小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory54 『再会、父達よ?』
ここはサイド6――テム・レイの仮住まい。
なぜそんな場所があるか? そんなことはどうでもいい。問題は。
「父さん! 父さーん!」
階段を駆け上がり、アルミのドアを叩(たた)く。すると……父さんは笑顔で、僕を出迎えてくれた。
「よくきたなぁセイ、きょうはお前のお祝いだ!」
「フフ……やったぁ!」
「さあ、おあがり」
小さな部屋へ招かれると……おぉ……!
ある、あるよ! 伝説の『テム・レイの回路』が!
それを見た瞬間、世界が切り替わる……盆踊りが始まる。
ザクが、グフが、ズゴッグが――。
ガンダムが、ガンキャノンが、ガンタンクが、踊り続ける。
そんな中央……特大ハロの上で、僕達は両手を取ってグルグル……グルグル……
「世界大会ベスト16、おめでとう、セイ!」
「父さんもガンプラ普及のため、世界中を旅して……お疲れ様!」
そして僕達は、窓から飛び出し、空を飛ぶ。
「セイ、プレゼントを持ってきたんだ」
父さんが渡してくれたのは、光り輝くゴールデンニッパー。
「わぁ、ありがとう……父さん!」
コロニーを、ソロモンを突き抜け、僕達は宇宙へ飛ぶ……星になる。
「「ガンプラが好きでよかった! ガンプラ、バンザーイ!」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「――という夢を見たんだ! そしてこれが父さんだ!」
「分かるかぁ!」
魔法少女リリカルなのはVivid・Remix
とある魔導師と彼女の鮮烈な日常
Memory54 『再会、父達よ?』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
充電期間二日目――あいもかわらず、スタービルドストライクとミーティアの修理中です。
トーナメントに入ってからも、ある程度の余裕はある。でも纏(まと)まったものとなると……だから、今のうちに全力で!
でもそんな中、レイジが父さんについて軽く聞いてきた。だから説明したところ……タイトルコール前のような有様で。
「346プロって奴らの歌、よかったなぁ。ウヅキも別人みたいにキラキラしててよ」
「うん……って、話を逸(そ)らさないで!?」
「セイ、お前は疲れているんだ。病院に行け」
「なんでだぁ!」
おかしい、昨日見たばかりの夢を……僕と父さんの絆(きずな)を語っただけなのに、とても優しくなって! むしろ怖い!
「ていうか、ママさんはアレでいいのかよ」
「いいよ」
なお母さんは、朝一番でやってきた。それで物すごくお気楽だったので……ちょっと、説教を。
イオリ家の恥さらしだという罪を突きつけてあげた。それでも納得していなかったので、選手村への出入り禁止を通達した。
なお携帯には着信やメールがウザかったので、全て拒否――警備員さんにも『部外者』だと言い含めておいたから、問題ナッシング。
ていうか、今は母さんの妄言なんて聞いてられない……! やりたいことが山積みだもの!
「……本当に済まん」
「レイジ?」
「セイ、あなた疲れているのよ」
「Xファイル!? ……そう何度も言わなくてもいいよ」
……スタービルドストライクの修理と改修も進んでいる。
フレーム部は昨日のうちに何とかなったから、今は外装を……うぅ、型取りしてなかったら、泣くところだった。
「でも、明明後日(しあさって)のトーナメントまでには直さないといけないんだろ? ミーティアだって」
「大丈夫。今は試したいこと、たくさんあるから」
「……あ、そうだ! オレも手伝ってやるよ!」
「えぇ!? いや、ガンプラを作ったこともないレイジに、これは」
「オレにかかりゃ、そんなの簡単だって! ほら、貸してみろよ」
止めようとしても、フレーム状態のスタービルドストライクを手に取ってくる。
「ちょっと!」
慌ててその手を取って、止めておく。
「いいから」
「駄目!」
「「んぐぐぐぐぐぐぐ……!」」
ちょ、レイジがしつこい! というか、いきなりどうしたの!?
「とにかく……駄目!」
強引に奪い取り、スタービルドストライクは確保……が、そのときだった。
スタービルドストライクの首関節がへし折れ、頭部ごと床に落下。
「あ……!」
「あ……あ……」
「レイジィ!」
「お、お前が貸さないからだろ!?」
「当たり前だよね!」
とりあえず頭部を拾って、状態チェック……まぁよかった、破損は最小限だ。
これなら首関節のパーツをすげ替えるだけで、すぐ直る。……さて。
「んぐあぁ……あぁそうかよ! 少しガンプラ作りが上手(うま)いからって、威張りやがって!」
「……そこまで言うなら、ガンプラを作ってきてよ」
「え」
「本当なら僕が教えられればいいんだけど、今は余裕がないから。
その出来(でき)を見て、任せられると思った範囲を任せる。どうかな」
そこでレイジは悟る。これはテストだと――同時に挑戦でもある。
自分の技量を示すことから逃げるなら。
この挑戦で、それを思い知ることからも逃げるなら。
僕が信頼して、ビルドストライクを貸すこともない。威張られて当然だと――そう突きつけられ、口元が歪(ゆが)む。
「いいぜ! お前のに負けない、最高のガンプラを作ってやるよ!」
そのままレイジは部屋を飛び出し、場は静かになった。――そして、一時間後。
「何てことがあって……」
「はははははははは!」
様子を見に来てくれたラルさんが、ソファーに座りながらほほ笑ましそうにする。
「それはレイジ君にとって、いい傾向かもしれんな」
「……やっぱりですか?」
「あぁ。少なくとも、ガンプラ作りに興味を持ったんだ」
「はい」
だから僕も、ああいうテストを出した。……レイジの心境に、変化が生まれた。
その芽を、興味を潰すのは、模型屋の息子としてはアウトだから。
え、母さんはどうしたのかって? はははははは……そうだね、気になるよね。
まぁ、アレだよ。実際に作れば問題ないかと思って、教えたことがあるけど……無駄だったとだけ、言っておこう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チームとまとも、決戦に向けて忙しく準備中。フェイタリーの改良もしつつ、本日はルール確認です。
「決勝トーナメントの組み合わせは、全試合抽選方式……だったよね。甲子園みたいに」
「そうだよ」
りんはクリアパーツのヤスリがけをしつつ、僕の隣でニコニコ。
でも、問題が一つ……メイド服ってどういうことだろう。
「一回戦は四日間に亘(わた)って行われ、インターバルを挟んで二回戦、準決勝、決勝と続く」
「これまでみたいに、修復関係で焦る必要はないってことかぁ」
「事前準備をしていればね。でもチェルシーさん……というかトウリさんも」
ちょうど来ていたチェルシーさんと、トウリさんを見やる。
二人は応接用のテーブルに座り、のんびり……しゅごキャラ達を両手に載せて遊んでいた。
「なんでしょう、旦那様」
『旦那様ぁ!?』
「お嬢様のお気持ちは伝えた通りですし……となれば、旦那様かと」
「……プロデューサー」
あ、ヤバい! 千早の目が厳しい! やめて! 胸をぺたぺた触るの……駄目って言ったでしょ!?
「アンタ、やっぱり大きい胸の女が好きなのね」
「……歌唄、お前も大きくなってるじゃねぇか。大丈夫だって」
「でもでも、恭文さんの理想に近づこうとする歌唄ちゃんも素敵なのですー!」
「イル、エルー!」
う、歌唄も殺し屋の目を……ヤバい、今日は話してくれない。というかリインも……拳を鳴らし始めてー!
「……恭文さん、作業の前に一つ一つ、解決するところからじゃ」
「うん、知ってた。えっと……まずは、チェルシーさん」
「はい、旦那様」
「セ、セシリアについていなくても」
「それなら大丈夫です。助っ人が来ましたので」
「助っ人?」
「はい」
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全く……わたくしとしたことが、とんでもない不覚を取りました。ベビーRが強いことだけでは、言い訳になりません。
というわけで、本丸の調整もキッチリ行おう……と思っていたところで、予想外の助っ人登場。
「セシリアさん、ヤスリがけ……終わりました」
「貸してください」
はい、チナさんです。心配そうに訪ねてきたので、追い返すのもアレと思い……こういう形に。
とにかくチナさんの整形した、GNソードVをチェック。ふむ……ふむふむ、ふむ。
「面取り、刃の鋭さ……正確さ、問題なし。これなら、かなりの部分を任せられますわね」
「あ、ありがとうございます!」
「でもいいんですの? セイさんには」
「いいんです。……今は、邪魔したくなくて」
そう言えるようになったのは、成長でしょうか。ただ素直に受け入れるのもアレなので、ちょっといじめてみる。
「つまり、わたくしの邪魔はしてもいいと」
「ち、違います! そうじゃなくて……その」
「もう、冗談ですよ」
そう言ってほほ笑み、やや乱れた髪を正してあげる。なお、ちゃんと手は奇麗にした上で。
「それにセイさんの邪魔というのも、半分は間違いです」
「え」
「気づいていませんの? RGシステムを作ったのは、あなたですよ」
するとチナさんが目を丸くした。自分を指差し、口をパクパク。
「あれはあなたがベアッガイIIIで見せた、綿を詰める改造が骨子です」
「綿が? で、でもベアッガイIIIは、あんな凄(すご)いことは」
「十分しています。……悔しいですけど、あれはわたくしでも思いつかない、あなただからこその発想ですわ」
ベアッガイIIIという、ぬいぐるみから変化したガンプラ――その自由な発想と設定に基づく、ボディへの綿詰め。
その結果合成綿は”プラスチック”として機能し、プラフスキー粒子が浸透。ベアッガイの疑似フレームにもなった。
えぇ、そうです。綿という吸収性溢(あふ)れる素材特性もあり、ベアッガイIIIはRGシステムと同じ状態にありました。
もちろんわたくしと最初に戦ったとき……最終局面でも。意識的な発動ではないので、最高出力では劣りますが。
「そもそも細かいギミックが省略されがちなHGシリーズでは、フレーム再現は大きな性能向上が見込めますから。
そういう意味でも、あなたは彼の”星”になった」
「私の改造が、イオリくんの……力に」
「あなたは気張りすぎなんです。力になろう……なっていこう、そんなふうに頑張らず」
というわけで、次のGNソードを手渡し、調整をお願いする。
「自分にできることを、やりたいことを一つずつ積み重ねなさい。違うからこそ組み合わさるパーツもありましてよ?」
「……はい」
「あとは、ちゃーんと告白しませんとね。やっぱりホテルのラウンジでロマンチックに」
「わ、私達はその……中学生なので! もっとこう、落ち着いた感じに!」
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「――あぁ、チナかぁ。すっかり師弟関係になっちゃって」
「お嬢様は元々末っ子で、妹を欲しがった時期もあったので。可愛(かわい)くて仕方ないみたいです」
「結構厳しく接しているだろうに、チナもよくついて行くな……もぐ」
「きっと分かるんだろ。セシリアが自分のことを、大事にしてくれているってよ。……それでトウリ、お前は」
「……チーム・ネメシス、アイラ・ユルキアイネンのことッスよ。まぁガンプラの新能力などはおいといて」
その辺りは分かっているけど、トウリさんはおどけて脇に置く仕草。
「あの子、言ってたんッスよ……エストレアを両断した後に」
――……当然よ。遊んでいるだけのアンタ達とは、違うのよ……!――
「あれは憎しみッス。遊べる……遊んでいる、それができるだけの余裕を持った人間、全てを恨もうとしている」
「恨もうと?」
「同時に何かを覆い隠してもいる」
……なるほど、そういうお話で。僕も少年時代は比較的劣悪だったので、よく分かるよ。
「チェルシーさん、確かフラナ機関は」
「以前もお話したとおり、ストリートチルドレンをスカウトした形跡が……なるほど」
遊びなんてのは、確かに余裕があるからこそだ。衣食住――全てが満たされていればこそ。
飢え、寒さ、孤独……そう言ったものに苛(さいな)まれ続けているうちは、絶対にできないことで。
「ただ……まだ明確に、違法の証拠は掴(つか)めていませんが」
「こっちも同じくです。さすがにチーム・ネメシスへ取り入るだけはあって、その辺りはキッチリしてるか」
「調べられても腹が痛くない程度には、クリーンでいる。一番タチが悪い相手だね」
「ただ、一つ気になる点が……こちらを」
チェルシーさんが僕達に渡してくれたのは、数枚の写真。
銀髪の少女が、チーム・ネメシス関連の車両やら、関係者が宿泊するホテルに出入りする姿。
「おい、コイツは……!」
「知り合いか、ヒカリ」
「ほれ、話しただろ! セレモニーの間に遭遇した、大食い女!」
「あぁ……あっちこっちの店で買い占めた、はた迷惑な」
納得しかけたところで、寒気が走ってしまった。え、ちょっと待って……確かその女って。
「ヒカリ、待ってくださいです! 確かその人って」
「レイジ君や四条さん達とも会ってる……わよね」
「……そのときからの顔見知りだったのですね。納得がいきました」
「おい、チェルシー」
「八枚目からの写真を」
言われた通りに、何枚かの写真を飛ばしてチェック。
……すると、どういうことでしょう。そこには仲むつまじいレイジと銀髪少女の姿が。
「……ヒカリ」
「知らん……そもそも私は、名前など聞いていない」
「うわぁ、またトラブルの予感だー」
「ですね。……ただ恭文さん、その前にリインを大事にするですよー」
「あ、はい」
リインがメドゥーサになっているので、戦々恐々としていると。
「おーっす! 元気にしてるか、蒼い幽霊!」
笑顔のチョマーさんが、いきなり飛び込んできた。が、その表情が一気に引きつる。
それもチェルシーさんやりん達を見て、わなわなと震え……今にも倒れそうな表情で指差し。
「てめぇも、リカルドと同じ……いや、知っていた! だがやめろよ、人の彼女を取るのとかは……ほんとに!」
「そういう趣味はないですから! いや、ほんとに!」
「馬鹿! アイツらは嘘をつくんだよ! いないものとして扱うんだよ……一時的に!」
「どういうことだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ねぇ、この人はもしかしなくても、女性不信なのかな!? 恨みというより、女性不信をこじらせたんじゃ……そうだよね、絶対!
「……っと、そうだ。その前に……お客さんだぞ」
「客? チョマーさんじゃなくて」
「いや、オレも商談があったんだが……あ、どうぞどうぞ」
チョマーさんは一旦脇にズレて、丁重にそのお客さんを迎える。すると……ひょっこりと顔を出したのは。
「ヤスフミ、みんなー!」
『フェイト(さん)!?』
そう、フェイトだった。フェイトはベビーカーを押して、部屋の中へ突撃。
「「ああー!」」
「アイリと恭介まで! え、どうしたの!」
「ディードと応援にきたの!」
ガッツポーズをしないで! 僕、何も聞いてないのに……というか危ないなぁ!
とりあえずハグしてくるので、フェイトはしっかり受け止め……ただいまとお帰りなさいのキスを、それぞれ一回ずつ送る。
「……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
なおチョマーさんが、発狂しつつ廊下で頭突きを始めた……まぁ、壁に穴が開かないうちに、しっかり止めよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……おぉ……!」
いつものショッピングモール……その一角でノンビリしつつ、山盛りソフトクリームの匂いを嗅ぐ。
それからぺろ……甘くて、柔らかくて……!
「美味(おい)しいー!」
ソフトクリームって、素敵ー。冷たいことがグルメになる……道ばたで寝ていた数年前からは、考えられないわ! 寒さは敵だったのに!
「日本(にほん)の食べ物って、どうしてこんなに美味(おい)しいのかしら! <B級グルメ>って書いてあっても、凄(すご)く美味(おい)しいし!」
『説明しよう。アイラは誤解しているが、B級グルメとは決してランク付けではない。
定義としては『安価で、ぜい沢でなく、庶民的でありながら美味(おい)しい料理』となっているぞ』
「あら、そうなのね。ありがと」
『どう致しまして』
謎の声は気にせず、改めてソフトクリームを高々とかざし、笑ってしまう。
「B級グルメ……いいじゃない! 安くてぜい沢じゃないけど美味(おい)しい!? 最高じゃない!
まさにエキゾチックジャパーン! ジャパーン……ジャパーン……ジャパーン――」
自分でエコーを付けつつ、改めてソフトクリームのてっぺんをパクリ。……あぁ、幸せぇ。
「ママ、ねぇママ〜!」
そこで小さな女の子が、笑いながら……母親らしき子と歩いていた。
「ハロ買って、ハロ!」
「はいはい」
そのまま歩いていく様子を、ベンチに座りながら……つい、見送ってしまっていた。
飢えも、孤独も、寒さも知らない……生きていくだけで精一杯な世界があるなんて、知らない瞳。
愛も、優しさも、温かさも、全てが普遍で当たり前にあると、満たされている笑顔。
……同じ頃わたしは、ベンチをベッドに……震えながら、眠っていたのに。
「ずーっと」
だから、本音を漏らしていた。スガ・トウリには、あんなふうに……言ってしまったけど。
「この国で、暮らせたらいいのに……」
羨ましがっていた。この国を……暮らす人々を。そうよ、分かってる。
スガ・トウリに言ったことは、わたしが持っている感情は、全てにおいて逆恨み。
人は平等ではないし、お金や衣食住が満たされても、幸せじゃない人もいる……それは、分かってる。
何より、わたしはもう……ストリートチルドレンじゃない。才能を売り渡すことで、アイスクリームを自由に食べる程度はできて。
だから、逆恨み……今更生まれや境遇を理由に戦うなんて、それで人を妬(ねた)むなんて、ただのエゴ。
本当は羨ましい……恨みではなく、羨ましい。通り過ぎたあの子とお母さんの笑顔が。
遊びを遊びとして、楽しくやっているみんなの姿が。
この国はフィンランドよりずっと暖かくて、優しくて。
何よりガンプラバトルで名を上げられるなら、生活だってできる。わたしの強さこそ普遍だもの。
そうだ、今はチャンスでもあるんだ。世界大会で名を売れば……でも、そのためには。
「ガンプラ……ガンプラ……おっし!」
悩んでいると、左側から声が響く。そちらを見やると……レイジがいた。
ガッツポーズなんて取った上で、エスカレーターに乗り、ゆっくり上がっていく。……その姿が、また気になって。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、ショッピングモールにやってきたが……ホビーステーション、ここだな。
しかも御丁寧に『プラモ組み立て体験コーナー併設』って書いてやがる。ここで作って、持って帰れると。
あとはジオラマってのか。ガンダムとグフが戦ってる、かっこいいのが置いてある。
まぁそれはいい……オレの目標は、ここでかっこいいガンプラを作ることだからな!
「セイがオレの無茶(むちゃ)を受けて、くれたチャンスだ」
相棒の気づかいに感謝しつつ、左手を右拳で殴りつける。
「絶対無駄にはしねぇ……! とは、言うものの」
やっべぇ……完全にノーヒントで来ちまったから、まず何を作ればいいのか……サッパリだ。
「改めて見ると、ガンプラってのは凄(すご)い数だな」
「はいー」
そこで突然、隣に気配……慌てて身を引くと、ウヅキが笑顔で立っていた。
「レイジくん、決勝トーナメント出場、おめでとうございます!」
「ウヅキ!? おま、驚かせるなよ!」
「あはは、ごめんなさいー」
シマムラ・ウヅキ――セイとチナの先輩で、ユウキ・タツヤの同級生。アイドルってやつらしい。
デビューしたばっかで、実は半信半疑だったんだが……おぉそうだ! つい拍手を打って、あのことを思い出す。
「昨日のライブっての、すげーよかったぞ! キラキラしてて面白かった!」
「ありがとうございます!」
「でもお前、終わったから帰ったんじゃ」
「まだまだですよー? 決勝前のイベント期間もありますし……ただそれまでは、みんなで夏休みなので」
「お前もプラモを買いに来たってわけか」
「本当に、奇遇ですね……卯月さん」
そこで今度は、反対側から気配。
「うんうん、偶然は恐ろしいー!」
「あ、ディードさんー!」
「おい、コイツもアイドルか?」
「いえ。恭文さんの御家族なんです」
「初めまして、蒼凪ディードです」
「しゅごキャラのベルだよー。初めましてー」
「レイジだ」
コイツもキャラ持ちってやつか。だったら悪い奴じゃないと、右手でしっかり握手。
「でもディードさんはどうして」
「フェイトさんの付き添いも兼ねて……それに、大会中でもまた女性と仲良くしていて」
「あぁ……そう、でしたね。もう結婚しているのに」
あ、やべ……コイツら、瘴気が半端ない! 抜け出す……無理だー! 棚と棚の間で、挟まれて動けねぇ!
「私ももっと、頑張らないと……!」
「だから私も……作業のお手伝いなどができればと、思って」
「でもディードちゃん、ガンプラもまだ一つしか作ってないから、練習しようって思ったのー」
「なんだ、それじゃあオレと同じだな。……っと、そうだそうだ」
こんなとこで長話も嫌だし、何よりコイツらに挟まれたくねぇ。
これはハーレムとかじゃなくて、追い込まれた獲物同然。なので適当に……暗い緑色の奴を取ってみる。
「これなんかどうだ……ん?」
「ララァ・スン、専用モビルアーマー……あぁ、エルメスですねー」
「でも、エルメスなんてワードはどこにも」
「書いてねぇよなぁ。これ、ガンプラの名前なのか?」
「それには、深い事情があるんだ」
……今度は誰だと思いながら、ウヅキの後ろを見る。
するとカーキ色の長いジャケットに、ひげ面という怪しい奴が。
だがおかしい……無精と言うには、身なりがきっちり整ってる。決して不潔な感じじゃない。
「ファッションブランド【エルメス】の商標と、少し問題が起きてな」
そこで反対側から登場したのは……こっちはひげ面じゃない、かっこいい兄ちゃんだった。
四方八方につんつんした髪と、こざっぱりとしたYシャツとジーンズ。どことなく旅慣れした雰囲気だった。
「以降は”それ”を商品名としているが、機体名自体は変わってない」
「あぁ、そうだったんですねー。ありがとうございます」
「なんだ、おっさん……つーか兄ちゃん」
「やるね、若人よ」
「いやいや、おっちゃんこそ……」
……おーい、オレ達の質問を流すなー。火花をバチバチ走らせるなー。
そんなツッコミが届いたのか、二人はハッとしてせき払い。
「世界中を旅して回っている、通りすがりのガンプラマニアだよ」
「「「……怪しい」」」
「奇遇だな。オレも日本中を旅して回っている、通りすがりの貧乏ガンプラマニアだよ」
「「「こっちも!?」」」
ディードとベル、ウヅキも、オレと声を合わせて驚くばかり。
やべぇ……やべぇよ静岡(しずおか)! つーか世界大会!? ガンプラ目当てで、レアな馬鹿どもが集まってきやがるのか!
おっさん達はオレ達の衝撃に構わず、棚を探り始める。
「悩んでいるようなら、僕が君達に合いそうなガンプラをチョイスしてあげようか?」
「は? 誰もそんなこと」
「どれがいいかなぁ」
「……聞いてねぇし」
「ふ、ならば受けて立つ!」
「誰も挑戦とかしてねーぞー」
兄ちゃんにツッコんでいる間に。
「……あぁ、君にはこれがいい!」
「「「速!」」」
「くそ、先を越された!」
もう決まったのかよ! いや、これで時間省略!? よっし、聞くだけは聞こう!
まずはオレに、ガンプラが手渡される。
ん……なんだ、これ。ガンダムだが、体のあっちこっちに三角パーツがくっついてやがる。
「<ビギニングガンダム>――【模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG】の主役機だ!
操縦者である<イレイ・ハル>も、劇中で初めてこの機体を作っててねぇ。機体特性はなんと言っても、可動範囲の広さ!
普通に組み立てるだけでも、ガンプラバトルで高い機動性を発揮する!」
「強いってことか!」
「ただしパーツ構成は複雑で、合わせ目消しなどの箇所もそれなり。その点は初心者向けとは言い難(がた)いが」
おっさんは目をキラキラさせながら、ビギニングってやつを指差し。
「そこを作り込むことで、基礎的な工作技術も習得できる! 更に改造による性能向上も実感しやすい、名キットなんだ!」
「ほうほう!」
「やるな、おっさん。ビギニングの短所を、バトルも交えることで長所にするとは」
なるほど。面倒なところを解決すると、プラモの出来(でき)も上がって、バトルでも強くなる。
そういう基本も覚えられるから、いい作りってわけか。ソイツは……って、やべぇ。
やべぇよコイツ。このオレがつい乗せられて……!
「武装はビームライフルに、ビームサーベルがなんと九基!」
「多いな!」
「特徴的なのは……この持ち方だな!」
おっさんは棒状の何かを取り出し、右手の指に挟んで持つ……それも三本も。
「こうして三本のサーベルを同時持ちして、敵を切り裂くんだ! 初回での近接戦闘シーンは、見応えばっちりだぞー!」
「それも面白い! ……よし、気に入った! コレにするぜ!」
「そちらのキャラ持ちなお嬢さんには……そう言えば、ガンプラは何を作ったんだい」
「これです」
「持ってきてるのかよ……!」
「世界大会の影響で、あっちこっちガンプラづいてますからー」
ウヅキの補足で一応納得するが、若干引いてしまう。
とにかくボックスから取り出したのは、旧ザクってやつだった。
「ほう……ORIGINの旧ザクか。武装がヒートサーベル二本だけとは、また剛胆な」
「実戦剣術では、二刀流が専門でして」
「なら、これが」
「だったらこれだぁ!」
「ぬお、先手を取られたぁ!」
いや、取ったのはおっさん……一体なんの勝負だと思いながら、こめかみをグリグリ。
とにかくディードが旧ザクを仕舞(しま)ってから、兄ちゃんが新しい箱を手渡してくる。
……グフってのに似てるが、少し違うな。頭が平べったく、後ろに広がってる。
赤い両肩に二本の片刃剣。両足には三角形のミサイルポッドを搭載していた。
「外伝作品【THE BLUE DESTINY】に登場する<イフリート改>だ! 二刀のヒートサーベルを主軸とした近接格闘型!
もちろんEXAM<エグザム>システムによる能力向上も見逃せない! しかもこれは、長年ファンが待ち望んでいたHGUC版!」
おい、急激に鼻息が荒くなったぞ! 寄るな寄るな……明らかにヤスフミへべた惚(ぼ)れなんだから、距離は守れ!
「最近連載されている、漫画【ザ・ブルー・ディスティニー】でリファインされた設定、スタイルを忠実に再現したモデルだ!
その可動域と完成度の高さは、もはや言うまでもないだろ!」
「イフリート……炎。ありがとうございます、ではこれに」
「ヒートサーベルなら、ザクでも使い慣れてるし……いけるよ、ディードちゃん!」
「えぇ」
「それで君には」
「はい!」
待ちわびていたらしいな、ウヅキ。サイドポニーをぴこぴこ揺らしながら、いい笑顔をしてるぜ。
「君は……【特長がないのが特徴】って感じがいいだろうから」
「はいー!?」
「同感だな。かと言ってジムカスタムは安直過ぎる……ジム系がしっくりくるんだが」
「もう一つ、トゲがあってもいいだろうね」
「どういうことですかー!」
「ジム……あぁ、あの地味なやつか」
なので両手で拍手を打つ。レナート兄弟も使ってたから、すぐ思い出せたぞ。
確かヤスフミ曰(いわ)く、量産機の傑作であり、味方陣営のやられ役……だっけな。
で、そのジムとウヅキの顔を重ねてみると……なんていう不思議。
「確かにお前、ふだんは地味っつーか、特徴を感じないからなぁ」
「レイジ君ー!」
「ちなみに、ふだん使っているガンプラは」
「あ、はい! HGACのウイングガンダムと、HGUCの初代ガンダムです!」
それで、ウヅキもガンプラを携帯していたらしい。極々自然に、手荷物の中から取りだしたぞ。
「ふむ、これらも丁寧に作られていて、いい出来(でき)だ」
「ありがとうございます!」
「それならば――」
「これなんてどうだ!」
兄ちゃんはすかさず、別の棚から箱を抜き出す。
「い、一歩遅かった……」
そしておっさんも、兄ちゃんとほぼ同じ速度だった。ほんのコンマ何秒か程度の遅れ……何だよ、この戦い。
「HGUC 陸戦型ジム――最近出たばかりのReviveキットだ! さっき言った漫画版のリファイン設定も込みの最新鋭!」
「ふむ……君はブルーディスティニーが好きなのかな」
「一番好きなのはSEED系だが、イフリート改の登場でまた熱くなってるしなー」
「同時に最新キットはAGP<オールガンダムプロジェクト>で改められた、新フォーマット準拠。
作りやすさはもちろん、グローバル規格による拡張性も高い……いいチョイスだ。しかし」
対決オーラを出しながら、おっさんが指を軽く振る。
「二人は既に、これだけのガンプラを作った経験者だ。少々古くても、改造し甲斐(がい)のあるキットを勧める手もあるよ? そう、例えば」
「それはどうかな」
「……何」
兄ちゃんも指を軽く振り、オレ達を手招き。その上で別の棚へと全員移動すると。
「そ、そうか……そういうことかぁ!」
おっさんが衝撃を受け、崩れ落ちた。
「おい、どういうことだー。頼むから素人にも分かるように説明を」
「えっと、お前はレイジ……だったな」
「あぁ」
何でオレの名前を……と、聞く必要はない。さっきもウヅキやディードが呼んでいたしな。
あとは大会絡みってのもあるか。……”アイツ”も似たような感じで、知っていたしよ。
「ガンプラには悲しいかな、格差がある」
「格差?」
「ようは人気のある機体かどうかって話だ。劇中での扱いやデザインなんかが、その基準になりやすいな。
でだ、その中で比較的好評なキットは、改造<アフター>パーツの量も多くなりがち」
「あ……!」
改めて棚を見て、オレも気づいた。
「イフリート改や陸戦型ジムは、確かに最近出たばかりのキットだ。
しかしその人気ゆえに、バンダイ及び関連会社から、アフターパーツが多く出ている! 現段階でもだ!」
この棚は、ガンプラの改造用パーツが置いてあった。
その中で【陸戦型ジム用武器パーツ】とか。
【イフリート改用:イフリート・ナハト改造パーツ】とか。
そう書かれているのが、多めにあるんだよ。それも目立つところに。
「そして、これからもだ……! ブルーディスティニーの主人公機でもある、<ブルーディスティニー1号機>のReviveももうすぐ発売!
この場だけの話ではなく、今後の展開にも期待が持てる!」
「んじゃあ、ビギニングは」
……おっさん、顔を背けるなよ。おい、まさか不人気なのか……そうなのか?
「おっちゃんの名誉を守るために補足しておくと、これは<量産機だからこそ>とも言える」
「どういうことだ?」
「改良パーツは……元の機体に拡張性とか、設定の幅とかがあると、余計に作られやすいんだよ」
「量産機は数が多いから、いろんな外伝でバリエーションが増えている。それに対応していくと……ですよね。会長に教えてもらいました」
「だがビギニングが不人気ってわけじゃない。ほれ、専用パーツも揃(そろ)ってるだろ」
「あ、ほんとだ」
なるほど……強ければいいってもんじゃ、ないんだな。ガンプラの世界は。
そういやセイとラルのおっさんが言ってたか。前に……ほれ、グフのジオラマを見せてたときだ。
――レイジ君、ガンプラはバトルをするためだけに作るものではない。
このHGグフのように、アニメの作品世界を読み込み、忠実に再現しようとするものもある。
又はアニメにあったシーンをジオラマで再現したり、モビルスーツのディテールを自分なりの解釈で構築したり。
そう――ガンプラには様々な楽しみ方があるのだよ――
――作って眺めるだけで楽しいのか?――
――もちろん!――
あのときセイは、目を閉じ……心配になるほど、光悦(こうえつ)とした顔だった。
――ガンプラを通して、ガンダムという作品世界への想像を膨らませるんだぁ……!――
だが今なら分かる。あれは、こういうものを使って、再現できる世界があると……知っていたからなんだな。
そういや、そうだよなぁ。ザクだけでも、すげー種類があるんだよ。それを再現しようと思ったら――。
つーか、この店で一番多い改造パーツは、ザク関連だった。
「そこまで、頭が回っていなかった……敵に塩を送られるとは、まさにこのこと!」
「……いえ、勝負をされても……その」
「この場合、二対一で……えっと」
おぉそうだ、貧乏ガンプラマニアの名前を聞いてなかった。
ディードの困った仕草に思い出し、質問しようとしたとき。
「いや、まだ終わらん……終わらんよ!」
世界を回るガンプラマニアは立ち上がり、即座に店の外を指差し。
「そこの、物陰から見ているお嬢さん!」
「え!?」
「「「第三者を巻き込んだ!?」」」
おいおい、さすがにどうなんだと思っていたら……げ、アイツじゃねぇか!
銀髪で大食い! なんかすました顔の……名前も知らないアイツ!
「おま、何してんだ!」
「レイジ君のお友達ですか?」
「顔見知りだ」
「そうよ! なんでわたしが、コイツと友達なのよ!」
「君にはこの」
おっさんは瞳を輝かせながら、SDガンダムってのを取り出し渡してきた。
「コマンドガンダムがいいと思う!」
「はい!?」
「そうか……!」
今度は兄ちゃんがダメージを受けた!? おい、何だ……一体何の落とし穴があった!
「あ、そうか……!」
「卯月さん」
「SDガンダムは低年齢層向けのキットなので、作りが簡素なところも多いんです。
手首とか、足の裏が肉抜きばっかりとか……そういうのをフォローするため」
そこでまた、アフターパーツの棚を全員で見やる。
「比較的アフターパーツが多めみたいでー」
「特にコマンドガンダムは、手りゅう弾やナイフ、ヘビーマシンガンなど、武器類が豊富だからね!
……無論LEGEND BB準拠の作りは、素組みでも高い性能を発揮するが!」
「そういやセシリアが作ったストライク劉備、滅茶苦茶(めちゃくちゃ)強かったな。オレも結局勝てなかったしよ」
「……ちょっとー! わたしを無視して、話を進めないでよ!」
オレ達もほぼ流されているだけなのに、コイツは何を言っているんだろう。
アイツは戸惑い気味に、おっさんへ首振り。差し出されたガンプラを、丁重に押し戻そうとする。
「あ、あの……わたし、ガンプラを作ったことなんてー」
「案外子どもなんだ。あんな遊びに、真剣になっちゃって……って言ってたぞー」
「し!」
「だったら僕が教えてあげるよ! 道具もちゃんとあるから!」
「オレも教えるぜ!」
そして二人揃(そろ)って、両腕をクロス……どこからともなく、ニッパーって工具を取り出し笑ってきた。
……まぁ、いいか。目的は達成できそうだし……ただ、あれだな。
セイにはちゃんと、”怪しい兄ちゃんとおっさんに教わりました”と言っておこう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
というわけで、工作室に移動したオレ達……四人横並びに座り、なぜか緊張。
なお、おっさんと兄ちゃんは笑顔だった。ツッコむのが躊躇(ためら)われるほどに、笑顔だった。
「……何でお前がここにいるんだよ」
「たまたまよ、たまたま……というか、何なの!? このおじさん達」
「世界と日本(にほん)を渡り歩く、ガンプラマニアと貧乏ガンプラマニアだ」
「どっちにしてもマニアってことよね!」
そのとき、おっさんが机をドンと叩(たた)いた。
「「ひぁ!?」」
「「!?」」
おののくアイツと卯月。だがおっさんの険しい表情は変わらない。
「私語は慎め! ガンプラ制作に邪念を持ち込むな!」
「おっさん、性格が変わりすぎだろ!」
「返事は<Sir Yes Sir>だ! それ以外の言葉は受け付けん! いいな!?」
「「「「サー! イエッサー!」」」」
「……いるいる。導入部だけ優しくして、逃げられない状況で厳しくする奴」
兄ちゃん、分かってるなら助け……られないよなー! くそ、こうなったらとっとと解放されるように頑張るしか!
「まずはガンプラの箱を開け! 中にある組み立て説明書を取り出せ!」
言われるがままに箱を開き。
「説明書を熟読しろ!」
説明書説明書……これか!
「時間は一分だ!」
「無理だろ!」
「早すぎるわよ!」
「んん……!?」
「「「「サー! イエッサー!」」」」
「うむ」
やべぇ……やべぇよ。何度目かのやべぇ状況だよ。
具体的には、ウヅキとディードが全く反論しない。初手ですげー飼い慣らされている感じが……!
(……ディードちゃん、卯月ちゃん、よく対応できるねー)
(こういうのは、救助隊の教導で慣れているから)
(私も……トレーナーの聖さんが、かなり厳しい人なので)
(納得したー)
しかも、私語を平然と継続してやがる……! オレ達を挟んで、コミュニケーションをしてやがる!
おっちゃんも注意しねぇ! つーか気づいてねぇ! 気づかれない私語は私語じゃないってか!? どんなイカサマだよ!
「作る前にパーツを確認する。説明書に記載されている内容物がちゃんとあるか確かめる」
「まぁ昔の話になるが、パーツの欠損とかもあったんだよ。今はほとんどないけどな?」
「技術の蓄積と向上があればこそだ。ただここでパーツの配置などを頭に入れておくと、後々の作業がしやすくなるぞ。あ、ポリキャップやシールも忘れるな」
というわけで、まずはニッパーでパーツをぱちぱち……が、手が震える……震える……!
「説明書の組み立ての手順、一番から製作する」
「ニッパーの扱いには細心の注意を払え。ゲートは少し長めに切り、はみ出た部分をもう一度切る」
「二度切りですね!」
「そうだ。パーツの面に合わせてのカットが基本だから、そうするとやりやすい」
「う……!」
「ふふん」
てめ、また得意げな……つーかウヅキとディードが、粛々と進めてやがる!
……あ、当然か。二人はもう自分のガンプラを作ってるしな。
「切り取ったパーツを、説明書どおりに組み合わせろ」
「あぁ……!」
や、やべ……これも緊張する。
「ポリキャップの入れ忘れに注意だ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……レイジ君、入れ忘れましたね」
「ちくしょー!」
「ふ……」
てめ、ほほ笑むなぁ! オレをそんな……哀れむような目で見るなぁ!
……それでも何とかパーツを組み立て、シールを貼る……頭部の……瞳……!
ピンセットでシールを外して、しっかりと……だが小さぇ。小さすぎる。
手が震える……震えて、変なところに貼りそうで怖い。
「シールの張りなおしは粘着力が弱まるから、気をつけろよ。あとレイジ、呼吸を止めてみろ」
「へ?」
「そうすると手の震えが止まる」
……兄ちゃんに言われた通り、息を止めてみる。
すると……あ、ホントだ。完全ってわけじゃないが、さっきよりはマシになった。
「あとは苦しくならないうちに、一気に決めろ」
一気に……大丈夫だ、できる。
そのままツインアイのシールを、プラに重ねて……張れたー!
「……ふぅ。ありがとな」
「おう」
兄ちゃんとサムズアップを送り合ってから、アイツを見ると……マジで、粛々と進めていた。
というか、SDって目がデカいからなぁ。オレほど精密作業じゃねぇし。
なおディードとウヅキも同じく。イフリート改はモノアイで、丸いシールをちょこんと貼るだけ。
ウヅキのジムに至っては、色つきゴーグルをはめ込むだけ……楽過ぎるだろ、おい。
「慎重に位置を合わせろ。張り込んだシールは、綿棒などで押さえてやるとより効果的だ」
ピンセットに、綿棒……セイの作業を見ていたのに、今更突きつけられてる。
いろいろな道具を使って、細かく丁寧に作業するんだな。しかも、素組みってので”これ”なんだぞ?
これが……ビルドストライクだったら。手が震えまくりのオレじゃあ、確かに任せられない。
しかもおっさん達に教えてもらって、ようやくってのが、もう。
「ふふ……」
綿棒で押さえて、腰のV字ラインを仕上げたアイツ。それを見せびらかしてきて、ちょっとカチンとくる。
「組み立てながら、機体の可動域を確認するんだ。変に引っかかるところや、緩すぎるところはないか」
兄ちゃんの声を聞きつつ、胴体に左肩をはめて動かすが……特に問題はないな。かっちりした感じだ。
「ガンプラを理解すると、バトルを有利に進められる。調整の手掛かりにもなるしな」
それをアイツに見せると、そっぽを向かれた。……自分がやられるのは嫌なのかよ。
――そんなこんなで、一時間ちょいの作業が終わり――。
「「「「できました! サー!」」」」
「すばらしい……初めて作ったとは思えないほど、基本に忠実に作られている……!」
「おう。みんな、よく頑張ったなー」
「ニッパーと紙やすり、ピンセット等の工具は、初めてガンプラを作った記念にプレゼントするよ」
「「「「性格が戻ってる……」」」」
いや、兄ちゃんは変わらず普通だったが……このおっさん、もしや二重人格では。
「……って、駄目ですよー!」
だがそこでウヅキが、慌てた様子で立ち上がる。
「わ、私は自分の工具もありますし、さすがに申し訳ないです!」
「私も……せめて、代金を。ワンセットでも三千円くらいはしますよね」
「「三千円!?」」
「はい。商品棚を確認したとき、このニッパーが……千五百円」
うお、結構高いな! それは……駄目だよなぁ! オレ達も慌てて財布を取り出すが。
「問題ないよ。これは私の趣味であり、仕事でもあるんだ」
「「「「仕事!?」」」」
「おっちゃん、何者だよ……オレも完全に趣味だが、さすがに工具の金までは」
「言っただろう? 世界を回っているガンプラマニアだよ」
ガンプラマフィアもそうだが、ガンプラ界わいは変な奴が多すぎる。改めてそう思った瞬間だった。
「よし……せっかくだから、そのガンプラ達に少し手を加えてみようか」
「だな。となれば?」
「無論簡単フィニッシュだ! マーカーでスミ入れ・部分塗装して、つや消しスプレーを吹くだけで……見栄えが段違いに変わるぞ!」
「「「「サー! イエッサー!」」」」
「卯月とディードは、もうちょっと踏み込んでみるか。合わせ目消しと塗料も使った本格塗装だ!」
「「サー! イエッサー!」」
「でだ、せっかくだし……コイツをやろう」
そこで兄ちゃんが、オレ達の前に何かを置いてくる。
何だ……この、トランクみたいなパーツ。
「あ……!」
「こ、これって……これってぇ!」
「マーキュリーレヴ――オレが作った、どんなガンプラにも使える武器ユニットだ」
「マーキュリー」
「レヴ……へぇ」
アイツと二人、自分の分を手に取って弄(いじ)ってみる。ふむ……トランクみたいに四角いやつは、銃器類が詰まってるな。
こっちの甲羅みたいなのは、剣が一杯だ。これ、十徳ナイフってやつじゃ。
「中に武器がたくさん仕込んであるのね。面白そう」
「こんなもの作れるなんて、兄ちゃんもすげーな!」
「いやいや、コイツはオレのオリジナルをコピーしてくれた、友達の力だよ。鶴の恩返しみたいに、大量生産してくれてなー」
「鶴の恩返し……や、やっぱりぃ!」
そこでウヅキ達が慌てて立ち上がり、口をパクパクさせながら……兄ちゃんを指差した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マーキュリーレヴ……ガンプラが好きで、あっちこっち回っているお兄さん。
しかも貧乏……符号します! 恭文さんや会長から聞いていた条件と……符号します!
「あなた、サツキ・トオルさんですよね!」
「おう。……あれ、自己紹介したっけ」
「違います! あの……改めまして! 私、島村卯月と言います!」
「私、蒼凪ディードです!」
まずは自己紹介すると、トオルさんはディードさんをガン見。驚きながら指も指してくる。
「蒼凪……蒼凪!? まさか、お前」
「ぎ、義妹です……蒼凪恭文、御存じですよね!」
「あぁ! お、マジかよ! 恭文に、こんなかわいい妹がいたのか!」
「妹っていうか、ディードちゃんはお嫁さんを目指してるんだよー?」
「……あの修羅場に飛び込むのかよ……が、頑張れ」
同情されたぁ!? いや、待って! その前に待ってー!
「それで卯月さんは」
「あの、私……ユウキ・タツヤ会長とは同級生で!」
「卯月はタツヤの友達か!」
「……何という偶然だ。君達がまさか、二人の関係者だったとは」
「「「え!?」」」
あれ、二人ってことは……もしかしてこちらのおじさんも!
「いや、今回の世界大会に出場している、レイジ君と親しい様子なんだ。想定はするべきだったか」
「あの、恭文さんと会長とは……どういう」
「イギリスでたまたま出会って、バトルした仲だよ。……じゃあ積もる話は後にして、後半戦にいこうか!」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」
置いてけぼりだったレイジ君達も、トオルさんも驚く強引な流れ。
確かに私も、陸戦型ジムはちゃんと完成させたいですけど……あ、その前に連絡!
恭文さんとユウキ会長に連絡……二人とも、きっと会いたがっているはずです!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
……会議、早く終わらないかなぁ……いやいや、落ち着け。
これはアランが言っていた、女流メイジンの流れを決める、大事な会議だ。
お昼ももうすぐだし、ここは頑張らないと。でも……なぁ。
「――というわけで、女流メイジン・カワグチ――ここではレディ・カワグチと仮称しますが」
会議の進行役でもある、PPSE社企画部の前川さんは、モニターに次々と女性ファイターを登場させる。
「やはり現時点でそれなりの戦績を上げている、女性ファイターから選出するべきだと」
そう、だからこそアキヤマ・レマや、セシリア・オルコット、ルイーズ・ヘンリクセンなどが登場する。
「三代目カワグチの御意見としては」
「異論はない。ただ」
「何でしょう」
「みなさんも御存じの通り、本家カワグチは男性……そこから派生しての女流メイジン。
その実力はもちろん問われるが、同時に人格的な部分もしっかり審査するべきだとは思う」
……なお女性差別とか、そういうことは言わないでほしい。
ほら、その……ね? 変な意味で注目されてもアレだし、紳士な人がいいかなーと。
「当然ある程度の疑問視はされるだろう。それにいちいち噛(か)みついて、過剰反応を起こすようでは……メイジン失格と言える」
「確かに……失礼ですが、先代のメイジンはその言動・行動に幾つかの批判を受けていた」
「新しい広告塔でもあるわけですから、イメージ戦略は大事か。となると、ルイーズ・ヘンリクセンは除外か」
「彼女は実力こそあるが、その思想は二代目メイジンに近いですからなぁ。わりとヒール的な言動も多いですし」
「いや、そこを我々PPSE社が、サポートする体制も必要でしょう。メイジン本人ばかりに押しつけるのは、いかがなものかと」
そうして始まるのは、侃々諤々(かんかんがくがく)な議論――ど、どうしよう。火種を持ち込んでしまったような。
「ちゃんと会議に出席してるじゃないか、カワグチ」
「当然だ」
アランには素っ気なく返したが、実は不安いっぱい。
侃々諤々(かんかんがくがく)すぎて……これ、暴動とかになるんじゃ……!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チョマーさんの商談……その意味がよく分からなかったけど、ピッタリ二時間半後、ようやく理解できた。
僕とリインはチョマーさんに連れられ、リニアレールに乗って東京(とうきょう)へ――。
都内某所の音響スタジオへ入った結果。
『――で、次はどうすればいい?オルガ』
『へ……』
瞳をキラキラさせながら、プロの仕事というものを見せつけられていた。
『はははははははは! まるで虫けらだぁ!』
『クランクニ尉、オーリス隊長を……』
『放っておけぇ! ……我らがもっと早く出ていれば、味方にこんな犠牲が出ることなどなかったというのに!』
『無理はするな! ミカが戻るまで少し時間が稼げりゃ良いんだ。
そしたらよ……このくそったれな状況に、一発かましてやれるんだ! だからそれまで――!』
『基地が! ……やめろ、そこには俺の仲間がぁ!』
透明な防音ガラスの向こうでは、マイク前で声優さん達が白熱の演技。
まだ完全にできていない……線だけの絵に、魂を吹き込んでいた。
『――ダンジィ! ちきしょう……ダンジがぁ!』
『……! 足を止めるなぁ! あと少し、あと少しで!』
『……オルガ! なんかこっち見てる!』
『貴様が指揮をしているのか?』
線だけではあるけど、グレイズが発砲……戦車<モビルワーカー>に弾丸が浴びせられる。
それをすり抜けながら、戦場を走るモビルワーカー。つい両拳を握ってしまう。
『――死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅl!』
『死なねぇ! 死んでたまるか……このままじゃ――こんなところじゃ――! 終われねぇ!』
『ははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『だろ――ミカァァァァァァァ!』
反転し、急停止するモビルワーカー。そして……地中を割って出てくる<悪魔>。
悪魔は鉄槌(てっつい)を振り上げながら、敵モビルスーツ<グレイズ>に突撃。
完全に勝ち誇っていた。完全になぶり、殺すことを楽しんでいたグレイズ。
その隙(すき)を、その余裕を断罪するように、メイスは振り下ろされる。
――そしてグレイズは頭部を、胸元のコクピットを圧壊させられ、そのまま地面に叩(たた)き伏せられる。
『……ねぇ、次はどうすればいい? オルガ』
今まで熱く叫んでいた役者さんは、別の方と静かに入れ替わる。それから即座に声を重ねられるのは、まさにプロの仕事。
『決まってんだろ』
『ん?』
『行くんだよ』
『どこに?』
『ここじゃないどこか――俺達の、本当の居場所に』
幼少期の主役二人を演じられている、女性二人が回想シーンを終えて、現実に戻る。
最後の一言は、主役が勤める。
『うん、行こう――俺達、みんなで』
「――はい、OKです! 今の頂きましたー!」
緊迫の流れが一気に緩み、誰もが息を吐く。それで僕とリインは拳を握って、とにかく興奮……大興奮!
「……お兄様」
「うん」
「落ち着け。サングラスから光が漏れてるぞ」
「もう一つ、かぶせられねぇか……これ……!」
ヒカリが何を言っているか、よく意味が分からない。だって、これで落ち着けるはずがないよ!
表面を装うので精一杯! これが、これが……最高ということかぁぁぁぁぁぁ!
「恭文さん」
「うん」
リインの言いたいことが分かったので、即座に右へ向き直り、平服。
「「チョマーさん、ありがとうございます!」」
「いいっていいってー。……ただサングラスは、絶対外すなよ……その、今の輝きは多分、直視したら失明する」
そう、チョマーさんに商談と称して連れてこられたのは……アニメのアフレコ現場!
それも鉄血のオルフェンズ、第一話だよ! 僕は後半からの見学だけど、大興奮!
というか、出演メンバーもかなりの顔ぶれで……寺崎裕香さん、遊戯王5D'sの龍可だよー!
イカ娘な金元寿子さんもいるし……何より櫻井孝宏さんと、松風雅也さんがぁぁぁぁぁぁぁ!
知ってる!? 松風雅也さんって、メガブルーだったんだよ! シェンムーの主人公なんだよ!?
シェンムーIII、今でも待ってるもの、僕! いや、でも……ほんと落ち着け……ここはプロの仕事場だ。
みなさんはこれで食べている方々なわけで、その邪魔をするわけには……だから大人しく……冷静に着席を。
「だがこれ、サングラスじゃ駄目じゃね?」
「ですね。なら……みなさんー、少しの間、恭文さんから目をそらすですよー」
『え?』
「サングラスを外して、更に強固な防護策を整えるです!」
その瞬間、慌ててスタッフが僕から顔を背けた。
「緊急警告! 見学に来てくれた蒼凪くんが、一時的にサングラスを外します! 少しだけこちらを見ないように!」
『なん……だと!』
『りょ、了解です!』
「……人を危険兵器みたいに」
≪仕方ないでしょ。目の輝きがマックスなんですから≫
というわけで、サングラスを外し。
『うお、まぶし!』
「はいです!」
すぐさまリインに、仮面を装着させられた。……ん? この懐かしいフィット感は――。
「これで大丈夫ですよ」
「おぉ……確かに、サングラスより効果があるぜ! スタッフ及びキャストのみなさん、もう安心ですよー!」
チョマーさんの警告に、みんなが安堵(あんど)……だけど、その……これ……両手で顔を、さわさわ……さわさわ……!
「……ねぇ、リイン」
「はいです?」
「これってもしかして」
「呪(のろ)いの仮面です♪」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
呪(のろ)いの仮面――覚えている人は、どれくらいいるだろうか。
『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』というアニメに出てくる、黒(ヘイ)が装着していた仮面。
更に他の装備関係もカッコいいので、ヒロさんとサリさんが作った……そこまではよかった。
問題はオートフィッティング機能が強すぎて、一度付けたら最後……簡単には外せない仮面となったこと。
慌てて両手で、仮面を外そうとしても……あれ、外れない! やっぱり外れない! 肌が引っ張られるー!
「ねぇ、外れないんだけど! これからお昼だよね! なのに外せないんだけど!」
「あれ、おかしいですねぇ……ヒロさんがオートフィッティング機能を改良したって」
「されてないよ! 何一つ変わらない付け心地だよ!」
「まぁみんなの目が守られるですから、問題ないですよ」
「だな。坊主、大丈夫だ……監督も、スタッフもみんな分かってる」
『大丈夫大丈夫ー』
「なぜだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
やだ……このままは嫌だぁ! 近所に美味(おい)しいカレー屋さんがあるって聞いて、楽しみにしてたのに!
しかも商談なんでしょ!? 細かい内容は伝えられてないけど! ……それで仮面ってマズくないかなぁ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
マシタ会長は、どうやら出張らしい。金色のリムジンへ乗り込み、秘書のベイカー氏がお見送り。
「では行ってくる」
「お気を付けて、会長」
「それとベイカー君、私の出張中、例の件」
「はい……決勝トーナメントまでには、次の手を考えておきます」
「頼むよ」
後部座席のウインドウが閉じられ、車が走り出す。お辞儀をして見送るベイカー女史。
……さて、どうやってPPSEの開発工場に近づこうか。
メイジン・カワグチに接近するのが手っ取り早いと、最初は思っていた。
だが彼の正体は、紅の彗星<ユウキ・タツヤ>。それで改めて、その経歴を調べてみた。
彼はガンプラ塾出身で、PPSEや二代目の思想とは反目し合っている様子。
それは同門であるジュリアン・マッケンジーとの……いや、これまで彼が、公式的に行ったバトル。
それと二代目のバトルを見比べれば、よく分かる。同じような圧倒的な強さでも、その質が違う。
二代目のバトルに近いのは、むしろメイジンではなく……っと、この話はいいな。
とにかく彼らに声をかけられるまで待つというのも、余りに受動的。やはりここは。
「――何ですって!」
そこで携帯を取り出し、通話していたベイカー女史に異変。
顔を青くし、邸宅前で右往左往している。
なのでこういうこともあろうかと、開発しておいた超小型集音マイクを取り出す。
それをベイカー女史に向け、通話の相手を探らせてもらう。
「ちょっと待ちなさい! <依頼>は終わってるはず」
『……のままでは、俺のプライドが……さない』
「そんなことは知りません。それにあの依頼は、大会のバトル中じゃないと意味がないの!」
『では聞くが、タイマン前提の決勝トーナメントで、どう介入しろと?』
「そ、それは……」
介入? 依頼? ……そこである事案と急速に結びつく。
「とにかく、いい加減にしなさい! 表沙汰になるようなことはしないで! ……もしもし……もしもし!?」
電話が切られたな。まさかとは思うが、第七ピリオドの一件、ベイカー女史達が?
レイジ少年への危惧ゆえだとしても、浅はかすぎる。PPSE社をもり立てた創設メンバーだぞ。
全てを失いかねない愚行。その時点で容疑者から外れるだろう。……普通なら。
しかしベイカー女史は、これがこの世の終わりかという様子。
夏の暑さを拒絶するような、冷え切った表情を浮かべていた。
(Memory55へ続く)
あとがき
恭文「というわけで、アニメで言えば第十六話――いろいろ増量しつつの鮮烈な日常、第54話です。本日のお相手は蒼凪恭文と」
リイン「リインフォースIIなのですよー! 恭文さーん♪」
(祝福の風、遠慮なく全力ハグ)
恭文「あ、うん……うん。でも、どうしたの」
リイン「お話の中だけじゃなく、こっちでもリインが独り占めなのですよー」
(そしてにこにこ……にこにこ)
恭文「そっか。……それで今回は」
リイン「ガンプラ作りのお話なのですね。それでいろいろテクニックも増量して」
恭文「……ただその本番は次回! 完成までは書いてるしね!」
(そこで会議やらなんやら詰め込んだ結果、次回へ回すことに)
恭文「そしてちょうど、今週の鉄血のオルフェンズを見終わったところ……やべぇよ、モビルアーマー」
リイン「で、です……」
(そしてポンコツ具合)
恭文「あのドジっぷりはフェイトレベル」
リイン「ですね。そう言えばフェイトさんも前に、同じようなことを」
恭文「してたしてた」
(『ふぇ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
『うりゅりゅー』)
リイン「でも恭文さん、劇中の話に戻るですけど」
恭文「うん?」
リイン「HGUC 陸戦型ジムはともかく、イフリート改はまだ参考出品でしたよ」
恭文「……願うことって、大事じゃないかなぁ」
リイン「……確かに」
(いつか出ると願って、ここでの登場。なお第八回ガンプラバトル選手権、蒼い古き鉄はブルーディスティニーで出るようです。
本日のED:MAN WITH A MISSION『Raise your flag』)
恭文「いつの間にか決まった!?」
リイン「でもでも、ブルーディスティニーは蒼色ですから、合ってはいるのですよ」
恭文「そうか……ならこれから僕の魔力光を聞かれたら、ブルーディスティニーの色って答えるよ」
フェイト「それは駄目だよー!」
古鉄≪ここで追記です。ディードさんのザクIは、読者アイディアからとなります≫
ジガン≪アイディア、ありがとうなのー≫
(おしまい)
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