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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory61 『裏切りのアイラ』

恭文さんの……フェイタリーの姿が消えた。

一瞬前に倒れかけたかと思ったら、空間を破裂させて……!


「ガンプラが、消えただと!」

「超神速の歩法……そこから抜刀術に繋(つな)げるのであれば、威力は更に後押しされる」

「となれば、勝敗を決するのは」

「総合的な破壊力――!」


そして、衝撃が弾(はじ)けた。フィールド全体を嵐が吹き抜け、その中心部で月光の刃が翻っていた。

青白い、サテライトの輝きに満たされた……とても、美しい刃。

それを右薙に振るい、X魔王の脇を抜け、フェイタリーは停止。


X魔王も同じくでした。


「X魔王は無事……攻撃、止めたんだよ!」

「う、うん……あれじゃあ、振り返って斬られちゃう」

「だったら勘違いだな」


そんなみりあちゃんと、智絵里ちゃんの予想は覆される。

フェイタリーは月刃を逆袈裟に振るい。


『……ほんま、半端ないなぁ。その”三連撃”、なんと……言うんですか』

『――月花繚乱(りょうらん)』


その上で静かに……ヒビ一つ入っていない刀を、納刀。


『瞬・極(またたき・きわみ)』


鍔(つば)鳴りの音が響いた瞬間、魔王剣が真ん中から真っ二つに裂け、そのまま霧散。


「な……!」

「マオくんが……X、魔王が」

『あぁ、もしかしたら師匠』


更にX魔王が袈裟・右薙に切り裂かれ、細かいパーツがあちらこちらにはじけ飛ぶ。


『名前とか、付けてなかったん……かなぁ』


――X魔王はフェイタリーの背後で爆散。とてももの悲しい”赤”を、宇宙(そら)に刻み込む。


≪BATTLE END≫


そして勝負は終わる――瞬間の攻防に圧倒されるがまま、私達はその決着を目撃することしかできなくて。


「……半端ねぇな、恭文。刀に傷一つ入っていなかったぞ」

『え……!』

「私も気づきました。もちろん本体にも、ここで生まれた傷なんてなくて」

「それはつまり、技と粒子制御も含めた破壊力で……魔王剣を圧倒したってことだ」


見かけの大きさなんて関係ない。

その内に何を、どう、どれだけ込められるか。

そうして生み出された”圧力”が……本当に、全部を使っての一撃。


よかったです……これで、優勝にまた一歩近づきました!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……あとちょっと、やったんですけど……合わせ方が足りんかったかぁ。

限界突破<ブラスター>は手段の一つにすぎない。本当の武器は、魔法的な粒子制御技術。

それは分かっていたはずやのに、情けないなぁ。武器としての密度と完成度では完全に上を行かれた。


それだけならまだしも、”剣士”としての技量勝負に持ち込まれたら……いや、持ち込んだのはワイか。

突進の勢い、抜刀の鋭さ……いろんな技術を合わせに合わせて、一撃目で魔王剣を両断。

そして抜刀と同じ速度で二連撃。見てとるのが精一杯で、避けることなんてできんかった。


持てる全てを注(そそ)ぎ込み……ガンプラだけやのうて、戦い方も心のままに形とする。そりゃあ強いはずやわ。

こりゃあ、ワイもリアルファイトを鍛えて勉強せんと。また一からやり直しや。


そう思いながらベースから離れ、一本道の通路を抜けて出ていこうとすると。


「マオ君」


目深に被った帽子のせいで、足しか見えんけど……声だけで分かる。


「ミサキちゃん……見に来てくれたんか。遠いとこ、ありがとう」


お礼を言った上で、ミサキちゃんの脇を抜けていく。


「嬉(うれ)しいわぁ」


そうとしか言えないのが、ほんまに情けない。

応援に来てくれて、めっちゃ嬉(うれ)しかったのに……嬉(うれ)しいのに……。


「……凄(すご)かった!」


するとミサキちゃんは、涙声でそう言ってくれる。


「かっこよかった!」


ワイのバトルがカッコよかったと。

そう思える”何か”があったと……心を振るわせる、衝撃に溢(あふ)れていたと。

……それで零(こぼ)れそうなものを必死に堪え、手を振って静かに立ち去る。


そうして会場から……人気のある場所から離れて、誰もいない海辺の岩場に隠れて。


「うぅ……」


膝を抱え、泣いていた。


「うぅう……あ、ああぁうああああ……」


涙も、声も止まらなかった。全力は出せた……負けないためではなく、勝つために踏み込めた。

今のありったけをぶつけられた。全力を出せた。でも……悔しい。悔しさだけは、拭えない。

それは勝ちたかったから? それもある。でも、それ以上に……バトルが、ガンプラが好きやから。


もっともっと戦いたかった。もっとあの場所で……ここで止まることが、本当に悔しくて。


――でもそこで、足音がする。


ハッとして顔を上げると。


「おもろいバトルやったなぁ」


師匠は空を見上げながら、そう声をかけてきた。


「これやから、ガンプラはやめられへん」

「師匠……」


……一つ、問いかけてみる。

負けた、悔しい。だからガンプラも、バトルもやめるか?


その答えは分かり切っていて、嗚咽(おえつ)混じりに笑ってもうた。

そやから、ワイはまた立ち上がれる。


「ワイ! もっとえぇガンプラが作りたい!」


だから、涙はもういらないとばかりに拭う。


……答えなんて分かり切ってた。悔しいけど、すっごく楽しいバトルやった。

もっとしたい……あんなバトルがしたい。もっと凄(すご)いガンプラも作りたい。

負けても止まらず、心は燃え上がっていた。だから立ち上がって、踏み込める。


「いえ……作ってみせます! 見といてください!」

「うむ」


珍しく目を開き、笑う師匠に決意を示す。


――好きなものを、好きなように――そして好きなだけ。

ワイはガンプラが好きです。その気持ちこそ果てがなく、限界がない。

だからまた形作ろう。今日の経験も生かして、心のままに形作ろう。


きっとワイは、もっと強くなる。それでまた来年、この舞台で――!




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory61 『裏切りのアイラ』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


PPSE社本社ビル――その最奥にて現在、開発チームは昼夜を問わず働き続けていた。

まぁ自分もそんな一人だが、その原因は実に簡単。


「……はい、こちら第一ラボ。アラン主任、お疲れ様です」

『お疲れ様。……A5は』

「フレーム、外装の基礎工程は完了しています。武装もソードとシールドだけになりますが」

『十分だ。では今すぐに発送を』

「了解しました」


その労(ねぎら)いに癒やされながらも、通信終了。

その上でこちらに注目していた仲間達に、デスマーチの終了宣言。


「開発終了! A5をロールアウトする!」

「ほ、本当ですか!」

「なんだ、徹夜はもう懲り懲りと言っていただろ!」

「でも、無茶(むちゃ)ですよ!」

「主任とメイジンなら大丈夫だ! ……しかし」


防護フェンス越しに見える開発ブース……その中に鎮座するのは、ガンダムエクシアの改造機体。
また頭部アンテナもなく、武装も全く装備していないが。


「未完成とはいえ、史上最高性能を誇るガンプラ……アラン主任がこの機体を必要とするほど、世界大会は混迷を極(きわ)めているというのか」


いや、それは先日の大苦戦やら、ここまでの試合を見れば十分分かることだが。

……A5、主任とメイジンの力になってくれ。そして勝利を――それこそが我らの悲願だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マオとの試合も終わって、もうスッキリー。……なんだけど、僕もやることが結構多数で。

部屋に戻りフェイタリーの整備を……そう思っていると。


「みーくん、待ってぇ!」


いきなり脇からきらりとみりあちゃん、智絵里とかな子が飛び出し、立ちはだかってきた。


「諸星さん達……どうしたの」

「ねぇ、お願いだから杏ちゃんを返して!」

「あ、杏ちゃんは……私と、かな子ちゃんの……CPの仲間、なんです。だから一緒じゃなきゃ……駄目で……だから、お願いします!」

「無理」

『即答!?』

「や、恭文さん……せめてもうちょっと、優しい応対は」


ともみは心温かいなぁ。こんなどうしようもないアイドルどもに、慈悲を与えるんだから。槇原敬之さんが歌の題材にしそう。


「どうして!? みりあ達、何も間違ったこと言ってないもん! 杏ちゃんはアイドルで、事件捜査とかしないもん!」

「恭文くん、せめて……何があったか、教えてくれないかな。あの、秘密は絶対に守るし」

「こんなところで、”その話”をする迂闊(うかつ)者どもに?」


両手を広げながら場を指す……屋外で、人の往来も多いところだよ。

実際通りがかった人達は、何があったのかと視線を向けてくる。


「かな子、それは筋が通らないよ。この時点でお前達が信用できず、秘密も守れないのは明白でしょ。
……更に言えば、おのれらはこれまで、尽く失敗を重ねた。それでなおどう信じろと?」

「う……春香さんの言っていた通りだ。口げんかで負けたことは一度もなくて、理論武装が大得意」

「その通りなのです! 恭文さんは悪鬼羅刹の如き攻め口で恐れられているのです! さぁさぁ、死にたくなければ道をむぎゅ!?」


アホなことを言うエルをとっ捕まえ、軽く笑いかける。

するとなぜだろう、エルは手の中でじたばたし始めた。


「誰が悪鬼羅刹だって? 僕の推理と理論武装は天使のささやきと言われているのに」

「それこそ嘘なのですー! イルー!」

「いや……ある意味天使じゃね? 無慈悲に悪魔とか潰す感じで」

「おぉ! それなら納得するのです!」

「イル、あとでお話しようか。お前ゴールな」

「何のだよ! それお話じゃなくてただの暴力だろうがぁ!」

「か、かな子ちゃん! あの、お願いします! 私達のこと……信じて、ください」


かな子が頷(うなず)きかけたとき、智絵里が一歩踏み出し……怯(おび)えながらも首を振る。


「私達、あのときから……変わったって、思います。みんな一緒に頑張って」

「頑張るという言葉を慰めに使うな――その言葉は、他者へ送るエールのはずだ」

『……!』

「ベストを尽くした、頑張った――そんな言葉を呪詛(じゅそ)のように繰り返し、お前達は自分を甘やかしている。
……智絵里の言葉でよく分かったよ」


もう奴らに視線をくれる必要もない。みんなと一緒に、選手村への道を進み続ける。


「お前達を信じない――その選択が正しいものだってね」

「そん、な……」

「杏の御両親も同じ結論だ。……僕はお願いされたんだよ。
少しでもいいからCPから引き離して、他の道もあると教えてほしいってね」

「「「え……!」」」

「かな子、智絵里、お前達とユニットを組んだ件についても、相当不満があるらしい。……みくの立てこもり事件で、状況を悪くした戦犯だもの」

「嘘だよぉ! 千早さん、何とか言って! きらり達のこと」

「私も同意見よ」


千早は端的に『お前ら、やっぱ信用できないわ』と断言。それできらりも、みりあちゃん達も言葉を失い、追いかけることもやめる。

……おぉおぉ、被害者ぶって泣いてるねぇ。全部自業自得だってのに。


「……ヤスフミ、いいのかよ」

「いいよ。あそこまで無自覚とは思わなかった……武内さんや上の人間は、何をしているのよ」

「甘ったれなんでしょ、大人も揃(そろ)って。でもよく分かった……”えこひいき”なんて噂(うわさ)が社内で流れるのも当然よ」


歌唄は吐き捨てるようにそう言いながら、風に流れるツインテールを右手で押さえる。


「でも恭文、あの子の両親は本当に」

「僕もビックリしたよ。御両親としてはこのままニルスの手伝いを続けて、留学なりしてほしいみたい」

「何にせよ双葉さんの頭脳を生かせて、CPから離れる形と――」

「卯月の方も同じだよ。お母さんはともかく、お父さんについては不安も大きいみたい」

「でもさ、それならトオルの件はいいの!? 幾ら卯月や慶さんがいるからって!」

「……連絡先が定まっているって、すばらしいことじゃない?」

「そこかー! いや、気持ちは分かるけど!」


りんも僕達のあれこれは知っているから、そう言われると反論できない。……ただ。


「ただトオルにも、CP絡みの騒動やらは教えているし……冷静に考えるよう、内密に話してはいる。
……同時に杏が動くことでの”不利益”も……その辺りも承知してくれてはいるけど」

「……内定が揺らぐ可能性も、ちゃんと話してるんだね」

「うん」


そう、揺らぐ可能性はある。僕が無茶苦茶(むちゃくちゃ)をするから、その知り合いなら……そんな感じでね。

実に正当性溢(あふ)れる報復だと思う。そして奴らの知能指数なら、実行する場合何の躊躇(ためら)いもない。

それが正当な手段だと、胸を張って誇るだろう。


――僕とトオル、杏が仕掛けた踏み絵とも知らずに。


「揺らいだら逆に問題なしじゃない? 完全に無関係なところで報復して、満足するような底辺だと分かって」

「……サツキさんも承知の上なんですね」

「じゃないとできないって。千早、トオルはおのれや卯月が思っているよりずーっとしたたかだよ」

「それは、分かります。プロデューサーやユウキ君と別れてからずっと、苦労し通しだったんですし」

「まぁそっちは上手(うま)くこなしていくよ。律子さん達も意志は固めてくれているし……それで次の問題は」


さっと取り出すのは、ある女の子の写真――レイジととっても仲良しな、フィンランド代表のファイターだ。


「アイラ・ユルキアイネンさんですか。ヒカリ」

「……チームネメシス関連の調査、フィンランド警察の協力もあって進んでいるそうだ」

「でも違法性はないと」

「表向きはね。でも裏は――」

「真っ黒だったわけね。ホント馬鹿らしい」


子どもが大人を利用する――その渦中にいた歌唄は、またも吐き捨てるように呟(つぶや)く。

でも同時に前を向いて、僕の背中を軽く叩(たた)いてくる。……それだけで気持ちは伝わった。


「この子が本当に被害者なら、助けないとね」

「うん」


自分は手伝えるところもほとんどないけど、それでもお願い――今泣いている子を、助けて。

そんなエールをしっかり受け取り、選手村への道を急いだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


恭文さんとマオ君の試合も終わってから、ビルドストライクの修理に勤(いそ)しんでいるとあっという間に翌日。

朝一番でニルス君と杏さんがやってきた。

目的はあの、異世界とか、プラフスキー粒子の結晶体とか言う話の経過報告……! ねぇ、本当にこれでいいの!?


やっぱり異世界とかあり得ないんじゃ! 反粒子の暴走が危ないってのは分かったけど、今まで事故もないんだよ!?


「ニルス君、やっぱり……異世界とか妄想なんじゃ」

「……セイ君」

「ほんと頭が固いな、お前」

「だってー!」

「セイ、先日も言ったよね。その点は主軸でも何でもないって」


そうして二人に窘(たしな)められるわけで。

「今問題視すべきは、プラフスキー粒子の工場が”ここ”にあった場合の危険性。
蒼凪プロデューサーの調べでは、そんな届け出は行政に出されてもいない」

「粒子と反粒子――対消滅の危険性がある以上、その点だけでも大問題です。早急にPPSE社の”粒子精製方法”を見いだす必要がある」

「で、でもそれが異世界出自って……レイジ、どうするの! 君の作り話でみんなが踊らされてるんだけど!」

「お前……ほんと認めた方がいいぞ? そういうところはママさん似だ」

「がはぁ!」


あぁ、今更だけど母さんの気持ちが分かったかも……大会が終わったら、ちょっと優しくしよう。


「で、石を調べるんだよな。そっちは」

「教授の知り合いにお願いして、機材等の調整は完了しました」

「ただニルスの手持ち機材で調べたけど……やっぱりあれ、地球上には存在しない物質だよ。
同時にとんでもないエネルギー量を秘めている。そこだけは間違いない」

「それをマシタの野郎が持ってて……それだけじゃ無理か」

「焦りは禁物だよ。一つ一つ、確実に進めていかなきゃ……でね、機材が届くのは明日ってことで」


僕が頭を抱えていると、ニルス君は五円玉を取り出す。

糸が結わえられたそれを、真剣な顔で持ち、振り子のように揺らし始めた。


「……ニルス君」

「実は大学の授業で、催眠療法の単位を取っていまして。これでレイジ君の記憶を遡るんです」

「記憶を、遡る?」

「もしマシタ会長と面識があれば……忘れているだけなら、それを思い出せるってこと」

「いやいや……いやいやいやいや! ニルス君、さすがに冗談がキツいよ! 五円玉って! 糸って!」

「もちろんこれは機材の一つにすぎません」


そこで杏さんが取り出すのは、メトロノームや音楽CD……それも含めて!?


「なぁ、こいつでどうするんだ?」

「簡単に言えば、すっごくリラックスした状態で眠ってもらうの。……そうだ、杏から確認。
セイはプラフスキー粒子絡みのこととか、何も知らないんだよね」

「知りませんよ! というか、PPSE社に関わったことも……あ、父さんは違うか」

「イオリ・タケシさん?」

「十年近く前、ガンプラバトルのシステム開発に参加していたらしいんです。モニターとしてですけど」


だから僕にとっては、本当にプラモを動かせる粒子で……それだけで。

正直今の状況も、全くピンとこない。みんなが考えすぎだと思うくらいだし。

でも……みんなが、その”万が一”を防ぐために、できることをやろうって頑張っているのも、知っているわけで。


そういう意味ではいろいろ複雑だった。だからこそ。


「……よし。ニルス、セイには練習台をやってもらおうよ」

「はい!?」

「ほら、レイジも催眠術の効果を疑っているようだし、実例として」

「それ、実験台って言うんじゃ!」

「安心してください。過去の記憶を引き出す程度であれば、危険はありません」

「その程度じゃ済まないこともあるの……!?」


杏さんの提案にも、強く拒否することができなくて。

……知識も、経験も、忍者や学者さんのような力もない子どもな僕でも、できることがあるのなら。


「……分かった。じゃあ、その程度で済ませる形で」

「……セイがやる気だ。どうしたんだよ、ママさんDNAは」

「それも克服したいから」


みんなの頑張りを後押しできるのなら……そう思って、笑って催眠療法を受ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セイとレイジ、ヤスフミもきっちり勝ち上がった。ヤサカ・マオは残念だったが……まぁ来年もあるさ。

現にユウキ・タツヤの奴も、三代目メイジンとしてだが再チャレンジしているしな。若いってのはいいことだ。


そう思いながらも選手村を出ようと、一階のロビーに入ると……備え付けられたソファーから立ち上がる、二つの影。


「ラルさん……それにヒビキ」

「キララ君でなくて悪かったな」

「あおー」


あおは俺の頭からジャンプし、ヒビキの胸元に着地……く、なんて羨ましい。


「よしよし……相変わらず甘えん坊だなー」

「ぢゅー」

「お出迎え、感謝しますよ……二人とも」


あおを頭に載せたまま、二人と一緒に外へ出る。



何時になっても、試合前の景色ってのは胸に突き刺さるな。

また明日も、次の試合を楽しみにしていられるか。それともカラスと一緒に泣く羽目になるか。

何とも言えない時間だ。まぁ、その緊張感がまた楽しいんだが。


「正念場だな」

「えぇ」

「相手は前回大会の優勝者<カルロス・カイザー>を破ったアイラ・ユルキアイネン」

「なかなかに高い壁です」

「でも無敗神話ってわけじゃない。恭文とリインが、第二ピリオドで崩した」

「あぁ。しかしクシャトリヤパピヨンという新機体により、また新しい流れが生まれつつある」


神妙な顔で告げたのが悪かったのか、ヒビキが心配そうに見上げてきた。


「やっぱりあの、粒子を霧散するフィールドか?」

「……Iフィールドとはまた違うからなぁ。Iフィールドは膜状バリアであって、その内部でのビーム使用は問題ない。
だから接近戦も有効だ。だが……あれは内部に入った粒子エネルギーをシャットアウトする”領域”。少なくとも敵機体はそうだ」

「無論完全ではないがな。それならばガンプラ自体の動きも止まってしまう」

「なかなかに高い壁です」

「勝算は」

「なくても見つけますよ」

「あお!」


そうだな、お前もいてくれる……一人じゃないってのは、ほんと心強いもんだ。

頭をぺしぺし叩(たた)く相棒には、感謝の気持ちを込めて撫(な)でてやる。


「ここから先のバトルでは、アイツらが待っています」

「恭文と、セイ・レイジ組だな」

「ぢゅ……!」

「予選での引き分け――その決着もつけたいが、ヤスフミとも今大会ではちゃんと遊んでないからな」


長年の友人でもあるし、昨日のフェイタリーを見ていたら……戦いたくてうずうずしてくる。

だが、それ以上に……それ以上に……!


「何より……世界大会にかこつけて、嫁を増やしていくのが許せん!」

「あが!?」

「一度ぶっ飛ばしてやりたい……その上で責任も取らせたい! ヒビキも含めて!」

「リ、リカルドは何を言ってるんだぁ! 自分は、その……もう……」

「もう!? もうってことは……アイツはぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あおー!」


あぁ、ヒビキがモジモジしている! つまりは大人の階段を上って、お願いシンデレラってことか!

あぁ、可愛(かわい)らしい……なんと可愛(かわい)らしい! ヤスフミがいなければ速攻なのに!


「ちくしょお……ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ! 俺もキララちゃんとのAngel Breezeなこいかぜ、TOKIMEKIエスカレートしてぇ!」

「何を言ってるんだぁ! というかキララさん以外、346プロの人達……あ」

「ぢゅ……ぢゅぢゅぢゅー」


……おい、今……ハム蔵、とても気になることを言ってなかったか? 翻訳すると、こうだ。


――瑞樹さんと楓さん、恭文のことが好きなんじゃ……城ヶ崎美嘉さんも、恭文くらいの体型が理想だって――

「ハム蔵、それは内緒だ!」

「あおー!?」

「好きって、どういうことだ。ライク……ラブ!? LOVELOVE愛してるってことかぁ!」

「あ……うん」

「ちくしょうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


あの野郎……あの野郎はぁぁぁぁぁぁぁぁ! 俺の、俺の楓さんと瑞樹さん、しかも城ヶ崎美嘉ちゃんの心までもぉ!

悔しさの余り、近くの木に駆け寄り拳を打ち込む……というか頭も打ち込む。


その姿はまるで丑(うし)の刻参りのよう。


「あお……今日の試合、絶対勝つぞ! ヤスフミの奴をぶっ飛ばす!」

「あおー!」

「あぁ、何だかおかしいことに! ラルさんー!」

「ま、まぁ……モチベーションが低いよりはマシだと思うが」

「やるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「いいのか、これで!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――どこかでリカルドの叫びが響いたのと同じ頃。

催眠療法ってのを試した結果、オレ達はただただどん引きだった。


「やめてくださいよ! そんなにガンダムを動かしたいんなら、あなた自身がやればいいんですよ!」


催眠療法で十年前……三歳時の記憶を引き出したセイ。

その結果、なぜか薄目状態で一人芝居。今は自分のTシャツを自分で掴(つか)んで、自分を殴っていた。


「あぁ!? な、殴ったね……ぼ、僕がそんなに安っぽい人間ですか!」


そしてもう一撃――。


「う! に、二度もぶった……親父にもぶたれたことないのにぃ!」

「……なぁ、ニルス」

「もうやらないからな! 誰が二度と、ガンダムなんかに乗ってやるものか!」

「なぁ、さっきからセイは……何を言ってるんだ?」

「……フラウ・ボゥ、ガンダムの操縦は君には無理だよ」


いや、フラウ・ボゥって誰だ!? さっきから幾度となく出ている名前だが! 確かえっと……最初に殴った奴の名前だよな!


「……アニメ『機動戦士ガンダム』劇中……アムロ・レイのセリフだね。今は九話かな」

「何話、あるんだ」

「一年続いたから、四十三話」

「もう止めようぜ……!」

「悔しいけど、僕は男なんだな」


知ってる! 知ってるよ! だからセイ、もうやめろ……とりあえず押さえようとすると。


「シャアめ!」

「うぉ!」


いきなりバックブローを打ち込まれ、のけ反りながら退避。コイツ……眠りながら戦ってやがる!


「……ニルス」

「どうなっているんですか、彼は……!」


なお、一番どん引きしていたのは……かけた本人(ニルス)だった。


「三歳時の深層心理に眠っているのが、ガンダムの台詞(せりふ)だらけなんて」

「や、やる!」

「セイ君……」

「マチルダさん……マチルダさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

「君は、どこまでガンダム馬鹿なんだ――!」


今度は誰だよ! つーかあの親父……ここまで来るとタチの悪い洗脳だろ! もっと他のことを勉強させてやろうぜ!?


「――」


それでセイは、なぜか涙目で敬礼。おい、何があった……やめろ。

死者を見送るような、そんな厳粛な態度をオレに向けるな……!


「ららー♪ らららーらーらららー♪ ららー♪ らららーららー♪」

「おい、今度は歌い出したぞ!」

「哀戦士……あ、劇場版とごっちゃになってるかな」

「もういい! セイ君、もういい……もういいですから!」


それでもセイは止まらない――催眠術って、こえー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


セイとリカルドは何やってんだか……選手村からちょっと離れた、カフェの方にまで声が響いてるんだけど。

それに呆(あき)れながらも、紅茶を飲んでホッと一息。その上でチェルシーさんと打ち合わせを重ねていた。


「それで恭文さん」

「地元警察やNPOにも協力してもらって、やっと掴(つか)めましたよ」


纏(まと)めた資料をチェルシーさんに渡して、確認してもらう。それで……可愛(かわい)らしい表情が一気に重苦しくなった。


「やはり……フラナ機関のクリーンさは見せかけだけと」

「えぇ」

「ありがとうございます。私どもだけでは、ここまでの情報は」

「いえ。ロス領事館の方に頼んで、協力してもらいましたし」


なお夏海さんです。フィンランド領事館に昔の同僚がいるらしくて、ちょっと紹介してもらったんだ。

……その上で見つけたよ……チームネメシス、及びフラナ機関のツッコミどころを。


「やっちゃん、夏海ちゃんとは適度な距離を保てよ」


そう言いながら、大下さんが僕の頭に膝を載せ、資料をのぞき込んでくる。

なお鷹山さんは僕の右肩に手を置き……ちょっとー! 僕は膝掛けじゃないー!


「タカが年がいもなく、ヤキモチを焼くからさぁ」

「警戒してるんだよ。大下くんっていう被害者がいたから」

「だよなぁ……よくも俺の天使をぉ!」

「だから、大下さんの天使じゃありませんって!」

「あぁ……あなたがたが、大下・鷹山両刑事ですね。初めまして」


チェルシーさんは静かに立ち上がり、お辞儀。それに合わせて二人も一礼。


「初めまして。チェルシー・ブランケットさんで」

「はい。……それとありがとうございます。チームネメシスの調査も手伝ってくれたとか」

「いえ。そちらは夏海――浜辺領事官の裁量が大きいので」

「そういうことです。……どれどれ」


大下さんはショウタロス達共々改めて、情報を確認する。


「……被害者も他にいたわけか。奴らに拾われ、ガンプラバトルをやらされ、それで『芽がない』と判断され、放り出された子ども達が」

「それをNPOが保護して、事情を聞いて調査していた……でも確固たる証拠がなかったんですね」

「そこで”これ”だ」


フラナ機関が導入した資材……その購入経路などを調べて、『何のために使うか』を徹底調査。

ようは設立目的や行動を明確化するのよ。もちろんフラナ機関は、ガンプラバトルの研究機関と銘打っていた。

そう偽っていた。……そのためには不明確なものがたくさん出てきたわけで。


「脳波測定に、AR機材……技術者? おいおい、ガンプラバトルにこんなのが必要なのかよ」

「普通は必要ありません。とにかく施設内では虐待に近い行為も黙認されていたし、子ども達には『従わなければ出ていけ』という脅しもかけられた」

「そこさえ分かれば問題ない。チームネメシスについても止められる……か」

「そういうことです。そして今日、ネメシス会長が来日するそうで」


時計を確認すると……そろそろ来ているかなー。細かいスケジュールはサッパリだったんだけど。


「目的は今日の試合――アイラ・ユルキアイネンの決勝トーナメント初戦を見ること」

「で、俺とユージが呼ばれたのは」

「手伝ってください。あ、素敵な女性を紹介しますから」

「え、マジ!? それ、やっちゃんに惚(ほ)れてないよね!」

「ほんと、そういうの嫌だよ? ほら、この間も……楓ちゃん達さ、僕達のことなんて眼中にないって感じで」


二人とも、なんでその辺りを警戒するのよ。というかあの飲み会については、そういう場じゃなかったよね。


「……って、馬鹿か! 俺は夏海がいるっての!」

「そうだぞ! 俺だって小鳥ちゃんと、こう……巣穴を温めるように少しずつ、だなぁ!」

「でも二人とも、ハーレムをしたいって言ってたじゃないですか。夏海さんと小鳥さんも知っていますし」

「蒼凪ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


あ、おじいちゃんがいきなり首を締め上げ……これがDVか!


「お前、いつ言った……いつそれを言ったぁ!」

「いや、何も言わなくても知ってたんですよ! 確か……カオルさんから聞いたって」

「カオルゥ!」

「アイツ、ほんと余計なことしかしないな! ……あれ、ということは」


そこで二人が笑顔で見やるのは、チェルシーさんだった。


「申し訳ありません。わたくしはお嬢様の……そして旦那様のメイドとして、生涯を捧(ささ)げる覚悟ですので」

「あ、そうだったのね。でも旦那様……」

「お嬢様ってのは、あのセシリアちゃんだろ? ということは」


するとなぜだろう。大下さんが首裏を掴(つか)んで、僕を軽く引っ張り上げる。


「やっちゃん、メイドさん好きって……言ってたもんなぁ! だから生涯を捧(ささ)げられて、またハーレム拡大か!」

「違いますよ!?」

「そうそう……ユージ君、穿(うが)った目で見過ぎ。ようは仕える者としての覚悟を説いたわけで」

「違いませんが」

「「「……え?」」」


え、まって……どう違わないの? 大下さんが穿(うが)っているだけじゃ。


「蒼凪君? どういうことかな……これは」


……鷹山さん、こっちを見ないで。


「チームネメシスの前に、そこんとこ……説明してもらおうじゃあ、ないかぁ!」


大下さんまでー! いや、こっちは元からだった! だ、誰か……誰か助けてー!

ヒカリ達もチェルシーさんのところに逃げないで! カムバック! カムバックしゅごキャラー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――会場近くの駐機場に移動し、停車したジェット機が一台。

その中から降りてくる旦那様と、その孫をアイラ共々出迎え。


「長旅、お疲れ様でした……会長」

「あぁ。順当に勝ち上がっておるようだな……どこの馬の骨とも知らぬ子どもに負けたときは、ヒヤヒヤしたが」


……アイラ、不服そうにするな……負けたのは事実だろうが。いや、確かにヤスフミ・アオナギは別格だったが。


「その点もアイラ共々反省し、まずはベスト16に名乗りを上げました。……今日の試合でベスト8を目指します」

「私が欲しいのは優勝トロフィーだけだ! そのためにフラナ機関に大金をつぎ込んでいる!」

「重々承知しております。しかし、高みは時に足場を脆(もろ)くするもの。
一歩一歩確実に進むことこそ、感謝の気持ちを伝える最短の道と心がけています」


優勝は当然取るが、そのためにも一つ一つの行程に全力を尽くす――暗にそう言うと、旦那様は憮然(ぶぜん)としながら鼻を鳴らす。


「では勝て……命令だ」

「は」

「……おじいちゃん! おじいちゃん!」


そこでタラップから、待ちわびたように金髪の幼子が降りてくる。

会長は険しい表情を緩め、しゃがみ込みながら子どもを受け止め、抱きかかえた。


「おー、どうした。ルーカスー」

「おじいちゃんのチームが勝つんだよね!」

「もちろんだとも! ルーカスのお誕生日のプレゼントに、大きな優勝トロフィーをプレゼントしてあげるからねー」

「ありがとう、おじいちゃん!」


――そのまま車に乗り込む二人を、礼を送りながら見送る……そこでようやく一息つき、ネクタイを緩めた。


「ふぅ……孫のために、ガンプラバトルに参戦か。ネメシス会長ともあろうものが、道楽がすぎるとも思うが」


呆(あき)れながらも歩き出し、不満げなアイラを見やる。


「フラナ機関にとっては貴重な出資者だ。むげにはできない」

「くだらない……」


全く同意見だが、その言葉は聞き逃した。……いろいろ褒められない繋(つな)がりではあるが、私はアイラの才能に惚(ほ)れ込んでいる。

それゆえに今、アイラがあの二人を見て、一体何を考えたか。何を想像したか……すぐに理解してしまった。


いかんな、こんなことでは。栄光を手にすることなどできん。

私にとって奴は道具だ。惚(ほ)れ込んでいるのも結局……それが大人というものだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


本日の試合……まずはジオウ・R・アマサキ対ジャスティン・フォックス。

だがこちらは、語るべきところもないままに終了。ベビーRが圧倒的だったとだけ言っておく。


――これで二回戦の出場選手は、あと一名を残して全て決定。


その残り一枠をかけて、いよいよ蝶のお嬢さんと対決だ。


『――ただいまより、一回戦第八試合を始めます』


ベース越しにセコンドの優男と、コスプレ女性と対面。


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Mountain≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は雪原地帯……よし、運が向いてきたぜ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「ウイングガンダムフェニーチェ――出るぞ!」

「あおー!」


ビームライフルを片手に、メテオホッパーを走らせ……雪原にダイブ!

着地の衝撃で雪を散らしながら、笑って上空を見上げる。

早速迫ってきたクシャトリヤ・パピヨン……相手にとって不足はねぇ。


「さぁて、口説かせてもらおうか……元不敗伝説のセニョリータ!」


迫りながら、左手のライフルで一射――それを回避しつつ、パピヨンは四枚羽根を開き、その外側のハッチも展開。

そこから無数の鱗粉(りんぷん)をまき散らしてくれる。


「クリアファンネルか!」

「あおあお!」

「分かってる!」


クシャトリヤにバージョンアップして、火器類はたんまり……パワーも上がっている。

特に厄介なのがファンネルだ。クリア素材と塗料を活用し、正真正銘のステルスを維持しているのは分かる。

その上このアイラ・ユルキアイネンとやら、どうもガンプラの動きが先読みできる……粒子の動きが視(み)えるらしい。


そうとしか思えない動きの数々だから、ニュータイプって噂(うわさ)されたもんだ。だが、対処方法はある。

癪(しゃく)だが、既にヤスフミが示した通りな。そういうわけで……反転!


クリアファンネルは群れとなり……しかし、灰色の空から降る雪が当たり、それによって生まれる煌(きら)めきで晒(さら)されていく。

本当に僅かな輝きだが、それだけ見えれば十分。よく引きつけた上で……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


雪煙を上げて走る、緑のガンプラとバイク。それにクリアファンネル達はなかなか追いつけない。

むしろ引き離されている……! これはバイクの機動力があればこそか? いや、違う。


「ファンネルの速度が遅い……! アイラ、どうした? アイラ!」


バルトに注意されても、集中できなかった。だってこの戦いに勝てば、次は……アイツかもしれない。

アイツと、ここで戦うの? ガンプラが、バトルが好きなアイツと……わたしが絶対、勝っちゃうのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「これだけスピード差があれば、ファンネルも追いつけまい」

「あお!」


メテオホッパーは軽く跳躍し、百八十度反転。その衝撃で雪煙が爆発的に立ち上る。

そのまま交代すると、白い煙を抜けるファンネル達……そこでトリガーを引く。


「見えなくても」


ホッパー側のカートリッジがパージされ、セットされたバスターライフルにエネルギーが集束。

すぐさまイオンビームとして放射――半径百五十メートルにも及ぶ砲撃は、地面と雪を抉(えぐ)り、溶かしながら、安直なファンネル達を尽く撃墜。


「居場所が分かればぁ!」

「あお!」


突き抜けたイオンビームが山を貫通し、イビツな穴を生み出す。……そこでパピヨン本体が突撃。

胸元の拡散メガ粒子砲四門からビームを放つので、バックしながらもスラローム。

脇を掠(かす)めるトパーズ色の雨に、ゾクゾクしながらも抜けていく。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「クリアファンネルが全滅……アイラ!」


拡散メガ粒子砲を抜けたフェニーチェに対し、アイラは頭部バルカンを連続発射。

パピヨンはアックスを振り上げるも、そこでフェニーチェが突撃。メテオホッパーから離れ、こちらを迎え撃つ。

不意打ちの強襲……しかしアイラの<エンボディ>ならば、それを見抜くことは容易(たやす)い。


アイラは向こうの突撃に合わせ、ITFを発動。ビームレイピアを無効化しつつ、アックスを突き出す。

だがそこで、フェニーチェは片翼を広げ右スウェー……そんなフェイントは無駄だ。

アイラには、ガンプラを包む流動体の粒子が見える。回避しても、すぐ薙ぎに入ることが可能。


……それが、ただの回避だったのなら、私の想定した通りだ。


問題は回避した途端、アイラの目を引きつけるものが現れたこと。

それはこちらの視界を黄色に染め上げる……バスターライフルのイオンビーム。


「……!」


自らを盾にして、視界を塞いだ上での不意打ちだった。奴の攻撃はこちらが本命だった。

結果突きだしたアックスは刃と基部部分が丸ごと融解し、無様に柄のみが残った。

だが破壊はそこまでだ。本体自体はITFによる粒子結合解除により、難なく守られた。


……イオンビームからは。


そこで機体に衝撃が加わる。側面に回り込んだ奴は、バルカンとマシンキャノンでこちらに攻撃。

バインダーの一枚が……外側に仕込んだファンネルラックが破壊されたところで、右飛び蹴り。

対処する間もなく蹴り飛ばされ、パピヨンは地面へと落ちる。


「っ……!」


落下する前に反転し、再び拡散メガ粒子砲を放つ。が……それはITFにより、発射された途端に消失。


「ITF、解除!」


ITFを解除すると、再びバスターライフル……クシャトリヤは羽を広げ、巨体に似合わない軽やかさで回避。

が、そのとき左前翼がイオンビームを掠(かす)め、ファンネルラックごと吹き飛んでしまう。

その爆炎を突き抜け、奴のマシンキャノン。

右肩ビーム砲。

左腕のビームガン(セット中のレイピア)。

左手のビームライフルがフルバースト。


被弾の衝撃から回避行動も取れず、胴体や頭部、腕などに被弾……そのまま雪原に着地し、ホバリングで退避するしかなかった。

……ヤスフミ・アオナギやスガ・トウリもそうだったが、コイツも同じ! そろって化け物か!


アイラの能力が分かっていないだろうに、容赦なく対策を立ててくる! これが世界の壁ということか!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……やっぱりか。幾ら動きが分かると言っても、カメレオンでもあるまいし……全ては見えない。

そうだ、彼女は見えるものに捕らわれ過ぎている。こういうのはもっと、三百六十度に感覚を延ばさないとなぁ。

それと、ITFだったか? ソイツの領域もしっかり見て取ったぜ。そこまで広くはない……あの巨体を包めるくらいだ。


そして自身の粒子(ビーム)攻撃も、発動中は発射できない。ただしそれは、完全に使えないという意味じゃない。


「あお、見たな」

「あお!」

『く……!』


メテオホッパーと合流したところで、パピヨンは残ったバインダー二枚からファンネル放出。

ただし今度は色つき。至ってベーシックなタイプだった。


「今度は色つきかい!」


まぁ第二ピリオドの試合は見たし、ばっちり分かっていたさ。なのでメテオホッパーで……逃げるんだよぉ!

追尾し、放たれるビームを尽くすり抜け……まずは森(もり)の中へ。

この場所なら縦横無尽にビット操作とはいかない。動ける場所は限られるため、必然的にビットビームの襲う方向も決まる。


だからこそ単なるスラロームだけで、次々走る向上を回避……その上で退避を許さず、カウンターでの射撃。


狙い通りにビットを撃ち抜き、まず一つ撃墜。さぁ、どんどん行くぜ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はぁ……はぁ……もー!」


仕方ないとはいえ、アイドルは辛(つら)い……チームとまとの奴らみたいに、楽しくハーレム夏休みとはいかない。


「インタビューが押すからー!」


それでも通路を駆け抜け、会場へと到着。

何せ今日のバトルは……フェリーニと『あの』アイラ・ユルキアイネン!

一応ファン……そう、ファンでもある私としては、絶対見逃せない。


でも不安だった。

アイラ・ユルキアイネンに土を付けられたのは、ヤスフミ・アオナギとスガ・トウリだけ。

……え、スガ・トウリは負けた? 機体<ハードウェア>はともかく、中の人間<ソフトウェア>は圧勝でしょ。


あの変なフィールドも事前に分かっていたなら、確実に対策して勝っていた。私はそういう勝負だって思った。


ならフェリーニは? 機体性能は言わずもがなだろうし、どうやって……そんな不安は。


「バトルは……!!


フェニーチェが雪原を走りながら、ライフルを乱射する様子で吹き飛ぶ。

木々によって狭まった道……オールレンジ兵器も、その機動を制限されるフィールド。

そんな中へ走り込み、的確に一つ、また一つとビームライフルで潰していく。


それも尋常じゃない速度で。十数基存在していたファンネルは、瞬く間に数を減らす。


クシャトリヤ・パピヨンについても、バインダーが半分壊れ、右手の斧は単なる棒と化し、ボディには被弾の跡。

それで安堵(あんど)した。この勝負もやっぱり……中身<ソフトウェア>が決め手なんだって。


だったらフェニーチェは負けない。最高の相棒<リカルド・フェリーニ>が付いているんだから。



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……何をやっている。

あの馬鹿どもは……あんな、片方にしか羽根のない、壊れかけのようなガンプラに苦戦していた。


バイクが谷間へ入ると、ビットとやらが追撃。だがバイクはまたも跳躍し、反転しながら。


『纏(まと)めていただきぃ!』


谷間に入ったビット達を、あの巨大な砲撃で全て潰してしまう。

その様子に、VIPルームの窓に張り付いていた孫が、不安げに振り返った。


「おじいちゃん……おじいちゃんの、ガンプラがぁ」

「大丈夫だよぉ。すぐ逆転するから……少し、待ってなさい」

「うん……」


ルーカスには安心させるように笑ってから、VIPルームを出る。


孫を悲しませるなど……幾ら金をつぎ込んだと思っている。

孫には、大会の優勝トロフィーを贈るんだ。孫はガンプラが、バトルが大好きなんだぞ。

そのためのチームネメシスであり、そのためのお前達だろうが……!


その仕事を果たせないというのなら、しっかり躾(しつ)けなくては。ドアの脇に控えたSPには構わず、早速連絡を取る。


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ファンネルが、全て撃墜……何なのだ、コイツらは……!


「く……!」


アイラが五発目のバスターライフルを左に回避すると、そこに別のビームが迫る。今度はITFも間に合わなかった。

胸元に着弾し、その衝撃から機体は雪原に落下。しかしアイラは墜落寸前で体勢を立て直し、奴から距離を取る。

当然追撃してくるメテオホッパー……今の一撃、かなり危なかった。装甲は抜けていないが、もう一撃食らえば……!


――EMBODY SYSTEM――


不安をかき消すように、まずはアイラの状態チェック。

さすがにここまでの反応は悪すぎる。一体何がどうなって……そういう、ことか。


「なぜだ、エンボディの数値が下がっている……」

『何をしている』


そこで会長の声が響く。慌てて周囲を見やると、サウンドオンリーの通信ウインドウが開いていた。

『おされているではないか――!』

「か、会長!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


通路で携帯片手に、険しい表情のおじいちゃん。さぁツッコもうかと思ったけど、ちょっと停止。

非常階段入り口の陰に隠れ、その様子をコッソリと窺(うかが)う。


「孫はネメシスの圧倒的な勝利を望んでいる」

『すみません。エンボディの数値に問題が……』


今の声は、ナイン・バルトか。フラナ機関の責任者で、アイラ・ユルキアイネンのセコンド。

バトル中にかけるとは、礼儀知らずだなぁ。


「なら、今すぐ”出力”を全開にしろ!」

『し、しかし……それではアイラの体が』

「それがどうした?」

『え……!』


おじいちゃんは鼻で笑い、ゴミを見るかのような目をし始めた。

その上で見るのは、電話越しのナイン・バルトと、アイラ・ユルキアイネン。


「この試合に勝てばそれでいい! 使い物にならなくなれば、次から別のヤツを用意しろ!」

『――!』

「これは出資者としての命令だ――!」

「わ、分かりました……」


通話は終了。おじいちゃんはSPが開いたドアを抜け、部屋に戻ろうとする。


「全く……くだらんことで手間取りおって」

「そうですね、本当に手間取りましたよ」


そこで非常階段入り口から出つつ、声をかけておく。

そうして動きが止まったところで一気に近づき。


「どうも、ネメシス会長」

「何だ、貴様は……!」

「セクシー大下と」


ついてきてくれた大下さんは、鷹山さん共々警察手帳を提示。


「ダンディー鷹山」

「そしてデンジャラス蒼凪」

≪どうも、私です≫

「帰れ。私は今、孫と試合を見ている」

「フラナ機関がフィンランドのストリートチルドレンを、ガンプラバトルという<ビジネス>に利用した」


そうはいかないので、立ちふさがるSPをすり抜け、部屋の中に入る。


「あれ……このお兄ちゃん」

「しかも庇護(ひご)下にある子どもにはバトル実習を強要。従わないのなら暴力を振るい、場合によっては再び外へ放り出す。
アイラ・ユルキアイネンもそんな一人だった。……既に調べはついていますよ」

「帰れと言ったはずだ」

「チームネメシスには、それを知りながら関与した疑いがあります。お話、聞かせてもらえます?」

「もういい。……おい」

「は……出ていけ。ここは会長とルーカス様のプライベートルーム」


そこでSPの一人が僕の肩を掴(つか)むので。


「こういうものも出てるんですけど」


書類を取り出しながら笑顔で告げると、男は躊躇(ためら)いなく左ボディブロー。


「……待て!」


でも拳が届く寸前に、会長が静止。荒く息を吐き、寸前で止まった攻撃に安堵(あんど)した。


「そうだ、やめろ……」

「会長、しかし」

「”捜査令状”が出ている上で殴れば、悪いのはこちら……それが狙いか、貴様ら!」

「ほんと悪い奴だよなぁ、タカとやっちゃんは」

「大下さんが逃げた。小鳥さんにあることあること吹き込もう」

「やめろよ!」

「いや、あることならいいと思うぞ? 嘘じゃないし……しかし会長、懸命な判断です」

「そうそう。もう俺達、こうきてこうきて……こうくる予定だったし?」


大下さんが右フック・左ボディブロー、更に金的蹴りと演舞するのを見て、会長は顔面蒼白(そうはく)。

それでようやく気づいたらしい……僕達がまともじゃないってことに。

危うく犯罪者となりかけたSP達共々、後ずさりながら恐怖に陥る。


そのまま逃げようとするも、鷹山さんと大下さんによって部屋へと押し込められた。


「お、おじいちゃん……」

「待て……孫の前だ! 話は」

「その前に通すべき筋があるでしょ」


仕方ないのでSP達共々廊下に出て、ドアをしっかり閉じる。


「アイラ・ユルキアイネンに出した指示……それだけで分かる。
あなたは奴らがどういう組織か、何をしていたか知っていた」

「……!」

「家族のためというのなら、ちゃんと……胸を張れること、やっていきましょうよ」


そう静かに告げたのは、大下さんだった。


「俺は長いこと刑事(デカ)をやってきて、それができずに苦しんでいる人達を、何人か見てきました」

「……」

「疑う側(がわ)も、疑われる側(がわ)も辛(つら)いんです。可愛(かわい)い子どもをそんな目に遭わせたいんですか」

「ルー……カス……」

「会長!」


大下さんが声を震わせながら説得……初対面にも拘(かか)わらず、自分達のことを本気で案じてくれている。

その上で応援もしてくれている。まだ引き返せる……ここで、その姿勢を示せば。

会長にもその気持ちは伝わったようで、手を震わせながら、携帯を取り出す。


会長が一番気にしているのは、僕達でも、試合の様子でもなかった。


混乱する状況の中、自分に縋(すが)っている……信じてくれている、孫だけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会長命令となれば……もう致し方あるまい。


「悪く思うなよ」


コンソールを操作し、エンボディの感覚数値を上昇――。


「調子を崩したお前に非がある」


三十二……底辺間近だった数値は、一気に現界数値二百を超え、レッドゾーンへ突入。

アイラのヘルメット、そこに刻まれたラインが輝き。


「う……な、何……」


数値は二百八十を突破。


「ああ……う、うぅ! うぐぅ……ああ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「解放されたければ、早急に奴を倒せ!」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


クシャトリヤ・パピヨンは地表に落下。そこですかさず強襲をかけてくるフェニーチェ……さすがと言っておこう。

勝利を逃さないその気迫と圧倒的技量、感服に値する。だが……!


『バルト、先ほどの命令は撤回する』

「はぁ!?」


そこで突然、弱気な会長の声が届く。


『アイラはそのままで』

「無茶(むちゃ)を仰(おっしゃ)らないでください!」

『これは命令だ』

「先ほどのも命令……そう言ったのはあなたでしょう!」

『待て、バルト……こちらには』


すぐに通信を切り、試合に集中……さぁこい、ウイングガンダムフェニーチェ!

お前を倒し、我が野望の礎とする! フラナ機関の名を挙げ、私は永遠の名誉を――!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クシャトリヤの動きが止まった……操作ミス? いや、違う。


「あお!」

「あぁ、分かっている」


この状況で、あれだけの相手が……そんな真似(まね)をするはずがない。

迫りながらも警戒しつつ、メテオホッパーから離脱。

予備のバスターライフルを携えた上で、奴に砲口を向け。


「こうなりゃ、出たとこ勝負だ!」

「あおー!」


トリガーを引く……が、奴の頭部ゴーグルが上がり、ツインアイが露(あら)わになる。

その瞬間バインダーや腕、足のラインに刻まれた袖付きラインが赤く染まり、爆煙を挙げながら疾駆。

……その動きに反応することができなかった。気づいたときには、バスターライフルを持った右腕が切断され、宙を舞う。


慌てて上昇し、振り向きながらビームライフルを構えると。


「がぁ!」


背中に衝撃……奴は後ろに回り込んで、ウイングをたたき潰していた。

既に斧の刃が消えた、柄だけになった武装で……ただ、力を振るっただけで。


体勢を立て直しながら着地すると、奴は俺の眼前へと回り込む。


「あお!」

それに反応しても無駄……上昇したと見せかけ、すぐ振り返りビームマント展開。

しかしITFが発動し、マントは消失。そのまま蹴りを食らい、雪原を切り裂くように滑る。


「く……! 半端ねぇな、おい!」

「あおー!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


走る……走る……僕達は走る。


「――全く! セイのせいでまた遅刻だよ!」

「いつも遅刻しているのはレイジじゃ」

「今回と第一ピリオドはセイのせいだ!」


そんな話をしながらも僕達は会場の表玄関へ飛び込み、全力で走る。


「だって、ニルス君が催眠療法なんてするからぁ!」

「それについては謝りますが、想定外のこともありますからね!?」

「そうだよ……まさかガンダム全四十三話の台詞(せりふ)、喋(しゃべ)りきるまで意識が戻らないって」

「どんだけガンダム馬鹿なんだよ、お前! そんなんだからチナとも進展しねぇんだよ!」

「なんでさぁ!」


なんで僕がフルボッコ!? 僕、被験者として頑張ったはずなのに! 僕だけが悪者って何!

と、とにかく急ごう! フェリーニさんとアイラ・ユルキアイネンさんのバトルが……!


四人で全力の疾駆……そうして会場内に駆け込むと。


「……な……!」


レイジが声を漏らした。


ウイングガンダムフェニーチェは膝を突き、クシャトリヤ・パピヨンの前に頭を垂れていた。

そう思えるほどに圧倒的な……傷だらけなんだ。フェニーチェが……僕達と戦ったとき以上に。


「フェニーチェが、あんなに……」

「……普通のやられ方じゃないね。クシャトリヤ・パピヨンも損傷は大きいけど」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あお……!」

「完全に動きが読まれている。ヤスフミやスガ・トウリのとき以上……これがコイツの強さ、その本質か」


正直絶望だ。これに勝てって言うなら、もう十年は欲しい……だが。


「……滾(たぎ)るよな、あお」

「――あお♪」


つまりだ、ヤスフミでも”コイツ”は倒していない。それを俺が倒したら……自慢できるよなぁ。

セニョリータのハートを仕留めたのは、お前じゃなくて俺だってよ――!


「あぁ、まだだ」


立ち上がり、ビームマントを左手に纏(まと)わせて突撃……その上で左ストレート。

すぐバックブローに映るが、それは振り上げた柄<ロッド>に叩(たた)かれ、容易(たやす)く吹き飛ばされてしまう。


「まだ終わりじゃねぇ!」

『もうやめて、フェリーニ!』


おー、キララちゃんの声か! いいねいいね……最高のシチュエーションだ!


『そんな状態じゃあバトルにならない!』

「馬鹿言うんじゃねぇ!」

『……!』

「この俺が……」


普通の機動戦闘は無理。

殴り合いもここまでのダメージから無理。


となれば――!


「このまますごすご引き下がれるかぁ!」


あえて正面から突っ込む……そうして、雪を切り裂きながら奴に肉薄。

だがその瞬間、狙い通りにITFが発動。ビームマントによる守(まも)りは消失。

更にロッドが突き出され、フェニーチェの左胸に突き立てられる。


脆(もろ)くなっていたボディが貫通し、突撃は止められてしまった。


「……ふ」


そこでロッドを左手で掴(つか)み……更に突き刺して、パピヨンと機体を接触させる。

そのとき、左腕にセットしていたレイピアの柄尻が、拡散メガ粒子砲の砲口と接触……突き入れられる。


これこそが俺達の狙い……俺達の切り札。


『まさか……』

「あお!? あおあおあお!」

『自爆するつもりか、貴様!』

「いいや」


その言葉を否定するように、レイピアからビームが走る。

連続発射されたそれは跳弾となり、パピヨンの装甲内部を叩(たた)き、動力部を傷つけ、膨れあがらせる。


『な……!』

「勝つんだよ!」


馬鹿が……違う! 全く違う! お前達のITFには一つ、弱点がある!

それはお前達自身が対象に入らないこと……まぁ、入っちまったらガンプラは動かないからな!

だからさっきも拡散メガ粒子砲は、発動だけはしていた! 射出した途端かき消されちまったが!


つまり”クシャトリヤ・パピヨンの中”……ボディに限りなく近い場所なら、こちらのビーム攻撃も有効!


『ぐ……がぁぁぁぁぁぁ!』


今更気づいて、パピヨンがフェニーチェを蹴り飛ばそうとする。

だが無意味……クシャトリヤの可動範囲を考え踏み込んだから、膝を上げることすらできない。

すかさず伸びた左腕で殴りつけられるが、その程度で潰れる覚悟じゃない。


『ITF解』


ITFが解除される前に、ガトリングとマシンキャノンを駆使し、他三つの拡散メガ粒子砲を潰しておく。

更にそのまま連射し、外側からも弾丸をたっぷり……たっぷりお見舞い。


『拡散メガ粒子砲が!』

「……地獄へ行くのは、ここにある”兵器”と」


容赦なくトリガーを引いて。


「戦争だけにしようぜぇ!」


引いて、引いて、引いて――銃身が焼け付くまで、撃ち続ける!


「あおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

『――フェリーニ!』


内部で跳ね回るビームの弾丸。それが奴の装甲を膨れあがらせ、フレームを潰し、全てを終わらせようとしたところで。


≪Discontinued≫


突如、全てのコントロールが停止。クシャトリヤ・パピヨンの抵抗も、俺の猛攻も……全てが止まる。


「なんだ……どうした! 何が起きた!」

「あおあおー!」


『――お客様にお知らせします』


俺の疑問に答えるかの如(ごと)く、会場アナウンスが響いた。


『チームネメシスは重大な違反行為が認められたため、運営委員会は協議の結果――本試合を無効。
勝者はリカルド・フェリーニとすることで合意しました』

「は……?」

「あお!?」

『繰り返します。本試合を無効――勝者はリカルド・フェリーニとすることで合意しました』


俺の、勝ち……だが、納得がいかなかった。

スッキリもしなかった。だって……せっかくかっこいい逆転劇、見せるところだったんだぞぉ!


つーか違反って、コイツらは何をやったんだよ! この無茶苦茶(むちゃくちゃ)強い状態か! そうなのか、おい!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


重大な、違反だと。そこで背筋がぞくりとする。まさか……フラナ機関の行いがバレた?

いや、そんなはずはない。厳重に情報封鎖はしていたんだ。ならばなぜ……逃げなくては。

全力で、逃げなくては。ここにはいられない……私は、何も知らない。


アイラが悪いんだ。私にこんなことをさせた、コイツの才能が……!


「うぅ……あ」


……そこで、動きを止めていたはずのクシャトリヤが動く。

ぎしぎしと軋(きし)みながら……拘束具を引きはがすかのように、動く。


そうしてランスを引き抜き、クシャトリヤはフェニーチェを蹴り飛ばす。


『何!』

「こわ、す」

『あお!?』

「コワ、ス」

「何をしている、アイラ……もうバトルは」


慌ててエンボディの数値を見ると……五、だと。


「出力を上げすぎて、意識が」

「コワス……コワス……コワス……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『コワス……コワシテ、カツ』


フィールドが少しずつ消えていく中、パピヨンは暴力的に振る舞う。

ロッドを逆手に構え、横たわるフェニーチュに突き立てる。

繰り返し……何度も、何度も、何度も、何度も。


『カッテ、イキル……カテナキャ、タベラレナイ……』


うわごとのように何かを呟(つぶや)きながら、蹂躙(じゅうりん)を続ける。もう、フェニーチェは戦う力を残していないのに。


『イヤダ、イヤダ、イヤダ……サムイノ、イヤァァァァァァ!』

「……やめて」


その姿を僕達は、ただ見ていることしかできなかった。


『ア! ア! ア! ア! ア! ア! ……アアアアアアアアアア!』

「やめて……!」


会場が……フェリーニさんの反撃で盛り上がっていた会場が、あっという間に静まりかえって。

そんな中、ただ黙って見ていることしか、できなくて……。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


だから、想像も付かなかった。


『大丈夫だ、キララちゃん』


……彼女の背後から、イオンビームの奔流が現れるなんて。


『――!』


それに反応し、飛び上がろうとしたパピヨンは。


『そんなに寒いのが嫌なら』


回避コースを予測して放った、フェリーニさんの技術に圧倒され。


『イヤ――!』

『俺の隣で眠りな――セニョリータ』


自らイオンビームに飛び込み、あっ気なく消失――爆散した。


……それを成したのは当然、残骸と成り果てたフェニーチェじゃない。

メテオホッパー――フェニーチェの愛機であり、脱出機<ブースター>。


それでようやく……本当にようやく、バトルフィールドに静けさが戻る。

荒れ果てた雪原は消え去り、後に残るのは無傷のメテオホッパーと、二つの残骸だけ。


「フェリーニさんが、勝った」

「でも、後味は悪いね」

「……それでも、勝利は勝利です」


冷たく切り捨てたように見えるけど、ニルス君の表情は重い。

そう割り切ろうとしていたのは、一目瞭然だった。


「あのやろ……!」


レイジはそこで、怒りの形相で飛び出していく。


「あ……レイジ!」


慌ててレイジを追いかけると、金髪眼鏡のセコンドは戸惑いながらも、どこへなりと逃げ出した。

倒れ込むパイロットを置いた上で……倒れ込む? そう言えばあの人、さっきから様子がおかしかった。

もしかして体調が悪かったんじゃ……! でもそれで逃げるなんて、普通じゃないかも!


とにかく倒れ込んだあの人は、頭を強く打ち付ける。だけどヘルメットのおかげか、血が流れるようなこともない。


その代償と言わんばかりに、ヘルメットがひび割れ、あの人の頭から落ちてしまう。


「レイジ、冷静に! もしかしたら」

「てめぇ!」


あぁ、聞いてくれないか! とにかくレイジを止めようと、ベースに駆け上がり……足を止めてしまった。


「ん……わ、たし……どう、して」


フラつきながらも、目を開くその人は――。


「おい、お前――」

「――アイラ・ユルキアイネン」


そこで現れたヒカリは、レイジ共々厳しい視線を送っていた。


「それがお前の、本当の名だったんだな」

「あ……!」

「アイナ、何……やってんだ」


それは、僕も一度だけ見たことがある人だった。


「おい……」


委員長が静岡(しずおか)にきたその日、たまたま見かけた女性。

レイジと親しそうに話していた、その人が――。


「何してんだって聞いてんだよ! アイナァ!」


チームネメシスのメインファイターで、世界最強のカイザーを破った人。

そして今……ファイターとしてあるまじき暴走を繰り広げた、残虚なりし処刑人だった。


(Memory62へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、原作と違ってフェリーニ勝利。しかし後味の悪い結果は変わらず……」

古鉄≪アイナさんは果たして次回どうなるのか。そして原作にない対戦組み合わせを増やしてしまった、作者はどうなるのか≫


(す、少しずつ進めます)


恭文「そんな鮮烈な日常第61話、いかがでしたでしょうか。お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です。さて、今日(2017/02/14)はバレンタインですが……あなた、毎年チョコが凄(すご)いことに≫

恭文「いや、今年はそうでもないよ? みんなが気づかって、当日時期をずらしつつ渡してくれて……ありがとう」


(早め早め、又は遅め遅め)


古鉄≪それで、FGOでもバレンタインイベントが盛り上がっていますが……あなたが今回、もらって嬉(うれ)しかったチョコは≫

恭文「スカサハ様! アサシンだけど!」


(蒼い古き鉄、即答である)


恭文「だって去年はもらえなかったんだよ!? それに比べたら……来年は槍なスカサハ様からももらうぞー! おー!
もちろんジャンヌ・タマモ・セイバー(本家)も……いやその、本当に頑張りますので、はい」

古鉄≪そうですか……だからチョコレートのお酒を二人で飲むとき、あんなことになったわけですね≫

恭文「アルト!? ちょ、その話は」

古鉄≪いい気分になったスカサハ様が、『DTを殺すセーター』を着用して……それも前後逆に≫

恭文「それは駄目ー! Twitterで某絵師さんが使ったネタでしょうが!」


(セーターだけならともかく、それを前後逆は駄目絶対! ……なお、セーター着用はしたそうです。
――一方その頃、346プロ)


卯月「私も茨木ちゃんと、ぱんにゃちゃん達からチョコをもらいましたー」

茨木童子「……なぜ吾が、汝に菓子を上げねば……と思っていたが、一緒に食べるためだったのか」(かじかじ)

白ぱんにゃ「うりゅりゅー♪」

黒ぱんにゃ「うりゅ……♪」

茶ぱんにゃ「うりゅー」

灰色ぱんにゃ「うりゅりゅ!」

茨木童子「しかも小娘もチョコがあるとは……二重に楽しいな」

卯月「はい! 楽しいんです! ……でも恭文さん……スカサハさんに、そこまで……やっぱり大きくて大人な女性が好きなんですね」

茨木童子「奴は鬼に匹敵するものを棲(す)まわせておるのに、妙にヘタレだからなぁ。
自分の好み一つ声高らかに宣言できんとは、情けない」

卯月「私、もっと大人にならないと……」

白ぱんにゃ「うりゅー!」

茨木童子「……ぱんにゃはともかく、お前には無理では」

卯月「どうしてですかー!」

茨木童子「むしろお前はもっとこう、伸ばすべき個性があるだろ。こう……へごちんとか」

卯月「へごちん!?」


(イバラギン、お菓子をもらった手前があるので、ちょっと濁したようです。
本日のED:JAM Project featuring 影山ヒロノブ『FIRE WARS』)


フェイト「今日はバレンタイン……ということで、いっぱい、いーっぱい……コミュニケーションだよ?」(例のセーターを着た上で)

歌唄「アンタが胸の大きな女性が好きなのは、よーく分かったわ。でもね……私だってそれなりよ?」(殺し屋の目)

恭文「う、うん……ただあの、歌唄」

歌唄「何よ」

恭文「この……ダンベル型のチョコは、もしや」

歌唄「アンタのところにいる聖女(マルタ)から教わって作ったの。圧縮するのって楽しいわよね」

恭文「工程が激しく間違っている!」

フェイト「ホントだよ! チョコにそういう……圧縮とか、なかったはずだよ!?」


(おしまい)








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あきゅろす。
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