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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第3話 『コトバノウラ』


一度目なら、今度こそはと私も思う。

避けられなかった惨劇に。


二度目なら、またもかと私は呆(あき)れる。

避けられなかった惨劇に。


三度目なら、呆れを越えて苦痛となる。

七度目を越えるとそろそろ喜劇になる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――彼女が悪かったわけじゃない。

彼女はとても勇敢に、真摯に運命と闘った。

大切なものを守りたかったから。失いたくなかったから。


それは彼女のとても強く、気高い優しさ――そして愛。――だけど、彼女は気づいてしまった。

誰かを愛したいと思いすぎて、愛され方を忘れてしまった≪一人ぼっちの自分≫に。


あのとき……彼女が、私達の仲間が、スクラップとゴミの中で語った【頑張り物語】。

彼女は家族を守るため、刃を振るった。人を殺(あや)め、隠そうとし、私達にそれを見つかった。

だから彼女は語った。そこに至るまでの時間を。自分がやったことが正しく、すばらしいと誇った。


それに対し、圭一は言った。

――なぜ、仲間に相談しなかったのか……と。


だから、レナは答えた。

――仲間に相談しても無意味だったから……と。


それは悟史――沙都子の兄である≪北条悟史≫が、去年の綿流しで失踪したことにより、決定づけられた失望。

あの日の言葉が、脳裏に蘇(よみがえ)る。


「魅ぃちゃんは園崎家頭首代行でありながら、村八分状態の悟史くんと沙都子ちゃんを救えなかった。
村の空気を変えられなかった。ただ見ていることしかできなかった」

「レナ……」

「沙都子ちゃんはお兄さんに縋(すが)り、縋(すが)り、縋(すが)り……おばさんから逃げるための盾にしていたよね。
……これは、まだ小さい沙都子ちゃんに言うには、余りに酷な言葉だと思う。
でも言わせてもらうね……あなたがわがままだったから、悟史くんはどんどんすり切れていった」

「……その通りですわ。子どもだったこと。にーにーの気持ちも考えず、甘えていたこと。その全てがわたくしの罪です」


そして私は……魅ぃの罪にとても近い。


「梨花ちゃんにもできる努力があったのに、しなかった」


沙都子の親友でありながら、御三家の一角でありながら、二人を救えなかった。

いいえ、それは言い訳だ。私は最初から努力を放棄していたんだ。どうにもならない、無理だと諦め見過ごした。


「分かったかな、圭一くん……これが、圭一くんの言う”仲間”なんだよ!」

「レナ」

「だから私は一人で解決した! もっとも正しい道を、最短距離で進んだ!」

「本当に、そう誇っているのか」

「誇るよ! 誇れるよ! だからごめんね……仲間なんて無意味だよ! 私は今度こそ、正しい道を選んだ! 家族を守れたんだ!
あははははは……あははははははははは! あーはははははははははははは!」


まさに冷や水を浴びせられたかのような衝撃に、私は……私達は凍り付いたように、言い返すことができなかった。

それは一年前にできたはずの努力を、放棄したことに対する糾弾。今ではもう、思い出という傷跡でしか振り返ることができない、過去の記憶。

言葉ではとても言い尽くせないほどの後悔と、失望と、そして罪悪感。それらが私を今でも攻め立てている。


悟史を思い出す沙都子の、悲しげな姿を見るたびに痛みが生まれる。あのとき、私に運命を破る力があれば――その意志を勇気さえあれば。

レナが引き起こそうとした悲劇は、最初から可能性さえ存在しなかったはずだから。

……でもそれは、レナ自身にも言えることだった。私達はこのとき、全てを知らなかった。


レナもまた、できる努力をしなかった。だから……そんな傷を背負っていたのだと。

そしてその傷が単なる勘違いだと知らされるのは、また別の世界。


そう……そのときは迫っていた。それも考え得る限り、最悪な形で。




とまとシリーズ×『ひぐらしのなく頃に』クロス小説。

とある魔導師と古き鉄の戦い〜澪尽し編〜

第3話 『コトバノウラ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


悪魔の薬――その真相は未(いま)だ掴(つか)めないけど、断片だけで恐ろしさが伝わる。ただ同時に疑問もあった。


「沙羅さん、この情報……出所はどこから」


私が聞いた話だと、調査を始めたのは本当にごく最近。それにしては……いろいろ揃(そろ)いすぎているような。

公安の赤坂警視と連絡が取れたから? アルファベットプロジェクトに目星を付けた結果、彼と恭文君の接触が浮かび上がったわけで。


「山沖署長です」

「垣内(かきうち)書の署長が?」

「あの方は公安に所属していて……本件もローウェル事件直後から捜査していたものです」

「じゃああの薬は、そんなに前から!?」

「いえ……それだけではないんです」


署長が元公安で捜査に携わっていたなら、私の疑問は解ける。でもそれだけではないと、沙羅さんは変わらない表情から怒りを滲(にじ)ませた。


「ローウェル社は取り締まり対象となった薬物に限らず、他にも危険な未認可製剤の試験を日本(にほん)で敢行。
そのデータを本社へと持ちだしていたようなんです。そして仲介の連中に賄賂をバラまき、斡旋(あっせん)を頼んでいた」

「……明らかに外為(がいため)法、そして薬事法違反だな」

「その仲介を行っていたのがとある政治家――恐らくは千葉とそのけん属達でしょうが。
とにかくそう言った未認可薬品が、国内にまき散らされている可能性が……現金問屋を通じてです」


……現金問屋というのは合法・非合法を問わず薬を安価で仕入れ、実勢価格よりも低価格で販売する中小卸問屋。

そのルートは実に多彩でね。製薬会社の社員が小遣い稼ぎに、サンプルや在庫品を横流ししたもの。

別の問屋が過剰に仕入れたものを、内々に処分したもの……数限りがない。


更に悪質な場合は、病院側が主導として行う場合もある。過剰に買い込みすぎた薬品を、事務長などの責任者が内密に売りさばき、その収益を懐に入れてしまう。

そうして取り引きされる薬品の中には、表だった販売ができない未認可薬品も――。


つまり相当数の潜在的被害者がいるわけだ。それはもしかしたら私自身かもしれない、唯子達かもしれない。

恭文君かもしれないし、フェイトちゃん達かもしれない。この事件の犯人達がやっていることは、それほどに危険なことなんだ……!


しかも……本当に残念ながら、警察にはこれを取り締まる権限そのものがない。公安だろうとそれは変わらない。

担当が違うんだよ。薬事に関しては厚生労働省。政財界の汚職は検察庁・特捜部と明確な区分けがされている。

そしてそれらが好意的かつ積極的に協力して、行動を起こしたことは……ゼロに等しい。


伏魔殿に例えられる政治の世界。恭文君が関わったTOKYO WARや核爆発未遂事件でもそうだけど、国民を守る正義より利権が大事らしい。

まぁ、だからこそ私達忍者がいるわけだけど。私達はやりたいことを、やりたいようにやるだけだもの。


「それともう一つ……南井警部の御両親は自宅の火事で亡くなられているのですが……どうも、殺人のようで」

「殺人?」

「警部のお父上も公安の刑事。山沖署長と親友だったそうなんです。そして、この事件を調べてもいた」

「……口封じか。なら相当有力な情報を」

「そちらは三ページに」


劉さんがページをめくると、そこに大型の空港写真が映し出されていた。


「垣内(かきうち)空港……市内にある民間航空施設だな」

「南井警部のお父上――南井雄介刑事は、そちらの国際線移設に反対していた近隣住民と接触を。
とある政治的団体とも繋(つな)がりがあると噂(うわさ)されてもいましたが、公安の調査では白だったのですが」

「その男は現在行方不明……結局疑惑だけが積み重なって、証拠はないわけか。……南井警部はこのことを」

「既に話しているそうです。現在、垣内(かきうち)空港の成り立ちから関係者の動向に至るまで、調査を進めています。
千葉の方も会長自ら動いていますので……いづみさんは垣内(かきうち)へ向かって、南井警部と協力して現地調査を」


現在警部達には内密で付けている、護衛とはまた別に……か。いや、それも当然だ。

彼女は父親と同じ事件を追って、真実に迫りつつあるんだ。千葉達からしたら忌ま忌ましいことこの上ない。……間違いなく狙われる。

沙羅さんの危惧は分かったので、聞き返すこともなく即答する。


「分かりました」

「あとは蒼凪君が捜査している件と、これがどう繋(つな)がるか……ですね」

「そちらは私が確認します。……蒼凪とアルトアイゼンのことだ、既に犯人の目星くらいは付いている可能性が」

「あり得そうで怖いなぁ」


私達はこのとき、当然ながら知らなかった。まさか恭文君がたった今、この件にも絡む少女を助けようとしていたなんて。

それは古手梨花じゃない。もう一人いたんだよ……この、悪魔の薬で罪を背負った子が。

そして彼女にとってこの事件が、大きく深い……心を砕くような傷になることも知らなかった。


彼女は背負っただけじゃない、喪失したんだ。とても大切なものを、もうとっくに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それで梨花ちゃん」

「レナは父子家庭なんです。そうして新しい母親として、間宮リナが父親へ近づく。でもレナはそれが嫌だった。
それでも父親のために全てを受け入れようとした。だけどリナが美人局(つつもたせ)だと気づいて、問い詰めた結果……レナは彼女を」

「それは、祟(たた)りとしてか?」

「いえ、綿流しの前なのです。しかも」

「まだ何か」

「北条鉄平も美人局(つつもたせ)の協力者として、レナに殺されるんです。ボク達は偶然それを知り、レナの犯罪を隠匿した。
……だけど五年目の事件がきっかけで、レナのストレスが爆発。
ボク達や全てのものを疑ってかかり、もっとひどい暴走を……そういう、夢もありました」


余りの詳しさに圭一と驚くものの、一旦深呼吸。


「……だとするとマズいなぁ。一応間宮リナの近辺は園崎家が調べてくれるけど」

「美人局(つつもたせ)の件が浮上しても、意味がないよな」

「間宮リナは追い込まれる……下手をすれば一気に搾り取ろうと、竜宮家へ距離を詰めるかも」

≪そうなったら、振りほどくのは難しいですよ。お父さんは籠絡されて当てにできませんし。
……ただ私、一つ気になることが。レナさんも間宮リナを知っているなら、確かに結婚詐欺でしょう。問題は≫

「竜宮家の経済状態だな」


……圭一は本当に頭が回るねぇ。アルトは先を行かれて、ちょっと感心した様子で瞬き始めた。


≪えぇ、その通りです。詩音さんの話通りなら”大きなカモ”ですけど……そんなに裕福なんですか?≫

「……レナの家は外見こそ普通です。祖母から受け継いだ遺産の一つですから」

「祖母? 確かレナ、一年前に引っ越してきたって」

「それは嘘じゃありません。レナは小学校から上がる前、親の都合で茨城(いばらぎ)に引っ越しているんです。
……そこで両親が離婚しました。その原因は『母親の浮気』――しかも、相手の男と子どもまで作って」

「その慰謝料か」

「そもそも茨城(いばらぎ)に引っ越したのは、デザイナーだった母親がより大きな会社に移ったためです。
そこで母親は成功し、よりレベルの高い仕事と職場にヘットハンティングされました。イースター社って分かりますか?」

「おい……それは、この不景気でも大成功を収めている世界的大企業じゃないか!」


……そこで思い出すのは、軽井沢(かるいざわ)での出来事。トオルの家を乗っ取ったのも、イースター社だったから……どうしてもね。

でもそこはいい。問題は竜宮レナさんの母親が、イースター社に見初められるような有能人物ってことだよ。

イースター社は上げている成果の分、入社できる人材に問われる質も高いから。


「結果、相当な慰謝料を払ったようなのです」

「そして間宮リナはフラワーロードの従業員。察するに酒の場でいろいろ話して、狙われちゃったんだね。だとすると――」

≪余計にマズいですよ。傷心状態の父親を慰め、助けてくれた女性ですから。レナさんの心情としては当然無碍(むげ)にはできない≫

「批難するだけでもアウト。それは父親の”幸せ”を壊すことにも繋(つな)がる」

≪またまた難問ですねぇ。さて、この謎はどう解きます?≫

「そうだねぇ……」


もちろん手出しをしないのもアウトだ。もし本当に、夢みたいな状況になったら。


「みぃ……ボクのことも信じてくれるのですか?」

「まぁ予言自体というより、その可能性をな。だとするなら、いち早くレナに話すべきだとは思う。……刺激しないよう、慎重にだぞ?」

「僕も同じくだ。それに……梨花ちゃん、さっき言ってたよね。今の綿流しは罪を払う≪禊(みそ)ぎ≫だって」

「はい」

「ならそのときの竜宮レナは、それがちゃんとできなかった。罪を隠し、逃げて……その負荷で更におかしくなってしまった。
……僕が扱った事件でも、そういう人はいたよ。捕まえない限り、突きつけない限り、自分の行いが罪だと受け止められない人は」


それは逃げの場合もあり、そうじゃない場合もある。だからこそ思う――。


「人を裁けるのは人じゃない。事実のみが人を裁く――だから僕達はただ、全力で事実を明かす」

「でもレナはそのとき、何人にも裁かれなかった……罪に区切りをつけられなかった。なら」

「”俺達”がレナを庇(かば)ったのは、間違いだったってことだ。だったら、同じ間違いは繰り返さないようにしないとな」

「だね。とすると、問題は話の持っていき方だけど」

「……レナが自分から相談するまで、待っているのも手だと思います」


でも梨花ちゃんはまた消極的手段に出る。さっきの内容から考えると……あぁ、そういう。


「なら梨花ちゃん、三つほど確認」

「なんでしょう」

「一つ、竜宮レナの経済状態……どこで知った?」


それは答えにくい話らしい。梨花ちゃんが分かりやすく反応……口をつぐみ、視線を泳がせ始めた。

これと圭一の反応だけで分かる。仲間内に明かされている話じゃない。もちろん梨花ちゃんが竜宮レナの信頼を得て、聞いた話でもない。


まぁ、この場合の答え方は決まっているけど。恐らく……梨花ちゃんは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……本当に、いちいち痛い腹を探ってくれる男だ。いや、この探求力があるからこそ、赤坂も信頼して送ってくれたのだろうけど。

レナについては、以前……入江診療所で盗み見た、あるレポートが情報元だから。

レナは両親の離婚で強烈なショックを受け、一時期精神的が不安定だった。学校で暴力事件を起こし、精神病院で治療を受けたこともある。


同時に……いや、今はいいか。とにかく恭文はまだ、どこまで信頼できるか分からない。

突如現れたジョーカーだし、赤坂も騙(だま)されている可能性だってある。”羽入”もいない以上、慎重にいかないと。


「予言の中で……レナが、間宮リナ達を殺したときです。教えてくれました」

「そう」


……なんて腹が立つ。こっちが必死に頭を振り絞って返答したのに、あっさり受け止めてくるなんて。

同時に肩すかしでもあった。もっと、何か突っ込んでくるかと。


「二つ。その件に梨花ちゃんの死は絡むのかな」


……でもそこで、胸が締め付けられる。そう言えば質問は、三つって言ってたわよね。


「……そこまで、深くは絡みません。少なくともレナがボクを直接的には」

「じゃあ三つ目。みんなが暴走するのには、また別の原因があるのかな」


二つ目もそのまま受け止めた……と思ったら、最大級の衝撃を送ってくる。


「どういう、意味なのですか」

「レナの場合は家族を守るため。詩音の場合は園崎家を疑っていたから。沙都子を守るための鉄平殺しも、沙都子を守るためだ。
これらの動機には共通点がある。みんなそれぞれに守りたいものがあり」


恭文は楽しげに笑いながら、右人差し指を立てた。


「強い危機感と、それを煽(あお)る”敵”がいたことだ。……その結果、揃(そろ)いも揃(そろ)って全く同じ手を取っている。疑心暗鬼に駆られた上でね」

≪つまり別の要因とは、それを加速させる”何か”……ですか≫

「人の言葉や行動か、又は全く別の要因か……正体は分からないけどね」


えぇ、それも分かる。だからこそ私に聞いているのですね、あなたは――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……僕の推測は的中らしく、梨花ちゃんの表情が一気にこわ張った。


≪あなた、最近頭が回りまくりですね。どうしました≫

「最近読んだ『たくあん連続殺人事件』のおかげかなぁ」

≪あぁ……あのトリック、絶妙でしたよねぇ≫

「いや、どんな殺人事件だよ!」

「警視庁の昼あんどん通称『たくあん刑事』が主夫連続殺人事件の捜査を始めるんだけど、その凶器がたくあんなのよ。
しかもダイイングメッセージがたくあんで、犯人候補もたくあん製造者やたくあん刑事の妻やら……結果たくあんがたくさん」

「ダジャレかぁ! というかやめろ……たくあんがゲシュタルト崩壊寸前だろうがぁ! 今はシリアス! シリアスやろうぜ!? なぁ!」


圭一は何を言っているんだろう。十分シリアスな筋書きだったのに。……じゃあ、お望み通りシリアスを頑張ろう。


「だが恭文の言うことも分かるぞ」

「圭一」

「……みんな、本当にいい奴なんだよ。転校してきたばかりの俺がなじめるように、全力で向き合ってくれてさ」


圭一は感謝していると言わんばかりに、瞳に涙を浮かべる。その上で。


「それで俺も、同じことが気になっていた」


僕に遠慮なく乗っかり、梨花ちゃんに視線をぶつける。


≪どんどん後追いしてきましたか。さすが圭一さん≫

「これが雛見沢(ひなみざわ)か――」

「その風評被害はやめてくれ! ……さっき梨花ちゃんも言っていたよな。夢の中では……綿流しの晩に人を殺しても、祟(たた)りにされるって。
それって逆を言えば、何かしらのルールとも言えるんじゃないか?」

「……あぁ、そういう意味か。僕の場合は『みんながキレる法則性』だけど」

≪圭一さんの場合は『全てオヤシロ様の祟(たた)りとされる法則性』。しかもそれらは決して同じではなく、また無関係ではありません。
更に言えば、北条家に対する村八分もその影響から。園崎家を敵に回すのと、祟(たた)りの対象となることは同意義になっている≫

「でもさ、それなら似たような時間が、もっと前からあってもいい。綿流しに限らずさ」


これは重要な手掛かりかも……そう思いながら、素早くメモを取る。

雛見沢(ひなみざわ)――梨花ちゃんの予言に冠する法則性っと。


「もちろん村にそんな法則性があっても、村人がみんな温厚なら実施される心配もない」

≪えぇ≫

「これらの法則性は五年前――連続怪死事件が起き始めてから築かれたものだ。しかも法則性にはまだ続きがある」

「何かな」

「梨花ちゃんの死だ。梨花ちゃんが見た予言に種類があるなら、どんな状況でも必ず梨花ちゃんは死ぬってことだろ?
つまり村や俺達がどういう状態であろうと、犯人は梨花ちゃんを必ず殺す――そういう、明確な意志が存在しているんだ」

≪だとしたら、余計に通り魔的犯行は考えられない。これは立派な計画殺人ということになります≫

「整理しようか。僕が疑問なのは<村人を凶行に走らせる法則性>。しかもそのトリガーはこれまでの話から判断するに」


少し思案する……来て一日目だし、情報もほとんど集まっていない。梨花ちゃんの話だけで判断するのは危険。

なので『暫定的かつ確認の必要あり』と銘打った上で、手帳にそのワードを書き込む。


「強い敵意と疑心暗鬼。予言の中で北条鉄平が殺されるのも、詩音や竜宮レナが暴走するのも、全てに<危機的状況の打破>が絡んでいる。
その結果相手を疑い、周囲を疑い、世紀末行動に出ているわけだ」

「俺が気づいたのは<祟(たた)りを常識化する風潮>。それと園崎家が同一視されているなら、確かに最有力容疑者だ」

≪そして……梨花さんの死に絡んだ絶対意志。梨花さん、何か知っているなら教えてくれませんか?≫


だから、改めて聞いてみるけど……視線でも問い詰めてみるけど。


「……梨花ちゃん」

「……みぃ……」


教えてくれないかー!


「仕方ない……ナカさん式尋問を行うか」

「何をするのですか。痛いことはやめてほしいのです」

「痛みはないよ。ただ……取調室で朝から晩まで、僕と向き合い続ける。それで僕は『吐けぇ』としか言わない」

「どういうテクニックだぁ!」

「痛みはなくても、頭がおかしくなりそうなので……お断りするのです」


仕方ない、ここは融和政策でいこう。焦りは禁物……今日が初対面なんだし、信じ切れないのは仕方ない。

なので焦る圭一には『問題ない』とアイサインを送り、対策を頭の中で纏(まと)める。


「分かった。ただ梨花ちゃん、一つ覚えておいて」

「なんでしょう」

「僕は梨花ちゃんを助けろとは依頼された。でも……梨花ちゃんが本心から助かりたいと思って、そのために手を動かさなかったら、何もできない」


僕の辛辣な通達に、梨花ちゃんと圭一が息を飲む。


「……ボクは本気じゃないと、そう言いたいのですか」

「うん、じゃあそういうことにしておこうか。僕達が優位で話を進められるし」

≪そうですね。そのまま気に病んでください≫

「最悪だな、お前ら!」

≪「ヒドい、圭一(さん)が裏切った……騙(だま)された!」≫

「俺を巻き込むなぁぁぁぁぁぁぁぁ! いや、首謀者だよな! その言いぐさはもはや俺が首謀者だよな! 貴様らぁ!」

「ボクは赤坂に聞きたいことができたのです。『もっと他にいなかったのか』と……」


いなかったのだから仕方ない。そう思いつつ、まずは僕の札から切る。


「なのでこの件、僕が何とかしよう」

「いいのですか。ボクは今」

「関係なくても、助けたいんでしょ? レナって子を」


梨花ちゃんはハッとして、全力で頷(うなず)いてくる。


「だけど」

「何かな」

「レナはその、基本人当たりの柔らかい人です。そしてとてもそう明で、家族をとても大切にしています。
だけど一度怒ると烈火のごとく感情が爆発して、全く止まらないのです」

「思い込みが強い奴の次は、キレたら怖い子って……この村、ほんと多いなぁ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その言葉には曖昧な表情でしか返せない。確かに恭文の言うことは正しい、この村は『そういうの』が多い村だから。

でも正直驚くしかない。圭一もだけど、『ルールX・Y・Z』の存在に気づくなんて。

……”この世界”の圭一は、今までとは何かが違う。だから期待も高まっていくんだけど、不安も強くなった。


いや、今はいいとしよう。その前にレナのことだ。ここは、前の世界みたいに対処させる方が正解だと思う。

レナが魅音に相談して、それで……北条鉄平と間宮リナの問題はおしまい。


「そんなレナが家族のことを言われて、冷静に話を聞いてくれるでしょうか。しかも面識ゼロな恭文も絡むと、余計に拒絶反応が」

「だから、相談するまで?」

「はい」

「前の予言ではそうだったから」

「……!」


この男はエスパーか何か? どうして私の意図が。


「こんなの、エスパーじゃなくても解けるよ」


また考えが読まれた!? というか、圭一も頷(うなず)いてくる!


「梨花ちゃん、沙都子の件もそうだったろ。前の予言では……ってさ」

「あ……」

「それに北条鉄平の帰還と、間宮リナの行動には密接な関係がある。……そのとき、鉄平の帰還は止められなかった。
それを何とかしたのが大まかな流れなら、間宮リナはどうしていたのか。というか、一つ気になることがあるんだ」

「気になること?」

「竜宮家の懐事情は温かい。これは間違いないんだよな」

「はい。ただ、魅ぃや沙都子達も知らないことなのです」


これも数々の予言で見てきたこと……元々竜宮家は、諸事情から雛見沢(ひなみざわ)を出ていた村民。

しかし両親の離婚を皮切りとした、レナの異常行動……その改善を目的として舞い戻ってきた。

それからは幸せだった。なのに間宮リナが現れた。レナの幸せを、家庭を壊す敵。


だからこそレナへの刺激は危険が伴う。


「でもレナは……沙都子が連れ去られる前の話です。魅音に相談し、美人局(つつもたせ)絡みの結婚詐欺を回避しています。だから、あの流れが来るなら」

「だけど梨花ちゃん、竜宮レナが暴走したときは、相談されなかったんだよね」

「え……」

「気づいた段階でもう手遅れ。今回が”そうならない”という保証はどこ?」


ただそれがとんでもない勘違いだと、何も知らない男に気づかされる。しかも圭一も同意見らしく、その表情は厳しくて。


「俺も同じことを思った」

「圭一」

「レナはさ、優しくて気がついて、しっかり者で……でもそれって、自分でそういうキャラを演じているようにも思うんだ」

「キャラ、ですか」

「かあいいモードもそうだけどさ。それでそういうときのレナって、どっか無理をしている。
俺が気になったのは、凄(すさ)まじい量の弁当を作ってくるときだ。天元突破ミートボールとかさ」

「何それ……宇宙規模?」

≪ギンガさんがいたら喜びますね≫


どういうことか分からなくて、つい小首を傾(かし)げた。……いや、ミートボールの話じゃない。

確かにそういうときはあるけど、それが無理に繋(つな)がるの?


「東京(とうきょう)時代にな、同級生が時折……ゲームを持って、突然遊びにきたことがあったんだよ。そのときはやたらとテンションが高くてさ。
後で聞いたらソイツ、そういうときは何か悩んでいるとか、親と喧嘩(けんか)したとか……ストレスがかかっていたんだよ」

≪キャラを演じる……ですか。その人は間宮リナとお父さんとの結婚を応援しようとした。
いえ、応援したかった。お父さんに、幸せになってほしいから。それも演技だとすると≫

「だからさ、逆に納得したんだよ。そうやってため込んだ結果……魅音も言ってたからなぁ、レナは『怒りんぼ』だって。
今日沙都子が泊まりにいったのも、そういうのを感じ取ったからじゃないかな」


それで、体中から血の気が引いた。……一度うまくいったからって、気持ちが緩んでいたのかもしれない。

前の『予言世界』では、レナがあの奇跡を覚えていて、だからと。でもそうだ、あのときもレナは無理をしていた。

間宮リナ達を殺す前も、殺した後も。そんなレナに気づくことも、止めることもできなかったのが、私達で。


あのとき私達は、レナの悩みには気づいていた。だけど何もしなかった。

相談してくれるまで待とうとか、元気づけようなんて考えていただけで、悩みに触れようとしなかった。

そしてレナはこうも言っていた。不幸な人間は必死なんだと。


それに沙都子も……確かに、恭文の言う通りだ。本気だったら……仲間に対して本気だったら、気づけていたかもしれない。


「……圭一は、凄(すご)いのです」


だからつい、そんな言葉が出ていた。


「仲間のこと、ちゃんと分かっているのですね」

「そこは経験があればこそ、だな」


あぁ、さっき言っていた友達のことか。だったら余計に突き刺さる……私は、何度繰り返した?

何度繰り返しても、表面上のことしか分からず、仲間の死すら傍観していたことになる。


……私も、もっと必死になるべきだろうか。


「ならレナにはさ、明日話してみようぜ。今日と同じように」

「……いや、今から動こう」


今、村の外から来て……今日初対面な子が、あんなに必死なのだから。


「梨花ちゃん、圭一、お父さんって夜にはいるかな」

「それは、いると思うですけど。最低でも沙都子は」

「なら今からがいい。まずは興宮(おきのみや)署に向かって、それから竜宮家だ」

「今からぁ!? だが、迷惑なんじゃ」

「だからこそだよ」


やっぱり無茶苦茶(むちゃくちゃ)な男だ。だがそれなりの計画はあるようで、表情には自信が窺(うかが)える。


「お父さんや沙都子ちゃんもいれば、その子も短気は起こせないよね」

「おい、まさか……!」

「無茶(むちゃ)なのです! いや、沙都子はまだいいです! きっとボク達の話も信じてくれるです!
でもレナの父親は……間宮リナが好きなのですよ!? たとえ真実でも、こんな話を受け入れるはずが!」


そこで恭文は不敵に笑う。


「誰が『間宮リナが美人局(つつもたせ)』って話すと?」

「え……いや、でも今!」

「問題なのは、『それを話した場合の反応』でしょ? だったら……話さなければいいのよ」

「はぁ!?」

「やっぱりそういう方向かぁ!」


あれ、圭一はどうして頭を抱えるの? 私、何か勘違いをしているのかしら。

あぁ、でも嫌な予感がする。あの表情は自信だけじゃない……とてつもない、底意地の悪さを感じさせた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


まずは興宮(おきのみや)署に移動――そこで何をするかと思ったら。


「いやぁ、お待たせしました」


黒いサマースーツに大きなお腹(なか)、白髪をオールバックにした、おじいちゃん刑事を呼び出してきた。

それも私や圭一ではなく、恭文が……この村に来て、一日目の恭文が。


待合室にきたその男に、恭文は立ち上がってしっかりお辞儀。


「前原さん、古手さんもお暑い中、よくいらっしゃいました。まぁ茶の一杯も出せませんが、せめて涼んでいってくださいー」

「どうも、大石さん」

「大石、忙しいところ申し訳ないのです」

「いえいえ。それで……蒼凪恭文さん」

「はい。初めまして、大石蔵人警部」

「初めまして」


更に二人は初対面。だからこそ私も、圭一も、状況が飲み込めないわけで。


「私、第二種忍者さんに睨(にら)まれるようなこと……あぁ、いろいろやらかしているからなぁ。
できればお目こぼしを願えません? 定年退職が間近なもので」

「今回はそういう話じゃないんです」

「というと」


そこで恭文は周囲の気配を探った上で、真正面の大石に詰め寄り。


「……赤坂衛さん、御存じですね」


赤坂の名前を出した。だから大石も目を見開き、楽しげに声を漏らす。


「えぇ、それはもう……あなた、赤坂さんとお知り合いですか!」

「実は赤坂さんに頼まれて、梨花ちゃんへのお使いにきていまして」


それでコートの中から取り出すは、大ぶりな一升瓶。……ちょっと、それはどうしたのよ。

コートに仕舞(しま)っていたら、間違いなくでっぷりお腹(なか)になるサイズじゃない。


「赤坂さんも綿流しくらいに来られるそうですけど、先んじてということで」

「私にもですか! いやぁ、ありがとうございます! うちのばあ様と飲ませてもらいますよ!」


大石は嬉(うれ)しそうに酒を受け取り、銘柄も確認。相当良い物をもらったらしく、『うひゃー!』と歓声を上げた。


「しかし赤坂さんも偉くなりましたねぇ! 私や古手さんへのお使いに、第二種忍者をよこすなんて!」

「あぁ、なるほど……大石さんも、赤坂さんと知り合いだったんですね」

「えぇ。前原さんが引っ越してくる、ずーっと前の話ですしね。でも懐かしいなぁ……今でも麻雀、鬼みたいに強いのかなぁ」


そこで大石が呟(つぶや)き、乾いた笑いを浮かべる。外を見やると、夕日が大石のシワや白髪を照らし、その深さを浮かび上がらせる。


「それでですね、一つ頼みが」

「だと思いましたよー。ただそうなると、なぜ前原さん達がいるのか……それが分からないんですが」

「赤坂さんの件じゃないんです。……北条鉄平と間宮リナという人物についてなんですけど」

「……えぇ」


あとはかくかくしかじか――この男のプランを聞いて、大石も楽しげに笑う。

無論”予言”については伏せているけど。でも食えないという意味では、この二人もよく似ていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そして夜――梨花ちゃんを引っ張りまわして申し訳ないけど、大石さんも連れて竜宮家に向かう。

竜宮家は村の道沿いにある一軒家。やや古めなそこの庭先は、なんかカオスなジャンク置き場となっている。


……なんだろう、あれ。ケンタッキー的な人とかも見えるんだけど。


「梨花ちゃん」

「アレについてはまた説明するのです。それより恭文、大丈夫なのですか」

「大丈夫大丈夫ー。僕、口げんかで負けたことがないから」

≪そうですよ、この人が負けるのなんて、女性にアプローチを仕掛けられたときくらいで≫

「叩(たた)き伏せること前提で答えるなぁ!」

「冷静に……冷静に、頼むのですよ……! 本当にお願いしますね!? 私どころかみんなの人生がかかっているのです!」

「古手さん、それは無駄みたいですよ……見てくださいよ、この満面の笑みを」


梨花ちゃんが頭を抱えたところで。


「ぽちっとな」


インターホンを押した。


「――はーい!」


すると明るく『はーい』と声が響いて、オレンジショートヘアーな女の子が出てくる。

青い瞳をキラキラに輝かせ、セーラー服の上に白花がらなエプロンを着ていた。


「あ、梨花ちゃんー。圭一くん……あれ、大石さん?」

「どうもー。竜宮さん、夕飯時にすみません」

「どうも」

「――あら! 圭一さん……それに梨花も! どうしましたの!」


そこで金髪ショート・緑セーラーの女の子が登場。あれが北条沙都子……また愛らしい子だなぁ。


「それにそちらの方は……レナさん」

「レナも分かんない。あの、あなたは」

「初めまして。竜宮レナさん、北条沙都子さん」


首を傾(かし)げるレナさん達に、本日何度目かの資格証提示。


「蒼凪恭文……えぇぇぇぇぇぇぇ! に、忍者さん!?」

「しかも第二種忍者って! わたくしや梨花とさほど変わらない……あ、圭一さんよりも年上ですのね。それでも高校生くらい」

「第二種忍者のデンジャラス蒼凪です」

「「デンジャラス!?」」

「……忍者のコードネームだそうだ。セクシー大下さんから名付けられたらしい」

「「同類がいた!?」」

「ちなみに」


さっと一定角度で右手刀を打ち込むと。


≪The song today is ”大都会”≫


大音量で音楽スタート! クリスタルキングの名曲だー!


「……何、この音楽!」

「これが忍術です」

「そうそう……んなわけあるかぁぁぁぁぁぁ! 貴様、何をしたぁ! どこにプレイヤーを隠してる! 吐けぇ!」

「馬鹿野郎! 手刀を一定角度で打ち込むと、音楽が鳴り響く……セクシー大下さんから伝授された秘技だぞ!」

「なん、だと……じゃあ、プレイヤーとかなしで」

「全くない!」


断言すると、圭一はわなわなと震え、そのまま崩れ落ちる。


「これが……これが忍術かぁ!」

「そう、これが忍術だよ。圭一」

「……大石、沙都子、任せたのです」

「梨花ぁ!?」

「はははははは、やめてもらえます? 私、オカルトとか専門外なんですよ」

「嘘だよ! 音楽を鳴らす忍者なんていないもん! レナは絶対認めないよ!?」

「まぁまぁ、そう言わず……どうぞ」


レナさんにマイクを手渡すと、ハッとして握り拳で――。


『あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

「レナさーん!?」


おぉー、いいシャウトだー。レナの声はアレだね……中原麻衣さんによく似ている! 舞-HiMEはよかったなー!


『はて……ちがぁぁぁぁぁぁぁう! みんな、どういうことかな! かなぁ! この人、明らかにおかしいんだけど!』

「レナ、これが忍者……忍術が使えるなら、忍者なんだよぉ!」

「前原さん、すっかり心がへし折れてますねー」

「あぁ、もうそれでいいのです」

『よくないよぉ!』

「梨花はもっとツッコんでくださいましぃ!」


よし、ボケでツッコませて、冷静さは奪った。この調子でどーんといこう。


「ところで竜宮レナさん、お父さんは御在宅ですか?」

「しかも平然と話を進めましたわ、この忍者!」

『ほんとだよ! レナ達の平穏を返してー!』

「竜宮家は――狙われている」


かつて蒼き流星SPTレイズナーというアニメで、主人公が『地球は狙われている』と言った。

なので僕もそれにあやかり宣言。田舎で『大都会』が響く中、竜宮さんはぼう然とする。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


和風な家に上げてもらい、リビングに座る。

黒髪短髪・眼鏡という真面目で優しそうなおじさんが慌ててやってきて、僕達の真向かいに座った。


レナさんのお父さんらしいその人にも挨拶しつつ、ささっと話を進める。

間宮リナについて知っているかどうか確認した上で、本題へ入った。


……このために、大石さんには後ろ盾となってもらったわけで。


「――リナさんが、上納金を強奪!?」

「えぇ。古手さんが今日、たまたま計画を聞いたんです。竜宮さん、北条さん、雛見沢(ひなみざわ)分校では読書感想文の宿題が出たとか」

「そう、ですけど」

「その題材を探しに、図書館へ向かったら……たまたま聞いたそうで。念のためここへ来る前に聞き込みしましたが、間違いありません」

「梨花、そうなんですの!?」

「はい……間宮リナさんについては、詩音と葛西が教えてくれたのです」


レナさんは信じられない様子で震え、僕に敵意を向けてきた。……ねぇ、これ理不尽じゃない? 僕が何をしたっていうのよ。


「ただですね、前原さんや蒼凪さん達はもちろん、園崎組からもお話を伺いましたが、間宮リナさん……何者かに利用されている可能性が」

「利用……!?」

「お父さん、確認ですが……間宮リナさんとは、フラワーロードのお店で知り合った。そうですね」

「は、はい」

「どうも間宮さんはお父様と同じ……いえ、これも失礼ですね。とにかく仕事の絡みで男に付きまとわれ、金銭をせびられていたようで」

「なんですって……まさか!」

「それゆえかどうかは知りませんが、金銭トラブルも抱えていたようなんです」


大石さんと僕が思わせぶりな表情を浮かべると、お父さんは顔面蒼白(そうはく)。……うん、嘘は言ってないよ?

だってヒモなんだよね。だったら嘘じゃないしー。正確じゃないだけだしー?

でも大石さんも相当だなぁ。アドリブ要素も多めな状況なのに、しっかり圧力をかけてくれる。


……赤坂さんが凄(すご)い人だって言った意味、よく分かるよ。僕が後藤さん達や大下さん達を見上げているのと、同じ気持ちだったんだろうね。

あ……それと北条鉄平の名前を出さないのは、沙都子ちゃんに配慮してのこと。

さすがに身内がそんな真似(まね)をしてるって知ったら……去年のこともあるしね。大石さんも快く了承してくれた。


「では、なぜそんな状況になったのか。一番考えられるのは……暴力を伴った脅迫。
それもリナさんが”従わなければ命の危険がある”と思えるほど、徹底したもの」

「じゃ、じゃあリナさんは……無実なんですね!」

「まだ確定はできませんけど。そこで問題になるのが……失礼ですがお父さん、間宮リナさんと親しい関係だったそうで」

「それは」

「お父さんが、そそのかしたって言いたいんですか」


わぁ、また敵意をぶつけてきたよ。圭一の言う通り、イメージを固めているって感じかな。

……でも、だからこそやりやすい。今固めているイメージを通し、守りたいのは誰?

横にいるお父さんでしょうが。だったら今回はその中に閉じこもって、こちらの蹂躙(じゅうりん)を受けてもらう。


「というか、そもそもおかしいよ。ヤクザの上納金が奪われる事件で、どうして第二種忍者さんが」

「いや、竜宮さん……立派な強盗事件ですからね? むしろ忍者や警察の領域ですって」

「それは、そうですけど……でもこのおかしい人、この村の人じゃないですよね」

「……竜宮レナさん、落ち着いて話しましょうよ。そんな荒(あら)ぶらずに……ね?」

「誰のせいだと思ってるのかなぁ!」

「人をいきなりおかしい呼ばわりする奴に、そんなことを言われたくないわ」

「はぁ!?」


どやぁ……と見下していると、なぜか圭一と梨花ちゃんから同時にげんこつが飛ぶ。


「何すんの!?」

「だから叩(たた)きのめす方向でやるなって言っただろうがぁ! お前の戦略辞書には『徹底抗戦』の四文字しかないのかぁ!」

「圭一、それは違うよ! 僕達の辞書にあるのは――見敵必殺≪サーチアンドデストロイ≫! カギ括弧も入れて合計十七文字だよ!」

≪そうですよ。私達の方が性能も高いですよ。ファミコンとPS3くらいの差がありますよ≫

「同じことだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! つーか性能で言ってもファミコン以下だろうが!」

「その辞書、間違いなく役立たずなのです……!」


梨花ちゃんがなぜかまたげんこつを放ってくるので、右スウェーでさっと回避。しかし圭一が回避先でもう一発……痛い!


「レナ、恭文がおかしいのは否定しません……むしろもっと言ってください」

「梨花ちゃん……」

「一体どれだけ暴れていますの、この方」


おかしい、梨花ちゃんがとてもヒドいことを。そのせいで竜宮レナや沙都子ちゃんも、同情的な瞳を向けてくる。


「恭文はボクと大石を訪ねてきてくれたのです。以前知り合った刑事さんから頼まれて、お届け物を」

「それで恭文の仕事を聞いて、俺達が相談したんだよ」

「もっと他にいなかったのかなぁ……かなぁ」

「それは言うな……!」

「でもボク達には真相が分からなくて……もちろん村にきたばかりの恭文も」

「それで詩音さんや、大石さんに相談したのですね。ようやく合点がいきましたわ」


二人の必死さと、自分を心配しての行動。それゆえにレナさんは何も言えなくなる。いやー、予定通りで楽しいねー。


「あー、じゃあ話を戻しますね。……間宮リナさんが起こしていた金銭トラブルに、脅迫していた男の影があるとします。
つまりそれは、間宮リナさんが金品を欲しがった場合、そのまま男の要求になるわけですよ」

「つまり僕達としては……お父さんがそういう要求を受けたか。それに応えたか……それを聞きたいだけなんですよ」


そう言いながらお父さんの反応を見ると、小さく息を飲み始めた。これは……クロだね。

要求を受けたことがある。それも決して小さくはない要求だ。


「それに上納金強奪も、間宮リナさん一人の計画じゃありません。
梨花ちゃんが見た光景は、普通ならどう見えるでしょう。竜宮レナ……いえ、礼奈さんとお呼びした方が」

「レナでいいです」

「そうですか。それじゃあ竜宮レナさん、この状況をどう思いますか?」


なお、レナは愛称らしい。本名は『竜宮礼奈』……愛称としても中途半端だけど、拘(こだわ)りがあるんでしょ。


「……どういう意味かな」

「一般論で聞いているだけですよ。普通なら、どう見えるか」

「……密談、だよね」

「そう、密談です。女性一人に、男数人が絡んで、密着する勢いでひそひそ話をしていた」


その結論を竜宮レナから引き出した上で、右指をパチンと慣らす。


「逆を言えばその場でリナさんの両隣が……又は別の誰かがナイフを突きつけていても気づきにくい」

「は……!?」

「……ボク達も恭文に指摘されて、気づいたことなのです。力尽くならリナさんは絶対勝てない状況なのです……囲まれているから」

「もしかするとリナさん、単に金品を要求されるだけではなく、上納金強奪の主犯となるよう誘導されているのでは」

「ど、どういうことですか!」

「スケープゴートですよ。間宮リナという分かりやすい囮(おとり)があれば、それ以外の奴らは逃げられる公算が高いでしょ。
それを知っているのは元々脅していた男達だけ。それなら、まだ納得がいきます」


そこでお父さんが小さく息を飲む。……かなり無茶苦茶(むちゃくちゃ)なこじつけなのにねぇ。

現に娘のレナさんや沙都子ちゃんは、僕に疑念をぶつけてくる。でも真っ向否定はできない。

今梨花ちゃんが言ったでしょ。囲まれている……そうとも捉えられる状況だったって。


その前提がある限り、可能性の一つとしては十分ありだ。それに、ぶっちゃけ二人が騙(だま)せなくてもいい。

問題はお父さんの意識を変えること。全幅の信頼を寄せていたなら、そこに一点のシミを作ること。

信頼と愛情というシーツが白ければ白いほど、そのシミは気になるものだ。それだけでも十分だよ。


ただその意図を感じ取られてもマズいので、すぐさま別の話に切り替える。


「確認ですけどリナさん、武術有段者ではありませんよね」

「わ、私もそういう話は……礼奈は」

「……聞いたことが、ないよ」

「しかし上納金強奪については対策を整えました。十中八九失敗します。
……そうしたら奴らは、新しい金づるを探すことでしょう」

≪だからこそ先ほど、失礼とは思いましたが……確認を取りました。金品をねだられたことはあるかと≫


そこでお父さんは、竜宮レナさんは、沙都子ちゃんは察する。……ここは融和政策でいくかな。そろそろ限界値だろうし。


「もちろん娘さんの前では答えにくい話です」


すっと引いて、追及に身構えていた竜宮レナへ肩すかし。おぉおぉ、こっちの考えが見えず、いら立っているねー。


「ただ予測通りの場合、あなただけの問題ではありません。……娘さんにも危険が及びます」

「――!」

「相手は金のためなら、女性一人を人形のように扱う鬼畜どもです。そんな奴らがレナさんにだけ、紳士的な態度を取ると思いますか?」

「それは……」

「お父さん。……話は分かりました。でも全て杞憂(きゆう)だと思いますので、どうぞお引き取りを」

「だがレナ、お前もさっき……言っていたじゃないか。リナさんは密談をしていた」

「お父さん」

「体を密着していた。たとえ隣の奴らに脅されても、分からないような距離感だと……」


そこで竜宮レナは察し、僕に厳しい視線を送る。そう……そのために答えてもらったのよ。

おのれを『同意者』として強引に巻き込むためにね。そして否定もできないでしょ。

僕は飽くまでも一般論として聞いただけで、結論を引き出したのはおのれ自身。


僕もそう解釈できるからこそ、その身を案じるべきだと『善意の提案』しかしていない。

何より……この人、リナには相当貢いでるんだろうね。だからこそ不安に蝕(むしば)まれているんだよ。

しかもその被害が娘に及ぶと考えたら……もうここまで言えば分かるでしょ。僕は竜宮レナを人質に取った。


離婚して、一緒に雛見沢(ひなみざわ)に戻って、暮らしている一人娘だ。大事じゃないはずがない――。


「あなた、まさか最初から――!」

「最初から? ……あぁ、そうですね。僕も村に来たばかりですけど、圭一や梨花ちゃん、詩音達にはよくしてもらいまして。
そんなみんなの仲間だっていう竜宮レナさんやその御家族が大変な状況なら、できる限り力を貸したいと……最初から思っています」

「そんなのお節介だよ!」


竜宮レナは怒り心頭で睨(にら)むものの、これ以上の発言を躊躇(ためら)っているようだった。さっきみたいに絡め取られたら……そう警戒している。

慎重だねぇ、でも正解だ。……頭に血が上っているから、こんな簡単なトラップにも引っかかるのよ。


今、竜宮レナは地雷を踏んだ。

今この場で、僕が……一番に出してほしかった言葉を。


「……へぇ……」


すると沙都子ちゃんが感心した様子で……しかし不敵な表情で笑う。

あれ、何だろう。部活に誘ってくれた圭一達と、全く同じような気配が……!


「そう、お節介ですよね。仮に間宮リナさんも悪意ある人間だったとしても、余所(よそ)様の家庭に飛び込むんですから」

「だったら!」

「そうして気づかった結果、去年は北条悟史に対し何もできなかった」

「え……」


沙都子ちゃんの表情が一変。いきなり兄の名前が出て、困惑するのも無理はない。


「どういう、ことかな」

「それは僕じゃなくて、圭一達に聞くべきです」


それは竜宮レナも同じだった。だから……厳しい表情のまま、圭一達を見やる。


「……圭一くん、梨花ちゃん、どういうことかな」

「……北条悟史……沙都子の兄、去年の綿流しで失踪してるんだよな。それで悟史と沙都子をいじめていた叔母も殺された。
でもそれは突然起きたわけじゃない。北条家の家庭環境が荒れていたのは、誰の目から見ても明白だった……そうだな、レナ」

「……うん。悟史くん、失踪の少し前から様子が変だった」

「それは、俺も梨花ちゃんから聞いた」

「……ボクは……去年、できる努力をしませんでした。御三家の一角なのに、北条家の現状を改善できなかった。
叔母夫婦との仲はもちろん、北条家への村八分状態も緩和できない。ただ見ていることしかできず……今でも思うのです」


梨花ちゃんは沙都子に……心から申し訳なさげに、その視線を送る。


「もし手を伸ばしていれば、もっと声をかけていれば。
悟史は今もここにいて、一緒に部活を楽しんでいたのかと」

「梨花……」

「ボクもお節介だと思いました。最初は何かあったとき、レナが相談してくれるのを待とうとも考えました」

「だったら、どうして」

「でもこうも考えました。それでもし、レナがボク達に迷惑をかけることを躊躇(ためら)ったら?
一人で悪い考えに突っ走ったらどうするのかと……悟史みたいに」

「……!」


竜宮レナが息を飲む。怒りを消し、何かを思い出すように視線を泳がせ……そして、結局は何も言えず、俯(うつむ)いてしまう。


「レナ、お父さん、本当にごめんなさい」

「すみませんでした! 恭文も、大石さんも……もちろん詩音も悪くないんです!
みんな、俺達の声を聞いて、力になろうと決めてくれただけで!」

「……謝る必要はないよ」


お父さんは竜宮レナを制し、僕に……大石さん達に、静かに頭を下げる。


「君達が礼奈のことを大事に思ってくれているのは、よく伝わったから。
蒼凪さん、大石さん、娘が随分失礼なことを……申し訳ありませんでした」

「お父さん……」

「いえ。……現状を見る限り、間宮リナさんは捕らわれている公算が大きいです。実際元の職場にも、最近は顔を出していないそうで」

「それも、上納金絡みの……話が」

「かもしれません。なので力を貸してほしいんです。
間宮リナさんが連絡してくる、又は家に来たら、すぐに教えてください」


アドレスをメモ帳に書いて、用紙を引きちぎった上で渡しておく。


「もしかしたら表立って言わないかもしれません。でもあなた達との何げない会話で、SOSを残すかもしれない。
それに気づけるのは、新しい家族になろうとしている……あなた達だけなんです」

「我々しか、気づけない……」

「もちろん僕達もお手伝いできればと思います。……お父さん、レナさん、突然押しかけた上、不愉快な話をしたと思います」


更に誠意を表すため、しっかりと頭を下げる。


「それについては、深く謝罪します。申し訳ありませんでした」

「蒼凪さん、頭を上げてください! ……我々は感謝こそすれど、あなた達を責める理由がありません。そうだろう、礼奈」


そう問いかけられて、竜宮レナは戸惑う……迷う。

お節介だとはね除(の)けるのは簡単だ。家族であれば、ある程度の力押しも通用するだろう。

自分達は大丈夫だ。自分達にそんな不安要素は迫らない。だから……でもそれは無理。


なぜなら竜宮レナもまた、北条悟史に何もできなかった一人なんだから。

様子に気づきながら、できる努力をしなかった。それがあるとも考えなかった。

だから梨花ちゃん達の危惧は否定できない。北条悟史もそんな相談はしなかったから。


だからこう答えるしかない。重く、躊躇(ためら)いがちに……自分から閉じていたドアを開く。


「…………うん」


僕の言葉はうさん臭く感じても……二人の言葉と、去年の事件は真実なのだから。


「前原くん、古手さんも……知らせてくれてありがとう。大石警部もありがとうございます」

「いえ、職務ですので」

「もし何かあれば、必ず連絡すると約束します。そのときは……よろしくお願いします」

「「いえ、こちらこそ」」


お父さんとしっかりお辞儀し合い、話は無事に纏(まと)まった。

改めてお父さんとお辞儀し合い、後のことは大石さんに任せ、竜宮家を出る。

なお竜宮レナは不愉快そうに……だけど、悲しそうに俯(うつむ)いたままだった。


それを支える沙都子ちゃんもまた困った様子。これは……嫌われたよなー。

まぁいいか。この作戦の言い出しっぺは僕だ。だったら……僕が一番、血を流さなきゃ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雛見沢(ひなみざわ)の夜はとても静か。ネオンなどもなく、月や星明かりが僕達を照らしてくれる。

そんな道を歩いていると、やっぱり清々(すがすが)しい気持ちにもなって……梨花ちゃんは、高台からよく星を見るらしい。


「恭文はたぬきなのです」


ようやく神社まで戻ってきたところで、ずっと黙っていた梨花ちゃんがポツリと呟(つぶや)いた。


「悪党なのです」

「梨花ちゃんが言葉の暴力で傷つけてきた。あぁ、これはフラグだー。祟(たた)りが起きるー」

「せめて疑問に持てよ、お前……!」

「なのです。……間宮リナの美人局(つつもたせ)には触れず、その存在や言動に疑いを持たせるって。その上お父さんまで巻き込んで」

「巻き込む? 当事者でしょうが。……でも正解だった」


そう言いながら思い出すのは、やっぱり竜宮レナの表情。


「竜宮レナ、僕に敵意を向けまくっていたしね。大石さんや沙都子ちゃんもいたのに」

「……お前、初っぱなの行動を振り返った方がいいぞ」

「え、何か問題が」

「問題だらけだろうがぁ!」

「あの子だけ納得させようとしても、間違いなく否定されていたよ」

「流すなぁ!」

「みんなで幸せになろうよー」

「なれるかぁ! 振り返ったのか! 振り返った結果、気にする必要もないと判断したのか……貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!」


あれ、圭一がアグレッシブ! ちょ、首根っこを掴(つか)んで揺らすな……誰か助けてー!


「待って待って! それも狙いだったんだから!」

「はぁ!? いや、待て……まさかレナをわざと怒らせて、話を有利に進めようとしたのか!」

「だから最後はお地蔵様みたいだったでしょ? ……自分も去年、北条悟史に何もできなかったから余計に」

≪あの時点で圭一さん達を傷つけたとか、せっかくの心配や気持ちを踏みにじったとか、そういう結論に達してますからね。
……あとはあなた達次第ですよ。この人は完全に嫌われ者でしょうけど、仲間のあなた達なら≫

「お前……本当の狙いはそこか! 自分をダシに、レナと俺達がこの件で話せるように!」

「おのれらが嫌われたら、本当に暴走しかねないでしょ」

「……ごめんなさい」


すると梨花ちゃんが、小さく謝ってきた。


「別にいいよ。幸せになろう、幸せを守ろうって頑張ってた結果が、壊れかけてるんだ。あれくらいは言うよ」

「そっちじゃないのです。ボクは、恭文と大石に嘘をつかせました」

「それは俺もだ……すまん」

「圭一はともかく、梨花ちゃん……そう思うなら、札は早い内に晒(さら)してよ」


希望を持たせて、結局駄目でしたと謝る立場に立たせた。だから、ごめんと言いたい。

それは分かるけど……でも、それに対して僕とアルトは、厳しい言葉を告げるしかない。


「今謝られても、正直心に届かないわ」

「……!」

「おい、恭文」

≪私も同感ですよ。……綿流しまでのんびりは待てませんよ? あなたがその姿勢なら、私達も好き勝手に暴れるしかない≫

「今日、みたいに……ですか」

≪いいえ。……今日のことが遊びに思えるほど、徹底的に――です≫


暗に『このままじゃあ助けられない。歩調も合わせることができない』と断言もしている。

本当は梨花ちゃんの心情にも配慮したいけど、さっきの話を鑑みると釘(くぎ)くらいは刺しておきたい。

鷹野三四と富竹ジロウ――五年目の被害を止めることもまた、梨花ちゃんを助ける上で重要なワードだ。


ここで重要なのは、梨花ちゃん自身が怪死事件の被害者じゃないということ。

綿流しの晩に殺されるのは、梨花ちゃんだと思ってたのよ。でもそうじゃない……しかもその二人の名前だけしか出さなかった。

それは幾度の”予言”をかいま見ても、決してぶれないって捉えられる。つまりこれもまた、犯人の絶対的意志が絡んでいる事象。


なら、同じ意志の元必ず殺される梨花ちゃんは? その件とコレが無関係とは思えないのよ。

そうなると、事件が起きてから対処……なんていうのは遅すぎるように感じる。二人の死がフラグの一つなら、それを止められないのは――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文とアルトアイゼンの鋭い叱責により、私達は言葉をなくしてしまう。……本当にお節介だ。

こっちの事情も知らないで全部晒(さら)せと言う。幾ら大事件を解決しようと、この村を覆う事象は別格だと言うのに。

圭一達とさほど変わらない年の忍者と、宝石みたいなコンピュータだけで解決できる問題じゃない。


そんな相手に好き勝手をされても困る。でも赤坂との繋(つな)がりが消えるのは、もっと困る。

どうすれば……そこまで考えたところで、それも八つ当たりだと気づいてしまう。

恭文達は別に、自分達のことだけで言っているわけじゃない。圭一も含めて告げているんだ。


圭一にも細かい事情を説明していないのは、今までの様子だけでも分かるのだろう。だから告げている。


――このままでは去年の繰り返しになる。悟史に手を伸ばせず、後悔した……その言葉すら嘘にしてしまうと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


梨花ちゃんは黙ってしまった。悔しそうに拳を握り締め、僕と目を合わせようともしない。

……これは、僕もチップを切る必要があるね。ただ入江機関がこの件と絡んでいるかが……もうちょっと調べたいしなぁ。

いや、そうは言ってられないか。一方的に札を晒(さら)せと迫れる状況じゃないからこそ、対価の支払いは恐れちゃいけない。


何せ綿流しまではひと月を切っているんだ。既に臨戦態勢と考えた方がいい。


「だがお前、自分をチップとして平然と使うのかよ」


考えを纏(まと)めていると、圭一が『まともじゃない』とあきれ顔。そんな言葉で静寂を破ってきた。


「それも今日知り合った俺達のために」

「そうでもない。僕達はただ」

≪ゲームはギリギリまで楽しむ主義なんですよ≫


アルト共々軽く答えると、圭一は一瞬神妙な顔つき。


「ゲームか……だったら、やっぱ明日雛見沢(ひなみざわ)分校に来いよ!」


しかしすぐに破顔して、笑って来校を勧めてくる。


「例の部活?」

「あぁ! 楽しみだなぁ、梨花ちゃん……!」

「……やっぱり、僕が楽しむ方向じゃないよね……!」

≪いいじゃないですか、私が楽しめれば≫

「僕を度外視しないで!?」


何だかんだで明日が楽しみになっているところで、神社に到着。そのまま軽く手を振り、二人と別れる。


「じゃあ僕はこっちだから」

「おう」

「お休み、梨花ちゃん、圭一」

「……はいなのです」

「気をつけろよ。それと……今日はありがとな」

「ううん、こっちこそ」


圭一達に見送られ、興宮(おきのみや)まで戻る……ように見せかけ、別の道からUターン。

なんて慌ただしい一日だったんだ。来て早々トラブル続出……あははは、いつものことかー。


”さて、アルト”

”はい”

”気づいてるよね”

”レーダーでは捉えられませんけど、光学センサーではバッチリ……尾行されてますね”

”うん”


この村で……こんな、平穏な村で、僕を尾行する奴がいる。それ自体があり得なくて、つい笑っちゃう。

梨花ちゃんと接触した上で、第二種忍者だってバラしたからなぁ。一気に警戒されたんでしょ。


”でもよく理解できましたよ。この村には、明らかに普通じゃないものが潜んでいる”

”今日のところは、大人しくした方がいいね。村全体の捜索は昼間を中心として、怪しまれないように”

”えぇ。というわけで”

”竜宮家の近くでキャンプだ――!”


さっきも言ったように、梨花ちゃんのペースに合わせる時間もない。こっちはこっちで派手に動かないと。

……何にしても、その必要がありそうだしね。チェックした携帯の着信履歴には、PSAの劉さんがいたから。


(第4話へ続く)




あとがき

恭文「というわけで、幕間リローデッド第3巻が今日(2017/03/30)販売開始です。みなさん、何とぞよろしくお願いします」


(ご購入いただいた皆さん、本当にありがとうございます)


恭文「というわけで、竜宮家はいい感じで混乱したところで次回……ようやく一日目終了。次からはもっとサクサクいくぞー。お相手は蒼凪恭文と」

未央「本田未央です! ……御主人様、朝食はもうすぐでき上がりますね」

恭文「……なぜこうなった……!」


(現在パッション代表、メイド服でご奉仕中)


未央「そんなの簡単だよ。今度の舞台でメイドさんの役をやるから、実地練習を……フェイトさんも許可してくれたし」

恭文「家主の僕が何も聞いてないってあり得ないと思うんだ! つーか昨日の同人版経過報告で出ていたの、このためかい!」

古鉄≪そう言えば凛さんは。結局あのまま立ち直ることもできず、お泊まりしましたよね≫

未央「さやか(まどマギ)ちゃん達とオルフェンズの振り返りを……視聴覚室からちょくちょく泣き声が」

恭文「あ、うん」


(あのシーンかなと目星を付ける蒼い古き鉄であった。
本日のED:島みやえい子『ひぐらしのなく頃に』)


恭文「しかし竜宮家が大変なことに……どうしてこんな」

レナ「ほぼ恭文くんのせいだと思うなぁ!」

恭文「え、僕は間宮リナ達とは会ったこともないけど」

レナ「そういう意味じゃないよ!」


(おしまい)



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