小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory62 『雨』
ナイン・バルトは通信を切ったらしい。仕方ないので僕の携帯を取り出し、試合の状況をチェック。
「バルト……おい、バルト!」
「繋(つな)がりませんか」
「あぁ……!」
大下さんの説得がよっぽど心を打ったのか、会長は別人のように狼狽(ろうばい)し続けていた。……根は悪い人じゃないってことだね。
「会長、エンボディってのは何ですか」
「……アイラ・ユルキアイネンはガンプラを動かす流体的粒子や、その力強さを、感覚的に確かめることが可能だ」
≪それが彼女の強さ……私達の予測通りですね≫
「エンボディは彼女の脳波を受信し、粒子を視認可能な映像に変換……ようは、生来持つ能力の補助システムだ。
彼女以外には発動すらしないため、ノーマルスーツ<コスプレ>に偽装することで……不審がらせずに使用可能と」
「その出力を限界まで上げるってことは」
「彼女に相当な負担が、かかる……」
≪何なのそれ……バーサーカーシステムとかと何も変わらないの!?≫
これは立派な自供――鷹山さんがこっちを見やるので、アルトが両手をパタパタさせて”連絡”開始。
≪あなたはそんなことまでして勝って、得たトロフィーで……あの子が喜ぶと本気で思っていたの!? おじいちゃんのくせに!≫
「孫に喜んでほしかった……それだけのことを」
それは言い訳じゃなかった。
悔恨の涙を流し、打ち震えながら……会長は拳を握り締める。
「私は、間違えていたのか……!」
「……あなたみたいな人を知っています。孫との接し方が分からず、結局孫に『隙間』を作ってしまった男を」
「隙間……?」
「その子は心を追い出しました。当たり前に流す涙や喜び、その大切さを捨て置いて。
そして男は、自分が隙間を作ったとも……幸せにしようとして、逆に奪っていたことも知らず、驕(おご)り続けていた」
それは未来予想図でもあった。
自分のせいで孫<ルーカス>が歪(ゆが)む。幸せを幸せと感じられない子になる。
そんな恐怖に打ち震え、会長はまた涙をこぼした。
「でもあの子のために後悔して、涙を流せる気持ちがあるなら――あなたの罪を数えましょう」
「罪を、数える……」
「忘れるのでもなく、償うのでもなく、過ちを受け止め、やり直すんです。あとはSPの教育もしっかりしておくように」
短慮で殴ろうとしたSP達をにらみ付けると、奴らは震え上がりながらも全力で頷(うなず)き敬礼。
「もしこれ以上逃げるのなら、今度は容赦しません」
「俺達は狙った獲物を逃がしませんので、お覚悟を」
大下さんと鷹山さんも念押しをすると、会長は唖然(あぜん)とした顔を収め。
「すまない……だが、ありがとう――!」
涙を払いながら頷(うなず)く。
よし、これでこっちは解決……あとはナイン・バルトの確保だ。
「鷹山さん、大下さん、会長をお願いします」
「分かった」
「気をつけろよ。やっちゃん、こてっちゃん」
「はい!」
≪さぁ、サクッといきますか≫
≪なの!≫
試合映像をチェックしながら全力ダッシュ――残虐ショーが繰り広げられている中、ナイン・バルトはまだセコンドブースにいる。
ここからならギリギリ……いや、間に合わせる!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ただ頭が痛くて、苦しくて……悲しくて、寒くて。
それからようやく解放されたら、アイツが……わたしの前にいた。
「おいアイナ……何してんだよ」
問いかけられても、答えられない。俯(うつむ)くことしかできない。
「何してんだって聞いてんだよ……アイナァ!」
「レイジ、落ち着け。コイツは」
「名前なんてどうでもいい! ファイターなのを隠していたこともだ! けどな……これだけは宣言するぞ!
あんな戦い方をするお前は! 絶対に許さねぇ!」
……それは、朧気(おぼろげ)に覚えている光景。
勝つために、生きるために、相手のガンプラを……ベース上には、私が壊したガンプラ。
もう修理なんてできないと思うほど、ぼろぼろで……そうだ、フェリーニって人はコイツの友達だ。
そんな人のガンプラを傷つけたなら……心が、歪(ひず)む。
「倒す――」
レイジは、憎しみの瞳でわたしを見ていた。
わたしが富める者を、わたしから奪う者を見る瞳と同じ。
貧困の中、自分自身にも、人にも……何度も見ていた輝き。
「次のバトルで、必ずお前を倒す!」
歪(ひず)んだ心は、ひび割れていく。
「アリアン王家の――名誉と誇りにかけて!」
遠くなっていく。
あんなに一緒だったのに――コイツといることが、普通になってきたのに。
壊れていく。ううん、わたしが壊した。わたしにはもう、何も残っていなかった。
何かを得るために進んできたのに、それ以上の何かを失った。その痛みでわたしは……また意識を、手放した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
突如運営委員会から届いた知らせ。不正はいけない……と思っていながらも、携帯越しに試合映像を確認。
まだまだ出張中ではあるけど、責任者として状況推察も必要でねー。
……そうしたら。
『次のバトルで、必ずお前を倒す! アリアン王家の――名誉と誇りにかけて!』
あの少年の言葉で、その携帯そのものを落とし……モニターを割ってしまう。
「あぁぁぁぁぁ……!
ああああああああああああ――!
アリアン……やはりあの少年は、アリアンの王子!
アリーア・フォン・レイジ・アスナ!
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory62 『雨』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ネメシス会長を鷹山さん達に任せ、僕も試合会場へ。
逃げようとしていたナイン・バルトの前に立ち。
「……! どけぇ!」
とか抜かすので、アルトを逆刃刀モードでセットアップ・抜刀――逆風一閃。
「――――!?」
汚いイチモツを打ち砕きながら跳ね上げ、天井とディープキスを交わしてもらう。
「往生際が悪いよ、お前」
≪あなたにも聞きたいことがたっぷりあるので、頑張って生きてくださいね≫
まぁ深すぎて天井を砕き、だらだらと血が流れるけど……死にはしないでしょ。
「さて」
アルトを納刀した上で、バトルベース付近を確認。
「ヒカリは……」
「修羅場中らしいな」
ヒカリ、心配になって先行してたんだけど……大丈夫そうだね。
……逆にレイジは怒り心頭。まぁ、フェリーニがカウンターを決めたといっても、あんな残虐ファイトをやらかしたらなぁ。
「や、恭文さん!」
そこで後ろの方から、慌てて駆けてくるトオルと卯月、それにディード&ベル……やっぱりきたか。
「あの、アイナちゃんが! いや、アイナちゃんっていうのは、先日一緒にガンプラを作って……でも、あのー!」
「落ち着け。その辺りのことは聞いてるから」
「は、はい……でも、どうして」
「……察するに」
トオルが痛々しそうに、天井に埋まった馬鹿<ナイン・バルト>を見やる。
「この、死にかけな野郎が悪巧みしてたってところか?」
「この程度じゃ人間は死なないよ。僕とアルトなんて、足下で核爆弾が爆発したのよ?」
≪そうですよ、死にませんって≫
「お前達は例外だ……いいな」
あれ、トオルが諫(いさ)めてきた! というかディードと卯月も全力で頷(うなず)いてきて……おかしい! 人間ってとっても強いものじゃ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後はもう、大変だった。アイラ・ユルキアイネンさんは気絶して、病院に搬送。
荒ぶるレイジを恭文さんや卯月先輩、トオルさん達にも押さえてもらい……何とか部屋に戻して。
リカルドさんとあおは、釈然としない様子で見送ってくれた。いやもう、対戦相手なのに申し訳ないと言いますか。
「レイジ、正座」
「もうしてるだろうが……!」
「心からしていない。本気で正座したいと思えば、どこでだろうと土下座ができる……そう、たとえ熱く燃えたぎる鉄板の上だろうと」
「なんで土下座の話になってんだぁ!?」
「何か問題が?」
恭文さん、にらみ付けないでください! それは十分問題です! それは疑いようもなく理不尽です!
いや、レイジがバーサーカー状態で大変でした! でも理不尽は駄目です!
「それで蒼凪プロデューサー、ネメシスの方は」
「ナイン・バルトは現在、警察病院にて事情聴取中だ。なぜかガタガタと震え、半狂乱だけど」
「……あの一発でどんだけトラウマを刻み込んだんだよ」
「はい……」
それも間違いなく恭文さんのせいだ……いや、反省をしないよりは十分マシだけど!
「フラナ機関の本部も、今回の騒動を受けてフィンランド警察がガサ入れ。
関係者と研究資料も確保したけど、いろいろアウトなものが出てきてるよ」
「でも、ヒドいです……身寄りのない子どもを脅迫して、利用するなんて!」
「残念ながら、”こういうこと”は例も多いんだよ」
「ルーマニアの『チャウシェスクの子ども達』みたいにね」
それでチームネメシスが――アイラさんがどういう身の上で、何があったかを説明してもらった。
でもレイジは、ベッドに座ったまま俯(うつむ)いていて。怒りの形相でいら立ち続けていて。
「チャウシェスク……杏さん、それって」
「ルーマニアにはその昔、ニコラエ・チャウシェスクって独裁者がいてね。一九六六年、その政権は人口を増やすため、人工妊娠中絶を禁止した。
妊娠中絶ができるのは、四十二歳以上の女性……若しくは既に四人以上の子どもがいる家庭だけ。それも例外的にだ」
「更に離婚にも大きな制約を設けて、禁止したんだよ。……その結果ルーマニアの人口は増加した。
ただ育児放棄によって孤児院に引き取られるか、家を飛び出すか、あるいは捨てられた子ども達が多く現れた。
それがチャウシェスクの子ども達――チャウシェスク政権が革命によって倒された後も続いている問題だよ」
「……それで一番の問題は、ストレートチルドレンと化した子ども達が地元のギャングなどに拾われて、鉄砲玉のように扱われる点です」
恭文さんと杏さんの説明を引き継ぎ、ニルス君が衝撃を放つ。
つまり悪い人達に利用されて……それって、今回の件と全く同じじゃないか!
「しかもルーマニアはヨーロッパ諸国の中で、エイズ感染率が最も高い国です」
「エイズ!? え、それって今の話と」
「関係があります。……チャウシェスク政権末期、注射の針が不足していたんです」
「針?」
「孤児院などの保護施設で、輸血や栄養剤の注射に使うものですが……それを使い回していた。
その結果キャリアが増加し、ストリートチルドレンは生活のため、観光客相手の売春行為をする」
「はぁ!?」
「それがヨーロッパ地域での患者増加を招いていたんです」
……ニルス君の説明で、卯月先輩共々ぼう然としてしまう。
飽くまでも一例……ストレートチルドレンが、彼らの生活がどういうものか知らなくて、その上で一例を示した。
でもアイラさんが、そんな……いや、こんなことを言うのもおかしいのか。
僕、話したこともないんだから。
「ただチャウシェスク政権打倒後のルーマニア政府により、問題への対処は続いていますし、世界同時行動不能事件の影響で加速もしていますが」
「だからアイラ・ユルキアイネンについても身体検査の最中。何らかの病気持ち<キャリア>だった場合、対処も必要だし」
「本当に、そんなことが……」
「春を売るのに年は関係ない。さっきニルスが言った”セックス・ツアー”についても、性別を選ばないから」
「……!」
それはつまり、男でも、同性でも――。
たとえ、”売る人間がどれだけ幼くても”。
今まで感じたこともない嫌悪感で、嗚咽(おえつ)がこみ上げそうになる。
「何にせよフラナ機関はこれで終わりだ。ネメシスについても、アイラの出自を知っていたのなら責任がある。
PPSE社もこの事態を重く見て、ネメシスの公式大会永久出場停止を検討しているみたい」
「そう、ですか。そこはやっぱり、例のエンボディシステムがあるから」
「ガンプラの制作技術、そしてバトルの操縦技術」
そう言いながら恭文さんは僕を、そしてレイジを見やる。
「それに次ぐ第三の才能……正しく新人類<ニュータイプ>。でも、それをあんな形で利用するのは間違っている」
「……はい。何よりそれは”遊び”でもなければ、”本気”でもない」
「理由もクソもねぇ……!」
レイジは怒りの形相で立ち上がり、全力で吠(ほ)える。
「アイツは……あの女は! 戦う相手に敬意も払わねぇ! クソッタレのガンプラファイターだ! セイ、次のバトルは絶対に勝つぞ!」
「話を聞いてた!? アイラさんは失格! 僕達と大会で戦う機会はないよ!」
「じゃあ……ヤスフミ、アイツと勝負させろ!」
そしてレイジは前振りもなくかかと落としを食らい、床に突っ伏す。
「レイジィ!?」
「バトルの才能を利用された子どもだよ? それでまたバトルを強制したら、ナイン・バルト達と同類でしょ」
「いや、それ以前に今の暴力行為はなんですかぁ! 必要ないですよね! 意味がないですよね!」
「だって病院に乗り込んで、ぎゃーぎゃー騒がれても迷惑だし……ほら、孫悟空みたいな感じでしばらく封印しようよ」
「大会が終わるどころか、レイジが餓死しますよ!?」
「理由も……クソもねぇって、言った、だろうがぁ……」
レイジは必死に、ゼーゼー言いながら壁に寄りかかった。あ、足に来ている……!
「あの野郎、徹底的に叩(たた)きのめさなきゃ気が済まねぇ!」
「そう。じゃあまず手本として、おのれが僕に叩(たた)きのめされろ」
「何言ってんだ、てめぇ!」
「レイジ、等価交換って知ってる? 対価と教訓なしでは、人は前に進めないんだよ。……お前、頭がおかしいんじゃないの?」
「てめぇにだけは言われたくねぇ!」
「ホントですよ!」
「……お前達が本気じゃないのはよく分かった」
うわぁ、こっちが悪いって体で纏(まと)めてきたよ! 完全にやる気をなくしてるよ!
いや、確かに大変だったけど! すっごく大変だったけどね!?
「でもレイジ」
「セイ、やるぞ……リカルドの雪辱は、オレ達で腫らして」
「本当に、そう思っているの?」
全く話を聞いていないレイジに、一言……問いかけてみる。
「……!」
それだけでレイジは分かりやすく、今まで見せたことがないほど動揺して停止。
「それでいいのか、お前」
問いかけたのは僕だけじゃない。アイラさんと最初の頃に知り合っていた、ヒカリも同じ。
厳しい視線でレイジの背中を――震え続ける心を見定めていた。
「レイジ」
「……いいも、何もねぇ……アイツはオレ達の敵だ! 次の対戦でブッ潰す相手だ!」
「そうでも思わなきゃ戦えないか、嘘吐(は)きが」
「――!」
レイジはこちらをひと睨(にら)みするけど。
「きっと、彼女も同じだったんだろうな」
「は……!?」
「第八ピリオド――スガ・トウリに言ったそうだ」
――……当然よ。遊んでいるだけのアンタ達とは、違うのよ……!――
「そうやって自分より恵まれている相手を恨んで、憎んで……必死に歯を食いしばってきたんだ。
生きるために、食べるために……路上へ放り出されないために」
それは、あのときの……アイラさんの叫び。
そうだ、あれは悲鳴だったんだ。ただの残虐じゃない……追い詰められて、苦しんで。
”こうしなければ死んでしまう”……それほどに追い詰められた、悲しい姿でもあった。
「うるせぇ……」
「もちろんそれは彼女の事情だ。お前が配慮する必要性はどこにもない。だが」
「うるせぇ! もう黙ってろ!」
「そうやって私達の真横で、”嘘”をまき散らされたんじゃ大迷惑だ」
レイジの反論は潰された。それ以上に強烈な……ヒカリの、問いただすような視線で黙りこくってしまう。
その上でまたいら立ちながら、部屋から出ていこうとする。
「レイジ君!」
卯月先輩がレイジを止めようとすると、トオルさんが僕の肩に手を置き、軽く首振り。
「……どうして、こんなことに」
「そのことを一番強く思っているのはレイジだ。……さっきの、たまんない話を聞かされたら……余計にな」
「恭文さん、アイナ……アイラちゃんは、これからどうなるんですか」
「身よりもいないし、本人の希望を聞いた上で保護されるよ。
あの子を利用することなんてしない、優しい人達のところで……とはいえ」
恭文さんは疲れ気味にベッドから立ち上がる。それにヒカリちゃん達も続いた。
「このままじゃあ前も向けないか。……セイ、バトルの件は僕が調整する」
「はぁ!? で、でも……いいんですか!」
「そうですよ! アイラさん、それなら嫌々バトルをしてたことに……レイジ君もあの調子じゃ!」
「でも全部ではないんでしょ? ……ディード、ベル」
そこで恭文さんが問いかけたのは……ディードさんとベル。二人はその意図に気づいたらしく、すぐに頷(うなず)く。
「はい……Cが乱入してきたとき、アイラさんは……とても、楽しげに戦っていました」
「うん、ベルも見た! 卯月ちゃんも……トオルさんもだよね!」
「……だったな。まぁそうだよな……遊びなんて、強制されてもつまらないだけだ」
「私だって、恭文さんや会長、慶さんが『遊ぶ自由』を最初に教えてくれて――。
だから、楽しいガンプラにハマっているわけで。なら恭文さん」
「だから遊ぶのよ。心から、本気で――全身全霊で」
戦いでもなく。
今日の仇(かたき)討ちでもなく。
叩(たた)き伏せるためでもなく。
ただ遊ぶ――友達である二人が遊ぶ。
それだけのことなら、調整できる。それならレイジの要望も聞ける。
……その前提には安堵(あんど)してしまった。確かに”あの”アイナさんに、今の感情をぶつけても……傷が広がるだけだもの。
「ただ発破をかけるだけだ。遊ぶかどうかは本人に選択させる」
「それで構いません。ビルドストライク……ううん」
そう言いかけて、静かに首を振る。……今回のバトルに、ビルドストライクを持ちだす必要はないか。
「機体とレイジの方は、すぐ何とかします」
「ボク達も協力しましょう」
「だね。石を借りた以上、一応の恩もあるわけだし」
「ニルス君、杏さん……ありがとう」
そう、アレ――レイジは最初に会ったとき、言ってくれた。
”セイ、困ったことがあったら――祈れ。どんなときでも、どんな状況でも、このオレが駆けつける”
本当にレイジが異世界から来たのなら。
だからこそ、あんなことを言ってくれたのなら。
”どんな困難でもオレが打開する。これは約束であり、オレの宣誓だ”
もしかしたら、伝わるかもしれない。
あのとき僕が、レイジに背中を押されたように。
本当に僕の祈りが、願いが、レイジに届いたように。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
後のことはニルスと杏に任せ、僕達はアイラが収容された病院に。
「しかし卯月……いや、トオルもだけどさぁ。もう夜も遅いのに」
「ごめんなさい。でも、心配で」
「卯月を一人歩きさせるわけにもいかないだろ。ボディガードみたいなもんだ」
「そう」
「ベル達もいるよ、旦那様ー!」
病室へ近づくと、ちょうど廊下に出ていたチェルシーさんとバッタリ遭遇。
「旦那様」
「チェ、チェルシーさん……その、すみません」
旦那様って、サラッと……やっぱりですか! やっぱり僕……うがぁぁぁぁぁぁ!
「セシリアのこともあるのに、手間を取らせてしまって」
「いえ。さっきまで鷹山様と大下様達も御一緒でしたので。それにお嬢様からも力を貸すようにと言われています」
「そうですか。……あ、紹介します。僕の義妹とそのしゅごキャラで」
「蒼凪ディードです、初めまして」
「ベルだよー。それでこっちは、卯月ちゃんとトオル! ……アイラちゃんと、レイジ君とお友達なんだ」
「そうでしたか……初めまして。オルコット家でメイドをしております、チェルシー・ブランケットです」
「「初めまして」」
チェルシーさん共々、卯月達もお辞儀……が、そこで卯月の視線が厳しくなる。
「オルコット家……旦那様……恭文さん?」
「お前、もう引き返せないだろ……!」
「何も言わないで……! それでアイラ・ユルキアイネンは」
「脳波、脈拍、共に正常。身体的な問題もありません。……懸念されていたような、悪質な感染症もなしです」
「そうですか」
「よかったです」
それには心から安どする。セイ達も不安がっていたし、これで一つホッとさせられる。
「ただ」
「ただ?」
「時おりうなされているんです。恐らく今日のことが原因で……診てくださった先生はそう仰(おっしゃ)っていて」
「そうですか」
「……ある意味両思いですか、これは」
シオンが髪をかき上げながら、憮然(ぶぜん)としたままのヒカリを見やる。それはショウタロスも同じだった。
「お前があれだけ言うのも、珍しいな」
「あれくらいは普通だ。だが恭文、どうする」
「どうするも何も」
回収していた、とあるガンプラの箱を取り出す。
「まずは”これ”を返そうか」
「旦那様、それは」
「チームネメシスの設備を押さえたとき、アイラ・ユルキアイネンの部屋から回収したものです」
トオルと卯月、ディードとベルにも確認してもらったけど、間違いなかった。
これは先日、みんなが模型店で作ったガンプラ――その一体とおまけ装備だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レイジは木に寄りかかって、ホットドッグを食べる。
二口ほどで食べ終わり、包み紙を丸めて……ゴミ箱へシュート。
だが、外れた。
「く……なんだよ! どいつもこいつも」
それで八つ当たりに木を蹴ったところ、当たり所が悪く蹲(うずくま)る。
「ぐ……!」
「御機嫌斜めだね、レイジ」
そんなレイジに近づきながら、包み紙を拾い上げ。
「……フェリーニ」
「だがイケてねぇ。ゴミはちゃんとゴミ箱に入れておけ」
ゴミ箱にさっと入れる。
「それとセイからの伝言だ」
「伝言?」
「アイラ・ユルキアイネンとのバトルに、スタービルドストライクは使わせない」
「は……!?」
「俺の仇(かたき)討ちなんて……馬鹿な妄想と八つ当たりには付き合えない。
なのでセコンドにも入らないし、アドバイスもしない。全部自分で何とかしろってな」
まぁそうだよな。フェニーチェについてはぼろぼろだが、”勝負”はちゃんと勝ったんだ。
「セイの奴……どういうつもりだ!」
「言葉通りの意味だろ。……そうやって理由でも作らないと、彼女と向き合えないか」
「……!」
「相手を憎まないとできないバトルなんて、やめちまえ」
「てめぇ」
「やれやれ……イタリアの伊達(だて)男も落ちたもんだなぁ。こんな青臭いガキと引き分けるとは」
「喧嘩(けんか)、売ってんだよな」
「ようやく分かったか」
お手上げポーズであざ笑ってやると。
「頭の悪い奴だ」
「フェリーニィィィィィィ!」
レイジは分かりやすく突撃――両拳を構え、迎え撃とうとすると。
「あお!」
……突如として横から銃声が響き、レイジの腹部にゴム弾が直撃。
「がふ!」
そのまま苦しげに呻(うめ)き、横たわった。
「て、てめ……なんだ、そりゃ」
「あおあお……あお、おー!」
更にレイジの背中に同じ弾丸をぶちかまし、完全鎮圧。その上で奴は……手に持っていたショットガンを俺に渡し。
「あ、あお……あお……」
「な、なんてことを……やっちまった……じゃねぇ! 何やってんだ! ショットガンってなんだよ!」
「あおあおあおー! あおー! あおあおー!」
――誰かきてー! フェリーニがー! イタリアの伊達(だて)男がやっちまったー!――
「やったのはてめぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あ、ヤバい! コイツを持っていたら、マジで俺が犯人と思われる! なのでショットガンを放り投げると……地面に落ちた瞬間暴発。
再び放たれた弾丸はレイジの右脇腹を叩(たた)き、また派手に転がしてしまう。
「あ……う……」
「あおあおあおあおあおあおー!」
「違う! 今のは俺じゃ……」
「フェ……リーニ、てめぇ」
「俺じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
このスーツを着ると……頭が、しびれる……! 何で、こんなことさせんのよ……!?
何が、ガンプラバトルよ……! くだらない……くだらない! くだらないわ!
わたしはただ、普通に……普通に……そこで、アイツの後ろ姿を見つける。
そうだ、あんなのは夢だ。そう思いながら追いかけ、肩を掴(つか)むと。
――アイツは、憎しみの表情を渡しに向けてきた。
「……あああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁ!」
それで心臓が止まるような衝撃を受けながら、起き上がる……私は、起き上がっていた。
あのキツいヘルメットやスーツではなく、寝間着を着た上で……暗い、部屋の中にいた。
「ふぅ……はぁ……はぁ……ぁ……」
――倒す!――
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「苦しそうだねぇ」
右横から声がかかって、びくりとしてそちらを見ると。
「ヤスフミ、アオナギ……というか」
「よぉ」
「アイナちゃん……ううん、アイラちゃん、おはようございます」
「ウヅキ、トオル……それに、ディード」
「ベルもいるよー」
知らないメイドも含めて、わたしの脇にいた。それで混乱しながら周囲を見渡す。
外は夜……ここは、病室? 右腕に点滴の針が刺さっていた。
「簡潔に説明する。ここは会場近くの病院で、おのれはネメシス及びフラナ機関の被害者として保護された」
その上でアイツは、IDカードらしきものを提示した。そこには……!?
「第一種、忍者……!?」
「裏家業ってやつだよ。……フラナ機関は既に壊滅し、関係者はストレートチルドレンへの虐待行為で逮捕。ナイン・バルトも警察病院で拘束中だ」
本当に簡潔……つまり、アイツらから解放された。もう、バトルに関わらなくても済む。
……それはつまり、アイツとも……それがホッとするような、怖いような……もう、終わりなんだ。
「おのれの身柄は現在、僕が身元引受人という形で預かっている」
「アンタが?」
「PPSE社やフィンランド警察の事情聴取もあるし、おのれ……家族や身よりもいないんだよね」
「調べた……って、それも違うか。アイツらの馬鹿が潰れたなら、必然的に分かることだし」
「そういう場合、一時的にでも監督役が必要でね。なのでおのれの今後が決まるまでになるけど、衣食住については心配しないで。全部何とかする」
「……同情してるの?」
「卯月とディード、トオルに頼まれただけだよ」
そう言いながらアイツは、右親指で背後の三人を指す。……確かにコイツの目は、違う。それだけはよく分かった。
「路上生活をしていたとき、みんなそうだった。私達を哀れむ……哀れむだけで」
「何もしない」
それで全部分かったように……私の気持ちを読み切ったように、言い切ってくれる。
「上から見下して安心する。あぁ、よかった……私達には親がいて、家族がいて。
着る服があって、食べるものがあって、住むところがあって」
「……その通りよ」
「そんな! アイラちゃん、私達はそんなつもりじゃ」
「卯月さん」
慌てるウヅキを押さえ、ディードは見定めるような視線を向けてくる。
「なるほどね……だからトウリさんにも八つ当たりしたわけか」
「……!」
「小さい女だ。そうやってお前自身が一番自分を見下してるんでしょ、可哀想(かわいそう)な子どもだってさ」
「……アンタ、喧嘩(けんか)を売ってるの?」
「お前如(ごと)きと喧嘩(けんか)したところで、世界の至宝たる僕が楽しめないでしょうが。馬鹿じゃないの?」
「お前は何様だぁ!?」
本気で言ってる……! 殴りつけてやろうかとも思ったけど、やめた……もう、そんな気力も沸かない。
しかもさ、腹の立つことに……コイツの言う通りなのよ。もうそれが情けなくて、頭を抱えて寝込んでしまう。
「もう帰って……事情聴取が必要なら協力するから、少しほっといて」
「そうはいかない」
「何でよ……喧嘩(けんか)するつもりもないなら」
「レイジが暴走してるから」
……そこでレイジの名前を出されて、慌てて起き上がる。
「どういう、ことよ」
「アイラちゃんの身柄、それに今後のことについては、恭文さんや警察の方で保証してくれるそうです。ただ……レイジ君が」
「お前を叩(たた)き伏せる。バトルをさせろと凄(すさ)まじくうるさいんだよ」
「……!」
理由は、もう聞くまでもなかった。……リカルドって人のリベンジだ。
試合は滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になったけど……ううん、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にしたから? 楽しんでいた大会を邪魔したから。
だからわたしを、宣言してた通りに叩(たた)きのめして……!
「警察としてはおのれの状況もあるしね。強制してのバトルは看過できない。
なのでレイジがどれだけ言おうと、OKするつもりはないから安心して」
≪ただ、レイジさん本人はそのために無茶(むちゃ)をしかねない。あの人、とある外国の王子様で……一般常識が皆無なんです≫
「あぁ、お坊ちゃまだったんだ。だからあんな無茶苦茶(むちゃくちゃ)で……ここに乗り込んでくるってこと?」
「十分あり得る」
「分かった……だからもう、一人にして」
「ま、今日のところは仕方ないね。夜も遅いし……あと、それ」
そこでアイツが枕元を指す。ベッド脇に置かれた移動式の棚には……!
「卯月とディード、ベルが世話になったからね。礼だ」
あの日、レイジ達と作ったコマンドガンダムが……箱ごと置いてあった。
「こんなもの、いらない」
「どうして?」
「もうわたしは、バトルなんて」
「そうだね、別にやめたっていい。……ある人が言っていた。バトルはしょせん遊び――命の危険もない中始めて、いつでもやめられる遊びだ。
でもおのれはそうじゃなかった。やめる自由すらない遊びなんて、遊びじゃない」
「だったら」
「捨てるなら自分で捨てなよ」
……ケジメは自分で……か。ほんと、病人だろうと容赦のない冷たい男。ある意味公平なのかしら。
やっぱり男運はないのかなと、アイツの厳しい視線には嘲笑を送る。
「そうね、そうさせてもらうわ。まず届けてくれたことについては」
「レイジと、卯月と、ディードと――みんなで作った時間と繋(つな)がりを、自分の手で」
……なのにアイツは、そんなわたしの反応を読み切っていたが如(ごと)く、容赦なく笑い飛ばした。
「それができるなら、僕は何も言わない」
アイツは立ち上がり、私に背を向け出ていく。
「レイジにも『お前が言いすぎたせいだ、ボケが』って言うし」
「アンタ、ほんと最悪……! バトルしたときにも思ったけど、性格悪……ちょ、待ちなさい! 出ていくな! まだ話は」
もう終わったらしい……アイツの中では。アイツはアッサリと出ていって、わたし達だけが残された……!
「……何なの、アイツ! 喧嘩(けんか)をただで配るどころか、押し売りしてきてるんだけど!」
「アイラ、恭文はそういう奴だ。もうな、昔からそうなんだよ……いいな?」
「納得できるかぁ! もう……なんなのよ」
だからいら立ちのままに箱を掴(つか)み、振り上げ。
「こんなもの……」
「駄目ー! それは」
「ベル」
ゴミ箱にシュート……しようとした。
それで全部終わるはずだった。中に入ったガンプラも壊れて、もう終わり。
これでコイツらも、レイジも、わたしを友達とか……そんな、甘い考えを捨てる。
同情の余地も消える。わたしはまた一人に戻る。それでよかったはずだった。
もう覚悟をしていたはずだった。なのに――。
「なんで、捨てられないのよ」
手は止まっていた。それどころか力なく震え、箱ごと膝上に置かれてしまった。
いざ捨てるとなったら、とても怖くて、恐ろしくて……心が止まってしまい、泣き出してしまった。
「ただのおもちゃ……プラスチックの塊、なのに」
……そして、外では雨が降り始める。
その雨音が、その冷たさが、部屋の中にいても……深く、突き刺さってきて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雨の中、トオルさんと一緒にホテルへ戻る。ちょ、ちょっといけない、大人の時間ですねー。
これが恭文さんだったらと思いながら、凛ちゃん達を起こさないよう部屋に入る。
でも、凛ちゃん達は起きていて……申し訳なくなりながら、出されたココアを飲み、事情説明。
「そんな、大変なことになってたんだ……!」
「はい……」
「卯月は何も知らなかったんだよね。事情聴取とかは」
「ありませんでした。あの、Cってガンプラマフィアが襲ってきた絡みで、元々事情を聞かれていたので」
「そこにプラスしてかぁ。災難というか、ある意味幸運というか……でも、許せないね」
「はい」
そう、凛ちゃんが言うように許せない。だって、幾ら名誉が欲しいからって……子どもを逃げ場のない形で追い込んで、利用するなんて。
……ただそれ以上に引っかかるのは……両手に感じる、ホットココアの温かさに甘えそうになりながら。
「私、無力です」
ぽつりと呟(つぶや)いていた。
「アイラちゃんと恭文さんが話していたんです。……路上生活をしていたとき、みんなそうだった。
私達を哀れむ……哀れむだけで何もしない。上から見下して安心する。
あぁ、よかった……私達には親がいて、家族がいて。着る服があって、食べるものがあって、住むところがあって」
「しまむー……」
「知っていたのに、知らなかった……知らない振りをしていた。私達は『幸運』なんだって」
人は平等じゃない。幸運か、不運か……他にも様々な格差がある。
「でもそうじゃない人達がいて……それだけならまだしも、その人達を見下して安心していた」
でももし、自分が『幸運』であることを確かめるために、物差しとして『不幸』な人達を見ていたら?
「可哀想と言いながらあざ笑って、押しつけていた」
『不幸』な人達は、どんな気持ちなんだろう。ううん、もう分かる……きっと。
あのときのアイラちゃんみたいに……悲しさと絶望で満ちた、静観の瞳を浮かべる。
世の中は、人は、こういうものだ。そう言って……どんどん、遠ざかって。
「自分達より下であることを――そうして、自分達を慰める役割を」
「しまむー……」
「私はそんなの嫌です。間違っている……絶対、間違っているって思います。でも、もしかしたら気づかないうちに」
「……あんまり、考えすぎない方がいい……とはいえないか」
凛ちゃんは励ますように、私の両肩を軽く撫(な)でてくれる。
「卯月は、このまま放っておけないんだよね」
「はい……でも私が手を伸ばしても、アイラちゃんは傷つくだけなのかなとか、考えちゃって」
「そうだね……うん、そうかもしれない。でもそれじゃあ結局、その『哀れみ、見下す人達』と同じじゃないかな」
「私もしぶりんに賛成!」
凛ちゃんが……ううん、未央ちゃんも私を前から抱き締めながら、目一杯励ましてくれる。
「まずは考えて、動いてみようよ! そうしたら何かが変わる!」
「未央ちゃん、凛ちゃん」
「それに卯月は一人じゃない。私達だっているし、そのとき一緒だったトオルさんやディードさん達もいる」
「蒼凪プロデューサーだって、このままにはしないって言ったんでしょ? だったら大丈夫」
「はい……あの、ありがとうございます! 私、頑張ります!」
生まれた世界も、持っているものも違う。感じたものも、失ったものも、得てきたものも違う。
それでも私は、アイラちゃんを放っておけなくて。……レイジ君……レイジ君の怒りはもっともです。
それは分かります。でもアイラちゃんの叫びが胸に響いているんです。今もずっと……ずっと。
レイジ君に敵意を向けられ、絶望しきっていた表情も。だから……もしレイジ君が、アイラちゃんを叩(たた)き伏せるだけで終わるなら。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雨は降る……夜の雨は、夏の暑さや嫌な余韻も吹き飛ばすように、降り続ける。
そんな中、部屋に戻ってのんびり……そしてため息。
「……はぁ」
「随分お疲れねぇ」
キララちゃんは部屋のテーブルに座り、ポッキーをぽりぽり……とても幸せそうだった。
「そりゃそうだよ。あおのおかげで、危うく傷害犯になりかけたからなぁ……!」
「殴り合いをやっても同じでしょ」
「言葉で通じないなら、これしかなかった」
「あおー」
「てめぇの銃刀法違反は例外だからな!?」
「あお?」
うわぁ、可愛(かわい)らしく小首を傾(かし)げやがった。
それでキララちゃんの膝上に座って、ポッキーを食べさせてもらって……畜生がぁぁぁぁぁ! 俺と変われぇ!
「……お人よしねぇ」
「自分への戒めだよ」
驚くキララちゃんには苦笑する。
「憎しみではなく……アイツらには、バトルを楽しんでほしいのさ」
「……そうね。なら、フェニーチェは」
「予備パーツもあるから問題ない……と言いたいが」
あぁ、予備はある。それどころか”リナーシタ”に仕上げる手はずも……問題があるとすれば。
「二回戦のスケジュールによっては、棄権も視野に入る」
「……おー」
「だったら余計に、あの子達に構っている余裕はないってのに……ほんと、男って馬鹿なんだから」
「そういう生き物なのさ、俺達は」
圧倒的に、時間がないことだ。……レイジ、イオリ・セイ、悪いがそれまで構っていられないぞ。
ケジメは自分で考えて、きっちりつけろ。まぁヤスフミやニルス・ニールセンもいるようだし、心配はしていないが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雨が降り続ける中、二回戦に向けての準備期間が始まる。今の流れを示すような憂鬱極まりない空色。
そんな中、早速発表された二回戦の組み合わせを確認中……予定通りなので、担当社に労(ねぎら)いの言葉をかけていた。
「えぇ、十分よ。ありがとう」
電話を終了し、ほっと一息。……ベッドから抜け出し、寝間着代わりのYシャツを脱ぎ捨て、素肌を晒(さら)す。
あぁ、何という解放感。ようやく会長に報いることができそうだから、それも相まってすばらしい気分よ。
「会長にはいい報告ができるわね」
ここは会場近くにある高層ホテル――窓のカーテンを開くと、眼下に広がるのは動き始めている街並み。
そして遠くには試合会場……あ、ちょろっと会長の別宅も見えるわね。
それは一旦さて置き、設置したファックスへ近づき、送られてきた組み合わせ表を確認。
「何せ二回戦のスタートは明日だもの。これでメイジン・カワグチは、確実に一勝を挙げられる」
※二回戦組み合わせ
・一日目
日本第二:チームとまとVSスペイン:トウリ&イビツ組
日本第三:セイ&レイジ組VSポルトガル:ルーラ・サンタナ
・二日目
イギリス第二:セシリア・オルコットVSイタリア:リカルド・フェリーニ
日本特別枠:三代目メイジン・カワグチVSブラジル:ジオウ・R・アマサキ
「リカルド・フェリーニはメイジンと戦わせる……これは機体整備に時間がかかり、予備も用意していない彼らへの圧力。
そしてレイジ少年にいたっては、アイラ・ユルキアイネンの件で心中穏やかではないときている」
我ながら完璧……完璧すぎる作戦に、自分の才能が恐ろしくなる。
「セシリア・オルコットとミスタージオウもつぶし合ってもらい、蒼い幽霊には……盤石だわ。
チームネメシスが不正で脱落したのは、本当に残念極まりないけど……でも大丈夫」
これで会長の懸念は一掃可能。それに……デスクからとある書類を取り出し、その中身を確認する。
それは彼らが、フラナ機関が我々に送ってくれた、とっても貴重なデータ。
「あなた達がネメシスだけではなく、私達に取り入ろうとしてくれて、本当に助かったわ。
……このデータは、今後のためにしっかり使わせてもらうわね」
エンボディシステム――これさえあれば、如何(いか)にメイジンと言えど従ってくれるでしょう。
これは今後、PPSE社を盤石とするための布石よ。えぇ、そうよ……きっと大丈夫。
私達は何も、悪いことなんてしていない。みんなに夢を与えてきたんだから。
神様がいるとしたら、きっと助けてくれるわ。私達のこれまでを鑑みて、あらゆる懲罰を払ってくれるの。
もちろん彼らの追及もね。だから、大丈夫……そう何度も、何度も思い込もうとした。
そうして引き返すチャンスを、やり直すチャンスを捨てていく……ん!?
「あれ!?」
改めて予定表を確認……三回ほど、端から端まで確認。
「あれ……あれあれあれあれ……あれれ!?」
――日本特別枠:三代目メイジン・カワグチVSブラジル:ジオウ・R・アマサキ――
「どういうことなの、これぇ!」
――三代目メイジン・カワグチVSジオウ・R・アマサキ――
「なんでリカルド・フェリーニとじゃないのぉ!? というか、よく見たらそのリカルド・フェリーニも二日目……駄目じゃないのよぉ!」
お、おかしい。さっきまでリカルド・フェリーニは……あ、昨日は事件の処理で遅かったから……夢を、見ていたのねー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二回戦の組み合わせが発表された。そこまではまぁいい……問題は。
「やっぱり、厳しいわよね」
その中身だ。おかげで千早も困り気味に、組み合わせ表を持って打ち震えている。
「リカルドの試合は昨日だった……今日明日があるとはいえ、残り二日間で」
「しかも相手はセシリアときたもんだ。でも意外だなぁ」
千早がかじりつかないうちに、組み合わせ表を回収して再確認。
「てっきり欲をだして、タツヤに当てるかと思ったら」
「そこまで突き抜けていないですか? ……リカルドさんは」
「すっごい集中してるよ……部屋から瘴気が漂うくらい」
一応様子を見に行ったんだけど、あれは邪魔しちゃいけない。まぁ大丈夫だとは思うけどさ。
「ただリカルドは元々フェニーチェ……というより、HGのウイングガンダムを熟知したモデラーでもある。一日あれば十分だ」
「……確かに……そうなると私達はやっぱり、次の試合に集中」
「相手はトウリさんかぁ。紅の彗星<ハイマニューバ>という切り札は出されたけど」
「それだけで終わらないですよね」
「ここまで勝ち残った誰もが、底の更なる底へと突き抜けている。覚悟はするべきだ。……さて」
りんとリインにはそう答えて、早速作業を開始。今できる全力で……フェイタリーをセッティングだ。
「プロデューサー、今回もフェイタリーで出るんですね」
「これまでの試合を見ている限り、トウリさん達とは剣術勝負になる。……ワクワクだよねー」
≪そのためにも、フェイタリーの追従性を高めておかないと。あとは≫
「サテライトが使えない場合に備えての切り札……だね」
≪えぇ≫
こうなると、タイマン中に何か仕掛けられる可能性も……実際セイ達の試合でやらかしているもの。
対策しておくに超したことはない。その辺りのプランも形にしようと考えていると……携帯に着信が届く。
それはアイラを収容した病院から。……もしかすると、吉報がきたかも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
卯月ちゃんは朝一番で、近隣の図書館へと飛び込んだ。それも凛ちゃん、未央ちゃんも一緒に。
トオルくんも付き添っているんだけど、一体何をしているかと思ったら――。
「今は病院でお見舞い……あぁ、例のアイラ・ユルキアイネンちゃんね」
「うん……きらり達、またみーくんにお願いしようって相談してたのに」
「それもすっ飛ばして、がーって行っちゃったの! 杏ちゃんとも連絡が取れないのにー!」
「仕方ないわよ。難しい事情のある子だけど、踏み込む覚悟を決めたんでしょ?」
きらりちゃんとみりあちゃんが頭を抱えていたので、問題なしと紅茶を飲む。
あぁ、リンゴの香りがいいわねー。ティーパックだけど美味(おい)しい。
「それでかな子ちゃんと智絵里ちゃんは」
「……かな子ちゃんは調理場を借りてお菓子作り。智絵里ちゃんはクローバー探しにゃ」
「それで蒼凪プロデューサーに信じてもらうんだって。……無理だって止めたんだけどさぁ。いや、ある意味ロックっていうか」
「むしろ石頭ね」
「ミナミ……わたしも納得、できません。わたし達、きっと変われました……もうあのときとは」
「無理よ。それに恭文くんはともかく……杏ちゃんが」
「杏ちゃん、本気だったにゃ」
みくちゃんに頷(うなず)きながら、また紅茶を一口……杏ちゃんがあれだけ本気だったのは、考える限り二度。
一度はみくちゃんの立てこもり事件時。二度目は私と一緒にぶち切れた、ニュージェネ問題。
特に二度目は……みくちゃんもそうだったけど、みんなも無自覚に『プロデューサーが何も話してくれない』って逆ギレしていたから。
杏ちゃんは怠け者っぽい発言が多いけど、そこまで無気力じゃない。人の気持ちが分からない子でもない。
むしろ頭が切れる分、その辺りは繊細とも言えるわ。……誤解されやすいけどね。
「みんなも少し落ち着きましょう? 夏休みだもの。幼なじみとアバンチュールしたくなっても、それは不思議じゃないでしょ」
「美波さんが大人……というかアバンチュールでいいの!?」
「又は一夏の冒険?」
「あ、それならみくも分かるにゃ。スタンド・バイ・ミーってやつだね」
「そうそう」
線路沿いに進み、短くも鮮烈な冒険の日々……あ、羨ましいわね。それなら私もその、ちょっと乗っかりたいなーって。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スタービルドストライクは二回戦までに、何とか修復を完了できそう。ただリカルドさんは、間に合うかどうか微妙。
何せ一日……だからなぁ。それでもまずは自分達の試合に集中。
ただレイジは……このままだと、マズい。いろいろ繰り返しそうだ。
「レイジ、スタービルドストライクの修復は僕がやる。レイジは手伝わなくていいから」
「待てよ……二人でやった方が早いだろうが! それに、何度も言ったが」
「僕も、何度も言った。今回の件でスタービルドストライクは貸さないし、自分で何とかしろってね」
それでもレイジは納得しない。拳を握り、不満そうに打ち震え、押し黙るだけ。その様子がやってられなくて、頭を抱えて首振り。
「邪魔だから出ていって。作業に集中したいから」
「なんだよ……どいつも、こいつも……アイツが、孤児で可愛(かわい)そうだから、同情してんのか! それで全部許されるってのか!
アイツがフェリーニを潰した……アイツの大会を台なしにした! その落とし前もつけるなってのか!」
「違うよ。レイジだって分かってるでしょ」
「分からねぇよ……」
レイジはやり切れない気持ちで……さ迷うような足取りで、ベッドに座り込み。
「オレにだって、分からねぇよ……!」
頭を抱えて打ち震える。……やっぱり駄目だ、今のレイジは戦わせられない。
アイラさんとの件がちゃんと決着しないと、試合に集中できないんだよ。でも、どうして?
アイラさんとはちょろっと話した程度みたいだし、それでどうしてここまで。
ううん、それは後だ。今はスタービルドストライクを調整しないと。それで……そこで、着信音が響く。
それはあの人用にセットしたもので、UVERworldの『儚くも永久のカナシ』。
それを慌てて取り、通話ボタンを押す。
「はい、イオリです!」
『アイラがやる気を出してくれたよ』
「じゃあ……」
『気持ちが萎(しぼ)まないうちに始めたいから、急いで準備させて。りん達が迎えに行く』
「分かりました!」
電話を終えて、感謝の気持ち一杯で立ち上がる。
「レイジ、準備して。……お望み通り、アイラさんとバトルできるよ」
「なんだと……だが、ガンプラが」
「知ったこっちゃないよ」
僕は何度も、何度も言った。だから変わることはない……そう告げると、レイジが困惑を強める。
「……いつまで逃げてるの」
だからパートナーとして、今回はレイジを徹底的に追い詰めていく。
「もう答えは出ているよね。レイジが使うべきガンプラは一つだけだ」
「セイ」
「僕はスタービルドストライクをレイジ専用機だと言った。でもそれは、レイジと一緒に遊ぶためだ。
……決して八つ当たりや、必要もない仇(かたき)討ちのためじゃない」
「……それをやるなら、オレの手を使え……あぁ、そうだな」
レイジはもう分かっていた。だから腹を決めるため、自分の顔面を……右拳で、全力で殴りつける。
「悪い、セイ……お前の言う通りだ。そんなのはらしくねぇ」
「うん」
「だからもう、考えるのはやめだ――!」
だからレイジは手に取る。この場で使うべきガンプラなんて、最初から一つだったから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いろいろ考えた結果、バトルすることに決めた。そうして連れてこられたのは……PPSE社が管轄している研究施設。
ガンプラも結局、アレしかなかった。でもいいわよね……それでアイツは、わたしを叩(たた)きのめす。
そうしてすっきりして、全部終わりよ。うん、それでいい……それで、もう。
「アイラちゃん」
バトルベースが置いているのとは、また別室――ガンプラの準備を終えていると、ウヅキが笑顔で入ってきた。
知り合ったばかりの黒髪ロングと、明るく笑う茶髪の子も引き連れて。
「ウヅキ……えっと、リンと……ミオ」
「うん」
今日、お見舞いに来ていた子達……卯月とは同じユニットの仲間で。
最初は怪訝(けげん)に思っていたけど、悪い子達じゃなかった。……差し入れに……おにぎらずっていうの、美味(おい)しかったなぁ。
「よかったー。ちゃんと覚えていてくれたんだね、ユルキーのことも聞いてて」
「いや、当たり前でしょ。ついさっき挨拶して……ユルキー!?」
「ごめん……未央、あだ名のセンスが独特で」
ミオと呼ばれた子は、笑顔ですたすたと近づき、わたしのガンプラを見て納得した様子。
「手伝えることがあるかと思ったんだけど、大丈夫そうだね」
「気づかいだけはもらっておくわ。ありがとう……あと、ユルキーはやめてもらえると」
「アイラちゃん、今日は一緒に頑張りましょうね!」
「は?」
「見張り役<セコンド>です!」
……意味が分からなかった。しかもこの子、満面の笑みで……どういうことかと、リンとミオを見やる。
「いや、その……卯月がどうしてもって」
「一応蒼凪プロデューサーのお墨付きなんだー」
「こんな素人を頼るなんて……第一種忍者も大したことがないのね。わたしの能力を甘く見てるんじゃ」
「逃げたら駄目ですよ?」
……するとなぜだろう。笑顔が急激に深くなった。
「駄目、ですよ?」
な、何これ……足が震える。というか、目が笑ってない……!?
「ちょ、ちょっと……アンタ達」
「……卯月の中には鬼が棲(す)んでいるんだ」
「別名、ド外道の島村」
「誰が鬼ですかぁ!」
あぁ、そうか……! トオルはこの圧力に阻まれて、逃げることができなかったんだ。
つまるところ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! わたし、あのときのトオルと同じ!?
「アイラちゃん、一緒に頑張りましょうね!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ウヅキ、わたしにはセコンドなんて……アンタ達も止めてよ! わたしの能力は知っているのよね!」
「あ、うん。粒子の流れ……だっけ? それを感じ取れるって言うのは」
「でもユルキー、暴走して一度倒れているでしょ? さすがに悪いお兄さんを復帰させられないからって」
「他の選択肢はなかったの!? 医者とか!」
「ありません!」
「アンタが答えるなぁ!」
ちょっと、ヤスフミ……トオルはどこ!? ……着替えも込みだったから、来るわけないかぁ!
いや、その……蒸し暑くて、予備の服に着替えさせてもらって……でも今はいいのに! もう終わったのに!
「あ、それとこれを」
そう言いながらウヅキは、わたしの首にネックレスをかけてくる。
銀のチェーンに、サファイア……ううん、それにしては色が薄い。とにかく水色の宝石をセットしていた。
「これは」
「お守(まも)りです。バトルが無事に終わりますように――」
「……無事じゃなくて、いいわよ」
そう言いながら……忌ま忌ましく、自分のガンプラを見やる。
「こんなもの、とっとと壊されて……それで全部おしまい。アイツもスッキリして」
「絶対にありませんよ、そんなこと」
「どうしてよ。だって、わたしを叩(たた)きのめしたいんでしょ? リカルド・フェリーニも棄権になったの、わたしのせいなんだし」
「まだ棄権になってませんよ!?」
「そうそう! 試合は明後日だから! まだ分からないから!」
「同じことよ」
そう、同じこと……アイツが私を許すことはないと、もう確信している。
「そういう危機に追い込んだのは、わたしだもの」
「そうですね」
「卯月」
「でも私、思うんです。どんな物でも気持ち一つで、簡単にゴミ扱い……ガンプラだってそうです。
プラスチックと、ポリキャップと……塗料やシールの塊。だけど」
ウヅキは優しく、私のガンプラを持ち上げ撫(な)でる。それがまるで、愛(いと)おしい我が子であるかのように。
「そこに気持ちが、思い出が一つでも込められていたら――世界に二つとない、最高の宝になるんだって」
「最高の、宝――」
それがまるで、世界に一つしかない秘宝のように。
「この宝はあのとき、私とディードちゃん、レイジ君――アイラちゃんで、みんなで作り上げたものです。
……もしそれを腹いせのために壊すなら、私はレイジ君を一生……許さないと思います」
……よく笑う、脳天気な子だと思った。何の飢えも、何の悩みもない、温かい国で生まれた温かい子。
でも違った。この子には”怒り”があった。わたしにはすぐ理解できた。その怒りは、わたしにも覚えがあるもので。
この子は一度”宝”を壊されている。二度と取り戻せない、大切なものを……誇りにも繋(つな)がるものを。
だからこう言えるんだ。過ちは繰り返させないと……そう、胸を張って。
「……何で」
でもわたしは、違った。この子と違って、『これが正しい』と胸を張ることもできなかった。
「違うって……言えないんだろう」
「ならその意味も確かめに行きましょう」
「分かるの、かな」
「きっと……アイラちゃんが、知りたいって思えば」
……だからこの子に差し出されたガンプラを――<コマンドガンダム>を受け取り、大事に抱える。
その上で踵(かかと)を返し、部屋から出た。わたしが引きずり続けた嘘を、今度こそ決着させるために。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
卯月と一緒に、アイラは歩く……戦いの舞台へ進んでいく。
それを見送りつつ、一旦控え室内で未央と相談。なお、ちょうど迎えに来ていた蒼凪プロデューサーも引っ張る。
「おろ?」
「あらら……渋谷さん達、どうしました?」
「ねぇしぶりん、気づいた?」
「……バッチリ」
「問題はさして難しくなかった。そんなところかな」
未央の目を見ると、問題なしと頷(うなず)いていた。
「おのれら、どうしたの?」
「ユルキーはレイジ君とバトルするのを恐れていた。そうだよね、蒼凪プロデューサー」
「うん」
「それはなぜかって話」
「粒子が見える能力を使えば、大抵の相手は倒せるしね。現に懐へ迫れたのは三人だけ」
「蒼凪プロデューサー、スガ・トウリさん、リカルド・フェリーニさん……誰も彼も、最強レベルのファイターだ」
ならレイジはどうか。残念ながらまだまだルーキーって感じで、そこまで評価は高くない。
実際世界大会内でも、ミスを重ねてはいるから。……無論、私達が言うと失礼極まりないのは承知しています。
とにかくね、アイラが『自分が勝ってしまう』という前提の上にいたなら、どうかな。
生活だってかかっているし、敗北はストリートチルドレンへの逆戻りもあり得た。
……実際ネメシスの会長とナイン・バルトは、そういう話をしたそうだし。
「恐れていたのかな。自分が勝ったら、レイジ君に嫌われる……とか」
「だと思う。だから昨日、徹底否定されたときに倒れて、うなされたんだよ。……そりゃそうだよねー」
「うん、それはそうだ」
「……やっぱり、そういう方向?」
蒼凪プロデューサーも気づいていたらしく、シオン達と前のめり。なので女の勘全開で頷(うなず)く。
「”好きな男の子”から嫌われたら、立ち直れないよねー」
「な……そうなのかよ!」
「ショウタロス先輩、鈍いなぁ」
「えぇ。反省して肉まんを買ってきてください」
「どういうことだぁ!」
そう……アイラ・ユルキアイネンは、レイジに恋をしている。本人に自覚はないけどね。
だからこそ病的なまでに、レイジからの評価を気にするんだよ。だからこそ面と向かってのバトルを恐れていたんだよ。
レイジがガンプラバトルが大好きで、そのために大会出場もしているから余計に。
「でも言うのは駄目だよ? アイラが自覚を持つまでは」
「分かってるって。人の恋路を邪魔する奴は、何とやら……でしょ?」
「うん。蒼凪プロデューサーもお願い」
「それはいいけど……おのれら、今日が初対面だったよね。また随分」
「卯月の友達だもの」
「それに同じ女の子! 応援するのは当然じゃん!」
蒼凪プロデューサーも納得してくれたところで、私達も舞台に向かう。……上手(うま)くいってほしい。
ううん、大丈夫だ。少なくとも卯月はそう信じて、預かった”宝石”を渡したんだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
時刻は夜の五時ピッタリ――PPSE社のテスト用大型ベース付近には、関係者がぞろぞろと集まっていた。
ディードやトオルはもちろん、りん達にニルス、杏……もちろんこの二人も。
「メイジン、アラン、悪かったね。場所を借りちゃって」
「いいさ。イオリ・セイ&レイジ組と、あのアイラ・ユルキアイネンのカードだしね」
「ネメシスの違法行為は残念極まりなかったが、事情を聞けば彼女も被害者だと言う。
それでもなお、バトルで伝えたい”何か”があるのなら」
メイジンは険しい表情を隠しながら、ゆっくりサングラスを正す。
「後押しするのもメイジンの役割だろう」
「そう。……あ、それとイオリ・セイ&レイジ組じゃないから」
「なんだと」
僕の言葉が正しいと示すように、レイジは一人でガンプラを抱え、バトルベース前に立つ。
反対側の通路から出てきたアイラは、卯月を伴いながら対峙(たいじ)した。
「レイジ君一人でか」
「そうなんです」
そして僕の脇から、苦笑気味にセイが登場。
「恭文さん、ありがとうございます」
「その辺りは卯月とディード達に言いなよ。みんなの協力があればこそだから」
「はい」
「イオリ・セイ、付いてあげないのかい」
「それどころかスタービルドストライクも使わせません」
「なら、あのガンプラは」
「レイジのガンプラです」
そう、レイジの手に持たれていたのは<ビギニングガンダム>。
ディードと卯月、トオル……タケシさんと遭遇したとき、教えられながら作ったガンプラ。
その制作にはアイラも絡んでいたから、思い出の品と言える。それをぶつけ合う意味は何か。
それは僕にも分からない。でも無意味ではない……少なくとも、無意味では。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
迷った、迷った……らしくもなく迷った。
セイに拒絶され、ヒカリに叱られ、フェリーニ……というか、あおにぶっ飛ばされて。
昨日の試合を見直して、やっぱり納得できなくて。なんでこんな、わけが分からないのか……自分でも分からなくて。
結局答えは、アイツと向き合うことでしか掴(つか)めそうにない。だからまぁ、来てくれたことには感謝。
「レイジ君、女の子に優しくしないのでお仕置きです」
しようと思ったら、ウヅキがいきなりプレッシャーをかけてきた。
紫のオーラを煌々(こうこう)と燃やしながら……やべぇ。あの覇気、人間を超えてやがる。
「……おい」
「……」
「……なぁ」
「……」
「頼むから、なんでウヅキがいるかは教えてくれよ……!」
おい、やめろ。それでこっちを睨(にら)むな。その『わたしが聞きたいわよ……!』って顔はやめろ。
お前も被害者なのか……そうか、よく分かった。じゃあウヅキのことは忘れよう。
「まぁ、アレだ。やっぱない知恵を絞ったって、答えなんか出やしねぇ。だからさ……オレは、何も考えないことにした」
そう言いながらビギニングガンダムをかざし、アイツに笑う。
「さぁやろうぜ、ガンプラバトルを――!」
叩(たた)きのめすためじゃない。
仇(かたき)討ちのためじゃない。今更だが痛感している。
ラルのおっさんが言っていたこと……それは、オレの心がけ次第。
遊びを道具にしちゃ駄目なんだ。それじゃあコイツを縛っていた奴らと同じ。だから、オレはその先に進む。
≪BATTLE START≫
まずはコイツと……楽しく、全力で遊んでみるか!
「レイジ! ビギニングガンダム――行くぜぇ!」
(Memory63へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、今回はちょっとしたインターバル。原作とは違う形でレイジとアイラのバトルを経て、波乱の二回戦スタートです。
……注目の組み合わせは二代目絡みなタツヤ対ジオさん。もしかしたらどちらかが瞬殺されて終わる可能性も」
あむ「駄目じゃん!」
(ですよねー。その手は第八ピリオドのセシリアで使ってしまった)
あむ「あとはリカルドさんとセシリアさん、アンタとトウリさんか」
恭文「そちらもじっくり構築しましょう。詰まったらサクッと進めよう」
(最近覚えたこと……楽も大事)
恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。……今日はみくさんの誕生日! 前日から続いているともみさんと星梨花ちゃんの誕生会に合流する形……なんだけど……!」
すずか「なぎ君……にゃあー。にゃあー」
あむ「すずかさんは何やってるの!? というか……アンタぁ!」
恭文「僕に言われましても!」
(他に誰に言えと言うのだろう)
恭文「と、とにかく……『二回戦『亜種特異点I 悪性隔絶魔境 新宿<新宿幻霊事件>』の配信日が決定!
明後日(2017/02/24)の夜七時から! 十四時から五時間のメンテを経て……また、フォウ君が走った上で」
あむ「こ、今回はきっと大丈夫……だから。それで、えっと……新キャラは」
恭文「ボブミヤと言われていたキャラ、ついに正体判明……エミヤオルタ!」
あむ「だよねー! 生放送で宝具動画も出たけど、禍々しい感じで……どうしてああなった!?」
アサシン(エミヤ)「……」(ガクブル)
あむ「エサシンさんが衝撃で打ち震えてるー!」
黒ぱんにゃ「うりゅ……?」
アサシン(エミヤ)「だ、大丈夫だ……素数を、素数を数えるんだ」
(蒼凪荘のアサシン(エミヤ)、黒ぱんにゃを撫でながらビクビク)
恭文「更に新サーヴァントも登場……なんだけど、今回は真名が隠される形で公表を」
あむ「だよねぇ。新宿のアーチャーとか、アサシンとか、アヴェンジャーとか……ガチャとかどうするんだろ」
恭文「まぁ何とかなるよ。しかし今日の生放送もよかったなぁ。石絡みのミラクルがあったし」
あむ「あれ、ミラクルっていうかいつも通りの不正じゃん! 最初の段階から芝居だったし!」
恭文「ミラクルだよ! そのおかげで僕達は石十二個がもらえるんだよ!? 最高でしょ!」
あむ「慣らされているし!」
(なお二十四日のメンテによって、石五個が……うっし!)
恭文「いつ新宿での戦いを初めてもいい感じだよ! PVで流れたテーマソングもカッコよかったしね!」
あむ「うん、知ってた! 孔明もスキル8以上なんでしょ!?」
恭文「軍師の指揮はスキル9だ! 武蔵も……剣の秘石があれば……毛はあと二個だから」
桜セイバー「沖田さんも頑張りますよー! ヘラクレスさんも聖杯転臨でレベル90になりましたし!」
(というわけで、蒼い古き鉄達はいつものようにドレイク、桜セイバー、ヘラクレスを筆頭として、武蔵達も加えて大暴れです。
本日のED:ROUND TABLE feat.Dan『Lose Your Way』)
恭文「でも新宿かぁ。笑っていいとも……続いていたら、タモさんと遭遇したかな」
あむ「普通の新宿ならね!? でもあれ、違うじゃん! 明らかにバトル空間じゃん!
……でもPVだと巌窟王とセイバー・オルタ、それにジャンヌ・オルタが、新サーヴァントとドンパチを」
恭文「セイバー・オルタ以外、引いてない……サンタリリィはまた別枠だし」
ジャンヌ「その前に私ですよ、マスター! ……にゃん」(猫耳着用)
恭文・あむ「「なぜ猫耳!?」」
ジャンヌ「神風魔法少女では効果が薄いので、新しい攻撃です。誘惑です……うりゅ」
恭文・あむ「「ぱんにゃ!?」」
白ぱんにゃ「うりゅー!」
(おしまい)
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