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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第83話 『腐ったみかんの方程式・Ver2009』


CPにクローネを取り込む――それが自分達の答え。

その意味を、その目指す先を、専務達に全力で伝えていく。


「――みなさんが問題としている点は、常務が自らの方針以外排他的で、それにそぐわないアイドル達に”自殺”を迫る有様……そうですね」

「まぁ、端的に言えばそうだな」

「それは今回のことで、自分も強く感じました。いえ、舞踏会の活動を通じて……でしょうか」

「……武内くん、どういうことですか」

「自分も常務と同じです。成果を示せば、売り上げを出せば……そうして社内の仲間と話し合い、味方を作ることから逃げていました。
立てこもりやニュージェネ問題の後も同じ。自分達が頑張れば、一歩ずつ進んでいけば信頼される……そう驕(おご)っていたんです」


……それを強く感じたのは、舞踏会の組み立てに際し、相談を重ねる中でのことだ。


「分かっていたようで、分かっていなかった。それぞれに理想があり、正義があり、夢がある。
それを周囲と折り合いながら、叶(かな)えていく……なんと難しく、しかしなんと理想的な姿だろう。
そうしてそれぞれに違う輝きを、みんなで叶(かな)えていくことができたら……改めてになりますが、そこに舞踏会の意義を見いだしたんです」

「……武内、お前は何が言いたい」

「常務には大人になっていただきます。成果主義に依存するのではなく、周囲の理解を求め、理想を形にする我慢強さを覚えさせる」

「待ちたまえ……君は、何を言っているのかね! それでは常務が子どものように」

「子どもです」

「な……!」

「あなたも、常務も、子どもです。欲しい理想≪おもちゃ≫を前に、我慢もできない子ども……駄々(だだ)をこねるしかない子ども。
……願いを叶(かな)えるには、我慢や回り道も必要です。それを、我々≪CP≫が教えようと言っています」


それでここからは、双葉さんと新田さんの台本通りに……その、自分のキャラではないと思うが、全力で……!


「何せ我々もまた、常務やあなた達と同じ……城での戦い方も分からず、醜態を晒(さら)した”先輩”なので。
ですが心ある人達に教えていただきました。城での戦い方を――ルールを守った上での、我の通し方を。
それを自分以外の誰かに繋(つな)げていく面白さを。……えぇ、我々が教えたいんです。先輩として、そんなゲームの楽しさを」


その全力のハッタリをかましたことで、場が唖然(あぜん)とする。自分がこんなことを言うとは……そういう驚きに満ちていた。

それはそうだろう……自分も、言っていて死にたくなった……! 恥ずかしさで死にたくなった。

こういうのはこう、遊佐さんや竹達さんにお任せしたい領域だ。自分には無理……無理……!


「――ぶ!」


すると、長山専務が……隣の町田専務が、笑い出す。


「あの、何か問題が」

「問題? そうだな……お前の言いぐさが面白すぎる! それが問題と言えば問題か!?」

「長山専務、失礼ですよ……くくくく……ですが、なるほど」


町田専務は長山専務を諫(いさ)めながらも、口元を歪(ゆが)め……必死に笑いを堪える。


「先ほどはあなたの見る目を疑ってしまいましたが、訂正が必要ですね。すみません……いいアイドルを見つけたようですね」

「……!」

「誰の作った台本でしょうねぇ。双葉さん……いや、新田さんかもしれませんねぇ。彼女もわりと体育会系ですから」

「それをこの場で律儀に、全力でやるお前もお前だがな! はははははは! 息がピッタリで何よりだ!」


み、見抜かれていた……だと。恥ずかしい……今度は恥ずかしさで死ぬ!

逃げ場はない……頭を抱えることもできずに、ただ打ち震えるしかなかった。


「ただまぁ、言いたいことは分かりました。常務とクローネに迎合するのではなく、自ら取り込んで、躾(しつ)けてしまおうと。その……聞き分けのない子どもを」

「は、はい……。そして常務自らが加わることは、理想的方針への転換にも繋(つな)がるはずです。
……もっと、穏やかに相互理解の時間が作れればよかったのですが」

「だが、それは無理になりましたしね」

「それでお聞きしたかったのですが、社内情勢はやはり」

「君の……いえ、君達の危惧通り、かなりマズい方向に進みつつあります。私の知り合いに調べてもらったんですが、やはり買収の動きがあったんですよ」


……蒼凪さんと千川さんが言っていた件か。イースター社と過去の御友人が経験したことから、危惧を抱いたそうだが。


「市場に出回っていた三割の株は、既に買い占められていました。それだけでも共益権は発揮できますが……」

「なんですって……!」

「直系血族である会長と常務が筆頭として、他の株主達はどうなっているのでしょうか」

「その縁者や、我々のような重役ですね。これ以上を求めるのであれば、相応の交渉が水面下で行われているはずです。
これで美城の経営が順風満帆であれば、何の問題もなかったのですが……」

「常務は北条くん達の件で一応の無罪を獲得したとはいえ、グレーゾーンなのは間違いないしな。
しかも今のアイドル部門は”未来の美城”を映す鏡とも言える。下手をすれば、本当に」

「でしたら……余計に我々が纏(まと)まるべきです! 常務への疑いを捨て去り、一致団結していきましょう! そうすれば」

「それで常務の罪を捨て置けと言うのか! 北条くん達の件だけでも、あの女は十二分に示したんだぞ! 自らの危険性をな!」


今西部長の発言を戯れと切り捨て、長山専務は憮然(ぶぜん)としながら頭をかく。


「あぁ、そうだ……あんな真似(まね)、許されるはずがなかろう! 事実関係がどうこうではない!
自ら見初め、プロデュースしようとしたアイドルを……切り捨てたんだ! まるで物のようにな!」

「アイドル部門の誰もが、その姿を恐れているんですよ。それはあなたも同じですよ、今西部長」

「私が……!?」

「……これが事実であれば! 彼女はプロデューサーとしても、重役としても許されないことは明白でしょう! あなたはなぜ憤らないんですか!」

「――!」

「失礼……だから我々は、あなたを更迭することにしたんです。今のあなたは、部門の円滑な活動を妨げるがん細胞でしかない」


今西部長は、今度こそ全てがへし折れた。『そんなはずはない』『こんなことは間違いだ』と呟(つぶや)きながら、ただうな垂れ続ける。


「ですが武内くん、一つ聞かせてください」

「はい」

「なぜ、そこまでしようと思ったんですか。あなただけではなく、CPの総意として……でしょう?」

「とても単純な理由です。クローネには問題となった鷺沢さん、大槻さんのように、これでアイドルデビューとなる方達もいます。
ですが今の社内状況では、それだけで周囲から敵視されかねない。自分達はそれを……どうしても、放置できないんです」

「……そうですね。常務の罪は、彼女自身のものだ。何の積み重ねもない子達が肩代わりする必要はない」


そのためにはどうすればいい。現状、常務とクローネを否定するだけでは駄目だ。

だが常務自身に非があるのは明白。それをすっ飛ばした上での認知など、絶対に成されるはずがない。

ならばすっ飛ばさなければいい……そう気づいたとき、答えがより明確に見えた。


我々の方針を、笑顔の力を、個性の力を信じるのであれば、常務達とも手を取り合うことは必要だった。

だが普通には無理だ。もう無理となった……渋谷さん達が無理にしてしまった。


周囲の理解もなく手を取り合えば、それは結局我々だけが満足するものになる。

『時間をかければ理解してくれる』と押しつけても、結局は自己満足。中途半端なもので終わる。

だからこそ、清濁を併せ飲む――そうして開ける道もあると、今は確信していた。


「しかもその形なら、クローネとの提携も問題ない。言うならあなた達は教育係……いえ、それだけじゃありませんね。
彼女達も”舞踏会の賛同者”として、自らの方向性を示す必要がある。……考えましたね」


町田専務は笑いながらも、その視線を鋭くする。……油断しかけた心を、背筋を、ピンと伸ばした。


「渋谷さんと北条さん達のユニット実現も視野に入れていますね? 何せ、彼女達にも教育が必要ですから」

「……大それた発言だと……思っています」

「いやいや、我々は嬉(うれ)しいんですよ。真面目一辺倒だったあなたが、こうも小ずるくなるんですから。
……えぇ、今のあなたは、あなた達は正しいです。ようやく、掴(つか)みましたね……武内くん」

「町田専務……!」

「みなさん、どうでしょう! あの武内が……甘ったれのお姫様どもが! ここまで大見得(みえ)を切ってくれたんだ! 乗ってみるのも一興(いっこう)かと!」


長山専務の音頭で、場がざわめく……だがそれは、とても明るく、自分達の背中を押すものでもあって。


「では……思う通りにやってみろ! 実現すれば、下手にクビにするよりは面白そうだしな!
それにだ。我々もクローネに純粋な夢と希望を持ってくる新人達が、こんなことで潰れるのは避けたい。……力になってやってくれるか、武内」

「長山専務……」

「もちろん我々も重役として、推移を厳しく見守らせていただきます。これでいじめに発展しても嫌ですしね」

「町田専務……ありがとうございます」


まずは一つクリア……それに安堵(あんど)しかけるも、身を引き締めてみなさんに一礼。


「今後ともどうか、よろしくお願いします」


その上で……もう一つの提案をさせてもらう。


「それと……もし、その辺りが上手(うま)くいった後のことなのですが」

「後のこと? おいおい、また気が早いな」

「そうは思うのですが、これも早急な相談が必要と判断しました。……このプランが成功した場合、CPは第二の常務派となる可能性があります」


……そこで、緩み賭けていた場の空気が引き締まり、みなさんがどういうことかと前のめりになる。


「それはどういう……いや、そうか……!」

「常務という巨大勢力を飲み込んだ以上、それは派閥闘争の勝利を意味するところですからね。となれば……と」

「はい」


今、町田専務が仰(おっしゃ)られた通りだ。現に今の状態でも、CPは常務排斥派の旗頭となりつつある。

それだけの権力が、それだけの人員が……我々の手に余るものが、一つになろうとしている。

我々がそれをきちんとした形で制御できるのであれば、まだよかったのですが……今回の件でも思い知らされた。それは無理だ。


「もちろん今西部長がこのままフェードアウトするのなら、新しいまとめ役が必ず収められるでしょう。
……ですが……そのとき、CPは邪魔になるのではないか。万が一にも派閥闘争の勝者となったCPが、その新しいまとめ役と戦うことになったら?
結局同じことの繰り返しとなるのではと……実際新田さんと双葉さん、島村さんは同意見でした」

「だから今のうちから、その阻止策が必要と……」

「はい」


そう、必要だった。シンボルとしての……部門の支配者≪CP≫を殺す毒が。自分達はそこまで含めて、先を示す。

そうでなければ美城常務とすり替わるだけで終わる。そんなことだけは絶対に許されない……が、その難易度もまた高い。

ルールを遵守しつつも、そこに囚(とら)われず……可能性という我を押し通す道でなければならない。


だが、みんなで見つけることができた。我々に払える対価を――。


「それについても、解消する手段はあります……いえ、みなさんと相談の上で見つけました」

「我々の協力も必要なことなんですね。武内くん、それは」

「舞踏会が終了次第、CPを解散します」

「……武内くん、それは」

「ただし、ただの解散ではありません。まずは……この資料を」


早急に纏(まと)めた概要プラン。それをみなさんに提出し、中身を見てもらう。


「……!」

「いや、確かにこれなら……だが、本気か貴様! これは常務が掲げる以上の改革……いいや! 破壊だぞ!」

「本気です」


これも島村さん達の声と心があればこそ、完成したものだ。我々が望む未来の一つだ。


「そうでなければ、何も伝わらない――それだけは、理解しているつもりです」


だからこそ、我々もまたCPという家を……安息を打ち破る。

捨てるのではない。壊すのでもない。ただ目を開き、新しい可能性を探すんだ。




『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説

とある魔導師と彼女の機動六課の日常

第83話 『腐ったみかんの方程式・Ver2009』





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


午後五時――僕の自宅に全員集合。カルノ達をギューッてしながら報告し合った結果。


「文香も阿呆(あほう)だったかー」


もうやってられなくて、つい床に転がる。


「カルカルー?」

「カスー! カスカスカス! カスー!」

「ん、ありがとお」


頭が痛くなる中、カルノ達がすりすり……その温(ぬく)もりに慰められながら、何とか復活!


「残念ながらね。というか、北条さんも」

「こっちはまだ、何とかね。相方の神谷奈緒ってのは全く駄目だけど」

≪フェイトさんやアルフさんと同じタイプですね。ゲームのルールも理解できず、論理的思考もできず、場をかき乱すことに自覚がないタイプ≫

「同じかき乱すなら、せめてルールを利用する小ずるさは見せてほしいよ」


まぁそれだけ危機的状況だったってことなんだろうけどさぁ。あとは……致し方ない部分もあるとはいえ、全く理解できなくてこめかみをグリグリ。


「一宮さんと加蓮もそうだけど、上司≪美城常務≫の命令だからって大義名分で突っ走ったのが駄目なのに」

「あー、やっぱそういう方向かー。ややもね、文香さんからそんな感じを受けたんだー」

「……ちなみになんだけどさ、加蓮さん達が美城常務に逆らうのってアリだったのかな。やっぱ偉い人の話だから駄目とか」

「逆らってもOKだよ。確かに雇用者……この場合加蓮達のことだけど、就業時間であれば業務命令には従う義務がある。ただし」


これからあむ達もバイトなども経験していくだろうから、年長者としてさくっとアドバイス。


「それは”業務に関係があり、なおかつ合法で合理的な場合のみ”だよ。ここは法律で定められている。あむ、今回の件は合理的だと思う?」

「合理的じゃないよね。……あ、そっか。だから武内さんも」

「そう」


武内さんが初っぱなで問題点を提示したのは、つまりはそういうことなのよ。

常務の行動が部門内の連携にも差し障りが出るから……それも、周囲が常務に配慮するだけでは覆せない。

いや、ここは『常務サイドが、協力するうまみを提示していない』と言うべきなのかも。


「仮に武内さんや周囲の認識が誤解だとしたら、まず常務も……更迭された今西部長も、その誤解を解いた上で話を進めるべきだった。
武内さんはそういう点も含めて話したのに……それを当人や常務サイドがすっ飛ばしたから、この反発だよ」

「じゃあ断ったのをを理由に、加蓮さん達が処罰されたら」

「処罰した人間……この場合は美城や美城常務が悪いことになる」

「実際一年前の二階堂先生や姉さん、九十九さん達もその権利が行使できる立場でした。
結局エンブリオ探しについては、一之宮専務の”個人的事情”ですから。蒼凪さん、その辺りは一宮さん達に」

「説明したら、一宮さんは顔が真っ赤だった」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なんですか、それ……では、我々は」

「だから馬鹿なことをしたって言ってるんですよ」


三杯目のコーヒーを頂きつつ、『ないわー』とお手上げポーズ。


「それで美城常務の正当性がなくなれば、加蓮達への判断も再考されたかもしれないのに……」

「恭文くん、ちなみに……ここからそういう流れにすることは」

「無理ですよ」

「……だよねぇ」

「なんだよ! じゃあ、あたし達がとことん悪いってことか!? ふざけんな!」

「フィアッセさんにあれだけ言わせておいて、まだ分からないの?」


神谷奈緒は信じられない様子で頭を抱え、加蓮については顔面蒼白(そうはく)で顔を真っ青にしていた。

しかも……加蓮達が戦犯扱いなのには、もう一つとんでもない理由があって。


「しかもおのれらはそれに、凛とアーニャ、文香を巻き込んだ。他部署の人達はきっとこう思うよ?
おのれらと関わらせたら、どこでこういう問題を起こされるか分からないってさ」

「だから……あたし達のことを、誰も……信じてくれない?」

「そうだよ。……仮に美城常務が今嘘をついているとしても、おのれらへの評価は変わらないよ?
おのれらはその口で、その意志で……CPと凛達をだまし討ちにしていい……自分達のために踏みつけていいと、そう定めたんだから」


そうして加蓮は、後悔の涙を流して俯(うつむ)く。自分だけならともかく、たくさんの人間を巻き込んだ罪に押しつぶされ、ただただ嘆き続ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ほんと、どういうことだろう。加蓮と奈緒はともかく、大人の一宮さんがそこをすっ飛ばすってのは。

そういう点では一宮さんもおしまいだった。信頼という貯蓄はマイナス残高を突き破っているわけだよ。


それもあって、フィアッセさんもちょっとお怒りだった。


「本当に馬鹿なことをしたもんだな。気持ちも分からなくはないが……」

「ならなら、武内さんは?」

「予防策を張ってる。CPプロデューサーとして、公式的にクローネ入りを断ったとコメントを出したから。
そしてもしその後で、凛達がそれは違うと表明しても……それは自分の管轄外。当人達が勝手にやったことだってね」

「えぇー! それ、すっごくキツいよー!」

「容赦がないわね」


クスクスとりまも驚く、武内さんの徹底具合……なお、凛とアーニャに対してきちんとしたペナルティーを出すとも断言している。

今回の件についてもそうだし、もしその後で何かやっても……ってね。それもまたCPをまとめるための見せしめだ。


「武内さんって、そういうことをするタイプなの?」

「僕も意外だった。……今回の件、相当腹に据えかねたんだろうね」


それは誰か。こんな不義理をかました美城常務、一宮さん、加蓮達? いや、違う。


「プロとして、会社のスタッフとして、こんな駄々(だだ)が通用すると……そんな甘い認識でいた、凛達に対してさ。
しかもCPは失敗も多かった分、それを学ぶ機会だって人一倍あった。そのほとんどを台なしにしてくれるんだから」

「それは結果的に、舞踏会に協力してくれる陣営からの不信にも繋(つな)がる。だから厳しく処罰?」

「そういうことだね。腐ったみかんは、箱から外すってわけだ」


そう言うと胸くそが悪いのは確かだけど、このまま凛達の巻き添えを食らったら……本当に舞踏会がパーになりかねない。

それは主導となっているCPの崩壊をも意味するわけで。もちろん所属している卯月達への評価も貶(おとし)められる。

……内心苦渋の決断ではあったんだろうね。ただ、人間はみかんではないわけで。


きちんとペナルティーを与え、反省した上でなら……それに、加蓮達の悪用もここでは利用できる石だ。


「でも難しいところだよね。CPが重ねてきた失敗と重なる分、渋谷さんへの目は厳しくなるだろうし。
……かといって渋谷さんの傷を浅くするとなると、今のところ北条さん達との対比構造を作るしかない」

「対比構造? 唯世くん」

「クローネに傾いていたのは、北条さん達の勧誘が原因でしょ? 洗脳……って言えば聞こえが悪いけど、渋谷さんを北条さん達の被害者と定義するなら」

「あ、そっか。凛さんは引っ張られただけで、冷静じゃなかったって感じに……でもそれは」

「うん……結局、保身のために生けにえを用意しているも同じだ」

「でも、それが今の美城だ。このままじゃあその流れはどんどん加速するよ」

「もっと、生けにえが必要になるってこと……!?」


今はCPが、卯月達が……ある意味では小規模だよ。

でもこの問題が加速していけば……もし買収が事実で、美城常務の件がそれを加速させる毒と判断されたら。


……生けにえに求められる重さは増していき、いずれは美城そのものを食いつぶす。


「だけど、これなら蒼凪君的にも安心じゃない?」

「うん?」

「武内さんだよ。ちゃんと戦い方を知っている人……ううん、学ぼうとしている人って言えばいいのかな」

「それは……まぁね。これで件(くだん)の今西部長とかに載っかっていたら、大波乱だったけど」


ただ僕はその前に……振り返って、笑顔の龍可とその手招きを受け止めるしかないわけで。


「そ、そうですね。よく考えたらあんまり遊べてないし……じゃあ明日は、楽しく冒険しようかー」

「うん、いっぱい遊ぼうね。もちろんシルビィさんとも」

「ふふふ……ヤスフミに見せてあげるわ! ”ヴェートル生まれのビリーザレディ”と言われた私の実力を!」

「おのれ、生まれは別だよね。というか」

「ヴェートル?」

「カルー?」

「カス……カスカス、カスー」

「カルカルー!」


りんがいるんだから、そういうことをサラッと言うなぁ! ほら、小首を傾(かし)げ……というところで、インターホンが鳴る。

立ち上がって備え付けの端末を取り応対すると。


「はい」

『教官、お久しぶりであります』


玄関先で敬礼する女性をチェック。長い黒髪を一つ結びにしていて、アーミージャケットは豊かな胸で押し上げられている。

それは、僕とアルトにとってはとても馴染(なじ)みのある顔で。


「おぉ亜季! 久しぶり……で、どうしたの?」

『早苗殿の命令で、要救助者三名を連れてきたであります』

「え……」

≪あぁ……あれですね≫


すると、そんな亜季の背後から洗われた影達。

CPの前川みく、アーニャ……それとえっと、あの……中二病の人だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――結局、処分は何も変えられなかった。ううん、むしろ酷(ひど)くなった……アーニャまで、活動停止にされた。

私達の声は、本当に正しいことは誰にも伝わらなかった。それが情けなくて、悔しくて……わけが分からなくて。

母さん達もどういうことかと混乱して、問い詰められたけど……上手(うま)く話すこともできなくて。


結局、約束していた店番だけは何とかこなしている有様。ほんと、どういうことだろう。

日常的なことだけは何とかできるってさ。私にとってアイドルって、その程度のことだったのかな。


「お花、一つくれませんか」


レジ前で頭を抱えていると、目の前から声が響く。ぼーっとしていたと気づき、慌てて立ち上がると。


「あ、すみませんで……し……」

「自分のお尻も拭けない馬鹿な人に贈りたいんです」

「卯月……!」


目の前に、満面の笑みで卯月が立っていた。

――――母さんに店番を変わってもらって、近くの公園に。

ここで卯月と……初めて話したんだっけ。ニュージェネのデビューでいろいろあったとき、アイツと未央が迎えに来てくれたのもここだった。


もう十二月手前だから、桜なんて全く咲いていない。でも……今でも、あのとき見た卯月の笑顔が目に焼き付いていて。


「凛ちゃん、常務に腹が立たないんですか?」

「え」


でも今の卯月は、あのときとは違う。

笑顔だけど……その瞳には、ゾッとするほどの熱量が込められていて。


「腹が立つって、どうして? だって、常務は悪いことなんて何も」

「――したじゃないですか。加蓮ちゃん達を見捨てて、小ぎれいであるために逃げた」

「それは……アイツらのせいだよ! アイツらが常務の、私達の挑戦を踏みにじるから! お願い……力を貸して。
私は、常務も……加蓮達も間違っていないと思う。間違っているのは理屈に縛られて、挑戦を踏みにじる人達だよ。
お城のルールなんて必要なかった……そんなもの、挑戦には邪魔なだけだったんだよ! だから、卯月も」

「それが事実かどうかは、この際置いておきます」

「事実だよ! どうして信じてくれないの!?」

「でも逃げた……あの人は、あなたは逃げたんです!」


それで、ふだんの卯月とも違っていた。

卯月の叫びは、嘆きは、胸を貫くほどに鋭くて……。


「自分の担当アイドルが貶(おとし)められたなら、それは違うと声を上げようともしなかった!
加蓮ちゃん達が本当に勝手をしたなら、それを叱るべきなのに……それすらも逃げた!
凛ちゃんも同じです! 常務がそんな有様なのに、仲間として向き合おうともしない……そんな勇気を見せない!
――みんなが批判しているのは、そういう姿勢なんです! きらりちゃんだって言ってましたよね! 常務の気持ちが分からないって!」

「何、それ。私の気持ちも、分からないってこと……!? 仲間なのに……これまで、一緒にやってきたのに!」

「その通りです」

「――!」


違う。

本当に、今までの卯月じゃない。

卯月はこんなことをする子じゃない……できる子じゃない。


でも今の卯月は……それも致し方なしって、本気でそう思ってる。

私がこれ以上駄々(だだ)をこねるのなら、殴ってでも止めるって……!


「常務や凛ちゃんが、アーニャちゃん達が駄々(だだ)をこねることで、クローネメンバーも悪く言われるんですよ?
だから分かりません。仲間になろうとしている人達に、そんな真似(まね)をする人の気持ちなんて……分かりたくもない」

「卯月……!」

「それと、みくちゃん達は寮から出ました」


一瞬、関係ない話に跳んだことで呆(ほう)けてしまう。でもそれは勘違いだった。


「凛ちゃんとアーニャちゃんが……常務がこんな馬鹿をしでかしたせいで、寮内の空気が悪くなってるんです。……いじめすらあり得るほどに」

「な!」

「それも、よく覚えておいてくださいね。……じゃあおやすみなさい」


何、それ……全部私が悪いってこと?

ただ常務を信じただけで……クローネになる人達にも、迷惑をかけた?

その事実にぼう然としている間に、卯月は一礼……スタスタと去っていく。


「卯月、待って!」


慌てて追いかけて手を伸ばしても、卯月は歯牙にもかけず……そのまま夜闇に消えていった。

私はただ一人、蛍光灯が照らす中に残されてしまって。


「どう、して……」


そんなの、聞くまでもない。もう分かってる……分かってるよ。

卯月の言う通りだ。私は美城常務に怒りを持たなかった……結局美城常務は、加蓮達を見捨てたのに。


「なんで、こんなことになっちゃうの……」


一緒に進んでいく仲間を……私の、新しい仲間を踏みにじったのに……!

でも、もう全てが遅かった。

卯月にも見限られた。それが、心を砕くほどの衝撃を与える。


だって私は……。


「卯月の、あの日見せてくれた”笑顔”のおかげで……アイドルになったのに……!」


――あの日のような時間は、もう永遠にこないのかもしれない。

それが心を鋭く抉(えぐ)り、声も殺せずに泣き続けた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうそう、神崎蘭子だ。ようやく思い出しつつも亜季から事情説明を受ける。

なお、あむ達は入れ替わりで家に帰した。遅くなってもアレだしね。……まぁみんなの視線が突き刺さったけど。

こうさ、まるで……養豚場に送られる豚を見るような、そんなドナドナアイズをぶつけてきたから。


だからこそ僕は、こう叫ぶしかない。


「――アイドルなんだから、そこそこ稼いでるでしょ? しばらくホテル暮らしを楽しもうよ」

「にゃあ!?」


全て納得した上で、リビングに挙げた四人に説教! というか亜季への説教!


「というかね……せめて事前に相談してよ! こんな急に押しかけられたら、受け入れ態勢もできないっての!」

「教官への礼となると言われたのですが」

「それ、間違いなく悪い意味だよね!」

「お兄様、愛されてますね」

「まぁ言っても無駄だろうな。お前と早苗の仲とか返されるぞ」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


くそぉ……どうしてこんなことに! というか、同居人がここに来て三人追加!? しかも僕以外全員女性!? 住みにくくてしょうがない!


「でも恭文くん、放置はできないよ? 特にアーニャちゃんは」

「ですよねぇ。まぁたこ部屋になるけど、それでもいいなら……」

「こ、この際ぜい沢はいわないにゃ! というか、ありがとう! もうみく達も、寮はいづらくて……」

「みんな、本当に……CPが、凛ちゃん達が悪いって空気で。信じてくれない……私達は同じ高みを目指す仲間のはずなのに、みんなが邪魔をして!
そうだ、それは……卯月ちゃんも! 仲間なのに……同じアイドルなのに、分かってくれない!」

「お前達が会社の邪魔なんだよ。そろそろ自覚しようか」

「「ッ……!」」


現実を突きつけてあげると、蘭子とアーニャは痛みに呻(うめ)く。


「というかさぁ、それならお前達も……もちろん常務も、美城の社風に合わない存在でしょうが。とっとと独立でもしてよ」

「そんなの、おかしい! 常務、チャレンジャー! 新しいことを作ろうとしている人!
それで……会社をよくするって、何度も、何度もお話してた! なのに、どうしてそんなことが言えますか!」

「言えるんだよ。実際問題、美城常務の方針は時代錯誤すぎて、部門内でも疑問が出ていたんでしょ?
上司としての説明が十分であれば、クローネに対しての危惧もそこまでじゃあなかった」

「うん……みく達はともかく、Pちゃん達スタッフサイドだと相当だったみたい。あの、そういう話もしてもらったんだ。
それとりんさんと一之宮専務さんにも、『一部署としての実験的運用』なら問題なかったって説明されて」

「それでもなお”これ”かぁ」


うん、完全に中二病だね。あれじゃない? 美城常務がジャンヌ・ダルクか何かに見えているとか。

フランス解放戦線ならぬ、美城解放戦線だよ。革命のクローネだよ。そういう意味で言えば、美城常務はレベルの高い扇動者とも言えるけど。


……現在の状況を、機動六課に例えてみようか。あ、美城常務が設立側≪フェイト達≫ね?


なのは達の出向に対して、正規の手続きを一切踏まず――。

それに伴う不利益を元々の所属部隊に全て押しつけ――。

更に部隊運営の資金面も、これまた正規の手続きを一切踏まずに引き出し――。

その挙げ句、『部隊運営に協力しろ。できなければ非国民だ』と平然と曰(のたま)う――。


まぁ、ものすごーく簡単に言うと、こういうことだよ。なお、機動六課の件で言えば……ここまでのことはしていない。

各所への陳情や人脈作りも込みで、年単位の時間をかけているしね。その点だけは認めているよ。


「そう言えば……765プロの高木順二朗社長は、元々大きなプロダクションの社員さんだったんだよね」

「にゃあ!?」

「言ってましたね」


社長もジェノバに来ていたので、一緒にケバブを食べながら確認したのよ。765プロ社長としてはどうするのかってさ。

もしかするとクローネの箔(はく)付けを狙って、著名アイドルの評価を求める可能性もあるし。

……え、765プロは魔王エンジェル絡みで落ち目? 大丈夫大丈夫……それは美希だけとも言えるから。


春香達については巻き込まれた被害者でもあるし、まだ利用価値はある。だからこそ不安なんだけど。

そのときはフィアッセさんも一緒にいて、話を聞いていたから。だからこういうことを言い出した。


「でもシステマティックなコピーアイドル育成とプロデュースに疑問が出て、765プロを設立したって
それだって十年単位の準備期間を経た上でだ。辞めるときも、きちんと筋を通している」

「……やっぱり、常務さんのやり方には問題があるんだね。成果を示すってだけじゃあ意味がない。蘭子ちゃん、アーニャちゃんも」


よかったぁ。みくは比較的冷静……でも二人は駄目だ。完全に被害者気取りで崩れ落ちちゃってるし。

……そう、冷静だった。だから『ん?』と呻(うな)りながら、俯(うつむ)いていた顔を上げる。


「待って。あの……コピーアイドルってなんにゃ?」

「日高舞ショック、聞いてるんだよね」

「うん。……え、まさか!」

「社長と、当時育てていたアイドルさんはその被害者だ。だから今回の件にも、相当嫌悪感を示していた。
……そういう点でも、武内さんのプランは大正解だよ。そもそも『一部署としての実験的運用』ってのは、最初期から周囲が言っていた要望だしね」

「他のみんなも、それに納めるなら納得するしかない?」

「というか……このまま止まらなかったら」

「分かってる……みくでも、ここまで来たら分かるよ。……生けにえが、必要になる」

「そうだ」


みくも改めて理解する。常務はそういう点からも、その資質を疑われている。会社の一員として……そして、後継者として。

――するとそこで、またインターホンが鳴る。だから自然と……龍可とお茶中な亜季を見やる。


「亜季、正直に吐け。誰を呼んだ」

「それはえん罪であります、教官」

「おのれ、この状況を作った当人でありながら自覚がないんだね……!」

「まぁまぁ。でも恭文君、やっぱり……亜季さんもすっごくスタイルがいいし」

「やっぱりって何!?」


あ、龍可がまた怖い! でも、龍可だってスタイルは素敵……はい、遊びます! 明日はいっぱい遊ぶので、どうかその怖い目はー!

と、とにかく……恐る恐る壁掛けの端末を取ると。


「はい……」

『あの、卯月です……島村、卯月』

「……卯月!? え、おのれ……なんでここに!」

『ごめんね。楓さん達から聞いてきたのよ』


すると横から……美波と『あむによく似た人』が出てくる。

更に……!


『恭文くん、お久しぶりー』

『引っ越しそばも持ってきたから、一緒に食べましょうねー』


高垣楓さんと、川島瑞樹さんまで……ははははははは! またこのパターンかぁ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


なお、美波は遊びに来たわけじゃなかった。みく達が寮を飛び出した関係で、差し入れにきたのよ。

その……女の子的に必要なものをいろいろと。楓さん達もそれは変わらない。……っと、説明が抜けていた。


あむとよく似た人は、城ヶ崎美嘉――CPメンバー:城ヶ崎莉嘉ちゃんのお姉さん。こちらも楓さんと同じ感じみたい。


「でもごめんね。初対面なのにいきなり押しかけちゃって」

「あぁ、いいよいいよ。あれでしょ? 莉嘉ちゃんなりから話を聞いて、いても立ってもいられなくなって」

「それ! まぁそっちに迷惑もかけないように、さくっとお話して帰るから」

「それは私達も同じね。……といっても、私と瑞樹さんはこの階に住んでいるんだけど」

「へぇ、そうだったんですか。いつの間に……」


すると、笑顔の楓さんが急に怖くなって後ずさる。というか、瑞樹さんも同じ笑顔を……!


「え、住んでいる……あの、だから引っ越しそば?」

「「えぇ」」


なお、テーブルには美味(おい)しそうな引っ越しそばが……シルビィとりん、フィアッセさんは幸せそうに手繰っていた。


「いつから」

「「えっと……ちょうど今日から」」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「だってー! 恭文くん、こっちに戻ってきてるのに何も言わないんだもの!」

「それで、お返しに私達も驚かせてあげようかなーって」

「そのために引っ越しっておかしくありませんか!?」

「……あれ、おかしい。恭文君は大きい人が好きなのに」


龍可が何やら変な疑問で首を傾(かし)げてる! 鴨南蛮(かもなんばん)のカモをもぐもぐしながら、僕と楓さんをマジマジと見てる! どういうこと!?


「カルカルー!」

「カスカス……カスー!」

「ん、お蕎麦が美味しいね。じゃあ楓さん達にお礼を言わないと」

「「カルカスカルカスー!」」


しかもそうしながら、カルノ達ととても仲よさげにー!

よし……考えるのはやめたー。もう流されるように生きてやるー。


「……とりあえず、あれだ。僕はちょっと外に出てるから」

「恭文くん、逃げ場はないと思うわよ?」

「はい、美波はダウトー! 違いますー! 気づかいですー! 男の僕は邪魔だと思うので、気を使うんですー!」

「そうね……それは助かるかも。じゃあ悪いんだけど」

「いいよいいよ。……というか楓さん達も、それならこやつらをお願いしますよ。僕も結局部外者ですし」

「もちろん面倒は見るつもりよ。特に蘭子ちゃんとアーニャちゃんは……」


そう言いながら瑞樹さんは、失意の中にいる蘭子とアーニャを見やる。二人は美波にいろいろ話をされても、反応がよくなくて。


「悪い子達ではないんだけど、どうにも理想論が先走り過ぎているのよねぇ。……そう言えば恭文くん、三人の御両親には」

「そちらは私と早苗殿から……やはり信じられない御様子でした。CPも問題が続いたものの、ようやく社内・社外での評価も調ってきた矢先ですし」

「そう……じゃあ」

「……あの感触では、みく殿達の契約解除も検討されるかと」


亜季の困り気味な言葉で、瑞樹さんと美嘉達も顔を見合わせる。


「同時に凛殿とアーニャ殿に対してのヘイトも……特に凛殿は、デビュー直後の一件が尾を引いているので」

「そう、だったわね」

「まぁ、そこも亜季ちゃんからまた聞かせてもらうとして」

「了解したであります。では教官、御武運を」

「別に戦うわけじゃないから……」

「そうですね、行きましょう!」


……あれれー!? サラッと卯月が右側を取ってくるんだけど! というか、笑顔を浮かべて……何だか怖い!


「あの、私も……パパがちょうど駅まで迎えに来てくれるので。それまで……いいですか?」

「う、うん」

「あれ、卯月が押し押し」

「それも当然なのよ。だって……ずーっと探していた人と、ようやく会えたものね」


美嘉が首を傾(かし)げていると、美波がほほ笑ましそうにそう言ってきた。その途端に卯月は赤面して、美嘉は『あ……』と声を漏らす。


「み、美波さん!」

「もしかして……あぁ、そういう! じゃあ、あれだよ! 余計に外に出た方がいいよ! ちゃんと話さないと……ね!?」

「あの、探していたってどういう……昨日も言ってたけど」

「それも卯月から聞いて! ……ね、卯月……ちゃんと話せるよね。ほんと応援してるから!」

「美嘉さんまでー!」


え、何……この空気。フィアッセさん達も小首を傾(かし)げる中、僕と卯月は押し出されるように出かけることとなって――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


うぅ、みんなにいっぱい応援……されちゃいましたぁ。というか、そのせいで恭文さんが小首を傾(かし)げまくっていて。

だから駅までの道のりを歩きながら、まずは……いろいろ謝っちゃう。


「ご、ごめんなさい。その……こんな時間に、いきなり押しかけて」

「ううん、大丈夫だよ。でもどうして」

「……ちゃんと、お話したいことがあったんです」


どう言おう。どう伝えようと考える。でも……結局私は、そこまで弁が立つ方でもなくて。

凛ちゃんにもあれこれ言ったけど、上手(うま)く伝えられている自信はない。だから、ありのままを伝えてみよう。


「ほしなさん達が起こしたおねだりCDの事件……それで私は、養成所のみんなが傷つくのを、止められませんでした」

「それでみんな退所して……その後は養成所の規模も絡んで、一人でレッスンしていたんだよね。昨日聞いたけど」


いきなりな切り出しにも、恭文さんはすっと対応してくれる。それに安堵(あんど)しながら、話を続けた。

……ヒカリちゃん達も気を使って、距離を取ってくれているし……それには感謝して、全力で!


「でも、その話……続きがあるんです。……やっぱり辛(つら)くて、悲しくて……やめようって考えました。でも、レッスンじゃないんです。
私はみんなの大切なものを――大切なものと繋(つな)がっている時間を、守ることができなかった。
できることはあったのにって、何度も考えるんです。それで……私に、夢を追いかける資格があるのかなって、悩んで、悩んで……」


もちろん、そんなことはないって言ってくれる。パパも、ママも、先生だって……だけど割り切れなかった。

ただ頑張るだけじゃ、ただ一生懸命なだけじゃ、覆せないものがあって。

……ただ誰かを傷つけたくないとか、戦いたくないとか……そういう気持ちだけじゃ、守れないものもあって。


そんな私が……頑張ることしかできない私が、夢を叶(かな)えられるのかって不安も、あったんだと思う。


「そのときの私には、本当の原因が何かも分かっていなかった。おねだりCDの出所についても、みんなが辞めた後に知ったくらいで。
でも、知っても何一つできませんでした。ほしなさんはイースターから追い出されて、あの件もうやむやになって」

「……うん」

「本当に、どうしていいのか……どうしたいのかも分からなくて。ただ苦しい時間ばかりが続いて。
でも去年の十一月――世界同時行動不能事件で倒れたとき、夢を見たんです。ううん、それはきっと現実」


……足を止めて、恭文さんの手を取る。

それでちょっとだけ寄り道。通りがかった公園……噴水の前まで連れていく。流れる水の音に合わせたみたいに、恭文さんが小首を傾(かし)げて。


「卯月?」

「夢の中で……黒くて大きな、マシュマロマンと戦っている子を見たんです。その子は虹色に輝く剣を持って、泣きながら空を駆け抜けていて。
……私より低い背丈で、瞳は黒、髪は暗めの栗(くり)色。お侍さんみたいな羽織を着ていました」


それで、恭文さんの黒い瞳が大きく見開かれる。


「声も聞こえたんです。力を貸してほしい――こんな、誰も助けられなかった私に、”助け”を求めてくれたんです。
だから、叫びました。私なんかでいいなら……私に、何かができるならって。そうしたらその子は、怪物を斬って……輝く羽を翻しながら飛び込んで」

「卯月……」

「それで私、思い出せたんです。アイドルになりたいって思ったときの気持ち……キラキラした”何か”に憧れたときの気持ち。
私は……何もできなかった私は確かに罪深いかもしれないけど。でも、やっぱり目指したい。
ただ頑張るだけの自分から、変わりたい……そんな自分に甘えない、もっと強い自分になりたいって! それで、もう一度……」


そこで――噴水がライトアップ。ひときわ大きく水が吹き上がる中、驚く恭文さんの横顔が照らされる。


「やっと、見つけました。そのときから生まれた、新しい夢――私にもう一度、夢と向き合う勇気をくれた人。どんなに苦しくても、誰かのために戦える人。
実際会ってみたら、荒っぽいし……無茶苦茶(むちゃくちゃ)でビックリしました。でも、強くて優しいところは夢で見たときそのままだった。それで確信しました」


零(こぼ)れかける涙を必死に堪えて、ずっと……ずっと探していたあなたに、一番大事な言葉を伝える。


「――――――――やっぱり私、この人のことを好きになっていたんだなって」


――どこの誰かも分からなかった。

しかも、私以外の人は……ママも、パパも、友達も、そんな光景を一切見ていなくて。

本当に夢だったのかもって、思ったこともある。でもそれを結論として固められなかった。


それがどうしてか、ずーっと分からなかったけど……でも、ある瞬間に理解できた。

ニュージェネとしてデビューする前、美嘉さんのライブでバックダンサーを務めたことがあります。

そのとき、何とか無事にダンスを終えた後……美嘉さんに、こう聞かれたことがあって。


――ところで今日、バックを勤めてくれたこの子達! まだ新人なんだけど、アタシが誘ってステージに立ってくれたんだー!
感想でも聞いてみようか! ……どうだった!?――

――えぇぇぇぇぇ!? あの、その、えっと……!――

――ふむふむ……一番大事な人に、この感動を伝えたいと! ときめきでロマンティックが止まらないと!――

――違いますー!――


……そこで浮かんだのは、あの子の姿だった。

私より小さくて、でもとっても強い人。

私を……ううん、きっと世界中のみんなを助けてくれた人。

星みたいな瞳を思い出すと、胸が高鳴って……あぁ、そっか。


私、ずっと……あの日から、ずっと。


――あの子に、恋をしていたんだって。


「一目ぼれです……もう首ったけです! 私は、恭文さんのことが好きです」

「……ありがとう。とっても嬉(うれ)しい。でも、僕には」

「だからハーレム、頑張ります!」



ガッツポーズを取って断言すると、あの子は……恭文さんは派手にズッコける。

でもすぐに起き上がって、不満そうにしてくるので。


「待って待って待ってぇぇぇぇぇぇぇぇ! ハーレムとか、そういうのは」


……一歩踏み込んで。

瞳を閉じ……勢い任せに。

唇は、恥ずかしいので……その近くに、初めてのキスを送った。


恭文さんが驚き停止する中、そっと離れて……改めての宣戦布告。


「私は、あなたのことが好きです。あなたが誰を好きでも、好きでいつづけます……ずっと、引きずると思います。
……だから諦めません。ほしなさんにも負けたくないし……はい、やっぱり頑張ります!」

「卯月……」

「も、もちろん実際に出会ったばかりですし、そこは……きちんと向き合っていきたい、です。だから」


改めて恭文さんの両手を取って……口から、心臓が飛び出しそうになりながら、必死のお願い。


「私のこと、見ていてください……ね」


恭文さんはとても困った様子で、ただ手を握り返してくれた。

でも、それだけでいい……今は、それだけでいい。


結局嬉(うれ)しくて泣いちゃった私を、恭文さんと……大空のお星様、それに噴水だけが見つめていて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロジェクトクローネの件……とりあえずは時間もないので、現行メンバーだけで進めることとした。

まぁいいだろう。真なる輝きの足を引っ張り、貶(おとし)める屑(くず)石……それらが我が美城にはひしめいている。その事実を再認識できたわけだ。

だが、それは無意味と次のライブで知らしめることとなる。真なる輝きの前では、それらの価値もまた白日の下にさらされる。


そうして彼女は……日高舞はこの世界に再臨する。私が恋い焦がれた黄金の時代が、再び訪れるのだ。

停滞した世界が再び針を進め始めるまであと少し……だがそこで、またも屑(くず)石は真なる輝きに謀略をぶつける。


それも、よりにもよってこの男が……だ。


「――君は、何を言っているのか……分かっているのか」

「はい」


朝一番でやってきたかと思えば……クローネは、CPの管理下に入れという”命令”をしてきた。

それにより舞踏会などというおとぎ話にも参加しろと。その上でなら、トライアドプリムスの結成にも力を貸せると――。


……実にふざけた話だ。この男は、部門の長(おさ)が誰なのか理解していないらしい。


「上司に向かって、そのような不敬を働く輩(やから)とは思わなかった」

「美城常務、残念ながらあなたは……上司としてふさわしくない」

「何……」

「既に長山専務達の許可は得ています。プロジェクトクローネとあなたは、我々の舞踏会に……CP傘下の一ユニットとして加わってください」

「断る。そんな夢物語に、新しき美城が足を引っ張られるなど我慢ならん」

「……図に乗るのは大概にしなさい。おむつも取れない小娘が」


これでこの話は終わり……と思ったら、奴は暴言をぶつけてきた。

それも、会社員であれば許されない暴言……ゆえに視線を鋭くし、聞き返すと。


「……今なんと言った」

「先に北条さん達を、こちらを脅し、足を引っ張ったのはあなただ」


……視線を向けたことを、一瞬でも後悔してしまった。

奴は前のめりになった上で、こちらに怒りを……殺気をぶつけ、私をにらみ付けてくる。


上司である私を、何の躊躇(ためら)いもなく見下していた……しかも、それに恐怖してしまった。

奴の目はそれほどに本気だった。この場で私をくびり殺したとしても、何の後悔もない。そう言いたげな瞳だった。


「筋を違えないでもらおうか、すねかじり。一分の隙(すき)もなく悪を通したのはあなただ――」

「……悪とは、弱者のことだ。真なる輝きを放つ者に……下らない疑いを振りまき、足を引っ張る屑(くず)石達こそ」

「ならば、やはりあなたが悪だ」

「何……!」

「上司として皆を纏(まと)める器量を持たない。
”一匹狼(おおかみ)のプロデューサー”として、一人でやり通す気概もない。
挙げ句”自らが見初めたアイドル達”が失敗しても、叱りもせず放り出した無責任ぶり。
あなたは上司としても、プロデューサーとしても、ただの半端物――それこそ弱者の代表格。あなたが言う悪でしょう」

「貴様!」

「ですが我々も実証すらなしで、あなたに道をへし折れとは言いません」


そうして奴は殺気を納め……いいや、むしろそれは失笑だった。

私相手に怒りをぶつけるなど、何の意味もない。そう言わんばかりに、一人で話を進めていく。


「まずは今度の定例ライブ、そして舞踏会までに予定されている、各ユニットでのライブ活動。
それを通し、一つ一つ見せていきます。返事はその上で構いません」

「おたがいの成果で勝負しようというわけか。いいだろう、受けて立つ……そして証明しよう。新しき美城に、君達の夢物語は必要ないと」

「何を勘違いしているのですか。あなたとなど、勝負する価値もない」


……私はとんでもない誤解をしていた。

この男は”そう言わんばかりに”……ではなく、最初からそう断言していた。


この私が……ただの半端物だと、見下して……!


「成果主義に依存し、社内で仲間を作ることもせず、身勝手に理想を捏(こ)ねて、妄想に耽(ふけ)る。
そんなあなたは、我々と同じ土俵にすら立っていません。まさか、それすらも分からないのですか?」

「いい加減にしろ。そのような不敬な態度を取って、美城で生きられると」

「我々の対応を不敬と断じ、クビにするのであれば御勝手に……しかしその場合、”あなた方”は自ら証明することになる。
舞踏会を恐れ、自ら申し込んだ勝負からも逃げ、権力に走った負け犬だと……そんなあなた方が、美城を引っ張れるでしょうか」

「ッ……!」

「そういうところが半端物≪すねかじり≫という点を、重々承知してください。お互い――いい大人なのですから」


その上で奴は一歩下がり、一礼。がん字がらめでぼう然とする私を置き去りに、ただ一人部屋から出ていく。

それに対して待てとも言えず、なんの反論もできず……八つ当たり気味に、デスクを殴るしかなかった。


「……誰の入れ知恵だ」


まだ分からないというのか、愚物どもが……!


「あのような反論をする男ではなかった。一体何が……誰が、ああまで変えた……!」


私が、半端物だと? すねかじりだと? いいだろう……ならば、次のライブで必ず示してくれる。

権力も一切使わない。正々堂々、真正面から打ち下してくれる。


クローネこそが美城の新しい指針であり、舞踏会……個性の尊重などという半端な夢は、駆逐されるべき悪だと――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、四日目スタート! 私達もジェノバにログインして、一旦プロデューサーさんのマイルームに集まる。

その上で結果報告を聞いて、ゲーム内だけどついほくそ笑んでしまう。


「……プロデューサーさん、アカデミー賞が取れますよ! で、ビビってました? あのハイミス、ビビってました?」

「……かなり。瞳が揺れて、呼吸困難を起こす寸前でした」

「いい気味ねー!」

「美波がエロいことを……」

「どこがぁ!?」


杏ちゃんがまた理不尽なことを! え、どこがエロいの!? 美波、分からない! 大人だけど分からない! SM的ってことかしら!


「ですがその、新田さん」

「はい」

「あの台本は、やはり過激では……もっと、冷静に話した方が」

「駄目ですよ。宣戦布告は派手にやらなきゃ。……というか、ノリノリでやり通したプロデューサーさんが、今更それを言います?」

「何度か意識が遠のきかけたのですが……!」


それでもやり通したので、問題なしとそっぽを向きます。するとプロデューサーさんは絶望し、テーブルに突っ伏した。

――はい、プロデューサーさんの”恫喝(どうかつ)”は、私と杏ちゃん主導の台本です。あれくらいどがーんとやった方が、ハッタリになると思って。

そうしたらもう、美城常務は目を丸くしてビビりまくり。それが愉快でたまらなくて……あははははー!


「それにこういうのは、プロデューサーさんみたいなキャラがやると効果的なんですよ?」

「だね。しかも釘(くぎ)を刺したから、権力者として暴言への処罰を取ることもできない。やったら総スカンの態勢も整えているし?」

「絶対ビビってるわよね、美城常務……どれだけ怒らせたのかって。今日はお漏らしするかしらー」

「……新田さん、素敵な笑顔すぎます」

「え、だってプロデューサーさん、アイドルは笑顔が大事って」

「それは、自分の想定外ですので……」


プロデューサーさんは復活したかと思ったら、またテーブルに突っ伏してうな垂れた。

なんでしくしくと泣く……あぁ、せっかくのゲームに集中できないから悲しいのね。分かるわ。


「で、でも……いいの、かな。やっぱり普通に、協力し合うだけじゃ」

「智絵里、それは何度も言ったじゃんー。……本気でクローネを受け入れるなら、ここで上下関係を付けるしかないって」

「ここまで不興を買い続けたのは美城常務よ。だったら貧乏くじくらい引いてもらわなきゃ、助ける気にもなれないわ」

「……そう、そこが問題なんだよねぇ」


すると杏ちゃんは、そんなプロデューサーさんの隣で頬杖。慰めるように頭を撫(な)でると、プロデューサーがハッとしながら顔を上げた。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして。……プロデューサー、クローネの様子だけど、ちょっと気をつけておいた方がいいよ。あとは各所にも今日の流れを説明して」

「説明自体は行っていますが、何か気になることが」

「クローネの……というか、常務や部長、凛達の論理ってさ、”ライブが上手(うま)くいくこと”って前提の上でしょ?」

「えぇ」

「そう、上手(うま)くいくこと……上手(うま)くいけばいい。
何のトラブルもなく――。
何の怪我(けが)や病気もなく――。
誰からの妨害もなく――」


――その言葉で、今度は私達が動揺させられる番だった。というか、ゾッとして……ゲーム内なのに寒気が走る。


「双葉さん……!?」

「排斥派の誰かしらが、クローネに手出しをするってこと!?」

「別にさ、殴る蹴るの暴力じゃなくてもいいんだよ。例えば……ほら、桜井優亜。
一年くらい前にファッションショーでうたうことになったけど、音源データが飛んで大変だったーって裏話があるんだ」

「あ、それは莉嘉も知ってる! というか、そのショーはお姉ちゃんと見に行ったよ!」

「きらりも! ……え、待って……Pくん!」

「……もし出番の直前にそのような事態になれば……確かに、予定通りの進行は不可能になります。
ですが、それはライブ自体を危機に陥れるも同然です。事後の調査も行われるでしょうし、追及から逃れることも」

「逃れられるかもしれないよ? 実行犯だけじゃなくて、その周囲が協力していたなら」

「……!」


それで二度目の悪寒が走り抜ける。

単独犯じゃない……常務に反感を持っている人達が、共謀して完全犯罪を成し得る可能性がある。

でも、そんな……ううん! 現に常務一人のせいで、アイドル部門は瓦解寸前!

今西部長の更迭だって、それを緩和するための処置でもあるわけで! あり得る……十分あり得る! 


「常務へのヘイトが高まるってのは、つまりはそういうことだ」

「かなり、マズいわね……!」

「えぇ……!」

「そんな……そんなの、ないよ! 常務さんが嫌いだからって、そこまでするの!? きらり、信じられない……ううん、信じたくないよぉ!」

「そ、そうです……だって、同じアイドルなのに。クローネの人達とも、仲間に……なれるかもしれないのに……」

「常務が方針を変えない限りは、百パーセント無理だ」


その非情な宣告に、智絵里ちゃんが耐えきれずに泣き出す。……それで、杏ちゃんは大きくため息。

動揺しきりなみんなを宥(なだ)めるように、こう提案してきた。


「プロデューサー、一応聞く。”これ”を止めるだけでも」

「……たとえそのために敵扱いされたとしても、決して許してはいけません。何より、クローネメンバーはこの状況を知らないのですから」

「だよねぇ。……向こうに上手(うま)く凛達を送り込めていれば、クローネサイドへの警告も何とかできたんだろうけど」

「だったら、お話ししようよ! 私達で……プロデューサーで! 常務さんに注意してーって!」

「無駄だ。常務の性格上、聞き入れるわけがない……いや、それ以前の問題か。この件で厄介な点は三つ」


未央ちゃんの叫びはそれとして、杏ちゃんは右指を三本立てる。


「一つ、常務へのヘイト向上によって、容疑者候補は”常務派以外全員”になってしまう。
二つ、それで共謀された場合、そもそも追及が難しいかもしれない。
そして三つ……クローネを妨害するための手段が、全く予測できないこと」

「なんで!? だって杏ちゃん、さっき……音源データが消えるって! それを言えばいいじゃん!」

「手段の一つだとも言ったでしょ。”殴る蹴る以外の方法もある”ってさ。
……家族を偽って呼び出し、そのまま遠方へ連れ去る。
下剤などの薬品を使って体調不良に持ち込む……パッと考えただけでもこれだけある。
しかも常務側が警戒を強めたら、その隙(すき)を縫う形も考えられる」

「そもそも止められないってこと……!?」

「そこで証拠のもみ消しも込みで共謀とかされたら、確かに厳しいわね」

「ただまぁ、これはあくまでも杏の……素人の考えだ」


そう言いながら杏ちゃんは立ち上がって、軽く伸び。


「蒼凪プロデューサーに相談してみようか」

「……そうですね。第二種忍者である蒼凪さんなら、また違う意見が出るかもしれません」

「なら私、早速呼び出します! ちょうどあの子もジェノバにいるし!」

「では、お願いします」


それで恭文くんにメッセージを送って、プロデューサーさんの招待でマイルームに来てもらう。

ただ、きっと芳(かんば)しくないって思う。杏ちゃんもそれは予測しているから、とても苦い表情だった。


――でもそんなとき、天の声が響く。


≪――アプリスク・クローズドベータ版に参加されている皆様へ≫

「にゃ!?」

「これ、システムメッセージだよね。うわぁ……なんか神様から語りかけられている気分」

「運営は文字通り、天上の人……ということでしょうか」


プロデューサーさんが李衣菜ちゃんに首を傾(かし)げている間に、システムメッセージはこう続けられる。


≪残すところクローズドベータ版も後二日……プレイヤーの皆様からは、様々な御意見を頂いております。
そんな皆様への最大の感謝を示す意味でも、本当に急な話ではありますが――特別イベントの開催を、ここに宣言します!≫

『――特別イベント!?』


どうやらリアルのことは、一旦さて置く必要があるみたい。

でも特別イベント……何かしら! クラフターな私でも参加できる!? 報酬とかあるかしらー!


(第84話へ続く)




あとがき

恭文「というわけで、お待たせしました……一〇三〇万Hit記念のとまかのです。……卯月……卯月ぃ」

卯月「はい。なんでしょう、御主人様」


(SSRメイドさんで、島村さん登場)


恭文「それ、もう違うピックアップに切り替わってるよね……! というか僕は引いてないよ!?」

卯月「だって、刑部姫……だから代わりになればと思って」

恭文「それを言うなぁ! というか、そもそもゲームが違うー!」


(そんなわけで、島村さんはメイドでお泊まりです)


恭文「というわけで、今回は三日目の夜から四日目スタートまでの……というか、どうしよう。亜季も泊まり込んでいて……」

卯月「亜季さんも!?」

恭文「まぁ楓さん達も同じ階層だったから、分散する形でなんとか……!」


(そこも次回以降に……駆け込み寺か!)


恭文「それと幕間リローデッド第10巻、本日(2017/10/29)販売開始されました。ご購入いただいたみなさん、本当にありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「幕間でも卯月は大活躍で……」

卯月「私、今回は出ていなかったと思うんですけど!」

恭文「まさかコロニーレーザーを『馬鹿じゃん?』の一言で止めるなんて」

卯月「それはあむちゃんですー!」


(『あたしでもないし! というかそれ、もはや人間じゃないし!』)


卯月「うぅ、いいです……ならこれから大活躍しますから! ご奉仕で!」

恭文「ありがとう、卯月。さぁ……家へお帰り?」

卯月「追い返そうとしないでください! そうです、負けません……恭文さんの、一番のメイドさんは私です!」

恭文「おい馬鹿やめろ! そんなことを言ったら」

旋風龍「ちょっと待ったぁ! それはこのメイドラゴンへの挑戦と受け取りますよ!」

恭文「やっぱりかー!」


(そして蒼凪荘にて、第〇次メイド戦争勃発。
本日のED:BLUE ENCOUNT『LAST HERO』)


恭文「さんねーん! B組ー! 恭八せんせーい!」

フェイト「うわぁぁぁぁぁぁぁ……ってなんでぇ!? ヤスフミ、先生じゃないよね!」

恭文「いや、サブタイがあれだから。……美城常務が世情をBGMに捕まるフラグが、成立したから」

フェイト「してないよ!? それはそうと……」

カルノリュータス「カルカルー!」(雨が止んだー!)

カスモシールドン「カスー!」(いっぱい遊ぶぞー!)

恭文「まぁ明日……と言いたいけど、お散歩くらいはいいか。お出かけする?」

カルノリュータス・カスモシールドン「「カルカスカルカスー!」」

恭文「よし、いこうー! それでフェイト達へのお土産もゲットだ!」

カルノリュータス「カルー!」

カスモシールドン「カスカス、カス!」

フェイト「自然と置いていかれている!? わ、私もいくよ! ちょうど注文していたものも届いてるし!」(コンビニ宅配を頼んだ模様)


(おしまい)




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