小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory68 『ガンプラ・イブ/PART2』
……凛ちゃんが崩された後は、もうどうしようもなかった。
≪BATTLE END≫
二対一では……圭一さん達に対応できなくて。ううん、最初の奇襲が失敗しても同じでした。
二人とも本当に強い……! 心構えというか、踏み込み方が半端ないんです!
「そこまで! ……まぁステージ生成に助けられた感はあるし、完全勝利とは言えないかな」
「そ、そっちは魅音ちゃん達、弄(いじ)ってないんだよね。完全にランダムで」
「さすがにないってー。どのような状況、どのような相手だろうと全力を出せなきゃ、部活メンバーとしては失格さ」
『部活!?』
「だから、圭ちゃんは……ね? ね……うん、ね?」
魅音さん、そんな必死にならないでください! 分かってます! 辛(つら)い気持ちはよーく分かります! でもここは、冷静に!
とにかく圧倒され……何もできなかった三人は、両膝を突いてぼう然とするのみ。
凛ちゃんは何も答えられない。アーニャちゃんも、蘭子ちゃんもそれは変わらない。
私達も何一つ言えない。……だってあのときの凛ちゃん、明らかにおかしかったんです。
単にフィールドの一部を庇(かば)っただけじゃない。その異様さを感じ取っているのは、トオルさんも同じ。
困惑しながらも頭をかいて、軽くため息。
「ハッキリ言うぞ、凛……この勝負、負けたのはお前のせいだ」
「トオルさん……!」
「待って。それなら、私が……私が、最初に落ちたから」
「いいや、凛だ。まず初手……サテライトシステムが発動すれば、マイクロウェーブで発射地点も丸バレ。回避行動も難しい。
それなのに凛、お前は前に出ようとした。圭一達の機体編成が分かっていないにも拘(かか)わらず、何の警戒もせずに」
「あ……!」
「俺ならあの状況で、あんな分かりやすい……遮蔽物もない上空で、サテライトキャノンは使わない。”ああいうこと”になるからな」
そう、その作戦を指示したのは凛ちゃん。もちろん同意した二人にも責任があるけど、まずそこで一手指し間違えた。
「この勝負、俺の見立てでは数・武装の有利さから、お前達が勝てた勝負だ」
「更にバトルフィールドに動揺して、まともに戦闘ができなかった点も痛いね。
凛ちゃん、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)見当外れのところに攻撃していたもの」
「な……!」
「レナの言う通りだ。まぁ圭一もあこがれのアイドル≪新田美波≫にいいところを見せようとして、空回りしまくっていたけどさぁ」
トオルさん、そこに触れちゃうんですか。圭一さんが滅茶苦茶困惑していますけど。
「な……待て! なぜ初対面のお前が、美波様のことを! ……魅音ー!」
「言ってない言ってない! 口から出てたからね、アレ!」
「嘘をつくなぁ! 俺は公私を分けて接すると決めたんだぞ!」
『自覚なし!?』
「……圭一くん、言っていたよ? 凛ちゃん共々無駄弾撃ちまくりで、レナも呆(あき)れちゃったもん」
「圭一くん、ありがとう。えっと、その……これからも応援、よろしくね!」
「美波様ぁ!? 嘘だぁ! お前達は、嘘を言っているぅぅぅぅぅぅう!」
け、圭一さんが度し難い……なので魅音さんは『放置で』と手でサイン。それには全員が頷(うなず)くしかなかった。
「とにかく、勝負を決めたのは技量でもなければ知性でもない。――心だ。
”些事(さじ)”に捕らわれ目的を見失う……お前の幼稚さが足を引っ張った」
「私が、幼稚……!?」
「残念ながらそれが、アンタ達が言う頑張りの結果であり、アンタ達が言う『優しい人達』にツケを払わせ続けた結果だ」
「そん、な。じゃあ……私、達は……プロデューサー、は」
「だからもうやめな。あの人が望んでいるのはね……そんな間違いを繰り返さず、アンタ達がアイドルとして輝くこと……それだけだよ」
「プロ、デューサー……」
優しく、しかし厳しく諭すことで、アーニャちゃんが、蘭子ちゃんが泣き崩れる。
「違う……私は、私は……だって」
「凛ちゃん」
「アイツが、いなかったら……私……!」
凛ちゃんも顔面蒼白(そうはく)で打ち震える。勝てた勝負を捨てた……捨ててしまった両手を震わせ、発狂するかのように泣き叫んだ。
ただ私達CPは何もしない。強い疑念ばかりが渦巻いて、凛ちゃんを見つめる。
負けたことを責めるつもりはない。それを言えば私達だって、そもそも勝負から逃げた立場です。
逃げて、我が身かわいさでプロデューサーさんや部長達を切り捨てた。そう言われても否定はできない。
だから、そこはいいんです。
問題は……凛ちゃんが見せた、あの不可解な行動。それを当然だと思っていた思考回路。
それが余りにおかしくて、強い違和感が走り続けて、凛ちゃんに得体の知れない恐怖を感じていた。
「しまむー……」
「後に、しましょう」
「だね」
レナさんが見せた突撃、凛ちゃんなら回避できました。断言できます……絶対、回避できたんです。
以前慶さんにも似たような攻撃をされて、後ろが疎(おろ)かだと注意されて。それ以来気をつけるようにしていたんです。
それでレナさんの突撃は、失礼ですけど慶さんよりは下。なのにまるで殺してくださいと言わんばかりに棒立ちで……ううん、違います。
これは結局理屈の話。私達にはあのときの凛ちゃんが、凍り付いたように見えたんです。
そうして現実を全て捨て置き、ただただ衝撃に身を委ねた。そう、自ら敗北を受け入れた……!
でも、どうしてですか。
確かに思い出の場所ですけど、結局は粒子で作られたバトルステージです。それであんな行動に出るなんて。
それが私も、未央ちゃんも……みんなも理解できなかった。アーニャちゃん達だって引っかかりはあっても、戦うことは止めなかったのに。
そう、誰も理解できなかった。しようともしていなかった。
凛ちゃんがアイドルを続ける目的は、既に私達とは違うところにあったのに。
――だから、あの決裂は必然だったのかもしれない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――さて武内くん、いろいろ話を聞きましたが……そろそろ本質的なところに触れましょうか」
「はい」
島村さん達は状況証拠から、無罪の可能性が高いと判断されているだけ。
同時に彼女達を潰すことが、美城にとって損益でもあると考えられた。我々が出してきた成果は確かに、一つの材料として作用している。
だが、それでも部長達の尽力があって、ここまで来られたのは事実……切り捨てろと言うのか。
その恩義を否定しろと。だが……自分がそれを表明すれば……そういう迷いはあった。
実際リニアレールの中でも、幾度も、幾度も考えた。だが……!
「確認です。そういう約束を……成功を前提とした裏取引を行いましたか」
自分は今試されている。
「いいえ、そのような事実はありません」
だから胸を張って、その言葉には首を振った。
「外部の人間はもちろん、今西部長や千川さんから、そういった話を持ちかけられたことは一度もありません」
「では……もしも、そう持ちかけられたらどうしますか」
「全力で断り、部長達に即刻やめるよう説得を……できないのであれば、告発を」
「なぜでしょう。あなたも成功するんですよ? 金も、立場だって手に入る」
「それは……嘘だからです」
……あぁ、そうか。本当に今更ながら理解できた。
「彼女達の夢を嘘にするからです。彼女達は自分の可能性を広げるため、つかみ取るために”シンデレラ”となりました。
その道筋を示すのが自分達の仕事です。……確かに、必ず花開くかどうかは分かりません。
成功すればという考え方も、あるかもしれません。ですがそれでも自分は、そんな上での成功は嘘と言い続けます。どこまでも、言い続けられます」
「なぜでしょう」
「彼女達がそれを知ったとき、そうしなければ成功が掴(つか)めないと知ったとき……夢そのものが壊れるからです。
それでは笑顔でステージには立てない。誰一人本当のアイドルには……なれません」
みなさんはCPをただ否定していたわけではない。ずっとそうして、道を示し続けてくれていた。
信じる・信じない以前の問題だったんだ。……もっと早くに気づくべきだったとまた後悔していると。
「……よく分かりました」
質問を投げかけた町田専務は、周囲の方々は……そこで空気を僅かに緩める。
「ただ、我々も遊びでこの場にはいません。あなたの言葉が真実かどうか、確かめる時間をください。
……武内プロデューサー、あなたを一時的に……かもしれませんが、まずは更迭処分とします。CP所属アイドルへの接触も禁止です」
「……はい。ただ、一つお願いが」
「彼女達への聞き取り調査も行いますが、決して手荒な真似(まね)はしません。それはお約束しますが」
「御配慮いただき感謝します。ただ……そちらではなくて」
深々と頭を下げ、御迷惑をかけたみなさんに改めて謝罪……更にお願いに触れる。
「更迭処分に異論を申し上げるつもりはありません。自分はそれだけの間違いを犯してきました。
ただ……実施前に引き継ぐ案件があります。できれば自分から園崎臨時プロデューサーに説明を」
「そのために、静岡(しずおか)へ戻ることを許してほしい……ですか。一応確認しますが、それは」
「それは――」
……自分はもう、CPには戻れないだろう。だがそれでいい。自分の示し方は間違っていた。
その悪が断じられ、舞台から立ち去れば……自分はやはり歯車だったのだろう。
魔法使いとなるためには、もっと学ぶべきことがあった。だからこの結末は受け入れよう。
それでもいつか……前に進み続けていれば、いつかは。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory68 『ガンプラ・イブ/PART2』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
童子状態で、通風口の中をずいずい……ずいずいー。気分はスネークだぜー。
でも、身体がキツいー。ごきごき言ってるー。とにかく久々に日の光を浴びて、すぐに夜の世界とこんばんはー。
久々にまともな夕飯を食べさせてもらってから、疲れ果てたやすっち……そしてニルス・ニールセンと合流。
なお、今回はガオウライナーに引っ張ってきた。どこで誰が聞いているか分からないしよ。その結果若人は――。
「異世界はまだ、レイジ君の例があった……えぇ、まだいいんです。だけど時の列車……タイムマシンなんて……」
ただただ戦慄し、頭を抱えていた。うん、この反応はまともに見たぞ。つーかほら、やすっちなんて。
「凄(すご)い、ガオウライナーだー! そうだ、模型を作ろう! 写真を撮って、内装もダーグと飛燕さんに怒られない程度で再現してー!」
≪楽しそうなところ悪いんですけど、ニルスさんが潰れてますよ?≫
「大丈夫! ニルスならきっと立ち上がれる!」
「それ、信頼じゃなくて放置だよな?」
この調子だしさぁ! しかも瞳がキラキラしてるの! まぁ、大人だからある程度は配慮してるけどさー!
とにかくニルスが復活するまでに、持って帰った情報を提示していく。
「まずやすっち。飛燕のハッキングでPPSE社のデータバンクを掌握したら……」
「掌握って言っちゃったよ」
「だって飛燕のスペック、この時間じゃオーバーテクノロジーの塊だしな」
そもそもイースター社がおかしいんだよ。あそこの科学技術も十分オーバースペック。もう十年は先をいっている。
「で、データバンクの中に……去年の第六回大会第二ピリオド・バトルロワイヤル、何があったか覚えてくるか?」
「あれでしょ? 優勝候補者が一箇所に集まって、タツヤが中心に……やっぱり会長とベイカーが?」
「そうだ。他のメイジン候補でユウキ・タツヤを倒そうとして……って、そこは知っていたんだな」
「346プロのガンプラトレーナー……青木慶って言うんだけどね。そのメイジン候補だったのよ。
で、去年の世界大会にも出て、タツヤをフルボッコにしかけた一人」
「あぁ、それで」
そこから話は伝わっていたんだな。しっかし……怒りを通り越して、呆(あき)れてしまうぞ。
あとは今大会での干渉の証拠データだ。一応消去済みだったが……まぁこの程度だったら復元可能。こっちもあとでやすっちに渡しておこう。
「それで地下のマッピングをしながら進んだら……見つけたぞ。巨大プラスフキー結晶体」
「何ですって!」
結晶体と聞いてニルスが復活。さすがに食いつきがいいなー。
「どこに!? どのような状態でしたか!」
「場所は……メインステージの真下」
「まし……!」
ニルスの顔が青くなり、やすっちが頭を抱える。うん、気持ちはよく分かる。
「で、状態なんだが……こりゃ見た方が早いな」
マスターパスを操作して、画像データを表示。
地下で撮影した巨大粒子結晶体――アリスタだったかを表示する。
「こ、この大きさは……!」
「流石(さすが)に予想外だった」
「だろうね……全長二十メートル前後って。しかもこれ、気のせいかなぁ。ただアームで固定されているだけっぽい」
≪私にもそう見えますね。いや、でもまさか……そんな≫
「安心しろ、その通りだ」
……この巨大アリスタは確かに、相応の設備で包まれているように見える。
だがそのボディを包む壁は、単なる強化ガラス。機械も自然放出される粒子を吸引するためのファン。
はっきり言えば……ただ倒れないよう固定されているだけだ。
「アイツらはアホなのかよぉ!」
「ショウタロス、結論を出すのは早いぞ」
そう念押しした上で、観測データも出す。
「それで手持ちの機器でデータを取ったら、これがまた凄(すご)い。大きさと密度、それに伴う粒子量を計算すると……」
「えぇ」
「……暴走・爆発した場合、やっぱ核レベルらしい」
「――!」
「「「……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
やすっちとショウタロス、ヒカリが絶叫。ニルスの魂が抜け、シオンは頭が痛そうに首振り。
「あし、あいししししし……あしも、足下に、核……核……!」
≪なら楽勝ですね。経験済みじゃないですか≫
「もう二度とそんな目に遭わないよう、清く正しく生きてきたんですけど!?」
『嘘だッ!』
「即行で否定された!?」
あぁ、やっぱあれか。ちょいちょいその話をするのは強がりだったか。『もう自分は大丈夫だ』と奮い立たせていたんだな。
それをへし折って非常に……非常に申し訳ないが、ありがとう。その顔が見たかった。
「ッ……!」
だがそこで俺も絶望し、両手で顔面を覆う。
そう、だった……俺も、これをどうにかする一人だったぁ! 嫌だー! アイツらが馬鹿すぎてもう嫌だー!
俺も嫌だよぉ! 足下で核爆弾並みのがどがんって!
≪……これで本当に確定なの。アイツら、粒子結晶体の危険性とかはさっぱり分からず、ただただこのデカブツからおこぼれを吸い上げ続けてきたの≫
「ダーグ、見つかった結晶体は」
「全域を捜索したが、これだけだ」
「そう。……あ、これはこっちで纏(まと)めたマシタとベイカーのプロファイリング資料。一応確認しといて」
「おう」
プロファイリング……あー、そういや知り合いの刑事さんを師と仰いで、少しずつ勉強しているって言ってたな。
何でも警察庁きっての女性プロファイラーだとか。一体どんなものかと資料を受け取り、確認する。
「ふむ……子どもか」
「そう」
やすっちのプロファイリングを簡単に纏(まと)めると、こうだ。というか、これまでの印象を整理?
マシタ会長は子ども。思慮が浅く、先を見通しての行動ができない……その場の感情だけで動く子ども。
PPSE社がこれまで行ってきたやり口は、強引かつ短絡的なものばかり。粒子結晶体の扱いが雑なのも、その最も足るところだろう。
まるでいたずらして、それがバレないとでも過信する子どものよう。だからそのいたずらが度を過ぎても、自分達では責任が取れない。
そもそもそういう思考すらない。では、なぜそんなマシタ会長がここまでの財を築き、成功したのか。
それはひとえに、ベイカー秘書の有能さがあればこそ。ベイカー秘書には≪ガンプラバトル≫という新機軸の遊びを発想し、形にする技術があった。
対してマシタ会長はそれに甘えるだけかと言うと、それも違う。会長には確かな商才があり、形にしたものを売り出す力があった。
そう、実は二人もセイとレイジ達と同じ。一人では戦えない……しかし、一人ではなかった。
アリスタを通じ知り合い、それが生み出す輝きに魅せられ、新しいことに挑戦した≪ビルドファイターズ≫だった。
ただ問題があるとすれば、ベイカー秘書も大人の視点を持ち合わせているだけで、本質的には子どもな点。
マシタ会長が短絡的判断に陥っても、それを止めることもできず、どんどん押し切られ暴走する。というか、自ら乗っかる性質がある。
恐らくは……恋愛感情。お互いにお互いが必要であり、欠かせないと知るが故に、意見を戦わせることを自然と避ける傾向がある。
ただし救いもある。……それゆえに二人には、悪意の類いは少ない。
少なくとも世界を破壊するとか、支配するとか、そういう思考に基づいた行動ではない。
まぁそれなら粒子結晶体は兵器なりに転用され、カタストロフが始まっているだろうしなぁ。
イースター社みたいなことはなさそうだが……さて。
「更に言えばPPSE社は現状、政府筋に働きかけなどは行っていない。まぁ粒子結晶体の件があるから、変に勘ぐられると困るってところだろうね」
「圧力がかけられる心配もないと」
「でもそれは”現状で目立つ動きがない”って話でもある。……粒子工場がダミーで、それに今まで気づかなかったって点はやっぱりおかしいんだよ。
それなら防災関係の点検は? 運営実態はどうやって成立させていたのよ」
「だよなぁ」
工場なんて、万が一何かあったら大事故に繋がりかねない場所だ。だからきちんとした規格の上で運営されるのが普通。
そういう設備の点検やら、登録やら……初期段階から行政のメスが入るはずだ。それでもなお”これ”だぞ?
そこで一番分かりやすい答えは……何にしても時間との勝負ってことか。モタモタしてたら押しつぶされかねない。
「……予定プランのまま行くしかありません。上限修正こそ必要ですが、変更点が思いつかない」
「おっ、何かあるのか」
そこでかくかくしかじか――俺がいない間に進めていた計画を聞いて、つい尻尾が飛び出そうになる。
笑いごとじゃあないが、みんなの遊びが世界を救うかぁ! うんうん、悪くはないな! それに理屈も成り立つ!
「ダーグさん、結晶体までの道のりは」
「バッチリマッピングしている」
「結晶体が真下にあるというのなら、それは好都合とも言えます。最短ルートで突破できますから。……あとはプラン通りに壊せるかどうか」
≪え、無理なの!?≫
「このデータ通りなら、密度が高すぎて……戦国アストレイやスタービルドストライク、ビルドガンダムMk-IIだけでは手が足りない可能性も」
「じゅ、準備しておいてよかった……!」
というわけで、やすっちのプラン≪Gローダー≫も見せてもらう。じゃないと正確な計算ができないからな。
「ふむふむ……アストレイレッドフレームが使っていた、パワーローダーの発展系か」
「そう。ただパワーローダーはデカすぎるせいで、戦闘力がお察しって状態だったしね。
軽量・小型化して、その辺りは調整している。それに変形機構も取り入れているから」
やすっちが図面で出してきたのは、変形後……大剣!? おぉ、これもいいなー!
「いいなー、ごつくて強そうだ!」
「では恭文さん、このプランのままで」
「了解」
「ダーグさん、地下に急ぎましょう」
「え……それならまた俺と飛燕達で」
「飛燕さんにはそのままデータバンク掌握を。何か動きがあればすぐ掴(つか)めるように……お願いします」
おいおい、それをお前が……とは行かないかぁ。
さっきまで戦慄しまくっていたのに、もう戦う男の顔だ。こういう顔を見ていたら、こっちまで奮い立っちまうから不思議だ。
それにニルスの言うことにも筋は通っている。向こうはまた短絡的に動くかもしれないし、それをいち早く察知できれば……!
ただその前に……俺は、やすっちに大事な確認をしなきゃいけない。
「だがやすっち、いいんだな」
「何が?」
「いや、本来ならやすっちだけに聞くことじゃないんだが……どういう形にせよ、粒子結晶体は処分される。
下手をすればガンプラバトルも終わることになる。それで」
「いいよ」
「おいおい……あっさり言い切るなよ!」
俺は始めたばかりだが、やすっちがこの遊びをどれだけ大事にしているか、それはよく分かる。
友達との絆(きずな)であり、いつもとは違う戦いを楽しめる大切な遊び。それが……十年積み重ねたものが消える。
下手をすれば初めて出場した世界大会が、きちんとした形で終わる前にだ。やすっちだってそれくらいのこと、予測していたはずだ。
だったら……そう思っていたんだが、やすっちも、ニルスも……問題ないと笑うだけだった。
「プラフスキー粒子は、作り出せばいいもの」
「えぇ」
「何ぃ!? おい、そりゃ」
「異世界からの借り物はもう終わり。だから今度こそ、ボク達の手でこの遊びを発展させていく。
たとえ何年かかっても……それがボクとアンズ、恭文さんの出した結論です」
「だって楽しいもの、ガンプラバトルは。ダーグだってそうでしょ?」
あっさりと問いかけられ、心配していた自分が馬鹿らしくなった。
「そうだな。つーか……俺、秋の関ヶ原(せきがはら)バトルってのに出たかったんだよ!」
「そうだった! やってみたいって言ってたものね!」
「あぁ!」
……これもガンプラ作りと同じかぁ。
作り上げて、壊して、また作って――何百回でもトライアンドエラー。
失敗もするだろう。障害に転(こ)けることもあるだろう。でも、それでも……心に刻んだ形を取りだしていく。
それがガンプラであり、ガンプラバトル。根源となったプラフスキー粒子についても同じかぁ。
……マシタ会長達の意図はどうあれ、粒子が生み出し続けた思いは本物ってことか。
痛みも、悲しみも、喜びも、楽しさも、全て本物なんだ。だったらそれは……もう。
「じゃあ湿っぽいのはここまでにして……」
両手で頬を叩(たた)いてから、気合いを入れ直して立ち上がる。
「慎重に行くぞ! それで結晶体を確保すれば、このゲームも勝ちだ!」
「はい!」
「ダーグ、ブレイヴタウラスも気をつけてね」
『ありがとよ、兄ちゃんー。……んじゃあやってやるか、兄弟!』
「おうよ!」
俺達は終わりへと、そして新しい始まりへと近づいていく。
十年の間借りていた異世界の遺産……それと別れ、新たな一歩を踏み出す日は、もう目の前だった。
――あの二人が別れる日も。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気持ちが固まると、作業のペースも早いもので……杏さんの手伝いもあり、ビルドガンダムMk-IIの改修は一日で終了。
ニルス君もまた行動を開始したそうなので、僕達も更に頑張って……と、思っていたんだけど。
『はい――みーなさーん! こんにちはー! ガンプラバトル選手権世界大会のイメージキャラクター、キララで〜す!
――キララン☆ 世界大会も残すところあと四戦!』
四戦? いや、準決勝二回と決勝戦で……あ、三位決定戦があるか。
一人納得しながら拍手を打ち、設置されている街灯モニターの一つを見やる。
『今ここ……静岡(しずおか)の世界大会会場では、大々的な前夜祭の真っ最中! 世界中から集まった大勢のお客さんでにぎわっています!』
キララさんがいろんな屋台やイベント会場を紹介しながら、生中継。その様子も街頭テレビで見つつ、お祭り騒ぎに目を光らせる。
『――はい! そして見てくださ〜い! この大きさ! 実物大ガンダム立像です!
何とこの前夜祭りのためだけに、お台場から移築されてきたんですよー!
さ・ら・に 業界初となる実物大ザク立像もお披露目(ひろめ)中! 指揮官機06S――赤い彗星≪シャア・アズナブル≫さんの機体です!
夜には二機もライトアップされ、美しい姿が堪能できます!』
いやぁ……よく考えたら、この状況を楽しむ余裕もなかったしねー。ただ、サボるために出てきたわけでもなくて。
『――はい! こちらはガンプラ製作教室です! 物販コーナーで買ったガンプラをその場で製作!
隣接するフリーバトルコーナーですぐ対戦させることができます! しかーも! 世界大会に出場したファイターと対戦までできちゃうんです!』
あははは、そうらしいねー。……近くのバトルコーナーを見ると、赤いデスサイズに両断されるウォドム……チョマーさんだった。
「ちくしょー!」
相手は小学生なのに……いや、一種のファンサービスだから、本気は出していないんだろうけど……そう、だよね?
『――はい! 会場内にある特設ステージでは、連日様々なトークショーやライブが行われています!
私、キララも……ミニライブをやりますので、みなさん是非見に来てくださいねー! キララン☆』
「……しっかし、決勝戦はまだだってのに凄(すご)い騒ぎだなぁ」
「今年はガンプラバトル誕生十周年でもあるしね。例年以上に盛り上がっている感じだよ。
……でも、世界大会のファイターとバトルかぁ」
「お前もやったのか?」
「父さんが出場したときにね。結局負けたけど、すっごく嬉(うれ)しかったなぁ」
「なら、ビルドガンダムMk-IIのテストには十分だな! バトルするのが楽しみ……っと、いけねぇいけねぇ」
レイジは右拳で左平手を叩(たた)き、気合い十分……だったんだけど、少し落ち着いて苦笑。
「Mk-IIはセイが動かすんだよな」
「うん」
「じゃあライナー・チョマーに挑戦したらどうだ?」
「いや……やめておくよ。チョマーさんもお仕事だし」
それで僕が空気を読まず、ビルドガンダムMk-IIで暴れたら……ねぇ。さすがに悪いと思うので、適当な場所を探すことにする。
……そう、改修したビルドガンダムMk-IIのテストバトルがしたくて。
本当は杏さんや恭文さん達に頼みたかったけど、みんなまた別の予定があるから。
特に杏さんは……プロデューサーさんが更迭とか、346プロ全体が大変だからなぁ。一旦CPが滞在するホテルに戻るらしい。
だから、バトル相手を探してこんなところに……というか、見つかるかなぁー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
プロデューサーさんが去っていった翌日……凛ちゃんは、完全に打ちのめされて。
ただそんな私達ですけど、朝一番で呼び出しがかかった。慌てて魅音さん達が待つ大部屋に向かうと。
『杏(ちゃん)!?』
「やっほー」
「杏ちゃぁぁああぁぁあぁぁぁん!」
杏ちゃんがいて、きらりちゃんが突撃……でも、杏ちゃんは牛若丸が如(ごと)き八艘飛びで回避!
「にょいぃ……CPに戻ってきてくれたんだね! よかったぁ!」
「今日だけね。実は園崎臨時プロデューサーの妹さんとお友達、こっちにも来てさ」
「そうなんですか!?」
「ほら、一応杏の扱いとかを再確認したくてさ。詩音……うちの妹と部活メンバーにも手伝ってもらったんだ。
で、杏にも直接話したいことがあったから、今日は来てもらったってわけ」
「でも莉嘉達、現状待機じゃ」
「その後のことだよ。武内さんの処分も決定したしね」
……そう言われたら、行動は迅速になるしかなかった。
慌てて全員で着席し、姿勢を正す。プロデューサーさん、一体どうなったか……そう思っていたら。
「活動ペースを落とす!?」
「うん。実はね、昨日夜遅くに武内さんが戻ってきて」
「アイツが!? どこ……どこなの! ねぇ!」
「もう東京(とうきょう)に戻ったよ。ただ何も言わなかった点については、恨まないであげて。
……更迭処分と、アンタ達への接触禁止命令が発動しているから」
「接触、禁止……!?」
「本来なら立てこもり犯三人と未央、それに凛……アンタも同罪となるはずだったんだ」
まるでプロデューサーさんが、それらを全て肩代わり……いえ、その通りですね。
その衝撃から、立ち上がった凛ちゃんが崩れ落ち、またぼう然としながら涙をこぼす。
「じゃ、じゃあその話はプロデューサーさんから……あの、どうしてですか。それなら静岡(しずおか)まで戻ってくる必要が」
「引き継ぎだよ。まず蘭子と卯月、かな子、智絵里……中二と高二組は来年受験でしょ?
受験勉強に備えさせたいって、元々親御さんからお願いされていた」
「あと……凛ちゃん、ユニット結成辺りから成績が落ち気味なんだよね。智絵里ちゃん、アーニャちゃん、みりあちゃんと莉嘉ちゃんも」
『う……!』
「みんなも武内さんから言われているだろうけど、学業との両立が最低条件。勉強を疎(おろそ)かにするならってお話」
「だったら、わたし……頑張ります! だから駄目です! アイドルとして頑張れば、きっと……みんな、もっと信じてくれる。
そうすればプロデューサーを戻してもいいって、許してくれるはず。そうです、だから」
「そうやってのめり込む姿勢が、親御さんを怖がらせているんだってー。……これだけははっきり言っておく。
次の中間考査で成績を水準まで引き上げないと、向こうは考えることすらしないよ」
つまり、今落ち気味と言われた人は水準以下ぁ!? ちょ、凛ちゃんってそこまで……アーニャちゃん達もですけど!
「だから、待ってよ! いきなり来て勝手なことばかり言わないで! 昨日から一体何なの!?」
「そりゃあ言いがかりだねぇ。わたしらというか、武内さんが決めた方針なんだけど」
「信じられるわけないよね! アイツは、一緒に進もうって言ってくれた……やっぱり私やアーニャは間違ってない。
アンタ達なんていらないし、大人の事情も知ったことじゃない。私達の、CPのプロデューサーはアイツだけ……だから」
「……仕方ない。圭ちゃん」
「あぁ……お前ら、これをしかと目に焼き付けろ」
そこで手渡されるのは、十数枚のプリント。一体何だろうと思ってチェック……するまでもなかった。
だって、一発目からおかしいんですよ。イギリスの歴史を簡単に纏(まと)めよ……テスト……渋谷凛!?
「こ、これは……!」
「武内さんがまず現状を確認したいってお願いして、各御家庭から送ってもらった≪みんなのテスト答案≫!
なお一発目は中間考査の歴史! 回答者は渋谷凛! ここでのパワーワードは――≪イギリスシティ≫だ!」
「あ……違う! これは、その!」
「ほんとにゃあ! ねぇ凛ちゃん、これ、首都って意味でいいんだよね! 首都イギリスシティって意味でいいんだよね!
……でもイギリスの首都はロンドンだよ! まずそこから勘違いってどうなの!?」
「……というかこれ、歴史について書いてないわよね。何よ、この……イギリスには魔術の学校があるって。ハリーポッター?」
「だから、違う! これはその、ニュージェネ絡みでいろいろあって、それで」
「……ねぇしぶりん、なんでヴィンテージワインの味わいを百文字近く使って書いているの? しぶりん、未成年だよね」
「それは、イギリスの歴史を表現したくて……がふ」
その結果、凛ちゃんは撃沈。珍回答を晒(さら)されたことで、完全に心がへし折れました。
「というか、しぶりん本人が”ニュージェネ絡みでいろいろあって”って認めているんだよね……!」
「そこが親御さんの、上層部の危惧する問題だ。アイドルもアンタ達の一面であり生活の一部。
それがもたらす影響が大きくて、勉学に差し支えるなら……その考え自体は決して間違っていない」
「もちろん、こんな有様の子が武内さんの無実を訴えたとしても無意味だ」
「な……!」
「当たり前だろ。これは武内さんの管理責任となる話だ。お前の不出来そのものが、声高らかに叫んでいるんだよ。
……武内さんはCPのプロデューサーとしてふさわしくない。即刻解任するべきだ……ってな」
圭一さんの鋭い指摘に、凛ちゃんがまた言葉を失う。
そんなはずは……そんなはずはないと言いたくても、言葉にできない様子だった。
でもですね、問題はそこじゃなくて……一枚目からコレってところですよ!
二枚目、三枚目と同等以上のものが飛び出しそうで怖い! というか……!
「あの、今更ですけど……みんなにテスト答案を見せるっていいんですか!?」
「御両親の許可は取ってあるから、心配しなくていいよ。……まぁ覚悟の上だけどね。
”自分の娘はこんなに馬鹿なので、どうか矯正に協力してください”って言うのと同じわけで」
「そんな悲壮な覚悟にゃあ!?」
「がふ……!」
あぁ、そんな覚悟をさせた凛ちゃんが吐血をー! でも自業自得ですから、同情はしません!
「それに実際問題、ユニットメンバーの理解と協力も必要だしね。アンタ達は杏以外ソロ曲もないし、どうしても足を引かれやすい」
「ロ、ロックすぎ……というか鬼じゃん! それって実質戦犯のつるし上げでは!」
「李衣菜、何を言っているんだ? ……だったら勉強して! 水準以上の成績を取ればいいんじゃないかなぁ!」
「ごもっともですお代官様ぁ!」
圭一さんからド正論がぁぁぁぁぁぁぁぁ! 確かに反論できません! その通りです! 珍回答とか出さないよう、勉強するのが一番です!
「……あ、というかそうじゃんー。それでちゃんといい成績を取っていれば、問題ないわけで」
「みくも進学校だし、そこは問題」
「あるぞ! お前の場合立てこもり事件近辺は成績が落ち込み、やはりアイドル活動の影響を危惧する形となっている! 親御さんも心配しまくりだ!」
「にゃああああああああ!?」
「ではそんな覚悟の元、続いていこうか……蘭子とアーニャ、莉嘉も相当どぎついよー」
「「ひぃ!?」」
「莉嘉も!?」
――そうして一ページ一ページをめくるごとに、成績以前の何か……とても大きな問題を突きつけられていく私達。
それでもっと仕事をしたいとか、そういうことは誰一人言えなくなった。
アーニャちゃんも本当に現国がメタメタで、両手で顔を覆ってぐすぐす泣いていた。
なお蘭子ちゃんについては、レポート制作で中二病用語と知識を連発した……くらいでした。
いや、それがキツいと言えばキツいんですけど、成績自体はむしろ良好で。
「みんな、分かってくれた? これを見せられた……お父さん達の気持ちが」
『あ、はい』
「武内さん、特に……凛ちゃんと蘭子ちゃんの答案には絶句してたらしいよ? 冷や汗ダラダラ流して、胃薬が必要になったって」
「「あ……ゥ……!」」
「ただ蘭子については、レポート制作でやらかしただけ……とも言えるしねぇ。何、幕末が好きなの?」
「さ、最近大河ドラマの再放送を見て……それで、熱が入りすぎて……! そうしたら時間、なくなって……そのまま」
「回答欄が空白よりはマシと。なら今度は冷静に……誰にでも伝わる形で、その熱をぶつけてみなよ」
そういうことならと、魅音さんは笑って背中を押す。それで蘭子ちゃんがハッとして顔を上げた。
「受験は一発勝負。そういうクールさも必要だ。一年も時間があるんだし、今のうちから準備していくよ」
「は、はい! そうです……あの、ごめんなさい。確かに私達、いろいろと勉強不足で……」
「みりあも、納得した。もっと勉強します」
「莉嘉達は踏ん張らなきゃね。凛ちゃんみたいに、ならないよう」
「凛ちゃん、ごめんねぇ。きらりも……アレだけならともかく、数学や物理もアウトだと……うん」
「それがニュージェネ問題で揺れていた中間考査の時期だからねぇ。反論できないってー」
「あああぁぁぁぁあぁあぁ! ああああぁあぁぁぁあぁぁ!」
あぁ! 特にヒドかった凛ちゃんが発狂した! 床でぎったんばったん……ちょっとうるさいので、軽く乗っかって押さえつけー!
「がふ!」
「凛ちゃん、埃(ほこり)が立つし、迷惑だからやめましょうねー。あと、ごめんなさい……は?」
「う、うぢゅ……!?」
「みんなにわがままを言って、迷惑をかけて、不愉快な思いをさせて、ごめんなさい――は?」
私が一番腹立たしいのは、昨日した勝負の結果すらすっ飛ばしたこと。
それでいろいろ気づかってくれていた魅音さん達に、その顔に泥を擦りつけたこと。
そう、怒っています。私、怒っていたんですよ? ……今更察した凛ちゃんは顔を真っ青にして。
「ごめん、なさい……」
「凛ちゃん?」
「みんなにわがままを言って、迷惑をかけて……不愉快な、思いをさせて……ごめん、なさい……!」
「はい、よろしい。でも……またさっきと同じことをしたら、絶対許しませんから」
ちゃんと、心から謝ってくれる。警告もしたので問題なし……これで解決! 笑顔溢れる楽しい職場です!
「……卯月、お前やっぱり」
「やっぱりってなんですか!」
「大丈夫だよ、しまむー。何があっても、しまむーとはずっと友達だから……」
「未央ちゃーん!?」
ちょ、やめてくださいよ! みんなしてそんな……恐れるような目を! 違います違います! 私はド外道の島村じゃありませんー!
「でも安心していいよ。アンタ達の根性をたたき直すのと同時に――わたし達が勉強を見てあげるから」
『え!?』
「実はレナ達が通っていた雛見沢(ひなみざわ)分校って、人数の問題から学年混同だったんだ。だからね、学力はともかく教えるのは慣れているの」
「それに圭ちゃんもいる! わたしはまた別の仕事があるから、あんま見られないだろうけど……みんなの範囲くらいなら朝飯前さ!」
「いや、せめて事前学習はさせてくれ。範囲をきちんと把握もせずに教えるのは」
「むしろ眠りながら予言みたいに指示できるよ! 正しく眠りの圭一!」
「できるかぁ!」
そうでした……みなさんは大学生でした! つまりその、家庭教師的なサムシング!?
しかも勉強が得意な人もいるなら……いけます! まずは中間考査を目指して勉強していけば!
と、というか……私も頑張らないと。さすがに、イギリスシティは恥ずかしいですし。
「しまむー!」
「はいー!」
未央ちゃんと両手を取り、示された救いに感動。なお足下で『ぐぇ!?』という声が聞こえたけど、きっと気のせいですね。
「で、ニンジンをちらつかせるわけじゃないけど……いい置き土産もあるんだ」
「置き土産?」
「……みんなのソロ曲だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
ソロ曲!? つまり私や、未央ちゃんだけのソロ曲が!?
あれ、でもそれが置き土産ということは……そうか! 謎は全て解けました!
「プロデューサーさんが準備してくれていたんですね!」
「ただ今すぐには出せない。わたしが打ち合わせを引き継いで、コンセプトを形にするから」
「も、もしかしてそれが”別の仕事”にゃ!?」
「オフコース! えっと……一番乗りは美波かな。こっちは楽曲のサンプルデータがもうすぐ仕上がる」
「私!?」
「そう。ただ他のみんなは、まだコンセプトを詰める段階だから……」
魅音さんは分厚いフォルダを取り出しパラパラ。改めての確認みたいです。
でもあれ、私達のためにプロデューサーさんが……駄目です。
凛ちゃんみたいに、引きずられちゃ駄目です。私達は、踏ん張らないと……!
「やっぱ、中間考査が終わるまでは待ってほしいかな」
「だからPちゃん、わざわざこっちに戻ってきてくれて……でも、よく許してくれたというか」
「わたしらが素人って点もあるから、必死にお願いしたみたい。……だからCP臨時プロデューサー:園崎魅音としても約束する。
あの人が残してくれたものは、必ず……何があろうと形にする。でもそのとき、アンタ達の受け入れ体制が整っていなかったら?」
『あ……』
そうか、だから最初に勉強の話をしたんですね。……学業もやっぱり大事です。それとお仕事を両立してこその学生アイドル。
でもそれができなかったら、プロデューサーさんが準備してくれていたものも……最後の贈り物も受け取れない。
だから魅音さん達は叱咤(しった)していた。受け取りたいのであれば、まずは前提を守れと……それも通さない上での『頑張る』は、ただの駄々(だだ)だと。
「分かりました……私、頑張ります!」
「きらりもだよ! と、というか……きらり、数学と英語が苦手で」
「なら今やっている範囲を教えてくれ。俺もできる限りフォローしていく」
「分かった! あの、学校から夏休みの宿題も出されたから……持ってくるね!」
「智絵里ちゃん、これは頑張らないと」
「うん……ちゃんと、受け取っていかないと……それくらい強くならないと、プロデューサーも安心できないから。あの、よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
「任せろ! これも萌(も)えの伝道師に近づく第一歩……げふ!」
なぜか光に突き飛ばされた圭一さんはともかく、私達は決意を改める。ここからまた、新しい挑戦……新しい戦い。
厳しいことも待っていると思います。でも、どうしてでしょう。とても心が熱く、燃えているんです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
モノアイを光らせ、全弾発射するズサの改造機体。ヒートナタをパタパタさせ、回避しようとするけど……ザクレロは結局直撃を受け爆発。
「いやああぁあぁああぁあぁ!?」
「……何かあったんでしょうか」
「ランカーとしてのファンサービス中です。……とはいえ、実力が出せる程度のハンデにすればいいものを」
チナさん、それにアイラさんとリン子さんの四人で、会場近くのフェスを練り歩く。
まぁまぁわたくし達も準決勝の準備があるのですけど、気分転換は必要ということで。
「それにしてもすごい人ねぇ」
「ここにいる人たちは、みんなレイジやヤスフミ達のバトルを楽しみにしているんだ」
「ダーリンが出場した世界大会、思い出すわー」
「……よし」
そこでアイラさんが一歩前に出て、わたくしに向き直る。
「あの、セシリアさん、チナを少しの間借りても」
「と言いますと」
「わたし、自分専用のガンプラを作りたくて……」
その言葉にチナさんも、リン子さんも、わたくしも驚かされる。
この子の経緯を考えれば……いえ、もうこの子は自分で選び取れるんですね。楽しいガンプラを――面白いバトルを。
「あの、ただチナはセコンドだし、無理は言わないので」
「構いませんわよ。チナさんも乗り気ですし」
「ふぇ!?」
「顔を見れば一目瞭然です」
「いや、あの……光栄ではあるんだけど、わたしでいいの? 卯月先輩とか、凛さん達とか」
「えぇ。それに……ベアッガイIII、見せてくれたでしょ? 塗装がすっごく奇麗だったから、コツも教えてほしくて」
「――うん! だったらあの、一緒に頑張ろうね!」
二人は嬉(うれ)しそうに手を取り合い、一緒に期待を作ると決意。その様子を温かく見守っていると。
「よし! じゃあ……私も作っちゃおうかしら!」
リン子さんが、いきなり奮起を……!
「お母さんが!?」
「いや……さすがに、ダーリンの悪評にも繋(つな)がると言われたら……ね?
セイも本気で怒ってたし、そろそろ改善しないと……!」
なるほど、進むと決めた……そういうことですね。
息子や夫達に置いていかれ、それを嘆くのではなく……ならばその戦う決意、萎(しぼ)まないうちに育てなくては。
「仕方ありませんわねぇ。そちらはわたくしが教えましょう」
「いいの!?」
「ただし……わたくしはスパルタですわよ――!」
「了解であります!」
敬礼するリン子さんに、チナさん達と笑顔を送りながらも歩いていく。
世界の危機かもしれない状況で、のんきでしょうか。ですが緊張しすぎも悪手……リラックスも大事ですわ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――にしても気前がいいよなぁ! 出場選手はここのメシが全部タダなんてよぉ!」
レイジは右手のイカ焼きにかじりつく。なお、左手には特大サイズのドリンクがあり、首からは袋入りのハロ焼きを提げていた。
正しく至福のフルアーマー。レイジはイカ焼きを味わいながら、とても幸せそうだった。
「福利厚生の一つ……ようは食堂代わりでもあるみたい」
「別に食堂があるのになぁ。あそこもすげー美味(うま)いぞ」
「そうそう。だから欲張り過ぎだよ、レイジ」
「ここで欲張らなくてどうすんだよ。……あ、マオも食べるか?」
そんな至福なレイジだけど、気づかうことは忘れない。……脇で沈んでいるマオ君に、気分転換を勧めるけど。
「遠慮しときます……」
「マオくん……元気、出そうよ」
「せやかて……ミサキちゃんはいいひんくなるし、ガンダムX魔王はぼろぼろにされるし……ワイ……」
「ぼろぼろ!? え、修理してなかったのかな!」
「違いますぅ! ミサキちゃんに見直してもらえるよう、ガンプラバトルで気持ちを改めようとして……模擬戦、したら……ボロ負け……!」
あぁ……一応、反省してやり直す感じだったんだ。でもそこで駄目押しされて、更にヘコんだと。
ただ疑問はある。マオ君の腕前はよく知っているし、それで……ぼろぼろにされるって。
しかもボロ負けだよ? 恭文さんだってかなりギリギリの勝負だったわけで。
だからレイジも、僕も、相手が気になるわけで。
「じゃあ相手は誰だよ。お前がボロ負けってよっぽどだろ」
「ジュリアン・マッケンジーさんですぅ……」
「あの人と!?」
「選手村で、バッタリ……そうしたら、そうしたら……!」
「……ユウキ・タツヤより強かったそうだしなぁ。まぁ上には上がいるってこった」
「うあぁぁあああぁあぁぁあぁあぁあああぁぁぁあ!」
「――じゃかあしい!」
すると作務衣(さむえ)姿のおじいさんが、マオ君の左横から跳び蹴り! マオ君は派手に地面にずっこけた。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
「かぁあぁぁぁぁぁつ! マオ、なんやその態度は!」
「し、師匠!?」
え、この人がガンプラ心形流の珍庵さん!? わぁ、凄(すご)い有名人だろうに、何だろう! この感動のない出会い!
「邪(よこしま)な思いに捕らわれおって! 曇りなき心で作り! 戦う! ガンプラ心形流の極意、もおわすれおったか!」
「わああぁぁぁあ!?」
そのままマオ君は、首根っこを掴(つか)まれてどんどん引きずられていく――。
「その腐った性根、たたきなおしたる!」
「し、ししょうおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
……とりあえず僕達は、静かに敬礼……そうしてマオ君を見送るので精一杯だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マオ君の無事を祈りつつ、当初の目的通りバトル相手を探していたところ――。
『さあ! 絶賛白熱爆闘中! ガンプラ一年分を賭けたバトルロイヤル――司会は私、佐田潤乃でお送りしております!』
そうして声を張り上げる司会者さんは……わ、凄(すご)い! レイン・ミカムラ(ファイティングスーツVer)のコスプレだぁ!
しかもスタイルは劇中にも負けていない! あのオレンジ髪の人もアイドルさんかな!
『この戦いを勝ち抜き、商品を頂かせてもらう!』
『そうはいかない』
『む?』
『商品であるガンプラ一年分は、この僕と僕の愛機……ピカー!』
ただ、そんな驚きも吹き飛ばす声が響いてきて。
バトルフィールド……月近海で飛行するのは、金色のターンX。
更に対峙(たいじ)するのは、モノアイを光らせるギャン。いや、ギャンの改造機体!
『ギャンバルカンの物だぁぁぁぁぁぁぁ!』
ギャンバルカンの両手にはシールド。
ボディは高機動型ギャンで、腕はギャンキャノン?
ランドセルはガトリング二門を背負い、色はノーマルギャンに準拠。
それを操るのは、サザキだった。というか……ターンXはゴンダ先輩ー!
間違いない、ゴンダ先輩はユウキ先輩を追いかけてきたんだ! すっごく心配していたしなぁ!
シールドを軽くたたき合わせ、ギャンバルカンはミサイルを連続発射。
しかしゴンダ先輩もいっぱしのビルドファイター。素早く回避して……!
『その程度の攻撃でぇ! すべてのガンプラのお兄さんであるターンXを倒そうとはぁ!』
ゴンダ先輩、それはギンガナムですね。でも別に……ターンXはお兄さんじゃありません!
『月光蝶であぁぁぁぁぁぁるぅ!』
月を背に上昇したターンXは、背面から虹色に輝くナノマシンを放出。月光蝶による範囲攻撃……と思ったら。
『それ以上させなぁい!』
『させ! させ! なさせぇ!』
ターンXは再び放たれたミサイルを、全身バラバラになりながら回避。
「おいセイ、バラバラになったぞ!」
「ターンXは身体のボディ全てがビットになっているんだ。だから」
あのままオールレンジ攻撃を……でもそこで、ギャンバルカンのガトリングが弾幕を展開。
広範囲にまき散らされた弾丸を回避し切れず、バラバラのボディ一つ一つが撃ち落とされていく。
結果、最後に残った頭部≪Xトップ≫も破壊……バトルはサザキの勝ちとなった。
『おのぉぉぉぉれぇぇぇぇぇ!?』
『――これが僕の考えた、究極のギャンだぁ!』
サザキ、自信作なんだなぁ。拳を突き出しながら笑っていたよ。でも凄(すご)い出来(でき)だ……そうだね、世界大会に出て終わりじゃない。
サザキも、ゴンダ先輩も、大会で知り合った人達も……みんなどんどん成長していく。僕も置いていかれないよう頑張らないと。
「……よぉ、イオリ!」
気持ちを改めていると、ゴンダ先輩が気づいて手を振ってくる。
「レイジも、ベスト4進出おめでとう! 応援しているからなぁ!」
「ありがとうございます! ゴンダ先輩!」
「ありがとよー。……あ、そういやユウキ・タツヤのことだが」
「心配するな! 会長とは先日ゆっくり話をさせてもらった! 島村も同じくだ!」
「そっか。そりゃよかったなー」
あぁ、そうだったんだ……レイジがこっちを見るので、知らなかったと首を振る。
でもそれなら安心だよー。模型部もどうなるのかって思ってたんだけど、この調子なら。
『セイ君、勘違いしないでくれよ?』
「……あ、ごめん。君のことをすっかり忘れてた」
『酷(ひど)くないかなぁ!』
「いや、こっちもいろいろあって。で、勘違いって」
『ボクは君の応援に来たわけじゃなく、来年の選手権のために――敵情視察に来たんだ!』
「「……気が長いなぁ」」
つい声をハモらせたところで、バトルフィールドに変化。トリコローレカラーの機体が宇宙を走る。
『おーっと! ニューチャレンジャーの登場です!』
「おい、あのガンプラは!」
「フェニーチェ……いや違う!」
そうだ、フェニーチェじゃない。フェニーチェはアシンメトリーなため、変形機構を廃した作りだ。
でもそれを操る人もまた、当然のように僕達が知る人だった。
『ふ……先日の試合には間に合わなかったが、相棒の改修は完了。試運転がてら――』
バード形態から変形――あれは両翼に翼があり、ビームマント発生装置も完備。
翼の形状もウイングガンダムとは大きく違う。推力強化のためか、追加パーツが多数くっついていた。
両足側面には蛇腹状の追加スラスター。シールドや頭部形状は改められ、Zガンダム系のフェイスに近くなっている。
『商品はイタリアの伊達(だて)男と』
『あおー!』
ツインアイを輝かせながら、生まれ変わった不死鳥は高らかに燃え上がる。
『ガンダムフェニーチェリナーシタがもらったぁ!』
『き、聞いてないよぉ! 世界大会のベスト8が相手だなんてー!』
そりゃそうだ……! フェニーチェさん、完全にアレだし!
とにかく展開される弾幕を、バード形態に再変形・加速することで迂回(うかい)。
そのまま左に大回りしてMS形態へ変形し、バスターライフルカスタム下部から、グリップ型のパーツをパージ。
それを左手でキャッチし、直刀型ビームソードを発振した。あれも、今までのフェニーチェではないギミック!
サザキは咄嗟(とっさ)にシールドを構えるけど、それは……本当に容易(たやす)く、ギャンバルカンごと両断される。
……一瞬のせめぎ合いが行われたとき、サーベルが僅かに揺らめいたのを見逃さなかった。
恐らくはシールドの状態に合わせて、粒子の性質を変換している。間違いない……あれは粒子変容技術だ!
≪BATTLE END≫
『ギャンバルカァァァァァァァァァン!』
『Evvai!』
『さすがはイタリアの伊達(だて)男! 圧倒的勝利です! ……あ、エッバイとはイタリア語で”よっしゃ”という意味だそうです』
あ、司会のお姉さんが博識だ。一体なんだと思ってたんだけど……でも、それ以前の問題だよね……!
「なんて大人気ない……」
「もはやいじめだろ」
『こらそこ! 童心に返ったと言え!』
「「いやいやいやいやいや……」」
さすがにあり得ないので手を振っていると。
「イオリくん」
後ろから声がかかってきた。振り返ると……委員長が笑顔で立っていた。
委員長と鉢合わせた……一体どうしたのかと思っていると、いきなり二人して引っ張られて。
そこで入ったのは製作教室。ハイザックやゴッドガンダム、シュピーゲルを作っている家族ずれなどを見つつ、奥の方へと進んでいく。
「なんだ、新しいガンプラを作るのか」
「わたしじゃなくて、アイラさんの」
「え」
「ん?」
アイラさんの!? あぁ、でもそっか……やっぱりガンプラとバトル、好きになってくれたんだ!
それならよかったと安堵(あんど)していたら、もっと信じられない光景に出くわして。
「説明書に書いてある通り、ポリキャップを先にはめ込んでから、パーツを合わせるんです」
「こう……ですね」
「いいね、才能がある」
「こう、かしら……!」
「えぇ、そうですわよ。説明書を、ちゃんと読むのがコツです。(ぴー)型女の特性全開で、ガン無視しないように」
「はい、教官ー!」
アイラさんが、ユウキ先輩からガンプラ作りを教わっている。作っているのはHGUC サザビーかな。
で、問題は……母さんとセシリアさんがぁ! 母さんが、ボールを作っているだと!
「これ、悪夢?」
「イオリくん!?」
「……ママさんも成長したってことだ」
「僕の努力って一体……」
「だから成長したんだ」
「そ、そうそう……!」
セシリアさんとは犬猿の仲だったはずなのに、どうしてこうなった。
軽くフラつき始めていると、ユウキ先輩がこちらを見やり、苦笑する。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あっちこっちで大騒ぎ。でもここには、たくさんの笑顔と楽しさがあって。
それをユウキ先輩と一緒に高台から見下ろしていた。それで夏らしい爽やかな風が吹き込んで――。
「良い景色だ……ここにいる誰もが、ガンプラを楽しんでいる」
「今日はメイジンって奴じゃないのか」
「あの格好はまだまだ荷が重くてね。たまには息抜きをと勧められている」
「……ユウキ先輩」
そうだ、いい機会だ。ちゃんと確認しておこう。もう……今更ではあるんだけど。
「ユウキ先輩が地区予選を途中辞退したのは、三代目メイジン・カワグチになるためですね。
……あなたはガンプラ塾バトルトーナメントで優勝し、メイジン候補となった。それで二代目が倒れたことで呼び出されて」
「その通りだよ。あのときはイオリ君達に、大変申し訳ないことをしたと思っている……改めて謝罪するよ、済まない」
「別に構わねぇよ。世界大会の決勝っていう最高の舞台で、アンタと競い合える……かもしれないしよ」
「その通りです。僕らはそれ以上、何も望みません」
「……眩(まぶ)しいね、君達は」
……まぁ、そのためには僕達もセシリアさんと委員長に勝たなきゃいけないし、恭文さんだっているけどね!
でももし、もしも戦えるとしたら……そんな状況が嬉(うれ)しくて、レイジと二人笑っていた。
……会長はフェンスに手を置いて、改めて会場を眺めながら呟(つぶや)く。
「イオリ君、覚えているかい。私がなぜ君にこだわっているか――私に勝てば、その理由を教えると言ったこと」
「はい」
「実はね、私がメイジンになったきっかけは、イオリ君のお父さん……イオリ・タケシさんなんだ」
「――父さんが!? あ、でも……待ってください」
そうだそうだ、地区予選優勝の副賞で、恭文さん達とミサキさんの旅館に泊まったとき……軽く聞いてる!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
外での仕事を終えて、静岡(しずおか)に戻ってきた……戻ってきた、んだけど……!。
「大盛況ですわ、会長。会場の入場者数、グッズの売り上げともに、前年比百四十パーセントを達成しています」
その言葉に満足しながら、ワイングラスを揺らす。ヴィンテージワインの赤を見つめ、満足しながら頷(うなず)いた。
「一代でこれほどまでのガンプラブームを築かれるなんて、さすがはマシタ会長です」
「ははははー! なんのなんの! 私の手にかかれば、この程度のイベントを成功させることは……って、ちがぁぁぁぁぁぁぁう!」
ワインをこぼすともったいないので、丁寧にグラスを置いて……その上でベイカーちゃんに詰め寄る!
「問題はそこじゃなーい! あの少年やゴーストボーイがベスト4に残っている上、例の刑事達の返答は梨のつぶて!
しかも、Cが依頼主の裏付けを取っていたから、ボク達のこともバレちゃう感じなんだろ!?
……あの少年やゴーストボーイが優勝したら困るのぉ! 会社のCEOに起用しなきゃいけないし、私と会う機会が多くなるしぃ!
そういうの嫌なのぉ! 早くどっかに行ってほしいのよぉ! ボクはね、ただただお金を儲(もう)けたいだけなのぉ!」
「御安心ください、会長」
「その台詞(せりふ)を何度も聞いたぁ! でも上手(うま)くいってないじゃん!」
すると、ベイカーちゃんはいきなり私に背を向けてきた。
「……ベイカーちゃん?」
「今度こそ御安心ください」
かと思うと、素早く振り向き満面の笑み。
「まずはゴーストボーイからになりますが、確実に始末を」
「というと」
「既に準決勝の組み合わせは出ています。まずはこちらを」
おぉそうだった! 準決勝って明後日だもんね! ベイカーちゃんから受け取った用紙を慌ててチェック。
「えっと……」
準決勝第一試合≪日本(にほん)代表第二ブロック:チームとまとVS日本(にほん)特別枠:三代目メイジン・カワグチ≫
準決勝第二試合≪日本(にほん)代表第三ブロック:イオリ・セイ&レイジ組VSイギリス第二ブロック代表:セシリア・オルコット&コウサカ・チナ組≫
「ゴーストボーイはガンプラ塾バトルトーナメントにおいて、メイジンに敗北しています。つまりメイジンの勝利は疑いようがないのです」
「……ほんとにぃ? だって、ゴーストボーイにはカテドラルが」
「しかも念には念を入れ、ある人物の協力を仰いでいます」
「誰? 誰?」
「本人はいませんが……その研究データの解析及び運用は、既に実用段階です」
そう言いながら、次にベイカーちゃんが取り出したのは……何これ、メイジンのサングラス? いや、もっと厳(いか)ついデザインになっているけど。
「協力者の名前は、フラナ機関のナイン・バルト」
「ちょっと、それは!」
「エンボディシステム……それは会長のアリスタを用いることで、より高度な力を発揮します」
「ボクの、アリスタと!?」
「えぇ。それでメイジンは正真正銘、PPSE社と会長の思想を体現する勇者となるのです」
おぉ……なんか、すっごく強そうじゃん! そうだ、まずはあの……散々邪魔してくれたゴーストボーイに仕返しだ!
今度こそ見せてやる! ボク達の邪魔をすると、痛い目に遭うってさ!
(Memory69へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、次回もガンプライブ……なので前回もちょこっとタイトル変更となりました」
(書きたいことたくさんだった。ごめんなさい)
恭文「そう、だってリナーシタのアレとか、セイ達のアレとか出してないしね! なお劇中、ガオウライナーの話は読者アイディアとなります」
(アイディア、ありがとうございました)
恭文「CPに付いても一つの救いとプレゼントを提示しつつ……そろそろ格付けチェックを進めよう」
古鉄≪なおこの鮮烈な日常連続更新は、インターバルの特別ドラマとでも考えてください。この間も松村会長達は走り続け……≫
恭文「それは言わないでー!」
(愛は地球を救うノリです)
恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」
古鉄≪どうも私です。でもこのお話のイベント、本当に楽しそうなんですよねぇ≫
恭文「歴代ガンダムキャラもモブとして次々と……幸せそうな形で登場だからなぁ。そう、だから三日月達も」
古鉄≪どこかでバルバトスを作っていることでしょう≫
恭文「まだ発売されていないよ!?」
古鉄≪バルバトス(Gジェネ)を≫
恭文「そっちか!」
(何だかんだで鉄血は、心に強く残り続けている……)
恭文「あれ、待てよ。確かフォウやロザミア、プル達も出ていたから……カミーユやジュドーとお幸せにー!」
古鉄≪……フォウでゆかなさんを連想しましたね≫
恭文「言うな!」
(それでも応援する蒼い古き鉄であった)
恭文「FGOの水着イベント2017もいよいよ中盤……そろそろ決めなくては。フランか、信長・ザ・ロックか」
古鉄≪はたまたシャーロック・ホームズか≫
恭文「それは、今回はなしで……! というかせめてニトクリスじゃね!? ネロ(術)の宝具レベル3も狙えるよ!」
古鉄≪まぁそれも、第二部が始まってから決めましょうか≫
恭文「だね。今回の話、やっぱり裏がありそうだし……というわけでイシュタル、吐け」
イシュタル「吐くかぁ! というかネタバレでしょ……あと、やめて。ナカさん式尋問とか、やめて」
恭文「……吐けぇ……吐けぇ――」
イシュタル「くぅぅぅぅぅぅぅぅ! 噂以上に陰湿ね、この取り調べ!」
(現在、二時間経過……あと二四時間は粘る予定です。
本日のED:貴水博之『Wish in the dark』)
恭文「ベルソナ5がアニメ化決定で各所が沸き立つ中、こんな拍手が届きました」
(※副会長「ネロ皇帝陛下(術)へ、貴女の戦闘を見せていただき、我々はとても感銘を受けました!
ここはどうか我々と同盟(にゅうかい)をしてはいただけないでしょうか?
もちろん同盟の証として我々が保有する絶景リゾートプライベートビーチの年間使用権をお贈りします・・・ささやかながら物件としては優良だと思います
・・・それと我々の活動には隊長(恭文)が度々参加されるので、同盟は皇帝陛下が活動に参加するのに都合の良い理由となるはずです・・・もちろん同盟をしたからといって活動を強制するものではございません。
自由意思で参加して頂ければ、もしよければご一考いただけないでしょうか?」
by鬼畜法人撃滅鉄の会・副会長※戦闘シーン超最高でした!丹下桜さんボイス超可愛い!!!!!by読者)
恭文「拍手、ありがとうございます。……というか副会長ー!」
ネロ(Fate)「おぉ……これはありがたい! その同盟、喜んで受けよう!
では早速奏者とリゾートプライベートビーチで、二人っきりのバカンスだー!」
恭文「待って! 僕はイシュタルの取り調べが……」
イシュタル「いってらっしゃーい! もうそのまましばらく……夏が終わるまで帰ってこなくていいわよー!」
フェイト「そ、それは困るよ! えっと、お夕飯までには帰ってきてね?」
恭文「バカンスの意味を分かってねぇぇぇぇぇぇぇぇ! というか、ネロ、引っ張らないで! なんか飛ばないでー!」
ネロ(Fate)「奏者とバカンス……あんなことやこんなことをして、いーっぱい遊ぶぞー!」(うきうき)
(おしまい)
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!