小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory60 『心の形』
まず思い出すのは、あの夏の日――。
『うわー!』
ワイが近くの模型店に寄贈したSガンダムを見て、興奮する同じくらいの男の子達。
「このえすが……Sガンダム、スゲェ作り込み!」
「カッコイイ!」
「超絶スゲェ!」
『いいなぁー』
その背中を名乗りもせずに、道を挟んだところから見つめて、得意げに笑っていた小さな自分。
幼稚園の頃から……ガンダムを見て、ガンプラを作って。
模型雑誌にもデカデカと紹介されて。
自分よりガンプラ作りが上手(うま)いヤツなんて、いない思うてました。
天狗(てんぐ)になってました。今考えると、ホンマにガキやと思います……今もガキですけど。
でも――また別の日、それは違うと突きつけられた。
『やっちまえ!』
『おぉ!』
ビームクロスを構えたクーロンガンダムは、水中に引きずり込まれてもな揺らがない。
周囲には水中用モビルスーツがひしめいていたのに。
展開したビームクロスには、『ガンプラ心形流』の文字。まるでGガンOPのシャイニングでした。
するとその瞬間――周囲の水ごと、取り囲んだ機体全てを吹き飛ばす。
海底から水が消え去り、吹き飛んだガンプラ達が次々落下。
アッシュ。
キャンサー。
ジンフェムウス。
マーメイドガンダム。
水中型ガンダム――。
露(あら)わになった岩肌に叩(たた)きつけられ、全て爆散。残ったのは、改造されたクーロンガンダムだけ。
「あぁ……」
上には上がいる。
ガンプラには果てがない。
それをあの人が――。
……師匠が、教えてくれはったんです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後――ワイはこのおじいちゃんの跡を付け、ガンプラ心形流の道場とやらを発見。
恐れを知らぬ幼きワイ……いや、今も幼いですけど。
「じーさんじーさん!」
縁側でそばを啜(すす)っていた、珍庵師匠に声をかけていた。なお堂々とした不法侵入です。
「さっきのすごい技、ワイに教えて!」
「……凄(すご)い技?」
「さっきやったやん! 相手のガンプラを、ばばばばーって吹き飛ばすやつ……教えて!」
「嫌や、面倒臭い」
そして師匠は、幼子にも何の遠慮もなかった。
「……そんなんいわんと教えてぇ! あの技ワイもやってみたいー!」
なのでワイ、地面に倒れ込みじたばたじたばた……ほんまに、ガキやったと思います。
「あ、ぶぶ漬け食うか? インスタントやけど」
「嫌や嫌や嫌やぁ!」
「ぼん、その三連星はくぎみーボイスやないと通用せんで。養成所通いぃ」
「なんの話ぃ!? そうやないもん! もっと強うなりたいねん! 世界一のガンプラビルダーになりたいねん!
教えて……教えて教えて教えて教えてぇ! 教えてくれなここから動かへん! はよ教えてぇ!」
「――あ、警察ですか? すんまへん、実は今」
「警察はやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「ならそば、食うか?」
――思えば、このときからやろうか。
「――頂きますぅ!」
何かが師匠の心を引いたかは分かりません。でも……ワイは弟子入りを、許されたようで。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その日は縁側でそばをずるずると頂いて……めっちゃいい香りのするそばやったぁ。
でも、それで満足したことに……うちに帰り着いて気づいて。なので翌日また襲撃。
「じいさん! 今日こそ教えてや!」
物置で何やらごそごそしているので、後ろから勢いよく声かけ。でも師匠はなーんも動じず作業中。
「アカン。今から修行や」
「修行……何すんの! ワイにもやらせてぇ!」
すると師匠は物置から取り出した帽子をワイに被(かぶ)せてきた。
今も大事にしている、この帽子を。当時は全然、ぶかぶかでしたけど。
その意味もよう分からんでついていくと……。
「……釣りが修行なん?」
「そうや。ワイの友達でヘイハチ・トウゴウっちゅう、女好きの剣術家がいてなぁ。
ソイツもヘラブナ釣りが好きで、よく弟子にやらせとったんじゃ」
「これでバトル、強うなんの?」
「……んん!?」
そこで話が遮られる……というか、師匠の竿(さお)にヒットー!
「もちろん……じゃい!」
師匠はごぼう抜きで、尺イワナを釣り上げる。
「おぉぉぉぉ……!」
その感動に浸っていると、今度は虫取りが始まる。
「ほぉれ」
木にしがみつきながら、師匠はでっかいカブトムシを見せてくる。
「なんの!」
なのでワイも負けじと、同じくらい大きいオオクワガタを突きだした。
「むむむむむ!」
師匠は木をズルズルと降りて、ワイの元に慌てて駆け寄ってくる。
「やりおるのぉ、ぼん!」
「へへへへー」
それからも修行……もとい、楽しい夏休みは続く。
赤フン姿で川にとび蹴る師匠……なお、ワイは浮き輪で浮かびつつ見ていました。
夜は豚の蚊取り線香を焚(た)いて、縁側でスイカを食べ……種をぺぺぺぺぺ!
又は道場で昼寝。もちろん蚊取り線香は大事です。一度、付け忘れてヒドいことになったので、そりゃ入念に。
また別の日には……師匠がカブトムシ風に改造したHGUCボールを見せてくる。
ワイも負けじと武者頑駄無摩亜屈の角つき&陣がさ装備な雑魚を提示。
星のマーク付きの盾に、剣を持ったカッコいい感じのやつです。
バトルするとか、そういうことは抜きで……思いつくがままに、楽しみながらのカスタマイズ。
そんなものをパッと見せて、お互いの出来映えを競い合う。そういう”遊び”も何度かやって……楽しかった。
ほんまに楽しかったぁ。いつの間にか技のこととか、いろいろすっ飛ばしている自分がいて。
でも、全てではない。時が経(た)ち――師匠とはもっと突っ込んだ話もするようになって。
「オチャァァァァァァー! ハイ! ハイ! ハイ! てやぁぁぁぁぁ!」
中国(ちゅうごく)武術の構えを次々取り、師匠のクーロンガンダムが大きく跳躍。
そのまま地面目がけて流星蹴り――! バトルフィールドに巨大なクレーターを生み出した。
「う、す……す……凄(すご)い……!」
師匠は消えていくフィールドの中、ブルース・リーよろしく親指で鼻を拭う。
和室の真ん中に置かれたバトルベースも、かっこつけたクーロンガンダムもさて置き、ただ師匠を見つめ続けていた。
「ほあちゃあ!」
「師匠、やっぱり凄(すご)いお人やったんですね! その技、ワイに教えてください!」
「こんなん大したことあらへん。ワイぐらいの年までガンプラ心形流をやり続けとったら、こんくらいことはできる」
「そんな意地悪言わんとー!」
「……マオ、これは教えてできるもんやない」
以前みたいにそばやら、虫取りやらで誤魔化(ごまか)さず……師匠は静かに、ワイに問いかける。
「よしんば教えてやれたとして、それで嬉(うれ)しいんか?」
その問いかけはとても痛烈で。
「人様が作ったガンプラを真似(まね)て作っただけで、満足できるんか?」
「う、うう……」
そのお叱りは、どんな叫びよりも突き刺さって。
「そんなん、ワイが追い求めてるガンプラやない。心形流は、そんなもんやない」
何も言えず、俯(うつむ)いてしまう。
「ガンプラは、想像力と独創性。それは己自身で見つけなアカン……正解なんてないんや。
自分が経験したものを糧に、イメージを膨らませ、心の中に浮かんだ理想を形にしていく……」
心の形……そう、心形流とは読んで字の如(ごと)く。
つまりワイは。
「それが、ガンプラ心形流や」
自分の心がどういう形かも分からん、単なる不出来者。
師匠の道理通りなら、できるんや……ワイにも、あれだけのことができるんや。
形にしたいものさえ分かれば。……ワイは何のために、ガンプラを続けてきたんやろ。
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory60 『心の形』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
さて、明日はマオとのバトル……でも大丈夫かなぁ。ジュリアンとタツヤのアレみたいで、実はちょっと不安。
そんな不安の憂さを晴らすため、その足でマシタ会長の別宅へ――今回はベイカー秘書が応対してくれたけど。
「それで、本日はどういった御用件で」
「今回は大会出場者というのを置いて」
両手で『それは置いといて』とポーズ。
「第一種忍者として、捜査の経過報告を。なのでマシタ会長にもお伝えいただければ」
「そうでしたか……ありがとうございます。それで」
「まず現在警察では、逮捕したCから事情を確認しているところです。……依頼した奴の目星、付いてきました」
そう言うと、ベイカーさんの瞳が僅かに揺れた。それでもすぐ、冷静さを取り戻そうとするけど。
「例の、B.O.Bという組織ですね。本当に嘆かわしいことです……ガンプラマフィアについても、少数と言えど手を焼いているのに」
「違います」
「違う?」
「確かにCはB.O.Bの構成員となっていました。ただそれも所属していたマフィアが鎮圧され、一山幾らで接収されたようで。
それ以後は基本フリーランス。ただ定期的に上納金を上げれば問題なし……その程度の扱いです」
つまりB.O.Bが本格的に、ガンプラバトルを乗っ取るとか……そういう流れではなかった。それは安心だけどさぁ。
「どうもB.O.Bにとって、ガンプラバトルは価値がないようで。あくまでも”子ども”の遊びって認識なんです」
「……それは、こちらとしても喜ばしいことですけど……複雑ですね」
「元々は中規模の現地マフィアですしね。その辺りはおつむが足りてないんでしょ」
もっと分かりやすい……それまで培った商売を中心に、手堅く勧めているってことでしょ。
とにかくそういう解釈なので、奴からB.O.B撲滅ってのも難しい。下っ端もいいところだし。
……でも、今回に限っては話が変わってくる。”コイツら”にプレッシャーをかける材料だもの。
「それで問題は……こういう仕事をする場合、裏付け調査を行うんです」
「裏付け、調査」
「依頼内容に虚偽があった場合に備えて。……例えば依頼者が騙(だま)そうとしていたら、大問題ですよね」
「では、その……調査結果から、犯人が割り出せる……!?」
「その通りです」
……もちろんあのアホは裏付け調査なんてしていない。B.O.Bへのみかじめ料をせっつかれて、相当焦っていたらしくてね。
でも僕は嘘なんてついていない。『こういう場合は』という話をしただけだもの。
「ただですね……これ、オフレコでお願いします」
「え、えぇ」
「犯人はPPSE社の人間である可能性が」
「馬鹿なことを言わないでください! うちの社にそんな」
「Cは第七ピリオド介入に備え、潜入ルートやハッキング用のパスワードまで、念入りに準備していたんです。
なら、その情報はどこから出たか」
「彼が、事前調査していたからでは」
あえて黙ると、不安に駆られたベイカーさんは”勝手”に結論を出してくれる。
「我が社の、人間から……そういう、ことでしょうか」
「現在捜査本部は、第七ピリオドの介入経緯を再検証している最中です。
ベイカーさん、お辛(つら)いとは思いますが……そちらに協力を頼む場合もあるので」
「い、いえ。そういうことでしたら……こちらも、会長の意志は固まっているので、全力で御協力……させていただきます」
「ありがとうございます」
――という話をした上で、別邸から退却。
いやー、いい感じで脂汗ダラダラ……面白くなってきたねー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なんて、ことなの。Cが……そんなことをしていたなんて……!
それではもうバレている? いえ、まだ……まだ、証拠がない。断定はしていない。
だけど王手がかかる寸前……! 窓からあの忌ま忌ましい背中を見送りつつ、爪を何度も噛(か)んでしまう。
「これが、報いだと言うの……」
知らなかった。私は、何も知らなかった。
CがB.O.Bなんて組織に拘(かか)わっていることも。
身勝手なリベンジを働くことも……何も、知らなかった。
それでも報いだと言うの? これが――。
「認められないわ。私自身の、若さゆえの過ちなんて――!」
どうする、どうする……こうなったら、蒼い幽霊やセイ・レイジ組を止めても意味がない。
たとえ彼らを社会的に失墜させたとしても、警察が捜査を辞めるはずもない。
言い訳が成り立つ状況でもない。守りたいのに……私は、あの人を守りたいだけなの。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夕暮れに染まる空の下、急ぎ足で選手村に戻る。フェイタリーの調整もあるしねー。
すると突如かかってくる電話――おかしいなぁ、僕の番号は教えてなかったはずなのに。
『――蒼凪さん、先ほども申し上げましたが、こちらも箝口(かんこう)令は遵守します。ですので内容を』
「無理です」
『ですが、双葉さんは我が社のアイドルです。こちらの仕事に影響も』
「杏のスケジュールと意志は確認しましたけど。あとは御両親も」
『あの、御両親はいつの間に』
「さすがに親もガン無視は無理ですって」
話が纏(まと)まってからすぐ、杏とニルスのお父さん達には確認を取った。そうしたらもう……むしろお願いされたくらだいよ。
「まぁ要請と言ってもニルスの助手で、ちょっと調べ物をしてもらうだけですので。決勝前には帰せるかと」
『……蒼凪さん、お願いします。諸星さん達も急な話で不安を覚えています。ここは、我々を信じていただくわけには』
「……武内さん、真面目な話をしましょうか」
『何でしょう』
「お前らを信じる理由がどこにあると? ……始動以来、散々問題を起こしてきたでしょ」
仕方ないので、話せない一番の理由を告げよう。僕個人としても信用できない理由を。
「特におのれが『信じろ』と言うのがあり得ないわ。
プロデューサー職へのリハビリに、卯月達を利用したおのれや今西部長が」
『……そもそも、信じる理由が……ないと』
「最初からそう言っているんだけど?」
『お願いします……私が信用できないと言うのなら、島村さん達のことを』
「お前がプロデュースしているアイドルだろうが。だったら全員同罪だ」
断言した結果、武内さんは反論の芽を失う。……さて、あとは必要条件だけを突きつけるか。
「とにかく詳細は話せない。杏も決勝前にはCPへ帰す……これはニルスからの要望でもあるから。以上」
『蒼凪さん……待って、ください。改めて、話を』
電話を切った上で、携帯を仕舞(しま)い軽く伸び。
「全く……面倒な奴らだよ」
「いや、今回は仕方ないだろ。ヤスフミ、お前の方で杏を止めるのは」
「無理だよ」
「……だよなぁ。アイツもぐーたらに見えて、お前と同じだ」
だから僕が要請したわけで。……飛び込んで勝手に動くよりは、僕がこうやって防波堤代わりになる方がずっといい。
幸いCPと346プロには、ツツきどころが大量にあるしね。楽しくなるぞー。
「それに今言ったことも本当だよ。さすがにニルスも”それ以上は”って躊躇(ためら)っていたし」
≪そっちはデータも揃(そろ)っていますし、すぐに何とかなるでしょ。あなたはまず≫
「明日の一回戦だ」
面倒だねぇ。事件の調査とバトルが同時進行ってさ。
でもやめられない……好きなんだもの。嘘を暴くのも、謎を解くのも――もちろんバトルも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
道場の一室――ろうそくの明かりで、ちょっとシックに書き物の最中。
なお手紙をしたためている……明日はマオと、恭文のぼんがバトルやからなぁ。
今なおよう電話も繋(つな)がらん奴じゃが、私書箱は用意しておるからのう。そこに送るつもりじゃ。
「……ヘイハチもえぇ弟子を持ったもんじゃ。ヒロリス、サリエルに続くとは思うとらんかったが」
なぁ、ヘイハチ……お前、言うとったな。鮮やかなり天元の花――無空の高みに届く剣こそが理想じゃと。
言うならお前の剣術は天元流。斬りたいと思ったものを斬れる剣。
……十二年前、突然お前が相談に来たときは……そりゃあもう驚いたもんじゃ。
何せお前さんときたら、どこの世界にいるかも分からんもんじゃから。あの時点でえっと、五年ぶりくらいか。
――花を見つけた――
――花? おい、そりゃ――
そうしたらまた、随分昔の話を持ちだすから、ほんまに驚いたわ。
しかもアルトアイゼンも連れてこんかった。アイツ一人で……ブラッと……それがまた衝撃的で。
――ワシが出会った花じゃない。まだ幼く……寂しい世界で、必死に生きてきた花じゃ。なぁ珍庵、ワシは……どうすればいい――
――……お前さんはもう決めているんじゃろ。だからアルトアイゼンも奴に預けた――
――まぁな。じゃが、あの坊主の人生にも拘(かか)わることじゃ。下手をすればアイツは――
力の奴隷に成り下がる……そう言うてたな。
ヘイハチ、お前さんはあのとき……恭文を鍛えるかどうか迷っていた。
それは恭文が魔導師として、いろいろイカれているせいとちゃう。
もちろんアイツが人を殺したからでもない。……お前さんは怖がった。
アイツ自身ではなく、アイツがあのとき背負っていたものを――”持って生まれた異質な才能”が、歪(いびつ)な形で花開くのを恐れた。
老い先短い自分が背負えるのか。自分がいなくなったあと、歪(ゆが)んでしまったらどうしようか。
そんなことを考え、悩んで、ワイのところに来た。その日も……こんな夜やったな。
でもお前さんは、勇気を出した。時間が少ないのなら、ありったけで伝えよう。
力でもなく、技術でもなく、もっと先のことを――そうして水をあげることに徹した。
……アカンなぁ。
あのときのことを思い出すんは、夜のせいだけとちゃう。
「……いつまでそこにおる気や」
一声かけると、マオはようやく……ふすまの影からずいっと出てくる。
そう……コイツのせいや。というか、また思い詰めた顔で来おって。
「どないした、大会の真っ最中やろ」
「……師匠、恭文はんのこと、前々から知ってたんですね」
「ヘイハチの奴から聞いただけじゃがな」
「やっぱり、強いんですか」
「まぁな。でも、戦いがいはあると思うで」
ワイとしても弟子同士の対決となれば、そりゃあもうワクワクしっぱなし。
だが……マオは少々、力が入りすぎているようで。
「師匠」
「なんや」
「ワイに……ワイに……!」
マオはそこで、全力の土下座。
「ワイに、師匠の技を教えてください!」
……マオは必死に、すがるように……ワイの教えはちゃんと分かっていた。
「人から教えを請うな! 心形流の教えに反してるんは、重々承知してます!」
それでもマオは踏み込み、ワイに教えを乞うていた。
「せやけど……せやけどワイ! どうしても明日のバトルに勝ちたい……お願いします、師匠!
ワイに技を! ガンプラ心形流の極意を教えてください!」
……師匠としては、冥利に尽きると言うべきなんやろう。
マオが迷い、悩み、それでどうしてもと頼ってきた。ならば。
「少し、つきおうたる」
立ち上がり、早速準備を始める。
胴着に着替え、庭で対峙(たいじ)する……ただそれだけやけどな。
「し、師匠……これは」
その上で、マオには鞘(さや)付きの刀を渡す。
「……師匠!?」
「安心せい」
自分の分を抜刀し、刃を見せる。そう……抜かれた途端、膨れあがった特殊スポンジ性の刀を。
「スポーツチャンバラ用の刀や」
「何でそれで鞘(さや)!?」
「抜くときカッコえぇやろ!」
「むしろカッコ悪いです! というか、なんで」
「心形流の極意、ついでに恭文の剣術についても教えたる。ただし頭ではなく」
こういうのは理屈ではない……なので左手で自分の胸を叩(たた)く。
「体にや! かかってきい!」
「……やぁぁぁぁぁぁぁ!」
……飛び込みながらの唐竹一閃を下がって避け、頬と頭頂部、左肩などに五連撃。
普通の刀ならともかく、スポンジ性の刀身は柔らかく軽やか。ワイでもこれくらいのことはできる。
「ふぼ!?」
「……言っとくがマオ、スポチャンは本来防具付きでやるもんや。舐(な)めてかかると痛い目」
更に踏み込み、鋭く九連撃。その上で喉元を突いて転がしておく。
「見るでぇ!」
「けほ……こほ」
「はよ立てい! 時間がないんやろうが!」
「く……おりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
立ち上がり、飛び込んだ瞬間に回避。そのまま左薙一閃で足を払い、転(こ)けたところで頭頂部への一撃。
「がは!」
すぐに立ち上がるマオに、また右薙一閃――起き上がり、打ち込まれ、そして倒される。
初見では見切ることも難しい、スポチャンの高速斬撃。マオは防御もままならず、幾度も打ち倒される。
……そうしている間に、雨が降り出した。それでもワイらは止まらん。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いやぁ!」
裂帛(れっぱく)の気合いで唐竹一閃。顔面に一撃を食らったマオは、ワイと交差しながら滑るように倒れ、動かなくなる。
胴着は泥だらけ……痛かろう、辛(つら)かろう。しかしそれでも、ワイは怒鳴りつける。
「何を寝とる! 起きんかい!」
マオは地面に、大の字で寝て荒い息を立てるだけ。
「言っておくが恭文のぼんは、もっとキツい修行をこなしとるで! ジープに追いかけられるとかな!」
「な……なんです……の……それぇ……」
「ヘイハチ発案の精神修行じゃ! 斬撃も、身のこなしも、素人のワイなんかよりずっと速く強い!
何せアイツらの剣術は、斬りたいものを斬る――そんな天元の花を目指したもんじゃからな!」
心構えが違う。
経験の前に、心が違う。
勝ちを……極意というお助けアイテムに頼る自分とは違う。
いや、頼るだけならいい。それを安易に手に入れられると思う、そんな弱さを突きつける。
……あえて、その奥底にある真意には触れずに。
「……もう終(しま)いか? だらしない」
「く……」
それでもマオは何とかうつぶせになり、こっちに顔を向けてくる。
「師匠、ワイ……」
「なんや……土下座までして音を上げるんか! 自分の覚悟はその程度か!」
「うぅ……!」
「さぁ……こんかい!」
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マオは立ち上がり、豪雨の中叫びを響き渡らせる。
……ワイも同じやったで、ヘイハチ。
マオの面倒を見ると決めるには、そりゃあもう……明日、ぽっくり死んでもおかしうない。
正直これまで、何度か寝汗をかいたことがある。年がいもなくビビってな。
でも、そのたびに思うわ。……それなら全力で伝えよう。何ができるかも分からんが、まず水をあげよう。
どんなふうに花開くかも分からんけど……それでも、美しいものと信じよう。
――そうやないもん! もっと強うなりたいねん! 世界一のガンプラビルダーになりたいねん!――
あのとき、純粋な瞳で告げた”夢”が、正しいものだと信じよう。
誰よりも、何よりも――それが師匠っちゅうもんじゃろ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれは、何時の頃か……そうそう、一昨年のクリスマスや。
「……雨は雪に変わり……なのになんでワイ、マオとコタツに入っとるんや」
「それは師匠が婚活をしないせいでしょ」
「アホ! 意外と高いんやで、結婚相談所の紹介料!」
「申し込んだことがあるんかい!」
雨は雪に変わり始めた中、どてらを着た珍庵とマオがこたつを囲んでいた。
「……ねぇ師匠」
「何や、マオ」
「師匠はガンダム作品の女性キャラで、誰が好きなんです? ……ワイは断然、エマ・シーンさんですぅ!
美人さんやし……芯がしっかりしたところが、ええなぁ思います!」
「……そうやなぁ。今のお前さんは芯が感じられんけどな? くねくねしすぎて、伸びた麺みたいになっとるわ」
「師匠は?」
「ワシか……ワシは」
すると師匠は卓上のみかんを持って、胸に当てながら。
「てー! てー! ……あぁ!」
……なぜかいきなり、ニヤニヤしながら変な声色で演技をし出した。
「――マリュー・ラミアス一択や!」
「やらしいわ、師匠! というか最後の『あぁ』はなんですか!」
「あほ! 被弾時、前かがみになってばいんばいん揺れるシーンやで! バンクの中でもアレは最高傑作やった!」
「ほんまにやらしいジジイやなぁ!」
「かかかかかかか! 好きなもんに理屈なんているかい! ただ好きでおればいい……そうやろ、マオ」
それには同意やった……まぁ、あの変な演技だけは絶対言い訳できんけど!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――懐かしい夢を見ていた……そう気づいたら、見慣れた天井が見えて。
「し、師匠……」
顔や頭……体中が軽く痛みながらも起き上がると、ワイの体や服はキッチリ洗われていた。
あれ、修行……極意伝授……不安に成りながら辺りを見渡すと。
「……手紙?」
枕元に、『師匠から』と手紙が置いていた。それを取り、中身を確認すると……!?
――疲れたから帰る――
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ただ、これだけが書かれた手紙……世界一短い師匠からの手紙を、一瞬でびりびりに破く!
「なんなんあの人! わがまま過ぎるやん! 好き勝手やってー!」
やってられなくて寝転がると……そこで引っかかりを覚えた。
さっき見た夢……師匠、何て言うてた?
「……好き勝手」
右脇を――たなに飾られたフィギュアを見る。
師匠、ガンプラだけやのうてフィギュア関係も……大好きで。しかも今、ガンプラバトルが世界的ブームでしょ?
ラーメンと同じレベルで継続中でしょ? そのせいでこっちも多く出てるんです。
ミネバ(Z)、メイリン・ホーク、ティファ・アディール、アイナ・サハリン。
セイラ・マス、マリュー・ラミアス、マリナ・イスマイール、マリーダ・クルス――。
その中で目を引くのは、やっぱりマリューさんで。
「ふ……ふふふ、ふふ」
変な笑いがこみ上げながら、起き上がって伸び。
「そっか、そうですね。……でも師匠、ワイ……エマさんが一番やと思います」
その上で帽子も被って、時計を確認……よし、ギリギリ遅刻はせずに済む。
「だって、好きなんですもん」
迷いは晴れた。
極意とか、そういう難しい話やなかった。
心を形にするのなんて、本当に簡単なことやった。
ぶつけよう、全力を――そうして踏み込もう。その上で叫ぼう。
ワイが”これ”が好きなんやと、世界中の奴らに聞かせたる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今日は恭文さんとマオくんの試合。もちろんこれもセシリアさんと一緒に観戦です。
「恭文さんとマオくん、どっちが勝つでしょうか」
「戦闘技量で言えば、やはり恭文さんに分があります。……今のところマオさんって、サテライトキャノンのブッパしか印象が」
「あ……はい」
「ただ心形流の後継者ですし、何か秘策があるのではと……強敵相手に対策もしないレベルではありません」
心形流って、そんなに有名なんだ……! というか、ガンプラバトルが始まったのって十年前だよね。
そこから有名になる流派って、相当凄(すご)いのかな。実はマオくん以外にも、お弟子さんがたくさんいるとか……あれ?
「えっと、入り口は……」
会場ドームへ入ると、案内板前に人影を発見。その人は洋服だけど、とても見覚えのある人で。
「あの」
セシリアさんと近づきながら一声かけると、その人――ミサキさんが、こちらを見て破顔。
「あ……あなたは、泊まりに来てくれた……確かえっと、チナさん!」
「はい。あの、ミサキさん、ですよね」
「ミサキ……あぁ! セイさん達が優勝の副賞で行ったという、旅館の娘さん!」
「そうです」
あの、タツって人やその部下……操っていた偉い人に嫌がらせをされていたんだけど、恭文さん達が解決して。
その辺りの話も、セシリアさんには……女子トーナメント前に少し話したんだ。だからすぐ思い当たってくれた。
「もしかして、ヤサカ・マオくんの応援ですか?」
「はい……イオリ君達には、悪いですけど」
そっか、やっぱり……マオくん、ミサキさんに大好きオーラを送りまくっていたから。
その流れで一番仲良くなったし、応援に来てくれたんだ。マオくん、きっと喜ぶよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして、この日が来た……いよいよチームとまと、最終トーナメント一回戦。
わくわくしながら壇上へ向かい、バトルベースの前に立つ。
『ただ今より決勝トーナメント一回戦・第五試合を始めます』
わき起こる歓声にドキドキする中、隣のリインやショウタロス達が心配顔。
その視線が見据えるのは、僕達の真向かい――まだ、マオはいなくて。
「マオの奴、遅くないか?」
「ですね。このままじゃ不戦勝に」
「大丈夫」
ヤサカ・マオ……ガンプラ心形流の後継者。
「あの珍庵さんが、弟子と認めた男だよ? だから大丈夫」
その言葉に嘘偽りはない。だから来る……絶対に。
僕との約束とかは、この際関係ない。来ないはずがないんだよ。
だって――。
「遅くなりましたぁ!」
こんな大舞台で、形にしたものを見せつけられるんだから。
マオは会場へ駆け込み、バトルベース前へと一気に飛び上がる。
そのまま着地して、息を整えながらこっちに笑ってきた。
「いやいや、いいタイミングだよ。……楽しませてくれるんだろうね」
「もちろんです」
≪――Plaese set your GP-Base≫
ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。
ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。
≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Space≫
ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。
今回は地球近くの宙域か。月は……当然のように存在していて。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「蒼い幽霊――ヤスフミ・アオナギ、今回であなたも終わりよ」
いつものようにVIPルームで、ほくそ笑みながら観戦。
「何と言ってもサテライトシステムを有する、ガンダムX魔王に有利なフィールド。あなたに勝利は」
「あ、あの……ベイカーさん」
そこで念のため待機させていた秘書が、不安げに唸(うな)る。
「何かしら」
「確か第三ピリオドで出したフェイタリーには、サテライトシステムが……」
「それなら問題ないわ。恐らく出してくるのはカテドラル……なら、サテライトシステムが使えるはず」
「その場合、粒子変換によるフィールド変更が」
「……あ」
その言葉で、今までの試合を一気にリピート……あ、あはははは……あはははははー!
「どうして言わなかったのよぉ!」
「てっきり試合をチェックしているものかと!」
「してたわよ! 見てたわよ! つまり……あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私、また馬鹿なミスをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! どうしよう、あのフィールド変更、ルール違反にはできないようだし!
というか、カテドラルの能力をルール違反にすると、こちらが引き取った場合に問題となる可能性が!
それでサテライトシステム自体を封じられたら……どうしてなの! 完璧な作戦を立てたはずなのに!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
≪Please set your GUNPLA≫
指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。
スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。
カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。
メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。
モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。
コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。
両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。
機械的なカタパルトへと変化。
同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。
≪BATTLE START≫
「蒼凪恭文」
「蒼凪リイン!」
「ガンダムレオパルド・フェイタリー、目標を駆逐する!」
アームレイカーを押し込み、宇宙の海へと飛び出す。
デブリの多い地球近海を進みながら、まずは魔王Xを索敵――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
杏ちゃんは調査とやらを続け……恭文さんは、強烈なぶった切りを。
その痛みを引きずりながらも、今日も試合観戦です。いやもう、どうにもならなくて……!
「恭文ちゃん、今回はフェイタリーにゃ!」
「……第三ピリオドのときは格闘戦オンリーだったわ。つまり今回は」
「文字通りの本領が見られるぞ」
武装は……右手に二連装型ビームライフル。手っ甲のように腕の外側に装備していた。
背部にハイパーガトリング。
右肩と両足側面には三連装ミサイルポッド。
左肩にはもうライフルの二挺目がセット。
左腰には白鞘(さや)に収められた、日本刀型実体ブレード……アルトアイゼンモチーフかな。
「機動力と火力のバランスを取ったセッティングかしら」
「だな。レオパルドは本来、機体本体にミサイルやビーム砲、ガトリングを詰め込んだ……内蔵火器が多い機体。
だが恭文のフェイタリーはそれをギリギリまで取っ払い、その分本体の強度と可動範囲を向上させている」
トオルさんはそう解説しながら、俊敏に動くフェイタリーを見続けていた。というか、くぎ付けです。
「両肩と両足側面、両サイドスカート、さらにはバックパックにセットされたハードポイント。
それらを用いて、原典のレオパルドも真っ青な重武装も可能とするわけか」
「ねぇ、それって意味があるのー? 普通のと同じくらい武器が一杯なら、改造する必要ってないんじゃ」
「大ありさ。弾切れなどでデッドウェイトとなったものは随時パージして、機動力の低下を防いでいる。
同時に武装の幅も思いっきり広がる。ハードポイントで接続さえできればいいしな」
「何より恭文ちゃんは第一種忍者――リアル戦闘のプロにゃ」
みくちゃんも注目と言わんばかりに前のめり。
「その技能を生かしたからこそ、第三ピリオドでもマッドジャンキーを破れたにゃ」
「機体剛性も上がったからこそ、限界突破<ブラスター>が使えるものね。となると、ヤサカ・マオくんはどう出るか」
……そこで、月から一つの光条が走る。
「……サテライトシステムです!」
「これは、恭文のじゃねぇな」
トオルさんが言うように、光条はフェイタリーと違う方へ飛ぶ。
その到達点には白い機影――ガンダムX魔王がいた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
索敵しようと思ったら、いきなり水色の巨大奔流が迫ってきた。
地球の青にも似た砲撃、その周囲を回るかのように回避行動。
「いきなりか……」
「距離二四〇〇――二時方向!」
リインのアシストでズーム映像が出現。
魔王Xはハイパーサテライトキャノンの放射を終えて、胸部から排気していた。
でも……すぐに次弾をチャージ。展開したリフレクターが極光で満たされる。
こちらが方向転換して、接近している間に……!
「連続発射!? でも、次のマイクロウェーブはまだ!」
二発目を右に回避すると、猛烈に嫌な予感が襲う。
バレルロールで斜め上に上昇しつつ、”四時方向”から放たれた三発目をすれすれで回避した。
「な……!」
そうして四方八方から次々放たれる、サテライトキャノン――上昇と下降、急旋回も交えながら、何とか避け続ける。
『……相変わらずヤバい反応してますなぁ』
「これってまさか……Gビット!?」
リインが慌てて解析データを送ってくる。ミニウィンドウで次々映し出されるのは、合計十四基のGビット。
僕を取り囲むように展開しているそいつらは、頭部以外X魔王とほぼ同じだった。
「恭文さん」
「連続砲撃は、旅館でアプサラスIIIをぶちかましたときと同じか。そのときよりも完成度が上がっているとすれば」
「これら全てが、無尽蔵にサテライトキャノンを撃てる……!」
察するにさっきのサテライト、あれは囮(おとり)ってところか。僕達、月なしでのサテライトキャノンを見ているしね。
一撃でも普通に撃つことで、こっちの意識を一瞬逸(そ)らしたんだ。その間にGビット達を配置して……やってくれるねー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「な、なにあれ!」
「Gビット……ガンダムX世界におけるニュータイプ用兵器だ!」
あ、そうです! セイ君達が地区予選決勝で戦った、カトウさんって人も使っていました!
……まぁビルドガンダムMk-IIにたやすく蹴散らされたんですけど。でもあれは……!
「あんなの無理だよ! やっくんは一人だけなのに!」
「いや、そこは問題じゃない」
そんなことを言っている間に、一発、二発、三発……七発とサテライトキャノンの連射が続いていく。
超長距離からの砲撃に取り囲まれ、恭文さんも反撃に移るタイミングが掴(つか)めない。X魔王との距離も縮まらなくて……!
「Gビットも本体と同じく、サテライトキャノンを連射している。マイクロウェーブも受けていないのにだ」
「そ、そうです! 一体何をしてるんですか、マオ君!」
「考えられるところはある。……お前はもう気づいてるだろ、恭文」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「リイン、X魔王……本体だけでいいからサーチ」
「もうやってるです!」
X魔王との距離、九〇〇……右肩のミサイルを全弾発射。それからミサイルポッドは軽量化のためパージ。
合計二十一発のファンネルミサイルをコントロールしながら、十字方向・上二十度に急加速。
本体から放たれたサテライトキャノンにより、ミサイルの大半が飲み込まれる。しかし十三発がそれをすり抜け、魔王本体に接近。
「エネルギーポッドらしきものはなし……じゃあどこですか! エネルギー源は!」
バックパックの小型ガトリング、及び胸元のブレストランチャーにより牽制(けんせい)されるも、それより早く弾頭が破裂。
内部に仕込んだベアリング弾がまき散らされ、魔王本体へと迫る。
『……!』
でも咄嗟(とっさ)にキャノンを下げ、奴は両腕で粒子シールドを展開。散弾の大半を容易(たやす)く受け止めてくれた。
『散弾ではぁ!』
「いいえ」
確かにプラの対弾加工もしてあるし、粒子シールドを貫くことはできなかった。
……でも数発は掠(かす)めた……背部のリフレクターを破砕し、僅かにでも輝きを奪う。
「種は見えたですよー」
後方から雨あられのように降り注ぐ、Gビット達の砲撃。
それに溜(た)まらず退避し、X魔王から離れていく。……でも、この接近に意味はあったよ。
リインはすかさず、ズーム画像を見せてくる。中身は先ほど破砕したリフレクター。
「ソーラーパネルなのですね。それで太陽光……いいえ、周囲の粒子を集めて、砲撃を放っている」
「そういう理屈だけじゃないようだけどね」
「ですね」
リインもさすがに気づくか。
……また飛んできた一発は、左へのUターンで回避。
「ガンプラの動きを見れば分かりますよ……マオさん、このバトルを楽しんでいるです!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マオ君は笑っていた――。
十五対一で有利だからじゃない。というか、今だってギリギリです。
だって試合が始まってから二分足らずで……マオ君、すっごく汗だらけで。
「Pくん、あの子、すっごく疲れてる……!」
「えぇ」
「どうして。だって、もう勝ってるも同然なのに」
「赤城さん、それは勘違いです」
そう、勝ったも同然なんて勘違い。数が多いから有利とか、そういうのも勘違い。
確かに今、状況の流れを掴(つか)んではいる。でもそれは、ちゃんと対価も払った上です。
「蒼凪さんの技量に合わせて、接近されないようサテライトキャノンを撃ち続ける。
そのためにGビットの配置もリアルタイムで換え、サテライトのチャージサイクルも計算。
……結果彼は、とんでもない負担と消耗を強いられています」
「去年の世界大会――カルロスカイザーがタツヤに対して同じことを仕掛けた。
だがそれはカイザーが成人男性で、体力もきっちり整えたからこそ……とも言える」
「それをマオ君がやるには、負担が大きすぎるんですね。……でも、楽しそうです」
「楽しいさ」
それでもマオ君は笑っていた。笑ってアームレイカーを鋭く動かし、恭文さんを捉えようと突き抜けていく。
「やりたいようにやってるって顔だ、あれは……!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さて……リイン」
「各機の位置、予測移動コースと反応速度」
リインは次々とデータを送ってくれる。それを確かめながら深呼吸……位置関係とマップを頭にたたき込んで。
「更にソーラーシステムのチャージサイクル、検証完了です」
「ありがと」
アームレイカーを鋭く動かす。
――五時方向から放たれたサテライトキャノンを、上へのバレルロールで回避。
その上で反時計回りに回転しながら、右手の二連装ビームキャノンを放つ。
それは三時方向・距離八百の位置にいた、魔王Gビットの一気に迫る。
シールドを構えて回避行動を取るも、回転運動によって湾曲した弾丸は突き上げるような軌道を描き、股下から機体を貫き爆散する。
『ちょ……!』
すぐに急停止して前進し、真下からの一撃を追い越し……ちょ、ギロチンバーストか!
でもそれならそれでやりやすい。前方から打ち込まれる一撃を左に避け、すぐに急停止して宙返り。
二撃目による真一文字のなぎ払いを、後方から迫る唐竹一閃をすり抜け、きりもみ回転しながらビームキャノン乱射。
再び回転する弾丸が真下の奴へ迫り、その頭部と胸元を撃ち抜いて沈める。
『それ、ただのライフルとちゃうな!』
「ビームキャノンだもの」
言っている間にも、砲撃はまだまだ続く――まずは戦場を大きく周回。
そう、これはライフルというよりビームキャノン。手持ち用のグリップパーツにくっつけただけで、基本は両肩や足などに装備する武装。
サテライトキャノンのレンジも考えて調整してあるから、キロ単位でも当てられる逸品だ。
なので……軽く跳躍するように跳ねてから、両足を虚空で踏み締めライディング開始。
両足に発生させた粒子フィールドが疑似的な地面を生み出し、フェイタリーに駆ける力を与える。
やっぱレオパルドと言えばこれっしょー! さー、やるぞやるぞー!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ビットは残り十二基……!
一番離れた本体と数機がサテライトキャノンを放ち、ビット達は機動戦闘に備え、バスターライフルを展開。
牽制(けんせい)射撃と砲撃による援護を、フェイタリーは華麗なスラロームで回避する。
しかも走りながら……両足から発生させた、蒼いフィールドを地面代わりにして、ローラダッシュしています!
いや、タイヤはないですけど! ないけど滑っているんですー!
「面白いことするなぁ、おい!」
「はい!」
フェイタリーは直進しながらも、一度大きく跳躍。八時方向から放たれた砲撃をすり抜け反転し、各種武装を展開。
フェイタリーは右腕と左肩のビームキャノンを。
バックパックのハイパーガトリングを。
両足のミサイルを瞬間的に一斉発射。
その光条がライフル持ち三基を襲い、次々と撃墜。
更にミサイルのうち十三発は反転し、頭上から襲ってきていたサーベル持ち二基を真横から襲撃。
胴体部を撃ち抜き、そのまま粉砕してしまう。フェイタリーは頭上で爆発が起きてからすぐに”着地”
もう一度大きく飛び上がって宙返り……真下からの一撃を避け、その根元にビームキャノンを放ち、一基を撃墜。
かと思うと右へバレルロールしながら落下。三時方向からの砲撃をすり抜け、あの曲がる射撃を放つ。
今攻撃した本体は咄嗟(とっさ)に下がるものの、自身のサテライトシステムを打ち砕かれてしまう。
「残り四基です!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本体のサテライトキャノンを潰したところで……でもマオ、やるなぁ。
胴体部を狙ったのに、咄嗟(とっさ)に下がって回避したんだよ。しかも左腕で粒子フィールドを張って、防護対策も整えていた。
あれも楽しんでいるが故の踏み込み……笑いながら”着地”してから、一気に前へと走り出す。
重力がない中――前のめりに倒れ込み、その勢いも加味して二の足を踏み出す。
その瞬間、フェイタリーは音よりも速く突き抜け、二時方向・三時方向からの砲撃をすり抜ける。
斜め上から放たれた二発の砲撃、それが衝突し、衝撃と爆炎を呼び起こす中、それを後押しとして更に加速。
階段を駆け上がるように奴らの間を取り、バックパックのアームを可動――左側の一基をガトリングで撃ち抜く。
右側のもう一基はビームキャノンで破砕。でもその瞬間、真下からライフルビームが走る。
咄嗟(とっさ)に左へバレルロールを取るも、ガトリングは中程から撃ち抜かれ両断。仕方なくそのままパージする。
「残り二基……一基は真正面!」
ガトリングの爆風に煽(あお)られる中、本体からのビームも走る。
それも回転しながらすれすれで避けるものの、残っていたミサイルポッドが撃ち抜かれ、足から外れながらも爆散。
「まだ弾が余っていたのに」
その爆風に煽(あお)られながらも……いや、それを利用しながらも乱回転。
真正面から振るわれるビームソードを。
真下から、本体から再び走るビーム弾数発を――。
足底のスリットから発生させた、ビームスパイクで全て切り払う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
多角的な飽和攻撃……これで傷の一つでもつくかと思ったら、隠し武器かい!
足底のスリット……肉抜き穴を武装に見立てて、粒子を蓄積! ビームを展開しとるんか!
本来なら埋めるべき仇敵(きゅうてき)を、武器の一つに変えるとは……なんやの、この発展的手抜き根性!
とにかくビームスパイクとも言うべき武装は、こちらの射撃と斬撃……全てを切り払い、弾(はじ)いてしまう。
単純な威力だけやない。デタラメに回転しているように見えて、ちゃんとこちらの攻撃順も考え、対応した”蹴り”や。
そやからフェイタリーは回転しながら僅かに移動し、本体(ワイ)の射線上から退避。
斬りつけてきたビットを盾にしつつ一瞬停止して、右ミドルキック。がら空(あ)きな胴体にスパイクを突き立て、そのままサマーソルト。
刃で中からボディを引き裂き、蹴りの瞬間下から放った射撃も回避した。
すかさず真下のビットが、展開していたサテライトで砲撃。でも、あのお人は宙返りの最中に”地面”を踏み締め、跳躍。
そのまま砲撃を飛び越え、空間を大きく跳ね始める。宇宙空間と地上、両方を自分の足先一つで自由に使い分けながら。
その機動にワイの射撃も、ギロチンバーストも対応しきれず、あっという間に接近を許し。
『はぁ!』
ビームスパイクでの右薙一閃で、胴体部から真っ二つにされた。くぅ……やってくれますな!
「こっちのチャージサイクルも、最初に避けている間に計算して、その上で回避を組み立て……やっぱり強い」
ならワイも……。
「でも」
改めて”ソーラーシステム”のチャージを行い、お返しの一撃!
「だからこそ楽しい!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
恭文さんがビットを撃墜した……と思ったら、X魔王が再びサテライトキャノンを発射。
「ちょ、なんで!? サテライトキャノン、さっき壊されたじゃん!」
恭文さんはすぐに察知し、左斜め上に飛び上がりながら回避――ギロチンバーストに追い立てられながらも、小惑星に隠れます。
でも当然、小惑星程度は吹き飛ばすわけで。……それこそが恭文さんの狙いだった。
小惑星の影と爆煙……ほんの一瞬生まれたそれらを利用し、真上への跳躍を隠した。
恭文さんはビームキャノンを上五十度の角度から発射。
でもそれを読んでいたマオ君が、ほぼ同時にバスターライフルを発射。
三つの光条は交差し……恭文さんは右手のマシンキャノンを、マオ君は二挺目のサテライトキャノンを撃ち抜かれ、爆散する。
「恭文さん、凄(すご)いです! ……でも、どうしてサテライトキャノンが」
「ビットのを拝借したんだよ」
「あ……!」
そっか。Gビットって頭部が違うだけで、装備は共通なんですよね! なら、この一帯には予備武装がたっぷり……!
「むー! だったらやっくんも使えばいいじゃん! バックパックを付け替えてさー!」
「あ、そうだね! バックパックって付け替えとかすぐできるし」
「駄目だ。HGAWのガンダムXとレオパルドじゃ、バックパックの接続規格が違う」
「えー! でもやっくん、もう武器がないよ!?」
「刀があるだろ」
あ、そうでした! 恭文さんには……でも、どうして抜かないんでしょう。
「今までは集団に囲まれての射撃戦だったが、これからは違う。出番もあるぞ」
「いよいよ本番、ですね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マオが再びサテライトキャノンを回収する前に、急接近。
”地面”を蹴って右に跳びながら、向こうのガトリングを回避。
そのままこちらのヘッドバルカン&ヘッドキャノンが乱射する。
ヘッドバルカンはいつも通りな仕様だけど、ヘッドキャノンは威力重視の仕様。
連射性こそバルカンに劣るものの、打ち据えたものに確実な衝撃を与える……魔神キャノンみたいなものだよ。
それがX魔王……左手で展開したリフレクターシールドを捉え、動きを止める。
その間に更に踏み込み、右アームレイカーを――フェイタリーの右拳を振りかぶりながら。
「はぁ!」
シールドの中心部目がけて右ストレート。着弾の瞬間、リフレクターの圧縮粒子がバースト。
それと同時に拳を振り抜くと、衝撃が僕達の間で弾(はじ)け……零距離がほんの数歩分開く。
『ぐぅ……』
「ようやく捉えたですよ!」
『なんの!』
マシンキャノンとブレストランチャーを右への跳躍ですり抜ける、リフレクター基部目がけて左フック。
しかしX魔王はバスターライフルのシールドを展開し、振り返りながら防御。左手で予備サーベルを抜刀し、拳を払いながら切りつけてくる。
右薙一閃を下がって回避しながら踏み込み、返す刃での刺突を伏せて避け、ボディブロー。
放たれるブレストランチャーやバルカンに装甲を叩(たた)かれながらも、痛烈な一撃を入れ――。
「シェルブリット」
『まだまだぁ!』
X魔王が手首を回転させながら、サーベルをこちらの首筋に突き立てようとした。
だからこちらも拳を押し込みながら、下腕接続部から炎を吐き出し……射出!
「バァァストォ!」
そうして打ち込まれたX魔王の一閃……しかしそれは、フェイタリーの眼前すれすれで振り抜かれる。
射出された拳の勢いに押され、奴がそのまま吹き飛んだ結果だった。
『ロケットパンチィ!?』
いや、正確にはアームビットです。誘導兵器の一種です。というわけで、壊される前に右アームビットを退避させてから。
「フェイタリィィィィィィ――」
両腕をクロスさせ、胸元のクリアパーツにエネルギー集中。
それを一気に、砲撃として吐き出す!
「ブレイザァァァァァァァァ!」
奴は咄嗟(とっさ)にシールドを、そしてリフレクターでの粒子フィールドを展開。
それが放たれた蒼い砲撃と正面衝突……そして、フィールドを砕きながらの爆発が起こる。
『ブレストファイヤーかいなー!』
「違う! ハイドロブレイザーだ!」
「恭文さん、ガイキング(リメイク版)は毎週見ていたですから」
爆煙から落ちるように離脱し、こちらにライフルを向けてくるX魔王。なので眼光を滾(たぎ)らせ。
「フリーズバイト!」
空色の輝きを連続掃射。放たれたライフル弾を撃ち抜き、潰し、更にその奥の本体も狙う。
ヘッドバルカンとキャノンも同時発射するけど、X魔王はリフレクターを開き、そこから発生する揚力にて滑るように回避運動。
『光子力ビーム!? 何でもありかぁ!』
「ガンプラは――自由だ!」
『ただの免罪符やないかぁ!』
こちらも拳にエネルギーを纏(まと)わせ、それを電撃に変換。
「ブレイクパライザー!」
そのまま”地面”を踏み込みながら突撃。
……マオは予備サーベルを収め、ライフルを左手に持ち替える。その上でキャノン基部のビームソードを抜刀。
そのまま袈裟の斬りつけが放たれ、こちらの右ストレートと正面衝突。
「く……やっぱり完成度がダンチなのです!」
『それはお互い様でしょ!』
衝撃を、デブリすら散らす風を生み出しながらも、僕達は交差。すぐさま反転しながら、また拳と刃をぶつけ合う。
至近距離で放ったバルカンを回転運動で回避し、マオはこちらの突撃をやり過ごす。
その上で回転しながら右薙一閃……急速回転しながら、左ビームスパイクでの回し蹴り。
それが交差し合いながらも、僕達は距離を変えることなく……更に一歩踏み込む。
マオの刃を伏せて避け。
打ち込んだ拳がスウェーで避けられ。
伸びた腕を狙った唐竹一閃と、左アッパーが衝突して、衝撃を生み出しながらも弾(はじ)け――。
それでも僕達は踏み込み、お互いに頭突き。
出力全開で、衝突の煽(あお)りをモロに食らい、きりもみ回転をしながら上昇し続ける。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ロケットパンチ、目からビーム、胸からビーム……だからつい、トオルさんを見てしまった。
「トオルさん」
「あ、あれは……粒子制御技術の応用で、普通のものとは違うから」
「それでいいんですか!?」
「ガンプラは自由だ!」
逃げましたー! 全力で逃げましたー! ……でもトオルさん、すっごくうずうずもしています。
「くぅ……やっぱりいいなぁ! ……俺も早く、ストライクを心の中から出してやらねぇとな」
「心の中から?」
「俺さ、ガンプラを作るのって、そういう……理想? 『いい!』って思ったものを、形にする作業だと思うんだよ」
「心――」
トオルさんの言葉で、軽く胸元を撫でてみる。
自分がいいと思ったものを、形に……そうかも、しれません。
それは技術や勝敗以前の、心根の話。出発点の話。
しかもそれは、好きであればあるほどとっても楽しいことで。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二人とも、心から楽しそうだった。性能差も、技量差も関係ない。
ただ力をぶつけ合い、ただ願いを研ぎ澄ます。そんな衝突に会場中が沸き立ち続ける。
――そんな二人を静かに、また楽しげに見守る男へと近づいていく。
「えぇでぇ……マオ! それでえぇ!」
「凄(すご)いな、マオ君」
珍しく開眼した珍庵は、こちらを見やることはない。それはそうだ、私も今の二人からは目が離せない。
「昨日はよほど鍛えたと見える」
「目先の勝利に目がくらみおってたさかいにな。迷いを吹っ切ってやっただけや」
なるほど……彼もヤスフミ君の技量はよく知っている。それゆえに勝とうとして、力が入りすぎていたわけか。
だがそれでは駄目だ。
ヤスフミ君は戦闘者として、これまで過酷な戦いを幾度となくくぐり抜けてきた。
ある意味二代目やガンプラ塾以上に、勝利絶対主義者と言っていいだろう。……まぁ、必要に迫られて……だが。
だからそんな彼に勝つなら、違う強さを――マオ君だからこそ出せる強さを持って戦うべきだ。
総合力で勝る相手には、自らの一番得意とする”武器”を以(もっ)て戦う。戦術の基本だろう。
……では、マオ君の――ガンプラ心形流の強さとは何か。
「今のマオは無心――曇りなき心で戦っとる」
それはガンプラが好きな心。
「ガンプラ心形流はその心を、ガンプラで具現化させる流派」
自分の感じたもの全てを用い、一つの物を作り上げる力。
「バトルもまたしかり」
好きなものを、好きなように――言葉にすれば簡単だが、なんと難しいことか。
どうしても流される。否定の声に、”好き”とは違う声に……白いクロスに付いた、ただ一つの汚れが引っかかるように。
だが恐れる必要はない。これは”遊び”なのだから。ガンプラは自由なのだから。
だから彼らは戦う。自分の心を形にしたガンプラで。
「心形流の極意、会得しとるでぇ――マオ!」
ただ楽しく、がむしゃらに。好きなことを好きなように――真っすぐに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
幾度も切り結び、交差を続け、刃と拳はお互いのボディを傷つけていく。
それでも引かない……一歩も引かない。でも、その衝突は唐突に終わりを迎える。
力をぶつけたかと思うと、反射的にすぐ後退。
五十メートルほどの距離を開いた上で対峙(たいじ)した。
『とびきり痛いの、行きますよお!』
「OK……なら」
「こっちもいくですよ!」
『ソーラー、システム起動!』
X魔王のリフレクター各部が輝き、出力を上げる。
『そして』
右手のビームソードを振り上げ、奴は月を指す。だから僕も――。
『「サテライトシステム」』
月を差し、同時にSPスロットをクリック。
『「起動!」』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
月のマイクロウェーブ発信装置から、光条二つが降り注ぐ。
それは四秒弱で二機に着信。膨大なエネルギーがガンプラに宿り、リフレクターに輝きが生まれる。
ううん、X魔王の場合は更なる……でしょうか。青白かった光が、破壊を思わせる”赤”になる。
「やっぱり来たか! サテライトシステム対決!」
「……ねぇ、もしかして……マオ君はともかく、蒼凪プロデューサーは」
「このためにフェイタリーだ!」
「やっぱりかー!」
「未央、それより先に気にすることがあるよ」
「うん、分かってる……キャノンはどこ!?」
凛ちゃんと未央ちゃんの言う通りでした。近くに予備のバックパックらしきものもない。
どうするのかと思っていたら、サテライトキャノンのアームが可動。
『これがわいの切り札』
それがビームソードの柄尻に接続されて……!
「サテライトシステムが」
「ビームソードに接続された!?」
リフレクターの輝きが、同じ色の力が、ビームソードから発振。
それは三十メートルほどの大剣となり、X魔王はサンライズバースで構える。
『魔王剣です!』
「太陽と月の力が、一つに――!」
「となれば、問題は出力差だな。ヤサカ・マオはソーラーシステムも併用している。
恭文の技量なら限界突破<ブラスター>で回避も可能だろうが」
トオルさんはそう言いかけながら、呆れ気味にため息。
「ありゃ、正面打破するつもりだ」
「できるんですか!? 単純に考えて、出力は二倍ですよね!」
「出力だけなら、な」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
見せてあげるよ。限界突破<ブラスター>はあくまでも、切り札の一つにすぎないってことを――。
「出番だよ」
フェイタリーの胸部パーツが輝き、マイクロウェーブのエネルギーがフレームを通して移動。
それは左腰にセットした古鉄に凝縮される。
いや、それでは足りない。打ち上げる……打ち上げる……打ち上げる――!
左手で鯉口(こいぐち)の部分を握り、有り余る力を一片も逃すことなく打ち上げる。
黒い鍔(つば)。
収められている幅広・肉厚の刀身。
更に柄尻の青い宝玉――もう一度言おう、この刀の名前は。
「古鉄<アルト>!」
≪どうも、私です≫
「ですー!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おいおい……!」
トオルさんは楽しげに笑いながら、前のめり。
「あの膨大なエネルギーを、刃に凝縮するつもり……いや、違う」
その笑いが、一瞬深くなった。
見ていてゾクッとするほど、鋭いものを含んでいると分かる。
「あれはただ力を凝縮しているんじゃない。何だ……何を仕掛けるつもりだ」
「で、でも……大きさが違うし、勝てないんじゃ」
「みりあもそう思う! バーンってビームを撃った方が絶対強いよー!」
「いえ……緒方さん、赤城さん、そうとは限りません」
「「え……!」」
「アンタ、どういうこと?」
「確かにヤサカさんが強く、大きく見えます。しかしそれは『力を放出し続けている』がゆえ、無駄が多いとも取れます」
固定化されているであろう魔王剣は、確かに今なお震え、粒子エネルギーを吐き出し続けていた。
「対して蒼凪さんは、あれほどに荒れ狂う力を一片も逃すことなく、鞘の中に――刀に収めようとしている」
それに対し、恭文さんはなんて静かな……まるで、波一つない水面を見ているかのよう。
「出力差は決して、力そのものの密度を表すものではありません」
「つまり密度なら、蒼凪プロデューサーが勝てる? でもそれだけで」
「そして蒼凪さんには、忍者として培った戦闘技能が存在しています」
「……それもガンプラで再現して、アレを破ろうって言うの!?」
「目を離さないようにしましょう。勝負は、一瞬で付きます」
「うん……!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
月の輝きを受け、その力を一点に凝縮――。
古鉄を軸に、刃を打ち上げる。その行程は魔法のときと何ら変わらない。多少アナログになっただけだ。
想定するは最強の自分。想像するはそれすら越える未知の輝き。
月の力を受けての鉄輝なんて、ふだんだったら絶対できない。そんなワクワクも制御に加味し、この刃は生まれる。
出力はほぼ倍……単純な破壊力では、その密度を上回ることも難しい。
でも、先生は僕に教えてくれた。
先生は僕に示してくれた。
斬ろうと思えば、何だって斬れる。
諦めることなんてない。手を伸ばして、憧れて、追いかけることは楽しい。
そんな姿を今でも追いかけて、想像して……だから指は迷いなく、答えを導き出す。
僕の心で生き続ける輝きを、全身全霊で形にする。
『魔王剣』
奴は大剣を振りかぶり――その瞬間、前かがみとなって。
『チャージアップ!』
”地面”を踏み締め疾駆――迷いも、恐れも、全てを引き連れていく。
負けるのは怖くない? ううん、怖いよ……もっと戦いたいのに、止まるのは嫌だ。
でも、それで”負けない”ために引くのは意味がない。ここで踏み込み、打ち勝つから楽しいのよ。
勝つために踏み込む一歩。
負けないためにではなく、勝つために、生きるために踏み出す一歩。
ワクワクも、ゾクゾクも、全部含めて楽しみながら、右足を踏みだし――。
月の輝きに満たされた、相棒<古鉄>を抜き放つ。
魔王剣を逆風の抜きで両断し、その構築粒子を、力場そのものを破砕。
その上で刃を返し袈裟・右薙の連撃。
月花の剣閃を白いボディに刻み込みながら、切り抜ける。
刃と刃が衝突したことで生まれた衝撃。それすらも払いながら突き進んだ結果、僕達は交差し、停止する。
『……ほんま、半端ないなぁ。その”三連撃”、何と……言うんですか』
半端ないのはおのれだよ。初見だろうに、三撃食らったのを理解しているのか。
……やっぱ世界は広いね。僕が最強を名乗るのはまだ早い……だから楽しいんだけど。
「――月花繚乱」
その上で静かに……ヒビ一つ入っていない刀を、手元で一回転させながら納刀。
「瞬・極(またたき・きわみ)」
鍔(つば)鳴りの音が響いた瞬間、魔王剣が真ん中から真っ二つに裂け、そのまま霧散。
『あぁ、もしかしたら師匠』
更にX魔王が袈裟・右薙に切り裂かれ、細かいパーツがあちらこちらにはじけ飛ぶ。
『名前とか、付けてなかったん……かなぁ』
――X魔王はフェイタリーの背後で爆散。とてももの悲しい”赤”を、宇宙(そら)に刻み込む。
≪BATTLE END≫
(第61話へ続く)
あとがき
恭文「というわけで新技<月花繚乱>で何とか勝利ー!」
あむ「あぁ、三撃以上の連撃だと繚乱だっけ」
恭文「そうそう」
(鉄輝一閃のバリエーション。
※バリエーション一覧
・鉄輝一閃(基本技)
・鉄輝双閃(二刀流時、同時に斬りかかる技)
・鉄輝繚乱(てっきりょうらん 鉄輝一閃を用いた乱撃。属性変換を用いた場合は、○○繚乱となる)
・氷花一閃(ひょうかいっせん 氷結変換を絡めた、氷の斬撃)
・凍華一閃(とうかいっせん 氷花一閃のフルドライブバージョン)
・灼花一閃(しゃっかいっせん 炎熱変換を絡めた、炎の斬撃)
・蓮華一閃(れんかいっせん 灼花一閃のフルドライブバージョン)
・雷花一閃(らいかいっせん 電撃変換を絡めた、雷の斬撃)
・閃華一閃(せんかいっせん 雷花一閃のフルドライブバージョン)
・風花一閃(ふうかいっせん 風変換を絡めた、風の斬撃。なおフルドライブである嵐華一閃(らんかいっせん)は、射撃攻撃であるため枠外とする)
・星花一閃(スターライトの短縮集束版。集束魔力で鉄輝一閃を打ち上げ、より強い斬撃とする)
・雷輝一閃(らいきいっせん 主に恭太郎や海里(キャラなり時)が扱う技。電撃を刃にまとわせ圧縮する)
・雷輝双閃(らいきそうさん 二刀流時に放つ、雷の斬撃)
・雷輝繚乱(らいきりょうらん 雷の斬撃による乱撃))
恭文「というわけで、お相手は蒼凪恭文と」
あむ「日奈森あむです。……しかしアンタ、またプレッシャーって」
恭文「嫌がらせだね!」
あむ「楽しげにするなぁ!」
(これが後々、大事件に繋がり……)
恭文「まぁ今回の話、流れとしてはテレビのセイ達と同じなんだけど」
あむ「……そう言えば世界大会で戦う約束、アンタが潰す形に……」
恭文「知らん、そんなのは僕の管轄外だ」
あむ「ちょっと!?」
(作者も書き上がって気づいた罠)
恭文「それよりも……FGOのバレンタインイベントが」
あむ「あ、いよいよ始まったんだよね。……でもさ、今年のチョコ……全部もらうつもり?」
恭文「……絞らないとヤバそうなので、まずは去年いなかったメンバーを最優先に……それに新規礼装もあるからなぁ」
(割とタイトなので、必要なものは見極めていこう。
本日のED:ヒャダイン『半パン魂』)
恭文「というわけで、早速桜セイバー、武蔵ちゃん、マルタ(裁)、スカサハ(アサシン)様からチョコをもらったぞー!」
あむ「あれ、桜セイバーって去年も」
恭文「何度もらってもいいものだ! ありがとう、桜セイバー!」
あむ「そういうことか!」
桜セイバー「どう致しまして。でも、そんなに喜んでもらえると、嬉しい反面気恥ずかしいと言いますかー」
武蔵「……ねぇ、もしかしてお団子は駄目だったの? 礼装に恋愛見習いとか書かれてたんだけど」
恭文「そんなことないよ。うどんも、お団子も、とっても美味しかったし……武蔵ちゃん、ありがとう」
武蔵「主様……ふふ、それなら来年は期待してね。勉強して、当代流のバレンタインをプレゼントするから」
マルタ(ルーラー)「それ、私も乗っかっていいかしら。今年は、本当に……激しく忘れて……!」
恭文「い、いいあ……ココア、美味しかったよ? 温かかったし……ね、あむ!」
あむ「いや、アタシは飲んでないんだけど! ……ところで恭文、これって」
(チョコレートのお酒ー)
恭文「それはスカサハ様から。今日、一緒に飲む予定なんだー」
あむ「チョコのお酒なんてあったんだ……! ウィスキーボンボンは知ってたけど!」
恭文「チョコと関するお酒にもいろいろあってね。カカオを一切使わず、風味や味わいを抽出したものもあるの。さて、これはどんな味かなー」
(おしまい)
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!