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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory64 『二代目対三代目』


そこで、足音が強く響く。……それはタツヤが、階段を踏み締めた音だった。

タツヤはそうして、一歩ずつ、ゆっくりとベースへ上がっていく。何の迷いもなく……胸を張って、堂々と。


「……ユウキ・タツヤよ」


メイジンは背を向け、ベースの反対側に回る。タツヤと同じ歩調で、確実に。


「どうやらお前と、バトルするべきときが来たようだ」

「……二代目メイジン、ありがとうございます。あれから……多くのファイターから学びました。
塾でジュリアン先輩が背負っていたもの……メイジンという名の重みも」


メイジンは認めたんだ。タツヤの今を……敗北を認め、強くなってきた歴史を。


「一年半前、僕は恭文さんとカイラ達に言われました。メイジンへの思いもなく、メイジンになる覚悟もないと。
だが今は違います。多くを知ってこそ、メイジンへの思いが……理想<三代目>の姿がある」


だからメイジンはタツヤと向き合い、その誇らしげな表情を見つめる。


「変わらず――この胸の中に!」

「タツヤ――!」

「……言葉などは不要」


そしてメイジンはマントを広げる。


「バトルで示せ!」


そこに収められていたのは、無数の工具と塗料……というか、エアブラシまで入っていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


メイジンはそれを素早く取り出し、的確に使い分け。


「はぁ!」


カテドラルを一瞬で調整完了――ヤスフミ仕様ではなく、自分の思い描く理想を形作った。

その勢いに、覇気に、誰もが威圧される。これが……本当に、死にかけていた人間の姿か。


だが、ついに始まるんだな。果たされなかった約束――タツヤにとって、越えるべきバトルが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……やっちゃん、あのおじさん……何者?」

「腕が千手観音みたいに生えてたんだけど。というか、え……工具? あれ、すっごい重いんじゃ」

「プラモ狂四郎ではよくあることです」

≪世代でしょ、あなた達≫

「「……だよねー」」


……恭文さん、相変わらずだなぁ。しかも鷹山・大下両刑事と一緒にいると、とても楽しげで……それがほほ笑ましいというか。

いつも通りのおどけた口調には、とても励まされる。


「タツヤ、アンタもアレ……やらないと。マントから工具を出して、しゅーって」

「ですです。じゃないとメイジンになれないのですよ」

「が、頑張ります……え、マント? ボックスじゃなくて」

『マント』


鷹山刑事達も同意見かー! うわぁ、辛(つら)い……これがメイジンというものか!


「というかその、ランスターさんはなぜ」

「唐突に呼び出されたからよ……! リニアレールが開通していてよかったわ」

「す、すみません……」


聖夜市からリニアレールですっ飛ばしてきたのかー! 交通費もそれなりだろうに!

あぁ、呼び出した人≪恭文さん≫が軽く肘打ちされている! すみませんすみません! 何か本当にすみません!


「だからマントよ」

「だからですか!」

「どうする、ユウキ・タツヤ……楽しいガンプラが泣いているぞ」

「二代目!? ……では僕も……マントはありませんが」


そう言いながら、恭文さんから預かったケースを展開。


「――はぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


工具ボックスから取り出した資材や工具を使い、中に入っていたガンプラを一瞬で調整……完了!


「はぁ!」

「……作業はほぼないだろうが。馬鹿者」


そ、それは言わないでほしい……思っていたよりもこう、僕の調整に寄せてくれていて!

というか、二代目にだけは言われたくない! あなたも煽(あお)りましたよね! その口で煽(あお)りましたよね!


「……タツヤ、恥ずかしくないのかい?」

「しー!」

「しかし、”それ”を使うのか。別によいのだぞ……ケンプファーアメイジングだろうと、新機体だろうと」


……さすがは二代目。新機体についても既に御存じか。だが問題ないと、髪をなで上げる。


「問題ありません。相手の能力を全て引き出し、それを受けてなお勝つ。三代目としての道を指し示すガンプラ――」


調整完了した愛機を手に取り、ベースへと置く。


「ザクアメイジングがお相手します!」


そう。恭文さんに預けていたザクアメイジングだ。自分仕様に弄(いじ)っているかと思いきや、あのときのセッティングを再現していた。

それもほぼ完璧に……だから付け加えたのは『今』のエッセンス。


三代目メイジンとして世界の舞台で戦い。

二代目の偉大さと、メイジンという道のりの重さを感じ取った今――。

カテドラルを前にして、今一度ユウキ・タツヤ個人として燃え上がるためのエッセンス。


思えばこのときをずっと望んでいた。

トオルと再会したときの僕では、間違いなくあの一歩は踏み出せなかっただろう。


「僕が望むのは、誰もが楽しいと思えるガンプラです。
戦っている人はもちろん、見ている人も……ガンプラに関わる者全てが楽しいと思える――」


だが世界大会で数々の強敵と戦い、ジュリアン先輩と、レナート兄弟と戦い、一つの確信を得た。

もしも二代目とのバトルが実現するなら……その確信を、笑ってメイジンにぶつける。


「それは名人、あなたも例外ではない!」


僕はあなたを否定したいわけでもない。

反面教師とも言ったことはあるが、それとて正確ではなかった。

まず一つ、僕はあなたと超えたかった。あなたを超えるメイジンになりたかった。


この胸に燃え上がる意志の炎は、そのための道筋を探し続けていた。それを今、ようやく見つけた。

勝利のみを追い求める修羅とすら、お互いに楽しめるバトルができるなら……!


メイジンは表情を変えることなく、病魔と闘っていたとは思えないほどハッキリした声で、この空間全体に声を響き渡らせる。


「……よかろう、ならばお前の顔を立ててやろう。隠れて見ている者達よ」


隠れて……!? その言葉で慌てて周囲を見やると。


「バトルを見よ!」


次々と人の気配が登場。しかもそれは、僕のよく知る人達ばかりだった。


「カイラ……トオル!」

「「よぉ!」」

「ヤナ、それにジュリアン先輩達も!」

「会長ー!」


あ、うん……ゴンダ君は分かってる! アピールしなくても君、すっごい目立ってるからね!

その隣にはイオリ君とレイジ君、コウサカ君もいて、更にガンプラ塾で知り合ったみんなもいた。

更にあむちゃん達元聖夜小ガーディアンも、そのしゅごキャラ達と一緒に勢ぞろいだ。


「あらま、あむ! 唯世達も……というか、春香達まで!」

「面白そうなイベントがあるから、ちょっと予定をすっ飛ばしてきちゃったよ」

「天海さん達とは途中で合流したんだ。でも高木社長もなんて」

「いやいや、ユウキくんの一大決戦と聞いたからねぇ。どうしても見ておきたかったんだよ」

「これで暫定三代目じゃなくなりますしねー。……タツヤくんー、頑張ってねー」

「あずささんに全力の応援……タツヤ、負けたらお仕置き」

「理不尽でしょ、それ……!」


その中から飛び出し、さっと恭文さんの脇に付くのはセシリア……あ、うん。それは知っていた。

あと、ガンプラ塾とかは関係ない人もいて……!


「ユウキ会長ー!」

「島村くん! というか、CPのみなさんもなぜ!」

「……アダムスさんに呼び出されまして」

「というより、あの人が……かな」


そう言いながら渋谷さんと武内さんが見やるのは、二代目だった。その二代目の背後をよく見ると……!


「マクガバン先生!」


そう、マクガバン先生がいた。懐かしき教師ルックで、こちらに会釈――。

なるほど、今だけは……ガンプラ塾講師としているのですね。バトルの見届け、感謝します。


「エレオノーラ先生! 頼まれた通り、医療キットは準備できました! ……あ、恭文さんー!」


そうして大きな声を出した少女は、先生のげんこつを受けて停止。


「痛いー!」

「アイ……あなたの声が大きいのは、いいことだと思うの。でも今は、空気を読んで……ね!?」

「そ、そうですね。とにかくPPSE社のスタッフさんも手伝ってくれたので、準備は大丈夫ですけど」

「でもちょっと、不安?」


そう、876プロの日高愛さん、秋月涼君、水谷絵理さんも来ていた。

マクガバン先生は現在、876プロのガンプラプロデューサーとして働いているからね。その流れか……!


「愛! 絵理に涼も……アンタ達まで来てたんだ!」

「あ、ティアナさ……さーん」

「来ちゃった? でも二代目メイジン、お医者さんから言われた通り、”危ない”と判断したらこっちで止めますから」

「僕達も先生と同じく監督役である以上、そこだけは譲れません。それで」

「問題はない」


メイジンは自分を心配する三人に、強く……孤高の在り方を背中で示し、断言する。


「後輩候補相手に、そう気張る必要もあるまい。……なぜこの者達を呼びつけたか、意味は分かるな……ユウキ・タツヤ」

「……みんながどう思うかで、僕の道が定まる」

「その通りだ」


僕がみんなを楽しませることができなければ、二代目とも楽しいバトルができなければ……か。

確かに壁は険しい。しかし、これ以上に今の僕を定める壁もありえないだろう。

恐れることはない。全力で答えをぶつけよう……今まで培い、これからも貫こうと決めたその答えを。


心は滾(たぎ)る。どこまでも熱く、激しく滾(たぎ)る。今”私”は、燃え上がっていた……だがもっとだ!


「さぁ」


――粒子の力が満ちていく。そうしてまた、フィールドが形成され。


≪BATTLE START≫

「「バトル開始だ――!」」


ずっと待ち望んでいた――メイジン決定戦が、始まりを告げた。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory64 『二代目対三代目』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フィールドは穏やかな平原。緩やかな山が立ち上る世界だったはずです。

でもザクアメイジングが……いいえ、カテドラルがフィールドに降り立った途端、大地が鳴動する。

ただ存在しているだけで、大地に無数のひび割れが走る。まるで血流のように開いたそれから熱が……赤い熱がゆらりと吹き上がり始める。


マグマという熱は糸を引き、粘着性を感じさせる動きで揺らめき、空へと昇る。

大地の血流から漏れた無数の岩もそれに続き、穏やかな世界は地獄を思わせる風貌になってしまった。

地獄とは何か。それは悪いことをした死者が苦しむ場所? いいえ、違います。


地獄とは……生命の生存を、営みを許さない原初の世界。カテドラルは今、世界を我が手にしていて……!


「何、これ……ううん、莉嘉達は知ってる!」

『何というプレッシャー……フィールドが鳴動している!』


ザクアメイジングはハンドガンを取りだし、揺らめくマグマをすり抜けながら射撃。


『だが負けん!』


それに対し、カテドラルは腕組みしたまま……僅かに、ほんの僅かに右手を軽く挙げる。

それだけでマグマが軌道を変え、最小限の動きで弾丸を受け止め防御した。作り込まれた弾丸は容易(たやす)く溶かされて……!


「恭文くんもやっていたフィールド粒子の制御ね。でも、この熱と赤は……!」

「恭文さん、以上……」


はた目には同じに見える。でも、違う。恭文さんのが見様見真似(まね)の児戯に見える。その感覚に強烈な寒気を覚えた。


「あれが、二代目が言っていたカテドラルの本領……! まだ底があったんだ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それも当然のことだ。そもそもカテドラルの性能は強いというより”広い”」

「……確かにね」


ティアナもカテドラルを使ったことがあるから、そのときのことを思い出している様子。……僕と一緒に、腰を抜かしたときを。


「やっちゃん、ティアナちゃん、そりゃあ」

「カテドラルの持ち味は、強力な武装や作り込みじゃありません。……人間の動きを極限まで再現した可動域。
これによりファイターの性格や技量、及び癖すらバトルに反映する特性があります」

「ようは使い方次第ってことです。そのために武装も比較的シンプルにしているんです。
問題はそのダイレクトさゆえに、ファイターの技量が未熟だと弱体化すること。現に私と、最初に使ったときのコイツは……」

≪私達も面食らいましたよ≫

「あらら、そりゃあまた……」

「確かに”強い機体”という認識は間違っているな。座はファイターの姿を映す鏡であり、そこに嘘はつけないと」


銃器という”もう一つの相棒”を片手に走り続けてきた、鷹山さん達も納得する特性。だからまぁ、僕もいろいろ突きつけられているわけで。


「じゃあ俺とユージの見立ては間違いではないわけか。……今のカテドラルは、お前が第八ピリオドで使っていたときより……強い」

「それはつまり、中の人であるやっちゃんと二代目の性能差ってわけね」

「悔しいですけどその通りです」


そう、それこそがメイジンの言ったことに直結する。制作者としてカテドラルを知り尽くしている二代目と僕とじゃ、どうしても練度に差がある。

何より”アレ”も僕向きじゃないから、今まで出していないからなぁ。そういう点からも厳しく叱ってきたわけだ。

向いていないのが分かっているなら、とっとと改造しろってね。ほんと腹の立つおっちゃんだ。


「ところでアラン、ジオさんは」

「連絡したんだが、来ていないんだ……」

「そう。PPSE社の方は問題ないんだね」

「万が一に備えて、ギャラリーも呼んでいる。君もいざというときは頼む」

「了解」


どっかで見ているとは思うけど、それが妙に引っかかった。いや、今はタツヤのバトルに集中しよう。

もしジオさんがいないとしたら、その理由は……恐らく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ちまちまやっていても通用しないか……! ならばとハンドガンをしまい、ミサイルポッドからミサイル十六連射。

檻(おり)のようにひしめくマグマを撃ち抜き、爆風で散らし……その隙間を。


「紅の彗星≪ハイマニューバ≫」


紅の彗星で突き抜ける――! 当然こちらの動きを追尾するものもいるが、全て速度で振り払う!


『サイコフレームの力なしで、紅化を引き起こすほど作り込んだか。だが突進力だけの技など』


なので左へバレルロール。瞬間的なGに視界が歪(ゆが)む中、左でナタを抜刀し……紅化を消さないまま右薙一線!


『……!』

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



だがその瞬間、カテドラルは残像となって消失。更にマグマ達がこちらを絡め取ろうとするので、もう一回転しながら加速。

右のナタも抜刀した上で、熱の糸は切り払って上昇……あまねく星の世界へ突き抜ける、白銀の座を追い立てる。

その上で回転しながらの右薙一戦……メイジンはリアスカートからビームロングダガーを抜刀し、刃を発振。


刹那の差でこちらの刃を受け止め、つばぜり合い……いや、遊ばれている気分だ。メイジンはただ逆手に持っているだけ。

それだけでこちらの……渾身(こんしん)の一撃を容易(たやす)く裁いてくる。


もちろんそこで止まらず再加速。円の動きを組み込みながら、カテドラルとともに空を切り裂き、刃を叩(たた)きつける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「す、すげぇ……」


思わず呟(つぶや)いてしまっていた。紅の彗星にも弱点があるのは、アイツも分かっていたこと……改善くらいはするとは思っていたんだが。


「円の動きで≪紅の彗星≫を通常のマニューバに組み込んで、メイジンの動きに追従してやがる」

「あぁ! マジで通常の三倍……紅のザクだぜ!」


確かにこりゃあ……ヤスフミ、お前には悪いがメイジンの方が上だ。お前、”アレ”を児戯みたいに捌(さば)けるか……!?


「いや、それだけじゃないな」


トオルは目も眩(くら)むような衝突と高機動の繰り返しを、輝く瞳で見つめ続けていた。好きなものが好きなのは、今も変わらずで安心だ。


「あぁ、確かにな……! 今までも強かったけど、何というか捕らわれた感じがしていた。だが今のタツヤにはそれがない」

「何に捕らわれていたか……まぁ、その答えは決まってるよな。俺も一因でもあるし」


タツヤはメイジンになると決めた。覚悟もなく得てしまった権利から逃げず、新しい道を探そうとした。

そうしてもがいて、もがいて、もがいて……それがタツヤを捕らえていたものであり、ソメヤ・ショウキの件で犯した凡ミスにも繋(つな)がる。

だがタツヤ、お前は答えをちゃんと見つけたんだな。メイジンになって何をしたいか、そのための道筋を――。


どうしたらみんなの三代目≪ヒーロー≫になれるか……いや、どんなヒーローになって、世界に何をぶつけたいか!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


突然アランさんから呼び出されたと思ったら、知っている人や知らない人も交えてのバトル観戦。

しかもカードは、ユウキ先輩と倒れたはずの二代目……! というか、ようやく納得できたよ!

カテドラルが二代目の作ったものなら、あれだけの性能も納得がいく! でも、それに追従しているユウキ先輩も凄(すご)い……!


紅の彗星も更に速く、鋭くなっている! ジュリアン・マッケンジーさんとの高機動戦闘も加味されているのか!


「イ、イオリくん……あの二代目さん、本当に強いんだね」

「当たり前だよ! ガンプラバトルのブームを牽引(けんいん)した、偉大なる先達だよ!?
しかも公式大会からは殿堂入りして手を引いているし……うぅ、感動だー!」

「でも、何よ……あのガンプラ」


アイラさんもノリで付いてきたんだけど、カテドラルを見て……正確にはそれが放出する粒子を見て、戦慄し通しだった。


「動きが全然読めない……!」

「お前の力でもか?」

「ただ存在しているだけで、とんでもない波動をまき散らしてるのよ。ヤスフミが使っていたときはそこまでじゃなかったのに」


……そしてある意味フルボッコ状態な恭文さん……! あぁ、でも……ごめんなさい! これについては許してください!

だってほら、ここまでカテドラルを使っていたのは恭文さんでしょ!? どうしても比較対象として……ね!?


「でも、そういう性能の関係だけじゃないのよね」


そう言いながらアイラさんが……僕達が見るのは、ユウキ先輩の顔。


「……確かにね」

「ユウキ会長、楽しそう」


ユウキ先輩は笑っていた。真の三代目となる襲名式も同然なのに……楽しんでいるんだよ、この大一番を!

……でも、楽しんでいるのは先輩だけじゃない。メイジンも無表情だけど、厳しく見えるけど……本当は。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ちくしょお……おじさんと暫定三代目とのバトル、直接見たかった! だが駄目だ……駄目なんだ、ジオウ!


「ジオ……ぶつぶつうるさい。せっかく見張ってるのに」

「しー!」

「うるさいって言ったのはナターリアダヨ!?」


というわけでナターリア共々、施設近くで警備に当たっている。試合映像はここのシステムを経由して、携帯でチェックしているが……くぅー!

だがおじさんの復活と最終試験を、PPSEに横入りされても面倒だ。ここは……全力で阻止する!


……まぁ、アラン・アダムスの情報管理がパーペキなのか、人どころか猫一匹寄りつかないけどな!


「でもジオ、よかったネ。おじさん、元気そう」

「今にもぶっ倒れそうだけどな。つーか……馬鹿だよ。それでもまだ戦うってのか」


ユウキ・タツヤが駄目なら、まだ目標として立ち続けるだろう。それが使命で死に場所と言わんばかりに……その姿を想像して、つい唇を噛(か)む。


「そうかな。ナターリアは楽しそうに見える」

「楽しそう?」

「きっと、約束を守れたのが嬉(うれ)しい。……前に行った、お寿司(すし)のタイショーが言ってた」


お寿司(すし)……あぁ、お前は日本(にほん)の寿司(すし)が好きだもんなぁ。地元の店にもちょくちょく行って……。


「師匠……センダイを超えるの、とっても大変。同じことができても駄目。どこか、師匠を超えるところがないと認められないッテ」


だが、その言葉で脳天をぶち抜かれる。……改めて……暫定三代目が吐いた啖呵(たんか)を思い出していた。


「三代目、二代目を否定するんじゃなくて、超えるって宣言シタ。強いだけじゃなくて、楽しさを振りまいて超えるッテ。
自分の名前、自分の背負ってきた重さ、逃げずに受け止めるって……そう言われて、ウレシソウ」

「おじさんを、超える……」


あぁ、そうか。

おじさんはやっぱり、ちゃんと託せる種を見つけられたんだな。

俺があれこれやきもきする必要はなかった。だからこの場に立っているんだ。


その種が芽吹き、どれほど成長したかを見定めるために。それもまた、壁≪先代≫の努めだから。

苦しみだけじゃなかった。身を削るような痛みだけじゃなかった。


おじさんにも追い求める理想があって、そのために戦い続けていた。……それだけは、間違いじゃなかったんだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『ぬぅん!』

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


カテドラルは距離を取り、バスターライフルで砲撃。それを左の肩アーマーで防御……リアクティブアーマーが爆散し、そのダメージを軽減する。


「メイジン」


ミサイルとハンドガンでフルバーストするも、カテドラルは直立姿勢のまま分身……そう思わせるほどの高機動で容易(たやす)く回避する。

しかしジッとしていてもマグマビットで捕まるため、紅の彗星で振り払い、回転運動による急速方向転換で走る……走る……走る!


「僕は塾を出て一年半、考えてきました。メイジンとはなんなのかを」


四方八方、三次元からの攻撃を容易(たやす)く予測し、カテドラルは爆炎の中……傷一つ追うことなく、そのボディを輝かせ続ける。


「メイジンとは良くも悪くも、ビルドファイターズ達の道しるべ! みんなが憧れ目指す偶像≪アイドル≫!
あなたは『強さ』という、誰もが分かりやすい道しるべを立て、ガンプラバトルを盛り立ててきた」


だがその機動が突如遮られる。マグマのツルが前方に大量展開。

ハンドガンをしまい、両刃(りょうば)での回転斬りで振り払うが、カテドラルが右手をかざすだけで再構築される。


「……ならば『楽しいガンプラ』を標榜(ひょうぼう)する僕は……三代目≪私≫は何をすればいいのか!
迷っていました……あなたが言うように間違えもしました。そして一つだけ分かったことがある」


ちぎれたはずの線維が伸び、繋(つな)がれ直し、ザクアメイジングを縛り付け、更に圧殺しようと覆い始める。


「楽しさとは、誰かに押しつけられるものではなく」


僕はソメヤ・ショウキの件で、彼に楽しさを押しつけていた。それは紛(まぎ)れもない失策だった。


「自らの内から自(おの)ずとわき出すものだった」


だがその失敗を踏まえたからこそ、レナート兄弟の『作り込み』にはただただ感動を覚えた。

彼らの戦い方はガンダム作品への、ガンプラへの愛と努力がにじみ出ていたからだ。そう……楽しさとはそれぞれに違うものだ。

それを引き出すことは難しい。同じガンプラを作るにしても、ゴール地点すら違うんだ。



素組みで満足する者。

ちょっとした塗装や合わせ目消しで完成とする者。

更なる工作を加え、理想の形を作る者――。


その全てが等しい答えであり、正しい道だ。その人なりの遊び方に、楽しみ方に、不正解などは存在しない。

それが誰かの楽しさを、自由と道理を阻害しない限りは――ならば。


「ならば、やるべきことは一つ。誰よりも三代目≪私≫がガンプラを楽しむこと……そう」


目を開き、リアスカートのロングライフルに手を伸ばす。


「おのれが楽しまぬ者に、楽しさを伝えることはできない! これは」


自らを戒める檻(おり)を払うように、強引に展開し……発射!

トリガーを引いた瞬間、その衝撃で熱の檻(おり)をぶち破り、弾丸はキロ単位を瞬間的に突き抜け、カテドラルに迫る。


「そのための力だ!」


音よりも速く迫る砲弾を、カテドラルはシールドで防御。……だが使わせた……回避の先を捉え、メイジンに守(まも)りを取らせた!

その手ごたえをかみ締め、しかし油断せずに更なる闘争を待ち構えていると。


『……なるほどな。それがお前の得た答え――お前の力か』


するとカテドラルはそのシールドを上空へ放り投げる。


『ならば、その強さで受け止めてみせよ』


更にその左手でロングダガー二本を、右手でバスターライフルも投てき。

するとバックパックのV字型ウイングがパージされ、それらのパーツと合体――。


シールドは機首、バックパックは胴体であり翼。バスターライフルはその下部に備えられた砲門となる。


更にバスターライフルの最後尾に、ロングダガー二本がV字で突き立てられる。


「ブースター……!」

『一撃必殺――強さこそ絶対。私の思想、その全てを込めた技を――』


だがそれは、ただのブースターではなかった。慌ててコンソールを叩(たた)き、あの『武装』をチェック。

ロングダガーからビームが走り、翼の先端部に接続。メイジンはその武装を、まるで弓のように構えた。


そこで遅ればせながら気づく。あの走るビームは『弦』だったのだと。


こちらに向けられた砲門……その前面を始点に、フィールド中の粒子が集束していく。

渦巻く光は瞬く間にカテドラルの姿を飲み込み、輝きを放つ。数十……いや、数百メートルに近い大きさのそれは。


――まさしく、夜空を照らす月そのものだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ先輩がマグマビットを払い、防御を取らせた……そう思っていたら……!


「な……なにあれぇ! イオリくん!」

「き、機体の粒子どころか、周囲の粒子まで圧縮した粒子砲だってぇ!
馬鹿な、モビルスーツ単体でここまでの出力が出せるなんて!」

『自らの言葉に矛盾があることすら気づかないのか? イオリ・タケシの息子よ』

「……!」


二代目の言葉に血の気が引いてしまう。僕のことも知って……いや、当然ですよね。

あなたは第二回世界大会で、父さんと決勝戦で戦った人だ……! それに、あなたの言う通りだ。


「セイ、どういうことだ。あんなのスタービルドストライクでも」

「無理だ。あれの根底にあるのは、カテドラルの高度な粒子制御能力――。
バトルで散らされた機体粒子も活用して、月そのものを構築している」

「バトルで、散らされた? イオリくん、もうちょっと分かりやすく」

「例えばビームサーベルの刀身、例えばビームライフルの弾丸などは、変質した粒子の塊。
それが散るってことは、”攻撃のために変質した粒子が残っている”とも言えるわけで……!」

「……単純にフィールドの建造物だけじゃなくて、それもかき集めて転用してるってこと!?」

「セイの言う通りよ。あのおじ様、世界そのものを手にしている――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「これは、驚きましたわ。フィールド粒子を吸収しての攻撃なら、あなたが地区予選二回戦で戦ったキリエさんのスラッシャーがいますが」

「もっと精密となれば、もはや集束砲撃≪ブレイカー≫の類いね」


ティアナも僕と一緒にカテドラルを調べたから、あの技については知っていた。それなのに……にもかかわらず、冷や汗を流している。

山々とマグマ達を削り、糧として作り出された月は、半物質化したまま、タツヤに放たれようとしていた。

そうだ、あれの発想は正しく集束砲撃……なのはのブレイカーだよ。メイジンは勝利を追い求める中で、その極地にたどり着いていた。


まぁさすがの魔王でも、星そのものの形成は無理だと思うけどね……!


「あれは機体出力も関係ないわ。周囲に粒子さえあれば、カテドラルの制御能力さえあれば、たとえ半壊状態だろうとブッパできる」

「正真正銘の分かりやすい切り札ってわけか。蒼凪、お前は」

「知っていました。でも、僕は使わなかった……」


そう、使えなかったのではなく、使わなかった。確かに集束砲撃は強力なものだ。でも――。


『それもまた賢明だ』


二代目は”月”をタツヤに向けたまま、また静かに語り出す。


「そりゃどういうことかな。二代目さん……俺とタカは素人だから、ちょーっと解説してくれると」

『小僧のバトルはどこまでもミニマム――月花繚乱と瞬・極(またたき・きわみ)のように、精密な制御と圧縮が本領。
それがリアルでの戦闘経験を活(い)かすマニューバに繋(つな)がっている。だが対個人……単体に特化しているとも言える』

『だから、恭文さんにカテドラルは合わない……少なくとも”それ”を最強とする形では本領を発揮できないんです』

『だがその制御能力ゆえに、この月を完璧な形で撃つことはできるだろう。それがまた悩みどころだ』


そこまで見抜いてくれますか……! うん、撃てるよ。僕でもあのレベルではね。

粒子圧縮の制御と維持が難しいけど、それも僕の専門ではあるから。ただ……元々の戦闘スタイルには合わない。

それは集束斬撃≪スターライトブレード≫にも言えることだけどさ。あっちはあっちで、自動落下集束とかで補っている。


そう……僕が自分の戦闘スタイルを貫いた上で”あれだけ”やるなら、そもそも武装から練り直す必要があるのよ。

そういう意味での『合わない』と理解して、大下さんも困った様子で頭をかく。


「難しいもんだなぁ、ガンプラバトルも」

「……蒼凪君、強く生きようね? 僕達、応援してるから」

「大丈夫大丈夫! フィアッセさんも、フェイトちゃん達もいるだろ!? ケセラセラー!」

「慰めるなぁ!」


いや、確かに今回、僕はメイジンとの対比でフルボッコだよ!? でも慰めるのはやめて! 分かってる! ちゃんと分かってるからー!



『私の思想を、戦いも知らぬゆえの浅知恵と捉えるか。小僧の経験を、発想を縛る枷と捉えるか……その判断はお前達に任せよう』

≪さて……あなた、これをどう読みます?≫

「メイジンもパフォーマーってことでしょ」

≪ですね≫

≪どういうことなの?≫


今日のメイジンはいろいろお喋(しゃべ)りらしい。いや、後輩のためにお膳立てを整えているってことかな?

これはタツヤに対しての挑発であり、みんなへの解説だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


月そのものをぶつけるという規格外の攻撃。

そして恭文さんがカテドラルを使いこなせないのは、技との相性……ようは元々の戦闘スタイルと合わないから。

それでは最強の技も最大効果では……カテドラルの動きや戦い方はプレーンだけど、あれだけは違う。


いや、同じなんでしょうか。自身の技量を百パーセント生かせる体に、分かりやすい最強の必殺技……これが、強さの体現者が示した答え。

その輝きに誰もが圧倒され、その無駄とも思える語りに誰もが聞き入っていた。


だから、誰もが感じ取っていた。少なくとも私やプロデューサーさんは。


「あ、あんなのどうやって……!」

「普通なら避けるのが定石なんだろうけど。紅の彗星ならギリギリで」

「あ、そうだね! それで反撃だー!」

「でも避けない……いや、避けることは負けも同然だ」

『えぇ!?』


杏ちゃんの言葉に、智絵里ちゃん達は驚き……恐れながらあの月を見上げる。


「プロデューサーも気づいているよね」

「……蒼凪さんやイオリさんに語りかけていたところから」

「Pくん、どういうことなの!? きらりも避けた方がいいって思うのに!」

「二代目はあの攻撃を、自らの思想と表現しました。そしてユウキさんは、その二代目を超えるためにバトルしていますから」

「……あのお月様を何とかしないと、三代目って認められないの!?」

「はい」

「二代目は杏達≪ギャラリー≫を巻き込み、語りかけることで迫っているわけだ。……言葉を嘘にしたくないなら、対処してみせろってね」


プロデューサーさんと杏ちゃんの解説で、みんながまた月を恐れ、一歩引く。

自分達なら……そう考えて、避けるしか思いつかないから余計に。それは私も変わりません……!


「もう、あとはユウキ会長を信じて、見守るしかないんですね」

「そうなるね」

「卯月」

「大丈夫です」


そうです。ユウキ会長もそこは分かっている。それで――。


「会長、笑っていますから」

「……確かにね」

「逃げも封じられて、真っ向勝負しかないってのに……なんであんなに楽しそうなんだろー」


凛ちゃんも、未央ちゃんも、肩の力を抜いて呆(あき)れていました。でも……私は分かります。

……これを超えたら、すっごく面白いんじゃないかって……!


そう確信したところで、二代目の声が響く。


『フルムーン――スプリームアロー』


地表で作られた”月”は、静かに動く……しかし攻撃としての速度は維持して、ザクアメイジングに迫っていた。

『ならば――!』


するとザクアメイジングは両肩、両太ももの装甲をパージ。軽装状態となった上で反転し、紅の彗星発動――。


「ちょ、逃げたにゃあ! Pちゃん、話と違うよ!?」

「いえ、月の矢はあれより速い……進行方向に逃げては、いずれ捕まります!」

「しかも武装もナタ以外パージしての軽装状態。どうするつもりだろうねぇ」

「ユウキ会長――!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


感謝していた。

二代目に、心から感謝していた。同時に申し訳なさも感じていた。


僕のために、ここまで本気を出してくれたこと。

僕のために、ここまで待っていてくれたこと。

その全てが衝撃となって胸の内で暴れ、更なる炎として燃え上がる。


だからこそ逃げることはできない。だからこそ迎え撃たなくてはならない……いや、迎え撃ちたい。

これはあの人が生涯を掛けて追い求め、命を削って放った星の輝き。あの人が追いかけた夢そのもの。

何があろうと、何と言われようと自らの道を貫き続けた末の極地。若輩者足る僕が受け止めるには役者不足だろうが、それでも今の全てを叩(たた)きつける。


だから加速する……限界まで。いや、限界のその先へと突き抜ける。相手が星ならば、僕もまた一筋の彗星(すいせい)となろう。

ザクアメイジングには残念ながら、ここまでの粒子砲撃を放つことはできない。そもそも実弾兵器が中心だし。

しかし、それでも鍛え抜いた輝きがある。超機動により周囲の粒子を圧縮し、フィールドとして纏う紅の彗星が。


彗星(すいせい)が、月を迎え撃てるか……狙うはただ一点。迷いを見せず、脇目も振らず、右手の刃に全てを賭ける。


「――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


圧縮粒子のフィールドが更に研ぎ澄まされ、もう少しで月に追いつかれる……その刹那。


「はぁ!」


回転運動――! バレルロールで巨大なる月と向き合い、ナタでの逆風一閃!

当然一朝一夕に払えるものでもない。刃とザクアメイジングは月の余波をまともに受け、その衝撃から各所に火花を走らせる。


アームレイカーもなまりのように重い。機体もさほど持たない……だが……だが……!


「う……!」


機体が上げている悲鳴が、私の体にも……心にも伝わる。済まない、ザクアメイジング……直してもらったばかりなのに、無理をさせて。

だが付き合ってほしい。お前と一緒に……焦がれ、それゆえに否定し、なかなか向き合えなかったあの人に、見せつけたいんだ。


もう私は逃げない。

もう私は止まらない。

彗星(すいせい)のように……鋭く、突き抜け続けると!


「おおおおおおおおおおおおおおおお!」


アームレイカーを力一杯に……機体の悲鳴に耳を傾けながらも、無理のないよう押し込む。

一ミリ進めば、二ミリ押し返される。それでもすぐに引いた一ミリを埋める。そんなせめぎ合いを果てしなく続ける。

ちょっとでも、一かけらでも軋(きし)み続ける心がひび割れれば、あっという間に飲み込まれる巨大な月。


あの人が追い求めた輝き……しかし、そこに刻まれた……刻んだ亀裂を広げるように。


「あああああああああああああああああああああ!」


アームレイカーを、もう一ミリ押し込む――!


その瞬間、手元がふと軽くなった。

最初はやりきったという達成感が襲い、次の瞬間『まさか』という思いにも囚(とら)われた。

しかし、目の前の光景が現実を示してくれる。


最初に見えたのは、月に隠れていたカテドラルの姿。

両サイドのカメラからは、音よりも速く突き抜ける『半月』二つ。

巨大な月はそのままフィールドの際に衝突し、そのまま全てが霧散する。


後に残されたのは……命を絞りとられた荒野と、我々だけだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最初は誰もがその結果を信じられなかった。

僕も、アルトも、ティアナも……あのメイジンですら目をパチクリさせた。


でも大破寸前のザクアメイジングが、消えた月が全てを示していた。だから、次に起こったのは。


「月を……真っ二つにしやがった……!」

「凄(すご)いな、ガンプラバトル!」


唖然(あぜん)としながらも、感動した様子の声……ガンプラバトル未経験な、大下さんと鷹山さんの声だった。

それでみんなも現実を理解し、拍手と歓声が巻き起こる。


「そうだ、すげぇ! すげぇぞ、タツヤー!」

「会長、最高ですー!」

「タツヤさん、かっこいいよー!」


その歓声に加わりかけたものの、つい止まってさっきの行動を分析。メイジンも冷や汗を流しながら、同じように思案していた。


「恭文さん、今の……どうやったですか!? 砲撃斬りって恭文さんとヘイハチさん達の得意技ですよね!」

「原理は全く違うよ。……まずタツヤが同じ方向に逃げたのは……相対速度を殺し、月の進行によって粒子減衰を促したからだ。
更に紅化の粒子圧縮フィールドを極限まで高め、その身を守った」

「あ……それで!」

「かなりギリギリだけどね」


実際ザクアメイジングはぼろぼろだ。でも――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『……下か横に飛べばよかったものを……ぼろぼろではないか、馬鹿者が』


二代目はバトルを中断し、カテドラルをサッと回収。そのまま僕に背を向け、試合終了を強制的に告げる。


「いかに高い理想を抱こうと、負けてしまえば偶像たり得ん。やはりまだまだ、お前にメイジンの名は譲れぬ」


それも致し方ないことだと思う。現にザクアメイジングが、無傷のカテドラルに勝てる要素は……ごく僅かだろう。

だがそれでも僕はやるつもりだった。……まぁ、”だった”では意味がないのだろうけど。


「……全く」


そこで厳しかった二代目の声が、少々の呆れと感嘆を含んだものに変わる。


「お前は尽く、私の思い通りにならぬ男だ……だが、それゆえに気になる」


二代目はそう呟(つぶや)き、階段を下りていく。


「己の道を極(きわ)めよ――三代目」


その言葉を受け止め……僕は、静かにその場で一礼。


「あなたには負けません――」


二代目、あなたは僕にとって偉大な先人だ。

成功も、失敗も……その背中を胸に、先へ進みます。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



この勝負はタツヤの勝ちだ。確かにあのままバトルを続けていれば……でもこれは、そういう勝負じゃない。

二代目の思想を、タツヤが紙一重で超えられるか。その思想を、その未来を示せるか。……タツヤは十分立派に示した。

だから二代目は沸き立つみんなから一人、背を向けるように歩き……ベース台の階段を降りきったところでふらつく。


「メイジン!」

「二代目!」


でも咄嗟(とっさ)にエレオノーラと涼がカバー。愛と絵理も水と薬を持って駆け寄る。


「大丈夫だ……まだ、倒れるわけにはいかん」

「しっかりしてください! お薬です……死んじゃ嫌ですー!」

「縁起でもないことを言うんじゃないわよ! このお馬鹿ぁ!」

「……三代目はまだ道の途中」


あ、愛とエレオノーラの漫才はすっ飛ばしたな。さすがにツッコミ辛(づら)いか。

とにかく水と薬を飲んだところで、ティアナ達を伴いさっと近づく。


「これから多くの競合ファイターとのバトルが、奴を更に育てるだろう……」


そう言いながら奴は僕を見上げる。その上で何も言わず、カテドラルを差し出してきた。

そこに言葉はいらない。僕もただ、”自分のガンプラ”を静かに受け取る。


「楽しいガンプラバトルか……久しく、感じたことのない感覚であったな。……いや」


そして奴もまた、一人の戦士として再度立ち上がる。


「私もまだ、道の途中なのかもしれんな」

「だったら、今度は僕とバトルしようよ」


笑って申し込むと、奴もまた笑みを浮かべて……静かに歩き出す。


「体をキッチリ治してね」

「ですです! リインも頑張るですよー!」

「ならば待っておれ。時が来れば……運命は必ず、ふさわしい舞台を用意してくれるだろう」


こうして二代目メイジンはまた歩き出す。


――ユウキ・タツヤ……この世でただ二人、メイジンという重みを背負う者よ――


そんな呟(つぶや)きをタツヤに……みんなに囲まれ、胴上げされている三代目に送る。


「ちょ、待って……高い高い! ヤナ! 上げすぎだぁ! ジュリアン先輩も泣かないでくださいー!」


なお本人はとっても締まらない感じだけど……でもそのメッセージは届いていることだろう。


――共に互いの道を歩もうぞ。理想のガンプラ……その未来を賭けて!――


こうしてタツヤは真の三代目と認められ、カテドラルも一つの役割を終えた。

だからこそ……改めて、カテドラルに向き合う必要がある。今日は徹夜かなー。


でもいいや。あんなバトルを見せられたら……心が燃え上がって、何もせずには寝られないよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


一つの時代が終わった。伝説の名は≪強さを追い求める修羅≫から、≪強さと楽しさを両立させたヒーロー≫に受け継がれる。

まだまだよちよち歩きの卵だが、それでも……何だろう、胸の奥でつっかえが取れたというか、満足したというか。


「ジオ、おじさんに会わなくてもいいの?」

「あ……そうだな」


一応挨拶だけはしておくかと、立ち上がるものの……どうにも足が動かない。


「ジオ?」

「……俺さ、今更だけど……バトルが嫌いだったんだよ」

「……ジオ、それは前に聞いた。間違ってウィスキーボンボンを食べたとき」

「え、マジ!?」

「マジ!」


あ、やっべー! そう言えば言ったような記憶が……ない。ない……思い出そうとすると、頭が痛くなる。


「作ったガンプラは大事な家族も同然だから、壊すのは嫌だーって。でもパワードレッドの150Mガーベラを本当の意味で再現したくて、バトルも勉強した」

「あ、本当に全部喋(しゃべ)ってるんだな! やべ……記憶にない!」

「そんなのナイよ! ナターリア、二〇回くらい聞かされたヨ!? 背中もばんばん叩(たた)いてきて、痛かったんダカラ!」

「完全に絡み酒じゃねぇか! まぁ、だから……なぁナターリア」

「うん?」

「おじさんは嬉(うれ)しそうだった……なら、救われたのかな」


一人で戦って、傷ついて、ズタボロのように使い捨てられたとさえ、思っていた。

でもそんなおじさんにも、ちゃんと託すものがあった。それを託せる奴がいた……それは、本当に嬉(うれ)しくて。

それがカテドラルだったのは、言うまでもない。なら三代目は? メイジンの名前まで渡したおじさんは……。


「それは、ナターリアにもワカンナイ。でも……おじさん、言ってたよ? 道の途中って」

「――!」

「苦しいこと、悲しいことだけじゃ、なかったって……オモウな」

「そうだな……あぁ、そうだ」


……なら今日のところは、もう帰ろう。それで次の試合に備えよう。

間違いなく……今のメイジン相手なら、確実に負けるだろうが。それは三代目として認められたから、じゃない。

俺の中からなくなっちまったせいだ。三代目への拘(こだわ)りが……勝手な逆恨みが。


あぁ、俺は恨んでいた。倒れる前に引き継いでくれればってさ。それもまた一つの側面にすぎないが、複雑な部分があったのは間違いない。

……自分で言うとすげー恥ずかしいけど。つまり俺は今、突きつけられているわけだ。


俺の戦う理由を……おじさん以外で、奴と向き合う意味を。だがそこから逃げることはできない。


おじさんはもう一度立ち上がって、進むと決めたんだ。だったら、俺も――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ガンプラバトルって、いいものだなぁ。昨日の試合でもう、感動しちゃってさぁ。俺とタカも始めることにした。

ただそれもお昼から。朝一番でニルスを伴い、例の美人秘書なベイカーさんを訪ねた。

少々危険な手だが、このままセイ達ややっちゃんが勝ち抜いていくと、更にプレッシャーをかけかねない。


だからこそ……コイツらには自衛してもらうことにした。あえて情報を渡すことでな。


「――プラフスキー粒子の、結晶体!?」

「えぇ。それをどういうわけか、レイジが持っていたんです」

「いやもう、俺達もビックリで。それでですね、異常現象ということで調査した結果」


というわけで、ニルスと杏ちゃんお手製のレポートを差し出す。その資料を受け取り、ベイカー秘書は顔面蒼白(そうはく)で見直し、絶句する。


「結晶体は人間の感情に反応し、力を増幅させる効果があると分かりました。ベイカーさん、この辺りは」


そこでベイカーさんは一瞬答えを躊躇(ためら)う。


「い、いえ……私も、初耳です」

「そうですか。ではそちらでは、結晶体を持っていない」

「はい……今まで、こんな事故はありませんでしたし。プラフスキー粒子は安全が確保されたものです」

「ではその精製方法を、見せていただくことは」

「それは、企業秘密ですので……外部公開は」

「そうですか……と言いたいところなんですが、こちらも引き下がれない事情ができまして」



そこで身構えるベイカーさんに、タカがダンディースマイルをプレゼント。これで女性はいちころなんだよ。


「いやね、調査してくれたニルス達が言うには……感情に反応した場合の粒子放出量は、”暴走”とも捉えられるそうなんですよ。
それでこちらのプラフスキー粒子、反粒子同士の結合で生み出されているそうで」

「その場合、事故……粒子災害にも繋(つな)がりかねない危険性を提示されました」

「待ってください。先ほども言いましたが、今まで我が社は事故のようなものは」

「今までは起きなかった」

「えぇ!」

「でも、それほど安全に運用されていたあなた方も、結晶体については知らなかった」


タカの冷静かつ的確なツッコミで、ベイカーさんが言葉に詰まる。どう言い訳するべきか、どう取り繕うか……困っている様子だな。

なのでタカは念押しで、『知らなかった』という点をしっかり確認する。


「そうでしたね、ベイカーさん」

「その……通りです」

「勘違いしないでほしいのですが、これはあなた方を責めているわけではありません。
もちろん我々警察が介入するべき事態でもないし、ガンプラバトルなんて楽しい遊びを潰す意図もない」

「では、なぜあなた方が」

「ニルスもこの”遊び”にハマった一人として、粒子結晶体という『危険性』を放置できない……だったよな」

「大下刑事の仰(おっしゃ)る通りです」


ここまで黙っていたニルスに確認を取ると、重苦しい……迷いすら見せる表情で、戸惑い気味に呟(つぶや)く。

ニルス自身もどうするか扱いに迷い、その結果……そんな流れを想像できる、いい”演技”だった。


「あなた方が結晶体について知らなかったのなら、早急に調べる必要があります。……なぜ結晶体が生まれたのか。
その精製条件は一体何か。万が一、事故でそんなものができて……外部に漏れたら」

「どう、なると言うのですか」

「……この”世界大会会場に、粒子工場が存在する”」


そこでニルスが核心に触れると、ベイカーさんの顔から完全に血の気が引いた。……ビンゴか。


「そう仮定します……ベイカーさん、大丈夫ですか。顔色が」

「いえ、大丈夫……です。ですが、その仮定に意味は」

「リアリティーの問題です。今我々が目にしている景色も交えれば、想像は容易(たやす)いので」


観点の問題だと嘯(うそぶ)いた上で、ニルスは別の資料を……近辺の地図にデータを書き込んだものだが、それを見せる。


「レイジ君が持っていた結晶体……<アリスタ>と言うそうですが、その粒子量を計測した数値です。
こちらがボクの大学で使用していた、バトルベースの粒子消費量……ひと月のものですが」

「おいおい……あのちっこい石一つで、一年近く使えるのかよ」

「燃費良すぎだな。カブみたい」

「補足しておくと連結ベース一基での話です。世界大会用の超大型ベースなどは、消費量も桁違いになります。……そして」


ニルスが指差したのは、地図の中心部……赤い円形の”爆心地”だった。


「この粒子量が、もし何らかの暴走を果たした場合。最悪爆発などが起こった場合の、シミュレーション結果です。
ただ仮定に仮定を重ねているので、検証不足なのを承知してもらえると」

「この……赤い範囲は」

「爆心地及び爆発空域です」

「は……!? ま、待って……これは、あり得るの!? 世界大会の会場を丸々飲み込んでいるじゃない!」

「先ほど仮定を重ねていると言いましたが、ベースに搭載されている粒子との相互反応も加えていますので」

「だからって、こんなの!」


ベイカーさんはハッとして、混乱のままに頭を抱え首振り。


「ごめんなさい……取り乱してしまって」

「いえ、お気持ちはよく分かります」

「つまり、その……あなたが先ほど言った通り」

「ベイカーさん、あなたやPPSEを戸惑わせること、深く謝罪します」


ニルスが頭を下げるので、俺とタカもしっかり続く。


「しかしガンプラバトルを愛する者として、この危険性を伝えないわけにはいかなかった。
万が一こんな事故が起きれば、世論はプラフスキー粒子排除の方向に傾いてもおかしくない」

「東日本(ひがしにほん)大震災で、原発周りも騒がれてますしね。あのノリが持ち込まれるってことですよ」

「もちろん事情があるなら、守秘義務も守ります。ユージが言ったように、俺達の目的は法的責任を追及することじゃない」

「あくまでも、こちら側に対する訴え――ガンプラバトルを守るため」

「その通りです」


そこだけは誤解しないように……っと、補足もあったな。


「なのでニルスのことは、余り叱らないでやってください。コイツも混乱して、生まれたての子羊みたいにフラフラしながら相談してたんで」

「というかほら、足が震えてるよね。大丈夫? 牛乳飲む?」

「あ、後で……食事も喉を通らなかったので、つい」

「……分かりました。まず……ニルスさん、情報提供と危険警告には感謝します」

「いえ」

「こちらのデータはお預かりしても……会長も交えて、相談してみますので」



拒否反応はなしか。彼女は冷静さを装いながら、静かに資料を……震えきった手で、必死に抱える。



「よろしくお願いします」

「それじゃあ、その……結晶体というのは、今」

「信頼できるスタッフに預けています。レイジ君……もちろんパートナーのセイ君達にも、詳細は伏せています。御安心を」

「分かりました。ですが、この話はくれぐれも御内密に……少し、時間をください。我々にとっても重要な案件ですから」

「分かりました」


……これでよしっと。しっかり楔(くさび)も打ち込んだ上で、ニルスを連れて別荘地から出る。

そのまま試合会場に向けて歩き出し……ニルスは家が見なくなったところで、隠していたホットドッグを平然としながらかじる。


「ニルス君? 食事も喉を通らないんじゃなかったかなぁ」

「ベイカー女史が話をちゃんと聞いてくれたので、安心した結果です。矛盾はありません」

「お前も蒼凪と同じで、危ない奴に育ちそうだ」

「でも悪党にはなるなよ? おじさん達みたいに、いい人になろうか」

「……あなた方も相当無茶苦茶(むちゃくちゃ)だと聞いていますが……一応、そのつもりです」


よーし、やっちゃんに確認が必要だな。俺達の警察人生を何だと思っているのか……!

タカと二人顔を見合わせ、拳を握り、年々生意気になっている弟分には説教を決めた。


「それで、お二人の触感としては」

「間違いなく結晶体の暴走現象は知らなかっただろう。それで……工場の所在についても知っている。”ここ”だってな」

「あの程度の顔芸じゃあ、俺は騙(だま)せないって。タカは美女に弱いけど」

「それ、君の方じゃないかなぁ」

「……ボクも同じ感想です。とすると、この楔(くさび)で彼らがどう動くか……予想通りだと願いたいのですけど」

「間違いなく予想通りだ」


タカは断言した上で、サマースーツのポケットに両親指を突っ込み、楽しげに速度を上げる。それに俺達もついて行く。


「あの手の奴が取る行動は、大体決まっている」

「つまり、俺達は今日の試合を楽しめばいいってわけだ」

「いや、それは違うような……というかお二人とも、そんなにガンプラバトルがお好きなのですか」

「「昨日好きになった!」」


おいおいニルス……ちょっと引くなよー。俺達だってキッカケがあったんだぞ? そう……まるで恋のように!


「いや、ホント凄(すご)かったんだよ! タツヤと二代目のバトル!」

「定年退職も見えてきたお年頃だし、僕達も新しい趣味……始めようかなって! 調べてみたらボケ防止にもいいそうだし、ユージにお勧め!」

「いや、それはタカだろ? 定年後は夏海ちゃんと、幸せな結婚生活が待っているんだし」

「いやいや、ユージだって。お前、音無小鳥ちゃんもいなくて一人だし」

「なんだとぉ!」


それに触れるのかと、ニルスを挟んで取っ組み合い……にはならず、軽快に走るタカを追いかける。


「まてぇ! ニルス、先回りだ! 頭を押さえろ!」

「なぜボクが!」

「あ……頭って言っても、自分の頭じゃないからな? ちゃんと進行方向を」

「それくらいは分かります!」

「分かっていない間抜けな動物がいたんだよ! トオルって言うんだけどな!?」

「それは人類なのですか!」


そんな疑問をぶつけられながらも、改めて俺達も試合会場で……今日はやっちゃんと、友達らしいトウリ・スガ達との試合か。

相手も相当強いし、果たして勝てるかどうか……しかもやっちゃん、プレッシャーがかかってるからなぁ。


春香ちゃん達もいるし、あむちゃん達も来ている。来てくれた翌日に負けるって……相当だぞ?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


タツヤも一歩進んだ翌日――。


『――ただいまより決勝トーナメント二回戦、第一試合を始めます』


僕もタツヤや二代目に負けないよう、新しい気持ちで今日の試合に臨む。


「ついにきたッスね、この日が!」

「恭文君、リインちゃん、全力でいくよ!」

「もちろん!」

「楽しく……でも、激しく熱いバトルにするですよ!」

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Coliseum≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は……ん!? この煌(きら)びやかなコロシアムは……逃げ場なし、閉所での血闘か!

当然屋内で月が見えないから、サテライトシステムも使えない。……まぁいいかー。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「蒼凪恭文」

「蒼凪リイン!」

「ガンダムレオパルド・フェイタリー、目標を駆逐する!」


アームレイカーを押し込み、黄金劇場へと飛び込み……輝く床に着地。

AGE-2 エストレアも同じように飛び込んだ上で、その刃を袈裟・逆袈裟と振るう。


『これはこれは……思いっきり、全力で斬り合えと言わんばかりの仕様ッスね』

「そうだね。なら、どうする?」

『せっかくの御厚意ッス。一撃くらいは甘えるッスよ』

「同感……!」


古鉄の鍔(つば)元に左手を添え、半身になって構える。更にエストレアも刃を引き、突撃の姿勢――。

そのまま数瞬にらみ合うも、待ちきれないままお互いに飛び込み……こちらは抜刀。


「――!」


エストレアもそれに合わせ、クリアグリーンの刀身で右薙一戦。


『――!』


お互いに刃をぶつけ、軋(きし)ませ……そのまま交差し、勢いのまま回転しながら着地。

そのまま最初と同じだけの距離を取り、粉じんをまき散らしながら停止する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


昨日の継承式……その興奮もさめやらぬ中、二回戦一発目は恭文さんとスガ・トウリさんの試合です。


恭文さんのフェイタリーは、今回も武装てんこ盛り。ただし背部はハイパーガトリングじゃありません。

ライフル二挺をアーム接続で背負い、右肩にはミサイル、左肩にはビームキャノン。

両足には可動式の追加ブースターをセッティングしています。


でも両者構えたまま、動かない……と思ったら、いきなり斬りつけ合い。でもお互い傷一つ付けられず、静かに停止します。


「……卯月、未央……今の、見えた?」

「全く……!」

「全然ですー!」


そう、斬りつけた……でも余りの速度に、何も見えなくて。


「……蒼凪さんの実践剣術に対応する……それだけでもスガさんの実力がよく分かります。しかもその刀身には傷一つ付いていない」


そこで……ピシリと。

フェイタリーの刀に、小さなヒビが入った。とても小さく、刀身が折れるような傷ではない。

もっと言えば刃が多少欠けた程度。でもプロデューサーさんは、それが一大事と言わんばかりに見つめていて。


「その技量は、蒼凪さん以上ですか……!」

「Pくん、どういうこと!? だって……ちょっと刃が欠けただけじゃん! それもほんのちょびっと!」

「いえ。あのレベルの打ち合いならば、刀身と使い手の両方……又はその片方が僅かに劣るだけで大きな差となります」

「……さすがにベスト8の実力者……ただ者じゃないんですね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ち……古鉄か、僕の技量か……間違いなく後者だ。欠けた分、補う道筋も考えないと。


『ふむ……これは、そう簡単に一本は取らせてくれないッスね。なら』

『トウリさん、まさか……アレを使うんですか!』

『本気を出さなきゃ勝てないッスよ。恭文君に限らず、ここから戦うみんなは――』


そうして身構え、呼吸を整えた……その瞬間だった。

息を吐き、吸い込む。そのリズムで僅かに……本当に僅かに、こちらの動きと反応が静止した瞬間。


エストレアが”眼前に現れた”。数百メートル先にいたはずのエストレアが……突如、転移してきた。


「……!」


咄嗟(とっさ)に身を翻し、急所狙いの袈裟一閃を回避。エストレアはこちらの反撃を許さず、超神速の体捌(さば)きで距離を取る。

呼吸の合間を……体が無反応となる刹那の間に踏み込まれた? 


そうか、これが”フェンリル”の本領か!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あらま……”無拍”を初見で避けるとは。今のは噂(うわさ)の超直感? いや、違うッスね。これは反射と身のこなし、先読みの類い。

さすがはターミナルでも(いろんな意味で)注目株かつ要注意人物な恭文君。数々の苦難と事件を払い、鍛え続けてきたのは伊達(だて)じゃない。

人間の……それも二十才前後の青年としては、とんでもない化け物ッスよ。でも、自分はアンデッドッスから。


……同じような戦いを、百年単位で繰り返してきたッス。経験値だけなら上ッスよ、自分。


「……あれ、何か違う。俺の想像していたのは、バーストモード的な必殺技」

「序盤も序盤ッスよ!?」

「だよねー!」


というわけで、勝たせてもらうッス。

スペインのみんなにトロフィーを持ち替えるため。

この楽しい遊びをもっともっと楽しむため。


何より自分が”勝ちたい”って、本気で思っているから――。

フェンリル、スガ・トウリ――全力を尽くし、道を開く!


(Memory65へ続く)






あとがき


恭文「というわけで、お待たせしました。鮮烈な日常第六十四話です。漫画版を参考に二代目と三代目のバトル。
そしてトウリさんと僕の戦いも……サテライトが使えない! 図られたー!」


(いえ、偶然です)


恭文「偶然なの!?」

古鉄≪というか、フィールドで戦い方が制限されるようじゃあ駄目でしょ。マオさんもだからこそソーラーシステムを作っていたのに≫

恭文「ですよねー。というわけで経験・技量ともに上を行かれて、更に奥の手まで出されてピンチな蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です。エストレアについては何とかなりますね。問題は……ジオさん≫

恭文「大丈夫、ベビーRは”アレ”になるから大丈夫……」


(キャストオフ? え、真逆?)


恭文「そして手出ししないと決めたけど、やっぱりいたぶることにしたベイカーさん」

古鉄≪危機感を持たせて、アリスタを不用意に使わせないよう圧力……果たして功(こう)を奏するのか≫

恭文「大丈夫。あむの≪キラキラのラブマジック≫があれば……」

古鉄≪ですね≫


(『なるわけあるかぁ! というか、いつまで言い続けるの!?』)


恭文「まぁまぁ。漏影をプレゼントするから」

古鉄≪素組みで作ってみて、フォルムと作りやすさに感動したからですか≫

恭文「肩アーマーが三パーツ形成の簡単仕様なのが気になったけど、それゆえにブンドドで扱い安いと考えれば……」


(説明しよう。このお話で戦闘シーンを書く参考に、ちょこちょこガンプラでブンドドするのだ)


恭文「アニメや漫画に描かれた分はともかく、それ以外はどうしてもね。
AGE-2ダークハウンドやダブルバレットを買ったのも、エストレアや同人版の戦闘シーンに備えてだし」

古鉄≪実際にその系列の機体を作って、軽く動かすと……イメージしやすいんですよね。
まぁだからこそ、オリジナルバトルが多めになってきた決勝戦後半は多少時間もかかるんですが≫

恭文「やっぱり、二つくらいダイジェストで終わらせよう。止まる方が大問題だ」


(蒼い古き鉄、無慈悲な宣告――)


恭文「それはそうと、今日でぐだぐだ本能寺も終わり。僕達は茶々の再臨・宝具レベルMAXも達成しているけど、みなさんはどうでしたか?」

古鉄≪結局土方さんは迎えられませんでしたが、明日からCCCコラボ直前キャンペーン実施です。
ネロブライドさんやギルガメッシュさん……Fate/EXTRACCCに出てきたサーヴァントが次々ピックアップ≫

恭文「それゆえに今回のバトルフィールドも、ネロ(Fate)の宝具をイメージした黄金劇場……」


(いや、そういうわけでもない。イメージは確かにその通りだけど)


古鉄≪ところで今回のピックアップ、引きますか? 十連はできますけど≫

ネロ(Fate)「ローマー!」

恭文「いや……二十六日にはニコ生もあるし、今すぐってのは」

ネロ(Fate)「奏者、今宵(こよい)こそ余を引いてほしいのだ! 白い余はもーっと甘々なのだぞ!」

恭文「しかもコラボイベントで、何が来るか……だしなぁ。もうちょっと様子を見て」

ネロ(Fate)「……」


(皇帝様、蒼い古き鉄の真正面でジト目)


恭文「……じゅ、十連じゃあそうそう出ないと思うの……それに、ギルガメッシュも今度こそって気持ちがあるし」

ネロ(Fate)「では何時引くのだ!? 今だろ!」

恭文「それは違う人だ!」

ネロ(Fate)「引くなら今しかねー! YOYOYO! 引くなら今しかねー! YOYOYOー!」

恭文「それは攘夷(じょうい)のラップー! というか桂さんか! 桂さんから受けたのか、その悪影響!」


(でもCCCコラボ、思ったより速くてビックリ……これも日本(にほん)のローマ市民が望んだ結果ですね!
本日のED:BACK-ON『セルリアン』)


恭文「しかし、春香達までよく……仕事は?」

律子「調整したのよ。北沢さん達は夏期講習もあって、ちょっと無理だったけど」

恭文「ですよねぇ。志保と可奈、杏奈は高校受験がありますし。でもありがとうございます」

律子「いいのよ。あと……どうしても話したかったことがあって」

恭文「なんでしょう」

律子「……助けてー! 母さん達が『そろそろメイドとして就職しろ』ってせっついてきてー!」

恭文「知るかぁ! それ、おのれが冗談半分で言ったことでしょ! 僕は関係ないからね!? 知らないからね!」

律子「そこをなんとかぁ!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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