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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory57 『進む道は違えど』


……ホバーから離脱した、ランチが壁の穴に取り憑(つ)いた。更にステルス状態で、小さい何かが飛んでいく。


「……恭文さん」

「見えてる。何か、小さいものが」


ガレキの合間をすり抜け、ケンプファーアメイジングに近づく。

あのね、本当に小さいの。指でつまめるくらいの、人型の……!


「そうか……あれは!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ん……!?」


アランが、訝(いぶか)しげな声を漏らす。


「どうした」

「何かが、近くにいる……これは」


するとアランが映像を回してきた。こちらから”離れていく”、バーニア付きの人形達を。


「百四十四分の一の、ジオン兵フィギュアじゃないか!」

「ジオン兵……」


そこで全てを察し、慌ててケンプファーアメイジングを立ち上がらせる。


「そういう……ことかぁ!」


間に合え……もう、時は動き出している!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「兄貴、設置とランチの退避、完了」

「……起爆」

「起爆!」


フリオがスイッチを入れた瞬間――奴らが隠れていた、ドームから火柱が上がる。

天を焼き尽くすほどではないが、ガンプラなら木っ端みじんになるレベル。


は……汚ぇ花火ってか? だが胸のすかっとする、いい爆発じゃないか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何、あれ……また爆発? それで、第七ピリオドの嫌な感じが、蘇(よみがえ)ってくる。


「セ、セシリアさん……あれ」

「爆弾ですわね」

「また!? でも、爆弾なんていつ!」

「たった今ですわ」

「今!?」


でも、ジムは近づいてないし、ユウキ会長も動いた様子がないのに……事前に仕掛けたとかじゃ、ないんだ!


「ルワン・ダラーラとの試合、バックパックの一部がいつの間にか外れていました。
そして今、どこからともなく百四十四分の一ジオン兵フィギュアが飛んでいた」

「フィギュア?」

「HGサイズで人間を形取ったものです。ジオラマとかで使いますの」


あぁ、そういうのはネットで見たことが……え、待って。じゃあ爆弾って……!


「恐らく消えた一部はランチ……移動用の小型艇になります。そこに爆弾を持ったフィギュアが詰め込まれていて」

「それが、ユウキ会長に爆弾を仕掛けた……!?」

「……レナート兄弟もまた、この遊び<ガンプラバトル>にハマっている者達です」


セシリアさんは教えてくれた。

ガンダムは元々戦争アニメだから、その中での戦い方や、在り方を表現するのも遊び。

模型でそんな情景を形にできるのなら、バトルで表現するのもアリ。


レナート兄弟は、そんなバトルスタイルなだけだと……それなら、わたしの言うことは間違っていた。

でも、それならどうやって勝てばいいの? あの人達の意識は、会長やイオリくん達とは違う。


現に今、会長だって……!


わたしはただ、燃え上がるドームを……冷徹なまでに、戦いを続けるK9を、見ていることしかできなかった。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory57 『進む道は違えど』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ドームの外装が吹き飛び、爆炎と白い蒸気がキロ単位に渡って展開。

その様子に安堵(あんど)しかけるが、気持ちを引き締めてフリオに指示。


「ハウンドは後方待機。ジムを突入させろ」


K9はビルとビルの合間から、慎重に進軍開始。


「もう木っ端みじんだろうけどなぁ」


……だがそこで、警告音が鳴り響く。


「――!」


K9は反射的に左スウェー。放たれた光条を回避するも、腰だめに構えたライフルが撃ち抜かれ、爆発する。

……すると炎の中から……ほぼ無傷な、ケンプファーアメイジングの姿が。


「……兄貴!」

「なぜだ……」


さすがに傷もないのは予想外。なので慌ててコンソールを叩(たた)き、奴の各部をサーチ。

……そこで気づくのは、間接部のぬめり。雨……いや、これは違う。

「このぬめりとひかりは、グリスか……!」

『御名答』

『ルワン・ダラーラのやられ方を見て、間接部に何か仕込んでくることは予想できた』

「だから予(あらかじ)め滑りやすいグリスを塗っておいて」


恐らくは身を鋭く捻(ひね)るなどして、強引に剥がしたんだ。

ドームが暗くなかったら……いや、これは俺のミスだ。


「マジかよ、間接部だぞ……」


フリオの驚きも当然。間接部にグリスだ。

滑りすぎるか、固着するかで使い物にならなくなってもおかしくない。


『そこは技術でカバーさ』


そのようだな。サーチして分かったが、関節部は現バージョンのKPS<粘りあるプラ>ではない。

わざわざABSを持ちだしている。恐らくはグリスとの兼ね合いだろう。

これなら……あぁ、どちらの意味でもイケるな。


こっちの爆弾を剥がすのも。

そちらさんの関節が、ぶっ壊れるのも。


やっこさんには、二種類目の爆弾がしっかり浸透している……もうちょっと、時間を稼げば――。


『マジックはもう終わりか』

「貴様ぁ!」


フリオが激高。ハンドガンを抜き放ち、トリガーを引く……が、乱射された弾丸をすり抜けながら、奴は反撃。

自身のハンドガンでこちらの銃を撃ち抜き、左手でサーベルを抜刀。そのまま突撃し。

『ならば引導を渡す!』


唐竹一閃――さすがにケンプファーベースだけあって、いい突進力だ。

だが、そこでK9は身を震わせる。ゴーグルを赤に染め、両足のスラスター出力のみで高速移動。

奴の斬撃を左スウェーで……いいや、右脇から一気に背後へと回り込み。


『何!』


すぐさまヒートナイフを抜刀。そのまま一回転し、最後に残ったバインダーを切り裂く。

中程から抉(えぐ)られ、爆散するバインダー。その勢いに煽(あお)られ、奴も吹き飛び地面を転がる。


『最後の武装が!』

「フリオ、持たせろ……一分だ」

「了解!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ会長は、あの人達の戦術を破った……! これなら、勝てる。

真っ向勝負ならきっと勝てる。そう思っていた……そう思い、見下していた。

あの人達もまた、世界大会まで勝ち抜いたのに。わたしなんかでは到底及ばない。努力を重ねた人達なのに。


だからそんなわたしをあざ笑うように、ジムスナイパーK9は反撃に移る。

すぐにケンプファーは起き上がり、ハンドガンで牽制(けんせい)……でも駄目……それじゃあ、装甲を貫くことすらできない!

真正面から突撃したK9は、懐へ入りながら右薙一閃。咄嗟(とっさ)に会長が回避したことで、ハンドガンのみが両断された。


本当に、武装が全部……あとは、ビームサーベルだけなんて。


「何、あれ……急に力が……トランザム?」

「いいえ」


セシリアさんは冷や汗を流しながら、追い立てるK9に注目。


「頭部カメラが緑から赤に染まっている……あれはトランザムではなく、EXAM<エグザム>システムです」

「えぐ……ざむ?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


私達も会場に出向いて、卯月と一緒にタツヤさんの応援。

なお、当然ながらトオルさんも引っ張っている……だけど……!


「EXAM<エグザム>……EXAM<エグザム>システムです! ディードさんのイフリート改が使ってました!」

「EXAM<エグザム>……あぁ、ブルーディスティニーに載せられたシステムだね。対ニュータイプせん滅用の」

「えー! それってNT-Dだよねー! ユニコーンで出てたじゃんー!」

「私もそう思ったけど、こっちの方が先なんだって」


そこでトオルさんを見やると、その通りと頷(うなず)きが返る。


「セガサターンで出た、ブルーディスティニーって外伝ゲームに登場した設定だ。
最近出たサイドストーリーズでも、そこから派生した新能力が生まれている」

「そうだったんだ……でも、セガサターンって何?」

「みりあも知らないー」

「え……」


そこでジェネレーションギャップゆえか、衝撃を受けるプロデューサー。


「……武内さん、落ち着け……仕方ない。二人が生まれる前のゲーム機だからな」

「そ、そうですね」

「でもアンタ、ゲーム関係とか詳しくないんじゃ」

「セガサターンやプレイステーションが出た当時から、ポリゴンの格闘ゲームが流行(はや)ったので……というか、師範がハマっていて」

「アンタの先生経由!?」


何という衝撃展開……と、とにかくディードが使うイフリート改、すっごく強かったからさ。

それで聞いたら……知らなかった。蒼の機体があったなんて……蒼……蒼……う、頭が。


「確か<ブルーディスティニー>は陸戦型ジムやら、陸戦型ガンダムがベースなんだっけ」

「それでレナート兄弟が使うK9は、ガンダム以上の性能と言われるジムスナイパーIIベースだ」


杏も前のめりになり、レナート兄弟の猛攻に注目する。

リアスカートからサーベルを抜刀し、二刀流を取り……それでケンプファーに斬りかかってる。

左手のビームサーベルで中間距離を制止、クロスレンジでは取り回しのいいヒートナイフで、間接部を狙い刺突。


避けても横薙ぎに持っていき、隙(すき)を見せない。無論ナイフは手軽な盾としても機能し、メイジンの反撃を封じる……!


「性能で言えば載せても問題ないだろうけど……これは」

「……策士、策におぼれる。ことわざにあるのですが」


K9のカメラに走査線が走り、ケンプファーアメイジングに右ミドルキック。

腹を蹴り飛ばしながら、突撃……でもそこで、ケンプファーは左肩のヒートホーンを向けてタックル。


「入ったにゃ!」


本来なら入るはずのカウンター。でも、貫いた先にK9の姿はなく。


「え……」

「嘘、でしょ……!」


みくが、李衣菜が打ち震える……向けられたヒートホーンは両断され、更にK9は背後に回っていた。

慌てて振り向くケンプファーだけど、間に合わずサーベルでの右薙一閃を食らい、右肩アーマーが両断される。

でも右腕は……よし! ぎりぎりだけど残ってる!


「ユウキ会長!」

「レナート兄弟には、通用しないようですね」

「あぁ。最後の最後……正面からのぶつかり合いになっても、勝てるだけの地力。
それがマジックを支える根幹であり、奴らの切り札だ。……だが納得がいったぜ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あのジムスナイパー、ベースに比べ重苦しいと思ったら」


追い込まれていくタツヤとアラン――その様子を見て、腕組みしながら唸(うな)ってしまう。


「EXAM<エグザム>を使うからか」

≪シンプルかつ頑強で、柔軟な可動域を持つ機体<フレーム>。
その上で模擬戦や実践で鍛えた、瞬間的な対応力を見せつける。まるでこれは≫

≪お母さん<高町なのは>の教導方針……その行き着く先なの!≫


全てはあの下地があればこそ……なるほどね、確かにこれはフォロワーだわ。


「しかも選択肢を一つずつ、確実に奪うのも辛(つら)いのです。タツヤさん、追い込まれたですよ」

「そうだねぇ。もうすぐ、立つことすらできなくなるだろうし」

「はいです……はい!?」


あ、リイン達は気づいてなかったのか。こっちを見てギョッとしてるし。


「気づいてなかったの? 爆発が起きたとき、僅かにだけど……白い蒸気が周囲に発生していた」

「雨が蒸発したせいじゃ」

「僕も最初はそう思った。……タツヤ達が、ワイヤートラップに引っかかったときはね」

「そのときも!? じゃあ……!」


リインが、りん達が、改めてケンプファーアメイジングに注目。

……よく見れば分かるよ……ボディの塗装が、ヒドく荒れているのよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


防戦一方……奴の斬撃を払い、下がりつつ対応するも、すぐに追いつかれ、組み付かれるようにつばぜり合い。

だがそのたびに機体が悲鳴を上げる。危険警告のウィンドウは十を超え、僕達を取り囲んでいた。


「クソ……なぜだ! 出力が安定しない!」

「これでは」

『紅の彗星も打てないだろ』

「……!」


こちらの考えは見抜かれているか。となれば、アランが四苦八苦している出力低下も。


『奥の手は最後まで隠す。戦術の基本だ』


ルートを確認しつつ、すぐさま後退。ヒートナイフへの突きを回避するも、左腕が切断。

更に右足もビーム刃が掠(かす)め……いや、まだだ! まだ終わらんよ!


それでも必死に、奴の刺突に合わせ右薙一閃。奴のサーベルを払いながら、すぐさま刃をかざし防御。

逆手に持たれたナイフを受け止め、つばぜり合い……これは、押し返せない……!


『貴様はメイジンにふさわしくない』


フリオ・レナートは、こちらに嘲笑を送ってくる。


『それを世界中に見せつけてやるよ……俺達の戦争でな』

「戦争だと」


……ナイフの押し込みを何とか流し、下がったところで。


『そう』


奴がリアスカートに残った、もう一本のサーベルを取り出し、発振。

すると瞬間的に連続突きが襲い、胸部や残った左肩アーマー、右太もも――合計六か所が貫かれる。


『貴様らのような、平和ボケした甘ちゃんにはできない』


それでも距離を取り、奴と向き合いながらのスラローム。

角を左・右・右・左と曲がったところで、七時方向から光条が走る。

これは、例の自走砲……ビームを何とか飛び越えると、K9がこちらに肉薄。


また放たれる連続突きに対し、右足を上げて防御。

足底で刃を受け止め、その軌道を逸(そ)らす。


当然刃は貫いてくるが、接触箇所は足先……これならば。


『本物の戦いだ――!』


……だがそこで、突如右膝(しつ)関節が砕け散る。


「な……!」

「なんだと!」


結果逸(そ)れたはず……訂正。

逸(そ)れていたはずの軌道は、元のまま直進。ケンプファーの胴体部を貫通する。

咄嗟(とっさ)にスウェーを取り、動力部への直撃だけはさけた……だが、ただそれだけ。


衝撃から吹き飛びながらも、何とか左足で着地……が、今度は左膝(しつ)関節が、衝撃に耐えきれず粉砕。


そのままケンプファーはあお向けに倒れ、ついには歩くことすらできなくなった。


「馬鹿な……これは」

「アラン」

「PPSE社の……いや、僕の全てを賭けたガンプラが、負ける? こんな」

「アラン!」


アランは僕の一喝でハッとし、すぐさま行動開始。


「すまない……!」

「今の破損、ただ事ではなかった」

「あぁ……まさか……まさか奴らは……!」


そうして出てきた結論に、怖気(おぞけ)が立った。

……関節部<ABS>はサーフェイサーも含む、塗装一式でコーティングされていた。

だから仕掛けられた爆弾を振り払った……そう思っていた。


「あの爆弾には、もう一つ仕掛けがあったわけか」

「たとえ外されても、ガンプラを蝕(むしば)む<毒>……それは」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ラッカー溶剤!?」

「えぇ。それが爆発によってまき散らされ、ボディの塗装や関節部を浸食。それゆえに出力が低下していたんです。しかもABSですから」

「えーびー……」


慌ててメモ帳を取り出し、ぱらぱらと確認。イオリくんが、訓練するときに教えてくれた。


――ABSは溶剤の浸透に弱く、破損する場合がある。
ただそれは既存のプラスチックにもある弱点なので、ある程度の注意で対応可能――

「これだ……!」


対応については、一気に塗らないとか……サーフェイサーでコーティングするとか、いろいろ教えてもらった。

でもそれなら、ユウキ会長達だってしていたはず。……それでも通用しない濃度というか、強さってことなの?


「あなたも思ったでしょうけど、彼らならその弱点も踏まえ、きっちり対策はしていたはずです」

「は、はい」

「なのでただのディスプレイモデルであれば、あそこまで見事に壊れないのでしょうけど」

「バトル中で、負荷が最大限かかっていたから……!」

「恐らくはただの溶剤ではなく、粒子にも反応するよう調整したもの。……詰みましたわね」


これは、わたしも反論できない……武装を尽く潰され、ついには立てなくなって。


「……セシリアさん」

「はい」

「あの人達が強いのは、分かりました。なら……わたし達は」


そうだ、落ち着け。今のわたしは何? セシリア・オルコットのセコンドだよ。

だから、次に備えなきゃいけない。あの人達が勝つなら、わたし達が戦う可能性だってある。


だから聞いた。これだけやらかしたなら、もう手は読める。それなら対応できるんじゃ……と思ったんだけど。


「それが問題です……もしかすると、対応しきれない可能性が」

「え……!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さすがに詰んでいる……諦めの悪い僕でも、そう言いたくなる状況だった。

これでブースターでも使えればいいが、残念ながらケンプファーアメイジングには、その手の機能がない。


「くそ……!」

「アラン」


彼らは完璧なように見えて、幾つものミスを犯している。


「人には運命というものがある」


一つ、最初に自走砲で狙撃を試みたとき、外してしまったこと。

あの時点であれば、自走砲は完全に想定外……やられるのも必然だった。


「筋書きのないドラマがある」


二つ、EXAM<エグザム>の出力が継続中なのに、舌なめずりするように近づいてくること。

的確に、自走砲で……ケンプファーを撃ち抜けばいいものを。


「しかしこれは」


そして三つ――いや、総合的な理由としては。


「必然だ!」


あお向けのまま、スラスターを吹かせて直進。

両足を失い、地面を削り……不格好のまま一気に駆け抜ける。

残り百メートルという距離を、瞬間的に駆け抜ける……目指すは噴水。


噴水の縁に激突し、ケンプファーのボディは跳ね上がり、バク転。そのまま噴水中心部のモニュメントをなぎ倒し、着水する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「マジックというのはタネがある。それを見抜けば、対処できる……そう思いがちだけど」


右指を鳴らし、つい笑っちゃう。


「見せたマジック自体が、また別の布石<タネ>になる。一流のマジシャンは、そうして連鎖を作るものだ」

「つまりアレ? こう来ると分かっている……疑う気持ちが、また別の罠への布石になる」

「現にタツヤ達はハマったでしょ」

「確かにね」


爆弾を外すことに捕らわれ、爆発への影響からは逃れられなかった。それは厳しいようだけど……タツヤ達のミスだ。

だから言ったでしょ、僕達より強いって――そこにEXAM<エグザム>での直接攻撃が加わったら、さすがに辛(つら)いわ。


「でも」


そう、でも……歌唄は腕組みしながら、<タツヤが目指そうとしたもの>を見る。


「タツヤもマジックは使える」

「うん」

「ほしなさん、プロデューサーさん、それって」

「すぐ分かるよ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「往生際が悪いなぁ、メイジンさんよぉ」


全くだ……まともに飛ぶこともできない状態で、一体何を……!?


「フリオ、避けろぉ!」

「へ?」


咄嗟(とっさ)に気づいたことは、行幸だろう……だが遅かった。

噴水が破損したことで生まれた、水しぶきと煙……その中から、マズルフラッシュが閃(ひらめ)く。

次の瞬間、K9に鋭い衝撃が走る……弾丸が次々と着弾していた。


煙が晴れる中、ケンプファーアメイジングが放つ弾丸を、逃げることもできず食らっていく。

一発一発が衝撃を伴い、回避行動を押さえつける。襲いくるは徹甲弾の嵐。

こちらの装甲を貫けないのなら、貫けるまで撃ち続ける。そう、銃身が焼き付くまで――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「これは……!」

「嘘、なんで!? 何アレー!」


千早が、りんが仰天し、ともみも指差しして口をパクパク。

敗戦モードを一蹴する逆転劇に、装甲を穿(うが)たれ、震え続けるK9に、誰もが目を見張る。


「自走砲が狙撃を失敗したとき、ケンプファーアメイジングが落としたものだ」

「あの、ウェポンバインダー!? じゃあ」

「そうよ……アイツは逃げながら、あの広場まで誘導していたの」

「とっとととどめを刺していれば良かったのにー」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


それは、ほぼ同時だった。

奴が弾を撃ちきり、多重砲身がからからと空回りを始めるのも。

K9が蜂の巣にされ、瓦解し……爆散するのも。


「マジ、かよ……!」


フリオは声を震わせ、さっきまでの余裕をなくす。


「コンテナのある場所まで、俺らを誘導していた……!?」


ミスディレクション――マジシャンが行う、基本テクニック。

目立つアクションで観客の目を引きつけつつ、本命のタネを仕込み、発動。

今の反撃が本命とするなら、俺らは引きつけられていたわけだ。


奴が仕掛けたマジックに……劣勢という、見せかけのアクションに……!


「まだだ!」


フリオを叱咤(しった)し、ハウンドを走らせる。


「まだハウンドがある!」


ハウンドは路上に降りて、直進しながらもビーム発射。

奴はもう、武装を使い切った……そう思っていた……思いたかった。

こんなところで終わりたくない、終われない。俺達はまだ。


『認めよう』


だが奴は、上半身だけで左にローリング。撃ち抜かれるガトリングを捨て置き、あるものを取って構えた。


『君達の戦争もまた、遊び<ガンプラバトル>だ』

「ライフル……!」


そうか、落としたのはバインダーだけでなく……まさかあれも、偶然ではない……!?


『だが』


当然フリオは、回避しようと飛び上がる。しかし奴の銃口は、その先へ向けられ。


『作り込みが甘い!』


光条は放たれる。K9は……俺達は……奴の罠に、自ら飛び込んでいき。


「――カワグチィィィィィィィィィ!」


鉄拳制裁の如(ごと)き、鮮烈な輝きに貫かれた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そう、彼らの敗因は、『戦争』への作り込みが甘いこと。

もし彼らがもっと作り込んでいれば、この勝利はなかっただろう。


≪――BATTLE END≫


爆発する自走砲を見送り、バトル終了……わき起こる歓声に応えるのは、後にするとして。


「あ、兄貴……」

「こんなところで、終わるのかよ……」


ぼう然としながら俯(うつむ)く、レナート兄弟へと近づく。


「俺達兄弟の、戦争が……!」

「終わりはしない」


だからこそ、彼らにエールを送る。彼らの遊びに追い込まれながらも、魅入られた宿敵<ファン>として。


「君達がガンプラを、バトルを好きでいる限り……終わりも、限界もない」


……二人はぼう然としながらも顔を見合わせ、笑う。

自嘲しながらも、乱れたネクタイと髪型を正し、背を向ける。


無論ジムスナイパーK9も回収した上でだ。その手つきは、愛機への慈愛に満ちていた。


「じゃあな、三代目」

「来年こそ……この借りを返す」

「来年と言わず、いつでも……何度でも、挑戦してくるといい」

「その言葉、すぐ後悔させてやる」

「楽しみにしている」


立ち去っていく彼らを見送り、今度は私が自嘲する番。振り返り、ベース上のケンプファーアメイジングを見やる。


「……ありがとう、カワグチ……君がいなければ、この勝負は勝てなかった」

「私は憤っている」


アランと握手する気にもなれず、傷ついた機体を……ただ、ひたすらに申し訳なくて。


「機体をここまで傷つけてしまった。……メイジン失格だな」

「……現在進行形なんだよ、ボク達は」


未(いま)だ頂きは遠く――しかし、だからこそ目指す価値がある。

アランに背中を押され、気持ちを改めた上で……頑張ってくれた愛機を回収する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


メイジン・カワグチですらぎりぎりの勝利……やはり最終トーナメント、一筋縄ではいかないようだ。

なればこそ、襟を正して明日の勝負に挑む。そう思っていると。


「ニルス・ニールセン君」


……廊下を歩くボクの前に、ベイカー女史が登場。恭しく一礼を送る。


「少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」


……食いついてきた……!

ほほ笑みながらもそれを了承し、スタジアム内のとある一室に。

応接室らしいそこで、改めて彼女と向かい合う。


「単刀直入に言います」


彼女はボクの向かい側に座って、タブレットを差し出す。それを受け取り、中身をチェック。

……予想通りというべきもので……それは契約書面と、交わした場合の報酬を示すものだった。


「我がPPSEはあなた<ニルス・ニールセン>の個人スポンサーをさせていただく、その用意があります。
ガンプラ製作のための資材、最新鋭の工作室、優秀なサポートメンバー、それらを無償で提供――」

「待ってください」


彼女がまくし立てるので、右手で制する。


「一つ、ボクの個人スポンサーには、ヤジマ商事が付いています。二つ、PPSEにはワークスチームの三代目メイジン・カワグチが」

「会長のマシタはガンプラバトルをより広めるため、優秀な人材を幅広くサポートすることを望んでおります。
あなたが我々のスポンサードを引き受けてくださっても、見返りは求めません」

「無論、ヤジマ商事とも良好な関係を維持して構わない、と」

「そう……同様に、御迷惑をおかけするつもりもありません」


メイジンが今日、負けかけたこととは関係なく、か。彼女がまともな人間であれば、嬉(うれ)しい限りだが。

……引っかかるのは、見返りがいらない……だ。PPSE社の動きは、以前のイースター社が如(ごと)く貪欲(どんよく)。

自らの利益を優先している節がある。つまり、そうまでしてボクを取り込みたい意図がある。


「いかがでしょうか」

「光栄です。ボクのことを、そんなにも評価していただいて」

「では」

「ヤジマ商事とも相談の上になりますが、ボクでよければ」


一瞬鋭くなった眼光を流しつつ、そう返すと……彼女は温和な笑みを深くした。


「ありがとうございます。では、早速我が社のラボに」

「いえ、それには及びません。……僕の戦国アストレイは、これ以上手を加える必要がないほど、完璧に仕上がっていますので。
ですが……一つだけ、PPSE社にお願いしたいことがあります」

「何でしょう」

「ガンプラのバトルシステム――プラフスキー粒子発生装置の製造工場。そこを見学させていただけますか?」


……そこで、彼女の目に冷たいものが走った。やはり触れられたくないことらしいな、これは。


「理由を、聞かせていただいても」

「粒子の製造過程を理解すれば、ガンプラとプラフスキー粒子のマッチングは、飛躍的に高まります」

「つまり、あなたの戦国アストレイは」

「ボクはビルドファイターではなく、粒子学者の観点から、あの機体を作り上げましたから」


ベイカー女史はほほ笑みを崩さないが、目的については察したらしい。

ほほ笑みは崩さず、瞳に冷たいものを宿したまま、一考する。


「……分かりました。見学の許可を得るよう、上層部に掛け合ってみます」

「ありがとうございます」

「ただし、条件が二つ。一つ……こちらの守秘義務は遵守していただきます」

「無論です」


それについては覚悟していたし、無理矢理(やり)な機密開示も趣味ではない。

……反粒子の結合が、プラフスキー粒子の骨子だからな。

下手に生成方法が広まれば、各所で<粒子災害>と言える……極めて危険な事故が起きかねない。


今ではなく、十年……二十年……三十年後を見据えての行動だ。目的を達成するためには、我慢も必要だろう。


「二つ、許可が下りるまで、多少の時間が必要かと思われます。……見学は次の第二試合が終わってからで、いかがでしょう」

「分かりました。ではこちらもその間に、ヤジマ商事との相談を進めます」

「よろしくお願いします」


そうして僕達は立ち上がり、静かに握手――表面上だけ穏便に済ませ、この場を去った。


改めて選手村へ戻りながら、彼女の言動を振り返っていく。……粒子生成に秘密があるのは確定。

となれば、一番引っかかるのは条件か。第二試合の後で……時間がかかるとは言ったが、試合は明日だぞ?

何か理由が……あるじゃないか。


レイジ――レイジ少年。

マシタ会長はあの少年を恐れていた。プラフスキー粒子の秘密を握っている、そう言わんばかりの様子だった。

工場見学を第二試合の後に設定したのは……この状況から推理すると、彼らの敗退を望んでいる?


ここでボクに近づいたのはそのためか。現にベイカー女史は、早急な支援をと焦っていた。

そうなるとボクが勝ったとしても、工場見学の件は流されるな。しょせんは口約束、どうとにでもなる。

ベイカー女史が何者かと連絡していた件を……いや、それではこちらが不利になる。


ならばいっそ――。


「……考え込んでるねー」


そこで後ろから声をかけられる。ハッとしながら振り返ると、小学生くらいにしか見えない、小さな女の子がいた。

だぼっとした文字入りTシャツに、髪を二つお下げにした……そうか。


ここは、彼女の国でもあったな……!


「アンズ!」

「やっほー。あ、世界大会出場、おめでとう」

「今更ですよ!」


彼女へ駆け寄り、しっかりと握手を交わす。


「久しぶりです!」

「ん」


彼女はフタバ・アンズ――ボクの両親と、彼女の両親は……そこで後ろから怒気。

仕方ないので アンズとの握手は解除した上で、伸びる手を掴(つか)んで捻(ひね)り上げる。


「いだだだだだだだだだだだだー! ギブギブギブギブー!」

「……ミスキャロライン、人の首根っこをいきなり掴(つか)もうとしないでください」

「ギブって言ってますのにー!」


呆(あき)れながらも手を離すと、なぜかここにいるミスキャロラインは一歩引く。

その上でアンズに敵意を回し、震える右手で指差し。


「そ、それよりどうしてあなたが、杏と一緒にいますの!」

「やっほー、キャロ」

「キャロラインです! ヤジマ……キャロラインー!?」


……なんだ、知り合いだったのか。そうかそうか……双葉家の仕事柄を考えれば、ヤジマ商事とのパイプがあってもおかしくない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


妙な縁を感じながらも、一緒に会場を出て、日差しの傾いた道を歩く。そうしながら、簡単にボクとアンズの関係を説明。


「杏の両親と、ニルスのお父さん達は仕事柄付き合いがあってね。ようはキャロと知り合ったのと同じ感じ」

「あぁ、それで……ならニルスさん、ちょっと言ってあげてくださいな」

「というと」

「この子、留学して飛び級もできるのに、わざわざアイドルなんて始めたんですの」

「アイドル!?」

「しかも大人気! 346プロのCANDY ISLANDってユニットでデビューしていて……能力の持ち腐れです!」


仰天すると、左隣のアンズは自慢げに胸を張る。彼女が、アイドル……!

基本自堕落で、『明日本気出す』を地で行く彼女が……しかもそれで、本気を出せるから腹が立つのなんのって。


そんな彼女がなぜ、勤勉さを求められるであろう、アイドル業界に……!


「というか、知りませんでしたの? つい先日もライブに出ていましたのに」

「まーた部屋にこもってガリ勉してたんでしょ。だからお父さんにも、視野を広げろって言われるんだよ」

「……部屋にこもってゲームしまくりの君にだけは、言われたくありません。でもどうして」

「ネオニートになろうと思って」

「「うわぁ……」」


ストレートかつ彼女らしい理由に、ついミスキャロライン共々どん引き。

……それで彼女とも一気に親友となったようで、ついお互い顔を見合わせ、苦笑してしまう。


「まさかアンズ、それを公言は」

「していますのよ……堂々と! ファンの前でも! そんなキャラをテーマにした、ソロ曲まで用意されて!」

「杏は働きたくないのにー」

「うわぁ……」


それで大人気? 日本(にほん)の男子は、あれなのだろうか。ニートを養いたいとか、そういう欲望があるのだろうか。

無論『結婚したら、相手には主婦業に専念してほしい』とか、そういうのとは違うだろう。


なにせ専業主婦は働いている。毎日、懸命に働いている。

お給金をもらえるなら、一般的なサラリーマンレベルだと言われるほどに。


「君がここにいるのは分かりましたが、ミスキャロラインはどうして」

「あら……彼氏の応援に、きてはいけませんの?」


――その言葉で。


「――」


その満面な笑みで。


「――」


三秒ほど頭が真っ白になり、足が止まる。


「――!」


だが意味を理解し、ミスキャロラインから離れながら、自分を指差し。


「彼氏ぃ!? 彼氏って……ボクがですかぁ!」

「わーお。ニルス、いつからプレイボーイに」

「なってませんよ! そんな要素がどこに!? 一体どこにぃ!」

「決まっていますわ! あなたはパパのスポンサードを受けている――パパのものは私のもの。
つまりあなたは、私のものですわぁ!」

「その計算式は間違っています! 道理にも、理屈にも合いません!」

「ニルス」


アンズ、背中を叩(たた)かないでください……その、曖昧な笑みはやめてください。腹が立ちますので。


「知ってる? 英雄王ギルガメッシュって、人類太古のジャイアンらしいよ」

「その補足が、この状況にどう作用すると言うのですか……!」

「……私が彼女じゃ」


それでミスキャロラインは、ボクに詰め寄り厳しい視線を送る。


「不満ですの?」

「え、あ……」

「不満……ですの?」

「ボ、ボクにはやるべきことがあるので……その、恋愛などはまだ!」

「あなたの邪魔はしません」


やんわり断ろうとすると、彼女は一歩引く。

それに面食らうボクを笑いながら、また歩き出した。


「あなたが今のように……夢を追いかけ、夢中になっている。その姿を見ていたいので」

「え」

「ニルス、覚悟を決めようか。これは逃げられないパターンだ」

「えぇ。わたくし、しつこいですから」


どういう、ことなのだろうか……だが……そうだ、夢には向かっている。

全力で、真っすぐに……ありったけで。あと少しなんだ。

あと少しで、描いていたものに届く。指先だけかもしれないが、触れられる。


今は……決して止まれない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ会長は辛(から)くも勝利した。それに安堵(あんど)する一方で、身が引き締まる……次は僕達だ。

しかも今回の相手は、あのニルス・ニールセン。僕と同年代でありながら、天才的なビルドファイターである彼。

なので選手村へ戻り、自室で改めて彼の各試合をチェック。


……やっぱ見ほれるなー。


「やっぱ凄(すご)いガンプラだよねー、戦国アストレイ! どうやって作ってるんだろー!」

「粒子力学ってやつじゃねぇの? それで偉い資格とか、たくさん取ってるんだよな」

「まぁね」


ビームを切り裂く刀。

アメリカ大会で見せた、謎の攻撃。


それらのダイジェストを見ながら、つい渋い顔をする。


「そういう意味でも強敵だよ。彼は僕達普通のビルダーでは思いも付かない、科学的見地からアプローチしているわけで」

「ビームを切り裂く刀も同じくか」

「粒子変容塗料だね。レイジ、タツさんのアプサラスIII、覚えてるよね」

「あぁ」

「ビルドストライクに積んだVPS装甲もそうだけど、それらは防御を念頭に置いた粒子変容技術だ。
でも戦国アストレイの場合、それを攻撃に応用している。……見て」


というわけで、映像をスローモーション……巧みな斬撃に目を奪われがちだけど、ある共通点がある。


「ある一定パターンの攻撃に対して、戦国アストレイは限定された角度での斬撃を打ち込み、切り払っている。
恐らくはビーム粒子の構築波長に合わせてるんだ。……これは斬るというより、弾(はじ)いている……そう言った方がいい」

「アプサラスIIIが、オレ達のビームを防いだみたいにか」

「うん。それでもしかすると……いや、確実に戦国アストレイの表面にも、同じ加工が施されている。つまり」

「ビーム攻撃は、決定打にならない。つーことは」


レイジは右拳を上げ、ぎゅっと握り締める。


「RGシステムVer2.0と、ビルドナックルの出番だな!」

「うん。ただ、そうなると……ワルキューレを粉砕した攻撃と、まともに打ち合う可能性が」

「あー、そっか。さすがに使わず負けるとか、あり得ないよな」

「さすがにないよ。……これだけ凄(すご)いガンプラを作れるんだ。ニルス・ニールセン君もガンプラが好きで、相当努力したに違いない」


だから戦国アストレイは、あんなにも輝いている。その輝きに何度も……何度も見入ってしまって、表情が緩む。


「そんな子が、そんな負け方をするなんて……あり得ない」

「だな。そうすると、攻撃の正体を掴(つか)むのが大事か」

「大分分かってきたねー」

「ユウキ・タツヤの野郎も、それで命拾いしたからな。しっかし」


レイジは頭をかきながら、映像を巻き戻し――月面での戦いをもう一度チェック。


「分からねぇよなぁ。どう見ても苦し紛れに殴ったようにしか……RGシステムとは違うんだよな」

「確かにアストレイもその構造上、フルフレーム機体ではあるよ? でもこれは明確に違うよ。
まるでワルキューレを中心に、大爆発が起きたような」

「だよなぁ。……分からないと言えばよ」

「うん」

「チナ、なんでセシリアのセコンドになってんだ?」


……レイジ、それを僕に聞かないでよ。言ったでしょ、聞いてないって……知らないって。


「ただ一つ言えるのは、セシリアさんなりに考えがあること」

「甘やかす女じゃねぇしなぁ。つーことは、チナはこれから地獄か」

「求められる水準までは、叩(たた)かれる……う、頭が」

「オレもだ……!」


女子限定バトルトーナメント後の再修行……その壮絶さを思い出し、つい二人して身震い。

や、やめて……目隠しでキャッチボールとか、無理です。百二十キロの剛速球とか、投げつけないで……!


「で、お前はいいのか」

「いいよ」


刻まれた痛みを振り払い、自然と……自分でもビックリするくらい、そう言い切れた。


「委員長も自分で選んだことだろうし、気にすることはないよ。戦うことになっても」

「いつも通り、正面突破か」

「きっと強敵だろうけどね」


レイジが『違いない』と笑いを返してくれると、部屋のドアがノックされる。

軽く二度……レイジと二人そっちを見て、声をかける。


「はいー!」


でも返事はない。しかもドアの下に、何やら用紙が差し込まれた。

怪訝(けげん)に思いながらドアへ近づき、用紙を拾い上げる。レイジはその間に廊下に出て、周囲を見やった。


「誰もいねぇ……セイ、それは」

「……これ」


どうやらここでは話せないことみたい。だから……呼び出しだよ。

しかもその相手が相手なので、レイジも目を見張る。


差出人は、ニルス・ニールセン――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


展望ラウンジ――今日もまた、キララちゃんと飲みだぁぁぁぁぁぁぁ!

ははははは、俺は世界の勝利者だぁ! 今ならヤスフミへの嫉妬も消えてしまいそうだぁ!

あぁ、嫉妬してるぜ……鉄血のオルフェンズで、ファイターとして絡めるんだからなぁ!


「……蒼凪恭文……出世してるわよねー」


隣のキララちゃんは、早速発表された……ヤスフミの大躍進にほほ笑みを送る。


「あぁ。くそ……俺も、バルバトスが使いてぇ」

「フェニーチェはどうしたのよ」

「無論相棒はフェニーチェだが、違うプラモを作るのもエッセンスになる」


ようは一直線過ぎても駄目ってことだ。視野を広げて、いろんなものを取り込む度量――。

それが愛機をより強く輝かせる。だからまぁ、フェニーチェには許してもらっているわけで。


「でも何だろう。バルバトスって悪魔の名前よね」

「あぁ。ソロモン七十二柱の魔神……そのうちの一柱で、三十の軍団を率いる序列八番の公爵」


カクテルを飲みながら、中二時代に培った知識を軽く披露。


「魔術師の隠し財宝、その在り処(か)を認識。動物の言葉を理解するなど、悪魔らしからぬ善の能力を有する。
過去と未来をよく知り、友情を回復する力を持つとも言うな」

「……それでガンダムフレームは、設定だと七十二体……今から、嫌な予感しかしないわ」

「ラスボス、ソロモンじゃね?」


というか、ヤスフミがバルバトス……チョマーのバトルくらいしか、動いている印象はない。今のところはな?

だがこのタイミングでいきなり抜てきだし、相当シンクロするものがあったんだろ。


……まさかとは思うが、エグい戦い方とかしないよな? ヤスフミもその辺り、手段を選ばないしよ。


「そんなおチビちゃんの試合は明後日(あさって)……ヤサカ・マオ君とか」

「まずは明日。セイとレイジ、ニルス・ニールセンの試合だがな」

「見ないわけにはいかないって感じ? あなたの相手は、あのアイラ・ユルキアイネンなのに」

「もちろん」


俺自身の準備もあるが、それでも見るさ。ファイターとしても、個人としても、興味が引かれまくりなカードだ。


「つーか……ニルス・ニールセンについては、まだ本気を出していない。
あの刀は粒子変容塗料による、エネルギー兵器へのアンブロッカブルだと分かるが」

「問題はアメリカ決勝戦で見せた、トールギスワルキューレへの破砕ね。……あれ、どうなってんだろー」


キララちゃんも興味はあるが、分からないというクチらしい。軽く背を後ろに逸(そ)らしながら……おぉ!

なんとたわわなバストがアピール! だがガン見はいけない……俺は紳士的にいくのさ、ベイベー。


「苦し紛れに、補助アームで殴ったようにしか見えないのよ。シャイニングフィンガーってわけでもないし」

「確かにな。レイジ達もRGシステムVer2.0があるとはいえ、油断していい相手じゃない」

「どっちが勝つと思う?」

「決まっている――気持ちの強い方さ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


決戦は明日――。

なのに選手村近くの公園に、ボクは佇(たたず)んでいた。

街灯の明かりに照らされ、待ち人を待つ。


今ボクが取るべき選択は決まっている。目的に、最短かつ最速で近づける選択は――。


「……お呼びだてしてすみません」


待ち人は来てくれたようだ。

三時方向を見ると、怪訝(けげん)そうな二人が、街灯の輝きに照らされる。


「ミスター・イオリ、ミスター・レイジ」

「セイでいいよ、ニルス君」

「オレも、レイジでいいぜ」

「分かりました」

「あの、それで……用って何かな」


そう、用件は何一つ伝えていない。ただ会って、話がしたい……それだけを言葉にしている。

だから彼は戸惑い気味というか、周囲を警戒するように見渡す。


「僕らは対戦するし、こんな所で会ってるのを見られたら、いろいろまずいんじゃ……」

「レイジ君、あなたはプラフスキー粒子がどのような特性を持っているか、知っていますか?」

「は? ガンプラを動かすもんだろ」

「どうやって粒子が作られているかは」

「オレが知るわけねぇだろ」

「なら思い出してください」

「お前、何を言ってんだ」


彼の目に嘘はない。なら、知らないというのは間違いないだろう。

つまり……彼は忘れているんだ。


「プラフスキー粒子……いえ、マシタ会長のことを」

「ま、待って! どういうこと!? レイジ、マシタ会長とは」

「知り合いでもなんでもねぇよ。あんなへっぴり腰の親父」

「そう、あなたは覚えていない……恐らく歯牙にもかけないほど、”彼”との立場は明確に違うのでしょう。だが」

「マシタ会長は違う」


……そこで第三の声……後ろを見ると、ジャージ姿の恭文さんがいた。

なおその後ろには、見慣れない女性。栗(くり)髪ロングに、ヘアバンド……しゅごキャラを連れている?


「恭文さん!」

「ディード、ベル、お前らなんで……あぁ、トレーニングか何かか?」

「はい。そうしたら、声が聞こえたので」

「も、もしかしてシリアスかなー。旦那様ー」


ベルと呼ばれたしゅごキャラは、おろおろしながら恭文さんに近づく。

……なるほど、これは……まぁハーレムもアリだろう。この人の場合、逃げ場がないし。


「悪いね、ニルス……その辺りの話、僕もするつもりだったんだよ。……ちょっと待って」


恭文さんは両手で素早く印を組む。するとそれだけで、辺りから生物の気配が消え去った。


「恭文さん……え、今のは」

「忍術で人払いの結界を張った」

「「忍術ぅ!?」」

「おい、それってアニメで見たぞ! 分身とか、影を伸ばすのとか……お前、使えるのかよ!」

「だって僕、忍者に憧れて、リアル忍者資格を取ったんだよ?」

「……長年の、修行の成果が実ったんです」


ディードと呼ばれた、女性の補足で一応は納得……できるかぁ! この人、より非常識になっているなぁ!

あぁ……ミスキャロラインといい、アンズといい、どうしてこう僕の周りは非常識が集まっていくんだ!


「あれ……ちょっと待って! ニルス君、恭文さんと知り合いなの!?」

「え、えぇ。父が関わった事件に、たまたま巻き込まれたのが縁で……では恭文さん」

「レイジ、多分だけどマシタ会長は……<アリアン>の人間だ」

「何だと!」

「恭文さん、それは」

「レイジの地元。なんでもレイジ、王子らしいのよ」


あぁ、なるほど……つまり彼は平民か何かで、その聞き覚えのない国で暮らしていた。

そこからもたらされたのがプラフスキー粒子ということか? それならまだ納得できる。


「ちょ、待ってくださいよ! アリアンって、レイジが勝手に言っている異世界ですよ!?」

「異世界!?」

「うん! そんなのあるわけが」

「あるよ」

「「え」」

「アリアンの存在は知らなかったけど」


ついイオリ・セイと声を合わせる中、恭文さんとヒカリ達は、自慢げに胸を張る。

あ、そうだった。確か彼と……相棒のデバイスである、アルトアイゼンは。


「僕自身異世界やパラレルワールドの類いには、何度か足を運んだことがある」

「はいー!?」

「……それは、ボクも初耳なのですが……!」

「僕もいろいろあったのよ」

「はい……いろいろ、あったんです」


ディードさんまで念押しするのか……! ということは、彼女も次元世界については知っているんだな。

だがそれを異世界としても、パラレルワールドとはなんだ……いや、冷静になるんだ!


頭を抱えながら、必死に入ってきた情報を整理。

とにかく、必要最小限の部分だけ、理解していこう……!


「つまり……こういうことですか。マシタ会長はその、アリアンという異世界からやってきた存在。
同時にプラフスキー粒子の精製方法……その源流がもたらされ、そこからガンプラバトルが発展した」

「そう。……レイジ、気づかなかった? マシタ会長はへっぴり腰じゃない」

「は?」

「ずっと、おのれに……おのれだけに怯(おび)えていたんだよ」


恭文さんの指差しで、レイジ君に視線が集まる。


「僕達が屋敷に乗り込んだとき、ずーっとだ」

≪しかもそのとき、私がサーチしたら……あなたやセイさんが身につけている、その青い宝石と同じものが引っかかりました≫


宝石……あぁ、彼が付けているあの腕輪か。今ちょうど、彼とセイ君も注目している。


「アルトアイゼン、それは」

≪ニルスさんの御推察通り、サーチしても詳細不明……少なくとも、地球上の物質じゃありません≫


同時に次元世界の物質でもない。それなら、アルトアイゼンが理解できるはずだ。


≪同時に高純度のエネルギーも秘めているの。爆発とかが起きるような感じではないけど≫

「だからこそ、お兄様もピンときたんです……彼はあなたを恐れるくらい、『何か』を知っていると」


シオンが髪をかき上げながら、僕達に断言。……それで僕も、ようやく状況に追いついていく。


「察するに彼がこの世界へやってきたのは、アリアンでは違法なこと……王子である君が処断しにきたとか、そう思うくらいには」

「おいおい、そんなのオレは知らねぇぞ! この世界に来たのだって、全くの偶然なんだぞ!」

「ちょ、待ってよ! 異世界とか、アリアンって……本気で言ってるの!? みんな!」

≪「「「当たり前でしょ」」」≫

「断言しないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そんなの非科学的だから! あり得ないから!」

「ですがセイさん、しゅごキャラの存在も非科学的ですが……いますよ?」


ディード女史のツッコみにより、彼は混乱しながらも崩れ落ちる。


「そうだよー。ベルはディードちゃんのしゅごキャラだし、ヒカリちゃん達は旦那様のしゅごキャラー」

「……ベル、やめとけ。セイの言うことも正しい……正しいんだよ」

「ショウタロス先輩、ならば今すぐ焼きそばを買ってきてください」

「超特急で頼むぞ」

「どういう流れだぁ! つーかもう、店は閉まってるだろ!」


……そう言えばこの子達も、十分ファンタジーだった。身近すぎて忘れそうになるが。


「でだ、重要なのは……おのれらへの妨害と思われる、数々の騒動。それを起こす『動機』ができちゃうのよ」

「……やはりそうなりますか」

「まさか……あのザクや、Cって野郎を雇ったのは!」

「マシタ会長とベイカー秘書だよ。ただ表に出せる、確実な証拠が取れていない」


つまり、表に出せない形なら、確証もあると。……相変わらずこの人も、我が道を進んでいるなぁ。


「……そうそう、聞いてよー」


かと思うと、その表情が明るく切り替わる。


「僕も協力して、捕まえたCを尋問したらさぁ……アイツ、阿呆(あほう)なのよ! 自分を雇った奴の裏付け調査もしてないの!」

「つまりあの野郎から、マシタ達を捕まえるのは無理なのか?」

「本人の証言からはね。ただ接触した証拠がいろいろ残っているし、そこから洗っている最中」


洗って……もしやあれは……いや、今はいい。とにかく状況は理解できたし、本題に入れる。


「恭文さん、ありがとうございます……大分、不鮮明なものが見えてきました。レイジ君」

「なんだ」

「件(くだん)のベイカー女史から、PPSE社はボクの個人スポンサーになるという……すばらしい話を頂きました」

「それがどうしたんだよ。いや、すげー話なのは、オレでも分かるが」

「君達を倒すために」


なので要点をサクッと伝えると、二人の表情が険しくなる。


「彼女から君達の因縁も、明確に”そうしてほしい”という依頼も受けていません。
ですがこちらに対して、早急な支援の用意はできていた……それも断りましたが」

「つまり、どういうことだ」

「ボクに肩入れして、君達を世界大会から排除する……その真意は、もう言うまでもないでしょう」

「じゃあ本当に、会長やPPSE社の上層部が……馬鹿げてるよ! そんな、異世界だなんて!」

「ではしゅごキャラの存在は」

「それは言わないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


……何だろう。蹲(うずくま)る彼を見ると、悪いことをしている気分になった。


「ボクはPPSE社に対し、粒子の生産工場を見せてほしいと要求しました。しかし……たとえ君達に勝ったとしても、それは通らないでしょう」

「だろうね。いやー、お父さんから頼まれた身としては嬉(うれ)しいよ。ニルスが悪い子にならなくて」

「恐縮です」

「お前、何が言いたい」

「今すぐ、マシタ会長のことを思い出せ――とは言いません。ですが思い出したとき」


……選択は一つ。


「その秘密を教えてくれると、約束できるのなら」


ボクはボクの信念を持って、この道を進む。


「僕は明日のバトルを、棄権します」

「……おい、今なんて言った」

「君達に、勝ちを譲ると言ったんです」


たとえそれが、王道<ガンプラバトル>から背くものであったとしても――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


最初は、ふざけんなって言おうとした。叫んで、一蹴しようとした。

だがアイツの目は、マジだった。何の迷いも、疑いも、微塵(みじん)も感じられない。

オレ達を侮辱するのも全部分かった上で、この道を進むと断言した。


アイツにとって、粒子のことを知るのは……それくらいの価値がある。

その本気に、嘘はない。それだけはよく伝わって。


「……ニルス君、それ……本気で言ってるの?」

「もちろんです」

「……!」


セイが踏みだしかけたので、さっと制する。


「レイジ」

「じゃあ聞かせろ。何のために、この大会に出た」

「PPSEがひた隠しにしている、プラフスキー粒子発生のメカニズムを知るためです」

「そ、そんなことで……選手権に?」


セイの言葉に対し、奴は失笑を送る。


「何が、おかしいの。……信じられない……そんなことで勝ち上がっても、何の価値もないじゃないか!」

「セイ君、君が身につけているシャツ……それを一枚生産するのに、どれだけの燃料が消費されているか、分かりますか」

「話を逸(そ)らさないで!」

「逸(そ)らしていません」

「いいや、逸(そ)らしてる! 大会に出場しているみんなが、どんな思いでガンプラを作り、戦ってるか……君には分からないの!?」

「理解はしますが、共感はしません」


奴の断言に、セイは両拳を握り締め、俯(うつむ)く。


「地球資源の枯渇が叫ばれるようになって、一体何十年が立ちました? ……地球が持たないときが、来ているんです。
しかも東日本(ひがしにほん)大震災の絡みで、原発などの管理も見直されている」

「だから、何の話を」

「夢の話だよ」


そこで脇の雑木林から、知らない声が響く。オレ達が全員ギョッとすると、ヤケにちっこい女が出てきた。


「「杏(アンズ)! ……え?」」

「杏さん!」

「セイ、誰だコイツ……いや、覚えがある! 確かお前、ウヅキ達とステージに出てた!」

「初めまして、レイジ……双葉杏だよ。で、蒼凪プロデューサーやニルスとは顔なじみ」


二人を見やると、うんうんと頷(うなず)きが返ってくる。でも何で……気配とか全く掴(つか)めなかったぞ!


「まさか、恭文さんとも知り合いだったとは……いえ、765プロに出入りしていることを考えれば、当然というか」

「僕もビックリ……ほんとどうして!? 結界を張るとき、周囲の気配も探ったのに!」

「自然と一体化していたから」

「なん……だと……」


ヤスフミは腕利きだってのに、それすらかいくぐったのか……! 恐ろしいな、この世界の人間。


「じゃあ杏、おのれは何をしに」

「カブトムシを捕まえて、一攫千金(いっかくせんきん)を狙っていた」

「時間がおかしくない!?」

「それより夢の話だ。……融和の手も増え、代替エネルギーの研究成果も上がりつつある……だよね、ニルス」

「え、えぇ。しかし、それでも足りないことが考えられる」


そこで奴は瞳の色を変える。それは怒り、嘆き……温和な顔立ちからは想像できない、いら立ちに満ちたものだ。


「先ほど君は、話を逸(そ)らしていると言った……だがそれは勘違いだ。
君が来ている衣服、食事、寝床……生活そのものは、エネルギーの消費によって賄っている」

「もういい」

「人はエネルギーを消費して生きている。いずれ、戦争が起きます。
水を、採掘地を、自然を――少なくなった資源を奪い合う戦争です。ボクはそれを止めたい」

「関係ない話はもういい!」

「そもそも君達がやっているガンプラバトルも、プラフスキー粒子という<エネルギー>があればこそ。
そして世界が平和で、差し当たっての危機もないからこそ、遊びの大会も開けるんです。そう……平和でさえあれば」

「そんなの余所(よそ)でやれよ! ここはガンプラバトルの会場じゃないか!」

「言ったはずですよ。理解はするが、共感はしないと」


セイはそのぶった切りに激高。オレの手を払い、奴へがしがしと詰め寄る。


「真剣に戦っているみんなに失礼じゃないか! 君はあんな凄(すご)いガンプラを作りながら……なんでそれが分からないんだ!」

「君のガンプラ馬鹿な頭にも分かるよう、もっとハッキリと言いましょう。――ボクは世界を救いたい」


妄想に等しい言葉に、セイも唖然(あぜん)。だが奴は、本気だった。


「ニルス、よく言ってたものね。エネルギーの枯渇で……その奪い合いで、平和が崩れるのはおかしい。
だから化石燃料に替わる、新しいエネルギーをいつか作り出してみせるって」

「えぇ。それがボクの夢――ボクの道です」

「違う……君の真剣は、僕らの本気とは違う!」

「えぇ、そうですよ。……それの何が問題なんでしょうか」

「……!」


セイが掴(つか)みかかろうとしたので、改めて押さえ込む。


「レイジ、離して!」

「無駄だ」

「イオリ・セイ、君という人間の醜さに、失望を覚えてしまいました」

「なんだと!」

「まぁいいでしょう。君など相手にする価値もない……そう分かっただけでも、今日の会談には意味がある」


うわぁ、挑発して、明日の勝負を冷静に運ぼうとしてやがる。

その上でアイツが見るのは……やっぱりオレで。


「だがオレ達にも道がある」

「だと思います」

「……だったら何で、持ちかけてきやがった」

「まず実践するのがモットーなので」

「OK……よく分かった」


セイは一旦脇に押しのけ、自分を右親指で指差し。


「欲しいもんがあるなら、自分の力で勝ち取りにこいよ」

「つまり、明日の勝負に勝てば」

「思い出すのにも、全力をかけてやるぜ」

「――いいでしょう」


ニルスはヤスフミに視線を送る。その瞬間また印が組まれ、周囲に気配が戻っていく。

虫の鳴き声や、遠くから聞こえる街の音……いいね、世界が生きてるって感じだ。


「では、これで」

「……ならその勝負、杏ものっかろうかな」


そこでアンズってやつは、ニルスの隣を取り……セイに厳しい視線を送る。


「ニルス、明日のバトル、杏をセコンドにして」

「しかし、それは」

「いいの。友達の夢を手伝うのも楽しそうだし」


セイは本気の敵意を向けられ、戸惑うばかり。


「イオリ・セイの言うことが、全くもって気に食わない」

「杏さん、どうして……」

「杏もニート志望で、いろいろ言われててさぁ。同じ理由でみんな一緒に、仲良しこよしで頑張れとか……嫌いなんだよ」


自分がなぜそこまで……あれ、この流れはちょっと覚えが。


「ありがとうございます。……ではこれで」


アイツらは楽しげに笑いながら、夜の闇に消えていく。


「待て! まだ話は」

「楽しみにしていますよ、レイジ君……君とのバトルを」

「……! 待て、待て……」


セイの言葉を、怒りを、嘆きを、全てを道ばたの小石同然に、捨て置きながら。


「待てぇぇぇぇぇぇ!」


夜の闇を、自ら定めた道を進む。その背中には、確かな信念があって――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


これでよし――余りに予定通りで、つい笑ってしまう。


「ニルス、悪い子になったねー」

「何の話ですか」

「チームのプレーンであるイオリ・セイは、ニルスへの怒りで冷静さをなくす」


……さすがに、アンズには見抜かれるか。いや、それは恭文さんもだろうか。


「彼が地区予選からここまで見せた行動……大人しそうに見えて激情的で一直線。
それゆえに突撃傾向にあるレイジを抑えきれず、状況を悪化させたことが数度」

「そんなイオリ・セイを激高するのも承知の上で、夢の話をしたわけだ」

「当然です」


はっきり言えば、彼はセコンド失格だ。ただファイターに同調し、その後追いをしているにすぎない。

それがイオリ・セイの限界――彼らが断るのは、よく分かっていた。


だからこそ布石を打つ。最短距離は、彼らに勝ち、ボクの本気を突きつけ、協力を約束させること。


「明日の試合、十中八九――デフォルトのスタービルドストライクで飛び出してくる」

「だろうねぇ。でもアリアン、異世界か」

「信じられますか?」

「ないと言い切るより、”あるかもしれない”って言った方が……夢はあるよ?」

「確かに」


さぁ、進もう。ボクの道を――僕の信念が開く未来を。

その先に何が待っているとしても、全て斬り伏せる。ボクはそのために、ここまで進んできたんだ。


(Memory58へ続く)







あとがき


恭文「というわけで、タツヤは何とか勝利し……次はセイ達とニルスの戦い。
そこに同じく天才な杏も加わり、状況は大混乱……セイ達、次で負けるかも」

リイン「あの話はどうするですか!?」

恭文「だよねー」


(交渉に見えて、実は試合前の精神攻撃だった罠)


恭文「というわけで、今年最初の鮮烈な日常です。お相手は蒼凪恭文と」

リイン「リインフォースIIです。……今日はリインと」

恭文「ゆかなさんの誕生日! おめでとうございます! おっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

リイン「……明らかにゆかなさんの方を、優先的に喜んでるです!」

恭文「そんなことはないよ?」

古鉄≪相変わらず悠久の嫁ですからねぇ≫

リイン「リインにも愛を向けるですー!」


(説明しよう。とまとではリインフォースIIの誕生日を、中の人なゆかなさんと同じにしているのだ)


恭文「理由? 忘れないからだよ……僕の誕生日も同じ感じだし」


(説明しよう。作者は人の誕生日とか、名前とか、覚えるのがとても苦手なのだ)


フェイト「というか、私の誕生日設定も同じ理由だよ!?」

恭文「リリカルなのは、明確に誕生日設定があるキャラ、少ないからなぁ。なのはや美由希さん達は、原作ゲームから設定が持ってこられるけど」

フェイト「うんうん! 五月五日ならこどもの日で、伊織ちゃんとも同じ誕生日だから忘れないって!」


(実際、決めてから忘れたことは一度もありません)


フェイト「いいのかなぁ、それで!」

恭文「まぁそんなことはいいか! 今日はゆかなさんの誕生日……そしてリインの誕生日」

リイン「恭文さん、今年も目一杯、リインとラブラブするですよー♪」

恭文「うん」

リイン「それでそれで……武蔵さんには負けないのです!」

恭文「なぜそこで武蔵!?」

リイン「また、どたぷーんなサーヴァントを引いて……リイン、大人ボディにバージョンアップするです!」

フェイト「……ヤスフミ、鉄腕アトムでそういう描写、なかった? あの、気づかれないようにボディを入れ替えて」

恭文「あったなぁ」


(そして蒼い古き鉄は、祝福の風を受け止め、目一杯手を取り合うのだった。
本日のED:リインフォースII(CV:ゆかな)『小さな誓い』)


あむ「……恭文、ちょっと話をしようか。やっぱり胸が大きい人……好きだよね」

恭文「どういうこと!?」

あむ「だって武蔵さん、どたぷーんじゃん! オパーイ補正というか、欲しいって気持ちから引けるんだよ!」

恭文「違うよ! ほら、こういう感想も来てるんだよ!?」


(白野「武蔵召喚おめでとう。
それと、恭文が召喚したサーヴァント達には『結果の為に手段に頓着しない』特性を持ってるのが呼ばれ易いんじゃないかと思ったんだけど。
新撰組しかり、エミヤしかり、切嗣しかり、女神しかり、鬼しかり、天草しかり。
イリヤちゃんは多分完全に無関係とは思うけど」)


恭文「拍手、ありがとうございます。……こういうことなんだよ!」

あむ「た、確かに……でもイリヤはどうして」

恭文「多分ルビーの方だ。あれもアルトと同じで、マスターを弄るのに容赦がない……!」

古鉄≪ルビーさん、また会議をしましょう≫

マジカルルビー『えぇ、そうですねー。イリヤさんを面白おかしくエスコートするには、入念な準備が必要ですしー』

あむ「そっちで引いたの!?」

恭文「それ以外に考えられない!」


(おしまい)






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あきゅろす。
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