[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第4話 『ドキドキな出会い? 初めましてな歌唄たいと』



某テレビ局の楽屋の中。休憩時間なので私はまぁ・・・・・・野菜ジュースなんて飲む。





健康に気をつけるのも、タレントの大事な仕事だもの。そして私のマネージャーはそんな中、はしゃぎまくっていた。










「・・・・・・でも、あの対談の効果はすごいわねー。またファンが増えた感じよ?
『ほしな歌唄の新しい一面が見れた』ってネット上で大騒ぎなんだから」

「・・・・・・そう」





確かに、普段の私のキャラじゃなかったのは事実。普通はあんなファン思考丸出しな感じにしないし。

というか、するわけがないし。いわゆる外キャラってやつ? それを作って対談に臨んだ。

あぁ言うキャラも見せた方がいろいろ好都合だったりするし。この辺りは何故か三条さんが非常に詳しい。



・・・・・・大人だからかしら。なんというか、こういう所は芸能人として私は見習うべきなのかも。





「でも歌唄、また上手くキャラ作ったわね。アンタあの人の歌なんて全く聴いてないのに」

「そうね、聴いてないわよ。・・・・・・今はね」

「え?」

「昔はすごく聴いてた。というより、大好きだった」





あの人の歌を生で何度か聴いた事がある。特に忘れられないのが・・・・・・あぁ、そうだ。

あの人が校長になってから初めてのコンサートだ。

予定をつけて見に行って、聞いてると心の中が暖かいものでいっぱいになって、涙がボロボロ出たんだっけ。



感動とは違う、心が幸せなもので満たされていく感覚で流れる涙に自分でも驚いた。



誰にも・・・・・・本当に親しい人にしか言った事がない、私が歌をうたう事を更に好きになったきっかけ。





「でも今は・・・・・・聴くとだめなの。まだまだ私は足りないんだなって事ばっかり考えちゃう。
聴いてないとか聴かないとかじゃないかな。・・・・・・聴けないの」



情けない話だけど、悔しいとかそういう気持ちで聞いてしまう。自分の歌とあの人の歌を比べてしまう。

仕事するようになったからかな、プロとしての敗北感を突きつけられる。



「ダメね、私・・・・・・今は素直な気持ちであの人の歌を聴けない。だってあの人、本当に凄い人だもの」

「歌唄・・・・・・なーに情けない事言ってんのよ。アンタは世間を騒がせている人気アイドルでしょ?
しっかりしなさい。誰が相手だろうと、勝ちに行くしかないでしょうが」



三条さんは、呆れ気味に私の肩を後ろから両手で掴んでそう言う。

元々勝ち気な人だから、どうしてもこうなっちゃうらしい。



「ううん、勝たなきゃ意味なんてないのよ。アンタだって勝ってきたから、そんな人と対談出来たんでしょうが」



そう、それも事実。勝たなかったら意味がない。そうしなかった私はここに居なかったんだから。



「でも、あの人は世界よ? やっぱり私はまだまだよ。
負けん気も必要だけど自分の今の力、ちゃんと把握しておく事だって必要じゃないかしらな」

「ふ、普段とキャラ違うし」



そう言いながら、三条さんが訝しげな目で私を見る。・・・・・・うん、自分でもキャラじゃないって思うわ。

ただ、やっぱり・・・・・・なのよね。歌手として、同じ『うたうたい』として、思うところは色々あるの。



「まぁ、それを言われるとねぇ。世界と世間じゃあ差があるのは間違いない。
アンタの言う事にも一理ある。でもそれなら、アンタにとってはこれはいらないものかもね」



三条さんがそう言いながら、一枚の長方形の用紙を出してきた。

それは用紙というより・・・・・・そうよ、これはチケットよ。



「フィアッセ・クリステラさんからの招待状よ」

「はぁっ!? 招待状ってなにっ!!」

「『今度のチャリティー・コンサート、もしお暇なようならどうぞ』って。
でも、アンタが聴けないって言うなら断るしか」

「・・・・・・・・・・・・行くわ」

「え?」



多分対談で縁が出来たから、日本に居る間にこう・・・・・・好意的なものだと思う。

でも、私にとってはある意味挑戦状よ。ここで逃げるわけにはいかないわ。



「ここで行かないの、なんだか負けたみたいだもの。そんなの悔しい。だから・・・・・・行く」



確かに、凄いと思う。今の自分と比べてどうしてもと思う部分もある。だけど、それで終わったりなんてしない。

私は・・・・・・勝ちに行くんだから。勝って、どんどん前へ進んで、輝いていくんだから。



「行って、あの人やスクールの人達の歌、聴いてくる。三条さん、悪いんだけど」

「分かったわよ。予定は空けておく。まぁ、ここんとこ仕事の密度濃かったしね。
充電のためというかモチベーションの上昇のためというか・・・・・・とにかく頑張ってきなさい」

「ありがと」










・・・・・・これがターニングポイントだった。そうして、私は出会う事になる。





時代遅れでバカで・・・・・・一見すると輝きなんて欠片も無いような、そんな奴に。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第4話 『ドキドキな出会い? 初めましてな歌唄たいと』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの突然の来訪の翌日、僕とリインは・・・・・・疲れ果てていた。それもすっごく。





もうね、端から見ると僕達たまご自分から捨てたんじゃないかって言うくらいに疲れてるの。










「・・・・・・なぁ、恭文もリインもどうした? お前ら二人なんでそんな落ち込んでるんだよ」

「というより・・・・・・疲れきってるわね、どうしたの?」



・・・・・・理由はある。昨日未来からやってきたカオス女のせいだ。

僕達は放課後のガーディアンの定例会議の時間になっても、この状態だった。



「なにか悩み事かな? ねね、それならやや達聞くけど」

≪まぁ・・・・・・悩み事といえば悩み事なんですけどね≫



色々アウトコース過ぎてほとんど話せないけどねっ! つーか、話したら絶対頭の中身を疑われると思うんだっ!!

うん、賭けてもいいねっ! 一般常識として『未来から孫の本妻がやってきた』なんて、ぶっちゃけありえないしっ!!



「実はだよ」



とはいえ、このままはまずい。間違いなく咲耶も今回の一件に関わる。つーか、もうそれは決定済み。

ガーディアンの面々にいきなり会わせてびっくりされるのは非常にアレなので、ちょこちょこと話す事にした。



「僕の親戚というか・・・・・・まぁ、付き合いの深い子が来たのよ」

「恭文の?」



あむの言葉に僕とリインは頷いた。うん、深いと思う。だって・・・・・・僕の孫の本妻だし。

言うなれば孫の嫁だよ? 咲耶は恭太郎の嫁だよ? これが深くないなら、なにが深いの?



「そうなんです。まぁ、それだけならよかったんですけど、その子もしばらくここに滞在する事になって」

「でも、お前達って一応仕事でこの街に来てるんだよな。いくら親戚だからって、滞在させていいのか?」

「まー、すぐにバレる事だから言っておくね。・・・・・・その子、しゅごキャラが見えるそうなのよ」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



ガーディアンの面々が驚きの声を上げた。・・・・・・うん、マジで見えるんだって。つーか、僕は驚きなんですけど。



「それで僕とリインと同じ『能力者』なのよ」

「えっと、つまり恭文と同じように光線出したり出来ちゃうんだ。その子もアンタの仕事場の子?」

「いや、違う。でも置いてけって聞かなくてさ。・・・・・・うぅ、頭痛いよね」

「そうですね。リイン達、かなり頭が痛いんです」



うん、痛いね。一日経てそのひどさが身に染みてきたよ。・・・・・・もう思いっきり衝撃の渦中ですよ。



「ね、それはどうして? だって、あなた達の関係者で、その上『能力者』でしゅごキャラが見えるのなら・・・・・・特に問題はないと思うんだけど」

「それが大有りなんです。まず・・・・・・性格的にそうとう自由な子です。
そうですね、恭文さんが完全に振り回されるって言えば納得してもらえますか?」

『えぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



なぜか全員が驚愕の表情を浮かべて声を上げた。

おのれら、僕への認識どうなってる? ちょっと詳しく話を聞かせてよ。



「あなたが完全に振り回されるなんて・・・・・・それは相当ね」

「俺達、一緒に居たら胃に穴が開くんじゃ。てゆうか日奈森・・・・・・お前絶対そいつに弄られるぞ」

「そうだね、そんな予感がしてきた。恭文でさえ魔法少女でニートでしょ? うわ、これよりキツイのきそうだよ」



一体何の話っ!? つーか、マジで僕への認識どうなってるっ!!



「まぁまぁ、蒼凪君。これは仕方ないって」

「そうだよ。ややから見ても、これまでの行いが行いなんだよ? おとなしく受け入れるべきだと思うな」



いやいや、仕方なくないでしょっ!? おかし過ぎるからねコレっ!!



「あと・・・・・・あれがあるじゃないですか」



リインがそう言ってきて、僕のヒートアップしかけていた気分が沈んだ。そう、あれがあった。あぁ、出来れば忘れていたかった。



「あれ? え、性格以外にまだ問題あるの?」

「あむ、とりあえず色々引っかかる感じの目で僕を見るのはやめて? ・・・・・・その子」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・お代わりお願いします」

「あ、うん。・・・・・・大盛り?」

「もちろん、特盛りで」



その言葉に、お茶碗を受け取ったフェイトは若干頬を引きつらせつつ炊飯器に向かった。

何故だろう、気分がいい朝のお食事時なのに・・・・・・なんか、場の空気が重い。



「・・・・・・ね、咲耶」

「はい、なんでしょう。ティアナさま」



平然と笑顔でティアナの問いかけに答えやがった。だけど、それにティアナの糸がプチンと切れた。



「なんでしょうじゃないわよっ! なにこれっ!? アンタどんだけ食うつもりよっ!!」

「そうですね、まだお茶碗10杯程度ですから・・・・・・もう15杯はいただきたいですね」

「え、まだ折り返し地点に到達してないっ!? 待て待てマジで待てっ!!
どうして人の家で飯食べてそんな平然としていられるっ!!」





そう、咲耶は無駄に食う。とても食う。普通にスバルやギンガさん、エリオレベルでの食う。

おかげで・・・・・・僕とリインとティアナはきっと、帰りに米俵を買ってこなくてはいけない。

そして思った。きっと恭太郎は咲耶を嫁にもらったら、きっと食費を計算しないだろうと。



計算したら・・・・・・きっと、それは不幸しか呼び込まない。





「平然となどしていません。ご飯を作ってくださったおじいさまとフェイトさまへの感謝の心を持って、美味しくいただかせてもらっています」

「そういう問題じゃないからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「コイツの言う通りよっ! つーか人の家に居候する事になった身でどんだけ遠慮が無いのっ!? アンタはどこのスバルよっ!!」

「まぁまぁ、二人とも抑えて? 美味しく食べてもらってるのは嬉しいから。・・・・・・はい、咲耶」



そう言って、フェイトが優しい笑顔で咲耶にお茶碗を差し出す。当然・・・・・・特盛り。



「ありがとうございます、フェイトさま」

「うん。でもあの・・・・・・ごめん。もうお米が残ってなくて、お代わりはそれが最後なんだ」





フェイトが言いながら視線であるものを指す。もう言うまでもないと思うけど・・・・・・炊飯器。



なお、業務用のでっかいの。五人分の食事とご飯となると、これくらいはないと辛いのだ。



一応ありったけ炊いたのだけど・・・それすら超えてしまった。・・・・・・恐ろしいぞ、雷鳴の鉄姫。





「そうですか。では、いたし方ありません。おじいさま、さっそくで申し訳ありませんが小麦粉を使ってすいとんでも」

「だから人の家に来て平然とそういう要求をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ですから、平然となどしていません。・・・・・・これから私のためにすいとんを作ってくださるおじいさまへの感謝の気持ちを胸いっぱいに持って」

「そういう問題でもないと何度言ったら分かってくれるのかなっ!? てーかお前もう帰れよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで・・・・・・蒼凪君、結局すいとんは作ったの?」

「作ったよ? 残り野菜とかもぶちこんだのを大量に。で、全部平らげやがった」

≪あんまりな様子に全員言葉をなくしてましたね≫



僕がそう疲れた表情で言葉を返すと、なぜか全員が気の毒そうな目で僕を見始めた。

お願い、その目やめて? 意外と心に突き刺さるから。



「大食い大会とかに出てさ、なんのテクニックも使わずに軽く優勝出来るくらいなのよ、あれ。おかげで・・・・・・食費が」

「というか、リイン達は帰りに米俵を買わないといけないです。うぅ・・・・・・あれ、きっと重いですよね」

「米俵だからね」





なお、今は今朝の風景しか話してないけど、昨日の夕飯もとんでもない状況だったのは言うまでもないよね。

唯一の救いは、スバルとかと違ってご飯だけしか大盛り要求をしないところ。

とにかく大量にご飯を炊くだけで対処できるのは、楽と言えば楽でいい。本人曰く、梅干一個でご飯5杯はいけるとか。



・・・・・・おかし過ぎるぞ、あの女。性格どころか食欲までアレってどういう事さ。





「な、なんか大変そうだね。あたし、そこは予想外だったんだけど。
ね、『能力者』だから大食いになるとかそういうのじゃないんだよね?」

「うん、違う。それなら僕達も同類だし。・・・・・・リイン、どうしようか」

「どうも出来ないですよ、もう覚悟決めるしかないです。もっと言うと、覚悟を決めて米俵を背負うしかないのです」

「そうだね」



そうだよねぇ。それしか、無いん・・・・・・あ、ちょっと待って。僕はダメだ。



「あ、ごめん。僕は米俵買いに行けないわ」

「どうしてですかっ!? まさか・・・・・・リイン一人に米俵を担げと言うんですかっ!!」

「違う違う。・・・・・・業務用炊飯器、でかいの二つ注文してくる」

「あ、なるほどです」



そうしないと、色々と手が足りなくなるしなぁ。うぅ、頑張ろう。というか、安いのあるといいなぁ。



「まぁ、そこはともかく・・・・・・には出来ないんだけど、話進めて大丈夫かな?」

≪はい、どうぞ≫

「えっと、コンサートの事なんだ。行くのは構わないんだけど、集合場所とかはどうすればいいのかな」

「あ、それならみんなに渡すものがあるです」



そう言って、リインがみんなにあるものを渡す。数枚のA4サイズの用紙を束ねた冊子。



『・・・・・・なになに?』



その表紙を見て、全員が表情を驚きに染める。



「『クリステラ・ソング・スクールのチャリティー・ツアー・コンサート観覧のしおり』・・・・・・はぁっ!? なにこれっ!!」

「わわわ・・・・・・これすごいよ? 集合場所や待ち合わせ時間やスケジュールまで書いてる」

「会場や駅周辺の地図や各種アクセスに移動時間、迷った時の緊急の集合場所や連絡先までびっしりだな。
恭文、お前器用なんだな。まさか昨日の今日でこんなもん作ってくるとは思わなかったぞ」

「というより、よくそんな時間があったわね。かなりひどい状況だったのに」



・・・・・・なでしこ、あれをひどいと言ってくれるの? ありがとう、僕・・・・・・少しだけ救われた。



「あー、それ僕が作ったんじゃないから。一番最後のページ、見てみて?」



僕の言葉にみんなが一番最後のページを見る。そして・・・・・・固まった。



「恭文君、この引率者兼製作者シャリオ・フィニーノという人は・・・・・・どなた? あと、噂のフェイトさんの名前もそこにあるんだけど」



あぁ、視線が痛い。とりあえず興味津々な視線が痛い。予想はしてたけど、これは辛い。



「僕の友達で協力者その2だよ。で、フェイトはその1。シャーリー・・・・・・あ、そのシャリオの愛称なんだけどね」



話を聞いてからリサーチして、それで昨日完徹で仕上げてきたの。

あの女、こういうところはこう・・・・・・チートだよね。うん、チートだチート。



「で、フェイトとその3とさっき言った僕の個人的な関係者も行く事になった」

「え、えっと・・・・・・それはかまわないんだけど、どうして・・・・・・あ」



唯世が何かに気づいたような表情に変わる。他の面々もそれを見て、連鎖的に気づいたようだ。



「ごめん。もう僕分かったよ。フェイトさん達もフィアッセ・クリステラさんに誘われたんだね。それで、断れなかった」

「唯世、すぐに分かってくれて嬉しいよ」



頭痛い。あの状況でまさか一晩でこんなの作るとは思ってなかったから、余計に頭が痛い。

あー、それで頭の痛い事がもう一つあった。



「で、悪いんだけど僕はその場には行けないから」

「はぁっ!? ちょっと待ってよっ! なんで恭文無しで私達がコンサート行かなきゃいけないのよっ!! それちょっとおかしくないっ!?」

「あー、違う違う。・・・・・・コンサートには行く。ただ、僕はそこに書いてる集合場所に行けないんだよ。
僕は皆より早く会場入りする事になったから」



ここには理由がある。まぁ・・・・・・一応というか念のためというか、そんな感じなんだけど。

うぅ、小学生やってるからとは説明したんだけどなぁ。



「スクールのセキュリティを担当している会社さんの主任で、エリス・マクガーレンって人が居るんだ。
その人からもし都合が付くなら、今回だけでも警護を手伝って欲しいって頼まれてさ」

「それで協力者その1のフェイトさんやその2なシャーリーやその3なティアナの許可を貰って、泊り込んで手伝う事になったんです。
ですから、恭文さんとは会場の方で合流という感じですね。あ、リインはみんなと一緒に行くですから、そこは大丈夫です」

「あ、そうなんだね。でも、どうして?
警護の人がちゃんと居るなら、蒼凪君がそうする必要ないと思うんだけど」



そう、唯世の言うように本来なら僕なんぞ必要ない。

僕は普通にみんなと会場入りすればいいの。ぶっちゃけ、警護手伝いなんてついでもいいところ。



「まず一つ。フィアッセさんとゆっくり話す時間がコンサートの前くらいしか取れそうにない」

「あ、そう言えばすごく仲がいいんだよね。うん、アンタ言ってたっけ」



うん、ちょっと話したいって言われたら・・・・・・ねぇ? あくまでもわがまま仲間として交流を深めたいなと。

いや、浮気とかじゃないからねっ!? というか、フェイトもちゃんと認めてくれてるんだからっ!!



「次に、万が一に備えての戦力増強。まぁ・・・・・・普通のコンサートなら僕は必要ないんだけどね。
でもクリステラ・ソング・スクールのコンサートは、ちょっと違うんだよ」



まぁ、話さないと納得しないと思うので・・・・・・お茶菓子として出されているマカロンを一つ手に取る。

それを一口パクリと食べてから、話を進める事にした。



「まず、みんなももう知ってると思うけど、このコンサートはチャリティー・ツアー。
発生する莫大な収益なんかは全額寄付する事になってるの」

「あ、テレビで歌唄ちゃんとお話してるときにも言ってたもんね。
でもでも、それと恭文やこてつちゃんが行く理由が何か関係あるの?」

「あるの。・・・・・・世の中にはね、そういう活動をされると非常に迷惑する人種も存在してるの」

「例えばどこかの犯罪組織、例えば同業者、例えば戦争屋。
そういう関係の人間は、実はこの手のコンサートを良く思ってはいないですよ」

≪とにかく、発生する莫大な収益を普通にスポンサーや企業に回さずに全てそういう事に使われると迷惑というか鼻につくと思う人種は意外と多いんです≫



そう、アルトの言うような部分が確かに存在している。なので。



「・・・・・・なんか、それ嫌だね」



僕が話を続けようとした時、小さく呟いたのはあむだった。どうやら他の方々も同じくらしい。

だって、表情の中に嫌悪感が見えるんだもの。



「ややも同感。だって、フィアッセさんやスクールの人達はいい事してるんだよね。
なのになんでそういう事思われなくちゃいけないのかな。うー、ムカつく」

「僕もそう思う。でもね、一つの現実なんだよ。平和に暮らしてると忘れがちだけど、確実にその裏側に存在してるの」

「なんだかお前、実感篭ってんな」

「当然だよ。・・・・・・僕、そういうのを相手取る仕事してるんだもの。もうやんなるくらいに知ってる。
例えば拳銃に使う弾丸一発だって、相当額なんだよ? そういうのは一種のビジネスでもあるもの」



で、話を続けましょうか。とにかくそういう人種がどうするかと言うと。



「まさか・・・・・・妨害工作?」



・・・・・・話続けられないし。とりあえず僕はなでしこの言葉に頷いた。結構表情が苦くなってるのは、気のせいじゃない。



≪普通にテロみたいな形もありますし、銃器関係相手だろうと遠慮なく剣なり拳なり使って叩き潰してくる腕のいい戦闘者というのも、世の中にはたくさん居ます≫

「僕みたいな異能力を持った人間ってのもありえる。
あー、ようするにこの手のコンサートは、襲撃されるされないどうこうは抜きにして」

「しっかりと警備しとかないといけないってわけだな。何にしても、目をつけられてる部分があるのは大きい。
で、お前が警備を頼まれたのは単純にその対策のためって感じか? お前、普通とは違う『能力者』なわけだし」

「そうだね。ただまぁ、今回は警備どうこうって一種の抜け道なんだよね。
・・・・・・コンサート中に普通にアポイントメント取ろうとすると、無茶苦茶めんどくさいから」



そういう事情が絡んでるから、フィアッセさんの身辺に関しても今は相当気を使われてる。

フィアッセさんはスクールの顔であり看板でありシンボルだもの。万が一の事があるとマズい。



「なるほど、恭文君を警備員にして普通に会えるようにしようというわけね」

「そういう事。僕は以前警備に携わった事もあるし、フィアッセさんともエリスさんとも仲良しだから。うん、一応信用されてるの」

「じゃあじゃあ、襲撃されたりーって言うのはないの?」

「うん、そこは大丈夫みたい。僕もコンサート始まったらみんなと合流出来るし、そこは安心して欲しいな」

「なら、安心でちね。それだと単純なデートも同じでちゅよ」



・・・・・・何にも起こらなければそうなるね。

エリスさんの話だといつぞやみたいに脅迫されてるとかそういうのは無いらしいけど、ちょっと不安。



「あー、それとあともう一つごめん。僕、当日までここ離れるから」

「・・・・・・はぁ? なんでだよ。だって、コンサートまでは今日入れたら4日近くあるぞ」

「その前に定期健診受けに行かなきゃいけないんだよ」

「定期健診?」



そう、定期健診なのだ。もっと言うと・・・・・・フィリスさん。



「えっと、海鳴市って分かる?」

「・・・・・・あ、やや知ってるっ! 確か・・・・・・翠屋って言う美味しい喫茶店がある街っ!!」

「あ、あたしもそのお店知ってる。ママがライターやってる雑誌で一度紹介されたから」



翠屋有名なお店だしなぁ。やっぱりそこなんだ。てゆうかそれだと、海鳴の顔は翠屋って事になるね。



「でも、確かそこってここからだと結構遠いよね。またどうしてそこに?」

「というか、定期健診って・・・・・・恭文、何か病気してるの?」

「うーん、そういうのじゃないの。僕の主治医がそこの総合病院に居るんだよ。
整体関係のスペシャリストで、その・・・・・・こっちに来て色々あって検診をサボっていまして」



軽く頬が引きつってるのは気のせいじゃない。うん、だってサボってるし。

うぅ、フィリスさん怒ってるかなぁ? 出来れば角が生えてない事を祈ろう。



「・・・・・・恭文君、もしかしてその先生って怖い人なの?」

「今の僕みたいな悪い患者さんに限りね。何にしても一度顔を出しとかなきゃいけないから。というわけで」

「分かった。こっちの方はリインさんも居るなら何とかなるだろうし・・・・・・気をつけてね。
・・・・・・いや、本当に気をつけてね? というか蒼凪君・・・・・・顔、青くなってるよ?」

「・・・・・・やっぱり?」

「うん、やっぱりだよ」










こうして、色々計画は整った上で僕は明日からちょっとだけ一人旅である。





みんなには端末の番号やアドレスも当然教えてあるし、何かあるようなら連絡来るでしょ。





でもみんな、会って間もないのに色々理解してくれて・・・・・・僕、人に恵まれてるよね。うん、幸せだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



幸せは、その時だけだった。海鳴に到着してから、色々と大変だったから。

フィリス先生がちょこっと角生えてたし、ちょうど同窓会で帰郷していた弓華さんと組み手した。

あぁ、思い出したくないー! つーか、アレはマジでやめてー!!





とにかく、僕はボロボロになりつつも、コンサート会場にやってきた。

というか、その近くのフィアッセさんが滞在しているホテルに。

そしてガードの人に案内されて、僕は・・・・・・ある一室へ来た。





その一室にあの人が入ってきて・・・・・・あぁ、安心した。全然変わってないんだもの。










「恭文くんっ!!」

「フィアッセさんっ!!」





そのまま、部屋の真ん中まで二人走り寄り・・・・・・ハグ。

あの、いいの。親愛のハグなんだからいいの。うん、ここは絶対。

とにかく、親愛なのでちょっとだけギュっとしてから離れる。



・・・・・・あぁ、本物だよ。なんか嬉しいなぁ。





「久しぶり、元気だった?」

「はい、とっても。・・・・・・あ、今回はご招待いただいて、ありがとうございます」

「ううん、私も会いたかったしね。でも・・・・・・びっくりしたよ。
お仕事、あっちこっちの世界に行くって言ってたから、まさか地球に居るとは思わなかった」

「まぁ・・・・・・なんというか、不思議な巡りあわせでこうなりました。はい」



いや、不思議過ぎだけどさ。いくらなんでもありえないもの。



「とにかく、その辺りの事を色々お話したいな。うふふ、久々の公認浮気タイムだしね」

「その言い方やめてもらえますっ!? てゆうか、もしかして気に入ったとかじゃないですよねっ!!」










そうして学校の事や仕事の事、仕事で言った世界の話なんかをして・・・・・・楽しく過ごす。

あ、僕だけじゃなくてフィアッセさんもツアー中の事や仕事の中での事を話してくれた。

なんて言うか、幸せ。年が離れていても、僕がフェイトと付き合うようになっても、僕達は繋がれる。





こうして友達で居られる事、繋がっていられる事、全部・・・・・・幸せだな。





うぅ、心の広いフェイトには感謝しないと。僕は本当に素敵な女の子を彼女に持ったよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あれから3日後。リイン達はある場所へ向かう事になりました。

その場所とは当然、チャリティー・コンサート・ツアーの会場。そう、今日はコンサートの日です。

そして、リイン達は朝一番で最寄の駅で集合する事になったのです。





でも・・・・・・現在、とても視線が痛いです。










「えっと、みなさん初めまして。私がフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

「シャリオ・フィニーノです。あ、気軽にシャーリーって呼んでね」

「ティアナ・ランスターよ。よろしくね」

「私、蒼凪咲耶と申します。以後お見知りおきを」



全員が揃ってそう軽く会釈をすると、ガーディアンメンバーは緊張した面持ちでそれに返します。



「あ、初めまして。日奈森あむです」

「藤咲なでしこです」

「結木ややです」

「辺里唯世です」

「相馬空海ですっ! あの、本日はお日柄もよくっ!!」



空海さん、なぜいきなりお見合いになるんですか。恭文さんが居ないからってそれはないです。



「みんな、いつもヤスフミやリインと仲良くしてくれてるんだよね。
あの、ありがと。色々事情込みではあるんだけど、とてもありがたく思ってる」

「いえ、蒼凪君とリインさんはガーディアンの仕事も本当によく手伝ってくれていますし。
むしろこちらがありがたく思っています。あの、それで蒼凪君はその・・・・・・生きて、ますか?」

「あ、そこは気になるよね。あたしもこう・・・・・・電話するのが怖くて怖くて」

「どうしていきなり生存確認っ!? ・・・・・・あ、フィリスさんの事聞いたとかかな」



あむさんと唯世さんを見ながらフェイトさんがそう聞くと、みんなが頷きます。

それでフェイトさん達は納得です。フィリスさんの事、ティアナとシャーリーも話だけは知ってますから。



「それなら大丈夫だよ。定期健診の結果も良好で、無茶だけは絶対しないようにって釘を刺されただけらしいから」

「そうですか、ならよかった」

「そうだな。うし、合流したらちょっと労ってやろうぜ。あれだ、アイツは戦地から無事に帰ってこれたんだしよ」



空海さん、それ表現おかしいですよ。でも・・・・・・恭文さん居なくてよかったですね。

フェイトさんがもう保護者モードですし。いや、恭文さん小学生な立場ですから、本当にしょうがないんですけど。



「・・・・・・ね、リインちゃん」

「あむさん、どうしたですか?」

「あの・・・・・・ちょっとあたしの予想をぶっちぎりで飛び越えてるんだけど、どういう事?
いや、好きとかなのは分かるの。でも、フェイトさんってどう見ても20歳前後くらいはあるよね」

「あー、そうだよっ! それで恋人とか付き合ってるとかってどういう事っ!? やや達にちゃんと説明してー!!」



まぁ、そうですよね。普通にフェイトさんは大人に見えますから。おかしいですよねぇ。



「色々事情込みなんです。詳しくは第2話前半を見てもらえれば」

「いや、その説明ワケ分かんないからっ! というよりなにっ!? 第2話前半ってっ!!」



ごめんなさい、色々あるんです。というか、なんだかリインまで辛くなってきたです。



「咲耶さんは、恭文君のご親戚なんですよね」

「そうなりますね」

「協力者その4ですか?」

「一応、そんな形ですね。私もおじいさまやフェイトさまと同様の『能力者』ですから。一応、雷鳴の鉄姫という二つ名で通っています」

「なるほど」










あっちでなんか通じ合い始めてる人達は置いておきましょう。すっごい楽しそうだけど置いておきましょう。





とにかく、話は電車の中でする事にしたリイン達一向は、そのすぐ後に来た電車に乗り込み、一路コンサート会場へと向かう事になりました。





でも咲耶、その二つ名は通ってないですよね? だってだって、普通に未来の時間の話ですし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・マジワケ分かんない。いや、好きな人が居るとか、守りたいとか、そこまでなら理解出来る。

でも・・・・・・付き合ってるとかそんな感じという返答が来た。あたしはよーく覚えている。

でも、当のフェイト『さん』はどう見積もっても20代に見える。大人っぽくて、優しい空気全開。





その上スタイル・・・・・・うぅ、すごく大きい。どうしたらあんな風になるの?

とにかく、スタイルもすっごくよくて、身長も高くてさ。

それがどうしたら今あたし達と同い年くらいの恭文とくっつくのっ!?





あ、もしかしてそういうショタというか、少年趣味なのかなっ!!










「あー、それは違うよ? フェイトさんはノーマルなの」

「えっ!? シャリオさんっ!!」

「どもー」





行きの電車の中、私に声をかけて来ているのは恭文の仕事の仲間だって言うシャーリーさん。



・・・・・・そう言えば、リインちゃんにフェイトさんやランスターさんに咲耶さんもそうなんだよね。



なでしこ達と話してる姿を見ると、そうは思えないんだけど。





「・・・・・・あと、あむちゃん。シャリオじゃなくてシャーリーだよ」

「いや、それはあの・・・・・・てゆうか、なんで思考読んでるんですかっ!!」

「いや、顔に書いてたから」

「嘘っ!!」



や、やばいあたし。もしかしてそうとう分かりやすかった? よし、ちょっと気をつけておこうっと。



「あの、シャーリーさん達って本当に・・・・・・あの、恭文と同じ警備組織の人なんですか?」

「そうだよ。まぁ、私はどっちかと言えばバックアップ専門なんだけどね」

「そうなんですか?」

「うん」



シャーリーさんは恭文達と違って『能力者』ではないらしい。だからそういう形になるとかなんとか。



「な、なるほど。あの、それでちょっとお聞きしたいんですけど」

「あぁ、フェイトさんとなぎ君の事だよね。・・・・・・気になる?」



意地悪い顔をしてそう聞いてきたシャーリーさんに、あたしは頷く。

だってあたしはもうちょっと若い感じを想像してたわけですよ。それでアレだもの。



「・・・・・・まぁ、なぎ君はちょっと意地というか見栄を張っちゃって『付き合ってる』って言ったんだね。
けど、実際はそういういかがわしい事はないんだ。ただね、二人気持ちが通じ合ってるのは間違いない」

「そうなん・・・・・・ですか?」

「そうなの。二人が知り合ったのって、ちょうど1年前くらいかな。なぎ君、初めて会った時からフェイトさん一直線でね。
フェイトさんは最初は子どもの言う事だから・・・・・・という感じに思ってたんだけど、あんまりになぎ君が一途だからいくつか約束したの」



シャーリーさんが思い出すような顔で電車の天井を見上げながら、そのまま言葉を続ける。



「なぎ君が大人になった時に、気持ちが変わってなかったら・・・・・・自分にその時そういう相手が居なかったら、付き合うって約束。
ただ、それだけだとフェイトさんにとって都合のいい単なる口約束になっちゃうでしょ?」

「まぁ、そうなりますね」



こっちは子どもで向こうは大人なんだから。実際あたしはそう思った。

大人が子どものわがままをやり過ごすための勝手な理屈としか思えない。



「だから、フェイトさんもそれまでなぎ君の事、絶対に子ども扱いしないで、ちゃんと一人の男の子として見ていくってそう約束したの。
付き合うとかそういうのは、全部その上で結論を出す。でも、それで普通は出来るとは思えないんだけど、フェイトさんちゃーんと約束守ってるんだよ?」



シャーリーさんが視線をフェイトさんの方に映す。金色の髪は、窓から差し込む陽の光で眩しいくらいに輝いてた。



「いっぱい想いを届けてくれて嬉しかったから、ちょっと変かも知れないけど」



そしてクスリと笑う。それから、またあたしの方を楽しげに見る。



「なぎ君の言葉にときめいたから、その分自分も返していきたいんだって」

「そうなんですか。あの、でもどうしてそこまで? だって、こう言ったら悪いけど恭文ってまだ全然子どもだし」

「・・・・・・騎士になりたいって言われたんだって」



騎士? えっと、騎士ってあの騎士だよね。RPGとかに出てくる。



「フェイトさんの笑顔とか、笑っていられる時間とか、フェイトさんがフェイトさんであるために必要なもの。
全部を守れるフェイトさんだけの騎士になりたいって、そう言われたんだって」



アイツが・・・・・・だ、だめ。なんか想像出来ない。てゆうか、どんなシチュでそれを言ったの?

あたしの頭は軽く混乱してる。でも・・・・・・それがどれだけ重くて強い言葉かだけは、分かった。



「付き合いたいとかそういう事じゃない、ただ・・・・・・大好きな人が笑顔じゃないのは嫌。
泣いてるのなんて絶対に嫌だから、そうしたいんだって。今も、笑顔も、夢も・・・・・・全部守るって」

「な、なんというかそれは・・・・・・こっ恥ずかしいですね。いや、言ってる事はすごくいいと思いますけど」

「あ、やっぱりそう思う? 実は私も。まぁそれでさっきの約束をして、応えていく事にしたんだって。
その気持ちのために潰れたり自分を犠牲になんてしない事だけ、なぎ君にも約束させてね」



な、なんかよく分かんないけど・・・・・・こう、色々あったって事だよね。うん、きっとそれでいいんだ。



「でもその約束・・・・・・成立するんですか? 恭文はともかく、フェイトさんの気持ちだってあるのに」

「多分大丈夫じゃないかな。・・・・・・実は、フェイトさんって何回か男の人にそういうアプローチを受けたりしてるんだけど、全く相手にしてなかったの。
それは今でも同じなんだけど、そんな難攻不落なフェイトさんにそれだけ譲歩させたのは、なぎ君だけなんだ」

「そ、それもすごいですね。あんなに美人なのに」

「美人ではあるけど、色恋沙汰に疎い人ではあるから。まぁ、そこまで変な関係じゃないから、そこは安心して欲しいな」



・・・・・・安心ってちょっと違くない? だってあたし、アイツの彼女でも無ければ片想いしてるわけでもないし。



「それであむちゃん。今度は私から質問」

「はい」

「なぎ君にフラグ・・・・・・立てられてない?」

「・・・・・・はぁっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・シャーリー、それはいいんですか? だって、あの・・・・・・嘘の上塗りですし。

あぁ、恭文さんが聞いたら絶対頭抱えるです。ただでさえ嘘ついてる項目が多いの気にしてますし。

いや、もうそう言わないと収拾がつかないのは事実なんですけど。





まさかここで本当の年齢をバラすわけにもいかないですし。

まだ色々と互いに手札を隠していると思われるこの状況でそれは、相手と距離を作るだけにしかなりません。

でもでも、それでも嘘の上乗りは・・・・・・うぅ、やっぱりこういうのめんどいですー。





さすがに『能力者』ってだけで誤魔化し続けるのも限度があるですよ? 遅かれ早かれ、バレると思うです。










「・・・・・・でも、あの・・・・・・今もみんなの近くに居るんだよね。
その、しゅごキャラが。私には見えてないんだけど」





とにかく、そんな心配事はさておき、話は進みます。

フェイトさんがそう言うのですが・・・・・・確かにみんなのしゅごキャラも周りに居ます。

でも、フェイトさんは見えてないんですよね。なんというか、ちょっと不思議な気分です。



リインは見えてるですけど、みんなは・・・・・・なんて、やっぱり不思議なのです。





「はい。でもフェイトさんは見えないんですよね」

「うん。私だけじゃなくて、シャーリーとティアもだね。咲耶はどう?」



そう言って、フェイトさんが咲耶の方を見ます。・・・・・・あ、なんか遊んでますね。キャンディーズの三人と楽しそうにしてます。



「蒼凪君から咲耶さんは見えていると聞いていたんですけど、大丈夫みたいですね」

「・・・・・・そうね、なーんか私から見ると一人で楽しそうにしてる感じにしか見えないんだけど」

「ティ、ティア。それは言っちゃだめだよ。でも、ちょっと残念だな」

「残念?」



フェイトさんがふと漏らした言葉に、ガーディアンのみんなの視線がそちらへ向きます。

その疑問の視線を受け止めつつ、フェイトさんが言葉を続けました。



「ヤスフミやリインの話を聞くに、しゅごキャラのみんなはすごくいい子みたいで、二人もなんだかとても楽しそうだから。
それ見てて少し思ったんだ。私もお話出来たら・・・・・・というより、お話してみたいなって。それはね、今もかなり思ってる」

「・・・・・・そうですね、本当にお話出来たらよかったんですけど」










唯世さんがフェイトさんの言葉にどこか嬉しそうに返します。他の皆も、なんだか同じ。





そう言えば・・・・・・しゅごキャラってもう一人の自分ですよね。





やっぱり、あの表情はそういうのが関係しているんでしょうか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、私達は会場に無事に到着した。今回のコンサートの会場はホテルの大ホール。

なんだか、海鳴での会場と似てるかも。ちょっとあの時の事思い出しちゃったよ。

多分、もうすぐ出会って10年経つ中で私達がやらかした一番の大喧嘩。国を跨いでの冷戦状態。





・・・・・・うぅ、私、なんだか若かったんだなぁ。今考えると、恭也さんや美由希さん達に本当に申し訳ないよ。

ただ、今でも気持ちは変わってない。出来るならそんな戦い方はして欲しくないし、そのための技も使って欲しくない。

私も一応そういう訓練をするようになったから、あまり言えないんだけど。それでも、心配ではあるから。





そこは変わらないんだけど・・・・・・それでも、ちょっとだけ変わった事がある。

ただ否定するだけじゃなくて、受け入れて、付き合う覚悟を決めて、知っていく事。

理解し合って、その上で自分の想いもヤスフミにぶつけて・・・・・・そうして側に居る。




ううん、側に居たい。今はそうしていく事にした。だから、一緒に頑張れる。

こんな風に思えるようになったのは、やっぱりヤスフミと恋人になれたからかな。

あと、ヤスフミも少しずつだけど色んな事・・・・・・話してくれたから。





だからあの時やギンガを助けた一件の時に感じていた不安や危機感、今はもう無い。

・・・・・・ダメだな、私。そんな事考えてたら、ヤスフミにすっごく会いたくなってきちゃったよ。

結局あの、コミュニケーションは一日お休みしちゃったし、そういうのもあるかも。





繋いだ手と心は繋がってるって今も感じているのに・・・・・・ちょっと不思議だね。私、こんなに甘えんぼさんだったかな。










「・・・・・・うわぁ、大きいね。スクールの人達、こんなところで歌うんだ」

「やっぱりクリステラ・ソング・スクールって凄いんだな。
てゆうか、その校長と友達のアイツって・・・・・・もしかしなくても、無茶苦茶凄い?」

「色々ご縁があったおかげではあるけど、そこはその通りだと思うわよ?」



みんなでそんな話をしながら・・・・・・確か、この辺りでヤスフミが出迎えのはずなんだけど・・・・・・あれ、居ないな。

そう思いながら私達が辺りを見回すと、私も何度か会った事がある金色の髪をポニーテールにした女性が居た。



「・・・・・・エリスさん」



私はその女性に近づく。みんなも後に続く感じでついて来てくれる。

その女性は、エリス・マクガーレン。フィアッセさんの幼馴染で、ガード役の女性。



「お久しぶりです」

「あぁ、フェイトちゃんか。・・・・・・うん、お久しぶり。
フィアッセから色々聞いてるよ。元気にしているそうだな」





すぐに分かった。ヤスフミとのメールだ。・・・・・・ま、まぁちゃんと認めてるよ?

フィアッセさんはヤスフミにとってやっぱり大事な人だもの。

エッチな事とかそういう事抜きに限り、仲良くするのはオーケーかなって。



・・・・・・ホントだよっ!? あの、私・・・・・・リインとの事だってちゃんと認めてるんだからっ!!



三人体制な図式だって受け入れられるんだからっ!!





「えっと・・・・・・フェイトさん、こちらの方は」

「あ、シャーリーやティアにみんなは会うの初めてだったよね。
この人がスクールのセキュリティ担当のエリス・マクガーレンさんだよ」

「あぁ、君達が彼の同級生か。・・・・・・初めまして、エリス・マクガーレンだ。
今日はわざわざ来てくれて、本当に感謝してる。フィアッセがまた強引で・・・・・・すまなかったな」

「あ、いえ。あの・・・・・・日奈森あむですっ! 初めましてっ!!
今日はお誘いいただいて、ありがとうございましたっ!!」



そう言いながら、ガーディアンのみんなやティア達も次々と挨拶している。

・・・・・・うーん、男の子組は見とれてるね。視線でなんとなく分かるよ。



「でもエリスさん、どうして警備主任のエリスさんがここに?」

「それなんだが・・・・・・すまないな、実は彼なんだが、実は今あるVIPの相手をしてもらっていてな。少々苦戦してるんだ」

「VIP?」

「あぁ。フィアッセの招待客の一人・・・・・・というより、シンガーなんだが、もう会場に来てあっちこっち見て回っている。
彼にはそれに付き合ってもらってるんだ。ただ、中々のじゃじゃ馬で・・・・・・あ、これは失言だったな」



苦笑気味なエリスさんの様子を見て、私は・・・・・・うん、大体分かった。

つまりそのシンガーさんのガードのために、ヤスフミがこっちに来れないんだ。



「という事は、恭文ボディガードっ!? うわ、かっこいいー! なんか映画みたいー!!」

「結木さん、そんな目を輝かせなくても・・・・・・というか、遊びじゃないんだから」

「あの、という事はなにかこう」

「安心してくれ。今のところ危険な事が起こる要素はない」



少し苦い顔で聞いてきたティアの言葉に、エリスさんは安心させるように静かに笑って頷く。



「彼に警備名目で来てもらったのは・・・・・・まぁ、君達全員のチケット代金の代わりに働いてもらってるようなものと思ってくれていい」



それなら、安心かな。・・・・・・その人が狙われてるとかでもない限りはだけど。



「エリスさま、その方はちなみにどなたなのですか?」

「あぁ、君達は知ってるかも知れないな。ちょうど同い年くらいの子達に人気だと言うし。・・・・・・日本のシンガーでほしな歌唄だ」

『・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「・・・・・・シャーリー、ほしな歌唄って誰? あの、私は知らないんだけど」

「あとで説明します。でも・・・・・・あぁ、そうなんだー。これはまさしく『ボディガード』の世界だなぁ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、時間は少しだけ前に遡る。それは会場入りして警備スタートと言う時の話。





フィアッセさんからの頼まれ事がきっかけだった。










「・・・・・・ガード?」

「うん。えっとほら、この間の対談で私がお話したほしな歌唄さんって言う子。
私が招待したんだけど、もう会場に来てるそうなの」

「ま、また気力あるなぁ。関係者以外は立ち入り禁止な時間なのに」

「そうだね。とってもエネルギッシュな子だから・・・・・・うん、私も負けてられないんだ」



そんな話をしていたら、フィアッセさんと僕が居る控え室のドアが空いた。この部屋に入ってきたのは二人の人物。

エリスさんと・・・・・・あと、金色の髪をツインテールにして、なのはやギンガさんと同じくらいの身長。あ、僕より高い。



「失礼する。・・・・・・フィアッセ、連れてきたぞ」

「うん、ありがとうエリス。えっと・・・・・・歌唄さん、今日はありがとう。来てくれてとても嬉しいよ」

「いえ。あの・・・・・・お誘いいただいて、ありがとうございました」



そう言って、二人は挨拶し合う。・・・・・・あー、確かにテレビの通りだ。まぁまぁ、綺麗な方だよね。

というか、TVで見た時と・・・・・・あれ? なんか雰囲気がちょっと別人というかなんというか。



「それで歌唄さん、先ほども話したと思うが、彼が君のガードを担当する人間だ」

「あの、お心遣いは嬉しいんですけど、私はもう子どもではありませんし、一人で行動」



そしてあの子が僕を見る。なぜか驚いた表情で固まった。・・・・・・なんですか、これ。

とりあえずそこは置いておいて、自己紹介する事にした。何事も最初のパンチが大事なのだ。



「えっと、初めまして。蒼凪恭文と言います」

「・・・・・・ちっさ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブチ。



「誰がナノミクロンレベルでチビキャラだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「や、恭文くん落ち着いてっ!? 誰もそんな事言ってないからっ!!」

「いや、だって・・・・・・アンタ凄い小さいじゃないの。あの、エリスさん。
お話だと優秀なボディガードと聞いていたんですけど、この子、どう見ても私より年下ですよね」





ふざけんなっ! ややから年齢聞いたけど、おのれはまだ14とかそれくらいだろうがっ!!



僕はおのれより年上なんだよっ!? ・・・・・・あ、だめか。



だって僕はこの近辺だとまだしょうがくせ・・・あれ、おかしいな。なんか涙出てきたぞ? おかしいな。





「・・・・・・いきなり泣き出したし。あの、エリスさん」

「気にしないでくれ。彼は若干・・・・・・いや、性格はかなりアレだが、能力は私が保証する。
年若く見えるが、そこらの連中が舌を巻くほどに強い」

「いや、泣いてますけど。そういうの微塵も感じませんけど」

「それでもだ。・・・・・・実は、彼は以前フィアッセのボディガードをした事があってな。
襲撃者も多数居たりしたが、見事にその任を真っ当している。外見だけに誤魔化されると、びっくりする」



それであの子は、僕をまた驚きの目で見る。・・・・・・うん、やったね。

何年前の話かって言うのをすると非常にまずいけど。



「こう見えても恭文くん、すっごく強いんだよ? まぁ、ボディガードというよりは年の近い話し相手かな。
そういう感じで接してくればいいから。あと、これはあなたのマネージャーさんからのお願いでもあるんだ」

「三条さんからの?」

「うん。まぁ、その辺りの話は・・・・・・エリス、任せちゃっても大丈夫かな?
私はそろそろ出演者の楽屋を回らないといけないから」

「あぁ、問題ない。もう護衛の者も外に付かせているから、一緒に回ってくれ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、時間は今に戻る。まぁ簡潔に話をまとめると、このほしな歌唄という失礼な女のマネージャーは来れない。

なので、手間をかけて申し訳ないけど、念のために誰か付かせて欲しいという事だった。

ただ、護衛とかじゃなくて、多少うちのタレントはわがままで世間知らずなので、その面倒を・・・・・・ぷぷ。





面白かったなぁ。あの時のあのツインテールの顔。いや、おかげで憂さが晴れて。










「ちょっとアンタ」

「・・・・・・なに?」



人がおのれのアホな顔を思い出して楽しんでるというのに・・・・・・全く、KYな奴め。



「何じゃない、お茶。壮健美茶買って来て」



そう言って、彼女はお金・・・・・・120円を手渡してきた。なので僕は・・・・・・それを返した。



「自分で買いなさい」

「はぁ? 何言ってんの、アンタは今日一日私の付き人なんだから、これくらいやんなさいよ」

「うっさい、僕はガードするのであって付き人になった覚えは無い。
盾にはなるけどパシリにならないのがガードの基本よ」

「なによそれ。どっちにしたって、私の側に居るのは同じ事じゃないのよ」

「まぁ、そこを言われると正解なので非常に辛いかも」










なお・・・・・・僕は現在このわがままなアイドルを相手にこんな会話を繰り広げつつ会場を回っている。





くそ、なんだよこのツン全開な性格は。ティアナだってここまでひどくないよ?





アレは意外とデレとツンのバランスが程いい感じなのよ。それで、結構デレ部分が多くて。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だから・・・・・・私はツンデレじゃないって言ってるでしょっ!?」

「ひあっ! ラ、ランスターさんっ!? あの、どうしたんですか!!」

「・・・・・・あぁ、ごめん。驚かせちゃったわね。いや、こう・・・・・・また不埒な電波を受け取ったの」



もう思いっきり不埒な電波よ。そして私はこの電波にすっごい覚えがある。だから、拳を握り締めたりするわけよ。



「ティア、それはきっと恭文さんです」

「恐らくですが、ティアナさまのツンデレ具合の素晴らしさについて語ってたのでしょう」

「納得したわ。アイツ・・・・・・合流したら1発ぶん殴ってやる」

「それでティアナさんも納得っておかしくないですかっ!? というか、恭文何やってるのっ!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ガードしてますが、何か?」

「アンタ、いきなり何言い出してんのっ!?」

「いや、電波を受け取ったから」



というか、フィアッセさんの対談の時と全然違うし。あの緊張して初々しい感じのしおらしいキャラはどこへ行った?

あ、分かった。あれが外キャラなんだ。僕は今本当の意味であむの言葉を理解したよ。



「全く、なんでコンサートに来て子どものお守りなんて」



歩きながら、不満そうに・・・・・・とても不満そうに歌唄様はそう呟いた。

今自分が置かれている状況を『子どものお守り』と歌唄様は表現なさった。なので、僕もちょっと乗っかる。



「それはこっちのセリフだよ。つーか、色々状況鑑みればお守りされてるのはそっち。それに、同じく子どもがなに言ってんの?」



会話と言うのは、言葉と言葉のキャッチボールで成立している。そして、この子はとてもいい子らしい。

僕のありふれた言葉でも、きちんと返してくれる。ビバゆとり世代である。



「私は子どもじゃないわよっ! 少なくともアンタよりはねっ!? てゆうか、マジで小さいしっ!!」

「待て、また・・・・・・またそんな事を・・・・・・! 僕のどこがどういう風にミジンコなんだよっ!!」

「そこまで言ってないわよっ! なんでそこでそういう風に過大に受け取るわけっ!?」



なんて言いながらも周囲を見渡し・・・・・・あ、あった。



「ほい」



一旦会話をやめて僕は手を差し出す。すると、目の前の女の子が怪訝そうな顔をする。



「・・・・・・なによ、この手」

「お金。自販機見つけたから、買ってくる。お茶でいいんだよね?」



僕は視線である箇所を指す。それでこの子は視線でそれを追って・・・・・・見つけたらしい。

ほんの100メートル手前のわき道へ入る通路のところにある自販機を、目を見開いて見つめている。



「・・・・・・なによそれ。アンタ、さっき断ったじゃないのよ」

「自販機近くに無かったもの。ガードが側を離れちゃアウトでしょうが。
あと・・・・・・ここの自販機の代金は、120円じゃなくて100円だよ」



さっきフィアッセさんからちょこっと聞いた。なんか安くてちょっと嬉しいとかなんとか言ってたっけ。

とにかく、僕の言葉にその子はお金を渡してきた。代金は・・・・・・120円。



「お駄賃よ。まぁ、これくらいはね」

「・・・・・・だから、子ども扱いする」





言いかけて止まった。・・・・・・そっか、僕はここだと子ども・・・あぁ、マジで頭痛い。



とにかく二人でそこまで歩いて、僕はお茶を買う。20円は貰った上で、お茶を彼女に渡す。



彼女はそれをグイっと・・・・・・男らしく一気飲みすると、近くの缶入れにシュート。





「は、早業」

「なによ、これくらい普通よ?」

「何と比べて普通なのかが分からないんですけど」

「芸能界じゃあ、早弁とかしょっちゅうって事。時間無い時とかは本当にリアル10秒飯なんだから」

「左様で」



そう言いながら、また歩き出す。なので、僕も側に行く。そうこうしている内に、会場内の人が多くなっていく。

・・・・・・そっか、もう会場時間は過ぎてるんだ。開園まではもうちょいか。うーん、楽しみだなぁ。あ、でもその前にやる事があるか。



「・・・・・・さて、歌唄」

「アンタ、いきなり呼び捨て?」

「気にしないで。参考にまでに聞くから、静かに声を潜めて答えて。・・・・・・誰かに恨まれる覚えは?」



声を潜めて、静かに僕はそう歌唄に聞いた。歌唄は僕を見ながら、さっきよりも怪訝な表情をする。



「・・・・・・はぁ?」

「もしくは、最近誰かに後をつけられたとかそういうのは?」

「いや、意味分かんないから。アンタなに言って」

「後ろに数人、つけてきてる」



声を潜めて、様子を変えずに歩きながらそう言う。その言葉に歌唄は表情を驚きに染めて、後ろを。



「見ないで」



鋭く一言言い放つ。それで振り返りかけた歌唄の動きが止まる。



「こっちが尾行に気づいてるってバレるよ? 普通にしてて」

「・・・・・・分かった」

「それで、さっきの質問に答えて。覚えは?」

「アンタ、私の仕事知ってるでしょ? そんな覚え、数え切れないくらいにあるわよ」



・・・・・・怖いね、芸能界って。この状況が『数え切れないくらい』ですか。

ふむ、こうなるとどうするべきかな。気配丸出しなとこから察するに、素人だとは思うけど。



「・・・・・・歌唄」



しゃあない。見過ごしてなんかあっても僕は嫌だ。ここは・・・・・・ツッコむところか。



「なによ」

「僕、さっき20円もらったよね」

「そうね」



会場を様子を変える事なく歩きながら、僕は歌唄にそう話しかける。

そしてそれは僕の財布の中にはある。つまり歌唄は・・・・・・対価をもう支払ってる。



「今つけてきてる連中片すくらいなら、やってあげようか?」

「はぁ?」

「20円もらったしね、お駄賃じゃなくて依頼料とするなら、問題ないけど」

「アンタ・・・・・・バカ? なんでたった20円でそこまでするのよ」



呆れた表情の歌唄はまぁいい。・・・・・・僕は自分がバカなんて、もうやんなるくらい知ってるもの。



「別に大した理由はない。ただ・・・・・・この状況は見過ごせないだけ。
なによりフィアッセさんのコンサートで不埒な事なんて、どこの誰にもさせない」

「なるほど、納得したわ。・・・・・・20円でいいのね?」

「いいよ」

「なら、それに上乗せして・・・・・・私の歌、聴かせてあげる。それなら問題ないでしょ」

「うし、決定だ。んじゃ・・・・・・エリスさんにちょっと連絡かな」





僕はすぐに装着していたイヤホンマイクのスイッチを入れて、エリスさんに事情説明。



僕達がこのまま相手を誘い込んで、他のガードが包囲するという形になった。



会場の地図はもう頭に入ってるから・・・・・・とりあえず、あそこかな。





「歌唄、運動神経はいい方?」

「一応鍛えてはいるから。歌手は身体が資本だもの」

「ならよかった。・・・・・・流れ弾くらいは避けてね?」

「なによそれっ!!」

「20円じゃそこまでサービスは出来ないしねー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、作戦決行。僕達はそのまま地下の駐車場へと来た。ゆっくりと階段で降りてである。

数・・・・・・10人程度? また少数精鋭で来たね。さて、エリスさん達に連絡はしてるから、これでも詰みではある。

詰みではあるんだけど、相手方にそれを悟らせるのはアウト。そうなれば、どんな行動に出てくるか。





例えば、無理矢理この若い歌姫を人質に取ろうとするとかさ。










「・・・・・・出てきなよ」



だから僕は足を止めてから、人の気配の無い駐車場でそう声をかける。どっちにしても、対峙する必要はある。



「へぇ・・・・・・気づいてたんだ」





そうして出てきたのは・・・・・・あぁ、一目で運動とかあんまりしてないんだなって分かる方々が数人。

あと、ファッションにセンスが無い。正装ではあるけど、それでもセンスが無い。

うん、どういう方向性かはもう分かったわ。いわゆる熱狂的なファンってやつですか?



なお、証拠はある。どうもいやらしい視線を向けてるし。それも・・・・・・歌唄に対して。





「ね、ぼく・・・・・・歌唄ちゃん渡してよ」

「そ、そうだよ。俺達、ただ歌唄ちゃんとお話して、仲良くなりたいだけだからさ」

「・・・・・・という事らしいけど、どうする?」

「お断りよ。というか、アンタ達・・・・・・人のスケジュール勝手に調べて、こんな事までして、私が来ると思ってんの?」



男達がそんなきつーいボールを受け取って・・・・・・あれ、へらへらしてる。



「あぁ・・・・・・怒られた。歌唄ちゃんに怒られた」

「うぅ、嬉しいよぉ」



うわ、キショっ! というか、ウザっ!! いくらなんでもこれはありえなくないっ!?

とりあえず、僕は歌唄の前に男達から庇うように出る。



「歌唄、そこの柱あるでしょ?」

「あ、うん」



後ろのコンクリの資格の柱。あ、一応気配は探って・・・・・・よし、大丈夫。

あの辺りには誰も居ない。もち、油断は禁物だけど。



「そこに背中合わせて、絶対に動かないで。大丈夫、一人も通さないから」

「あはは・・・・・・ぼく、かっこいいね。まるで本当のボディガードみたいだよ」

「でもね、お願いだからどいてくれないかな。じゃないと」



男達が懐から・・・・・・獲物を取り出した。物はナイフやスタンガン。

それでこちらを圧倒した気持ちになっているのか、気持ち悪くニヤニヤしてやがる。



「怪我・・・・・・しちゃうよ?」

「・・・・・・ね、アンタ」

「歌唄、僕の言う事聞いてなかった? 下がってろって言ったでしょうが。・・・・・・大丈夫」



僕は振り向いて、安心させるように笑う。



「さっきはあぁ言ったけど・・・・・・絶対に守るから。僕はこの手の奴ら、死ぬ程嫌いなのよ」

「・・・・・・分かった」



そうしてようやく歌唄は下がってくれた。後ろをちょこっと見て、僕の言った位置にちゃんと居るのを確認。



「こんな素敵なレディ相手に、武装した上でアポなしで突撃たぁ、ちょっと感心しないね。
お前ら、いくらなんでも男としてダメ過ぎだよ。・・・・・・来いよ」



それから僕は前を見据える。10人程度の・・・・・・雑魚を。とんとんと跳躍しながら、左の手の指をくいくいと動かす。



「こんなデートの誘い方しか出来ないヘタレなキモオタがどうなるか、痛みと一緒に教えてやる。・・・・・・さぁ」



そして僕は左手で、目の前の連中を指差して・・・・・・突きつけてやる。



「お前達の罪を、数えろ」

「い、言った・・・・・・ね? それなら・・・・・・逆に痛い目に遭わせてあげるよっ!!」










そうして、男達が一気に飛び込んできた。手には当然ナイフやらスタンガン。僕は・・・・・・一歩踏み込んだ。





さて、殺人未遂に誘拐・・・・・・いや、婦女暴行の現行犯だ。少しばかり地獄を見せても、問題ないよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは、本当にあっと言う間だった。時間にすれば、きっと1分かかってない。

私より身長の小さな男の子は、一番最初に突撃してきた男のナイフをひらりと避けると、拳を1発胸元に叩き込んだ。

そして衝撃で骨が軋み、砕ける音が響いた。そこに二人の男が横からスタンガンとナイフを持って飛び込んでくる。





あの子は・・・・・・上に跳んだ。そうして突撃を避けてから、両足を開くようにして二人の顔面に蹴りをほぼ同時に放つ。

また、何かが砕ける音がして、男達が血を流しながら倒れる。あの子はそのまま着地。

男の一人がそれを見て後ろから覆いかぶさる。あの子はその中にあえて踏み込むようにして、肘を腹に叩き込んだ。





それから少し腕を上げて裏拳を顔面に叩き込み、即座に右足で胴に向かって後ろ回し蹴り。

その脇を・抜けて二人の男が走り、私へと迫る。多分、この隙に捕まえようとか考えたんだ。

私は思わず身構えるけど、それを完了する前にすぐに脅威は去った。





あの子が大きく跳んで、左側の男の後頭部目掛けて蹴りを叩き込んだ。

そいつは前のめりに倒れ、顔面を駐車場のコンクリ製の床に叩きつける。

あの子はそのまま前方に着地。そしてすぐに次のアクションを起こす。





もう一人がそれと見て固まっている所に、左足で胴に向かって回し蹴りをする。

少しだけ足を曲げてから、今度は同じ足で顔面に1発。また例の音が聞こえて、男が倒れた。

そこに残りの四人が同時に飛び込む。目の前の小さな男の子が脅威と知ったようで、慌てている。





手にナイフを持って、突撃してくる。あの子はついさっき倒した男の足を右手で掴んだ。

何をするかと思えば、時計回りに身を回転させて、そいつらに向かって放り投げた。

投げられた男は勢いよく連中へと飛んでいく。男達はあまりの事態に散開してそれを避ける。





放り投げられた男はコンクリの床に身体を叩きつけられ、腕が変な方向に曲がり、口や鼻から血を流しながら転がる。

その隙にあの子が飛び込んだ。20メートル以上あったはずの距離が本当に一瞬で縮む。

左端に居る奴の脇腹を狙って右拳の正拳で沈め、それを引いてからあの子はまた軽く跳んだ。





そのすぐ横に居た奴に向かって右足で回し蹴り。側頭部を打ち抜いてコンクリの地面に叩きつける。

着地して横から襲いかかってきたナイフを避けて、その差し出された腕を右腕で掴む。

左の掌底を肘に向かって叩き込み、腕をへし折ってから、左手を引いてまた胴に掌底。





それでその男は男は口から赤いものを吐いて、倒れる。

それから最後の一人は・・・・・・あの子の方から飛び込んで、顔面に右の拳を叩きつけた。

あの子が拳を振り抜くと、そのまま身体を回転させてコンクリの床に叩きつけられた。





・・・・・・ようやく、場が静かになる。男達は呻きをあげるだけで、立ち上がろうとしない。

ううん、立ち上がれない。まるで映画のアクションシーンのような攻撃の数々。だけど、そういうのに疎い私でも分かる。

あの攻撃は確実に男達の身体を砕き、潰し、行動不能に追い込んだ。





多分、普通に生活していれば見る事のない、本当の意味での暴力。

ただ刃物やスタンガンを突き出しただけの男達とは根底から違う、壊すための力。

そしてその力を振りかざして本当に、あの子一人だけで・・・・・・終わらせた。





マジで強いって、どういう事よ。なんつうかもう・・・・・・どうしようもないわよ。










「・・・・・・歌唄、大丈夫?」



あの子は拳を振って、それに付いた血を払いながら私にそう聞いてきた。

先ほど変わらない・・・・・・ううん、さっきよりも優しい声で。



「大丈夫もなにも、ここでジッとしてただけだもの。問題ないわよ」

「ならよかった」



かなり、強いか。確かにそうかも。というか・・・・・・ちょっと気持ち悪い。

生々しい音や呻きが耳に入って、結構来てる。



”あ、そうだ。イル、エル、アンタ達・・・さっきも言ったけど”

”分かってる、絶対に出ないよ。アイツ、アタシらの事見えるんだろ?”

”正解よ。本当にそこはお願いね? 特にエル、アンタよアンタ”

”えー、どうしてですかっ!? あの人、歌唄ちゃんの危機を救ってくれたのにっ!!”



・・・・・・そう言うのが分かってたから念押ししてるんだけどっ!? アンタ、マジでバカでしょっ!!



”よし、エルだけでもお礼を”

”バカかお前っ! そんな事したらアタシらの事やイースターの事、アイツにバレるに決まってるだろっ!?
そうしたら、必然的にガーディアンの連中にもバレるんだよっ! お前絶対分かってないだろっ!!”

”はわわ・・・・・・それは確かにだめです”



あぁもう、この子達は。というか、エルは本当にどうしてこうなの?

どうしてこの子が私から生まれたのか、真面目に疑問なんだだけど。



「というか、そういうアンタは・・・・・・大丈夫なの?」



とりあえずそこの辺りは胸の内にしまうとして・・・・・・私は、あの子をもう一度見る。



「何が?」

「だって、血」



そんなあの子の身体には、所々血が付いてる。特に右拳がひどい。赤いのがべっとりと・・・・・・沢山。



「大丈夫。全部返り血だし」



でも、あの子は平然と言い切った。つまり・・・・・・あの子自身は全く傷を負ってないと。

でも、それであれだけってのもすごいわよね。




「それに、20円と歌唄の歌を聴くだめだもの。ちょっとくらいはね」

「いや、それはいいんだけど・・・・・・ね、アンタ」



アイツは懐から糸みたいなのを出して、男達を縛り上げていく。そうしながら、私の方を疑問顔で見る。



「さっきから気になってたんだけど、アンタもしかして・・・・・・私の事、あんま知らない?」



そう思うのは理由がある。一つは以前聞いた話。あと、どうにも私の周りに居る人達とは違う。

この子は多分、アイドルとしての『ほしな歌唄』をほとんど知らない。



「あ、僕・・・・・・最近まで海外の方に居てね。歌唄の歌、聴いた事ないんだよ。
友達からすごいとだけは聞いてるけど」



やっぱり。確か、香港・・・・・・だったかな。話ではそう言ってたけど。とにかく、色々と思うところはあった。

正直、あんまり仲良しこよしする関係にはきっとならないと思う。そして、なりたいとも思わない。ただ、それでも。



「なるほどね。それなら、今度ライブするから招待してあげるわよ。チケット送るから、後でアドレス教えなさい」

「・・・・・・いいの?」

「当然でしょ? さすがに20円でこんな真似させた・・・・・・なんて、私のプライドが許さないのよ。約束通り、アンタに私の歌を聴かせてあげる」



私はこの小さな男の子に助けられた。今日は完全にプライベートだったから、もしかしたら帰りに・・・・・・という可能性もあった。

まぁ礼は必要よね。ただ、ライブで私の歌を聴かせたら、それで貸し借りはなし。・・・・・・そうよ、もうそれで無しなんだから。



「そっか、ありがと」

「・・・・・・あとさ」

「なに?」



最後の一人を縛り上げて、アイツが息を吐く。そうして私を黒い・・・・・・柔らか味のある瞳で私を見る。

さっきまで大暴れしていたのと同一人物とは思えない、本当に優しい瞳を私に向ける。



「アンタ、名前なんだっけ」

「・・・・・・さっき言わなかったっけ」

「忘れたの」

「全く・・・・・・僕の名前は、蒼凪恭文だよ」



蒼凪・・・・・・恭文。



「分かった、もう覚えたから大丈夫よ。・・・・・・恭文、ありがと」










それからすぐ、あのエリスさんが来て男達は警察に引き渡され、連行された。

三条さんと相談した上で色々とこちらに不都合が起きない方向でカタをつけていく事になるけど、ここはいい。

大事なのは、私がここでアイツと出会ったって事。あと、助けられたって事。





その借りを返すために、私の歌を聴かせるって事。これだけなんだから。





とにもかくにも・・・・・・この後何事もなく時間は過ぎ、コンサートはようやく、開演時刻を迎えようとしていた。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから少し経った。とりあえず後の処理は、エリスさんや他のガードの方々に任せる事になった。





というか、警察だね。危険物も相当数持ち込んでたし、うまい具合に処理して全員ブタ箱行きだよ。いや、よかったよかった。










「・・・・・・歌唄、お待たせ」

「遅い。着替えるのに何をちんたら・・・・・・アンタ、なんでスーツなのよ」

「うん、なんでだろうね。そこは僕が聞きたいわ」





現在、歌唄の言うように僕はスーツを着ている。。

なお、さっきまで着ていたジーンズの上下の私服は返り血のために洗濯となった。

さすがにそれで会場入場は・・・・・・ねぇ? 問題あり過ぎだって。。



それでガードの人達が代わりに用意してくれたのがこれ。

ノーネクタイの黒のシャツに紺の上下。というか、よくもまぁ僕サイズが存在していたなぁ。

自分で言っててそこは悲しいけど、それよりも気になる事がある。



なぜかこのスーツには大量の内ポケットやら、暗器の類を収納するのに便利なホルスター部分があるという点である。



うん、結構気になってるよ? かなりね。それもその数だって、普通は無いようなレベルだもの。これ、どうしたんだもの。





「ま、さっきのよりは似合ってるわよ。ようやく私の隣を歩くにふさわしい感じになってくれて、嬉しいわ」

「・・・・・・ありがと、涙が出るくらいに嬉しいわ」

「今更? ちょっと遅いわよ。だって・・・・・・もうお別れだもの」



歌唄はもう関係者席に行く時間。一応ガードの人も付いた上で観覧という事になる。

なお、僕達とは席が離れているため、一緒に見る感じにはならない。



「歌唄、さっきも言ったけど」

「分かってる。・・・さっきのあの人達が全員じゃない可能性もあるから、当分の間は気をつけろ・・・・・・でしょ?
そっちは大丈夫よ。事務所がガードを増員してくれる事になってるし、警察も後ろに誰か居ないか捜査もしてくれるだろうし」

「ならいいんだ。じゃあ・・・・・・今度会うは歌唄のライブかな」



僕がそう言うと、歌唄は頷いた。歌唄の両隣には、僕から引き継ぐ形で歌唄のガードに付くお兄さん方。

まぁちょっと窮屈だけど、さすがにさっきから時間も経ってないし、用心は必要という事で歌唄は納得してくれた。



「それじゃあチケットは送るから、彼女でも居たら連れて来なさい」

「あ、いいの? だったら連れてくるわ」

「え、居るのっ!?」

「居ますが、なにか? ・・・・・・まぁ彼女と言うか、僕の事を審査してくれてる人だけどね」





あははは・・・・・・僕、自分が小学生やってるって事を忘れそうになる時があるね。

よくよく考えたら、あむにもこんな風に好きな人が居るで終わらせておけばよかったよ。

ついついフラグどうこうを気にしてしまって・・・・・・だめだね、自重自重っと。



というか、なんだか最近ポンコツ具合が増えているような・・・・・・うわ、やっぱダメかも。





「審査?」



歌唄が僕を見下ろす・・・・・・うんそう、見下ろされてるの。とにかく、そうしながら疑問の表情を浮かべていた。



「そうだよ。付き合ってもいいかどうか考えてくれてるの」

「あぁ、納得したわ」



僕は歌唄が納得してくれたのにちょっとホっとしつつ・・・・・・両隣に居るガードの人に視線を向ける。



「それじゃあ、すみませんけど」

「はい、お任せください」



ガードの人が静かに、だけど力強くそう言ってくれたのに僕は満足。これなら安心して任せられるよ。



「それじゃあ歌唄、またね」

「えぇ、また」



僕はそのまま振り向いて、歩き出した。



「・・・・・・待って」



歩き出して数十メートルして、後ろから大きめに声がかかった。

そちらを見ると・・・・・・歌唄が真剣な顔で僕を見ていた。



「とにかく、あれよあれ」

「なに?」

「ありがと」



小さく、この距離だと呟いてるようにも聴こえる声。だけどその声は確実に僕に届いた。

だから僕はそれに笑顔で返しながら、一緒に言葉も届ける。




「・・・・・・ううん、どういたしまて」










そのまま歌唄に手を振ってから・・・・・・僕は歩き出す。みんなとの合流場所は聞いてるから、そこに向かって全速前進。





偶発的なドキドキな出会いに感謝しつつも、僕は・・・・・・また小学生という仮面をかぶり直した。




















(第5話へ続く)







[*前へ][次へ#]

7/51ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!