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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory66 『泪のムコウ』


フェイタリーは大破……フレームからガタがきているし、フルメンテが必要でした。

大会の期間を考えると、かなりギリギリだなぁ。まぁ次の試合までには何とかなるでしょ。

とにもかくにも、その日の夜――僕の部屋に飛び込んできた鷹山さん達は、楽しげにお手上げポーズを取る。


「……予想通りにきたかー!」

≪楽しいですねぇ。馬鹿が手の平の上で踊ってくれますよ≫

「だねー。で、どんな感じでした?」

「それはもう、艶っぽい感じで……一億ほど提示してくれたよ」

「また張りますねー」

「それでタカは乗りかけて、大変だったんだぞ? 前にも同じことをやりかけたってのに」

「乗ったお前が言うなよ……」


やりかけたんかい……! いや、それはカオルさんから聞いているぞ! 犯人に買収されたら、誘拐事件の身の代金だったとか!

この人達、本当に懲りないねぇ! というか……あぁ! ベッドに座りながら、千早達が心底呆(あき)れた顔を!


「……ねぇ恭文、今更だけど……鷹山さん達って、どうなってるの?」

「退職金二千万じゃ足りないくらい、どでかい夢を追いかけてるんだよ。許してあげようか」

「だったらもうちょっと上手(うま)く立ち回れよ……!」


ショウタロス、それは無駄なことだよ。この二人にそんな理屈が通るわけもない。知ってるでしょ?


「何でそれでクビにならないの?」

「「俺達、運が」」

「それはいいですから」

「あらそう? しかし、心が痛むなぁ」


鷹山さんは適当な椅子に座り、おどけながらも首を振る。


「それと蒼凪」

「分かってますよ。結晶体の暴走は視野にいれないといけない」

「その通りだ。まぁお前のことだ、何か考えているとは思うが」

「これを見てください」


空間モニターを立ち上げると、二人は揃(そろ)って前のめり。……ニルスと杏の計測データを、更に煮詰めたものだ。


「結晶体は反粒子で構築されています。そのため粒子で構築されている物体、人間などが近づくと、対消滅で分解される可能性があります」

「近づいてドンパチは駄目と。じゃあやっちゃんやティアナちゃん達の魔法でも」

「エネルギー量で言えば圧倒的ですしね。ただ、一つ例外が」

「例外?」

「ガンプラですよ」


そこで大下さん達が顔を見合わせるので、今までの試合映像を……今日のものも含めてチェックしてもらう。


「ガンプラ――構築されるプラスチックやABS、ポリキャップなどの素材は、粒子を取り込む作用があります。
だからこそガンプラバトルはできるし、その出来映えでバトル性能も変化する」

「つまり、ガンプラなら……バトルシステムを活用するなら、暴走した結晶体にも近づけるわけだな」

「もちろん壊すことも可能……可能なんだよな、おい」

「普通の方法では難しいです。でも」


そこで鍵となるのが、ニルスとセイ、レイジだった。カタカタとパソコンを叩(たた)き、あの試合映像を見せる。


「これはニルスとセイ達の」

「この試合のようにすれば問題ありません」

「なんだと」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合終了後……ニルス君と杏さんがやってきて、現状を説明された。……PPSE社は、本気で馬鹿らしい。

まさか、現役警察官を買収って……! しかも恭文さん達も予測していたから、筒抜けって!


「なぁニルス、さっきの買収だが……お前達、乗るわけじゃないんだよな」

「もちろんです。彼らの浅はかさには、もはや失笑するしかありませんよ」

「これで実質確定だしね。……連中は粒子結晶体について知っていた。その危険性まではって感じだけどさ」

「で、ですよね。じゃなかったら、一億円も支払って買収なんて……でも、返事を濁したっていうのは」

「時間稼ぎですよ。こちらが切り札を持っていると知れば、迂闊(うかつ)な手は出せない……ただ鷹山さん達については、フォローも必要ですが」

「フォロー?」

「お二人は二〇一六年……つまり四年後に定年退職が控えています。この件が問題視されれば、当然その進退にも……退職金にも差し障りますから」


あぁ、そっか。それで老後の予定とかが台なしになったら……と。ただレイジはサッパリらしく、小首を傾(かし)げた。


「退職金? なんだそりゃ」

「まず定年退職っていう制度があるんだ。一定年齢……大体六十才まで働くと、定年ということでお仕事はおしまい。
今までお疲れ様って意味を込めて、退職金というものが出されるの。それも普通の給料よりずーっと高いお金」

「それは長い間会社に……二人の場合、警察に貢献してきたお礼なんだ。でも、逆に貢献してなかったら?
問題ばかり起こしていたら? 退職金はその分減っちゃって、二人とも老後に生活できない可能性が出てくる」

「買収も駄目かもって話か。でもよぉ、あのおっちゃん達がそんなことで止まるか?」

「……止まらないからこそ、ボク達がフォローすると考えてください」


その点についてはニルス君も諦めている……というか、レイジと同意見らしく、とても深いため息を吐いた。


「じゃあニルス君、どうして僕達の試合が……その、切り札になるの? サイコシェードかな」

「いえ。ビルドナックルと粒子発勁です」


ニルス君は改めて試合映像を見せてくれる。その上で……その、波動のようなアニメーションも付け加えてきた。

ビルドストライクが、デカい石に拳を打ち込むと、その波動が石の中で発生して……ビルドストライクよりずっと大きい石が、パリンと砕けた。


「攻撃対象が内包した粒子を”揺らし”、その振動で破砕する攻撃です。同じ原理で、結晶体のプラフスキー粒子を叩(たた)けば」

「……粒子結晶体が壊せる! あの、それは安全な形で……だよね!」

「計算上は問題ありません。バトルシステム内に取り込めば、システムが安全性を確保してくれますから。
同時に結晶体の暴走自体についても、ある程度の抑制が可能となります。
……暴走によって噴き出した粒子を、バトルフィールドとして構築するんです」

「そんなことができるの!?」

「前歴はありますよ。セイ君、君達も恐らく見ているはずです」


次に出された映像は、この間の……346プロが行ったフェス。城ヶ崎美嘉さんと小日向美穂さん、だっけ。

その二人のデュオライブで、粒子を活用したイルミネーションが行われて……粒子を活用!?


「実はこの演出、カルロス・カイザーとジオウ・R・アマサキがそれぞれ独自に研究していた、バトル外の粒子使用を流用したものなんだ」

「前チャンピオンと、ジオさんが!?」

「今回のライブに向けて、二人の担当プロデューサーが許可を取り付けたんだよ。
……なので杏達も二人に相談して、対策プログラムを作っているところ」

「じゃあ、僕達に頼みたいことというのは」

「本当に万が一……暴走した結晶体を破壊する場合は」

「……オレとセイ……ビルドストライクか、お前達と戦国アストレイが切り札ってわけか」


二人は真剣な面持ちで、その通りと頷(うなず)く。……それは、とんでもないプレッシャーだった。

近隣の都市にまで及ぶような、大災害を僕達が……僕の作ったガンプラが、止める? これは、アニメじゃないのか……!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory66 『泪(なみだ)のムコウ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……いいねいいねー」

僕達のプランを聞いた大下さんと鷹山さんは楽しげに笑う。そうしてテーブル上の……修理中なフェイタリーを見やった。


「みんなの遊びが世界を救うわけか」

「ホビースポーツの王道だったか?」

「ニルスと杏も同じ結論でした。まぁ問題があるとすれば」

≪これが机上の空論で、実際には”余裕がない”可能性があることですね≫

「だが勝算はあるんだな」

「えぇ。さっきも言いましたけど、バトルシステムは言い換えれば”粒子を完全制御する檻(おり)”です」


幸いなことに、ここは世界大会会場。

ふだんのバトルでは使えないような超巨大バトルベースが設置され、そのシステム回りも大会の会場全域に行き届いている。

その一端を二人も見ているのよ。だからマップを立ち上げて、指差すのは……。


「その支配下に置くのなら、粒子結晶体の暴走もある程度抑制できるはず」

「ここは」

「俺とタカが、Cとラルさんを見つけたところ、だよな」

「二人も知っている通り、大会で使われるバトルベースは専用のもの。システム回りから粒子供給も含め、会場地下にある設備も含めて運用しています。
当然ながら通常のものと比べると、その粒子制御能力も規格外。えぇ、できます……十分できますよ」

「だったら俺達も……ユージ」

「あぁ」


そう言いながら二人が取り出してきたのは……ガンプラ!?


「あれ……これって!」

≪HGUC 陸戦型ジムなの!≫


そう、最近出たばかりの陸戦型ジム。卯月も作っていたけど、これがまたカッコよくてねー。

漫画版『ザ・ブルー・ディスティニー』やら、サイドストーリーズやらの近代作品で出てきた陸ジムに寄せたデザインなのよ。

マスターアーカイブの陸ジムにも似てるよね。かっちりしたスタイルが実に僕好み。


まぁ08小隊当時のイメージと全然違うから、賛否両論はあるんだけど……ただそれもオフィシャルな改造パーツで調整可能。

とはいえ……なぜ映像作品として活躍していた08小隊当時のイメージではなく、近代作品よりのスタイルで発売されたのか。

その辺りに今のガンプラが辿(たど)っている流れと、ファン層の変化が映っていると思う。


……あ、ガンプラとしても当然いい出来映えだよ。KPSによる関節はやっぱり使いやすいし、ユニバーサル企画でバックパックも付け替え可能。

今度出るブルーディスティニー1号機のリメイクも、これベースらしいしね。僕もかなり期待している。


「どうしたんですか、これ」

「いや、やっちゃんばっかいい格好させるのも、さすがにつまらないだろ? 俺達もやってみようと思ってさ」

「ボケ防止にはいいって、ユージ君が」

「おじいちゃん!?」

「君もおじいちゃんね?」

「だったら陸ジムはお勧めですよ。組みやすくて扱いやすく、改造素体としても弄(いじ)りやすいですし」

「「え……」」


……あれ、どうしたのかな。鷹山さんー、大下さんー、なんで顔を見合わせて打ち震えるのー?


「えぇ、そうですよね。私も765プロのガンプラ実習で組みましたけど、驚いたくらいですし。
やっぱりモデラーでもあるNAOKIさんが監修しているから、カユいところに手が届くというか」

「「え……」」

「どうしたんですか、お二人とも」

「何だか、顔色が……」

「え、これ……組みやすい、の?」

「それ、簡単ってことだよね? 初心者にもお勧めってことだよね?」

『えぇ』


千早達と断言すると、二人は顔を見合わせ驚愕(きょうがく)の表情。


「どうしよう、タカ! やっぱり」

「言うな! それ以上言うなぁ!」

「どうしたの、一体。何か問題が」

「だって、俺達の若い頃と……違い過ぎない!? パーツ、たくさんあるんだけど!」

「ほんとだよ! 指でつまめないちっちゃいのもあったぞ!」

「最新キットですしね。でも説明書を見ながら組み立てれば、二時間も経(た)たずに作れますよ」

「あ、そうなの? なら蒼凪」

「やっちゃん」


……二人がずいっと詰め寄ってきたので後ずさると、両肩を掴(つか)まれホールド。

そのままこのおじいちゃん達は、首を傾(かし)げながら……年に不釣り合いな笑顔を浮かべる。


「「助けて?」」

「説明書があるって言ったでしょ……!」

「分かった! 蒼凪……女、紹介する!」

「何情けないことを言ってるんですかぁ!」

「そうなのですよ! 恭文さんには既にリインがいるのです! というかフェイトさんやフィアッセさん、りんさん達だって……!」

「御主人様にはあたし達がいるんだぞー! 今日だって添い寝予定なんだから!」

「おのれらは黙ってて!? 厄介だから……ね!」

「……きっと、胸の大きい女性なんでしょうね。プロデューサー好みの……くっ」


千早さんー! また、そんな瘴気を出さないでよ! というか、そこまで!? そこまで困り果てているの!?


「あのね……見たでしょ!? 僕もフェイタリーの修理があるんですよ! フレームからガタガタなんですから!」

「そうは言うけどコイツ……難解だぞ!? ホシを吐かせる方がずっと楽だっつーの!」

「やっちゃん、タカはもう年だから、優しくしてあげようか」

「君も同い年だよね!」

「あの、それなら私達が御主人様の代わりに教える形で」

「「よろしくお願いします!」」

『迷いなし!?』


とにもかくにも、ともみの提案は採用。これで僕はきっちり修理と……新しい作業に入れるわけで。


これからの試合、AGE-1とクロスボーンGR、インフラックス、ブルーウィザード、カテドラルは使えない。

カテドラル以外の四機は、一旦リインに預けてるから。カテドラルについても……まぁ念のためにね。


「それとリイン、準備は」

「四機での”ゴーストマニューバ”は進行中なのです……次の試合までには、必ず」

「OK。りん、悪いんだけど次の試合からはセコンドに入って。リインは決勝まで出られないから」

「あ、うん……というか、ゴーストマニューバ? 何それ」

「リインの切り札なのですよ」


そう言いながらリインが出すのは……コッソリ作っていた空色のガンプラ。AGE-FXの改造機体なんだけどね。

Cファンネルの代わりに接続しているのは、リインお手製の≪Gファンネル≫制御装置。

それに対応するため、ブルーウィザード達は頭部だけを連動パーツに差し替えている。


これもロボコップみたいでカッコいいんだー。バイザー式のカメラアイがぎらりと光ってさ。


「粒子暴走を止める際、何が起こるか分からないしね。でも手数は必要だから準備してもらってたんだ。
……ここからはフェイタリーを使うかどうかも、ちょっと考えないといけないし」

「はぁ!? あ、ブルーウィザードやカテドラル」

「それも使わない」

「恭文さん!?」

「じゃあ、何で戦うの!? ガンプラがないじゃん!」

「そうです! それにどうしてカテドラルまで! いや……何をするかは分かりますけど!」


おぉ、さすが千早。即座にプランを見抜いてくれるとは……これは話が早い。


「でもカテドラルの特性は、プロデューサーが一番知っているはずですよ!? ブルーウィザードも含めて、リインさん一人に制御できるはずが」

「そっちは別口だ」

「……まさか」

「できれば安全圏にいてほしいけど、万が一ってことがあるしね」


だって、あの人も馬鹿なんだもの。ただ体調の問題があるし、基本的には何も言わないつもり。

それでも……もし飛び込むならってね。そっちはエレオノーラ達とまた相談させてもらうよ。


「だから準備するのよ。りんの力も借りたいし」

「あたしの?」

「だって専門でしょ?」


そう言いながら、既に組み上げていたガンプラを出す。


「アストレイは」

「レッドフレーム! ……恭文、もしかして」

「念には念をってね」


結晶体破壊の切り札は、セイとレイジ、それにニルス”だけ”とも言える。だからこっちでも準備するのよ。

HGでもフルフレームがデフォなアストレイ、そしてストライクは、そのたたき台として十分な資質を秘めていた。

それでフェイタリーも修理しつつバージョンアップ。結晶体破壊に備えた攻撃手段を搭載する。


いや……本当はフェイタリーのバージョンアップだけでいいかなとは、思っていたんだよ。それで今後の試合も勝ちぬいてさ。

でも無理だ。今日、トウリさん達とのバトルで甘さを突きつけられた。

ここからのバトルはやっぱり大破前提。フェイタリーにのみ機能を集中していたら、いざってときに戦えなくなる。


なのでたたき台としてもう一機、同時進行で作ることに……うん、無茶苦茶(むちゃくちゃ)だね。

粒子暴走にも備えて、大会にも勝ち抜くなんて無茶苦茶(むちゃくちゃ)でぜい沢。でも仕方ない、両方やりたいんだから。


「全く……せめて相談くらいはしてください」

「だから今してる」

「でしょうね。……でも、やり通すんですよね」

「アイツらのお遊びには付き合えないしね」

≪えぇ。見せてあげましょうか、格の違いってやつを――≫

≪なのなの!≫


さて、頑張りますか。プランは固まっているし、何よりテンションはマックス! サクッといくぞー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界を救う……みんなを守る。正直、その実感はない。でも僕とレイジが、僕達のビルドストライクが何かの助けになる。

僕達のバトルが、みんなの希望になった。それは嬉(うれ)しくて……だったらと、迷いなく引き受けることにした。


「でもニルス君、恭文さんは大丈夫なの?」

「実はそれが不安です。ただボク達は同じ出場者ですし、それで秘蔵の技術を教わるのはやはり躊躇(ためら)いが」

「だよね……」


しかもリインちゃんに今まで作った機体も預けて、フェイタリーもバージョンアップに備えて一旦封印でしょ?

この状況で……そこまでの備えをしていくなんて。少し手伝うべきじゃ。


「心配性だなぁ問題ないって……あれはワクワクした目だったし」

「ワクワク?」

「人の猿まねじゃあつまらない。自分なりに”新しい挑戦”をしたくなった……そんなところ?」

「あぁ……そういう……」

「なら心配なさそうだなぁ」


自分なりに結晶体を壊せる……そんな必殺技を構築して、かぁ。新しい機体はそんな挑戦を詰め込んだものにするわけか。

だとしたら強敵だね。単なる予備機体じゃなくて、勝ちに行くためのものなんだから。

それも今日、トウリさんとイビツさんに圧倒された部分も踏まえ、改善したものだ。……何が出てくるんだろう、楽しみだなー!


「確かに……どうしても仕上がらない場合は、大人しくブルーウィザードを使うそうですし」

「そこは割り切りを付けて、かぁ。……なら僕も備えておくよ」

「どうすんだ」

「ビルドガンダムMk-IIだよ。RGシステムVer2.0を搭載する」

「できるのかよ!」

「元がRG≪リアルグレード≫のガンダムMk-IIだからね。フレーム強度やクリアパーツなどの調整をすれば、割とすぐに」


つまり、最悪大会中ビルドストライクが大破して、暴走停止の際に使えなくなっても……うん、今ならできる。

ニルス君と仲良くなったおかげで、ビルドナックルの原理もより深く理解できたからね。もっと威力が上げられるはずだ。


「ならそっちは杏も手伝うよ」

「いいんですか!?」

「アリスタの解析も一段落ついたしね」

「ありがとうございます!」

「でさ、大会の話に戻すけど……二人ともモテモテだよねぇ」

「は、はい!?」

「なんだよ、いきなり」

「……いや、アンズの言うことも分かります。明日の試合はミスター・フェリーニとセシリア・オルコットさんですから」


あぁ、モテモテってそういう……そうだね、フェリーニさんとはまだ決着がついていないんだ。


「ミスター・フェリーニは、真なる決着を望んでいる」

「セシリアとチナは……つーかチナの目当ては、やっぱりセイか」

「僕!? え、待って……それじゃあ、まるで僕と戦うために」

「お前がガンプラにばっか夢中だから、追いかけてきてんだよ。察してやれよー」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


レイジとニルス君達に呆(あき)れられ、顔から火が出る思いだった。

え、そんな! どうして! だって委員長とバトルする理由なんて……いや、違うのかも。

今のレイジと僕自身に置き換えたら、何だか答えが見えた。……それも、バトルした上で……なのかな。


「こりゃあ先が思いやられるねぇ。まぁニルスもキャロがいるし、その辺りは似たようなものか」

「キャロラインのことは、どうか言わない方向で……!」

「お前も煮え切らねぇなぁ。あんないい女、早々いないんだから捕まえておけよ」

「レイジ君!?」

「レイジ、その勝利者気取りは……うん、やめようか」

「何でだよ」

「少し前、アイラさん絡みで煮え切らなかったのは」

「それは言うなぁ!」


言うよ! 言い続けるよ! だって……腹立たしいじゃないかぁ! それもすっごく!

――というところで、突然部屋のドアがノックされた。一体なんだろうと思っていたら。


「ガンプラ心形流――ヤサカ・マオ! 完全っ復活です!」

「「……は?」」

「そんな顔せんといてくださいー! あ、ニルスはん、杏はんもどうもー」

「こんばんは、マオ君。しかし……なぜ突然」

「いや、お二人がセイはん達のところにいると聞いて、”例の件”のお返事をと」


例の件? あ、もしかして……慌ててニルス君達を見やると、苦笑気味に頷(うなず)いていた。


「うん、粒子暴走対処の件、マオにも話を通していたんだ。X魔王の性能もあるし」

「さすがに話がデカくて、ちょお時間をもらったんですけどね。……引き受けますわ! 世界の危機やったら、試してみる価値が」

「あ、それはジオさんが言ってたから」

「なんですのそれぇ!」

「マオ君、いいの!? 結構無茶苦茶(むちゃくちゃ)な話なのに!」

「ミサキちゃんも世界大会終了まではこっちにおると言いますし」

「あぁ、そういうことか」


友達のためかぁ。確かにミサキさんとも仲良しだったからなぁ。ただ疑問はあって。


「……でも結晶体を壊すのに、まるで戦略級兵器≪サテライトキャノン≫が必要って。敵が出てくるわけでもなし」

「出てくる可能性があるよ」

「え……!」

「セイはん、忘れましたか? バトルシステム地下には、無人操縦用のガンプラがひしめいてるの」

「……第二ピリオドで、僕達を襲ったメガサイズモデル!」

「ニルスはん達のプランには、一つ懸念事項がありまして。……未使用のガンプラが空間中の粒子に反応し、暴走する危険があるそうです」

「そのためにも戦力が必要と判断しました」


あのときはPPSE社のサプライズという形だった。それが、もしかしたら一人でにってこと!?

そうか、それで恭文さんとリインちゃんも、あんなプランを……レイジも状況の深刻さを改めて感じ取り、拳を鳴らす。


「セイ、ビルドガンダムMk-IIの改修、オレも手伝うから急ごうぜ」

「うん。そうなると余計に、僕達アタッカーの責任は大きくなる」

「えぇ、よろしくお願いします。……マオ君も、心から感謝します」

「いえいえー。むしろホビースポーツのだいご味に参加させてもらって、感謝しますわ。そ・れ・にー!」


あ、マオ君のテンションがやっぱりおかしい。一体どうしているのかと思っていると。


「ワイ、明日はどこへ行くと思いますー?」

「地獄だろ?」

「どこまでも死んだ扱いにするの、やめてもらえますか!? 生きてますー! 全力で生き抜きますー!」

「じゃあどこに行くのかな」

「んふぅ……実はぁ、ミサキちゃんとホビーセンターに見学に行くんですぅ〜」

「ホビー……センター? セイ」

「バンダイホビーセンターだよ。ガンプラが作られているところ」

「……あぁ! そういや静岡(しずおか)に工場があるって言ってたな!」


そう……バンダイホビーセンターは静岡市(しずおかし)葵区(あおいく)にある、ホビー事業部の事業所兼工場。

二〇〇六年三月に旧静岡(しずおか)工場から移転してね。国内唯一のガンプラ製造拠点なんだ。


「確かここだけでやってるんだよな。ガンプラそのものを作るのって」

「そうだよ。企画・開発・試作・製造を一貫して、センター内部で行っている。一般見学も受け付けているんだ。
僕も見たことがあるけど……凄(すご)いよー。部品の射出成形機はホワイトベースで、自動搬送機はザクをもした装飾になってる。
作業服も地球連邦軍の軍服を模したもので、袖には役職に応じた階級章が付けられているんだ」

「へぇ……工場って言うから殺風景な感じかと思ってたが、なんか面白いな!」

「はいー!」

「つーかそれ、デートじゃね!?」

「そうですー! デート、デート、デートやん……んふふふふふ〜!」


そのままマオ君は、ウキウキしながら部屋から出ていく……。


「あ、セイはん!」

「うん!?」


かと思ったら、こっちへ振り向いて敬礼。


「そういうわけでワイも大会が終わるまではいますし、何か用向きがあればお手伝いしますー!」

「ありがと! ……なら僕はいいから、恭文さんの方を手伝ってくれるかな。結晶体破壊対策のガンプラ、ここから仕上げるらしくて」

「了解しました! 早速行ってきますー!」


改めてマオ君を見送り、手を振る。あははは……まぁ、大丈夫だよね。マオ君の技術力は折り紙付きだし。

恭文さんの挑戦も邪魔しない形で、上手(うま)くサポートしてくれるはず。でもデート……デート!?


「ねぇレイジ……」

「なんだ?」

「友達同士で出かけるのって、デートって言わないんじゃ」

「「「……はぁ」」」

「ため息を吐かないでー!」


え、違うの!? 呆(あき)れられてるってことは……そういうことなの!? やっぱり僕、そっち関係では旧人類≪オールドタイプ≫なのかな!

あぁ、新人類≪ニュータイプ≫として覚醒したいー! そうすれば刻だって超えられるのに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんはベスト4に駒を進めた。世界で四つの指に入るくらい、強いお父さん……ふふ、素敵ですわね。

それはセイさん達も同じ。ルーラ・サンタナも常連組で格上でしたが、今のセイさん達ならば十分勝ちも狙える相手。

あの二人はこの大会中に、幾度も限界を突きつけられ、そのたびに突破してきました。もう、出会った頃のようなひな鳥ではありません。


そんな二人に続けるようにと、自室で機体調整。もちろんチナさんも一緒です。


「……いい感じで仕上がりましたわ。チナさん、ありがとうございます」

「いえ。わたしもいっぱい、勉強させてもらいました」


ダブルオーガンダムベースの改造機体≪ダブルオーティアーズ≫。なお、Hi-νカラーなダブルオーです。


右手には遠近両用兵装GNソードIII改。GNソードIIIから変形機構を排除して、大型化したものです。

両サイドスカートにはGNソードII改二振り。

リアスカートにはGNビームサーベル二基。


バックパックはオリジナル支援メカ≪ティアーズライザー≫を装備。

ストフリを思わせるバインダーを装備しており、更にGNソードビットIIを八基搭載。


通常のダブルオーよりも鋭角的なデザインを心がけながらも、その可動範囲は妨げないよう配慮しています。


「でもセシリアさん、どうしてダブルオーガンダムなんですか? クアンタがありますよね……しかもSD」

「確かに。ですがダブルオーは遊びの幅も広い機体なんです。ライザーを装備するための拡張穴もありますし、GNドライブのバインダーも二基。
にもかかわらず可動範囲は一級品で、何より扱いやすい。構造上複雑なところもありませんから」

「確かに……わたしでもこう、手を入れやすいところがたくさんでした。気をつけるのはクリアパーツのはめ込みくらいで」

「クアンタもよい機体ですし、大好きですわ。でも拡張性という意味では一歩譲ります。
……セイさん達とのバトルを考えれば、ブースターの仕様も考慮に入れないと」

「だから、ティアーズライザーなんですね。……イオリくん達と、戦う」

「怖いですか?」


そこで彼女は、迷いなく首を振る。


「ただ、今更……本当に今更、思い知って。わたし、イオリくん達と本気でバトルをしようとか、考えたことがなかったなって」

「セイさんもバトルが下手だから余計に?」


驕(おご)っている部分もあるかもしれない……そう自嘲しながらも、チナさんは頷(うなず)く。


「でもイオリくん、予選ピリオドでは自分でバトルもして……ちゃんと結果を出して」

「確かそれも、レイジさんの仕込みですわよね。……彼はとっくに気づいていたのですね」

「……はい。わたしも……あの、フェリーニさんとの試合を見て、分かりました。
もうイオリくんに、レイジくんというファイターは必要なくなっている――」

「えぇ」

「でもそれは、二人が悪いわけじゃない。イオリくんが強くなって、変わって……新しい道が開けたから」

「えぇ」


気づいていないのは、皮肉にもセイさん本人だけ。わたくし達も、フェリーニさんも、ニルスさんも……恭文さん達も気づいています。

……少し前まではそう思っていました。セイさんがあの、アリスタと呼ばれる石を……アイラさんに渡すまでは。


「イオリくんは、気づいているでしょうか」

「気づいていないと思っていたのですけど、どうでしょうね。……彼はレイジさんから託された≪アリスタ≫を、アイラさんに渡しました。
二人の思いが通じ合えばと、そう願って……それは言い換えれば、『もう自分には必要ない』というサインにもなり得ます」

「だったらわたしも、変わりたいって……また、強く思ってるんです。それで胸の中が凄(すご)く熱い――」


チナさんはそんな彼を思い、控えめな胸を撫(な)でる。


「今回はセシリアさんの手を借りて、だけど……いつか必ず、イオリくんと本気のバトルができるようになりたい。
それだけじゃなくて、もっと、もっと、イオリくんと向き合って、一緒に歩けるようになりたい……だから、戦います」

「チナさん」

「セシリアさんが、みんなが教えてくれた。変わることは怖いけど、勇気が必要だけど……でも、学んで選び取る価値はある」


……この子はとても一途(いちず)で、優しい子。でも、それゆえに迷ってしまう。知らない世界に飛び込むとき、目を閉ざしがちになってしまう。

だけど開く勇気を学んだ。目を開かなければ、その中で正しい道も分からない。それを選び取るため、学ぶこともできない。

だから迷いを払い、チナさんは笑う。誰よりも、何よりも、まずは弱い自分と戦い、打ち勝っていくと……本当に、よかった。


この子はもう大丈夫だ。自分がイギリスに戻っても、迷うことがあっても、その勇気を忘れなければ……きっと大丈夫。

だったらわたくしにできることは一つ。この子が勇気を忘れないよう、その胸に強く刻み続けること。

未来を照らすかがり火として……いつか向き合うべき、ライバルとして。時間は残り少ないかもしれないけど、だからこそ全力で。


残り少ない愛(まな)弟子との時間を惜しみながらも、その背中を優しく押す。


「でも、そのためにはやっぱり告白ですわねー」

「そ、それはー! ……というか、セシリアさんだって、恭文さんにはっきり言うべきです! 結局思わせぶりで止まってるくせに!」

「あなた、それを言いますか! なんて生意気な!」

「セシリアさんこそ、どうしてそう奥手なんですか! チェルシーさんが言ってましたよ、見ていてハラハラするって!」

「チェルシィィィィィィィィ!」


わたくし達は笑う……二人で、星のように明るく笑う。

そんなわたくし達を、新しい愛機は見守ってくれていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして翌日――今日の試合はフェリーニさんとセシリアさん、そしてユウキ先輩とジオさんという組み合わせ。

だからもう、注目度は当然凄(すご)いわけで。それはフェニーチェの状態もあったんだけど、そこは問題なし。

まずはセシリアさんとフェリーニさんの試合。宇宙空間を舞台に飛び交う蒼とトリコローレカラー。


レイピアと白いGNソードが衝突し合い、激しい火花を走らせる。フェニーチェはいつも通り、完璧な仕上がりだった。


「フェリーニの野郎、ちゃんと間に合わせやがったな」

「うん! でもセシリアさんも機体を変えてきた……あれは、ダブルオーガンダムベースか! しかもオリジナルライザー!」


その斬撃を流し、フェニーチェは左脇腹目がけて刺突。でもそれはオリジナルライザーのGNビットが受け止め、弾(はじ)かれる。

すかさず距離を取ったダブルオーティアーズは、GNソードの切っ先を向けながら射撃。

両脇に備えた二連装ライフルから、ビーム弾丸をまき散らして牽制(けんせい)。本命は同時展開したビット達によるビーム。


青いクリアパーツがきらきらと輝き、そこからピンクのビームが次々照射される。

フェニーチェは不規則なジグザグ移動で回避しつつ。


『遅いぜ、青い涙!』

『あおー!』


バスターライフルを一射。コースを考え、幾つかの射撃を飲み込みながらイオンビームは放たれた。

あれは直撃狙い……いや、違う。


「アイツなら当てられないのは分かるはずだ」

「狙いは……背後にあるコロニー外壁!」


破砕を目くらましにして、一気に近づくつもりだろう。でもそこで、ビット達が展開。


『パワーゲート、展開! セシリアさん!』

『いきますわよ!』


クリアブルーのビット達はダブルオーへと戻っていて、輝きながら円陣を組む。ダブルオーはGNソードをそちらへ放り投げた。

するとソードに刻まれたパネルラインから青い輝きが漏れ出し、刀身自体が稼働。一回りほど大きいボードに変化した。


それにダブルオーは乗っかり、ビット達によるエネルギーフィールドを突破。

トランザム化により赤い粒子をまき散らしながら、そのまま加速する……って、あれはぁ!


「あれは……!」

「ディスチャージじゃねぇか!」

『ティアーズ・ライド・シューティング!』


赤き流星はその超加速により、周囲の粒子を圧縮。刃を研ぐようなその鋭さは、トランザムの赤を青に変化させる。

イオンビームと真正面から衝突した涙は、黄色いビーム奔流を容易(たやす)く蹴散らし……そのまま、フェニーチェへと直進する。


『ちぃ!』


フェニーチェは咄嗟(とっさ)にバスターライフルを手放し退避するものの、ライフルはそのまま粉砕されて爆発。

イオンビームを構築していた粒子も辺りに無数の帯としてまき散らされ、コロニーやアステロイドベルトに無数の爆炎を、それによる帯を生み出した。


「……最強の射撃は、自分自身が弾丸になることだった?」

「無茶苦茶(むちゃくちゃ)じゃねぇか……! でもすげぇな!」

「うん!」


あれはセシリアさんなりの、紅の彗星と言うべきかもしれない。ボード……というか、GNソードIIIの改造物?

大型化している上に、折りたたみもできなくなって不便だと思っていたんだ。でも、それも当然だった。

あのボードへの変形機構を詰め込んでいたんだから。もう完全に別物ってやつだよ。


でもフェリーニさんだって世界最強レベルのファイターだ。さすがにそれだけじゃあ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さすがは青い涙……ヤバい性能だ」

「あおー!」

「だが、俺だってなぁ!」


レイピアを抜刀し、マントを展開。次の攻撃に備える。

……紅の彗星と同質の突撃だが、それには弱点がある。確かに当たればデカいが、高速な分その機動は単純になりがち。

更にヤスフミがスガ・トウリにやったように、幾つかの対処方がある。というかまぁ、あの手の攻撃については。


「悪いがそういうのは」

『グレコ・ローガンとの戦いで慣れっこ?』

「そういうこった!」

『……甘いですわよ』


遥(はる)か遠方で青い涙はドリフト。トランザムの粒子を波のようにまき散らし、スラロームをかけてこちらに突撃する。


『トランザムライザー!』


だがあと二〇〇メートルというところで、トランザム発動。

ツインドライブによりまき散らされるのは、溢(あふ)れんばかりの粒子。青いそれが空間一杯に広がり……おいおい。


「ソイツは……!」

「あお!?」

『あいにくわたくし達は暴れ牛ではなく』


とてつもなくデカい、青い水面……大波になりやがった!


『波乗りサーファーですわ!』

「なんだそりゃあ!」

「あおー!?」


ツインドライブ効果によりまき散らした粒子を変容。巨大な……広範囲に亘(わた)るウェーブを形成しやがった!

だったらとレイピアを右薙に振るい、反転した上で退避。


「あお!」

「さすがにありゃあヤバいだろ! つーかお嬢様はサーファーかよ!」


……だがそこで嫌な予感が走る。それを示すように警告音も鳴り響くので、慌てて上昇。

突如として走る長距離射撃を避けると、続けてビット達が渦を巻きながら襲ってくる。

あるものはビームを照射し、またあるものは自ら突撃。ビームは不規則な機動で回避し、突撃してきたものはレイピアで払おうとする。


だがビットはレイピアのビームを切り裂き、こちらの左肩に命中。アーマー上部を切り砕かれ、一気に機体バランスが崩れる。


「あお!」


粒子変容塗料か! いや、GNソードに乗っかっての突撃で察するべきだった!


「くそ、コイツは」


それでも反転しながら、続けて突撃する三機をやり過ごす。が……そこで再び狙撃ビーム。

咄嗟(とっさ)に展開したマントで弾(はじ)くものの、また衝撃から煽(あお)られてしまう。


「波乗りしながら狙撃って、どんな曲芸だよ!」

『練習しましたもの、リアルで』

「嘘だろおい!」

「あおー!?」


波に乗ることでこちらより高所を取り、狙撃のポジション取りもしてやがる。しかも移動しながらだ!

バスターライフルに真正面から突っ込んできたのも、こっちの砲撃潰し……いや、そこは関係ない!

これはガンプラバトルだ。上の取りようなら幾らでもある。それを防ぐためのビット達でもあるんだろう。


「やってくれるぜ、全くよぉ!」


それでも……それでもと機体を立て直し、ビット達の連続突撃を払う。

刀身に真正面から叩(たた)きつけるのではなく、側面を狙って軌道変更。

更に物理兵器なのを利用して、掌打や蹴りも活用。こちらも刃を正面から止めなければ、問題なく通用する。


駒のように身を翻しながらの連撃で、八基のビット達と交差……そのうち三基を両断し、破砕する。

それからすぐに上昇。狙撃ビームを一発回避し、反転するビット達を振り切るように加速……!

ビット達のビーム照射も、こちらを狙う狙撃もスラロームですり抜け、一気に距離を詰めていく。


「だがな、俺にも……俺達にも」


残り五十メートル……粒子放出を続けている状態では、近接攻撃もまともにできまい。狙撃やビット操作も加わっているのがいい証拠だ。

そして先ほどのような荒っぽい加速はない。つまり近づき、斬りつけさえすれば……!


「意地があるんだよ!」

「あお!」


レイピアを引き、そのまま波乗りお嬢様目がけて突き出す!

……だが踏み込んだその瞬間、フェニーチェの動きが止められた。


『――ティアーズビームビット』


アイツが乗っている波のひとしずくから、鋭いビームが走ったことで。それがフェニーチェの胴体を撃ち抜いたことで。


「な……」


これは波だ。だが同時に勘違いもしていた。波は”涙”でもあった。

青い涙が得意とするビット制御。放出した粒子で形成したのは、数百にも及ぶ、超小型のビームビット……AGEに出ていたアレだ。

波という一つの姿に騙(だま)されていた。それを痛感している間に、涙達はこちらを包み込み。


『フルバースト』


瞬間射出――逃げ場もなく放たれた涙。だが……!


「まだまだぁ!」


言っただろうが! 俺にも意地があると! だからビームマントを最大出力で展開し、一回転!

たなびくマントは全方位に広がり、フェニーチェを包み込む。それによって涙達は次々着弾するも、その全てが弾(はじ)かれていく。

撃ち抜かれたと言っても、動きを止められたと言っても、数の分だけ威力は控えめ。実は胴体部を貫通などはしていない。


だったらビームマントで防げると思ったが、大正解だ。まだチャンスは。


『ありませんわよ』


……そこで涙達の次に。

展開し、球体上となっていたマントに打ち込まれたのは――。


「あお!」

「く……!」

『取りましたわよ……この距離!』


ダブルオーのGNソードだった。波に乗っていたはずが、いつの間にか右手に再装備。

トランザムライザーの出力も合わさり、刃はこちらの領域≪フィールド≫を容易(たやす)く切り裂き――交差。


普通なら諦める状況なんだろう。だが自然と指は、手は動いてくれた。そしてフェニーチェもまた、それに応えてくれた。

あぁ、負けられないよな。戦いたい奴らがいるんだ……ソイツらのところへ行くのは、俺達だ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本当にとんでもない。やはりリカルド・フェリーニは、ウイングガンダムフェニーチェは、とんでもない底力を秘めていた。

咄嗟(とっさ)に身を伏せ、刃の下側を蹴り上げ軌道変更。それで斬撃をすれすれで回避する。胸元の一部と、アンテナが切り裂かれただけで終わった。


「そんな……あれが、避けられた!?」


ここまでビット制御を手伝っていたチナさんも、さすがに動揺する事態。そうしてわたくし達は容赦なく背後を取られる。


『いい波だったぜ……これはお返しだ!』


マシンガンとマシンキャノン、更に右腕のビームガンもフルバースト。

そのまま止まっていれば、間違いなく直撃を食らい、トランザムも解除されるでしょう。

そう、そのまま止まっていれば――。


「……お断りですわ」


でもダブルオーは、わたくし達は進み続けていた。斬撃の勢いを殺さず、身を翻しながら右に動いていた。

フルバーストの弾丸は一部食らうものの、大半をやり過ごしながら……再度、フェニーチェとの距離を詰めていく。


『ッ……!』


予測していましたわよ、リカルド・フェリーニ。あなたの圧倒的技量と意志力ならば、あの状態でも活路を見いだすと。

遠距離攻撃を中心としたわたくしとなら、この距離に持ち込めばやり合えると。得物も大ぶりですし?

でも甘いです。わたくしはこの距離で戦う理由があった。あの踏み込みに対するためには、この距離でわたくしも踏み込む必要があった。


あなたにも負けられない理由が、勝ちたい理由があるでしょう。

でもそれは、わたくしも同じ。いえ……少し違いますね。別に負けたっていいです。

勝負ですもの、そういうときはあります。でもあの人と相対したとき、引いて負けるのだけは絶対に嫌です。


それではこの名を、この存在を刻み込めない。だから踏み込むことにした……あの修羅に!


『あお!』

「今度は――」

「はい!」


チナさんも素早く復帰して、わたくしの意図を読んで粒子制御。それに合わせ……GNソードIII改から粒子発露。

展開したビームは長大かつ巨大な刃となり、そのまま右切上に振るわれる。


「逃がしません!」


ライザーソード――! 退避しかけた彼を両断し、ようやく……不死鳥の動きを停止させた。

空間いっぱいに広がる斬撃は、近くのコロニーすらも両断。その巨大な爆発に煽(あお)られ、フェニーチェのトリコローレカラーが一瞬曇る。


『あそこで……避けるのかよ。だが、あれは』

『あお……』

『いいさ。アイツらとの約束を果たせないのは残念だが……この一撃に叩(たた)き伏せられたなら、納得するしかないだろ』

「フェリーニさん……」

「……ありがとうございます。最高の褒め言葉ですわ」


感謝を伝え、爆発に包まれる不死鳥を、リカルド・フェリーニの散りざまを見届ける。


≪BATTLE END≫

『――激戦決着! 不死鳥≪リカルド・フェリーニ≫を下し、セシリア・オルコット&コウサカ・チナ組がベスト4に名を連ねたー!』


粒子による世界が解かれる中、ダブルオーティアーズは静かに着地。汗を払いながら、チナさんと笑い合い……歓声に応える。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェリーニさんが、負けた……その衝撃はやっぱり大きくて、レイジも険しい表情で拳を握る。


「……やってくれたな」

「うん。でも最後の一撃、今までのセシリアさんとは違う。あのギリギリの状況を覆せるなんて」

「オレ達も気合いを入れろってことだな」

「レイジ」

「今はやめとく。つーか」


……そこでフェリーニさんが、あおが壇上から降りると、出迎える影……あ、ミホシさんだ。

仲良しだからなぁ。レイジは三人の様子と……抱かれたフェニーチェを見て、致し方なしと肩を竦(すく)める。


「オレが何か言う必要、なさそうだしな」

「うん」

「……で、次はユウキ・タツヤか」

「ジオさんも強敵だしね。あのベビーRもまだ底が見えないし……激戦必至だよ」


――そうして始まる次の試合。できればユウキ先輩に勝ってほしいけど、ジオさんにもいろいろお世話になったしなぁ。

つまりその……よし、二人とも応援しよう! うん、それがいい!


……その、はずだったんだけど。


『――会場の皆様にお伝えします。ブラジル代表:ジオウ・R・アマサキ選手は諸事情により棄権』

「な……!」

「はぁ!?」

『二回線・第四試合の勝者は、三代目メイジン・カワグチに決定しました』

「どういうことだよ……セイ!」

「分かんないよ! なんで!? どうして!」


……あ、この流れはもしかして……いやだ! 地区予選でのアレを思い出してしまった! 嫌だ……嫌だー!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……アンズやニルス、セイ達は驚かせただろうなぁ。ナターリアも……あははは、叱られるのは覚悟しておこう。

だがなんかスッキリしながら、青い空……芝生の上でごろりと寝転がって伸び。うーん、いい心地だ。


「……ジオさん」


そこで近づいてくるのは、アンズとニルス。申し訳なさげな顔を見て、素早く身体を起こした。


「ここにいらっしゃったんですね。……あの」

「お前達のせいじゃないぞ」


言いたいことは分かるので、きっぱり止めておく。……すると二人は面食らった様子だった。


「あぁ、違うんだ。……俺さ、元々はバトルが嫌いだったんだよ。まぁ、よく言われる『壊し壊され』って辺りで?
それでもバトルでしかできないことを……その世界で頑張っている人達を見て、はまり込んでさ」

「……えぇ」

「その一人が二代目メイジン……ちょっと縁があって関わった、偏屈なおじさんだ。
おじさんの体調についても前々から察知していて、倒れないうちに後を継げればって……ガンプラ塾に乗り込んだこともある」

「でしたら、三代目とは」

「アイツが塾に入る前の話だ。件(くだん)のジュリアン・マッケンジーが入塾したくらいだからな。だがその必要もなくなった」


本当にモチベーションの問題だ。しかも……さすがに失礼だと思って、三代目に話を通したら、まぁ。


「まぁ安心してくれ。実は三代目とは、昨日のうちにバトルさせてもらってな」

「なんですって!」

「察するにいきなりは失礼だから、三代目に話を通して……で、あの調子で”納得がいかん!”と」

「そうそう。そりゃあもうコテンパンに……だが余計に突きつけられた。手は尽くしたが、俺には勝ち抜こうとする意志が」

「当然のことだ」


……そこでビクリとする。まるで叱られる前の子どもみたいに震えながら、振り向くと……そこにはおじさんがいた。

黒いマントをなびかせ、直立不動で。夏だってのに汗一つ滲(にじ)ませず、堂々と……自然と立ち上がり、背筋を正していた。


「仏作って魂入れず――どのような高い技術があろうと、戦う理由のない者に勝利は訪れぬ」

「……あぁ、本当にその通りだ。俺にはもう」

「だがそれは、貴様の戦う舞台が”ここ”でなかっただけ……かもしれん」


……そう言いながら叔父さんは背を向け。


「まだまだ不格好ではあるが、夢は諦めていないようだな」

「……!」


少しだけ優しい声で、エールをくれる。


「なんだ、違うのか」

「いや、違わない……夢は! まだ俺の前で輝き続けている!」

「ならば精進し、つかみ取ることだ。そうして、よき勝利を――」


そのままおじさんは、確かな足取りで消えていった。

勝利……あぁ、勝利かぁ。ほんと何も変わっていないんだと笑ってしまう。

だがその通りだった。夢を追いかけることも、つかみ取ることも挑戦であり勝利。


俺の前にまだ、道は広がっていた。終わりじゃない……俺にはまだ、ガンプラを、バトルを続ける理由がある。


「ジオさん」

「……安心しろ!」


萎(しぼ)みかけていた心が奮い立つ。その勢いのまま、二人に振り返って笑い飛ばしてやる。


「夢のためにも、お前達のプランには変わらず協力していく!」

「……えぇ」

「一緒に頑張ろうね」

「おうよ!」


三代目にも改めて話をしよう。つーか心配をかけた奴らは全員か? それでまた、時間をかけて叶(かな)えていこう。

俺は確かに降りた……今までの戦う理由から降りた。だがそれだけ。俺の夢はまだ途中だ。


それでいつか、おじさんに見せてやる。夢の頂きを――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――今日の試合は終わり、自由時間が訪れた。ビルドガンダムMk-IIの改修に向けた素材入手も兼ねて、レイジと二人で外に出かける。


「ヤサカくんがデート? もしかしてミサキさんと……」

「や、やっぱりそういうの、普通に分かるんだ」

「セイさん、あなた……はぁ」

「セシリアさんもため息!?」

「いや、それは仕方ねぇだろ」


ただそんな中、委員長とセシリアとバッタリ。それで険悪に別れるのもアレと言うことで、みんなで少し遅いお昼を楽しむことに。

向かった先はカフェ&レストラン『ARC ANGEL』――ここ、スイーツが美味(おい)しいらしくてさ。それで脳をリフレッシュだー!


「でもいいなぁ」

「じゃあ大会が終わったら、僕達も行ってみる?」

「え……!」

「バンダイホビーセンター、本当に見所たくさんなんだ! それにガンプラが生まれる場所でもあるし、一度見ておくべきだって思う!」

「あ、うん……」


委員長も興味を持ってくれたのなら、一緒に……と思っていると、なぜか曖昧な表情で頷(うなず)かれた。


「……セイさん、バッドコミュニケーションですわ」

「バッド!?」

「お前、そんなんじゃ一生結婚できねぇぞー」

「一生の問題!? あの、それは、だってあの、それは……あのー!」

「――おおおおおお! この焼きそば、美味(おい)しそう!」


そこで、隣の中華料理店から響く声。というか、店舗前の食品サンプルを食い入るように見つめる二人……って。


「アイラちゃん、こっちの餃子もいい感じよ? ニンニクが入れていないから、パクパク食べやすくて」

「はいー! サンプルからでもオーラが伝わります!」

「アイラさん! 母さん!」

「何してんだ、お前ら」

「「……あ!」」


そこで二人がギョッとしながら、こっちを見やる。いや、ギョッとしているのは母さん……セシリアさんに苦手意識、全開だしなぁ。


「あ、えっと……その……」

「お二人でお食事ですか?」

「え……えぇ。アイラちゃんの衣服関係、調達したところで」

「でしたら御一緒しましょうか」


でもそんなセシリアさんは、特に問題なしと笑ってお誘い。それに母さんも面食らう。


「ここで会ったのも縁ですし」

「いいの? だって、私」

「わたくし、売られた喧嘩(けんか)は買いますけど、売る趣味はありませんの」

「絶対嘘だろ……ぐふ!」


なお迂闊(うかつ)なレイジは、セシリアさんと委員長の肘打ちで黙りました。い、委員長が強くなっている……!

――結果六人でARC ANGELに入り、まずはドリンクで涼を取る。いや、ホント暑いのなんのってー!


「そうだ……あの、ありがとう」


そこでアイラさんが、セシリアさんに深々とお辞儀。


「あなたのメイドさん……チェルシーさん。その人にもいろいろ助けてもらって」

「問題ありませんわ。見過ごせることでもありませんでしたし……で、その後は」

「そうだ。お前、体調とかは大丈夫なのかよ」

「もう健康体バリバリよ。リン子さんにもよくしてもらっているし」

「母さん的にも、アイラちゃんがいてくれると楽しいのよー。あ、うちに来るのも問題ないから」

「もう決めちゃったの!?」

「実は娘も欲しかったのよねー」


それ、既に養子縁組みって話になってる……! ど、どうしよう。その辺りはせめて、父さんとも相談したいようなー。


「後はウヅキ達にも……仕事の準備もあるだろうに、ちょくちょく会いに来てくれてね」

「卯月先輩達も、優しい人ですから」

「……ウヅキについては、幾つか疑問もあるけど……というかセイ、アンタはあの子の後輩なのよね」

「えぇ。というか、委員長……コウサカさんもですけど。同じ学園の中等部なので」

「コウサカ、さん……」

「セイ、アンタ……!」


あれ、また呆(あき)れられた!? それに委員長が裏切られたようなショックを!

いや、だって……名前で言わないと、アイラさんも分からないだろうし!


「あの子、どうなってるのよ! ところどころ押しが強いし、鬼の目になるときがあるんだけど!」

「そうなんですか? いや、僕にはそんなことないような……委員長は」

「わたしもないけど……あ、でも恭文さん絡みになると、暴走しやすいような」

「それよ! いや、悪い子じゃないと思うんだけど、勝ち目がないというか、逃げ場がないというか……」

「卯月ちゃんも可愛(かわい)いだけのアイドルじゃないってことよ」


あぁ……そう言えばレイジとバトルしたときも、何か大変だったような。でも卯月先輩が鬼……全く印象にない。


「――お待たせしましたー。ミックスフライ定食とスタミナ御膳(ごぜん)、カツ丼になりますー」


首を傾(かし)げていると、まずは僕と母さん、アイラさんの注文がきた。


「後のサーロインステーキ定食、スパゲッティカルボナーラ、チキン南蛮の方も、すぐお持ちいたしますので」

「ありがとうございます。……じゃあ話は一旦ここまでにして」

「レイジ達の分が来たら、まずはご飯ね!」

「別にいいぞ。先に食ってても」

「いいのよ。こういうとき、日本(にほん)ではみんなで言うんでしょ? ……頂きますって」


そう……だからみんなで、頂きます。届いた温かい料理を食べて、しっかり元気を付けておく。


「ふ……イオリ・セイ、破れたりですわね」

「はい? あの、セシリアさん」

「早速喧嘩(けんか)を売ってきやがったぞ、この女……」

「カツ丼……敵に勝つ。確かに縁起がいいと思われがちですが」


見抜かれている、だと……! セシリアさんはチキン南蛮を手で指し、なぜかどや顔。


「鳥は二本足で動く動物! そう……彼らは四つ足を突いて、倒れることをしない生き物!」

「なん、だと……!」

「あー、それはあるわね。ちゃんこで鳥が使われるのも、その辺りが引っかかるせいらしいし。
……セイ、負けていられないわよ! チキンカツを食べないと!」

「無茶言わないでよ! カツ丼でお腹(なか)いっぱいだよ!」

「そうかぁ? オレは入るぞ」

「わたしも問題ないけど」

「二人の大型胃袋と一緒にしないでー!」



でも、鳥……そういう意味もあるのか! 勉強になりました! なら今度はチキンカツで、勝ちを取りに行く感じで……今は無理だよ!?

いや、本当に無理だから! 母さんもほら、メニュー表を出してこないで! もうカツ丼一杯で現界なのー!


……ただ、更なる底を持っている人もいるわけで。そう……あの二人です。


「うめぇなあこれ」

「うん、おいしい……!」


レイジとアイラさんが、スイーツの容器を積み重ねていく……このまま、店のスイーツを制覇するんじゃ。

委員長、そしてセシリアさんとあ然……ただただあ然。なお母さんは楽しげに笑っていた。


「食べ過ぎなんじゃ……ないかなぁ」

「でも、似た者同士なんだね」

「いい笑顔ですわ」

「「ん……何か言った?」」

『ううん、別に』


母さんも揃(そろ)って、そんな二人を……至福の表情な二人を、ただただ見守るしかなくて。

でもまぁ、一時期の険悪なムードは吹き飛んでいるようで何よりだ。やっぱりこういうのが一番。


「ええですね……楽しそうで……」

「ん!?」


椅子の後ろから聞こえてきた声に、思わず立ち上がって振り向く。すると……座り込み、落胆した様子のマオ君がいて。


「マ、マオ君!? いつからそこに!」

「どうしたの。デートをしていたんじゃ」

「……何かやらかしましたわね」


いやいや! セシリアさん、そんな断定しなくても! それにデートと言っても、二人で出かけるだけだし。


「デート、しました……デート、してました……! ぽわぽわぽわーん」

「SEはいらないよ!?」


――マオ君の話を簡潔に纏(まと)めると、こういうことらしい。


『ミサキちゃーん』

『マオ君ー』

『ミサキちゃーん!』

『マオ君ー!』

『ミサキちゃーん!』

『マオ君ー!』


笑顔で待ち合わせ場所に向かい、ミサキさんに飛び込んで……。

『ミサキちゅわん−! ミサキちゃーん! ……ミサキ』


唇を突き出したところ、全力のビンタを食らったそうで。


『きゃあ!』

『あぐ!?』

『早い! 早過ぎるわ! こういうとき、慌てたら負けなの!』

『み、ミサキちゃんー!』


……その余りに……形容し難い状況に、一同は言葉を失う。セシリアさんと母さんに至っては、こめかみをグリグリしつつ首振り。


『ミサキちゃんが、ミサキちゃんが……』

「お前が悪い」


でもそこでレイジ投手、剛速球でばっさりストライクー!


「え!? バッサリ!? もっと他に言い方ありますやん!」

「いや、レイジ君の言う通りよ! そこで焦ったら本当に負けよ!?」

「デリカシーがなさ過ぎますわ……」

「うー、ひどい! みなさんのいけず! ひどいひどい!」

「うるさい! 泣くな、男だろ!」

「ふふ……」


……世界の危機とかいろいろあるっぽいけど、僕達はやっぱり僕達で、いつも通りに大騒ぎ。

アイラさんの楽しげな笑みを……騒ぐみんなを見ていると、自然とそう感じてしまった。

うん、そうだね……あんまり気張らなくていいのかも。僕が守れる範囲なんて、きっと……この腕の中だけで。


でもそれが届く中にある、こんな温かな時間が、とても大切なもので。それを守るためになら……戦えるんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


双葉さんの状況は変わらず。やはり蒼凪さんは情報開示をするつもりがないようで……それについては注意を払うしかない。

蒼凪さんが仰(おっしゃ)るように、我々は不徳を積み重ねすぎている。信頼を掴(つか)むには時間がかかるのも当然だ。

信頼とは何だろうか。自分は貯金だと思う……それも一気には蓄積できないものだ。


日々積み重ねられる仕事に対する姿勢。その中で知り合う人々との交流。そう言ったもので少しずつ貯蓄されていくもの。

我々が積み重ねた問題は、それらの残高をゼロにするどころか、借金と言えるレベルだ。まだマイナス残高は変わらないのだろう。


「なん、ですって……」


……そう突きつけられる通達を、たった今受けたことで……今更その境地に達した。


「待ってください、それは」

『武内プロデューサー、CPは現場待機で構いませんので、すぐ東京(とうきょう)に戻ってください。
あなたには今西部長と千川ちひろ、両名と同じく……査問委員会に出頭してもらいます』

「ですが、監督する責任者が」

『サツキ君に任せて……とはいきませんよね』

「えぇ。彼も未成年ですし」

「なのでそちらはまた別の担当者を用意し、既に向かわせています。ご心配なく』

「待ってください……なぜ、部長達が更迭を」


電話は……とても素っ気なく切られてしまった。……責任を取るべきときが、来たようだ。

自分はやはり、歯車のままでいるべきだったのかも……しれない。このままでは、島村さん達も巻き込んで……!


(第67話へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、サクッとした感じに二回戦は終了……しかし同時に、最終決戦の準備もスタート。ジオさんについては、纏(まと)めきれなかった……ごめん。
でも準備、きっと無駄になるんだろうなぁ。セイ達が主役だし……そうか! 粒子結晶体が二つあれば」

あむ「怖い想像はしなくていいから! というかちょっとは落ち着けー!」


(説明しよう。蒼い古き鉄は厳戒態勢の中、暇を持てあましていた。なのでごろごろごろごろー)


あむ「ごろごろするなぁ! とにかく……日奈森あむです」

恭文「蒼凪恭文です。なお次回はガンプライブになる予定」

あむ「あれかー! やっぱりサクサクなんだね」

恭文「うん。……そうすると原作よりも、マシタ達の悪行が増えることに」


(原作では何だかんだで大会が決着した後だったし……うん、残念だね)


恭文「それでセシリアはダブルオーの改造機体。なおサーフィンはあれだ、ヴァーチャロンのテムジン」

あむ「……それ、前にプラモを作ってなかった? なんかデカいやつ」

恭文「それそれ。いわゆる超必殺技なんだよ」


(それでも決め手にならない……書いている最中、リカルドが抜け道を探してくるので大変)


恭文「機体への理解度も含めたら、劇中最強ファイターは間違いなくリカルドだしね。仕方ないね。……そして、マオの離脱」

あむ「でも、あれは確かに駄目じゃん! さすがに引くじゃん!」

恭文「僕にとっても大打撃……! マオ、全力で手伝ってくれていたのに! ちょっと、菓子折り持ってお話しするわ」

あむ「うん、そうしてあげて」

恭文「マオのおかげで、鷹山さん達の方も何とかなったし」

あむ「なったんだ!」


(老いとは怖いものだと、痛感した蒼い古き鉄であった。
本日のED:ステレオポニー『泪のムコウ』)


あむ「というわけで、明日(八月一日)は恭文の誕生日。今日も橘ありすちゃんの誕生日なんだよね。おめでとうー!」

ありす「ありがとうございます。……で、この厳戒態勢はなんですか」

あむ「……恭文、誕生日近辺は最悪ゾーンに突入するから……フォローのために」

ありす「あぁ……」

恭文「納得しないでもらえます!? ……とはいえ、別に拘束されているわけじゃないからなぁ。
逆に申し訳ないというか……じゃあランゲツ、そろそろ行こうか」

童子ランゲツ「うんー!」

あむ「え、行くってどこに」

恭文「童子ランゲツとなか卯に行くって約束したのよ。ほら、今って水樹奈々さんとのプレゼントキャンペーンをやってるから」

童子ランゲツ「対象商品を購入して、レシートか領収証の半券を準備。それをウェブフォームに入力して送信なのー」

恭文「直筆サインポスターが七七名で、なか卯七種の汚職事件が七七七名……当たるといいね、ポスター」

童子ランゲツ「当たったら、ランゲツのお部屋に飾るのー。でも何食べようー」(尻尾フリフリー)

恭文「僕はうな玉親子重かなぁ」

童子ランゲツ「おうどんも美味(おい)しそうだけど、ちらし丼も……あうう、迷っちゃうのぉ」

あむ「さ、最悪ゾーンという自覚は持ってくれている……のかなー!?」

フェイト「あむ、言っても無駄だよ。ランゲツとの約束を守ることが最優先だし」

あむ「だよねー。というか、それで行動を縛り付けても意味がないかぁ。……よし、あたしも行く! あそこの親子丼は大好きなんだ!」

童子ランゲツ「親子丼もキャンペーン対象なの!」


(おしまい)






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