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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory70 『ダークマター』


準決勝前日――。


「――ついに完成したな」

「あぁ。各部の徹底改装に、≪トランザムブースター≫を搭載――これが、アメイジングエクシアだ」


ソレスタルビーイングのマーキングにも似た、特殊ブースターを背負ったエクシア。各部は鋭角化し、ブルーの装甲は眩(まばゆ)く輝く。

更に近接戦闘特化のエクシアに倣い、多数の剣を装備している。


これがPPSE社で開発中だったA5……その真の姿だ。素体をあそこまで煮詰めてくれた開発部には、感謝してもしきれない。


「だが、この後はない……正真正銘、この機体はボク達にとって最後の切り札だ」

「分かっている。……私はこのガンプラに、そしてアラン、君に誓う」


皆の希望を、皆の努力を預かる責務……それをグッと飲み込み、新しき愛機にほほ笑みかける。

「明日からの戦い……世界中のガンプラファンに熱狂してもらえるような戦いにしてみせる」

「あぁ」

「――それでは足りないな!」

「「ん?」」


そこでラボに入ってきたのは、マシタ会長と……SPの黒服達だった。


「マシタ会長」

「メイジン、君には優勝してほしいんだ。そうでないと、わたしがワークスチームを作った意味がない」

「もちろんです。しかしそれ以上に、新しき目標としての姿を世界に」

「君の青臭い考えはいらない! 勝つんだよ! 勝てば名誉! 栄光! 賞賛! その全てが手に入る!
そのためには――相手の弱点を突き、命乞いを無視し、動かなくなるまで破壊する必要がある」

「……二代目メイジンのように、ですか」

「そう!」

「そうしてあなたは、その考えを二代目に押しつけ、あれほどの修羅に仕立て上げた……!」

「いけないかな?」

「えぇ、いけません」


すると、アランが熱くなりつつあった私を制し、ニヤニヤするマシタ会長にほほ笑みかける。


「メイジン、こんな話を知っていますか。――とある天ぷら屋が代替わりした際、後継者は”先代に劣る”とこき下ろされた。
実際の腕前は、先代と並ぶというのに。なぜだと思いますか」

「……はい?」

「それは、”先代と同じレベル”であることが原因です。先代が偉大であったが故に、後継者の能力を過小評価してしまう。
ボク達が一回戦で当たったレナート兄弟などが、その一例と言えるでしょう。……ボクは常々思っていました。
タツヤが三代目を名乗るのであれば、先代とは違うものを目指す必要がある。怠れば”偶像”の劣化を世界中に知らしめます。
――果たしてPPSE社にとって、それは栄光をもたらす選択でしょうか」

「……私のやり方じゃ、むしろファンが減るって言いたいのかな」

「その辺りについても、今後議論を重ねていきたいと思っています。タツヤ、君も同じ気持ちだろう?」

「あぁ……いえ、アラン主任の言う通りです。メイジンという称号は、私だけのものではない」


……そうだな。基本的なことを忘れてはいけない。

メイジンはPPSE社が打ち立てた偶像であり、皆の努力を、期待を背負うものだ。

企業の一スタッフとして、通すべき筋は通す。その姿勢を崩してはいけない。


ただ、彼については……それでも大人の対応をするというのは、なかなか難しいものだ。

恭文さん達の邪魔をするわけにもいかないからな。さて、どう出る……!


「そっかそっか……なら、私の答えは決まっている」


マシタ会長はいやらしく笑い、右指を鳴らす。すると背後に控えていた黒服の二人が右手をかざし――。


「「……!?」」


その途端、とんでもない重力が全身にのしかかり、私とアランは地べたに這(は)いつくばるしかなかった。


「何、を……!」

「アラン……いや、会長!」

「いやー、弟からの借り物はすばらしいねぇ。これなら蒼い幽霊にもお仕置きできちゃうかな?」

「弟、だと……!」

「そう。あ、でも君達にはこう言えば分かりやすいかな? ――ガンプラマフィア」


……まさか……この男は創始者でありながら、ガンプラマフィアと通じていたのか!

その目的は!? いや、分かる……表と裏からガンプラバトルというコンテンツを牛耳り、ばく大な富を得るためだ!


「ベイカーちゃんにも内緒にしていたことなんだよ。まぁ……Cって末端が好き勝手してくれたときには、さすがにビビったけどねー」

「きさ……まぁ!」


怒りのままに飛び出そうとすると、重圧は更に加速……それに足を取られ、結局再び倒れ込むしかなかった。


「じゃあ、ボクの命令に従わない君達には、ちょっとしたプレゼントだ」


そうしてマシタ会長が取り出してきたのは、黒いサングラス……。


「改良型エンボディ。これを装着した瞬間、きみは生まれ変わる」

「な……あ……!」

「ただ勝つことだけを目指す修羅に――二代目と同じ、ボクのお人形にね! まぁ安心してよ!
その弱っちそうなガンプラも、弟主導ですっごく強く改造するからさー! はははははは……あーははははははははははは!」


僕は……僕達は、どうやら仕えるべき主を間違えたらしい。

だが、策はある。

まだ、戦略はある。と言っても、おんぶに抱っこ状態だが。


恭文さん……鷹山刑事、大下刑事……あとは。


お任せ……しま、す……。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory70 『ダークマター』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


前回のあらすじ――何とか、本当になんとか……粒子結晶体を確保した。

そちらは暴走の危険性を考慮し、飛燕と自動人形達によって運搬。

ターミナル内はさすがにヤバいが、時の砂漠でも比較的安全なところに待機させることに。


『――ダーグ様、飛燕です。御指示通り、安全区域に結晶体を運搬完了。今のところは小康状態を保っています』

「おう」

『それで、尋問の方は』

「……そっちもそっちでアレだが、もっとマズいことになってる」


それで俺達は、ベイカー秘書の尋問を行っていたところ、だったんだが……。


『ただ今より、ガンプラバトル選手権世界大会……準決勝・第一試合を行います』


携帯で配信をチェックしたところ、会場内が実に……張り詰めた空気に満ちていた。

血のように赤い改造エクシアを携えたタツヤは、サングラスとマフラーという二代目スタイル。

まるで別人のような覇気を放ち、その違和感に万単位の観客が戸惑い続けていた。


『これは……』


飛燕も試合の様子を確認したところ、不愉快そうにまゆを顰(ひそ)めた。


「やられたな」

『そのようですね。……恭文様達には、こちらから連絡します』

「それと自動人形を何人か、マシタ会長のところに送ってくれ。向こうにはHGS患者もついてる」

『Jud.』


そこで通信は終了――まぁ噂(うわさ)のあぶない刑事も動きそうだが、さすがに分が悪いだろ。餅は餅屋、異能力者は異能力者ってわけだ。

……だが、一体どこからあんな能力者を確保してきたんだ? ベイカー秘書の尋問が思ったより進まないせいで、そこもさっぱりなんだが。


そう、進まない……進まないというか、終わらないというか……!


自然と背を向けていた、あの異様な光景に目を向ける。


「――乗るんです、急ぐのよ。ほら、クェス。あ……あなた、噛(か)みました! クェスが噛(か)んだんです!
本当か、クェス。
見てくださいよ!
お前も乗って。
でも……。
さぁさぁ。
御苦労様であります、アデナウアーさん。
……なんです、ありゃ。
地球連邦政府高官御一家ってやつだ。宇宙につれていけば不良が治るってんだろ。
あれ、奥さんじゃないんでしょ?」


――ベイカー秘書は縛られた状態で、まだ……一人芝居を続けている。もう数時間というレベルなのに。

それにはキャロちゃんも、ブレイヴタウラスも、糸の付いた五円玉を持ったニルスも、どん引きだった。

ニルスについては仕掛けた張本人なのに、そんなものをすっ飛ばす勢いで。


「アムロ大尉! フィフスが地球に向けて加速しました!
フィフス、進入角度良好……速度良好。
シャア大佐はモビルスーツデッキだな。
は! サザビーです」

……なので近づきながら、状態を聞いてみる。


「……大尉、ギュネイ・ガスの空域が膠着(こうちゃく)状態です。援護の必要を認めますが。
フィフス・ルナの投入は終わったのだ。総員引き上げサインを出せ」

「――ニルス。今……どの辺りだ」

「……逆襲のシャアに入ったようです」

「出しましたがモビルスーツ後退のために、ミノフスキー粒子を散布して電波かく乱をすることができません。
その分ギュネイが危険か……よし。ギュネイのヤクト・ドーガを援護、回収する。
サザビーでます! ……サザビー発進!」

「どうなってますの、この方!」

「というか、セイ君と全く同じって」

『怖ぇよ……怖ぇよ、ガノタ……』


ニルスは敗北をかみ締めながら、苦悶(くもん)の表情でうな垂れる。

そう……簡単に口を割らないので、催眠療法で聞き出すことにした。そうしたら……この有様だよ!

いきなりガンダム第一話の台詞(せりふ)から始まり、全キャストを一人で再現してさ! さすがにビビったし!


しかも、セイのときとは違うことがあった……。

セイのときはファースト全話で留(とど)まったそうだが……この女、Zガンダムに続きやがったんだよ!

それでZZときて、今は逆シャアだってさ! どうなってんの!?


「で、やっぱり目が覚めないと」

「それも同じです」

「このフィフスを、地球に落ちるのを阻止できなかったとは……ちぃ! ……!? シャアか!」


シャアか……じゃねぇよ、馬鹿! やべぇよやべぇよ、さすがに怖ぇよ! ブレイヴタウラスの言う通りだよ!

ガチなガノタ、マジで怖ぇよ! ここまで拘(こだわ)るものなの!?


「この静岡(しずおか)には、ガンプラ馬鹿しかいないのですか……!」

「俺にも突き刺さるからやめてくれ。というかニルス……もう、催眠療法≪それ≫は禁止」

「はい――!」

「何でこんなものを地球に落とす! これでは地球が寒くなって、人が住めなくなる! 格の冬がくるぞ!
地球に住む者は、自分達のことしか考えていない。だから抹殺すると宣言した」


いや、むしろ……俺達の間で、言い様のない冬が来ているんですが。

とりあえず電撃なり飛ばして、ちょっと目を覚ましてもらおう。もう手段は選べない……俺達の精神が持たない!


この時間までずーっと! 余すところなく一人芝居の観客だったんだぞ!? むしろよく耐えていたと思うわ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会場中が、その様子に静まりかえっていた。だって、ユウキ先輩……本当に、別人みたいで。


「あれは、一体……」

「準決勝だからとカッコつけたわけでは、なさそうですわね」


――すると、ユウキ先輩が会場を一瞥(いちべつ)。

それだけでとても……息が詰まる思いに苛(さいな)まれ、瞳に涙が浮かんでくる。


何、何なの……今の、プレッシャー。ううん、感じたことはある……旅館で、恭文さんがあの人達に飛ばしていたのと、同じ……!


「……いよいよ分からなくなってきましたわね」

「セシリアさん、会長は……どうして」

「二代目のまね事なんて、らしくありませんわよ」

「え……!?」


二代目……あのおじさんの真似(まね)!? そうだ、あれはどちらかというと、あの人の雰囲気に近い。

でも会長は……そうだ、自分のガンプラ道を進むって! その二代目とも約束したのに! なら、一体どうして!?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


我々古参のファンからすれば、あの雰囲気には戸惑いを隠せなかった。

余り詳しくないリン子さんも、小首を傾(かし)げるばかりで……それほどに違うのだよ。今の彼は、ふだんと。


「……メイジンから放たれている、あのプレッシャーは」

「ランバ、この殺気に見覚えはないか?」


タケシ君には、あると頷(うなず)くしかない。それに同意するのは、ちょうど後ろに座っていた珍庵。


「ありゃ、二代目やな。二代目メイジンの殺気とそっくりや」

「……どういうことだ」

「あぁ。彼はあんな殺気を出さない……というより、そもそも持てる人間ではない」

「恭文みたいに、化けもんが棲(す)んどるわけでもない。そやからこその強さもあったっちゅうに……それを、なんで自ら捨てたんや」


そうだ、それが疑問だ。しかも二代目とのバトルも無事に乗り越えた後だ。あんな真似(まね)をする理由がない。

……となると、何かあったのだな。PPSE社の陰謀……ヤスフミ君、りん君、どう戦う。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「恭文……!」

「そう怯(おび)えなくてもいいよ、りん」

「……あぁ、そうだね」


さすがに驚いていたりんも、腹を決めて……怒りの形相で拳を鳴らす。


「でもいいの?」

≪それなら問題ありませんよ。……粒子結晶体は既に確保・移送済み。奴らの悪行は証明されました≫

「ここで全部バラしても、暴走の危険はない……!」

「一応はね。アルト」

≪鷹山さん達にも連絡はしています。まぁあの二人なら何とかするでしょ≫

「だね」


非異能力者って点で甘く見がちだけど、あの二人の戦闘経験は僕やヒロさん達以上……どちらかと言えばシルビィやランディさん寄りなんだ。

大抵の相手は何とかなるでしょ。それにダーグも手を回してくれているようだし……だから、僕達はここだ。

ここでタツヤとのバトルを上手(うま)く捌(さば)き、マシタ会長が引きつけられている間にチェックメイトへ追い込む。


「何をゴチャゴチャと話している。私は」

「お前に命令する権利はないよ」

「――!?」


僕も……さすがにこういう形の手出しは予想外で、つい笑っていた。笑ってしまった……笑いながら、本気の殺気を放出する。

……でも、それはすぐに納める。修羅モードも……胸の内に潜む獣も、今回はお休み。

だってそれじゃあ、負けるのは僕だもの。まさか、こうして逆の立場に追い込まれるとはねー。


「でもさ、二代目の真似(まね)じゃあ僕には勝てないよ?」


会場全体が張り詰めるのは気にせず、右手でフェイタリーを取り出し笑う。


「だって僕は……三代目≪ユウキ・タツヤ≫をリスペクトして戦うからね」

「何……」

「こいよ、模造品。格の違いを見せつけてやる」

「笑止――!」

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Space≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。今回は月面近くのフィールド……真っ向勝負には、ならなそうだね。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「朝比奈りん!」

「ガンダムレオパルド・フェイタリー、目標を駆逐する!」


アームレイカーを押し込み、フィールドへと突撃――すると、真上から殺気。

すぐさまに身を翻して回避行動……いや、間に合わない! 仕方なく左腕で左跳び蹴りをガードした上で、身を翻しながら月面に着地。

地面を蹴り飛ばしながら下がり、大地を切り裂く巨大な斬撃波は回避する。その剣閃が爆発の帯を呼び起こす中、奴の機体を見上げた。


『その程度か……それでは、この≪ダークマター≫の敵ではない』

「ちょ、今の何!」

「あぁ、そういうのアリなんだ」


笑って後退・スラローム。GNソードのビームガン……いや、剣部分はないな。

腰の二刀、その一振りに換装されている? とにかくビームガンからの連射を避けながら、まずは機体観察。

りんも素早くコンソールを叩(たた)き、サーチを走らせていた。でも、結果は相当にぶっ飛んでいるらしい。


僕達の脇すれすれが撃ち抜かれ、ビームガンとは思えないほどの爆発が巻き起こる中、冷や汗が出まくりだもの。


「何これ……! 性能じゃあ完全に上を行かれてる! カテドラルレベル!?」

「性能お化けはスタビルだけにしてほしかったんだけどなぁ」

「だがよ、今の……さすがにおかしくねぇか!? トランザムでもしたのかよ!」

「いや、多分出撃位置が調整されてる。不意を取れるようにね」

「ッ……!」

「そこまで、しますか……」


シオンは怒りの形相で髪をかき上げ、天上人の如(ごと)きダークマターを見上げる。

でも、むしろ僕は安心しているよ。だって……わざわざ”僕の領域”まで飛び込んでくれたんだからさぁ。

だからもう、胸の中でざわついている”獣”を押さえるのが大変。でも違う……それじゃあ、ないんだよね。


今勝つために必要なのは、獣じゃない。それも僕だけど、もっと違うキャラだっている。

それはショウタロスが、シオンが、ヒカリが……これまで出会ったみんなが教えてくれたものだ。


今ならできるかもしれない。


タツヤと二代目のバトルを見て、ワクワクした気持ち……今タツヤに伝えたい気持ちを全開にすれば、もしかしたら――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


準決勝……因縁の二人が戦うのでわくわくしていたら、まぁまぁふざけたことになっていて。

脇に座るセフィも、不快感丸出しで試合を見ていた。今の、恭文君は気づいたッスよね。


自分らはこう、脇から見ていたのでバッチリッスよ。


「……トウリさん」

「今の、出撃位置が明らかにおかしかったッスね」

「フェアじゃないの……レギュレーション違反、なの」

「ルールを決める奴が強いってことッスか。気に食わないッスね」


ただ気になるのは……恭文君の様子。修羅モードで圧倒することもできるのに、あえてそうしていない。それが気になるのか、イビツさんも呻(うな)り出した。


「じゃあ恭文くんがあの調子なのは」

「本人が言った通り、三代目のリスペクト――楽しいガンプラで勝つってことッスか」

「ふだんとは逆?」

「逆ッス」


恭文君という化物(けもの)に対し、ガンプラを楽しむ心で立ち向かう――それは正しい方法だと思う。

実際自分達がいろいろと見逃した『二代目対三代目』のバトルでも、その力が決め手となったわけで。

そう、その図式は二代目へのアンサーにも繋(つな)がる。今のタツヤ君が二代目の模造品とするなら……これがあるから、あの子は面白い。


自らの獣性を受け入れながらも、その先を模索し続けていたッスね。なら、ここで見られるかもしれない。


――修羅モードの更なる上を……とか言って、フラグを立ててみたりー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


右手のライフルを構え、エネルギーチャージ。砲口にエネルギーが収束している間も射撃は続くけど、違和感が出まくり。


「じゃあ」


やっぱりタツヤのバトルじゃない。そもそも攻撃がワンパターンすぎる。

頭の中で幾つかの予測と対応を打ち立てながら、チャージ完了したライフルをダークマターに向けて。


「これならどうする? ――ストライク」


笑いながら、バスターライフル発射――集束したイオンエネルギーが、半径一五〇メートルほどの砲撃として解放される。

更に逃げ道を塞ぐように、左肩・両足のミサイルと、右肩のビームキャノンも一斉発射。


「スターズ!」


特大の砲撃と、それを確実に当てるための誘導弾による牽制(けんせい)――なのはもやっていたコンビネーションだ。

さぁ、その超性能で避けるか。それとも運営的超ルールで防ぐか……!


――するとダークマターは、回避行動も取らずに右手の装備からビームサーベルを展開。

そのままピンク色の光条を唐竹(からたけ)に打ち込み、イオンビームの奔流を真っ向から切り裂いた。


「砲撃斬り……いや、違うな」

「粒子変容……ニルスがやったのと同じ!」


ニルスは実体剣を軸にしていたけど、ビームでもああいうことを可能にするとは。

切り裂かれた砲撃の余波で、こちらの牽制(けんせい)弾幕は全て撃墜。そのまま……真正面から、ダークマターは光の翼を翻しながら突撃する。

バックパックから古鉄弐式を取り出し、刀と鞘(さや)に変換した上で、左逆手持ちで抜刀。


逆袈裟に打ち込まれた刃を受け止めつばぜり合いに興じていると、零距離からの刺突が飛ぶ。

顔を背けてすれすれで回避するも、刃の切っ先が右目を掠(かす)める。


「メインカメラが!」


刃ごと奴が身を翻して右切上・唐竹(からたけ)・逆風の連続斬撃。

それによりビーム砲やミサイルポッド、ライフルが切り裂かれるも、りんが咄嗟(とっさ)にパージ。

爆発するそれらから退避すると、その爆炎を突っ切る光条……ビームガンを基部ごと投げてきたか!


展開したサーベルを左スウェーで避けると、奴が光速で跳び蹴り。それは予測していたので、身を翻しながら左回し蹴り――!

足底からビームスパイクを展開するも、ダークマターも足底に粒子エネルギーを変容。

構築されたフィールドとスパイクが正面衝突し、数瞬せめぎ合い……爆発を起こす。


その衝撃に逆らわずに、身を翻しながら着地。その途端に滑るような軌道で、サイド奴が迫る。

古鉄弐式をかざして右回し蹴りを防御するものの、衝撃を殺せず吹き飛ばされる。

赤黒い彗星(すいせい)は音超え寸前な速度で突き進み、まずはフェイント。


背後に回り込みながら蹴り……咄嗟(とっさ)に左肩をスパイクアーマーの如(ごと)く突き出し、受け止める。

しかし衝撃からそのまま吹き飛ばされる中、ヘッドバルカンを連射。まぁ当然のように、スラロームしながら避けてくれるんだけど。

仕方ないので古鉄弐式を抜刀。反転しながら刺突を避け、振り返りながらの右薙一閃に対処。こちらもなぎ払い、切り結びながらも加速――。

にらみ合いながら横へとスライド移動しつつ、幾度も交差し、月面を舞台にドッグファイトを演じる。


でも押されまくってる。あっちこっちに剣閃が刻まれ、ダメージ表示が忙(せわ)しなく展開。

ほんと、スペックが馬鹿高いのなんのって……胸の中でざわつく獣には、もうちょっと落ち着いてと宥(なだ)めておく。

大丈夫……”お前”がいらなくなったわけじゃない。全部引きずるって決めてるしね。


だから、もうちょっとだけ……お前も満足してくれる、楽しい戦いができるから。

いいや、無理矢理(やり)にでも構築する。今……この場でそれができるのは、僕しかいないんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ベイカー秘書に電撃は有効でした。それで何とか目を覚ましてもらって……というところで。


『ダーグ様、大変です』


飛燕からまたまた通信が届いた。


「どうした」

『粒子結晶体に異様な反応が……何かと共鳴しているようなのですが』

「共鳴だとぉ!?」


おいおいおいおい……ほぼ別空間である、時の砂漠でも駄目ってことか!? しかし共鳴って、このタイミングで……あ。


「おい」


こみ上げる怒りはグッと……グッと飲み込み……! 俺、一応大人だし!?

とにかくグッと飲み込み、ベイカー秘書の首根っこを掴(つか)んでがしがしと揺らす。


「何をやった」

「ふ、ふふふ……知れたこと。メイジンには、真なる最強の修羅に……なってもらった、だけよ」


というわけで、軽めに顔面にワンパン! ベイカー秘書は鼻血を吐き出しながら、その瞳に恐怖を宿す。


「もっと詳しく……今度は立てなくなるだけじゃ済まないぞ」

「エンボディシステムの応用で……あの結晶体と、アリスタを連結させたのよ! アリスタには、人間の意識に干渉する効果があるわ!」

「それは……!」


ニルスが言葉を失いかけるほど、余りに愚かな認識だった。違う……それは違う。

アリスタは人間の意識に干渉するのではなく、その意識を糧とする結晶体だ。

それだけで奴らの認識が、尽くズレていたのは分かる。ズレていたからこそ、愚かな道を突き進んでいることも。


「だから、今のメイジンは会長が望むままに、勝利をもたらし続ける! そう……例え相手がゴーストボーイと言えどね!
さぁ、分かったら離しなさい! 会長はこの世界を変革した神よ! 神に逆らうなど、何人たりとも」


がたがた五月蠅(うるさ)いので、適当な壁に投げつけ黙らせておく。なんか『ぐふぇ!?』とか言ってたけど気にしない。


「悪いな。俺、別宗教を信じてるんだよ。……飛燕、自動人形共々その場から退避しろ。観測はシステムに任せて」

『……分かりました。ですが、それならバトルの方は』

「マシタ会長を上手(うま)く押さえるしかないな。……ニルス、地上に戻るぞ」

「えぇ。キャロライン、いけますか」

「もちろんですわ! ……っと、この方達は」

『そっちも姐さんの自動人形に任せろ! ほら、急ぐぞ!』


一応ベイカー秘書だけは俺が米俵みたいに担いで……すたこらさっさと撤退!

くそ、どうにも嫌な予感がする……! 仮に粒子暴走が起こったとしても、時の砂漠なら大丈夫だ。

あそこ、物質世界じゃないしな。もちろん膨大なエネルギーによる、時間への影響も考慮して処置している。


その辺りについても無害となるはずだ。とりあえず現状で、打てるだけの手は打った……なのに、なんだ。


この、沸き上がり続ける妙な悪寒は、一体なんだ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日は恭文さんとユウキ会長の試合……だと思っていたら! いたらー!


「何、あれ……!」

「今までのタツヤさんと全然違うにゃ!」

「怖い……わたし、怖いです……」


美波さんも動揺し、アーニャちゃんやみりあちゃん達に至っては恐怖する。

それほどにあの戦い方は、ふだんのタツヤさん達と違い過ぎていて。


「というか、恭文くんもよく対応できているよ。性能では明らかに上なのに」

「まぁカウンターはアイツの得意技だしな。しかしありゃ、人格そのものが切り替わったも同然だぞ」

「だよね! だって、全然違うもん! しまむー」

「会長、何があったんですか……」


そう言って左隣のトオルさんを見やる。トオルさんはとても険しい顔で、二人の戦いを見つめていて。

……すっごく楽しみにしていたのに。恭文さん達が約束通りにバトルするって……なのに、こんな!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……スラスターじゃあ追いつかないね。大地に足を着け、地面を踏み砕きながら縮地発動。

背後への斬撃を避けると、ダークマターはもう一つの大剣も抜刀。

袈裟・逆袈裟と続く斬撃をスウェーで回避しながらも、胴体部に右ミドルキック。


奴は咄嗟(とっさ)に左の刃で防御……すると、展開していたビームスパイクが凍結し始めた。


「恭文!」


本体へ侵食する前に発振をカット。左膝狙いの斬撃を跳躍で避けると、右刃が逆袈裟一閃――炎の斬撃波を放つ。

それを伏せて回避し、二刀での袈裟の斬撃を古鉄弐式で防御。軽く触れた刃によって、ボディの装甲が焼かれ、そして凍り始める。


「凍結・炎熱属性の粒子変換……!」


SDガンダムではよくある、魔法や忍術などの特殊能力か。

仕方ないので強引に押し込み、刃を払いながら退避。


「しかも関節狙いの攻撃ばっか!」

「二代目リスペクトだからねぇ。仕方ないね」

「どうする!? 限界突破は」

「いや、まだだ。僕の勘だと……そろそろ来ると思うんだよねぇ」

「そろそろ?」

≪――Field Change≫


そう……運営からの妨害工作です! ホビースポーツ作品の基本だよね! というか、エレオノーラもしていたし!

あのエキシビションマッチの経験も生きているなぁと笑っている間に、月面はどこかの基地内部に早変わり。

それも一直線の……モビルスーツサイズの通路だった。


「ホントいい読みしてるよ……!」

「エレオノーラが教えてくれたのよ」


しかも曲がり角を見つけて入り込むと……見事に行き止まり! あははは、やってくれるねー!


「でもアンタ、今日はのんきすぎない!?」

「そう見える?」

「……!?」

「でも楽しいでしょ、この冒険」

「はい!?」


右刃での回転斬り――そこからまき散らされるのは、閉所空間を生かした炎の斬撃波。

それを唐竹(からたけ)に切り払い、左刃での刺突を逆手に持った鞘(さや)で捌(さば)く。

その途端ダークマターはこちらに膝蹴り。その上で二刀での回転斬りを放つ。


鞘(さや)と古鉄弐式で防御するものの、思いっきり吹き飛ばされ……衝撃に震えながらも、何とか床を踏み締め停止する。


「タツヤも助けて、マシタ会長達をぶっ飛ばす。試合を見てくれているみんなに、楽しいガンプラバトルを伝える。
こんなに面白い冒険はないよ。……蒼太さんだって言ってたよ。自分だけのスリルやドキドキなんて、本当は何の価値もないってさ」

「ここでボウケンジャーですか……!」

「それだけじゃないよ。先生やショウタロス達、あむ達……いろんな人達から教えてもらった」



別に、獣である自分を否定するつもりはない。さっきも言った通りね。

だけどそれだけもつまらない……それ以外にも楽しいことは、ワクワクすることはたくさんある。


「もちろんりんからも」

「恭文……?」

「何にもなかった僕の手には今、たくさんの声と力が詰まってる」


もうたくさんすぎて、持ちきれないって思うくらい。特にハーレムとか……ハーレムとか……!


「だから、できるよね」


そうだ、この戦いは……ようやく叶(かな)えられたバトルだ。

夕日の中、タツヤとトオル、僕の三人で交わした約束。ヤナさんとアルトが見届け人だ。

………………………………それを台なしにされかけて、怒りがこみ上げないはずがないでしょ。


マシタ会長も、ベイカー秘書も……こんな真似(まね)を当然にした奴ら全員、八つ裂きにしてやりたいくらい……腸が煮えくり返ってるよ。

でも、それは駄目だ。

その怒りに飲まれたら、本当に台なしだ。それは敗北なんだよ。


「限界を超えるくらいはさ――!」


奴らの思わくを一番の形で台なしにするなら、方法は一つだけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今日も今日とて、試合観戦……ヤスフミとタツヤ君のバトルだし期待していたら、もういろんな意味で大混乱!

アイリ達も、様子を見に来てくれたシャマルさんや奏子さん、エリオ達も目をパチクリさせる状況だった。


だけどそんな中、ヤスフミは確かに力を蓄えていて……。


「……ヤスフミ、ついに使うんだね」

「フェイトさん?」

「ヤスフミね、修羅モードの発動自体が……本当に少なくなっていたの」


修羅モードは自己催眠による潜在能力解放……同時に、ヤスフミの中にいる人ならざる獣を呼び覚ます。

鎖をかみ砕いた獣がどんな力を発揮するかは、トウリさんとの試合だけでもよく分かると思う。

だけどヤスフミはその力を、段々と使わなくなっていった。特にあむ達と知り合ってからは顕著。


「別に、バトルマニアなところが抜けたわけでもない。最初は強くなったせいとも思った……でも、ちょっと違うって気づいたんだ」

「それって……」

「あむ達のおかげかな。みんなと仲間になって、自分の夢を再認識して……それで気づいた。自分にはもっと別の強さも備わっているんだって」

「それが、この状況と何か関係が」

「タツヤ君が自分を見失っているなら、それを取り戻したいなら……まずヤスフミが、その強さを発揮しなきゃいけない」


私には何がどうなっているかも分からない。でもヤスフミは、ただ勝つだけじゃ足りないって感じた。

それじゃあ駄目だと……それじゃあ、タツヤ君をおかしくした相手と、何も違わないと定めた。


だから、ここで示す。


「ああー!」

「あうー!」

「ん、きっと大丈夫だよ」


教えてくれたよね。エクストリーム化して、そこからガンプラ塾バトルトーナメントで負けて……見えた答え。

今まで掴(つか)んできたものが示した力を、最大限に活用する方法。大丈夫、今ならできるよ。


だってヤスフミは……古き鉄は! 誰かを”助けたい”って思って暴れているときが、一番強いんだから!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


だから、修羅では駄目だ。ただコイツを倒すだけじゃあ駄目だ。

それを成すための道筋……前だったら分からなかった可能性。


それが今、爆発する――。


ここまで練り上げてきたものが……ぼんやりとだけど見えていた形が、瞬間的に一つの意志を持って、僕の身体に満たされていく。

それはあのとき……巨大×キャラと戦ったとき、みんなからもらった力を受け止めて、ようやく気づいたもの。


獣とは違う何かが。

今まで目覚めのときを持っていた何かが。

大きく羽を広げながら、目覚めていくのが分かる。


「ヤスフミ、これは……!」

「……ついにきたか」

「えぇ!」


その衝動に従いアームレイカーを動かす。今までよりも静かに……しかし激しく。

続く刺突を伏せて避け、返す刃は至近距離で身を翻して回避。


「え……」

『……!?』


脇で打ち下ろされる斬撃に構わず――。


「飛天御剣流」


――壱(唐竹)・弐(袈裟)・参(左薙)・四(左切上)・伍(逆風)・陸(右切上)・漆(右薙)・捌(逆袈裟)・玖(刺突)!


「九頭龍閃もどき!」


確かにこんな閉所では、縮地の機動性は生かせない。でもそれはダークマターだって同じだ。

零距離の踏み込みなら、斬り合いであるならば……僕には一日の長(おさ)がある。

そして縮地の利点は機動性だけじゃない。その踏み込みによる突進力もまた魅力。


……だから、奴は同時九連撃を全て受け、頭部や肩アーマー、左太ももに傷を刻み込みながらも吹き飛んだ。


「……咄嗟(とっさ)に防御するのはさすがだわ」


氷の刃で防御したから、全弾直撃ってわけにはいかない。でも……確かに、その墜(お)ちた巨星に傷を与えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おぉ……いいぞいいぞ! そこだ! メイジンやれー!」


今度こそ、あの忌ま忌ましいガキどももおしまいだ! 蒼い幽霊でさえ防戦一方……今のメイジンは! 私は無敵!

だから拳を振り上げ、メイジンの勝利を喜んでいた。


――なのに、突然メイジンのガンプラが吹き飛んだ。


「あれ!?」


一体何が……と思ったら、メイジンは踏み込んで右足でハイキック。

それがスッと避けられたかと思うと、続けてかかと落とし……から、両刃(りょうば)で胸元に突き!

これで決まったーって思ったら、刃の切っ先があの刀で受け止められた。


でも通用しない。そこから炎と氷が混ざり合いながら、ゴーストボーイのガンプラに打ち出される!

それでおしまい……今度こそおしまい! 逃げ場なんてないしね! そう思ってガッツポーズを取った瞬間。


ゴーストボーイのガンプラはすっと下がって、刀で唐竹一閃――打ち出された衝撃波を、零距離で両断した。


「え……」


メイジンは動揺することもなく――。

凍り付く左側の壁を、燃えさかる右側の壁を気にすることもなく、右刃を返して打ち下ろし。

でもそれは腕の部分を鞘(さや)で防がれ、機体は腹を蹴り飛ばされる。それも何の予備動作もなく、とてもスムーズに……!


吹き飛んだメイジンはすぐさま着地して飛びかかり、両手で乱撃……でも、当たらない。

一発も、当たらないんだよ。炎や氷の剣が、掠(かす)りもしない! 衝撃波をまき散らしても、ダメージを受けない距離に退避されちゃう!


「な、何あれ! どういうこと!」


今のメイジンは二代目と同レベルなんだろう!? だったら、蒼い幽霊で対処できるはずが!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゴーストボーイから預かったものに迷いながらも、本日も試合観戦。そうしたらまぁ……!

でも、三代目以上におかしかったのは、ゴーストボーイだった。しかも三代目リスペクトとか言って、どうしたのかと思ったら。


「……あの反応は」

「……気が変わった」


メイジンは車いすに座りながらも、冷静に……対峙(たいじ)する二人に注目する。


「奴の気が、とても穏やかなものに変質している」

「それは、私にも分かる。今までの恭文さんとは違う……あの”修羅”を燃えたぎる紅蓮(ぐれん)とするなら、あれは空。
――とても穏やかで、全てを包み込む青空。でも、一体何が」

「単純な話だ。奴はあの修羅を持ちながら、昨年……ユウキ・タツヤに負けている」


……そうか。失念していた……ユウキ・タツヤは既に、二代目やゴーストボーイに対する矛を持っていた。

なら、あの性悪が対抗策を用意しないわけがない。修羅としての自らを突き詰めていくのがメイジンなら。


「奴が”楽しいガンプラ”で修羅を制するのであれば、その修羅もまた進化を迫られていた」

「これが、その答えだと――!」


三代目に傾倒……いえ、違う。これはそんな、半端なくら替えじゃない。

全てを受け止めるような、とても深い何かを感じる。今のゴーストボーイは、どこまでも自然体だったから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダークマターは……変質したタツヤ会長は、烈火の如(ごと)く叫びながら、左右交互に袈裟から続く八連撃。

こちらは古鉄弐式を鞘(さや)を納め、その手首目がけて掌打をたたき込み、全てキャンセル。


剣が大ぶりな分、予測しやすいからね。しかも狭い通路内となれば、有効な振り方は限られる。


『……!』


瞬間的に振るわれる右刃……それが発生刺せる爆炎をすり抜け、懐へ入って零距離の掌打。

さすがにニルスのあれみたいには無理だけど、衝撃から腕を跳ね上げる。

左刃での刺突も反転しながら飛び越え、胴体部にドロップキック。


エクシアは曲がり角付近まで吹き飛び、混乱しながらも刃を構え直した。その間にこちらは着地……うん、いい感じだ。

去年のリベンジも込みで培ってきたものが、ちゃんと花開いているのが分かる。

人を超え、修羅を超え――その先にある地平。僕なりの、みんなとの繋(つな)がり方。


同じ化物で殴り合うのも悪くないけど、これも面白い。


「恭文、今の反応……」

「一緒にいくよ、りん」

「……!」


りんは驚きながらも、すぐに呆(あき)れてお手上げポーズ。


「ほんと強引なんだから……でも、了解!」

『……何がおかしい』


するとメイジンから通信が届く。いら立ち、恐怖……でも分かるよ。それはお前の感情じゃない。

お前を戒める”奏者”のものだ。だったら、その枷(かせ)はすぐに振り払う。


大丈夫。”これ”は。


『なぜ笑う……笑っていられる……!』

≪そんなの、決まってるでしょ≫

「――ショータイムだ」

≪The song today is ”Mirrors”≫


そのための力だ――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今の恭文は、ふだんとも……もちろん修羅モード発動状態とも違う。でも分かるよ……コッソリ秘密兵器を用意してたってのは!

まぁトウリさんとのあれは、本当にイレギュラーみたいなものだしね! 察するに対タツヤ用の切り札……だったら、ついていくしかない!

そう、ついて行く……あたしは化物なんて棲(す)まわせていないから、リインみたいについて行くつもりだった。


限界まで、全力で……そう思っていたのに、なんか違う。ついて行くってのと違う。

恭文は楽しんでいた。どこまでもとことん楽しんで、笑って……でも、あたしへの気づかいも忘れてない。

力を押さえているというよりは、分かり合っていく感じ。一挙手一投足で会話をしているようなレベル。


再び肉薄しながらも、ぶつかり合う剣閃……その衝撃が交差している間も、その感覚は変わらない。


……そっか。

これは、アンタが一人で突っ走る力じゃないんだね。

三代目は言っていた。楽しいガンプラを……まず自分が全力で楽しみ、みんなに伝えられる道を進みたい。

そんな相手に打ち勝つなら、アンタ自身もそれ以上に楽しみ、みんなを巻き込む力がなくちゃいけない。


だったら、あたしも嫁として……パートナーとして予定変更! ついて行くのはなし!

アンタが言うように、全力で楽しんでやろうじゃないのさ! この冒険を!


みんなに繋(つな)げていく道を――全力で!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンダムエクシアダークマター……確かに性能は格別だ。ぶっちゃけフェイタリーは負けている。

でも閉所空間では意味がない。しかも使っている武装は、取り回しもよくない大剣二振り。

それが関節部狙いで襲いかかってくるなら、回避自体はかなり楽だ。


右刃での袈裟一閃を回避し、右ミドルキック。続く乱撃をキャンセルした上で、踏み込み両拳での乱打……というか。


「火中天津――」


粒子エネルギーを放出し、拳に纏(まと)わせる。そのまま瞬間的に百発以上の拳をたたき込む!


「甘栗拳もどき!」


咄嗟(とっさ)にかざされた左刃。凍結粒子を放出するも、それは何の意味もなさない。

火中で焼ける甘栗(あまぐり)を掴(つか)み、回収する……炎の熱さも感じないほどに鋭く、速く。

そうして鍛えられた拳は、その速度は、粒子による凍結前に離脱し、また次の一撃をたたき込む。


結果拳は刀身を幾百も叩(たた)き、ついに中程からへし折ってしまう。


『……!』


すぐさま右の刃が腹目がけて突き出されるけど。


「無駄だ!」


それも同じくだ。右フックで刃の軌道を七時方向へと逸(そ)らす。炎に包まれた刀身からダメージを受ける前に、拳はすぐさま引かれる。

隙(すき)をさらけ出したところで、左ハイキック。右手目がけて打ち込まれたそれで、刃とは強引にお別れ。

更に踏み込み、浮遊する柄を掴(つか)んで……右薙一閃!


ダークマターは咄嗟(とっさ)に下がるものの、生まれた爆炎に吹き飛ばされ、突き当たりの壁に叩(たた)きつけられる。

そこを狙い、左手で地面を叩(たた)き……粒子変換。通路を埋め尽くす巨大な拳として射出する。

それはダークマターに着弾。再度壁際に押し込みながらも爆発……爆発? 僕、そんな性質は付けてないけど。


あぁ、そういう……ダークマターは傷だらけになりながら、爆炎から飛び出す。その両手首からはビームサーベル。あれで強引に切り払ったらしい。

そのサーベルを一旦収め、バックパックのスタビライザーをパージ。甲剣として両手に装備した上で、左右交互に突きだしてくる。

それをスウェーで回避しながら右刺突で顔面を叩(たた)き、動きを止めたところで左ボディブロー。


左の甲剣が爪の如(ごと)くなぎ払われるのを伏せて避け、一旦剣を手放して右掌底。

右甲剣での刺突を脇に逸(そ)らし、懐へ入り込んだ上で古鉄弐式を抜刀。

そのままバツの字に胴体部を切り裂くと、エクシアは急速後退で回避。しかもこの状況でトランザムを使う。


速度・威力ともに三倍増しで、甲剣二振りを打ち込んでくるので。


「ヤスフミ……落ち着けよ!? 水の心だぞ! 明鏡止水だぞー!」

「冷静にやらないと、すぐ解除……というか、ショウタロス先輩が失神するからなぁ」

「えぇ。面白い顔で失神しますね」

「するかぁ!」


古鉄弐式を鞘(さや)に収めて、粒子制御――研ぎ澄まし、異能の刃を打ち上げる。


「鉄輝」


その速いだけの攻撃をくぐり抜け、逆風一閃!


「一閃!」


甲剣を中程から断ち切り、衝撃に打ち震える奴へ袈裟・右薙・唐竹(からたけ)・刺突・刺突・刺突・バツの字斬りと乱撃。

ダークマターは両手首脇から粒子を吐き出し、ビームサーベルを再度発振。こちらの斬撃を捌(さば)きながらも、右ミドルキックを放つ。

それに合わせて右膝蹴り。蹴りを弾(はじ)き、衝撃でよろめいたところで、左掌打で胴体部を叩(たた)く。


≪――Field Change≫


……しかしそこでフィールド再変換。瞬間的に通路が霧散し、元の宇宙空間へと戻る。

奴は右に大きく退避。その上で両腕の方向から、GNビームバルカンを連射。

反転しつつそれを回避し、奴をきっちり引きつける。


「りん」

「七時方向、距離八百……問題ないよ!」


展開していたファンネルも一度回収して、りんの指示通りに飛行。的確であるが故に回避しやすい攻撃は、もはや気にするまでもなかった。


「でも凄(すご)い……これ、凄(すご)いよ! 修羅モードならあたしは付いてこられないのに、なんか違う! これは……”凄(すご)く分かる”!」

「ならよかった」


あとは、タツヤにも伝えることを意識――それがまた難しいんだけど。

変にやっても押しつけだし、引いても足りなくなってしまう。しかも、やっぱり怒りを払うのは大変で……!

それでもまずは自分から。自分を導(しるべ)として、タツヤもワクワクに巻き込んでいく。


面倒はすっ飛ばし、全力で……圧倒的に!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なんだよ、あれ……どういうことだよ! 圧倒的だったのに! ボクのために……ボクの力で、メイジンは勝つ寸前だったのに!

ちゃんと、逃げ場のないフィールドにしたのに! ああもう……こうなったら!


「おい! 無人機を出せ!」

『いや、しかしそれでは』

「いい! メイジンのガンプラってことにするんだ! 早くしろぉ!」

『わ、分かりました!』


使えない部下に指示を出すと、またメガサイズザクやら……ストライクダガーっていうのが何体も出てくる! よし、これならいける!


「メイジン、絶対に何とかしろ! せっかく逃げ場のないところへ追い込んだのに、アッサリ逆転されちゃってさぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


四方八方から飛びかかるバーザムを、右薙・袈裟・左薙・刺突・唐竹(からたけ)・右切上・袈裟――斬撃の結界によって次々と両断。

更に頭上から襲ってきたメガサイズザクには、そのマシンガンの乱射をくぐり抜けながら突撃。


「十二時方向・下二十度……砲撃くるよ!」


りんの指示に従い、急停止から宙返り。放たれたのは巨大な砲撃――それが落下するメガサイズザクの股下に命中し、そのまま胴体部を両断する。

激しい爆炎に背を向けて退避しつつ、第二射の砲撃を左に回避。放ったのは……エクシアが背負っていた翼だった。

太陽炉を携え、折りたたまれていたであろう鳥型ヘッドから粒子の奔流を吐きだしていた。


更にエクシアもトランザム状態こそ解除されたものの、両袖からビームサーベルを展開し、斬撃を放つ。

それを払うと、背後から脱出機≪ブースター≫が体当たり。なおトランザムはこちらに移行していた。

それも反時計回りに身を捻(ひね)りながら避け。


「――後ろ!」


背後に古鉄弐式で刺突。姿を消して迫っていた、ガンダムシュピーゲルの胴体を貫いた。


「危ない危ない……よく分かったね」

「スバルや真美達が、あたしのオパーイ目当てに迫る気配と似ていたから!」

「思っていた以上に最悪な理由だった!」


……強引に振り回して、再突撃するダークマターにぶつける。

それからすぐ地面を踏み締め、二体目・三体目のメガサイズザクに対処。

投げられるクラッカーを股下への突撃で何とか回避して、一気に跳躍――古鉄弐式も刀&鞘(さや)状態から最変容。


柄尻で二基を接続し、大型の斬馬刀とした上で跳躍――龍巻閃の要領で背後に回り、右薙一閃。その巨体を腰から両断する。

そのまま身を翻し続けながら、放たれるメガサイズミサイルを回転斬りで全てなぎ払い、爆発が作る帯の中で舞い踊る。


粒子変容で虚空を踏み締め疾駆……七時方向に再度跳躍。

三体目のメガサイズが放った、ヒートホークでの逆袈裟一閃を飛び越え、その頭上目がけて唐竹一閃。


「チェストォォォォォォォォォォォォ!」


先生から教わった示現流……僕が得意なのは薬丸自顕流の抜きだけど、それでも基本は押さえている。

雷鳴の如(ごと)き斬撃は、メガサイズザクをまたも一刀両断……いや、その余波は見えない斬撃波となり、近づいていたHGザクやジム達を尽くなぎ倒す。

……すぐさま振り返り、巨大な刀身を盾として防御。ブースターの突撃を受け止め……衝撃から大きく下方へ弾(はじ)き跳ばされる。


そこを狙ってエクシアが突撃。古鉄弐式を粒子変容・再形成……再び刀と鞘(さや)にした上で、振るわれる右ビームサーベルでの刺突を払いのける。

更に二体交互での突撃が繰り返される。ただしその全てがこちらの死角や関節を狙ってのもの。

狙いが分かれば、回避も容易(たやす)い……いや、そうもいかない。あらゆる方向から十数回行われるものを全て払うけど、ボディへの傷はどんどん増えていく。


「ここにきて攻撃精度が上がってる!? コイツ、どこまで……!」

「いや、これでいい!」

「……だね!」


奴らに背を向けて再度加速! というか全力疾走!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なんだ、あれ……どうなってるんだ!」


メガサイズもいたんだぞ! なのに、雑魚みたいに一蹴して、未(いま)だに決めきれない!? こんなことがあるかぁ!


「カテドラルじゃないんだぞ! そんなガンプラに……なんでボク達が負けるんだぁ!」

「そう思うのが、君達の浅はかさだ!」


……そこで突如乱入してきたのは、アロハシャツ姿の男だった。


「だ、誰だお前は!」

「ガンプラバトル公式審判員――イオリ・タケシ!」

「何!?」

「……が、それは一旦置いといて」


そこでイオリ・タケシという男が私の脇に近づいて、試合に注目。


「恭文君にあんな戦い方は通用しない……と本来は言うところだが、あれは違うな」

「いいから出ていきたまえ! 警察を呼ぶぞ!」

「私がその警察だ!」

「――!?」

「彼は今、自らの修羅を――人ならざる獣を超越しつつある!」


修羅……獣!? 何それ! まさかあの動きに、何か意味が!


「自らの楽しさを……ワクワクやドキドキを、他者と共有する! そのために自らが輝く星となる!
それは孤高なりし修羅とは違う、新たな強さを発揮するものだ!」

「は――!?」

「そう、その力の名は――」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ついには無人機まで出して、本格的に妨害を仕掛けてきた……! だが、今の彼らに触れられるものはいない。

その猛攻すらも水のように受け流し、烈火の如(ごと)き反撃を飛ばす。そんな彼らの、力の根源は。


「≪楽天の極地≫……!?」

「アイツの師匠≪ヘイハチ・トウゴウ≫がたどり着いた極地――」


そうか……珍庵はヘイハチ殿とも前々から友人だったな。だからあの変質にも見覚えがあると。


「アイツも獣なんぞない、ただの人や。それが人ならざる者達に立ち向かうのであれば、選択肢は二つしかあらへん。
……自らも同じだけの獣を育てるか、違う強さを手にするか」

「トウゴウ氏は後者を選んだのだな。しかしそれは」

「そう、計らずとも三代目が選んだ道と同じや。更に言えば、あれは恭文だけとちゃう……あの嬢ちゃんの力も込み」

「何……!?」


珍庵の頷(うなず)きで、改めて彼らに注目。そうだ、違う……あぁ違うぞ! あれはヤスフミ君だけの力ではない!


「りん君も巻き込んで、二人一緒に潜在能力を解放している……! あんな真似(まね)ができるのか!」

「大したことやない。相手が楽しそうやと、自分も引きずられて笑顔になる――あれはそういう類いのもんや。……でもそれでえぇ」


珍庵は師を知る人間として、満足そうに笑う。


「それこそ、ヘイハチがお前に伝えたかったもんや!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「本来なら無理だったッスよ。……恭文君が化物(けもの)だから」


恭文君が、りんちゃんが見せる力に驚きながらも、自然と前のめりで笑ってしまう。


「でもあの子は、師匠に恵まれた。周囲に恵まれた。夢を育てる楽しさを――人としての進化を知ることができた」

「だからしゅごキャラもいるし、エクストリームを受け止めることもできた。でもそうか……修羅モードが獣としての強さを解放するものなら」

「あれは恭文君がこれまで培った、人としての強さを示すもの! 確かに、三代目メイジンのリスペクトッス!
……でも、あんなもんがあるなら、どうして自分のときに使わなかったッスかー!」


とはいえ、その答えも見ていて気づいたッスけど。……ちょいちょい不安定なんッスよ、あのモード。

最初は水のように穏やかだと思っていたけど、乱れを所々に感じる。まだ完全版とは言えないッスよ。

この間は……まぁ嬉(うれ)しいことに、自分の技量に圧倒され、修羅の方が目覚めてくれたわけか。


あの状態を維持するなら、無心――それに等しい”楽しさへの集中”が必要だと思う。それも徹底したレベルで。

その辺りの乱れはきっと、タツヤ君がアレなことも関係しているはず。


「なら、あっちのお兄ちゃんは?」


すると、セフィが気になることを言い出した。


「あっちのお兄ちゃんも、何だか……動きが変わっているみたい、なの」


……イビツさんと顔を見合わせてから、改めてダークマターに注目。

そう言えば……フィールドが変わってからは、また動きが鋭くなったような。


「ちょ、まさか……!」

「戦っている相手にも共鳴が働いて、潜在能力が解放されるッスかぁ!?」


そうか……もしかして、それが狙いで!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いつまでぐだぐだしてやがる!」


後退しながら、ヘッドバルカン&キャノンを乱射。突撃してくるブースターを引きつけながらも撃ち抜く……と行きたかったけどー!

でもGNフィールドで全て防がれてしまう。その間に距離がどんどん詰まるので、古鉄弐式を振りかぶりながら平晴眼に構える。

……さすがに無明三段突きをそのまま再現は不可能。それには僕の経験値がいろいろと不足している。


でも、限りなく近い攻撃なら……!


「みんなのヒーローになるんでしょうが! 楽しいこと、いろんな人に伝えたいんでしょうが! ならこれは何!」


放たれるのは速度重視・持続時間ゼロのビーム砲撃。その発射に合わせて、縮地で虚空を踏み締め突撃。

その左脇すれすれをすり抜け、五〇〇メートルほどの距離を一瞬で駆け抜ける。

一気に距離が埋まり、フィールドを纏(まと)ったブースターと肉薄――そこで放つのは三連続の刺突。


寸分の狂いもなく、フィールドの真正面に衝撃を与える。その瞬間、ブースターの動きは停止――フィールドは衝撃に耐えかねて破裂する。

トウリさんとの対戦でもやった≪紅の彗星潰し≫の応用だ。わりとギリギリだったけどねー。


『……!』


上昇して退避するブースター。しかし、その進行方向を押さえるように、打ち下ろされる鞘(さや)。

二基目の古鉄弐式が変化したそれは、更なる再変容で第二の刃となる。そうして自ら刃へ飛び込み、その加速から瞬間的に両断される。


「そんなもんに踊らされて、一体誰が笑うの!?」


ブースターは爆散し、炎の中飛び出す影が一つ。直前に破棄された太陽炉が、エクシアの元へと飛んで再接続。

再び紅蓮(ぐれん)を纏(まと)ったエクシアは、こちらに突撃しながらビームバルカンを連射。

古鉄弐式(二基目)を鞘(さや)に再変容しつつ、その弾幕目がけて突撃……と思わせて跳躍!


「そんな姿を見せられて、誰がわくわくするの!? 何はともあれ――」


大きく上昇して、真上にある巨大な隕石(いんせき)に着地。それを足場として、周囲に漂っていたガンプラの破片を使って三角飛び。

これもトウリさん、そしてカイザーがやっていた八艘(そう)飛び。


そうして相手の狙いをかき乱した上で、漂っていたメガサイズヒートホークを両手で持って……!


「僕がわくわくしないから」


一回転しながら投てき! ダークマターが急停止してスウェー。無事に回避したところを狙って、縮地により肉薄。


「目を……覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


その胴体部目がけて、右ストレート。これが決まれば、終わりだ。でも駄目だ……それは駄目だ!

僕達が守りたかった約束は、こんな決着じゃない! さぁ反撃しろ! もっと力を込めて攻撃しろ!


お前ならできる! 三代目なら……ユウキ・タツヤなら!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


声が、響き続けていた。

どこまでも自分勝手で、強引で……でも、突き抜けた声だった。

自然とその声に向かって手を伸ばしていた。たとえ足が鉛のように重く、いばらのような戒めに縛られていても……その全てを振り払う。


守りたい約束があった。

それを達成するときが、ようやくきた。

なのに私は……そうだな、自然と諦めてしまっていた。


頼れる大人達に後は何とかと……だが違う。それでは駄目だ。せっかく友と再会できたんだぞ。

その友に、今の私達を見せつける最高の機会だったんだぞ。だったら……。


「あぁ……」


外せ。

外せ。

外せ――。


下らない戒めなど外せ。

既に道は定めたはずだ。そこへ向かい続けると、声を上げたはずだ。

まだまだ未熟な私だが、それでもしのぎを削り合おうと……そう言ってくれた先達(せんだつ)だっていたはずだ。


その全てを裏切ることなどできない。だから、振り払え……!


「ああああああああ……!」


邪魔するものなど振り払って、前に進め!


「ああああああああああああああああああ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『ああああああああああああああああああ!』


タツヤが叫んだ瞬間、エクシアの反応が急激に上がる。

こちらの拳をスルリと避けた……そう思った瞬間、斬撃を胴体部と左腕に食らって吹き飛ばされる。


「恭文!」

「大丈夫、ガードはした!」


咄嗟(とっさ)にかざした鞘(さや)で、傷は最小限……かなりヒヤヒヤだったけどねぇ。でも今の踏み込みは……というか、失敗した!


「……お兄様、”エクストリーム・ビート”が解けました」

「馬鹿! 熱くなりすぎだ!」

「え、やっぱり?」

「やっぱりだな……もぐ」


あははは、駄目かー! このまま最後まで決めたかったのに……なのでその、シオン達も呆(あき)れた顔はやめて?

……それに、きちんと目的は達成してるからね。今の反応だけでよく分かったよ。


『本当に、自分勝手な人……だなぁ!』


タツヤは面妖なサングラスを引きはがし、頭が痛そうに首振り。……その返答で、必死に押さえ込んでいた溜飲(りゅういん)も何とか下がる。


『こっちは気分も最悪だと言うのに……』

「タツヤァ!」

「タツヤ、状況は分かっているね」

『えぇ。差し当たっては』

「そう、とりあえずは」


タツヤはトランザムの出力を更に上昇させ、両袖口から発振するサーベルを更に長大化……翼のように翻す。

僕は古鉄弐式を鞘(さや)に収め、抜刀の構え。


『「目標を――駆逐する!」』

「あの……試合を中止して、いろいろ抗議は」

「はぁ!? そんなもんは後だよ後!」

『えぇ! 今はバトルが先です! 損傷はそれなりですが、まだ僕は戦えますよ!』

「こっちだって!」

「……ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


そう、後でいい。マシタ会長を引きつける役割もあるしね。これでようやく、約束通りのバトルができる。

トオルも安心してくれるだろうし……全力で楽しむぞー! おっしゃー!


(Memory71へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、対タツヤ用に密(ひそ)かな形で温めていた新境地も登場……でも不安定でもう終了!」


(エクストリーム化や、修羅モードの使用頻度低下も含め、ちょいちょいネタを振っていた修羅モードの上位版……ということには全くならなかった)


恭文「むしろサウンドベルトの上位版となった罠」

あむ「どういうこと!?」

恭文「もっと言えば、神話にあるでしょ。岩戸(いわど)の前でどんちゃん騒ぎして、引きこもりを引っ張り出す……そういう感じなのよ。タツヤもそれで救出できて」

あむ「台なしじゃん! あ、日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。いよいよ明日から十一月……鍋、食べたくなってくる」

あむ「いや、昨日も食べてたじゃん。豚バラと白菜の鍋……」

恭文「あれ、お手軽な上に美味(おい)しいんだよねぇ」


(いわゆるミルフィーユ状態に敷き詰めてもよし。優作(ゆうさく)鍋みたいに交互に重ねてもよし。それでポン酢につけてうめー)


恭文「……もしかして今必要だったのは、極地ではなく鍋だったんじゃ」

あむ「台なしを上塗りする必要、なくないかな!」

恭文「でも美味(おい)しくてー。すっごく美味(おい)しくてー。白菜で豚バラを包む形で、ポン酢につけて食べると最高でー」

あむ「それはもういいから!」

恭文「最近はポン酢も手作りしたし」

あむ「だから……え!?」


(現・魔法少女、とってもギョッとする)


あむ「ポン酢って、作れるの……!?」

恭文「うん。かぼすやすだちなどの柑橘(かんきつ)果汁に、みりんとしょう油、それに少量のダシでさくっと。
クックパッドなどでは、はちみつを入れて酸味をまろやかにしてーってレシピもあるよ」

あむ「そんなに簡単なんだ!」

恭文「ただ、寝かせるのにそれなりの時間はかかるけどね。じゃないと味が馴染(なじ)まないのよ」

あむ「……それは、ちょっと試したいかも」

恭文「ならうちにくる? 今日もお鍋の予定だし」

あむ「行く!」

ラン「あむちゃんー」

スゥ「結果的に引っ張られてますー」

ミキ「驚くべき鍋の力」

ダイヤ「まぁいいじゃない。美味(おい)しそうだし」

(というわけで、今日もあったか鍋で冬に備えます。
本日のED:BACK-ON『Mirrors』)


恭文「果たして戦いの決着はどうなるか……そして逆シャアの次は何があるか」

童子ダーグ「何もねぇよ! というか、催眠は解除した! 解除したからぁ!」

恭文「本気で嫌がってる……!」

童子ダーグ「当たり前だ! 何時間一人芝居に付き合ってたと!?」

ブレイヴタウラス『縛ってなかったら、身振り手振りも交えていたからなぁ。恐ろしいぜ、ガノタ……!』

ベイカー「……俺が、ガンダムだ……」

童子ダーグ「てめぇも黙ってろ!」(ハリセンでばし!)

古鉄≪それと、追記です。今回の展開は、一部読者からの拍手を元としております≫

ジガン≪アイディア、ありがとうなのー≫


(おしまい)






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あきゅろす。
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