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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory65 『焔の如く』

恭文さんとスガ・トウリの試合が始まる前――大下さん達は、アイラ・ユルキアイネンのところへ向かっていった。

二人も法的後見人となっているので、やはりと言った様子。イオリ・リン子とも相談があるらしい。

ボクはボクでアンズと合流したところ、アンズの携帯に電話がかかる。


「そう……そう。ありがとう、カイザー。なら早速、今夜から内密に……はい、よろしくお願いします」


アンズは電話を終了。肩を竦(すく)めながら、ボクにVサインを送ってきた。


「カイザーはOKだって」

「そうですか。となると、あとは」

「俺もOKだぞ」


後ろから手を振って近づいてきたのは、ジオウ・R・アマサキ……ボク達が内密に、協力を呼びかけた一人だ。


「世界の危機だっていうなら、試す価値くらいはあるだろ」

「ジオさん……」

「……よろしいのですね。リスクは御説明した通りですが」

「余所(よそ)様からのプレゼントを使い潰すのは、十年で十分ってことだろ。……ここからは、俺達の手でまた作っていく」


それは愚問でもあった。

作り上げて、壊して、また作って――僕達はそうして、この舞台まで進んできたのだから。

それはこれからも変わらないと、彼は戦いを迎える舞台に目を向け、静かなほほ笑みを浮かべる。


「どうせお前達もそのつもりなんだろ」

「「……まぁ、一応」」

「だと思ったよ。だが、それならもっと味方を作るべき」


そう言いかけて、ミスター・ジオウは苦笑。


「言うまでもないことだったな。お前達にその心がなかったら、俺もここにいない」

「だね。世界はでっかく、そして広い……それを救おうってんだから」

「取りこぼさないよう、信頼できる方々の手を借りていきます。もちろんあなたの手も」

「おう」


粒子結晶体の暴走……その可能性を前にして、むざむざと見ていることはできない。

もちろん起こさない方向では動いているが、万が一ということがある。その場合に備え、内密に協力者を募っていた。

命がけにもなる。”遊びで済まないバトル”になる可能性もある。無理は言わず、信頼できる方々にただ頼み込む時間。


正直どうなるかとも思った。信じてもらえない可能性もあった。しかし、火種は一つ……また一つと集い始めていた。

ここは忍者としての発言力を持つ恭文さんや、≪ハマの伝説≫である大下さんと鷹山さんの御協力もある。

ボク達子どもの言葉を信じ、後押しする大人の力。それも助けとしつつ、準備は整い始めていた。


敵は強大。襲いくる荒波もまた強大。一人の力では容易(たやす)く潰され、飲み込まれる。

ならば、一人でなければいい。試す価値がある……それくらいはある。


そう示すことで今、未来への階(きざはし)は開かれつつあった。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory65 『焔の如く』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ会長が真の意味で二代目を襲名した翌日――≪チームとまと≫とスペイン代表スガ・トウリさん達との試合。

まずは剣術勝負……でもたった一合打ち合っただけで、スガさんはその底力を見せつけ、更に……!


「なんなの、あれ……!」


凛ちゃんも、私達も驚愕(きょうがく)する。まるで地を縮めるかのような超速度で走り、AGE-2は斬りつけてきた。

変形もせず、恭文さんに反撃を許さない速度で! というかあれじゃあ、ストライダーフォームより……!


「それに速い……明らかに、ストライダーフォームの≪紅の彗星≫より速かったよ!」

「あぁ。しかもあれはただの歩法……走っただけだぞ」

「そ、そんなのあり得ないんじゃ……だって、変形した方が速く飛べる設定で……SPARROWもあるって」

「智絵里が言っているのは能力≪スペック≫であり設定だ。あれはそれとは違う……技術≪スキル≫の問題」


トオルさんも冷や汗が止まらない様子で、幾度もそれを拭う。でも汗はなおも出続けていた。


「しかも恭文の奴、かなり直前まで反応してなかった。いつもならもっと鋭く」

「……呼吸の隙(すき)を突いたんですね」

「呼吸?」

「古流武術の技術にあるものです。人間にはどれだけ鍛えても、一定の限界値が存在します。
そのうちの一つは生態的限界……例えば瞬(まばた)きや呼吸などで、刹那の隙(すき)が生まれてしまう」

「それを見抜いて、あの速度で突っ走ったってわけか。普通の武術ならともかく、ガンプラバトルでよくもまぁ……!」

「ですがそれだけではない、アレは……まさか」

『……縮地か』


恭文さんが冷静に発した、その言葉にゾッとする。


『神速を超える超神速の歩法――≪縮地≫。それも正真正銘の本物』

『あらら、まさか一発で見抜かれるとは。しかも無拍も含めてのガチバージョンというところまで知っているッスか』

『本物を見たことがあるからね』

『納得ッス。……今のに反応できたのはそのせいか』

「やはり……!」


しかも平然と、認めた……それがあり得ないと言わんばかりに、プロデューサーさんが慟哭(どうこく)する。

それは私もだった。だったあの、私も恭文さんから……縮地が実在するって聞いて、ビックリしたことがあって。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まさか彼が、縮地の使い手とは……しかもそれをガンプラで再現だと」

「驚きの技術だね」


一緒に試合を見ていたニルス君と杏さんが、戦々恐々と震える。でもあの……僕的には納得できない!


「ちょ、ちょっと待って! 縮地って漫画の技だよね!」

「オレもセイの家にある漫画で見たな。すげー速く走る技だろ?」

「類似する技術はあります。しかも縮地はただ速く走る技ではない」

「どういうことだ」

「それは縮地の入り口……いえ、その十歩手前と言われています。そもそも本来の縮地とは”瞬時に相手との間合いを詰める技法”。
単純な素早さと歩法だけではなく、体捌(さば)きや呼吸、視覚など幾多の現象が絡み合って完成するものです」


そこでニルス君の瞳が鋭く動く。再度対峙(たいじ)して動かない二体を見比べ、その距離とさっきの速度を再確認しているようだった。


「無拍……察するにあの人は今、呼吸によって停滞する僅かな隙(すき)をつき、磨き上げられた歩法で駆け抜けた。
相手がどうしても出してしまう刹那の隙(すき)を見抜いて、そのコンマ何秒かの停止状態で駆け抜ける――尋常じゃない観察眼と経験が生み出す技だ」

「多分蒼凪プロデューサーには、杏達が見たのよりずっと速く感じたはずだよ」

「はぁ!?」

「あれより、ずっとだと!」

「それこそ”瞬間移動”しているが如(ごと)くね」


さすがに信じられなかった。いや……言いたいことは分かる! 生態的にどうしても生み出される”停止タイミング”に、一気に近づかれるんだ!

本当の縮地がそういう……相手を観察した上での技術だとするなら、十分にあり得る! でもそれをどうやって避けたの!?


「蒼凪プロデューサーも”本物”を知っているせいだね。じゃなかったら難しかったんじゃないかな」

「おいおい、とんでもねぇなぁ……!」

「うん……!」

『――ならこれも分かるッスよね。今のは”真なる縮地”の三歩手前ッス』


そこで更に衝撃の事実が突きつけられる。それにゾッとしてニルス君を見ると。


『数多(あまた)の現象を絡み合わせて完成するのが、超神速の歩法縮地。多くの武術、武道が追い求める歩法の極みは、こんなもんじゃない』

「えぇ、その通りです。たとえ間合いを詰められた相手限定となっても、それは次元跳躍の領域に達する……正しく仙術だ……!」

『SPARROWシステムとの噛(か)み合わせで、リアル領域に近づくことはできたッス。……見たいッスか?』

「剣技の次は、速度勝負か。となると蒼凪プロデューサーは当然」

『いいねぇ……こい』

「恭文さんー!?」

「言うと思ったよー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「恭文くんは馬鹿なの!? あれよりずっと速くなったら、どうやっても対抗できないわよね!」

「まぁ、嫌だって言っても使ってくるだろうし、何も変わらないだろ」

「ですよねー!」


一体どうなるのかとハラハラしていたら。


『じゃあ二歩手前、行くッスよ……!』

『そんな瀬田宗次郎をリスペクトしなくてもー。本気できていいのに』

『いや、まだまだ修行不足で……徐々にスロットルを上げないと、機体を壊しちゃうッス』

「どういうことにゃあ!?」


みくちゃんが叫んだのが合図……になったかどうかはともかく、AGE-2エストレアがまた加速。

今度は私にも分かる……先ほどよりも鋭く、強く、床を踏み砕きながら駆け抜けていく。もう姿が捉えられない。

AGE-2の変形を視野に入れたか広い可動域が、その細身のボディが踊るたび、空間そのものへ溶け込むように走り抜ける。


「な……!」

「見えない……やはり、あれが本物の」

「縮地です――! でも」


でも……そこで信じられないことが起こる。コンマ何秒かによる攻防――。

フェイタリーが攻撃態勢を整えたかと思ったら、そのまま加速……消失。

AGE-2の眼前に突然現れ、刺突を放つ。


『……!』


AGE-2は急停止からの反転で左スウェー。その刺突を回避するものの、刃はすぐ横に薙(な)がれる。

それを防御して弾(はじ)いたかと思うと、フェイタリーがまた瞬間移動。AGE-2の情報で破裂音が響いたかと思うと、その背後に着地して刺突。

AGE-2は咄嗟(とっさ)に振り返り、距離を取りながらスウェー。その刃を本当にすれすれで回避し、また距離を取る。


その刹那の攻防が停止したところで、AGE-2の左頬と右肩アーマーのクリアパーツ、左前腕側面に小さな傷が入った。


『あぶな……! トウリさん!』

『問題ないッス。まさか三段突きとは』

「三段? え、恭文さん、突いたのは一回だよねー」

「いえ、今の……二撃目の突きは三連続攻撃でした」

「えぇ!? そ、そんなのないよ! だってみりあ、ちゃんと見てたよ!? 一回だったよ!」

「自分もギリギリですが……一撃目は顔面、二撃目は腹、三撃目は胸です」


顔面、腹、胸……あ! 傷が入った箇所と同じ高さ! 顔面はそのままですけど!

いえ、それより驚くべきことがあります。今の……恭文さんの動きは。


『まぁ、そうッスよね……本物を知っているなら、使えるってのも選択肢に入るわけで』

『そういうこと。本当に本当の奥の手だし、できれば取っておきたかったんだけど』

「……ねぇアンタ、それなら今の」

「――縮地です」


そう、恭文さんも縮地が使える。それもガンプラバトルで……フェイタリーで!


「それも、真なる縮地――! あの若さで、一体どうやって習得を!」

『さて、速度勝負も真っ向から付き合うですよ。ただし』


フェイタリーは古鉄を一回転……そのまま鞘(さや)に収め、バックパックからライフル二丁を取り出す。


『こっちは飛び道具ですけど』

『上等――!』


それの言葉が合図だった。二体は……二人のファイターは笑いながら突撃。

セコンドもそれに続き、目も眩(くら)むような攻撃がひたすらにぶつかり合う。まるで永遠に続くような、剣と弾丸の乱舞だ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


くぅ……身のこなしでも張り合いに来るとは! 性格が悪いというか、やっぱり相当な負けず嫌いッスね!

しかも射撃もやたら正確……元々レオパルドが中長距離支援機体とはいえ、こうも飛ばしてくるか。

とにかくもうワンギア上げて、接近……呼吸と弾幕の合間をすり抜け、フェイタリーに肉薄。


でもギリギリ……! 思考加速で先を読んでいるのに、容赦なくのど元に迫ってくる!

刺突から左薙に胴体を切りつけるも、回転しながらライフルで払ってくる。くぅ、これもやたら固いッスね!

ヘッドバルカンとキャノンの弾幕を左スウェーで回避し、フェイタリーのフルオープンアタックも対処。


迫るミサイルを置き去りに左へ大回り。もちろんライフルから放たれる弾丸も掠(かす)ることなく……客席とフィールドを隔てる、その壁を蹴って跳躍。

放物線を描くように飛び上がりながら、袈裟・逆袈裟と連撃。ブレイドに込められた粒子エネルギーが、不可視の斬撃波を形成・射出する。

それを容易(たやす)く見切り、後ろへ下がって回避したところで左脇を取り、左膝蹴り……仕込んでいたビームスパイクが蒼いボディに迫る。


するとフェイタリーはハイキック……スパイクを下から蹴り上げ、その軌道を強引に逸(そ)らした。

でも普通の足で……いや、隠し武器があるのは向こうも同じだった! 足底から展開するのは、楔(くさび)のようなビーム達。

向こうの隠し武器≪スパイク≫がこちらのスパイクとせめぎ合い、粒子をまき散らし続ける。


仕方ないので無理せず宙返りして、変形……急加速しつつ突撃。

フェイタリーは左スウェーで回避するものの、右のライフルは中程から切り裂かれ破損。これでもう撃てない。


「……トウリさん!」


イビツさんの声で身を翻し、天井目がけて大きくループ……すると、エストレアの両脇を幾つもの弾丸が通り抜ける。

ボディを掠(かす)めるそれに驚きながら、何とか天井付近へ退避。その上で向こうの状態をチェック。

すると折れたはずの右ライフルが、その銃身をパージしていた。


ヒンジの接続部が外れ、内部に仕込んでいた短銃身砲≪サブマシンガン≫とグレネード基部が露出する。

GNスナイパーライフルIIと同じ、可変型の武器か。自分が折ったのはガワだけだと。


……面白い!


……そう思っていると、左のライフルが向けられ……砲口から火花を走らせながら射撃。

回避行動を取った瞬間、収束したエネルギーは巨大なイオンビームとなり、こちらを飲み込もうとする。


「バスターライフルゥ!?」

「うぉっと!」


変形してドーム中央まで移動して、回避……! 出力制御型にしても、遠慮なさすぎッスよ!

……でも、遠慮がないのはここからだった。


右のライフルから放たれたグレネードは、渦を巻きながらこちらに加速。斬撃波で切り払おうとした瞬間、どうにも嫌な予感が走る。

そこで思考加速……バスターライフルが決め手にならないのは、恭文くんだって分かっているはず。

つまりこれは追い込み漁の原理。自分の行動パターンを読み取り、その先を……!


変形して、爆弾に背を向ける形で加速。すると次の瞬間――。


自分達と破砕した天井を飲み込むような、超巨大な爆発が起きた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


黄金劇場の天幕を埋め尽くす爆発……あの規模、あの威力は……!


「核か!」

「核ぅ!? で、でもグレネード」

「クロスボーン・ガンダムでは最終決戦時、核グレネードにて敵戦艦の急所を貫いている! 問題はない!」

「でも、エストレアの速度じゃああれだって……!」


……爆炎の中、無傷のエストレアが飛び出す。


「いや、無傷にゃ!」

「咄嗟(とっさ)に回避行動を取ったな……さぁ、反撃だ!」


両翼のクリアパーツが輝き、紅を纏(まと)って超加速。

紅の彗星……しかも、あれは真なる縮地も用いたバージョン! 更に速くなってる!


そのまま揺らめくような軌道を見せつつ、ホバリングするフェイタリーの射撃を避けて肉薄していく。

フェイタリーはマイクロミサイルをまた連射するものの、それじゃあ紅の彗星は届かない。


どれもこれも見当違いの方向で爆発するのみで。


「来ました! 紅の彗星で」


でもフェイタリーに肉薄する……そう思った瞬間、紅の彗星が突如消失。


「え……!」

「紅の彗星が消えただと!」


急激に速度が落ちたところで、慌ててエストレアが変形。すぐに防御態勢を取るものの、ライフルとサブマシンガンの弾幕を受け、足が止まってしまいます。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『あっぶな……! ビーム攪乱帯か!』

『さっきのミサイルッスか!』


それでも肉薄してくるのはさすが……右のサブマシンガンで袈裟の斬撃を防御しつつ、回転しながら突撃をかわす。


「さすがにこれは避けてくるか」

「アイラさんにやられた経験からですね。今回は本当に油断も何もない」

『当然!』


再び弾幕を展開……サブマシンガンで牽制(けんせい)しつつ、すぐさま左肩のビームキャノンでギロチンバースト。

既に攪乱帯は効果を失い、こちらの攻撃も的確に通す。しかし……。


「ほんと当たらないねぇ!」


背後目がけて右後ろ蹴り。ビームスパイクを展開し、回り込みながらの右薙一閃を防御……そのまま身を翻し、刃を払う。

左のライフルもサブマシンガン形態にしつつ、両手の銃で乱撃……向こうのブレイドと合計百合の打ち合い。

一撃一撃がボディを掠(かす)める中、こちらも隙(すき)を突いてガン=カタ。銃口を向け、胴体部や頭を狙う。


しかし、お互いに直撃が取れない。百一合目を打ち合わせたところで、揃(そろ)って後ろに跳んで距離を取る。

そのまま左のライフルを元に戻し、チャージ……更に足下から粒子変換を走らせ、効果発動。

瞬間的に足下を隆起させ、その勢いでジャンプ。なおエストレアは再び変形し、紅の彗星で突撃……杭(くい)の如(ごと)き地面を打ち砕いた。


そのまますぐさま方向転換したところで、バスターライフル発射。

半径百五十メートルのイオンビームが迫るものの、エストレアはその外周をすれすれでループ。

そのまま発射元の根元である僕達目がけて飛び込むので、まずは左のビームキャノンを発射。


「リイン」

「はいです!」

「「It's――」」


当然バレルロールで回避したところで……両手の銃を放り投げ、瞬間的に踏み込み抜き。

回避運動で僅かに減衰した彗星(すいせい)。その真芯を逆風一閃で打ち抜き、紅の彗星を停止させる。


「「Show Time!」」

『んな……!』

≪The song today is ”Must Be”≫


すかさず返す刃で左肩から胴体部を斬りつけると、エストレアはすぐさま退避……しかし、そのボディに確かな傷が刻み込まれた。

そして流れる音楽……やっぱりあぶ刑事だぁ!


『紅の彗星を、止めるッスか!』

「元々はタツヤの技だよ?」

『そしてこの音楽は何ぃ!』

「分かってないですねぇ」


古鉄を再度鞘(さや)に収めた上で、落ちてきた銃をキャッチ。


「言ったですよ……ショータイムだと」

『……面白い!』


するとエストレアは更に速度を上げ、その場から消失……慌てて振り返って防御するものの。


ぎりぎりで間に合わず、左肩のビームキャノンが両断……衝撃から吹き飛び、客席の一部に叩(たた)きつけられる。

幾つかの座席を削り飛ばした後、すぐさま十時方向に急加速。エストレアの刺突を回避した上で、再度距離を……取れない。

もう一段階、ギアを上げてきたか。こっちの反射を超えてくる速度に、思わずゾッとしてしまう。


しかもこれは。


「八艘飛び……シャアの八艘飛びか!」


粒子変容で虚空に足場を作り、縮地の速度に任せて連続で斬りつけてくる!

去年、カイザーもタツヤとの大戦でやったことだ。いや、あっちは破壊された自分の艦載機やら、ザクアメイジングのパーツを使っていたけど。

これはちょっと予想外……! 粒子調査のため、ここに飛び込んできたトウリさんが、原作の技を使うとは。


「くぅ……強烈なのです!」

「向こうのショータイムってわけ!?」

「それはズルいのですー!」


まるで嵐のような猛攻に、反応が追いついてこない……こんな感覚、結構久々かも。

でも……だからこそ――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


距離を詰めながらの乱撃……ガン=カタの動きも見えてきた。的確にその肌を捉えられる。

それでも紙一重で直撃が取れない。その様子に何か、嫌な予感がしながらも、鋭く刺突。

回避先を押さえ、右肩のミサイルを破砕。すぐさまSPARROW効果も用いた縮地で背後に回り、左薙一閃。


バックパックに斬撃跡を残し、頭上へ周りながら唐竹一閃。防御に使われた銃をもろとも両断して、再度刺突。

咄嗟(とっさ)に古鉄を抜刀して防御するものの、こちらのブレイドは左肩アーマーを的確に貫く。


だが、まただ……。

肩アーマーは貫いたけど、フレームを捉えていない。本当にすれすれのところで、こちらの刃を回避しているんだ。

いや、それだけじゃない。恭文君の呼吸が読めない……とても、荒くなっている。


ふだんの呼吸じゃない。しかし疲れている様子はない。これは、この……恐怖すら糧にして、増大していく”歓喜”は。


「トウリさん……!」

「分かってるッス!」


こちらのブレイドが弾(はじ)かれ、反撃のために袈裟・逆袈裟の連撃。それをすれすれで避けながら、六撃目で跳躍。

振るわれた刃を飛び越え、フェイタリーの頭上を取った上で……刺突! その頭と胴体を頂く!

更に劉氏変容で空間を踏み締めて加速……だが、そこで積み重なっていた嫌な予感が爆発する。


『……』


自分が貫いたのは残像だけ。次の瞬間、ほぼ反射で伏せていた。頭上すれすれに……背後から刃が突き抜ける。

これは、龍巻閃もどき。ならばとからぶったところで振り返ったところ……胴体部に鞘(さや)を叩(たた)きつけられる。


とんでもない衝撃が加わり……エストレアは客席に墜落する。


「ぐ……!」

「今のは、双龍閃……こちらの回避を読んでいただと!」

「いや、それより驚異的なのは……あの、反応速度ッスよ」


大丈夫……打撃だから、まだダメージは少ない。何とか機体を起こし、空中を踏み締め停止する……蒼いレオパルドを見上げる。

今のは完全に避けられなかった。防ぐこともできなかった。……自分の反応と思考の速度を、追い越しにきた……!


「徐々に徐々に対応してきているとは、思ってたけど……ここで、追いつくッスか」

『……幾ら縮地と言えど、二度三度と見せられれば……返し技の一つも思いつく』


そこでぞくりと。

全身の毛が逆立ってしまった。


油断したら、思わずアンデッドの姿に戻りそうだった。イビツさんも同じものを感じ取ったのか、半笑いでコンソールを叩(たた)く。


「そうだった。あの子も身体が人間ってだけで……飼っていたよね、化物(けもの)を」

『まだ終わりじゃないよね、トウリさん』

「当たり前ッスよ――」


そうだったそうだった……イビツさんの言う通りだ。

恭文君はついついその頭脳やら、口の上手(うま)さやらが目立ちがちだけど……これが本質だった。

結局のところ一番力が出せるのは、実にシンプルな思考。強い奴と戦いたい……ギリギリのせめぎ合いを楽しみたい。


心に宿すのは戦いを求める神。人の身に宿すにしては、大それた破壊衝動。


でも、化物(けもの)なら俺も飼っている……早々勝ちは譲らんぞ、少年。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……恭文さんが、変わった。


そうとしか思えなかった。汗だらけで笑いながら、笑いながら、笑いながら……とんでもない覇気を放出していた。

それが会場全体に当てられて、誰もが言葉を失う。それは、僕達も同じで。


「な、なんだあれ……まるで、別人じゃないか!」

「落ち着け、セイ」

「いや、落ち着けって!」

「お前も見てるはずだろ、一端は……旅行したときによ」


旅行……あ、タツさん達を殺気だけで黙らせたとき! まさか、これが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会場中が、彼の発する殺気……いや、闘気で打ち震える。その闘気がフィールドの粒子にすら作用し始めた。

震える黄金劇場……それと同じように、振動を伝える空気や照明の揺れ。それらが、あれだけ盛り上がっていた会場を静寂に包む。

信じられないだろう。たった一人の人間が……年端もいかない青年が、この広い会場中を、瞬く間に支配したんだ。


私も……隣に座っているリン子さんやアイラ君も、彼の変化には驚くばかりだった。


「……目覚めてしまったか」

「な、何よあれ……ラルさん!」

「ヤスフミ君の本性――戦いを、命を賭けた削り合いすら楽しみ、踏み込む戦闘狂」


そう……彼にはそんな一面もあった。戦いを、殺し合いを心から楽しむ『化け物』がいた。

ここで重要なのは、殺すことではなく『殺し合い』という点。自分の命すら度外視し、踏み込む彼は――。


「本来なら遊び≪ガンプラバトル≫では決して目覚めない修羅が、目を覚ました。いや、スガ・トウリの技量にたたき起こされた……そう言うべきか」

「修羅……神様だっけ」

「そう……戦いの神」


もはや人ではない。それは、人が成せる技ではない。

彼の中には”神”がいた。怒り、猛(たけ)り、吠(ほ)え、戦う以外の全てを捨て去ったとされる……そんな神が。


「八面六臂(はちめんろっぴ)の阿修羅(あしゅら)――!」

「そんな大したものじゃないさ」


そこで後ろから声……振り返ると、サングラス姿のお二人が手を挙げて挨拶。


「そうそう。やっちゃん達はただ、俺達と同じ……パーティを楽しみたいだけ」

「大下さん、鷹山さん!」

「おじさま達も来ていた……当然よねー」

「さて……どう読む、ユージ」

「ああなったら、もう見境なしだからなぁ。全損も覚悟で踏み込む……タカはどうよ」

「ミートゥー」


……そこで彼が、虚空を踏みならして疾駆。

瞬間移動の如(ごと)き歩法によって、エストレアに肉薄……かと思うと切り抜け、客席を削りながらも振り返って停止する。


「動いた……!」

「でも、何よあれ! 全然、見えないんだけど!」

「こりゃ、タカの老眼にはキツいか?」

「俺は現役だ。だから見える……見えるぞ」

「「「え!?」」」


なんと……お二人はここから、あの動きが分かるというのか! 私も実際にバトルしているならともかく、今の状況では辛(つら)いというのに!

いや、考えてみれば当然だ。お二人はヤスフミ君とも実戦で共に戦い、窮地をくぐり抜けてきた間柄。

実戦での彼を、その動きと踏み込み方を知っていれば、そこからついていくことは可能……!


それは分かったので。


「敵の動きが見える! スローモーションだ!」

「俺なんて止まって見えるぞ!」

「俺にはその三秒先すら見える! あ、そこ! 蒼凪、伏せろ! 斬られる!」

「俺は五秒先だ! やっちゃん、避けるな! それはフェイントだ!」


意地を張り合うのはやめてください! 子どもですか、あなた方はぁ!


「……アイラ君、君はどうかね」

「駄目……動きが分かっても、こっちの反射を飛び越えてる! わたしでも対処できない! というか、なんで機体がついてきてるのよ……!」

「その機体も既に限界を超えている……彼らとともに!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


トウリさんの動きについていくこと自体は、決して難しくない。今までの試合、穴が空(あ)くほど見まくったからね。

その動き、その剣閃……染みついた筋やクセを見抜ければ、予測もある程度立つ。もちろんそれは向こうも同じだ。

その探求に底はなく、その研さんに限界はない。だから加速させる……映像でのトウリさんと、ここでのトウリさんを重ね、更にその先を予測する。


一手でも読み間違えれば、そこでたたき潰される。でも踏み込むしかない……限界を超えて、フェイタリーと一つになっていく。


フィールドを切る風の感触。踏み込む足場の感触……全てを感じ取りながら、更なる速度でアームレイカーを振るわせる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


二代目のお加減はまだまだよくない。それで無理をされてもアレなので、しばらくついておきたかった。

が……そこで876プロの石川社長が、有り難い配慮をしてくれた。

……二代目を876プロに招待する。もっと言えば、ガンプラ教授の臨時講師として依頼した。もちろん体調が直ってから。


もちろん二代目が簡単に引き受けるわけもなく……そんなわけで、私達は二代目を説得するという名目で、つくことが可能となった。

みんなも夏休みの宿題やら、仕事やらを終わらせたからこその処置だけど。……本当に、なんとお礼を言ったらいいか。

二代目もその辺りを振り払うつもりはなく、私達と一緒に試合を観戦。ただまぁ、わりと無表情だけど。


「……恭文さんも本気の本気……完全に、リミッターが外れた」

「はい……!」

「でも驚愕(きょうがく)すべきはやはり、スガ・トウリとイビツのコンビよ。それだけあの坊やを追い込んだんだから。
……アレはユウキ・タツヤでも、ソメヤ・ショウキでも……ここまで戦ったどのファイターでも引き出せなかった顔よ」

「奴もまた、人を超えている……それも当然の結果よ」

「あ、あの!」


あぁ、アイの声は相変わらずよく通るわねぇ。VIPルーム内で反響して、ちょっと耳が痛いもの。


「やっぱり二代目さんは、恭文さんの”こういう部分”を見込んで……カテドラルを?」

「その通りだ。実戦を知る者ならば、より強く勝利を求める。それならばと、思っていたのだが」

「……だったらそれ、少し勘違い?」


そこでエリが、困り気味に肩を竦(すく)める。


「そうだな。絵理と言ったな……貴様の言う通りだ」


しかもエリの言葉を……自らを否定する思想を、二代目は車いすに座りながら認めた。


「二代目、それは」

「すぐに分かる」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


エストレアもこちらの動きに応え、奔(はし)る……奔(はし)る……奔(はし)る……!

僕達の剣閃が、その機動が衝突するたび、劇場の客席や外壁、フィールドの地面が破裂する。

呼吸さえも忘れたように飛び込み、斬り合う二機のガンダム。更にフェイタリーはヘッドバルカンを連射。


それはエストレアが回避コースを取ったところで、次々と爆発……煙幕となって展開し、その視界を塞ぐ。

リインはユニゾンの要領で、こちらの動きに合わせて出力制御。僕のスイッチにも対応できるのはさすが……!


「リイン」

「遠慮なくいくです!」

「アレ、やるよ」


そこでリインは一瞬……呼吸よりも短いタイミングで停止。でもすぐに復帰し、サポートを続ける。


「問題ないのです! リインはついていくですよ……今まで通りに! そしてこれからも!」

「ありがと。飛天御剣流」


なので僕も……地面を逆風一閃で切り裂き。


「土龍閃もどき」


その衝撃を、吹き飛んでいく土くれを散弾として叩(たた)きつける。

爆煙を次々突き抜けるそれらは、エストレアを捉えることはない。既に奴は、フェイタリーの二時方向から突撃していた。


胴体目がけて右薙一閃……古鉄の柄尻で叩(たた)き、斬撃キャンセル。

すかさず刃が返され刺突。それに古鉄の刀身を合わせ、絡みつくように捻(ひね)って跳ね上げた。

機動を逸(そ)らした上でタックル。踏み込みながらエストレアの足を踏みつけようとすると、奴は右スウェーで回避。


そのまま一回転しながら、跳ね上がった刀身で左薙一閃。それを背後に回した古鉄で受け止め、上方へと逸(そ)らす。

その上で目も眩(くら)むような乱撃をぶつけ合う……かと思ったら、逆袈裟一閃を回避し、エストレアは再び八艘飛び。


……右足を踏み締め、粒子変換。周囲に杭(くい)を突き立てる。ハリネズミのように飛び出すそれを回避し、エストレアは頭上を取ってきた。

胴体部目がけての一閃を、身を捻(ひね)りながら回避……肩の筋肉に痛みが走るけど、問題はない。

胴体部の装甲を、僅かに斬られた程度だ。そのまま杭(くい)を足場にして駆け上がり、退避するエストレアに肉薄。


零距離で飛び込みながらの蹴りに対し、ビームスパイクが再び衝突し合う。その反発力に従い、距離を取った上で着地。

するとエストレアはMS形態のまま加速。再び紅を纏(まと)い、更に速度を上げてくる。


……ならこちらは……。


「本当なら、タツヤに取っておいた必殺技なんだけどねぇ」


フェイタリーの出力を最大にまで上げる。そのカメラアイが”赤”となり、機体とのシンクロも最高潮――!

アームレイカーを稲妻の如(ごと)く動かし、まずは初撃の突進を回避。すぐさま方向転換している間に、状況は変わる。


『M.E.P.E(質量を持った残像)だろうと、全て打ち抜けば!』


とか言いながら、エストレアは揺らめき、本当に全ての分身を切り裂いていく。……一人切り裂くことに、確かな手ごたえと衝撃、爆発を浴びながら。


『これは……!』

『馬鹿な、全て実体だと!』

「出し惜しみはなしだ。そして取り返させてもらおうか」

「やっぱり、リイン達のショータイムなのです!」


そう、これはM.E.P.E(質量を持った残像)じゃない。どちらかと言えばマシンガンパンチ……又は、ゴッドシャドーだ。

なおも増え続ける分身達は、次々とエストレアに襲いかかる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


こちらの機動についてくる分身を、一人また一人と切り払い、黄金劇場内を駆け巡る。

そこまで複雑な動きはできないようだから、撃破自体は簡単だ。でも撃破時の爆発と衝撃が、キツい……!

更に本体も交じってくるので、そこまで油断もできない。指先の皮が剥けて……いや、摩擦熱で燃えそうな勢いで、必死にアームレイカーを操作。


「イビツさん!」

「超機動により圧縮された粒子が、変容した塗料とともに分身体を形成している。これらはAGEで言うところ……ビームビットだ!」

「そうか、それで……!」


その分身が一斉に飛びかかってくるので、こちらも八艘飛びで取り囲み、次々と首を落とし……新たな三体も紅の彗星で突き抜け粉砕。

更にその向こうにいた本体も、爆煙を払いながら刺突。確かにその胴体部を捉える。


が……その途端に蒼い粒子となって爆発。咄嗟(とっさ)に二時方向の影を斬りつける。

その間、コンマ〇.一秒――。

確かに、そこに、幽霊の本体は存在していた。


人間の反応速度、その限界が〇.二秒とされている。どんな達人でも超えられない刹那の壁。

そう、人間であるなら……人間のはずなら、こちらの斬撃は真芯を捉え、勝負は決着する。

しかし現実は非情であり冷酷。刃が胴体を切り裂いた瞬間、また同じ爆発が発生した。


粒子の炎に焼かれながら、汗が止まらない。こんなしんどく怖い戦いを、ガンプラバトルでやる羽目になるとは思わなかった。

でも口元は歪(ゆが)む。歓喜で歪(ゆが)む……同時に実感する。


「これが」


視界が右に動く。イビツさんも同じだった。

振り切った自分のシグルブレイド上に、フェイタリーは器用に乗って……刃を翻していた。


「蒼い、幽霊――!」


咄嗟(とっさ)に飛びのき、唐竹(からたけ)の斬撃を回避……しかし右腕を根元から持っていかれ、斬撃の余波でマスク部も破損。


ようやく理解した。

M.E.P.E(質量を持った残像)や、存在しないはずの機体を使うだけじゃない。

これが、これこそが、蒼い幽霊という二つ名を宿すにふさわしい技。


この大会中で出すのは初めて……つまり、自分との戦いをそれだけ楽しみ、それだけ入れ込んだから。


――その歓喜で、また心が震え……こちらももう一歩、踏み込んでいくことができた。

相手は人間じゃない。

既に人間の反射速度を、その限界を超えてしまっている。


自分と同じように、恭文君も思考を加速させている。きっと自分と戦うために、徹底的に準備してきてくれたのだろう。

フェイタリーもそれに追従できるよう調整しているなら、もはや見事と言う他ない。


しかし自分もまた、人ならざる怪物≪ファントム≫。怪物には、怪物の意地がある。

それに何より……ここまで入れ込んでくれたのなら、礼をするのが人情というもの!


「……まだまだぁ!」


左手を伸ばして、シグルブレイドを掴(つか)んで反転――お返しの斬撃でフェイタリーの右腕を奪い、刺突。

胴体部に傷を刻み込んだものの、直撃じゃない……あの超反射で下がりながら、こちらにバルカンとヘッドキャノンを連射。

しかもその弾丸に粒子を纏(まと)わせ、回転運動――DODS効果を付与した上で、エストレアのボディ各所に叩(たた)きつける。


こちらの強度対策を容易(たやす)く飛び越え、抉(えぐ)り、装甲の各所が破損。その衝撃で尻餅を付いてしまう。

それはフェイタリーも同じくッスけど。切られた衝撃から転げ、地面を二十メートルほど削って停止。


音楽もそこで停止した……恐らく、変則的ソナーで逐一こちらをサーチしていた、あの音楽も。


≪The song today is ”焔の如く”≫


と思ったら切り替わったぁ!? やば……フェイタリーが、まだ動く!


「ほんと、とんでもないなぁ……! 今の反応、明らかに人間じゃないぞ!」

「全く同意見ッス」


眠れる獅子(しし)どころか、とんでもない化け物を起こしたわけだ。

蒼凪恭文の本性……それは、人の身に宿すは大それた≪人ならざる獣≫。

力でもなく、種族でもなく、その精神性そのものが人間を逸脱している。


少なくとも今は――右腕が落ちているのに、躊躇(ためら)いなく突っ込む勢いッスよ。

でもそこで、古鉄にピシリとヒビが入り……中程からへし折れる。


『古鉄が……!』

「恭文君の技に……いや、”二人の技”についていけなかったのか」

『ごめん、古鉄……でもありがとう』


フェイタリーは古鉄を逆手に持ち、柄と鍔(つば)元だけではあるけど納刀……その上で、半身になって構える。


損傷した右半身を下げ、左手をゆっくりと突き出す。

人外の覇気を放出しながら……こちらをにらみ付けていた。


「まだ、やるか……!」

『当然……こんな楽しい遊び、途中で降りられるはずがない』


ほんと、言ってくれるッスねぇ……! 負けたら『また来年』という大一番で、その恐怖に押されることなく……無謀なほどに踏み込んでくる。


『ほんと、怖いなぁ……そのまま命を刈り取られそうな剣閃だもの。怖い……怖くて仕方ない』


それで笑えるッスか、この『修羅』は。まぁ……自分も笑ってはいるッスけど。


『でも、まだだよね』


恐怖がないわけじゃない。死への恐怖、家族を残して倒れる恐怖……この子は荷物が多い分、そういう恐怖は人一倍ある。

だけど踏み込む。失わないために、負けないために、壊れないために引くのではなく、そこから一歩を踏み出す。


『こい――!』


笑って、笑って、笑って――手に入れるために、勝つために、切り開くために進み、その心で勝利を掴(つか)む。

だから通信モニターに映る顔は、獣の笑みだった。その瞳もまた、人ならざる色を宿していた。


楽しんでいた……心から楽しんでいた。その上で、更に全力を出そうとしている。


でも真に恐ろしいのは、そっちじゃない。そっちであれば、まだよかった。

自分が恐怖しているのは、そんな獣に追従する……一人の女の子。


『リイン達はまだ、やれるですよ――!』


汗だくで、消耗しきった状態で……それでもなお、恭文君をサポートするリインちゃん。

あの子に”化物(けもの)”は存在しない。身体はともかく、その心根は人間そのものだ。

なのに、あの覇気を受け止め立ち上がれる。なのに、人ならざる反射についていき、支える。


今までの戦いでもそうだったと、改めて思い知らされる。そうだ、イビツさんが言う通り。

”二人”で飛び込んできている。自分の認識はまず、そこから間違っていた。


「さて……どうする、トウリさん。完全に挑発されてるよ」

「そうッスね」

『限界突破≪ブラスター≫III、リリースです!』


フェイタリーは蒼い炎を全身から迸(ほとばし)らせ、その瞳を赤く燃やし、その覇気のみで黄金劇場を揺らし続けていた。


……違う。


黄金劇場の客席が、天幕が、外壁が、少しずつ分解されていく。

更に自分やその周囲にも、蒼い星が生まれて次々集束……フェイタリーに吸い込まれていく……それも否。

吸い込まれたのは一部。そのほとんどはフェイタリーの眼前に集束していく。


「黄金劇場の構築粒子を分解・変換し、それを取り込んだ上での出力強化……! マイクロウェーブが使えなくても問題なしか!」

『当たり前なのですよ。マオさんだって対策していた』

「ですよねー! つーか……よくもまぁ、その化物(けもの)についていけるものだ……」

『それも当たり前。――リイン達が一体、どれだけ一緒に戦ってきたと思ってるですか』


……挑発ってのは、つまるところこういうことッス。

二人はこちらに、全力で喧嘩(けんか)を売ってきた。


単純にファイターの、ガンプラの勝負だけじゃない。

ここまで進んできたバディとしても、優劣を付けてやると……宣言してきている!

それで出し惜しみもなし! 自分の、一番の武器をぶつけろってね――!


「……ここで上手(うま)くやり過ごして勝つのが、一番ッスよねぇ」

「まぁね」

「でも、それは――」


それはとても簡単だ。だけど同時に、一番の危険手でもある。

そうしてギリギリの……零距離での踏み込みは、あの子の独壇場。

あの子達はこの大会でも、これまでの戦いでも、そうやって数々の苦難を屠(ほふ)ってきた。


そういう意味では、真正面から必殺攻撃を払うことが……いや、違うッスね。

これはお利口な、大人の計算ッス。違う、そうじゃない……今の、自分の心は。


「自分はエストレアに、今できるありったけを――自分なりの楽しさを詰め込んできた。
そのエストレアと一緒に勝ち上がっていくのは嬉(うれ)しかったし、負けたら済まない気持ちと、もう一度って立ち上がる気持ちがわき上がった」

「トウリさん」

「自分はエストレアが……自分のガンプラが、世界で一番強いんだって叫びたい。そのために悔いを残すようなことは、何一つしたくない」


そう、決まっていた。自分が、エストレアが試したがっていた。あちらと自分達、どっちが強いか――。

確かにそれで、負けるかもしれない。でもただ勝つだけじゃない……自分は、この遊びにその先を見いだしていた。


「イビツさんはどうッスか」

「……俺、こんな喧嘩(けんか)を売られて引き下がれるほど……老いてないんだわー」

「ですよねー!」


だから受け止めよう。

この挑戦も、真正面から受け止めよう。


その上で手にできるものがある。それを手にするためにも……そう腹を決めて、一気に上昇。


「ストライダーフォームで突撃……やれるッスよね、イビツさん」

「何とかする!」


アームレイカーを操作。SPスロットをクリックすると、破損したマスク部がパージ。

F91的な隠しフェイスを露出。するとシグルブレイドが、各部のクリアパーツがライトグリーンから赤に輝きだし、粒子が噴出。


「いいッスよ、恭文君……リインちゃん。今ここで披露しよう」


それが上昇していくエストレアを包み、炎となり、黄金劇場を照らし出した。


「自分とエストレアの最終奥義を!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


お互いに腕を一本取り合い、それでも引かない。しかもエストレアは、太陽みたいな炎を放ちながら≪必殺攻撃≫の構え。

それは恭文さんも同じだった。蒼い流星が幾つも集まり、それは巨大な球体に……ならない。

どこまでも、どこまでも凝縮されていく。昨日見た”月”とは真逆だった。


「あれって、二代目メイジンがカテドラルでやっていた……!」

「集束砲撃≪ブレイカー≫、よね。なるほど……あのゴッドシャドーもどきの粒子も、あれで再利用するわけか」

「でも、恭文くんと相性が悪い技だって!」

「それも使い方次第ってところかしら。又は、”誰かさん”が見ているのを意識してるとか」


誰かさん……二代目メイジン! そうです、二代目の意識は元に戻ってます! もしかしたら、会場のどこかで……。


「……本当に」


プロデューサーさんが小さく……汗をダラダラ流しながら、恭文さんを見つめて打ち震える。


「蒼凪さんは、人ではないのかもしれません……」

「確かにな。空気が変わってからの反応は、人間のできる領域じゃない……心根から変わっている。
安全も、敗北も度外視して、ひたすら踏み込み圧倒……その踏み込みが、在り方そのものが人間を逸脱している。それは」


親友でもあるトオルさんも、冷や汗ものの戦い方だった。そう、それは多分、二代目と同じ。


「”二代目より”イカれてる……!」


……でも、そうじゃなかった。

トオルさんは笑いながら、断言した。


恭文さんは、二代目よりもイカれている……壊れていると。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここまでの猛攻で。

なお笑って、奥の手を切る坊やの姿で。

私は改めて、二代目とエリの言葉が正しかったのだと痛感する。


そうだ、坊やはそもそも勝利を至上のものとして求めていない。敗北も恐れてはいない。

それ以上に……何よりも重きに置いているもの、それは。


「分かるな、エレオノーラ」

「えぇ……! 彼は、彼らはあなたと違う」


ヤスフミが求めているもの、それは歓喜だった。それが得られる過程……つまり、今の状況そのものだった。


「自分の全力を……獣の本性すら叩(たた)きつけられる、そんな相手との闘争。それだけを純粋に求めていた」

「そういう意味では、ユウキ・タツヤと思想は同じ……”楽しいガンプラ”というわけだ。本当に、忌ま忌ましいことにな。しかしあの技は」

「相性が悪いって言ってたのに……それくらい追い込まれている?」

「涼さん、それはちょっと勘違い。……そう言われたから、決め手になるよう鍛えてたんだよ」


エリは前のめりになって、笑って彼を見つめていた。愛(いと)しい人を……ほれ込んだ男を。


「技が悪いんじゃなくて、使いこなせない自分が悪いってね。カテドラルで出さなかったのは……まぁ、まだ修行不足だったから?」

「……あの男のことが、よく分かるものだ」

「首ったけだもの」

「怖くはないのか」

「怖いところも、優しいところも……全部含めて、愛してる?」


その躊躇(ためら)いのない断言で、私達も……メイジンですらも呆気(あっけ)に取られた。


「きっとリインちゃんも同じ。だからついていける……だから、踏み込める」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――輝け、黄金の劇場よ――


放つは、自分が持つ最大剣技。


――花開け、美を謳(うた)う暴君よ――


その名を与えた、エストレアの切り札。


――その生き様、その在り方、夜空を切り裂く流星の如(ごと)く――


エストレアが持つ全粒子を推力に回し、突貫する超超超特攻攻撃。


――我は獣。我は汝(なんじ)とともに歩みし獣。ならば誓おう。ならば並び立とう。ならば駆け抜けよう――


その名は流星を示す……その名は隕石(いんせき)を示すラテン語。


――その命、焔の如(ごと)く燃やし尽くさんことを――


自らの身体を、命を焔の如(ごと)く燃やし、大きな星をも砕く流星。


――天地貫く焔の流星(ステラ・トランスォランス)――。


これこそがエストレアの切り札……エストレア自身にばく大な負荷がかかるので、一度使えば結果を問わず大破間違いなし。

しかし当たれば、敵のガンプラを砕くか、若しくは場外まで飛ばすことが可能。

エストレア、すまないッス。でも……付き合ってもらうッスよ。


自分達のありったけで、勝利を手にするッス!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ――」


息吹――意識を集中し、左手を揺らし、一つの輝きを形作る。

フェイタリーはその頑強さを生かし、Gガンダムの要素も幾つか加えている。蒼い幽霊が完成できたのも、その辺りの調整があればこそ。

剣技の再現だけなんてつまらないもの。ガンプラだから……ガンダムだからこそ、できることも遊んでいきたかった。


そんなコンセプトに従い、周囲の粒子を集束し、極限まで圧縮。無駄なく纏(まと)めたそれは、小さな太陽のように輝く。


「初代リインフォース直伝――」


そう、これは星……僕達がお姉さんからもらった、大切な力を模したもの。

二代目メイジンの”月”すらも内包する……夜空に輝く命そのものを指す言葉。

魔法世界のことがバレてもアレだし、スターライトの名前は使えないけどね。だからリインも、”せめて”と付け加えた。


限界突破で機体出力の分も加算するため。ちょっとでもミスれば自壊しそう……でも、大丈夫だよね。

リインがついてきてくれる。アルトだって、ちゃんとここにいる。フェイタリーも頑張ってくれている。

怖いものなんてない……とはいかない。でも、恐れて止まることはなくなる。


そう、それでいい。怖くても一歩を踏み出し、状況をはね除(の)ける。

だから楽しいんじゃないのさ、”この遊びは”。


……集束した星を左手で掴(つか)み、半身を引く。


『これで』

「真龍!」

「「フェイタリィィィィィィィ!」」


炎……いや、流星と化して飛び込んでくるエストレアに、それを向けて射出!


『終幕――!』

「「ブレイザァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


手の平状に圧縮された太陽は、渦を巻くような機動でこちらに直進……く、やっぱり避けきれない!

というか、元気玉!? 元気玉ッスか、あれは! もう覚悟を決めて、展開していくレッドゾーン警告はガン無視で……アームレイカーを押し込む!


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


焔の流星と太陽は、正面衝突……シグルブレイドの切っ先を始点にせめぎ合い、太陽は膨張。

向こうも左手を突き出し、気力を振り絞るように押し込んでくる。でも、こちらはそれに負けじと……突き進み……!


『……!』

「よし……そうだ、トウリさん!」

「自分達は……!」


ひび割れていく装甲。圧力で軋(きし)む関節……それでも、エストレアも踏ん張ってくれる。

ストライダーフォームで後方に集中した推進力は、破裂するような勢いで力を噴き出し、なおも集束。

一点……ただ一点に集まっていき、エストレアの力強さを増していく。


「自分達は……」

『が……ぁ……』


分かる……太陽を一メートル、二メートル、三メートルと押し込むごとに、恭文君とフェイタリーにも負荷がかかってる。

それで今、膝をついた。地面を支えにしなければならないほど、追い込んでいる……追い込めている!


「負けない……いいや、負けたくない! もっと、もっと……この舞台で、戦いたい!」

『恭文さん!』

「だから打倒する……蒼い幽霊!」


太陽をどんどん押し込み、フェイタリーとの距離を縮める。その距離、残り十メートル……五メートル!

あと、少しぃ……! あと少しで、捉えられる! 今度こそ、その真芯を!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


き、っつぅ……! アームレイカーが鉛どころか、どっかのタンカーみたいに重い。それでどんどん、どんどん押し込まれていく。

だけど、まだだ。笑いながら立ち上がり、近づく距離に構わず……左手を押し込んでいく。


「それは、僕達だって……同じだ。言ったはずだ……」


限界突破はもう打ち止め。これ以上の負荷は機体が持たない……でも、それでも立ち上がり。


「こんな楽しい遊びはないと! リイン!」

「今です!」


声を張り上げ、左手を……フェイタリーの左手を大きく開き……手元に戻ってきた星に、その手を突っ込む。

構築された粒子に直接触れて、再制御――! 瞬間、星は燃える『手』となり、その力強さを増す。


『な……!』

『これは!』

「「必殺!」」


更に……もう一歩、踏み込み……! 力強くなったその手で、勝利を……≪運命≫をつかみ取る。


「「フェイタリィィィィ! フィンガァァァァァァァァァァ!」」


その刃ごと、巨大な手でエストレアを握り締め、一気に押し込む。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


流星を構築する焔……それに最後の一線を阻まれながらも、その距離は再度開いた。

星から抜けた手から火花が走り、星光の手としっかり繋(つな)がる。そこに力を送り込みつつ、更に制御……これで炎を吸収とか、できればよかったんだけど。


さすがにそんな余裕はない。だからこそ限界突破……ありったけで、その焔を砕く!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ここで、文字通り掌握されただと……! しかも、エストレアの炎が少しずつ分解されていく。

いや、違う。砕けていく……エストレア、もう……限界か。


「あそこから、粒子変容で別の技に切り替えた……Gガンダムのマスターアジア戦か!」


あぁ、過去作の攻撃方法なのか。自分はまだまだ、そっちのチェックが浅かったわけッスね。


「ガンダムとガンプラファン……その経験と、それに基づく発想力の差かぁ。ほんと……自分はまだまだ」


負けるのは悔しい。スペインのみんなに、トロフィーを持ち帰れなかったのも、本当に悔しいし申し訳ない。

この先に待ち受けている、もっともっと激しい戦いに挑めなかったのも……!


『『ブレイク』』


そして、三十メートルにも及ぶ巨大な手は……焔を、流星を握り潰す。


『『――エンド!』』


エストレアは手ごと爆煙に包まれながら、今一時の眠りにつく。


≪BATTLE END≫


バトルは終了……黄金劇場は静かに解体され、いつの間にか乱れていた呼吸に気づく。


『――決着ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 黄金劇場を舞台にした、言葉を失うほどの技巧と技巧の衝突!
最後に立っていたのは、文字通り勝利をその手に掴(つか)んだチームとまと――蒼凪恭文と蒼凪リイン! そしてガンダムレオパルドフェイタリー!』

『刃と刃を突き刺し合うような、真剣勝負の気迫……そうよ、これもまたガンプラバトルよ!』


そして、歓声が会場中を包む。恭文君達だけじゃない……自分にも、負けた自分達にもエールが送られた。

自分達はただ好きに、勝手に暴れていただけなのに。それでも、伝わるものがあったのだろうか。

歓声は今まで何度も受けていたはずなのに、それが妙に突き刺さって……つい、こみ上げてくるものがある。


「……トウリさん」

「イビツさん……」

「応えましょう。全力で」

「はいッス――!」


ぼろぼろなエストレアを回収してから、イビツさんと……恭文君達とも、会場中の歓声に応える。


「今日は負けて、凄(すご)く悔しいけど……でも、やっぱり楽しかった! だから」


そうして、改めて気づく。最初は粒子のために始めたガンプラバトルに、とんでもなくのめり込んでいたことに。

この”世界”が大好きになっていたことに。だから、全力で宣戦布告。


「また来年も来るッス! 待っているッスよ……世界大会ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


だから、忘れない。

この敗北も、この悔しさも、忘れない。そうだ、難しい事情なんてすっ飛ばして……!


次は勝つ……来年が無理なら、再来年! それが無理なら翌年も……そうしていつか、あの頂きに!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そうして決勝トーナメント二回戦・一日目は終了した。蒼い幽霊は今度こそ、潰せると思っていた。

なにせサテライトを封じたのだから。カテドラルがあるとしても、こちらが上手(うま)く調整すれば……そう、思っていたのに……!

しかもイオリ・セイ&レイジ組も無事に勝ち上がり、厄介なお子ちゃま二組は準決勝進出が決定。


しかも、しかも、その上……今朝、大下刑事達から話された件が……!

出張中の会長も、電話越しに衝撃を受けていた。


『……何それぇ! あの子達が勝ち上がっただけじゃなく……アリスタのことまでバレたの!?』

「でも、間違いないんです! 粒子結晶体のエネルギー反応は、この世界の常識に当てはまらない……それはあなたもよく御存じでしょう!?」

『そう、だけどさぁ! つまりその、あの刑事達とニルス・ニールセンは……』

「こちらの精製方法が分からなければ、恐らく……納得は」

『マズいよそれぇ!』


VIPルームで会長に相談しながら、一人頭を抱えてしまう。……正直、本当に相談するのは躊躇(ためら)った。

でもその場合、間違いなく会長は動揺する。そうして本当に、粒子暴走なんて起こして……いや、大丈夫かもしれない。

そもそも会長は感情的な人だし、それで今までは事件なんてなかった。そうよ、大丈夫……でも、大丈夫じゃなかったら?


粒子結晶体のサンプルが向こうにある以上、この危険性に対し、PPSE社は企業として対処する必要がある。どう考えても詰んでいる……!

つまり、私の一存で対処は不可能。しかもあの刑事達、想像以上に厄介な奴らだった……!


『もし、アレのことがバレたら……!』

「彼らの訴える危険性が妥当とされれば、国に取り上げられる可能性が」

『だよねぇ!』

「いえ、それどころか……”そんなもの”を届け出もせず、ここまで使い続けた我々も……!」

『じゃあ、断っちゃおうよ! そうすれば』

「無理です! 結晶体の危険性を払わない限り、断る理由が作れません!」

『だったら、ちょっと痛い目を見せて黙らせるとか! それで向こうのアリスタも回収! ほら、ドラマだとよくあるよね!』

「絶対に駄目です!」


それは駄目だと、慌てて制止する。電話の向こうで、会長が引っ繰り返ったのも構わずまくし立てる。


「あの刑事達、ゴーストボーイと知り合いというだけでは……なかったんです! とんでもない過激派でした!」

『過激派ぁ!? ど、どういうことかな!』

「会長……あぶない刑事という、昔のドラマを御存じですよね」

『そりゃあベイカーちゃんの家で、再放送を見ていたからー。面白いよねー、ハチャメチャで』

「あのドラマは、”彼らがモデル”です」


……会長は現実を信じられないらしく、小さく、さえずりのように声を漏らす。


『……え?』

「そして現実の彼らは、ドラマ以上にハチャメチャです。命令違反や過激行動は日常茶飯事。
鷹山敏樹については、神奈川(かながわ)県警随一の弾薬消費量を記録し続けています」

『それくらい、ぶっ放してるってこと……!?』

「大下刑事ともども。更に……教科書にも乗るようなテロ組織とも、たった二人で戦い壊滅させた。
それに横浜での核爆弾爆破未遂事件、御存じですよね。……それを解決したのもあの二人とゴーストボーイらしくて」

『あの、内閣情報調査室がやらかした犯罪を!? ちょっとちょっと、それは……!』

「彼らに実力行使した時点で、間違いなく……」


もはや、悪夢に等しい状況だった。会長は電話の向こうで悲鳴を上げ、当然の疑問を突きつける。


『じゃあどうすればいいのぉ!?』

「……買収するしか、ないかと」

『できるの!? ハチャメチャなんだよね!? ゴーストボーイとも知り合いなんだよ!?』

「やるしかありません! しょせん所轄の平(ひら)刑事と子ども……こちらの秘密を守る代わり、相応の利益を払う。そうすれば」

『そうか……金ならガンプラバトルをやる限り、幾らでも積める! うん、それだ!』

「早急に手配します」

『頼むよ、ベイカーちゃん!』


そうよ、もうこれしかない……ゴーストボーイのような剛胆さは、誰にでも持ち合わせるものじゃない。

そうよ、これなら何とかなる。それで、上手(うま)く取り込めれば……。


『でも、大丈夫だよね。ゴーストボーイもこの件、知っているとか』


……そこで、会長が呟(つぶや)き……危うく電話を落としかけた。


『もしもし、ベイカーちゃん? あの、大丈夫だよね。ゴーストボーイは買収とか、絶対無理そうだし』

「え……っと……その、あの……」

『ちょっとぉ!? ど、どうするの……これ、どうすればいいのぉ!』

「あぁああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!?」


そうよそうよ……ゴーストボーイも知っているはずよね! なら、どうすればいいの!?

正直に話すことはできない! かといって買収も通用しない……いや、大丈夫なはずよ!

ゴーストボーイには黙った上で、あの二人とニルス・ニールセンを引き込めばいい! それなら、問題ない!


そうよ、絶対バレないようにすれば……金の力は絶大なのよ。それを思い知らせてあげるわ、反逆者ども……!


(Memory65へ続く)









あとがき


恭文「マズい……鷹山さん達が買収される! 一億くらいで! ……あ、蒼凪恭文です」

あむ「日奈森あむです。……馬鹿じゃん!? あの二人にそんな手が通用するわけ」

恭文「通用しているよ。前科があるもの」

あむ「……え?」

恭文「映画『またまたあぶない刑事』で、一億円で買収されてる……まぁ結局ご破算になったけどね!
でも奴ら、一億円の使い道を考えまくってたんだから! 受け取るまでずっと……ずっと!」

あむ「鷹山さん、大下さんー!」


(『……過去は振り返らない主義なのさ』
『俺達、常に未来を見てるしね』)


恭文「そんな二人に不安も覚えつつ、二回戦一日目は終了。なお続いてのスケジュールは、こちら」


・二日目

イギリス第二:セシリア・オルコットVSイタリア:リカルド・フェリーニ

日本特別枠:三代目メイジン・カワグチVSブラジル:ジオウ・R・アマサキ


恭文「……リカルドはもう十分活躍したし、ダイジェストでよくないかな」

あむ「ちょっと!?」

恭文「まさか、二日目があんなことになるなんて……」

あむ「こらこら! サラッと全部をダイジェストにするなぁ!」


(そんなこともなく、頑張ります!)


恭文「そうだね。ちょっとずつ書きためていこう。それとトウリさんやエストレアについては、今更言うまでもなく読者アイディア。
通りすがりの暇人様、アイディアありがとうございました」


(ありがとうございました)


恭文「でもあむ、真面目な話……セシリアとフェリーニのバトル、まるでセイとレイジを取り合うような構図に」

あむ「ま、まぁどっちも因縁があるしね。バトルしたい理由もあるし」

恭文「あ、そう考えたらやる気が出てきた! 冒頭部分だけでも仕上げておくぞー!」

あむ「現金すぎるし!」


(モチベーションとはそういうものです。
本日のED:surface『焔の如く』)


恭文「それと幕間リローデッド第5巻、ご購入頂いたみなさん……本当にありがとうございました」(ぺこり)

あむ「……Apocrypha編、どこまで続くんだろう」

恭文「今更だけど、これなら単独で出してもよかった……かもしれない……!」

あむ「でもさ、アニメ化もどういう形態でやるんだろ。やっぱFate/ZeroやFate/stay nightUBWみたいに、二部構成かな」

恭文「願望器に願いをかけるって前提があるから、どうしてもキャラ描写に力を入れるべき作品だしね。
その分長くなるとも言うけど……ただ、今回のアニメはシリーズ構成が原作者の東出祐一郎さん。
追加でアニメオリジナルのシーンとかもあるだろうし、それも楽しみだね」

あむ「それ、更に尺が長くなるということでは……!」


(おしまい)





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あきゅろす。
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