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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第16話 『ピエロ』

「梨花ちゃま」

「みぃ……どうしたのですか、詩音」

「いっぺん、死んでください」

『――はぁ!?』

「と言っても、偽装ですよ? それも四十八時間だけ」


驚くみんなには、サクッと趣旨を説明する……その前に、まずは確認ですね。


「梨花ちゃま、再度確認です。梨花ちゃまが死亡後四十八時間以内に、緊急マニュアルが発動する。
それは村民二千人弱が末期症状に陥り、地獄絵図を巻き起こすため。……でも実際にどうなるかは分からない……シュレディンガーの猫状態」

「は、はい……そうなのです。でも、それでどうして」

「――――そうか! その手があった!」

≪えぇ。さすがは詩音さん……奇麗な方ですね≫

「ちょっと!?」


あ、やっちゃんも分かったんですね。さすがは私の悪友……それが嬉(うれ)しくて、ついニコニコしちゃう。


「いい、梨花ちゃん……詩音が言うように、『梨花ちゃんが死んだ』という話があっちこっちに広まるとする。
それから四十八時間経過しても、何一つ起こらなかったらどうなる? 仮にその後で死体が見つかったら……!」

「それは……」


……そこで、梨花ちゃまも流れを悟り、大きく目を開く。


「……緊急マニュアルは発動できない!?」

「そう!」

≪ここでの肝は、マニュアルが飽くまでも『予防策』という点ですね。実際に村人達が暴走するかどうかは未知数。
それゆえの”シュレディンガーの猫”ですけど、箱を開けた結果猫が生きていたのなら……わざわざ発動させる道理もない≫

「当然、鷹野さん達も大慌てで梨花ちゃんの安否を確かめようとするよね。でも、それが無理だったら……うん、これだよ詩ぃちゃん!
大慌ての過程が掴(つか)めれば、赤坂さん達の調査だって大きく進展するかも!」

「えぇ! 最高のトラップシチュエーション……なのに、詩音さんに先を越されたー! ふぇー!」

「あはは、すみませんねー。ただその、天恵があったんですよ」


悔しそうな沙都子を宥(なだ)めながら、ちょっとズルがあると苦笑してしまう。するとみんな揃(そろ)って、首を傾(かし)げるわけで。


「天恵? 何さそれ」

「ほら、お姉には話したじゃないですか。……あの、悪夢」

「……あ」

「悪夢ですの? 詩音さん、それは」

「……私が沙都子と距離を詰めようって思い出したのは、その悪夢のせいなんです。
それまでは……まぁ本人を前にしてアレですけど、むしろ嫌っていて」

「……ツンデレだったの? 詩音」


やっちゃん……! いや、分かります。確かに今の自分を鑑みると、好きの裏返しって思いたくもなるけど……それは違いますから!


「いえ、割とガチな方です。……悟史くんがいなくなったのは、沙都子がわがままで甘えていたせいだって……そう思っていて」

「……その通りですわ。にーにーの負担も考えず、支えることもしなかったから」

「でも、それを言えば私だって同じなんです。沙都子だけの責任じゃない……鬼婆(おにばば)や母さん、お姉……村の人達に何もできなかった。
そのための手段を見つけることもできず、そんな自分が情けなくて……八つ当たりして、自分の責任から逃げていたんです」

「……詩音だけじゃない。わたしだって……同じだ。悟史がそんな病気に囚(とら)われたのも」


前だったら、反感を持っていた言葉だった。でも今は違う……お姉も後悔して、苦しんでいたと理解できるから。

そのために話し合えたから。だから、ありがとうとお姉の手を握ることができた。


「そう自覚したのが、その悪夢のせいって話かな。内容は」

「……………………最悪極まりない話ですよ。私が、みんなを殺す夢です」


私は園崎に対して強い猜疑(さいぎ)心を持っていて……それをこじらせ、綿流しの番に鬼婆(おにばば)を殺した。

それから公由のおじいちゃんを。

梨花ちゃまを。

沙都子を。

お姉を――。


殺して殺して殺し尽くして、最後には頭がおかしくなって私も死んだ。

余りに怖くて、余りに悲しい夢。初めて見たとき……目覚めたら汗だくで、しばらく寝るのが怖かった。


「その夢を見てから……改めて、沙都子とちょっと話すようになって。それで感じたんです。
沙都子は自分の悪かったところも分かって、省みようとしている。それなのに……私もこのままじゃ駄目だ。
悟史くんからも沙都子のことを頼まれているんだから、頑張らなくちゃーって。それで、まずは沙都子の野菜嫌いを克服してもらおうと」

「……それは恭文さんのおかげで、極めてとんでもない形に進化しておりますけどね」

「沙都子、それについては僕も全力で話しているんだよ。バランスが大事だって……でもこのお姉さん、バーサーカーだから」

「だったらもっとお話してください! ……で、そのサイコホラーの悪夢と、今の発想がどう結びつきますの?」


沙都子はそう聞き返すものの、飽くまでも確認……流れは分かっているようだった。


「夢なので細かなところは覚えてないんです。でも……梨花ちゃまを夢の中で殺してから、私が死ぬまでに四十八時間……ようは二日以上経過しているんです。
でも、村では何事もなかった。殺したお姉に変装した上で、逮捕とかは免れましたから。えぇ、もちろんお姉のエロさも再現して」

「それについてはツッコミたいところ満載だけど……でも詩音、よくやった!
中身が分からない箱なら、こっちで開けてしまう……うん、いいじゃないのさ!」

「でしょ?」


まさか、あんなサイコホラーな私がここで役に立つなんて……何がどうなるか分かりませんねぇ。

これで私も、晴れて部活メンバー入りでしょうか。……悟史くん、待っていてくださいね……ハネムーンはもうすぐです!


「あとは大石さんの協力が必要か……」

「お前だけじゃ無理か」

「興宮(おきのみや)署、園崎組どころか『東京(とうきょう)』の目も光っているそうだしね。でもそれなら……うん、ちょうどいいかも」


するとやっちゃんは、実にいい笑顔で挙手。その上でとんでもないことを言い出した。


「僕、梨花ちゃんを殺す犯人に立候補しまーす」

「何ぃ!?」

≪あ、それはいいですね。散々足を引っ張ってくれたお礼もしたいですし≫

「楽しくなりそうだよねー。よろしく、チキンレディ」

「絶対よろしくしたくないのですよ! というか笑顔……笑顔ー!」

「恭文くん、詩ぃちゃんのことは何も言えないと思うかな……かな」


あははは! やっぱりやっちゃんはぶっ飛んでますねー! なら、このままどんどん煮詰めていきましょうか!

それで奴らに人生最大の屈辱を叩(たた)きつけてあげましょ! ただの小中学生に負けるとか……一生立ち直れませんよー!




とまとシリーズ×『ひぐらしのなく頃に』クロス小説。

とある魔導師と古き鉄の戦い〜澪尽し編〜

第16話 『ピエロ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして翌日――午前四時、奴らはやってきた。

携帯で連絡をもらい、早々に受け入れ態勢を整える。なおレナと梨花ちゃん、沙都子もついてきた。

まだ監視態勢は二十四時間でないようで、周囲に気配などはない。ただ念のため人払いの結界も展開した上で。


「みぃ……鷹山、大下、ありがとうなのです。それでごめんなさい、ボク達のために」

「別にいいさ。こういうゲームは手慣れている」

「そうそう。もうね、俺達にどーんと任せてくれればいいから」

「いえ、そういう意味だけじゃ、ないような……」


レナ、なんでこっちをちらちらと見るの? おかしくないかなー。


「……さ、こちらですわ」


梨花ちゃんと沙都子の家は、二階建てのプレハブ小屋と言えるようなもの。中も慎(つつ)ましくも整えられた感じで、二人の生活ぶりが窺(うかが)える。

そんな中にお邪魔する僕達……そして鷹山さんと大下さん。


「クーラーや水回りはお好きにお使いください。まぁおたばこなどは遠慮していただけると有り難いですけど」

「あ、それならもう禁煙しました」

「同じくです」

「でしたら完璧ですわね」


はい……二人ともヘビースモーカーだったそうだけど、五十代が迫るにつれて禁煙したそうです。僕と知り合う前だね。

やっぱり体力面での悪影響が大きいらしい。やたら真剣な様子のお辞儀で、沙都子も満足げに笑う。


とはいえ、それでも吸ったりはしないでしょ。未成年の身代わりを務めるのに……それで万が一バレたら、ねぇ。


「常備菜なども置いていますし、そちらも御自由に。……それと、ここへ来る前に、監視小屋周辺にトラップを仕掛けておきましたわ」

「トラップ?」

「人が立ち入った場合、音で知らせるようになっておりますの。そこからは行動に御注意ください」


どう注意するべきか……それをわざわざ言う必要はない。……その場合、電話も含めて二十四時間の監視態勢に入ることを意味するから。


「なら蒼凪、具体的内容は」

「日頃の生活も込みで、常時監視。更に電話も盗聴されるそうです」

「とすると、電話による在宅確認もされるな。出なかったらどうなる」

「恐らくは入江先生を使って、直接的確認がされるでしょう。その辺りはまぁ、上手(うま)く対処してください」

「俺達は”電話にも出られないほどの夏風邪”を演じればいいわけね。OK……ところでやっちゃん、一つ質問が」


すると鷹山さんも頷(うなず)き、怪訝(けげん)そうに沙都子を……それを受け入れているレナや梨花を見やる。


「……サラッと凄(すご)い技術が披露されたように思うんだけど」

「だよね? ね、あの子……小学生だよね? トラップを仕掛けたって、サラッと言う年齢だっけ?」

「沙都子のトラップ技術は僕が保証しますよ。僕も直前まで気づけないようなものばっかり仕掛けてきますから」

≪サーチで構造を読み取るのも一苦労なレベルですよね≫

「それ、一般人には対処不可能ってことだろ……」


可愛(かわい)い顔をして……と、鷹山さんが呆(あき)れ半分で首を振る。なお沙都子はとても自慢げでした。


「でもまぁ、それなら逆に納得だな。……異能力者でもないんだろ、この子達は」

「えぇ。ただ地理を知り尽くした子どもは、一兵卒に勝る行動力を持つんですよ。鷹山さんもベトナム戦争の流れは知っていますよね」

「俺達が村で好き勝手をするのなら、余計にこの子達の協力が必要と」

「というわけで、念のためこれを頭に入れておいてください」


そう言いながら二人にまず渡すのは、予備の大型タブレット。

大下さんは受け取った上で立ち上げ、入れておいたマップをチェック……そうして訝(いぶか)しげに目を細める。


≪私が沙都子さんと作った、村内のトラップマップが入っています。主だったところは裏山だけですけど≫

「……何これ。裏山全体がトラップだらけなんですけど」


大下さんは半笑いでフリックを繰り返し、ザッとトラップ内容をチェック。そうしながら沙都子を見やる。


「これ、全部沙都子ちゃんが?」

「えぇ。最初の方は魅音さんに手ほどきを受けましたけど」

「おいおい、冗談はよせよ……まさか、こんなところを闊歩(かっぽ)しながらドンパチしろってのか」

「というか、普通怒られるよね? 村の人達とか、誰も止めなかったのかなぁ」

「止めなかったんですよ。村八分で放り出してたから」

「「村社会、怖!」」


多分村社会の怖さとしては、かなり特殊なものだと思うけど……まぁいいか! 今回に限っては切り札だからね!


「あとは……これですね」


ずっと担ぎっぱなしだった大型バック二つを置いて、開封!

そうして出てくるのは、ウージーやレミントンM870も含めた様々な銃器と弾薬達!


「「おぉぉぉぉぉぉぉ!」」


鷹山さん達は目を見開きながらしゃがみ込み、銃を一つ一つ手に取って確認。まるで子どものような輝きなので、レナ達もほほ笑ましそうな顔をする。


「いいじゃないの、蒼凪課長! タカ、これなら」

「三百人だろうが三千人だろうが、問題ないぜ……ベイビー」


ライアットガンをポンプアクションさせて、鷹山さんは楽しげに笑う。その上で立ち上がり、僕と握手!


「蒼凪課長、あとは……頼むよ!? 家庭的な子! 野菜炒(いた)めの美味(おい)しい子!」

「俺はミステリアス……期待してるから! 蒼凪課長には期待してるから!
トオルの野郎なんてもう……いつまで経(た)っても間抜けな動物だしなぁ!」

「そうそう! でも、君は違うって知ってた! 分かってた! だから……ね!? 俺達、一生ついていくから!」

「え、もう紹介してるじゃないですか」

「「え?」」

「え?」


あれ、もしかして……そっかー。やっぱり勘違いしていたのかー。じゃあ改めて教えよう。


「沙都子、得意料理は?」

「……野菜炒(いた)めですわ」

「「え!?」」

「みぃ……多分そのミステリアスは、ボクのことなのですよ」

「家庭的なのも、レナ……かなぁって。あと双子は魅ぃちゃんと詩ぃちゃんです」

「「え――!?」」


ぼう然とする鷹山さん達にその通りと頷(うなず)くと……なぜだろう。


「――蒼凪、どういうことだ」


なぜか鷹山さんはレミントンM870に弾を込め始めた。


「紹介するって、言ったよね? ミステリアスと野菜炒(いた)めが得意な子を……家庭的な子も」


大下さんもバックの中から、ウージーのマガジンと弾薬を探し出し、一つ一つ丁寧に込め始めた。

そうして二人は顔を見合わせ、大笑い――そうしてピッタリ数秒後。


「歯を食いしばれ、この外道が……!」

「天誅(てんちゅう)じゃあ、こりゃあ!」


なぜか僕に銃口を向け、笑って血の涙を流し始めた。


「騙(だま)しやがったな! 弄びやがったな! 俺達の純粋な気持ちをぉ!」

「鷹山さん達にだけは言われたくありませんよ! 課長(トオル)を相手に散々同じことをやってきたくせに!」

「黙れぇ! 俺達はいいんだよ、俺達は!」

「間抜けな動物だったアイツを、課長にまで押し上げてきたんだよ!? でもやっちゃんにそこまでされた覚えはないかなぁ!」

「核爆弾を解体してあげたでしょ! というかですねぇ」

≪そのトオル課長が『やってしまえ!』ってゴーサインを出したんですけど≫

「「トオルゥゥゥゥゥゥゥゥ!」」


そうして二人はトオル課長に怒りの咆哮(ほうこう)……人払いの結界を張っていなかったら、村中に響き渡っていたことだろう。

……仕方ない。これでテンションを下げられても困るし、メインのタブレットを取り出してポチポチ。


「ね、俺……帰ってもいい? ユージは残していくから」

「タカ、何一人で逃げようとしてんだよ! 俺だって嫌だよ! あのさ、タカは残していくからこの辺で」

「残ってくれたら、もう二人紹介しますけど」

「どうせまた小中学生なんだろ!?」

「そうだそうだ! 俺達もね、馬鹿じゃないんだよ! そのやり口はお見通しなんだよ!」

「どちらも二十代後半ですけど」


その上で出した画像は二枚。一つは巴さん……もう一人は、分校の知恵留美子先生だった。

その調った容姿に揃(そろ)って目を見張り、殺気を収めてガン見する。


「こちらはここの分校で教鞭(きょうべん)を執っている女性……ただし、毎食カレーというカレージャンキー。
こちらは警察庁・広報部で働く才女……ただし、健啖(けんたん)家でやたらと食べます」

「こんなに美人で!?」

「そこさえ除けば、器量よしですばらしい人達ですよ。もちろん……本人達にも話は通しています!」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


ふふふふ……こういうこともあろうかと、二人には話を既に通しているのよ! まぁ大変だったけどね!


「では、説明も終わったのでサクッと確認しましょう」


タブレットを仕舞(しま)い、笑って右人差し指をピンと立てる!


「――紹介してほしい人は、この指とーまれ!」

「「はい!」」


当然二人とも、遠慮なく僕の指を掴(つか)んでくれた。あぁ、なんていい笑顔だろう……守りたいよ、この笑顔を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……かなり危ない状況と思ったら、何これ。


「蒼凪課長、最高です! やっぱり、一生ついて行きます! もう……いの一番で弾を込めたタカなんて放置で!」

「いやいや、あんなのポーズだって! 本気じゃないってー! ……それに比べてトオルの野郎はぁ!」

「何の躊躇(ためら)いもなく騙(だま)しにかかりやがってぇ! 蒼凪課長を見習えってんだ!」

「いや、課長(トオル)も紹介してましたよね。チューリップのような女達を……僕にまで紹介してくれたんですよ!? 断ったのに!」

≪そう考えるといい人ですよねぇ。……なのに鷹山さん、枯らしたんですよね。奇麗なチューリップとの絆(きずな)を≫

「タカ、ダンディーすぎるからなぁ。チューリップじゃなくてサボテンの方がよかったんじゃ」

「それは、言わないで?」


とてもいい笑顔で、子どもみたいに気分をころころ……そうして今は恭文の指を掴(つか)んで、離そうともしないんだけど。

これが伝説の刑事? 日本(にほん)の危機を何度も救ったヒーロー? ごめん、そうは見えない……!


「……沙都子」

「えぇ」


もし、見えるとしたら――そう。


「「一体なんなの、この馬鹿ども……!」」

「……お二人も”あぶない”人達なんだね。だね」


とんでもない大馬鹿者だった。あぁ、やっぱり今回も駄目かもしれない!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


鷹山さん達とは笑顔で別れ、人にバレないよう早々に前原家へと戻る。その上で目指すのは……園崎家。

こちらも沙都子と梨花ちゃんの存在は隠した上でだ。じゃないと偽装にならないしね。

……綿流しの祭りも近いということで、朝一番から園崎組の面々もきているらしい。実にいいタイミングだ。


萎縮する沙都子は気にせず、堂々と会議に使われている大広間へ入る。


「ちょいと失礼しますよー」


ただ……会議と言ってもいるのは三人だけで。突然乱入する僕達に、当然その方々は驚くわけで。


一人は葛西さん。

もう一人は上座に座っている、しわくちゃなおばあちゃん……あれが園崎お魎か。ただ者じゃないねぇ。

その隣には、魅音達に似た女性もいた。あっちは……園崎茜さんか。魅音達のお母さんだよ。


うり二つって聞いていたけど、本当だね。魅音達ももう二十年くらいしたら、あんな素敵なマダムになるのか。


「なんじゃあ、お前は……ん? おまぁ、北条とこの!」

「宴もたけなわではございますが、ちょーっと話があるので止まってねー」


そう言いながら第二種忍者の資格証を提示。


「――デンジャラス蒼凪」

≪どうも、私です≫

「へぇ、アンタかい。ここ最近村をうろついている小さい忍者ってのは」

「誰がミジンコだ!」

「恭文くん、そこまで言ってないから。……おば様、お邪魔します」

「やぁレナちゃん、よくきたね」


茜さんは快活な笑顔を見せる……と思いきや、少々不快感を出した上で、沙都子に視線を向けた。


「と言いたいところだけど……魅音、北条の人間まで挙げるってのはどういう了見だ」

「園崎家頭首代行としての判断です。簡潔に言います――この村に、とんでもない陰謀が進んでいました。
古手梨花さんの身柄を守り、村の危機を払うため、北条沙都子さんも園崎家で保護する必要が出ました」

「はぁ? 陰謀って、なんだいそりゃ」

「梨花さんを殺し、この村を滅ぼす陰謀……雛見沢(ひなみざわ)連続怪死事件にも絡んだ存在がいます」

「……ちょっと、いきなり物騒すぎないかい? 一体どこからそんな話が」


でも茜さんの言葉は、お魎さんが左手を挙げただけで停止する。


「魅音……なんで梨花ちゃまが殺されんといかん」

「そこからは僕が説明します。――僕がこの村に来たのは、梨花ちゃんへのお使いが目当てじゃありません。
東京(とうきょう)……政治中枢で暗躍していた政治結社が、梨花ちゃんを陰謀のために殺そうとしているからです」

「ほったら、その陰謀っちゅうんはなんや」

「結論から言います。この村には……ある特殊な寄生虫が存在しています」

「……は?」

「それは、村人全員に寄生しているものです」


僕達も正座した上で、かくかくしかじか――当然そんな話は信じられないと言わんばかりに、全員の顔が歪(ゆが)む。


「なぁ……アンタ達の創作小説について聞かせる場じゃないんだよ。ここは」

「だから証拠もたった今見せたでしょ。入江先生に無理を言って、コピーしてもらった研究資料が。……言っておきますけどこれ、氷山の一角ですからね」

「信じられるわけないだろ。寄生虫で人間がおかしくなる? そんなの」

「もう一度、実例の説明が必要ですか?」


そう言いながら資料の一部――梨花ちゃん達にも話した寄生虫絡みの画像を見せると、茜さんが実に嫌そうな顔をする。


「僕は第二種忍者として、PSA及び公安から本事件の解決を依頼されています」


まぁ公安は赤坂さんだけど、嘘ではないよねー。ここはハッタリを効かせなきゃ……!


「申し訳ありませんけど、園崎家にはその解決に協力してほしいんです」

「そりゃあ、うちの兵隊を使いたいってことかい」

「いいえ、そちらの手勢を借りるつもりはありません。もちろん園崎の権力を、本件の捜査に向けることも……遠慮してもらいたいんです」

「そりゃあまたどうしてだい。うちはこの一帯じゃあそこそこ名の売れたもんさ。表と裏を知り尽くしていると言ってもいいね」

「それを向こうも知っているからこそ、園崎には最大級の警戒をしていたんですよ。
……だからこそ、極秘裏に事件の真相を調べても”何一つ出てこなかった”」


そう……ゲームで言うなら、園崎家に対してメタが張られまくっていたも同然だ。それも昨日今日の話じゃない。

だから僕達はこう言っている。ここで下手な動きを見せれば、向こうに状況が察知され……あっという間にすり潰されると。

とはいえ沙都子を匿(かくま)える上に、多少のドンパチも許される場所は……他になかった。村外に連れ出すのも無意味だ。


沙都子がいないと、そもそも最終防衛装置≪裏山≫をフル活用することもできないから。


「更に言えば、どうも山狗の戦力にはHGS――突然性遺伝子変異による超能力者がいるそうです。
そちらは梨花ちゃんの護衛のみならず、園崎組対策も整えていたそうですから。……下手に組員を前に出せば、いたずらに犠牲者が増えます」

「……じゃあ、協力ってのは一体なんだい」

「僕達が借りたいのはこの場――園崎本家に梨花ちゃんと沙都子達を匿(かくま)い、その事実と状況を内密にすること。
言わば仮の前線基地として使いたいんです。それと非常時には、村人達の避難誘導を」

「じゃあ北条のもんを連れてきたのはどうしてだい。狙われているのは梨花ちゃんだけなんだろう」

「一つ、梨花ちゃんだけを匿(かくま)った場合、容赦なく人質として利用される」

「だが梨花ちゃんという駒さえ守れば問題ないんだろう? だったら動じる必要もないさね」


アッサリ言い切ってくれるか。だったら……。


「……本当に、そう思いますか?」


圭一達の知恵も借りて得た材料を、一つ一つ並べていくか。これもまた布石だよ。


「例えばの話です。状況的に致し方ないとはいえ、沙都子を見殺しにした……その話がネットを通して外に流れたら?」

「余所(よそ)もんがゴチャゴチャ言ったところで、私らは胸を張るだけさ。村民を守るため、正しいことをしたってね。
アンタも忍者って仕事についているのなら分かるだろう。そういう場合、より多くを守るのが正しい選択さ」

「……忍者だったら誰であろうと選びませんよ。そんなクソみたいな選択」

「何だって?」

「そちらは長くなるので、話を戻しましょう。一方的な逆ギレで家族ごと村八分にして、罪のない子どもまで仲間外れにし続けている。
その結果の見殺しだとしたら、印象は悪すぎるでしょうねぇ。……そんな村民がたむろする村に、一体誰が別荘なんて建てたくなるのか」


そう……園崎家が行っている、外への開拓だ。それへの支障も出ると示準した結果、不愉快そうに目を細める。


「そんな村に珍しいお祭りがあったとしても、一体誰が参加したいと思うのか」

「アンタ……」

「高速道路を通したところで、需要が見込めないんじゃあ誘致なんて聞く耳も持たれない」

「……魅音ー?」

「そっちは梨花ちゃんだよ。梨花ちゃんね、園崎家が無駄に疑われないため、最初のうちに話してくれてたんだよ」

「ネットを甘く見ない方がいいですよ。実際問題……最近とある市で起こった、村八分を原因とした村民への復讐(ふくしゅう)殺人。
その経過はネットを通して明らかになっていったことで、”自省すらしない”生き残りの村民達が全国的に叩(たた)かれている。
しかも雛見沢(ひなみざわ)村連続怪死事件自体も、これまたネット経由でオカルトマニア達の間で広まっています」


爆発の下地はできていると断言すると、お魎さんは葛西さんと茜さんを見やるけど……二人も初耳と言った様子で首を振った。


「分からない様子でしたら、聞いてくれると助かります。これでも僕、IT関係の研修も受けていまして。ネット絡みの犯罪は専門の一つでもあるんです」

「その観点からもアドバイスをしているってわけかい」

「だから言い切れます。……園崎家が今後を踏まえるのなら、沙都子の保護さんは……むしろ”得”だと」


そこで茜さんの目が僅かに見開く。よし、これも予想通り……だから今回は、僕が表だっているのよ。

僕は専門家だから、そういう観点からリスクとメリットを提示する。そうすれば魅音達とは違う説得力が生まれるわけだ。

まぁ何度も言われきたことだけど……雛見沢には、明確な産業が存在しないでしょ。観光地として目玉にできるようなものもない。


園崎なら相応の財力を蓄えているけど、それだけじゃあ村の行く末は守れない。だから外へ門戸を開こうとしているんだ。

そう……僕は暗に言っている。ここで沙都子を見捨てることは、結果的にその門戸を閉じるのも同じ。

園崎が村人の命のみならず、村の未来を守ろうとするなら……選ぶ選択肢は一つだけだってさ。


同時に脅してもいた。”そういう手段でのやり返し”も存在していると……それが白日の下にさらされたとき、覆しようもないのは周知の事実だ。

とはいえ、ここまでの考察はみんなの協力があればこそできたこと。更に敵≪茜さん達≫の詳細を知る魅音・詩音の力は大きかった。

決して僕一人でぶつけられた言葉じゃない。それは……その悔しさは肝に銘じつつ、更に攻撃を続ける。


「それに他のリスクだって避けられる」

「まだ何か」

「さっきも言ったでしょ。兄の北条悟史は末期症状に陥り、ここへ運び込むことすら危ぶまれる状態なんです。
当然人質として活用されかねない……その結果、悟史とも友人である梨花ちゃんが勝手な行動を起こしかねない」

「それはうちの奴らにも見張らせて押さえ込む。それなら問題ないだろ」

「さっき、言ったはずですけどねぇ。村八分の対象である北条の人間を見殺しにしたら……それを当然としたら、外の人間とその金を雛見沢に招くのは不可能だと」


それを問題ないと言ってしまうことがあり得ない。そう断言すると、茜さんが苦虫を噛みつぶしたように舌打ち。


「しかもそこで業を煮やして、村全体に何らかの攻撃を仕掛けかねません」

「……蒼凪さん、待ってください。無関係な村民を襲うと」

「僕ならそうします。何より園崎家に匿(かくま)う選択肢は、一番分かりやすいものです。囲んで棒で叩(たた)くって手もあります。
……では問題です。HGS患者もいるような集団に囲まれ、園崎家はいつまで梨花ちゃんを守っていられるでしょうか。
警告と言わんばかりに、外の村民達も一人……また一人と殺されていく状況で、梨花ちゃんはどこまで平静を保(たも)てるでしょうか」


葛西さんもその状況は想像もしたくないらしく、渋い顔で口元を撫(な)で始めた。


「それで……三つ目かな? 沙都子さんは裏山に”趣味のトラップ”を大量に仕掛けています。
それもガチな内戦地帯でもお目にかかれないような代物を。……万が一山狗部隊との闘争に発展した場合、奴らをその裏山に誘い込みます」

「だったらそれは私ら園崎がやるよ。村に面倒を持ち込んでくれた馬鹿どもがいるなら、きっちり始末を」

「茜さん、話を聞いていましたか? 言ったでしょ……超能力兵士もいると」

「聞いていたさ。だが、アンタがどうにかできる相手でもないだろう? こっちには手数ってもんがあるんだ。それさえ使えば」


とか仰るので、指先に魔力光を集め――庭先に指先サイズの弾丸として放つ。それは確かに地面を穿ち、小さな孔を開けた。

地面の土を抉り、消失させながら……二メートルほどの孔を。その様子に茜さんが目を見開き、葛西さんも半立ちになる。


「はっきり言わなきゃ分かりません? ……お前ら全員足手まといだから、ついてくるな」

「……」

「蒼凪さん、今のは」

「忍術です」

「忍術……ですか」

「えぇ、忍術です」


手数を使えば……なんてごねるのは予測していた。だから忍術ってことで押し切る覚悟は決めて……いたんだけどなぁ。

しかし、前提を説明してもこれか……! 予測通り、事件の真実を提示されて焦っているね。それで相手を甘く見てもいる。


「何より、沙都子さんの協力なしじゃあ、相手を誘い込むことすらできませんよ」

「……何だって」

「やすっちの言う通りだよ。広大な裏山に仕掛けられた、膨大なトラップ……その位置を全て把握しているのは沙都子だけだ。
幾ら母さんや葛西と言えど、あそこに踏み入れた瞬間……一分とまともに歩けるとは思わないことだね」

「そんなもんを着々と作り上げておきながら、村の誰一人なんで止めようとしなかったんだい……」

「村八分にして放置していたから……ですね」


葛西さんの率直な意見で、茜さんも頭を抱えて絶望。なお、お魎さんも顔が真っ赤だった。

まぁこちらは仕方ない。大地主として、そんなものが作られている状況は見過ごせないだろうし。


「まぁそこについては、匿(かくま)ってもらっている間に僕達が何とか纏(まと)めますので。
ただ……纏(まと)め終わったらその成果をぶんどって、自分達だけで対処とかやめた方がいいですよ?」

≪それでも複雑かつ膨大ですからね。地図なしで歩き回るとしたら、全体像を把握した人間が指揮に立つ必要があります。
かと言って、他の場所に誘い込もうとしても不利……それは今も言った通りですね?≫

「つまり、北条んとこの力を借りないと、私らはそもそも戦うことすらできないと?」

「いえいえ……選択肢はもう一つありますよ? 村の中でドンパチするんです。誰に被害が及ぶのも気にすることなく、遠慮なく……」


それなら勝ちの目もあると笑うけど、当然そんな手は取れない。村人の巻き添えだけは避けたいところだからね。

そう、ネットでの炎上危惧もここでの布石だ。実際園崎家には、そうなるだけの火種を抱えてもいる。

魅音も言っていたでしょ。祟(たた)り絡みで、園崎家が第二の北条家として叩(たた)かれかねないってさ。だからがん字がらめになってるんだろうけど。


「だったら、北条んとこのをこっちに預けてもらおうか。組の中でも頭のいい奴に協力させて、その把握ってやつもきっちり進める」

「お断りします」

「何……」

「信用できないんですよ。あなた達は」

「はっきり言ってくれるじゃないか」

「言いますよ。自分達の不手際で散々村八分にしておいて……結果的に奴らの暗躍を手伝ったのがあなた達だ。
しかもその一番の被害者となった沙都子に、この期に及んで謝りもしない?」

「恭文さん、それは……」

「関係なら大ありだよ。そんなことで連携戦ができるわけないでしょ。相手はその点もプロなんだから」


雛見沢症候群が祟(たた)りの根幹だったのは、既に説明済みだ。だからこそお魎さんも、茜さんも、僕にいら立ちをぶつけ始める。


「――馬鹿らしかぁ! そげんな妄想、誰が信じるか! 葛西、えぇからその無礼なガキどもを外へ出せ!」

「うーん、それは無理じゃないかなぁ。だって園崎家は、今から僕が占拠するし」


……すると、なぜか場の空気が凍り付いた。お魎さんは僕の言葉を理解すると、プルプルと打ち震え始めて。


「というか、PSAと公安からもOKをもらっているんですよ。そうやって駄々(だだ)をこねるなら、余計なことをしないよう鎮圧しろーって」

「なんだって……!」

「当たり前でしょ。あなた達は袋のネズミ同然……そんな連中が真相を嗅ぎつけ一斉に動き出せば、奴らに『計画がバレた』と知らしめるようなものだ。
そうなったら梨花ちゃん達を殺そうとする奴らはやり方を変えるし、鷹野達というトカゲの尻尾も切り捨てられる。元のもくあみなんですよ」

「おい待て、恭文……それは一切聞いてないんだが! どういうことだ!」

「あ、そっちはわたしが許可を出した」

「魅ぃ!?」

「やすっちも今言った通りだよ」


そう、だから魅音は”こちら側”についた。園崎家にとっても押し通すことは得がないと……皆を守るためにくら替えしたわけだ。

当然お魎さんと茜さんの視線は、裏切り者となった魅音の方に向かうわけで。


「園崎お魎、園崎茜――園崎家次期頭首として命じます。園崎組の戦力を出せとは言いません。
ですが蒼凪さんが仰(おっしゃ)るように、この場を前線基地として提供しなさい。そして各々の捜査を邪魔するような動きは慎むように」

「じゃかあしい! 今の園崎家頭首はわしじゃ! それがなんでお前に命令されんと」

「では今すぐ引退していただきましょうか。やすっち、私から依頼だ……園崎お魎を、その席からどかせ」

「魅ぃちゃん、それは」


でも、レナも察する。沙都子も、詩音も……圭一も息を飲む。

……魅音の目は本気だった。本気で今すぐ頭首を引き継ぐ覚悟だった。


「アンタ……随分な口を叩(たた)くねぇ。婆(ばあ)様の背中に隠れてばっかの、甘ったれたガキが」

「えぇ、ガキですよ。ですが敵の強大さを意地で見誤り、切り札となっている沙都子への筋をこの期に及んですっ飛ばす……あなた方の狭量さは、そのガキ以下だ」

「魅音さん、いい加減にしてください。あなたが園崎家の現状に思うところがあるのはよく分かります。だが、それ以上は自分も」

「葛西、分を弁(わきま)えろ」


その声は、とても静かだった。

でも魅音は確かに命じた。長(おさ)として……その発言は行き過ぎていると窘(たしな)めた。

十代前半の子が出しているとは思えない威圧感に、葛西さんも思わず停止してしまう。


「言ったはずですよ? 向こうは園崎(こちら)の対策を徹底的に整えていると……あなたは守るべき組員≪仲間≫達に、不要な犠牲を押しつけるつもりですか。
……明らかに死ぬと分かっている鉄火場に! 対抗する手段もなく仲間を送り出すうつもりか! お前達は!
それがお前達の覚悟だと言うのか! それが村を守る道だと言うのか! ふざけるな……そんなものはただの殺人だ! 違うか!」

「それは……」

「わたしはそれを良しとしない! ゆえにこの申し出を受けた! それが裏切り!? いいや違う、裏切り者は貴様らだ!
一時の感情と過去の遺恨に流され、自らの利得どころか矜持(きょうじ)すら守れない!
仲間への筋を通すことすらしない! そんな貴様らの狭量には反吐(へど)が出る! 恥を知れぇ! 村を裏切った愚図(ぐず)どもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


魅音の一気呵成(いっきかせい)な叫びに、葛西さんも勢いを止められた。その様子を鼻で笑いながら、魅音は急にほほ笑みだす。


「……いいではありませんか。蒼凪さん達が求めるのは、飽くまでも”村の重役として当然の仕事”だけ。
そうですね、蒼凪さん……我々は村民に危害が及ばないよう、避難誘導などに勤めればいい」

「えぇ。公由村長にもお願いしましたけど、本当に……それだけでいいんです」

「それだけで……こちらの手数を危険度の高い現場に送り出すこともなく、我々を戒めていた問題にメスを入れられるのです。
しかも我々よりもより深い事情を彼らは知り、解決を望んでいる。その邪魔をしないよう立ち回るだけで、一体何の問題が?」

「なるほどね、よく分かったよ」

「茜……」

「……本当に、魅音はいい友達を持ったよ」


茜さんは笑いながら脇へ移動し、壁に飾ってあった日本刀を取り出す。その上でさっと抜いた。


「ちょ……お母さん! なに持ち出してるんですか!」

「舐(な)めてんじゃないよ、クソガキ。ここは私らのナワバリさね。それを好き勝手していくれる奴がいるなら、始末を付けるのも私らさ。
警察も、公安も、一切の手出し無用……この場は園崎組が仕切らせてもらう」

「無理って言ったでしょ。なんでここまで負け続けた札を、まだしつこく出そうとするんですか」

「だったら見せてもらおうか。そこまで私らを見下せるほど、アンタが強いかどうか。
それでもしこの園崎茜を屈服させられるなら、喜んで協力してやろうじゃないのさ。いいよね、母さん」

「……好きにせぇ。こんクソガキも、魅音も、痛い目見んと分からんようじゃしのう」


あらら……僕は極力、平和的に説明したはずなのになぁ。仕方ないなぁとアルトと大きくため息。


「そんな取り引きはお断りじゃ……! 魅音、覚悟はできとるんじゃろうなぁ! この園崎お魎の目が黒いうちにそのような真似(まね)、させると思うたかぁ!」

「ではこの件をどう処理されるおつもりですか。何度でも言いますが、園崎だけでの対処は」

「がたがた騒ぐなぁ! 園崎の家に土足で上がり込んだ不届きもんは、北条もろとも切り捨てたれぇ!
そうすりゃあ、ワシらが役立たずなんて考えも吹き飛ぶじゃろぉ!」

「あぁ、分かってるよ。――お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! とっとときやがれぇぇぇぇぇぇぇ!」


茜さんの号令に従い、屋敷の裏手に控えていた気配が一斉に押し寄せる。

中庭に黒服の組員達が駆け込み、反対側のふすまからも第二波が登場。


あらら……ガード役にしては多いねぇ。急なお泊まりを予兆と察して、控えさせていたのか。


「どうしました、姐さん!」

「この第二種忍者様にたぶらかされて、園崎魅音が本家を乗っ取ると曰(のたま)った! 加減はいらない! 園崎組の底力を見せつけてやんな!」

「わしが許す! ボン刀でもチャカでも……なんも遠慮せんと、殺すつもりでやっちゃれ!」

『――はい!』

「ちょ! お母さん! 鬼婆(おにばば)ー!」


その様子に呆(あき)れながら、静かに立ち上がる。コイツらも馬鹿だねぇ……本当に刀や銃を取り出してるよ。


「魅音、詩音、言ったらあれだけど……おのれらのお母さんとおばあちゃん、頭がおかしいわ」

「今回については全く否定できませんね! お姉、どうするんですか!」

「え、もう言ったはずだけど? ……ここで母さん達に騒がれたら、本当に台なしだからね。外に漏れないよう鎮圧するんだよ」

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そう、だから右指を鳴らして結界展開――この場にいる人間を外界から隔離しておく。これでバレる心配もないってもんだ。


「ただしやすっち、誰も殺すな」


すると魅音は、実に面倒な命令を飛ばしてくれる。


「園崎家頭首……いいや、元祖部長としての命令だ! 活殺自在ってやつだよ!」

「仕方ないなぁ。じゃあ、サクッと潰すか」

「ほう……なら、やってみるとえぇ! 園崎相手にそないな真似(まね)が」


FN Five-seveNを取り出し……制止のため、飛び込んできた茜さんの斬撃は、あえて踏み込む。


「……!?」


その上で左スウェーによる回避。肩口が浅く切られたのを笑いながら、振り切った刃が返るより速く……その顔面に右回し蹴り。

茜さんは咄嗟(とっさ)に回避。慌てて下がったところで、こちらは一回転しながらFN Five-seveNを発砲。


それは園崎お魎の左肩を掠(かす)め、衣服を巻き込み……引きずるように小さな身体を派手に倒す。

葛西さんのカバーも間に合わず。

茜さんの再突撃も叶(かな)わず。

残りの銃数発の銃弾全てが、園崎お魎にたたき込まれていく――。


とはいえ、弾丸のほとんどは脇を掠(かす)めるだけ。

高そうな座布団や背後の屏風(びょうぶ)は穴だらけとなり、ようやく場は静かになった。


「がぁ……!」

「お魎さん!」

「スタン弾が掠(かす)めた程度で喚(わめ)くなよ。情けない」


響いた銃声……それに誰もがぼう然とする中、つい楽しくなって笑っちゃう。


「というか、園崎相手? 温(ぬる)い温(ぬる)い……僕達がこれから潰すのは、お前達以上の相手って言ったばかりでしょ」

「アンタ……今の、わざと踏み込んだね! 自分の身体を傷つけさせれば、そいつで反撃もできるから!」

「当たり前でしょ」

「正気の沙汰じゃないね……! 死ぬのが怖くなかったってのかい!」

「お前らみたいな臆病者に、僕が殺されるわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」

「……!」


そこで茜さんの顔が、怒りと恥辱に塗れて真っ赤となる。


「こら、待て! 茜さんもストップ! 恭文、お前も一旦武器を仕舞(しま)え!」

「魅音、圭一達をお願い」

「OKー!」

「無視かぁぁぁぁぁぁぁ!」

「――さぁ」


左手で手刀を切ってから、すぐにスナップ――外から吹き抜ける風に髪をなびかせながら、園崎茜達を指差し。


「お前達の罪を――数えろ」

「この……アホンダラがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 葛西!」

「……お前ら、全力でやれ……園崎組の維持を見せつけろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


FN Five-seveNのマガジンを入れ替えた上で、左手で二丁目を取り出す。その上で息吹――半身になって、囲んでくる奴らを迎え撃つ。

まずは後ろから短刀片手に飛び込んできた、組員その一の顔面に右裏拳。

グリップ底で鼻と頬骨を潰されながら、奴は吹き飛び床に転がる。それが正真正銘のスタート。


≪The song today is ”ピエロ”≫


突如鳴り響く音楽――あ、これは上木彩矢さんのピエロだねー。B'zさんのカバーだけど、これも楽しいのよ。


「な、なんだ……この音楽は! どこだ! どこから流れてる!」

「止まるな! 攻撃しろ! 徹底的にやれぇ!」


――他の奴らも一斉に銃を取り出し警戒……が、そんなのは無意味だ。

膨大な戦闘データに基づき、弾丸の機動を解析……敵対者が幾何学的な配置ならば、その動きは統計から予見できる。

ゆえに身を翻しながら二時・七時方向に射撃。続けて振り返って四時・八時方向、二時・十時方向に弾丸をばら撒く。


更に九時・六時方向から飛び込んできた馬鹿四人に対し、二時方向へ回転しながら飛びのきつつ射撃。

スタン弾によって四人がバタバタと倒れた中、左右から飛び出す短刀……FN Five-seveNを手元で一回転させ、銃身を柄のように握り締める。


その瞬間、グリップ底から飛び出すのは小型のピック。


「……恭文ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 待て待て待て待て! お前らも待てぇ! なんだ! この音楽は……また忍術かぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


左ピックで右側から襲う敵対者の顔面を引っかき。

右ピックを振り下ろし、左側からの刃……その手元を貫き、手の皮を引き裂く。

更に額を叩(たた)き伏せながら倒した上で、左へと側転――庭へと飛び出しながら、茜さんの刺突を容易(たやす)く回避。


着地してからすぐに一時・十一時方向の敵を二人撃ち抜き、三時・九時、五時・十時、二時・八時、一時・七時方向に連続射撃。

身を翻しながら、茜さんの追撃をかわした上で左ハイキック。向き直って刃を引いている間に、その股間部を強打。


「……!?」


FN Five-seveNを回転させながら再度持ち替え、ピックをうなじ付近に突き立て、肉と皮を和服ごと遠慮なく引き裂く。

鮮血が小さく走る中、その胸元目がけて蹴り。近くの灯籠にぶつけて、もろとも転がしておく。


「茜さん! おい……やめろ! これ以上は冗談じゃ」


とか言うのでFN Five-seveNを持ち替え、左の銃口を葛西さんに向けて三発射撃。

葛西さんは左へ避けるものの、銃弾は見当外れの方に飛ぶ。そう、ふすまの枠やらその足下、天井などに当たり、跳弾。

数度跳ね返った弾丸は、その全てが園崎お魎へと向かっていた。長刀(なぎなた)を持ちだしていたいたクソババアは、右手と腰骨、左スネに弾丸が掠(かす)め。


「あぎゃああああああ!」


潰れたカエルみたいな悲鳴を上げながら、長刀(なぎなた)を落としてギッタンバッタン。

その様子が余りに醜いので、転送魔法で長刀(なぎなた)を引き寄せ――。


「……!?」

「五月蠅いよ」


虚空に落ちていく長刀(なぎなた)の相対位置を固定。その上で電撃を走らせ、超電磁レール展開――瞬間射出。

それは葛西さんの脇を突き抜け、奇麗な畳みを一直線に引き裂きながら大広間のふすまに衝突。

その衝撃≪ソニックブーム≫からお魎さんは大きく吹き飛び、近くの柱に背中から叩きつけられる。


「母さん!」

「お魎さん!」


更に術式発動――足下に火花を走らせ、三本の黒いツタを浮き上がらせる。そう……土中の砂鉄を電撃により反応させ、集束させた”超振動ブレード”を。

それらが僕の足下を視点に螺旋を描くと、放たれた銃弾が次々と削り潰され、火花のみを残して消えていく。


「な、なんだこりゃ……」

「ちぃ……!」


茜さんが背後から突撃し、右薙一閃……しかし振るわれた刃はツタの一本に触れた途端、弾丸達と同じように刀身の中程を削られ、真っ二つとなる。


「……!?」

「下手に触れない方がいいよ? チェーンソーと同じ原理だから」


そうしてツタが揺らめき、瞬間的に葛西さんへ、茜さんへと伸びていく。茜さんが左に回避すると、地面が……進行方向上の大岩や塀ごと一刀両断される。

更に葛西さんの両脇を突き抜けた二本のツタは一気に二百メートルも展開しながら逆風一閃――園崎家そのものを無残に引き裂く。

もちろん倒れたままのお魎さんには当てないよう……他の人間にも誰一人当てないよう、配慮した上での一撃だ。


「ちょ、家がー! やすっちー!」

「大丈夫、僕の家じゃない」

「それもどうなの!?」

「ただまぁ、これもつまらないよねぇ」


展開したツタを引き戻りながら、術式解除――砂鉄は法則の戒めから解放され、サラサラと地面に下りていく。

FN Five-seveNを仕舞(しま)った上で、アルトをセットアップ。ただし、今回は逆刃刀状態とした上で、左腰に添える。


≪どうも、私です≫

「……お前らぁ! ビビってんじゃないよ! 潰せ……極道を舐めたツケ、払わせてやりなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


それを腰に携えた上で疾駆――横から放たれた銃弾を、灯籠を蹴り飛ばしながら、踏み込んできた茜さんを置き去りに、葛西さんへと踏み込む。

ようやく……数年のときをかけて、身体に染み込んできた歩法。園崎お魎を叩(たた)いたことで、生まれた隙(すき)を塗っての疾駆。


「……!」


葛西さんは反射的にベレッタを抜き出し、こちらに発砲……実弾なのはもう今更だし何も言わない。

その予兆を見て取った瞬間、左に大きく跳んで回避。その銃口がこちらに向き、二発目の弾丸が放たれようとしたところで……反時計回りに身を翻す。


「飛天御剣流」


葛西さんの追撃をすれすれでかわしながら、七時方向――追ってきた茜さんや、その脇を固める奴ら目がけて逆風一閃!


「土龍閃もどき!」


地面の土を切り裂くと、衝撃から土が爆発――その礫(つぶて)と爆風を食らい、茜さん達は数十メートル先の壁へと叩(たた)きつけられた。


それからすぐに振り返って刃を返し、右薙・袈裟・逆袈裟・左薙・右薙・刺突――。

葛西さんと脇についた組員達の弾丸銃数発を全て切り払った上で、刃を逆袈裟に振るう。


「そうそう、それでいいのよ」


ようやく楽しくなってきたので、アルトを背負ってにこりと笑う。


「がたがた抜かす前に攻めてこい――時間の無駄だ」

「てめぇ……いい加減にしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


葛西さんが銃を構え直し、茜さんがどこからともなく代わりの刀を持ちだしてきた瞬間、刃を右切上に振るう。

アルトの刀身に纏(まと)われた空気の断層がそのまま射出され、軒下を奇麗さっぱり両断。

砕けた柱や瓦が次々と落ちてきて、葛西さん達はそれを回避……そこで素早く左に走り、銃を構えていた一団に突撃。


八十メートルほどの距離を一気に縮めて、袈裟・右薙・袈裟・逆袈裟・刺突――。

急所を外した上で得物ごと身体を切り裂き、一気に十人ほど倒してしまう。

なお刺突については柄尻で打ち込む。必殺にも程があるからね。……これでいいんだよね、魅音。


この状況で園崎組とやり合うのは、仮想『東京』or鷹野&山狗一派も同じだ。

その上で梨花ちゃんがどう思うか……時間がないなりに引き出せるといいんだけど。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


やすっち、ガン=カタとはまた渋い……その経験値もあってか、組員達の弾丸は一切当たらない。

やすっちの速度が更に上がったことで、狙いを定めることすらできなくなった。

その間に刃が閃(ひらめ)き……一つ閃光(せんこう)が走ることで、三人が血を吐き出しながら倒れる。まるで手品みたいな動きと剣閃だよ。


殺すなとは言ってあるし、まぁ大丈夫でしょ。あとは……家が壊れないことを祈るばかりだった。


「……魅ぃちゃん、これは……アリ?」

「言葉を尽くした上で槍を持ちだされたんだ。正当防衛だよ」

「せめてレナ達には話を通してほしかったかなぁ……!」


組員の一人が腹を貫かれる。だが急所を外し、刃も捻(ひね)らない。

ソイツは勇敢にもやすっちを拘束しようとするものの、刃はすぐに抜き出され、震えた腕は虚空を貫くだけ。

やすっちは時計回りに身を翻しながら、左回し蹴り……そいつを蹴り飛ばし、追撃してきた母さんにぶつける。


母さんがのしかかってくるソイツを払っている間に、やすっちは宙返り――背後から銃を構えた奴に対してオーバーヘッドキック。

頭頂部を蹴り飛ばし、着地してから更に身を翻しながらの連続回転蹴り。一気に三人も潰した上で着地し、振り返って右薙一閃。

短刀を持って飛び込んだ奴の両太ももを浅く切り裂き、痛みで停止させてから胸元へ柄尻での刺突。


いわゆるハートブレイクショットを打ち込み停止させた上で、首根っこを掴(つか)んで一回転……十時方向にかざす。

そう、ショットガンをどこからか持ってきてもらい、構えた葛西の方に――葛西は当然停止する。

でもそれはほんの一瞬。動きを止めたのであれば、一発ぶっ放すのが常だろう。組員に当てないよう、警告の意味も込めて。


だからやすっちはソイツを葛西の方へと蹴り飛ばす。小さな体からは想像もできない脚力により、百八十近い巨体は砲弾の如(ごと)く射出。

一方向をそれで塞いだ上で、左右からの襲撃に対し唐竹(からたけ)・逆袈裟の連撃で対処。


葛西が砲弾となった組員を避け、銃を構え直したところで、やすっちの姿は消えていた。

母さんへと突撃……母さんも刃を左に引いて刺突を放つも、そこで地面が破裂する。

やすっちは母さんの後ろへと回り込んでいた。すぐさま刃が返って追撃するも。


「邪魔すんなっての」


同田貫の分厚い刃によって防がれ、容易(たやす)く弾(はじ)かれた上で……やすっちは前転。母さんに向かってかかと落としを放つ。

母さんは咄嗟(とっさ)に下がって回避……いや、その必要はなかった。蹴りはとても小回りで、素早く母さんの眼前をただ通り過ぎるだけ。

一種の猫騙(だま)しで母さんが止まったところで、着地したやすっちが右ハイキック。母さんの股間をつま先で再び強打した上で、至近距離から刺突――。


母さんの左胸を貫き、衝撃が弾(はじ)ける。こちらも柄尻での刺突……命を奪うようなものではなかった。

普通の刺突であれば、母さんも対応できただろう。どうしても振りかぶりが大きくなるしね。

小回りが利いた分、威力も小さくなるはずのそれは、やすっちより……わたし達より一回り大きい母さんを、容赦なく停止させる。


「……!」


更に両太ももに連撃が加えられ、唐竹一閃。母さんの左肩が撃ち抜かれ、更に左薙の斬撃で頬を殴り飛ばされる。

母さんがそのまま地面をコロコロと転がっている間に、母さんの脇にいた護衛二人が返り討ちに遭う。

一人は二時方向から銃を構えるも、袈裟の斬撃で銃を粉砕され、右薙の切り抜けで弾(はじ)けるように倒れた。


もう一人は何とか発砲するも、またも地面が破裂……やすっちと交差したと思った瞬間、口から血を流して倒れ込んだ。

更にやすっちは、そんな男を蹴り飛ばしてまたまた母さんにぶつける。そう……片腕を潰されてもなお、復帰した母さんに。

母さんはまた振り払おうとするも、足に力を入れた際、耐えかねるようにプルプルと震え出す。もちろん傷つけられた肩も同じく。


「ッ……!」


結果耐えきれずにもろ共転げ落ち……葛西はショットガンを構え直し、怒号をまき散らしながら連射。

でも放たれた散弾は、やすっちを捉えることができない。散弾は虚空を貫き、地面を爆(は)ぜるだけ。

ジグザグ移動で接近するやすっちに対し、いら立ちがらも踏み込む葛西。葛西は地面に降り立ち、待ち構えることにした。


やすっちが刃を振るい、自分に斬りつけるその瞬間を狙う。皮と肉は切り裂かれるかもしれないけど、骨が断たれなければ問題はない。

自分はそうして幾度も視線をくぐり抜けてきた。だから葛西は一秒後――踏み込むやすっちの額に、絶妙なタイミングで銃口を突きつける。


でもその瞬間、やすっちの姿がかき消えた。


横に回られたわけでもない。

上に飛ばれたわけでもない……そのとき、一陣の風が葛西の股下を走り抜ける。

やすっちは笑いながら散弾の脇をすり抜け、スライディング。


小柄な体型を生かした上で、最短距離で葛西の背後を取った。


「葛西、後ろだ!」

「……!」


葛西が振り返ろうとするより早く、その両腕が逆風・唐竹(からたけ)の連撃で切り裂かれる。

その上で心臓狙いの刺突(柄尻)。肉を抉(えぐ)り、肋(あばら)をへし折る一撃は、その衝撃のみで葛西の身体をドンと震わせ。


「……!」


盛大に血を吐き出させる。葛西は衝撃に震えながら、力なくショットガンを落とした。

その指は何とか耐えようとした。その腕は、戦う意志をつなぎ止めようとした。でも無理だった……だからこそ、心臓を潰しにきていた。



「……てめ、ぇ……その力、一体……どこ、で……」

「決まってるじゃない」


やすっちは身を翻し、葛西に右後ろ回し蹴り。その背を折らんばかりにたたき潰し、母さんの方へと吹き飛ばす。

母さんは慌てて左に回避……葛西はそのまま数十メートル跳び、うちを囲む塀に衝突。

古くなっていた塀を崩しながら、葛西はもつれ込むように外へと倒れていった。


やすっちはそれに構わず、背後へと刃を向ける。

自分に忍び寄り、新しい刀を持ちだしていた……婆っちゃに。

婆っちゃの首筋に切っ先が突きつけられ、その動きを完全に止めていた。


「お前達より強い相手とやり合いながら……だよ」

「こんクソガキがぁ! 殺るならとっとと殺れぇ!」

「殺るわけないじゃん」


婆っちゃが怒りの形相を浮かべた瞬間、刃が翻る――その頭頂部に唐竹一閃。

それもかなり軽めな、げんこつに近いものだった。逆刃刀なのも幸いしている。


「がぁ!」

「母さん!」


その四肢から力を奪った上で脇に寄って、もがく婆っちゃの背中を踏みつける。


「はいはい、全員動くなー。魅音からは殺すなと言われているけど、何せ高齢のおばあちゃんだからねぇ。
これ以上痛めつけたら……事故ってのもあり得るよ?」


しかも平然と人質に取ってきたよ! 一旦納刀した上で、素早く婆っちゃの両手足をワイヤーで拘束。

まるで手荷物のように左手に持ち、残りの組員や母さん達に近づいていく。


……でもここまで、圧倒的か。母さん達の腕前だって相当だってのに。

ここにいる組員は全て脱落。全員が痛みに呻(うめ)き、やすっちの強さに恐怖し、後ずさっている。

組の重役で、切っての武闘派でもある葛西がああも簡単に倒されて……理解したんだよ。本当に格上だってさ


それでやすっちの戦い方もかなり上手(うま)い。


強キャラである母さん達をうまく捌(さば)き、じわじわとダメージを入れつつ、不特定要素になりやすいモブ組員達を蹴散らすんだから。

もちろん異能力をちょいちょい見せつつ、プレッシャーをかけた結果でもある。

それを躊躇いなく実行するから、余計に恐怖するんだよ。戦闘力だけの話じゃない。やすっち達は宣言した通り、殺すことには何の迷いもない。


降りかかる火の粉は払う。意地や矜持などもなく、ただすり潰す。そりゃあゾッとするだろうよ。

まさかあんな体格で……あの年で、そこまでの覚悟を持って戦えるなんてさ。

確かにこれは、起爆剤だね。扱い方を間違えれば、わたし達も破滅しかねないほどの……!


でもそれは、きちんとした信頼関係によってクリアできる問題だ。現にやすっちは、わたしとの約束をきちんと守ってくれた。

全員入院案件だけど、婆っちゃについても軽傷の類い。弾丸は一発も直撃していなかった。

その覚悟は覚悟として、それだけで突き進むわけじゃあない。それが分かっただけでも十分さ。


同時に……この技量であれば、特殊部隊相手でも引けは取らない。母さん達も分かったはずだ。

やすっちなら本気で……たった一人で、暴力だけで園崎を叩(たた)きつぶせると。

しかもその≪武器≫は、園崎が得意とすることの一つだった。それでなお制圧し切れないんだ。


そうだ、この事実を刻み込むことが重要だった。これで……母さん達の判断が愚かだと証明できる。

同時に梨花ちゃんへのプレッシャーもかけられるはずだ。やすっち、悪いけどそのまま突っ走る感じで!


……梨花ちゃんには改めて、問いただしたいことがあるからね。


(第17話へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、今回のサブタイはピエロ……村の支配者でありながら踊らされ続けてきた園崎家」

あむ「……鷹山さん達は?」

恭文「きちんと巴さん達を紹介したでしょ」

あむ「してないじゃん! まだ会わせてないじゃん! というか、それ以前の問題ー!」


(というわけで、後書きです)


恭文「はい、お相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。……いよいよ出たね。圭一さん達の反撃……通称四十八時間作戦」

恭文「最後は人質に取られた梨花ちゃんごと、赤坂さんが鷹野を撃ち抜いてENDだね。もちろん梨花ちゃんが死なない形で」

あむ「撃つなぁ!」

恭文「おのれも知らないの!? 映画『48時間PERT2/帰って来たふたり』――ニック・ノルディとエディ・マーフィ!」

あむ「知ってるよ! それであったんでしょ!? そういうシーン! でもリアルにやろうとするなぁ! というかアンタが撃たれる方に回れぇ!」

恭文「だからやったよ! 空間接続で弾丸をすり抜けさせて――でも危ないんだよ、フェイト! 僕の心臓ど真ん中の位置にぶち込んできて!」

フェイト「なんでもうやってるの!?」


(『あの、ヤスフミが魔導師になってそんなに経(た)ってない頃に……でも、心臓って普通右じゃないの!? ふぇー!』)


恭文「というわけで、フェイトのドジっ子は凶器……蒼凪恭文と」

あむ「あ、それは否定できない。日奈森あむです」


(『どうしてー!?』)


恭文「さて、昨日(11/09)はほしな歌唄の誕生日!
その前は僕とフェイトの(同人版ではフィアッセさんも加えて)結婚記念日ということで、まだまだパーティーは続いています!」

歌唄「えぇ、そうよ。今日も一杯……責め立てていくから」

あむ「何するつもり!?」

イル「そこツッコむって、すげぇなぁ」

エル「ですです。それはもう……っきゃー! あぎゃー! うひゃー! ……って感じなのは明白なのです」


(そのため蒼い古き鉄、若干疲れ気味です)


恭文「ま、まぁそれはさて置き……十一月九日は、一気にいろんなガンプラが出荷される日」

あむ「……ほんと、一気にだったよねぇ。MGのジムスナイパー・カスタムとか、武者頑駄無真悪参とか。
あとは先週公開されたバトローグで出た、ケルディムガンダムサーガか」

恭文「制作者などの裏事情はネタバレにもなるので控えるとして、キット自体の出来(でき)も良好な模様。というか、そのままケルディムガンダム(無印)も組めるとか」

あむ「そうなの!?」

恭文「シールドビットとか、その台座やフォロスクリーンもそのまま付いているそうなのよ。
もちろん色は違うけど、デフォルトパーツやGNHW/R(別売り)を組み合わせてのオリジナル仕様も作れるね」

あむ「あぁ、最終決戦仕様があったっけ。ワンセコンド・トランザム」

恭文「そうそう」

あむ「あのシーン、凄(すご)かったよね……! あたしもやられるーって思ってたのに、大逆転でビックリした!」

恭文「僕もだよ!」


(あの最終決戦はギミックたくさんで楽しかった)


あむ「でもケルディムかぁ。ダブルオー後半の機体だし、やっぱ出来(でき)はいいんだよね」

恭文「そりゃあもう。可動範囲も含めて、今見ても見劣りしないよ? もう九年前のプラモだけどさ。
……そう、九年前……あむ、信じられる? 00が十周年だって」

あむ「またその話!? 今年に入ってから何度もしてるじゃん! それでしょ!? 映像が奇麗だから信じられないんでしょ!?」

恭文「デジタルって、色あせないんだね……!」


(蒼い古き鉄、まだ時間経過を受け入れられないようです。
本日のED:上木彩矢『ピエロ』)


杏奈「……フェイトさんと……歌唄、さん。本当に……そっくり……」

フェイト「なんだよねぇ。よく言われるんだけど声もそっくりだし、髪色も同じだから、髪型を似せたら」

歌唄「私がたまたま髪を下ろしているとき、姉妹に間違われたこともあるわよね」

杏奈「…………………………お兄ちゃん……」(ぴと)

恭文「え、あの……それは、どういう意図が? 間違われたいってこと? 兄妹に間違われたいってこと?」

歌唄「……さすがに無理があると思うわよ?」

フェイト「せめて髪色とかが似てたら……うん」

ディード「なら、私が……」

ベルちゃん「うんうん! ディードちゃん、攻め攻めだー!」

歌唄「……髪色などはともかく、今度は体型が問題ね」

フェイト「ヤスフミの方が小さいから、兄妹というよりは姉弟……」

恭文「やかましいわ!」


(おしまい)






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