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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
Memory51 『名人対名人』

※二〇一一年三月・静岡(しずおか)――ガンプラ塾バトルトーナメント終了直後。


ジュリアン先輩を止めることもできず、勝ち取ってしまった勝利。

その意味を見つけることもできずに、足は自然とホビーショップへ。

……こんなときでもこの場所へくると、自然と落ち着いてしまう。


トーナメントで消費しまくっていた資材をしっかり補充し、安心を覚えつつ出ていこうとすると……足が止まる。

目についたのはショップ中央に作られた特設ステージと、ヘンケン艦長コスプレなおじさん。


更にステージの前にはたくさんの歓声と子ども達。


「ガンプラ大会、子どもの部?」


自然とギャラリーの最高峰へ入り、その様子をほっとしながら見守る。みんな、楽しそうだな。

あの頃は……トオルと、恭文さんと出会ったあの頃は、ただガンプラが楽しい……それだけだったのにな。

ガンプラ塾に入って、いろいろなことを教わり、知った。


楽しいこと。

辛(つら)いこと。

競い合うこと。

理想。

……現実。

夢。


そこで思い出されるのは、タケシさんがイギリスで言ったこと。

僕のために父と話すと言った上で。


――選ぶのは君だ――


そう、あの強い瞳で言われたんだ。


「今なら、その言葉の意味もよく分かる」


楽しいだけでは、大好きな何かと向き合えない――。

恭文さんもだからこそ、バトルトーナメントへ飛び込んだ。

辛(つら)い戦いになると分かっていても、向き合って戦うことを選んだ。


そしてジュリアン先輩は、好きでいるためにガンプラから離れた。


なら僕は。


「でも」


そう続けられる自分がいることに感動を覚え、苦笑しつつも右手を開いて……ゆっくりと掲げ、握ってみる。


人差し指、中指、薬指、小指、そして親指。

その一本一本に刻まれた傷やタコを思い出し、自らの胸にしまい込んでいく。

あのとき、デザインナイフで怪我(けが)をしたな……とか、塗装したのにこの指で触って、失敗してしまったなーとか。


バトルのやり過ぎでこの指にバトルタコができて、父さんを絶句させたなーとか……もちろんガンプラ塾での経験もある。


このやや歪(いびつ)な手は、いわば戦友。

だからそれを見て、迷いながらもひとつの結論を出せた。


「それでも、それを知ってもなお、ガンプラが――楽しい」


今までと同じように……いいや、今まで以上にそう思う。

……それにまた安どすると、目の前でひときわ大きい歓声。

衆人環視の前でこれは恥ずかしいので、気付かれないようゆっくり手を下ろした。


ステージ上を見ると、優勝者が決まったようだ。

黒髪の彼はとても誇らしい笑顔で、金のトロフィーとガンプラを抱えていた。

どことなく、あの頃のトオルに似ている。


トオル、君はどう思う。今の僕を見て、君はどう感じるかな。

……だが彼が持っていたガンプラを見て、呼吸が止まる。


そのガンプラはHGフォースインパルスガンダム。

機体自体はやや荒削りだが、とても気持ちを込めて作られているのが分かった。

問題はその両手に持たれている武装。黒鉄色に塗られたそれは……マーキュリー、レヴ?


そこで反射的に人をかき分け、あの彼へと走り寄っていた。




魔法少女リリカルなのはVivid・Remix

とある魔導師と彼女の鮮烈な日常

Memory51 『名人対名人』




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


いよいよ第七回世界大会・予選ピリオドも最後……今回は決勝に勝ち上がれるかは微妙。

ここを落とせば、本当に後はない。だが続く……続いてみせる!


アビゴルバインをMA形態に変え、飛行哨戒(しょうかい)……敵の姿が見えない。

レナート兄弟、やはり油断ならんな。真正面から打ち合うつもりはないらしい。

各々のやり方を否定するつもりはないが、私との相性はよくなさそうだ。


足下をすくわれないよう、しっかりと警戒する。……そう思っていたのが功(こう)を奏した。

走る閃光(せんこう)に対し、アームレイカーを滑らせながらスライド移動。ピンク色の狙撃ビームを右スウェーで回避する。


「超長距離狙撃! ……そこか!」


第二射、第三射も、狙撃地点へ進みながらのスウェーで回避。

居座っている場所は……ひときわ高い、岩山(いわやま)の一角。


そこを望遠ズームでチェックすると、カーキグリーンのジムスナイパーを発見。

ただしライフルはオリジナル……原典のものよりかなり大型で、HGサイズのそれと同じくらいだ。

あのサイズ、今の火力……着弾した岩山(いわやま)を穿(うが)つ様子から見るに、直撃すれば危うい。


「ジムスナイパーの改造機体か」


三射目が放たれたタイミングで、装甲内部のミサイルポッドを展開。


「この射撃精度……さすがはベスト16圏内!」


四射目を避けたところで、あちらとの距離は五〇〇メートルほどに縮まる。

そこを狙ってミサイルを連続発射。合計十八発のミサイルは、放物線を描きながらジムスナイパーへと飛ぶ。

奴らの待機場所を、その周囲を絨毯(じゅうたん)爆撃。そうして爆煙が生まれる寸前、奴らは退避。


山を飛び降り、岩肌が向きだしな大地を踏み締める。距離三百……MS形態へ変形し、ビームサイズを取り出しながら。


「捉えたぁ!」


逆袈裟一閃――。

すると奴は大型ライフルを放り投げ、右肩部にセットしたヒートナイフを抜刀。

こちらの斬撃を受け止め、防御してくる。そのまま押し切ろうとするが……耐えているだと。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ヒートナイフは奴のサイズを受け止め、払いのける。

更に袈裟・逆袈裟と振るわれるのが、フリオは的確に防御。

右薙の斬撃を防御したところで、押し込んでつばぜり合いに持っていく。


「持たせろ」


つばぜり合いをしている間に、ブラッド・ハウンドの一部がパージ。

スポーツプレイヤー様が得意な、真っ向勝負で目くらましもさせてもらう。


「二十秒だ」

「了解……!」


パワーはさすがだが、こちらもいろいろと詰め込んでいてな。

二十秒程度なら、ナイフ一本で押さえ込める。そして恐怖しろ。


その間にハウンド隊が、お前の牙を砕くからな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「軽量タイプだと言うのに、このパワーは……!」


胸やスカートなどにある、追加装甲だけではない……中身から重量級にセッティングしてあるのか。

射撃の安定感を増すため? ふ、ならばいいだろう……!


長々としたつばぜり合いを、強引にサイズを払うことで解除。

無理せず下がったジムスナイパーは、左手でハンドガンを取り出す。

左足の付け根と、太もも部の間に仕込んだ追加パーツとホルスター。


そこから抜き放たれたオートマチックタイプの拳銃が、次々とビームを放つ。

かなりの連射速度で、次々とこちらの装甲を叩(たた)いてくる。だが心配はいらない。


「その程度の攻撃で」


ハンドガンのビームを受け止め、払いながら袈裟一閃。

再び逆手持ちのナイフで捌(さば)かれるが、構わず柄尻から発生する、もう一つの鎌を打ち込む。

左薙の斬撃で脇腹を狙うが、奴はビーム刃目がけて右薙一閃……こちらの一撃を切り払った。


それも、構築されたビームと、その発生器部ごと。さすがに驚くが、構わずに。


「このアビゴルバインに傷一つ!」


逆袈裟一閃……攻撃直後で、隙(すき)だらけな奴を穿(うが)つ。

いや、穿(うが)とうとした。……だがその瞬間、突如両肘・両膝部で爆発発生。

間接部が粉砕され、アビゴルバインはだるま状態であお向けに倒れる。


「何ぃ!」

『……終わりだ』


切り離された四肢、抵抗を潰され、倒れゆく愛機。

奴らのジムスナイパーは、ゴーグルを輝かせながら……そのナイフを、アビゴルバインに突き立てた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


マオくんも無事に全勝キープ。それに安堵(あんど)していると、次はルワンさんの試合。

イオリくんと、レイジくんが戦った……タイの凄(すご)いファイター。正々堂々とした、とても気持ちのいい人。

その人なら、あんな……爆弾なんて使う、卑きょうな人達に勝てるって思ってた。


だって特殊バトルじゃないし、真正面から戦うんだもの。なのに……結果は。


≪BATTLE END≫


アビゴルバインは、胴体部を穿(うが)たれ爆散。

ルワンさんはぼう然とし、打ちのめされながら愛機を見つめていた。


「マジかよ……」

「そんな、どうして」


レイジくんも、ルワンさんを応援していた。またバトルしたかったみたいで。

どうしてなの。また、訳の分からない勝ち方を……。


「やっぱり、違う。あんなの」


悔しい……あんな人達に、あんな卑きょうな人達に、イオリくん達が負けたなんて。

正々堂々戦えば、絶対イオリくん達の方が強い。それなのに……!


あの人達のバトルは、わたしの知っている……わたしの好きな。


「ガンプラバトルじゃない……!」

「いいえ」


そこでハッとした。後ろから声をかけてきたのは、険しい表情のセシリアさんだった。


「個人の趣味嗜好(しこう)は否定しませんが、あれもまたバトルですわ」

「どうしてですか! だって」

「思慕と混同するのはおやめなさい」

「……!?」


いつも通りの厳しい叱責だった。でも、そんなの納得できない……だって、あれは。


「自分の話だけをまくし立て、会話が成り立っていると勘違いする……典型的な(ぴー)型女ですわね」

「――!」


ま、また言われた……今まで生きてきた中で、一番キツい一言……セシリアさんにまで……!


「チナ、大丈夫か! 顔が真っ青じゃねぇか!」

「ご、ごめんなさい……(ぴー)型に生まれて、ごめんなさい……!」

「何があったんだよ、お前! (ぴー)型ってなんだ!?」


わたしは、本当に間違っているの? 分からない……。

わたし、どうしたらいいか、分からない。それが怖くて、悲しくて、涙が出る。


見えたはずの答えが、手の平から零(こぼ)れていく。分からないの、戦う人の気持ちが……イオリくんの気持ちが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まぁまぁ……それならば、第二十一試合を見てみるといい」


取り直すように、大尉が御自分の右側を指す。

ちょうどそこが空(あ)いていて……一礼しながら、着席させてもらう。


「第二十一試合? 確かそりゃあ」

「そう、三代目メイジン・カワグチと、ジュリアン・マッケンジーの試合だ」

「ん? なぁ、マッケンジーってあのじいちゃん……名前が変わったのか」

「ファイターが変わった。ジュリアンは准将の孫なんだよ」


レイジさんの目が驚いたように開かれるので、わたくしも念押しで頷(うなず)く。


「そしてわたくしやタツヤさんと同じ……ガンプラ塾生でしたわ」

「……じゃあ、相当強いのか」

「いいえ」

「は?」

「相当ではなく……化け物のように強いんです。タツヤさん以上に」


わたくしの訂正に、レイジさんがまた驚き、息を飲む。聞き返さない辺りで、ちょっと安心。


「確か……タツヤ君は七戦七敗だったな」

「あの野郎が、一度も勝ったことがないだと……!」

「それゆえに、メイジンに最も近い男と呼ばれていました」

「だったらなんでアイツがメイジンなんだよ。ガンプラ塾ってのは、強い奴が正義なんだろ」

「だからこそ、脱落したんです」


タツヤさん、あなたはまず一点、ジュリアンさんに勝っているところがあります。


「あの方は、心が弱かった。……チナさん、あの人達のバトルをよく見ておきなさい」

「……え」

「目をそらさず、真剣に」


好きだけでは、楽しいだけでは、大好きな何かと向き合えない――。

同じ壁を突きつけられながらもあなたは、それでも”楽しいガンプラ”を追い求めました。

二代目は確かに偉大だった。分かりやすい”強さ”で、人々に目標を与えたのだから。


でもあなたは……強さだけではないでしょう? それを見せて、格の違いを突きつけてあげなさい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ライナー・チョマーを撃退し、何とか予選突破圏内へ再突入。

それにホッとしつつ、各試合に注目してたんだけど……マリオとフリオ、やっぱ強いね。

最効率でアビゴルバインをつぶしにきたか。


「恭文、今のって」


一緒に見ていたりんとともみ、歌唄達もぼう然。余りに一方的だったもの。


「予測できるところは、それなりにあるかな。……リイン、気づいてたよね」

「はいです。あのオリジナルバックパック、つばぜり合いをしている間に、一部がパージされたですよ」

「え……!」


ともみが驚き、レナート兄弟の手元をチェック。

おぉ……ちょうどバックパックをはめ込んでいるね。分離・移動式のユニットってわけか。


「それで間接部に何か仕込んだ。分離した途端、光学迷彩も発生してたです」

「うわぁ……そりゃあまた」

「さて、ルワン・ダラーラはこれで二敗……決勝進出はかなり厳しくなる」

≪あとは明日の試合ですね。初っぱなから楽しくなりそうですよ≫

「うん。でもその前に」


セイとレイジ、それにリカルドのバトル。レイジにとっては師弟対決だ。

同時に手痛い敗北からの第一歩なんだけど……!


「恭文的にはやっぱり、ジュリアン・マッケンジー?」

「……うん」


りんが言うように、ジュリアンとタツヤの試合が気になって仕方ない。

なおダーグとレヴィは言わずもがな。きっと今、うさみちゃんみたいな目で見ていることだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


試合は進み、第二十一試合――。

アランを伴い、巨大ベース越しにジュリアン先輩と対峙(たいじ)。

三年前より少し、痩せただろうか。だが体調の悪さを感じるほどではない。


お元気そうで何よりだ。……いや、そうでなくては困る。


『ただいまより予選第八ピリオド、第二十一試合を開始します』


……ジュリアン先輩。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ダーグさん、ラッセルさんは本当に強かった。ガンプラ塾にいてもおかしくないレベルだ。

そんな二人と本気で打ち合えて、心から感謝している。……おかげで往年の勘が取り戻せた。

イマジンも再調整を重ね、本来のスペック以上に仕上がった。あとは……タツヤ、少し太った?


いや、鍛えているんだね。机にかじりつくばかりじゃなくて、体もしっかりと……いいことだ。


……グランパとの約束もあるが、それ以上に君の真意が知りたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


降って沸いた最大の障壁――乗り越えてみせる!


≪――Plaese set your GP-Base≫


ベースから音声が流れたので、手前のスロットにGPベースを設置。

ベースにPPSEのロゴが入り、更にパイロットネームと機体名が表示される。


≪Beginning【Plavesky particle】dispersal. Field――Desert≫


ベースと足元から粒子が立ち上り、フィールドとコクピットを形成。

夜明け前の、荒れ果てた大地……ふ、なかなかのロケーションではないか。


≪Please set your GUNPLA≫


指示通りガンプラを置くと、プラフスキー粒子がガンプラに浸透――。

スキャンされているが如(ごと)く、下から上へと光が走る。

カメラアイが光り、首が僅かに上がった。粒子が眼前に収束。


メインコンソールと操縦用のスフィアとなる。

モニターやコンソール、計器類は淡く青色に輝き、アームレイカー型操縦スフィアは月のような黄色。

コンソールにはガンプラ内部の粒子量も逐一表示され、両側に配置された円系ゲージが忙(せわ)しなく動く。


両手でスフィアを掴(つか)むと、ベース周囲で粒子が物質化。

機械的なカタパルトへと変化。

同時に前・左右のメインモニターにカタパルト内の様子が映し出される。


≪BATTLE START≫

「メイジン・カワグチ、ケンプファーアメイジング――出る!」


アームレイカーを押し込み、フィールドイン。

早速真正面から、超高速で飛び込んでくる機影あり。


「やはり来たか」


差し込み始めた日の光を受け、煌(きら)めく赤と白のボディ……ガンダムF91イマジン。

そのまま急接近しながら、ぶつかるすれすれの距離で交差。

瞬間的な見切りと僅かな回避に、ガンプラ塾での記憶が重なる。


それを振り払うように反転し、着地した上で右手のビームライフルを構えた。

F91イマジンも同様に、専用ビームライフルをこちらに向けていた。

トリガーに指がかかるが、それだけ……撃つまでもない。


放ったビームは一ミリの誤差もなく衝突し、破裂する……それだけだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


太陽が昇り、朝日が差し込む……でも、ユウキ会長のガンプラも、ジュリアンって人のガンプラも動かない。

ライフルを向き合ったまま静止。風が吹き荒れても、全く……。


「どう、したの。まさか故障?」

「そんなことを言うお上りさんは、あなただけですわ」


セシリアさんは呆(あき)れた様子でため息を吐く。ちらりと見たら……凄(すご)い勢いで睨(にら)まれた。

”目を逸(そ)らすすな”ということらしくて、慌ててベースに視線を戻す。


「レイジさん、大尉」

「斬り合っているな」

「あぁ……襲撃じゃ決着がつかねぇ」

「斬り、合う? え、でも」

「奴らの間じゃ、何度もつばぜり合いが続いている……動かないんじゃなくて、動けないんだ」


動けない……ユウキ会長もすっごく強いのに、踏み込んだ瞬間やられるってこと?

そんなにあの、優しそうな人は強いの? 色以外は普通のF91に見えるのに。


「彼らほどの達人となれば、あの距離でも間合いとなり、それらは”結界”とも言える頑強さを誇る。……ジュリアン、往年の冴(さ)えは未(いま)だ健在か」

「えぇ……殺気と殺気のぶつかり合いで、産毛が逆立ちそうです」


どうも、そうらしい。わたしにはよく分からないけど……でも、緊張感みたいなのは伝わってくる。

……そうして一分ほど……ううん、もっと長く?

誰もが時間の感覚を忘れるような、そんなにらみ合い。それを見守っていると……ケンプファーのバインダーが震える。


バックパックと両足にセットしたウェポンバインダーは、火を吐きながら機体を加速させる。


「ケンプファーが仕掛けた!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「無敵を誇った、ジュリアン・マッケンジーのF91イマジン!」


右手のライフル、及びバインダー砲口四門からフルバースト。

するとF91イマジンは、肩部スラスターと内部フィンを大きく展開。

そのまま急上昇し、ビームをたやすく回避した。


「しかし、しょせんは一年半前に作られたガンプラ!」


その回避先を押さえつつ、スカートアーマーからサーベル基部を取り出し、ビーム刃を展開しながら刺突。

するとF91イマジンは残像を置き去りに、その場から消失。

大きく後ろに下がりながら、敵はビームライフルを連射。


それをこちらのライフル、バインダーキャノンで相殺するも、距離が近かったため連続的爆発に煽(あお)られ、吹き飛んでしまう。

いや……全て相殺はできなかった。左足のバインダーが、接続基部から撃ち抜かれて落下する。


「ちぃ!」

「カワグチ!」


すぐさま各部スラスターを吹かせ、反転――サーベルを右薙に振るい、背後に現れたF91イマジンを両断。

しかしそれも残像……いや、突き出されていたライフルは切り裂き、目の前で爆散する。

そんな爆煙を突き抜け、F91イマジンのマシンキャノンとバルカンが猛攻を仕掛ける。


ケンプファーアメイジングの装甲は、さすがに原作ほど薄くも、脆(もろ)くもない。

だが敵もまた、メイジンに最も近かった男の愛機。こちらの強度をたやすく跳び越え、肩部や胴体、太ももを穿(うが)ち、幾つもの穴を開ける。


決して無視できない損傷を受けつつも、すぐに退避。するとヴェスバーの光も襲ってくる。

それはすれすれで回避するが、途端にF91はバク宙。左スウェーをかけたところで、照射型ビームによるギロチンバースト。


それが左足のバインダーを両断……致し方なく、中の武装ごとパージする。


「く……PPSE社の最新傑作が!」

「仕方あるまい、相手が相手だ」

「確かにね!」


ライフルは落とせたが、向こうにはヴェスバーもある。まだまだ油断はできないか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


何アレ……! 機体が、増えた!? ううん、知ってる……知ってるけど、あれは!


「機体が増えた……ヤスフミもやっていた、M.E.P.E(質量を持った残像)ってやつか」

「その通りだ。F91イマジンが高速に動いた瞬間、ガンプラの塗装が剥離。それがプラフスキー粒子と反応することで、残像現象を引き起こす。
もちろん肉眼で見ている我々には”残像”と分かるが、ガンプラバトルはモニター越しに行うFPSゲーム」

「やっている最中は、センサーやらFCSってのも実機と誤認して、文字通り数が増える……だよな。ヤスフミにも散々やられたよ」

「恭文さんにも?」

「恭文さんの二つ名<蒼い幽霊>は、M.E.P.E(質量を持った残像)を得意とするのも所以(ゆえん)ですわ。
……そしてこれこそ、ジュリアンさんを次期メイジンと言わしめた技<バック・ジェットストリーム>」

「バック……ジェット……」


ユウキ会長より強くて、そんな凄(すご)い技を持っている。……あんな人まで世界大会に出てくるなんて。

しかも予選ピリオドだから、もし決勝に残ったら……イオリくん達が戦ったら、また負けちゃうんじゃ。


また、昨日みたいに……そんなの、嫌なのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


地表スレズレを飛行するF91イマジンに、ライフルを連射。

しかし加減速と周囲の地形を利用し、こちらの攻撃をすれすれで回避してくる。


『やるようになったな! タ……高い位置から撃つだけのメイジン・カワグチ!』

「なんだそれは!」


あぁ、つい聞いてしまったけど分かる! ジュリアン先輩、優しいからなぁ!

正体とかバラしちゃ駄目って、咄嗟(とっさ)に言い直してくれたんだよ! 完全に煽(あお)りになってるけどね!


とにかくジュリアン先輩は、自らの先を取る射撃に急停止・左バレルロールのコンボで対処。

そうして身を翻しながら、左右のヴェスバーを展開。連射速度重視のビーム砲弾を、連続発射する。


当然のようにこちらの回避先を捉えたものばかりで……それを左へ大回りし、当たりそうなものはサーベルで切り払いながら、何とか避けていく。


「さすがだな……往年のキレ、全く衰えていない!」


こちらも射撃で返すと、F91イマジンが急上昇。ビームを避けながら抜刀してくるので、袈裟に切り結びながら交差。

更に雨あられのような射撃を、弾丸の応酬を繰り返しながら。


『なぜ三代目を襲名した! 二代目の思想に捕らわれたのか!』

「そんな理由で……メイジンを継ぐなど!」


再びの斬りかかりをサーベルで払い、至近距離でライフルを放つ。

咄嗟(とっさ)に左腕のビームシールドが構えられ、展開。直撃こそ取れないが、衝撃でF91イマジンは大きく吹き飛ぶ。

その上でヴェスバーの反撃が飛ぶので下がると、右手のライフルが中程から撃ち抜かれ破砕。


すぐさま右肩のバインダーを開き、予備のライフルを射出……いや、後だ。

ヴェスバーの連射をサーベルで切り払いながら、向こうの突撃に備える。


『他に理由があるなら見せてくれ……!』


F91イマジンは再びサーベルを翻しながら、こちらに最高速で迫る。


『君の思いを――その覚悟を!』

「来る!」

「アラン、しばし私はメイジンを捨てる」

「何!」


やはりあのときの決勝は、やり残しでもあったらしい。

バトルに勝つだけではなく、ジュリアン先輩に伝えたい言葉があったから。

あのとき私は、先輩に押しつけてしまった。勝ち上がることでみんなの夢を食いつぶしておきながら。


自分の夢<メイジン>を形作ることもなく、ただ勝ち続けた。それでは駄目だったんだ。

でも今なら、伝えられるかもしれない。バトルを通すことで、私の夢を。


友が思い出させてくれた、描く三代目<ヒーロー>の形を。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


あの日……あの雨の日、僕は友と再会できた。


「なぁタツヤ、そんなに悩むならいっそお前も、三代目を捨てちゃえばいいんじゃないか?」


雨が上がり、夕焼けが輝き始める中、友はそう言ってくれた。


「――そ、それはできないよ! ガンプラが好きな仲間の夢を打ち破ってきたんだ。それをやれば……僕は自分を許せなくなる」

「ほんと真面目ちゃんだなぁ、お前。相変わらずファンネルが渡り鳥なんだろ」

「それはちゃんと動かせるようになったぞ!」

「……え」


八年ぶりの再会は衝撃的で、でも嬉(うれ)しくて。

変わらずにガンプラが好きで、いつも笑っている友がいた。


……そしてファンネルを扱えるようになった、僕の努力を気の毒そうに片付けた。あの恨みは、次会ったときに必ず晴らそう。


「それが事実なら、お前が変えちまうってのはどうだ?」

「変える?」

「……勝利のみを追い求める修羅、孤高のファイター二代目メイジン・カワグチ」


そう、それがメイジン……そしてジュリアン先輩も忌むべき悪として捉えた、最大の反面教師。

PPSE社の意向もあるのだろう。彼の強さが、世界の大舞台を作り上げた一因なのは確かだ。


「だがその継承者である三代目は」


友は……トオルは、夕焼けを見ながら笑う。


「強さも、優しさも……楽しさも兼ね備えた、みんなの名人(ヒーロー)だ」


その言葉はまるで、頭をハンマーで叩(たた)かれたような衝撃だった。メイジンを、変える? そんなこと……できるじゃないか。


ガンプラ塾だって変えられた。

ほんの少しで、無意味だったかもしれない。でも、変えられることは証明できた。

好きな気持ちで、楽しい気持ちで、孤高ではない繋(つな)がりを生み出せた。


そうだ、それが僕達の道だった。

トオルが思い出させてくれた、好きなことは好きでいいという勇気。


それが改めて胸を駆け巡っていると、トオルが僕の胸を軽く叩(たた)いた。


「どうだ、カッコいいだろ!」

「そ、そりゃそうだけど……簡単じゃない、よなぁ」

「大丈夫大丈夫! ファンネルを動かせたお前なら、世界制覇だって狙えるぞ!」

「ファンネルの話はもうやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


そして友は嵐のように去っていく。……乗り込む電車まであと五分らしい。


「そうそう、タツヤ……俺さ、今ガンプラのアイディアが、頭の中にたくさん詰まってんだ」


だがお父さんもお元気そうだった。二人で旅をしながら、少しずつやり直している。

作って、壊して、また作って――バトルで傷ついたガンプラと、また立ち上がるように。


「子どもらとワイワイ言いながら思いついたアイディアさ。すげぇぞ……! 見たらお前や恭文も絶対びっくりする!
つーわけで、もうすぐ俺も復帰する! 必ずだ! そうしたら」


トオルは不敵に笑い、左手で僕を指差し。


「真っ先に挑戦するぜ、三代目!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


トオルが思い出させてくれた。思いを貫けば、それは必ず道になる。

確かに二代目は偉大だ。だが……僕はその思想に取り込まれることを、決してよしとしない。

楽しいだけでは、大好きな何かと向き合えない――だが、その楽しさが原動力でもある。


厳しさも、現実も、夢も、理想も、全てを含めて――。

今戦うことを”楽しい”と思えるのなら。

そんな道もあるのだと、伝えることができるのなら。


……いや、伝えていきたい。

まずはあの日、見送ることしかできなかった、あの人に――!


「ユウキ・タツヤとして、あの人を超える」


こちらも突撃――右手でサーベルを取り出し、二刀を振りかぶる。


「その先に」


手首を回転させ、勢いを付けながら……袈裟の一撃を放つF91イマジン。

それと切り結びながらも、出力は全開――! 


「私の目指すメイジンがある!」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


その最中F91イマジンがフェイスガードをオープン。

その上で口元から閃光(せんこう)を放った。


「ぐ……!」

「ちぃ!」


サングラスのおかげで、目くらましも軽減……何とか見て取れた。

閃光(せんこう)としてまき散らされた粒子。その根元で収束が起き、ビームとなるのを。

咄嗟(とっさ)に頭部と胴体部を逸(そ)らし、F91イマジンのゲロビームを回避。


胸元表面が焼けてしまったが、十分許容範囲だろう。

……そのまま刃の接触点を始点に回転。F91イマジンの首元を狙って、左薙一閃。

F91イマジンは咄嗟(とっさ)に頭を下げて回避し、すぐさま大きく離脱。


『バック・ジェット・ストリーム!』


その上でM.E.P.E(質量を持った残像)を発生。……それに合わせ、こちらも再度突撃。

幻影の一つから放たれた、ヴェスバーの一撃。それが左上部のウェポンバインダーを打ち砕くが、気にせずに基部ごとパージ。


「まさか、カワグチ」


一つ仕込みをした上で、名を捨てたその意味、アランとジュリアン先輩に見せつける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ユウキ会長のガンプラが、突然赤く輝きだした。それで速度が倍増しになって、一気にF91イマジンへ突撃。

すれすれで回避されちゃうけど、バレルロールで急速反転。ほぼ零距離で再突撃して、F91イマジンと斬撃をぶつけ合う。

分身全てを貫くような、赤い弾丸。それと化したケンプファーアメイジングは、F91イマジンを追いかけていく。


F91イマジンもそれを流しながら、背後を取ろうと……二人は、赤い揺らめきとなって、空を貫き続ける。


「あれ……トランザム? レヴィさんが使っていた」

「いいえ。あれは紅の彗星です」

「え」


それってユウキ会長の二つ名……ううん、違う! そうだ、アーカイブ映像……去年の大会で、ユウキ会長は”アレ”を使っていた!


『あれは……紅の彗星<ハイマニューバ>!?』

『嘘! メイジンも使えたんだ!』

「なんだ……なんで会場中が」

『――紅蓮(ぐれん)となって駆け抜けろ』


そのせいかな。会場中がざわめいているの。そうしてユウキ会長が追撃を続ける中、そのサングラスが……ずり落ちた。

汗だったのかな。それともバトルが激しいせいかな。とにかくサングラスがずり落ちて、会長は面倒そうに払いのける。


『ケンプファーアメイジング!』


その結果、素顔が露出して……!


『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

『な、何ということでしょう! 三代目メイジン・カワグチの正体は……ユウキ・タツヤ!』

『こ、今回の第三ブロック地区予選で辞退したはずですけど……そっか! 三代目として出場するから!』


ど、どうするのこれ! 三代目の正体って……秘密だったんだよね!

だから学校に聞いても、ユウキ会長の実家に聞いても梨のつぶてで……いいの!? バラしてよくなったの!?


「……あれこそ、タツヤ君を<紅の彗星>と言わしめた技……私が知る限り、タツヤ君のみができた技巧<アーツ>だ」


ラルさんが無視して話を進めた!?


「アイツ、のみが……あれ、それってマズくね?」

「……だろうなぁ。どうする、セシリアくん」

「知りませんわ。それにほら、楽しそうですし、いいでしょう」

「い、いい……のかなぁ」


でも先輩は楽しそうだった。必殺技を出しても凌(しの)がれるのに、全く揺らがない。

楽しく追いかけ、ジュリアン先輩の反撃を食らい……アーマーが傷つきながらも、それでも遊んでいた。


そう、遊んでいた。楽しく、真剣に、心から……そうして、戦い続けていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紅の彗星……塾内バトルトーナメント準決勝時、ヤスフミ相手に発現した技か!

あのときは作り込んだサイコフレームが軸となり、紅蓮(ぐれん)を纏(まと)っていた!

だが、サイコフレームなしでも使えるとは……一年半、か。


決して長くもなければ、短くもない時間。その間にタツヤは、こんなにも大きく成長した。

それはヤスフミやセシリア達もか。置いていかれたんだな、僕は。


「……!」


そんな事実を突きつけられながら、必死にアームレイカーを動かす。

回転運動による機敏な方向転換。その合間合間で起こる、クロスレンジの打ち合い。

岩山(いわやま)をすり抜け、時に撃ち抜きながらも、ケンプファーは眼光をたぎらせ迫る。


そんな猛撃を凌(しの)ぎながらも、バルカンとマシンキャノンで牽制(けんせい)。

方向転換の合間を狙い、粒子フィールドを叩(たた)いて動きを止める……一瞬でいい。

この勝負は、ほんの一瞬あればいい。その一瞬をヴェスバーの一撃に繋(つな)げ、直撃を取る。


粒子フィールドが衝撃で減衰し、赤の輝きが小さくなる。そこを狙い、更にヴェスバー連射。

それを回避しながらも、バレルロールの回転で粒子を圧縮・変容。

再び赤の輝きを高めるケンプファーへ飛び込み、袈裟一閃。


そのまま斬撃をぶつけながらも……く、推力では向こうが上か! 押し切られる!

仕方ないので、先ほどのタツヤが如(ごと)く突撃を流す。当然タツヤはすぐさま反転。


その間にこちらも、幻影をまき散らしながら突貫。

視界とセンサー、両面から惑わしながら、紅に燃えるケンプファーの背後を取った。

今度こそ胴体を取れた……と思ったが、ケンプファーは右腕と手首を回転させながら、ビーム刃を背後に回す。


その上でこちらの斬撃を流してしまう。刃の切っ先は、バインダーとバックパックの表面を、僅かに抉(えぐ)るだけだった。


「あ……!」


次の瞬間、衝撃でカメラが揺れる。腹を蹴り飛ばされ、同時に胸部アーマーに亀裂が走った。

粒子フィールドを纏(まと)った状態で……だからなぁ。打撃だけでも、当たりが深ければ致命傷か。

なので右サイドアーマーのラックから、予備のビームシールド基部を取り出し……逆袈裟一閃。


追撃を仕掛けたケンプファー、その眼前で爆煙を発生させ、周囲の視界を塞ぐ。

するとケンプファーは不意打ちを避けるため、急上昇。


……既に回り込んでいた、ボクの眼前に現れてくれる。


すかさずヴェスバーを放つ。これでチェックメイト……というところで、警告アラームが響いた。

ボクが放った一撃は、突如間に割り込んだ『黒い影』が受け止め、それもろとも粉砕。


「これは、バインダー!?」


先ほど射出したバインダー……それを遠隔操作で飛ばし、盾にしただと! ということは……!

咄嗟(とっさ)に背後を見た。ボクと同じように襲ってくると思ったから……だが。


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


斬撃は真正面から……それで一瞬、反射が遅れた。

ビームシールドを展開するも、突き出された刃は左肩を抉(えぐ)る……それ以上の追撃を止めるように、刃を押さえることしかできなかった。

更に残ったバインダーもこちらに向けられるので、マシンキャノンとバルカンを零距離掃射。


放たれた弾丸とビームが交差し、こちらは頭部を。

向こうは胸部装甲の一部と、最後のバインダーを砕かれながら吹き飛ぶ。

それを見こした上で……衝撃に耐えながら踏ん張り、一歩踏み込んだ。


左肩が両断されるのも構わず、今度はこちらが刺突。


「――タツ」


剥がれた装甲内部……フレームの中心部目がけて、刃を突き入れる。


「ヤァァァァァァァ!」


たとえ避けられてもいい。そうすれば切り返すことができる。

既にスラスターは全損。粒子フィールドも今の攻防でほぼ減衰……それならば。


『これが』


だがタツヤは……そんなボクの思考を読み切っていた。

いいや、読めない部分も含め、受け止めようとしていた。だから予測も付かない行動に出る。


……ケンプファーアメイジングは、そこで僅かに身を伸ばし……頭突き。

頭部アンテナで、こちらのサーベルを真正面から受け止めた。するとどういうことだろう。

アンテナは切っ先から根元まで、たやすくビームを断ち切り……せめぎ合い始めたではないか。


「……!」

『私の』


そんな無茶(むちゃ)に耐えられるわけもなく、頭部は爆発。だがその衝撃で、体勢が崩れてしまう。

本当に、その一瞬でよかった。ケンプファーアメイジングは身を翻しながら、再び紅蓮(ぐれん)を纏(まと)いながら。


『覚悟だぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


二刀を袈裟に打ち込み、ボクを……F91イマジンの停滞を切り裂き、交差する。


……タツヤの一撃から伝わった気迫。それで手が震える。心が、軋(きし)む。


ボクの、全てを受け止めて……その上で凌駕(りょうが)する。

これは、違う。

二代目のものでもない。


エレ男達から教えられたことでもなければ、ボクのやり方でもない。


あの頃の……真っすぐに、ガンプラを楽しんでいくタツヤの、まま。


「そうか……分かったよ、タツヤ」


君はメイジンになることで、ガンプラの有様を変えたいんだね。


「それが君の」


ボクは逃げた……好きでいるために、厳しい現実から逃げた。……なんだ。


≪BATTLE END≫


勝負はとっくに付いていたじゃないか。戦わない者に、勝利はあり得ない。


「覚悟か――!」


F91イマジンは爆散――その炎に包まれながら、思う。

真正面から戦って、負けるのはいつ以来だろう。

塾では……いや、もっと前? 負けると、こんなに悔しかったんだな。


でも……もっと……次も、戦いたくなる――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


F91イマジンは爆散……バトルは終了し、ケンプファーアメイジングもぼろぼろながら着地。

何とか勝利を掴(つか)み、全力のガッツポーズ……を必死に我慢し、サングラスを整える。


「……私はまだ、メイジンし……!?」


だがそこで、サングラスがあるべきところにないと気づく。


慌てて足下を探ると、落としたサングラスがあった。

なので冷静を装い、サングラスを装着し直す。よし、これで完璧。


「……君は馬鹿なのか?」

「がふ!」


アランの言葉が突き刺さり、つい嗚咽(おえつ)を漏らす。


「さ、サングラスが汗で……ズレたせいだ。そうだ、私はユウキ・タツヤなどではない」

「もう遅いよ! 全てが遅いよ! どうするんだい、これ! あぁ……絶対怒られる!」

「必死で謝るので、どうか……!」

「大丈夫だ、タツヤ。今言いかけた通り、君はメイジン失格」

「せめてバトルで判断してくれ! すまん……いや、すみませんでしたぁ!」

「頑張ってね、タツヤ」


F91イマジンを回収した先輩が、こっちへ近づきほほ笑みをくれる。……ある意味死刑宣告だが。


「いや、三代目メイジン・カワグチ――僕の完敗だ」


……その言葉に衝撃と感動を覚え、震えながらも……かけ直したサングラスに右手をやる。


「……このサングラスがなければ、撃墜されていたのはこちらだ」

「だったら、もう放り投げちゃ駄目だよ?」

「は……はい」


返す言葉もないので、その笑顔と言葉には素直に頭を垂れる。

今もメイジン、捨てているよなぁ。完全に先輩後輩へ戻っている。


「ジュリアン先輩」

「うん」

「ガンプラには、戻らないのですか」

「……一度きりのつもりだったけど、そうもいかなくなった」


ジュリアン先輩は笑って、抱えたF91イマジンを見やる。


「こんな楽しいことを、放っておく手はないよ。……今年は無理だろうけど、でも……来年は」


先輩は力強く、自らの右手を差し出してくれる。


「メイジン、またバトルを」

「もちろんだ――」


私達は握手を交わす。あの日交わせなかった言葉と想(おも)いを伝え終わり、最後に未来を約束して。

その瞬間わき起こる歓声に、先輩と、アランと……三人で応えた。

……なおPPSE社の方々には、しこたま怒られた……予選突破が帳消しかってレベルで、怒られた。


でも、そんなの序の口だった。翌日以降、また更にとんでもないことに……!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


勝負は決着した。とても白熱したバトル……会場中が歓声を、拍手を送っていた。

やっぱり、ユウキ会長は凄(すご)い。……でも……いずれは、戦うことになる。


イオリくん達は、本当に勝てるの? ビルドストライクもぼろぼろになって――。


「……ジュリアンがガンプラ塾を去ったのは、塾内バトルトーナメントの決勝……自主退塾によるものです」


二人の握手が交わされ続ける中、セシリアさんが静かに語る。


「それを逃げたというのは、とても簡単ですわ。でも問題の本質を捉えていない。……彼にはなかったんです」

「なかった?」

「メイジンのコピー以外に、なるべきメイジンの形が。……二代目の在り方を、悪と感じる心はあった。
でも”ならば”と成すべき正義がなかった。だから耐えきれなかった」

「確か……ラルのおっさん、言ってたよな。二代目ってのはすげー強くて、それでガンプラバトルが奥深いって知らしめた」

「その通りだ。……君がタツヤ君の強さに触れ、彼を目標として追いかけたように」

「あ……」


そうか……わたし、実はよく分かっていなかった。

だってすっごく強くても、ヒドい勝ち方なら意味がないって思う。

二代目もそういう人なら、そんな人が素敵だとは思えないって。


でも、強いことが……勝つことが、誰かの目標になることもあって。


「なら、ユウキの野郎は」

「それが今、試されています」

「決勝戦のやり直しだけじゃあ無理ってことか」

「ただ一つ言えるのは……今の戦い方が、二代目のそれとは違うこと。むしろジュリアンの方が近くてよ?」

「確かにな。アイツの攻撃は、ケンプファーの弱いところを狙っていた。又は間接や背後とかよ」


そう、なの? わたしには凄(すご)すぎて、二人とも同じようにぶつかったとしか……そこで、寒気が走る。


「それが、あなたのレベルです……チナさん」


わたしの震えを見抜いたかのように、セシリアさんが厳しい視線を送る。


「いえ、レベルは関係ありませんか。……あなたは周囲に変わることばかりを望み、自分で戦おうとしなかった……卑劣ですわ」

「セシリア、さん」

「しかも(ぴー)型の悪癖丸出しで、人の話を全く聞かない。リン子さんそっくりですわね、そういうところは」

「う……!」

「その辺にしておけ。……チナ、四の五の言わず次の……フェリーニとのバトルを見てろ」


セシリアさんのお説教を止め、レイジくんが拳を慣らす。


「……見せてやるよ、オレ達に”やり直し”なんていらねぇってよ」

「レイジ……くん」


……その言葉を、まず信じてみようって……今更だけど、思った。


「そうですわね……目をそらさず、最後の最後まで見ておきなさい。……きっと凄(すご)いことになりますわよ」

「セシリア、さん」


セシリアさんも『それでいい』と頷(うなず)いてくれる。だから、まずは明日。

イオリくん達のバトルを……どんな結果に終わっても、必ず最後まで。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


ふふふ……”ふ”が三つ!

第八ピリオド一日目が終了し、この時点で全勝組な六組が決勝進出決定。

そして今日試合が終わった、一敗組である僕もまた……おっしゃー!


「予選ピリオド、第八位で通過だー!」

≪やりましたね≫

≪主様、おめでとうなのー!≫

「「「おめでとう!」」」

「ありがとう!」


アルトとジガン、シオン達をしっかり抱き締め、ニコニコしながら夕暮れの街を歩く。

夢にまで見た舞台、そこに立った感覚で、もう幸せいっぱい。トオル、きっと見てくれているよね。


「だが残念でもあるな。結局マッケンジー組は今日ので三敗だ」

「予選敗退決定……だがアイツも復帰するし、プラマイゼロじゃねぇか??」

「残念でしたね。結局直接対決はならずで」

「うん……准将が玉入れのとき、敗北側じゃなかったらなぁ」


はい、実は准将が実質的に負けたのは、スピードレーシングだけです。

玉入れは団体競技だし、かなり際どかったのよ。……ただそこまで考えて、思い直す。


「まぁいいか! プライベートで申し込めばいいし! ジュリアンも大会が終わるまでは、こっちにいるそうだし!」

≪ただその前に決勝トーナメントですよ。カテドラルについては、もっと修練が必要ですから≫

「それも分かってる。……恐ろしいよ、あのガンプラは」


なお性能云々(うんぬん)じゃない。問題は……ファイターを映す鏡とも言うべき、その操作精度。


「ただ性能が高いだけじゃない。考え抜かれた可動範囲と、分かりやすく使いやすい武装。
ファイターの技量によって、ポテンシャルが一にも、百にもなる……動かすたびに突きつけられるようだよ、自分の未熟さを」

「機体性能に頼っての勝負はできない。ファイター自身が強くならなければ、か。
二代目も行き過ぎてはいただけで、思想自体は間違ってないんだな」

「うん」


二代目もまた、空に輝く星だった。そう、今夕暮れの空に見えている、あの一番星のように。


――とか言っている間に、ターミナルに大型バスが到着。

そこからゾロゾロと降りてくる女の子達。更にそれを率いる、三白眼の男に近づく。


「や、やっと着いたにゃー」

「みなさん、お疲れ様でした。今日と明日は試合観戦もしつつ、ゆっくり休んでください。ステージは明後日(あさって)から」

「卯月ー」


手を振りながら、一声かけておく。すると集団がこちらを見やり。


「……って、恭文さん!」


そのうち一名が、栗(くり)色の長い髪を揺らして近づく。そう、この子は【島村卯月】。

タツヤの同級生で、セイ達の先輩でもある島村卯月。今にも泣きそうな顔で僕の前に立つ。


「あの、あの……今日の試合で、三代目メイジンがぁ!」

「皆まで言うな、僕も生で見て……大笑いしたから! アホだよね、アイツ!」

「きっと今頃怒られてるな……もぐ」

「笑い事じゃありませんよ! ヒカリちゃんも、肉まんを食べている場合じゃないー!」

「馬鹿! これはあんまんだ!」

「どっちでもいいです!」


そんな卯月を宥(なだ)めつつ、ヒカリはアンマンを平らげる。

そしてまた新しいのをもぐもぐ……コイツ、また飛べなくなるな。飛びかかりには注意しよう。


「卯月、その子は一体……って!」

「ちょ、蒼い幽霊……蒼凪恭文だ! あ、そっか……しまむー、友達だって言ってたよね!」

「初めまして、蒼凪恭文です」

≪どうも、私です≫


ストフリノロウサ状態のアルトも出てきて、SEEDのOPバンクポーズ。それにも一同は唖然(あぜん)。


「その辺りも長くなりますので、途中まで送ります。美味(おい)しい静岡(しずおか)おでんの店もありますよ」

『おでん!?』


夏なのにおでん……でも美味(おい)しいからなぁ、静岡(しずおか)おでん。黒はんぺんはソウルフードの一つです。

そんな認識も共有しつつ、みんなとは道すがらに自己紹介。


この方々は大手プロダクション<346プロ>のアイドル。

ユニット<シンデレラプロジェクト>に所属しており、貴音達とも何回か仕事をしていた。

そしてこの、殺し屋にしか見えない男が……そのプロデューサーらしい。


……人生って、不思議だー。


「渋谷凛」

「うん」

「本田未央、前川みく、多田李衣菜、諸星きらり、赤城みりあ、城ヶ崎莉嘉、神崎蘭子。
緒方智絵里、三村かな子、双葉杏、新田美波、アナスタシア」

「ダー。……でも、驚きです。蒼い幽霊……765プロの、ガンプラプロデューサーだったなんて」

「僕も驚きだよ。ねぇ卯月、この子は卯月と同じ天使かな」

『天使!?』

「違います! アーニャちゃんです! そ、それに私が天使だなんて……そんな」


アナスタシア……アーニャかぁ。実物で見ると、なんて愛らしい! 346プロばんざーい! ……それはそうと。


「でもおのれら、散々やらかしているらしいねぇ。律子さんから『決して関わるな、死ぬぞ』と言われてるよ」

『死ぬ!?』


全員の名前と特徴をサラサラとメモしつつ、律子さんから言われた言葉を伝える。

そりゃあみんな驚愕(きょうがく)だよ。……どこからか『そこまで言ってない!』って聞こえるけど、空耳だろう。


「まぁ僕はうるさいことを言いませんので」

『えぇ!』

「卯月も問題なさそうですし、変なことさえなければ」


はい……765プロとしても今後関わるので、この機会にCPと言うユニットを見ておきたかった。

その結果、まぁ大丈夫かなぁと。つかず離れずで適度な距離感なら、いつでも離脱できるだろうし。


「蒼凪さん……ありがとうございます」

『ありがとうございます!』


足を止めつつ、僕に一礼。その勢いに面食らってしまう。


「え……あの、待ってください。武内さん、なんでみんなは……僕が命の恩人みたいな感謝を」

「……秋月さんと赤羽根チーフプロデューサーには、前川さん達の立てこもり事件で大変な御迷惑をおかけして」

「というか、現場に居合わせていたんです。CPとは絶対に仕事はできないと言い切られてしまって……」

「うわぁ……!」


ちょ、それは聞いてなかった! あくまでも概要だけ……あれ、もしかしてマズかった!?


「あの、あくまでも個人として……ですから。765プロの方針は」

「ねぇ、これできらり達……春香さん達ともお仕事できるんだよね!」

「やったー! みりあ達、いっぱい頑張ったから……みんな認めてくれたんだ!」

「ありがと、やっくんー!」

「やっくん!?」


とか言って城ヶ崎莉嘉ちゃんが飛び込んでくるので、アイアンクローで止める。


「できないよ!? 飽くまでも僕個人として! 765プロの方針じゃないから!」

『えぇー!』

「大丈夫……あずささんとか、やよいとか、お人よしなメンバーも多いから。まずはそこから挨拶していって、なし崩し的に仲良くなれば」

「蒼凪さん、それはどうかと……!」

「あなたはそれでいいの!?」


何となく居心地が悪くなったところで……卯月の肩を軽く掴(つか)む。


「じゃあ、卯月はお借りしますので」

「はい……はい?」

「こんなユニットにはいられないので、卯月は一人で部屋にこもるんですよ」

「それは殺されるフラグですよね! というか現場!? ここは殺人事件が起きる現場ですか!」

「とにかくタツヤ絡みで話もあるので」


そんな卯月を引っ張り、一団から離れていく。


「島村さん!」

「ではまたいずれー」

「あの、私はまだ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょ、待って!」

「しまむー!」


待てと言われて、待つ奴などいない……でもCP、愛に飢えているなぁ。

とりあえずその辺りも、改めて赤羽根さん達に確認するか。

さすがに全員がデビューしている中で、しかとするってのも駄目でしょ。


こっちの印象が悪くなりかねないし、各所に配慮を求めても圧力だ。

恐らくは方針転換も相談しているだろうから……事前に確認しておけばよかったー。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


島村卯月――聖鳳学園高等部の二年生。

元々アイドル志望であり、タツヤとも同じクラスだった。なお模型部員の一人でもある。

今年の春から346プロのスカウトを受け、CP<シンデレラプロジェクト>の一員として参加・デビュー。


今は黒髪ロングの渋谷凛、茶髪跳ね気味ショートの本田未央と一緒に、new generationsというユニットで活躍している。


そんな卯月一緒に、海沿いの道へ出て……軽くお散歩です。


「みんな、驚いていたね」

「はい。車内では騒然としていたので……恭文さん、ありがとうございます」

「何が?」

「タツヤさんのこと……今更だけど、教えてくれて。私、いきなり知ったらどうなっていたか」

「それは問題ないよ。……てーかおのれも、ユニットで騒動が起きて大変だったし」

「あははは……」


実はnew generations……略してニュージェネは、デビュー直後に解散の憂き目を見ていた。

それもアホな勘違いで……未央と凛の二人が、離脱すると騒いで。

結果賠償責任寸前まで発展したけど、何とか解決した。……”再び”対価を払って。


そんなとき、卯月は何をしていたかというと……体調を崩していました。

更に同時期、タツヤが出場辞退&消息不明になったので、同級生兼模型部員としては心中ただならない様子。

同じくだったゴンダから話を聞いて、”絶対内緒”って確約させた上でフォローしたのよ。


卯月はその約束をちゃんと守ってくれたし、僕としては問題ないけど……潮風に髪をなびかせる卯月は、また違うようで。


「それより社内では大丈夫なの?」

「それはまぁ、少しずつ」

「実はタツヤも心配してた。ユニットごとの評判はともかく、社内となるとおのれら」

「だから少しずつです。みんなと一緒に頑張りますから」

「そう」


CPの問題は見過ごせるレベルを超えているけど、まぁ……いいのかな。

卯月にとっては夢の舞台で、成果が出始めているんだから。


「でもさ、同時に喜んでいたよ。失踪してからここまでで、すっかり人気者だもの」

「ほんとですか! ならお話……は、難しいですよね」

「決勝トーナメントもすぐだしね。でも余裕はどこかであるよ、復学も予定されているそうだし」

「それも、良かったです」


そう言って卯月は、いつもの明るく、星のような笑顔を見せてくれる。

これこそ正しく天使の笑顔。そうやって笑えるのに、僕とショウタロス達も安心していた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


第八ピリオド――わたしの試合は明日。相手は……赤いガンプラ。


「スペイン代表、スガ・トウリ――AGE-2エストレア。そしてこの試合は絶対に落とせない」

「勝ちます」

「本来ならその言葉に安心するところだが、そうもいかなくなった」


眼鏡はパソコンをカタカタ叩(たた)きながら、ポッド内の大型ガンプラを弄(いじ)る。

四枚羽で、パピヨンと同じカラーのガンプラ。武装は大型なせいで多くなっていて、右手には実体型のアックス。


「決勝用にとっておいたコイツを、使うハメになるとはな」

「……」

「認めるしかあるまい。若さゆえの過ちを――世界大会は、我々が想定していた以上の魔境だ」


……まぁ、何でもいいか。これで勝てば文句もないんだろうし。

もう絶対負けない、遊びで戦っている奴らになんて……絶対負けない。

わたしは生きるために戦っている。だからアイツにも、必ずリベンジする。


ヤスフミ・アオナギ……本大会最強ファイターなんて言われて、調子に乗っているガキは。


――それにだ、遊びだから真剣になれるんだよ――


そこで引っかかるのは、レイジの言葉……そして笑顔。


――お前もやってみようぜ。……案外楽しいぞ――


楽しくない……楽しいわけが、ない。

だから認めない。遊びに負けたなんて、絶対に……!

でもこのまま勝ち続けたら、きっとアイツとも当たる。


そうしたらアイツのこともそうやって、否定するの? あの笑顔も。

……苦しい。


今まで感じたことのない……飢えとは違う苦しみが、胸を締め付ける。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


選手村には、展望ラウンジも設置されている。

海も近い場所で、美しい夜景を見ながら飲む一杯は、大人の癒やしと言えるだろう。

大人の癒やしと言えるだろう……ふふふふふふ、ヤスフミは除くがなぁ! ヤスフミは除くがなぁ!


アイツ、一応中学生だから、こういう場所への出入りはできないんだよ! 残念だったなぁ!

今日も羨ましがらせてやるぜ! 美味(うま)くていい酒も揃(そろ)っているからなぁ! あーはははははは!


……というわけで試合が終わって……というか、ちょっとした朗報が入ってから?

またまた響と生すかスタッフの取材を受け、バッチリ決めてからすぐ、ここにやってきた。


口元をしっかり引き締め、カウンターの一つへと近づく。


「ふぅ……うふふふ……ふふふふふ〜」


グラスを置いて、スマホに夢中な美女へ近づく。

整った髪、胸元の開いた美しいドレス……なんと美しいことか。


色合いはしっくだが、ルー・ルカを思わせる。


「隣、よろしいですか」


そんな彼女へそっと寄り添うと、彼女はこっちを見て、小首を傾(かし)げる。


「セニョリータ」

「あら、フェリーニさん」

「え!? どこかでお会いしたことが」

「むー、何言ってるのよぉ。私よ、私」


彼女は髪を掴(つか)んで、落ち着いた声色をワントーン高くする。その上で髪をツインテールにした。

その姿が、顔立ちが、一気にあの明るい彼女へと重なった。


「……キララちゃん!?」

「分かんなかったんだ」

「いや……今日はいつもとまた雰囲気が違っていたから、見違えてしまったよ。失礼」

「お上手だこと」


何とか誤魔化(ごまか)しながら、ジト目な彼女の隣に座る。


「はははははは、俺がキララちゃんを見間違えるわけ、ないだろう?」

「朝比奈りんと間違えなかった?」

「へ?」

「よく似てるって言われるのよぉ。髪の感じとか、体型とか……私の方が大きいんだけど」


そう言いながら、キララちゃんが右手で頭頂部を撫(な)でる。

……すまん、一瞬胸に意識を取られた俺は、ヤスフミの悪影響を受けていた。


「まぁそれはともかく」


彼女は置いていたグラスを、スマホと持ち替えた上で差し出す。


「予選突破、おめでと」

「あぁ」


彼女とグラスを合わせ、その賞賛を受け入れた。


「グラッチェ」


そうか……アイドルなんてやっているが、彼女は立派なレディ。これもまた”彼女”なんだろう。

そんな姿を見せてもらった上、プライベートの中にいさせてもらえる。


それはどんな勝利の美酒よりも甘く、魅惑的だった。できればこのまま……ヤスフミと親しくならないうちに!


「でもさすがねぇ。明日の試合を待たずして、決勝トーナメントにコマを進めるなんて」

「まぁ……それほどでもあるがな」


そう……今日の試合を受け、今残っている全勝組は決勝に駒を進めた。

俺、セシリア、ヤサカ・マオ、スガ・トウリ、三代目メイジン、レナート兄弟、ニルス・ニールセン……そうして埋まった席は七組。

更に一敗組で、今日の時点で試合が終わっているヤスフミも予選突破。


そうして残る席は六組……明日の試合は、それを奪うためニア予選圏外組が暴れることだろう。

更に更に……346プロのアイドルが、大会を盛り上げるためライブもやるらしい! それも心置きなく見られるぞ、おっしゃー!

高垣楓さん、川島瑞樹さん……大人の魅力たっぷりな二人も来るし、楽しみだなぁ!


「これで明日は、気兼ねなく負けてあげられるわね」

「……え」

「だってそうでしょ? 一日目終了時点で、予選通過者は十組。あなたが可愛(かわい)がっている、イオリ・セイ&レイジ組は現在十七位」


その言葉を聞いて、血の気が引く。


「予選ピリオドが終われば、充電期間はあると言っても……すぐ決勝トーナメント。
決勝進出決定組は、あえて勝負を捨てるのもアリなのよね。機体温存のために」

「……」

「あなたがここで負けてあげれば、一緒に決勝トーナメントへ行ける。二敗組のルワン・ダラーラも芽があるくらいだし」


そうだ、接戦だった影響と、バトルレースによる絞り込みで……そういう状況になった。

俺は明日、負けてもいいんだ。負けても……だが。


「え、違うの?」

「え……あ、ばれたぁ!?」

「あはははー! もう、フェリーニったらー!」

「あは……あははははー! あはははははー!」


笑いながら、何かが引っかかっていた。それは正しい……戦略としては、とても正しい。

同時にアイツらを、決勝トーナメントへ確実にあげる手段だ。


そんな道に、らしくもなく心が揺らいでいた。……やべ、悪酔いしてるのかも。


(Memory52へ続く)










あとがき


恭文「というわけで、予選第八ピリオド前半戦が終了。残るはセイ&レイジ対リカルド。
ジオさん対セシリア、トウリさん対アイラ――なおトウリさんとアイラのバトルは、ややダイジェスト気味ですが書き上がっております」


(そしてチーム・ネメシス、ここで新機体投入……なおとまとオリジナルです)


恭文「今回はビルドファイターズA、及び幕間第二十九巻の一部を含めつつ、タツヤ対ジュリアンのバトル」

あむ「アメイジングエクシアじゃない弊害が、凄いところで……! それで卯月さん達も本編初登場」

恭文「同人版では既に絡んでいるけどね。なお同人版では出演予定のライブが、第一期最終回の予定」


(あれれ、おかしいなー。それだとみんな、続々デビューしないとヤバいことに)


恭文「……みんな同時進行で何とかしよう」

あむ「その詰め込みはトラブルの元じゃん! ……お相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文です。昨日からの雨で天気は崩れているけど……獅電とゲイレール、フラゲしたぞー!」


(池袋のヤマダ電機で、もう売ってました)


あむ「まだ作ってないんだけど……あたしはあれだ、第三十一話のゲイレールがカッコよくて」

恭文「確かにあれはよかった。やってることも含めて、歴戦の兵士って感じがいいよね。
それで獅電の方も……ツイッターなどではもうゲットして、組み立てている人も多数。……なんかすっごい組み立て安いらしいよ!」

あむ「きっと解説ではフレームを部分的に再現とか言ってたけど、基本はバルバトスやグレイズと同じ、フレーム素体型なんだよね。
……あたしさ、てっきり百錬みたいな感じで……一部再現かと思ってた」

恭文「実は僕も。バックパックや両サイドスカートにもハードポイントがあるし、価格も手ごろ。改造素体としてもバッチリだね」


(現在、獅電でザクアメイジング的な機体はできないかと思案中)


恭文「あと、凄かったのはレギンレイズもか」

あむ「あたし、あれ凄い気に入った! 手首の稼働とかはクセもあるし、物によっては持たせられない武器も出てくるんだけど」

恭文「うん」

あむ「でも足の動きが凄くて……膝がさ、普通に胸元くらいまであげられるの。
そういう、人間がやるような膝立ちもできるし、パーツ分割も簡単で作りやすかった。
あとはグレイズ系の発展だから、そこから使えるパーツも多いし」

恭文「クセのある腕については、そのグレイズから持ってきてもマッチするしね」

あむ「なんだよねぇ。流星号の余ってた両腕に、グレイズ改用の肩アーマーをくっつけたら、結構いい感じだった」

ラン「それでグレイズ用の装備もそのまま流用できるしねー」

スゥ「お手軽改造機体ですぅ」

ミキ「それでどの色に塗るかを今相談しているところで」

ダイヤ「ピンク・青・緑・ゴールドが候補なの。恭文君的には」

恭文「……白にしない? フォーチュンでてんこなりの色ってことで」

あむ「それだぁ!」

ラン・ミキ・スゥ・ダイヤ『えぇー!』


(現・魔法少女のレギンレイズ、白色に決定しました)


あむ「恭文、ほんと助かったよー! この子達、自分の色にしてほしいって全力で!」

ダイヤ「ヒドい……ヒドいわ、恭文君! 私とのことは遊びだったの!?」

恭文「何もないよね!」

スゥ「元々緑だったから、スゥの爽やかグリーンがいいと思ったのにぃ」

ミキ「スゥ、ちゃっかりさんは禁止」

ラン「そうだよー! そりゃあ塗りやすいかもだけど」

スゥ「スゥはちゃっかりさんじゃありません! うぅ……恭文さんー!」

恭文「よしよし……じゃああれだ。僕が買った獅電は緑に塗ろうか」

スゥ「ホントですかぁ!?」

恭文「それで左肩は赤」

あむ「それは違うやつじゃん!」

スゥ「そうですぅー! ……あ、なら機体色は蒼で、右肩は緑にしてください〜」

恭文「それでいいの?」

スゥ「はい〜。恭文さんの肩へちょこんと止まってるみたいで……スゥはとっても嬉しいですぅ♪」


(それでも嬉しいほんわかクローバーでした。
本日のED:ガンダムビルドファイターズ オリジナルサウンドトラック
『メイジン 〜通常のフラメンコの6倍の情熱〜』)


恭文「今更だけど、このタイトルは公式です……公式です」

あむ「いや、これはまだマシじゃん! トライのOSTに入ってた『何倍かよう分からへん…』ってのに比べれば!」

恭文「それがあったか……! そう言えばこの話では、バルバトスやオルフェンズの設定にチョマーさんが絡んだという話になって」

あむ「うん……あれ?」

恭文「つまり阿頼耶識やガンダムフレームなども、チョマーさんが……という感想を頂いて、ハッとした罠」

あむ「それは大丈夫なの!?」


(おしまい)






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