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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory67 『ガンプラ・イブ/PART1』

エストレアの修復は……もうめっちゃ気合いを入れて、何とか完了! あはははー、負けた悔しさで寝られず、完徹になったッスけどねー!

それはそうと……恭文君とニルス君達が組んでくれた、粒子結晶体破壊プランをチェック。


「まぁまぁ無茶(むちゃ)なことを考えるッスねー」

「みんな若いから。さてトウリさん、俺達もかるーく暇になったけど」

「当然こっちに回るッスよ。予想される被害の規模やその流れ、徹底シミュレーションして、データとして付け加えるッス」

「了解!」


もちろんこの準備は、無駄に終わった方がいいことだ。それで『ふざけやがってー!』とやけ酒ならぬやけおでんを煽(あお)るべきだ。

粒子結晶体についても所在とその正体が判明次第、すぐ避難警告を出すべき事態。当然みんなもそれは視野に入れている。

そうして安全確実に回収すれば、問題なく解決するわけッスよ。ただ自分の……フェンリルとして培った勘が告げていた。


……最悪の事態はとてもすぐ近くまで、迫っていると。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さ、さすがにキツい……AGE-FXのAGEシステム、それにファンネル運用技術を応用してはいますけど、ここまでとなると……!


「リインさん、一旦休憩しましょうか」

「いえ……大丈夫、なのです!」


バトルルームでへばっていたリインは、一気に起き上がって汗を払う。


「でも、無理して倒れたら」

「恭文さんがリインにならと、託してくれた子達なのです」


リインが見やるのは、ベース上のブルーウィザードR達……特にブルーウィザードは、恭文さんにとって大事なガンプラ。

実はリイン、とっても嬉(うれ)しかったのですよ。だから拳をバキバキ鳴らし、再度バトルベースに向かう。

練習に付き合ってくれている千早さん、ともみさん……それに、ディアーチェとユーリにも、倒れたままは失礼ですから。


「だからどんと来いなのです!」

「全く……その小さな体のどこに、その気力をため込んでいたのか」


ディアーチェは呆(あき)れ気味に、ラファエル・ドゥーンとセラヴィーガンダム三機を再セット。


「行くぞ、ユーリよ」

「でも」

「言ったところで聞く奴ではない。……こやつも十分”鉄”ということだ」

「……分かりました。ならせめて、これを」


ユーリは慌ててリインのところへ来て、スポーツドリンクを渡してくれる。


「ありがとうですー」


それを受け取り、ぐいっと一気飲み……キンキンに冷えたドリンクのおかげで、水分・塩分補給はバッチリ!

飲み干した容器はきちんとゴミ箱に入れてから、改めて準備!


「さぁ、いくのですよ!」

「……えぇ。やりましょうか」

「ああもう……でも、夕飯前にはやめるよ? ご飯を抜きは駄目」

「はいですー!」


深呼吸して、指先を鳴らすように動かす。さぁ、AGE-FX……そう言えばまだ、ちゃんと機体名を付けてなかったですね。

ならそれも、この納得の行く仕上がりにしてからです。やるですよー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


りんとマオが手伝ってくれたおかげで、予想以上の速度で作業が進行した。特に盛り上がったのは、最近できた弟弟子のミナトについて。

マオからすると憎らしいそうだけど、その分愛着もあるそうで。りんと二人、すっかり”のろけ”を聞かされまくってさぁ。

なので今日もまた……と思っていたら、マオが動けなくなった。いや、ある意味自業自得なんだけど。


戦えるかどうかも微妙な傷なので、ニルスと杏を呼んで相談したところ……二人とも、顔を背けて大きくため息。


「杏は嫌な予感がしていたよ。足下がお留守なスキップ具合だったし」

「うん、あたしも同じ感じがした。だから”盛り上がりすぎないように”と女子的に注意したんだけど……聞いてなかったかー!」

「未来に何の憂いも、疑いもなかったしね。仕方ないね」

「仕方ありません、ヤサカさんは数から外しましょう」


ニルスは”度し難い”と口から出かけながらも、必死の形相でそれを堪える。大人になったなー。


「ニルスも気をつけないとねぇ。だってあれでしょ? ヤジマ商事のお嬢様に見初められて」

「アンズ!?」

「まぁまぁ。……それでカテドラルは」

「説明した通りに」

「そう」

「ごめん、ニルス」

「いえ。ボクもそれが正解だと思いますから……で、そちらが」


ニルスはアストレイを見つつ、なぜか杏と一緒に表情を緩めた。


「やっぱり銀色かぁ」

「そうだよー。蒼い幽霊とくれば、やっぱりこれかなーってね」

「りん達に押し切られちゃって」

「存在しないはずの機体。六番目のオリジナルアストレイ――アストレイ・ゴーストフレーム」

「それでいいの?」

「そちらの方が面白いかと」


りんのアストレイ(設定)もそうだけど、いわゆる原典アストレイに寄せた改造キットが市販されている状況だからなぁ。

だからね、別に六番目じゃなくていいのよ。これもそういうキットを使った量産型アストレイって形にすればさ。

でもニルスはあえて、幽霊の名を冠してくれた。六番目のアストレイ……それがこれだと。


「期待には応えなきゃなぁ、ヤスフミ?」

「そうだね……うん、その通りだ」

「ならこの子は、今からゴーストフレーム――存在しないはずの”幽霊”ですね」

「何とか準決勝前には、準備を整えられそうだな……もぐもぐ」

≪リインちゃんの方も、ともみちゃんと千早ちゃん達が協力して練習中なの!≫

≪とりあえずマオさんが抜けた穴は埋められそうですね≫

「というか、ミサキさんも会場から離れてもらうべきでは……」


一応マオにはそこだけ、ちゃんと話しておこうと思う。……そこでとたとたと足音が響いてきて。


「ちょっと、大変よ!」


ティアナが飛び込んできた。夏で薄着なのに、それが軽く乱れて……相当慌てて走ってきたらしい。


「あぁ……よかった! 杏もいたのね!」

「うん、いたよー。それでどうしたのかな、ティアナさん」

「何、ダーグが粒子結晶体を見つけたとか」

「違うの! 今律子さんから連絡があって……346プロの今西部長と千川ちひろさん、更迭されたって!」

「……は?」

「ちょ、それって……恭文!」

「そっちも動き出しているってことかぁ」


でもそれなら僕には……大会中だし、気づかってくれたんだね。うん、そこは感謝しよう。

でも卯月が……タツヤにも心配をかけるかもだし、また話しておこうか。


「卯月達もここからが正念場だ」

≪ある意味、こちらも自業自得ですけどね≫




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory67 『ガンプラ・イブ/PART1』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


状況を理解するのに数分かかりながらも、島村さんを集合し、改めて説明。


「……じゃあ確認です、プロデューサーさん。杏ちゃんの御両親は、何が起きているかとかは」

「知らないそうです。我々への不信感から、そう装っているだけかもしれませんが」

「それで部長達は何かこう、その辺りで問題を」

「いえ。……まず前提として、双葉さんは未成年であり学生。ここにも仕事絡みでの宿泊ですし、その身柄と安全は美城が背負う形となっています。
なので御両親と話す際も、事態を認識しているかどうかの確認だけ取ったのですが」

「何でそんな弱気なの? 杏が勝手に飛び出したのも事実だし、蒼凪プロデューサーがこっちに何も言わなかったのも事実だよね。
だったらお父さん達にも手伝ってもらって、杏を戻してもらえば」


渋谷さんの端的な結論で、島村さんと多田さん、新田さんが大きくため息。


「凛ちゃん……」

「アホ過ぎる……アンタ、何一つ学習してないでしょ」

「卯月!? というか、李衣菜まで何で!」

「当たり前じゃん! というか、プロデューサーから散々説明されたよね! 私達がアイドルを続けられるのは、お父さん達の許可があればこそって!
美城は預かっている立場だから、家族の意向は尊重しなきゃいけない……だよね」

「えぇ。双葉さんの御両親がこの行動を認めているのであれば……提示された期限を過ぎなければ問題ありません。
……そういう点では蒼凪さんに感謝すべきです。御両親の意向を予(あらかじ)め伝えてくれたのですから……そうで、なければ」

「大体の心証は恭文が言った通りだったからな。つまり……凛、智絵里達はミスジャッジってわけだ」


本当にハッキリ言いましたね、サツキさん……!

渋谷さん達が縋(すが)るように自分を見てくるが、サツキさんの言う通りと頷(うなず)くしかなかった。


「なお卯月、李衣菜、美波さん達の家も同じ考えだ」

「パパ達が!?」

「どうも親御さん同士で仲がいいらしい。戦犯どもの扱いも含め、相当不満そうだった」

「でも……私達は何も! 卯月ちゃん達は」

「聞いてないよ!」

「はい! でもそれって……!」

「お前らには話す必要そのものがないってことだ」


それは親としての強権を意味する。では、それは理不尽なのか。……自分はそう思えない。


赤信号を渡ろうとしている子どもがいたら、まずどうするだろうか。


そこに車が迫っていたら? 自分ならその手を掴(つか)み、一刻も早く歩道側へ引き戻す。

多少痛い思いをさせても、まずは実力行使……迫りつつある最悪の事態を回避する……親御さん達も同じ気持ちなのだろう。

双葉家や他のみなさんの反応から……もう逃げようのない結論だった。


「しかも、抗議してきたのが卯月達の親御さんってのもネックだな。みんなはこれまで起こしてきた問題に巻き込まれた立場。
それでCPとして活動しているのは、凛達の尻ぬぐいを手伝わされている『被害者』とも言い換えられる」

「そ、そんな! それだけは絶対に違います! あれは、私達もフォローが足りなくて」

「それがアイドル間だけならともかく、武内さんのミスも絡んでいるからなぁ。やっぱそういう声はあるんだよ」

「つまり、あれ? 今まで社内で言われてきたことが、私達の親に広がった……で、プロデューサーだけの責任にはできない」

「そこで引っかかるのがえこひいき問題だ。……誰も彼も感じているんだろうな。このままCPに参加させていいのか。
えこひいきは部長主導による”ごり押し”とも取れるし、何か良くないことに巻き込まれるのでは……ってさ」

「うん、知ってる……母さん達もそう言ってた」


やはりか。多田さんご本人にも話していたと、親御さんから聞いていたのだが……頭を抱える多田さんに、前川さんがギョッとする。


「李衣菜ちゃん……みく、李衣菜ちゃんにすっごく迷惑」

「いや、もうみくがどうこうじゃないから」

「今、話した通り?」

「うん……問題の根っこがシフトしてるんだよ。……そもそも活動の場として、マネージメントの請負先として、346プロがふさわしくないって話だ」

「私達の頑張りじゃ、覆せないってこと……!?」

「……筋が違いますので」

「じゃあプロデューサー、その要求に対してどう返したの?」


多田さんの質問は、全員の関心を引く。特にCANDY ISLANDのお二人と、諸星さんは。


「大丈夫、だよね。きらり達、杏ちゃんともっともっと……アイドル、続けられるよね! 卯月ちゃん達ともだよぉ!」

「そ、そうです……あの、私達もお話、させてください。今までのお仕事とか……フェスの映像とか、見てもらえれば」

「うん、そうだよ! プロデューサーさん、私も智絵里ちゃんと同じ気持ちです! そんなの絶対に嫌だ!」

「……みなさんの意志も確認しつつ、本当に辞めるとしても……契約関係で支障がない形にする。
渋谷さんと本田さんのときにも申し上げましたが、突然のボイコットは賠償問題にもなりかねませんので」

「認めるってこと……!? ちょっと、待ってよ!」

「凛ちゃん」


島村さんが、激高しかけた渋谷さんを押さえる。


「そこも杏ちゃんのお父さん達には……というか、パパとママにも」

「お伝えしました。自分からも、今西部長からも……それと」


そこで言葉を止めてしまう。やはりこれは、黙っておいた方が……。


「あと、活動関係の映像ならもうとっくに見ている……武内さんが送ったからな」

「え……」

「サツキさん」

「コイツらまで暴走したら駄目だろ。……ちゃんと、突きつけるべきだ」


更なる無常を……自分の代わりに突きつけてくれた。……渋谷さんの視線には、その申し訳なさも含め頷(うなず)くしかなく。


「ほれ、お前らを長期間連れ回しているだろ? それで心配しないようにって、その間に撮った写真も含めて郵送したそうなんだよ」

「ぴ、Pくん根回しよすぎ! え、予想してたの!?」

「いえ。双葉さんや神崎さん、前川さんと言った地方出身者のみなさんは、ふだんからのこともありますので……いい機会でしたから」

「あの、みりあもさっき聞いた! お父さん達、すっごく喜んでたよ! お礼のお電話がしたいから、また空(あ)いている時間に連絡するってー」

「そうでしたか」


その言葉にはホッとさせられた。以前先輩から教えてもらった配慮なんだが、やはり大事な……ことだったんだが。


「じゃあ杏ちゃん達のところには、届いていないとか」

「きちんと届いています。そちらも運送会社からきちんと報告が」

「待ってよ……それじゃあ、何?」

「はい」

「みんなで頑張って、作り上げたステージを見て……それでもなお、そんなことを言い続けてるの……!?」

「……はい」

「なんで……どうして! 見てくれたのなら、分かるはずなのに! 私達は大丈夫だって!」

「もう一度言います。……それは、筋が違うんです」


渋谷さんは糸が切れたように崩れ落ち、椅子に座り込む。

そうして緒方さんや三村さん、前川さん達と一緒に嗚咽(おえつ)を……涙を漏らし始める。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あぁ……そうなの。え、じゃあ見てないとかではなくて……見た上かぁ。ねぇ、どうして見ちゃったの。
見なければ論破できたのに……え、それが分かってたから? そっかそっか……じゃあまた後で話そうか。うん、愛してるよー」


杏は携帯で親御さんに確認を取り……その結果、お手上げポーズ。


「――そうですか、ありがとうございます、律子さん」

『ごめんね、いろいろ大変なときに……で、今度は何に関わったのよ』

「とりあえず非常時には貴音と響達は避難させます」

『そんなレベルってことかー! でも……気をつけてね。関わるなとは……どうせ無駄だろうから言わないけど』

「律子さん」

『あなたには……うちのお父さん達を説得する役割があるでしょ!? もう蒼凪家のメイドになれってうるさくてー!』

「知るかボケがぁ!」


電話を断ち切り、杏に倣ってお手上げポーズ。……なお律子さんのことは、本当に知らない!

律子さんが悪いんだからね!? その場の勢いで僕のこと、御主人様とか言うから! だから自分で何とかして!


「さすがは杏のお父さん達だよ。ツッコミどころがないよう上手(うま)く立ち回ってる」

「アンズ……」

「こうなったら最後の手段しかないね。……ネオニートか、ガチニートか、どっちか選べと」

「それはやめてください!」

「ほんとよ! ……でもアンタ、765プロの方も」

「こっちもこっちでマズいね」

「でしょ?」


そう、僕も765プロの方に確認を取っていた。そうしたら……まぁ……!


「李衣菜と美波の親御さんが、765プロで引き受けてくれないかって話を……」

「……卯月だけじゃなくて!?」

「島村さんもそんな話をしていたのですか」

「あー、うん。コイツとの繋(つな)がりから、何とかできないかってね」


しっかし美波達もって……いや、765プロとはそれなりの付き合いもできたから、それでなんとかって感じなんだろうけど。

それで娘達とも顔見知りな人気事務所だから、移籍しても当人達も安心って? せめて相談はしてほしいなぁ。

社長や律子さん達も困り果てていたよ。その前提も守られないようじゃあ、さすがに受けられないってさ。


そう、前提だ。事務所移籍なんて簡単じゃない。リスクだってあるんだよ?

この件で美城から睨(にら)まれたら、765プロの業務全体にも差し障るしさ。それは引き受けたアイドル達の短命を意味する。

楽曲が絡むと、また権利関係の扱いもあるからなぁ。765プロは響と貴音の引き受けで、その辺りの大変さは分かっている。


そのときはイージーモードだったけどね。961プロ……黒井社長は、プロジェクトフェアリー時代の楽曲権利、全てこちらに譲渡してくれたから。

でも今回はそうもいかない。肖像権や楽曲の使用権利をどうするとかー、ここまでにかかったプロモーション費用の扱いとかー。

しかもそれぞれ別のユニットに所属しているから、二人が抜けた場合の損害とかー。


というか社長がツルの一声で引き受けないかと不安……まぁ何が言いたいかと言うと。


「……全部赤羽根さん達に丸投げしよう」

「……そうね。それでいいと思うわ」

「さすがに手一杯だしねー。それにすぐ進む話でもない」

「りんもお察しの通り、面倒この上ない権利のお話が十二単(ひとえ)で待ち受けているからね」

「一枚一枚丁寧に脱がして御奉仕しないと、即打ち首かぁ」

≪こちらはあと二〜三枚ってところですしね≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


CP……シンデレラプロジェクトかぁ。おじさんから話が回ってきたときには驚いたけど、まぁまぁわたし達を頼ったのは正解だった。

いつでも切り捨て可能な駒で暴れるのも、それはそれで面白い体験さ。そう思いながら、自慢の仲間達と静岡(しずおか)の街を闊歩(かっぽ)する。


「ここか……甘ったれどもの巣窟は」

「わたし達と同じ系列ホテルで助かったねー。すぐ場所が分かったし」

「でもまさか、恭文くんの応援に来た途端これなんて……魅ぃちゃん、単位は大丈夫なんだよね」

「問題ナッシング! 伊達(だて)に地獄の受験勉強を超えてきたわけじゃないさー!」

「いや、アレが地獄と言うのなら、ナマケモノの方が壮絶だぞ? いろいろ初期段階から詰んでいるからな、あれ」


圭ちゃんが何を言っているかは、よく分かりませーん。さて、それじゃあ……!


「初顔合わせといこうか。わたし達のアイドルとさ」

「おうよ!」

「楽しみだねー。かあいいアイドルさん……全員お持ち帰りー!」

「「それは駄目!」」

「どうしてー!?」


ヤバい、レナを連れてきたのは失敗だったかも! 本当にお持ち帰りしたら誘拐だし、注意しておかなければ!

ヤバいのがいるからなー! 赤城みりあとか、城ヶ崎莉嘉とか……今やすっちと一緒にいるらしい、双葉杏とか。


まぁそっちには”みんな”が説明に向かってくれているし、何とかなるでしょ。ではたのもー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……まぁ、あれだな」


サツキさんが気を取り直すように、軽く頭をかいた。


「あれこれ言いはしたが、”CPのアイドル”自体が底辺ってわけじゃあないんだろ」

「サツキさん……?」

「え……ちょ、待ってよ! それだと話、繋(つな)がらないんじゃ!」

「ところがそうでもない。莉嘉、考えてみろ……更迭されたのはトップと専属秘書だけで、武内さんも査問委員会に呼ばれた”だけ”。
流れ次第では無罪放免もあり得る。それでお前達に至っては現状待機……特に何もしないときたもんだ」

「うん……あれ、あれれ……あれれれ!?」


……そう言えば、そうだ。つまりどういうことだ……アイドル達にまで処罰が及ぶとか、そういう事態ではない?

だが……自分の責任は多分にあるが、渋谷さん達や前川さんが問題を起こしてきたのも事実。だったらなぜ。


いや、考えるまでもない! まだ道はある……完全には閉ざされていない!


「……島村さん達だけでも、生き残る道はあるんですね」

「あぁ」

「Pくんもどういうこと!? 莉嘉達にも分かるようにー!」

「自分が言うのは非常にアレですが……今西部長による”えこひいき”は、CPの成立を守るためとも言えます。
ようは成功させる理由があった。そういう約束がされていたと……」

「美城内部だけじゃなくて、どっか外の組織も疑えるな。もちろん部長達……お前らや武内さんにも見返りが入るわけだ。
で、問題はそれが違法なものである場合。部長によって部門が統括されている状況だと?」

「……CP以外のアイドルも巻き込まれるかもしれない! お姉ちゃん達も!? でも……知らない! 莉嘉達、そんなの知らないよ!」

「だろうな。それは向こうも分かってるんだよ」


サツキさんのサクッとした結論に、みなさんが小さく声を漏らす。


「だから私達は……私達だけは、現状待機なんですね。成功が約束されていると知っていたなら、みくちゃんは立てこもりなんてしない」

「あ……!」

「凛ちゃんと未央ちゃんも、デビューライブが失敗した”程度”でボイコットするはずがない!」

「「あぁ!」」

「それなら、私達が疑われる要素はない! 智絵里ちゃん!」

「う、うん! ……でも、それならプロデューサーは」

「聴取するためと考えるべきだ。更迭扱いにしたのも、その疑いが晴れるまで……かもしれない」


その言葉に全員が安堵(あんど)する。確かに状況は悪い……それだけの疑いを招いたのは、自分達自身の非だ。

無論それを信頼で……貯金を切り崩す形で払えないのも、自分達の責任だ。

それは受け止め、反省しなければならない。だが終わりではない……まだ、土俵際で踏ん張るくらいはできる。


「で、会社としてはその辺りをハッキリさせて、家族サイドとの不和も何とか解消したいんだろうな。
こんな疑いがまん延し続ければ、CPだけじゃない。他のアイドル達とその家族も次々離脱表明する」

「そうなったら、アイドル部門自体がおしまいじゃん!」

「部門の外に広がる可能性もあるぞ」

「これで確定したわね。……本当に違法行為をしたかはともかく、部長さん達がそんな疑いを広げたのは事実。
私達CPはその手伝いをした形になるから、一旦動きを止めててこ入れすると……まともじゃないアイドル、かぁ」

「何だそりゃ」

「恭文くんに言われたのよ。まともじゃない警察官には二種類しかいない……悪党か、正義の味方か。
ならまともじゃないアイドルは? それに片足を突っ込みつつあった私達は?」


……そこで、なぜあの場で蒼凪さんがああいう話をしたか……改めて、その意味を悟る。


「……自分達はどう言いつくろっても”まとも”ではなかった」

「まともであるなら引き返す。無理だと腹を括(くく)るなら、突き抜け方を考える……私達にはそういう道があった。
……一番悪いのは、引き返しもせず”まとも”だと嘯(うそぶ)くこと。それじゃあ誰も信用できない」

「今、部長達が職を追われたみたいに……プロデューサー」


本田さんの……みなさんの視線が突き刺さる。……それは自分の責任だ。

会社のスタッフとして、城の一員として、その在り方を知りながら、きちんと導けなかった自分の責任。

彼女達を守るためと称し、城のルールを破り続けてきた自分が悪い。それを悪いことだと、彼女達に伝えなかった自分が悪い。


そうして自分は、彼女達は、まともではない道を進む。進んでいる道の意味も、そこへ繋(つな)がる努力の意味も知らず――。


蒼凪さん、やはり自分は……まともじゃない道には進めません。彼女達も進ませることはできません。

自覚なくそんな道に導いてしまったのが、自分のこれまでです。……だから、今からでも示します。

正しい道を選べないのは、学ぶ機会がなかったから。自分がそれを作ろうとしなかったから。


だがここで……この土壇場で、幸運が訪れた。……それを示せる最後の機会だ。


たとえCPから離れることになったとしても……それならば、悔いはない。


「……みなさん、自分は新幹線の時間があるので、ここで」

「待って……待ってよ! だったら、私も行く!」

「渋谷さん」

「杏達の両親にも、話して分かってもらおうよ! 私達は間違っていない……何も、悪いことなんてしていない!」

「……本当に甘ったれだねぇ」


そこで響くのは蒼凪さんの声……いや、蒼凪さんより若干高い。

すると大部屋の入り口がバンと開けられ、見慣れない青年と女性二人が入ってくる。


青年は黒髪痩躯(そうく)だが、覇気に溢(あふ)れた顔つき。


女性の一人は翠髪ポニテで、スタイルは城ヶ崎美嘉さんレベル。

服装はTシャツにスパッツとシンプルだが、それゆえに恵まれたスタイルが強調される。

なお、こちらの女性はやたら大きな荷物を持っていた。ボストンバッグ二つ……この夏場に?


もう一人の肩はオレンジ髪を肩まで伸ばし、白のワンピースとベレー帽を着こなす。こちらは女性的だが、凛とした青い瞳が印象的だった。


新人アイドルと言っても差し支えないビジュアルだが。


「大会社のアイドルって自覚が、その中で戦おうって自覚が――決定的に欠けている! ……はっきり言おう!
今西部長達を、そして今プロデューサーを追い込んでいるのは、この期に及んでそう言ってのけるアンタの無神経さだ!」

「な……!」

「悪いことをしていない!? してる! 十分にしている! アンタが逃げて、アイドルを続けていることが”えこひいき”なんだよ!」


いや、それは……この状況では事実なのだろうが、どちら様だろう。事情を知っているということは、美城の関係者……まさか!


「あなた方はもしや、美城から派遣された……」

「はいー。あ、それとサツキ・トオルくん……初めまして。蒼凪恭文くんと、ユウキ・タツヤくんのお友達」


……その名前が出たことにギョッとすると、三人は楽しげに笑い出した。


「実は私達も、恭文くんのお友達なんだ」

「「あぁ……なんか納得!」」

「みなみん、トオルさんもそこでシンクロしちゃうんだ……」

「でも、やっくんのお友達がなんでいきなり!?」

「それも当然! 控えおろう控えおろう!」


男性がサッと提示してきたのは、辞令書だった。


「この辞令書が目に入らぬかー!」

「……恐らく見えないかと。その、字が小さめですので」

「みりあも見えないよー。もっと近くでー」

「そうか! では確認してくれ!」

「拝見します」


辞令書を受け取り、改めて確認させてもらう。よかった、お話ができそうな方々で……。


「プロデューサー」


赤城さんも近くに寄ってくるので膝をついて一緒に書類を確認する。


「……やはりそうか」

「プロデューサーさん」

「これは、美城の書類フォーマットで書かれています」

「みりあも分かる! 前にプロデューサーが説明してくれたから!」

「えぇ」


縁に印字されているエンブレムなどは、美城の公式書類であることを表すサイン。

赤城さん一家と契約書類を交わした際、『奇麗』だと言っていただいたことがある。

そのときに教えたことなのだが……これがある上に、長山・町田両専務のサインまであるということは。


「園崎魅音さん」

「そう!」

「前原圭一さん、竜宮礼奈さん……」

「「はい!」」

「あなた達が、こちらに向かわせたという」


全力で頷(うなず)かれ、思わず書類を落としかける。いや、こんなに年若い方々は予想外だったので。


「臨時プロデューサーというのも」

「書かれている通りだ!」

「お前達の根性をたたき直し、萌(も)えの伝道者とするためにやってきた! ビシバシ行くから覚悟しておけ!」

「レナ達と頑張ろうねー」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


CPも大変だなぁ……で流そうとしたら。


「恭文ー!」


突然羽入と梨花ちゃん、沙都子、悟史、詩音がやってきた。それで羽入の全力ハグを受け、何とか落ち着かせておく。


「久しぶりなのですー! それと準決勝進出、おめでとうなのですよー!」

「あ、ありがと。でもみんな、どうしてこっちに」

「どうしても何も、やっちゃんの応援にかこつけて大暴れですよ」

「魅音達もいるんだ。あ、それで報告があって……」

「魅音さんと圭一さん、レナさんは346プロ・シンデレラプロジェクトの臨時プロデューサーに就任いたしましたわ」

『はぁ!?』


それでかくかくしかじか――改めて話を聞かせてもらった結果、杏が口をあんぐり。なので優しく閉じてあげる。


「それで……園崎さん」

「詩音でいいですよ。というか、北条・園崎・古手は二人ずついるので、名前呼びじゃないとややこしくて」

「では詩音さん、アンズがコレなので、友人としてお聞きします。なぜあなたの姉である魅音さん達が」

「そうだそうだ! 恭文、346プロの関係者とかでは」

「ないよ。魅音達からもそんな話は」

「えぇ。お姉や私達は違いますよ。ただ……園崎の親戚で、旅行会社に勤めている叔父さんがいましてね。
そこでお得様となっているのが、346プロ・アイドル部門なんですよ。アイドルの遠征サポートをお願いしているとか」

「「あぁ……なるほど」」


……っと、ニルスはさっぱりか。りんもアイドルの一人だから、その辺りはバッチリなんだけど。


「あのね、地方での仕事で泊まり込みの場合、セキュリティとかの問題がどうしても絡むんだ。
その場合土地の事情に詳しい、地方の旅行会社に相談することがあって……麗華もちょくちょくやってたよ」

「765プロでも律子さんと小鳥さんがやっていたわね。私も手伝ったことがあるの」

「なるほど……その縁で話を聞きつけて、ですか。しかしそれは」

「お姉達も承知していますよ。いつ切り捨てられてもおかしくない駒っていうのは。ただまぁ、やっちゃんに負けず劣らず危ない橋が大好きですから」

「理解しました」


その説明だけで、苦笑しながら受け止めるのはどういうことだろう。ニルスが僕にどういう印象を持っているか、一度ちゃんと聞きたいところだ。


「で……その絡みで私達も軽く聞いたんですけど」


でも、それはあとかなー。詩音は右人差し指をピンと立て、問いただすような視線をぶつけてくる。

いや、その視線は羽入達からもぶつけられていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


園崎さん達は社員でもなんでもない。いざとなれば切り捨てられる駒……だが三人は、それも承知で受けてくれた。

自分達が使わされた意味……それは、CPの商品価値を認めているが故。確かに積み重ねた成果は、道を開く楔(くさび)となっていた。

だから臨時プロデューサーをよこし、現状維持とてこ入れが計られることとなった。だが同時に捨て駒でもある。


その上で何か問題が起きれば、その責任は臨時プロデューサーに押しつけ、懲戒免職とする。……彼女達への疑いもあればこその判断だ。


「おいおいおいおい……お前ら、それを引き受けたのかよ!」


サツキさんも苦笑し、この”まともではない方々”を呆(あき)れた様子で見やる。


「トオル、どういうこと?」

「お前らが疑われているような不正を知らない……それは状況証拠で示されている。だが問題を起こしたアイドルなのは事実。
……そのせいもあって、美城の正規スタッフは誰も引き受けなかったんだよな。臨時プロデューサーの話」

「え……!」

「その通りだ。自分の担当で手一杯とか、いろいろ理由を付けてね。あ、ここは御両親との改めて交渉するのが大変とか、そういう面倒さもあるから。
……かと言ってCPを同罪的に処罰して、もしシロだった場合も面倒。わたし達はそれを上手(うま)く回避するための便利屋ってわけだ」

「だからね、多分……みんなともそんなに長い付き合いにはならないと思うんだ。
ちゃんと疑いが晴れて、みんなが美城のアイドルにふさわしいって認められたら……」

「トオルの言った正規のスタッフ……竹達さん達みたいな、ちゃんとした社員さんが新しいプロデューサーになる?」

「武内さんが戻るかどうかは査問委員会の結果次第だから、俺達にも何も言えないがな」


大まかな流れはみなさんも理解できて、さすがにあり得ないとざわつく。その理由もサツキさんが言った通りだ。


「本当に恭文くんの友達ね。これこそ”まともじゃない”わ……!」

「莉嘉もようやく分かった! こんなの、莉嘉達には無理だよ!」

「だったらちゃんと”まともな道”を進むことだね。これまでのアンタ達は、自覚なくこっち側を進んでいたんだから」

「これは最後のチャンスって、ことかな。みりあ達がちゃんと……自分に合った道を進むための」

「そしてその道を探すため、学ぶチャンスだ」


……この方達なら大丈夫だ。

この年齢で、これだけの知性と言葉を振るえるのなら……申し訳ないのは、自分達の尻ぬぐいをさせてしまうこと。


いや、迷うな。自分のやるべきことはもう決まっている。後は……道を妨げる”疫病神”が消え去るだけ。


「――では園崎さん、前原さん、竜宮さん、後のことはお願いします」

「長山専務達と上手(うま)くやっていくよ。あとやすっちにも、双葉杏がどう首を突っ込んでいるか聞いておく」

「それは」

「そっちは既に手を回しているから。……アンタは生真面目だけど、その分交渉って奴を分かってないねぇ。
やすっちはこう言ってたんでしょ? CPや346プロの体制が信じられないって」

「まぁ、端的に言えば」

「つまりだ、向こうはアンタ達を手駒に加えて、得する要素が見えないってことだよ。だったら、その得を提示すれば済むことだ」


また簡単に……いや、蒼凪さんの性格を知っているのなら、それくらいはできるのかもしれない。

とにかく双葉さんの件についても、放置しないでくれるのは有り難い。そこもお任せしよう。


「では、よろしくお願いします。ただ、双葉さんの……みなさんの安全を第一に」

「それも了解。……でもいいんだね、アンタは」


問いかけの意味は分かる。CPが生き残る上で……不純物は何か。それは既に出ている回答だ。

だが迷いはない。払うべき対価を払わず進むことに、そもそも無理があったんだ。


「当然のことですので」

「……アンタ、やっぱ大会社の社員は向いてないよ」

「かも、しれません」


そう言い切ると、園崎さん達が感心した様子で自分を……気恥ずかしくなりながらも、深く一礼。


「あの、待って……私も行く! 私も話す!」

「渋谷さん、それはいりません」

「なんで!? だって、こんなの間違ってる! もうちょっとだけでいい……足りない分は全力で埋めるから! そうお願いするから!」

「そう、です……私も、お願いする! きっとできる……ここに集まった仲間達と心を合わせれば、不可能なんてないから!」

「神崎さんも……もう一度だけ言います。そんな言葉はもう、必要ないんです」


渋谷さん達を絶望させると知りながらも、きちんと伝える。……ぼう然となった渋谷さんにも、みなさんにも一礼し、急ぎ足で退室。


「待って……待ってよ! ねぇ!」

「凛ちゃん!」


後ろ髪を引かれる思いは、強引に振り切る。


「アンタがいなくなったら、どうすればいいの!? 信じたのに……ちゃんと、信じたいって決めたのに!」


その言葉だけで十分だった。


さぁ行こう……この先は死地かもしれない。だがそれでもいい。

自分にはまだ伝えるべき言葉があり、叫ぶべき思いがある。


成すべきことを成した上での結末なら……潔く受け止めよう、今度こそ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっちゃん、まーた厄介ごとに巻き込まれているみたいですねぇ」

「みぃ……相変わらず運の悪い男なのです。父親になってもこの調子じゃ、先が思いやられるのですよ」

「それは言わないで……! ただみんな、ここにいるのは相当危険かもしれないし、離れた方が」


……って、言って聞くメンバーでもないかぁ。悟史までそれだし……しかも、コイツらの場合は。


「そうはいきませんよ。御両親の許可があるとはいえ、346プロは東京(とうきょう)での身元引受人ですよ? そういう言われ方をしたら引き下がれませんって」

「だよねー。……杏」

「それについては、杏のミスだった」

「とはいえやっちゃんも事情はあるでしょうし、一つ確認を……その問題に部活メンバーの力は通用しますか?
異能力でドンパチはさすがに難しいですけど、そうじゃないなら私達を使ってください」

「それで取り引きってわけ?」

「えぇ。もちろんそれで駄目なら、他の材料を探しますけど。ただまぁ、ちょーっと荒っぽく調べるかもしれませんけど」


うわぁ、それでさり気なく脅してきたよ。現場を荒らされたくなければ、大人しく事情を説明しろってさ。

しかも武内さんや346プロならともかく、コイツらはガチでやるしなぁ。となると――。


「……蒼凪プロデューサー、どういう人達なの? あっさりコレって」

「こういう人達なの。ニルス」

「一つ、聞かせてください。この方々は」

「多分この状況では、相当に心強い味方だよ」


仕方ないので肩を竦(すく)め、気配に気をつけた上で事情説明。

ニルスにもみんなの経歴と能力をしっかり明かしたので、問題なしと受け入れてもらえた。


「ほ、本当に厄介なことになってる……むぅ」

「恭文、本当に好きなのね……世界の危機とかに関わるの」

「それで夏は鬼門なのです。あうあうー」

「僕が主導みたいな言い方はやめて!? 僕の近くで、馬鹿な奴らが馬鹿なことに馬鹿をやってくれるから……仕方なくね!?」

≪そうですよ。私達は被害者ですよ?≫

「でもそういう馬鹿の邪魔をするの、趣味なのよね」


梨花ちゃんに悪戯(いたずら)っぽく笑いかけられ、言葉に詰まる。……で、でも違うんだから! そんな、世界の危機連発とか……想定外だからー!


「話を要約しますわね。そのマシタ会長達はいつどこで、どういうタイミングでアリスタ……粒子結晶体を暴走させるか分からない。
早急に結晶体の所在を明らかにする必要がある。でもその過程で暴走が起きた場合の準備も必要……と」

「それはまた……実に私達好みのシチュエーションじゃありませんか」

「その通りなのです! 魅音達も聞いたら、絶対一枚噛(か)ませろって言うのですよ!」

「まぁそういうわけだから恭文……諦めましょう。あなた達と同じで、みんなも止まらないのです」

「梨花ちゃんからそれを言われると屈辱すぎる……」

「ですがみなさん、繰り返しになりますが……今回の件、相応に危険が伴うのは」

『問題なし!』


せめて説明は最後まで聞いてほしいと、ニルスと杏は苦笑。そうしてこちらを見やるので”こういう奴ら”と肩を竦(すく)めるしかなかった。


「とはいえ大まかなところは既に詰められておりますし、邪魔をしないよう注意しなくては。わたくし達はあくまでもお手伝いということで」

「助かります。……みなさんがただ者でないことは、今の会話でもよく分かりました。
ですのでお願いしたいところは二つ。暴走時の迅速な避難誘導と、粒子結晶体破壊の補助です」

「了解しました。で、問題の結晶体はどうするんですか。それを押さえちゃえば詰みなんでしょうし」

「探しに行ってきます」


ニルスはそう言いながら携帯を取り出し、操作――展開した画面に全員で注目。


「スガさん、それにディアーチェさん達からの情報提供もあって、地下空間の状況は大体分かってきました。
ダーグさん達も先行して調査しているそうですし、ボクも続きます」

「ニルス」

「恭文さんはこちらで大会に集中を。あと、アンズをお願いします」


そこで杏の意識が復活。慌てて詰め寄るけど、ニルスに右手で制される。


「分担ですよ。ボクが戻ってこなかった場合は、君が陣頭指揮を……それとセイ君達の手伝いもお願いします」

「……了解。でも」


……そこでメールが届く。携帯を取り出し、確認……おっと、いいタイミングー。


「ニルス、出発は二時間ほど待って。……ダーグが戻ってくるみたい」

「何か見つけたと」

「それも確認だ」

「では準備だけ整えてきます。……みなさん、大した挨拶もできず申し訳ありませんが」

「いえ。でもニルス、本当に気をつけてください。ボクも嫌な予感がしてならないのです」

「梨花ちゃまの勘は当たりますよー。何たって古手神社の巫女(みこ)さんですから」

「胸に刻んでおきます」


ニルスは一礼して、そのまま退室。確かに……僕だけであちらこちらと手は伸ばせない。

やっぱり僕は目の前のことに集中するしかなくて。改めてゴーストフレームと、並び立つフェイタリーを見やる。


「いい子だね」

「うん、とってもいい子だ。……できることなら前線に立たせたくはなかったけど」

「それを恭文さんが言うのもお門違いですわ」

「みぃー。そういうことは、もっと賢い大人になってから言うのですよ」

「だよねー」


でも何か、この年になって分かったわ。……クロノさんやフェイト達、根っこはこういう気持ちだったんだろうなぁ。

リンディさんとアルフさんも――少しだけ、本当に少しだけ、悪いことをしてきたと心の中で謝った。


とはいえ、それだけとも言えるけど。だって……やっぱり止められないもの。こんな楽しい遊びはさ。


「さて、そうなるとわたくし達は避難誘導のマニュアル構築と、自分のガンプラ調整ですわね。
誘導マニュアルはわたくしにお任せください。自衛隊での非常勤講習の際、お返しとして災害対策の研修も受けましたの」


おぉそうだった! 沙都子はトラップマスターであると同時に、自衛隊でのトラップ講師も非常勤で行っていたんだ!

その絡みで、自衛隊の人達からもまたいろいろ教わっていて……でもそこで、杏が怪訝(けげん)な顔をする。


「あぁ……さっき言ってた、非正規部隊を返り討ちってやつかぁ。でもプロの意見が聞けるのは助かるよ」

「だったら私は避難の際に予想される、負傷者の治療・搬送マニュアルですね。一応現役看護師ですし」

「詩音、そんなこともできたんだ!」

「やっちゃん、忘れましたー? 私達園崎家は、軍事講習も受けているんですよ」


あぁ、そのときに……魅音も言っていたことなので、思い出したと拍手を打つ。


「軍事講習? 蒼凪プロデューサー」

「軍事講習と言っても、集団の指揮・統率技術に、負傷者の治療などの……後方支援が主だよ」

「それに加えて監督の下で、改めて勉強しましたから。杏さん、そういう手は必要ですか?」

「うん、すっごく必要だ……!」


『ならよかった』と詩音と沙都子は自慢げに笑い、ハイタッチ。


「なら僕と梨花ちゃん達は……」

「この子がすぐにでも戦えるよう、お手伝いなのですよ。恭文、改造プランは」

「これ」


既に書き上がっている図面を見せると、全員が何度か頷(うなず)き……また楽しげな笑みを浮かべる。


「なるほど、やっちゃんらしいですねー。複雑になりすぎないよう、きっちり機能分担して剛性確保と」

「でもこのコンセプトなら、僕達も手伝えるところが多いかも」

「魅音さんのお手伝いと称して、大型ガンプラを何度か組み上げましたもの! お任せあれですわ!」

「あうあう! ぼくも頑張るのですよー! ……でも恭文、今日はずーっと一緒なのです」


そこで羽入が艶っぽい瞳を浮かべながら、僕の左腕に抱きついてくる。それで小柄な体型に不釣り合いなほど、成熟した双乳が押し当てられて……!


「ぼくは恭文分が不足しているですから……いいですよね?」

「む、それは待った! 恭文とずーっと一緒なのはあたしだよ!」

「発情しないでもらえる!? 作業があるんだから!」

「……何を言っているですかぁ!」


あぁ、一番厄介なメドゥーサがー! リインが汗だくで、ゼーゼー言いながらドアを蹴り破ってー!

というか、ついてきたディアーチェやともみが微妙な視線を! 違う! それは誤解だ! 雄弁に語る瞳で理解できたよ、ここから続く言葉は!


「恭文さんの元祖ヒロインはリインなのです! リインの許可なく一緒なんて許さないのですよ!
というか……またリインの知らないところで浮気をー! リインだって頑張ってるのに!」

「恭文さん、さすがにそれは……」

「説教だな。と、というか……我の乳房を味わうのは徹底的に避ける分際で、これかぁ! 何だ、何が不満だ! 我の何が不満だ! 貴様ぁ!」

「恭文さん、ディアーチェだって……軽い気持ちでは、言ってないんです。だから傷つけるようなことは極力」

「違う違う! はいはい、作業しようねー! そうしたらみんなで一緒だよー!」

「……ねぇアンタ、多分羽入やリインさん達が望んでいるのは」

「何も言うな!」


ティアナはしっかり止めた上で、みんなに感謝しつつ作業作業作業!

なお……ともみとディードも袖口を掴(つか)んで、涙目で腕に……おのれらもかぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


プロデューサーさんは去っていった。いつもより大きな背中を……決意の表情を見せつけ。

それで、何となく分かってしまった。結果はどうあれ、プロデューサーはCPに戻るつもりがない。

私達の道を繋(つな)ぐために。私達の道を正すために……でも泣かない。止めることはしない。


ううん、どう止めていいのか分からないのかも。もっと私達が……最初から賢ければ。


「というわけで――バトルしようか」


その背中に、その姿に誰もが言葉を失い立ち尽くす中、魅音さんは笑顔でそう告げた。


「わたし達とアンタ達でさ」

「そんな暇はない! 私達はプロデューサーをすぐにでも追いかけて、戦うの……みんなで一緒に、襲いくる悪の風と!」

「蘭子」


凛ちゃんは、荒ぶる蘭子ちゃんを制して。


「そこまで言うならいいよ……それで私達が勝てば、アイツも止めていいんだよね」


馬鹿なことを言い出したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! それにはつい、未央ちゃんと頭を抱えてしまう。


「しぶりん……!」

「大丈夫です、凛ちゃん。中二病は一生引きずるって美波さんが……でも、でもー!」

「卯月達も手伝って。きっと、分かってくれる……ううん、分かってもらう。私達みんなで声を上げれば」

「無駄だと思うけどねぇ。武内さんが言う通りだし」

「違う! アイツだって……私達だって全力でやってきた! 間違いだけで全てを染め上げないで!」

「……可哀相(かわいそう)に。染め上げているのが自分って自覚もないのかぁ」

「ッ……!」


魅音さんがぶった切りましたぁ! というかこれ、完全に喧嘩(けんか)の流れー!


「まぁまぁ魅ぃちゃん、それなら早速準備だよー」

「あ、あの……それは、さすがに」

「……やろう、みんな。まずはこの人達に分からせる」

「さぁ……皆で魂の共鳴を重ね、悪(あ)しき風習に鉄槌(てっつい)を!」

「お断りだよ、馬鹿ども」


というわけで、ぶった切った李衣菜ちゃん共々……みんなで一歩引き、凛ちゃん達をお見送りー!


「莉嘉達、凛ちゃんや蘭子ちゃんと同じって見られたくないし」

「「な……!」」

「みりあも、凛ちゃん達の言うこと……違うって思う。……みりあ達が馬鹿だったから、プロデューサー達が大変になったんだよ!?」

「私……ようやく、分かった。信じてほしい、頑張ったから信じてほしい……そう言うのも身勝手だって……。
私達、本当に”まともじゃなかった”……だから、駄目。これ以上……続けちゃ、駄目……!」

「智絵里まで……ねぇ、待ってよ! アイツが私達のプロデューサーなんだよ!? なのに見捨てるの!?
一緒に頑張ろうって決めたよね! 一緒に……一歩ずつ階段を上ろうって言ってくれた! それに、みんなで頷(うなず)いたよね!」

「そう……そう! だから、もう一度心を一つにして……声を上げれば、正義を謳(うた)えば、きっと助けてくれる!
真実から目を逸(そ)らさない、勇気ある優しい人達が! プロデューサーや部長さん達のように、正しい人達が!」


それでも私達は、凛ちゃんと蘭子ちゃん達には頷(うなず)けない。……プロデューサーは私達のために、魔女裁判かもしれない場に進んだ。

それを、その覚悟を台なしにするような真似(まね)は……しかも、何の勝算もなく飛び込むなんてできない……!


「……だったら、もういい……私達だけでやる! 蘭子」

「悪(あ)しき風習は、我が同胞達の心をも曇らせる……。ならば瞳を持つ者を救うため、まずはその停滞を革新へと導く!」

「やめとけ。お前ら、武内さんの覚悟を無駄にするつもりか」

「そんな覚悟なんて必要ない! 私達は前に進んだ! やり直せた! もう以前の私達じゃないから!」

「……中二病コンビ結成ね。新しいユニットができるわ」

「ミナミ……みんなも、駄目です!」


アーニャちゃんもですかー! 必死な形相で凛ちゃん達の側(がわ)に回ったので、美波さんが軽くフラつく。


「そうだった……アーニャちゃんもそんな年頃だったわ!」

「みなみん、しっかりして! 大丈夫、致命傷だよ!」

「それ死刑宣告じゃね!?」

「プロデューサー、部長さん達、いっぱい助けてくれた! だったらわたし達も助けるべき! だから」

「うーん、困ったなぁ。全員飛び込んでくれたら、ビグ・ラングが使えたんだけど」

『ビグ・ラング!?』


あ、じゃあその……なんかやたら大きな荷物はー! というか、完全に圧倒するつもりですか! 恐ろしい人です!


「魅ぃちゃん、それは……駄目」

「どっちかがタツヤレベルじゃないと、単なるいじめだろ……!」

「カイザーリスペクトなのにー!」

「つーわけで魅音は一回休み。俺とレナが相手だ」

「何それ……馬鹿にしてるの? こっちは三人いるのに」

「むしろいいハンデだ。うちのカイザーが調子づいたら、戦闘力が二乗・三乗とされていくからな」


魅音さん、そんなに強いんですか。ビグ・ラングだから、とかではなくて。


「ト、トオルくんー」

「きらり、逆に考えるんだ。……バトルしている間に、武内さんはリニアレールに乗り込む! そうしたら手遅れだってな!」

『こっちもこっちで酷(ひど)い!』

「あはははー! トオルくんもしたたかなんだねー。でもレナ達、そういう子は大歓迎だよー」

「じゃあ部活としては変則的だけど……CP臨時プロデューサー、園崎魅音の名において宣言する!
ここに前原圭一・竜宮レナ対CP中二病トリオのチームバトルを執り行う!」


――こうして、余りに無益なバトルは開幕する。でもトオルさんが言う通りだと……いろいろ台なしでは!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


卯月、未央……みんなも、正直失望した。あんなふうにあっさり、アイツのことを切り捨てるなんて。

確かに私達は失敗し続けた。それは、間違っていた……でも変われた。変わって、フェスだって成功させたのに。

……だから絶対に納得できない。アイツは私に手を伸ばしてくれた。私を信じて、私が信じられるように頑張ってくれた。


だから絶対に助ける。だってアイツがいなかったら、私はここにいなくて、新しい景色なんて見えなくて。


≪――BATTLE START≫

『神崎蘭子――ガンダムダブルエックス、出る!』

『アナスタシア、フォースインパルスでいきます!』

「渋谷凛――トールギスIIで決めるよ!」


アームレイカーを押し込み、決意を込めて三人揃(そろ)って星空に飛び出す。

あのとき、フェスで見たのと同じ……同じ!? え、待って。これって……慌ててコンソールを叩(たた)いて、周囲の地域マップを確認。


「これ、フェス会場……というか、世界大会会場!?」

『あぁ!』

『ユニークステージ、というのですか』


そう、私達が飛び出したのは、世界大会会場……それも夜。

フェスが終わって、みんなで見上げた夜の空。それがとても精密に再現されていた。

……ガンプラバトルのステージ選択で、現実の街や場所が構築される場合はある。それがアーニャの言うユニークステージ。


でもこのタイミングで、ここを戦場にするなんて……! アイツとの思い出まで踏み荒らされるような感覚に、唇をかみ切りそうになる。


「蘭子、ツインサテライトキャノンスタンバイ! アーニャ、前に出てアイツらを射線上に追い込むよ!」

『はい!』

『任せたぞ、我が同胞た』


――でもそこで、流星が走る。

とても真っすぐに走る赤色の流星が、吸い込まれるように蘭子へ迫って。


「……蘭子!」

『……!?』


ダブルエックスはディフェンスプレートを構えて回避行動を取るものの、その動きすら予測された”ビーム”は、確かに機体を捉える。

そのまま唐竹(からたけ)のギロチンバーストとなり、ダブルエックスを両断……爆散させた。


『ランコ!』

『そん、な……何も、できずに……』


長距離での狙撃で、先制攻撃……こっちの作戦を読んできた!? でも今ので射線は見えた。

それに狙撃機体だったら、近づけば制することができるはず……!


「アーニャ!」

『はい!』


慌てて散開し、続くビームを何とかすり抜けつつ接近。見えた……前方八百メートル!

そのままトールギスの加速力を生かし、突貫しながらドーバーガンで連続砲撃。

世界大会会場を壊しつつ、その陰に隠れた機体を暴き出す。飛び出してきたのは、トリコロールカラーの……!?


『狙撃機体なら、近づけば問題ないと思ったか?』


GNソードIIブラスターを放り投げ、その機体は両腰のGNソードIIを抜刀。

両サイドのGNドライブバインダーから粒子を瞬間噴射させ、ジグザグにこちらの砲撃を避けながら、一気に迫ってくる。

ううん、こちらも突撃体制だったから……でも、これは!


『甘いわ!』

「ダブルオーガンダム!?」


接近戦に備えて、抜刀していたビームサーベルで防御。左薙の切り抜けを捌(さば)き、改めて方向転換。

アーニャもライフルで連続射撃を放つけど、ダブルオーはドライブを前方に向けながら後退。

螺旋(らせん)を描くように粒子を放出・回転させ、その勢いでこちらのビームを、ドーバーガンの砲弾を散らしてしまう。


続けてGNソードII二挺を腰だめに構え、ライフルモードにしながら乱射。

アーニャと二人ビームを避け、シールドで防御しながら何とか反撃していく。でも……たった一人に押されまくって!


でも納得した。あの狙撃は短時間トランザムを用いた上で行ったんだ。ビーム粒子、赤くなっていたもの。

00-MSVで、そういうシーンがあったの。GNソードIIブラスターもそのときに使われた装備だ。

それで、不用意に飛び込んできたら切り刻むってわけ? でもそうはいかない……そうは、いかないけど。


『わたし達の……思い出が。わたし達のステージが』

『何をよそ見している!』


そうしてまき散らし、交差する光条が会場の施設を、ステージ近くを次々と壊していく。


そのたびに心が軋(きし)む。そのたびにアイツの姿が遠ざかっていく。認められないのに……こんな現実、認められないのに!


『お前達にとっては大事な勝負! なのに集中しきれないとはどういうことだ……たわけが!』

「く……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


バトルは奇襲から始まり、目も眩(くら)むような射撃戦になりました。知っている場所で舞い踊るガンプラ達は、妙なリアル感をかき立てます。

だからこう、見ているだけでわくわくするんですよね。私、ユニークステージって大好きです!


でも、気になることがあって。


「わぁ……圭一さん、強いね! 凛ちゃん達と撃ち合ってるにぃ!」

「いや……あれ、実質アーニャ一人でやっているぞ」

『え!?』

「うん、トオルさんの言う通りだ。……しぶりんのエイム、ぶっれぶれ」


アーニャちゃんはともかく、凛ちゃんは全然見当外れに撃ちまくっているだけ。慶さんから教わった機動予測もちゃんとできていない。

ただこの状況を、不愉快な流れを払うような、そんな癇癪(かんしゃく)を起こしているようにしか見えなくて。


「とはいえ、それは圭ちゃんも同じなんだよなー」

『え!?』

『だが俺は違う……違うぞ! あこがれの美波様を前にして、下手なバトルなどできないからなぁ!』

「あら!」

「圭一くん、美波ちゃんのファンだったの!?」

「……そのせいかエンジンかかりすぎて、立ち回りが雑になってるけどね。だから圭ちゃんのエイムもぶっれぶれ」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


え、じゃああれですか……撃ち合いというか、お互い決定打が取れず無駄弾をまき散らしていただけ!?

でも狙撃は……偶然!? もしかしなくてもまぐれ当たりですか! なんですかそれー!

真面目にやっているのがアーニャちゃんだけってぇ! というか圭一さん、目が怖いです! 本気過ぎます! なのにぶっれぶれってぇ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


分かってる、私達のせいだって! だから、私達が……私が何とかしなきゃいけない!

アイツは私を見つけてくれた! 燻(くすぶ)っていた私に、新しい景色を見せてくれた!

逃げた私を連れ戻してくれた! 私が悪いのに、私が逃げたせいなのに……謝ってくれた!


もう一度、私に信じてもらえるように努力するって、手を伸ばしてくれた!

だったら……ここで、アイツを助けられない私は何!? アイツとの思い出を蹂躙(じゅうりん)されて、止められない私は何!?

嫌だ……そんなの、絶対に嫌だ。そんなことになったら、私……。


もう、アイツと一緒にいられない――!


『ならば、こういうのはどうだ!』


そこでダブルオーは左のGNソードを……フェスのステージに向けて。


「あ……」

『駄目……やめてください! そこは、わたし達の』


斬撃波のようなビームを撃ちだした。……それはほぼ反射だった。


ハイパーブーストで会場前へ飛び込み、斬撃波をシールドで防御……しきれない!

それでも、それでもとアームレイカーを押し込み、何とかシールドバッシュ。

斬撃波の軌道を脇に逸(そ)らすと、ステージ脇の地面やテントを切り裂きながら消えていく。


それと同時に左腕が爆散。く……予備のサーベルも潰された。


「卑きょう者! 人の思い出を狙うなんて」

『そっかぁ、思い出の場所なんだね』


……後ろから響いた声にゾッとした。

そうだ、今……現状は二対一。なら残り一人は? あの、竜宮レナっていうほわほわした子は?


そうして、ゆっくり振り返ると――二機目の突撃により、ステージが粉砕された。

私達を照らしてくれたライトも、力強く踏み締めた壇上も、一杯のペンライトが踊った客席も、全てが踏み荒らされた。


「……!」

『じゃあごめんね……』


それを成したのは、マントを羽織った機体。両手に持つのは二本のヒートショーテル。

青いツインアイを赤く輝かせながら飛び込むのは≪ガンダムサンドロック(EW版)≫……!

そこで、本当の意味で突きつけられる。今の攻撃は嫌がらせじゃない。


私が……私達のどちらかが、カバーに入ると踏んでの行動。そうして控えていた二人目が背後から強襲。

でもステージはランダム設定だったはず。事前に説明されたもの。じゃあ、この場で作戦を立てた?


私達と知り合ったばかりなのに。バトルだって始まったばかりなのに……!


『リン!』


反応できなかった。

そもそも避けられるタイミングじゃなかったけど、そういう問題でもなかった。

思い出が……アイツと星空を見上げた場所が、踏みにじられた衝撃で、私は完全に止まってしまって。


『壊しちゃってさ!』


そのまま見ているしか、受け入れることしかできなかった。

赤熱化したヒートショーテルが振り下ろされ、愛機とともに両断される運命(さだめ)を――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


とりあえずリイン達は落ち着かせ、誤解を解いた上で……一つ、大事なところをツツいておく。


「あと……杏」

「何、杏は入らないよ。その修羅場」

「入らなくていいよ! ……渋谷凛、武内さんのことが好きでしょ」


……杏も気づいてはいたようで、『やっぱり?』という顔で肩を竦(すく)めた。


「杏も知っている通り、アイドルになったのも、アイドルが続けていられるのも、武内さんがいればこそだ」

「うん」

「何かね、一緒にいるときの距離感とか、そういうのを見て……どんがぶりだったのよ」

「誰とかな」

「……日奈森あむと」


そう、あむと……あむと猫男のアレと。リインも言いたいことが分かったらしく、『あぁ……』と声を漏らす。

なおティアナに至っては軽く舌打ちし、面倒そうに頭をかいた。


「そういうことかぁ」

「あむ……あの子も恋愛がらみで何か?」

「相当やらかしているのよ。諸事情あって敵対していた奴がいるんだけど、ソイツとは妙な縁があってね。
その結果気づかないうちに恋愛感情を持って……ソイツを保護しなきゃいけない状況で、こっちに黙って自宅で匿(かくま)うとか」

「自覚のない感情に振り回されて、馬鹿をやりまくったって考えればいいよ。相手のためにもならないことをね。
……気づいていたのなら、注意した方がいいよ。どういう形であれ武内さんは責任を問われるだろうし」

「凛がそれを覆すため、暴走しかねないってことか」

「もちろんCPを巻き込んでね」


ここで一番厄介なのは、自覚がない点だ。あむもそれゆえに猫男と唯世の間に挟まれ、中途半端な右往左往を繰り返した。

僕もデスレーベル絡みのあれこれがあったから、もしやと思ってたんだけど……確定だね。

だってこれまで一緒に活動してきた杏が、うっすらとでも気づいていたんだもの。


「あむさんもそうでしたけど、厄介すぎるのです。むしろ自覚させた方がアリじゃ」

≪それはそれで、また暴走しそうですけどね≫

「後で魅音達にも軽く話しておかないと」


面倒が起きてないといいけど……なんて、とても気楽な話だった。既に芽は育ちつつあった。

否が応でも僕達は、そしてCPは……その渦中に巻き込まれることとなって。


(Memory68へ続く)








あとがき


恭文「というわけで、後々の布石を込めつつも……いろいろ追加していたら時間がかかった、Vivid編67話。
ガンプラ・イブ前編ということで、後編は楽しいお祭りだよー! お相手は蒼凪恭文です。
セイ・レイジ編もいよいよラストに向かいつつあります。ここからは一気に進む予定です」


(決勝までいけなかったけどね!)


恭文「で、僕はというと……ネロ(水着)が無事に当たったので」

ネロ(Fate)「ふふ、悪くはない……悪くはないぞ。ナイトプールとやら!」

恭文「そのネロに引っ張られ、ナイトプールとやらに……! 大人の女子会やカップルには人気らしいけど」


(なお東京タワーを間近に見上げるシチュエーション。なかなかに奇麗です。
ただ蒼い古き鉄、実はその辺りについてはちょっと疎い)


ネロ(Fate)「どうだ、奏者。余の水着姿は……見飽きることなく、いついかなるときも美麗であろう?」

恭文「うん、奇麗だよ。ただ、あの……一応、公共の場なのでくっつきすぎは」

ネロ(Fate)「ん、よいではないかぁ。というか、一人でいると声をかけてくる奴らがいるからなぁ。再臨三段階目を見せたらビビって逃げるが」

恭文「そりゃあ逃げるよ! 砲門がついているもの!」


(別名:ヤクトドーガ)


恭文「え、というか、声をかけてきたの?」

ネロ(Fate)「それはもう。奏者が用を足している間に」

恭文「……」

ネロ(Fate)「奏者?」

恭文「じゃあ、過剰過ぎない感じで……くっついてて、いい」

ネロ(Fate)「うむ! 余は奏者のものだからな! 今日はー、このままいーっぱい余と甘いときを過ごすのだぞ?」

恭文「……うん」


(小説を書く時間より、後書き用にナイトプールを調べる方が大変だったのは内緒。
本日のED:Uru『フリージア』)


ネロ(Fate)「しかし……飲食禁止とはけちくさい! これでは奏者とパフェとかあーんし合えないではないか!」

恭文「そこは仕方ないよ。その代わり半券があればお得に利用可能だよ?」

ネロ(Fate)「それでー、奏者は余の濡れた唇を意識して、余の谷間と合わせてどぎまぎ! それを見定めた余は、ここぞとばかりに……奏者〜」

恭文「話を聞いてくれませんか!?」

ネロ(Fate)「というわけで、皇帝特権でルール変更! パフェをもてぇ!」

恭文「ルール違反は駄目! マナー良く楽しむよ!」


(おしまい)





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