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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第44話 『Stay the Ride Alive』

「調子に乗るなよ、お前達」

「やられかけの悪党そのものだねぇ。……未来はお前達に渡さない。それを掴(つか)んでいるのは」


右手を挙げ、再び太陽の輝きを手にする。本郷さん達の世界で、天道がヒントをくれたから。

僕は既に未来を掴(つか)んでいる。だから僕が望めば、きっとコーカサスが出た段階でも、ハイパーダブトにはなれた。

でも掴(つか)んでいるのは、ハイパーゼクターだけ? そんなわけがない。……だから望む、更なる輝きを。


それは当然の事象として、傲慢に望む。僕が未来を掴(つか)んでいるのなら、きっと来てくれる。

だから太陽の光に導かれ、その刃は舞い降りる。光の如(ごと)きスピードで迫るそれを遠慮なくキャッチ。


「それは……! 馬鹿な、なぜ貴様がそれを!」


……それはカブトムシを模した両刃剣。金色の刃、その先は二叉(ふたまた)に分かれ、鍔(つば)元には赤・青・金・紫のスイッチ【フルスロットル】。

切っ先と鍔(つば)元付近には、他ゼクターをセットするための【セットアップサークル・セットアップホルダー】。

柄はハイパーカブトと同じく、ヒヒイロノオオガネを使用した【パーフェクトボディ】。


閉じられていたウイングが広がり、鍔(つば)となって輝く。その威圧感、その力強さに、ダークディケイドも後ずさる。

やっぱり、これを僕が使うのは予想外か。いいねぇ、またふざけた未来が覆された。


「恭、文……ここにきて新アイテムかよ!」

「お前、前振りとかはないのか」

「そう、未来(ひかり)を掴(つか)んでいるのは……僕達だ」

「「無視するな!」」


その名はパーフェクトゼクター。ワーム殲滅(せんめつ)用の究極兵器であり、劇中だとハイパーカブト専用武器。

うん、これもゼクターの一種なんだよ。だからよーく見ると、カブトムシの頭になっている。

そして……八神の僕には謝らなくてはいけないだろう。嫌な予感は的中すると。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


混乱した状況……飛び出した自分のふがいなさを思い知りながら、早急に計算――その間一秒。

救援を期待する……却下。いつ来るかも分からない状況だし、相手が特殊過ぎる。

私達だけで打破する……却下。クロックアップが厄介すぎる。


つまり投了? いえ、もう一つある……一か八かだけど、ここは奇策にかける。最悪でもスバル達は取り戻せる!


”全員、耳を塞いで!”

”え”

”早く”


念話を送った上で、クロスミラージュと連携して演算開始――術式詠唱、発動。

と言っても決して難しいものじゃない。復活した回線に載せて、大音量で音楽を流すだけ。


≪The song today is ”大都会”≫


とんでもなくド下手な歌を……! 慌てて両耳を押さえて、鳥肌ものの不協和音に何とか耐える……!

それに八神部隊長達も、リイン曹長達も続き、心底混乱した様子でこちらを見始めた。


”な、なんやこれはぁ! ティアナー!”

”ヒロリスさんの……歌です”

”歌ぁ!? 馬鹿言うな! 音響爆弾じゃねぇか!”

”うわ、とりはだ……イボー! イボがぷつぷつってー! なのはのお肌がー!”

”でも本当なんです! 気晴らしにカラオケって言って……そうしたら、こんなものが!”

”音痴、だったんですね……ヒロリスさん”

”音痴ってレベルじゃないよ、キャロ! というかこれで”


どうにかなるわけが……エリオの言いたいことも分かる。正直私も、撤退する隙(すき)が欲しかっただけだし。

だから逃げようと言い出したところ、スバルとシグナム副隊長が白目を剥き、泡を吹きながら倒れた。


”どうにかなったぁ!? スバルさんとシグナム副隊長がぁ!”

”泡吹いて倒れたです! そ、それにワーム達も”


そしてワーム達も頭を押さえながら苦しみ、呻(うめ)き、完全に動きを止めていた。


『がぁぁぁぁぁぁぁ! な、なんだ……この、この歌はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

”なのはさん、今です!”

”が、頑張る……レイジングハートー!”


デバイスのフル稼働も辛(つら)い状況だけど、なのはさんはそれでも構えを取り――ディバインバスター発射。

それはスバルと副隊長すれすれに飛び、スコルピオワームと他の群体を一斉になぎ払う。

その衝撃で吹き飛ぶ二人を何とかキャッチし、慌ててバインド展開。洗脳が解けていない可能性もあるから、用心のために。


――その間に、全ては決着していた。


『馬鹿、な……ワームが……俺達が、こんなところでぇ!』


クロックアップで逃げても無駄。これは空間一杯に広がる音だから……超加速じゃ逃げようがなかった。

何より砲撃の圧力に飲まれた時点でアウト。結果奴らは押しつぶされ、数十ものワームが緑の爆炎に変わっていく。


”……ティア、助かったわ。でも、なんやろ……凄(すご)く、釈然としない”

”それは、同意します”

”は、はやてちゃん……周囲のビルが軋(きし)んでる! あ、一つ崩落した!”

”こちらシャマル! あの、避難キャンプで突然ヒドい音楽が……そうしたら、紛れ込んでいたワームがいきなり苦しみ出してぇ!”

”えぇ!”

”合計八体! あ、ワーム達は全て私とザフィーラで倒しました! でも、何これぇ!”


そ、それもいぶり出したんだ! うわぁ……八神部隊長じゃないけど、釈然としない! こんなの教導でも習わなかったのに!

怖い……自分が怖い! 自分でやっておいてなんだけど、常識が壊れそうで怖い!


≪……Sir、光学センサーに反応……これは≫


でも恐怖で震えている場合じゃなかった。……ミッド全域を取り囲むように、銀色の歪(ゆが)みが次々と現れる。

そこから出てくるのは……キロ単位に呼ぶ戦艦。しかも骸骨頭で、ムカデみたいに足がたくさん……何よあれ!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ロボライダーと二人、各世界でため込まれていた『スーパー大ショッカーの全戦力』を招集――。

その結果やってきたのは、紛(まぐ)れもないクライシス要塞でした。それも合計千以上。

更に四十二メートルはある、黒の巨人もこの場に着地。


赤いマントにメカニカルな鎧、二本角を携えた兜(かぶと)。血のように赤い眼光が印象的。

戦場を激しく揺らす鎧男は……キングダーク。


仮面ライダーXに登場する超巨大ロボット。GOD機関の悪人怪人軍団を率いる最高幹部。

実はGOD機関の総司令である呪博士が内部にいて、自身のサイボーグボディとして活用していたってオチだけどさ。


「やっぱりコイツもいたかぁ……!」

【な、なんだあれぇ! 侑斗ぉ!】

「落ち着け! おいチビ! 号令をかけたからには対策……あるんだろうな!」

「もちろん。……天道さん!」


ダブトの僕や士さん達の方から戻ってきた、ハイパーダークカブト……天道総司に一声かける。


「空は問題ないな」

≪通信網を使って、既に警告を出しています。人っ子一人いませんよ≫


すると天道さんはパーフェクトゼクターを召喚。空から舞い降りたそれをキャッチし、刃を輝かせる。


「なら全開だ」


その輝きに……虫の羽ばたきにも似た動きに、どこからともなくザビーゼクター、ドレイクゼクターが飛び込んできた。

なお、あと一つはサソードゼクター……なんだけど……あの黒子の子、大丈夫かなぁ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


もはやこっちのノリ! このまま押し切るために戦場を駆け抜け……!


「はーははははは! はーははははははは! ライダースラァァァァァァァッシュ!」


袈裟・逆袈裟の連続切り抜けで、一気に怪人二十体を地獄行き! でもまだまだ……次は斬撃波バージョンだー!


「もういっちょいくよ、サソードゼクター!」

≪――!≫

≪やる気ですねぇ。尻尾が震えてますよ≫


というわけで、もういっちょ……というところで、鍔元のサソードゼクターがビクリと震える。


≪!?≫

「サソードゼクター?」

≪!! 〜!≫


するとサソードヤイバーから離脱し、地面に着地。そのままいそいそと土を掘り、潜ってしまう。

結果僕の変身は解除。ワームやオルフェノク達に取り囲まれた状態で、黒子姿に戻ってしまう。


「……」

『……』

≪≪……≫≫


それに僕も、アルトも、ジガンも……それどころか他の怪人達もフリーズする有様。


「な、ななななな……!」


それでも必死に声を絞り出して……全力で、この現実に対してツッコミ!


「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

”ほんと何でだよ! サソードゼクターもノリノリだったよな!”

”お兄様を見限った様子もありませんでしたし、一体何が……って、行けません! お兄様!”

≪あなた、どうするんですか……これ≫


あ、そうだよ! 囲まれた状態で僕……でも怪人達も飛び込まない。あんまりな状況に顔を見合わせ、隣の奴に『お前が行けよ』と押し問答。

それが一斉に広がり、誰も飛びかかろうとしない。……こ、殺し合っている相手から同情を受けて、遠慮されている……!

劣勢ってわけじゃあない。適当に切り抜けることも可能なのに、すっごく腹が立つ!


というかサソードゼクターはどこ!? 一体何があったの! 誰か教えて! ヘルプミー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


サソードゼクターも天道さんの足下から飛び出し、パーフェクトゼクターにセット。

できればあれは、あのサソードさんのものじゃないと……そう、心から願いたい……!


≪GUN MODE――DARK KABUTO POWER!≫


右手に持ったパーフェクトゼクターをガンモードへ変更し、構えた上で鍔元のフルスロットルを赤・金・青・紫の順に押していく。


≪THEBEE POWER!・DRAKE POWER!・SASWORD POWER! ――ALL ZECTER COMBINE!≫


ダブタロス、パーフェクトゼクターにセットされたザビーゼクター、ドレイクゼクター、サソードゼクターからもパワー供給。

砲口の如(ごと)く向いた、パーフェクトゼクターの切っ先、そしてザビーゼクターの針にタキオン粒子が収束。

単体では決して放出できないエネルギーが生まれ、それが空間すらも歪(ゆが)めてしまう。


パーフェクトゼクターの本領は”これ”だ。タキオン粒子を敵に打ち込み、原子構造を完全破壊するザビーゼクター。

粒子エネルギーを増幅させ、剣や銃としての攻撃範囲・威力を底上げするドレイクゼクター。

毒を光子に変えて、敵の体内に流し込むサソードゼクター。


三つのゼクターとカブトゼクター自体の力を合わせ、増幅されたタキオンエネルギーに猛毒をプラスしてぶつける……もう何が何だか分からないてんこ盛り!

なお劇中にそんな設定は一言も説明されていないけど、平成(へいせい)ライダーではよくあることなので気にしない。



「マキシマムハイパーサイクロン」


天道さんはしっかり狙いを定め、安全も確保した上でトリガーを引く。

その瞬間ボディのカブテクターが自動展開し、翼を展開。


≪MAXIMUM HYPER CYCLONE!≫


放射状に広がる巨大な竜巻――虹色の風が幾重も乱回転し、空へと放たれる。

天道さんは数メートル下がりながらも全方位に回転して、上空にひしめく戦艦達を、射線上にいたキングダークをなぎ払う。

当然バリアも発生するけど、そんなのは意味を成さない。……あの竜巻は進路上の全物体を原資の塵に変えながら、どこまでも飛んでいく。


その範囲は山を軽く飲み込み、射程は――最大百キロ。もちろんその弾速もとんでもなく、個人では持ち得ない戦略級兵器。

誰が言ったか、仮面ライダー史上最も迷惑な技……! たとえラスボスの要塞も兼ねたキングダーグだろうが、受ければひとたまりもない!


天道さんを中心に、空へと広がった虹色の竜巻。

それが攻撃準備に入っていた戦艦達を。

中にいたであろう億単位の怪人達を。

キングダーグ達を爆炎に変え、全て消失させる。


終末を思わせた空は、再びその美しさと二つの月を取り戻していた。その光景にロボライダーも、侑斗さん達も唖然(あぜん)


「……もう全部、アイツ一人でよくないか?」

【俺達はまだ、修行が足りなかった……よし! 侑斗、コレが終わったら一緒に鍛えよう!】

「鍛えて何とかなるレベルか、あれ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


どこからかヒドい不協和音が響く中、戦いは続く……この一連の事件を解決するためには、もう一つ楔(くさび)が必要だ。

奴は信じている、自分の未来を。だからそれに疑いを持たせよう。


「馬鹿な……俺達の戦力が、こうも簡単に」

「くそ、先に使われた!」

≪〜!≫

「え、乱戦だからここでは無理だって? ……マキシマムハイパータイフーンがあるでしょ」

≪――!≫


とはいえコイツには、力で圧倒するだけでは足りない。その心と理想からへし折らせてもらう。


≪≪HYPER CLOCK UP≫≫


全てを超越とした速度の中、あらゆる事象が停滞……いや、僕達がその先を突き進む。

パーフェクトゼクターを袈裟に振るい、奴とつばぜり合い……あえて押し込まれながら斬撃を脇に流し。


「人は楽園を追われ、その手で糧をつかみ取る必要が出た」


その背中に刺突。当然奴は身を翻し、回避しながら僕の首筋に一撃。……その刃目がけて、柄尻で逆風の打撃。

斬撃を捌(さば)いた上で、刃を返して右薙・袈裟・逆袈裟と連撃。更に顔面へ刺突すると、奴は派手に転がっていく。


「そしてお前達は、その楽園を作ろうとした」

「そうだ……!」

「しかしそれもまた欺まん。≪お前達の世界≫は百年後に消滅するよ」


ライドブッカーから放たれる弾丸は、刀身を盾にして防御。すると奴はカードを取り出し素早く装填。

……が、左手で構えていたゼクトクナイガンによって、そのカードは……二枚目のタイムベントは撃ち抜かれる。

構えた刀身の陰に隠れた銃口、そこから放たれた弾丸という『未来』までは見えなかったようだね。


カードは穴だらけとなり、奴は腹を射ぬかれながら後ずさる。


「お前達が利用した時空平行理論……リセット現象には正式な名称がある。それが≪剪定事象≫だ」

「なん、だと」


やっぱり知らなかったか。僕も二か月さ迷っていた中で……とある月面世界で行われていた戦いで、初めて知ったことだから。


「剪定事象には基準が存在する。その対象となるのは『先鋭しすぎたため、もう道を変えられない世界』だ。
本来剪定(せんてい)は百年周期で行われ、消える世界とは真逆に『多くの可能性を内包する世界』は残される……さて」


というわけで、コイツに……死にゆくコイツに、重大な勘違いを突きつけてあげよう。右手をスナップさせ、奴を指差し。


「全ての世界が木の幹に集束し、『スーパー大ショッカーに支配される未来』には……果たして、幾つの可能性が生まれるのかなぁ」

「――!」


奴は慟哭(どうこく)する。その可能性を……未来永劫(みらいえいごう)、全ての世界で続く絶対的支配を願っていた……願い続けていた。

しかしそれを阻むものが最後に現れた。それは自分達の思想――。


目指した楽園こそが、真の破壊者だと実感していた。その力で、その心で。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まず振り返るべきは……世界の分岐とは何なのかという点。

例えば二つの箱が左右横並びであったとする。どちらか一つを開けば、もう一つは消滅する。

少なくとも今この場から、『もう一つの箱を選んだ可能性』は空想の産物に成り果てる。


だがその可能性自体は消えない。箱を選んだ時点で”あり得た可能性”は分岐し、同一時間軸で進んでいく。

そう、分岐で一番重要なのは可能性だ。個人の選択により変化していく可能性が、世界を形作る根源――。

そういう意味でもしゅごキャラ達は、こころのたまごは大事なんだ。……だが全ての可能性を許容できるわけじゃない。


そのとき世界は……それを許容する宇宙は、より多くの可能性を内包した世界から残していく。

それが世界は編纂事象……多少の差異はあっても、未来は同じになる大幹の平行世界群だ。


実のところ剪定事象は盲点だった。リセット現象についてはカブトの世界で話した通りだが、その中身に注目することを怠っていた。

そう……俺は言ったな。お前達が回っていたのは、今にも消えそうな世界だったと。


「……思えば奴らが回ってきた世界は、差異こそあれどそういう要素が存在した」


雑魚はあらかた蹴散らしたので、スーパー大ショッカーの矛盾を語っていた……加賀美が『説明しろ』とうるさくてな。


「クウガの世界は、グロンギの蹂躙(じゅうりん)による人間文明そのものの危機。なら、そのグロンギが勝利した場合は?
当然身内同士でも殺し合う奴らに、文明の発達など望めない。剪定(せんてい)対象とされる公算が高い」

「お、おう」

「キバの世界も基本は同じ。共存という『新しい可能性』を体現していた世界で、それが壊れたらどうなる」


それでワタル父のやり方も間違っていた。……確かにワタルの成長を願って、身を犠牲にしようとした。

しかしそれはワタルの道を、ワタルの選択肢を狭め、殺すことでもある。それは世界のためになっただろうか。


「龍騎の世界は言わずもがな。ライダー裁判は奴らの実験場だったため、生まれる可能性すら奴らの都合に合わせたものばかりとなる。
それはファイズ、アギト、電王の世界、本郷達の世界も同じだ。……だからこそどの世界も消えかけていた」


比較的マシだったのは響鬼の世界と、ウィザードの世界――俺と加賀美達の世界だけだ。

まぁ後者は俺という太陽がいるからな。無事なのも当然と言えるが。


「とにかく……そういう、可能性が少なくなった世界は消えやすい、と」

「随分理解力が高くなったな。初めて会った頃のお前が見たら、腰を抜かして失禁するぞ」

「誰かさんが無茶(むちゃ)振りしてくれるおかげでな……! だが天道、それだと」

「あぁ」


奴ももう気づいている様子だった。それをここまで……大首領への切り札として隠しておくから意地が悪い。


「最初から破綻していたんだよ、奴らの『楽園』は」

「俺達が倒してきたワーム、それに根岸みたいな過激派ネイティブと同じように……か」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「馬鹿な……そんなはずは、ない。俺達の、楽園が」

「そう、楽園だからこそだ。お前達の世界は”発展を終えている”……だからこそ言い切れる」


右手をスナップさせ、がく然とする奴を指差し。


「お前達は最初から破綻していた」

「嘘だ。俺には宇宙の眼が」

「宇宙の眼があろうと、どれだけ改変しようと……それが”完成されきったシステム”である限り、百年先へ進むことはできない」

「嘘だ……俺は」

「緩やかに滅びていく。そして、お前達が今まで壊してきた世界のように」

≪というか、ハイパークロックアップができるなら≫


動揺する奴に組み付き。


「おい、やめろ……!」

≪まどろっこしいから、見てみましょうか≫

「行こうか」

≪HYPER CLOCK OVER≫


世界の速度に戻っていく中、僕はコイツとともに再加速!


≪HYPER CLOCK UP≫

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


世界の行く末を――楽園の向かう先を、奴と一緒にかいま見る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――宇宙の眼による改変すら通用しない、可能性という檻(おり)……俺達はその中に捕らわれていた。

それを奴に引きずられながら、傍観者として見せつけられる。まだ僅かに残っている、俺が勝利した世界の行く末を。

抵抗など許されない。そもそもその気力から奪われる。奴は無言のまま、俺に突きつけてもいた。


――正しいというのなら、見る覚悟はあるよね――


……と。その可能性に賭けた。そうすればまた未来が見える……この劣勢も覆せると信じていた。

いや、縋(すが)りたかった。それは無情にも否定され続けるのに。


停滞した世界……支配のため、繰り返される改変。剪定事象のことが分かっても、宇宙の眼があるからと誇る愚者達。

しかしそれは無駄だった。俺達が支配した世界は、その宇宙は緩やかに収束を続け、自分達が起こしてきた消失現象に苛(さいな)まれる。

どれほど改変を重ねようと、決して変わらない。むしろ改変を重ねれば重ねるほど壊れていく。


そうして最後に……本当に、最後に導き出された結果は。


『……お、恐れながら大首領に……御報告を』

『何だ』

『剪定事象を乗り切る方法は……その』

『見つかったのか。で、それは何だ』

『……スーパー大ショッカーによる支配を、壊すこと……百年前に、我らが勝利した時間に戻り』


真実を告げた幹部を、首領である俺は即座に処刑。破裂する血と肉に構わず、足となる奴らに張り叫ぶ。


『いいか、必ず見つけろ! 既に宇宙は……全ての世界は俺達のものだ! そうだ……新しいディケイドを用意しろ!
百年前と同じように木の幹を作り上げ、私の意志はそこへ移植する! そうすれば問題あるまい!』

『は……ははぁ!』

『そうだ、認めない……スーパー大ショッカーは永遠に不滅! この楽園を死んでも守り抜け!』


だが、全てが失敗する――。

既に『スーパー大ショッカーが存続する可能性』すら潰(つい)えた、枯れきった世界は壊れていく。


『なぜだ……』


百年後の俺は……今と変わらない俺は、消えていった部下達を捨て置き、宇宙の眼で願い続けた。

だが既に、未来を約束する樹木も枯れ果てていた。中で脈動していた脳髄達は何も言わない。


『何が間違っていた! 私は手にしたのだぞ! 何者にも脅かされない力を! 陵辱されるしかなかった無力を変革し、頂きに立った!
父を、母を、妹を殺された怒りすら飲み込み、この頂きに……神の頂に! なのに……なぜ……なぜだぁぁぁぁぁぁ!』


そして奴も粒子化……世界と同じように消えていく。


≪HYPER CLOCK UP≫


だがそれが成される直前に、俺はまた時へと遡る。そうして、あの戦場へと派手に叩(たた)きつけられた。


≪――HYPER CLOCK OVER≫


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


秘技『勝利してもバットエンド確定でした……残念!』攻撃は見事に成功。

僕達は無事に戦場へと戻り、墜落した奴は変身を解除し、地面に叩(たた)きつけられる。

血へどを吐き、体のあっちこっちがへし折れ、呻(うめ)きながらも起き上がっていた。


……なおディケイドライバーとライドブッカーは、放心している間に回収した。そこはアギトの世界でのアレコレを参考に。


「そうだ、信じない……信じると思うか!? そんな嘘を!」

「……恭文、何を言ったんだよ」

「更に小物化したぞ、アイツ」

「帝王学に未来がないって話よ」

「この俺こそが真のディケイド――仮面ライダーだ!」


……すると保持していたディケイドライバーが黒い光を放ち、僕の手元から消失。

ライドブッカーも……く、サタンサーベルと同じか! もやしにも習得してもらおうっと!


「変身――!」


奴は止める間もなくダークディケイドに再変身。黒いオーラを放出し、僕達を吹き飛ばしながらも笑う……笑う……狂った様子で笑う。

くぅ、まだこんな力が……転がりながら変身解除してしまい、ダブタロスとハイパーゼクターも僕の脇で何とか踏ん張った。


「残念だったな、これがお前達の終着点だ! あんな未来は信じない……俺は、全てを破壊し全てを繋(つな)ぐ! あはは……はははははははははは!」

「笑わせるなよ、中二病」


ユウスケも変身解除したものの、笑いながら挑発。


「……なんだと」

「立ち上がることは無駄じゃない。俺達はお前に勝って」


そうして全身から金色の火花を走らせ――まさか、これは!


「みんなの笑顔を取り戻すんだからな!」

「もうやめておけ。正真正銘の悪魔になるぞ」

「いいや、俺は悪魔になんてならない! ……ようやく分かったよ。俺はどこまでいっても、ただの人間にしかなれない」


その言葉を聞いて安堵(あんど)する。……もうユウスケは大丈夫だ。

僕は間違ってもいたし、正しくもあった。


「臆病で、弱くて、鈍感で――でもそれでいい! 伝説じゃない! 俺は、俺を塗り替える……塗り替え続ける!」


ユウスケは五代雄介さんじゃない。だから同じようには絶対戦えない。

でもユウスケなりの強さがある。弱さを認め、立ち向かうことを選べる強さが。


ならば負けてはいられないなと、コートの土を払って……左指を二回鳴らす。


「お前が仮面ライダー? 全然違う……全然違うよ。さっきも言っただろうが。仮面ライダーってのは……在り方なんだよ。
たとえ変身できなくても、たとえ特殊な力がなくとも……その身一つで自由を戒める悪に食らいつく。その心そのものが仮面ライダーだ」

≪……あんな未来を形作るあなた達は、決して許さない。あれこそ自由を……可能性を殺した先でしょ。そんな未来はいりません≫

「黙れよ……なら、お前達はこの世界を許すというのか! この世界が、この世界の奴らが、お前達に何をした!」


そんなことを言う奴に、パーフェクトゼクターを向けて……超電磁砲発射。

音速粋で放たれる刃は、奴の頭を撃ち抜き……その体を情けなく倒してしまう。

跳ね返ってきた刃は転送魔法で回収し、さっとキャッチする。


「言ったでしょうが。これから死ぬお前が心配することじゃない」


……よし、未来予知の能力は消えているね。それは強制的に見せられた未来を恐れ、能力使用を封じているからだ。

そして素の戦闘能力で言えば、奴は僕……いいや、もやしとユウスケ以下。そう、奴は本物でありながら偽物にも劣る。


「太陽になる意味……守って導けって意味じゃない。みんなが羨ましくなるくらい、キラキラに輝けってことなんだ」


パーフェクトゼクターはさっと足下に突き立て、不敵に笑って宣言。


「だから僕は太陽になる。夢を育てて、自分を鍛えて――世界を照らす太陽になる! そうしてみんなの可能性を守る!」

「それでお前は、ディケイドでもない」

「何なんだ」


もやしも改めてディケイドライバーをセットして、こちらを指差しする奴に……”本物”を見せつける。


「悪いな……本物は俺のようだ」

「貴様らは――なんなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『仮面ライダーだ! 覚えておけ!』


僕はダブタロスとハイパーゼクターを両手で取り。

ユウスケは雷撃を迸(ほとばし)らせながら構え。

もやしは改めて、太陽の光で輝くカードを見せつけながら。


『変身!』


同時変身――!


≪DECADE!≫

≪HENSIN――HYPER CAST OFF≫


まずクウガ(マイティフォーム)の各所に金色のラインが走り、刻まれたアイデンティティワードも新しいものへと切り替わった。

右足にもアンクレットが装備され、クウガはその力強さを増していく。ついに出た……ライジングフォーム!


更に僕もマスクドフォーム・ライダーフォーム・ハイパーフォームと瞬間三段変身。

その姿を見て、奴はせせら笑い。


「……愚かしい。まだ分からないのなら教えてやる。仮面ライダーに未来は」


新しいカードを取り出した瞬間、弾丸に撃ち抜かれる。……なお、今回は僕じゃない。左脇からやってきたのは……!


「君には騙(だま)してくれた礼がある」

「海東!」

「僕も剣崎さんと再会させてくれた礼、たっぷりとしたくてねぇ」

「あり得ない僕!」


そう言いながら飛び込んできたのは、何だかんだで仲良しになっていた二人だった……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


海東がディエンドライバーで牽制(けんせい)射撃をしているところで、改めて場の状況を確認。

ウィザードメモリの力も借りて、使える魔法を瞬間的にリストアップ……やっぱりだ。

この場にいる仮面ライダー達の存在。一緒に戦っている管理局の人達。みんなの思いが強烈に刻まれて、土地の記憶として成立している。


もちろん下地はあった。スーパー大ショッカーが長年支配していたことで、仮面ライダーが存在する世界となっていたから。

もちろんその根源はディケイドだけど、ダークカブトの因子も多少入っていると思う。

つまり大首領とスーパー大ショッカーは、自らの手で作り上げてしまったわけだ。


――自分達の敗北を決定づける記憶を。奴に一番効果的な方法は……これだ!


「ディエンドォ……貴様もなぜ抵抗する!」

「愚問だね。お宝は決して失われてはいけない。そう、自由というお宝は……絶対に!」


その辺りは理解できたので、一気に飛び込み……奴の拳を避けながら、首筋にラリアット。

倒れ込んだ奴はすぐ起き上がり、足下目がけてライドブッカーで一閃。それを踏みつけ制止した上で右回し蹴り!

顔面を蹴り飛ばし、起き上がりカードを取り出したところで……。


「Wind!」


突き抜ける突風がダークディケイドの体を煽(あお)り、そのカードを派手に吹き飛ばす。

また別のカードを出そうとしたところで、こちらもウィザードマグナムを出して牽制(けんせい)射撃。

海東と二人弾幕を展開し打ち据えながら、ウィザードメモリを取り出し、マグナムに装填。


……僕が急ごしらえの記憶を使うわけにもいかないし、ここは安全策で行くか。


≪Wizard――Maximum Drive≫

「コードアクセス――Thunder!」


マグナムの銃口に集束するのは、土地の記憶から引き出した蒼い雷撃――それが一メートルほどの砲弾になったところで。


「ビートショット――サンダーエフェクト!」


トリガーを引いて発射。奴は素早く左に回避するものの、当然その回避先を捉えた攻撃……自ら弾丸へ飛び込み、その直撃を受ける。

胸元を砲弾が貫いたところで、雷撃の嵐が発生。それが奴の体を、取り出しかけたカードを焼き払う。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!」


そこで更に牽制(けんせい)射撃を続けながら、ウィザードメモリをマグナムから取り出し、右のマキシマムスロットに装填……素早く叩(たた)く!


≪Wizard――Maximum Drive≫

「コードアクセス――仮面ライダー!」


左手をかざすと、足下から……ううん、戦場となった周囲から星の光が生まれる。

無数の輝き……ここで刻まれた痛み、嘆き、涙、怒り、苦しみ……そして戦う決意と示された希望の輝き。

混然一体となったたくさんの感情が、それを元とした力が右手に集束していく。


「なんだ、それはぁ……!」

「試すんだよ」


カードにはディケイドが描かれていた。その背後にはダークカブトやクウガ……恐らく旅の中で出会ったライダー達だ。

もちろんこの場にいるみんなも描かれていた。ま、まぁ……シルエット的なのが大多数だけど。

とにかくそのカードを素早くディケイドに投てきし、引き続き海東と二人動きを封じ続ける。


「お前が本当に仮面ライダーかどうか……ディケイドかどうか。――FLAME!」


またカードを取り出したところで魔法発動。雷撃が消えたと思えば、今度は瞬間的に吹き上がる炎……カードが潰れ、奴がいら立ちの叫びを上げる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さぁフルボッコ……と思ったら、あり得ない僕があるカードを投げてきた。

それをもやしが受け取り、僕とユウスケも驚愕(きょうがく)。ど、どういうこと……何でディケイド用のカードが!


「これは……!」

「僕は希望の魔法使いよ?」


牽制(けんせい)射撃を続けながら、あり得ない僕は左人差し指と中指でゴーサイン。


「その可能性を引き出すくらいはわけない」

「あり得ない僕……」

「行け、士!」

「助かる!」

「祝勝会は期待しろよ、お前ら!」


もやしはすばやくカードを装填し、発動――。


「美味(うま)いもん、たらふく食わせてやる……何せ」

≪FINAL ATTACK RIDE KA・KA・KA――KAMEN RIDER!≫

「ここは俺達の世界だからな!」


すると弾幕に晒(さら)されているダークディケイドに向けて、カードレールが展開。

そう、何時(いつ)もの必殺技……と思ったら、僕とユウスケの前にも……!

合計百枚以上に及ぶカードには、昭和(しょうわ)・平成(へいせい)を問わず無数のライダーが描かれていた。


主役だけじゃなくて、二号ライダーやそれ以外も……それに感動しながら、静かに身を伏せる。


「蒼チビ、ユウスケ、合わせろ!」

「あぁ!」


ユウスケも何時(いつ)ものマイティキックを用意し。


「必殺――僕達みんなの」

≪HYPER CLOCK UP≫


僕もハイパーゼクターのゼクターホーンをコッキングした上で、ダブタロス上部のスイッチを順番に押し。


≪1・2・3≫


今度はダブタロスのゼクターホーンを一度元に戻して……再度左側に入れる!


「究極必殺技!」

≪HYPER BEAT SLAP≫


そうして僕は……僕達は、時間さえも置き去りにして加速する。周囲の景色が、弾幕がスローリーになる中、僕達は鋭く飛び上がる。

カードレールもそれに伴い角度を変える中、ダークディケイドの動きが俊敏になり……!


「まだ、だ……俺は」


まさか、カードもなしで……そうだった! コイツにはワームの因子も組み込まれていたっけ!


「俺はまだ、世界に……復讐(ふくしゅう)していない!」


だから弾幕を受けながらも、今度は止められない……ファイナルアタックライド用のカードを装填し。


≪FINAL ATTACK RIDE DE・DE・DE――DECADE!≫


奴もカードレールを展開。こちらの三重(さんじゅう)レールを中程まで押し返しつつ、同じように跳躍して。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

「せいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「消えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


――三つの黄金に輝くレール。それを突き抜け、僕達は一つとなりながら奴に蹴撃。

奴はほの暗い闇のカードを突き抜け、怨嗟(えんさ)の炎としてそれを迎え撃つ。

衝突により黄金と闇が混じり合い、まき散らされ、周囲の地面を切り裂いていく。


しかしその拮抗(きっこう)はほんの一瞬。既に格は決まっていた……奴の根源は復讐(ふくしゅう)だった。

自らの家族を、自らを助けてくれなかった世界への……スーパー大ショッカーへの復讐(ふくしゅう)。

それゆえに大首領の器となることを選び、世界の可能性を封じ込めた。でも、それは自らの滅びを招く愚行。


もう一度言う、全ては決着していた。その道を選んだ時点で、この結末は決まっていた。


「な……!」


奴の体を突き抜け、その胴体部に穴を開けながら――僕達は怨嗟(えんさ)と交差し、着地する。


「……ファイナルバージョン」


高く……上空百メートルほどまで打ち上げられた奴は爆散。

キロ単位に渡り炎と衝撃をまき散らすも、その範囲は円形であり、余波は主に上方へと向けられていた。

それは襲来していた第二軍――クライシス要塞達を、空飛ぶ怪人達を全て焼き払う。


ディケイドの力、ハイパーダークカブトの力、ライジングクウガの力。そして出会ってきたみんなの力。

四重(さんじゅう)ら旋に織り込まれた力は渦を巻き、天を突き、空どころか宇宙を焦がす。

結果数千……いや、数億に及ぶ二次爆発を起こし、ミッド全体の空を染め上げた。


天道のマキシマムハイパーサイクロンよりも強く、熱く、猛々(たけだけ)しく――。


「馬鹿、な」


空は灼花に彩られながらも、すぐに落ち着きを取り戻し……そんな中、背後から落下音が響く。

死にかけの奴は変身解除。起き上がり……傷ついた体で必死に起き上がっていた。

振り返るとその身は、枯れ落ちる木の葉のように舞い散ろうとしていた。


……あなたは、顔に汗を流して糧を得、ついに、あなたは土に帰る。

あなたはそこから取られたのだから。あなたは塵だから、塵に帰らなければならない。


旧約聖書『創生期』第三章の十九にある一説だよ。アダムとイヴが知恵の身を食べて、楽園から追放されるときのものだ。

『土は土に、灰は灰に、塵は塵に』――そう言えば分かる人もいるでしょ。

奴は人ならざる者。それゆえに塵として残ることもできない……が、それは本質じゃない。


「この俺が――スーパー、大ショッカーが。神に近づいた俺……達が」

「……お前は、誰かと繋(つな)がったことがないんだな」


もやしは哀れむ様子で奴を……その消滅を見送る。


「だからディケイド(コイツ)の本質を使いこなせない」

「ディケイドの本質、だと」

「ディケイドはあらゆるライダーと繋(つな)がれる。踏み出し、世界を知り、受け入れれば……それは人が持つ【可能性】だ」


そう――ディケイドは全てを支配するシステムではなかった。

世界と向き合い、そこで暮らす人を知り、理解し、自らのうちにその生き様を取り込むシステム。

奴は言った。ライダー達の有様とその魂を理解して、初めてシステムは使えるようになると。


人を逸脱した者達が生み出した”悪魔”は皮肉にも、人の可能性を示す者となっていた。


「まだだ、まだ……俺は」


消滅を、敗北を信じられず、奴はディケイドライバーをもう一度使おうとする。だが手にしたカードは崩れ、取り出した左手も風に吹かれて消滅する。

奴はライドブッカーを右手で取り出し、こちらに向けた。しかしその銃口は定まらず、引き金を引いても弾なんて一つたりとも出ない。


「人の可能性……だと。そんなもの」


そしてまた、風が吹く。戦いが終わったことを知らせる、福音の風。

それは奴の胴体を、腰を、首を、頭を……そこにいた痕跡すら、罰するように洗い流した。


――笑えない、冗談だ――


そんな風に乗って、奴の身体から……存在していた場所から、一枚のカードが流れてきた。

それを素早くキャッチして、確認。青の絶晶神……全てを破壊する力溢(あふ)れる神。


「冗談じゃないのはこっちだ」


神様の出番はもうないよ。とっくに僕達のパーティ……もうここは。


「ここは、僕達の世界なんだから」




『とまとシリーズ』×『仮面ライダーディケイド』 クロス小説

とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路

第44話 『Stay the Ride Alive』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――こうして前代未聞のスーパー大ショッカー事件は終わりを告げた。

ミッド及び次元世界に残っていた怪人達は一掃され、他の世界からきた増援も壊滅。

大首領はもちろん、問題だった宇宙の眼も沈黙していたことで、組織としては完全に崩壊することとなった。


あと……ダブトのヤスフミが提唱した剪定事象……だっけ? ようはリセット現象の対象に選ばれる理由。

それはターミナルでも確認されているSSSクラスの情報らしく、私達も軽く口止めされていた。

まぁ簡単に言うと、一生懸命選んで生きてみようってことみたい。道を考え、選べること自体が可能性……それが世界を生かすご飯なんだよ。


もしかしたら過去、次元世界で滅びた発達しすぎた世界は、完成されてしまったが故に……なのかなぁと、ちょっと考えた。

どういう形であれ完成を迎えた世界は滅びる、かぁ。未完成って言うと聞こえは悪いけど、それゆえに進み続けるからこそ生きられるし美しい。


私もそうありたいと願いながらも、今日は……うぅ、うぅ……うぅー!


「それじゃあ……良太郎と青坊主! 金髪姉ちゃん、オビビの母ちゃんが元に戻った記念に……!」

『かんぱーい!』

「あ、ありがとうございますー!」

「ありがとう、みんなー!」


デンライナーでパーティです! みんなとグラスを合わせ、ジュースを一気飲み……うー! これが勝利の美酒なんだね!


「ほんまはあっちのティアナ達もおったらえぇんやけど、さすがに無理かぁ」

「まぁ仕方ないよ。管理局も潰れちゃって、立て直しが大変なんだし……あ、でも臨時の組織で人を取りまとめているとは言ってたね」

「え、そうなの!? じゃあ管理局、潰れてないじゃん!」

「そうでもないみたいだよ? 今回のことでより民主的で、動きやすい……新しい組織にしようって話しているみたい。
市民の人達とも相談しながらね。……何だかんだで、あの世界の人達も強いんだね」

「そうして新しい時間を刻んでいくわけね。まぁそれなら仮面ライダーの件も何とかなるでしょ。恭文君も正体はバレてないみたいだし」

「だよねだよね! それに管理局が潰れちゃったから、ティアナちゃん達の指名手配も解除されたし……うん、万々歳だー! カンパーイ!」


リュウタと再度グラスを合わせて、一気飲み……あ、できなかった! もう空だから注(つ)がないとー!


「でも良太郎、お疲れ様」

「ううん。みんながいてくれたから」


それでハナさんと良太郎さんは、笑顔でグラスを合わせ……唐揚げをもぐもぐ。

……そうだそうだ、良太郎さんも元に戻ってホッとしてるの。だって……!


「そうだ。良太郎さん、大検は問題ないんですよね」

「あ、はい。小さくなっていた間も勉強は続けていましたし、何とか合格ラインには」

「よかったぁ……!」


どこかで言ったかもしれないけど、良太郎さん……今年大検を受ける予定なの。

愛理さんと桜井さんの一件で、高校を卒業直後に辞めちゃったから……実は私と同じ中卒。

でも私達と……ミットチルダで暴れてから、少し考えが変わったらしくて。スバルが嬉(うれ)しそうに話していたっけ。


……そこで鬼退治やら、スーパー大ショッカーの一件なんだよ……! 申し込みはしていたんだけど、小さくなっていたら受けられないでしょ?

かと言って受けた後に戻っても『誰だお前』状態……だから良太郎さんも、ハナさん達もすっごく安心している。

それもみんながスーパー大ショッカーの問題に対し、全力だった理由なんだ。幸太郎達の時間に繋(つな)げようってね。


「でも士さん、これからどうするんだろー。復活したのはいいけど」

「問題ねぇだろ、オビビ。宇宙の眼ってのも潰れて、なしになってんだぜ?」

「いやぁ、先輩の頭じゃあるまいし、そんなお手軽には」

「るせぇ! 誰が手軽な頭だ!」

「あ、ごめん。先輩は空っぽで、軽すぎるくらいだったねー」

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


あぁ、また始まったー! なので慌てて止めようとすると。


「えぇ、ウラタロスくんの言う通りですよ」

『え!?』


オーナーがお祝いチャーハンをもぐもぐしながら、とんでもないことを言い出した。


「彼が復活したのは、宇宙の眼のコピーだったからです。世界の根源……そのバックアップが彼の役割。
本体である『門矢士』を倒したことで、彼は……成り代わっているわけです」

「なんやて! ほな、このまま放置してたらまた世界崩壊が起きるんかい!」

「その可能性が高いです」

「そんなー! じゃあじゃあ、今度は他のライダー達も敵になっちゃうのー!?」

「ヤスフミ、どうしよう……! そうなったら私達じゃ止められ」


ヴィヴィオと二人手を取り合い、慌ててヤスフミに……あれ!? そう言えば。


「……ヤスフミがいない! いや、さっきからだけど!」

「彼には、ディケイドのところへ向かってもらっています」

「士さんのところへ?」

「彼発案のアイディアがあるので……それを伝えに」

『えぇ!』

「しかしそれは」


だったら大丈夫……と思ったけど、どうも一筋縄ではいかないみたい。


「彼にとっては、余りに厳しい道かも……しれませんねぇ」


……だからみんなで、自然と窓を見て、思う。

変わらない時間の中を――変わっていくであろう、旅人(たびびと)達を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


世界は意外とタフだった……決戦を終えてからの一週間で、僕はそれを強く感じた。

まずは八神の僕を元の世界まで送り、荒らされた写真館を建て直す。なお栄次郎さんは平謝りだった。

スパイ状態だったので、それはもう涙目……どうも今まで表に出ていたのは死神博士で、栄次郎さん本人の人格は封じ込められていた模様。


完全に騙(だま)されていた……! 毒とか盛られなかったのが奇跡だったと思う。それでミッドも、各世界も落ち着きを取り戻していた。

ここまで滅多打ちにされると、後はもう前に進むしかない……これもまた、守り抜いた可能性と言えるだろう。


なおフェイトは未(いま)だぼう然としていたけど。管理局が潰れたことだけじゃない。

予想されたような治安悪化もなく……世界が未(いま)だ動いていることに。それゆえに停滞しているとも言える。

世界に管理局なんて、必要なかった。今まで頑張って、変えようとしてきたことは無駄だった。


そう感じているのだろう。何だかんだでしくしくとうるさい……そろそろはやて達のところへ送り返そうと思う。


『旅を続ける!?』

「そうだよ」

「……やっぱり、それしかないかぁ」


そんな中、突然やってきたフェイトルートの僕に……とんでもない話を聞かされ、驚くみんな。


「……ただいま!」


でもそこに元気はつらつのギンガさんが飛び込んでくる。


「……って、あれ! 蒼凪君、どうしたの!」

「ディケイドの扱い、ターミナルとも相談の上で決まったからね」


ギンガさんには軽く話していたので、察した上で写真室のテーブルに着席する。


「そうそう……ギンガさん、さっきダブトの僕から聞いたけど、一文字さんは何とかなりそうだって?」

「あ、うん。実はその……スカリエッティが協力してくれて」

「あぁ……行方不明だったのに、ひょっこり娘達共々現れたと」

「もちろん重罪人の扱いは変わらないんだけどね。でも『自分達の世界を救ってくれた恩人に報いるなら』って、とても精力的に。
調整とリハビリは必要だけど、無事に元の世界へ返せると思う。そのときはなぎ君も」

「もちろん協力するよ」

「ありがと」


ギンガさんは嬉(うれ)しそうに笑って……すぐ、その表情を引き締める。


「それであの、やっぱり」

「予測通りみたい。……はっきり言えば、もやしは大首領に成り代わっただけだ。
このままじゃ奴らのこととは別に、全ての世界は消滅・統合される」

「士くんが宇宙の眼とリンクすることを前提とした……世界樹だから、ですよね。
それが剪定事象……でしたっけ? そのペースを加速させかねない」

「そう……だから旅を続けるのよ。一処に始終せず、ありとあらゆる世界を回る。今までやっていたみたいに」

≪もやしさんは世界の中心部。でもその中心部が場所を移動しているなら、各世界がそれに引き寄せられていっても影響は少ないと≫


アルトの言葉に頷(うなず)きながら、もう一人の僕は右人差し指をクルクル……また単純な方式だよなぁ!


「出る前に移動していくからね。オーナーや天道さん達とも相談したけど、まずはこれで」

「そんな……じゃあ士さん、ずっと島流しも同じだよね! あの、何か方法はないの!?
そういう影響を防ぐ道具とか……あの、ターミナルってところなら問題ないとか!」

「……あったら島流しなんて提案しないって。あぁ、こっちのギンガさんも理屈が分からないんだ」

「う……」

「それに実際問題、今の”門矢士”がどういう影響をもたらすか――それは僕達にも分からない」


そう言いながらもう一人の僕が見るのは、目を閉じ、黙って話を聞いているもやしだった。


「実際に旅をしてもらって、世界と関わり、その様子を記録する。その中でもし、世界への影響が少なければ」

「士くんは……また、この世界に戻ってこられるんですね」

「ターミナルはそういう方針で決まった。それで観察員も同行するから、何かあればその子に相談して」

「観察員?」

「アタシよぉ」


するとひょっこりと登場したのは……キバーラかよぉぉぉぉぉぉぉ!


「キバーラ……お前かよ!」

「スーパー大ショッカーについて情報提供する代わり、恩赦をもらったって感じぃ? まぁ今までと立ち位置は変わらないからぁ」

「それに奴らの残党もいるみたいだし、事情通なキバーラがいると楽でしょ」

「じゃあ、また一緒に旅ができるんですね!」

「それは士ちゃん次第ねぇ」


そう、それももやしの選ぶべきことだった。だからキバーラは今までで一番優しくほほ笑み、もやしの前に踊り出る。


「士ちゃん、どうするぅ? 今のところギンガちゃんが言う便利アイテムはないけど……その研究も始めるらしいし」

「そうなの!?」

「その時間稼ぎも込みなのよぉ。でも、島流しなのは確か……仮に今の士ちゃんが無害な存在でもねぇ」

「なぎ君、それってあり得るの?」

「十分あり得る。リセット現象が加速した原因は、奴らの支配が根底から破綻していたから……その進行に合わせてとも取れるわけだ。
それならディケイドが≪世界の破壊者≫って見方も間違っているけど、データの方がなぁ」

「そこを確かめない形は……ってことだね。でも士さん、ようやく”自分の世界”に戻ってきたのに」


そうだ……確かにもやしは、門矢士としては偽物だった。でもここが生まれた世界なのは確かだった。

既に門矢一家はいないけど、天涯孤独だけど、僕やみんなのツテもあれば戸籍くらい何とかなる。

今、もやしには選ぶ権利があった。だから問いかけていた……残ってもいいのだと。


「もしあなたがこの世界を離れたくないなら、ギリギリまで残るのも」

「拍子抜けしたよ」


でも目を開いたもやしは、僕達が予想外なほどあっけらかんと、いつも通りに笑い捨ててくる。


「いいじゃないか……島流し」

「士、いいのか」

「そうです! 住むなら住むで、はやてさん達も協力してくれるって! 士くんはもう旅を続ける理由が」

「理由が必要か? 人は生きている限り、旅をしていくものだ……どこにいようとな」


理由などいらない……そう言いながらもやしは立ち上がり、自分の……僕達の世界を示す、背景の絵を見やる。


「今までと同じだ。俺は旅を続ける、そうして世界を破壊する。……面白いじゃないか。
今度は世界の垣根を破壊し、全ての世界を繋(つな)いでいくんだ。そうして俺の【世界】にしていく」


その言葉にどう言っていいか分からない様子だったけど、ユウスケと夏みかんはすぐ気持ちを切り替え、立ち上がる。


「……そうですね……今までと同じです。今度は生まれ変わった士くんを知っていく旅……新しい世界を作る旅です」

「……すまん」


そこで小さく謝ってきたのは、もやしと同じく黙っていたヒビキさんだった。


「どうして謝る。アンタ達は俺のために知恵を絞ってくれた。それに」


でももう、もやしに怒りはない。いや、元々なかったのかもしれない……笑いながら振り返ったもやしは、その過ちを許す。


「コイツらは俺のために、世界を敵に回してくれた。――それだけで十分だ」


怒りも、恨みもいらない。ただ前に進もうと……強く道を示していた。

……だったら、僕も止まっていられないね。行かなきゃいけない場所があるんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それで翌日――さっと荷物を纏(まと)め、僕とギンガさん、フェイト、ユウスケ、ヒビキさんは写真館を出ることとなった。

フェイトはまだぼう然としているけど、それでも何とか踏ん張る。


「それじゃあ栄次郎さん、お世話になりました」

「「あの、ありがとうございました」」

「「お世話になりました!」」

「いいえ、こちらこそ」


そうしてお辞儀すると、栄次郎さんは僕の前に立ち、マジマジと顔を見つめてくる。


「うん、男の顔になったね。いやね、私は思ってたんだよ」

「なんでしょ」

「二兎(にと)を追うもの、二兎(にと)とも取っていいんじゃないかなぁと」

「あぁ、こんな馬鹿どもはお断りですよ」


なので笑いながら言い切ると、二人揃(そろ)ってズッコける。


「今まで甘やかしてた分、しっかり叩(たた)いて教育しないと。……散々迷惑かけてくれましたしねぇ」

「ちょ、あなたそれでいいんですか!?」

「うん、そうか。なら安心だ。……またね」

「はい……そういえば、死神博士として僕達を騙(だま)してくれていた礼が」

「それについては済まなかったぁ!」

「じゃあ今度、美味(おい)しい鳥でもご馳走(ちそう)してください」


それで問題ないと笑ってお手上げポーズを取ると、栄次郎さんは僕の手を取りしっかりと握手。

僕も返した上で……ちょ、ハグかー! そこで強烈なハグかー! 何これ、栄次郎さんエンド!?


「でもユウスケさんもだなんて……」

「スーパー大ショッカーの侵略で俺の世界、大変かもしれないしさ。復興支援とかできればなと。……悪いんだが恭文」

「送ってくよ」

「助かる。それでキバーラは……観察員、頑張れよ」

「えぇ。……ありがと、ユウスケちゃん」


キバーラはユウスケと夏みかんにすりすりした上で、さっと栄次郎さんと並び立ち。


「夏海ちゃんにもだけど、感謝してるのよぉ? あなた達のおかげで」

「それならいいって。俺達も自分の好きに」

「栄ちゃんと結婚だしー♪」

「だしー♪」

『……はぁ!?』


とんでもない宣言を噛(か)ましてくれた……! しかも、揃(そろ)って僕達の前でキス!


「種族の壁」

「限界突破して」

「「乗り越えちゃった♪」」


いや、乗り越えちゃったって……その瞬間、もやしと夏みかんが僕達を見ていたのに気づき、さっと後ずさる。

そりゃあ孫としては平然とできないでしょ。何せ栄次郎さん……キバーラエンドだし! 愛に誰得はないって!?


「夏みかん、お前……あれをおばあちゃんって呼ぶんだぞ? 俺は嫌だけどな」

「わ、私だってさすがにー! ちょ、逃げないでください! 何とかしてください!」

「いや、それは御家族の話だから! 僕達、他人だから……ね!?」

≪お幸せにー!≫

「「はーい!」」

「待ってくださいー!」


追いかけてくる夏みかんを必死に交わしつつ、写真室を出る……前に。


「もやし」

「なんだよ」

「くたばるんじゃないよ」

「お前こそ、腹上死は数十年後に取っておけ。……もうひと暴れするんだろうが」

「もちろん」


言いたいことも言ったので退室! 締まらないけど、結婚問題に首を突っ込むよりはマシだぁぁぁぁぁぁぁぁ!

あれは無理! あれは対処できない! でも大丈夫……愛に国境はないって言うしね! 種族だって問題ないさー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


夏みかんは絶望していた。門出がいろんな意味で過剰となり、しかもじいさん達はLOVELOVE……俺もツッコまねぇからな。


「……士くん、いいんですか? かなりあっさり別れましたけど……というか、みんな揃(そろ)って逃げてぇ!」

「それは俺の問題じゃないだろ」

「問題ですよ! この二人とこれから一緒ですよ!?」

「……どうせすぐ会えるだろ。蒼チビにはもう一仕事残ってる」


それについては、考えたくなかった……! やべ、やっぱアイツら、引き戻すべきじゃ! さすがに耐えられないぞ!


「もう一仕事? あぁ、ついていた嘘をバラしてって言うのですか」

「違う。……俺達の前に最初出てきたハイパーダークカブトは、これからのアイツだ」

「いや、それはそうですよね。未来からきたって……あ!」

「そういうことだ。それに……あれだろ? 八神恭文って奴の世界でも、厄介なことが起こってる」

「それも、何とかするために……じゃあこれからが本番なんですね、彼は」

「だからお前ら、とっととついていけ」


なので思っていたことを率直に告げると、奴らが目を丸くする。


「蒼チビなら元の世界へ戻すこともできる。ついでに何とかなるだろ」

「士くん」

「ここはもらっていくがな」

「それは、駄目だよ?」

「そうです、駄目です。そんなの乗っ取りじゃないですか」

「馬鹿野郎! そうすればじいさん達に当てられずに済むだろ!」


すると夏みかんが笑いのツボ発動……! 避けられずに首裏を突かれ、笑いが止まらなくなってしまう。


「あははははははは! あーはははははははははは! お、お前……お前ー! どこまで、どこまでー!」

「どこまででもだよ。旅は人生だからねぇ。……というかそれだと、キバーラちゃんと新婚早々お別れじゃないか!」

「そうよ! 嫌だからね!? 早速単身赴任とか! 士ちゃんは鬼なの!? 悪魔なの!? やっぱり破壊者なの!?」

「二人とも黙っててくれますか!? ……とにかく、私もついていきます。だから」


すると夏みかんはもう一度ツボを突き。俺の笑いを唐突に止めやがった。……こんな真似(まね)もできたのかと、驚きおののいてしまう。

……夏みかんの奴は両手を後ろに回し、満面の笑みだって言うのにだ。


「士くんは、一人ぼっちにならなくていいんです」

「……物好きが」


お節介には感謝を伝えることもできず、つい背を向け、膝組みで座り直しちまう。……結局、俺はコイツらから離れられないわけか。

まぁそれもいいかと……そう思っていると、美しい音色が響いてきた。


「……なんだこの音」

「ヴァイオリン、ですか?」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ふと思い立って、ヴァイオリンを取り出し、奏でてみる。そう……キバの世界でゲットしたものです。

あれから練習は積み重ね、軽い作曲もできるようになりました。というわけで――。


「なぎ君?」

「ヤスフミ、どうしたのかな」

「いや、別れ際に音楽がないのも」


音をさっと調整した上で、演奏してみようと思います。


「ちょい寂しいと思ってね。自分で作ってみた」

「おま、作曲なんてできるのかよ!」

「暴君にコツを倣った。熱いパッションがあれば何とかなるって」

「少年……それ、無茶苦茶(むちゃくちゃ)」

「タイトルも決めたんだ」

≪えぇ≫


というわけで、聴いてもらおうか。――いつかまた、道が交わると信じて。


≪「Stay the Ride Alive」≫


こうして一つの旅は終わり、また新しい道が開かれる。

世界は清濁含めた可能性を進め、広げ、幾つもの出会いと別れを繰り返しながらも進む。

だから僕もまた、この世界で夢を描き、育てていこう。守りたい約束と、叶えたい夢はたくさんだ。


でも今は……旅立つ者達へ、せめてものエールを送る。そのために全力で、でも笑って楽しみながら、弦を弾き続ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ディケイドの扱いも決まり、僕も身体が元に戻って……一応でもお役御免。また日常へと戻っていく。

……今年もIMCS、出られなかったけどね! うぅ、悔しいー! でも来年こそは頑張るから!


「いや、今回はお疲れ様でしたー。スーパー大ショッカーの主要戦力が壊滅できたのは、君の功績が大きいですよー。
特に宇宙の眼とディケイドとの関連性を看破したのが大きかった。おかげで時の列車各車両への被害も最小限で済みましたしー」

「いえいえ、そこはロボライダーの活躍があればこそで」

≪あの人、本当にてつをでしたしねぇ。瞬間詠唱・処理能力より速いって≫


僕も修行が必要かと感じながら、駅長室でオーナーにお礼を……というか、チャーハンをご馳走(ちそう)されていた。うーん、ぱらぱらで美味(おい)しいー!


「……実はですね、宇宙の眼発見の功績を鑑みて、君に一つ打診が」

「なんでしょう」

「ターミナル職員として、我々と働いてみるつもりはありませんか? お給料ははずみますよー」

「ありません」

「おー!」


駅長、即答されたからってそんな……形相に驚かなくても。


「ちなみに、なぜでしょうかー」

「僕も自分の世界で……自分の時間で、叶(かな)えたい夢と果たしたい約束があるんです。それを置いて、他の時間なんて守れません」

≪結局今回のことに関わったのも、私達の邪魔で気に食わなかったから――それだけですしね。そういうのはあなた方にお任せします≫

「そうですかー。残念ですが……不思議と安心もしてしまいましたー。
ならば繋(つな)げてくださいー。君達の時間を、未来に」

≪「――はい!」≫


そう、僕達もまた旅人だった。だからまた、世界に住む一人として戦いを続けていく。

――そのおかげだろうか。僕の世界は――僕の夢は、ここから更に加速して広がっていく。


そうして僕も出会う。ずっと眠っていた自分の夢達と――最高の仲間達と、この世界で。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダブトの僕からミトラ・ゴレムを預かり、元の世界に送られてきた。……混迷する世界の中で、大事な夢達と一緒に。


「サソード……途中で変身が解除されるところまで、再現って」

「……ヤスフミ、もう忘れろよ」

「悪夢のような時間でしたね、あれは。……まさか怪人達がモーゼの十戒が如く別れ、道を開いてくれるとは」

「お前、やっぱり運が悪いんだな」

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ショウタロス達に言われて、つい頭をかきむしる。どういうことだ……どういうことだー!

つーか天道様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いや、サソードゼクターと引き合わせてくれたし、その辺りは幸運と言うか!


「……よし、これもいい思い出だ!」

「うぉい!?」

「それに……えへへー!」


さっとサソードヤイバーを取り出し、すりすり……はい、実はサソードヤイバー、そのままくれたの!

サソードゼクターもね、何かあるならいつでも呼んでーって……とっても可愛(かわい)かったー!


≪まぁいいじゃないですか。また面倒な状況になりますし≫

≪なのなの。主様、ジガン達はここからなの!≫

「だね! こうなったら完全勝利目指して頑張るぞー!」

≪えぇ≫


道はまだまだ困難……織斑一夏が敵に回った状況も変わらず。だからこそ気づいていなかった。

僕もこれから次々明かされる事実やら、横から茶々が入りまくりで混乱し、停滞することになるなんて。


でも、救いの神はいるもので――この戦いでの縁が、僕に道を示してくれる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……やっぱりあの『仮面ライダーの記憶』はあの場だけ。まぁあんな超必殺技、連発できたら大変か。

とにかく僕も無事に戻って……まぁ、それはそうと……なんだろうねー。


「海東、おのれ……なんで」


僕、海東と一緒に戻されたんだけど……! 縄を肩にかけ、重い荷物を引きずりながらも呆(あき)れてしまう。


「んー! んんんんんー! んー!」

「兄さんはいなかった。僕の宝は壊れたまま取り戻せない……が、お宝を探し続ける道は変わらないからね。
まずは手始めに、志村純一の詳細を調べようと思って。もしかしたら、どこかで」

「そう……なら橘さんにも相談しないと」

「んー! ……っぷはぁ! おい恭文! 解いてくれ! というか……人目がー!」


小うるさいので頭を蹴飛ばし。


「うご!?」


剣崎さんはしっかりと黙らせる。……はい、剣崎さんは文字通り引っ張っている最中。

じゃないと逃げられそうだし? なお逃げないという答えは無意味……タイムスカラベで逃げたからね、この人!


「でももやしに付いていなくていいの?」

「そんな必要は最初からなかったよ。……まぁ、お互い旅をする身だ。道がすれ違うこともあるだろう」

「確かにね」

「君はどうするんだい? 少年君」

「もちろん――」


……たるきビル前に差し掛かると、春香達が揃(そろ)って外に出て、出迎えていてくれた。

なお伊織は頭を抱え、だるま状態の剣崎さんを見て首振り。状況は察してくれたようで何よりだ。


「みんなと一緒に進んでいく」

「そうかい。……だが気をつけた方がいい。ウィザードメモリの能力は他の『毒』を呼び込むものだ」


すると海東は笑って手を振りながら、僕と一緒にみんなへ近づいていく。


「強力な魔法で、君自身が蝕(むしば)まれないようにね」

「それは、重々承知している」

「ならあのような魔法はもう控えるべきだ。人が使える領域じゃない」


そう……それこそがウィザードメモリが持つ、最大の危険性。もちろんドライバーを通すから、毒素は基本除去される。

でも≪ゴールドメモリ≫のように、それでも払いのけられない毒も……引き出す魔法≪記憶≫の強さによってはって話だ。


「心配してくれているんだ」

「いいや」


それも気をつけようと心がけながら、みんなの前に立ち。


「君も、誰かのお宝かもしれない……そういう話さ」

「……そうだね」


やよいや真美、亜美の抱擁をしっかり受け止め、心からの”ただいま”を伝えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの戦いから一週間が経過――うちらは何とか、ヒロリスさんのおかげで命を取り留め……いや、認めきれない要素はあるけど。

とにかくようやく……本当にようやく、ここへ戻ってこられた。


「ようやく、戻ってこられたなぁ」

「はやて、それはもう何回目」

「いや、ついなー」


機動六課隊舎――封鎖されていた関係でそのままやったから、設備関係も問題なく使える。

管理局は潰れておるから、今は代替警備組織(仮)の基地ってところやけど。とにかく隊舎は有志達によって、何とか運用されていた。


「でもよ、現状だと管理局は」

「事実上機能停止……いや、崩壊やな。上層部が乗っ取られて、その上でこれやし。
でもそやからこそ残っている人達と連携して、自警団的にでも動いていくよ。スーパー大ショッカーの後始末は、紅さん達がやってくれるやろうし」

「だな」

「ねぇ、あの……盛り上がってるところ悪いんだけど」

「ママ……というか、ヴィヴィオ的にも疑問がー」


するとなのはちゃんとヴィヴィオが、揃(そろ)って挙手――。


「どうしたなのはちゃん……あ、まさかライダー達を局に入れるとか言い出すんや」

「いや、さすがにそれは。でもそのライダー絡みなんだ。あのね」

「なんだよ、また改まって。はっきり言え、はっきり」

「リンディさん達、今どこにいるのかな」

「それにアルフも……ナカジマ三佐やフィアッセさん達も!」


……そこでうちらは……とんだ大問題を捨て置いていたと突きつけられた。


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


そ、そうや……みんなのこと、すっかり忘れてたぁ! あぁ、でも許して!? 現状で手一杯やったもん!

でもスーパー大ショッカーに捕まったとか、そういう形跡もないんよな! 会ったらとっくに分かっているはずやし!


ならどこ!? みんなはどこにいるん!? 教えて偉い人ー!


「それなら大丈夫だよ」


すると隊長室入り口が開き、さっと入ってくる……恭文!


「恭文!」

「別世界――フェイトとラブラブしている僕だけどねー」

「その自己紹介、頭がおかしくなりそうだからやめろ……! だが心配ないってのは」

「こっちの……おのれらが知っている僕が、”これから”みんなを助けに行くから」

「何だって!」

「なのでまぁ、ちょっとだけ待っててよ。すぐに戻ってくるから」


……それもまた、うちらの手が届かん領域ってことかぁ。まぁ、そう言うなら安心やろ。

まずは手が届くところから、少しずつやり直していこう。焦らず、一つ一つ……みんなと手を取り合いながら。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――流れる曲に耳を傾けながら、素直な気持ちで立ち上がる。


「まぁまぁじゃないか。俺の写真には負けるが」

「いや、士くんの写真と比べたら、さすがに可哀想(かわいそう)ですって」


また会える……またすれ違うこともあるだろう。これは一つの終わりだが、全てが終わるわけじゃない。

俺達の旅は続く。俺達の願いは、俺達の夢は――そうだな、次は夢を見つけよう。

俺の世界に誇れる夢を。叶(かな)えたいと思える夢を……だが奴らのように、可能性を踏みにじる真似(まね)はしない。


この世界のみんなが咲かせる花と、並べることができたら……そのとき俺は、また変わっていけると思う。


「旅立つ友への贈り物――そんな感じかねぇ。ねぇ、ハニー」

「ふふ、そうねーダーリン♪」

「そっちもやめてもらえます!? 私はおばあちゃんって認めませんからー!」


だから、いつも通りに鎖を掴(つか)む。それにキバーラの、じいさんの……夏みかんの手が重なり。


『せーの!』


俺達は新しい扉を開いた――これからも開き続ける。

止まることなく進む、この世界と一緒に。


(――とある魔導師と古き鉄と破壊者の旅路――おしまい)






あとがき


恭文「――というわけで、長い間お待たせしました! ディケイドクロス完結です!」


(大変だった……原作通りにしておけばと何度思ったことか)


恭文「なお、実はこの後ダブトの僕がどう動いていたかを示す、簡単なエピローグがあったんですけど……文量の関係で後日、別枠で回します」


(天道や他の面々の話も、盛り込めたらいいなぁと……まぁ軽い短編みたいな感じで)


古鉄≪そっちは私達もちょっとだけ絡みますしね。というわけでどうも、私です≫

恭文「蒼凪恭文です。……最初から破綻していたスーパー大ショッカーの支配。
でも、それゆえに士さんが”悪魔”である可能性もなくなった……かもしれなくて」

古鉄≪その答えを見つけるためにも、また旅をすることに。どこが……ではなく、全てを自分の世界とすることに決めた士さん……大丈夫ですよね≫

恭文「まぁ、スーパー大ショッカーみたいに同時干渉とかしない限りは」


(組織じゃなければ大丈夫ということで)


恭文「それでやっぱり起こってしまった、パーフェクトゼクターによるゼクター離脱……!」

古鉄≪乱戦のまっただ中にいるダブトのあなたが無理なら、天道さんに撃たせればいいじゃないというすばらしい発想。
それゆえに一蹴された億単位の戦力……ご苦労様でした≫


(それも第一陣にすぎないけど。……あ、ザンギャックにも同じ手でいけるな)


恭文「ほいほい使うものじゃないからね、あれ! いや、加減はできるんだけどさ!」


(攻撃範囲や威力ゆえに閉所や乱戦に不向きという欠点こそあるけど、それもタイフーンなり他の攻撃で対処できるから……万能兵器恐るべし)


恭文「うん、ほんとほいほい使うものじゃない……!」

古鉄≪あなたはどこまでも対個人に特化していきましょうか。……それはそうと、HGUC Zガンダムの新バージョンが発売されました≫

恭文「その前から入荷したってツイートもちょこちょこ見かけるね。まぁ僕はAmazonだけど。
ただZガンダムなら、ライトニングZやスクランブルとの互換性も気になるところ」

古鉄≪今回はガンプラ四十周年に向けた新プロジェクト絡みもありますし、某通販サイトに上げられていた説明書を見る限り、ガッツリというわけではない様子ですが≫

恭文「まぁまだ作ってもいないし、これからだね。だけどZと言えば、やっぱり劇場版でまた印象が変わった機体だよ。
新作画はガッツリ動いていたし、ビームコンフューズも出たし。スパロボなどのゲームでもどんどん反映されていったし」

古鉄≪旧HGUCはそういった変化の前に出たプラモですから、今回のは劇場版以降の印象も統合したもの……だと嬉しいですけど≫

恭文「それも作ってみてからだね!」


(携帯のカメラでいけるかなー、いけるかなー。いってみようー。
本日のED:GACKT『Stay the Ride Alive』)


あむ「ついにとま旅も終わりかぁ。思えば長かった……」

恭文「だねぇ。そしてその間に、IMCSに出場するタイミングを完全に逃して……!」

あむ「だ、だったねー。でも良太郎さんはよかったじゃん」

恭文「それはほんと、モモタロスさん達ともども安心したよ。やっぱりやろうって思ったときが始めどきで、一番集中できるしね。
……それはそうとZガンダムかぁ……放映当時は生まれてなかったんだけど、小さい頃にレンタルビデオで見て、大人になってからはバンダイチャンネルで」

あむ「あたしはアンタと関わって、ガンプラを作るようになってから……うん、やっぱバンダイチャンネルだ。
そう言えばBlu-rayって、もっと映像が奇麗なんだよね。比較動画が上がってたけど」

恭文「戦闘や話自体は今見ても遜色がないし、楽しいよー。劇場版もクセはあるけど……ゆかなさんが出ているし!」

あむ「うん、知ってる! もういい……そこはもういい!」

恭文「スパロボでもゆかなさんキャラがエース! 基本だよね!」

あむ「それは人それぞれじゃん!」


(おしまい)





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あきゅろす。
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