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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory56 『ブラッド・ハウンド』

フェイト達がシリアスをやっていた頃、見学組も見学組でシリアス全開。

と言うのも……神妙な顔でやってきた、トウリとイビツのせいなんだが。


「ヤバいッスよ、静岡(しずおか)おでん……毎日、食べたくなる」

「黒はんぺんの中毒性は、どうすれば解消されるんだ……教えて、ダーグ先輩!」

「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


なんだコイツら! 開口一句とんでもないことを言い出しやがって! えぇい、たたき出してやる!

てーかそんなこと言われたら、おでんを食べたくなるだろ! ちょっと店まで突っ走って。


「「まぁそれは冗談として……こちらをどうぞー」」

「うぉい!?」

「貴様ら……その冗談を踏まえて、一体何を見せるつもりだ! おでんの写真か!」

「ですが、黒はんぺんが美味(おい)しいのは同意です……もぐもぐ」


おい、シュテルがいつの間にか食べてる! もぐもぐしてるぞ!


「シュテル、駄目ですー! 真剣なお話なのにー! ……それで、こちらは」


ユーリが小首を傾(かし)げるのは、奴らが展開した空間モニター。

これは、関東圏の地図だよな。それであっちこっちに光点があって。


「結論から言うと、この光点がプラフスキー粒子の工場とされているものッス」

「だな。俺と飛燕の調査でも、そこは絞れた」

「まぁダミーッスけど」

「なんだ、そうだったのか。それにしてはやたらと厳しいセキュリティ」


……納得しかけた自分を恥じ、改めてトウリ達をガン見。


『はぁ!?』

「ど、どういうことですか! ダミーって!」

「こちらを御覧あれ」


戸惑うアミタの声に応えながら、イビツが手元の端末を操作。


「改めて運搬トラックの経由を洗って、気づいたッス」


するとうねるラインが幾つも描かれ、その中を光が通って循環。

工場を通じ、日本(にほん)各所や海外にも粒子は届けられているが……一つ、おかしな点があった。


「……ねぇ、これって」


キリエもその違和感に気づいたからか、前のめりとなる。その上で指差すのは……ラインの中心点。

そう……無数のラインは入り乱れながらも、その全てが『ある場所』を必ず経由していた。


「そう……見ての通り、どのコースでも必ず『ここ』を経由するッス」

「しかもトラックの滞在時間は、各工場での粒子注入・出荷の待ち時間とほぼ同じ」

「さすがに、驚きを禁じ得ませんね」


黒はんぺんを食べきり、シュテルは口元をさっと拭う。


「それでは今世界中で行われているバトル……それに必要な粒子を、たった一つの<工場>で賄っていることになる」

「トウリ、イビツ、お前達はいつ」

「三日前ッス。世界大会の関係で、この手のトラックも出入りが激しいッスよね。それで、もしかしたらと」

「補給のため……だがそれは、差し入れるというよりは”受け取る”ため」

「そう。恐らく『ここ』が」


そう言ってイビツが指差すのは。


「プラフスキー粒子の精製工場だ」

「世界大会の、スタジアム――!」


静岡(しずおか)――世界大会で、各ファイターが凌(しの)ぎを削る舞台だった。

恐らくは地下? だがまともじゃない! そんなの行政が許すはずないだろ!

粒子の工場だぞ! 事故を考えれば、ここに作っていいものじゃない!


つまり秘密工場……いや、そもそも工場であるかどうかも怪しい。……無性に、嫌な予感がし始めた。

その予感は誰もが感じているもので、ユーリに至っては夏だってのに、鳥肌が立っていた。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory56 『ブラッド・ハウンド』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


フェイトとアイリ達も聖夜市へ戻り……でも、ディードは残ったんだよねぇ。

だからこそ、僕と一緒に静岡(しずおか)の町を歩いているわけで。


「でもトオルさん、よく雇ってもらえましたよね。急なお話なのに」

「アイドル業界では今、”ガンプラバトルができるアイドル”の需要が、急激に高まっている。
……ただそれを教えられる環境作りってのが、なかなか難しくてね」

「教えられる人がいないーって言ってたのかなー」

「それもあるし、事務所の資本にも関わる部分だ」


小首を傾(かし)げるベルには、左手でのお手上げポーズを返す。


「ボーカル・ダンス・ビジュアル――アイドルの三本柱とされるものだけど、”これ”はそれから外れる。
でもできるのであれば、大きな仕事にも繋(つな)がる『第四の需要』であるのは間違いない」

≪律子さんの持論ですね。三本柱以外――本人の趣味嗜好(しこう)により特化した要素も、アイドルとしての魅力たり得る≫

「それも改めて証明されてはいるね。千早はもちろん、キララさんもその最も足る例だ。
……これから、この流れはどんどん加速するよ。ガンプラバトルのトレーナー需要もね」

「だからこそ、トオルさんも歓迎されたんですね」

「トオルの指導能力は、卯月の陸戦型ジムで証明できるしね」


そんな話をしながらも、CPが滞在しているホテルに。

フロントを通し、案内された大部屋では。


「むぅ……また負けたー!」

「はーはははははは! まだまだ甘いな、莉嘉! アビゴルの装甲に頼りすぎだ!」

「というか、トオルが強すぎるのー!」

「よーし、次はきらりが頑張っちゃうぞー!」

「あ、てめ! 次はアタシだっつったろうが!」


CPのみんなに囲まれて、トオルとカイラが楽しそうにバトルしていた。

一人混ざっている、つり目・赤髪の女の子が<コシナ・カイラ>。トオルの幼なじみで、ガンプラバトル仲間。

僕やタツヤより先に、マーキュリーレヴを渡されていた一人。そしてトオルが消えたあの日、ストライクを直接託されていた。


親と折り合いが悪かったカイラは、バトルの腕一本で裏界わいを渡り歩き、結果ガンプラ塾へ流れつき、僕達と出会った。

それがあの、エキシビションマッチなんだよ。しかし……また表情が緩んで。


それを近くから見守る武内さん……はそれとして、つい安堵(あんど)の息を吐く。

本当に……大きくなって。こんなに時間がかかるなんて、思わなかったわ。


「楽しそうだねー、僕も混ぜてよ」


そう声をかけながら、右手を挙げる。すると全員がこっちを見て。


「恭文さん!」

「……恭文!」

「久しぶり、トオル」

「あぁ……あぁ! ほんと、お前は聞いていた通り全然変わってないな!」


そう言いながらトオルが早足で近づいてくるので。


「俺の方が、おっきくなっちまったよ!」


躊躇(ためら)いなくトオルにハリセンー! このやろ……人が気にしてることをぉぉぉぉぉぉぉ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


よ、よかったです……身長絡み以外では、暴力沙汰にならなくてー。

ディードさんとも安堵(あんど)し、みんなで二人の再会を温かく見守る。


「いや、ほんと……変わってなくて、安心したよ。けんかっ早いところとか、容赦がないところとか」

「僕のいいところだもの。しかし……おのれ、なんで連絡先すら記載してないの! せめてフリーアドレスとかさぁ!」

「それについては、すまん……! カイラからも散々言われたので!」

「そう、じゃあ僕も言っておこう」

「アタシからも改めてだな……この馬鹿ぁ!」

「鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


あははははは……まぁ、お怒りになるのも分かります。……そこまで深刻じゃないのは、救いだけど。

トオルさん、もしかしたら『それすら難しい生活』だった可能性が、大きくあるわけで。


「で、お父さんは」

「元気にやってるぞ。今は現場監督中だ」

「そう。こっちにはいつまで」

「大会が終わるまでは……と思っていたんだが、武内さん達からいい話をもらってな」

「サツキさんにはこのまま、346プロに来ていただければと」


プロデューサーさんは一歩前に出て、その通りと切り出す。


「慶さんの補佐という形で、ガンプラ制作とバトルの指導スタッフとして」

「実力は問題ないんですよね」

「はい。島村さんの陸戦型ジムもそうですが、ここまでの様子を見て、判断しています」

「トオルもお父さんは」

「問題ない。つーか……働きながらでもいいから、腰を落ち着けて勉強しろってうるさくてなぁ。高校にも通う予定だ」

「そりゃいいことだ」


そう言いながら、恭文さんが立ち上がる。トオルさんとカイラちゃんもそれに合わせて……不敵に笑い合いながら、拳を鳴らす。


「にゃ!? な、何だか険悪……違うにゃ、これは」

「数年ぶりの再会だものね。やっぱり、まずはバトルがしたいのかしら」

「わぁ、なんだかすっごくロックじゃん!」

「莉嘉も見たい見たいー!」

「はい!」

「じゃあそろそろ、どれだけ腕を上げたか見せてもらおう……と言いたいところだが」


そう、言いたいところだけど……ここには一人……いいえ、二人ほど足りない人がいて。


「タツヤがいないしねー。僕達だけでやっても駄目か」

「それなら大丈夫です!」


肩を竦(すく)める恭文さんには、問題なしと笑って返す。左腕の時計を確認して……そろそろですねー。


「卯月?」

「……そうなんだよ。恭文……あの子、やべぇ。やっぱ鬼が住んでる」

「だからどうしてですかぁ!」

「仕方ないんだよ、トオル……卯月の二つ名、知ってる? ド外道の島村だって」

「恭文さんまでなんですかー! 私、そんな二つ名は」


すると、凛ちゃんや未央ちゃん……みんなが一斉に、私から顔を背けた。


「凛ちゃんー! 未央ちゃんー! というかみんなまでー!」

「で、卯月の鬼が今度は何をやったの?」

「鬼じゃありません! ……実はアランさんにもお願いして、サプライズを」

「大会が充電期間なら、できるかもってさ。そうしたら」

「やぁ、待たせて済まない!」


そこで登場するのは、白い制服姿のアランさん。

更にゴンダさんと、黒髪眼鏡メイドなクラモチ・ヤナさん。

それで……慌てた様子の会長も、続々と入ってきた。


「あ……ヤナさん! 久しぶり!」

「はい! トオル様、お久しぶりです!」

「様じゃなくていいよ。もう子どもでもないし」

「はい。……あ、御紹介しますね。こちらはタツヤさんと卯月様の同級生で、ゴンダ・モンタさん。それと」

「アラン・アダムスだ。三代目メイジンの専属ビルダーをさせてもらっている」

「初めまして! お話はかねがね!」

「よろしく!」


駆け寄るみなさんと、トオルさんが次々と握手。……それで、恭文さんとカイラちゃんが厳しい視線を向けてきた。


「卯月……おのれ、いつからそんな気づかい上手に」

「つーかよく引っ張り出せたな」

「頑張りました! プロデューサーさん」

「勉強させてもらいましょう」

「はい!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ゴンダ君とヤナが訪ねてきて、アランにいきなり引っ張り出されたと思ったら……これだよ!

あぁ、でもそうか! 昨日はバトルする余裕なんて、皆無だったからなぁ! すっ飛ばしてたよ!

まぁケンプファーアメイジングの修復と整備も終わっているし、日課のトレーニングもこなしている。


ここからはオフだから、よくはあるんだが……自然と襟首を正し、トオルと対峙(たいじ)する。


「タツヤ」


そこで恭文さんがケースを取り出し、展開。……そこにはザクアメイジングが入っていた。

それも装備・弾薬ともに一式、きっちりと揃(そろ)っている。


そうか……預けていたものを、修理して持ってきてくれたのか。だが僕が来るのは……あ、分かった。

トオルに見せるためだ。ちょうどよかったと言わんばかりに、笑うあの人を見て察する。


「トオル……新型、自信がありそうだな」

「あぁ。メイジン<お前>や専属ビルダーでも、驚くようなガンプラだ。……だが!」


トオルは目をカッと見開き。


「まだ一ミリもできてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「そうか!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「アイディアはあるんだ……アイディアはぁ!」


全力で嘆き始めていた。……まぁそんなことじゃないかと、思っていたよ!

すみません! ザクアメイジングは今回、使わない方向で!


「ただ346プロからもスカウトされたし、ガンプラバトルには復帰するぞ!」

「本当か! というか、スカウト……男性アイドル!?」

「Jupiterに迫るつもりですか、トオルさん!」

「いえ。ガンプラ制作とバトルのトレーナー補佐です」


武内さんから補足を受け、妙な動悸が消える。それでヤナと一緒に、安堵(あんど)のため息。


「というわけで、今日は復帰記念にお前やヤスフミと作ろうと思ってさ」


トオルは脇に置いていたバッグをごそごそ探って、あるものを取り出し、差し出してきた。


「これは……」


HGUC νガンダム――それに、HGUC ドム・トローペン(サンドブラウン)。

あの夏……僕と恭文さんが、作ったガンプラ達だった。


「こいつらを組み立てて、バトルといこうぜ」


僕達が箱を受け取ると、トオルは自分用の……HGCE エールストライクガンダムを取り出す。

更にカイラもにやりと笑って、HGCE ガンダムアストレイ・レッドフレームを取り出す。


「楽しくさ」

「……あぁ!」

「もちろん!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


というわけで、早速作業開始。工具も自前で揃(そろ)えていたので、ぱちぱち……楽しいねー、思い出すねー。


「なんか意外……やっくん、ガンダム系じゃないんだ」

「当時だとドム・トローペンのサンドブラウン、最新キットだったんだよ。だから即買いして」

「これがやたらと強いんだよ。戦闘経験の賜(たまもの)ってやつだけどさぁ」

「会長はνガンダムなんですね」

「あぁ。逆襲のシャアを見て、一目ぼれしてね」


そこからνガンダムヴレイブが生まれ、ガンプラ塾では発展系としてのHi-νヴレイブ……タイムスリップした気分だよ。


パーツを切って、ゲート後を処理して……ドム・トローペンのキット自体は十二年前か。

僕が魔導師になった頃、発売されたものだよ。サンドブラウンはその色変えなんだよ。

そう考えると感慨深い。肩も今みたいな引き出し型じゃないし、肘や足も二重関節じゃない。


でもね……どっしりとしたスタイルが、カッコいいんだよ!

飾ってもいいし、アフターパーツで改造しまくってもいいし! 今でも大好き!


「トオル、パチっと言うまでハメるんだぞ?」

「カイラ、君もだ。……相変わらず不器用で、見てられないというか」

「うっせぇな! これでも塾時代よりはマシになったんだよ!」


なおカイラについては、塾時代同様アランが付きっきりです。こっちもいいコンビになってるよ。


「はいはい、分かってるよ。……だが隙間なく接着するため、ピンを切り飛ばしているからな。むしろパチではなく」


タツヤはABS用瞬間接着剤を使い、間接部などの合わせ目を消していた。


「ムニだ」

「あ、てめ! 素組みだって言ったのに、やる気満々じゃねぇか!」

「そうだよ! そんな細かいところまで消すなんて!」

「僕は何時だって、全身全力がモットーなんだ」


うわぁ、どや顔で笑ってきたよ! さすがにムカつく!


「じゃあ俺は店でもらった、カスタムパーツ<三連キャノン>を使ってやる!」

「それは素組みじゃないだろ!」


トオルはそれならばと、取り出した袋入りパーツを見せつける。

なので僕も……トオルからコッソリ渡されておいた、袋十個をどんと置く。


「なら僕は、トオルが買っておいてくれた、トローペン用アフターパーツで大改造だー!」

「それも素組みじゃありませんよね!」

「合わせ目消しに言われたくないわ!」

「そうだそうだ!」

「く……ならばこちらも、全身全霊だ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「――お兄様ったら。すっかり童心に戻られて」

「正確にはアイツらが……だけどな。もぐもぐ」

「まぁいいじゃねぇか、九年ぶりだ」

「はいー」


シオンちゃん達を両手に載せながら、私も……凛ちゃん達も、わいわいとした様子をほほ笑ましく見つめる。

その間に作業は手早く進んでいく。本当に合わせ目を消して……恭文さんは、間接部などをアフターパーツに置き換えて。

ガンダムマーカーで塗料を出し、面相筆で部分塗装。ガンダム組二人のカメラアイは、シールからの切り出しで精密張り付け。


「みなさんは、本当に仲がいいのですね」


そう言いながらゴンダさんが、静かにコーヒーを配膳……って、いつの間に!


「ありがとう、ゴンダ」

「いえ」


恭文さん達は一旦作業を止めて、それぞれのガンプラや用具を片付け、静かにコーヒーを受け取る。



「九年前からの親友さ! ……まずはカイラと仲良くなって」

「でもアタシが、トオルの親から出入り禁止を食らって……その後、タツヤとヤスフミがトオルと知り合って」

「一緒にいたのは一か月くらいだな。朝から晩までバトル! バトル! バトル! あの夏は楽しかったなー!」

「うん、楽しかった。僕もあの日々があったから、今の自分があると言える」

「僕もだよ。……まさかそこから、因縁がいろいろ広がるとは思ってなかったけど」

「お、カイラとタツヤ、フェイトさんから聞いてるぜ! イースター社とやり合ったそうじゃねぇか!」


はい、イースター社と……。


『やり合った!?』

「それに、いろいろ伝説も作ったんだよな! 核爆弾を解体とか!」

「別に僕だけの成果じゃないよ、仲間も、信頼できる先輩もいたから」

「今度紹介してくれよ!」

「もちろん」


今、私達としては、すっごく気になる情報が出たような……あ、だから歌唄さんと親しくなったんじゃ!


「……俺も、大切に思ってるぜ。あの一か月」


動揺していると、トオルさんが小さく呟(つぶや)いた。コーヒーを静かに飲み……かと思うと明るく笑って、ゴンダさんの背中を叩(たた)く。


「まぁ子どもの頃に作った思い出は、永遠ってわけだよ! 兄ちゃん!」

「なるほど……感動です!」

「……お、アラン、そのカイラが使ってるニッパーって」

「新型の薄刃ニッパーだ。薄型だが刃が欠けない、新技術を応用したものでね」

「なんだよな……すげー切りやすいの! これ、帰りに買うわ!」


そうして、過去からの続きと。


「さっき模型店に入ったら、ジンクスIVが売ってて、すげービックリした」

「今度、ザムドラーグとレガンナーが出るって噂(うわさ)もあるけど」


改めて始める、友達としての時間。

その暖かな空気を、私達はやっぱり、ほほ笑ましく見守り続けて。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今と昔の話を交えながら、部分塗装と工作を終えて――。


「「「「できた!」」」」


並び立つエールストライクガンダム(三連キャノン装備型)。

νガンダム。

アストレイ・レッドフレーム。

ドム・トローペン。


うーん、僕のはアフターパーツで肩引き出し&二重関節化しているからアレとしても。


「ほんと、上手(うま)くなったなぁ……タツヤ。ヤスフミとカイラも、ホビー&ホビーの作例みたいだぞ」

「ありがと」

「君もブランクを感じさせない」

「じゃあ、早速……!」

「「「あぁ!」」」

『ちょっと待ったぁ!』


そこで待ちきれないと言わんばかりに、島村くん達CPメンバーが挙手。

……ヤナ、混じらなくていい。そんな……ぴょんぴょんしなくて、いいから。


「私達も入れてください!」

「もう見てるだけとか、つまらないにゃー! みんな楽しみすぎにゃあ!」

「おー、入れ入れ! 兄ちゃん達、アンタらも入れよ!」

「じ、自分もですか」

「よいのですか、会長!」

「あぁ!」


部屋に設置されたバトルベースに、二十名近くがセッティング。

なお七基接続の大型ベースなので、これだけの人数でも十分楽しめる。


「今日は祭りだ! 派手にやろうぜ!」

『おぉー!』

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Forest≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は小高い丘――見ているだけで、気持ちが晴れるような青空と緑。


再会と新しい一歩を踏み出すバトルとしては、ふさわしい舞台だ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

『サツキ・トオル、ストライクガンダムカスタム!』

『クラモチヤナ! ニャイアガンダムレオーネ!』

『コシナ・カイラ! アストレイ・レッドフレーム!』

『ゴンダ・モンタ! ゴールドスモー!』

『蒼凪恭文! ドム・トローペン!』

「ユウキ・タツヤ――νガンダム!」


みんなと一緒に名乗りを上げながら、アームレイカーを押し込み。


『「出る!」』


バトルフィールドへと一気に飛び出す。するとその途端に、こちらへ飛んでくる影。

これは……トオルのストライク! エールストライカーの可動式スラスターが閃(ひらめ)き、接続された三連キャノンも火を噴く。


「ファンネル!」


九年ぶりだと言うのに、この射撃精度……歴戦のパイロット達とのイメージトレーニングも、欠かしていないということか。

咄嗟(とっさ)にファンネルを三基展開し、バリアを発生させて防御。


……同時に急上昇しつつ左へバレルロール。真下から放たれた、ドム・トローペンの砲撃を回避。


『んにゃろぉ! ほんと上手(うま)くなりやがって!』


ドム・トローペンはラケーテン・バズをこちらに向けながら、地上をホバリング。

ライフル射撃でお返しもするが、容易(たやす)くこちらの先を取り、スラロームだけで回避していく。


『ヤスフミもそうだが、やべー反応してんぞ!』

『頑張れ、トオル!』


そこでカイラとヤナが脇について、こちらに射撃……下がりながらのスラロームで何とか回避するが、この図式は……!


『νのファンネルはHi-νと違って使い捨てだ! 攻めれば勝てる!』

『お、おう……』

『守(まも)りは任せてくださいにゃ! あ、マーキュリーレヴ、使います!?』


揃(そろ)ってトオルの味方か……! くそ、僕一人を痛めつける図式じゃないか、これ!


『会長、御安心ください! 私はいつでも会長の味方です!』

『私もですー!』

「ゴンダ君、島村君!」


ゴンダ君のスモーが、島村君の陸戦型ジムが救援に駆けつけてくれた。あぁ、何と心強いことか……それに比べて。


『頑張れ、トオルー。お前がナンバーワンだー』


棒読み状態で、恭文さんが再度砲撃。すぐに反応して、二発・三発と襲いくる砲弾を何とかかいくぐる。

大改造ビフォーアフターしまくっただけあって、いい攻撃精度だ……避けるので手一杯とは!


『恭文様、単純に数の多い方へついてますよね!』

『ほんとだよ! なんだその棒読み!』


とか言って油断しているところに、ドム・トローペンが反転……容赦なく砲撃を加え、シュツルムファウストも発射。


『『うお、危ね!』』


咄嗟(とっさ)にカイラとトオルは回避するが、ヤナのニャイアガンダムは直撃を食らい、大きく吹き飛ぶ。


『ふにゃあぁぁぁぁぁぁぁ!』

『何してんだ、てめぇ!』

『こうしたらみんな大混乱で、僕が楽しいし』

『想像以上に最低な理由だった!』

「ほんと性根が愉快犯ですね、あなたは!」

『それに』


そう、それに……つい身内だけで固まっていたが、敵はまだたくさんいた。


『『「……!」』』


散開して、外周からの連続射撃&砲撃を反転して回避。

ゴンダ君と島村くんは被弾するものの、Iフィールドとシールド防御の上から。さしたる損傷はなかった。



『島村ぁ!』

『大丈夫です!』

『……そんなふうに固まってたら、やられるよ?』

『みたい……だなぁ!』


警告も込みだったんだな。全くそうは思えないが……さて、こうなると。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『嘘! 今のを避けちゃうの!?』

『……直撃コースだったじゃん、あれ』


飛び込んできたトールギスII(リン)に対処。


普通に斬りかかるのもアリだが……レーダーからの反応を加味し、防御形態に切り替え。

頭部と両肩部の装甲が閉じられ、光波防御帯<アルミューレ・リュミエール>が花開く。


……コマンドアストレイならな! でもこれで、デフォのレッドフレームだった!


仕方ないので、ライフルをバックパック<フライトユニット>にセット。

すぐさまビームサーベルを抜刀し、トールギスIIの斬撃を受け止める。

するとこちらの背後にサンドロック(ミオ)が回り込む。


『もらったぁ!』

「元ガンプラ塾を」


なのでサーベルの出力を上げ、刀身をバースト――。

至近距離で刃が弾(はじ)け、衝撃からトールギスIIが瞬間的に煽(あお)られ、スタン。

その間にフライトユニットと各部スラスターの出力を制御。虚空を噛み締めながら、一回転。


左手でガーベラストレートを、逆手持ちで抜刀。

斬りかかろうとしていたサンドロックに、右のサーベルを。

静止状態から復活したトールギスIIに、ガーベラストレートを向け。


『『……!』』

「舐(な)めるなぁ!」


至近距離での投てき――実体と粒子、二種の刃が音速を超えて飛び、二体の胸部を穿(うが)つ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「お兄様、ドム・トローペンは御機嫌ですね」

「うんうん! やっぱり大改造は正義だー!」


見てよ、この軽快なホバリング……っと、前から莉嘉ちゃんのアビゴルが出てきたか。

更にみりあちゃんのベアッガイと、きらりのダブルオークアンタも。


『ふふふ……やっくん、勝』


とか抜かす莉嘉ちゃんには、先んじてシュツルムファウストをお見舞い。顔面に直撃を食らい、アビゴルがあお向けに倒れる。


『莉嘉ちゃん!?』

『み、みーくんが容赦なしー!』


動揺する二人の足下に、ラケーテン・バズの砲弾二発をお見舞い。

爆発に煽(あお)られ、動きが止まった間に加速。ホバリングの惰性も使い、一気にダブルオークアンタの右サイドを取る。



『む……えぇい!』


惰性を生かしながら、反時計回りに反転。クアンタの右薙一閃をすり抜けながら、再度向き直って……至近距離でバズの一撃。

攻撃直後……胸元へ放たれる弾丸。それを食らって、クアンタは爆散。


『ふぎゃああぁぁぁぁぁぁ!』


その爆発をすり抜けながら、左手でヒートサーベルを抜刀。

キョロキョロしていたベアッガイへ肉薄し。


『え……』


胴体部に左薙の切り抜け。ベアッガイIIを一刀両断にしてから、その場を立ち去る。


「いきなり囲んで不意打ちしておいて、何が勝負なんだか」

「容赦ねぇな、お前!」

「ダーティープレイなら、むしろお前は専門だしなぁ。……次が来たぞ」

「分かってる!」


今度は美波のフォースインパルスと、アーニャのデスティニーインパルスRか。

アーニャの方は白いから、インパルスガンダムブランシェかな? いや、そういう新バージョンが最近登場してるのよ。


フォースが右手の<MA-BAR72 高エネルギービームライフル>を。

ブランシェが背部から<ウルフスベイン長射程ビーム砲塔>を取り出し、構える。


その途端に走る射撃を、右への大回りで回避。即座にラケーテン・バズでのカウンターを……!?


『させません』


即座に下がるも、襲いくる灼熱(しゃくねつ)の斬撃を完全回避できない。

ラケーテン・バズを両断されながら、敵の姿を確認する。


「ディードか」

『勝負です……恭文さん』

「いいよ、こい!」


飛び込む……と思わせて、急速後退。インパルス二基の射撃を回避した上で、飛び込むディードに対処。


ホバリングの惰性を最大に生かし、時計回りの回転斬り。

斬撃と二射目のビームを払い、至近距離でイフリート改に向き直り、今度はこちらから踏み込む。

虚を突かれながらも、イフリート改はすぐさま反応。


二刀でヒートサーベルを受け止めさせ、つばぜり合いに持ち込む。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


ゴンダ君のスモーは、グリモア<武内さん>のフリッカージャブを食らい、派手に地面へと叩(たた)きつけられた。……く。


「ゴンダ君……君の死は無駄にはしない!」

『まだ生きてますよ、会長ー!』


涙を払い、トオルのストライクとドッグファイト。

追いかけ、追い越し……追いかけられ。更に三連キャノンのビット攻撃も、バレルロールとターンを駆使して何とかすり抜け。

驚きだ……グリップが差し込み式なんだが、外れたらそこがスラスターとなり、ビットとして飛び回るんだ! 自由すぎだろ!


更にビット同志が合体し、巨大な手となる。それはストライクの右手と交換する形で接続。


そんなシャイニングフィンガーもどきに対し、サーベルで右薙一閃……あのときとは、逆の攻防を演じることになり。


『……本当』


戦いは続く。


『ガンプラは最高だな』


楽しい時間は、続いていく。


「……あぁ」


空を飛び、大地を這(は)い、木々を駆け抜け、友とのぶつかり合いは続く。


『俺、ガンプラをやってよかったぜ。タツヤやみんなと出会えたんだから』

「……そうだな」

『ガンプラ、最高!』

「あぁ……最高だ!」


二代目……あなたに、伝えたいことができました。

願わくばバトルの中で、直接ぶつけたかった言葉。

でもそれが叶(かな)わないなら、僕は……この大会で証明していきます。


「今までも……そして、これからも!」


燃え上がれ、ガンプラ――と。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


決勝トーナメント・第一試合の組み合わせが発表。

各選手は準備期間へと入り……いよいよ明日、トーナメント開始。

ボクもタツヤ共々、改めてレナート兄弟の試合を確認。


心機一転、気合いも十分。


「君も知っての通り、彼らはここまで目立った選手ではなかった。セシリアは注目していたようだけどね」

「……二代目と似ている、からか」

「正解。それで軽く調べたところ」


注目すべきは二戦……第七・第八ピリオドのバトルだ。


「彼らは二代目のフォロワーとも言うべき存在だ」

「……以前のマクガバン先生達と同じ」

「そう。二代目との対戦経験もあるらしい。まぁそれも納得だよ」


第七ピリオドの爆弾責め、第八ピリオドのアビゴルバイン撃破。

そのどれも、まず勝つことを――倒すことを前提としていた。


「特に不可解なのが、アビゴルバインとの試合だ。幾ら装甲に比べて脆(もろ)いと言っても、ハンドガンの威力で関節部が爆発など」

「ファンネルやビットを使った形跡は」

「ない。……というか、彼らはその手の兵器は使わないと思う」

「根拠は」

「彼らはさっきも言ったように、二代目のフォロワーだ。だが、マクガバン達と完全に同じ……ルールを破ってでも勝つタイプかと言われれば?」


タツヤに話を振ると、少々迷いながらも。


「違うな。彼らの試合には、筋のようなものが見える。信念と言うべきか」


すぐに、彼らの本質に触れてくれた。


「そう……違うんだ。彼らは”戦争<ガンプラバトル>”をやっているだけさ。
いわゆるミリタリー、リアルよりの解釈でね。となれば、重点を置くのは信頼性」

「量産型であるジムスナイパーIIベースなのも、武器類に特殊な類いがないのも、そのためか」


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ビルドストライクの修復は、レイジの手伝いもあって何とか完了。

その上で今日は、決勝トーナメント前に作戦会議です。特にレイジは、明日の試合が気になっているみたいで。


「戦いにおいて一番怖いのは、武器が使えなくなること……故障したら、ぱぱっとは直せないもの」

「じゃあ信頼性っていうのは、壊れないってことか?」

「もちろん威力と安定した効果も踏まえた上でね。……ジムスナイパーK9本体も、そのコンセプトで固められている」


モニターに映すのは、ルワンさんとのつばぜり合い。

アビゴルバインのパワーは戦った僕達もよく知っている。それに……細身で耐えきっているんだよ。


「機動力と俊敏性を殺さない程度の増加装甲と、パワーの増強。そして全てのレンジに対応した武装配置。
恐らく機体の整備性については、ビルドストライクなんて足下にも及ばない」

「だが性能なら勝てるだろ」

「性能だけは、かもしれない。リカルドさんもそうだけど、機体への理解度も絡むから」

「確かに、な」


そう、戦い方なら……向こうが上手だ。現に第七ピリオドでは、好き勝手やられたわけで。……だからこそ。


「じゃあセイ、ユウキ・タツヤとなら」

「……ユウキ先輩の戦闘スタイルは、相手の全力を受け止め、その上で圧倒すること。
ザクアメイジングもそうだけど、ケンプファーも同じコンセプトで作られている。となると」

「アイツが受けきれるかどうか、そういう話か」

「そうなるね。差し当たっては、この”爆発”をどう対処するかだ」


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「やってることに想像はつくけど、対処するとなると難しい……まさにマジックだね」

「物事には原因と結果――因果が存在する」

「あぁ」

「魔術であれ、手品であれ……タネさえ分かれば、どうということはない」

「自信家だね」

「歓迎しているんだよ」


タツヤは立ち上がり、右手でガッツポーズ。


「”戦争”というスタイルで勝ち上がる、レナート兄弟……きっと、凄(すご)いバトルになる」

「あぁ」

「その上で勝つんだ。それが名人であり、カワグチの名を継ぐ者の使命」

「無論だ」


……先日、サツキ・トオル達とバトルをさせて、正解だったね。

マシタ会長の不正絡みで、妙に力が入っていたから。でも今のタツヤは違う。

まずメイジンとして、自分にやれることを全力でやる。その覚悟を改めて持った。


そう、それでいい……会長達の不正を突き詰めるのは、確かに大事だ。だが今の僕達が、優先してやる仕事じゃない。

餅は餅屋に任せて、僕達は大会に集中する。……無論、その中で怪しく動くなら、遠慮なく糾弾するが。


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明日はいよいよトーナメント……なんだけど、突然レナート兄弟に呼び出された。

……こちらも約束を果たすときみたい。なので高層ホテルのラウンジに三人で陣取り。


「では……明日の勝利に、乾杯」

「「乾杯」」


ミルク二つと、酒のグラスをぶつけ合う。

はい、第七ピリオドでやった、奢(おご)りの約束です。一応試合前の景気づけって感じ?

なお僕も……うぅ、酒は我慢……牛乳、美味(おい)しいし。とっても美味(おい)しいし。


「しっかし余裕だなぁ、コイツら」

「度胸があるんですよ、歴戦の猛者なんですから」

「……んぐんぐ……このピーナッツ、美味(うま)いな」

「おのれも度胸があるよね……!」


僕の、せめてもの”つまみ”として頼んだピーナッツを……! なのでヒカリをつまみ上げ、怒りの形相でにらみ付ける。


「ひぎぃ!?」

「明日はいよいよ、ユウキ・タツヤ最期の日かぁ。遺影が必要かな?」

「はは、友人なのに辛辣じゃねぇか」

「まさか、俺達の遺影とは言わないよな」

「ないないー。……ほら、おのれらがここで負けると、僕がリベンジできないから」


なので笑って手を振ると、二人も苦笑気味にグラスを揺らす。

マリオはスコッチを軽く煽(あお)り、ピーナッツをぽりぽり。


≪それに、順当なすぎてつまらなくはあります。……明日の試合、メイジンが勝つという予想が大半≫

「正体がユウキ・タツヤだってところも、その流れを後押ししてるしね」

「だよなぁ。アイツなんざ、二代目に比べたら甘々だってのに」

「まぁいいじゃないか。それで俺達が勝てば……聞こえるぜ? 世界中の奴らの、肝を潰す音がな」

「「それもいいねぇ」」


ついフリオと二人相づちを打ってしまう。……え、タツヤは友達なのに、いいのかって?

いいのいいの。さっきも言ったけど、僕もマリオ達にリベンジしたいし?

それに……僕も実際戦ったから、よく分かる。この二人は今の僕達より強い。


”戦争”という遊びを通し、その流儀をスーツのように着こなす。タツヤと言えど、簡単に勝てる相手じゃない。


「じゃあ二人とも、明日は出し惜しみなし?」

「もちろんだ」

「え……兄貴、マジかよ」

「世界中の奴らが見ている前で、奴のメッキが剥がれるかどうか……試してやるのさ。……もう一杯」


マリオはバーテンダーに注文して、空のグラスを差し出す。


「それで通せるようなら、認めてやろうじゃないか。奴がカワグチだとな」

「……あぁ、そうだな」


僕は何も言わず、静かにミルクを味わう。

言葉はいらない……二人もまた、”星”を見上げていたのだから。


だったら、意識しないはずがないんだよ。あとはタツヤの仕事だ。


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今日はセシリアさんと、ユウキ先輩の試合。同時に決勝戦のスタート。

当然僕とレイジも、試合は直(じか)に観戦。……ここからは一戦たりとも、決して見逃せない。


「セイ、今日の試合は」

「セシリアさんの方は、問題ないと思う。あるとすれば」

「ユウキ・タツヤと、レナート兄弟……昨日言ってた通りか」

「今回ばかりは、ユウキ会長が勝つとは断言できないよ。でもしっかり見ていこう」

「あぁ」


青空の下、気合い十分なレイジに安心。……トーナメントの組み合わせが抽選である以上、いつどう戦うか、分かったもんじゃないしね。

とはいえ、僕達も油断はできないんだけど。何せ次の相手はアーリー・ジーニアス――ニルス・ニールセン君だから。


――でも、そんな不安を吹き飛ばすような衝撃が、セシリアさんの試合で起こってしまった。


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……ストライクフリーダムは、市街地の真上を飛ぶ。黒い翼を広げ、雄々しく……気高く。

そうして次々放たれるビームの砲撃を、スラロームで避けながら接近。

かと思うと急停止から宙返りして、腹部のカリドゥスを発射。



敵機<ガンダムAGE-3>のシグマシスキャノンとエネルギーをぶつけ合い、相殺する。


『く!』

「遅いですわ!」


すぐさまコンソールを叩(たた)いて、相手の機動を予測……この三日間でたたき込まれた、戦術データに従って、何とか導き出す。


「セシリアさん!」


そのデータをセシリアさんに送ると。


「そこです!」


ストライクフリーダムは、広げた翼からドラグーン射出。

更に両手の高エネルギービームライフル二丁と、両腰のレール砲、カリドゥスでハイマットフルバースト。


AGE-3は当然回避行動を取る……フルバーストの射線上から、ドラグーンのオールレンジ攻撃から、逃れようとする。

でもその行く手を、ドラグーンから放たれたビームが遮る。すぐに別の回避コースを取ろうとするけど、そこに待ち受けるのは。


『……!』


放たれたばかりのビームと砲弾達。AGE-3は次々とボディを撃ち抜かれ、爆散。

よ、よかった……わたしの予測、ちゃんと当たって。というか、本当にその通りの攻撃をするなんて。


「やった……」

「まだですわよ!」

「え!?」


いや、でも、今の直撃……と思っていたら、爆炎からAGE-3の首が飛び出した。

ううん、首とその付け根、かな。背中のスラスターも一緒にくっついて……吹き飛んだ?

いや、違う。そうだ、確かAGE-3って……!


「まさか」


慌ててコンソールを叩(たた)いて、周囲をサーチ。あ、いた……。


「十時方向から、高速接近する機影! 数は一!」


更にAGE-3の胸元<コアファイター>も、その機影に向かって加速。

ど、どうしよう……油断してた! AGE-3って、コアファイターと体のパーツが合体して、換装するんだ!


「問題ありませんわ」


セシリアさんはビームライフル二丁を合体させて、ロングライフルとした上で。


「むしろ好都合……頂きます!」


トリガーを引く。――放たれたビームの弾丸は、とても奇麗だった。

一気にキロ単位の距離を取った、AGE-3のコアファイター。それと合体しようとする、赤白のボディ。


回避行動を取ったはずのそれらに対し、弾丸一発で引導を渡したんだから。


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セシリアさんとストライクフリーダムは難なく勝利。二キロ……いや、四キロほどの超長距離射撃を達成した上で。


「……マジかよ」


なんて、とんでもない射撃精度なんだ。重力や風などの影響も受けて、弾丸は確かに曲がっていた。

それを利用して、回避していたはずの二機を……落としたんだよ! これが、青い涙の実力!


でも、その実力以上に……驚くことがあって。


『――トーナメント第一試合、勝者』


拍手喝采を浴びる、セシリアさんの隣には……恥ずかしげな、委員長の姿が……!


『セシリア・オルコット&コウサカ・チナ組』


どうなってるの、あれ……! なんで!? なんで委員長が、セシリアさんとチームを組んでるの!


「セイ……いや、すまん」


あぁ、レイジが何か察した! 僕の顔かな!? ちょっとアゴが外れかけてたし!

いや、ホント……何も聞いてないの! どういうこと! 一体何が……この五日間で、一体何がぁ!


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本当に、どうなってるんだろう。


セシリアさんの手伝いをしていたら、なぜかセコンド登録をしていて。

それでチェルシーさんにも協力してもらって、サポートできるよう頑張って。

結果……世界大会の舞台に、参戦してしまった……! マズい、今更手足が震えだしてる!


「ほら、ちゃんと拍手に答えてください」


セシリアさんに促され、笑いを浮かべながら、会場に手を振る。


「……あなた、そんなゴジラみたいな顔にならなくても」

「ゴジラ!?」

「もっと胸を張りなさい。初めてにしては、上々のセコンドでしたわよ?」


あ、褒めて……くれた。それは嬉(うれ)しい……嬉(うれ)しいけど……ゴジラって何ぃ! 高倉健の方がまだマシだよ!


「ただ、バトルエンドのコールもかかってないのに、油断しては駄目でしょう! ファイターがわたくしでなければ、大事故でしたわよ!」

「は、はい! すみませんー!」


あ、叱られた! いつも通り叱られた! 何だか安心する……しちゃいけないよね、わたし!

現状がサッパリなのは変わらずだよ!? あぁ、どうしよう……きっとイオリくん達、驚いてるよね!


「セシリアさん、なぜわたしはここに」

「御家族の許可は、しっかり取り付けたからです」

「そうじゃなくてー!」

「今度は向かい合ってみましょうか」

「え」

「作業を手伝ってくれたお礼に、景色だけは見せてあげますわ。……彼らと戦う人間が見る、景色を」


……その言葉で、ゾッとした。


彼ら……それは多分、イオリくん達で。

順当に勝ち上がるのなら、間違いなく途中で当たる。最悪でも決勝戦。

つまり、わたしはイオリくん達と……でも、逃げられない。


きっと、逃げ場はない。今なら分かるの、セシリアさんが何を見せたいのか。

観客として見るだけじゃ分からない、そんな何かを……わたしは、知る必要があって。


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第一試合を観戦した俺達、もう唖然(あぜん)です。

いや、チナとはさほど親しくもないんだが、いきなりの登用過ぎて……!

しかも今のハイマットフルバースト、チナが軌道予測をしたらしい。


「ダーグ」

「分かってる」


レヴィもゾッとしているらしい。コウサカ・チナって奴のポテンシャルに……!


「敵機の動き、どんぴしゃで読み切りやがった……!」

「思えば当然とも言えるわよね。だってあの子は<青い涙>の直弟子で、今までイオリ・セイ達のバトルを見ていたもの」

「実際に戦うのはともかく、必要な知識と技能さえ与えれば、予測はできるってことか」

「そうなるよう、彼女が鍛えたんでしょうね。くぅ……燃えてきましたー!」


とんだところに、伏兵登場ってか? 確かに燃えてくるが……それよりも。


「くす……くすくすくすくす、くすくすくすくす」


燃えて、燃えて、燃えて――なんか、おどろおどろしい空気を出しているバトルマニア<シュテル>だった。


「シュテル、怖いから……やめて? その笑い」

「無駄だ、聞こえてねぇよ」


何だよ何だよ、何のライバル意識だよ。決勝戦でバトルして、勝ったのはお前だろ。

それなのに、世界大会へ出たから驚きなのか? つーか……メンバー管理、ガバガバじゃねぇか! どうなってんだ、この大会!


「ま、まぁシュテルは放置でいいだろう。それよりダーグ、次は」

「……メイジン・カワグチ対レナート兄弟」

「ユウキ・タツヤの実力は疑うまでもないが、あの兄弟もなかなかよ。特にアビゴルバインを倒した下りが」

「やってることに想像はつくが、それだけとも思えねぇよな」


そう呟(つぶや)きながら、早速出てきた二組に注目。

おぉおぉ、揃(そろ)って殺気立って……こっちまでゾクゾクしてくる。


「策士(さくし)策におぼれる――それが定石ではあるが」

「なら、ここで分かりますよね。あのお二方がそういう、三流か……否か」

「Jud.」


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『――ただ今より、一回戦第二試合を始めます』

≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Ruins≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は雨に濡(ぬ)れる、廃墟<ニューヤーク>か。ガルマのガウ特攻を思い出す。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「メイジン・カワグチ――ケンプファーアメイジング、出撃する!」


アームレイカーを押し込み、カタパルトから出撃。一気に地上へと降下した上で、速度を上げる。

廃墟の中、まだ生きている街灯の脇を抜けながら、街の一角にて停止。

アパートメントの陰に隠れ、マップを確認……よし。


「予定地点に到着した」


今回はロングライフルを装備した上で、ウェポンバインダー四基装備。

武装も相手に合わせ、多岐に亘(わた)っている。基本はロングレンジだが。


「相手は既に、狙撃可能状態にあると考えた方がいい。ここを狙えるポイントは……」


そこでミニマップに、三つのポイントが表示。

ここから見て、二時半・九時・六時半方向か。


「三つのどれかだ。どうするカワグチ?」

「相手に策を講じる時間は与えん」


ビルの影から飛び出し、まずは六時半方向を狙い。


「藪(やぶ)をつつく!」


ロングライフルを用い、長距離狙撃――。

超高層ビルの一つに命中し、その頭頂部近くで爆発を呼び起こす。


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メイジンは時計回りに、超高層ビルの頂点を次々狙撃。

俺達が隠れている三つ目のポイントにも、ピンク色の閃光(せんこう)が襲いかかり、脇を貫いてくる。


「居場所に気づかれたのか!?」

「狼狽(うろた)えるな、ただのけん制だ。……どうやらメイジンは狙撃戦がお望みらしい」


本当に全部を受け止めるってわけか? ……プロレスかよ。

それなら教えてやる、俺達の戦争を――!


「プランS4、ハウンドを出せ」

「了解」


バックパックがパージされ、四肢型のホバーを足に見立て、犬は大地に降り立つ。

そこにメインのオリジナルの大型スナイパーライフルをセットして……K9<ハウンド>は完成。


「発進」


ライフルの銃口部を頭として、ハウンドはホバリング。そのまま陰に隠れ、ゆっくりと地上へ降りていった。


「ハウンド配置完了と当時に、攻撃を開始する」

「了解」


既に仕込みも、解析も完了している。……あとはじっくり、確実に追い詰めるだけだ。


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ユウキ会長は、ビームを高いビルに撃ち続けるだけ。敵が見えないのに……どうしたんだろう。


「セシリアさん、ユウキ会長はどこを狙って」

「いぶり出しですわ」


いぶり……小首を傾(かし)げながらも、セシリアさんの目はビル達に向けられ続ける。


「相手は狙撃タイプのジムスナイパーK9。狙撃は基本、遮蔽物などがない場所で行いますから」


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「だから狙撃ポイントを攻撃して、相手をいぶり出そうとしている、だよね」

「はい、正解」


一緒に観戦していたともみも、一応ジムスナイパー使い。それゆえに狙撃の流儀も分かるんだけど。


「でもあれ、動かないとしたら……かなり怖いよ」


だからこそ、ジムスナイパーK9の動きには、驚きを隠せないわけで。


「ケンプファーアメイジングの武器火力も、特殊なものがないだけで相当レベル」

「ワークスモデルだしね」

「下手をすれば、障害物ごと撃ち抜かれてもおかしくないのに……」

「問題は……これが多分、”まだ動かない”だけであろうこと」

「ですね。まさか無策で籠城しているとは思えないのですよ」


間違いなく、攻撃の準備中だ。タツヤ、実は結構焦れてるでしょ。

いぶり出そうと思ったら、全く動かないもの。かと言って、居場所が分からないと踏み込めない。

三箇所の予想狙撃ポイントは、全方位に広がっている。踏み込もうとしたら、他二つに死角を晒(さら)しかねない。


スナイパー相手にそれは愚策ってもんだよ。


「ねぇ、アンタならどうする? ジムスナイパーK9なら」

「え、試合終了までジッとしてる」

「……言うと思ったわ」

「嫌がらせするのが楽しいんだよなぁ、お前」

「歌唄ちゃん、今の質問は聞くまでもないのです」

「そうね……私も同じだもの」

『やっぱりか!』


りん達がギョッとするけど、僕達は肩を組んでニコニコ。

だってそれが……サディスティックってもんでしょ!?


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「……配備完了」

「では始めよう」

「OK!」


K9は頭部バイザーを下ろし、七五mmスナイパー・ライフルを構える。更に銃身下部に追加したスロットへ、マガジンもセット。

フリオはタイミングを外さない……奴がこちらに背を向けた瞬間、引き金を引く。


さぁ、フルコースの始まりだ。オードブルで満腹になるなよ? メイジンさんよぉ……!


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……背後から走る光条。

咄嗟(とっさ)に気づいて角に隠れるものの、ロングライフルは撃ち抜かれ爆散。

だが問題はない、あえてつついた藪(やぶ)だ。


「動いた!」

「追撃する!」


バインダーからライフルを取り出し、狙撃ポイント目がけて一直線に加速。

二時半方向のビル……その頂上に構える、ジムスナイパーK9。確かに捉えたぞ……!


『正気かよ!』


またもビームが走る……だがそれは、コーティングしたブレードアンテナで両断できる。

なのでそれを受け止めた直後、頭部に衝撃が走り、機体バランスが一気に崩れる。


「……!」


次に放たれた弾は、ビームではなかった。ビームをコーティングした……実体弾。

亜音速で飛ぶ『実体弾』は、ブレードアンテナをへし折り、強烈な衝撃を与える。


「実弾とビームの共用ライフルだと!」

「まだだ!」


各部スラスターを噴射。第二射を下へのバレルロールで何とかすり抜け、再加速……だがそこで、驚異が迫っていた。

今度は後方から……完全に、不意を突かれた。外したのでもなければ、避けたのでもなく、単純に外れた。


死角外から放たれた光条は、右足のバインダー接続部を貫通。

結果持っていたライフルも、繋(つな)がれていたバインダーも共に落とす。それらは広場中央……噴水の脇に叩(たた)きつけられた。


「右足のコンテナが!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「別方向からの攻撃……!」

「あれだね」


千早達がキョロキョロし始めたところで、見つけたよ……イビツな犬を。

アビゴルバイン戦で使っていた、大型ライフルを背負ったバックパック。


可動式スラスター四基を足に見立て、軽快に移動するそれは。


「自走砲じゃないの!」

「そして、K9の脱出機<ブースター>だ」


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今のままで突撃は不利。追撃される前に着地すると。


「後ろ!」


咄嗟(とっさ)に左へ飛んで、自走砲の射撃を回避。


「上からは無理だ。相手を引きずり下ろせ!」

「分かった!」


左足のバインダーから、折りたたみ式ミサイルポッドを取り出す。

それを展開すると、よくある四連装型に変化。

自走砲を振り払うようにホバリングしながら、ビル頂上に向けて一斉発射。



一発、また二発と着弾し、頂上が一気に吹き飛ばされる。だがその寸前、K9はビルを飛び降り離脱。


「移動を確認!」

「逃がさん!」


バインダーからビームマシンガンを取り出し、着地したK9にエンゲージ。

距離二〇〇というところで、マシンガンを乱射。だが奴は攻撃を見切り、すれすれで射撃。

更に追撃……というところで、腰だめに構えたライフルを発射。ギロチンバーストで我々の上方を薙(な)ぎ、ビルの崩落を招く。


反転し、すぐ脇の道へ入り、落ちてくるガレキをスラロームで回避。

……が、そこでピンという音が響く。同時にアームレイカーからも、何かを引っかけたような手ごたえが伝わる。

ガレキの一部? いや、これは違う……!


「ワイヤートラップ!」

「この短時間に!?」


結果、仕掛けられた爆弾が起爆。この通り全体に炎と衝撃が生まれる。

それをケンプファー特有の突進力で振り払い、傷は最小限とした。ただしそれは本体のみ。

衝撃からビームマシンガンは破損し、破棄する他なかった。


くそ……時間は与えないための牽制(けんせい)だったが、それでも足りなかったということか!


……そこで二時方向・上二十度の角度からビーム。

K9による射撃を右スラロームで回避すると、前方二百メートルほどの位置にあの自走砲。

急停止した上で地面を蹴り、ビームを跳び越えながら回避。


脇道に入ったところでもう一度着地し、再度跳躍。

貼られていたワイヤーを跳び越え、再度のトラップ発動は何とか避ける。


「またトラップ!」


アランの驚きが響く中、そのまま滑るように後ろへホバリング。

……脇道を抜けたところで、ジムスナイパーK9が回り込んでいて。


『頂き』

「ちぃ!」


咄嗟(とっさ)に反転――ジムスナイパーK9へ向き直り、左のウェポンバインダーを射出。

放たれたビームにぶつけ、貫通するまでの一時的な防御を果たす。


バインダーが爆発する前の間に、更に下がってスラローム。

自走砲からの射撃も、爆炎を突き抜けてきたライフルビームも、すれすれではあるがすり抜けていく。


「カワグチ、七時方向の施設へ」

「仕方あるまい……!」


再び角を曲がり、半壊したスタジアムを目指す。……だが、奴らの追撃はこない。

ここまで執ように、追い立てておいて……なるほど、これも作戦の内か。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ニューヤークのドームスタジアム……初代ガンダム第十話『ガルマ散る』にて、ホワイトベースが潜んだアレだな。

だが俺達は、のんきに騙(だま)されたお坊ちゃんとは違う。むしろ欺く側(がわ)だからな。


「かかったぜ、兄貴」

「よし、ブラッド・ハウンド隊を出せ」


ハウンド後部のメインバーニア部が、その基部ごと分離。いわゆるランチだ。

ランチは静かに……ステルス状態で、奴らのいるドームへと、近づいていく。


「タイムストップ作戦を開始する」

「了解!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


背中のバインダーから、予備武器のハンドガン二丁を射出し、両手でキャッチ。

陰に隠れ、しっかりと警戒を続ける。……中にはトラップらしきものもなし。

となれば……胸の内で、どんどん嫌な予感が高まっていく。


「まさか相手が、複数の機体を投入してくるとは」

「ジムと相対したとき、背中のバックパックがなかった」

「それを独立稼動させ、自走砲にしているようだね」

「同時に脱出機<ブースター>でもある」


よく考えられている。シンプルな構造ではあるが、必要最低限の動きができるなら、問題ない。

それもまた、兵器としての信頼性を重きに置いたものか。レナート兄弟……やはり強敵だ。


「しかし、ここに逃げ込んで正解だったね。相手が二機出していても、この狭い場所なら君に分がある」

「いや」


アランには、楽観視は禁物だと告げておこう。


「私は彼らが、意図的にここへ誘い込んだと見ている」

「……ワイヤートラップ、更に追撃の仕方かい?」

「先ほどの流れは、情けないことに彼らのものだった。だが……索敵、怠るなよ」

「分かった」


策士は策を講じる……さぁ、一体何がくる。


何せ、核爆弾なんて持ち込んでいたからなぁ。もう何が来ても驚かない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


……ホバーから離脱した、ランチが壁の穴に取り憑(つ)いた。更にステルス状態で、小さい何かが飛んでいく。


「……恭文さん」

「見えてる。何か、小さいものが」


ガレキの合間をすり抜け、ケンプファーアメイジングに近づく。

あのね、本当に小さいの。指でつまめるくらいの、人型の……!


「そうか……あれは!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ん……!?」


アランが、訝(いぶか)しげな声を漏らす。


「どうした」

「何かが、近くにいる……これは」


するとアランが映像を回してきた。こちらから”離れていく”、バーニア付きの人形達を。


「百四十四分の一の、ジオン兵フィギュアじゃないか!」

「ジオン兵……」


そこで全てを察し、慌ててケンプファーアメイジングを立ち上がらせる。


「そういう……ことかぁ!」


間に合え……もう、時は動き出している!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「兄貴、設置とランチの退避、完了」

「……起爆」

「起爆!」


フリオがスイッチを入れた瞬間――奴らが隠れていた、ドームから火柱が上がる。

天を焼き尽くすほどではないが、ガンプラなら木っ端みじんになるレベル。


は……汚ぇ花火ってか? だが胸のすかっとする、いい爆発じゃないか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何、あれ……また爆発? それで、第七ピリオドの嫌な感じが、蘇(よみがえ)ってくる。


「セ、セシリアさん……あれ」

「爆弾ですわね」

「また!? でも、爆弾なんていつ!」

「たった今ですわ」

「今!?」


でも、ジムは近づいてないし、ユウキ会長も動いた様子がないのに……事前に仕掛けたとかじゃ、ないんだ!


「ルワン・ダラーラとの試合、バックパックの一部がいつの間にか外れていました。
そして今、どこからともなく百四十四分の一ジオン兵フィギュアが飛んでいた」

「フィギュア?」

「HGサイズで人間を形取ったものです。ジオラマとかで使いますの」


あぁ、そういうのはネットで見たことが……え、待って。じゃあ爆弾って……!


「恐らく消えた一部はランチ……移動用の小型艇になります。そこに爆弾を持ったフィギュアが詰め込まれていて」

「それが、ユウキ会長に爆弾を仕掛けた……!?」

「……レナート兄弟もまた、この遊び<ガンプラバトル>にハマっている者達です」


セシリアさんは教えてくれた。

ガンダムは元々戦争アニメだから、その中での戦い方や、在り方を表現するのも遊び。

模型でそんな情景を形にできるのなら、バトルで表現するのもアリ。


レナート兄弟は、そんなバトルスタイルなだけだと……それなら、わたしの言うことは間違っていた。

でも、それならどうやって勝てばいいの? あの人達の意識は、会長やイオリくん達とは違う。


現に今、会長だって……!



わたしはただ、燃え上がるドームを……冷徹なまでに、戦いを続けるK9を、見ていることしかできなかった。


(Memory57へ続く)






あとがき


恭文「はい、お待たせしました……決勝トーナメント編へ突入! 漫画ビルドファイターズA最終回も盛り込みつつ、今回はタツヤとレナート兄弟のバトル」

古鉄≪なお冒頭のダーグさんやトウリさんのお話は、読者アイディアからとなります。アイディア、ありがとうございました≫


(ありがとうございました)


恭文「セシリアの側について、いずれセイ達と戦うことになったチナ。爆炎に消えたタツヤ達の行方はどこに。
そんな盛りだくさんな感じに……ねぇ、僕の影が薄いんだけど」

古鉄≪仕方ないでしょ。決勝トーナメント編、あなたのやることはほとんどないわけで≫

恭文「ひど!」


(むしろ見せ場はタツヤやセイ達が多め。タツヤについては、あの人との対決が……)


恭文「その辺りもじっくり進めるとして……本日のお相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪どうも、私です。……ついに発表されましたね。終局特異点ソロモン≫

恭文「うん。ついに、あのションベン王をぶん殴れる日がきたよ……!」

古鉄≪四章が一年前ですから……年をまたいでのリベンジ。あの頃よりは私達の陣営も強くなっています≫

恭文「まだまだ明かされていない謎、事の真相もある。それらと対峙する場でもあるし、慎重にいこう」


(なお、うちのカルデアでエースは……やっぱりドレイクさん。
魔神柱が相手なら、有利な騎殺術組の体制は万全だ!)


古鉄≪まぁラストですし、属性反転な奴が出る可能性も≫

恭文「その場合は桜セイバーやアルジュナ、カルナ達がいる! 槍兄貴も聖杯転臨でレベル80だし! そしてマシュもついにレベル&スキルマックスだし!」

古鉄≪マシュさんの成長も感慨深いですよね。初期段階では『……』と言う他なかったんですが≫

恭文「仕方ないよ。物語が進むごとでの、キャップ開放だったし。……さぁ、ぶっ飛ばしていこうか!」


(年末は忙しくなりそうな、蒼い古き鉄達だった。
本日のED:坂本真綾『色彩』)


あむ「ていうか、ジムスナイパーK9が強い……アニメだと気づかれてからの射撃二発目、ブレードアンテナで切り裂いてたのに!」

恭文「ジュリアンとのバトルで、ビームコーティングがバレたからね。
対策してたってわけだよ。……いいぞー、もっとやれー!」(そしてこの笑顔)

あむ「全力で楽しんでるし!」


(おしまい)





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あきゅろす。
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