[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory55 『めぐりあい親友(とも)』

ヤスフミが東京(とうきょう)に向かった……行き違いじゃないけど、あっという間にUターン。

でも一応商談らしいし、誘ったのが世界大会常連のチョマーさん。

もしかしたらこう、スポンサー的なお話かもと、千早ちゃんが……うぅ、奥さんとしてついていきたかった。


でもアイリ達もいるし、ここは待つ……待つ……つもりだったのに。


「――あんなの見分けが付くわけないのに! フェイトさんだって」

「えっと……目元がシャープ気味だとザクで、広がっているとボルジャーノンかなぁ」

「どうして付くのよぉ!」


突然リン子さんから連絡がきた……と思ったら、選手村近くのカフェで、愚痴を聞かされる羽目に。

うぅ、アイリ達はりんちゃん達にお願いしたけど……早く戻りたいなぁ。

というか、トゲが背中とか、心にがしがし突き刺さって……!


なおザクとボルジャーノンについては、画像検索で見比べています。じゃないと、分からない……!


「いや……セイ君が無茶(むちゃ)振りってわけじゃ、ないみたいです。ファンの間では当然って感じで」

「それはファンでしょ!? 私達に区別を付けろなんて言われても」

「でもリン子さん、模型店の経営者ですよね。商品にも関わること、さっぱりって言うのは」

「そ、そうだけど」


えっと、モノアイレールの正面が広い? パイプの配置が換わってる?

どうも劇中の描写とか、動きでも見分けが付くみたい。ザクは歩行移動が基本だけど、ボルジャーノンはホバーするって書いてる。

あ、でもこの……ギャバン専用ボルジャーノンっていうのは、分かりやすいかも。


旧ザクにはない、頭部パイプが付いてるし。


「実際問題……セイ君と全く面識がない、世界大会出場者が言うって相当ですよ? 多分セイ君、自分だけなら我慢できたと思うんです」

「え」

「ヤスフミからも聞いた印象だと、お父さんのことを本当に……心から尊敬していますから。
……そのお父さんが馬鹿にされたのに、原因となったお母さんは改善するつもりもない」

「……!」

「それで今も私に、自分は悪くないアピールを繰り返す。そんな姿を知ったら、信頼なんてできませんよ」


そう、だよね。私も言ってて突き刺さる……お手伝いできればって思ってたけど、やっぱり……無理なんだよね。

でもでも、ヤスフミやみんなみたいに、バトルするのも興味が出てきたし……それが、違うのかな。


連続ブーメランの打撃に苛(さいな)まれながらも、お茶を飲んで深呼吸。ささっと手荷物もまとめて立ち上がる。


「心から謝ってください。あと、セシリアちゃんへの逆恨みも今すぐやめるように」

「フェイトさん……」

「まぁ、絶対許されないと思いますけど」

「え」

「ヤスフミと似たようなことで喧嘩(けんか)したときは……数か月、かかって」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


とにかくそれだけを言って、そそくさとアイリ達のところへ戻る。

まずはヤスフミにお詫(わ)び……今日はいっぱい、御奉仕で尽くしちゃうんだから。

……というかその、私も……十日ほど、コミュニケーションがなくて……寂しくて。


ここ最近は毎日してたから、いきなりは……だからいっぱい、いっぱいくっつくんだ。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory55 『めぐりあい親友(とも)』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


レイジやディードが、いろいろ大変だったころ――僕はというと。


「お、お客様……そちらは」

「礼装です」

「いや、しかし」

「礼装です――!」

「は、はい……」


例のカレーショップへやって来ていました。

……たとえキャストの皆さんに呆れられようと! ここのカレー、マジで美味(おい)しいらしいし!

というか……松風雅也さんの前なのにー! 櫻井孝宏さんの前なのにー!


ゾイドも見てたんだよ!? 有限会社チェリーベルも聴いてるよ!? ヤバい、死ぬほど恥ずかしい!

それはそうと……メモ帳を取り出し、さっと注文をまとめることにする。


「それでみなさん御注文は。僕はもう決まりましたので」

「あ、うん……うん……」

「……蒼い幽霊、諦めろよ。家に帰るまで飲まず食わずは辛(つら)いだろうが」

「嫌ですよ! 大丈夫……あと十分で外せば」


というわけで、呪(のろ)いの仮面を引っ張り……く、フィット感が増している!


「外せばぁぁぁぁぁぁぁ!」

「やめろやめろ! 顔の皮が引っ張られてる!」

「仕方ない、なら私が代わりに食べてやる」

「おい馬鹿やめろ!」

「仕方ないですねぇ」


他人(たにん)事で水を飲んでいるリインには、しっかりとお仕置き。

まず水の入ったコップを置いてもらい、その上でほっぺたむにぃぃぃぃぃぃ!


「い、いひゃいのですぅ!」

「やかましいわ! 元はと言えばおのれが、こんなオーパーツを持ちだしたせいでしょ! どうするの!? またサラダオイル塗(まみ)れになれと!」

「恭文さん、左側面を軽く二度叩(たた)くのです!」

「よろしい、ならす巻きだ」

「叩(たた)くのですー! こうやって」


リインが涙目で、仮面をトントンと叩(たた)く。すると口元から、鋭い稼働音。

あれ、風が……慌ててお仕置きを解除し、口元をチェック。あれ、開いてる……口が開いてる!


「何これ!」

「ヒロさんが追加した機能なのです。万が一に備えてと」

「よし、これでカレーは食べられるね!」

「ですー♪」

「でもす巻きは決行するから」

「どうしてですか!」


その意味が分からないのなら、ほっぺたむにーの刑を継続しよう。いや、ほんと……これは危ないからね!


「でぃ、でぃーぶいなのですー」

「そうですねー」

「何というやる気のない返し!」

「それでチョマーさん、商談ってなんですか」

「おぉそうだ」


そうそう、僕達がきた目的もあるのよ。……というわけで。


「まあそこもみなさんの注文をまとめてからで」

「いやいやいやいや! そこまでしてもらわなくても!」

「でもこの中だと、僕が一番下っ端ですし」

『下っ端!?』

「……恭文さん、いろんなところで鍛えられてるですから」


――そんなときだった。卯月からメールが届いたのは……ただ、今は移動できない。

卯月にはトオルのことを重々お願いした上で、僕は皆さんの注文をまとめるのでした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ガンプラ制作は続く――自分の不徳と楽しさ、相反するものを突きつけられながらも、進んでいく。

しかしこのトオルって兄ちゃんが、ユウキ・タツヤにガンプラを教えた男だったとは。

しかもあの……ヤスフミが最初の試合で使った、鳥形(とりがた)メカの設計者? すげぇ奴じゃねぇか。


まぁそんな兄ちゃんはウヅキ達に付きっきり。


「まずは合わせ目消しからやってみるか。本来であればプラモ用接着剤を使い、一日程度かけて行うが」

「そんなにかかるのかよ!」



ついトオル達の方にツッコんじまった。あれ、そういやセイは……そこでまた、思い知る。


オレ、簡単に『ガンプラを頼んだぞ』とか言ってたんだな。

こういうことすら知らずに、ファイターをしていたのか。あははは、すげー滑稽。


「あくまでもそれは、ベーシックな方法だ。……実は最近、便利なものが出ていてな」

「おぉ、アレだね」


そこでおっさんが取り出すのは、三つの容器。


「こちらの瞬間接着剤二種を混ぜ合わせ、合わせ目に流し込む!
それにこの硬化スプレーをかけると、すぐに合わせ目消しができるんだ!」

「おぉ、すげぇな! ……だがなんで接着剤が二種類なんだ」

「馬鹿ね。混ぜなきゃ固くならないんでしょ? そういうのってよく」

「違う!」


違うらしく、アイツがテーブルに突っ伏した。コマンドガンダムを避けているのが、またすばらしい。


「違うの!?」

「どちらも単独で硬化するが、粘度が違う! 右のものはサラサラで硬化時間が早く、左のものは高粘度で硬化が遅い!
ちなみに左の方が、硬化した場合の強度も高いんだ! ……とにかく本来合わせ目消しは、時間をかけるものと覚えておいてくれ」

「「サー・イエッサー!」」


というわけで、何かの実験みたいに合わせ目消し――接着剤を混ぜて、ビギニングの合わせ目に――。

そう、オレ達もせっかくだからってことで、挑戦してみることに。特に……気になる点もあってよぉ。


「最近のガンプラは合わせ目も少なくなっている! そんな中で目立つのは、やはり武器類!
ライフルなどの合わせ目をしっかり消しておくと、見栄えが段違いによくなるぞ!」

「確かにこの、真っ二つなのは不格好よね」

「まぁな」


……これは私語に入らないらしい。とにかく作業を進め、スプレーをかけて――。


「よし、硬化したな! それをヤスリ、又はデザインナイフで削っていく……のだが」


そこでおっさんが取り出したのは、白いナイフだった。いや、刃らしき部分はあるが、真っ平ら……切れそうにねぇ。


「これは」

「セラカンナ――セラミックブレードとも呼ばれる、パーツを削る道具だ!
力を入れると割れてしまうから、軽く少しずつ削ってみたまえ!」

「こんなんで削れるのか?」


まぁやってみてから……力を入れず、軽くだったな。それでビギニングの合わせ目を削っていく。

肩アーマーや肘関節、ビームライフルの合わせ目を……しゃっしゃっと。

すると黒いカスが、よく出てくる出てくる……!


「削れるわね!」

「あぁ!」

「セラミックカンナの利点は、『削りすぎない』ことだ!」

「「削りすぎないこと?」」

「デザインナイフや金属ヤスリで削るのが定石! しかし必要以上にパーツを傷つけ、修復が必要になる場合もある!」


あぁ、だから少しずつやるのか。それでちょうどいいところも探って……と。


「面が取れたら、紙やすりで磨いて整える! 番手を上げるのを忘れないように!」

「「サーイエッサー!」」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


注文を纏(まと)めたところで、チョマーさんからお話を伺う。それがまぁ、驚きの内容で。


「オルフェンズの宣伝担当……僕が!?」

「おう」


先んじてきたラッシーを飲みながら、衝撃の一言に驚いてしまう。


「とは言っても、ガンプラ専門だけどな。オルフェンズのガンプラ絡みでイベントやらに出て、ガンプラも作って、バトルしろって話だ」

「で、でもどうして……!」

「ですです! それなら設定監修もしているチョマーさんが!」

「そっちを中心に回るからだよ」


なるほど……手が回らない部分もあると。チョマーさんもラッシーを飲みながら、困り気味に笑う。


「なので日本人で都内在住、更にフットワークの軽い相方が欲しかったんだよ」

「確かに恭文さんのフットワークは……軽いですよ。面白そうなら瞬間移動の如(ごと)くですし」

「あとはあれだ。ジオウとのバトル。メイスで殴り合いもしてただろ」

「あれもそうだけど、君の戦い方で……監督もピーンと来たらしいんだよ。
君にバルバトスでバトルしてもらったら、この上ない原作再現になるのではと」

「僕が」


バルバトスを……あのガンプラを使って、戦う……! ゾクゾクしっぱなしで、つい身震い。

しかも仕事で……趣味と言う名の仕事で! なんて最高だぁぁぁぁぁぁ!


「と、というか……え、三日月・オーガスって、ラフファイト派なんですか。サミングとか、ヘッドショットとか、首切りとか」

『サミング!? 首切り!?』

「ですです! こう見えて恭文さん、戦いではかなり荒っぽいですよ!? 夕方五時では放送できないのです!」

「い、妹さんも同意見って……あぁ、よかった!」


あれ、何かキャストの皆さんが盛り上がってる! むしろ拍手喝采が起きそう!


「大丈夫大丈夫! それならむしろピッタリ……ほい!」


そこでチョマーさんが出してきたのは……台本が二冊? それを受け取り、ぱらぱらとチェック。


「そいつは第二話・第三話の台本だ。まだプロットに毛が生えた程度だけどな」


チョマーさんの補足を受けながら、確認……ふむふむ、ふむふむ……ふむふむ!


「恭文さん……!」

≪驚きましたねぇ。戦闘プロットを見る限り、深夜枠じゃないですか≫

「いいねいいね……こういう戦い方」


三日月・オーガス……よく分かった! なので台本を閉じて、丁寧に置く。


「大好き! チョマーさん、その話はお引き受けします!」

「ありがとう! まぁあれだ、お前に要求することはただ一つ……もっと暴れろ!」
-
「はい!」


そして僕達は握手を交わし、みんなからの拍手を受けつつ商談成立。

大会中はあれだけど、アフレコ現場にも極力お邪魔させてもらうことが決定。

九月に入ったらHG バルバトスのサンプルも受け取れるらしい。


これは……トオルにいい土産話ができたぞ! 僕、一気に飛躍します!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


さっきおじさんが指で挟んでいたのは、<ガンダムマーカー>という塗料の入ったペン。

レイジくん達はそれで丁寧に……ちょっとずつ、ちょっとずつ塗装開始。


……あ、そう言えば。


「そう言えばあなた、お名前は」

「へ!?」


銀髪の子に、名前を聞いてなかったので質問です。するととても慌てた様子になって。


「アイ……アイナ! そう、アイナ!」

「アイナちゃんですか! 素敵なお名前です!」

「はい」

「へぇ、お前そんな名前だったのか。今まで知らなかったぞ」

「ご、ごめんね! シャイなもので……おーほほほほー!」


それで私とディードちゃんは、トオルさんの指導で全塗装です。

合わせ目はバッチリ消したので、次は筆塗り。


……なんですけど、少し新しい方式を試していて。


「……水溶きアクリル、でしたよね」

「あぁ」


タミヤの水性アクリル塗料を、アルミホイルのパレットに取り分け、それを二割程度の水で希釈。

はい、溶剤じゃないんです。水で希釈した上で、そのまま……ビシャビシャと塗る。

なお流動性が高い状態での塗装なので、間接部は固着しないようバラしています。


「塗ったらドライヤーで乾かしていくんだ。水が溜(た)まっているようなところは、ティッシュをくっつけて吸い取っていく」

「はい」

「ディードちゃん、ここー!」


ベルちゃんも手伝ってくれて、三人で一緒に……すると、どういうことでしょう。


「色が、つくものなんですね……」


ディードちゃんが驚きの声を漏らす。最初は流れまくっているように、そう感じたんです。

でも明らかにプラスチックとは違う色が乗って、それが輝いて……しかも、筆ムラもほとんどありません!


「旅先で知り合った、プロモデラーの人に教えてもらったんだよ。スケールモデラーなんだけどな。
……溶剤が比較的少ないから、上塗りしても下地が溶けにくく、色が重なっていく。
水溶きした塗料自体の流動性があって、薄い塗膜が作れるんだ。しかもムラなどもなしで」

「す、凄(すご)いです……」

「ただ塗膜自体の強度は弱いから、トップコートはしておくべきだ。ただし何度かに分けて」

「はい」


恭文さんや会長からも教わったことです。

塗膜が厚ぼったくなるし、場合によっては白化現象も起こるから、トップコートは一度に吹かない。

表面へ瞬間的に吹き付けるイメージで、薄く……何回かに分けて重ねる。


というわけで塗装終わったパーツに、一緒に購入していたデカールを張り付け。

過剰にならず、アクセント程度に――それからトップコート開始。


一つ一つ、慎重に進めていく。お姫様が階段を、一歩ずつ上がるみたいに。


「しかし卯月、作業が丁寧だ。タツヤからも教わったんだよな」

「はい」

「アイツも腕を上げてるってことか。……まぁ若干アホなのは変わらずだけどな!」

「アホ!?」

「いや、だって……第八ピリオドの試合で! あーあはははははははははは!」


大笑いしだしましたぁ! あぁ、アレです! あの正体をバラしたので……そう言いながら、部屋の出口を目指そうとするので。


「どこへ行くんですかー?」


一声かけると、ぴくりと震える。

引きつった笑いを向けながら振り向くので、手招き……静かに手招き。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


色の足りないところを塗っていく。

手が震えるときは呼吸を止めて、本当に少しずつ。

筋彫りには、専用の細ペンを使い、なぞるように色を載せていく……よし。


「「――サー! マーカーでの墨入れ、終わりました!」」

「よおし! 仕上げに入るぞ!」

「「サー! イエッサー!」」


というわけで、トップコートの缶を持って、しっかり振る……振らないと駄目らしいんだよ。

しかしガンプラのことになるの豹変(ひょうへん)して、やたらと大好き。まるで誰かさんみたいだ。


――そんなことを考えながらも、トップコート開始。

どうもスイッチを押したときと、離すときは液体の出方がまばらになるらしい。

それがコートには悪い影響を出すそうなので、そこだけはかけないように注意。


あとは薄く、熱くかけ過ぎないように。液体が垂れないように。

しゃっしゃって感じでいいらしい。それだけでもプラスチックの質感が、塗装したガンプラみたいに変わっていく。


――そうして夕方になろうとしていた頃、ようやく……オレ達のガンプラが完成した。


「はぁ……すげぇ……!」


オレのビギニング……滅茶苦茶(めちゃくちゃ)カッコいいじゃねぇか!

合わせ目を消すだけでも、何かこう……セイのガンプラに近づけたっていうか!

そうそう、これだよ! このすげー手間が入ってる感じ!


「……おじさんとお兄さんに教えてもらって、ちょっと手を加えただけなのに……こんなにも出来映えが変わるなんて」

「ガンプラは、手を加えれば加えるほど、それにこたえてくれる。カラーリングや武装の変更、機体改造――創意工夫は無限大だ」

「無限大……そういやウヅキ達は」

「「できました!」」


おぉ、全塗装ってのをしたのに、もうできた……そう、できていた。


合わせ目もしっかり消して。

全部のパーツに塗装が施され。

更にどちらの足下やスラスターも、泥や土、焼けたような汚れがこびりついていて。


各所のエッジには、塗装が剥げたような……銀色の傷が……!


「「なんか凄!」」

「おぉ、これは見事な汚し塗装だ! しかも全塗装まで!」

「ウェザリングカラー、及びウェザリングマスターで、ちょいちょいっとな」

「私、合わせ目消しから全塗装まで……三時間程度でできるなんて、思ってませんでしたー」

「私もです。ザクIを塗装したときは、丸一日がかりだったのに」


どうやら兄ちゃんが言ってた、水溶きアクリルっての……すげー早く完成できるらしい。

二人とも目から鱗(うろこ)って表情で、楽しげに笑ってんだよ。


「やるね、トオル少年。数時間でこれほどのものを指導できるとは――!」

「いやいや、卯月とディードの基礎経験値があればこそだ。……お前らも楽しんで作っていけば、すぐできるようになるぞ!」


その後押しに、ついアイナと笑っちまう。楽しんでいたのは、オレ達も同じだった。

でもお楽しみはここから――作って飾るだけでも楽しいって分かったが、バトルの楽しさもある!


「よっしゃ……早速動かすとするか!」


もう乾燥しているので、ビギニングガンダムを持って立ち上がる。


「お前、バトルできるか?」

「え」

「ガンプラバトルだよ」

「わ、わたしがそんなの」

「だよなぁ。……えっと、案外」

「回想するなぁ!」


アイツはオレにツッコんでから、なぜか赤面しつつそっぽを向く。


「やり方だって分かんないし」

「しょうがないなぁ」

「……仕方ないでしょ」

「大丈夫。この店にあるバトルシステムには、対コンピュータ戦用の無人機体が搭載されている」


そう言っておっちゃんが見やるのは、隣の部屋――四台連結のバトルベースだった。


「一人でもバトルを楽しめるよ」

「なのでまずは、シミュレーションモードで試運転。その後で暴れようぜ」

「おう!」

「じゃあオレはそろそろ」

「そうですね、暴れないと」

「駄目です」


するとウヅキとディードが、トオルの脇を取って、しっかり腕も掴(つか)む。


「おぉおぉ、両手に花で羨ましいなー。ヤスフミが泣いて喜ぶぞー」

「おい馬鹿やめろ! 違う……揃(そろ)って、殺気に近い何かを向けてる!」


だろうな。笑顔が妙に黒いからなぁ……特にウヅキ。


「いや、仕方ないんじゃ。あなた、そのお友達たちと数年に渡って連絡、取らなかったのよね」

「新しいガンプラパーツを送っても、連絡先すら記載してなかったって言うんじゃ……そりゃあ捕まえたくもなるだろ」

「えぇ。なので恭文さんが来るまでの間――」

「会長の会議が終わるまでの間――」

「「私達がしっかり、確保しておきますので」」

「ベルも確保ー!」


それでベルの奴も、トオルの頭に乗っかりマウントポジション。

なぜかトオルは、顔を真っ青にして震えだした。……それも当然だろう。


ヤスフミやカイラ……だっけ? ソイツが連絡先すら記載しなかった件で、激怒していたとか。

見つけ次第ボコると公言していた……そう聞いた辺りから、アイツは部屋の出口を気にしだした。

……逆を言えば、マジでやるんだろうな。ヤスフミはともかく、そのカイラって奴も。


「お、おおおおおおお……おっちゃんー!」

「さぁ行こうか! 君達の戦場へ!」

「いけるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


間違ってはいない……歓迎<ボコる>ことを受け入れるのもまた、戦場だろう。

んじゃあ、まずはオレからだな! ウヅキやディードの、ウェザリングってやつの効果も見てみたいが……もう待ち切れねぇ!


オレのガンプラが、どんなふうに飛んで、どんなふうに戦うか……この目で確かめたいんだ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


≪――Plaese set your GP-Base≫

ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Space≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

今回は宇宙……いいね、シンプルに暴れられそうだ。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「レイジ――ビギニングガンダム! 行くぜ!」


カタパルトを滑り、そのまま宇宙へ飛び出す。ん……なんか、金平糖(こんぺいとう)みたいなのが浮いてるな。

いや、あれは特訓した溶きに見てる。確かソロモン……そう、ソロモンってでっかい基地だ!


それに近づきながら、表面を滑空するように飛ぶ。バレルロールやローリング、スラローム交えて、操作感を確認。


「ははは……どうだ! オレの作ったガンダムは!」

『はいはい、凄(すご)い凄(すご)い』

「覚えておけよ。その言葉をそっくりそのまま返してやる……お前の番でな!」

『やめてよ馬鹿!』

『まぁまぁ。……どうだい、初めて扱う機体でも。自分で作ったものなら、機体特性もつかみやすいだろ』

「全くだ」


セイとセシリアが言っていたな。そういうのは作成する中で覚えるもので……オレみたいに、動かして見抜くのは例外。

そんなもんかと思ってもいたが、今はそれが正しかったと痛感してる。

おっさんの指導も厳しい分、的確だったってわけだ。……こりゃ、テストは失格だな。


これをオレの成果と誇るのは、一族の誇りを汚す行為だ。正直に伝えよう。

オレ一人の力じゃ無理だった。だが……いい勉強ができたってな。

……っと、あんまり感動ばっかもしてられないな。何せシミュレーションだから、相手が。


「オレの相手は……お、あれか」


そう、相手がいた。紫の光点が光り、更にレーダーにも反応。前方五百……工学モニターが自動でズーム。

紫色の……ジオング? あぁ、ジオングだよな。最近……セイに……。


「あの機体……!」


そうだ、セイに教えてもらった。

オレ達を水中に引きずり込んで……それだけで、ぶっ壊れたガンプラも……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「わぁ……足の付いたジオングです!」

「あぁ。しかもパーフェクトじゃない。逆関節のクローレッグ? だがあれは」


そこでトオルさんとおじ様が、怪訝(けげん)な顔で腕組み。


「どうされたのですか、お二人とも」

「おかしい……シミュレーションのCPU機体<粒子映像>は、今だとモックに統一されていたはずだ」

「デフォルトではそうだ」

「おっちゃん、設定は」

「武装はランダム、機体は<デフォルト>。つまり……あんなガンプラが出ることは、あり得ない」

「「えぇ!」」


卯月さんとベルが驚きの声を漏らす中、モック……慌ててあのジオングに注目。

でも、類似するフォルムは一切ない。あれは正真正銘のジオング……だとすると、あれは。


そこでジオングの改造機体は、両手の有線制御式五連装メガ粒子砲を一斉発射。

次々と放たれるビームを、ビギニングが左に避けると……腕が分離。


「腕が取れた!?」

「オールレンジ攻撃だ!」


そのとき、アイナさんの表情が僅かに曇る。……そして、有線で繋(つな)がれた両腕が、ビギニングを蹂躙(じゅうりん)し始める。

その様子にいても立ってもいられず。


「卯月さん」

「ディードさん……あ」


卯月さんは私が取り出した、GPベースを見て。


「はい!」


すぐに頷(うなず)いてくれる。何にしてもあれはイレギュラー……でも、今なら飛び込める。

だって諸先輩方に及ばないとしても、私もビルドファイターなんだから。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


右・左・上昇・左ローリング・後退……あちらこちらから放たれるビームを、何とか回避していく。

チハヤのケルディム相手に、ビットの対処を練習してよかった。あれよりは楽だぜ。

ビギニングも……まぁビルドストライクほどじゃあないが、よく動いてくれて大助かりだ。


「……!」


腕を撃墜しようとするが、その前にアラームが響く。正面……本体か!

頭と腰、足の砲門が一斉に向き、黄色い奔流を連続発射。


五月雨のように降り注ぐビームを左右へのスラロームで避け、近づこうとするが……その合間を縫って、横方向から光が走る。

三時方向・上二十度の角度から走る、左腕による射撃。それをシールドで防いだ途端、機体が衝撃で吹き飛ぶ。

何とかアームレイカーを鋭く動かし、機体を制御。地表すれすれに着地してから、すぐに後ろへ跳ぶ。


デカブツの砲撃をすれすれで避けると、着弾地点で爆発。ソロモンの表面が砕け、小さな岩が散弾のように襲ってくる。

それもシールドで防御し、衝撃から思いっきり吹き飛ばされた。


『レイジ少年!』

「大丈夫だ!」


損傷は軽微……だが、あっちこっち傷だらけ! 直撃したらマジで終わりだな!


「ヤロウ……人が苦労して作ったガンプラを」


そう言いかけて。


「あ……!」


一気に、背筋が凍り付きそうになる。


そ、そうか……。

セイのヤツはバトルの最中、いつもこんな思いを。

しかも、あいつのビルドストライクは俺のと違って……何日も、何十日もかけて作ってる。


いや、それだけじゃない。ラルのおっさんに連れていかれた、ガンプラバーの奴らだって。


――ラルのおっさん――

――なんだ――

――二つだけ分かったことがある。一つはあのガンプラ動かして、セイのガンプラがいかに凄(すご)いかってこと。
……もう一つはこの程度の実力しかない相手じゃ、練習にならねぇってことだ――


あのときおっさん達は、自分達を馬鹿にされたから……それだけが理由で、怒ったんじゃねぇ。


――奴は……ユウキ・タツヤのガンプラは、こんなもんじゃねぇ。……もっとだ! もっと強い奴はいねぇのか!――


自分のガンプラも、丹精込めて作った相棒も馬鹿にされたから。


――このガキ……調子に乗りやがってぇ!――

――大人をなめんじゃねぇぞ!――


だからあんなに――。


――レイジ君、バトルはただ操縦が上手(うま)ければ勝てるものではない。ガンプラや装備に対する知識も必要となる。
もちろんガンプラへの信頼と愛もな。……無闇矢鱈(やたら)な経験を積むだけでは、決して強くなれんぞ――


あのときオレは、壊したボールにも謝った……謝ったつもりだった。だが。


――……分かった。つーか、悪い――

――私に謝る必要はない。君が謝るべきは――

――すまねぇ――


……ほんと、何やってんだよ。

<こんなこと>も分からずに、バトルしていたのか……オレはぁ!


『前!』


突っ込んできたデカブツを上昇して回避。更に奴は反転して、体のあっちこっちからビームを放射。

それは左へのバレルロールで避け、距離を詰めていく。


後悔するのも後だ。セイの奴が一体、何に『怯(おび)えていた』のかも分かったが……それも後だ。

今はこの野郎をぶっ潰す! オレと……オレが作った、ビギニングでな!


『相手の懐に飛び込むんだ!』


いら立ちながらも回避行動をとり続けていると、おっさんの声が響く。


『ガンダムのパイロット<アムロ・レイ>もその戦法で、シャアのジオングを攻略している!』

「そうか!」


その言葉を導(しるべ)に、更に砲撃を抜け……懐へ入る。そのままビームライフルを突きつけた瞬間、衝撃が走った。

……奴の足が翻り、爪が開く。それでシールドとライフルが弾(はじ)かれながら、ビギニングガンダムは胴体を握られる。


『しまった、足があることを忘れていた!』

「この嘘(うそ)つきぃ!」


やべ……頭の砲口に、エネルギーがチャージされてやがる!

……だがそこで、後方から突然ミサイルが飛来。

それらはビギニングの両脇をすり抜け、デカブツの両足に命中。


その衝撃でクローの力が緩んだ間に、素早く脱出。クローは軽く傷ついただけで、まだ健在だが……!


『そこです!』


……それだけじゃない。鋭く走る砲弾が、オレのすぐ脇を突き抜けた。

それは爆炎を突き抜け、退避し始めたジオングに命中。胴体部が穿(うが)たれ、装甲に確かな穴が生まれる。


「コイツは……」


七時方向へ振り向くと、マーキュリーレヴを構えた陸戦型ジムがいた。


『よし、いい狙いだ……卯月!』

『前です!』


分かってる……またビームが飛んできたので退避……が、そこで間に入り込む青い影。


『はぁ!』


ソイツはヒートソード二刀を唐竹(からたけ)に振るい、デカい奔流を真っ二つに切り裂き……爆散させる。


イフリート改……ディードか!

更にディードは、足下の六連装ミサイルポッドをフルバースト。

白煙を放ちながら撃たれる砲弾は、退避したデカブツに着弾し、更に追い詰めていく。


陸戦って、宇宙は駄目なんじゃ……そうか、その辺りも調整してるんだな!


『全く……見ちゃいられないわ』


更にコマンドガンダムがやってきて。


『腕と足が来る!』


有線式の腕と足が突撃してくるので、素早く散開して回避。すると奴らはオレ達を囲みながら、エネルギーチャージ。


『ディード、ウヅキ!』


アイナが声かけした上で、こちらの背中に回る。軽くボディが当たって、その意図が伝わってきた。

四肢から放たれる奔流――それを再び散開して避けると、右腕と左足のエネルギーが正面衝突。

そのまま相互反応を起こし、爆発。衝撃でオレ達は吹き飛び、四肢もそのバランスが崩れる。


オレ達はいい、退避だからな。だが……奴らにとっては隙(すき)だ!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ディードちゃん!」

「EXAM<エグザム>システム」


武装<SPスロット>を選択し。


「行きます!」

≪EXAM<エグザム>システム――スタンバイ≫


能力発動――その瞬間、イフリート改は蒼き閃光(せんこう)となる。

左へ大回りしながら、まずは左腕目がけて左薙の切り抜け。

すぐさまきりもみ回転しながら下降――百メートル下の右足を、唐竹(からたけ)に両断。


残り二基がバランスを立て直そうとするけど、右腕は卯月さんのレールガンを受け、再び乱回転。

その間にレイジさん達の合間をすり抜け。


『『速!』』


右足から六時方向に陣取り、砲撃を放つ左足に突撃。更にジオングの改造機体も、口から奔流放射。

左手のヒートサーベルを逆手に持ち替え、その場で回転――奔流に挟まれる形となったけど、紅(あか)い剣閃で切り払い、爆散させる。


そのまま一回転して、左のヒートサーベルを投てき。第二射を狙う方向に突き立てた上で肉薄。

右跳び蹴りでより深く、内部へ突き立てた上で……絵を持ち直して八十度回転。内部から抉(えぐ)り斬る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「助かったぜ、ディード! ……腕がなくなれば」


下がっていくデカブツへと踏み込み。


『残っているのは』

「その馬鹿でけぇ」

『本体だけよ!』


奴はビームを放ってくるが、そんなもんじゃあオレ達の動きは止められない。


右バレルロール。

連続スラローム。

宙返り――。


まるで手足のように機体を操り、すり抜けていく。


更に卯月のレールガンが再び走り、頭の砲口に直撃。

いや、発射される寸前だった、粒子のスフィアに……だろうか。

結果爆発が起き、最後の武器が派手に潰れた。


更にコマンドガンダムは、改造パーツである手りゅう弾二つを投てき。

奴が爆発でよろめいている間にぶつけ、各部武装を一斉発射。


肩のミサイルランチャー。

グレネードランチャー付きレーザーマシンガン。

更に重機関砲フルバースト――これで終わり……いや、駄目か。


奴は背中からまた別の腕を出して、それをガード。しかも粒子エネルギーがまとわりついて、バリアが展開。


『まだあるの!?』

『しつこい!』


アイナの一斉射撃を受け止め、爆炎ごとたやすく払う。そして腕が射出されようとした瞬間。


『そこです!』


奴の十一時・上四十五度から、ネットが射出――分離しようとした、最後のアームごと絡め取り、捕まえちまう。

そちらを見ると、バズーカを構えた陸戦型ジムがいた。各部スラスターを必死に吹かせ、踏ん張っている。


『アンタもやるじゃない!  レイジ!』

「おうよ!」


卯月が作ってくれたチャンス……だが、推力に違いがありすぎる。

デカブツはネットを振り払おうと必死にもがき、そのたびに陸戦型ジムが揺れる。


時間はない……だが、オレ達には数秒で十分だった。


コマンドガンダムは装甲をパージし、ナイフを取り出しながら加速……そのまま背後へと回る。

ビギニングもビームサーベル三基を抜いて、同時に展開……爪のようなサーベル達を突き出しながら突撃。


『「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」』


最後の足からバリアも展開しかけるが、その寸前でオレの脇を蒼が突き抜ける。

目も眩(くら)むような速度でイフリート改が走り、構築粒子を右薙一閃――切り裂いて霧散させる。


それもネットを傷つけないよう、切っ先のみで……すれすれでだ。コイツの剣技もやべぇ!


どぎまぎしながらも、粒子が再構築されない間に刺突。


『……!』


こちらのビームサーベルは、足と本体を貫き。

コマンドガンダムのナイフは、的確に急所を貫く。


……すぐさま離脱すると、デカブツは力なく崩れ落ちながら……派手に爆散。


≪BATTLE END≫

『「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」』

『『はい!』』


消えていく粒子――そんな中、隣にいたアイナとハイタッチ。

駆け寄ってくるディードと卯月とも手を重ねて、勝利の喜びを分かち合う。


「まぁ当然よね。わたしを誰だとおも……!」


そこでアイナは口をパクパクさせてから、そっぽを向いた。


「……あれ? お前、ガンプラバトルをやったことは」

「あ、アンタの……操縦を見て、見よう見まねでやっただけよ! 意外と、簡単よね!」

「アイナちゃん、凄(すご)いです!」

「ニュータイプ、でしょうか」

「……本当かよ」


つい疑わしくなるが……っと、あれ?

そこで一つ気づいて、改めて周囲を見やる。


「なぁトオルは……いるな」

「はい。私のセコンドに入ってもらったので」

「……入りました。いえーい、アイドルのアシスタントだぜー」


……力なく……涙目で喜びを語るトオル。それに対しオレ達は、何も言えなかった。


「じゃあ、あのおっさんは」

「「「「おっさん……は!」」」」

「あ、あれ……いない! 髭(ひげ)のおじさん、いないよー? ディードちゃんー!」

「一体、どこに――」


そう、あのおっさんがいつの間にか……消えていた。まさか幽霊……んなわけねぇかー!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


男性用トイレの前に置かれたのは、清掃中の看板。

それは無視して入っていくと、大きい方の部屋側から水音。

その音がしたドアの前に立つと、中から出てきた男が硬直。


……間違いない、Cだ。左手のトランクは簡易型のバトルシステムだな。それも違法なものだ。


「あの改造機体を見て、ピンと来たよ」


簡単に言うと、あのトランクでバトルシステムにハッキング。

ガンブラをスキャンして作り上げた、立体映像でバトルに介入していたわけだ。


今回も……そして、先日の第七ピリオドでも。


「まさか、こんな所で出会えるとは――」

「……!」

「あるときは、場末の模型店店主。あるときはガンプラを普及させるため、世界中を旅して回っているガンプラマニア――しかしてその実態は」


付け髭(ひげ)を取り、上着を脱ぎ捨て……正体を現す!


「国際ガンプラバトル公式審判員! イオリ・タケシ!」


審判員証を突き出し 手錠も取り出して見せつける!


「ガンプラマフィア『C』! 公式バトル大会への不正参加!
ガンプラ違法操縦など……三十六の罪で、お前を逮捕・拘束する!」

「ぬぅぅぅぅぅ!」


そこで奴は素早く懐から、拳銃を取り出し突きつける。それには不敵に笑い……。


「そんなおもちゃでたじろぐ私と」


そして発砲――私の脇を掠(かす)めた銃弾は、トイレの壁を確かに砕いた。

……思わず振り向き、そちらを確認……あはははは……あははははは……!


さすがにそれは予想外で、両手を挙げながら一歩ずつ下がる。


「おもちゃじゃ、なかったんだなぁ」

「……!」


そこでCは私に組み付き、左手でネックハング。そのまま引き寄せて、トイレの入り口に銃口を向けた。

乱入してきたのは……五十台ほどの、二人の男。夏に黒スーツとは、なんと剛気な。

更に……その合間に、変な仮面を付けた少年がいた。いや、待て。あの黒コートには見覚えが……!


「や、恭文君!」

「タケシさん! ちょっとちょっと……そんな男が趣味なんですか? リン子さんが泣きますよ」

「それは誤解だぁ!」

「やっちゃん、知り合い?」

「イオリ・タケシさん――第二回世界大会準優勝者で、伝説のファイターです」

「「あぁ、それで……」」

「動くな」


更に奴らも銃を取り出し、Cに突きつける。……私のこめかみに、銃口が突きつけられているのにー!


「人質を放して、銃も下ろせ……弾は抜いた上でだ」

「お前には、聞きたいことが山のようにあるからな。さぁ、ゆっくりだぞ――」

「撃てるものなら撃ってみろ」


Cはそう言って、私の右こめかみに銃口を突きつけ……じゃない! もはや押し込んでいる! 今にも頭が吹き飛びそうで怖い!


「お前達こそ弾を抜いて、銃を下ろせ……下ろせぇ!」


すると男達と恭文君は顔を見合わせ。


「タカ、今の……ラテン語?」

「日本語。意味は」

「撃てるものなら、撃ってみろ――ですね」


揃(そろ)って構えを解き。


「そうだ、それで」


無造作に再び銃を振り上げ、揃(そろ)って発砲。私達の両脇で破砕音が響いた。

それに硬直していると、リボルバーの男とオートマチックの男が、更に一発ずつ発砲。


「がぁ!」


Cの右肩と左肘が撃ち抜かれ、銃が虚空を飛んで手元から離れる。

私の両側で鮮血が走り、Cの拘束が解除される。


「伏せて!」


恭文君の指示に従い、奴から離れて地面に伏せる。その瞬間、恭文君が疾駆。

伏せた私の脇を抜け、Cの胴体部に右跳び蹴り。奴の胸元を陥没させる。

その衝撃でCは吹き飛び、帽子とサングラスが外れながら、トイレ最奥の壁に衝突。


大の字を描くように埋まり、血へどを吐いた。



「がは……!」

「タケシさん、大下さん達の方に」

「こっちこっち」

「はいー!」


すぐ起き上がり、おじさん達の脇を抜けてその後ろに。

改めて見るとCは顔面蒼白(そうはく)。恐怖を浮かべていた。


「ば、馬鹿な……日本(にほん)の警察が、こんなこと」

「だったら甘く見過ぎだ。ここはハマじゃないが」

「今は俺達がいるってこと、覚えておけよ? あとはまぁ」

「……!」


それでもCは敵意を消さない。震える右腕を素早く動かし、コートの中に手を入れた。

……が、その寸前で恭文君から小太刀が投てき。奴の腕ごと腹を射貫かれ、反撃は封じられる。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! し、死ぬ……死ぬ死ぬ死ぬ! 死ぬぅ!」

「……あと言い忘れたが、慎重に行動しろ」

「いいな……変な動きをしたら」


そこで二人が見やるのは……殺意を隠そうともせず、Cをにらみ付ける恭文君だった。


「やっちゃんが即座に、お前を地獄へ送るぞ……」

「コイツも恩人やら、その息子に手出しをされて……相当切れてるんだ。俺達も止めないから、そのつもりで」

「……!」


その言葉で奴の体がひときわ強く震える。……苦しげに呼吸しながらも、意識を手放した。

恭文君の殺気に煽(あお)られながら……それが、奴の終えん。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


すっかり暗くなった頃、レイジが戻ってきた。さぁ何が来るかと思っていたら。


「えぇ……!」


簡単フィニッシュではあるけど、しっかり作られたビギニングガンダムが……出されたでござる。


「おぉ……」


その完成度には、ラルさんも唸(うな)るところ。

……ここで重要なのは、初心者のレイジがここまで作ったこと。

合わせ目についても、武器はちゃんと消しているから……それがもう驚きで。


「このビギニングガンダムを、レイジが作ったの!?」

「どうよ! 俺にかかれば、ガンプラを組み立てることなんか簡単だってーの!」

「嘘は駄目ですよ、レイジ君ー」


そこで部屋の玄関から入ってきたのは、笑顔の卯月先輩と……知らない男の人だった。


「卯月先輩!」

「分かってるって。その、すまん!」


……レイジが即座に頭を下げてきたので、大体の事情を察する。


「もしかして卯月先輩が」

「いえ。私もこの人に教えてもらって」

「えっと、どちら様で」

「サツキ・トオルだ。……あ、一応言っておくが、実際の作業は全てレイジがやってるから」

「うーん」


挨拶しようと思っていると、ラルさんが神妙な顔で僕の隣に。その視線はサツキさんに向けられていた。


「ただ組み立てただけでなく、モールドに墨入れし、合わせ目消し。全体につや消しスプレーまで……なかなかだ。だがサツキ・トオル?」

「はい……恭文さんとタツヤさんの、探していたお友達です」

「そうか、君が……!」

「ユウキ先輩と恭文さんの!? 探していたってどういうことですか!」

「その辺りはまた後でな。それよりほれ、レイジ」

「……セイ、テストは不合格でいい」


サツキさんに促され、レイジが意を決した様子でそう言い切る。

その表情、その言葉だけでよく分かった。……レイジは誇りを重んじる。

手助けを受けたことで合格するのは、レイジにとってズルだった。


僕が出したチャンスに対する無礼。そう思っているからこそ、迷いのない瞳を見せつける。


「レイジ」

「今日のことでよく分かった。オレは」

「明日から、バリバリ手伝ってもらうね」

「……! ちょ、ちょっと待てよ! オレは」

「誰かに教えてもらうのが駄目って、言った覚えもないしねー」


でも僕は、それだけで十分だった。

ガンプラと、レイジの手を見れば分かる……自分の手を使って、作った作品だと。

ビギニングを出したときの、レイジの誇らしげな表情でも分かる。一片の曇りもない、今の全力だと。


「でも追試は受けてもらおうかな」

「おう! このまま合格は、一族の沽券(こけん)に関わる! 何でもこい!」

「じゃあ一つ質問。……楽しかった?」

「え」


だからレイジは、きっと答えてくれる。一瞬呆(ほう)けても、すぐに……胸を張って。


「あぁ! すっげー楽しかった!」

「なら合格だ」

「ほ、本当にいいのか!? 今のが追試ってことだよな!」

「もちろん」

「セイ……!」


レイジは感激した様子で、僕に右手を振り上げる。なのでいつも通り、全力のハイタッチ。


「頼むよ、レイジ!」

「あぁ、任せとけ!」

「よかったですね、レイジ君!」

「ありがとな! ……っと、ディードにも礼を言わないとなぁ」

「ディード?」

「ヤスフミの義妹だ。で、嫁を目指している」

「まだいたの!?」


恭文さん……幾ら法律でハーレムOKになったとはいえ……業が深すぎる!


「そう、ですよね。しかもディードさん、凄(すご)くスタイルがよくて……私なんて、どこも勝ってなくて」


それで卯月先輩が怖い! あの、胸をぺたぺた触るのは……アイドルさんですからー!


「……っと、そうだ。セイ、ひげ面で世界中を回る、ガンプラマニアの知り合いっていないか?」

「はい?」

「実はビギニングも、そのおっさんに選んでもらったんだよ。……ふだんは穏やかなくせに、ガンプラ制作のときだけスパルタだ!」

「だが俺達が知らない間に、いなくなっててさぁ。お礼も言えなかったんだよ」


あぁ、それで……もしかしたらガンプラ好きから、僕の知り合いかもと。でもそんな知り合い……ラル大尉ならともかく。


「それで、そのおっさんからこれをもらったんだ」

「あ、私もです」


卯月先輩と一緒に、ニッパーを取り出すレイジ。

……その柄尻に刻印されたハロマークに、僕とラルさんは注目。


「「……そのニッパーは!」」

「知ってるのか、セイ!」

「というか、ラルさんも……やっぱりお友達だったんですね!」

「それどころの騒ぎではない! 恐らくその男は――」


父さん……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


Cはかなり乱暴な治療を施された上、警察に送られた。私も恭文君と大下・鷹山両刑事と同行させてもらう。

……そうそう、あと二人いるか。私達を探して、追いついてきた少女達が。


「……でも恭文さん、その仮面はやっぱり」

「外れないよー! すっごく引っ付いてるー!」


そんな少女達の喧噪(けんそう)で、GT-Rの車内は大きく賑(にぎ)わっている。


「大丈夫だよ。リインはす巻きにするから」

「理不尽なのですー! というか、みんなのお仕事に差し支えありまくりだったのに!」

「……君の瞳は懐中電灯って? 百万ボルトよりは控えめだが」

「まぁ、やっちゃんだからなぁ」


そう、ディード君とベル君……リイン君だ。


恭文君とリイン君は遠出していたようだが、サツキ君の件で一気にUターン。

その直後にCが暴れて、鷹山刑事達と合流。あのドンパチになったそうで。


「だがやっちゃん、ここは俺達に任せて、友達の方に回っても」

「そっちはタツヤに任せてます。あとは卯月も……首根っこを掴(つか)んでいるので」

「えぇ。卯月さんからは逃げられません」

「……どんだけ強いんだよ、アイドルなのに」


鷹山刑事は助手席で静かに首振り。それからすぐに、後部座席の私に振り返る。


「イオリ・タケシさんも、すみませんがもう少しだけ」

「問題ありません。国際ガンプラバトル連盟としても、Cには聞きたいことが山のようにあります。……特にB.O.Bとの関連は」

「俺達もです」


鷹山刑事はそう言いながら、視線を前に戻す。


「後はアイツが、どれだけ情報を知っているか……だな。蒼凪」

「依頼した相手は、身分や声を誤魔化(ごまか)していますね」


恭文君はCの持っていた携帯や機材を没収。魔法も使い、素早く解析を進めていた。

……最初は驚いたが、両刑事は魔法についても御存じの様子。どうも恭文君とは年齢差こそあれど、戦友と呼べる間柄らしい。


「解析しましたけど、電話の声はボイスチェンジャーがかけられてます。メールも完全に捨てアドですね」

「追跡はできるか」

「時間さえあれば。ただ声の方は、口調からすると女です」

「じゃあ、そっちのデータは俺達に回してよ。調べてみるからさ」

「お願いします。さて……面白くなってきましたね」

「確かに。雇った奴らは、今頃あわ食っているだろうな」

「そのままじわじわと追い詰めて、最終コーナーでごぼう抜きと行きますか――!」


だからこそ三人揃(そろ)って、楽しげにそんな話をする。それにはディード君達と揃(そろ)って、肩を竦(すく)めるしかないわけで。


……すまないセイ。

正体も明かせず、世界を飛び回ってばかりだが、テレビで活躍は見ていたよ。

いいビルダーになったな。そして困難に負けない、本当の強さと覚悟を身につけつつある。


今のお前なら、答えと向き合うこともできるはずだ。

……なぜお前は、ガンプラを上手(うま)く動かせないのか。

なぜお前は、戦うことを『恐れる』のか。

なぜお前は、前に出ることができなかったのか。


それを私の口から伝えることは、とても容易(たやす)かった。だがそれでは駄目なんだ。

言葉でどうにかなる話ではない。どうにかしようとすれば、お前の中からガンプラへの情熱が消える恐れもあった。

だから、本当に嬉(うれ)しいよ。お前にとってレイジ君は、最高のパートナーと言えるだろう。


彼と一緒に……いいや、出場選手みんなが戦える場は、我々大人で守る。

だから決勝トーナメントも頑張るんだぞ、セイ……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


会議は何だかんだで、夜まで続いた。携帯のチェックもままならないほど、熱い会議だった……!

なので夕飯もさて置き、アランに送り出される形で全力疾走。選手村の……恭文さんの部屋へと飛び込む。


「あ、タツヤ君!」


フェイトさんが待ちわびたと言わんばかりに、ソワソワしながら出迎えてくれた。


「遅くなって、申し訳ありません! トオルは」

「大丈夫! ほら、早く入って!」

「お邪魔します!」


招かれるままに部屋へ入ると。


「よ、三代目」

「……トオル!」


一年半ぶりに見る、友の笑顔に飛び込み、全力の抱擁。


「久しぶりだな、タツヤー。また強くなりやがって……早くガンプラを再開したくて、うずうずしちまっただろ!」

「それなら何よりだ! ……で」


そう、友は笑顔だった。そして無傷だった……それが、余りに驚異的で。


「恭文さんは……! 君、よく生きていられるな!」

「ヤスフミなら、ガンプラマフィアCを捕まえて、今尋問中らしくて。……今日は遅くなるって」

「そうだったんですか……って、Cを捕まえたぁ!?」

「うん」

「レイジさんのこと、目を付けてたんですよね。それで私達のシミュレーションに介入して」


そう補足してくれたのは、同席していた島村くんだった。

軽く頭が痛むが、こめかみをグリグリしながら……状況を、何とか理解する。


「OK……運悪く、あの人がまた遭遇した。そういうことですね」

「そ、そうだね」

「ヤスフミも相変わらずだよなー。……つーわけで、俺もそろそろ」

「駄目ですよー」


島村くんの笑顔にびくつき、後ずさるトオル。なんだ、この微妙な上下関係は。


「トオルさんは、私達の方で預かります」

「島村くん達の?」

「はい。プロデューサーさんにも事情を話して、臨時スタッフということで雇ってもらいました」

「……トオル」

「……タツヤ、この子ヤバい……鬼が住んでる」

「誰が鬼ですかぁ! ね、会長!」


それについては、顔を背けることしかできなかった。


「どうして顔を背けるんですかー!」

「まぁまぁ。とにかく……卯月ちゃんは遅いから、送ってもらわないと。トオル君もそのときに」

「俺、やっぱり確保継続ですか……!」

「うぅ、ごめん……ヤスフミからも」

――連絡先も作らず逃がしたら……分かってるよね――

「……って、言われてるから……!」

「俺の血祭りが決定しているように感じるのは、気のせいでしょうかぁ! ……タツヤァ!」


嘆く友を受け止め、よしよしと慰める。


「まぁそう言わないでくれ。アメイジングレヴを送ってくれたとき、連絡先もなかったので……本気で心配していたんだよ」

「そ、それについては……済まん」

「あと、カイラも同じだから」

「え……」

「同じ、だから」


トオルは僕から離れ、ガタガタと震え出す。そう言えば、そろそろ――。


『トオルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』


どこからか響く野生の咆哮(ほうこう)に、トオルの体がビクリと震えた。


「あ、カイラちゃんですー!」

「どっから叫んでるんだ、アイツ! やべ、逃げないと……逃げないとぉ!」

「駄目ですよ?」

「ジィザァァァァァァァァァァス!」


――こうして、カイラとトオルの再会もスタートした。

ただ怒りはあるものの、それ以上の喜びが当然のように存在していて。


カイラは……僕やフェイトさんが困り果ててしまうほど、泣きじゃくってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


346プロのお迎えが来るまでの間、トオル君とカイラちゃんは二人っきりにさせてあげよう。

……そう決めた上で、私達は別室に移動。それで……私には、もう一つお仕事があって。

りんちゃん達の部屋に入った上で、タツヤ君にはかくかくしかじか――。


なお無関係な卯月ちゃんには、歌唄ちゃんとともみちゃんを付けて、お散歩してもらってる。

うぅ、あのナターリアちゃんも、今はいなくてよかったよ。でも明日からは……もうご両親とのお話し合いとか、終わるそうだし。


「アリアン……プラフスキー粒子の出自……それで、イオリ君達が」


信じられない様子で、タツヤ君は首振り。


「正確には、レイジ君が妨害を?」

「どうもそうみたい。表に出せる証拠は、掴(つか)んでないんだけど」

「それも恭文と大下のおじ様達が捕まえた、Cって奴から引き出せるかもって……そういう段階だね」

「馬鹿なことを……本来なら、そう言いたいところなんですが」


ただタツヤ君は戸惑いながらも、現実を受け止めてくれる。


「みなさんも御存じの通り、PPSEは社の利益に繋(つな)がると判断すれば、手段を選ばない傾向があります。
実際ガンプラ塾がそれであり、社選出のメイジン候補達がそれであり……それを創設メンバーの理念と捉えるなら」

「今は社の一員でもあるユウキ君から見ても、この”不正”は十二分にあり得るのね」

「はい。……すみません。第二ピリオドの一件で、マシタ会長をもっと問い詰めていれば」

「ああー」

「まあー」


ベビーベッドで不安げに唸(うな)るアイリ達は、大丈夫だよと……撫(な)でて安心させてあげる。

でも……よし! 久々にトラブルな感じで、頭が回ってきた! リン子さんのあれで、エンジンがかかったのかも!


「そこまでは言えないわよ。……事がプラフスキー粒子の出自に関わるなら、いずれはこうなっていたわ」

「ただあたし的には、ある意味納得っていうか」

「朝比奈さん?」

「そうだね、私もりんちゃんと同感。……ヤスフミにも改めて確認したけど、会長はレイジ君に怯(おび)えていたそうなの」

「怯(おび)えていた?」

「向こうはレイジ君を一方的に知っていて、レイジ君は知らない……知り合っても覚えていない。
それって、身分の差が原因とは考えられないかな。レイジ君、アリアンの王子様だって言ってるそうだし」


りんちゃんも……よかった。同意見らしくて、力強く頷(うなず)いてきた。


「アリアンでは、王族はそれくらい絶対的か。実際次元世界でも、そういう事例は多くあるし。でも……もしそうじゃないなら」

「……マシタ会長は、向こうでは犯罪者扱い。だよね、フェイトさん」

「うん。ようは王族に失礼を働いて、連れ戻されるとか……罰せられるとか、そう思っている。
いずれにせよ、今の自分の立場とか、プラフスキー粒子により生まれた利益が全部消えちゃう。そういう恐怖が」

「彼を怯(おび)えさせている……そうか、それなら話が成り立つ。しかし、だからといって……!」


タツヤ君は怒りを拳に乗せ、強く……固く握り締める。……でも、そうだよね。

みんなが一生懸命……全力で戦って、楽しんでいる祭典だもの。それが、身勝手な人に邪魔されて、壊れるなんて。

そんなの、絶対嫌だよ。せっかくトオル君とも再会できたのに……そんなのは。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


怒濤(どとう)の一日が終わり、僕も深夜に解放。それでフェイトと……いっぱい、甘えてこられました。

目一杯の幸せを感じて、日が明けて……本日は親子四人で朝食。


選手村の食堂でガッツリ食べた結果。


「ヤスフミ、私達……聖夜市に戻るよ」

「「あう!?」」

「私達がいると、邪魔になるだろうし……うぅ、ごめん」

「……フェイトが確変を起こした。次は四年後かな」

「ヤスフミー!? うぅ……意地悪ー!」


フェイトが涙目でぽかぽかし始めました。おかしい、僕は真実を告げたはずなのに。


「まぁそうしてくれると……かなり助かる。一応敵のお膝元だしねぇ」

「うん。……それで私、また自分の力でガンプラを作ってみる! そうしたら」

「バトルならいいよ」

「ん……ありがと」


それでフェイトがニコニコしながら、そっと目を閉じる。なので周囲の気配に気をつけた上で、優しく口づけ。

そこからつい何度も……舌も絡めるほど、一杯しちゃうのは、繋(つな)がりゆえというか。


「ざざざざざ……」

「お姉様、砂糖を吐かないでください」

「人理に逆らってるだろ……っと、そうだ。ヤスフミ、そろそろ」


長いキスを終えたところで、ショウタロスが拍手を打つ。


「おぉそうだ。ありがとショウタロス」

「おうよ」

「そろそろ? ヤスフミ」


携帯を取り出し、ポチポチ……ベビーチェアから、アイリ達ものぞき込んでくる。


「決勝トーナメント、一回戦の組み合わせ発表だよ」

「で、でも抽選なら選手のヤスフミは」

「自動なんだよ、そっちは……っと、出た」


さてさて、どんなものかと思っていたら……なかなかに面白い組み合わせだった。


※一回戦組み合わせ

・一日目

イギリス第二:セシリア・オルコットVSアイルランド:パトリック・マネキン

日本特別枠:三代目メイジン・カワグチVSアルゼンチン:レナート兄弟


・二日目

ポルトガル:ルーラ・サンタナVSオーストラリア:ピーター・モーリス

日本第三:セイ&レイジ組VSアメリカ:ニルス・ニールセン


・三日目

日本第二:チームとまとVS日本第五:ヤサカ・マオ

スペイン:トウリ&イビツ組VSインド:ラマーン・カーン


・四日目

ブラジル:ジオウ・R・アマサキVSカナダ:ジャスティン・フォックス

フィンランド:チーム・ネメシスVSイタリア:リカルド・フェリーニ


「ヤスフミが、マオ君と……!?」

「それだけじゃないよ、フェイト。セイ達はニルスだ」

≪大会優勝候補の一角……同年代の天才が相手。さて、どうなりますか≫

「セイ達にも、一応話すべきかもしれないね」


昨日の件もあるし、やっぱ本人達の自覚もないとなぁ。……できれば何も気にせず、バトルしてほしいけど。


そんなことを考えながらも、同時に沸き立っていた。

僕達もまた、戦う者の一人――全力でいくよ。


(Memory56へ続く)





あとがき


恭文「というわけで、次回はトオルと僕との再会――きっと大人気になっていることだろう」


(そう言いながら蒼い古き鉄、なにやらこつこつ作っていた様子)


古鉄≪それは≫

恭文「トオル用の携帯」

ヒカリ(しゅごキャラ)「あ、うん……まずはそこか」

恭文「GPSは任意設定だから、安心して」

ショウタロス「それは安心要素か!?」

恭文「……僕の携帯は、歌唄に筒抜けなんだよ!」

ショウタロス「だよなー!」

シオン「月詠さんの業も深いですね」


(『えっと、今は……え、紀元前? 何それ』)


ショウタロス「おいヤスフミ、GPSが時すら超えてるんだが」

恭文「シャーリーに不可能はないとだけ……というわけで僕達は現在」

金ぴか(術)「随分余裕だなぁ……雑種!」


(飛び交う宝具を空間接続で飲み込み、反射ー!)


金ぴか’(術)(甘い!)


(しかしすぐさま相殺……更に追撃! 蒼い古き鉄、全力ダッシュで回避)


ジガン≪なの!? ど、どういうことなの……コイツ、同じ金ぴかなのに≫

恭文「明らかに僕達が知る奴より、強い……!」


(蒼い古き鉄、転送――背後に回っての右薙一閃を、金ぴか(術)は手持ちの斧で防御。容易く流し、すぐさま全方位掃射。
転送で範囲から退避し、同士討ち状態の宝具が爆散。その爆炎に構わず金ぴか、更に宝具展開。
転送先に飛んできたそれらを、袈裟一閃から始まる二十合の乱撃で払い、突撃してきた金ぴかと切り結ぶ)


古鉄≪というわけで現在、第七特異点のウルクにて、絶賛冒険中です。……どうしてこうなったんでしたっけ≫

恭文「(ぴー)のアホが事情説明しないから!」

???「あははは、ごめんごめんー。でも君も楽しんでいるし、問題ないでしょー」

恭文「大ありだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(なおネタバレのため、一部伏せ字となっております)


ジガン≪でもどうして……サーヴァントってわけじゃないの!≫

恭文「金ぴかよりも大人なんでしょ。ウルクが魔獣達で大変な状況だし」

古鉄≪あぁ、そうでしたね。この人、慢心さえなければ最強でした≫

金ぴか(術)「どうした……まさかこの程度ではあるまい、雑種!」

恭文「当然。……しょうがない、奥の手は隠しておきたかったんだけど」

古鉄≪やりますか≫


(蒼い古き鉄、深呼吸――)


恭文「界王――拳!」


(そして、赤い気を全開放出)


恭文「二倍……三倍……!」

金ぴか(術)「……ほう」

恭文「四倍だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

金ぴか(術)「ふん、それがどうしたと」


(蒼い古き鉄、地面を蹴り砕きながら消失。次の瞬間、金ぴか(術)が吹き飛び、玉座からたたき落とされた)


恭文「こういうことだよ」


(すぐさま身を翻し、金ぴか(術)は着地。忌ま忌ましげに……玉座の脇へ降り立つ、蒼い古き鉄を見やる)


金ぴか(術)「雑種……!」

古鉄≪でもさすがですねぇ。まさかこの状態の攻撃をガードするとは≫

恭文「界王拳――孫悟空って人から教わった技でね。気や身体能力を、何倍にも跳ね上げる技だよ」

古鉄≪あなた、スーパー地球人ブルーにならないんですか? それと組み合わせて最強でしょ≫

恭文「そんな形態はないからね!?」

金ぴか(術)「誰の許可を得て、そこに居座っている……誰の許可を得て、我を見下ろしている!」

恭文「僕の許可だけど、何か問題?」


(……そこで静かに、何かが切れる音が響く)


金ぴか(術)「その不敬、万死に値する!」

恭文「その言葉、そっくりそのまま返してあげよう。……かぁぁぁぁぁぁ、めぇぇぇぇぇ!」

金ぴか(術)「消え去れ、雑種ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

恭文「はぁぁぁぁぁぁ、めぇぇぇぇぇぇぇ!」


(宝具全開射出――が、そこで金ぴか(術)が転送――恭文と立ち位置を入れ替え、自らが射出した宝具の前に晒される)


金ぴか(術)「な……!」

恭文「波はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


(次々と放たれる宝具&四倍かめはめ破の連撃を食らい、派手な爆発が起こる。
本日のED:『草加さんが何かやらかすときのBGM』)


あむ「……やっぱりアンタの能力、金ぴかの天敵なんだ……!」

恭文「そう、相性が悪いだけなのよ。総合的なスペックは圧倒的に金ぴかだし……あとは慢心」

古鉄≪慢心してなかったら、間違いなく勝てませんよ? きっと第七章では、慢心を捨てた金ぴかさんが見られることだろう≫

恭文「……まぁギルガメッシュ、持ってないんだけどね! ちくしょー!」


(おしまい)






[*前へ][次へ#]

3/21ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!