジ君、君達は後方に下がって待機を」

『はぁ!? ……って、仕方ないか』

『うん。僕達がやられちゃったら、粒子結晶体の破壊ができない。本末転倒……というか、ニルス君もだよ?』

「承知しています。……キャロライン、非常に申し訳ないのですが」

『一点突破で道を開くのですね!』

「えぇ」


これらを全て破壊する必要はない。ただ内部に突入して、迅速に結晶体を破壊すればいい。

……時間との勝負になる。この数に押し切られれば、その時点で終わる……!


だからキャロラインの後ろに下がり、セイ君達と合流。とりあえずはアンズとリインさんに協力して、陣形構築と戦況把握に専念する。


『了解しました! アンズ!』

『まずは敵の前線から片付けていくよ。GNミサイル各部装填……十秒後に発射。それから突撃して』

『なら自分達に任せるッス! ダーグさん!』

『おうよぉ!』

『オレ達も行くぜぇ! セシリア、しっかり掴(つか)まれよ!』

『了解しましたわ!』


ブラックベルセルクはエストレアに捕まり、ダブルオーティアーズもフェニーチェとドッキング。

それを合図としたかのように、トレミー≪プトレマイオス2改≫からGNミサイルが次々と発射。
煌(きら)めく帯を刻みながら、敵の前衛に衝突し……幾つかの爆発を呼ぶ。


そして、足の速い可変機体二機は宇宙を切り裂くように突貫していく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さすがはトウリとフェリーニだ。目も眩(くら)むようなマニューバで、敵の砲火を正確にすり抜けていく。

幾度ものバレルロールと加減速を交えたターン。それに振り回されながらも、ギリギリまで……我慢、してぇ……………………!


『セシリア!』

『GNビット!』


セシリアとフェニーチェはNフィールドに対応。GNビットで前衛を切り裂き、中枢目がけてバスターライフルを照射。

強大なイオンビームが敵の陣営を貫いたところで、空(あ)いた部分へと突撃……そこから更に機動戦を演じ、敵をかき乱してく。

その一端で、炎の斬撃が走った。三種の神器装備のないとガンダムが、炎の剣を逆袈裟に振るい、その炎でモック達を切り裂いていく。


ガーベラ・テトラが援護射撃をして、ベアッガイIIIは両手からビームサーベルを展開。口を開きビーム砲も連射しつつ、その身を翻して連続回転斬り。

AI操縦のモック達は反応もそこまで高くなく、一撃で急所を潰され、宇宙を彩る爆炎に変わっていく。


『……今ッス!』

「おうよぉ!」


ならばオレも負けていられないと、エストレアの加速を乗算する形で飛び出す。


展開していたマントを更に広げ、時計回りにバレルロール……そうして翻るマントで全身を覆いながら、腹部ビーム砲を発射。

粒子のマントはビームを反射する効果があり、それは一度跳ね返るごとにマントの間で拡散。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


瞬間的に合計二十もの光条に膨れあがり、飛びかかっていたモック達を粉砕……その爆炎を突き抜け、大隊の頭上を取る。

こちらに放たれるバスターライフルやバズーカ、ビームマグナムをスラロームで回避しつつ、ガントマホークを装着したまま連射。

マシンガンが如(ごと)くまき散らされた弾丸を食らい、モック達の銃器が破裂したところで反転。


「トマホォォォォォォォォォォクゥ!」


両手でガントマホークを取り出し、バツの字に交差させながら投てき!


「ブゥゥゥゥメラァン!」


鋭く回転しながら飛び交うブーメランは、大隊の中核を切り裂き、粉砕。更に飛びかかりつつ、右腕のブランドマーカーを展開。

発生したビーム粒子の杭(くい)を回転――周囲の粒子をそれに巻き込み、巨大化させながら突撃!

更にドリルに蓄積されたエネルギーを吐きだし、螺旋(らせん)の砲撃としてぶつける!


「ドリルストォォォォォォォォォォォムゥ!」


こちらにバズーカを構え、フットミサイル共々放ってきたメガサイズザク。吐きだした螺旋(らせん)は砲弾を飲み込み、

内部で圧壊。当然メガサイズザクもそれに捕らわれ、動きが戒められたところで……その中枢をドリル本体で貫きながら交差。


メガサイズザクを、螺旋(らせん)に巻き込まれた他の機体達を爆炎に変えつつ、戻ってきたガントマホークをキャッチし、更に戦場を駆け抜ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


赤い閃光(せんこう)が縦横無尽に走る。あれはスガ・トウリ……ガンダムAGE-2エストレアの紅の彗星≪ハイマニューバ≫。

超絶機動により機体周囲の粒子が圧縮され、攻防一体のフィールドに変化する。


『行くッスよ、エストレア!』


稲妻のように走るそれは、止めようと立ちふさがるモック達を次々と貫き、爆発の帯を無数に作っていく。


「何よ何よ、更に冴(さ)えてるじゃない! ”流星の焔狼(えんろう)”!」

『その二つ名、決定ッスか!?』

「でもこっちは……」


その様子を見てわたしも高ぶる……えぇ、負けてられない。これはわたしが選んだバトルだから!


「新機体なのよ! 駆け抜けなさい、ミスサザビー!」


ミスサザビーは『HG サザビー』を高機動型として改良した機体。チナが手伝ってくれなかったら、間違いなくこの状況に間に合わなかった。

やっぱり運命ってあるのかしら……ガーベラがモックのビームを宙返りで避け、鋭く振り返りながら反撃する脇をすり抜け……右手のスイートソードで袈裟一閃。


スイートソードはビームトマホークのグリップを懐剣状に改造したもの。走る黄色い刃でモックの胴体を切り裂きながら、左にバレルロール。

次々と放たれてきたミサイルやビームをすり抜けながら、リアスカートアーマーのファンネルを展開。


「当たれぇ!」


左翼から迫るミサイルはスイートソードでの亜季点斬りで払い、前面から飛んできたファンネルミサイルをこちらのファンネルで尽く撃墜。

幾つもの爆発が大きく広がったところで、それを盾にしつつ腹部拡散メガ粒子砲を発射。

無謀に突撃してきた三機を撃ち抜きながら、左手のスイートシールド、及び脚部の発信器からビームサーベルを展開。


右回し蹴りで背後の釜持ちを両断し、更に左サマーソルトで狙撃ビームを切り裂く。

その上スナイパーへと突撃しつつ、邪魔してくる盾持ちをスイートシールドで左薙に斬りつけ粉砕。

その合間にも放ってくるビームはスラロームで回避。


「見え見えよ、アンタの粒子!」


スイートソードを右薙に震って投てき。展開した刃が回転しながらスナイパーへと突き刺さったところで、こちらも零距離到達。

スイートソードをそのボディから抜き放ちながら、宙返り……脚部のサーベルで逆風一閃をぶつけつつ、邪魔な狙撃手は粉砕する。


……すると、そこでアラーム音が響く。


背後に現れたメガサイズのガンダム……こちらの死角外からの攻撃にゾッとしていると、打ち込まれたサーベルが両断される。


『背中にも目を付けないと』


その青い機体は身体の各所に着いた刃を次々投てき。メガサイズの関節や胴体部を鋭く切り裂き、爆炎に変えてしまう。

確か、AGE-1レイザー……イビツが乗ってた機体。


『危ないよ?』

「そうね……今後の課題にしておくわ」


目がいい分、視覚に頼りすぎだって何度か言われたしなぁ。でもそれを、素直に聞けるようになったのは最近から。

少し前まではバトルなんて大嫌いだったのに。今は……えぇ、ちょっと違うわね。本当にちょっとだけ。


『アイラちゃん! イビツさん! 捕まって!』


するとそこで、エストレアが紅の彗星を解除しつつこちらに突撃。

レイザーと顔を見合わせながらもバレルロール。そのままの勢いでエストレアのボディに捕まり、加速――。

できつつあった敵の包囲網から退避し、一旦安全圏にて体勢を立て直す。


……そのとき、リインとアンズから新しいデータが回ってくる。それを見て軽く舌打ち。


「まだ出てくるっての……!?」

『さすがにさぁ……数百機のガンプラを貯蔵って、おかしくない?』

『同感ッスね』

『……今調べたけど、保管庫にあった分も持っていかれてる』


響いた声は、システム制御に回っているヤスフミだった。あ、そっか……ベースを通じて、会場の状態もチェックしてるのね。


『粒子結晶体を……マシタ会長を守るためッスか』

『それ。それとみんな、敵機体は絶対に……ベース上から出さないで』

『分かってるよ。コクピットベース付近までフィールド化しているなら……パイロットを直接狙う危険もある。だろう?』

「ちょ……!」

『それだけならまだいいよ。逃げ遅れた人に、不意打ちで斬りつけてきたら……』

「正真正銘の凶器じゃない!」


つまりコイツら、基本的には一機も打ち漏らせないわけね。それはまたキツい……だって、どんどん数を増やしてるのに。


「ならヤスフミ、その保管庫も含めて、何機くらいのガンプラがあるのよ!」

『正確な数は不明だ。アラン曰(いわ)く、大型イベントなどで使ったものも修理され、丁寧に保管していたそうなのよ』

「やっぱりもっと増えるわけね」

『それはキツいッスね。一体一体の強さはそうでもないッスけど』

『長期戦も考えないと駄目か』


そんな時間があるかどうかってのも問題だけどね。こっちにはエネルギーも、弾薬も限りがある。あんまり派手なドンパチは……。


『ダーグさん、一旦トレミーに。エネルギーがそろそろヤバいでしょ。キャロも』

『キャロラインですわ! でも……了解です』

『ち……トウリ、イビツ、前衛は任せたぞ! すぐ戻る!』

『了解! アイラちゃん、悪いんだけど』

「もちろん手伝うわよ」

『ありがと』


でもまぁ、戦艦がいるからまだ何とか? ……ならないかも……だって、これだけ暴れているのに道一つ作れそうもなくて。

いえ、折れている場合じゃない。ここで何とかしなきゃ、みんなに恩を返せない……新しいわたしにもなれないんだから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ち……! まだ数が増えるか! アリスタの力で転移してきたと考えても、さすがに怖すぎるし!

下手をすれば日本中のガンプラがここに終決しそうな勢いだった。早めに何とかしてほしいけど……焦れったい! 焦れったいー!

体力も大分回復してきた! 前に出て暴れたいけど、それでみんなの状態観測が疎かになってもアウトだし!


ここは我慢……我慢……!


「アルト」

≪今のところは問題ありません。ただ、機体の粒子反応速度や出力が、通常時のスペックを軽くオーバーしているような≫

「この飽和状態に等しい粒子濃度の影響を受けて、か」

≪場合によってはこちらから、コクピットベースの操作精度を落とした方がいいかもしれません≫

「だね」


もちろん戦闘中にそんな真似をしたらアウトだから、きちんと警告はする。だけど……ああもう、今考えても仕方ない。

既に賽は投げられた。僕達なりの括り方は決めたし、あとはそれを通せるよう、臨機応変に対処するだけ。


『――――きゃあ!』


そこで悲鳴が響く。


トレミーに戻る道中だった、キャロラインのナイトガンダムが被弾――。

背中にガンダムハンマーを吹き飛ばされた瞬間、ベース内のキャロラインが崩れ落ちた。


『キャロライン!』

『なんですの、これ……痛い……痛い……!』


見ていられるカバーに入ったニルスが、菊一文字で初代ガンダム型モックを袈裟一閃に切り捨てる。

が、その爆炎を突き抜けるようにケンプファー型が突撃……交差しつつもショットガンを撃ち込む。

その散弾を食らい、戦国アストレイの各部が破損。その途端、ベース内のニルスが激痛に表情を顰める。


『つ……!』

『ニルス!』

『なんだ、この痛みは……まさか』

「ニルス、キャロライン、一旦下がって!」


慌ててコンソールを叩き、二人のコクピットを調整――。

更に操作をこちらで強制的に乗っ取り、ナイトガンダムと戦国アストレイを安全圏まで急速離脱。

その途端に二人の表情が和らぎ、キャロラインについては戦闘中にも拘わらずポカーンとした。


追いかけてくるケンプファー型は、トレミーのGNミサイル、及び橙導師の放つ誘導弾に追い立てられ、追従していた他のモック十八体ともども爆散する。


『なんですの、今の……体に、痛みが……』

『アシムレイト……! 恭文さん!』

「異常な環境下でのバトル……それがもたらす各自の使命感と、極限まで高められた集中力。更に人の意志を伝達する粒子の効果」


いら立ちながら、つい右手で頭をかいてしまう。


「それにより、この空間でバトルするだけでプラシーボ効果が発生し、ガンプラへのダメージが肉体へ跳ね返るのか……!」


ガンプラが倒れたら、下手をすれば意識昏倒……この場から退避することも叶わなくなる。ううん、それで済めばいい。

まだ先がある……まだ、生き残れるチャンスが僅かにでもあるんだから。


もしプラシーボ効果が更に増大していったら、最悪命にも関わる……!


(Memory72へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、ついに始まった最終決戦。……なのに、僕は体力を使い果たしてエンプティ。
りんも立ち上がることすらできないため、千早達が連れて避難……結果チームとまとの半数が出撃不可。
その分他のみんなが頑張る形となりました。なおディアーチェ達は、避難誘導を必死に頑張っていた」


(『えぇい、泣くな! お前の親はすぐに見つけてやる! 安心して待て! えっと、迷子センター迷子センター……!』
『……あのサトコには感謝しないとね。避難誘導マニュアルで楽ができたというか』
『他のファイターさん達も迅速に動いてくれました。あとは……お母さん、どこですかー!』
『せめて名前を言ってから叫べぇ! えっと……なんだ、どう読むんだ。この名札は』)


恭文「それと劇中で出たブラックベルセルクは、以前頂いたアイディアが元となっております。アイディア、ありがとうございました」


(ありがとうございました)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


※ブラックベルセルク

概要
 童子ダーグが対ブルーウィザードを想定し組み上げていた黒い狂戦士。
 対ブルーウィザードと言っているが、それはレッドウォーリアを改造した点だけでありダーグ自身の獣のような粗々しい戦いを実現出来るように組み上げた。なお、童子ダーグ本人はたまに石川英郎ボイスの声が聞こえるらしい。

 正体はフルクロス装備の黒いレッドウォーリア。重武装であるが後述のマントのお陰で機動力は失われていない。全体が漆黒とダークグレー、マスク部は厚く銀色のシャッター状の物になっている。また、右目は縦に傷が付き赤く、左目は黄色地に赤点の目がある。

 武装はバックパックの二つのサブアームに懸架されたカレトヴルッフとムラマサブラスター、両足スネ外側にビームライフルとして使えるガントマホーク。ガントマホークは装着部を軸に回転させることで、足に装着したまま射撃が可能。

 右腕のブランドマーカー(ビームシールド)、ブランドマーカーは回転させドリルのように使える。左腕の実態三枚刃のアームレザー、フロントスカートのシザーアンカー。ストライクフリーダムのような腹部のビーム砲。
 他に任意でピーコックスマッシャーや、ガトリン砲を追加保持する。

 バックパックの根本からボロボロで黒色のマントを展開出来る。このマントは粒子で構成され、破損しても直ぐに回復する。マントを構成する粒子がフィールドの粒子と反応し機体重量を軽減。重武装ながらスラスターを吹かずとも高速飛行が可能となる。
 また、ビーム粒子も反射出来るので、それを応用し全身をマントで覆い腹部ビームを発射することで拡散ビームとして照射出来る。


武装
頭部バルカン砲×2
ブランドマーカー(ビームドリル、ビームシールド)×1(右腕のみ)
アームレザー×1(左腕)
シザーアンカー×2
Iフィールド発生装置×4
ガントマホーク×2
カレトヴルッフ×1
ムラマサブラスター×1
腹部ビーム砲×1 by フロストライナー


※ブラックベルセルク、モチーフは勿論ブラックゲッターです。

ブランドマーカーをドリルにしたりシザーアンカーで大雪山おろししたりでゲッター2、3要素も付けました。

なお、ユニコーンフリーデンは大改修をして『真』になります。 by フロストライナー


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文「しかしある意味オールスターズな決戦ですので、まだまだ時間がかかる……そして、卯月にとっては人生を変える大事件が」

卯月「分かりました……恭文さんが元気になるように、お呪(まじな)いを……しますね。
えっと、美波さんが貸してくれた本でありました。き、きききき……き」

恭文「はい、そこまで! 大丈夫! 僕は元気だから!」

卯月「どうしてですかー!」

恭文「あと、美波には話がある」


(『ビクリ!』)


恭文「お相手は蒼凪恭文と」

卯月「島村卯月です。……結局暴走しちゃうんですね……!」

恭文「そして新兵器の初使用はセイ達に任せるという有様」

卯月「でもよく共通規格で作れましたよね」

恭文「機体こそ違えど、追加装備関係は三ミリ軸穴一本で接続だからね。ジョイントの構造を踏まえていれば何とかなった。
特にアストレイは……こういう状況にも備えていたんだけど、そもそも自分が出撃できないってのが……!」


(後先考えず新能力とか使うものじゃあありませんでした)


恭文「体力、もっと増強しないと……」

卯月「恭文さんもまだまだ修行中なんですね。……私も負けないように頑張ります!」

ちづき「へごへご〜♪」


(卯月のぷちどるも頑張るようです)


卯月「それでですね、恭文さん……」

恭文「うん」

卯月「もうすぐバレンタイン、じゃないですか。ちょうどFGOでもイベントもやっていますし」

恭文「うん」

卯月「でも私、バレンタイン当日はニュージェネのライブがあって……だから少し速いですけど、クリスマスチョコです!」


(きらきらー)


恭文「FGOと同じ演出が入った!? えっと……トリュフチョコの詰め合わせに……この、大量の券は」


(びらー)


卯月「はい! よくパパに肩たたき券をプレゼントしていたんですけど、その応用で……というか進化させて、『何でもしてあげる券』二十枚です!」

恭文「え」

卯月「その件一枚に限り、一回だけ何でもしてあげるんです。はい……恭文さんが望むことなら、なんでも」

恭文「そっか……卯月、ありがとう。チョコともども、大事にいただくよ」

卯月「……! はい!」


(しかし、その胸中は……)


恭文(何でもしてあげる券……!? これ、無記入の小切手レベルでヤバい代物じゃ! 卯月の場合全力で守りそうだし!
いや、落ち着け……平和的なことに使えばいいんだよ。そうそう、肩たたきしてほしいなーとかでさ。
……あと、イバラギンには絶対奪われないようにしないと。お菓子をねだるとか無茶振りしそうだし)

卯月「じゃあ、早速一枚……どうですか?」

恭文「あ、そうだね。じゃあ肩たたきを」

卯月「え…………」

恭文「あの……島村さん? なぜぼう然とするのかな」

卯月「何でも、ですよ? 私、何でもするんです。も、もっとこう……凄いこと、お願いしてもいいんですよ!?」

恭文「いや、だから肩たたきは凄いでしょ。現役アイドルの肩たたきだよ? そりゃあもう」

卯月「もっと、もっと凄いことです! や、恭文さんが望むなら私……本当に、なんでもします!」

恭文(やばい! これは大変なやつだ! 相応にヘビーなのじゃないと納得してくれない!)


(結局島村さんには、今日の夕飯を作ってもらうというお願いをしたそうです。なおポークソテーです。
本日のED:鈴木みのり『FEELING AROUND』)


恭文「野武士のゲンヤの後書きでも言ったけど、ビルドダイバーズではとまと本編だと劇中劇的扱いがいいなぁ」

フェイト「まぁ、そうだよね。ビルドファイターズとは無関係の新シリーズだそうだし……ようはあれでしょ? ガンプラビルダーズと同じ扱い」

恭文「そうそう。そうするとね」

亜季「グリモアレッドベレー……心をくすぐられるであります」

莉嘉「莉嘉はオーガ刃-X! ごつくてカッコいいよねー!」

みりあ「あのねあのね、みりあはモモカプルがいいと思うの! いーっぱい作って並べたいなー!」

凛(渋谷)「ダブルオービルドダイバー……蒼……うん、いい感じだよね」

恭文「……こういう風に、興味津々な人達が自分のガンプラとして作って登場させられるから」

フェイト「な、納得したよ。というか、仮に本編でやるとしても、むしろ未来組の領域だよね。それこそ恭太郎や幸太郎達」

恭文「本編の技術関係じゃあ、そもそもあんな大規模VR世界を作れないという罠」

ひかる(…………にやぁ)

恭文「おのれ、アプリスクで研究を始めたばかりでしょうが。……でも、その分劇中劇としても夢があっていいよねー!
いつかはこんなガンプラバトルをしてみたい! いつかはこんなVR世界で冒険してみたいって、見ている人達がワクワクする番組になんだよ!」

フェイト「うん、それは楽しそう」

恭文「それもガンプラバトルが休止中に!」

フェイト「途端に拷問の色が出てきたんだけど!」

ひかる「それはともかく……劇中劇として先行して登場させることで、後々のBFT編に反映させることもできるな」

フェイト「反映?」

ひかる「あのフラッグルールなどが入るだけでも、チーム戦での描写が大きく変わりそうだ」


(おしまい)



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